令和元年9月12日判決言渡平成29年(行ウ)第33号精神保健指定医の指定の取消処分取消請求事件主文 1 厚生労働大臣が平成28年10月26日付けで原告に対してした精神保健指定医の指定を取り消す旨の処分を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求主文同旨第2 事案の概要 本件は,精神保健指定医(以下「指定医」という。)の指定(以下「本件指定」という。)を受けていた医師である原告が,厚生労働大臣(処分行政庁)から,本件指定を取り消す旨の処分(以下「本件処分」という。)を受けたため,被告を相手に,本件処分の取消しを求める事案である。本件処分の理由は,原告が本件指定に係る申請(以下「本件申請」という。)の際に,自ら担当として診 断又は治療に十分な関わりを持った症例とは認められない症例を対象とする不正なケースレポートを作成して提出し,このことが,精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下「精神保健福祉法」という。)19条の2第2項に規定する「指定医として著しく不適当と認められるとき」に該当するというものである。 1 関係法令等の定め 本件に関係する精神保健福祉法の定めは別紙2-1,精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行令の定めは別紙2-2,精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行規則の定めは別紙2-3である。 (1) 指定医は,都道府県知事の命を受けて,精神障害者又はその疑いのある者を診察し,その者が精神障害者であり,かつ,入院させなければその精神 障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあるかどうかの判 定を行い,都道府県知事は,その判定を受けて措置入院又は緊急措置入院を実施することができる(精神保健福祉法1 障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあるかどうかの判 定を行い,都道府県知事は,その判定を受けて措置入院又は緊急措置入院を実施することができる(精神保健福祉法19条の4第1項1号,27条1項,2項,28条の2,29条1項,29条の2第1項,4項)。また,指定医は,精神科病院の管理者の命を受けて,医療及び保護の必要があるかどうか又は直ちに入院させなければその者の医療又は保護を図る上で著しく支 障があるかどうか等の判定を行い,上記管理者はその判定を受けて医療保護入院又は応急入院を実施することができる(同法19条の4第1項,33条1項1号,33条の7第1項1号)。このような指定医の職務に鑑み,指定医の指定については,厚生労働大臣が,申請に基づき,3年以上精神障害の診断又は治療に従事した経験を有するなど所定の要件に該当する医師のう ち,上記の職務を行うのに必要な知識及び技能を有すると認められる者を指定医に指定する(同法18条1項)こととされているところ,上記の要件の一つとして,「厚生労働大臣が定める精神障害につき厚生労働大臣が定める程度の診断又は治療に従事した経験を有すること」(同項3号,以下「診療経験要件」という。)が定められている。 厚生労働大臣は,指定医がその職務に関し著しく不当な行為を行ったときその他指定医として著しく不適当と認められるとき等には,その指定を取り消し,又は期間を定めてその職務の停止を命ずることができ(精神保健福祉法19条の2第2項),また,指定医の指定を取り消された後5年を経過していない者については,その申請に対して,指定医の指定をしないことがで きる(同法18条2項)。 (2) 「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第18条第1項第3号の規定に基づき を経過していない者については,その申請に対して,指定医の指定をしないことがで きる(同法18条2項)。 (2) 「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第18条第1項第3号の規定に基づき厚生労働大臣が定める精神障害及び程度」(別紙2-4。昭和63年厚生省告示第124号〔平成26年厚生労働省告示第32号による改正前のもの〕。以下「本件告示」という。)は,診療経験要件のうち「厚生労 働大臣が定める精神障害」(精神保健福祉法18条1項3号)につき,統合 失調症圏,躁うつ病圏,中毒性精神障害(依存症に係るものに限る。),児童・思春期精神障害,症状性若しくは器質性精神障害(老年期認知症を除く。以下「器質性精神障害等」という。)又は老年期認知症の6つを定めるとともに,診療経験要件のうち「厚生労働大臣が定める程度の診断又は治療」(同号)として,それぞれの精神障害について経験すべき症例の最低限 の数を定めており,これによれば,最低でも合計8例以上の症例を経験しなければならない。そして,上記6つの精神障害のうち器質性精神障害等について,本件告示は,同法29条1項の規定により入院した者(以下「措置入院者」という。),同法33条1項若しくは3項の規定により入院した者(以下「医療保護入院者」という。)又は「心神喪失等の状態で重大な他害 行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」42条1項1号若しくは61条1項1号の決定により入院している者(以下「医療観察法入院対象者」という。)につき1例以上を経験していること(以下「器質性等診療経験要件」という。)を定めている。 (3)ア 「精神保健指定医の新規申請等に係る事務取扱要領」(各都道府県・ 指定都市精神保健福祉主管部(局)長宛て厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部精 経験要件」という。)を定めている。 (3)ア 「精神保健指定医の新規申請等に係る事務取扱要領」(各都道府県・ 指定都市精神保健福祉主管部(局)長宛て厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部精神・障害保健課長通知〔平成22年2月8日障精発0208第2号〕によるもの。乙21。以下「本件取扱要領」という。)は,精神保健福祉法18条1項3号にいう「診断又は治療に従事した経験」について,申請時に提出するケースレポートにより,指定医として必要とされる 法的・医学的知識及び技術を有しているかについて確認するものとし,その審査に当たっては,医道審議会医師分科会精神保健指定医資格審査部会(以下「審査部会」という。)作成に係る平成18年2月16日付け「指定医ケースレポートの評価基準」(平成21年12月11日改訂後のもの。以下「本件評価基準」という。)を参考とすることとしている(2 (1))。 そして,本件取扱要領は,ケースレポートの対象となる患者について,①本件告示に定める8例以上の症例については,精神病床を有する医療機関において常時勤務し,当該医療機関に常時勤務する指定医(以下「指導医」という。)の指導のもとに自ら担当として診断又は治療等に十分な関わりを持った症例について報告しなければならないとし(以下 「関与基準」ということがある。),少なくとも1週間に4日以上,当該患者について診療に従事したものでなければならないこと(2(2)ア),②原則として,当該患者の入院から退院までの期間,継続して診療に従事した症例についてケースレポートを提出すること(2(2)イ),③同一症例について同時に複数の医師がケースレポートを作成すること は認められないこと(2(2)キ)としている。 また,本件評価基準は,関与症例選択に関 レポートを提出すること(2(2)イ),③同一症例について同時に複数の医師がケースレポートを作成すること は認められないこと(2(2)キ)としている。 また,本件評価基準は,関与症例選択に関わる共通事項として,(a)「担当医又は主治医としての,診断又は治療への関わりは十分であるか」を定め,症例内容に係わる共通事項として,(b)治療につき「主治医としての治療方針や治療的関わりが明確であるかどうか」,(c)考察につ き「主治医としての関わりが明らかであるか」を定め,また,器質性精神障害等に係るケースレポートについては,(d)「鑑別診断がなされているか」,(e)「当該疾患と精神症状の関連性についての考察の記載があるか」,(f)「原因(基礎)疾患名,身体的(神経学的)症状・所見,関係が深い検査の結果,他科医の診断と治療の概要の記載があるか」を定め ており,そのうち(a)~(e)は「非常に重要なもの」,(f)は「重要なもの」として位置付けられている。 ケースレポートの適否については,審査部会が,ケースレポート全体について本件評価基準に照らし総合的に判断するものとされている。 また,指定医の指定は,審査部会の意見に基づいて行うこととされてい るところ,本件取扱要領は,申請者から提出されたケースレポートの内 容が十分でなく,本件告示に定める「診断又は治療に従事した経験」を満たしているか否かについて適正な審査が行えない旨の意見が審査部会から示された場合においては,当該「診断又は治療に従事した経験」のうち具体的な症例について,申請者自らが担当した他の症例のケースレポートの提出を求めることがあるとしている(4(3))。 イ本件取扱要領は,指導医の役割について,①ケースレポートに係る症例の診断又は治療について て,申請者自らが担当した他の症例のケースレポートの提出を求めることがあるとしている(4(3))。 イ本件取扱要領は,指導医の役割について,①ケースレポートに係る症例の診断又は治療について申請者を指導すること,②ケースレポートの作成に当たり,申請者への適切な指導及びケースレポートの内容の確認を行い,指導の証明を行うことを定めている(3(1))。 2 前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨 により容易に認められる事実)(1) 原告は,平成18年4月に免許を受けた医師であり,平成20年4月からB病院(以下「本件病院」という。)の精神科で勤務を開始した(乙3~4)。 C医師は,指定医の指定を受けている医師であり,原告が本件病院の精神 科で勤務していた当時,本件病院の副院長であり,診療部長等を兼務していた。 (2) 原告に対する指定医の指定ア原告は,平成24年6月14日付けで,厚生労働大臣に対し,指定医の指定の申請をし(本件申請。乙4),その際,同申請の添付書類として, 本件告示が定める6つの精神障害に係る8症例についてのケースレポートを提出した(以下,これら8症例のうち,器質性等診療経験要件に係るものとして提出されたケースレポート〔甲1の1〕を「本件ケースレポート」,同ケースレポートにおいて原告が経験したとされる症例を「本件症例」,本件症例に係る患者〔イニシャル「H.A」,昭和14年10月生 まれ,男性〕を「本件患者」という。また,本件ケースレポートの提出行 為を「本件提出行為」という。)。 本件患者は,医療保護入院者であり,本件病院での入院期間は平成21年12月10日から平成22年6月26日までの約28週間であった(以下「本件入院期間」という。 為を「本件提出行為」という。)。 本件患者は,医療保護入院者であり,本件病院での入院期間は平成21年12月10日から平成22年6月26日までの約28週間であった(以下「本件入院期間」という。)。 イ本件ケースレポートの記載概要 本件ケースレポートには,本件症例に係る情報(本件患者の氏名・生年月日,入退院年月日,本件患者の入院時現症,入院後の治療経過等)のほか,指導を行った指定医としてC医師の氏名が記載されている。C医師は,本件ケースレポートの9(2)「ケースレポートの証明」の欄の「このケースレポートは,…上記期間中私の指導のもとに診断又は治療 を行った症例であり,内容についても,厳正に確認したことを証明します。」との記載の下にある「指導医署名」欄に署名した(甲1の1)。 ウ原告は,平成24年12月13日付けで,指定医の指定を受けた。 (3) 本件処分ア厚生労働大臣は,D大学病院所属の医師23名について,指定医の指定 申請時に,申請者が自ら担当として診断若しくは治療に十分な関わりを有していない症例をケースレポートとして提出し,又は,指導医が当該ケースレポートに係る指導及び確認を怠りながら,指導医としてケースレポートに署名したとして,平成27年4月及び6月に,11名の申請者及び12名の指導医について,いずれも指定医の指定を取り消す処分(以下「D 指定取消処分」という。)をした。これらの処分は,D大学病院所属の3名の医師から申請の際に提出されたケースレポートが,同病院に勤務し又は過去に勤務していた他の医師が提出したケースレポートの記載内容と酷似しており,同一症例と疑われる旨が厚生局から厚生労働省に報告されたことから,厚生労働省において内容を精査したところ,過去に指定された 者についても同 師が提出したケースレポートの記載内容と酷似しており,同一症例と疑われる旨が厚生局から厚生労働省に報告されたことから,厚生労働省において内容を精査したところ,過去に指定された 者についても同様の疑いがあることが判明したために,同病院への立入調 査等をした結果,診療録に全く記載がないか,又はほぼ記載がなく,自ら担当として診断又は治療に十分な関わりを持っていないと認められる症例についてケースレポートを提出したことなどが明らかになったためにされたものである。 そして,厚生労働大臣は,D指定取消処分を契機として,①平成21年 1月から平成27年7月までの間に指定医の指定を申請した者3374人(対象ケースレポート件数3万1195件)を対象に,複数の医師が重複してケースレポートを提出している症例を特定した。そして,これらの症例について,②平成27年9月29日付けで,当該症例の各患者が入院していた医療機関に対し,診療録の写しの提出を求め,その上 で,③診療録への記載が全くないか,診療録への記載が週1回未満であり,記載内容からも診断又は治療に十分な関わりを持ったとはいえないことが強く推認されると判断した申請者については,更なる調査のため,平成28年3月10日付けで,当該医療機関に対し,診断又は治療に十分な関わりがあることを示す関係資料(例えば,診療録の表紙, 入・退院サマリー,入院診療計画書等。前回の調査で提出されたものは除く。)の提出を求め,提出された関係資料の内容を精査し,申請者が診断又は治療に十分な関わりがあったと認められるか否かを検討した。 (以上につき,乙1,5~7)イ本件症例については,原告のほかに,本件病院のE医師が,同症例に係 るケースレポートを提出して指定医の申請をし,その指定を受けてい められるか否かを検討した。 (以上につき,乙1,5~7)イ本件症例については,原告のほかに,本件病院のE医師が,同症例に係 るケースレポートを提出して指定医の申請をし,その指定を受けていたため,厚生労働大臣は,平成27年9月29日付けで,精神保健福祉法38条の6第1項に基づき,本件病院の管理者に対し,本件症例に係る診療録(以下「本件診療録」という。)の写しの提出を求め(乙6,以下「本件提出命令1」という。),同管理者は本件診療録(甲7)の写しを提出し た。 本件診療録上の原告による記載は4点(①平成21年12月11日,②平成22年1月18日,③同年3月19日及び④同年6月25日の各1点。以下,例えば,上記①の日の記載を「原告カルテ記載①」という。),E医師による記載は12点(①平成22年1月18日,②同月26日,③同年2月4日,④同月9日,⑤同月20日,⑥同年3月1 日,⑦同月18日,⑧同月29日,⑨同年4月9日,⑩同月16日,⑪同年5月12日,⑫同年6月11日の各1点。以下,例えば,上記①の記載を「Eカルテ記載①」という。)であった。 厚生労働大臣は,平成28年3月10日付けで,さらに原告が本件症例の診断又は治療にどのような関わりを持ったかを調査するために,精神 保健福祉法38条の6第1項に基づき,本件病院の管理者に対し,「診断又は治療に十分な関わりがあることを示す関係資料」の提出を求め(乙7,以下「本件提出命令2」という。),同管理者は,本件ケースレポートに係る指導医であるC医師が作成した書面(以下「本件送付書面」という。)等を提出した(乙8)。 本件送付書面には,本件症例について,C医師,E医師及び原告の3名の医師が担当したことや,E医師及び原告による本件診療録への記載が少 以下「本件送付書面」という。)等を提出した(乙8)。 本件送付書面には,本件症例について,C医師,E医師及び原告の3名の医師が担当したことや,E医師及び原告による本件診療録への記載が少ない理由についての事情が記載されていた(乙8)。 ウ厚生労働大臣は,平成28年7月20日付け聴聞通知書をもって,原告に対し,予定される処分の内容を「指定医の指定の取消し又は職務の停 止」,根拠となる法令の条項を精神保健福祉法19条の2第2項,処分の原因となる事実を,要旨「本件症例につき,自ら担当として診断又は治療等に十分な関わりを持った症例とは認められず,これは,虚偽のケースレポートの作成であり,同項に規定する『その他指定医として著しく不適当と認められるとき』に抵触すると考えられること」,聴聞の期 日を同年8月15日午前11時からとする旨を通知した(乙9)。 聴聞の主宰者(厚生労働事務官〔厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課課長補佐〕,以下「本件主宰者」という。)は,平成28年8月15日,原告に対する聴聞(以下「本件聴聞」という。)を実施した。 原告は,本件聴聞の期日において,器質性等診療経験要件に係るものと して,本件患者とは別の患者(昭和24年1月生まれ,入院期間平成21年1月6日から同年10月13日まで)に係る症例(以下「別件症例」という。)についても,自らが診療を行った症例であるとして,その医療記録及びケースレポート(以下「別件ケースレポート」という。)を提出した。 本件主宰者は,平成28年10月24日,上記の聴聞通知と同様の理由により,原告について,指定医の指定の取消し又は期間を定めてその職務の停止を命ずるのが適当であるとの意見を提出した(乙10) 本件主宰者は,平成28年10月24日,上記の聴聞通知と同様の理由により,原告について,指定医の指定の取消し又は期間を定めてその職務の停止を命ずるのが適当であるとの意見を提出した(乙10)。 