主文 1 被告Aは,原告国に対し,別紙建物目録1及び2記載の建物を収去して,別紙土地目録4記載の土地を明渡せ。 2 被告Bは,原告国に対し,別紙建物目録3記載の建物を収去して,別紙土地目録5記載の土地を明渡せ。 3 被告Cは,原告国に対し,別紙土地目録6記載の土地を明渡せ。 4 被告Dは,原告国に対し,別紙土地目録7記載の土地を明渡せ。 5 被告Eは,原告国に対し,別紙土地目録8記載の土地を明渡せ。 6 被告Fは,原告国に対し,別紙土地目録9記載の土地を明渡せ。 7 被告Gは,原告国に対し,別紙土地目録10記載の土地を明渡せ。 8 原告名古屋市の請求をいずれも棄却する。 9 訴訟費用は,原告名古屋市と被告らとの間においては,被告らに生じた費用の2分の1を原告名古屋市の負担とし,その余は各自の負担とし,原告国と被告らとの間においては,全部被告らの負担とする。 この判決は,第1ないし7項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 原告名古屋市(1) 被告Aは,原告名古屋市に対し,別紙建物目録1及び2記載の建物を収去して,別紙土地目録4記載の土地を明渡せ。 (2) 被告Bは,原告名古屋市に対し,別紙建物目録3記載の建物を収去して,別紙土地目録5記載の土地を明渡せ。 (3) 被告Cは,原告名古屋市に対し,別紙土地目録6記載の土地を明渡せ。 (4) 被告Dは,原告名古屋市に対し,別紙土地目録7記載の土地を明渡せ。 (5) 被告Eは,原告名古屋市に対し,別紙土地目録8記載の土地を明渡せ。 (6) 被告Fは,原告名古屋市に対し,別紙土地目録9記載の土地を明渡せ。 (7) 被告Gは,原告名古屋市に対し,別紙土地目録10記載の土地を明渡せ。 2 原告国主文第1ないし7項同旨第2 事案の概要本件は,原告らが,別紙土地目録1ないし3記載の各土地のう 地を明渡せ。 (7) 被告Gは,原告名古屋市に対し,別紙土地目録10記載の土地を明渡せ。 2 原告国主文第1ないし7項同旨第2 事案の概要本件は,原告らが,別紙土地目録1ないし3記載の各土地のうち同目録4ないし10記載の部分(以下「本件係争地」という。)を耕作する等して占有している被告らに対し,原告国は本件係争地の所有権に基づき,また原告名古屋市は原告国との間で締結された本件係争地を含む土地の貸付契約上の権利に基づいて,それぞれ本件係争地上に建築された建物を収去して本件係争地を明け渡すよう求めている事案である。 1 前提となる事実(当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨により容易に認めることができる。)(1) 原告国は,本件係争地を所有している。 (2) 被告らは,H組合の組合員として,次のとおり,本件係争地を耕作して占有している。 ア被告Aは,別紙土地目録1記載の土地のうち,同目録4記載の部分(以下「本件土地4」という。)上に,別紙建物目録1及び2記載の建物(以下「本件建物1及び2」という。)を所有するとともに,本件建物1及び2以外の部分を耕作して本件土地4を占有している。 イ被告Bは,別紙土地目録1記載の土地のうち,同目録5記載の部分(以下「本件土地5」という。)上に,別紙建物目録3記載の建物(以下「本件建物3」という。)を所有するとともに,本件建物3以外の部分を耕作して本件土地5を占有している。 ウ被告Cは,別紙土地目録1記載の土地のうち,同目録6記載の部分(以下「本件土地6」という。)を耕作して占有している。 エ被告Dは,別紙土地目録2記載の土地のうち,同目録7記載の部分(以下「本件土地7」という。)を耕作して占有している。 オ被告Eは,別紙土地目録3記載の土地のうち,同目録8記載の部分(以下「本件土地8」という。)を 地目録2記載の土地のうち,同目録7記載の部分(以下「本件土地7」という。)を耕作して占有している。 オ被告Eは,別紙土地目録3記載の土地のうち,同目録8記載の部分(以下「本件土地8」という。)を耕作して占有している。 カ被告Fは,別紙土地目録3記載の土地のうち,同目録9記載の部分(以下「本件土地9」という。)を耕作して占有している。 キ被告Gは,別紙土地目録3記載の土地のうち,同目録10記載の部分(以下「本件土地10」という。)を耕作して占有している。 2 争点(1) 原告名古屋市の明渡請求権の有無(原告名古屋市の主張)原告名古屋市は,次のとおり,本件係争地を権原なく占有している被告らに対し,本件係争地の自己への明渡しを請求する権利を有している。 ア原告名古屋市は,昭和26年10月1日,原告国との間で普通財産貸借契約を締結し,国有財産法(昭和23年6月30日法律第73号,以下「現行国有財産法」という。)22条に規定する公園の用に供するため,本件係争地を含む別紙土地目録1ないし3記載の土地(以下「本件公園用地」という。)の無償貸付を受け,現在に至るまで引き続き,都市計画墓園事業に基づく平和公園事業地として管理している。 イ上記アの無償貸付に基づく原告名古屋市の本件係争地に対する使用権は,民法上の使用借権に相当する権利ではなく,「賃借権に相当する権利」である。 その理由は次のとおりである。 (ア) 現行国有財産法上の無償貸付は,相手方が地方公共団体等の公共団体に限定され,使用目的が緑地,公園等の公共性の強い事務事業の用に供することに限定されている点で,民法上の使用貸借とは異なっている。また,地方公共団体が行政目的のため国から土地の無償貸付を受けた場合に,不正使用を排除する権限すら有しないということは考えられないところ,原告名古屋市は ている点で,民法上の使用貸借とは異なっている。また,地方公共団体が行政目的のため国から土地の無償貸付を受けた場合に,不正使用を排除する権限すら有しないということは考えられないところ,原告名古屋市は,公園事業を推進するために国から本件係争地の無償貸付を受けてこれを管理しているのである。したがって,原告名古屋市には,民法上の使用借権よりも強い所有権や地上権に準ずる権限が付与されている。 (イ) 原告名古屋市は,原告国との間で国有財産無償貸付契約(昭和50年1月21日付)を締結しているが,同契約17条3項により,本件公園用地のうち不法占拠されている土地について,その返還を受けるまでの間,原告国に対し,その使用料相当額を支払わなければならないこととされており,実際,平成13年度は42万1785円を支払った。 そして,この不法占拠と使用料相当額の支払とは対価的関係を有しており,上記約定は,不法占拠が継続する限り,当該土地の貸付が有償貸付に変化するとの趣旨であるから,被告らに不法占拠されている本件係争地についての貸付は有償となっている。 ウ原告名古屋市は,上記イ(イ)の国有財産無償貸付契約における「名古屋市は,不法占拠財産について,妨害排除,財産の返還請求権を行使するものとし,なるべくすみやかに不法占拠者から財産の返還を受け,公園施設として使用しなければならない。」との規定(17条1項)により,公園管理に支障がある場合には,不法占拠者に対し直接の明渡しを求める権限を付与されている。 (被告らの主張)原告名古屋市に本件係争地の明渡請求権があることは争う。 ア仮に,原告名古屋市が,本件係争地について現行国有財産法上の無償貸付を受けているとしても,それに基づく使用権は民法上の使用借権であり,物権的性質を有するものではない。 イ原告名古屋市が原告国に ア仮に,原告名古屋市が,本件係争地について現行国有財産法上の無償貸付を受けているとしても,それに基づく使用権は民法上の使用借権であり,物権的性質を有するものではない。 イ原告名古屋市が原告国に対し,本件係争地の平成13年度分の使用料相当額である42万1785円を支払った事実は否認する。 仮に,原告名古屋市が原告国に対し,本件係争地の使用料相当額の金員を支払っているとしても,それは債務不履行に基づく損害金の趣旨であり,無償貸付が有償貸付に変化するわけではない。 (2) 被告らの占有権原の有無(被告らの主張)ア無償貸借契約に基づく使用権の取得(ア) 無償貸借契約の成立とその承継被告らは,次の経過により,原告国の許可を受けて本件係争地の耕作を継続しているものであり,原告国と被告らとの間では,本件係争地について無償貸借契約が成立している。 a 本件係争地の開墾と使用権の成立の経緯原告国は,昭和18年ころ,戦況の悪化に伴う食糧事情の悪化に対応するため,食糧の増産に取り組んでおり,同年6月,食糧増産応急対策要綱を決定して休閑地の利用による雑穀の増産を指示した。そして,愛知県食糧増産指導本部は,増産計画量を市町村を通じて農事実行組合に割り当てた。 当時,本件係争地を含む東山平和公園(以下「平和公園」という。)一帯の国有地は,大日本帝国陸軍第三師団が猫ヶ洞演習場として管理しており,約50人の兵隊が常駐していたから,一般の人々が開墾することはおろか立ち入ることも不可能な状況であったが,上記の経緯で,I組合に対し,その開墾・耕作が割り当てられた。 そして,東山植物園のJ園長は,I組合の組合員であった平和公園の付近住民の窓口として,陸軍との間で,本件係争地を含む平和公園内の土地の開墾・耕作について交渉し,同土地の使用許可を得た上で,昭和19年暮れこ ,東山植物園のJ園長は,I組合の組合員であった平和公園の付近住民の窓口として,陸軍との間で,本件係争地を含む平和公園内の土地の開墾・耕作について交渉し,同土地の使用許可を得た上で,昭和19年暮れころ,開墾希望者らに対し,本件係争地を含む耕作地の割振りを行った。 以上のような原告国による使用許可及びそれに基づく耕作地の割振りによって,原告国と各耕作者らとの間に,各耕作地についての無償貸借契約が成立した。なお,仮に,上記使用許可を受けた主体はI組合であり,組合員個々人ではなかったとしても,各耕作者は,上記許可を実践する組合員として,各耕作地の使用権(耕作権)を有することとなった。 そして,上記無償貸借契約に基づく使用権(耕作権)は,国が国策として農産物の生産を増強するために特別に耕作する者に与えた権利であり,農地の開墾を目的とするという特殊性から,長年月にわたって耕作することができ,将来耕作地を取得することができるという内容を備えた,民法上の永小作権類似の権利であり,相続や譲渡による場合に限らず,現実に耕作を行う者によって承継されていく性質を有するものであった。 b 各被告の耕作及び耕作権取得の経緯(a) 被告Aについて被告Aの亡父Kは,上記aの経緯で本件土地4を割り振られ,これを開墾して耕作し,戦前戦後を通じて食糧管理法に基づく国への供出を行っていたが,昭和54年11月29日,同人が死亡したため,その長男であるLがその耕作権を相続し,耕作をするようになった。 被告Aは,子供のころから昭和47年までの間,家族の一員としてKの耕作の手伝いをしていたものであるが,昭和62年,Lから耕作権を譲り受け,以後現在に至るまで本件土地4を耕作している。 (b) 被告Bについて被告Bの亡父Mは,上記aの経緯で本件土地5を割り振られ,これを開墾して耕作し ものであるが,昭和62年,Lから耕作権を譲り受け,以後現在に至るまで本件土地4を耕作している。 (b) 被告Bについて被告Bの亡父Mは,上記aの経緯で本件土地5を割り振られ,これを開墾して耕作し,相当な期間,国への供出をしていたが,昭和49年,同人が死亡したため,被告Bがその耕作権を相続し,以後現在に至るまで本件土地5を耕作している。 (c) 被告Cについて被告Cの亡養父Kは,上記aの経緯で本件土地6を割り振られ,これを開墾して耕作し,国への供出を行っていたが,昭和54年11月29日,同人が死亡したため,被告C及びその亡夫Lがその耕作権を共同相続し,さらに,Lが死亡したことにより,被告Cがその耕作権を相続して,本件土地6を耕作している。 (d) 被告Dについて亡Nは,上記aの経緯で本件土地7を割り振られ,これを開墾して耕作していたが,昭和60年6月17日,同人が死亡したため,長女のOが,その耕作権を相続し,耕作を続けている。 被告Dは,名古屋市の職員として勤務しながら,暇をみてNの農作業を手伝っていたが,昭和57年,名古屋市を退職して農業を始め,Nの死亡後は,Oの補助者として本件土地7を耕作している。 (e) 被告Eについて被告Eの亡母Pは,昭和19年,上記aの経緯で本件土地8を割り振られ,これを開墾して耕作し,米を作っていた当時は,原告国に対し強制的な米の供出をしていた。 