- 1 -主文 本件各控訴をいずれも棄却する。 控訴費用はこれを2分し,その1を一審原告の,その余を一審被告長官の負担とする。 事実 及び理由第1当事者の求めた裁判 一審原告の控訴の趣旨(1)原判決中,一審原告敗訴の部分を取り消す。 (2)一審被告国は,一審原告に対し,2000万円を支払え。 一審被告長官の控訴の趣旨(1)原判決中,一審被告長官敗訴の部分を取り消す。 (2)一審原告の一審被告長官に対する請求を棄却する。 第2事案の概要等 本件事案の概要は,自宅を離れ単身アパートを借りて大学生活を過ごしていた時に精神分裂病(疑い。現在の病名は統合失調症)の診断を受けた一審原告(受診当時20歳)が,受診から16年余り経過した後に20歳前障害基礎年金以下障害基礎年金というの支給裁定を岩手県知事に申請したが初(「」。),診日において20歳以上の学生であって,国民年金に任意加入していなかったとして不支給処分以下本件不支給処分というを受けたため一審被,(「」。),告長官(いわゆる地方分権一括法により,処分行政庁である岩手県知事から権限を承継)に対し,①学生を強制適用の対象から除外した,昭和60年法律第34号による改正後の国民年金法は憲法14条,25条等に違反し,また,一審原告は,20歳前に統合失調症を発症し,医師の診断を受けるべき状態にあったもので,いわゆる「初診日」が20歳前にあったと解すべきであるから,国民年金法30条の4所定の障害基礎年金を支給すべきであり,特に,一審原告の場合には,20歳となってから僅か1か月半余り経過後の時点で精神科に- 2 -受診しているのに,初診日が20歳前ではないとの形式的理由のみをもって,障害基礎年金の支給を拒否するのは余りにも不 告の場合には,20歳となってから僅か1か月半余り経過後の時点で精神科に- 2 -受診しているのに,初診日が20歳前ではないとの形式的理由のみをもって,障害基礎年金の支給を拒否するのは余りにも不合理で,公平性や正義の観念に悖るものであって,本件不支給処分は違法であるとして,同処分の取消しを求めるとともに,㨯一審被告国に対して,学生の身分を有する者に限っては,国民年金法では任意加入のままとして,強制加入の対象から除外して保険料免除の余地をなくし,20歳以上の学生ではない国民との間に不合理な差別を設ける制度を容認するなど憲法14条等に違反する内容の立法をし,あるいは不合理な差別等による不利益を救済する措置を講じることを怠り,その結果,一審原告は多大な精神的苦痛を被ったと主張して,一審被告国に対し,国家賠償法に基づく損害賠償金2000万円の支払を求めたところ,原審が,一審原告には障害基礎年金の受給要件の充足が認められるとして,本件不支給処分を取り消す一方,取消しにより障害基礎年金の支給を受けることができるとして,一審原告の一審被告国に対する国家賠償法に基づく請求を棄却したことから,一審被告長官及び一審原告がそれぞれ控訴した事案である。 前提となる事実,関係法令の定め等,主要な争点及びこれに対する当事者の主張は,後記3のとおり,当審における双方当事者の主張を加えるほかは,原「」「」,「」判決の 事実及び理由 欄の第2事案の概要等同第3主要な争点及び同「第4争点に対する当事者の主張」に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,下記のとおり,付加訂正する。 。)(1)原判決3頁6行目の統合失調症を精神分裂病現在の病名では統「」「(〔合失調症」と改める。 〕(2)原判決4頁3行目末尾に「 (ただし,下記のとおり,付加訂正する。 。)(1)原判決3頁6行目の統合失調症を精神分裂病現在の病名では統「」「(〔合失調症」と改める。 〕(2)原判決4頁3行目末尾に「,自宅を離れ単身アパートを借りて学生生活を過ごしていを加え同4行目から5行目にかけての統合失調症を精」,「」「神分裂病」と改める。 (3)原判決14頁1行目の次に,行を変えて,次のとおり加える。 