平成26年4月30日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成25年(行ウ)第612号決定処分取消請求事件口頭弁論終結日平成26年2月21日判決 アメリカ合衆国コネチカット州<以下略>原告アドバンストフュージョンシステムズエルエルシー同特許管理人弁理士新井信昭同訴訟代理人弁護士井浦謙二東京都千代田区<以下略>被告国 処分行政庁特許庁長官被告指定代理人長谷川 武 久同浅原陽子同駒﨑利徳同上田智子同古閑裕人主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。 事実 及び理由 第1 請求 1 特許庁長官が平成24年7月3日付けでした原告に対する特願2012-507190についての国内書面に係る手続の却下処分を取り消す。 2 特許庁長官が平成24年7月3日付けでした原告に対する特願2012-5 07190についての国際出願翻訳文提出書に係る手続の却下処分を取り消す。 第2 事案の概要本件は,原告が,「千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約」(以下以下以下以下「特許協力特許協力特許協力特許協力条約条約条約条約」というというという 本件は,原告が,「千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約」(以下以下以下以下「特許協力特許協力特許協力特許協力条約条約条約条約」というというというという。)。)。)。)に基づいて行った国際特許出願について,特許庁長官に対し,国内書面及び翻訳文提出書を提出したところ,特許庁長官から国内書面に係る手続の却下処分及び翻訳文提出書に係る手続の却下処分を受けたことから,各処分の取消しを求める事案である。 1 前提となる事実(証拠等を末尾に記載した以外の事実は争いがないか,当裁判所に顕著な事実である。)(1) 当事者原告は,アメリカ合衆国コネチカット州に本店を有する外国法人であり,特許法8条の規定による特許管理人を選任している。 (2) 本件訴訟が提起されるまでの経緯ア原告は,平成20年5月16日,米国特許商標庁に仮出願第61/127,845を出願した(以下以下以下以下「本件仮出願本件仮出願本件仮出願本件仮出願」というというというという。)。)。)。)。 イ原告は,平成21年5月18日,本件仮出願の優先権を主張して,受理官庁を米国特許商標庁,国際出願言語を英語として,発明の名称(日本語訳)を「フラッシュX線照射装置」とする発明について,特許協力条約3条に基づく国際出願(PCT/US2009/044410。以下以下以下以下「本件国際出願件国際出願件国際出願件国際出願」というというというという。)をした。 本件国際出願は,特許協力条約4条(1)(ii)の指定国に日本国を含むものであったため,特許法184条の3第1項の規定により,その国際出願日である平成21年5月18日にされた特許出願(特願2012-507190号。以下 力条約4条(1)(ii)の指定国に日本国を含むものであったため,特許法184条の3第1項の規定により,その国際出願日である平成21年5月18日にされた特許出願(特願2012-507190号。以下以下以下以下「本件国際特許出願本件国際特許出願本件国際特許出願本件国際特許出願」というというというという。)とみなされた。 ウ原告は,平成23年10月25日,特許庁長官に対し,本件国際特許出願についての国内書面(乙1。以下以下以下以下「本件国内書面本件国内書面本件国内書面本件国内書面」というというというという。)を提出 した。 エ原告は,平成23年12月21日,特許庁長官に対し,本件国際特許出願についての明細書,請求の範囲,図面及び要約の日本語による翻訳文に係る翻訳文提出書(乙2。以下以下以下以下「本件翻訳文提本件翻訳文提本件翻訳文提本件翻訳文提出書出書出書出書」というというというという。)を提出した。 オ特許庁長官は,原告に対し,平成24年3月13日,①本件翻訳文提出書は提出期間(優先日から2年6か月後である平成22年11月16日まで)経過後の提出であるため受理することができないとの理由により,本件翻訳文提出書に係る手続は却下すべきものと認められる旨の平成24年3月6日付け却下理由通知書(甲1。以下以下以下以下「本件却下理由通知書本件却下理由通知書本件却下理由通知書本件却下理由通知書1」といういういういう。),及び②本件国際特許出願は,翻訳文がその提出できる期間内に提出されていないため,取り下げられたものとみなされたから,国内書面は受理することができないとの理由により,本件国内書面に係る手続は却下すべきものと認められる旨の平成24年3月6日付け却下理由通知書 出されていないため,取り下げられたものとみなされたから,国内書面は受理することができないとの理由により,本件国内書面に係る手続は却下すべきものと認められる旨の平成24年3月6日付け却下理由通知書(甲2。