平成20(ワ)9708 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成23年11月9日 大阪地方裁判所
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判決文本文19,650 文字)

- 1 - 主文 1 被告大阪市は,原告に対し,3000円及びこれに対する平成19年4月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告の被告大阪市に対するその余の請求及び被告大阪府に対する請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,原告に生じた費用の20分の1と被告大阪市に生じた費用の10分の1を被告大阪市の負担とし,その余を原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告らは,原告に対し,連帯して160万円及びこれに対する平成19年4月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の骨子本件は,原告が,平成19年4月8日施行の大阪市議会議員一般選挙及び大阪府議会議員一般選挙(以下「本件選挙」という。)の際,投票事務従事者が,原告の投票を拒否したこと(以下「本件投票拒否」という。)及び原告に公職選挙法(以下「公選法」という。)50条3項に基づく仮投票の機会を与えなかったことが国家賠償法上違法であり,それにより精神的損害を被ったとして,本件選挙の管理及び執行を行った地方公共団体である被告大阪市(以下「被告市」という。)及び被告大阪府(以下「被告府」という。)に対し,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料及び遅延損害金の支払を求めた事案である。 2 関係法令の定め 公選法9条1項は,日本国民で年齢満20年以上の者は,衆議院議員及び参議院議員の選挙権を有すると規定する。 同条2項は,日本国民たる年齢満20年以上の者で引き続き3か月以上市 - 2 -町村の区域内に住所を有する者は,その属する地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有すると規定する(以下,同項が定める要件のうち,引き続き3か月以上市町村の区域内に住所を有することを要するという要件を「住所要件」と 有する者は,その属する地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有すると規定する(以下,同項が定める要件のうち,引き続き3か月以上市町村の区域内に住所を有することを要するという要件を「住所要件」という。)。  公選法19条1項は,選挙人名簿は,永久に据え置くものとし,かつ,各選挙を通じて一の名簿とする旨規定する。同条2項は,市町村の選挙管理委員会は,選挙人名簿の調製及び保管の任に当たるものとし,毎年3月,6月,9月及び12月(「登録月」という。)並びに選挙を行う場合に,選挙人名簿の登録を行うものとする旨規定する。  公選法21条1項は,選挙人名簿の登録は,当該市町村の区域内に住所を有する年齢満20年以上の日本国民で,その者に係る登録市町村等の住民票が作成された日から引き続き3か月以上登録市町村等の住民基本台帳に記録されている者について行う旨規定する。  公選法27条1項は,市町村の選挙管理委員会は,選挙人名簿に登録されている者が当該市町村の区域内に住所を有しなくなったことを知った場合には,直ちに選挙人名簿にその旨の表示をしなければならない旨規定する。 公選法28条2号は,市町村の選挙管理委員会は,当該市町村の選挙人名簿に登録されている者について,公選法27条1項の表示をされた者が当該市町村の区域内に住所を有しなくなった日後4か月を経過するに至ったときは,これらの者を直ちに選挙人名簿から抹消しなければならない旨規定する。 公職選挙法施行令16条は,市町村の選挙管理委員会は,公選法27条1項の規定による表示をされた者が選挙人名簿に登録される資格を有するに至ったことを知った場合には,直ちにその表示を消除しなければならないと規定する。  公選法42条1項本文は,選挙人名簿又は在外選挙人名簿に登録されていない者は,投票をするこ される資格を有するに至ったことを知った場合には,直ちにその表示を消除しなければならないと規定する。  公選法42条1項本文は,選挙人名簿又は在外選挙人名簿に登録されていない者は,投票をすることができないと規定する。 - 3 - 公選法44条2項は,選挙人は,選挙人名簿の対照を経なければ,投票をすることができないと規定し,同条3項は,同一都道府県の区域内の他の市町村の区域内に住所を移した選挙人が,従前の市町村において当該都道府県の議会の議員又は長の選挙をする場合においては,引き続き当該都道府県の区域内に住所を有することを証するに足りる文書を提示しなければならないと規定する。  公選法50条2項は,投票の拒否は,投票立会人の意見を聴き,投票管理者が決定しなければならないとし,同条3項は,前項の決定を受けた選挙人において不服があるときは,投票管理者は,仮に投票をさせなければならないと規定する。  住民基本台帳法8条は,住民票の記載,消除又は記載の修正(以下「記載等」という。)は,届出に基づき,又は職権で行うものとすると規定する。 同法15条1項は,選挙人名簿の登録は,住民基本台帳に記録されている者で選挙権を有するものについて行なうものとすると規定し,同条2項は,市町村長は,同法8条の規定により住民票の記載等をしたときは,遅滞なく,当該記載等で選挙人名簿の登録に関係がある事項を当該市町村の選挙管理委員会に通知しなければならないと規定する。 