平成22(ワ)171

裁判年月日・裁判所
平成26年3月4日 広島地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-86005.txt

判決文本文25,184 文字)

主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1 請求の趣旨 1 被告らは,原告Aに対し,連帯して1200万円及びこれに対する平成14年12月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは,原告B及び原告Cそれぞれに対し,連帯して400万円及びこれに対する平成14年12月25日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,Fが,被告社会福祉法人Eが経営する特別養護老人ホーム「e園」に入所中の平成14年12月25日に死亡したことにつき,Fの相続人の一部である原告らが,Fの診察や薬剤の処方を担当していた医師であり,かつ,被告Eの理事でもあった被告D及び被告Eには,(1) 血液凝固能の検査であるPT-INR(プロトロンビン時間-国際標準化比)検査をせず,肺血栓塞栓症の治療・予防薬であるワーファリンの調整を怠った過失,(2)肺血栓塞栓症の確定診断のための検査を怠った過失,(3)肺血栓塞栓症予防のための弾性ストッキング装着を怠った過失,(4)仮にワーファリンの調整ができなかったのであれば,転医させるべきであったのにこれを怠った過失があると主張して,被告D医師に対しては,診療契約上の債務不履行又は不法行為(民法709条)に基づき,被告Eに対しては,診療契約上の債務不履行,不法行為(同法709条),社会福祉法29条及び民法44条1項又は使用者責任(民法715条)に基づく損害賠償として,3160万2250円の一部である2000万円及びこれに対する不法行為の日である平成14年12月25日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 争いのない事実等(1) 当事者 である2000万円及びこれに対する不法行為の日である平成14年12月25日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 争いのない事実等(1) 当事者等ア原告ら等 Fは,昭和3年○月○日生まれの女性であり,e園に入所中の平成14年12月25日(以下,月日のみの記載はいずれも「平成14年」のものを指す。),死亡した(死亡当時74歳)(甲A5)。 Fには,夫である原告Aとの間に,原告B及び原告Cを含めて3人の子がおり,原告らはいずれもFの法定相続人である。各原告の法定相続分は,原告Aが2分の1,原告B及び原告Cが各6分の1である(甲C1)。 イ被告ら被告Eは,肩書地において,特別養護老人ホーム「e 園」を経営する社会福祉法人である。 被告D医師は,平成14年当時,被告Eの理事であり,かつ,e 園に配置された医師である。被告D医師は,入所中のFの診察を担当していた。 (2) Fのe 園への初回入所と肺血栓塞栓症の発症ア Fの既往Fは,平成5年より,アルツハイマー型痴呆等がみられていた(乙A1)。 イ e 園への初回入所Fは,7月9日から同月24日までe 園に短期入所し,同月30日から長期入所となった。e 園入所中は,1週間に2回程度,被告D医師の診察を受けていた(乙A1[1],弁論の全趣旨)。 ウ G病院への入院8月30日,Fに,嘔吐,顔面蒼白,唇チアノーゼが認められ,同月 31日にも,食欲不振や嘔吐の症状があらわれた。9月1日は,朝食を摂取せず,昼食もポカリゼリーを3口摂取しただけであり,さらに嘔吐や呼吸困難(肩呼吸)の症状がみられたため,同日午後,G病院に救急車で搬送されたところ,うっ血性心不全(心筋梗塞,弁膜症疑い)等と診 摂取せず,昼食もポカリゼリーを3口摂取しただけであり,さらに嘔吐や呼吸困難(肩呼吸)の症状がみられたため,同日午後,G病院に救急車で搬送されたところ,うっ血性心不全(心筋梗塞,弁膜症疑い)等と診断され,そのまま同病院に入院した(乙A2[2,3],A6[8,14])。 エ G病院入院中の経過(甲A4,乙A6)Fは,G病院に入院して治療を受けていたが,9月12日に,胸部CT検査により,左肺動脈に血栓が見つかり,肺血栓塞栓症と診断され,ヘパリン(抗凝固薬)を持続注入するとともに,ワーファリン(抗凝固薬)を2錠(1日当たり)投与するようになった。その後,10月2日には,血栓の消失が確認され,同月4日にヘパリンは中止されたが,ワーファリンの投与は継続された。G病院では,ワーファリンの1日当たりの適正な投与量を決定するため,血液凝固能の検査であるPT-INR検査をしつつ3錠から1/2錠の間で調整を図り,11月2日からFが退院した同月20日の間は,1日当たり1/2錠の投与となっていた。 PT-INR検査値及びワーファリンの1日当たり投与量は別表のとおりである。 (3) G病院からの退院とe 園への再入所以降の状況ア Fは,11月20日に,G病院を退院し,e 園に再入所した。退院時,同病院から,1日当たり1/2錠ずつ14日分のワーファリンが処方された。また,同病院のH医師からe 園宛ての紹介状(乙A6[3],以下「紹介状」という。)が作成されたが,そこには以下の記載がある。 「臥床状態でもあり肺血栓塞栓症の再発予防でワーファリン内服してましたがコントロールむずかしく現在は1/2T/day のみ使用して います。1/2T~1Tぐらいで調整してみてはどうかと考えていました。」イ e 園再入所後の経過(甲A5,A8,乙A1,A したがコントロールむずかしく現在は1/2T/day のみ使用して います。1/2T~1Tぐらいで調整してみてはどうかと考えていました。」イ e 園再入所後の経過(甲A5,A8,乙A1,A2[4,5],A5)ワーファリンの投与e 園に再入所後も,1日当たり1/2錠のワーファリンの投与が続けられ,12月5日以降は,被告D医師により,同様に,1日当たり1/2錠のワーファリンの処方と投与が継続された。e 園再入所後,Fが死亡する同月25日まで,FのPT-INR検査は一度も実施されなかった。 心電図検査12月12日,Fに対して心電図検査(乙A5,以下「本件心電図」という。)がなされており(乙A1),その自動解析結果は,次のとおりである。 異常Q波の疑い(Ⅲ,aVF) QS-TYPE平低T波(Ⅰ,V6) -1.0≦T≦0頻発する心室性期外収縮頻脈 /心拍数 104低電位(四肢)(Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ)移行帯の左方ずれ(V4)<判定> +(わずかな異常を認める)Fの死亡12月25日午前7時40分,Fの呼吸が停止したため,e 園では,酸素3l/分吸引を行い,心マッサージも行ったが,睫毛反射,瞳孔反射のいずれも認められず,脈も触れず,午前8時に死亡が確認された(乙A2[5],甲A8)。 被告D医師作成の死亡診断書(甲A5)には,a.直接死因として 「急性心不全」,その発病(発症)又は受傷から死亡までの期間は「約1時間」,b.aの原因として「肺血栓塞栓症」,同期間は「約4月間」,c.直接には死因に関係しないが,上記傷病経過に影響を 3 医学的知見(1) 肺血栓塞栓症(甲B4[1136,1137],B5)ア疾病の定義,概念急性肺血 同期間は「約4月間」,c.