平成23(ワ)1371 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成25年5月8日 広島地方裁判所 棄却
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判決文本文11,536 文字)

主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。事実及び理由第1 請求 1 平成23年(ワ)第1371号事件(以下「第一事件」という。)関係被告らは,連帯して,別紙1請求額一覧表の「原告氏名」欄記載の各第一事件原告らに対し,同表の「損害額(A合計とB合計の差額)」欄記載の各金員並びにこれに対する被告a は平成23年7月23日から,被告b 及び被告c は同月24日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 平成23年(ワ)第1787号事件(以下「第二事件」という。)関係被告らは,連帯して,別紙2請求額一覧表の「原告氏名」欄記載の各第二事件原告らに対し,同表の「損害額(A合計とB合計の差額)」欄記載の各金員並びにこれに対する被告a は平成23年9月11日から,被告b 及び被告c は同月12日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 平成23年(ワ)第1962号事件(以下「第三事件」という。)関係被告らは,連帯して,別紙3請求額一覧表の「原告氏名」欄記載の各第三事件原告らに対し,同表の「損害額(A合計とB合計の差額)」欄記載の各金員並びにこれに対する被告a は平成23年10月13日から,被告b 及び被告cは同月14日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 平成23年(ワ)第2182号事件(以下「第四事件」という。)関係被告らは,連帯して,別紙4請求額一覧表の「原告氏名」欄記載の各第四事件原告らに対し,同表の「損害額(A合計とB合計の差額)」欄記載の各金員並びにこれに対する被告a は平成23年11月17日から,被告b 及び被告cは同月18日から 覧表の「原告氏名」欄記載の各第四事件原告らに対し,同表の「損害額(A合計とB合計の差額)」欄記載の各金員並びにこれに対する被告a は平成23年11月17日から,被告b 及び被告cは同月18日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 平成24年(ワ)第542号事件(以下「第五事件」という。)関係被告らは,連帯して,別紙5請求額一覧表の「原告氏名」欄記載の各第五事件原告らに対し,同表の「損害額(A合計とB合計の差額)」欄記載の各金員並びにこれに対する被告a は平成24年5月4日から,被告c は同月5日から,被告b は同月6日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,株式会社武富士(以下「武富士」という。)との間で金銭消費貸借取引を継続して行ってきた者やその相続人が原告となって,同取引において武富士の取締役らであった被告らが利息制限法違反となるような利息請求を継続し,同取引に基づいて発生する過払金の額を増大させたことは,会社法429条所定の悪意・重過失による任務懈怠に当たるとして,被告らに対し,その損害の賠償を求めた事案である。 1 前提事実(証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがない) 武富士は,貸金業法(平成18年法律第115号による改正前の貸金業の規制等に関する法律。以下,特に断らない限り,同改正の前後を通じて「貸金業法」という。)3条所定の登録を受けた貸金業者であったが,平成22年9月28日に会社更生手続を申し立て,同年10月31日に同手続の開始決定を受けた。  被告b は,平成16年6月から平成22年9月28日まで,武富士の代表取締役であった者である。  被告a は,平成16年6月29日から平成20年まで,武富士の代表取締役 を受けた。  被告b は,平成16年6月から平成22年9月28日まで,武富士の代表取締役であった者である。  被告a は,平成16年6月29日から平成20年まで,武富士の代表取締役であった者である。  被告c は,平成14年6月27日から平成16年6月29日までの間及び平成20年6月から平成22年9月28日までの間,武富士の代表取締役であった者である。 