令和元年5月15日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成30年第27892号放送受信契約締結義務不存在確認請求事件口頭弁論終結日平成31年2月20日判決主文 1 本件訴えのうち,原告の住所地において,契約種別を衛星契約とする放送受信契約の締結義務が存在しないことの確認を求める部分及び契約種別を特別契約とする放送受信契約の締結義務が存在しないことの確認を求める部分を,いずれも却下する。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求原告は,原告の住所地において,被告と放送受信契約を締結する義務が存在しないことを確認する。 第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は,ワンセグ放送を受信できるカーナビゲーション(以下「本件カーナビ」という。)を自家用自動車に設置している原告が,同自動車の保管場所ではワンセグ放送を受信することができないから,放送法64条1項本文所定の 「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」に該当せず,仮に,同項本文所定の者に該当するとしても,原告は本件カーナビを被告の放送を視聴する目的で所有していないから,同項ただし書所定の「放送の受信を目的としない受信設備のみを設置した者」に該当すると主張して,被告に対し,被告と放送受信契約を締結する義務が存在しないことの確認を求める事案であ る。 2 関係法令⑴ 放送法64条1項本文は,協会(被告をいう。以下同じ。)の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は,協会とその放送の受信についての契約(以下「放送受信契約」という。)をしなければならないと規定し,同項ただし書は,放送の受信を目的としない受信設備の 送を受信することのできる受信設備を設置した者は,協会とその放送の受信についての契約(以下「放送受信契約」という。)をしなければならないと規定し,同項ただし書は,放送の受信を目的としない受信設備のみを設置した者につ いては,この限りでないと規定する。 ⑵ 日本放送協会放送受信規約(平成30年9月10日から施行されるもの。 以下「受信規約」という。乙3)は,放送法64条1項の規定により締結される放送受信契約について,以下のとおり定めている。 ア受信規約1条1項は,放送受信契約を,①地上契約(地上系によるテレ ビジョン放送のみの受信についての契約),②衛星契約(衛星系及び地上系によるテレビジョン放送の受信についての契約)及び③特別契約(地上系によるテレビジョン放送の自然の地形による難視聴地域又は列車,電車その他営業用の移動体において,衛星系によるテレビジョン放送のみの受信についての契約)に分けている。 イ受信規約1条2項は,上記アの各契約につき,受信機(家庭用受信機,携帯用受信機,自動車用受信機,共同受信用受信機等で,NHKのテレビジョン放送を受信することのできる受信設備をいう。以下同じ。)のうち,地上系によるテレビジョン放送のみを受信できるテレビジョン受信機を設置(使用できる状態に置くことをいう。以下同じ。)した者は地上契約, 衛星系によるテレビジョン放送を受信できるテレビジョン受信機を設置した者は衛星契約を締結しなければならないが,難視聴地域又は列車,電車その他営業用の移動体において,衛星系によるテレビジョン放送のみを受信できるテレビジョン受信機を設置した者は特別契約を締結するものとしている。 ウ受信規約2条1項は,放送受信契約は,世帯ごとに行うものとし,同条 3項は,同条1項の世帯 のみを受信できるテレビジョン受信機を設置した者は特別契約を締結するものとしている。 ウ受信規約2条1項は,放送受信契約は,世帯ごとに行うものとし,同条 3項は,同条1項の世帯とは,住居及び生計をともにする者の集まり又は独立して住居若しくは生計を維持する単身者をいい,世帯構成員の自家用自動車等営業用以外の移動体については住居の一部とみなすとしている。 3 前提事実(当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨から容易に認められる事実) ⑴ 原告は,肩書住所地に居住する女性である。 ⑵ 被告は,放送法により設立された法人であり(同法16条),「公共の福祉のために,あまねく日本全国において受信できるように豊かで,かつ,良い放送番組による国内基幹放送を行うとともに,放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行い,あわせて国際放送及び協会国際衛星放送を行うこと」 (同法15条)を目的としている。 ⑶ 原告は,自家用自動車に本件カーナビを設置しており,他に被告の放送を受信することのできる受信機を保有していない。 