以下以下以下以下「本件却下理由通知書本件却下理由通知書本件却下理由通知書本件却下理由通知書2」というというというという。)をそれぞれ送付した。 原告は,特許庁長官に対し,平成24年5月28日付けで,本件却下理由通知書1及び本件却下理由通知書2に対する弁明書(乙3の1・2)を提出した。 カ特許庁長官は,平成24年7月3日付け(発送日:同月4日)で,本件翻訳文提出書に係る手続については,本件却下理由通知書1に記載した理由によって却下する旨の処分(甲3。以下以下以下以下「本件翻訳文提出本件翻訳文提出本件翻訳文提出本件翻訳文提出書却下処書却下処書却下処書却下処分」というというというという。)を,本件国内書面に係る手続については,本件却下理由通知書2に記載した理由によって却下する旨の処分(甲4。以下以下以下以下「本件本件本件本件国内書面却下処分国内書面却下処分国内書面却下処分国内書面却下処分」といいといいといいといい,本件翻訳文提出書却下処分本件翻訳文提出書却下処分本件翻訳文提出書却下処分本件翻訳文提出書却下処分と併せてせてせてせて「本件本件本件本件各却下処分各却下処分各却下処分各却下処分」というというというという。)を,それぞれ行った。 キ原告は,平成24年8月31日付けで,本件各却下処分につき,特許庁 長官に対し異議申立てをした(乙4)。 ク特許庁長官は,平成25年3月18日付けで,異議申立てを棄却する旨の決定(甲5)をし,同決定は,同月19 8月31日付けで,本件各却下処分につき,特許庁 長官に対し異議申立てをした(乙4)。 ク特許庁長官は,平成25年3月18日付けで,異議申立てを棄却する旨の決定(甲5)をし,同決定は,同月19日原告に送達された。 ケ原告は,平成25年9月19日,本件訴訟を提起した。 (3) 法令等の定めア外国語でされた国際特許出願の出願人は,特許協力条約2条(xi)の優先日から2年6か月(以下以下以下以下「国内書面提出期間国内書面提出期間国内書面提出期間国内書面提出期間」というというというという。)。)。)。)以内に翻訳文を特許庁長官に提出しなければならない。国内書面提出期間満了の2か月前から満了日までの間に特許法184条の5第1項所定の国内書面を提出したときは,当該書面提出日から2か月(以下以下以下以下「翻訳文提出特例期翻訳文提出特例期翻訳文提出特例期翻訳文提出特例期間」というというというという。)。)。)。)以内に翻訳文を提出することができる。国内書面提出期間又は翻訳文提出特例期間内に翻訳文の提出がなかったときは,その国際特許出願は取り下げられたものとみなされる。(特許法184条の4第1項,3項)。 イ 「優先日」とは,期間の計算上,次の日をいう。 (a) 国際出願が特許協力条約8条の規定による優先権の主張を伴う場合は,その優先権の主張の基礎となる出願の日(b) 国際出願が同条約8条の規定による2以上の優先権の主張を伴う場合には,それらの優先権の主張の基礎となる出願のうち最先のものの日(c) 国際出願が同条約8条の規定による優先権の主張を伴わない場合には,その出願の国際出願日(特許協力条約2条(xi))ウ国際出願は,「特許協力条約に基づく規則」(以下以下以下以下「PCT 国際出願が同条約8条の規定による優先権の主張を伴わない場合には,その出願の国際出願日(特許協力条約2条(xi))ウ国際出願は,「特許協力条約に基づく規則」(以下以下以下以下「PCT「PCT「PCT「PCT規則規則規則規則」といういういういう。)。)。)。)の定めるところにより願書に優先権主張等を記載することによって,優先権を主張する申立てを伴うことができる(特許協力条約8条(1),PCT規則4.10)。 エ上記ウの規定に基づいて申し立てられた優先権主張の条件及び効果は,「工業所有権の保護に関するパリ条約のストックホルム改正条約」(以下「パリパリパリパリ条約条約条約条約」というというというという。)。)。)。)4条の定めるところによる(特許協力条約8条(2)(a))。 優先権は,発明の構成部分で当該優先権の主張に係るものが最初の出願において請求の範囲内のものとして記載されていないことを理由としては否認されない。ただし,最初の出願に係る出願書類の全体により当該構成部分が明らかにされている場合に限る。(パリ条約4条H) 2 争点及び争点に対する当事者の主張(争点)優先権主張が実体上無効であれば,国内書面提出期間の起算日は国際出願の出願日に繰り下がるか。 (原告の主張)(1) 特許協力条約8条(2)(a)は,優先権主張の条件及び効果はパリ条約4条の定めるところによる,と規定しており,パリ条約4条Hは,最初の出願に係る出願書類の全体により発明の構成部分が明らかにされていなければならない旨を規定する。すなわち,特許協力条約8条(2)(a)は,優先権主張が満足させるべき実体的要件を規定していると解すべきである。したがって,同条約8条に基づく優先権主張は,同条 れていなければならない旨を規定する。すなわち,特許協力条約8条(2)(a)は,優先権主張が満足させるべき実体的要件を規定していると解すべきである。したがって,同条約8条に基づく優先権主張は,同条(1)に基づく形式的な要件とともに,同条(2)(a)の規定に基づく実体的な要件をも満たすものでなければならない。 (2) 本件優先権が無効であること本件国際出願で優先権(以下以下以下以下「本件優先権本件優先権本件優先権本件優先権」というというというという。)。)。)。)を主張した本件請求項1の構成要件は,以下のとおりである。 「物質にフラッシュX線を照射するための装置であって,a 電子源とアノードから構成されるフラッシュX線源と; b 前記電子源は,電極放射表面を有する電界放射型冷陰極と,前記カソードから前記アノードへの電子流を制御するためのグリッドとを有することを特徴とし;前記グリッドをバイアスするための電気接続であって,前記電気接続は前記グリッドのベース全体が同じ瞬間に制御信号に応答することを確実にするために位相一致ネットワークを用いないことを特徴とする電気接続と;c 前記アノードは電子を受け取る主表面とX線を放射する反対側の主表面とを有し,前記X線放射表面はレーザー照射物質を有しない照射空間内にX線を放射することを特徴とし;d 前記アノードの前記X線放射表面は直交する方向の第1と第2の寸法を有し前記第1と第2の寸法は各々2ミリメートルより大きいことを特徴とし;e 前記フラッシュX線源に給電するための高電圧パルス電源であって,冷陰極電界放射型電子管を1次スイッチング手段又は1次スイッチング兼増幅手段として使用することを特徴とする高電圧パルス電源とを含み;f 前記電子発生源,アノード,お めの高電圧パルス電源であって,冷陰極電界放射型電子管を1次スイッチング手段又は1次スイッチング兼増幅手段として使用することを特徴とする高電圧パルス電源とを含み;f 前記電子発生源,アノード,および高電圧パルス電源は前記照射空間内に充分なX線放射を生成して前記空間内の物質に対して所望のレベルの放射を実現し前記物質の状態の変化を誘導するように構成されていることを特徴とする;装置。」ここで,構成要件dは,本件国際出願の国際段階における特許協力条約19条に基づく補正で加えられたものであり,先行技術との差別化を図るために不可欠な要件である。 これに対し,本件仮出願においては,構成要件a~c,e,fに該当する事項は含まれているが,構成要件dに該当する事項は含まれていない(乙4添付資料)。すなわち,本件仮出願は構成要件dを含まない。したがって, 本件仮出願全体に開示された発明と本件国際出願の特許請求の範囲に記載された発明との間に実質的な同一性がなく,パリ条約4条Hの規定に反している。 以上から,本件国際出願において主張された,本件仮出願を基礎とする本件優先権主張は,特許協力条約8条(2)(a)に規定された実体的要件を具備しておらず,よって,当該優先権主張は無効とされるべきものである。 (3) 本件優先権主張は無効であるから,本件国際出願は「特許協力条約8条の規定による優先権主張を伴わない場合」に該当し,特許協力条約8条(xi)(c)により,本件国際特許出願に係る優先日は本件国際出願の現実の出願日である平成21年5月18日とされるべきであるから,この日から2年6か月となる平成23年11月18日が特許法184条の4に規定される「国内書面提出期間」の末日となる。本件国内書面は,平成23年10月25日付けで提出されているので るべきであるから,この日から2年6か月となる平成23年11月18日が特許法184条の4に規定される「国内書面提出期間」の末日となる。本件国内書面は,平成23年10月25日付けで提出されているので,明らかに適法なものである。 また,これにより,特許法第184条の4第1項に規定される2か月の「翻訳文提出特例期間」が適用され,同期間の末日は同年12月25日になるところ,その前となる同年12月21日付けで本件翻訳文提出書が原告により提出されているので,これも明らかに適法なものである。 特許庁長官は,当該優先権主張の実体的要件を何ら考慮することなく形式的要件の審査をもってのみ優先日を決定し,本件各却下処分をしているので,明らかに違法であり取り消されるべきである。 