判決平成14年3月14日神戸地方裁判所平成9年(ワ)第1908号損害賠償請求事件 主文 1 被告は,原告に対し,4882万9560円及びこれに対する平成9年10月18日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 4 この判決の1項は仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判(原告) 1 被告は,原告に対し,金4951万5962円及びこれに対する平成9年10月18日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 仮執行の宣言(被告) 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 担保を供することを条件とする仮執行免脱の宣言第2 事案の概要等 1 事案の骨子本件は,原告が,被告との間で診療契約を締結したうえ,平成5年7月30日に兵庫県立尼崎病院(以下「県立病院」という。)において右大腿部の腫瘍摘出手術(以下「本件手術」といい,上記腫瘍を「本件腫瘍」という。)を受けたところ,本件手術をしたA医師及びB医師(A医師及びB医師を合わせて「A医師ら」という。)には下記のような不完全履行があり,その結果,原告は右下肢機能全廃の障害を負ったとして,A医師らの雇用者で県立病院経営者である被告に対して,上記診療契約の債務不履行に基づき,損害賠償金4951万5962円,及びこれに対する平成9年10月18日(訴状送達の日の翌日)から完済まで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 記(1) 本件手術における手技の選択を誤り,原告の坐骨神経 ら完済まで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 記(1) 本件手術における手技の選択を誤り,原告の坐骨神経を切断又は挫滅した執刀上の不完全履行(2) 本件手術後,原告に対して神経縫合術などの適切な措置を執らなかった不完全履行(3) 本件手術を中止して,原告に本件腫瘍摘出の利害得失等を説明すべき義務があったのに,これを怠った不完全履行(4) 原告を骨軟部腫瘍専門医に転医させる義務があったのに,これを怠った不完全履行 2 前提事実以下の事実は,いずれも当事者間に争いがない。 (1) 当事者ア被告は,県立病院を開設し,これを経営している普通地方公共団体である。被告は,原告の県立病院入院期間中,外科医としてA医師及びB医師を雇用し,整形外科医としてC医師を雇用していた。 イ原告(昭和9年10月生)は,昭和50年ころから平成6年まで吉井理研株式会社(以下「吉井理研」という。)に勤務し,平成5年7月30日,A医師らから本件手術を受けた。 (2) 本件手術を受けるまでの状況原告は,昭和60年ころから右臀部にしこりを感じ,平成5年7月5日,県立病院外科を受診して,D医師の診察を受けた。その際,しこりのある部分のレントゲン写真を撮ったところ,直径約10㎝の本件腫瘍が認められた(乙2-3頁,5頁)。 さらに,原告は,平成5年7月15日,県立病院外科において右下腿部ないし臀部につきCT検査を受けたところ,本件腫瘍の存在が同CT画像(検甲1ないし3)によっても確認された。原告は,同月19日,県立病院において,D医師から上記CT検査の結果について説明を受け,同病院で本件腫瘍の摘出手術を受けることになった(乙 の存在が同CT画像(検甲1ないし3)によっても確認された。原告は,同月19日,県立病院において,D医師から上記CT検査の結果について説明を受け,同病院で本件腫瘍の摘出手術を受けることになった(乙2-4頁)。 原告は,平成5年7月28日,被告との間で,本件腫瘍を適切な方法で除去することを内容とする診療契約を締結し(以下「本件診療契約」という。),本件手術を受けるために県立病院に入院した。 (3) 本件手術,その直後の状況原告は,平成5年7月30日午前9時ころから,県立病院において本件手術を受けた。同手術はA医師及びB医師が担当したものであり,B医師(指導医)が立会い,A医師(研修医)が執刀して本件手術を実施した。本件手術の手術記録の記載内容は,別紙1(甲1,乙1-17頁)のとおりである。 本件手術後,原告は,右下肢機能麻痺の症状を訴え,さらに本件手術終了後約6時間経過した同日午後4時20分ころ,右下肢のふくらはぎ部分にこむらがえりのような激痛を訴えた(乙1-57頁)。 (4) 退院,通院原告は,平成5年10月18日,県立病院を退院した。原告の県立病院への入院は,同年7月28日から合計83日間である。原告は,県立病院での入院期間中,装具をつけても歩行することが困難であった。その後,原告は,平成5年11月より平成8年5月まで,月3回程度,県立病院に通院して治療を受けた。 (5) 後遺障害原告は,本件手術後,同手術前にはなかった右下肢機能不全の後遺障害を負った。原告は,平成5年11月12日ころ,被告から身体障害者手帳(甲6)の交付を受け,そこには身体障害等級3級,障害として「右大腿腫瘍右下肢の機能全廃」との記載がある。 (6) 本件示談契約の締結原告は,平成6年10月11日 告から身体障害者手帳(甲6)の交付を受け,そこには身体障害等級3級,障害として「右大腿腫瘍右下肢の機能全廃」との記載がある。 (6) 本件示談契約の締結原告は,平成6年10月11日,被告との間で,被告が金10万円の見舞金を支払うが,両者間にはその余の債権債務がないことを相互に確認する旨の示談契約を締結した(甲7,13。以下「本件示談契約」という。)。 3 争点(1) 本件手術に当たり,A医師らに次の不完全履行があったか。 ア本件手術における手技の選択を誤り,原告の坐骨神経を切断又は挫滅した執刀上の不完全履行(本件手術における執刀上の不完全履行)イ本件手術後,原告に対して神経縫合術などの適切な措置をとらなかった不完全履行(本件手術後の措置における不完全履行)ウ本件手術を中止して,原告に本件腫瘍摘出の利害得失等を説明すべき義務があったのに,これを怠った不完全履行(説明義務違反の不完全履行)エ原告を骨軟部腫瘍専門医に転医させる義務があったのに,これを怠った不完全履行(転医義務違反の不完全履行)(2) 本件示談契約の効力(3) 原告の損害額第3 争点に関する当事者の主張 1 争点(1)ア(執刀上の不完全履行)について(原告の主張)原告の右下肢機能不全の原因については,A医師が,①本件手術中にメスの操作ミスによって坐骨神経を切断した,②鈎による圧迫によって坐骨神経を挫滅した,③本件腫瘍が坐骨神経本幹を巻き込んでいたにもかかわらずこれを切断した,のうちのいずれかである。特に,本件は,そのうちの③であると考えられる。 (1) 上記③の場合についていえば,坐骨神経に近い神経鞘腫(別紙2のa,別紙3の上段参照)の場合には,坐骨神経を展開し,同腫瘍が坐骨神経とつながって 件は,そのうちの③であると考えられる。 (1) 上記③の場合についていえば,坐骨神経に近い神経鞘腫(別紙2のa,別紙3の上段参照)の場合には,坐骨神経を展開し,同腫瘍が坐骨神経とつながっているかどうかを確認したうえ,①神経鞘腫が発生している神経とそれ以外の神経の剥離が容易な場合には,神経鞘腫になっている神経だけを切除する,②神経鞘腫が発生している神経とそれ以外の神経とを剥離できないような場合には,カプセル(腫瘍)を開けて,神経にできるだけ損傷を与えない形で神経鞘腫だけを摘出する,具体的には神経の走行部位に沿って切開を入れ,くりぬくようにして腫瘍を摘出する手技を採るべきである。 本件手術に当たり,A医師は,本件腫瘍が神経鞘腫である可能性を認識していたうえ,本件腫瘍の少なくとも茎部のところは大殿筋より下の方にあると思ったのであるから(乙1,証人A),同医師は上記神経鞘腫が坐骨神経とつながっている可能性を認識すべきであった。したがって,同医師は,神経の走行部位に沿って切開を入れ,くりぬくようにして腫瘍を摘出する方法によって本件腫瘍を摘出すべきであった。 しかるに,A医師(研修医)は,そのような方法をとらないで,神経束の横軸に切開を入れ,神経線維を切りながら腫瘍を体幹側へ剥離し,最後に,残った坐骨神経と腫瘍の境界部とを切り離すという方法によって本件腫瘍を摘出したのであり,この際に原告の坐骨神経を切断してこれを高度に損傷してしまったと考えられるから,明らかにA医師には執刀上の不完全履行がある。 また,本件手術に,指導医としての立場で立ち会っていながら,A医師に前記のような適切な摘出方法によって本件手術を行うよう指示しなかったB医師にも,不完全履行がある。 そして,A医師が,前記のような適切な摘出方法をとっ しての立場で立ち会っていながら,A医師に前記のような適切な摘出方法によって本件手術を行うよう指示しなかったB医師にも,不完全履行がある。 そして,A医師が,前記のような適切な摘出方法をとっていれば,原告が右下肢機能不全の障害を負うのは回避できたはずである。 (2) 被告は,原告の右下肢機能不全の症状は,本件手術後の血腫による圧迫,又は血液の浸潤による坐骨神経の変性を原因とするものであったと主張する。 しかし,坐骨神経を圧迫,変性させるほどの血腫が生じたのであれば大量の出血があったはずであるが,そのような事実が看護日誌からは窺えないことなどからすれば,被告の上記主張は不合理である。 