直接には死因に関係しないが,上記傷病経過に影響を 3 医学的知見(1) 肺血栓塞栓症(甲B4[1136,1137],B5)ア疾病の定義,概念急性肺血栓塞栓症は,静脈や心臓内で形成された血栓が遊離して,急激に肺動脈を閉塞することにより生ずる疾患であり,その塞栓源の約90%以上は,下肢あるいは骨盤内静脈である。主たる病態は,急速に出現する肺高血圧及び低酸素血症である。 特徴的発症状況としては,安静解除後の起立・歩行や,排便・排尿時,体位変換時がある。下肢の筋肉が収縮し,筋肉ポンプの作用により静脈環流量が増加することで,血栓が遊離して発症することが推測される。 わが国における急性肺血栓塞栓症の死亡率は14%,心原性ショックを呈した症例では30%(うち血栓溶解療法を施行された症例では20%,施行されなかった症例では50%),心原性ショックを呈さなかった症例では6%である。 わが国では,従来まれな疾患と考えられていたが,近年に症例数が増加し,死亡者数が急増したことから,平成16年に,「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断・治療・予防に関するガイドライン」(甲B4(ただし,ダイジェスト版)。以下「ガイドライン」という。)が策定された。 イ症状(甲B3[32],B4[1139],B6[321])肺血栓塞栓症と診断できる特異的な症状はないが,主要症状は,呼吸 困難と胸痛である。特に呼吸困難は,高頻度に認められる。その他の症状としては,失神,咳嗽,血痰,動悸,喘鳴,冷汗,不安感などがある。 身体所見は,頻呼吸,頻脈が高頻度に認められ,ショックや低血圧を呈することもある。原則として突然の発症であるが,症状が軽微な例では発症時期が不明瞭な例もしばしばみられる。 ウ予防・治療(甲B3 身体所見は,頻呼吸,頻脈が高頻度に認められ,ショックや低血圧を呈することもある。原則として突然の発症であるが,症状が軽微な例では発症時期が不明瞭な例もしばしばみられる。 ウ予防・治療(甲B3[32,33],B5[909,910],B9[210])本症に対する治療の原則は,死亡原因の大多数を占める急性肺血栓塞栓症における急性期の呼吸循環管理と,塞栓(血栓)の溶解・吸収,新たな血栓の形成や塞栓の再発予防であり,血栓の治療・予防に対しては,薬物療法(抗凝固療法,血栓溶解療法),カテーテル的治療,下大静脈フィルター,外科的治療がある 抗凝固療法薬物による血栓形成の予防法である。 新たな血栓形成を予防するため,一般的に,急性期に即効性のある未分画ヘパリンを静脈内投与し,慢性期にかけてはワーファリンの経口投与を行う。ヘパリン治療下でワーファリンが治療域で安定した後に,ヘパリンを中止し,ワーファリンを継続投与する。 (2) ワーファリン(甲B3[32],B4[1141],B8)ワーファリンは,血栓塞栓症の治療及び予防に効能・効果のある経口投与薬である。しかし,出血の合併症があり,出血の頻度は,ワーファリンの強度や危険因子に影響される。 ワーファリンに対する感受性には個体差が大きく,同一個人でも変化することがある。食事や他の薬剤の影響も受けやすいため,投与開始時から継続期間を通じて,血液検査によるモニタリングをして,投与量を調整することが必要である。わが国では,PT-INR値(プロトロンビン時間。 血液の凝固機能を図る指標の一つであり,数値が大きいと凝固能が低いことになる。)を用い,INR値が1.5~2.5の治療域になるよう調整されることが多い。INR値が治療域に達するまで週に数回の測定を行い,値が安定 を図る指標の一つであり,数値が大きいと凝固能が低いことになる。)を用い,INR値が1.5~2.5の治療域になるよう調整されることが多い。INR値が治療域に達するまで週に数回の測定を行い,値が安定した後は,月に1回以上の測定を行う。 4 争点(1) Fの死因(2) ワーファリン投与量の調整義務違反の有無(3) 肺血栓塞栓症の確定診断のための検査をすべき義務違反の有無(4) 肺血栓塞栓症予防のために弾性ストッキングを装着させるべき義務違反の有無(5) 仮にワーファリンの調整ができなかったのであれば,転医させるべき義務違反の有無(6) 損害額 5 争点に対する当事者の主張(1) 争点(1)(Fの死因)[原告らの主張]Fの死因は,肺血栓塞栓症による心不全である。 ア本件心電図には,以下のとおり,肺血栓塞栓症でみられる所見が認められる。 脳血栓塞栓症の心電図上の特徴的所見として,①洞性頻脈(高率に認められる),②ST低下(1/3の症例で観察される),③塞栓が大きい例で,S1Q3(Ⅰ誘導で著名なS波,Ⅲ誘導で明瞭なQ波)の急性右心負荷所見がみられるとされている。 本件心電図では,①心拍数が104/分と洞性頻脈,②V4~V6誘導でST低下,③Ⅰ誘導で著名なS波,Ⅲ誘導で明瞭なQ波がそれぞれ認められる。 イ Fの臨床状態 G病院におけるFの状態Fは,11月1日以降は,リハビリもして,日中車椅子で過ごすこともあるなど,概ね良好な状態であった。食事も,概ね半量以上は摂取しており,同病院の看護要約でも,嚥下状態は良好で,摂取量は日によってむらがあるものの,ゆっくり時間を掛ければ全量摂取できると指摘されるなど,退院した同月20日の時点では,食事を摂ることができる程度まで回復して 院の看護要約でも,嚥下状態は良好で,摂取量は日によってむらがあるものの,ゆっくり時間を掛ければ全量摂取できると指摘されるなど,退院した同月20日の時点では,食事を摂ることができる程度まで回復していた。 e 園再入所後のFの状態e 園に再入所後も,Fは,当初は被告らが主張するような「生命の維持が困難な状態」ではなかった。原告Aの介助により,毎日100cc程度のヨーグルトも摂取していた。 しかし,12月21日以降,極度に食欲不振となり,同月24日にはチアノーゼが認められた。 ウ他の死因の可能性Fの死因として,他に具体的疾患の可能性は想定されない。 Fには,被告らの主張するような,低栄養,脱水,感染症及び多臓器機能の低下はみられていなかった。 すなわち,12月5日の血液検査結果では,栄養状態を示す総蛋白及びアルブミン値はいずれも概ね正常値で栄養状態は保たれており,肝機能を示すGOT及びGPT,肝機能障害により低下することもある血小板数,腎機能を示す尿素窒素及びクレアチニンはいずれも正常値であった。Fの肝や腎機能に異常はない。また,赤血球数,ヘモグロビン及びヘマトクリットも基準値内で貧血も認められていなかった。 Fには,毎日ポタコールR1000mlが投与されて水分補給もされていたことから,特に脱水を来す環境変化はなかった。 さらに,同月5日の血液検査では,感染症を示すCRP値は,基準値内であったし,同月6日の尿検査や尿沈渣では尿路感染症は認められたが,抗菌薬クラビットを投与され,管理されていた。 エ診断書の記載被告D医師作成の死亡診断書には,死因として「肺血栓塞栓症」が記載されている。かかる記載により,解剖等による死因の解明が困難になったのであるから,死因が肺血栓塞栓症でないことは被告らにおい の記載被告D医師作成の死亡診断書には,死因として「肺血栓塞栓症」が記載されている。かかる記載により,解剖等による死因の解明が困難になったのであるから,死因が肺血栓塞栓症でないことは被告らにおいて立証すべきである。 [被告らの主張]Fは,頻回の微熱,低栄養,脱水,感染症による体力の消耗などにより,徐々に身体の衰弱に至り,多臓器機能低下の状態が徐々に進行し,生命の維持が困難となり,最終的に心不全に至ったと考えられる。特定の疾患を死因と判断することはできない。 ア Fの状態についてG病院入院中の状態9月24日に実施された心エコー検査では左室壁運動異常がみられるなどFには心機能の低下が認められた。他にも,サルモネラ腸炎,カンジダ菌,陰部真菌症,尿路感染症など様々な感染症が認められるなど,免疫能が低下し,容易に感染を起こしやすい状態であった。さらに,低栄養,脱水,意識低下といった状態で,活気もなかった。肺血栓塞栓症治療後も,食事を全量摂取できたのは1日だけであり,ほとんどの食事が半量以下しか摂取できなかった。退院日である11月20日には,朝食の摂取量は1割にすぎない。内容も,ゼリー,プリン,ヨーグルト,ミキサー食などで何とか摂取できる状態であり,経口での栄養は不十分であった。 e 園再入所後の状態 Fは,11月20日にe 園に再入所した時点で,歩行は不可能で寝たきり状態となっていた。低栄養状態で,脱水の進行がみられ,意思疎通不十分で,高齢による衰弱及び全身状態の悪化により十分な食事(栄養)摂取がもはや不可能な状態となっていた。補液や抗生剤の使用により,小康状態を保っていた。 12月25日の急性心不全は突然発症したものであり,急変の前日にも胸痛,呼吸困難や不全,チアノーゼ,血液低下などはなく 態となっていた。補液や抗生剤の使用により,小康状態を保っていた。 12月25日の急性心不全は突然発症したものであり,急変の前日にも胸痛,呼吸困難や不全,チアノーゼ,血液低下などはなく,事前に心不全の徴候はみられていなかった。 イ死亡診断書の記載肺血栓塞栓症の診断は,臨床症状だけでは困難であり,本来は病理解剖を要するが,Fは,肺塞栓から心不全状態となった病歴があるため,被告D医師は,今回も同じ機序をたどったものと判断し,診断書に肺血栓塞栓症と記載した。現時点でFの死亡原因を検討するに,特異的な症状が認められていないこと,病理解剖がなされていないことから,特定の疾患を死亡原因と判断することはできない。 (2) 争点(2)(ワーファリン投与量の調整義務違反の有無)[原告らの主張]アワーファリン投与量の調整の重要性 Fは,肺血栓塞栓症を発症してG病院に入院していたが,肺血栓塞栓症の死亡率は10~30%とされており,また,症状がいったん消失しても再発のおそれがあり,再発した場合は,さらに死亡率が高くなる危険性がある。したがって,肺血栓塞栓症の再発防止は極めて重要であり,少なくとも6か月間のワーファリン投与等による抗凝固療法の継続が必要である。 ワーファリンを投与する際には,血液の凝固能が最適になるように,PT-INR検査を定期的に行い,ワーファリンの投与量を調整するこ とが必須である。なぜならば,ワーファリンが少なすぎると血栓が生じやすくなり肺血栓塞栓症が再発する可能性が大きくなるが,同剤が多すぎると,出血のリスクが生じるからである。わが国では,PT-INR値を2~2.5の範囲になるように,ワーファリン投与量を調整することが必須であった。 ワーファリンの添付文書によれば, 同剤が多すぎると,出血のリスクが生じるからである。わが国では,PT-INR値を2~2.5の範囲になるように,ワーファリン投与量を調整することが必須であった。 ワーファリンの添付文書によれば,「抗凝血薬療法施行中に,新たに他剤を併用したり,休薬する場合には,凝血能の変動に注意する。」とされている。そして,シメチジン(タガメット,消化性潰瘍用剤),イトラコナゾール(イトリゾール,抗真菌薬)は,ワーファリンの作用が増強される薬剤としてあげられているところ,「経口抗凝固療法ガイドライン」では,「特にワーファリンと相互作用を来す薬剤を変更する場合はPTは頻回に測定すべきである」,「経口抗凝固剤の増強作用を示す薬剤を併用する場合・・・ワーファリンの投与量を1/3とし,2,3日毎にPTを測定する」とされている。したがって,ワーファリンの増強作用を示す薬剤を中止する際は,2,3日毎にPT-INRを測定すべきである。 Fに対しては,タガメットとイトリゾールが12月4日まで投与されていたが,同月5日に両薬剤の投与が中止された。したがって,被告D医師は,遅くとも,同月5日に,ワーファリンの添付文書の記載に従って,FのPT-INRを測定した上で,ワーファリンの投与量を調整すべきであった。 イ被告D医師の義務違反被告D医師には,遅くとも,再入所の10日後である11月30日以降,7~10日ごとにPT-INR検査をし,PT-INR値が2~2.5の範囲になるように,ワーファリンの投与量を調整すべき義務があったのにこれを怠り,同検査をせず漫然と1日当たり1/2錠の投与を続けた過失が ある。 なお,紹介状には,「1/2T~1Tぐらいで調整してみてはどうかと考えていました。」との記載があるが,1日1/2錠が適量と断定しているのではないから 1/2錠の投与を続けた過失が ある。 なお,紹介状には,「1/2T~1Tぐらいで調整してみてはどうかと考えていました。」との記載があるが,1日1/2錠が適量と断定しているのではないから,同病院からの指示どおりの投与を継続していたから過失がないとの被告らの主張は失当である。 ウ被告E固有の義務違反被告Eは,被告D医師をして,上記のような適切な診療を行わせる注意義務を負っていたにもかかわらず,これを怠った。 [被告らの主張]ワーファリンは,その効果が栄養状態などにより左右され,投与量が過分になると,脳出血など重篤な副作用も起こし,致命的な状態になる可能性が高い。一方,e 園は,特別養護老人ホームであって,そこでの医療には限界があり,被告D医師は,本件患者の状態を確認しながら,専門性の高いG病院の指示どおりに,ワーファリン1日当たり1/2錠の投与を継続していた。 仮にPT-INR値をe 園で測定し,それでINR値が低置であったとしても,直ちにワーファリンの増量を行っていた可能性はない。G病院において1.0mg を使用した際には,INR値が至適域をはるかに超えて(4.0 以上)上昇した。ワーファリンの錠剤は,1/2錠が可能な最低の投与量であり,本件においては,安全に施行できる範囲内で可能な限りの抗凝固療法がなされていた。 (3) 争点(3)(肺血栓塞栓症の確定診断のための検査をすべき義務違反の有無)[原告らの主張]ア本件心電図の所見被告D医師は,12月12日の心電図から,肺血栓塞栓症の再発を疑う べきであった(争点(1)の原告らの主張ア)。 イ他の肺血栓塞栓症の症状Fには,12月21日から亡くなる同月25日まで食欲が無く,同月24日にはチアノーゼが認められた。 発を疑う べきであった(争点(1)の原告らの主張ア)。 イ他の肺血栓塞栓症の症状Fには,12月21日から亡くなる同月25日まで食欲が無く,同月24日にはチアノーゼが認められた。チアノーゼは,肺血栓塞栓症で認められる症状である。また,食欲不振は,右心不全の際に認められる症状であるが,肺血栓塞栓症が進行して右心不全をきたしたと考えられる。 これらの症状は,Fが重症の肺血栓塞栓症でG病院に入院する直前にも認められた。 ウ上記ア及びイに加え,肺血栓塞栓症は再発率が高いこと,Fには,高齢で長期臥床という肺血栓塞栓症の危険因子が存在していたことからすると,被告D医師は,低酸素血症の存在等を確認し,必要に応じて,肺血流シンチグラフィ(肺血流分布を調べる検査)や肺動脈造影を行って肺血栓塞栓症の診断を確定すべき注意義務を負っていた。