3 前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び証拠等により容易に認められる事実。以下,書証番号は特に断らない限り枝番号を含む。なお,争いのない事実については認定根拠を付さない。) 原告について原告は,昭和(中略)に出生した日本国籍を有する男性である(甲1)。 事実。以下,書証番号は特に断らない限り枝番号を含む。なお,争いのない事実については認定根拠を付さない。) 原告について原告は,昭和(中略)に出生した日本国籍を有する男性である(甲1)。  Y会館への住民登録原告は,平成15年5月28日,同月22日に大阪市a区所在のY会館を住所と定めた旨の届出を行い,原告の住民票が作成された(甲1,弁論の全 - 4 -趣旨)。 原告は,大阪市a区の選挙人名簿に,Y会館を原告の公選法上の「住所」として登録された。  住民票の職権消除大阪市a区長は,平成19年3月29日付けで,Y会館に原告の居住実態がないことが確認されたことを理由に,原告の住民票を職権消除した(甲1)。 同処分については,住民基本台帳法15条2項及び公選法29条1項に基づき,同月30日付けで大阪市a区長からa区選挙管理委員会へ通知され,同通知を受けたa区選挙管理委員会は,公選法27条1項に基づき,同日,原告の選挙人名簿に,大阪市の区域内に住所を有しなくなった旨の表示をした(弁論の全趣旨)。  本件選挙当日の経緯ア原告は,平成19年4月8日,本件選挙の投票をするため,大阪市a 区に所在するZ小学校に設置されたZ投票所(以下「本件投票所」という。)に赴いた。なお,同日においても,原告の選挙人名簿には,大阪市の区域内に住所を有しなくなった旨の表示がされたままであった。 イ原告は,本件投票所の投票事務従事者に対し,大阪市a区所在の簡易宿所Qの4か月分の領収書(甲2。以下「本件領収書」という。)を見せたところ,同従事者は,原告に対し,Qへの転居届を出すよう指導した。しかしながら,原告はこれを拒否し,結局,本件投票所の投票管理者Bは,原告に対し,投票を拒否した(本件投票拒否)。なお,原告は,本件選挙において, 者は,原告に対し,Qへの転居届を出すよう指導した。しかしながら,原告はこれを拒否し,結局,本件投票所の投票管理者Bは,原告に対し,投票を拒否した(本件投票拒否)。なお,原告は,本件選挙において,仮投票をしていない。 4 争点本件の争点は,以下の点である。  本件投票拒否が国家賠償法上違法であるかどうか(争点①) 本件選挙の際,原告に仮投票をさせなかった違法があるかどうか(争点②) - 5 - 被告らの責任(争点③) 原告が被った損害の有無及び額(争点④)第3 当事者の主張の概要 1 本件投票拒否が国家賠償法上違法であるかどうか(争点①)について 原告の主張ア原告は,本件選挙当日,投票をしようと本件投票所に赴いたところ,原告の住民票が消除されており,選挙人名簿に,大阪市の区域内に住所を有しなくなった旨の表示があったことから,公選法9条2項の定める住所要件が満たされていると認められないとして,投票を拒否された(本件投票拒否)。 しかしながら,原告は,大阪市の区域内に3か月以上連続して居住していることを示すため,当時宿泊していたQの4か月分の領収書(本件領収書)を示したのであり,これによって原告が住所要件を満たしていたことが明らかとなったものといえるから,当然に原告は投票を認められるべきであった。それにもかかわらず,本件投票所の投票事務従事者が原告の投票を拒否することは,職務上の注意義務に違反するものとして,国家賠償法上違法であるというべきである。 イ被告市は,Qを住所とする主観的意思を確かめるために転居届の提出を求めたが,原告がこれに応じなかったため,住所要件の充足について確認できず,投票を拒否した旨主張する。しかしながら,住所とは生活の本拠であり,生活の本拠であるかどうかはその者の生活実 転居届の提出を求めたが,原告がこれに応じなかったため,住所要件の充足について確認できず,投票を拒否した旨主張する。しかしながら,住所とは生活の本拠であり,生活の本拠であるかどうかはその者の生活実態から客観的に判断されることであるから,客観的に複数の場所が同一人の生活の本拠であるとみえるような場合を除いて,主観的意思は問題とならない。したがって,原告の主観的意思が確認できないからといって,住所要件が満たされないということにはならない。また,当該意思確認の方法は転居届の提出に限られないから,原告が転居届の提出に応じなかった場合には,宣誓書を提 - 6 -出させるなど,他の方法によって主観的意思を確認することもできたはずである。しかし本件投票所の投票事務従事者は,原告に転居届を提出する以外の方法を何ら示唆しなかった。このように転居届の提出に固執し,それ以外の方法を提示することなく,原告の投票を拒否したことは,職務上の注意義務に違反するものである。 ウさらに,本件投票所の投票管理者Bは,投票立会人の意見を聴くことなくして本件投票拒否を行っている。これは公選法50条2項に反するものである。 エ以上からすれば,本件投票拒否は,国家賠償法上違法である。  被告市の主張ア本件選挙当日,原告は,Qに4か月以上連続して宿泊しているとして,本件領収書を提示してきたところ,一般的に簡易宿所は一時滞在を目的とする施設であるため,簡易宿所を住所と認めるには,客観的な居住実態を補強するものとして,本人の主観的な居住意思を確認する必要があった。 そこで,本件投票所の投票事務従事者は,転居届を提出してもらうか,職権で住民票の回復をすることについての了承を得ることにより,原告の主観的な居住意思を確認しようとしたところ,原告がいずれも拒否したため, ,本件投票所の投票事務従事者は,転居届を提出してもらうか,職権で住民票の回復をすることについての了承を得ることにより,原告の主観的な居住意思を確認しようとしたところ,原告がいずれも拒否したため,結局,Qに原告の住所があると認めることができなかった。 