2 争点及び当事者の主張 利息制限法を遵守させる任務の懈怠を理由とする会社法429条1項に基づく責任の有無に関する争点ア任務の内容及びその懈怠(原告らの主張)武富士は,貸金業者として,当然に貸金業法及び利息制限法の制約の規制に従って顧客に対する金銭の貸付けを行うことが求められる。 武富士の約定利息に基づく利息請求は,遅くとも平成16年4月の時点では,法律的・事実的根拠を欠いていたのに,被告らはこれを改めず,武富士が顧客から利息制限法所定の制限利率を超える利息(以下「制限超過部分」という。)を受領するという違法な事業活動を継続することを放置していた。 (被告らの主張) 原告ら主張の制限超過部分の受領を放置することが任務懈怠と評価されるためには,被告らが武富士に対する義務として,顧客から制限超過部分を受領することをやめさせる義務,すなわち,いまだ不当利得返還請求をしていない顧客についても自発的に約定利率を利息制限法所定の制限利率に引き直した計算(以下「引き直し計算」という。)を行った上,過払金があれば,以後の利息受領を中止させるべき義務を負担していたことが前提になるはずである。しかしながら,改正貸金業法の施行(平成22年)以前においては,貸金業者が,顧客との間の金銭消費貸借契約及びみな あれば,以後の利息受領を中止させるべき義務を負担していたことが前提になるはずである。しかしながら,改正貸金業法の施行(平成22年)以前においては,貸金業者が,顧客との間の金銭消費貸借契約及びみなし弁済規定に基づき制限超過利息を受領することについては,法律上も,また監督官庁からの行政指導においても,何ら禁止されていなかったものである。そうである以上,貸金業者に対し,改正貸金業法の施行以前に締結した契約に関して,いまだ顧客からの不当利得返還請求すらない段階でも,自発的に引き直し計算の上,過払金があれば,以後の収受を中止すべき義務なるものが一般的に課されていたとはいえない。  平成16年4月の時点では,みなし弁済規定が存在したのであり,その適用を前提に制限超過部分を受領することは可能だったのだから,被告らが約定利率を利息制限法所定の制限利率に引き下げる任務を負ういわれはない。 イ上記アの任務懈怠についての悪意又は重過失の有無(原告らの主張)被告らは,武富士と顧客との取引が利息制限法に適合しないことを当然に知っていた。 (被告らの主張)争う。  みなし弁済が成立する体制整備に関する監視義務の懈怠を理由とする会社法429条1項に基づく責任の有無に関する争点ア任務の内容及びその懈怠(原告らの主張) 被告らは,平成16年4月の時点では,武富士をして,貸付債権の評価損という損害あるいは顧客に対する不当利得返還債務を負うという全体財産の損害を生じさせないようにすべき監視義務を負っていた。 被告らは,上記義務を怠り,武富士と顧客との取引が利息制限法に適合するよう体制を整備し,貸金業法に基づく業務を行い,みなし弁済が成立する体 じさせないようにすべき監視義務を負っていた。 被告らは,上記義務を怠り,武富士と顧客との取引が利息制限法に適合するよう体制を整備し,貸金業法に基づく業務を行い,みなし弁済が成立する体制を整備すること(その整備の内容としては,例えば,顧客から受領する利息が利息制限法所定の制限利率の範囲内となるように契約を是正させることや過去の取引につき利息制限法に基づき引き直し計算をした上での貸付額を計算する等である。)ないしは利息制限法に違反し,みなし弁済も成立しない取引であればその取引を停止する措置を執ることを全く行わなかった。  被告らは引き直し計算は容易でないと主張するが,武富士の会社更生の段階では引き直し計算はされており,これに必要な取引履歴は武富士が保有していたことからすれば,平成16年4月の時点で,全顧客について,引き直し計算をすることは十分に可能だった。 (被告らの主張)武富士は,その時々の法令,判例,これを受けた金融庁等の指導に基づき,みなし弁済規定の適用を受けるための体制を整えており,平成16年4月1日以降,少なくとも同種の消費者金融会社が実施してきた対応策と同程度の対応策は実施しており,被告らにみなし弁済が成立する体制を整備しなかった任務懈怠は存在しない。 また,被告らが,武富士に対する職務上の義務として,顧客との取引について利息制限法に基づく引き直し計算をする義務を負っているわけではなく,平成16年4月1日時点で,取引の分断や時効成立の有無等についての統一的見解もない中,全取引について引き直し計算を行うことはおよそ不可能である。 