特に一審原告の場合には20歳前における受診記録が見つかっていな「,,- 3 -いもののB病院の診療記録では19歳当時青森市内の胃腸科や泌尿器,,,科を受診し夏バテといわれたこと1か所ではなく数か所の胃腸科へ通っ,,たことが記載されていること一審原告の実母が既に死亡していること初,,診日とされた昭和58年から20年以上が経過したためA病院以外の診療,記録が発見できないことも初診日を適用するに当たっては考慮すべきであ,る」。 (4)原判決17頁1行目の「ていた」を「ており,実家から比較的遠く,頻繁に帰省したり,親兄弟が一審原告の下へ出向くことも多くはなかった」と改める。 当審における双方当事者の主張(1)「20歳前初診日」について一審原告と一審被告長官は,いずれも国民年金法における支給要件として定められた「疾病にかかり,又は負傷し,その初診日において20歳未満であった者(以下「20歳前初診日」という)の解釈を最大の争点と捉え,」。 一審原告が,原審におけると同様,精神障害者の場合に「20歳前初診日」要件を形式的に適用することによる不合理を主張するとともに,当審においては一審原告の場合20歳前初診日を形式的に適用すべきではない諸,,「」事情が存在するから,緩やかに解釈し 前初診日」要件を形式的に適用することによる不合理を主張するとともに,当審においては一審原告の場合20歳前初診日を形式的に適用すべきではない諸,,「」事情が存在するから,緩やかに解釈して適用すべきであることをも主張し,,,「」,他方一審被告長官は20歳前初診日を厳格に解釈すべき根拠について大量的認定行政事務処理における迅速性,正確性,統一性及び公平性の観点から説明し,一審被告国においても,この原則が適用されるべきであると主張するものであるが,双方の主張内容は,下記のとおりである。 ア一審原告の主張(ア)国民年金法において障害基礎年金の支給要件として定めている2,「0歳前初診日」については,一審原告のような統合失調症による疾病の場合では,20歳前に発症しても,被保険者自身が病識を持たず,周囲- 4 -の者も気づくのが遅れることから早期に受診することは困難であり,20歳前に受診していなくとも,20歳前に統合失調症を発症したことが医学的に明らかであり,20歳前の時点において医師等の診療を受ける,,べき必要があったことが事後であっても客観的に認められる場合にはその要件を具備したものと扱うべきである「20歳前初診日」の要件。 は,医師が診察により経時的な観察結果を求めるものであるが,医師が発症後における事後的観察を行うことによっても,過去の発症時点を客観的に判断できるのであって,経時的観察と事後的観察とは,客観的な判断において本質的には何ら変わらないものである。特に,一審原告の場合には,A病院の診療時のカルテやB病院のカルテなど客観性の高い資料に基づき,20歳前に発症していたことが明確に判断できるのである。 (イ)また,一審原告の場合には,初診日は20歳に達してから僅か1か月半余りが経過した時点であっ 病院のカルテなど客観性の高い資料に基づき,20歳前に発症していたことが明確に判断できるのである。 (イ)また,一審原告の場合には,初診日は20歳に達してから僅か1か月半余りが経過した時点であって,同時点では「精神分裂病の疑いがある」との診断結果であることから,病状はかなり進行しており,20歳前に発症していたことは明白である。その上,一審原告の場合,自宅か,,ら遠く離れ単身アパートを借りて大学生活をしており本人はもとより家族も一審原告の状況変化に気づくことが遅れたために,20歳前に医師の診療を受ける機会を失った経緯があり,20歳前に受診しなかったことについては無理からぬ事情がある。 (ウ)なお,一審原告は,20歳に達する前に,既に数か所の胃腸科医師等の診療を受けていたが,本人は統合失調症のために受診した当時の医師を思い出すことはできず,また,一審原告の付添いをして受診に同道した実母は既に死亡しており,受診先医師を判明させることができない状況にある。 (エ)以上の経緯ないし事情からすると一審原告の場合には20歳直,,「- 5 -後の初診であることを理由に20歳前初診日要件を形式的に判断」,「」して,障害基礎年金の支給を拒否することは,あまりに画一的な判断にすぎるもので,公平性や正義の観念に悖るものである。 