被告Eは,子供のころから兄QとともにPの耕作を手伝っていたが,平成9年2月28日,Pが死亡したため,その耕作権を相続し,本件土地8を耕作している。 (f) 被告Fについて被告Fの亡父Nは,上記aの経緯で本件土地9を割り振られ,これを開墾して耕作していたが,昭和60年6月17日,同人が死亡したため,被告F及びその亡母Rがその耕作権を共同相続し,さらに,昭和61年11 被告Fの亡父Nは,上記aの経緯で本件土地9を割り振られ,これを開墾して耕作していたが,昭和60年6月17日,同人が死亡したため,被告F及びその亡母Rがその耕作権を共同相続し,さらに,昭和61年11月24日,Rが死亡したことにより,被告Fがその耕作権を相続した。被告Fは,米や麦を作っていた当時は,強制的な供出をしていたことがあった。 なお,被告Fが転勤等のため名古屋市を離れている間の耕作は,被告Fの妻でありN及びRの養女でもあるSが行っていたため,名古屋市の農地基本台帳には,原告名古屋市の指導により,Sの名前が記載されている。 (g) 被告Gについて被告Gの兄である亡Nは,上記aの経緯で本件土地10を割り振られ,これを開墾して耕作し,戦前戦後の食糧難の時代には収穫した米を供出していたが,昭和60年6月17日,Nが死亡したため,R及びSが耕作するようになり,昭和61年夏ころからは,Sから依頼されて被告Gが耕作するようになっていたところ,被告Gは,同年11月25日にRが死亡する少し前,耕作権を譲り受け,以後耕作権者として本件土地10を耕作している。 (イ) 陸軍の管理処分権について原告らは,本件係争地を含む猫ヶ洞演習場の土地は,昭和11年9月5日に大蔵省に所管換えになったから,昭和18年当時,陸軍には本件係争地の管理処分権はなかったと主張する。しかし,実質的に大蔵省への所管換えがなされたのは,終戦により陸軍が解体された昭和20年8月15日以降のことであり,それ以前は,陸軍が使用処分権限を有していた。 (ウ) 被告らの耕作に対する原告らの対応等について原告らは,次のとおり,本件係争地についての被告らの耕作権を認めてきた。 a 原告名古屋市について(a) 原告名古屋市は,平成9年5月まで,本件係争地の当初の耕作者であるK,M,N及びP(以下「本 原告らは,次のとおり,本件係争地についての被告らの耕作権を認めてきた。 a 原告名古屋市について(a) 原告名古屋市は,平成9年5月まで,本件係争地の当初の耕作者であるK,M,N及びP(以下「本件耕作開始者ら」という。)から被告らに至る本件係争地の耕作者らに対し,本件係争地の明渡しを求めず,むしろ,耕作を奨励してきた。 (b) 原告名古屋市は,本件訴訟を提起するに際し,名古屋市議会の計画建設委員会に付議し,説明資料(乙9)を作成しているところ,同資料には,昭和18年5月,国(昭和税務署)がT組合の前身であるI組合に千種区猫ヶ洞一帯約18万坪の土地について,山林盗伐の監視,食料増産のための開墾を目的として口頭で使用を許可した旨の記載があるから,原告名古屋市が国から土地を借用したと主張する時期よりも前に,猫ヶ洞一帯18万坪の土地に国の許可により開墾する人がいたことが明らかにされている。 そして,この土地に本件係争地が含まれていることは明らかであり,本件耕作開始者らは,全員,I組合の組合員であった。 したがって,原告名古屋市は,原告国が本件耕作開始者らに対し本件係争地の使用を許可したことを認めている。 (c) 原告名古屋市とT組合との間で取り交わされた昭和23年12月6日付覚書には,T組合に対し,「東山動物園自給農園五千坪を含む」土地の使用を認める旨の記載があるところ,本件係争地は,この「自給農園五千坪」に含まれており,I組合の組合員であった者すべてがT組合の組合員となったのであるから,原告名古屋市は,被告らに対し,本件係争地の使用を認めたものである。 (d)① 昭和62年ころ,被告Dが本件土地7の上に農作業用の小屋を作ったところ,原告名古屋市(東山公園事務所)は,違法建築であるから取り除けと指示したが,被告Dが他の耕作者も小屋を有していること (d)① 昭和62年ころ,被告Dが本件土地7の上に農作業用の小屋を作ったところ,原告名古屋市(東山公園事務所)は,違法建築であるから取り除けと指示したが,被告Dが他の耕作者も小屋を有していることに触れて話合いをした結果,従前どおりに使用することで決着した。 ② 原告名古屋市は,昭和56年,Pに対し,平和公園入口東側に約30坪のわら干場を提供し,これを平成2年まで使用させていたのであり,被告らの耕作に何らの異議も述べず,協力的であった。 また,原告名古屋市は,昭和50年ころから毎年,本件土地8について農業委員に調査させており,そのことは千種区役所の農地基本台帳にも記載されている。 ③ 原告名古屋市(千種区役所)は,被告Fに対し,従前水田であった本件土地9を畑にするよう指導し,昭和55年,Sの名前で転作した被告Fに対し転作奨励金を支払い,さらに,平成2年6月11日及び同4年7月4日には,平成4年度の転作目標面積が3.3アールである旨の通知をした。 また,原告名古屋市は,昭和56年,被告Fに対し,わらの干場を提供した。 b 原告国について原告国は,これまで被告らに対し本件係争地の明渡しを請求したことは一度もなく,被告らの耕作を継続して認めてきた。 (エ) 原告名古屋市の使用権との優先関係について仮に,原告名古屋市が,昭和26年10月1日,原告国から本件係争地の貸付を受けたとしても,それは本件耕作開始者らが原告国から本件係争地を借り受けた後のことであるから,原告名古屋市の使用権をもって被告らの使用権を排除することはできない。 (オ) 補償についてa 原告名古屋市は,H組合と同様に平和公園内で耕作を行ってきたU組合の組合員33名に対し,1億7000万円もの補償金を支払って耕作地を明け渡させているが,前記(ウ)aのとおり,原告名古屋市は,被告らに対 告名古屋市は,H組合と同様に平和公園内で耕作を行ってきたU組合の組合員33名に対し,1億7000万円もの補償金を支払って耕作地を明け渡させているが,前記(ウ)aのとおり,原告名古屋市は,被告らに対しても本件係争地の使用を認めてきたのであるから,原告名古屋市が被告らに本件係争地の明渡しを求めるには,補償金を支払う必要がある。 