被告の業務委託先の担当者は,平成30年8月19日,原告の自宅を訪問し,原告に対し,本件カーナビを設置していることを理由として放送受信契 約の締結を求めたが,原告は,これに応じなかった。 ⑷ ワンセグ放送は,地上デジタル放送の周波数帯域1チャンネル分を構成する13セグメントのうち,1セグメントを用いて行われる,携帯電話等の移動体機器向けの地上デジタル放送サービスである。ワンセグ放送対応の受信機では,被告の地上系によるテレビジョン放送を受信することができるが, 衛星系によるテレビジョン放送を受信することはできない。(乙1,2) 4 争点及び争点に関する当事者の主張⑴ 契約種別を衛星契約又は 地上系によるテレビジョン放送を受信することができるが, 衛星系によるテレビジョン放送を受信することはできない。(乙1,2) 4 争点及び争点に関する当事者の主張⑴ 契約種別を衛星契約又は特別契約とする放送受信契約の締結義務が存在しないことについての確認の利益の有無(争点1。本案前の争点)(被告の主張) 本件カーナビでは衛星系によるテレビジョン放送を受信することはできな いから,被告は,原告が契約種別を衛星契約又は特別契約とする放送受信契約の締結義務を負わないことについては争わない。 したがって,本件訴えのうち,原告の住所地において,契約種別を衛星契約又は特別契約とする放送受信契約の締結義務が存在しないことの確認を求める部分は,いずれも確認の利益がない。 (原告の主張)争う。 ⑵ 原告は「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」(放送法64条1項本文)に該当するか(争点2)。 (被告の主張) 放送法64条1項所定の「設置」とは,被告の放送を受信することのできる受信設備を使用できる状態に置くことを意味する。 原告は,被告の放送を受信する機能を有する本件カーナビを自家用自動車に設置し,もって,本件カーナビをワンセグ放送を受信することのできる状態に置いたのであるから,「協会の放送を受信することのできる受信設備を 設置した者」に該当する。 自家用自動車は,一般に,移動のために使用するものであり,常に所有者の自宅敷地内に停められているということは想定できない。また,自家用自動車に設置されたカーナビのワンセグ機能については,一般に,自宅敷地内ではなく,当該自動車での移動中に又は移動先で利用することが想定される。 そうすると,自宅敷地内においては,自家 ,自家用自動車に設置されたカーナビのワンセグ機能については,一般に,自宅敷地内ではなく,当該自動車での移動中に又は移動先で利用することが想定される。 そうすると,自宅敷地内においては,自家用自動車に設置されたワンセグ機能付きカーナビにより被告の放送を受信することができない場合であっても,自家用自動車の通常の使用により自宅敷地外へ移動すれば,被告の放送を受信することができるのであるから,「協会の放送を受信することのできる受信設備」を使用できる状態に置いていることとなる。 したがって,仮に,原告の自宅敷地内においては本件カーナビにより被告 の放送を受信することができないとしても,原告が,本件カーナビをいつでも使用できる状態に置いていることに変わりはない。 なお,原告の自宅敷地付近においては,ワンセグ機能付きカーナビで被告の地上系によるテレビジョン放送を受信することができることが確認されているから,原告は,自家用自動車を自宅から少し移動させれば,直ちに本件 カーナビで被告の地上系によるテレビジョン放送を受信することができることからしても,本件カーナビをいつでも使用できる状態に置いていることは明らかである。 (原告の主張)放送法64条1項所定の「設置」とは,一定の場所に備え置くことを意味 するものであり,本件カーナビの設置場所は,自動車保管場所証明書に記載される自動車保管場所である原告の自宅敷地(栃木県芳賀郡a 町bc-d)内である。 同所では,被告の放送の電波が届いておらず,被告の放送を受信することができないから,原告は,「協会の放送を受信することのできる受信設備を 設置した者」に該当しない。 ⑶ 本件カーナビは「放送の受信を目的としない受信設備」(放送法64条1項ただし書)に該当 できないから,原告は,「協会の放送を受信することのできる受信設備を 設置した者」に該当しない。 ⑶ 本件カーナビは「放送の受信を目的としない受信設備」(放送法64条1項ただし書)に該当するか(争点3)。 (原告の主張)原告は,本件カーナビを自動車ナビゲーションのために購入したものであ って,テレビ放送を受信するために購入したものではない。原告は,本件カーナビでワンセグ放送を受信したことはなく,今後も受信する予定はないから,本件カーナビは「放送の受信を目的としない受信設備」に該当する。 (被告の主張)放送法64条1項ただし書所定の「放送の受信を目的としない受信設備」 とは,電波監視用の受信設備,電気店の店頭に陳列された受信設備,公的機 関の研究開発用の受信設備,受信評価を行うなどの電波監理用の受信設備等,放送の受信を目的としないことが客観的,外形的に明らかな場合をいうものと解される。