イ一審被告長官の主張(ア)国民年金法において障害基礎年金の支給要件として20歳前初,,「診日」の要件を定めているのは,20歳前に被保険者が医師に受診した場合には,20歳前の当該診療時点において,被保険者の傷病を医師が,,実際に診療しあるいは各種検査をして疾病の存在を診断するとともに診療結果資料が作成されることから,当該診療時点において傷病が存在していることが,審査機関においても,当該診 険者の傷病を医師が,,実際に診療しあるいは各種検査をして疾病の存在を診断するとともに診療結果資料が作成されることから,当該診療時点において傷病が存在していることが,審査機関においても,当該診断結果あるいは診療資料の提出を受けて一義的に判断することが可能となり,障害基礎年金の支給申請に対する大量的審査(認定行政)事務を形式的,画一的に実施することが制度的に確保され,審査の迅速性,正確性,統一性,公平性が維持されるのであり20歳前初診日の原則を維持することは必要不,「」可欠であり,合理的根拠が存在する。 (イ)一審原告の主張によれば統合失調症の傷病により支給申請をした者だけを特別に扱うことになり,しかも,判断資料は,関係者の陳述,報告などの主観的かつ不十分な資料に基づき,事後的に発症日を認定することになり,迅速な処理に混乱を与えることになる。事例によっては,医学の専門家による事後的な診断又は鑑定結果により発症時期を認定するという個別的かつ困難な作業を行政庁に要求することにもなる。 (ウ)また,統合失調症の診断に関しては,共通の医学的知見が形成されているとはいい難く,特に,事後的な医師の診断では,発症時期に関する客観的かつ明確な基準となるものがないから,支給要件の客観性が損なわれ,障害基礎年金が支給されるか否かは,受給を望む者を診断した医師の個別的診断の結果に大きく左右されることになり,被保険者間の- 6 -公平を害することにもなりかねない。 (エ)さらに20歳前初診日の原則を厳格に維持しない場合には ,「」,0歳となり拠出制の国民年金に加入して被保険者となったにもかかわらず,加入後の保険料の支払をしない者についても,20歳前障害基礎年金規定(国民年金法30条の4)によって無拠出制の障害基礎年金受給の余地 となり拠出制の国民年金に加入して被保険者となったにもかかわらず,加入後の保険料の支払をしない者についても,20歳前障害基礎年金規定(国民年金法30条の4)によって無拠出制の障害基礎年金受給の余地を認めることとなり逆選択拠出制障害基礎年金制度との間に(),制度的混乱を招くことにもなる。 (2)国家賠償請求について一審原告は,当審では,岩手県知事から権限を承継した一審被告国に対しては障害基礎年金の支給要件に関して20歳前初診日の解釈を誤り適,,「」正な権限行使をしなかったことから,長期間にわたり障害基礎年金の給付を,,「」受けられなかったと主張するものであり一審被告国は20歳前初診日,,の解釈は一審被告長官の解釈をもって適正であると主張するものであるが具体的内容は下記のとおりである。 ア一審原告の主張一審被告長官は,本来,初診日主義を採用した国民年金法の立法趣旨に照らし,原判決説示のとおり,国民年金法30条の4第2項を適正に解釈し,行政権限を行使すべき義務があったのに,規定の文言に固執し,形式的,機械的運用を重視する誤った解釈をしたため,一審原告に対し,本来支給すべき障害基礎年金を不支給とする違法行為を行った。 この結果,一審原告は,20年以上もの長期間にわたり,障害基礎年金の支給を受けられず,現在及び将来の生活の不安を常に感じ続けてきたもので,多大な精神的苦痛を受けた。この精神的苦痛は,障害基礎年金の不支給決定が取り消されたとしても回復することはできず,金銭に換算すると2000万円相当となる。 