b 前記のような食糧増産政策の下,原告国の許可を得て開拓し耕作された土地は,将来,これを開拓した営農者が所有することになっていたのであり,実際にも,鹿子殿地区で開拓された農地のうちの一部は,耕作者に譲渡されている。 また,昭和16年3月に公布された農地開発法58条も,農地開発営団の所有する農地についてではあるが,自作農創設維持の事業を行う者の申出があるときは,その事業者に譲渡することを要する旨定めている。 したがって,原告国が被告らに本件係争地の明渡しを求めるには,正当な補償が必要である。 イ取得時効又は条理による耕作権の取得被告らは,前記ア(ア)の経緯で,約60年間にわたり,本件係争地を耕作して占有使用してきたのであるから,これにより,債権と物権の中間的性格を有する,前記ア(ア)a主張のとおりの永小作権類似の耕作権を,取得時効又は条理により取得した。 被告らは,平成15年9月11日の本件口頭弁論期日において,上記時効を援用するとの意思表示をした。 (原告名古屋市の主張)ア無償貸借契約に基づく使用権の取得について被告らの主張する無償貸借契約の成立及びその承継については,否認ないし争う。 (ア) 本件係争地の管理処分権限について被告らは,昭和18年,陸軍省から本件係争地の使用許可を受けたと主張するが,本件係争地は,昭和11年9月5日に大蔵省に所管換えされているため,陸軍省に使用許可の権限はなかった(別紙土地目録1な いて被告らは,昭和18年,陸軍省から本件係争地の使用許可を受けたと主張するが,本件係争地は,昭和11年9月5日に大蔵省に所管換えされているため,陸軍省に使用許可の権限はなかった(別紙土地目録1ないし3記載の土地の登記簿には,所有者として大蔵省が記載されている。)。 (イ) 国有財産法の規定についてa 被告らが原告国の使用許可を受けたと主張する昭和18年当時の国有財産法(大正10年4月8日法律第43号,以下「旧国有財産法」という。)には,雑種地の場合を除いて許可等の私権を設定する手続はなかったし,仮に,本件係争地を陸軍が管理していたとすれば,同法2条1号により本件係争地は公共用財産であるから許可の対象とはならないものであった。 また,現行国有財産法22条1項は,国有財産の無償貸付の相手方を地方公共団体等の公共団体に限っており,使用目的にも厳格な条件を付しているから,現在,被告らが使用許可を受けているということはあり得ない。 b 仮に,戦時下という状況の中で,原告国が被告らに対し,特例的に無償で何らかの許可ないし権利設定をしたとしても,旧国有財産法は昭和23年7月1日廃止され,同日施行された現行国有財産法42条により,私人に対する無償の権利設定はその効力を失っている。 (ウ) 原告らの対応についてa 原告国と原告名古屋市との間で,昭和50年1月21日に締結された国有財産無償貸付契約17条によれば,「名古屋市は,不法占拠財産について,妨害排除,財産の返還請求権を行使するものとし,なるべくすみやかに不法占拠者から財産の返還をうけ,公園施設として使用しなければなら」(1項)ず,「名古屋市は,不法占拠財産について,昭和46年4月1日から不法占拠者から財産の返還をうける日までの使用料相当額を,国の発行する納入告知書により国に支払わなければならない なければなら」(1項)ず,「名古屋市は,不法占拠財産について,昭和46年4月1日から不法占拠者から財産の返還をうける日までの使用料相当額を,国の発行する納入告知書により国に支払わなければならない」(3項)とされており,この「不法占拠者」には被告らも含まれているのであるから,原告らが,被告らによる本件係争地の耕作を「不法占拠」と認識していることは明らかで,被告らの使用を認めてきたとはいえない。 b 原告名古屋市について(a) 原告名古屋市は,遅くとも昭和30年代から,被告らに対し本件係争地の明渡請求をしており,昭和48年10月5日に本件係争地に関して都市計画墓園事業第一号東墓園事業の認可がされて以来,同事業認可の告示看板,耕作禁止の立看板を設置するなどして耕作の中止を求めてきた。そして,平成9年5月には,同10年3月31日を期限として,農作物,小屋等の撤収を求める看板を設置し,その後も被告らを含む耕作者と明渡しについて話合いをしてきた。 また,原告名古屋市が,本件係争地の耕作を奨励してきたという事実はない。新生産調整推進助成金(転作助成金)は,米作の生産調整をした者に対して支払うものであるが,原告名古屋市は,本件係争地の耕作について,転作助成金を支払ったことはない。 (b) 原告名古屋市は,本件訴訟を提起するに際し,名古屋市議会の計画建設委員会に付議しており,その説明資料(乙9)に被告ら主張の記載があることは認める。この記述は,過去の原告名古屋市とT組合との間の訴訟(昭和35年(ワ)第481号占有保持請求事件)におけるT組合申請のV(昭和18年当時,昭和税務署庶務課長であった。)の証言を援用したものである。 原告国が,昭和18年,I組合に対し,土地の使用許可を与えたことは認めるが,この土地に本件係争地が含まれていたかどうかは不知。 なお, 時,昭和税務署庶務課長であった。)の証言を援用したものである。 原告国が,昭和18年,I組合に対し,土地の使用許可を与えたことは認めるが,この土地に本件係争地が含まれていたかどうかは不知。 なお,仮に,本件係争地が上記許可の対象に含まれていたとしても,上記許可の相手方はI組合であって組合員個人ではなかったし,I組合は昭和23年ころに解体されているから,その効力は消滅している。 (c) 原告名古屋市は,都市計画墓園第一号東墓園の都市計画決定に基づく墓園事業の実施により耕作ができなくなった平和公園北部の耕作者から,昭和23年10月18日,T組合の名で,本件公園用地の一部(現在の平和公園南部東側地区)について,農園開拓を目的とする土地使用願が提出されたのを受けて,同年12月6日,T組合との間で覚書を取り交わして上記土地の使用を認め,この使用貸借関係が継続してきたが,本件係争地がこの土地に含まれることは否認する。 