受信設備の設置者が実際に放送を視聴していなかったり,主観的に放送の受信を目的としない意思を有していたりしたとしても,そのことをもって,当該受信設備が「放送の受信を目的としない受信設備」に該当す ることにはならない。 本件カーナビは,放送の受信を目的としないことが客観的,外形的に明らかであるとはいえないから,「放送の受信を目的としない受信設備」に該当しない。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(契約種別を衛星契約又は特別契約とする放送受信契約の締結義務が存在しないことについての確認の利益の有無)について前記前提事実⑷のとおり,ワンセグ放送対応の受信機では衛星系によるテレビジョン放送を受信することはできないところ,原告が契約種別を衛星契約又は特別契約とする放送受信契約の締結 の有無)について前記前提事実⑷のとおり,ワンセグ放送対応の受信機では衛星系によるテレビジョン放送を受信することはできないところ,原告が契約種別を衛星契約又は特別契約とする放送受信契約の締結義務を負わないことについては,当事者 間に争いがない。 したがって,本件訴えのうち,契約種別を衛星契約とする放送受信契約締結義務及び契約種別を特別契約とする放送受信契約締結義務が存在しないことの確認を求める部分は,いずれも確認の利益がないというべきである。 2 争点2(原告は「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」 (放送法64条1項本文)に該当するか。)について⑴ 放送は,憲法21条が規定する表現の自由の保障の下で,国民の知る権利を実質的に充足し,健全な民主主義の発達に寄与するものとして,国民に広く普及されるべきものである。放送法が,「放送が国民に最大限に普及されて,その効用をもたらすことを保障すること」,「放送の不偏不党,真実及 び自律を保障することによって,放送による表現の自由を確保すること」及 び「放送に携わる者の職責を明らかにすることによって,放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること」という原則に従って,放送を公共の福祉に適合するように規律し,その健全な発達を図ることを目的として(1条)制定されたのは,上記のような放送の意義を反映したものにほかならない。 上記の目的を実現するため,放送法は,公共の福祉のために,あまねく日 本全国において受信できるように放送を行うことを目的とする公共放送事業者と,それ以外の一般放送事業者とが,各々その長所を発揮するとともに,互いに他を啓もうし,各々その欠点を補い,放送により国民が十分福祉を享受することができるように図るべく,二本立て体制 公共放送事業者と,それ以外の一般放送事業者とが,各々その長所を発揮するとともに,互いに他を啓もうし,各々その欠点を補い,放送により国民が十分福祉を享受することができるように図るべく,二本立て体制を採ることとしたものである。そして,同法は,二本立て体制の一方を担う公共放送事業者として被 告を設立することとし,その目的,業務,運営体制等を規定し(第3章第3節経営委員会,第4節監査委員会,第5節役員及び職員,第7節財務及び会計),被告を,民主的かつ多元的な基盤に基づきつつ自律的に運営される事業体として性格付け,これに公共の福祉のための放送を行わせることとしたものである。 放送法が,被告につき,営利を目的として業務を行うこと及び他人の営業に関する広告の放送をすることを禁止し(20条4項,83条1項),事業運営の財源を受信設備設置者から支払われる受信料によって賄うこととしているのは,被告が公共的性格を有することをその財源の面から特徴付けるものである。すなわち,上記の財源についての仕組みは,特定の個人,団体又 は国家機関等から財政面での支配や影響が被告に及ぶことのないようにし,現実に被告の放送を受信するか否かを問わず,受信設備を設置することにより被告の放送を受信することのできる環境にある者に広く公平に負担を求めることによって,被告が上記の者ら全体により支えられる事業体であるべきことを示すものにほかならない 第1440号,第1441号同29年12月6日大法廷判決・民集71巻1 0号1817頁参照)。 以上のような公平な費用負担を求める受信料制度の趣旨に鑑みると,被告の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は,実際に放送を受信しているか否かにかかわらず,被告との間で放送受信契約を締結して受信料を支払 平な費用負担を求める受信料制度の趣旨に鑑みると,被告の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は,実際に放送を受信しているか否かにかかわらず,被告との間で放送受信契約を締結して受信料を支払わなければならないものというべきである。