被告の主張に対する反論被告は,「優先日は優先権主張が有効であるか否かといった実体審査の結果に左右されるものではない」と主張するが,以下のとおり絶対的なものではない。 ア特許協力条約2条(xi)には,確かに「期間の計算上」という文言が含まれている。しかし,優先日を定めるための優先権の主張はパリ条約の 要件及び効果によるものであり,その要件及び効果に照らせば本件優先権主張は明らかに無効である。したがって,パリ条約の趣旨に鑑みれば,本件国際出願には特許協力条約2条(xi)(a)ではなく(c)が適用されるべきなのである。そうでなければ,パリ条約19条の特別取極として制定された特許協力条約が,工業所有権の保護というパリ条約に基づく利益を縮減することになり,明らかにパリ条約の趣旨に反することになる(特許協力条約1条(2))。 被告は,統一的な優先日を定める必要があると主張するが,PCT規則中には,優先日変更に関わる規定が多数存在するから(例えば,PCT規則26 趣旨に反することになる(特許協力条約1条(2))。 被告は,統一的な優先日を定める必要があると主張するが,PCT規則中には,優先日変更に関わる規定が多数存在するから(例えば,PCT規則26の2.1(a)(c),26の2.2(b),90の2.3など),被告の主張には理由がない。 イ特許協力条約2条(ⅹⅰ)における優先権主張の要件及び効果について,「期間の計算上」という文言を絶対視して,その有効無効を判断しないとすれば,本来であればパリ条約上の優先権(パリ条約4条F後段)を発生させることが可能な構成部分が存在するのに,特許協力条約若しくは国内法令上の文言に過度に拘泥し処理の便宜の名のもとにその利益を連座的に消滅させてしまうことになる。これは明らかなパリ条約違反といわざるを得ない。 ウ特許協力条約11条(3)と特許法26条の規定により,国際出願日の認められた国際出願は当然に国内特許出願としての効果を生じ,特許法184条の4第1項の翻訳文の有無は,外国語特許出願に発生する正規の国内特許出願としての効果に何ら影響を与えるものではない。したがって,国際特許出願は,特許法36条に基づいて出願された純粋な国内特許出願と異なった扱いを受けることは許されず,同等に扱われなければならない。 国内特許出願の優先権主張の基礎とする出願がパリ条約の要件に該当しない場合には,その出願に基づく優先権主張が無効とされ現実の出願日を 基準にして特許要件が判断されるにすぎず,その出願自体が無効ないし却下されるわけではない。それゆえ,その出願を原出願とする分割により新たな特許出願とすること(特許法44条1項)や,実用新案登録出願若しくは意匠登録出願に変更すること(実用新案法10条1項,意匠法13条1項)ができる。分割に係る新たな特許出願は,原出願の明 により新たな特許出願とすること(特許法44条1項)や,実用新案登録出願若しくは意匠登録出願に変更すること(実用新案法10条1項,意匠法13条1項)ができる。分割に係る新たな特許出願は,原出願の明細書の特許請求の範囲に記載された事項に限られるものではなく,明細書や図面に記載されている事項についてもすることができるとされている。また,分割の実体要件として,原出願の分割直前の明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された発明の全部を分割出願に係る発明としたものでないことであれば足り,優先権主張の基礎とした出願に含まれていなかった構成部分であっても,新たな特許出願の対象とすることが適法に行われているところである。 しかしながら,国際特許出願に伴う優先権の主張が無効である場合に,特許法184条の4第3項の規定により一律に当該国際特許出願を取下擬制してしまうと,分割による新たな出願や変更出願を行う余地をなくしてしまうことになる。これは,明らかに国内特許出願とは異なる取り扱いであり,パリ条約に違反する。 本件国際出願によって初めて開示された構成部分dは,本件優先権の主張とは全く関係がない。そうすると,構成部分dは本件優先権とは無関係に保護されなければならないはずであり(パリ条約4条F),構成部分dに関しては,本件国際出願日が優先日とされるべきなのである。 しかるに,本件優先権主張を基礎とする「優先日」を絶対視して期限内に国内書面と翻訳文が提出されていないとして本件国際特許出願の取下擬制がされた結果,構成部分dまでもが保護されないことになった。これは,明らかにパリ条約4条Fの規定に違反する処分である。 エ特許協力条約23条(1)は,指定官庁が,同条約22条に規定する国 際出願の国内書面提出期間の満了前に,当該国際出願について た。これは,明らかにパリ条約4条Fの規定に違反する処分である。 