また,仮に,被告の上記主張のとおり,原告の右下肢機能不全が本件手術後に生じた血腫による圧迫,又は血液の神経内への浸潤によるものであったとしても,原告は本件手術直後から右下肢の激痛を訴えていたのであるから,A医師らが血腫を吸い出して取り除く措置を講じるとか,早期に神経剥離術を施すなどすれば,原告の右下肢機能不全は回避できたのであるから,そのような措置をとらなかったA医師らにはやはり不完全履行がある。 (被告の反論)A医師が原告の坐骨神経を切断したり挫滅した,との原告の主張は否認する。A医師らに本件手術執刀上の不完全履行はない。原告の右下肢機能不全の症状は,以下のとおり,本件手術後の血腫による圧迫,又は血液の浸潤による坐骨神経の変性を原因とするものである。 (1) 原告は,本件手術後,右下肢のふくらはぎに「こむらがえり」を伴う激痛を訴えている。坐骨神経が切断されていれば,起こり得ない症状である。少なくとも,上記こむらがえりを訴えた時点では,原告の右下肢の坐骨神経の連続性が保たれていたことの証左である。 (2) 原告の えている。坐骨神経が切断されていれば,起こり得ない症状である。少なくとも,上記こむらがえりを訴えた時点では,原告の右下肢の坐骨神経の連続性が保たれていたことの証左である。 (2) 原告の右下肢機能不全の原因は,本件腫瘍摘出手術(平成5年7月30日)によって坐骨神経の一部に損傷が生じ,手術直後から同年8月4日ころまでに血腫が形成されて,血腫の圧迫により,あるいは血液が神経に浸潤したことによって,上記坐骨神経の一部損傷部位に変性を来し,断裂と同様の症状を呈するにいたったものである。 そして,原告の右下肢坐骨神経は,手術直後は不完全損傷であったが,その後完全損傷となったものである。 なお,A医師が坐骨神経の一部に損傷を与えたことは何ら問題がない。なぜなら,坐骨神経から発生している腫瘍を神経損傷を全く伴わずに切除することは不可能であるうえ,本件腫瘍のような悪性腫瘍の場合には,切除に伴う神経損傷はむしろ積極的に是認されるからである。 (3) 本件腫瘍の病理組織検査の所見である「lowmalignancy」(低悪性。乙1-24頁)は,「切除しなければならない」神経鞘腫を意味するから,本件手術を選択し本件腫瘍を切除したことに誤りはない。そして,神経原発の悪性腫瘍を神経損傷も伴わずに摘出することは医学的に不可能であり,何らかの神経損傷が生じることはむしろ通常である。本件手術においても,術前に本件腫瘍が悪性であることが判明していれば,根治のため神経切断を含むより広範囲な切除が企てられたはずである。 (4) 本件腫瘍は,原告が上記(原告の主張)(1)で主張するところの,②神経鞘腫が発生している神経とそれ以外の神経とを剥離できないような場合ではなく,まさに①神経鞘腫が発生している神経とそれ以外の神経の剥離が容易な場合で が上記(原告の主張)(1)で主張するところの,②神経鞘腫が発生している神経とそれ以外の神経とを剥離できないような場合ではなく,まさに①神経鞘腫が発生している神経とそれ以外の神経の剥離が容易な場合であった。したがって,A医師が本件腫瘍だけを切除したことに,何ら問題はない。 しかも,A医師は,本件手術において,術部切開後,本件腫瘍を周辺の軟部組織から剥離した段階で,坐骨神経自体は視野に入っていなかったが,本件腫瘍が茎部において坐骨神経の領域につながっていたので,本件腫瘍の神経に対する影響を最小限にとどめるべく,できるだけ同腫瘍寄りでその腫瘍茎部分を切除したのであり,慎重な配慮をしたうえでの手技であって,不完全履行など認められない。 (5) A医師は,本件腫瘍が有茎性でその茎部が長く,坐骨神経の走行すべき部位と本件腫瘍との間に離隔があり,腫瘍自体が持ち上がって動き,茎部の中に血管や神経が含まれているようには見えなかったのであるから,同医師が切断した茎部は坐骨神経本幹を巻き込んではいなかったのである。 そして,経験豊富なB医師も本件手術に立ち会っていたのであるから,2人の医師が坐骨神経を見落とすなどということは,到底考えられないことである。 2 争点(1)イ(手術後の措置における不完全履行)について(原告の主張)本件手術後,原告に神経剥離術,神経縫合術,神経移植術が施されていれば,断裂した神経が生理的にもつながり,脱失せずにすんだ可能性が高い。にもかかわらず,A医師らは,原告に対してそのような措置をとらなかったのであるから,手術後の措置における不完全履行がある。 (被告の反論)原告が主張する神経剥離術,神経縫合術,神経移植術は,現実には患者に新たな侵襲を加えるのみでほとんど実効が期待できない,いわば実験的医 手術後の措置における不完全履行がある。 (被告の反論)原告が主張する神経剥離術,神経縫合術,神経移植術は,現実には患者に新たな侵襲を加えるのみでほとんど実効が期待できない,いわば実験的医療に類する行為である。したがって,このような手術が施行されなかったことをもって,A医師らの不完全履行ということはできない。 3 争点(1)ウ(説明義務違反の不完全履行)について(原告の主張)A医師らには,以下のような説明義務違反の不完全履行がある。 (1) A医師らは,坐骨神経を展開するなどして本件腫瘍が坐骨神経とつながっていることを確認すべきだったのであり,上記確認ができた時点で,手術中であっても本件腫瘍摘出により坐骨神経の切断の可能性があるため,肉体労働ができなくなることは勿論,日常生活においても重大な障害をもたらすこと,触診やエコー検査で腫瘍の増大や周りの組織に対する癒着の程度を判断し,腫瘍が急速に増大したり,周りの組織に癒着し始めた段階で本件腫瘍を切除するという選択肢もあることを,説明すべき義務があった。 (2) そして,できれば本件手術中に迅速な病理検査をして,本件腫瘍の悪性度を調べて原告にそれを認識させた上で,上記説明をすべきであった。あるいは,手術を中止して,本件腫瘍の一部を切り取り病理検査をして本件腫瘍の悪性度が解明された段階で,上記のような腫瘍摘出に伴う利害得失等を説明して,原告に腫瘍摘出をするかどうかを確認してから再手術をすべき義務があった。 (3) しかるに,A医師らはそのような説明を怠り,自らの判断のみで本件腫瘍を摘出し,その結果原告に障害を負わせたのであるから,A医師らには説明義務違反の不完全履行がある。 (被告の反論)A医師らには,以下のとおり,原告主張の説明義務はなかったから,説明 本件腫瘍を摘出し,その結果原告に障害を負わせたのであるから,A医師らには説明義務違反の不完全履行がある。 (被告の反論)A医師らには,以下のとおり,原告主張の説明義務はなかったから,説明義務違反の不完全履行がないことは明らかである。 (1) A医師らは,前記1(被告の反論)(2)のとおり,本件腫瘍の摘出により,血腫による圧迫又は血液の浸潤による神経の変性を原因として,原告の坐骨神経に大きな影響を与える可能性があることを事前に予見できなかった。また,同医師らは,本件腫瘍が悪性であることも事前に予見できなかった。 結果的に,本件腫瘍が「lowmalignancy」であるという病理検査の結果が出たことを考えると,本件腫瘍は「切除が望ましい」神経鞘腫ではなく「切除しなければならない」神経鞘腫であったから,そもそも切除するか否かについて原告が選択権を行使できる範囲は極めて狭かったのである。 これらのことからすれば,A医師らに原告主張のような説明義務があったものとはいえない。 (2) さらに,腫瘍の大きさや形状,性状などについては触診やエコー検査である程度の判断は可能であるが,細胞レベルの悪性度の診断はできないから,触診等によって腫瘍の悪性度を判断できるという原告主張の前提自体が誤っている。 4 争点(1)エ(転医義務違反の不完全履行)について(原告の主張)A医師らには,以下のような転医義務違反の不完全履行がある。 (1) A医師らは,神経鞘腫の摘出手術を適切に行えるだけの知識及び技能を有していない場合,CT画像で本件腫瘍が大腿二頭筋,大殿筋,大内転筋の間に存在しており,坐骨神経の走行部に存在していることを認識した段階で,原告を骨軟部腫瘍専門医に転医させるべき義務があった。 あるいは,A医師らは 像で本件腫瘍が大腿二頭筋,大殿筋,大内転筋の間に存在しており,坐骨神経の走行部に存在していることを認識した段階で,原告を骨軟部腫瘍専門医に転医させるべき義務があった。 あるいは,A医師らは,本件手術の際,腫瘍切除に先だって本件腫瘍が坐骨神経につながっているか否かを十分に確認すべきだったのであり,遅くとも上記確認ができた段階で,原告を骨軟部腫瘍専門医に転医させるべき義務があった。 (2) しかるに,A医師らは,上記転医義務を怠って本件手術を行ったのであり,同医師らの不完全履行は明らかである。もし,同医師らが,原告を骨軟腫瘍専門医に転医させていれば,原告は坐骨神経麻痺を回避できていたか,本件手術直後に神経麻痺を生じたとしても回復したはずである。 (被告の反論)A医師らには,以下のとおり,原告主張の転医義務はなかったから,転医義務違反の不完全履行がないことも明らかである。 (1) 本件腫瘍は,坐骨神経等の走行部位から一定の距離を有する場所に位置し,その形状も球形であり,しかも周囲組織との剥離が困難を極めるといった性質のものではなかった。 仮に,A医師らが,本件手術前に,本件腫瘍が神経鞘腫であると確診できたうえ,本件腫瘍の摘出手術自体に神経への損傷の危険が見込まれるような事例であると診断すれば,整形外科に転医させていた可能性はあるが,本件腫瘍は,神経に損傷を与えずに腫瘍だけを容易に切除できると見込まれたのであるから,特に骨軟部腫瘍専門医による手術を行う必要は認められなかった。 (2) また,原告は,本件手術の際,腫瘍切除に先だって本件腫瘍が坐骨神経につながっているか否かを確認すべき旨主張するが,危険を伴う切開範囲の拡大を行うべきではないから,上記主張は誤っている。 (3) したがって,A医師らには,骨 腫瘍切除に先だって本件腫瘍が坐骨神経につながっているか否かを確認すべき旨主張するが,危険を伴う切開範囲の拡大を行うべきではないから,上記主張は誤っている。 (3) したがって,A医師らには,骨軟部腫瘍専門医に原告を転医させるべき義務はなかった。 5 争点(2)(本件示談契約の効力)について(原告の主張)原告は,本件手術についてA医師らには不完全履行がないという被告の説明を信じ,被告側に一切不完全履行がないことを前提として,わずか10万円の見舞金を受け取っただけで本件示談契約を締結したのである(甲7,甲13)。 ところが,前記1ないし4(原告の主張)のとおり,実際は,本件手術に関してA医師らに不完全履行があったのであるから,原告の意思表示には要素の錯誤があったことになるので,民法95条により本件示談契約は無効である。 また,原告は,被告に欺かれて本件示談契約を締結したことにもなるところ,原告は,被告に対し,平成9年11月21日,民法96条1項に基づき本件示談契約を取り消す旨の意思表示をした。 さらに,上記10万円は,原告の被った後記6(原告の主張)の損害を填補するものとして余りにも低廉であり,原告の無思慮,県立病院に通院加療中という原告の弱い立場に被告がつけ込んだものであるから,本件示談契約は公序良俗に違反し民法90条により無効である。 (被告の認否)原告の主張は全て争う。 本件示談契約は,原告が,本件手術に関する紛争を円満に解決するため,自由意思で締結したものである。本件示談契約締結に当たっては,被告側において,原告に対し,本件手術及びその後の経過について十分な説明をしており,原告に情報の欠如・不足といった事情はなかった。 錯誤の有無についていえば,原告は,手術の手技や説明の点で不完全履 側において,原告に対し,本件手術及びその後の経過について十分な説明をしており,原告に情報の欠如・不足といった事情はなかった。 錯誤の有無についていえば,原告は,手術の手技や説明の点で不完全履行があると考え,被告は不完全履行はないと考えていたが,双方が互譲した結果,被告側に説明不足があったかもしれないということで,見舞金10万円を支払う旨の本件示談契約が成立したものであり,その前提となる事実関係につき,双方が同じ認識を有していたのであるから,原告に錯誤がなかったことは明らかである。 6 争点(3)(原告の損害額)について(原告の主張)原告は,本件診療契約についての被告の債務不履行により,以下のとおり,合計4951万5962円の損害を被った。 (1) 積極損害小計47万2500円原告は,本件手術が適切に行われれば,長くとも20日の入院期間で退院できたはずである。しかるに,被告の本件診療契約の債務不履行により,原告は平成5年7月28日から同年10月18日まで入院が必要となり(83日間),63日間の余分な入院を余儀なくされたことになる。 ア入院付添費 37万8000円上記63日の入院期間中,原告は歩行困難で,同人の妻甲が退院まで付き添った。甲の入院付添費は1日当たり6000円が相当である。 イ入院雑費 9万4500円原告の入院雑費は,1日当たり1500円が相当である。 (2) 消極損害小計308万5484円ア休業損害 97万8484円原告は,本件手術が適切に行われれば,長くとも1か月程度の休業により職場に復帰できたはずである。しかるに,被告の本件診療契約の債務不履行により,原告は,平成5年7 97万8484円原告は,本件手術が適切に行われれば,長くとも1か月程度の休業により職場に復帰できたはずである。しかるに,被告の本件診療契約の債務不履行により,原告は,平成5年7月28日から平成6年2月28日に退職するまで216日間,勤務先を休業することを余儀なくされた。 平成4年度の原告の給与収入の額は453万4016円である(甲2)。原告は,尼崎社会保険事務所より,平成5年7月31日から平成6年2月28日までの傷病手当として,合計133万2000円の支払を受けている(甲3の1~8)。 そうすると,原告の被った休業損害は,97万8484円(453万4016円(年収)×186日÷365日-133万2000円)となる。 イ入通院慰藉料 210万7000円(3) 後遺症関係小計4145万7978円原告は,装具をつけて杖をつかなければ歩行できない状態であるから,かかる障害は自賠法施行令5級7号に該当し,右下肢機能全廃の後遺障害を負ったというべきである。 ア逸失利益 2845万7978円453万4016円(年収)×0.79(労働能力喪失率)×7.945(10年のホフマン係数)=2845万7978円イ慰藉料 1300万円(4) 弁護士費用 450万円(被告の認否)原告主張の上記損害は全て争う。但し,尼崎社会保険事務所長が原告主張の各傷病手当金支給決定をしたことは認める。 なお,原告は右下肢機能全廃の後遺症が発生した旨主張するが,原告は膝から下に器具を装着しさえすれば歩行可能なのであるし,県立病院への通院を止めてから現在まで徐々に回復してきていることが推定されるから,右下肢機能全廃とはいえない。 第4 当裁判 主張するが,原告は膝から下に器具を装着しさえすれば歩行可能なのであるし,県立病院への通院を止めてから現在まで徐々に回復してきていることが推定されるから,右下肢機能全廃とはいえない。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(A医師らの不完全履行)の検討(1) 事実の認定前記第2の2の前提事実に,証拠(甲1,甲4,甲9ないし11,検甲1ないし3,乙1ないし3,乙5〔一部〕,乙6,乙9,乙10,証人A〔一部〕,同C〔一部〕,同E,原告本人,鑑定)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。 ア原告の症例について(ア) 本件手術に至る経過等a 原告は,昭和60年ころから,入浴等の際,右臀部にしこりのような自覚症状があり,歩行の際や研磨工として勤務中に圧痛を感じたため,平成5年7月5日,県立病院の外科を受診して同病院外科部長(当時)のD医師の診察を受けた。その際撮ったレントゲン写真によれば,原告の右下腿,臀部に直径約10㎝の本件腫瘍が認められた。同日の診察に係るD医師作成のカルテには,「腫瘍,成人手拳大以上の大きさ,圧痛あり,可動性良好」との記載がある(乙2-3,4頁)。 さらに,原告は,平成5年7月15日,県立病院においてCT検査を受けた。その結果,本件腫瘍の存在がCT画像(検甲1ないし3)によっても確認された。原告は,同月19日,D医師より上記CT検査の結果についての説明を受け,本件腫瘍の摘出手術を受けることを勧められたため,県立病院への入院予約の手続をとった。本件腫瘍は,上記CT画像で見ると,大腿二頭筋,大殿筋,大内転筋の間に位置し,坐骨神経の走行部に存在していた。 b 原告は,平成5年7月28日,本件腫瘍の摘出手術を受けるため,県立病院外科に入院した。その際,A医師 見ると,大腿二頭筋,大殿筋,大内転筋の間に位置し,坐骨神経の走行部に存在していた。 b 原告は,平成5年7月28日,本件腫瘍の摘出手術を受けるため,県立病院外科に入院した。その際,A医師が原告の主治医となり,同医師とB医師が本件手術を担当することになった。 A医師は,平成4年3月に大学を卒業し,同年5月に医師免許を取得したばかりの消化器外科を専門とする研修医であり,平成5年4月から県立病院外科に勤務していた。B医師は,このA医師を指導する立場にあった臨床経験豊かな指導医であった。 A医師は,原告が入院した日(平成5年7月28日)の夕方,原告を診察して本件腫瘍の触診等を行ったが,本件腫瘍が神経鞘腫である可能性について意識したものの,その可能性は低いと判断した(A証人調書〔第9回口頭弁論〕11,12頁)。また,同医師は,本件腫瘍が弾性硬で移動性があり,そのままで痛みがなく,表面が滑らかであること等から,本件腫瘍は良性である可能性が高いと判断した。 A医師,B医師を含む合計6名の外科医が,平成5年7月29日,既に撮影されたレントゲン写真やCT画像等を基に,本件手術に関してカンファレンスを行った。そして,A医師らは,本件腫瘍が最近急に増大したことから悪性である可能性も否定できないこと,大きさがかなり大きくなっていて日常生活にも支障が出てきていること,そして,本件手術施行によるリスクが小さいと判断して,本件手術を実施するとの結論に達した。 なお,A医師らは,本件手術前に,原告のMRI検査や血管造影検査を実施しておらず,かつ,本件腫瘍を叩打して原告に放散痛が出るか否かを確かめる診断も行っていない。 c しかし,原告の本件腫瘍は,神経鞘腫であり(別紙2のa,別紙3の上段参照) 管造影検査を実施しておらず,かつ,本件腫瘍を叩打して原告に放散痛が出るか否かを確かめる診断も行っていない。 c しかし,原告の本件腫瘍は,神経鞘腫であり(別紙2のa,別紙3の上段参照),しかも良性であった。本件腫瘍と坐骨神経束の位置関係は,別紙4,5のように,坐骨神経の側面が盛り上がるような形で坐骨神経につながっていた。 (イ) 本件手術の状況等aA医師(研修医)は,平成5年7月30日午前9時ころから,B医師(指導医)立ち会いの下,原告に腰椎麻酔を施行して本件手術を行った。A医師は,別紙1(甲1,乙1-17頁)のとおり本件手術記録を作成し,原告のカルテの一部とした。 bA医師は,本件手術に際し,本件腫瘍が坐骨神経に巻き込まれている可能性を特に意識せず,また,坐骨神経から出ている細い枝が本件腫瘍を巻き込んでいてもその可能性も低く,仮に,上記細い枝が切断されても原告に重大な障害が残るとは考えていなかった。そのため,A医師は,最初に,本件腫瘍を中心に横軸に約12㎝の皮膚切開(皮切)を行った(別紙1の最上段の図参照)。しかし,坐骨神経の走行に沿って縦軸に皮切を行い,神経繊維の走行が確認できる長さまで伸ばすことによって,坐骨神経の位置を確認する措置は採らなかった。 そして,A医師は,本件腫瘍の末梢側(身体の下部)に横軸に切開を入れ,体幹側(身体の上部)に持ち上げていった。このように,A医師は,末梢側に横軸に切開を入れたため,原告の坐骨神経の多くを切断してしまったのである。A医師は,多くの坐骨神経を切断損傷した後,本件腫瘍を体幹側に剥離し,最後に,残った坐骨神経と本件腫瘍の境界部を切断して本件腫瘍を摘出したが,このときにも,本件腫瘍で引き延ばされた部位において,多くの坐骨神経を切 の坐骨神経を切断損傷した後,本件腫瘍を体幹側に剥離し,最後に,残った坐骨神経と本件腫瘍の境界部を切断して本件腫瘍を摘出したが,このときにも,本件腫瘍で引き延ばされた部位において,多くの坐骨神経を切断してしまい,坐骨神経に高度の損傷を与えてしまった(殆どの坐骨神経を切断してしまった)(別紙1の最下段の図参照)。 本件腫瘍は,A医師による剥離前は,坐骨神経束と別紙4,5のような形でつながっていたが,剥離の後,同医師が本件腫瘍を持ち上げた段階で別紙6のようになったのである。別紙1中段の図の皺の部分は,本件腫瘍と体幹側の神経束との境界部分である。 cB医師は,前記カンファレンスの際にも本件手術の際にも,本件腫瘍が神経鞘腫である可能性が高いことを認識することなく,その場合の本件手術の手技の適切な選択についてA医師を指導するようなこともなかった。 (ウ) 本件手術後の状況等a 本件手術が終了し,原告は,同日(平成5年7月30日)午前10時25分ころ,病室に戻された。 原告は,同日午後0時30分から1時ころにかけて,左足の麻酔がとれていったが,右足の麻酔は4時間くらいかけて足の上から下へとれていった。 右足の麻酔がとれるに従って,原告は,右足に疼痛を感じ,痛みを感じる場所は徐々に足の上から下の方へ下がっていった。原告は,本件手術後約6時間経過した午後4時20分ころ,痛みを感じる場所が足首にまで来たとき,右下肢のふくらはぎ部分に「こむらがえり」のような激痛を感じ,泣きながら痛みを訴えた。この激痛は同日午後5時ころまで継続した。 原告は,本件手術の翌日(平成5年7月31日)以降は,創部の痛みは別として,上記のような激痛は感じていない。 b 本件手術直後から生じた原告の右足の激痛 5時ころまで継続した。 原告は,本件手術の翌日(平成5年7月31日)以降は,創部の痛みは別として,上記のような激痛は感じていない。 b 本件手術直後から生じた原告の右足の激痛は,本件手術によって坐骨神経を高度に損傷されたたため,損傷部に浮腫が生じ,それにより神経線維が刺激されてそれが脳に伝わり,損傷部よりも遠位(末梢部)に激しい疼痛を感じたものである。 さらに,原告には,本件手術直後から,それ以前にはなかった右坐骨神経麻痺の症状が現れ,これは現在に至るまで回復していない。 c 原告は,平成5年8月2日以降,A医師(県立病院外科)から診療依頼を受けた県立病院整形外科でも診察治療を受け,同年8月12日には,同整形外科で筋電図検査を受けた。同整形外科のC医師は,原告の坐骨神経麻痺の原因について,神経断裂(切断)可能性が高いと診断し(乙1-11頁,乙3-4頁),同佐藤医師も,神経断裂が疑われると診断した(乙1-25頁)。 d 原告は,平成5年8月5日,右足が麻痺したことについて,県立病院側に説明を求めた。すると,B医師(同病院副院長)は,原告に対し,原告の本件腫瘍は「右大腿神経線維鞘腫」(別紙2のb,別紙3の下段)であり,本件手術は滅多にない大変難しい手術であったが,本件腫瘍については良性であり,基本的に心配はない旨の説明をした。 (エ) 本件腫瘍の性質等本件腫瘍の細胞について,本件手術後に病理検査が実施されたところ,その病理所見は「lowmalignancy」(低悪性)であった(乙1-24頁)。しかし,原告は,本件手術後8年以上経過しているが,未だガンを発病しておらず,本件腫瘍は良性であって,上記病理所見は誤りである。 イ神経鞘腫及びその摘出手術について た(乙1-24頁)。しかし,原告は,本件手術後8年以上経過しているが,未だガンを発病しておらず,本件腫瘍は良性であって,上記病理所見は誤りである。 イ神経鞘腫及びその摘出手術について(ア) 神経鞘腫神経,筋肉,脂肪などにできる腫瘍は軟部腫瘍と呼ばれ,それに対する手術を含む治療は,基本的には整形外科の領域であるが,一般外科医が治療や手術に当たることも日常的によく行われている。軟部腫瘍のうち,神経由来の腫瘍は,神経鞘腫と神経繊維鞘腫に分類できる(別紙2のaが神経鞘腫で,bが神経繊維鞘腫であり,別紙3の上段の図が神経鞘腫で,下段の図が神経繊維鞘腫である。)。 神経由来の腫瘍は,発生頻度からは神経鞘腫が最も可能性が高い。神経鞘腫は,時間をかけてゆっくりと成長するために神経束を徐々に圧迫して,最終的にそれを薄い被膜状にすることが多い。神経鞘腫における上記被膜の最外層は神経上膜で,通常その中に神経繊維を含んでいる。もっとも,その全周に神経繊維が存在するのではなく,一部にないところもある。 神経鞘腫は,神経束の中に偏在的に存在することが多く,茎を持つことはほとんどなく,正常神経束との境界では神経束が全体に膨らみ,腫瘍に移行する。また,正常な神経束は白く光沢のある細い神経繊維が長軸方向に何本も走行しているが,腫瘍部では繊維の間隔が広がっていることが多い。そして,腫瘍の表面は白黄色で血管が豊富であり,腫瘍と神経束の境界部ではこの血管が西瓜の縞模様のように見えるのが特徴である。 触診上は腫瘍の表面が平滑で,やや硬く(弾性硬),神経束とともによく動く(移動性)特徴がある。腫瘍によって引き延ばされた腫瘍被膜,すなわち神経上膜の典型的な肉眼所見は,蒸し餃子の皮のように見える。 (イ) 神経 平滑で,やや硬く(弾性硬),神経束とともによく動く(移動性)特徴がある。腫瘍によって引き延ばされた腫瘍被膜,すなわち神経上膜の典型的な肉眼所見は,蒸し餃子の皮のように見える。 (イ) 神経鞘腫の摘出手術a 神経鞘腫の摘出手術は整形外科の専門領域であるが,一般外科医によっても日常的に行われている。同手術に際しては,MRI,CT,シンチグラフィー,血管造影などの画像検査を行い,神経鞘腫について悪性が疑われる場合,まず生検術による病理組織診断を行い,病理組織診断が確定してから腫瘍摘出術の術式が決定される。 大腿部に位置する神経鞘腫については,その摘出に先立って予めCT検査を行ったうえCT画像を詳細に検討し,当該腫瘍が坐骨神経に接しているか否か確認する必要がある。さらに,神経鞘腫の症状を確定するためには,神経の走行方向に矢状断に撮影でき,解剖学的な位置関係を正確に診断できるMRI検査が有益である。 b 筋間に位置し,比較的大きい神経鞘腫は,悪性軟部腫瘍である可能性があるから,手術方式を慎重に選択すべきである。すなわち,良性か悪性かを,生検術(少量の腫瘍組織を採取して行う病理診断)を実施して確定してから,良性なら腫瘍の摘出だけとし,悪性なら神経,周囲筋を含む広範囲切除を行う。 ただし,当該腫瘍が神経鞘腫の可能性が高いと考えられる場合には,組織採取だけでも神経繊維を損傷する可能性があるので,皮膚切開(皮切)は坐骨神経の走行に沿って加え,神経繊維の走行が確認できる長さまで伸ばすべきである。手術創を拡大することにより,神経,周囲筋を損傷する可能性はあるが,坐骨神経損傷に比べれば,小さい問題である。 神経繊維が存在しない被膜部分を小さく切開し,腫瘍組織を少量採取し,手術中に迅速診断が可 ることにより,神経,周囲筋を損傷する可能性はあるが,坐骨神経損傷に比べれば,小さい問題である。 神経繊維が存在しない被膜部分を小さく切開し,腫瘍組織を少量採取し,手術中に迅速診断が可能であればその病理診断結果を待って,後記cの手順で腫瘍を切断する。悪性であれば,手術を中止して永久標本による確定診断を待ってから,日を改めて二期的に広範囲切除することも唱えられている。 c 神経鞘腫の手術では,腫瘍の前後で正常な神経束を露出し,そこにシリコンテープをかけて神経繊維の走行を確認することが神経損傷予防に効果的である。その後,腫瘍被膜(実際には,神経上膜である。)の全周を確認して,神経繊維が走行していない部位に長軸方向(神経繊維と同方向)にメスで浅い切開を入れ,腫瘍実質表面に達した時点で,被膜下に腫瘍実質だけをくり貫くようにして切除する方法をとる(別紙7,8,9参照)。 それは,神経繊維をできるだけ切除しないように顕微鏡視下に行った方がよいが,大きな神経の場合には,肉眼で神経繊維の走行を確認できるので,必ずしも必要ではない。