しかし,被告D医師はかかる注意義務を怠り,肺血栓塞栓症の再発の有無を検査せず,その治療も行わなかった。 [被告らの主張]ア本件心電図の所見肺血栓塞栓症が重症の場合には,右心負荷の上昇により,心電図上の特徴的所見として,右側胸部誘導の陰性T波,右脚ブロック,肺性P波,右側胸部誘導のST上昇などの所見,S1Q3T3パターンと呼ばれる変化を生じることがあるとされている。 本件心電図でも,洞性頻脈,右側胸部誘導の陰性T波,右脚ブロックなどが比較的出現頻度が高いほか,肺性P波,右側胸部誘導のST上昇,期外収縮などの不整脈もみられる。しかし,これらの所見は,他の心疾患でも認めうる変化であり,肺血栓塞栓症に特異的なものではない。 Fの心電図は,もともと軽度のST低下が持続していた。しかし,治療を要するものではなかったのであり,本件心電図で,肺血栓塞栓症を疑わせるようなST低下 塞栓症に特異的なものではない。 Fの心電図は,もともと軽度のST低下が持続していた。しかし,治療を要するものではなかったのであり,本件心電図で,肺血栓塞栓症を疑わせるようなST低下は認められない。ST異常が認められる8月30日のFの心電図(乙A4)と本件心電図は明らかに異なっている。 また,本件心電図には,第Ⅰ誘導での著明なS波は認められない。本件心電図の自動解析結果では「異常Q波の疑い」とあるが,所見上は第Ⅲ誘導での明瞭な異常Q波は認められない。 そして,本件心電図の自動解析結果では,全体としてわずかな異常を認めるのみで,肺塞栓症などの重篤な疾患の存在には否定的である。 イ Fの臨床状態12月25日のFの急性心不全は突然発症したものであり,急変の前日にも胸痛,呼吸困難や不全,チアノーゼ,血圧低下などはなく,事前に心不全の徴候はみられていなかった。臨床症状からは肺血栓塞栓症との診断は極めて困難であった。 ウ小括以上のとおり,本件心電図所見からも,Fの臨床状態からも,肺血栓塞栓症の存在を疑うことは困難であった。 (4) 争点(4)(肺血栓塞栓症予防のために弾性ストッキングを装着させるべき義務違反の有無)[原告らの主張]各領域の著名な専門家や学識経験者が一般的に実施されている治療方法を執筆し,臨床現場に携わる医師の治療方針を明らかにした文献である「今日の治療指針2002」で,肺血栓塞栓症の再発予防のために,弾性ストッキングの着用が推奨されている。被告D医師は,Fの肺血栓塞栓症の再発防止のために,Fが再入所した11月20日以降,Fに弾性ストッキングを装着させたり,同人に下肢の運動をさせたり定期的にマッサージしたりする注 意義務を負っていた。それにもかかわらず,被告D医師は,かかる注 Fが再入所した11月20日以降,Fに弾性ストッキングを装着させたり,同人に下肢の運動をさせたり定期的にマッサージしたりする注 意義務を負っていた。それにもかかわらず,被告D医師は,かかる注意義務を怠り,Fに弾性ストッキングを装着させること等を一切しなかった。 [被告らの主張]弾性ストッキングは,いつも着用していると静脈がわずかに狭まるので血流が速まり,結果的に血栓が形成されにくくなり,静脈血栓症発症に一定の予防効果を有するとされている。しかし,弾性ストッキングだけでは,深部静脈血栓症の発症を十分に予防することはできない。弾性ストッキングは,足のむくみの軽減,静脈瘤の軽減,リンパ浮腫に対する圧迫,手術療養後の血栓予防等の目的のために主に使用するものであり,単独での血栓予防効果はリスクの高い症例には不十分である。 G病院でも急性肺血栓塞栓症に対し,弾性ストッキングについては採用されていなかったし,e 園に対し,この使用に関する申し送りもされていなかった。弾性ストッキングは,うっ血性心不全や下肢の動脈血行障害などの患者には禁忌であり,高齢者には慎重に使用すべきである。また,医療用の弾性ストッキングは圧迫力が強く,寝たきりの人にはかせるのは極めて困難である。 弾性ストッキング等を用いた肺血栓塞栓症予防策が一般に奨励されるようになったのは,ガイドラインが策定された平成16年以降である。 (5) 争点(5)(仮にワーファリンの調整ができなかったのであれば,転医させるべき義務違反の有無)[原告らの主張]Fに対しては,タガメットとイトリゾールが12月4日まで投与されていたが,同月5日に両薬剤の投与が中止された。したがって,被告D医師は,遅くとも,同日に,ワーファリンの添付文書の記載に従 Fに対しては,タガメットとイトリゾールが12月4日まで投与されていたが,同月5日に両薬剤の投与が中止された。したがって,被告D医師は,遅くとも,同日に,ワーファリンの添付文書の記載に従って,FのPT-INRを測定した上で,ワーファリンの投与量を調整すべきであったが(争点(2)の原告らの主張),万一,ワーファリン投与量を適切に調整することを 被告らには期待できなかったというのであれば,被告らは,Fに,その調整が可能な病院等の医療機関の診察を受けさせる義務を負っていた。被告らは,かかる抗凝固療法が可能な医療機関を原告らに照会して,Fに同医療機関の診察を受けさせる義務があったのであり,被告らにはこれを怠った過失が認められる。 [被告らの主張]仮に,e 園においてINR測定が実施され,INR値が低値であったとしても,臨床症状等に異常がなければ,転医の判断はされない。本件では,Fの心電図の所見に異常はなく,その他に肺血栓塞栓症をうかがわせる臨床症状はみられなかった。INR測定の結果,転医の判断がなされるとすれば,INR値が高値となり,出血のリスクが高まったときである。しかし本件は出血性の重篤な疾患が生じた事案ではない。 (6) 争点(6)(損害額)[原告らの主張]ア Fの損害 3449万0700円慰謝料 2400万円逸失利益 899万0700円Fは,新国民年金新国民厚生年金を2か月ごとに17万1949円,原爆手当を毎月3万4330円,それぞれ受給していた。 Fは,死亡時74歳であったから,平均余命15.45年,生活費控除を40%とすると,逸失利益は899万0700円である。 (17 万1949 円×6+3 万4330 円×12)×10.3796×(1-0.4)≒899 万 ったから,平均余命15.45年,生活費控除を40%とすると,逸失利益は899万0700円である。 (17 万1949 円×6+3 万4330 円×12)×10.3796×(1-0.4)≒899 万0700 円葬儀費用 150万円イ原告らの相続 原告A 1724万5350円原告Aは,Fの損害賠償請求権のうち2分の1を相続した。 3449 万0700 円×1/2=1724 万5350 円 原告B及び原告C 各574万8450円原告B及び原告Cは,Fの損害賠償請求権のうち6分の1ずつを相続した。 3449 万0700 円×1/6=574 万8450 円ウ弁護士費用 原告A 172万円 原告B及び原告C 各57万円エ請求額原告A上記イ合計額1896万5350円のうち1200万円原告B及び原告C上記イ各合計額631万8450円のうち各400万円[被告らの主張]争う。 第3 争点に対する判断 1 認定事実前提事実に,後掲各証拠及び弁論の全趣旨を併せると,以下の事実が認められる。 (1) e 園への最初の入所期間(7月9日から9月1日まで)におけるFの状態ア Fは,昭和3年○月○日生まれの女性であり,平成5年よりアルツハイマー型認知症を発病していたが,7月9日から同月24日まで,特別養護老人ホームであるe 園に短期入所し,同月30日から長期入所となった。