したがって,放送法64 条1項にいう「設置」とは,広く,被告の放送を受信することのできる受信設備を使用できる状態に置くことをいうと解するのが相当である。受信規約1条2項が「設置」について「使用できる状態におくことをいう。」と規定しているのも,このような解釈を前提にしたものであるといえる。 ⑵ 証拠(乙11)及び弁論の全趣旨によれば,原告の自宅敷地付近では,本 件カーナビにより,被告の地上系のワンセグ放送を受信することができることが認められる。そうすると,原告は,自家用自動車に本件カーナビを取り付けたことによって,被告の放送を受信することのできる受信設備を使用できる状態に置いたものであるから,「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」に該当するというべきである。 ⑶ これに対し,原告は,「設置」とは一定の場所に備え置くことを意味するとし,本件カーナビの設置場所となるべき自家用自動車の保管場所である原告の自宅敷地では,被告の放送を受信することができないから,原告は「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」に該当しないと主張する。 しかし,そもそも,原告の自宅敷地において本件カーナビにより被告の放送を受信することができない状況にあることをうかがわせる証拠はない。また,前記⑴のとおり,放送法が,公共放送事業者である被告の事業運営の財源を,被告の放送を受信することのできる設備を設置した者に広く公平に受信料を負担させることによって賄うこととした趣旨 拠はない。また,前記⑴のとおり,放送法が,公共放送事業者である被告の事業運営の財源を,被告の放送を受信することのできる設備を設置した者に広く公平に受信料を負担させることによって賄うこととした趣旨に照らせば,「設置」の 有無は,本件カーナビを被告の放送を受信することのできる状態に置いてい るか否かによって判断すべきである。原告が主張するように,本件カーナビの「設置」場所を自家用自動車の保管場所に限定し,その場所における受信可能性の有無のみによって放送法64条1項本文該当性を検討するとすれば,受信料の負担につき不公平な結果を招来し,上記の趣旨に反することとなる。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。 ⑷ 以上によれば,原告は,「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」(放送法64条1項本文)に該当する。 3 争点3(本件カーナビは「放送の受信を目的としない受信設備」(放送法64条1項ただし書)に該当するか。)について原告は,本件カーナビを自動車ナビゲーションのために購入したものであり, 本件カーナビでワンセグ放送を受信したことはなく,今後も受信する予定はないから,本件カーナビは「放送の受信を目的としない受信設備」に該当すると主張する。 しかし,前記2⑴のとおり,被告の放送を受信することのできる受信設備を設置した者に広く公平に受信料を負担させることによって被告の財源を賄うこ ととした受信料制度の趣旨に鑑みると,「放送の受信を目的としない受信設備」に当たるか否かについては,当該受信設備を設置した者の主観によるのではなく,放送を受信し,これを視聴しない目的であることが,客観的,外形的に認められるか否かにより判断するのが相当である。 本件カーナビは,原告が所有し,使 ,当該受信設備を設置した者の主観によるのではなく,放送を受信し,これを視聴しない目的であることが,客観的,外形的に認められるか否かにより判断するのが相当である。 本件カーナビは,原告が所有し,使用する自家用自動車に取り付けられたも のであるから,放送を受信し,これを視聴しない目的であることが,客観的,外形的に認められるとはいえない。原告がワンセグ放送を受信するために本件カーナビを購入したものではなく,実際にワンセグ放送を受信したことがなく,今後受信する予定がないとしても,そのような主観があることをもって,「放送の受信を目的としない受信設備」に該当するということはできない。 したがって,本件カーナビは,「放送の受信を目的としない受信設備」(放 送法64条1項ただし書)に該当しないというべきである。 4 以上によれば,原告には,原告の住所地において,契約種別を地上契約とする放送受信契約を被告と締結する義務があることが認められる。 よって,本件訴えのうち,原告の住所地において,契約種別を衛星契約とする放送受信契約の締結義務及び契約種別を特別契約とする放送受信契約の締結 義務が存在しないことの確認を求める部分は,いずれも確認の利益がないから却下し,その余の部分は,理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第50部 裁判長裁判官森田浩美 裁判官浦上薫史 裁判官新井一太郎 裁判官 新井一太郎
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