イ一審被告国の主張- 7 -(ア)仮に,障害基礎年金の規定について,原判決のように例外的に拡張解釈し,一審原告に対し障害基礎年金を支給すべきであったと判断すべきものとしても,国民年金法30条の4で定 告国の主張- 7 -(ア)仮に,障害基礎年金の規定について,原判決のように例外的に拡張解釈し,一審原告に対し障害基礎年金を支給すべきであったと判断すべきものとしても,国民年金法30条の4で定める「20歳前初診日」については,傷病について初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日をいうと明確に規定されており30条1項原判決説示の拡張解釈は同(),,規定の文理から当然に導き出されるものではなく,実務上そのような拡張解釈に基づく取扱いがこれまでされていたわけでもない。かかる例外的な拡張解釈をせずに本件不支給処分を行ったことについては,岩手県知事が,その職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく,漫然と本件不支給処分をしたなどということができないことは明らかであり,同知事の権限を委譲により承継した一審被告長官においても,国賠法1条1項の違法は認められないから,賠償責任はない。 (イ)一審原告が障害基礎年金の裁定請求を行ったのは,平成10年10月8日であるから仮に20歳前初診日の解釈に誤りがあったとし,,「」ても,一審原告が被る損害は,裁定請求に対する本件不支給処分が取り消され,支給処分がされるまでの間,障害基礎年金の支給が受けられない状態を強いられたという財産的損害にすぎず,しかも,財産的損害によって生じた精神的苦痛は,財産的損害が回復されれば,解消されるというべきであるから,一審原告の主張するような損害を認めることはできない。 第3当裁判所の判断 原審判決の引用当裁判所も,一審原告の請求のうち,一審被告長官に対する本件不支給処分の取消しを求める請求は理由があり,一審被告国に対する損害賠償の請求は失,,。 当であるから棄却すべきものと判断するがその理由は以下のとおりであるなお,一審原告の統合失調症の する本件不支給処分の取消しを求める請求は理由があり,一審被告国に対する損害賠償の請求は失,,。 当であるから棄却すべきものと判断するがその理由は以下のとおりであるなお,一審原告の統合失調症の発症の時期その他の事実認定,立法による救- 8 -済措置を講じなかったことによる国家賠償請求に関する判断については,原判決の「事実及び理由」欄の「第5当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,3項は除く。 。) 「20歳前初診日」要件の解釈と本件不支給処分の適否について(1)国民年金法において,無拠出制である20歳前障害基礎年金の支給要件とされている「20歳前初診日」の解釈については,被保険者が20歳前に診療を受けていることが支給要件であると解するのを相当とし,一審原告が主張するように,統合失調症のような疾病の場合には,本人が病識を持つことはないから医師への受診を期待することはできず,また,家族をはじめとする周囲の人においても,疾病を認識することは困難であるから,いずれにしても早期に受診することは期待できないとの特質から,20歳前に発症したことが事後的であっても明確に判断された場合には,20歳前に医師等へ受診していないときであっても20歳前初診日の支給要件を充足したも,「」のとして扱い,障害基礎年金を給付すべきであると解することは相当でないというべきである。一審被告長官が主張するように,国民年金法において,支給要件として「20歳前初診日」の規定が設けられた趣旨は,20歳前の発症である事実の存在は,医師又は歯科医師の診療を実際に受けることにより,診療時における医師等の直接の審問,各種検査等を通じて,当該診療時点において疾病の存在が客観的に診断されるとともに,診療に伴ない各種診断資料が形成されるから 科医師の診療を実際に受けることにより,診療時における医師等の直接の審問,各種検査等を通じて,当該診療時点において疾病の存在が客観的に診断されるとともに,診療に伴ない各種診断資料が形成されるから認定行政を実施する審査機関としては20歳前,,「初診日」要件により,医師等の診断結果,診療資料等の提出を受けることが制度的に確保され,20歳前傷病の存否を形式的,統一的に判断することが容易となり,障害基礎年金認定申請における大量的な認定事務処理を迅速,かつ,統一,的確に判断する制度基盤が確立され,併せて公平な判断も維持されることに資するものであって「20歳前初診日」原則を堅持すること,は,合理的根拠を有するものというべきである。