イ上記アの任務懈怠についての悪意又は重過失の有無(原告らの主張) 被告らは,武富士と顧客との取引が利息制限法に適合しないこと 引き直し計算を行うことはおよそ不可能である。 イ上記アの任務懈怠についての悪意又は重過失の有無(原告らの主張) 被告らは,武富士と顧客との取引が利息制限法に適合しないことを知っていた。  平成8年以降,みなし弁済規定の適用を厳格に解釈する裁判例が複数あり,さらに,最高裁判所は,平成16年2月20日,商工ローン業者による消費者金融について,ATMを利用した元利金の支払手続が,貸金業法18条に定める書面の交付に該当しないという趣旨の判決をしたこと(以下,この判決を「平成16年判決」という。),武富士の平成16年3月期有価証券報告書には,平成16年判決を受けて,みなし弁済規定の厳格な適用が求められており,貸金業法17条1項所定の記載事項を記載した書面や貸金業法18条1項所定の記載事項を記載した書面の交付ができていない旨の記載があったことからすれば,被告らは,遅くとも,平成16年3月期の有価証券報告書が作成されたころには,武富士が定型的に実施している契約締結の方法や,元金・利息の受領方法が,みなし弁済規定に定める手続を満たしておらず,したがって,武富士が制限超過部分の支払を受ける権利を有していないことを認識していたといえ,または容易に知り得た。  被告らは,遅くとも,上記の時点で,武富士が顧客との取引を停止していないことを当然に知っていた。 (被告らの主張)否認する。被告らは,武富士が制限超過部分を受領する行為は法律的・事実的根拠に基づくものと認識しており,また,このように認識したことについて何ら過失はない。  顧客に対して法律的・事実的根拠を欠く請求を行わないような社内の体制整備に関する監視義務の懈怠を理由とする会社法429条1項に基づく責任の有無に関す 認識したことについて何ら過失はない。  顧客に対して法律的・事実的根拠を欠く請求を行わないような社内の体制整備に関する監視義務の懈怠を理由とする会社法429条1項に基づく責任の有無に関する争点ア任務の内容及びその懈怠(原告らの主張)貸金の返還請求ないし受領が暴行,脅迫等を伴うものであったり,貸金業者が,法律的・事実的根拠を欠くものであることを知りながら,又は通常の貸金業者であれば容易にそのことを知り得たのに,あえて貸金返還請求をしたりしたなど,その行為の態様が社会通念に照らして著しく相当性を欠く場合には不法行為を構成する。 武富士は,遅くとも,平成15年以降,顧客に対して貸金返還請求訴訟を提起する際には利息制限法所定の制限利率に基づく計算を行った上で訴訟を提起するなどしており,いわゆるみなし弁済の主張は行っていなかった。そして,平成16年の有価証券報告書の記載や顧客データ統計分析システムであるSASの活用の事実等からすれば,武富士は,利息制限法所定の制限利率を超える約定利率に基づく残債務は,これを顧客に請求することが法律的・事実的根拠を欠くものであることを知り,または容易にそのことを知り得た。被告らは,武富士をして,顧客に対して法律的・事実的根拠を欠く請求を行わないように社内の体制を整備する義務を負っていた。 武富士は,平成16年4月以降,みなし弁済の成立の立証は困難という認識のもと,あえて可能な限り請求を続ける方針を採用していたのであり,被告らは,上記義務を怠り,武富士が顧客に対し,利息制限法所定の制限利率を超える約定利率に基づく残債務を請求する状況を改善しなかった。 (被告らの主張)争う。武富士が貸金返還請求訴訟において,みな 怠り,武富士が顧客に対し,利息制限法所定の制限利率を超える約定利率に基づく残債務を請求する状況を改善しなかった。 (被告らの主張)争う。武富士が貸金返還請求訴訟において,みなし弁済の主張を行っていなかったからといって,貸金債権が法律的・事実的根拠を欠くことを認識していたことにならないし,訴訟提起するにあたって,当該事案の内容を検討し,請求を一部請求にとどめるといった訴訟方針をとったとしても,そのことで違法,不当があるとはいえない。 イ上記アの任務懈怠についての悪意又は重過失の有無(原告らの主張)上記イ(原告らの主張)と同じ。 (被告らの主張)否認する。  上記ないしの各責任共通の争点ア原告らの損害の有無及びその額(原告らの主張)原告らには,それぞれ別紙1ないし5の各請求額一覧表の各「原告氏名」欄記載の原告らに対応する同表の「損害額(A合計とB合計の差額)」欄 記載の損害がある。 (被告らの主張)否認し,争う。 