Fは,同月9日の入所時は,独歩が可能であり,食欲や笑顔もある状態であったが,介助が必要であり,徘徊もみられた(乙A1[1, 5],甲A2[1])。 イ Fは,8月30日,おやつを嘔吐し,顔面蒼白やくちびるのチアノーゼ(血液中の酸素濃 や笑顔もある状態であったが,介助が必要であり,徘徊もみられた(乙A1[1, 5],甲A2[1])。 イ Fは,8月30日,おやつを嘔吐し,顔面蒼白やくちびるのチアノーゼ(血液中の酸素濃度が低下したときに,皮膚や粘膜が青紫になる状態)が認められた。バイタルサインは,血圧118/70,脈拍30で,夕食は絶食とされた(乙A2[2])。 ウ 8月31日,Fは昼に嘔吐し,食事中は,顔面不良やハーハーと息をする呼吸困難な様子が認められた。バイタルサインは,脈拍104,呼吸36回/分であった(乙A2[2])。 エ 9月1日,Fは朝食をとらず,昼食もポカリゼリーを3口食したのみであった。また,嘔吐や,肩呼吸の呼吸困難が認められた上,軽度のチアノーゼも現れ,声かけへの反応も見られなかったことから,G病院へ救急車で搬送された。バイタルサインは,血圧112/90,脈拍120であった。G病院では,うっ血性心不全(心筋梗塞,弁膜症疑い),肺炎疑い,尿路感染疑い等と診断され,そのまま同病院に入院した((乙A2[3]),A6[8,14,23])(2) G病院入院中のFの状態ア G病院でFの主治医となったH医師は,原告Aに対し,心筋梗塞や敗血症など状態が急に悪くなる可能性があるが,その場合でも人工呼吸器や心臓マッサージなどの延命的加療はしない方針であること,よくなっても今後寝たきり状態になる可能性があることを説明し,治療を開始した(乙A6[14,17])。 イ 9月12日に実施された胸部CTにて,Fの左肺動脈に血栓が見つかり,肺血栓塞栓症と診断された。H医師は,これへの処置として,同月14日から,それまで投与されていたヘパリンに加え,ワーファリン2錠の投与を開始した。なお,ワーファリン投与開始前の同月4日に実施されたFのPT-INR 断された。H医師は,これへの処置として,同月14日から,それまで投与されていたヘパリンに加え,ワーファリン2錠の投与を開始した。なお,ワーファリン投与開始前の同月4日に実施されたFのPT-INR検査値は,1.28であった(乙A6[29,45, 185-②])。 ウ H医師は,9月14日のワーファリン2錠の投与開始後,同月17日,同月20日,同月25日,10月1日にPT-INR値の測定を行ったところ,それぞれ1.10,1.02,1.25,1.31となり,一般にワーファリンの調整の目安の下限とされる1.5を下回った(乙A6[46,47,185-②])。 エ 10月2日に,胸部CT検査を実施した結果,Fの肺動脈の血栓は消失していることが確認され,気胸や胸水も認められなかった。 H医師は,同月2日に,処方するワーファリンを3錠に増やし,その後,同月18日にPT-INR値を測定したところ,27.26と高値になったため,同日から同月20日までの3日間,ワーファリンの処方を中断した(乙A6[34,37,48,185-②,186])。 オ 10月21日にワーファリン1錠の投与を再開し,同日にPT-INR値を測定したところ,1.99であった。同病院は,ワーファリン1錠の処方を継続し,同月25日にPT-INR値を測定すると,4.76と再び高値になったため,翌日から11月1日までの7日間,ワーファリンの処方を中断した(乙A6[37,38,48,98,186])カ G病院では,11月1日にPT-INR値を測定したところ,1.06であったため,H医師は,同月2日からワーファリン1/2錠の処方を再開した。その後,同月5日,同月8日にPT-INR値を測定したところ,それぞれ1.11,1.03の値であった。同病院では,同月20日にFが退院するまで は,同月2日からワーファリン1/2錠の処方を再開した。その後,同月5日,同月8日にPT-INR値を測定したところ,それぞれ1.11,1.03の値であった。同病院では,同月20日にFが退院するまで,そのままワーファリン1/2錠の処方が継続された(乙A6[49,185-②]。 キ以上のG病院におけるFのPT-INR検査値及びワーファリンの1日当たり投与量は別表のとおりである。 ク H医師は,11月12日ころまでに,ヘパリンやワーファリンによって Fの肺動脈の血栓は消失して軽快しており,他に所見がみられたサルモネラ腸炎や深部真菌症についても抗菌剤や真菌剤で軽快し,食事については,介助が必要であるものの,なんとか経口摂取ができる状態となったと考え,Fの退院が可能と判断した。しかし,原告Aは,Fが点滴を受けている状態であり,食事もミキサー食であること,このころまでにFは歩行が不可能になっていたことから,「退院はまだ無理ではないか。」,「こんな状態でe 園で診てもらえるのか。」と疑問を呈した。 そこで,同月18日に,H医師より原告Aに説明がなされ,最終的にG病院を退院してe 園へ再入所することが決まった(乙A6[40,179,180],弁論の全趣旨)。 ケ Fは,11月20日にG病院を退院し,e 園へ再入所した。Fは退院時には,歩行不能で,ベッド上か車いすの生活となっていた。退院時に,同病院において,14日分(1日当たり1/2錠)のワーファリンが処方された。また,同日,H医師により,e 園あての紹介状が作成され,そこには,以下のような記載がある。 現在は,イトリゾール内服となっています。がそろそろイトリゾール中止でもよいかと考えていました。 臥床状態でもあり,肺血栓塞栓症の再発予防でワーファリン内服してましたが,コントロ がある。 現在は,イトリゾール内服となっています。がそろそろイトリゾール中止でもよいかと考えていました。 臥床状態でもあり,肺血栓塞栓症の再発予防でワーファリン内服してましたが,コントロールむずかしく現在は1/2T/day のみ使用しています。1/2T~1Tぐらいで調整してみてはどうかと考えていました。(乙A6[3,185-②])(3) e 園への再入所期間(11月20日から12月25日まで)におけるFの状態アワーファリンの投与状況e 園に再入所後,Fに対しては,G病院から処方されたワーファリン1日当たり1/2錠の投与が継続され,12月5日以降は,被告D医師 が,それまでと同様に1日当たり1/2錠のワーファリンを処方して,同月24日まで投与を続けた。なお,e 園に再入所した11月20日以降,Fの死亡する12月25日までの間,e 園にてPT-INR値の検査はなされていない(乙A1[8,13],A6[185],争いのない事実)。 Fには,G病院退院時,ワーファリンの他に,タガメット,イトリゾール等が投与されており,e 園再入所後も継続されたが,タガメットとイトリゾールは,12月5日から投与が中止された。 イ看護記録によれば,再入所期間中のFの摂食状態は,以下のとおりである(乙A2[4,5],A12)。 ・11月20日ミキサー食とする。汁はとろみ・11月21日食事すすまずのみこみ悪い夕食1時間30分ぐらいかけるが1/3ほどしか食事が摂取できない・11月22日食事口に入れるものみ込まず?口にためている 2~3口のみ内服もむずかしい・11月23日時間をかけ(中)食す・11月24日ニタニタ笑うも食事口があかず下~0 22日食事口に入れるものみ込まず?