また,原告名古屋市は,昭和48年の事業認可により墓園整備を開始したため,上記土地の返還について交渉を行い,平成9年3月17日,T組合との間で権利消滅補償契約を締結し,上記土地の返還を受けている。 (d) 平成7年から同9年まで,農地基本台帳に,被告B,被告C及び被告Fの名前の記載があるが,農地基本台帳は,農地基本台帳整備要領に基づき,農業委員会の行う行政上の業務推進資料及び農政活動の基礎資料として活用するため,10アール以上の農地につきその世帯員,営農状況等について記載されるものであって,権利関係を認めるものではない。 c 原告国について前記(1)(原告名古屋市の主張)アのとおり,原告国は,昭和26年10月1日,原告名古屋市に対し,本件係争地を貸し付けたのであるから,被告らに対し本件係争地の明渡しを請求しないことは何ら異とするところでは 1)(原告名古屋市の主張)アのとおり,原告国は,昭和26年10月1日,原告名古屋市に対し,本件係争地を貸し付けたのであるから,被告らに対し本件係争地の明渡しを請求しないことは何ら異とするところではなく,決して被告らの耕作を認めてきたものではない。 仮に,被告らが,食糧管理法に基づき政府に米穀を売り渡していたとしても,それは米穀の生産者であればできることであり,生産者が耕作地に対し正当な権利を有しているか否かとは全く関わりがない。 (エ) 補償について原告名古屋市は,前記(ウ)b(c)のとおり,T組合に対して被告ら主張の補償金を支払ったが,被告らに対しては,本件係争地の耕作を認めたことはないから,補償の必要はない。 イ取得時効又は条理による耕作権の取得について争う。 (原告国の主張)ア無償貸借契約の成立及びその承継について(ア) 本件係争地を含む旧猫ヶ洞演習場は,昭和18年ころ,既に大蔵省所管の雑種財産として管理されていたのであり,いかに戦時下でも国有地の処分は旧国有財産法に基づく処理以外には行えなかった。したがって,仮に,本件耕作開始者らが,陸軍第三師団関係者から本件係争地につき口頭の使用許可を受けたとしても,当時,同関係者は,本件係争地に関するいかなる管理処分権限も有していなかったのであり,また,国有財産関係規定上要求される大蔵大臣への稟請という手続を経てもいなかったから,旧国有財産法上の使用許可としての効力を有するものではない。 a 国有財産事務の取扱機関について国有財産行政は,大正11年の旧国有財産法の施行後は,一貫して大蔵省(現財務省)が所管してきている。国有財産事務は,旧国有財産法施行後,国税徴収のための大蔵省地方部局として既に設置されていた税務監督局及び税務署が担当することとされたが,昭和16年7月,税務監督局及び 財務省)が所管してきている。国有財産事務は,旧国有財産法施行後,国税徴収のための大蔵省地方部局として既に設置されていた税務監督局及び税務署が担当することとされたが,昭和16年7月,税務監督局及び税務署に併設されていた預金部支部及び預金部出張所を併せて改組することとなり,税務監督局と預金部支部が統合されて財務局となり,税務署における国有財産事務については,預金部出張所が統合され財務局出張所として税務署に併置された。そして,昭和24年6月の大蔵省設置法施行により,税務部門は国税局として分離され,国有財産事務はブロック機関としての財務局,府県機関としての財務部のそれぞれ一業務とされ,このほかに国有財産の管理処分事務のみを取り扱う現地機関として出張所が設置された。 上記の大蔵省の組織,機構の変遷を本件に当てはめて,国有財産事務の具体的取扱機関をみると,①大正11年4月の旧国有財産法施行により名古屋税務監督局,②昭和16年7月の財務局官制施行により名古屋財務局,③昭和24年6月の大蔵省設置法施行により名古屋財務部,④昭和25年5月の大蔵省設置法改正により東海財務局となって,現在に至るということになる。 b 国有財産関係規定について被告らは,本件耕作開始者らによる本件係争地の占有開始時期を昭和18年ころと主張するので,貸借関係の成否については,旧国有財産法の規定によることとなる。 そして,被告らの主張する使用許可は,同法上の無償貸付に該当し,本件係争地は,同法2条の国有財産の区分のうち雑種財産に該当するから,その無償貸付については,雑種財産取扱規程(昭和17年7月11日大蔵省訓令第22号)13条により,大蔵大臣に稟請する必要があった。 (イ) 仮に,被告ら主張の陸軍第三師団関係者による使用許可を有効と解したとしても,昭和23年施行の現行国有財産 和17年7月11日大蔵省訓令第22号)13条により,大蔵大臣に稟請する必要があった。 (イ) 仮に,被告ら主張の陸軍第三師団関係者による使用許可を有効と解したとしても,昭和23年施行の現行国有財産法には,旧国有財産法16条のように私人への無償貸付を認める規定は存せず,同条の要件を充足し,上記大蔵大臣への稟請を経て,有効に成立していた無償貸付契約についても,現行国有財産法42条2項により,同法施行時において失効している。 (ウ) 補償について上記のとおり,被告らには本件係争地を使用する正当な権利はないから,原告国には,被告らの補償の請求に応じる義務はない。 なお,被告らは農地開発法による払下げについて主張するが,同法に基づく開墾地の個人に対する払下げは,農地開発営団の施行区域に自己所有地を収容された者に対する場合に限られる(同法58条)。また,払下げの対象者は,道府県,市町村,産業組合及び農事実行組合に限られるのであって(農地調整法4条,同法施行令2条),被告らが主張するように開墾すれば無償譲渡を受けられるとの規定は存在しない。 また,被告らの主張する本件係争地の近隣の払下げは,住宅地造成を目的として入札によりなされたものであり,開墾地の順次譲渡ではない。 イ取得時効又は条理による耕作権の取得について争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(原告名古屋市の明渡請求権の有無)について(1) 証拠(甲1ないし4,6,14ないし17,27,31,丙1の1ないし3,証人W及び財務省東海財務局に対する調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。 