このような手術方法をとれば,ときに手術直後に神経麻痺を生ずることはあるものの,その後回復することが多い。 d 以上のa~cについて,鑑定人E(京都府立医科大学整形外科教室講師)作成の鑑定事項に対する回答(以下「本件鑑定書」という。)3,4頁,証人Eの証言参照。 (2) 前記(1)ア認定の補足説明A医師が,本件腫瘍摘出手術の際,原告右大腿部の坐骨神経に高度の損傷を与えてしまった(殆どの坐骨神経を切断してしまった)ことは,次の事実からも裏付けられる。 ア本件腫瘍の性質,本件腫瘍と坐骨神経束との位置関係からの検討(ア) 神経鞘腫においては,腫瘍の どの坐骨神経を切断してしまった)ことは,次の事実からも裏付けられる。 ア本件腫瘍の性質,本件腫瘍と坐骨神経束との位置関係からの検討(ア) 神経鞘腫においては,腫瘍の表面は白黄色で血管が豊富であり,腫瘍と神経束の境界部では,この血管が西瓜の縞模様のように見えるのが特徴である(本件鑑定書3頁)。 本件手術記録(別紙1)によると,本件腫瘍の特色として,A医師が茎と主張する部位に皺が記載されているが,この皺は上記西瓜の縞模様と解され,皺の記載されている部分は腫瘍と神経束の境界部に他ならないと考えられる(本件鑑定書3頁,E証人調書15,16頁)。 ところで,A医師は,腫瘍とつながっていた茎は蒸し餃子の皮のようであった(A証人調書〔第9回口頭弁論〕15頁)と証言するところ,これは本件腫瘍によって引き延ばされた腫瘍被膜(神経上膜)の典型的な肉眼所見であり,A医師が腫瘍茎と表現したものは,本件腫瘍によって引き延ばされた坐骨神経本幹であると認められる(本件鑑定書3頁,E証人調書37~39頁)。 以上のとおり,本件腫瘍は神経鞘腫であり,坐骨神経原発性の腫瘍である。 (イ) そして,原告のCT画像(本件鑑定書添付の図3)によると,本件腫瘍は大腿二頭筋,大殿筋,大内転筋の間に位置し,坐骨神経の走行部に存在していた(本件鑑定書添付の図4参照)。 本件腫瘍は,別紙4,5のように,坐骨神経の側面が盛り上がるような形で坐骨神経につながっていたと考えられる(検甲1ないし3,乙9,乙10〔被告が坐骨神経と腫瘍の間に離隔があると主張する乙10によっても,むしろ離隔がないことが明らかである。〕,E証人調書8頁)。 (ウ) A医師は,本件腫瘍を茎部で切離 ,乙9,乙10〔被告が坐骨神経と腫瘍の間に離隔があると主張する乙10によっても,むしろ離隔がないことが明らかである。〕,E証人調書8頁)。 (ウ) A医師は,本件腫瘍を茎部で切離する際,できるだけ本件腫瘍よりで行った(別紙1の③,別紙1の下の図面)というのであるから,以上の(ア)(イ)で認定したところによると,A医師が本件腫瘍摘出手術の際に,原告の右大腿部の坐骨神経の多くを切断したことが明らかである。 イ A医師らの本件腫瘍に対する認識からの検討(ア) 本件腫瘍は,神経鞘腫であり軟部腫瘍の一態様であって,それに対する手術を含む治療は,整形外科の専門領域となっている(前記(1)イ(イ))。 ところで,A医師は大学卒業後2年目の消化器外科を標榜する医師(研修医)で,神経鞘腫に対する治療では専門外の領域であった(前記(1)ア(ア)b)。A医師の上記その専門及び経験からすると,本件手術の際,原告に認められた坐骨神経が被膜状になったものを見た経験はなかったと考えられる。 B医師は経験豊富な医師(指導医)であるが,外科医であり,整形外科医ではない(前記1ア(イ)b)。したがって,B医師も,神経鞘腫に対する治療についても,専門医として十分な知識経験を有していたものか疑問がある。 (イ) A医師らは,本件手術に際して,本件腫瘍が神経鞘腫である可能性については意識したものの,その可能性は低いと判断していた。また,本件腫瘍が坐骨神経の神経束とつながっている可能性や本件腫瘍が坐骨神経に巻き込まれている可能性はほとんどないと思い,坐骨神経から出ている細い肢が切断されても,原告に重大な障害が残るとは考えていなかった(証人Aの証言)。 そのため,A医師らは,本件手術に際して,神経の走行部位 可能性はほとんどないと思い,坐骨神経から出ている細い肢が切断されても,原告に重大な障害が残るとは考えていなかった(証人Aの証言)。 そのため,A医師らは,本件手術に際して,神経の走行部位に沿って切開を入れ,本件腫瘍をくり貫くようにして腫瘍を摘出する等,坐骨神経を損傷しないようにしようとの意識はなかった(証人Aの証言)。 (ウ) その結果,A医師らは,後記ウ(イ)の正しい手術方法を行うことに考えが及ばず,後記ウ(ア)のような誤った手術方法をとったため,本件腫瘍摘出手術により,原告右大腿部の坐骨神経に高度の損傷を与えてしまった(殆どの坐骨神経を切断してしまった)のである。 ウ A医師の本件手術方法からの検討(ア) A医師は,本件腫瘍を中心に横軸に約12㎝の皮膚切開(皮切)を行い(別紙1の最上段の図参照),更に,本件腫瘍の末梢側(身体の下部)に横軸に切開を入れ,体幹側(身体の上部)に持ち上げて,その後の切開もほぼ同じ方向で行い,その手術を進めていった(乙1,証人Aの証言,証人Eの証言,本件鑑定書)。 (イ) 腫瘍が神経鞘腫の可能性が高いと考えられる場合,組織採取だけでも神経繊維を損傷する可能性があるので,皮膚切開(皮切)は坐骨神経の走行に沿って加え,神経繊維の走行が確認できる長さまで伸ばすべきである。手術創を拡大することにより,神経,周囲筋を損傷する可能性はあるが,坐骨神経損傷に比べれば小さい問題である(前記(1)イ(イ)b)。 神経鞘腫の手術では,腫瘍の前後で正常な神経束を露出し,そこにシリコンテープをかけて神経繊維の走行を確認することが神経損傷予防に効果的である。その後,腫瘍被膜(実際には,神経上膜である。)の全周を確認して,神経繊維が走行していない部位に長軸方向(神経繊維と同方向)にメ ープをかけて神経繊維の走行を確認することが神経損傷予防に効果的である。その後,腫瘍被膜(実際には,神経上膜である。)の全周を確認して,神経繊維が走行していない部位に長軸方向(神経繊維と同方向)にメスで浅い切開を入れ,腫瘍実質表面に達した時点で,被膜下に腫瘍実質だけをくり貫くようにして切除する方法をとる(前記(1)イ(イ)c,別紙7,8,9参照)。 (ウ) しかし,A医師らは,本件手術に当たって,坐骨神経の走行に沿って縦軸に皮切を行い,神経繊維の走行が確認できる長さまで伸ばすことなく,その走行に直角方向に交わるように皮膚切開(皮切)をし,それと同じ方向で本件腫瘍の末梢側(身体の下部)に横軸に切開を入れている(乙1,証人Aの証言,証人Eの証言,本件鑑定書)。 すなわち,A医師は,本件腫瘍の末梢側(身体の下部)に横軸に切開を入れ,体幹側(身体の上部)に持ち上げていった。このように,A医師は,末梢側に横軸に切開を入れたため,原告の坐骨神経の多くを切断してしまったのである。A医師は,多くの坐骨神経を切断損傷した後,本件腫瘍を体幹側に剥離し,最後に,残った坐骨神経と本件腫瘍の境界部を切断して本件腫瘍を摘出したが,このときにも,本件腫瘍で引き延ばされた部位において,多くの坐骨神経を切断してしまった(乙1,証人Aの証言,証人Eの証言,本件鑑定書)。 (エ) 以上のとおり,A医師は,本件腫瘍摘出手術の際,右大腿部の坐骨神経に高度の損傷を与えてしまった(殆どの坐骨神経を切断してしまった)のである。 エ坐骨神経麻痺の症状からの検討原告は,本件手術(平成5年7月30日)前は,右大腿部に坐骨神経麻痺の症状はなかった。ところが,本件手術直後から,同部に坐骨神経麻痺の症状が現われた(乙1~4,原告本人の供述)。 原告は,本件手術(平成5年7月30日)前は,右大腿部に坐骨神経麻痺の症状はなかった。ところが,本件手術直後から,同部に坐骨神経麻痺の症状が現われた(乙1~4,原告本人の供述)。 原告は,平成5年8月12日,県立病院整形外科で,筋電図検査を受けている(乙1-25頁)。同検査によると,原告は,脛骨神経,総腓骨神経ともに刺激されても筋肉が収縮せず,右大腿部の坐骨神経が断裂していたことが認められる。 原告は,本件手術前は右大腿部に坐骨神経麻痺の症状がなかったのに,本件手術直後から同部に坐骨神経麻痺の症状が現われ,右大腿部の坐骨神経が断裂していたのであるから,本件手術により右大腿部の坐骨神経が切断されたことが明らかである。 オ県立病院整形医師の診断からの検討原告の本件手術後の坐骨神経麻痺の原因について,県立病院整形外科のC医師は,神経断裂(切断)の可能性が高いと診断し(乙1-11頁,乙3-4頁),同佐藤医師も,神経断裂が疑われると診断している(乙1-25頁)。 このように,県立病院整形外科の両医師の診断結果からも,A医師が,本件腫瘍摘出手術の際,右大腿部の坐骨神経に高度の損傷を与えてしまった(殆どの坐骨神経を切断してしまった)ことが裏付けられる。 (3) 前記(1)アの認定に反する被告主張の検討ア血腫の圧迫,浸潤等の検討(ア) 被告の主張被告は,次のとおり主張している。 a 原告の右下肢機能不全の原因は,本件腫瘍摘出手術(平成5年7月30日)によって坐骨神経の一部に損傷が生じ,手術直後から同年8月4日ころまでに血腫が形成されて,血腫の圧迫により,あるいは血液が神経に浸潤したことによって,上記坐骨神経の一部損傷部位に変性を来し,断 0日)によって坐骨神経の一部に損傷が生じ,手術直後から同年8月4日ころまでに血腫が形成されて,血腫の圧迫により,あるいは血液が神経に浸潤したことによって,上記坐骨神経の一部損傷部位に変性を来し,断裂と同様の症状を呈するに至ったものである。 