エ特許協力条約23条(1)は,指定官庁が,同条約22条に規定する国 際出願の国内書面提出期間の満了前に,当該国際出願について実体審査を行うことを禁じているが,同条(2)は,前項の規定にかかわらず,出願人の「明示の請求」により,国際出願の実体審査をいつでも行うことができるとしている。 特許協力条約23条(2)にいう「明示の請求」は,出願審査請求に限定されるものではなく,強いて言えば,国内書面の提出及び国内手数料の支払いが「明示の請求」に該当するものと解すべきである。出願人は,国内書面の提出及び国内手数料の支払いを完了しているので,速やかに優先権の有効性を判断すべきである。 特許協力条約23条(2)が裁量規程であるとしても,出願人保護に反しない限りに裁量の範囲は限定されていると解すべきである。したがって,出願人の「明示の請求」を無視することは,出願人保護を目的とする特許協力条約の目的に反する行為であり許されない。 (被告の主張)(1) 優先日は,特許協力条約の各規定に定める手続期間において,期間の計算のためにのみ定義されたものであることが明らかであって,優先権の主張が有効であるか否かといった指定官庁における国際出願に係る実体審査の結果に左右されるものではない。このことは,特許協力条約23条の規定からも,特許法184条の17の規定からも明らかである。 優先日は国際段階において統一的に確定される必要があり,各国における各国際特許出願の内容によって優先日が左右されることにつながりかねない原告の主張は,優先日の趣旨を没却するものであり,失当である。 原告が主張するように,優先日が特定の場合において変動することはあるものの,一の国際出願の優先日は全て されることにつながりかねない原告の主張は,優先日の趣旨を没却するものであり,失当である。 原告が主張するように,優先日が特定の場合において変動することはあるものの,一の国際出願の優先日は全ての国において同一であって,統一的に優先日が定められていることに変わりはない。 (2) 原告は,本件仮出願(出願日平成20年5月16日)の優先権を主張し て本件国際出願をし,本件国際出願は本件国際特許出願とみなされた。 特許協力条約に基づく国際出願が,同条約8条の規定による優先権の主張を伴う場合には,その優先権主張の基礎となる出願の日が優先日となることから,本件国際特許出願の優先日は,本件仮出願の出願日である平成20年5月16日となる。 その国内書面提出期間は,優先日から2年6か月の満了日である平成22年11月16日までとなる(特許法184条の4第1項)。 原告は,国内書面提出期間である平成22年11月16日までに翻訳文を提出しなかったのであるから,本件国際特許出願は取り下げられたものとみなされる(特許法184条の4第3項)。 そうすると,原告が平成23年10月25日に提出した本件国内書面は,既に取り下げられたものとみなされ,我が国の特許庁に係属していない外国語特許出願について提出されたことになるから,本件国内書面の提出に係る手続は,不適法なものであって,その補正をすることができないものであるといわざるを得ず,却下を免れない(特許法18条の2第1項)。 したがって,特許庁長官が行った本件国内書面却下処分は適法なものである。 (3) 原告が平成23年12月21日に提出した本件翻訳文提出書は,本件国際特許出願の国内書面提出期間である平成22年11月16日を経過して提出されたものであるから,本件翻訳文提出書に係る手続は (3) 原告が平成23年12月21日に提出した本件翻訳文提出書は,本件国際特許出願の国内書面提出期間である平成22年11月16日を経過して提出されたものであるから,本件翻訳文提出書に係る手続は,不適法なものであって,その補正をすることができないものであり,却下を免れない(特許法18条の2第1項)。 したがって,特許庁長官が行った本件翻訳文提出書却下処分は,適法なものである。 第3 当裁判所の判断 1 原告は,特許法184条の4第1項により国内書面提出期間の起算日となる べき優先日とは実体法上有効な優先権主張を伴う優先日をいい,優先権主張が実体法上無効であれば,国内書面提出期間の起算日は現実の出願日から起算されるべきであると主張し,その根拠として,パリ条約4条Hを引用する特許協力条約8条(2)(a)の規定を挙げる。 しかし,特許法184条の4第1項,特許協力条約2条(xi)にいう「優先日」とは,期間の計算のためにのみ定義されたものであり,国際出願が特許協力条約8条の規定による優先権の主張を伴う場合には,その優先権の主張の基礎となる出願の日をいい,当該優先権の主張が有効であるか否かといった,指定官庁における国際出願の実体審査の結果によって左右される性質のものではないと解するのが相当である。 