ア原告名古屋市は,昭和26年10月1日,原告国から,現行国有財産法22条の規定に基づき,公園の用に供する目的で,別紙土地目録1ないし3記載の土地を含む61町7反3畝22歩 を認めることができる。 ア原告名古屋市は,昭和26年10月1日,原告国から,現行国有財産法22条の規定に基づき,公園の用に供する目的で,別紙土地目録1ないし3記載の土地を含む61町7反3畝22歩の土地につき,5年間の無償貸付を受けた。 イ(ア) 原告名古屋市は,昭和50年1月21日付で,原告国から,同法同条の規定に基づき,平和公園の用途に供する目的で,別紙土地目録1ないし3記載の土地を含む47万2262.68平方メートルの土地につき,期間を昭和46年4月1日から同51年3月31日とし,原告国の特段の意思表示のない限り5年ごとに更新されるとの約定で,無償貸付を受けた。 (イ) 上記(ア)の無償貸付には,「乙(注:原告名古屋市を指す。以下同じ。)は,別紙第2に掲げる不法占拠財産(注:「別紙2」には,別紙土地目録3記載の土地外6筆の土地の一部が挙げられている。以下同じ。)について,妨害排除,財産の返還請求権を行使するものとし,なるべくすみやかに不法占拠者から財産の返還をうけ,公園施設として使用しなければならない。」との約定(17条1項)がある。 (ウ) 上記(ア)の無償貸付には,「乙は,別紙2に掲げる不法占拠財産について,昭和46年4月1日から不法占拠者から財産の返還を受ける日までの使用料相当額を,甲(注:原告国を指す。)の発行する納入告知書により甲に支払わなければならない。」との約定(17条3項)がある。 (2)ア上記(1)イ(ア)の認定事実のとおり,原告名古屋市は,現行国有財産法22条に基づき,原告国から,公園用地として本件係争地の無償貸付を受けている。 しかしながら,同条に基づく無償貸付は,国有財産を国以外の者に対して対価を徴することなく使用させる契約であるところ,同条は,契約の成立や効果等の点についてほとんど定めていないから,その定め ている。 しかしながら,同条に基づく無償貸付は,国有財産を国以外の者に対して対価を徴することなく使用させる契約であるところ,同条は,契約の成立や効果等の点についてほとんど定めていないから,その定めのない限りにおいて,民法等の一般私法が適用されるというべきであり,したがって,同条に基づく無償貸付の法的性格は,民法上の使用貸借(民法593条)であると解するのが相当である。 そして,民法上の使用借権は,債権であって排他性を欠くものであるから,これに基づき,第三者に対する妨害排除ないし返還請求権を認めることはできない。 イ上記アの判断に反する原告名古屋市の主張は,次のとおり,いずれも採用することができない。 (ア)a 現行国有財産法22条に基づく無償貸付は,相手方が公共団体に限定され,対象となる国有財産の用途も緑地,公園その他の公共用若しくは公用に供する小規模な施設,保護を要する生活困窮者の収容,災害が発生した場合における応急措置等に限定されている。 しかしながら,貸付の相手方や用途が限定されていることとその貸付の性質とは,直接的な論理的関連性を有するものではないから,上記のような限定があるからといって,同条に基づく無償貸付が賃貸借に相当するということはできない。 b また,国有財産の管理に十全を期するため,国から不動産を借りている地方公共団体の妨害排除ないし返還請求権を認める現実的必要性があるとしても,そうであるからといって,実定法上の根拠又は法理論的根拠もなく,同条に基づく無償貸付の法的性格が賃貸借に相当するものになるということはできない。 c なお,原告名古屋市は,①地方公共団体が国から不動産の無償貸付を受けて使用する権利は,当該地方公共団体の管理する財産に当たる旨判示した判例,及び,②土地区画整理法100条の2により施行者が管理する土地が不 原告名古屋市は,①地方公共団体が国から不動産の無償貸付を受けて使用する権利は,当該地方公共団体の管理する財産に当たる旨判示した判例,及び,②土地区画整理法100条の2により施行者が管理する土地が不法に占有されている場合に,施行者が物権的支配権に基づき明渡を求めることができる旨を判示した判例を上げるが,いずれも本件とは事案を異にし,何ら原告名古屋市の主張を裏付けるものではない。 (イ) 原告名古屋市は,前記(1)イ(ウ)の約定により,「別紙2に掲げる不法占拠財産」について,不法占拠者から財産の返還を受ける日までの使用料相当額を,原告国に支払わなければならないとされている。 しかしながら,有償契約とは,契約の各当事者が互いに対価的意義を有する出捐をする契約をいうところ,不法占拠者がいる限りにおいて原告名古屋市が義務づけられる「使用料相当額」の支払と,対価的意義を有する原告国の出捐を想定することは困難であるから,上記の約定により,不法占拠者がいる限りにおいて貸付が有償契約に変化するということはできない(むしろ,上記約定は,借主である原告名古屋市が物件の保全義務(10条)に違反した場合の違約金を定めたものとみるのが合理的である。)。 ウなお,仮に,原告名古屋市が本件係争地について「賃借権に相当する権利」を有していたとしても,一般に,対抗力を具備していない賃借権については,排他性を欠くことから,第三者に対する妨害排除ないし返還請求権は認められないところ,本件においては,原告名古屋市の「賃借権に相当する権利」が対抗力を具備していることについての主張も立証もないから,いずれにせよ,「賃借権に相当する権利」に基づく妨害排除ないし返還請求権を認めることはできない。 (3) 原告名古屋市は,前記(1)イ(イ)の約定により,「妨害排除,財産の返還請求権を行 もないから,いずれにせよ,「賃借権に相当する権利」に基づく妨害排除ないし返還請求権を認めることはできない。 (3) 原告名古屋市は,前記(1)イ(イ)の約定により,「妨害排除,財産の返還請求権を行使する」こととされている。 