エ厚生労働大臣は,平成28年10月25日付けで,審査部会長に対し,精神保健福祉法19条の2第3項の規定に基づき,①過去に指定医とし て指定された者49名(原告を含む。)及び②これらの者の指導医としてケースレポートの指導及び証明を行った者40名に対する指定の取消し又は職務の停止の処分について意見を求めた(乙11)。 審査部会においては,上記合計89名の指定医を対象に審査した上,平成28年10月26日付けで審査部会長による答申をしたところ,これ らのうち原告については,「指定医の指定取消しを行うことが妥当である」との審査結果による答申(以下「本件答申」という。)がされた(乙12)。 オ厚生労働大臣は,平成28年10月26日付けで,原告に対し,要旨「本件症例は,本件診療録その他本件病院からの提出書類の内容を勘案し た結果,原告が自ら担当として診断又は治療に十分な関わりを持った症例 とは認められなかった。これは,不正なケースレポートの作成であり,精神保健福祉法19条の2第2項に規定する『指定医として著しく不適当と認められるとき』に該当する」との理由により,本件指定を取り消す旨の処分(本件処分)をした(甲1の2)。 なお,E医師に対しては,このような指定取消処分はされていない。 (4) 原告は,平成29年1月18日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。 3 争点本件における争点は,本件処分の適法性であり,特に,原告が本件症例につき自ら担当として診断又は治療に十分な関わりを有していたか( 平成29年1月18日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。 3 争点本件における争点は,本件処分の適法性であり,特に,原告が本件症例につき自ら担当として診断又は治療に十分な関わりを有していたか(本件ケースレポートの作成・提出が不正なものであったか)が争われている。 争点に関する当事者の主張は,別紙3のとおりである。なお,同別紙で定義した用語は本文においても用いる。 第3 当裁判所の判断当裁判所は,原告は本件症例に係る診療について自ら担当として十分な関わりを持ったと認められるので,本件ケースレポートの提出行為をもって精神保健福 祉法19条の2第2項に規定する「指定医として著しく不適当と認められるとき」に該当するとして本件指定を取り消した本件処分は,厚生労働大臣の裁量判断の前提となる重要な事実の基礎を欠くものであり,その裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法であるから,本件処分の取消しを求める原告の請求は理由があり,これを認容すべきものと判断する。 その理由の詳細は以下のとおりである。 1 認定事実前記前提事実,証人C(以下,証人の表記においても「C医師」と記載する。),原告本人,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。 (1) 本件患者が本件病院に入院するに至る経緯について(甲7,乙17) ア本件病院を受診するまでの経緯本件患者(昭和14年10月生まれ。本件当時70歳)は,60歳の時に髄膜腫を発症し,平成13年,国立F病院(以下「F病院」という。)において摘出手術を受けたが,その後,髄膜腫が再発したため,平成21年7月15日,同病院で再び摘出手術を受け,同年8月16日 退院した(甲2の2,甲4)。 本件患者は,上記の再手術 という。)において摘出手術を受けたが,その後,髄膜腫が再発したため,平成21年7月15日,同病院で再び摘出手術を受け,同年8月16日 退院した(甲2の2,甲4)。 本件患者は,上記の再手術後,ICU(集中治療室)で,「ここの病院で殺される」「警察を呼んでくれ」などと訴え,当初はICU症候群(手術の後に精神的に不安定になること)であると見られていたが,その後も病的体験は持続し,退院日である平成21年8月16日には,苦 痛に耐えかねてコップを割り,手首を自傷したりしてリストカットを繰り返し,同月20日にもリストカットを行ったため,病院に緊急搬送され,精神科を紹介された。同月27日には,うつ状態でF病院に入院し,同年9月4日に退院した。 本件患者は,退院後も「妻が売春している」「電波が頭に入ってくる」 「テレビやウォシュレットのコンセントから電波が出ている」「トイレのブラシがカチャカチャ鳴って信号を出している」などと訴えるようになり,平成21年10月20日頃から精神科の処方薬の服薬を拒否するようになった。さらに,同年11月から妻に対する暴力があったため,同月10日から21日までF病院に再び入院した。その退院に当たり, F病院は,本件患者を本件病院に紹介し,本件病院において本件患者について医療保護入院をさせるか検討することとなった。(甲2の1及び2,5)イ本件病院の初診から本件入院まで(ア) 本件患者は,平成21年12月1日,本件病院を受診し,C医師 が本件患者の診察を行った。しかし,本件患者は,検査を開始した矢先 に餓死することを宣言し,食事も投薬も拒み,全身状態が悪化したため,入院治療が必要な状態となった。そこで,C医師は原告に対し入院治療を受けるよう説得したものの,治療を拒否し 始した矢先 に餓死することを宣言し,食事も投薬も拒み,全身状態が悪化したため,入院治療が必要な状態となった。そこで,C医師は原告に対し入院治療を受けるよう説得したものの,治療を拒否して餓死するという態度は変わらなかったため,妻の同意を得て,同月10日から医療保護入院(本件入院)を開始することとした(甲3~4)。 (イ) C医師は,本件入院を開始するに当たり,本件患者が,精神病症に加えて,上記のとおり,リストカットの反復歴や拒食,拒薬による全身状態の悪化が認められており,全身状態を管理しながら精神疾患の治療を行う必要があったことや,脳腫瘍に関する不測の事態も想定して対応する必要があったことから,重症度の高い特殊な症例であると捉え, これに適切に対処するためには複数主治医体制で診療に臨むことが相当であるとし,E医師及び原告を加えた3名の医師により本件患者の診療を担当することとした(以下「本件複数医体制」という。)