イ上記ないし各ア(原告らの主張)記載の任務懈怠と上記アの損害との間の相当因果関係の有無(原告らの主張)被告らが,平成16年3月期の有価証券報告書が作成された時点で,武富士の貸金取引において制限超過部分の収受をやめていれば,その後に原告らに新たな過払金が生じることはなかった。そのため,少なくとも平成16年4月1日時点で過払金が発生していた原告らについては,同日時点と武富士の会社更生手続開始決定日の前日である平成22年10月30日時点での過払元利金合計金額を比較し,後者の金額が多ければ,これと平成16年4月1日時点での過払元利金合計額との差額が上記 同日時点と武富士の会社更生手続開始決定日の前日である平成22年10月30日時点での過払元利金合計金額を比較し,後者の金額が多ければ,これと平成16年4月1日時点での過払元利金合計額との差額が上記ないし各ア(原告らの主張)記載の任務懈怠と相当因果関係ある損害といえる。 また,平成16年4月1日時点において,なお残債務があった原告らについては,会社更正手続開始決定日の前日である平成22年10月30日の過払元利金合計金額が,上記ないしの各ア(原告らの主張)記載の任務懈怠と相当因果関係ある損害といえる。 (被告らの主張)否認し,争う。上記ア(原告らの主張)記載の任務につき,仮に,被告らがみなし弁済が成立するような体制を整備した場合には,原告らは,金銭消費貸借契約に基づく利息の支払義務を負うのであるから,原告ら主張の損害との相当因果関係を欠くというべきである。 第3 当裁判所の判断 1 利息制限法を遵守させる任務の懈怠を理由とする会社法429条1項に基づく責任の有無に関する争点について  任務の内容及びその懈怠についてア原告らは,武富士による顧客に対する制限超過部分の請求は,平成16年4月の時点で,法律的・事実的根拠を欠いていたのに,これを改めなかったことが被告らの任務懈怠に当たると主張する。この点,株式会社の取締役の任務には,会社に法令を遵守させることが当然含まれるものであり,利息制限法及び貸金業法は,貸金業を営む会社を名宛人として,会社がその業務を行うに際して遵守すべき規範を定めているから,その遵守は当然に貸金業を営む武富士の取締役であった被告らの任務の内容であったということができる。そして,証拠(甲3・24頁,25頁)及び弁論の全趣旨によれば,武富士においては,平成 いるから,その遵守は当然に貸金業を営む武富士の取締役であった被告らの任務の内容であったということができる。そして,証拠(甲3・24頁,25頁)及び弁論の全趣旨によれば,武富士においては,平成16年4月時点で,貸金業法17条所定の事項を記載した書面や同法18条所定の事項を記載した書面の各交付に問題があり,武富士の顧客の中にはみなし弁済が成立しない可能性のある顧客が含まれていたことが認められる。したがって,武富士による顧客に対する制限超過部分の請求の中に,平成16年4月時点で,みなし弁済が成立しないことから,貸金業法に違反し,利息制限法に違反する結果となる部分のあったことは否定できないところである。イもっとも,本件における原告らのように平成16年4月の時点で既に取引が継続している顧客について,利息制限法所定の制限利率を適用するためには,引き直し計算を行わなければならないところ,利息制限法を遵守した事業活動に改めることが被告らの任務であったというためには,その前提として,被告らに引き直し計算を行うべき法的義務が認められなければならないというべきである。この点について検討するに,引き直し計算をするにあたっては,顧客ごと,かつ取引ごとに,みなし弁済の適用の有無,取引の一連性,期限の利益喪失あるいはその宥恕の有無,悪意の受益者性,利息の発生時期,消滅時効の起算点,過払元金の増減と利息制限法の適用利率,取引履歴廃棄分の推定計算の必要性の有無,推定による金額の算定等,その当時顕在化していなかった問題点を含め様々な法律上の問題や事実認定上の問題がある。 そして,どのような前提条件の下で引き直し計算するかによって,計算結果が大きく異なり,上記問題点等に関する法律的,事実的判断は個別性が強い上,監督官庁から 々な法律上の問題や事実認定上の問題がある。 そして,どのような前提条件の下で引き直し計算するかによって,計算結果が大きく異なり,上記問題点等に関する法律的,事実的判断は個別性が強い上,監督官庁から引き直し計算に関する指針等も示されていない。