この約定の趣旨は必ずしも明らかでないが(いわゆる任意的訴訟担当を定めたものとも考えられるが,本件においては,その旨の主張は撤回されており,そうでなくても,原告国が訴訟当事者となった以上,任意的訴訟担当を認める必要性はない。),契約上の定めは契約当事者間において効力を有するものであって,かかる約定によって契約外の第三者である被告らに対する権利を発生させることはできないから,上記約定によって,原告名古屋市が被告らに対する固有の明渡請求権を取得したと認めることはできない。 (4) よって,原告名古屋市は,本件係争地につき妨害排除ないし返還請求権を有するものではないから,その余の点につき判断するまでもなく,原告名古屋市の請求は理由がない。 2 争点(2)(被告らの占有権原の有無)について(1) 証拠(甲1ないし3,11,14,18ないし23,28,乙3,4,9ないし11,12の1及び2,13ないし20,22ないし25,30,32ないし43,丙1の1ないし3,2ないし5,11,証人Q,証人W,被告F本人並びに調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。 ア本件係争地を含む旧猫ヶ洞演習場の国有地(現平和公園一帯の土地)は,昭和11年9月5日,その演習場としての用途を廃止され,陸軍省から大蔵省に所管換えとなったが,昭和18年ころも,事実上,大日本帝国陸軍第三師団の管理下にあった。 イ政府は,昭和18年6月,戦況の悪化に伴い食糧事情もさらに悪化してきたことから,従来の食糧増産運動をさらに強化するため,食 が,昭和18年ころも,事実上,大日本帝国陸軍第三師団の管理下にあった。 イ政府は,昭和18年6月,戦況の悪化に伴い食糧事情もさらに悪化してきたことから,従来の食糧増産運動をさらに強化するため,食糧増産応急対策要綱を決定して休閑地利用による雑穀の増産を指示した。 そして,食糧増産運動推進の中心であった愛知県食糧増産指導本部は,同年の増産計画量を,市町村を通じて農事実行組合に割り当て,猫ヶ洞一帯(現平和公園)の約18万坪の土地については,I組合に対し割り当てた。 ウ現平和公園の付近住民は,昭和18年ころ,食糧難であったことから,東山植物園のJ園長を交渉窓口として,平和公園の中にある池の水を利用して平和公園内に田畑を作ることを陸軍に交渉し,陸軍の許可が得られたため,J園長は,開墾希望者らに対して耕作地を割り振り,本件係争地については,本件耕作開始者らに対して割り振った。 エ(ア) 被告Aの亡父Kは,上記ウの経緯で本件土地4を割り振られ,これを開墾して耕作していたが,昭和54年11月29日,同人が死亡したため,その長男であるLが本件土地4の耕作を引き継いだ。 その後,被告Aは,平成8年3月,Lから本件土地4の耕作を引き継ぎ,本件土地4の耕作を続けている。 (イ) 被告Bの亡父Mは,上記ウの経緯で本件土地5を割り振られ,これを開墾して耕作していたが,昭和49年,同人が死亡したため,被告Bがその耕作を引き継ぎ,本件土地5の耕作を続けている。 (ウ) 被告Cの亡義父Kは,上記ウの経緯で本件土地6を割り振られ,これを開墾して耕作していたが,昭和54年11月29日,同人が死亡したため,被告C及びその亡夫Lがその耕作を引き継ぎ,さらに,Lが死亡したことにより,被告Cがその耕作を引き継いで,本件土地6の耕作を続けている。 (エ) 亡Nは,上記ウの経緯で本件土 日,同人が死亡したため,被告C及びその亡夫Lがその耕作を引き継ぎ,さらに,Lが死亡したことにより,被告Cがその耕作を引き継いで,本件土地6の耕作を続けている。 (エ) 亡Nは,上記ウの経緯で本件土地7を割り振られ,これを開墾して耕作していたが,昭和60年に死亡した。その後,Nの長女Oの夫である被告Dは,その耕作を引き継ぎ,本件土地7の耕作を続けている。 (オ) 被告Eの亡母Pは,昭和19年,上記ウの経緯で本件土地8を割り振られ,これを開墾して耕作していたが,平成9年,同人が死亡したため,被告Eがその耕作を引き継ぎ,本件土地8の耕作を続けている。 (カ) 被告Fの亡父Nは,上記ウの経緯で本件土地9を割り振られ,これを開墾して耕作していたが,昭和60年,同人が死亡したため,妻R及び長男である被告Fがその耕作を引き継ぎ,さらに,昭和61年,Rが死亡したことにより,被告Fがその耕作を引き継いだ。 (キ) 被告Gの兄である亡Nは,上記ウの経緯で本件土地10を割り振られ,これを開墾して耕作していたが,昭和60年,Nが死亡したため,R及び被告Fの妻Sが耕作するようになり,昭和61年にRが死亡した後は,被告Gが本件土地10の耕作を続けている。 オ原告国は,昭和49年,被告ら又は上記エ記載の本件耕作開始者らによる本件係争地の耕作を知ったが,本件訴訟に至るまで,被告らや本件耕作開始者らに対し,本件係争地の明渡を請求してこなかった。 なお,調査嘱託の結果には,昭和26年9月26日当時,本件係争地を含む猫ヶ洞演習場は,地表は原野状で矮松がまばらに点在している状況であった旨記載されており,耕作についての記載はないが,これのみで耕作が行われていたことを否定することはできず,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。 (2) 無償貸借契約についてア上記(1)の認定事実 旨記載されており,耕作についての記載はないが,これのみで耕作が行われていたことを否定することはできず,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。 (2) 無償貸借契約についてア上記(1)の認定事実のとおり,本件係争地は,昭和11年に演習場としての用途を廃止され,陸軍省から大蔵省に所管換えとなり,同省所管の国有財産となっていたものの,昭和18年当時も依然として,事実上陸軍第三師団が管理していたところ,本件耕作開始者らは,同年ころ,本件係争地につき同師団から無償使用の許可を得て開墾・耕作を始め,これを被告らが引き継いで現在まで耕作を続けているものであるが,原告国は,長年にわたって被告ら等による耕作を放置してきた。 イしかしながら,上記事実では,本件耕作開始者らが,国有地たる本件係争地につき適法な管理権限者から適法な手続で使用許可を受けたものとは認めがたく,他にこれを肯認し得る証拠はない。