。なお,本件病院の精神科では,通常は単独主治医体制が採られ,本件のように3名での複数主治医体制を採用したのは極めて珍しいことであった(C医 師)。 原告は,本件病院において,新臨床研修制度(平成16年4月より開始された制度であり,大学附属病院又は指定病院における2年以上の研修が義務付けられている。)を修了した初めての医師であり,平成20年4月から本件病院の精神科に勤務する以前は,京都府(住所省略)に 所在するG病院において,2年間,内科,外科等の診療科で勤務していた。したがって,原告は,内科の経験もあり,身体症状について一定程度通じているため,C医師は,かかる経験が本件患者の治療に活かされることを期待し,E医師に加えて,原告に対しても本件患者の主治医になるよう依頼した(甲17・1頁)。 験もあり,身体症状について一定程度通じているため,C医師は,かかる経験が本件患者の治療に活かされることを期待し,E医師に加えて,原告に対しても本件患者の主治医になるよう依頼した(甲17・1頁)。 他方,E医師は,この当時,医師として20年以上の経験を有してい たが,神経科を専門としており,平成21年4月に本件病院に勤務する以前は,研究機関(神経内科学教室)の准教授を務めるなどしていた。 なお,C医師がE医師及び原告に本件症例を担当させたのは,両名の医師に精神科診療として多様な経験を積ませるという意図も含まれていた(甲17,C医師)。 (ウ) 原告は,F病院の医師の作成に係る紹介状,診療情報提供書(甲2の1・2)及びC医師作成に係る診療録(甲3)に目を通した上で,平成21年12月10日,C医師,E医師及び原告が,本件患者を診察するとともに,その妻からの聴き取りを行うなどした(甲16)。 ウ本件入院 (ア) 本件患者は,平成21年12月10日,本件病院に入院した(本件入院)。 本件病院には病棟が10棟あるところ,本件患者は,上記ア及びイのとおり,全身状態の悪化が認められ,重症度が高かったことから,身体合併症病棟(以下「本件病棟」という。)に入院した。 原告は,入院時の診療録の記載に必要となる本件患者の生活歴,現病歴,入院時現症等をまとめた聴取記録(甲5,以下「本件聴取記録」という。)の草稿を作成し,E医師がこれを添削し,C医師が内容を確認した(甲16)。原告が最初に草稿を作成したのは,3名の医師のうち,原告が医師としての経験が最も浅かったためである。 本件聴取記録の末尾には,作成名義として,E医師及び原告の氏名が記載されている。 (イ) 入院届の作成及び提出について 医師のうち,原告が医師としての経験が最も浅かったためである。 本件聴取記録の末尾には,作成名義として,E医師及び原告の氏名が記載されている。 (イ) 入院届の作成及び提出について本件病院の管理者は,平成21年12月18日付けで,京都府知事に対し,本件患者について,医療保護入院を必要とする旨を判定し,入院 させた旨の「医療保護入院の入院届」(以下「本件入院届」という。) を提出した(甲4)。 本件入院届には,以下の記載がある。 「本件患者の主たる精神障害」欄症状精神病「身体合併症」欄反復性髄膜腫「現在の精神症状」 「Ⅳ知覚」欄幻聴・幻視「Ⅴ思考」欄妄想「Ⅵ感情・情動」欄易怒性・被刺激性亢進「Ⅸ食行動」欄拒食「現在の状態像」欄幻覚妄想状態 「保護入院の必要性」欄脳神経外科での再発性髄膜腫摘出術直後から幻覚妄想状態にある。 詳しい検査では巣症状が認められるかもしれないが記銘力および理解力は保たれており認知症状態にはない。当初は『ここの病院で殺される』『警察を呼んでくれ』などと訴え,その後も病的体験は程度を増 して持続し,『子供が誘拐される』『監視されている』『妻が売春している』『電波が頭に入ってくる』『テレビやウォシュレットのコンセントから電波が出ている』と訴えるようになった。また,経過中に手首の自傷があった。更に平成21年12月からは餓死を宣言して拒食,拒薬するようになり全身状態が悪化している。このため入院治療 が必要と考え,時間をかけて説得したが入院には同意が得られるものの治療は 傷があった。更に平成21年12月からは餓死を宣言して拒食,拒薬するようになり全身状態が悪化している。このため入院治療 が必要と考え,時間をかけて説得したが入院には同意が得られるものの治療は拒否して餓死することは訂正できなかった。このため任意入院する状態にないと判断し,妻の同意を得て医療保護入院とした。 「処遇」欄閉鎖処遇「入院見込み期間」欄 3か月 「今後の治療方針」欄 拒食して全身状態が悪化しているため身体合併症病棟に入院とし,内科医と協力して全身状態を管理しながら精神科薬物治療を行う。 本件入院届のうち,「生活歴及び現病歴」及び「保護入院の必要性」の欄の記載は,本件聴取記録の内容がそのまま転記されている。 (ウ) 入院診療計画書の作成について本件入院に当たり,C医師は,入院診療計画書(以下「本件入院計画書」という。乙17・13枚目)を作成した。本件入院計画書には,「主治医以外の担当者」欄に准看護師であるI(以下「I准看護師」という。)の氏名が記載されているほか,本件入院計画書の作成者である 担当医としてC医師の署名がされているが,E医師及び原告の氏名は記載されていない。 (2) 入院後の治療経過について(甲7,乙17)ア平成21年12月10日原告は,医師間の協議において,効果の高い抗精神病薬であるハロペリ ドールの投与を提案したが,C医師は,本件患者は身体疾患がメインであり興奮状態にはなく,かえって副作用が出やすくなることからこのような抗精神病薬の処方は相当ではない旨応答し,その結果,本件患者には,セロクエル25mgを1錠投与することとされた(【エピソード1】。甲16,17,C医師,原告本人 作用が出やすくなることからこのような抗精神病薬の処方は相当ではない旨応答し,その結果,本件患者には,セロクエル25mgを1錠投与することとされた(【エピソード1】。甲16,17,C医師,原告本人)。 