以上のとおり,本件選挙当日,原告が住所要件を満たしていることを確認できなかったため,本件投票所の投票事務従事者としては,原告に投票を認めることができなかったのであって,本件投票拒否は,何ら職務上の注意義務に違反するものではなく,国家賠償法上の違法はない。 イまた,本件投票所の投票管理者Bは,投票立会人2人に意見を聴いた上で本件投票拒否を行っており,手続上も適法である。 ウ以上からすれば,本件投票拒否は国家賠償法上違法ではない。 2 本件選挙の際,原告に仮投票をさせなかった違法があるかどうか(争点②) - 7 -について 原告の主張ア原告は,本件投票拒否を受け,これに対して異議を述べていたのであるから,本件投票所の投票管理者は,公選法50条3項に基づき,原告に仮投票を認めるべきであった。それにもかかわらず,本件投票所の投票管理者を含む投票事務従事者は,原告に仮投票についての説明をすることもなく,仮投票の機会を全く与えず,その結果原告は仮投票をすることができなかった。このように,本件選挙の際,原告に仮投票をさせなかったことは,職務上の注意義務に違反するものとして,国家賠償法上違法である。 イこれに対し,被告市は,本件選挙当日,投票事務従事者が原告に対し,仮投票についての説明を行ったが,原告が本投票をすることに固執し,仮投票をすることを拒んだ旨主張する。しかしながら,そのような事実があれば,調査票兼宣誓書や投票管理者が投票拒否の理由を記載して原告に渡した書面(甲3) を行ったが,原告が本投票をすることに固執し,仮投票をすることを拒んだ旨主張する。しかしながら,そのような事実があれば,調査票兼宣誓書や投票管理者が投票拒否の理由を記載して原告に渡した書面(甲3)にその旨記載されるものと考えられるところ,原告については調査票兼宣誓書自体が作成されておらず,甲3の書面にもそのような記載は全くないのであって,本件投票拒否の際,原告に仮投票の説明がされたとは到底認められないというべきである。  被告市の主張本件投票所の投票事務従事者は,原告に対し,転居届を出さなくても仮投票ができること,仮投票の具体的方法について説明を行ったところ,原告は,あくまで本投票をすることに固執し,仮投票を行うことを拒否した。このように,仮投票の機会が十分に与えられたにもかかわらず,原告がこれを拒んだため,仮投票が行われなかったのであるから,本件選挙の際,原告が仮投票をしなかったことについて投票事務従事者に何ら職務上の注意義務違反はなく,国家賠償法上の違法はない。 3 被告らの責任(争点③)について - 8 - 原告の主張以上のとおり,本件投票所の投票事務従事者が本件投票拒否を行ったこと及び原告に仮投票をさせなかったことは違法であるところ,当該行為は,被告らの公権力の行使として行われたものであるから,被告らは,国家賠償法1条1項に基づき,上記違法な行為により原告が被った損害について,賠償する責任を負うというべきである。 なお,被告府は,本件投票所における事務については,地方自治法2条9項2号の第2号法定受託事務として,被告市の公権力の行使として行われたものであるから,被告府はこれについて責任を負わない旨主張する。しかしながら,地方自治法が,第2号法定受託事務につき都道府県が是正の指示等の関与を行うことを認め ,被告市の公権力の行使として行われたものであるから,被告府はこれについて責任を負わない旨主張する。しかしながら,地方自治法が,第2号法定受託事務につき都道府県が是正の指示等の関与を行うことを認めていること(地方自治法245条の7)に鑑みれば,被告府は本件選挙に係る事務について,深く関与しているといえる。したがって,上記事務は被告府の公権力の行使でもあるといえるのであり,上記被告府の主張には理由がない。  被告市の主張本件投票所における投票事務が被告市の事務で,従事者が被告市の職員であることは認めるが,上記のとおり,本件投票拒否及び原告が仮投票をしなかったことについて,職務上の注意義務に違反する点はなく,国家賠償法上違法ではない。したがって,被告市が国家賠償法1条1項に基づく責任を負うことはない。  被告府の主張本件投票所における大阪府議会議員選挙に関する事務は,第2号法定受託事務であり,被告市の事務とされているから,当該事務の遂行につき国家賠償法上違法な行為があっても,それは被告府の公権力の行使に関して行われたものではなく,被告府が責任を負うことはない。 4 原告が被った損害の有無及び額(争点④)について - 9 - 原告の主張原告は,違法な本件投票拒否及び仮投票の機会を与えられなかったことにより,多大な精神的損害を被ったところ,当該精神的損害の額は,160万円を下らない。  被告市の主張本件投票拒否及び原告が仮投票をしなかったことについていずれも違法な点はないから,原告に損害は発生していない。 また,仮に原告が仮投票を行ったとしても,上記のとおり,原告は住所要件を欠き,公選法上の投票の要件を満たしていなかったのであるから,原告の仮投票が有効な投票として受理されることはなかったといえる。したがっ に原告が仮投票を行ったとしても,上記のとおり,原告は住所要件を欠き,公選法上の投票の要件を満たしていなかったのであるから,原告の仮投票が有効な投票として受理されることはなかったといえる。したがって,原告が仮投票をできなかったことによる損害は生じていない。 第4 当裁判所の判断 1 本件投票拒否が国家賠償法上違法であるかどうか(争点①)について 総論ア地方公共団体の議会の議員及び長の選挙において投票をするためには,その者が,選挙人名簿に登録されていること(公選法42条1項)に加え,3か月以上(同一)市町村の区域内に住所を有するという住所要件が必要である。