のみならず,本件耕作開始者らが国の一定の機関から,その管理処分権限の所在はともかくとして,本件係争地の無償使用の許可を受け,事実上本件係争地の使用を容認されていたとしても,次のとおり,その効力も既に失われているといわなければならない。 (ア) 現行国有財産法42条1項は,「この法律施行前にした国有財産の……貸付,私権の設定その他使用又は収益をさせる行為は,この法律の規定によってしたものとみなす。」と規定しており,これによると,同法施行前になされた無償使用の許可は,現行国有財産法の規定によってした無償貸付とみなされることとなる。 (イ) そして,現行国有財産法は,20条で「普通財産は,第21条から第31条までの規定によりこれを貸し付け……ることができる。」と規定し,無償貸付について規定する22条は,1項で「普通財産は,左に掲げる場合においては,これを地方公共団 で「普通財産は,第21条から第31条までの規定によりこれを貸し付け……ることができる。」と規定し,無償貸付について規定する22条は,1項で「普通財産は,左に掲げる場合においては,これを地方公共団体,水害予防組合及び土地改良区に,無償で貸し付けることができる。 (以下省略)」と規定しており,これによると,国有財産(普通財産)を無償で貸し付けることができるのは,公共団体が特定の公共の用に供する場合において,その公共団体に対してする場合に限られるということになる。 したがって,本件係争地に係る前記無償使用の事実関係が上記無償貸付に該当するとしても,それは現行国有財産法の上記規定にてい触する。そして,現行国有財産法42条2項は,上記42条1項に掲げられた「行為であってこの法律の規定にてい触するものは,そのてい触する限りにおいて,この法律施行の日に,その効力を失う」旨を規定しているから,前記無償使用の関係も,同法施行の日である昭和23年7月1日にその効力を失ったといわなければならない。 (ウ) ところで,現行国有財産法42条2項は,上記のとおり,財産権を消滅させる効力を有する規定であるが,その場合の補償については何ら触れていない。そこで,同条項の規定が,憲法29条1項に違反するか否かについて検討する。 憲法29条1項は,「財産権は,これを侵してはならない。」と規定している。しかし同条2項は,「財産権の内容は,公共の福祉に適合するやうに,法律でこれを定める。」と規定し,財産権といえども絶対的なものではなく,公共の福祉の要請に適合するように規制し得るものとしている。したがって,現存する財産権について,公共の福祉の要請に適合するように,立法権によって一般的に制限し,財産権の性質とこれに対する公共の福祉の必要度のいかんによってはこれを消滅させることもできる る。したがって,現存する財産権について,公共の福祉の要請に適合するように,立法権によって一般的に制限し,財産権の性質とこれに対する公共の福祉の必要度のいかんによってはこれを消滅させることもできると解するのが相当である。 そして,国有財産は,主として国の負担において国が取得した財産であって,その管理に要する経費もまた国の負担に属するから,その管理処分は国民の利害に密接な関係を有しており,私人に対して無償で国有財産の使用収益をさせることは,公共の福祉の要請に適合しないものといわなければならない。財政法9条2項が,「国の財産は,常に良好の状態においてこれを管理し,その所有の目的に応じて,最も効率的に,これを運用しなければならない。」と規定し,同条1項及び現行国有財産法20条,22条により,一般に私人に対しては有償でなければ国有財産の貸付等をすることができない旨を規定しているのもこのような考え方に基づくものといえる。 したがって,現行国有財産法42条2項により,同法施行前にした国有財産を無償で貸し付ける行為が同法施行の日にその効力を失うこととなり,これについて補償の定めがなされていなくても,憲法29条1項に違反するということはできない。 (3) 取得時効又は条理による耕作権の取得についてア取得時効について(ア) 被告らは,本件係争地について,その主張するような内容の,債権と物権の中間的性格を有する民法上の永小作権類似の耕作権を時効により取得した旨主張する。 (イ) しかしながら,永小作権は小作料の支払を要素とする物権であるところ,被告らが本件係争地を耕作するにつき小作料を支払ってきたとの主張も立証もないから,被告らが客観的に永小作権を行使する趣旨で本件係争地を占有してきたと認めることはできないし,また,前記認定の耕作・使用の経過に照らしても を耕作するにつき小作料を支払ってきたとの主張も立証もないから,被告らが客観的に永小作権を行使する趣旨で本件係争地を占有してきたと認めることはできないし,また,前記認定の耕作・使用の経過に照らしても,本件耕作開始者らや被告らが客観的にその主張するような内容の耕作権を行使する趣旨で本件係争地を占有してきたものとは認めがたく,他にこれを認めるに足りる証拠もない。 したがって,永小作権類似の耕作権を時効取得したとの被告らの主張は採用できない。 イ条理について本件における一切の事情を考慮しても,被告らが,条理に基づき,本件係争地につきその主張するような耕作権を取得したと認めることはできない。 (4) したがって,被告らが本件係争地につき,その主張するような使用権を有していると認めることはできず,被告らには本件係争地の占有権原はないといわざるを得ない。 (5) なお,被告らに本件係争地の使用権がない以上,補償の対象となるべき財産権がないこととなるから,原告国は,本件係争地の明渡しを求めるに当たって,被告らに対し,補償金を支払うことを要しない。 よって,被告らの抗弁は理由がない。 3 結論以上のとおり,原告国の請求は理由があるからこれを認容し,原告名古屋市の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第5部裁判長裁判官渡辺修明裁判官岡田治裁判官並河浩二(別紙目録省略)
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