口にためている 2~3口のみ内服もむずかしい・11月23日時間をかけ(中)食す・11月24日ニタニタ笑うも食事口があかず下~0・11月25日朝上,昼中食す表情良い・11月26日食事ゆっくり(中)食す主人PM面会ありヨーグルト食す(少し)・11月27日時間をかけ(下~中)食す摂取量は全体の1/3・11月28日主人面会ありヨーグルト食している・11月29日食事1/3位・11月30日笑顔あるも口開かず PM主人面会ありヤクルト少し飲んでいる・12月1日食事(下) ヨーグルト夫が摂取させるむせ(+) ・12月2日食事タイミング良くいけば?口に少し入るとてもむずかしい(下)・12月3日食事下~中体よく動く・12月5日食事すすまず・12月6日昼食中(上)・12月7日食事口を固く閉じ摂取スムーズにできず,のみ込み悪い・12月8日朝食(中),昼食時間をかけて(上)・12月9日時間かけ(上)朝食食す・12月10日食事下~中ゆっくり口を開ける・12月12日食事(下)・12月13日食事1品ずつ少し食す・12月14日副食は1/2位食すおかゆ5口昼食は2~3口のみ・12月15日食事すすまず・12月16日笑顔よくあるも口の開きいまいち主人面会でヨーグルト食す・12月17日食事(下)・12月18日主人ゼリー介助で全部食す食事(下) ・12月16日笑顔よくあるも口の開きいまいち主人面会でヨーグルト食す・12月17日食事(下)・12月18日主人ゼリー介助で全部食す食事(下)・12月20日顔の表情はとても良いが,食事(下)・12月21日食事(下)数口のみ・12月22日食事介助するも2~3口,内服薬やっと飲める感じ・12月23日食事(下)・12月24日食事介助するも2~3口のみウ Fの12月5日の血液検査結果(乙A1[14,15])12月5日に,以下のとおりの血液検査がなされた。 検査項目 ・生化学的検査Ⅰ総蛋白,アルブミン,総コレステロール,中性脂肪,β-リポ蛋白,HDLコレステロール,LDLコレステロール(計算法),GOT(AST),GPT(ALT),γ-GTP,尿酸,尿素窒素,クレアチニン,ナトリウム,カリウム,クロール・免疫学的検査CRP定量,RA定量,ASO・血液学的検査白血球数,赤血球数,ヘモグロビン,ヘマトクリット,血小板数,MCV,MCH,MCHC,血液像(桿状核球,分葉核球,好酸球,好塩基球,リンパ球,単球,異型リンパ球,骨髄芽球,前骨髄球,骨髄球,後骨髄球,形質球,赤芽球)検査結果以下の各項目は,基準範囲を逸脱したが,他の項目は,いずれも基準範囲内であった。 測定値 基準範囲・アルブミン3.6g/dl3.7-5.2・中性脂肪182mg/dl40-149・ナトリウム 154mEq/L135-147・カリウム 3.6g/dl3.7-5.2・中性脂肪182mg/dl40-149・ナトリウム 154mEq/L135-147・カリウム 3.1mEq/L3.3-5.0・クロール 111mEq/L98-108・MCV(平均赤血球容積)100.5fl79-100エ 12月12日のFの心電図検査(本件心電図,乙A5)。 同日実施された本件心電図の自動解析結果は,以下のとおりである。 異常は認める(+)(わずかな異常を認めるのみ)異常Q波の疑いⅢ,aVF 平低T波 Ⅰ,V6頻発する心室性期外収縮頻脈 低電位(四肢)Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ移行帯の左右ずれV4(4) Fの死亡12月25日午前7時40分,Fの呼吸が停止したため,酸素3l/分の吸引を行い,心マッサージも実施したが,睫毛反射,瞳孔反射のいずれも認められず,脈も触れず,午前8時に死亡が確認された(乙A2[5],甲A8)。 被告D医師作成の死亡診断書(甲A5)には,直接死因として「急性心不全」,その発病(発症)又は受傷から死亡までの期間は「約1時間」,直接死因の原因として「肺血栓塞栓症」,同期間は「約4月間」,直接には死因に関係しないが,上記傷病経過に影響を及ぼした傷病名等及びその期間として,「アルツハイマー型痴呆」及び「慢性膀胱炎」と記載されている。 2 争点(1)(Fの死因)について(1) 前記認定事実のとおり,被告D医師が作成したFの死亡診断書には,直接死因として急性心不全(約1時間),その原因として「肺血栓塞栓症」(約 ている。 2 争点(1)(Fの死因)について(1) 前記認定事実のとおり,被告D医師が作成したFの死亡診断書には,直接死因として急性心不全(約1時間),その原因として「肺血栓塞栓症」(約4月間)と記載されている。 上記記載は,Fの死亡時の所見をもとに医師によって作成されたものであるから,Fの死因の認定にあたっての,第一の有力な証拠となりうるところ,被告D医師は,Fに肺血栓塞栓症の既往歴があったこと及びFの状態が肺血栓塞栓症の他覚所見と矛盾しなかったことから肺血栓塞栓症と判断したと認められる(弁論の全趣旨)。このことは,一般的に肺血栓塞栓症の再発率は高く(甲B5),Fの症状は肺血栓塞栓症のものと矛盾しな いことに照らしても合理性を有するものといえるから,Fの死因は,本件事実経過において他の死因の存在が具体的にうかがえるなどの特段の事情がない限り,肺血栓塞栓症であると認めるのが相当である。 (2) これに対して,被告らは,e 園への再入所以降,Fは,高齢による衰弱及び全身状態の悪化による栄養摂取が不可能な状態となるなどして多臓器機能が低下していたとして,Fの死因について特定の疾患をあげることはできないと主張する。 確かに,前記認定事実によれば,e 園再入所後のFの摂食状態が悪い(下)か,数口のみの日が多くあり,寝たきりの状態でもあったが,12月5日のFの血液検査では基準値を大きく離れた数値はみられないし,看護記録(乙A2)やケース記録表(乙A12)にも,死亡の前日である同月24日まで,Fの全身状態について目立った変化は記録されておらず,Fの容態は同月25日前後に急速に悪化したものと推察される。そうすると,被告らが主張するような死亡機序が裏付けられているとはいいがたく,本件において,肺血栓塞栓症以外の死因の存在 記録されておらず,Fの容態は同月25日前後に急速に悪化したものと推察される。そうすると,被告らが主張するような死亡機序が裏付けられているとはいいがたく,本件において,肺血栓塞栓症以外の死因の存在を具体的にうかがわせるような特段の事情は認められない。 よって,本件でのFの死因は,肺血栓塞栓症と認めるのが相当である。 3 争点(2)(ワーファリンの投与量の調整義務違反の有無)(1) ワーファリンの使用に関する一般的注意義務アワーファリンの調整とPT-INR値の測定についてワーファリンの添付文書(甲B8)では,ワーファリンは,血栓塞栓症の治療及び予防に効能・効果を持つが,ワーファリンに対する感受性には個体差が大きく,出血リスクの高い患者が存在するため,リスクとベネフィットのバランスを考慮して初回投与量を慎重に決定する必要があり,血液凝固能検査(プロトロンビン時間及びトロンボテスト)等に基づき投与量を決定し,血液凝固能管理を十分に行いつつ使用すること とされている。 また,ワーファリンの「適正使用情報」(本件当時の最新版である第2版。甲B33)には,ワーファリンの投与量の決定とコントロールの基本的なスケジュールについて,以下のように記載されている。