ところで,選挙の当日,投票管理者を始めとする投票事務従事者は,投票に来た者につき,その者が選挙人名簿に登録されている者であることを選挙人名簿と対照して確認しなければならないところ(公選法44条2項),その際,投票事務従事者が,住所要件の存否についても,一定の範囲内において,審査を行う権能と義務を有していることは,同条3項からもうかがわれるところである。そして,公選法27条1項は,選挙人名簿に登録された者が当該市町村の区域内に住所を有しなくなったことを知った場合には,直ちに選挙人名簿にその旨の表示をすることを義務付けているが,当該表示は,被表示者の住所の変更に関する事実を示すものと - 10 -して,公選法の規定に従いされるものであり,しかも,選挙人名簿におけるその者の該当部分にされるものであることを考えると,上記の投票事務従事者のすべき住所要件の審査に当たり,最も確実かつ重要な資料を提供するものといえる。したがって,地方公共団体の議会の議員又は長の選挙において,投票事務従事者は,投票に来た者につき,選挙人名簿の対照の際,少なくとも選挙人名簿に上記当該市町村の区域内に住 資料を提供するものといえる。したがって,地方公共団体の議会の議員又は長の選挙において,投票事務従事者は,投票に来た者につき,選挙人名簿の対照の際,少なくとも選挙人名簿に上記当該市町村の区域内に住所を有しなくなった旨の表示がされているかどうかを確認することにより,その限度において住所要件の存否を確認する義務があるというべきである。そして,当該市町村の区域内に住所を有しなくなった旨の表示がある場合には,当該表示が誤っていることを明らかにする資料の提出等により,その住所要件の存在を確認し得るというような特別の事情がある場合を除いて,基本的にはその者が住所要件を欠くものとして,その投票を拒否する義務があるというべきであるから,このような場合に投票事務従事者が投票を拒否をすることは,職務上の注意義務に違反するものではなく,国家賠償法上違法とはならないというべきである(最判昭和48年10月11日・民集27巻9号1148頁参照)。もっとも,上記特段の事情がある場合には,選挙権の行使の重要性に鑑みれば,投票事務従事者は,逆にその者に投票をさせる義務を有すると考えられるから,この場合に投票を拒否することは,職務上の注意義務に違反するものであり,国家賠償法上違法となると考えられる。 イ前記前提となる事実のとおり,原告の選挙人名簿に大阪市の区域内に住所を有しない旨の表示があったことから,本件投票所の投票事務従事者は,当該表示が誤っていることを明らかにする資料の提出等により,住所要件の存在を確認し得る特段の事情がない限り,基本的に原告の投票を拒否すべき義務があったといえる。したがって,本件投票拒否が違法であるかどうかについては,原告について,選挙人名簿に大阪市の区域内に住所を有 - 11 -しない旨の表示があるにもかかわらず,住所要件の存在を確 があったといえる。したがって,本件投票拒否が違法であるかどうかについては,原告について,選挙人名簿に大阪市の区域内に住所を有 - 11 -しない旨の表示があるにもかかわらず,住所要件の存在を確認し得るという上記特段の事情があったといえるかどうかが問題となるため,以下検討する。  認定事実前記前提となる事実に加え,証拠(甲1から3まで,13,14,23,24,乙8,10から14まで,証人C,証人D,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア住民票消除に至る経緯 原告は,平成15年5月28日,Y会館を住所と定める旨の届出を行い,原告の住民票が作成され,大阪市a区の選挙人名簿に,Y会館を住所として登録された。もっとも,原告は,その当時,Y会館で起居していたわけではなく,大阪市a区内の簡易宿所に宿泊するなどし,Y会館では郵便の受け取り等を行っており,本件選挙の4か月ほど前からは,Qに継続して宿泊し,日雇い労働等に従事していた。 当時,原告と同様,日雇い労働者等で,簡易宿所等で起居し,Y会館を住所として住民登録している者が相当数存在していた。  大阪市a区長は,平成19年3月29日付けで,Y会館を住所として住民登録をしている者のうち約2000人について,居住実態がないとして住民票を職権で消除する処分を行い,原告の住民票も同様に職権消除された。 同処分については,住民基本台帳法15条2項及び公選法29条1項に基づき,同月30日付けでa区長からa区選挙管理委員会へ通知され,同通知を受けたa区選挙管理委員会は,公選法27条1項に基づき,選挙人名簿の原告の記載欄に,大阪市の区域内に住所を有しなくなった旨の表示をした。 イ本件選挙当日の経緯 - 12 - 原告は,本件選挙の投票をするため,同 ,公選法27条1項に基づき,選挙人名簿の原告の記載欄に,大阪市の区域内に住所を有しなくなった旨の表示をした。 イ本件選挙当日の経緯 - 12 - 原告は,本件選挙の投票をするため,同年4月8日午後7時頃,本件投票所に赴いた。なお,同日においても,原告の選挙人名簿には,大阪市の区域内に住所を有しなくなった旨の表示がされていた。  本件選挙当日,本件投票所においては,被告市の職員が投票に来た者の対応等の投票事務に従事していた。また,a区選挙管理委員会により投票管理者に選任されたB及び同様に選任された2人の投票立会人が,本件投票所において待機していた。 本件選挙は,上記アのとおり,大量の住民票の職権消除がされて間もない時期に行われた選挙であったため,住民票を消除された者が投票を求めて大量に本件投票所を訪れることが予想された。そこで,a区選挙管理委員会では,住民票を消除された者が投票に来た場合,迅速にその居住実態を調査し,大阪市内の特定の場所に生活の本拠があり,住民票を回復できると認定できる場合には,まず,住民異動届(転居届)を提出してもらった上で,選挙人名簿の表示の消除を行い,その上で投票を認めるという処理の方針を定めていた。