このことは,特許協力条約23条(1)が,指定官庁が同条約22条に規定する国際出願の翻訳文提出期間の満了前に当該国際出願について実体審査を行うことを禁じていることや,特許法184条の17が,外国語特許出願については,同法184条の4第1項の規定による翻訳文提出手続をした後でなければ,出願審査の請求(同法48条の3)をすることができないと規定し,特許庁における実体審査を開始する条件として,同法所定の期間内に翻訳文提出手続を完了 1項の規定による翻訳文提出手続をした後でなければ,出願審査の請求(同法48条の3)をすることができないと規定し,特許庁における実体審査を開始する条件として,同法所定の期間内に翻訳文提出手続を完了させることを要求していることからも明らかである。 特許協力条約8条(2)(a)の規定は,期間の計算に影響を及ぼすような規定とは解されない。 また,原告は,特許協力条約11条(3)と特許法26条の規定により,国際出願は当然に国内特許出願としての効果を生じ,特許法184条の4第1項の翻訳文の有無は,外国語特許出願に発生する正規の国内特許出願としての効果に何ら影響を与えるものではないと主張する。しかし,特許協力条約11条(3)は,国際出願日から各指定国における正規の国内出願の効果を有するものとし,国際出願日を,各指定国における実際の出願日とみなすとしているにすぎない。同条項は,正規の国内出願と認められた後の国内における手続及びそ の効果まで規制するものではなく,特許法184条の4第1項の規定の適用を排除するものとは解されないから,原告の主張には理由がない。 さらに,原告は,特許協力条約23条(2)にいう「明示の請求」は,出願審査請求に限定されるものではなく,国内書面の提出及び国内手数料の支払いが,「明示の請求」に該当すると主張する。しかし,特許協力条約23条(2)は,その文言から,翻訳文提出期間の満了前であっても,明示の請求があれば,指定官庁の裁量により国際出願の処理又は審査ができるとしたにすぎないものであって,処理及び審査をすることが指定官庁の義務となるものではない。特許法184条の17は,国内書面提出期間の経過後でなければ,国際特許出願についての出願審査請求をすることができないとしているのであって,原告の主張には理由がない。 定官庁の義務となるものではない。特許法184条の17は,国内書面提出期間の経過後でなければ,国際特許出願についての出願審査請求をすることができないとしているのであって,原告の主張には理由がない。 2 以上によれば,原告は,平成21年5月18日,米国特許商標庁に対し,本件優先権主張を伴う本件国際出願をしていたのであるから,本件国際出願は「特許協力条約8条の規定による優先権の主張を伴う場合」に該当し,その優先日は,本件優先権主張の基礎となる本件仮出願の出願日である平成20年5月16日となる(特許協力条約2条(xi)(a))。 本件国際出願は,指定国に日本国を含むものであったから,日本国において,特許法184条の3第1項の規定により,本件国際出願の日にされた外国語による特許出願とみなされ(本件国際特許出願),その国内書面提出期間は,優先日である平成20年5月16日から,その2年6か月後である平成22年11月16日までであった(特許法184条の4第1項)。 原告は,上記国内書面提出期間内に翻訳文を提出しなかったのであるから,本件国際特許出願は取り下げられたものとみなされる(特許法184条の4第3項)。 3 そうすると,原告が平成23年10月25日に提出した本件国内書面,平成23年12月21日に提出した本件翻訳文提出書は,既に取り下げられたもの とみなされ,我が国の特許庁に係属していない外国語特許出願について提出された不適法なものであるから,特許庁長官がそれらを却下した本件各却下処分はいずれも適法である。 4 結論よって,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,原告は遠隔の地に住所を有することから,民事訴訟法96条2項に基づき同法285条の控訴期間に30日の付加期間を定めて,主文のとおり判決する。 原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,原告は遠隔の地に住所を有することから,民事訴訟法96条2項に基づき同法285条の控訴期間に30日の付加期間を定めて,主文のとおり判決する。 主文 東京地方裁判所民事第29部 裁判官 西村康夫 裁判官 森川さつき 裁判長裁判官大須賀滋は,転補のため署名押印することができない。 裁判官 西村康夫
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