このような状況下にあって,過払金返還請求を行っていない顧客との取引についてまで,あらかじめ被告らに引き直し計算をすべき義務があると解することは,不可能ないし著しい困難を強いる結果となるものであるし,前提条件の定め方如何によっては,引き直し計算を行うこと自体が武富士の利益を損なう行為として任務懈怠責任を問われかねないものである。これらのことに照らすと,被告らに引き直し計算を行うべき法的義務があったとは認めることはできない。このように,引き直し計算を被告らの義務と認めることができない以上,被告らに,これがあることを前提とする利息制限法を遵守した状態への改善任務があったということはできない。ウこれに対し,原告らは,利息制限法を遵守する状態にすることが不可能であるなら,取引を停止すべきであったとも主張する。しかしながら,上記イのとおり,引き直し計算の前提条件の定め方いかんによっては,貸付金が残る顧客も十分に想定できるところ,過払金が生じているのか,貸付金が残っているのかを区別することなく,取引を一律に停止するといった措置を執ることは,武富士の利益を損ない,武富士の破たんを早める行為として,かえって任務懈怠責任を問われかねないものである。したがって,このような措置を執ることが被告らの任務として法的に要請されていたものと解することはできない。エしたがって,原告らが主張するところの利息制限法を遵守させる任務を認めることはできない。 小括よって,被告らの利息 要請されていたものと解することはできない。エしたがって,原告らが主張するところの利息制限法を遵守させる任務を認めることはできない。 小括よって,被告らの利息制限法を遵守させる任務の懈怠を理由とする会社法429条1項に基づく責任については,その余の点(悪意又は重過失の有無,損害の発生及び因果関係の点)について検討するまでもなく,理由がない。 2 みなし弁済が成立する体制整備に関する監視義務の懈怠を理由とする会社法429条1項に基づく責任の有無について 任務の内容及びその懈怠についてア原告らは,遅くとも平成16年4月時点で,被告らには,武富士の会社財産に損害を生じさせないよう,みなし弁済が成立する体制を整備し,利息制限法に違反し,みなし弁済も成立しないのであれば,取引を停止する措置を執るべき任務がありながら,これを懈怠したと主張する。本件の原告らは,平成16年4月の時点で既に取引が継続していたから,契約締結後の体制の整備の問題として,契約途中で従前の取引にみなし弁済が成立しないことが発覚したことにより,原告らの指摘する引き直し計算をした上で貸付額を計算する方法が考えられないことはない。しかし,上記1イのとおり,被告らに引き直し計算を行う義務が認められないのであるから,引き直し計算を前提とする貸付額の再計算措置を執るべき任務が被告らにあったと認めることはできない。イまた,原告らは,顧客から受け取る利息が利息制限法所定の制限利率の範囲内となるよう契約を是正する方法を指摘する。しかし,その意味するところが,単純に約定利率を利息制限法所定の制限利率に変更するというものであるとしても,平成16年4月の時点で既に取引が継続している顧客について,利息制限法所定の制限利率 る。しかし,その意味するところが,単純に約定利率を利息制限法所定の制限利率に変更するというものであるとしても,平成16年4月の時点で既に取引が継続している顧客について,利息制限法所定の制限利率を適用するためには,引き直し計算を行って残元本を確定させなければならないところ,被告らに引き直し計算を行う義務が認められないことは,前記1イのとおりである。また,当時,全ての顧客についてみなし弁済が成立しないことが確定していたわけでもなく,その認識が被告らにあったとはいえないから,上記のような利率のみの変更義務が被告らにあったとも言い難い。のみならず, 上記のような契約の中途変更では,武富士に対する過払金額が減少することにはなっても,原告らが本件における損害であると主張する平成16年4月当時から武富士の会社更生手続開始決定日までの増加した過払額とは,損害についての考え方及び計算方法が異なっているところ,契約の中途変更の場合の損害について何らの主張立証はないから,結局,本件請求にかかる損害の間に相当因果関係は認められないと考えられる。ウその他,被告らに,みなし弁済を成立させる何らかの体制を構築すべき義務が観念できるかどうかということを考えてみても,上記1で検討したとおり,契約途中での取引について,みなし弁済を成立させるためには,最低でも,引き直し後の元本額と乖離しない程度の元本額を前提とした利息,損害金及び元本額への充当額を記載した貸金業法18条1項所定の書面の交付が必要なのであり,必然的に引き直し計算を要するものである。 