b 原告の右下肢坐骨神経は,手術直後は不完全損傷であったが,その後完全損傷となったものである。 (イ) 検討しかし,被告の上記主張は採用できない。その理由は,以下のとおりである。 a 運動神経麻痺が起きる時期神経が圧迫された場合,即運動麻痺が生じることは稀であり,しびれ,痛み等の知覚障害の後に運動神経麻痺が発症するのが一般的である(被告も,この点は認めている。被告の平成10年11月27日付け準備書面13頁)。 原告は,平成5年7月30日午後4時20分に「右足趾はまだ感覚わからない」と訴えており,同日午後5時50分には「右足指に力が入らず」,同月31日の朝の段階で「足趾が動かせない」と訴えている(乙1-57,58頁)。 このように,原告に,手術直後の段階から運動神経麻痺の症状があったことは,血腫による圧迫あるいは血液の神経幹内への浸潤により原告の坐骨神経が変性したという被告主張と整合しない。 b 痛みの状況原告は,平成5年7月30日に,泣きそうな表情で「たまらん痛さや。どうやっても一緒」と激痛を訴えているが,翌日からは痛みは自制の範囲内に治まった(乙1-58頁,原告本人尋問調書22,23頁)。 血腫による圧迫あるいは血液の神経幹内への浸潤により,神経に変性を来したのであれば,原告としては,本件手術当日の痛みはそれほどでもなく,血腫が固まり始めた翌日以降に 書22,23頁)。 血腫による圧迫あるいは血液の神経幹内への浸潤により,神経に変性を来したのであれば,原告としては,本件手術当日の痛みはそれほどでもなく,血腫が固まり始めた翌日以降に激痛を訴えていたはずである。したがって,血腫による圧迫あるいは血液の神経幹内への浸潤により,原告の坐骨神経が変性したという被告主張は,手術当日に激痛を訴え,翌日以降の痛みは自制の範囲内という原告の症状とも整合しない。 むしろ,手術直後の段階から運動神経麻痺があり,手術当日に激痛を訴え,その後の痛みは自制の範囲内に治まったという原告の症状からすると,本件手術の際,坐骨神経を切断したと考えるのが合理的である。 c 血腫の大量発生の可能性本件腫瘍を切除すれば,それが存在していた空間が空き,仮に血腫ができたとしても,空間部分があり(本件腫瘍は10㎝×7㎝×8㎝の大きさであった。),かつ,本件腫瘍の存在した部分は,開放系で出血した血液が閉じ込めらない,すなわち,コンパートメント症候群が発生しにくい(甲9,証人C尋問調書11,12頁)。 したがって,本件手術後,血腫による神経の圧迫が生じる位,患部に血腫が大量に発生して溜まる状態に至ったものとは思えない。 d 看護日誌の記載(a) 坐骨神経を圧迫して変性を生じさせるほどの血腫が生じたのであれば,大量の出血があるはずであるが,原告の本件手術直後の看護日誌の記載は,下記のとおりとなっており,著名な出血があったことは窺われない(乙1-57,58頁)。 記7月30日10時25分ガーゼ汚染無し同日23時30分ガーゼ汚染無し )。 記7月30日10時25分ガーゼ汚染無し同日23時30分ガーゼ汚染無し7月31日 8時15分創部ガーゼ汚染上層までなし同日創部ガーゼ(-)同日16時30分ガーゼ汚染無し8月 1日20時00分ガーゼ汚染無し(b) さらに,B医師が平成5年8月5日に血塊を取り出しているが,上記血塊は,創部2針抜糸して取り出せるようなものにすぎないから(乙1-60頁),小さなものであったことが明らかであり,坐骨神経を断裂させるほどの大量の出血があったものとは考えられない。 e 被告主張と原告症状との不一致被告は,原告の右下肢坐骨神経は,手術直後は不完全損傷であったが,その後完全損傷となったと主張する。 しかし,上記主張は,原告が手術直後である平成5年7月30日午前10時25分時点で右下肢のしびれ感を訴えており(乙1-57頁),右坐骨神経の支配領域の感覚が完全に消失していたことと整合しない。 むしろ,かかる事実からすれば,原告の右下肢坐骨神経は,手術により完全に損傷されていたと認めるのが合理的であり,上記主張も採用できない。 f 血液,血腫の浸潤による坐骨神経の変性の可能性正常な坐骨神経が,手術後の血液や血腫の浸潤によって,坐骨神経が変性することは殆どない。坐骨神経の神経上膜は丈夫にできており,悪性腫瘍や細菌感染でもなかなか損傷されないからである(本件鑑定書4,5頁)。 もっとも,手術によって損傷された坐骨神経は神経上膜が破綻しており,血腫によ の神経上膜は丈夫にできており,悪性腫瘍や細菌感染でもなかなか損傷されないからである(本件鑑定書4,5頁)。 もっとも,手術によって損傷された坐骨神経は神経上膜が破綻しており,血腫によって圧迫変性することは考えられる。しかし,本件では,手術直後に坐骨神経の麻痺があり,高度の神経損傷によると考えられる激しい疼痛があり,それが時間の経過とともに治まってきたことを考えると,血腫による坐骨神経圧迫が神経麻痺を進行させたものと認めることはできない(本件鑑定書5頁)。 イ本件手術後の疼痛の検討(ア) 被告の主張さらに,被告は,次のとおり主張する。 a 原告は,本件手術後の同日午後4時20分頃,右下肢のふくらはぎに「こむらがえり」を伴う激痛を訴えている。坐骨神経が切断されておれば,起こりえない症状である。 b 少なくとも,上記こむらがえりを訴えた時点では,原告の右下肢の坐骨神経の連続性が保たれていたことの証左である。 (イ) 検討原告は,本件手術(平成5年7月30日午後9時ころ開始)後,午前10時25分ころ病室に帰室したが,遅くとも同日午後1時ころから,右足の麻酔がとれていくのに従って,麻酔がとれた部分について痛さを感じるようになり,同日午後4時20分,ふくらはぎ部分に「こむらがえり」のような激痛を訴えている(証人Aの証言,原告本人の供述,乙1)。 原告の上記症状は,本件手術により坐骨神経が切断され,坐骨神経が高度に損傷されたために損傷部に浮腫が生じ,それにより神経線維が刺激されてそれが脳に伝わり,損傷部よりも遠位(末梢部)に激しい疼痛を感じたものであり(鑑定書1頁),神経切断後に急性期に生ずる末梢神経損傷後疼痛である(甲18)。 り神経線維が刺激されてそれが脳に伝わり,損傷部よりも遠位(末梢部)に激しい疼痛を感じたものであり(鑑定書1頁),神経切断後に急性期に生ずる末梢神経損傷後疼痛である(甲18)。 以上のとおり,原告は,本件手術により,坐骨神経を切断されたため,本件手術後まもなく,右下肢のふくらはぎに「こむらがえり」を伴う激痛を訴えたのであり,原告の前記(ア)の主張も採用できない。 (4) 執刀上の不完全履行(争点(1)ア)の検討ア A医師の不完全履行(ア) A医師は,本件手術の際,本件腫瘍が神経鞘腫である可能性を認識していたところ(前記(1)ア(ア)b),本件腫瘍のCT画像やレントゲン写真,それに本件腫瘍の触診等から,本件腫瘍は大腿二頭筋,大殿筋,大内転筋の間に位置し,坐骨神経に接していることを認識し,そして,本件腫瘍に同位置関係や神経由来の腫瘍における神経鞘腫の発生頻度などからして,本件腫瘍が神経鞘腫であり,本件腫瘍が坐骨神経に巻き込まれている可能性が高いことを認識することができた(前記(1)ア(ア),イ(ア),本件鑑定書2頁)。 (イ) したがって,A医師は,本件手術に当たっては,坐骨神経を損傷しないように,本件腫瘍の前後で正常な神経束を露出し,そこにシリコンテープをかけて神経繊維の走行を確認し,腫瘍被膜(神経上膜)の全周を確認して,神経繊維が走行していない部位に神経の走行に沿う方向で長軸にメスで浅い切開を入れ,腫瘍実質表面に達した時点で被膜下に腫瘍実質だけをくり貫くようにして,本件腫瘍を切除するべき注意義務があった(前記(1)イ(イ)c,本件鑑定書3,4頁)。 (ウ) ところが,A医師は,本件腫瘍が神経鞘腫であることに気付かなかったので,上記のような神経方向に沿ってメスを入れるという手術方法をと あった(前記(1)イ(イ)c,本件鑑定書3,4頁)。 (ウ) ところが,A医師は,本件腫瘍が神経鞘腫であることに気付かなかったので,上記のような神経方向に沿ってメスを入れるという手術方法をとらず,本件腫瘍の末梢側に横軸に切開を入れて,坐骨神経の多くを切断した後,本件腫瘍を体幹側に剥離し,最後に,残った坐骨神経と本件腫瘍の境界部を切断して本件腫瘍を摘出したのであり,このときにも多くの坐骨神経を切断してしまい,結局殆どの坐骨神経を切断してしまったのである(前記(1)ア(イ)b)。 (エ) もし,A医師が,上記(イ)で認定したような適切な方法で本件手術をしておれば,本件手術により原告の右下肢に不全麻痺を生ずることを避けることができた(本件鑑定書3,4頁)。 (オ) したがって,A医師には,本件手術において,執刀上の手技を誤り,原告の坐骨神経の殆どを切断して高度の損傷を与えてしまったという過失があり,不完全履行である。 イ B医師の不完全履行(ア) A医師は医師免許を取得して2年目の経験未熟な研修医であり,B医師はそのA医師を指導する立場にあった臨床経験豊かな指導医であった。B医師は,指導医としての立場で,本件手術前に,既に撮影されていた原告のレントゲン写真やCT画像等に基づき,本件手術のカンファレンスを行い,さらに本件手術にも立ち会っている(前記(1)ア(ア)b,ア(イ)a)。 (イ) したがって,B医師にも,前示(4)ア(ア)(イ)で述べたのと同じ理由により,A医師に対し,前記(4)ア(イ)で説示したような適切な方法により本件手術を施行するように指導すべき注意義務があった。 (ウ) ところが,B医師は,A医師に対し,そのような指導をしなかったのであり,その結果,A医師が本件手術の執刀上の手技 適切な方法により本件手術を施行するように指導すべき注意義務があった。 (ウ) ところが,B医師は,A医師に対し,そのような指導をしなかったのであり,その結果,A医師が本件手術の執刀上の手技を誤り,原告の坐骨神経の殆どを切断して高度の損傷を与えてしまったのであるから,B医師にも過失があり,不完全履行がある。 ウ以上の認定に反する被告主張の検討(ア) 被告の主張被告は,次のとおり主張する。 a 本件腫瘍の病理組織検査の所見である「lowmalignancy」(低悪性,乙1-24頁)は,「切除しなければならない」神経鞘腫を意味するから,本件手術を選択し本件腫瘍を切除したことに誤りはない。 b そして,神経原発の悪性腫瘍を神経損傷も伴わずに摘出することは医学的に不可能であり,何らかの神経損傷が生じることはむしろ通常である。 c 本件手術においても,術前に本件腫瘍が悪性であることが判明していれば,根治のため神経切断を含むより広範囲な切除が企てられたはずである。 (イ) 検討しかし,被告の上記主張は採用できない。その理由は,以下のとおりである。 aA医師らは,本件腫瘍は良性である可能性が高いが,悪性である可能性も否定できないと考えて本件手術に臨んだが(前記(1)ア(ア)b),皮膚を切開して本件腫瘍を直接検分した結果,本件腫瘍は良性のものであると判断し,それを前提として手術をしている(B医師が,平成5年8月5日,原告に対し,本件腫瘍が良性のものであると説明していることからも〔前記(1)ア(ウ)d〕,そのように認定できる。)。 したがって,被告が,本件腫瘍が悪性である可能 月5日,原告に対し,本件腫瘍が良性のものであると説明していることからも〔前記(1)ア(ウ)d〕,そのように認定できる。)。 したがって,被告が,本件腫瘍が悪性である可能性があることを前提にして,A医師らが本件手術により神経損傷を生じさせたことに過誤がないと主張するのは誤っている。 b しかも,本件手術後に実施された病理検査では,本件腫瘍は「lowmalignancy」(低悪性)であったが,本件腫瘍は良性であり,上記病理所見は誤っていた(前記(1)ア(エ))。 したがって,被告が,本件腫瘍が悪性であることを前提に,A医師らが本件手術により多くの坐骨神経を切断をしたことに問題がないかの如く主張するのも,誤っている。 c しかも,仮に本件腫瘍が悪性のものであったとしても,本件腫瘍が悪性のものであることが疑われる場合にとるべき手術前の措置,手術中の措置は,前記(1)イ(イ)のab(前掲20~21頁)で説示したとおりである。ところが,A医師らは,そのような措置はとらず,ただ漫然と前記(1)ア(ア)のb(前掲15,16頁),同ア(イ)のbc(前掲16,17頁)で認定したような極めて不適切な処置をとっている。 したがって,被告が,本件腫瘍が悪性であることを前提に,A医師らが本件手術により神経切断をしたことに問題がないかの如く主張するのが誤りであることが明らかである。 エまとめ以上の次第で,被告の履行補助者であるA医師及びB医師に,本件手術についての不完全履行が認められる以上,被告は,債務不履行に基づき,原告が本件手術の過誤(原告の右下肢大腿部の殆どの坐骨神経を切断してしまい,右下肢に不全麻痺を生じさせた)により被った損害について,損 ついての不完全履行が認められる以上,被告は,債務不履行に基づき,原告が本件手術の過誤(原告の右下肢大腿部の殆どの坐骨神経を切断してしまい,右下肢に不全麻痺を生じさせた)により被った損害について,損害賠償をすべき責任がある。 2 争点2(本件示談契約の効力)の検討(1) 事実の認定前記第2の2の前提事実に,証拠(甲7,甲13,乙7〔一部〕,証人F〔一部〕,原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。 ア原告は,本件手術(平成5年7月30日)後,A医師らの手術ミスのため右足機能不全となり,歩行困難となったのではないかと考え,平成5年9月20日から平成6年10月11日にかけて,県立病院の関係者と会ったり電話をかけたりして,本件手術に医療ミスはなかったか何度も話し合った。 イその間,県立病院側は,終始一貫して,本件手術には法的責任を問われるような過誤はなかったと説明して,本件手術ミスによる損害賠償金の支払義務はないと主張した。 B医師(県立病院副院長)も,平成5年9月27日,原告に対し,「本件腫瘍が神経原発で悪性であったことから,同腫瘍の摘出のためには神経を含めてとらなければならなかったのであり,原告の右足機能不全,歩行障害について,法的にはA医師らに責任はない。」と説明した(乙7-3~7頁,原告本人)。 この説明は,前示のとおり,B医師が平成5年8月5日原告にした説明と矛盾しており(前記1(1)ア(ウ)d〔18頁〕),本件腫瘍は良性のものであったから(前記1(1)ア(エ)),責任逃れの虚偽の説明であった。 ウしかし,原告は,平成5年10月18日に県立病院を退院した後も,平成8年5月まで月3回位県立病院に通院して治療を受けており,県立病院側に強い立場で本件 任逃れの虚偽の説明であった。 ウしかし,原告は,平成5年10月18日に県立病院を退院した後も,平成8年5月まで月3回位県立病院に通院して治療を受けており,県立病院側に強い立場で本件手術の医療ミスを追及できる立場にはなかった。 また,原告は,当時,本件手術の問題点についての医学知識もなく,県立病院側の説明(本件手術には法的責任を問われるような過誤はなかったとの説明)に反論を加えるだけの資料も持ち合わせていなかった。 そのため,原告は,県立病院側から提案された和解案(本件手術には法的責任を問われるような過誤がなかったことを前提に,被告が原告に見舞金として10万円を支払う)を飲むことになった。 エ以上のような経過を踏まえて,原告は,平成6年10月11日,被告との間で,あくまでも,本件手術には法的責任を問われるような過誤は一切なかったことを前提に,被告が原告に金10万円の見舞金を支払うが,両者間にはその余の債権債務がないことを相互に確認する旨の本件示談契約を締結した(甲7,甲13)。 (2) 検討上記(1)認定の事実によれば,本件示談契約は,あくまでも,本件手術には法的責任を問われるような過誤は一切なかったことを前提に,被告が原告に金10万円の見舞金を支払うという内容である。 しかし,前記1で認定判断したとおり,原告は,A医師らの手術ミスのため右足機能不全となり,歩行困難となったのであり,本件手術には法的責任を問われるような過誤があり,被告には本件手術ミスによる損害賠償金支払義務がある。 そうすると,原告の本件示談契約は,本件手術には法的責任を問われるような過誤は一切なかったことを前提としたものであるから,原告の本件示談契約締結の意思表示には要素の錯誤があり,本件示談 る。 そうすると,原告の本件示談契約は,本件手術には法的責任を問われるような過誤は一切なかったことを前提としたものであるから,原告の本件示談契約締結の意思表示には要素の錯誤があり,本件示談契約は無効である。 3 争点3(原告の損害額)の検討(1) 入院付添費 31万5000円ア事実の認定前記第2の2の前提事実,第4の1の認定判断に,証拠(乙1ないし4,原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。 (ア) 原告(昭和9年10月生)は,本件手術を受けるため県立病院に入院するまでは,吉井理研に勤務して研磨作業に従事しており,とりたてて健康に問題はなかった。 確かに,原告は,昭和60年ころから,本件腫瘍のため,入浴時等に右臀部にしこり等を感じ,歩行の際などに圧痛を感じたりはしていたが,日常生活や前記勤務に支障を来すようなものではなかった。 (イ) 原告は,平成5年7月28日県立病院に入院し,同年7月30日本件手術を受け,同年10月18日県立病院を退院した。原告は,本件手術後歩行困難となったため,本件手術後退院するまで妻甲に付き添ってもらった。 (ウ) 原告は,本件手術ミスで右大腿部坐骨神経の殆どを切断され,右足機能不全となり歩行困難となった。そのため,原告は,平成5年8月2日以降県立病院整形外科でも診察治療を受け,同年8月3日から同病院理学診療科でも理学療法を受け,リハビリ訓練に励んだ。 結局,原告は,本件手術が適切に行われておれば,平成5年7月28日から20日間位の入院期間で退院できたのに,本件手術の過誤により,同日から平成10年10月18日まで,83日間の入院を余儀なくされたのである。 イ検討 5年7月28日から20日間位の入院期間で退院できたのに,本件手術の過誤により,同日から平成10年10月18日まで,83日間の入院を余儀なくされたのである。 イ検討上記アの認定によると,原告は,本件手術ミスによって63日間の入院(余分な入院)が必要となり,その間原告の妻の付添が不可欠となったのであるから,その間の付添費は本件手術ミスによる損害と認められる。その金額は,1日につき5000円,63日間で31万5000円と認めるのが相当である。 (2) 入院雑費 7万5600円前示(1)と同様の理由により,本件手術ミスにより被った入院雑費の損害として,1日当たり1200円,63日間で7万5600円の損害を認める。 (3) 休業損害 191万2982円ア前記(1)ア(ア)(ウ)の事実(原告の入院前の症状,適切な手術が行われた場合の入院期間等)に照らせば,原告は,入院(平成5年7月28日)後1か月あまりの休業により,職場(吉井理研)に復帰することが可能であったと推認できる。 ところが,原告は,本件手術ミスにより歩行困難となり,平成5年9月1日以降も吉井理研に出勤することができず,平成6年2月1日には吉井理研を退職せざるをえなくなった(原告本人の供述)。 イしたがって,原告は,本件手術ミスにより,平成5年9月1日から平成6年2月1日までの154日分の休業損害を被ったことが認められる。原告が平成4年度に吉井理研から支給されていた給与は年間453万4016円であったから(甲2,原告本人),上記154日間の休業損害は191万2982円(453万4016円÷365日×154日)となる。 (4) 入通院慰藉料 200万0000円 万4016円であったから(甲2,原告本人),上記154日間の休業損害は191万2982円(453万4016円÷365日×154日)となる。 (4) 入通院慰藉料 200万0000円ア原告は,本件手術ミスのため,右足機能不全となり,歩行困難となったため,次のような入通院を余儀なくされた。 (ア) 県立病院での63日間の入院(余分な入院,前記(1)イ)。 (イ) 平成5年11月から平成8年5月まで県立病院への通院(通院実数183日)(甲4,甲5,乙3,乙4)。 (ウ) 大藤病院での週1回の電気治療(長期間)(弁論の全趣旨)。 イ上記アの事実に照らせば,原告の入通院慰藉料は200万円と認めるのが相当である。 (5) 後遺障害逸失利益 2845万7978円ア後遺障害の内容,労働能力喪失率上記1(1)ア(イ)の事実に,証拠(甲6,甲12の1~25,甲19の1~27,乙3,乙4,原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の(ア)ないし(オ)の事実が認められる。同事実によると,原告は,本件手術ミスにより,右下肢機能全廃(自賠法施行令5級7号)の後遺障害(労働能力喪失率79%)を負ったことが認められる。 (ア) 原告は,本件手術(平成5年7月30日)前,入浴時等に右臀部にしこり等を感じ,歩行の際などに圧痛を感じたりはしていたが,日常生活や吉井理研での勤務に支障をきたすようなものではなかった。ところが,原告は,本件手術ミスで右大腿部坐骨神経の殆どを切断され,右足機能不全となり歩行困難となった。 (イ) 原告は,平成5年8月3日から右足のリハビリを開始した。その結果,原告は,杖をつき長下肢装具を装着して(甲12の24・25,甲19の3・ れ,右足機能不全となり歩行困難となった。 (イ) 原告は,平成5年8月3日から右足のリハビリを開始した。その結果,原告は,杖をつき長下肢装具を装着して(甲12の24・25,甲19の3・12~27各写真参照),屋外を歩行できるようになった。また,屋内であれば,杖をつき短下肢用装具を装着して歩行することができる。屋内等の安全な場所では,短時間であれば短下肢用装具だけで杖をつかずに歩くことも可能である。 (ウ) しかし,原告の右下肢等を平成11年9月13日に撮影した写真(甲12の1~25)と平成13年9月27日に撮影した写真(甲19の1~11)とを比較すれば明らかなように,原告の右下肢の膝関節以上の部分は,平成11年から平成13年のわずか2年間の間に顕著に細くなっていることが認められる。 ところで,原告の右下肢の膝関節以上の部分は,本件手術のあった平成5年7月30日までは,左下肢の同部分とほぼ同じ太さであった。ところが,原告は,本件手術ミスにより右坐骨神経を切断されたため,右下肢の膝関節以上を使用することがなくなり,その結果,右下肢の膝関節より上の部分の筋肉が徐々に退化し(原告本人尋問調書55頁),甲第19号証の1~11の写真の状態となったのである。 (エ) 原告は,下肢装具のみで歩行することが不可能なわけではないが,非常に不安定で,仕事はもちろん日常生活の用にも耐えるものではない。 原告が,日常生活において,杖を使わず,長下肢装具や短下肢装具のみを使い,自分の右足の筋肉を使って歩行しているとすれば,上記(ウ)のように,原告の右下肢の膝関節以上の筋肉が退化していくということはあり得ないことである。 原告の上記筋肉の退化は,原告が,日常生活において,右下肢の膝関節以 ているとすれば,上記(ウ)のように,原告の右下肢の膝関節以上の筋肉が退化していくということはあり得ないことである。 原告の上記筋肉の退化は,原告が,日常生活において,右下肢の膝関節以上の筋肉を使っておらず,杖による腕や手の筋肉と左下肢の筋肉を使って歩行していることを裏付けている。 (オ) 兵庫県知事は,平成5年11月,身体障害者福祉法15条4項,5項に基づき,原告を身体障害者等級表による3級の障害者(右下肢機能全廃の障害者)と認定し,原告に対し右下肢機能全廃と記載した身体障害者手帳(甲6)を交付した。 イ年収,労働能力喪失期間原告は,本件手術ミスで右大腿部坐骨神経の殆どを切断され,右足機能不全となり歩行困難となったため,平成6年2月に吉井理研を退職して以降は,安定した職場に就職して長期にわたり給与収入を得ることができなくなった(原告本人の供述,弁論の全趣旨)。 原告(平成9年10月生)は,本件手術の前年度(平成4年度),吉井理研から453万4016円の給与を支給されていた(甲2,原告本人)。原告は,平成6年2月当時未だ59歳の若さであり,本件手術前はとりたてて健康に問題はなかったのであるから(前記(1)ア(ア)),本件手術ミスさえなければ,平成5年2月からさらに10年間位(原告が68歳になるまで)は,453万4016円程度の年収を得ることができたと推認できる。 ウまとめ以上のア,イの事実に照らせば,原告は,本件手術ミスにより,右下肢機能全廃の後遺障害を負い,2845万7978円(453万4016円〔年収〕×0.79〔労働能力喪失率〕×7.945〔10年の新ホフマン係数〕)の損害(後遺障害による逸失利益)を被ったことが認められる。 障害を負い,2845万7978円(453万4016円〔年収〕×0.79〔労働能力喪失率〕×7.945〔10年の新ホフマン係数〕)の損害(後遺障害による逸失利益)を被ったことが認められる。 (6) 後遺障害慰藉料 1300万0000円原告は,本件手術ミスにより,右下肢機能全廃(自賠法施行令5級7号)の後遺障害を負ったこと(前示(5)ア),原告は,本件手術後,右下肢に装具を装着し,かつ杖をつかなければ歩行できず,今後も回復の見込みがないこと,その他本件に現われた一切の事情を総合考慮すると,本件手術ミスによる原告の精神的苦痛を慰謝するに足る金額は,1300万円と認めるのが相当である。 (7) 損益相殺 -143万2000円ア傷病手当原告は,尼崎社会保険事務所より,傷病手当として,合計133万2000円の支払を受けているので(甲3の1~8),原告の損害額から控除する必要がある。 イ見舞金前示2(1)のとおり,被告は,平成6年10月11日,原告に対し,原告の本件手術後の右足機能不全,歩行困難な事態の発生を受けて,10万円の見舞金を支払っている。 そして,地方公共団体である被告が原告に対し,見舞金を社交的儀礼として支払ったものとはいえないことや,前示2(1)で認定した見舞金を支払うに至った経緯,その金額等に照らすと,見舞金10万円は,本件手術ミスにより原告の被った損害額から控除するのが相当と認める。 ウまとめ以上のア,イの合計143万2000円が,原告の損害額から控除すべき損益相殺の合計額である。 (8) 弁護士費用 450万0000円本件訴訟が,医療過誤訴訟という専門知識を要する複雑困難な訴訟である 43万2000円が,原告の損害額から控除すべき損益相殺の合計額である。 (8) 弁護士費用 450万0000円本件訴訟が,医療過誤訴訟という専門知識を要する複雑困難な訴訟であることを考慮すると,本件医療過誤と相当因果関係のある弁護士費用の損害は,450万円(前記(1)ないし(7)の合計額4432万9560円の1割強)と認めるのが相当である。 (9) 合計 4882万9560円以上によると,原告の損害額合計は4882万9560円となる。 第5 結論 1 以上によると,原告の本件損害賠償請求は,下記の限度で理由があるのでこれを認容し,その余は理由がないので棄却すべきである。 記損害賠償金4882万9560円,及びこれに対する平成9年10月18日(訴状送達の日の翌日)から完済まで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払 2 なお,被告は,担保を供することを条件とする仮執行免脱宣言の申立てをしている。 しかし,本件は,A医師らが執刀した本件手術にミスがあり,そのため,原告は,右大腿部坐骨神経の殆どを切断され,右足機能不全となり歩行困難となって,多大の損害を被ったことが,比較的明らかな事案であると考えるので,認容分について仮執行宣言を付したうえ,担保を条件とする仮執行免脱宣言は付さないこととする。 3 よって,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第2民事部裁判長裁判官紙浦健二裁判官中村哲裁判官今井輝幸 村哲裁判官 今井輝幸
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