すなわち,①ワーファリン投与開始前,プロトロンビン時間(PT)またはトロンボテスト(TT)を行い,患者ごとに基準値を知る。必要に応じて2回以上測定する,②ワーファリン投与開始後1週間,原則として毎日測定する,③ワーファリン投与開始後第2週,隔日~3日に1回測定する,④維持量が決定し,血液凝固能が安定するまでの投与開始後第3週~第4週は,週に1~2回測定する,⑤血液凝固能が治療域内で安定した外来通院時では,原則として1か月に1回測定で血液凝固能をチェックし,必要に応じて用 し,血液凝固能が安定するまでの投与開始後第3週~第4週は,週に1~2回測定する,⑤血液凝固能が治療域内で安定した外来通院時では,原則として1か月に1回測定で血液凝固能をチェックし,必要に応じて用量調節を行うことというものである。 一般に,医薬品の添付文書の記載事項は,当該医薬品の危険性(副作用等)につき最も高度な情報を有している製造業者等が作成するものであるから,その記載内容は,医師がその医薬品を使用するに当たっての標準的な注意義務の内容となるものと考えられる。また,適正使用情報は,医薬品の添付文書(能書)自体ではないものの,この内容を補完するものであるから,その記載内容は,同様に,当該医薬品を使用するにあたっての注意義務を導くうえでの重要な考慮要素となると解する。 これらの情報に加えて,医学文献(甲B3[32],B4[1141,1142],B5[910],B10[1047])によれば,本件当時,わが国では,ワーファリン投与中のPT-INRを,1.5~2.5にコントロールすることが多かったこと,急性肺血栓塞栓症の慢性期にはワーファリンを投与し,可逆的な危険因子がある場合には少なくとも3か月間,特発性の静脈血栓塞栓症では少なくとも6か月間投与を継続する必要があることが認められる。 以上に照らせば,本件当時,肺血栓塞栓症の予防のためワーファリンを処方する医師には,特段の事情がない限り,上記の添付文書,適正使用情報及び各医学文献の記載内容を踏まえ,定期的にPT-INRの測定を行うなどして血液の凝固能が1.5~2.5の治療域の範囲に収まるようモニタリングしつつ,概ね3か月ないし6か月の間,投与を継続すべき一般的な注意義務があると認められる。 イワーファリン調整の留意事項「適正使用情報」によれば,ワーファリンの維持量を決 まるようモニタリングしつつ,概ね3か月ないし6か月の間,投与を継続すべき一般的な注意義務があると認められる。 イワーファリン調整の留意事項「適正使用情報」によれば,ワーファリンの維持量を決定する際は,原則として入院で行うのが安全であること,ワーファリンの投与量を変更する場合で,患者がワーファリンに対する適応力に余裕がない場合には,2日ないし3日に一度0.5mg 単位の少量の増減量による細かな調整が必要となること及びワーファリンの効果は投与直後には現れず,経口投与後12~24時間で発現し,48~72時間まで持続するため,その日その日のPT,TTに応じてすぐ投与量を変更することを避け,少なくとも2~3日間は投与量を一定にして経過を見た方が投与量の方針が立て易いことが,それぞれ認められる。 (2) 以上の点をふまえて,本件におけるワーファリン投与の状況についてみると,e 園では,11月20日から12月24日まで,Fに対して1日当たり1/2錠の投与を継続したが,この間に,PT-INR値の測定はなされていなかった。G病院の退院から1か月余りの間,ワーファリン調整の前提となるPT-INR値の測定を行っていなかった被告らの措置については,外来でも月に1回程度のPT-INR値の測定を求める適正使用情報の趣旨に完全に適っているとはいいがたい面がある。しかしながら,ワーファリンの調整は,その過程で合併症として出血をする危険性があるため,前記(1)イのとおり,維持量の決定は入院で行うのが安全であり,また,投与量の調整,維持量の調整は,2日ないし3日に一度0.5mg 単位 の少量の増減量を行う必要があるなど必ずしも容易なものではなく,病院への入院以外の状況でワーファリンの調整を要求することが困難な場面もあると認められ,これは,特別養 に一度0.5mg 単位 の少量の増減量を行う必要があるなど必ずしも容易なものではなく,病院への入院以外の状況でワーファリンの調整を要求することが困難な場面もあると認められ,これは,特別養護老人ホームであるe 園についても妥当すると考えられる。とりわけ,本件では,G病院において,ワーファリンの調整が実施され,Fの退院の際は,紹介状において,現在は1/2T/day のみ使用している旨の申し送りがe 園になされていた。そうすると,自ら投与量の調整を行うことが容易ではない被告らとしては,少なくともG病院の退院から間もない時期である12月5日から同月24日までの間については,G病院での調整の結果に依拠し,1日当たり1/2錠の投与を継続したことも合理的な判断であるというべきである。 以上からすると,被告らがPT-INRの検査を行わず,1日当たり1/2錠の投与を継続した点について,被告らに注意義務違反があるとまでは認められず,ワーファリンの投与量の調整を怠ったとする原告らの主張は採用できない。 (3)アこれに対し,原告らは,紹介状では,「1/2T~1Tぐらいで調整してみてはどうかと考えていました。」とされているのだから,1/2錠の投与が適切ということにはならないと主張している。しかし,紹介状の上記記載は,G病院への入院中にH医師が計画していた治療方針を記載したものと解せられ,この内容がそのままe 園で行うべき治療等の内容となるものではない。むしろ,紹介状は,Fの場合は,病院でもワーファリンの調整が困難であったことをうかがわせるものですらあり,e園で調整を実施するよう要求することは通常の事例よりも一層容易でなかったといえる。そうすると,被告らが,本件について,紹介状記載のとおり,1日当たり1/2錠の投与を選択したこともやむを得な あり,e園で調整を実施するよう要求することは通常の事例よりも一層容易でなかったといえる。そうすると,被告らが,本件について,紹介状記載のとおり,1日当たり1/2錠の投与を選択したこともやむを得ないものと認められる。 イまた,原告らは,12月5日,Fに対してタガメット及びイトリゾー ルの投与が中止されたから,これに応じてワーファリンの投与量を調整すべきであったとも主張している。 ワーファリンの適正使用情報(甲B41[124,132,167,215,216])は,タガメット及びイトリゾールは,ワーファリンの作用を増強させる可能性のある薬剤であるため,これらを中止した時は,血液凝固能検査の実施や,監視,必要に応じたワーファリンの用量調節を求めている。しかしながら,前述のとおり,e 園の医療体制の限界からワーファリンの調整が容易ではないこと,G病院の退院から2週間余り経過したに過ぎない時点であること,同病院においてもFのワーファリン調整に難渋したこと等の本件の事実経過に照らすと,被告らがG病院の申し送りに依拠し,同量の投与を継続すると判断したことも,依然として医師の裁量の範囲内のものというべきであり,この点に注意義務違反があるとまではいえない。原告の指摘は採用できない。 4 争点(3)(肺血栓塞栓症の確定診断のための検査をすべき義務違反の有無)(1) 肺血栓塞栓症の診断及び検査について,医学文献(甲B3[30],B4[1139,1140],B6[321],B7[344],B9[210])及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。