そして,当該処理を迅速に行うことができるように,住民基本台帳の事務を所管する被告市の市民局から担当職員を増援して本件投票所の投票事務従事者とし,上記住民票を消除された者の対応をする業務を専門に行う班(以下「住基班」という。)を設置するなどの特別の体制が整えられていた。  原告が本件投票所を訪れた後,選挙人名簿の照会が行われたところ,原告の選挙人名簿に大阪市の区域内に住所を有しない旨の表示がされていることが判明した。そこで,原告に対する対応については,住基班として当日投票事務に当たっていた被告市 人名簿の照会が行われたところ,原告の選挙人名簿に大阪市の区域内に住所を有しない旨の表示がされていることが判明した。そこで,原告に対する対応については,住基班として当日投票事務に当たっていた被告市の職員であるC及びEに引き継がれた。 原告は,本件選挙以前に,住民票が消除されていても,簡易宿所の領収書を見せれば選挙で投票をすることができるという噂を聞いていたた - 13 -め,Cらに対し,簡易宿所に4か月間毎日継続して寝泊まりをしていることを伝え,Qの平成19年1月から同年4月分までの本件領収書(甲2)を提示した。Cらは,本件領収書を見て,上記方針に従い,原告に対し,Qを住所として転居届を提出すれば,投票をすることができる旨伝え,転居届を出すことを勧めた。これに対し,原告は,以前Qの経営者に,Qに住民票を移していいかを尋ねたところ断られたこと,現在もう少し広いアパートを探しており,経済的な理由で転居も考えていること,さらに,原告の住所はあくまでY会館にあることなどを理由として,転居届を出すことを拒んだ(原告本人)。  Cらは,a区選挙管理委員会に対し,原告への対応について相談したところ,職権で住民登録をすることが可能であるので,本人の了解を得た上で住民票を職権で回復し,その上で原告に投票をさせるように指示された。そこで,Cらは,原告に当該処理をする旨伝えたところ,原告はこれも拒否した。  その後,Cらは,本件投票所の総括的な業務を行っていた被告市の職員であるDに原告に対する対応を引き継いだ。Dは,Cらと同様に,原告に転居届を提出すること,また,職権により住民票を回復させる処理について同意をするよう促したが,原告は,あくまで転居届を提出することを拒み,また,職権による住民票の回復にも同意しなかった。  以上のような原告 すること,また,職権により住民票を回復させる処理について同意をするよう促したが,原告は,あくまで転居届を提出することを拒み,また,職権による住民票の回復にも同意しなかった。  以上のような原告とCら及びDとのやり取りを踏まえた上で,投票管理者であるBは,原告に対し,「選挙人名簿に大阪市の区域内に住所を有しなくなった旨の表示がなされているため投票はできません。」と記載されたメモ(甲3の1)を交付し,正式に投票を拒否した(本件投票拒否)。 原告は,これに反発し,「何で投票でけへんねん。」などと繰り返し,不服を述べていた。その後,本件投票所の投票事務従事者らは,原告及 - 14 -び原告と共に残っていた原告の支援者らに退去を求めた。原告は,投票も仮投票もすることなく,同日午後9時頃,本件投票所を退出した。 ウ事実認定の補足説明なお,原告は,本件選挙当日,原告に対応した投票事務従事者は,Cら及びDではなく,被告市の職員であるFであったと主張し,これに沿う供述をする。これに対し,C及びDは,当初原告の対応はCらが行い,後にDと交代したのであり,Fは直接原告の対応に当たることはなかった旨証言する。 そうであるところ,本件選挙当日の本件投票所内を撮影した映像(乙13)には,本件選挙当日,原告が本件投票所を訪れた後,少なくとも7時30分頃から8時16分頃まで,Cらが原告に対応している様子が撮影されていることからすれば,Cらが原告の対応をしたことはなかった旨の上記原告の供述を信用することはできず,一方,原告の対応をしたのがCら及びDであるとする上記C及びDの証言を信用することができるから,C及びDの証言のとおり,本件選挙当日,原告の対応をした投票事務従事者は,Cら及びDであったと認めることができる。原告が提出するFの記載のあるメモ する上記C及びDの証言を信用することができるから,C及びDの証言のとおり,本件選挙当日,原告の対応をした投票事務従事者は,Cら及びDであったと認めることができる。原告が提出するFの記載のあるメモ(甲3の2)も上記認定を覆すものではなく,他にこれを覆すに足りる証拠はない。  住所要件についてア原告は,本件選挙当日,本件投票所において,Qの平成19年1月から同年4月分までの本件領収書(甲2)を提出していたことをもって,本件選挙の住所要件の存在を確認し得る特別の事情があったと主張する。 イ確かに,本件領収書は,原告が,大阪市a区内に所在するQにおいて,本件選挙当日までの間,引き続き3か月以上継続して滞在していたことを明らかにするものである。しかしながら,公選法上の「住所」とは,生活の本拠を意味するところ(民法22条),一定の地が生活の本拠であると - 15 -認められるかどうかは,その地を生活の本拠とする主観的意思や,その地に定住する事実により判断される。そして,滞在している地が,居住用住宅やマンション・アパート等,一般的に生活の本拠として使用されることが予定されている場所である場合には,その地に継続して滞在しているという事実のみで,その場所を生活の本拠とする意思が推認され,当該地を生活の本拠と認めることができると考えられるが,簡易宿所のような一時的な滞在を目的とする施設は,生活の本拠として長期的に滞在することを予定したものではないから,その地に継続して滞在している事実のみでは,そこがその者の生活の本拠であると認めることはできず,継続的な滞在の事実に加え,その地を生活の本拠とする主観的意思が補完されることが必要であると考えられる。 