そして,引き直し計算義務を被告らが負わないことは,上記1イのとおりであるから,引き直し計算を前提とする体制を構築・整備することが被告らの任務となっていたということはできない。 である。 そして,引き直し計算義務を被告らが負わないことは,上記1イのとおりであるから,引き直し計算を前提とする体制を構築・整備することが被告らの任務となっていたということはできない。エまた,原告らは,みなし弁済を成立させる体制を整備することが困難であるなら,取引を停止する措置をとるべきだったとも主張するが,上記1ウと同様の理由により,停止措置をとることが被告らの任務であったとはいえない。 小括よって,被告らのみなし弁済が成立する体制整備に関する監視義務の懈怠を理由とする会社法429条1項に基づく責任については,その余の点(悪意又は重過失の有無,損害の発生及び因果関係の点)について検討するまでもなく,理由がない。 3 顧客に対して法律的・事実的根拠を欠く請求を行わないような社内の体制整備に関する監視義務の懈怠を理由とする会社法429条1項に基づく責任の有無について 任務の内容及びその懈怠についてア原告らは,武富士が顧客に対し,法律的・事実的根拠を欠くことを知りながら,あるいは容易にそれを知りえたのに,制限超過部分の請求を継続しており,遅くとも平成16年4月以降,被告らには,このような請求を継続することがないような体制を整備すべき義務がありながら,これを怠ったと主張する。しかしながら,仮に,武富士が,顧客の中にみなし弁済が成立しない者が含まれていることを認識していたとしても,貸付元本が残っている限り,制限超過部分は貸付元本に充当されるから,みなし弁済が成立しないという認識だけで,直ちに制限超過部分の請求がその総額において,法律的・事実的根拠を欠くことにはならないし,少なくともこれが顧客に対する不法行為を構成するような社会通念上の相当性を欠くものとはいえない。結 認識だけで,直ちに制限超過部分の請求がその総額において,法律的・事実的根拠を欠くことにはならないし,少なくともこれが顧客に対する不法行為を構成するような社会通念上の相当性を欠くものとはいえない。結局,法律的・事実的根拠を欠く請求か否かは,引き直し計算をしなければ判明せず,武富士が平成16年4月当時,引き直し計算をしていたという事情は認められないから(原告らの指摘するSASは,平成21年当時のシステムであり平成16年4月当時に武富士が引き直し計算をしていたとは認められない(甲16の3)。),原告らの主張の前提である武富士が法律的・事実的根拠を欠くことを知り,又は容易にこれを知りえたのに,顧客に対する約定利率による利息請求を継続していたという実態の存在を認めることができない。したがって,被告らにおいて,そのような請求を行わないよう体制を整備すべき義務を負っていたということもできない。イまた,仮に,武富士の顧客に対する貸付金及び利息請求の中に法律的・事実的根拠を欠き,これを容易に認識できるような部分があったとしても,そのような請求をやめるためには,結局は,武富士の顧客に対する貸付金及び利息請求について,これが,少なくとも総額において正当な権利行使の範囲内といえるのか,あるいは法律的・事実的根拠を欠くものなのかを識別できるような体制を構築する必要があるが,そのような識別をするには,引き直し計算が必要となるものというほかない。そして,引き直し計算をする義務について,これが被告らの義務といえないことは,上記1イで判断したのと同様であるから,引き直し計算を内容とするような体制の構築義務も当然に存在しないというべきである。 小括よって,被告らの顧客に対して法律的・事実的根拠を欠く請求を行わないような社内の体制整 同様であるから,引き直し計算を内容とするような体制の構築義務も当然に存在しないというべきである。 小括よって,被告らの顧客に対して法律的・事実的根拠を欠く請求を行わないような社内の体制整備に関する監視義務の懈怠を理由とする会社法429条1項に基づく責任については,その余の点(悪意又は重過失の有無,損害の発生及び因果関係の点)については検討するまでもなく,理由がない。 4 結論以上の次第で,原告らの請求にはいずれも理由がないから,これらを棄却することとして主文のとおり判決する。広島地方裁判所民事第3部裁判長裁判官梅本圭一郎裁判官上田賀代及び裁判官増子由一は,転補につき署名押印できない。裁判長裁判官梅本圭一郎

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