他方,一審原告のように,- 9 -初診日概念を拡張した場合,事案によっては,発症時点が20歳前であるのか,必ずしも判然としない事態の発生も予想される上,ときには,かなり昔の時点における傷病の存否という困難な判断を伴うことにもなりかねず,関係者等の説明,過去の報告等の資料に基づく事後的判断においては,判断者である医師等における主観的要素を完全に排除することはできず,個別的判断に大きく左右され,必ずしも客観的判断が維持されるのか疑問が残り,申請者間に不公平が生じる懸念を払拭できないものである。 (2)もっとも一審被告長官主張のように全ての事案において20歳前,,,「初診日」原則を機械的又は形式的に解釈し,これに適合しない事案においては,支給要件を充足していないものとして,救済を一律的に排除するのも相当ではなく20歳後の初診日であっても審査機関の判断の統一性公,「」,,平性の趣旨を没却しない場合には20歳前初診日の要件を具備したもの,「」と同一視すべきものと解するのが相当である く20歳後の初診日であっても審査機関の判断の統一性公,「」,,平性の趣旨を没却しない場合には20歳前初診日の要件を具備したもの,「」と同一視すべきものと解するのが相当である。すなわち,㨯「20歳後の初診日であっても20歳時点に近接しており20歳後の初診日におけ」,,「」る診断結果,診療資料等をもって,20歳前時点の発症であることが一義的に判断できる場合であること,㨯「20歳前の初診」を受け得なかったことについて,被保険者の心身の状況,家庭環境その他諸般の事情に照らし無理からぬ事情が存在すること,㨯国民年金制度に加入していながら,保険料の納付要件を欠くなどして拠出制障害基礎年金の支給要件を具備せず,無拠出制である20歳前障害基礎年金を逆選択するような,制度的混乱を招かない場合に限っては「20歳後の初診日」であっても「20歳前初診日」と同,,一視して,支給要件を充足したものと解するのが相当である。 上記事由を具備している場合には20歳前初診日の要件設定の目的で,「」ある判断資料の確保により困難な判断を回避でき,判断の的確性,統一性及び公平性を維持することができ,かつ「20歳前の初診」を受け得なかったことに関して無理からぬ事情の要件を設定することによって,意図的に20- 10 -歳前受診を避けて,判断の困難性を自ら招来するとともに,無拠出制及び拠出制障害基礎年金制度における逆選択の弊害を生じさせる余地のない場合に,。 限定することにより制度の混乱を防止することができるというべきである行政庁の形式的大量的処理は,被保険者は心身に変調を来した場合,合理的期間内に医師に受診して的確な診断を得られるのが通例であることを前提に,受診が遅れた者が不認定となってもやむを得ないとの考え方に立つもので 式的大量的処理は,被保険者は心身に変調を来した場合,合理的期間内に医師に受診して的確な診断を得られるのが通例であることを前提に,受診が遅れた者が不認定となってもやむを得ないとの考え方に立つものであるが20歳前初診日要件を満たさなかったことに無理からぬ事情が,「」あるときには,一義的明確性の要請は,一定程度緩和して解釈しても,法の趣旨に反するものではないと解される。 なお一審被告長官は20歳前初診日の原則を崩した場合には 認定 ,,「」,行政を実施する行政庁としては,個別的に困難な審査をしなければならず,被保険者に対して,大量的な認定事務全般を迅速に行うことができない旨主張するところ,本件事案のように「20歳前初診日」要件を形式的に具備していない場合,個別具体的審査とならざるを得ず,相応の時間を要することは否定できず,その限りにおいては,行政事務全般の迅速処理の要請に背馳することとなるが,個別慎重な調査により,的確な判断を行うことも行政に課せられた責務であり,この限りにおいては迅速処理の要請が十分維持されないとしてもやむを得ないとみるべきである。 (3)そして,支給要件については,上記のとおりの解釈を前提として,本件を検討するに,一審原告については,原判決が説示するとおり,以下の事実が認められるのである。 