そうであるところ,特定の場所を住所として転居届を提出することは,その地を自己の生活の本拠 継続的な滞在の事実に加え,その地を生活の本拠とする主観的意思が補完されることが必要であると考えられる。 そうであるところ,特定の場所を住所として転居届を提出することは,その地を自己の生活の本拠とする主観的意思を表明する行為であるとみることができるのであって,主観的意思を認める最も有力な資料となり得るところ,前記認定事実によれば,原告は,Cら及びDからQを住所として転居届を提出することを勧められ,また職権でQに住民票を移すことを提案されたにもかかわらず,これをいずれも拒否しており,また,その他原告がQを生活の本拠とする主観的意思を有していたことを確認するに足りる資料は提出されなかった。また,前記認定事実のとおり,原告は,原告の住所はあくまでY会館にあるなどと,自ら自己の住所がQにあることを否定するような発言をしており,また,近い将来Qからアパートに転居する予定であるなど,Qでの滞在があくまでも一時的なものであることをうかがわせるような発言をしていたなどの事情に鑑みれば,本件選挙当日において,原告がQを生活の本拠とするという主観的意思を有していることを確認することはできなかったといえる。そうであれば,本件選挙当日,原告が3か月以上引き続きQを住所として居住していたと認めるに足りる - 16 -特段の事情があったとは認められない。 したがって,本件選挙においては,原告の選挙人名簿に大阪市の区域内に住所を有しなくなった旨の表示があるにもかかわらず,原告が住所要件を満たしていることを確認し得る特段の事情があったと認めることはできないから,本件投票拒否について,本件投票所の投票事務従事者に職務上の義務違反があったとはいえず,国家賠償法上の違法はないというべきである。 ウなお,原告は,Cら及びDが,原告に対し,転居届の提出をし 件投票拒否について,本件投票所の投票事務従事者に職務上の義務違反があったとはいえず,国家賠償法上の違法はないというべきである。 ウなお,原告は,Cら及びDが,原告に対し,転居届の提出をしない限り投票ができないという態度をとっていたことが問題であると主張するようである。 前記認定事実のとおり,a区選挙管理委員会においては,住民票を消除された者が,一定の簡易宿所等に継続して宿泊していることを示す資料を提出した場合,当該簡易宿所等に転居届を提出すれば,投票をすることを認めるとする方針を定めていたところ,Cら及びDは,このような方針に従い,原告に転居届の提出を求めていたものと認められる。そうであるところ,前記のとおり,簡易宿所を住所と認めて投票を許すためには,当該宿所を生活の本拠とする主観的意思を確認する必要があるが,転居届を提出するということは,その者がその宿所を住所とする主観的意思を有していることを推認させる最も有力な資料になると思われることから,特定の簡易宿所を生活の本拠とする主観的意思の確認をする目的で転居届の提出を求めるという方針自体には,一定の合理性があると考えられる。 もっとも,生活の本拠たる住所と住民票の所在はあくまで別個のものであるから,住所と認めるために住民票が所在することは必ずしも必要ないのであり,また,主観的意思を確認する手段は,転居届の提出に限られず,その他の方法によることも可能であると考えられるから,投票事務従事者が,他の資料等により簡易宿所等を生活の本拠とする主観的意思が確認で - 17 -きるにもかかわらず,あくまで転居届の提出に固執して投票を拒むというような場合には,問題があるというべきである。しかしながら,本件においては,前記のとおり,原告自身が,Qに自己の住所が存在することを否定する かわらず,あくまで転居届の提出に固執して投票を拒むというような場合には,問題があるというべきである。しかしながら,本件においては,前記のとおり,原告自身が,Qに自己の住所が存在することを否定するような態度をとっていたことから,他にQが生活の本拠であるという主観的意思を有していることを確認するに足りる資料を提出することが見込めなかったと考えられ,Cら及びDとしては,転居届の提出や職権による登録への同意により主観的意思確認ができない限り,投票を拒否する態度をとらざるを得なかったと考えられる。そうであれば,本件選挙当日の原告に対するCら及びDの対応はやむを得ないものといえるから,原告の上記主張を採用することはできない。  投票立会人に対する意見聴取について原告は,投票管理者Bが,本件投票拒否の際,2人の投票立会人へ意見聴取を行っていないから,本件投票拒否は国家賠償法上違法である旨主張し,投票管理者Bの平成22年11月10日付け陳述書(甲11)には,本件投票拒否の際,投票立会人に意見を求めたことはない旨の記載がある。しかしながら,当該陳述書は,本件選挙から3年が経過した後に作成されたものであって,Bの各陳述書(甲10,11,乙9)によれば,Bは,実際には本件選挙における具体的な原告との間のやりとりについて,明確に記憶していないことがうかがわれるのであり,上記陳述書(甲11)の記載も,B自身が直接投票立会人らに意見を求めて聞いたことがないことを述べているだけで,事務補助者を介して意見聴取が行われたことを否定するものではない。 そして,前記のとおり,本件投票所における原告との交渉等は長時間に及んでおり,原告との交渉経緯や本件投票拒否の状況は,本件投票所内にいた投票立会人らも当然認識していたものと認められるところ,本件投票拒否に当たって投 り,本件投票所における原告との交渉等は長時間に及んでおり,原告との交渉経緯や本件投票拒否の状況は,本件投票所内にいた投票立会人らも当然認識していたものと認められるところ,本件投票拒否に当たって投票立会人らから異議が出された形跡はないのであり,本件投票拒否に当たって投票管理者及び投票立会人らに状況を説明し,投票拒否の同意を - 18 -得た旨のDの供述(乙11,証人D)は十分信用することができる。