すなわち,肺血栓塞栓症の症状,理学所見及び一般検査で本症に特異的なものはないため,非特異的所見から本症を疑う必要がある。本症の主要症状は,呼吸困難と胸痛であり,特に呼吸困難は高頻度に認 められる。すなわち,肺血栓塞栓症の症状,理学所見及び一般検査で本症に特異的なものはないため,非特異的所見から本症を疑う必要がある。本症の主要症状は,呼吸困難と胸痛であり,特に呼吸困難は高頻度に認められ,その他の症状として,失神,咳嗽,血痰,動悸,喘鳴,冷汗,不安感などがある。他覚所見としては,頻呼吸,頻脈が高頻度に認められ,ショックや低血圧を呈することもあるが,いずれも本症に特徴的なものではない。また,スクリーニング検査としては,胸部X線,心電図,動脈血ガス分析,D-ダイマー,経胸壁心エコー,血液生化学検査等があるが,心電図検査所見では,右側胸部誘導の陰性T波,洞性頻脈,右軸偏位,右脚ブロック,SⅠQⅢTⅢパターン (Ⅰ誘導で著名なS波,Ⅲ誘導で明瞭なQ波と陰性T波。甲B12[161]),肺性P波が観察される。心電図所見は血行動態変化に伴う右心負荷や冠血流量に影響を受け,経時的に変化する。 (2) 次に,本件心電図を検討すると,本件心電図の自動解析結果(以下「解析結果」という。乙A5),I 医師の意見書(以下,「I 意見書」という。 甲B23[7])及び弁論の全趣旨によれば,本件心電図には,洞性頻脈,右側胸部誘導の陰性T波,QRS右脚ブロック,異常Q波の疑い(Ⅲ,aVf 誘導),心室性期外収縮等の発現が認められる。しかし,これらは肺血栓塞栓症に特異なものでなく,解析結果では「+(わずかな異常)」となっているにすぎず,肺血栓塞栓症を発症していた8月30日の心電図(乙A4)と比較しても,急性的な変化は乏しい(I 意見書)。その上,12月12日当時のFの臨床状態に,(1)にあげたような呼吸困難をはじめとする肺血栓塞栓症の自他覚所見が現れていたとも認められない。そうすると,Fが当時寝たきりの状態で肺血栓塞栓症再発のリスク要因があ 2月12日当時のFの臨床状態に,(1)にあげたような呼吸困難をはじめとする肺血栓塞栓症の自他覚所見が現れていたとも認められない。そうすると,Fが当時寝たきりの状態で肺血栓塞栓症再発のリスク要因があったことを踏まえても,全体として肺血栓塞栓症の疑いを持つべき所見が現れていたとまでは認めがたく,12月12日の時点で,被告らが,本件心電図から直ちに肺血栓塞栓症を疑い,その診断のために低酸素血症等の検査をすべき状況にあったとはいえない。 原告らは,さらに,同月21日から亡くなる同月25日までFの食欲が低下し,同月24日にはチアノーゼが認められるなど,肺血栓塞栓症の症状が現れていたとも主張する。しかし,前記1(3)イの事実に照らせば,同月21日以降の摂食状態が,e 園再入所の時期と比べて特に悪化したとは認められないし,同月24日のチアノーゼの出現についてもこれを認めるに十分な証拠はなく,呼吸困難や胸痛をはじめとする他の肺血栓塞栓症の自他覚所見も認められない。したがって,この点に関する原告らの主張も採用できない。 5 争点(4)(肺血栓塞栓症予防のために弾性ストッキングを装着させるべき義務違反の有無)肺血栓塞栓症は,前記第2の3(1)アのとおり,比較的近年になってその病態が認識されるようになった疾患であり,初めてガイドラインが策定されたのは平成16年であるから,本件当時は,未だガイドラインが存在していなかったことを踏まえる必要がある。そして,本件(平成14年)以前に公刊されていた肺血栓塞栓症の予防に関する医学文献(甲B6,B7,B9)では,弾性ストッキングの着用に言及したものは一つ(甲B9)に過ぎない。しかも,その文献においても,弾性ストッキングの着用が推奨されるに留まっており,他に弾性ストッキングの使用が一般的に定着していた は,弾性ストッキングの着用に言及したものは一つ(甲B9)に過ぎない。しかも,その文献においても,弾性ストッキングの着用が推奨されるに留まっており,他に弾性ストッキングの使用が一般的に定着していたような事情は認められない。 以上のように,本件当時は,未だガイドライン策定の前の時期であり,本件当時に参照可能な医学文献においても弾性ストッキングの着用について言及したものは一部に留まっていたことを踏まえると,弾性ストッキングの着用が,肺血栓塞栓症の予防方法として臨床現場における一般的な医療水準にまで昇華していたとは認めがたいというべきであり,この点についての原告らの主張は採用できない。 6 争点(5)(仮にワーファリンの調整ができなかったのであれば,転医させるべき義務違反の有無)本件では,G病院入院中にFのワーファリンの調整がなされ,H医師の判断により,11月20日にG病院を退院してe 園に再入所することとなった。 そうすると,Fを再び受け入れた被告らとしては,Fの病状に変化が生じるなどの事情が生じない限り,退院からしばらくの間は,G病院への入院中になされたワーファリンの調整結果に基づいた投与を継続した判断に問題はなく,この点について注意義務違反が問題となるとは考えられない。 確かに,本件では,12月5日に,ワーファリンの効用に影響を及ぼしうるイトリゾールやタガメットの投与が中止されており,これによってPT-IN R値が下方に変動する可能性が観念できる(甲B41[167,216])。しかしながら,イトリゾール及びタガメットの中止は,e 園への再入所後わずか2週間余りの時点であり,しかも,紹介状の記載によれば,H医師は,近日中のイトリゾール中止の可能性を認識しつつ,11月20日の時点での退院が相当と判断しており,Fの退院時に, 園への再入所後わずか2週間余りの時点であり,しかも,紹介状の記載によれば,H医師は,近日中のイトリゾール中止の可能性を認識しつつ,11月20日の時点での退院が相当と判断しており,Fの退院時に,近日中のイトリゾール中止に伴って再入院することがG病院と被告らの間で想定されていたとも考えられない。そうすると,被告らが,イトリゾールやタガメットを中止した後,ワーファリン調整目的の転医・転院の措置をとらなかったことも,これが退院から約2週間の時点であったことを考慮すれば,なお医師の裁量の範囲内のものと考えるべきであり,転医・転院の措置をとらなかったことが直ちに被告らの注意義務違反を構成するとまではいえない。 結局,G病院からFを受け入れた被告らとしては,退院から1か月余りの期間については,Fの臨床状態に大きな変化がない限り,再入院までさせず,紹介状の記載に依拠して1日当たり1/2錠の投与を継続する方針としたことも,あながち不合理とはいえないのであって,この間にワーファリンの調整のみを目的とした転医・転院の措置をとらなかった点についても,被告らに注意義務違反があったとまでは評価できないというべきである。 7 結論以上によれば,被告らに注意義務違反は認められないから,その余の争点について判断するまでもなく,原告らの請求には理由がなく,いずれもこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 広島地方裁判所民事第1部 裁判長裁判官太田雅也 裁判官中尾隆宏 裁判官奥田惠美 裁判官中尾隆宏 裁判官奥田惠美

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る