ア一審原告は,昭和38年8月4日に出生し,20歳となってから1か月半余り経過後の昭和58年9月19日,実母(C)に伴われA病院で受診し精神科医師から精神分裂病疑いとの診断を受けその際診察,「()」,,した医師から,一審原告の病状が重いのに,父親が同道しないことを強く叱責された(原判決36頁9行目以下。 )- 11 -イ一審原告は,昭和57年3月に高校を卒業して,青森市内にあるD大学 ,した医師から,一審原告の病状が重いのに,父親が同道しないことを強く叱責された(原判決36頁9行目以下。 )- 11 -イ一審原告は,昭和57年3月に高校を卒業して,青森市内にあるD大学E学部に入学し,両親の住む八戸市を離れ,青森市内にアパートを借りて1人暮らしをはじめ,入学当初は,実母が1か月に1度の割合で一審原告方を訪問していたが,その後は,数か月に1度の頻度となっていた(原判決34頁16行目以下。 )ウ一審原告は,昭和58年8月ころに実家に帰省したが,家人と会話をすることもなく日中から寝ていることが多く胃腸の不調を訴えていた原,,(判決35頁1行目以下そして一審原告が夏休みが終わり青森市内のア)。 ,パートへ帰宅した後の昭和58年9月10日ころ,実母が一審原告のアパートを訪問して,一審原告の日常生活の変調に気づき,同月19日,嫌がる一審原告を伴って上記病院へ付き添い,同病院医師の診療を受ける運びとなった(原判決36頁4行目以下。 )なお,一審原告は,上記病院での診療の前である昭和58年9月5日,胃腸が不調であるとして,青森市内のF胃腸科外科医院のG医師の診療を受けており,その際の診療に関する受診状況等証明書(甲A14)では傷病名が「胃炎」とされ,来院時の症状として「疼痛なく食欲不振を訴えていた」と付記されているが,一審被告長官の同医院に対する照会におい。 て,精神分裂病の疑いの可能性について特段回答を求めなかったこともあり,自己の専門外である精神科領域の疾病を傷病名としない上記証明書を,,,作成したにすぎず医師としてはその可能性を疑っていたことは実母が胃腸科の医師に精神科を受診するように勧められたとして,憤慨して帰宅していたこと甲А14乙50の1証人Hからも認められまたこ(,) ぎず医師としてはその可能性を疑っていたことは実母が胃腸科の医師に精神科を受診するように勧められたとして,憤慨して帰宅していたこと甲А14乙50の1証人Hからも認められまたこ(,),,,のような経過に照らすと,一審原告が20歳前に胃腸科への通院を重ねていたことに関する関係人の供述等も,同様の疑いのある症状があったことの証左として十分信用でき,すると,一審原告が,20歳前のこれら時点で胃腸科ではなく精神科を専門とする医師に受診していれば精神分裂病,「- 12 -(疑い」との診断を得られた可能性が高いと考えられる。 )エ一審原告の統合失調症の発症時期に関する専門家の意見としては,一審原告のような統合失調症では,発症時期をピンポイントで捉えることは困難であるとしながらも,発症様式として何の変化もなく突発的に発症することは考えにくいとの見解を示し,一審原告がA病院精神科を受診した前後の診断等の経過を基礎として,一審原告の発症時期は,大学生活への適応がより困難となった大学2年生に進級した昭和58年4月以前としており,20歳以前の発症との意見が示されている(医師I作成の鑑定書。原判決37頁23行目以下。 )オなお,一審原告は,20歳後のA病院精神科の受診の結果,精神分裂病の疑いとの診断を受け,治療に専念したものの,思わしくなく,大学を退学せざるを得なくなって,昭和59年9月21日,国民年金に任意加入して,現在も国民年金の掛け金を納付し続けている(証人H。 )(4)上記事実からすると,一審原告の場合では,20歳となってから1か月半余りと近接した時点において,医師の診療を受けているのであって,上記の経過等を基礎として,短期間内の突発的発症は考えられないとして,20歳前発症であると判断されていること,受診に至った から1か月半余りと近接した時点において,医師の診療を受けているのであって,上記の経過等を基礎として,短期間内の突発的発症は考えられないとして,20歳前発症であると判断されていること,受診に至った経緯は,一審原告が単身でアパート生活をしており,比較的実家と遠距離にあったことから頻繁に家人が訪問することはなく,そのために,一審原告の変調症状に気づくことが遅れたものではあるが,一審原告は,20歳前に統合失調症に起因すると推認される胃腸科系の症状を呈した際には,適時に胃腸科医師に受診し,家人が一審原告の精神的変調に気づいた後は,迅速に専門医に受診させる行動をしており,20歳前の初診の機会を逸したことについては無理からぬ事情がみられること,なお,一審原告は国民年金に任意加入し,掛け金を支払っているのであるから,一審被告長官が主張するような逆選択の弊害を想定する余地がないことからすると,一審原告が,昭和58年9月19日,A病院- 13 -の精神科へ受診したことをもって20歳前受診と同様に扱い20歳前初,,「診日」の要件を充足したものと判断するのが相当である。 ,,「」(5)そして一審原告については初診日において20歳未満であった者に該当するところ,統合失調症により,65歳に達する日より前である平成10年には障害等級1級に該当する障害の状態にあることは,原判決認定のとおりである(原判決53頁1行目以下。 )(6)以上のとおりであるから,一審被告長官の一審原告に対する本件不支給処分は違法であり,同処分は取消しを免れない。 国家賠償請求の可否について一審原告は,一審被告国への権限委譲前の被承継人である岩手県知事が,障害基礎年金の支給要件である「20歳前初診日」の規定について拡張的な解釈をすることなく,形式的な解釈に終始し 償請求の可否について一審原告は,一審被告国への権限委譲前の被承継人である岩手県知事が,障害基礎年金の支給要件である「20歳前初診日」の規定について拡張的な解釈をすることなく,形式的な解釈に終始した結果,一審原告が長年の間受給資格を否定されたと主張するところ,一審原告が,一審被告国の権限被承継人である岩手県知事に対し,障害基礎年金の裁定を請求し,同知事が,支給要件である「20歳前初診日」を充足していないとして,本件不支給処分をしたことは原判決認定のとおりで,また,一審被告長官が地方分権一括法の施行日である平成12年4月1日,岩手県知事の権限を承継して,その後も同様の解釈を維持し,受給要件の資格を認定していないことは,本件訴訟の経緯から明らかであるから,一審被告国は賠償責任の相手方となる。 ところで,上記支給要件については,一義的・公権的な解釈として未だ定まっておらず,資格要件を認定する行政庁としては,法律規定の文言を忠実に解釈して,大量的な認定事務処理を統一的,公平的に運用するよう目指したものであって,かかる解釈態度をおよそ違法であるとみることはできない。 なお,以上の点をさておくとしても,一審原告は,20年以上の期間,障害基礎年金の受給資格を拒否されたと主張するが,一審原告が,一審被告国への権限委譲前の被承継人である岩手県知事に対し,障害基礎年金の裁定請求をし- 14 -,,たのは平成10年10月の時点であることは原判決が認定するとおりであり受給資格を拒否され救済されなかった期間は,およそ6年程度であり,今後障害基礎年金を申請時点から受給して,経済的に補填されることにより,精神的,。 苦痛も解消されるとみることができるので損害は消滅したというべきである まとめ,,以上のとおりであり一審原告の一審被告長官に対する請求は理 給して,経済的に補填されることにより,精神的,。 苦痛も解消されるとみることができるので損害は消滅したというべきである まとめ,,以上のとおりであり一審原告の一審被告長官に対する請求は理由があるが,,一審被告国に対する請求は失当でありこれと同旨の原判決は相当であるから本件各控訴をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 仙台高等裁判所第3民事部裁判長裁判官井上稔裁判官畑一郎裁判官小林直樹
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