上記Dの供述に照らせば,上記陳述書(甲11)により,本件投票拒否について投票立会人に意見聴取を行っていないと認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はなく,原告の上記主張を採用することはできない。 2 本件選挙の際,原告に仮投票をさせなかった違法があるかどうか(争点②)について 公選法50条3項は,投票の拒否の決定を受けた者において不服があるときは,投票管理者は,その者に仮投票をさせなければならない旨規定している。前記認定事実のとおり,原告は,本件投票所の投票管理者であるBから,原告の投票を拒否する旨記載されたメモ(甲3)を手渡され,本件投票拒否を受けたところ,これに反発し不服を述べていたというのであるから,同項の「投票の拒否を受けた者について,不服があるとき」に該当する。したがって,投票管理者であるBは,原告に対し,仮投票をさせる必要があったところ,前記前提となる事実のとおり,原告は仮投票をしていない。 この点について,被告市は,本件投票所において,原告に対する対応に当たっていたDが,原告に対し,仮投票の制度について十分な説明をし,仮投票を行うことを促したところ,原告はあくまで本投票をすることにこだわり,仮投票を拒否したのであり,原告に対して仮投票を行う機会が与えられたのであるから,原告が仮投票をしなかったことについて何 ,仮投票を行うことを促したところ,原告はあくまで本投票をすることにこだわり,仮投票を拒否したのであり,原告に対して仮投票を行う機会が与えられたのであるから,原告が仮投票をしなかったことについて何ら問題となる点はない旨主張し,Dもその旨供述する(乙11,証人D)。  そこで,本件投票拒否の際,原告に仮投票の機会が与えられたかどうかについて検討すると,Dは,原告に仮投票についての説明をした経緯について,要旨次のとおり証言する。 ア Dは,Cらから原告に対する対応を引き継いだ後,原告に対し,Qを住所とする転居届を提出すれば投票が可能である旨説明するとともに,転居届を提出しなくても仮投票をすることが可能である旨伝え,その際,仮投 - 19 -票の制度について具体的な説明をした。しかし,原告は,「仮投票ではなく本投票をさせろ」などと述べ,仮投票をすることを拒んでいた。 イ原告が転居届を提出することも職権で住民票を回復することも拒んでいたことから,投票管理者であるBにより本件投票拒否がされたが,その後も原告は,投票拒否について不服を述べていた。しかし,Dは,既に時刻が午後9時を過ぎており,開票作業をする必要があったことから,原告に対し,退去を求めることとし,最後に原告に対し,原告が転居届の提出もせず,仮投票も拒否しているため,投票の拒否をした旨告げた上で,原告及び原告と共に残っていた原告の支援者を本件投票所から退出させた。  以上のDの証言につき,まず,原告が仮投票の説明がされたにもかかわらず,これを拒んだという点については,これを裏付ける客観的証拠はない。 特に,本件投票所においては,住民票を消除された者が投票に来た場合には,調査票兼宣誓書という書面を作成し,対応の経緯,投票拒否や仮投票がされた場合にはその旨を記録することとさ ける客観的証拠はない。 特に,本件投票所においては,住民票を消除された者が投票に来た場合には,調査票兼宣誓書という書面を作成し,対応の経緯,投票拒否や仮投票がされた場合にはその旨を記録することとされていたところ(甲19,証人D),Dによれば,原告については,調査票兼宣誓書の作成自体がされていないというのである。しかしながら,原告のように,転居届を提出すれば投票が可能である旨促したにもかかわらず,これが拒否されたということは,他にあまり例がない珍しい事態であったというのであるから(証人C,証人D),そのような原告に対する対応の経緯については,特に慎重に調査票兼宣誓書に記録しておくのが自然である。それにもかかわらず,調査票兼宣誓書の作成自体がされていないということは,原告に対する対応が適正に行われたこと自体を疑わせるものであり,原告に対し,仮投票についての説明を適切に行ったという上記Dの証言の信用性についても,疑いを生じさせるものである。  また,上記のDの証言を前提としても,少なくとも原告は,本件投票拒否がされた後に,改めて仮投票の説明を受けたり仮投票をするよう促されたり - 20 -することなく,退出させられたものと認められる(なお,Dは,陳述書(乙11)及び証人尋問の当初の段階では,上記のとおり証言していたにもかかわらず,その後,本件投票拒否後に改めて仮投票をするかどうか原告に確認したかどうかを質問されるや「最後に聞きました。」などと証言内容を変遷させているが,このような変遷に合理的な理由は認められない。したがって,仮に仮投票の説明をした旨のDの供述の信用性が認められるとしても,本件投票拒否後に確認した旨の変遷後の証言を信用することはできない。)。 Dの上記証言によれば,原告は,あくまで本投票をすることにこだわって仮投票 明をした旨のDの供述の信用性が認められるとしても,本件投票拒否後に確認した旨の変遷後の証言を信用することはできない。)。 Dの上記証言によれば,原告は,あくまで本投票をすることにこだわって仮投票を拒んでいたというのであるが,仮投票は,本投票を拒まれた者について不服がある場合に,一旦仮に投票をさせ,開票の際に開票管理者及び立会人により当該投票の有効無効を決することとさせることにより,投票拒否を受けた者に再審査の機会を確保する制度であり(証人D,弁論の全趣旨),投票拒否をされた場合にも仮投票をすれば,開票の際の判断で当該投票が有効と認められる場合もある。