ハロペリドールは,幻覚・妄想に対する有効性が高い薬剤であり(甲25),震えの副作用が強いのに対し,セロクエルは,幻覚や妄想のある患者に処方される抗精神病薬であるが,震えの副作用が少ない一方,食欲を増進させる副作用があるとされている(甲8,原告本人)。 本件診療録(甲7・1頁)には,上記のとおりセロクエルを投与する旨 の記載があるほか,その翌日である同月11日に原告が診察したとき, 本件患者より「医療センターより電波が来ているんです」との訴えがあった旨の原告カルテ記載①(前提事実(3)イ参照)が存する。 イ平成21年12月15日本件患者は,入院後も食事量が少ない状態が続いていたところ,同日も,「食事は入らない。ゼリー1ケくらい。点滴してください。」と訴えた (甲7・2頁)。 C医師は原告に意見を求め,原告は,「1日の食事摂取量の総量が半量以下の時にのみ点滴をする」との意見を述べたところ,これが採用され,看護師に周知された(【エピソード②】,甲16~17)。 本件診療録の同日の欄には,「15/30以下の時」との記載があるが, これは,一食を10,三食を30として食事量を測定したときに,1日の食事摂取量が15以下であることを意味している。この方法は,看護師でも容易に判定できるものであり,原告が他の患者を診療した際に用いた方法を上記のとおり提案したものであった。 ウ平成22年1月18日 原告は,本件患者を診察し,充分な量の食事を摂ることができるようになったとの診断をした。 者を診療した際に用いた方法を上記のとおり提案したものであった。 ウ平成22年1月18日 原告は,本件患者を診察し,充分な量の食事を摂ることができるようになったとの診断をした。 原告がこのような診断をしたのは,上記イのとおり本件患者の食事量が少ない場合の対処法が看護師に周知された平成21年12月15日以降,約1か月間にわたり,セロクエルの副作用(食欲増進)にも留意しつつ, 本件患者の食事量の観察を続けていたためであった。 本件診療録(甲7・4頁)には,上記診断に係る原告カルテ記載②が存する。 エ平成22年3月3日本件患者に対して実施された便ヒトヘモグロビン検査の結果が陽性で あったことを受けて,原告は,下部消化管(大腸)内視鏡検査の実施を 進言し,C医師もこれに同意して,上記検査を実施する方針が決められ,C医師は,J病院の消化器内科の医師に宛てた診療情報提供書(甲7・9頁)を作成した(【エピソード③】)。 原告は,本件患者が本件病院内で下部消化管内視鏡検査を受けることができるとの前提で本件患者に対する説明をしたが,実際には,当時,本 件病院では事故の発生を理由に下部消化管内視鏡検査の実施を中止しており,本件患者が同検査を受けるには他の医療機関を受診する必要があり,そのことが上記説明後に判明したため,本件患者に対し,本件病院で上記検査を受けることができないことを謝罪するとともに,上記検査を受けるために他院を受診しなければならない旨を説明した。 結局,本件患者が上記検査を受けることを拒否したため,同検査は実施されなかった(なお,下部消化管内視鏡検査の実施は,消化管出血の出血源を確認するためのものであり,器質性精神障害等の診療に関わるものではなく,専ら内科 記検査を受けることを拒否したため,同検査は実施されなかった(なお,下部消化管内視鏡検査の実施は,消化管出血の出血源を確認するためのものであり,器質性精神障害等の診療に関わるものではなく,専ら内科医診療に関わるものである。)。 オ平成22年3月18日~19日 本件患者は,イライラと下肢の痺れを訴えた。C医師,E医師及び原告は協議し,しびれを改善するためにリハビリテーション(以下「リハビリ」ともいう。)を行うことによりイライラの軽減にもつながることが期待できるとして,リハビリテーション計画を策定した(甲17,C医師,原告本人)。 本件診療録の平成22年3月19日の欄(甲7・11頁)には,上記計画の策定に関する記載のほか,その前提として本件患者によるイライラの訴えが続いている旨の原告カルテ記載③が存する。 カ平成22年4月1日この頃,原告が回診する度に,本件患者は頭痛を訴えていた。このこと から,原告は,医師間の協議において,強い鎮痛薬(ロルフェナミン) の投与を提案したが,C医師からプラセボ剤(偽薬)の投与により様子を見るのがよいとの回答がされたため,プラセボ剤を投与したところ,頭痛の訴えは改善された。そこで,同日以降,本件患者が頭痛を訴える場合にはプラセボ剤(N屯)を投与して様子を見ることとされ,この方針は,原告から看護師に伝達された(【エピソード④】)。 本件診療録上,「N屯使用可」と記載されている(甲7・12頁)のは,プラセボ剤投与の方針が決定されたことを意味している。 C医師は,上記の協議を通じて,原告に対し,精神科領域においては,頭痛の訴えを精神症状がからんでいる場合があり,鎮痛剤の投与によりかえって胃粘膜に悪影響が及ぶおそれもあるので,いきなり鎮痛薬を投 は,上記の協議を通じて,原告に対し,精神科領域においては,頭痛の訴えを精神症状がからんでいる場合があり,鎮痛剤の投与によりかえって胃粘膜に悪影響が及ぶおそれもあるので,いきなり鎮痛薬を投 与するのではなく,偽薬を投与して様子を見るのも効果のある治療であることを教えた。 キ平成22年4月9日~11日平成22年4月9日,C医師,E医師及び原告は,協議の上,本件患者について,自宅での外泊を認めることとし(甲7・13頁),本件患者 は同月10日~11日にかけて,本件患者の自宅に一晩泊まった。 これは,幻覚妄想や不定愁訴等の精神症状は依然続いていたものの,いたずらに入院を長期化させれば本件患者の社会復帰を遠ざけることになるおそれがあり,望ましくないと判断したことによる。本件患者においても,同月中の退院を希望する意向を示していた(甲29)。 ク平成22年4月28日本件患者について,リハビリ中の歩行が不安定になっているとの報告がされたため,C医師は,抗精神病薬を減薬するよう指示した(甲7・14頁)。 ケ平成22年5月18日 本件患者は,「下肢がどんどん動かんようになった。3回こけたし。そ のせいかなー。腰も痛い。」と訴えたのに対し,C医師は,平成22年5月19日,腰椎X線検査を実施した(甲7・16頁)。 (3) 退院に至る経緯(甲7,乙17)ア平成22年5月26日(ア) C医師,E医師及び原告は,看護師及び本件患者の家族等を交え て,本件患者の退院を見据えたリハビリテーションカンファレンス(本件カンファレンス)を行った。 なお,本件患者に係る看護経過記録(以下「本件看護記録」という。)には,本件カンファレンスの参加者として,「主治医,K,L,M えたリハビリテーションカンファレンス(本件カンファレンス)を行った。 なお,本件患者に係る看護経過記録(以下「本件看護記録」という。)には,本件カンファレンスの参加者として,「主治医,K,L,Mケアマネ」との記載がある(甲9・19頁)。なお,「K」は作業療法士で あり,「L」は精神保健福祉士である。 また,リハビリテーションカンファレンス記録(以下「本件カンファレンス記録」という。)には,カンファレンスの参加者として,「C,Q,L,Fa(妻・娘),OT」との記載がある(乙17・57頁)。 (イ) 本件カンファレンスでは,各スタッフから本件患者の現状報告,退 院後に利用するサービス等についての説明が行われたほか,本件患者の家族から外泊時の様子について情報共有がされた。そして,本件患者は,幻覚が継続しているが,薬物による調整がされて精神状態が安定しているため,平成22年6月中を目途に退院することとし,デイ・ケアへの通所も含めて在宅による診療に切り替えるとの方針が定められた(甲 9・19頁)。 イ平成22年6月3日から14日まで(ア) 本件患者は平成22年6月2日にMRI検査を受けたところ,左頭頂部に新たな髄膜腫が見つかった(甲7・19頁,以下「本件髄膜腫再発」という。)。神経に詳しいE医師は,本件髄膜腫再発に係る診断 について,自らの所見を述べた(原告本人)。 C医師は,これまでの診療を通じて,もの静かなタイプのE医師よりも,原告の方が本件患者とより密に接し,本件患者の家族からも信頼を得られているとの印象を受けていたため,原告に対し,本件患者及びその家族への説明を任せた。そこで,原告は,同月3日,本件患者及びその長女に対し,本件髄膜腫再発の事実及びその治療のために他病院で専 を得られているとの印象を受けていたため,原告に対し,本件患者及びその家族への説明を任せた。そこで,原告は,同月3日,本件患者及びその長女に対し,本件髄膜腫再発の事実及びその治療のために他病院で専 門的な手術を受ける必要がある旨を説明し,両者から了承を得た(甲16,17,C医師,原告本人。【エピソード⑤】)。 なお,本件看護記録の同日の欄には,「新しく髄膜腫ができている旨,主治医より本人に説明する。本人は納得する。」との記載が存在する(甲9・19頁)。 (イ) 原告は,R病院の脳神経外科に宛てた診療情報提供書(甲7・18頁,以下「本件診療情報提供書」という。)の草稿を作成し,C医師がこれを確認した上,C医師名義で上記書面が作成された。C医師は,原告が作成した草稿について大きな修正をしなかった。 なお,本件診療情報提供書は1枚の書面であるところ,「経過」欄の うち,本件患者が本件病院を受診するまでの部分(11行)は,本件聴取記録の内容をそのまま転記したものであり,その後の6行は,本件入院後の経過を記載したものである。 (ウ) R病院は,精神症状のある患者の入院を受け入れることはできないとしたため,本件患者は,平成22年6月8日,R病院に外来で受診 した(以下「本件外来受診」という。)。医療保護入院者が他の病院で外来診療を受けることは珍しいことであり,その手続は煩雑であったが,原告は,本件外来受診に当たり,R病院との間で連絡を取ったり,自動車の手配等の外来診療の準備をI准看護師とともに行ったほか,R病院への通院の出発時及び帰院時における本件患者の精神状態の確認等を 行った(甲9,16,17,C医師,原告本人)。 (エ) 本件患者は,平成22年6月9日から14日までの間,R病院において, 発時及び帰院時における本件患者の精神状態の確認等を 行った(甲9,16,17,C医師,原告本人)。 (エ) 本件患者は,平成22年6月9日から14日までの間,R病院において,再発した髄膜腫について定位放射線治療(サイバーナイフ処置)を受けた。 ウ平成22年6月8日平成22年3月18日にリハビリ計画が策定されていたものの,本件患 者の身体機能は回復せず,むしろ右下肢筋力低下を来していたことから,C医師,E医師及び原告は,上記イのサイバーナイフ処置と併行して,再びリハビリを強化することとした(甲7・17頁)。 エ平成22年6月24日本件患者は,本件髄膜腫再発に対する治療後の状況を把握するために当 部CT検査を受けたが,問題は認められなかった。 オ平成22年6月25日原告は,本件患者の主訴を傾聴し,食事量を話題にしながら妄想の有無を確認したところ,本件患者からは適切な応答があったため,現実的思考ができるまでに症状が軽快したものと診断した(甲33,原告本人)。 この日の診察が,原告の本件患者に対する最後の診察であった。 本件診療録(甲7・19頁)には,上記の診断に係る原告カルテ記載④が存する。 カ平成22年6月26日本件患者は,本件病院を退院した。 原告は,「退院時要約」(甲10,以下「本件退院時要約」という。)の草稿を作成し,本件患者の主訴,既往歴・生活歴,現病歴,入院後の経過・治療内容,検査成績,退院時処方等を記入した。これをE医師及びC医師が確認し,平成22年7月9日付けの同書面が完成した。本件退院時要約の最後の文章(「病的体験は改善しないものの記銘力障害も あって行動化が目立たなくなったため退院可能と判断した」)は,C医 平成22年7月9日付けの同書面が完成した。本件退院時要約の最後の文章(「病的体験は改善しないものの記銘力障害も あって行動化が目立たなくなったため退院可能と判断した」)は,C医 師が加筆したものである。本件退院時要約の「主治医1」欄にはE医師,「主治医2」欄には原告,「主治医3」欄にはC医師の氏名が記載されている。 また,本件患者の退院に当たり,C医師は,退院療養計画書(乙17・39枚目,以下「本件退院計画書」という。)