そうであれば,本件投票拒否により本投票をすることができないことが確実になった段階で,改めて原告に仮投票を行うかどうかについて確認をすれば,原告が仮投票を希望した可能性も否定できない。 そうすると,仮にDの証言するとおり,本件投票拒否がされる前にDが原告に仮投票についての説明をし,原告がその時点では仮投票を拒むかのような言動をしていたとしても,本件投票拒否がされた段階で,改めて原告に対し,仮投票の機会を与える必要があったというべきである。それにもかかわらず,本件投票拒否後,仮投票の機会を改めて与えることなく本件投票所から退去することを求めたというのであるから,原告について,仮投票の機会が十分に与えられなかったものといえる。  以上からすれば,本件投票拒否の際,原告に仮投票の機会が十分に与えられなかったものと認められ,これは,公選法50条3項に反し,本件投票所 - 21 -の投票事務従事者の職務上の注意義務に違反するものであるといえるから,国家賠償法上も違法であると評価することができる。 3 被告らの責任(争点③)について 本件投票所において行われた投票に関する事務は,大 事者の職務上の注意義務に違反するものであるといえるから,国家賠償法上も違法であると評価することができる。 3 被告らの責任(争点③)について 本件投票所において行われた投票に関する事務は,大阪市議会議員選挙に関するものは,本来的な被告市の事務として,大阪府議会議員選挙に関するものは,地方自治法2条9項2号の定める第2号法定受託事務として(公選法275条2項1号),いずれも,被告市の事務として行われたものである。 したがって,当該事務の遂行に当たって国家賠償法上違法な行為があり,これによって第三者に損害が生じた場合には,被告市が国家賠償法1条1項に基づく責任を負うというべきである。 なお,原告は,本件投票所における業務のうち,大阪府議会議員選挙に関するものについては,被告府も責任を負う旨主張する。しかしながら,第2号法定受託事務は,本来都道府県が行うべき事務であるものの,市町村が,自らの権限を自らの責任において行使して行う事務であるから,本件において,大阪府議会議員選挙に関して行われた事務につき,被告市の職員が故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には,被告市が国家賠償法1条1項に基づく責任を負うことになり,被告府が責任を負うものではない。 もっとも,第2号法定受託事務については,都道府県が市町村の行為に具体的に関与した場合には,都道府県についても,このような関与を公権力の行使と捉えて,国家賠償法1条1項に基づく責任を負う可能性はあり得る。しかしながら,本件投票所における大阪府議会議員選挙に関する業務につき,被告府が具体的な関与をしていたと認めるに足りる証拠はなく,他に被告府の責任を認める事実の主張立証はない。したがって,本件選挙に係る事務に違法があり,これにより原告に損害が生じたとしても,被告府としては,国家 的な関与をしていたと認めるに足りる証拠はなく,他に被告府の責任を認める事実の主張立証はない。したがって,本件選挙に係る事務に違法があり,これにより原告に損害が生じたとしても,被告府としては,国家賠償法1条1項に基づく責任を負わないというべきであり,原告の上記主張は理由がない。 - 22 - 上記2のとおり,本件において,投票管理者ら投票事務従事者が原告に対し本件投票拒否の後に仮投票の機会を与えなかったことは,職務上の義務に違反するものであり,国家賠償法上違法であると認められ,かつ,これについて過失があると認められる。したがって,被告市は,これにより原告に生じた損害について国家賠償法1条1項に基づき賠償する義務を負うというべきである。 4 原告が被った損害の有無及び額(争点④)について以上のとおり,原告は,本件選挙において仮投票をすることができなかったことにより,精神的苦痛を被ったものというべきである。 これに対し,被告市は,原告が仮投票をしたとしても,原告に対する投票拒否は適法であったのであるから,それが本投票として認められた可能性は極めて低く,仮投票をさせなかったことが違法であるとしても,原告に損害は生じない旨主張する。しかしながら,仮投票の制度は,選挙権の行使の重大さに鑑み,投票拒否をする際には慎重な手続を要することとしたものであって,適正な手続を受けることができなかったことに対する精神的損害の発生を観念することが可能である。 そして,原告の被った精神的損害の程度について検討すると,投票事務従事者らの義務違反の内容や,前記のとおり,本件選挙における原告の住所要件を認めることはできず,原告が仮投票の機会を与えられなかったことが選挙権の行使そのものを妨げられるものではなかったことなど本件の一切の事情を考慮すれば,原 記のとおり,本件選挙における原告の住所要件を認めることはできず,原告が仮投票の機会を与えられなかったことが選挙権の行使そのものを妨げられるものではなかったことなど本件の一切の事情を考慮すれば,原告に対する損害賠償として,慰謝料3000円の支払を命ずるのが相当である。 5 結論以上のとおりであるから,原告の請求は,被告市に対して3000円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからその限度で認容し,被告市に対するその余の請求及び被告府に対する請求はいずれも理由がな - 23 -いから棄却することとし,なお,仮執行宣言については相当でないから付さないこととして,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官山田 明 裁判官徳地 淳 裁判官藤根桃世

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