を作成した。本件退院計 画書には「主治医以外の担当者名」欄にI准看護師の氏名が記載されているほか,本件退院計画書の作成者である主治医としてC医師の署名がされているが,E医師及び原告の氏名は記載されていない。 (4) 本件診療録の記載について本件診療録上,E医師及び原告による記載はそれぞれ以下のとおりであり, それ以外の大部分はC医師が記載したものである(甲7)。 ア原告カルテ記載①~④の記載内容(ア) 原告カルテ記載①(平成21年12月11日)「S)医療センターより電波が来てるんです。 O)診察中,上記訴えあり。 A)病的体験に支配されてる。」(イ) 原告カルテ記載②(平成22年1月18日)「食事は充分量が摂れるようになってきた。 診察時,イライラ等の自分の気持ちを訴えた。」(ウ) 原告カルテ記載③(平成22年3月19日) 「イライラの訴えは続けている。」(エ) 原告カルテ記載④(平成22年6月25日)「S)もうすぐ退院です。お世話になりました。(食事?)食べてますよ。 O)摂食量OK。会話は噛み合う。 A)病的体験でなく,現実的思考と考える。」 イ Eカルテ記載①~⑫の記載内容(ア) Eカルテ記載①(平 食事?)食べてますよ。 O)摂食量OK。会話は噛み合う。 A)病的体験でなく,現実的思考と考える。」 イ Eカルテ記載①~⑫の記載内容(ア) Eカルテ記載①(平成22年1月18日)「<O>睡眠とれているが,イライラの訴え,ときにあり,」(イ) Eカルテ記載②(平成22年1月26日)「<O>頭痛の訴え,時々あり,夜間は良眠されている」 (ウ) Eカルテ記載③(平成22年2月4日)「<O>ナースによると,妻面会時に暴力をふるいたくなることがあると話している」(エ) Eカルテ記載④(平成22年2月9日)「<O>時々頭痛の訴え続いている」 (オ) Eカルテ記載⑤(平成22年2月20日)「<O>耳鳴の訴えあり。」(カ) Eカルテ記載⑥(平成22年3月1日)「<O>イライラの訴え,続く」(キ) Eカルテ記載⑦(平成22年3月18日) 「<O>頭痛,イライラの訴え断続的にあり」(ク) Eカルテ記載⑧(平成22年3月29日)「<O>訴え多く,傾聴をナースに求める」(ケ) Eカルテ記載⑨(平成22年4月9日)「<O>多訴的話を聞いてもらいがたり,ナースコール多い」 (コ) Eカルテ記載⑩(平成22年4月16日)「<O>不眠の訴え多い」(サ) Eカルテ記載⑪(平成22年5月12日)「<O>5/9の外泊は良い印象であったと。」(シ) Eカルテ記載⑫(平成22年6月11日) 「<O>頭痛,息苦しさ,腰痛の訴えあり」 (5) 本件複数医体制についてア C医師は,本件複数医体制で本件患者の診療に臨むに当たり,看護師への指揮系統に混乱が生じないようにするために,複数の医師が別々に指示を出さないという (5) 本件複数医体制についてア C医師は,本件複数医体制で本件患者の診療に臨むに当たり,看護師への指揮系統に混乱が生じないようにするために,複数の医師が別々に指示を出さないという方針を決めた。そこで,C医師は,E医師及び原告と協議の上で,①E医師及び原告は,それぞれの勤務日ごとに本件患者 の診察を行い,本件患者の主観的情報(S。患者の訴えの内容)及び客観的情報(O。医師から見た患者の状況)について本件診療録に記載するか,又はC医師に報告し,②診察により得られた情報の医学的評価(A)及び治療計画(P)については,3名で協議の上,C医師が,看護師に指示を出し,本件診療録に記載するとの取決め(本件取決め)を した。 イ本件患者の回診は,本件取決めに従い,C医師,E医師及び原告が,それぞれの勤務日に別々に行っていた。原告は,基本的に,月曜日から金曜日まで週に5日,毎日午前8時15分に本件病院に出勤し(甲6),午前中,自らが担当する入院患者全員(本件患者を含む。)を回診していた。 本件病院では,全ての常勤の医師が集まる控室(医局)があり,そこで医師同士の連絡事項の伝達や意見交換も行われている。本件患者に係る診察結果の報告や治療方針の協議も,この場で,C医師,E医師及び原告の間で行われていた。 ウ本件病院は10棟の病棟からなるところ,診療録は各患者が入院する病 棟に保管され,本件病院独自のシステム(カーデックス)により看護師がこれを管理し,医師は看護師が使用していないときに診療録への記載をしていた。C医師は,本件病棟(身体合併症病棟)の病棟医であり,担当する患者が本件病棟ともう1つの病棟にしかいなかったため,本件病棟にいることが多かったが,E医師及び原告は,精神科の医師が主に関わる8棟 師は,本件病棟(身体合併症病棟)の病棟医であり,担当する患者が本件病棟ともう1つの病棟にしかいなかったため,本件病棟にいることが多かったが,E医師及び原告は,精神科の医師が主に関わる8棟 の病棟に担当する患者がいたため,これらの病棟を回診等で行き来してい た。そのため,本件病棟で保管されていた本件診療録についてはC医師が最も記載しやすい状況にあった。また,C医師が上記イのとおり医局においてE医師又は原告から診察結果の報告を受け,医師間の協議を経た結果を自ら本件診療録に記載することも少なくなかった。これらのことから,本件診療録の記載は,C医師によるものがほとんどであり,E医師及び原 告による記載は,上記(4)の各記載にとどまっている。なお,一般に,複数の主治医が患者を診察した結果,同一の診断内容である場合,主治医のうち1人が診療録に記載すれば,他の主治医が重ねて同じ内容を診療録に記載することは通常ないとされている(甲16~18)。 エ C医師は,本件病院の副院長であったほか,本件病院において週2日の 外来診療も担当していたことから,看護師が同医師からの指示を受けたいと考える場合でも,同医師に連絡を取れないことがあった。そのような場合には,看護師はE医師又は原告にドクターコールをしたが,本件患者の訴えを傾聴するのに時間がかかりそうなときは,若年である原告を呼ぶことも多かった。 オ原告は,外来診療は担当しておらず,入院患者のみを受け持っていたため,勤務日には担当する全ての患者につき回診していた。このような毎日の回診において,本件患者についても1日1回は診察しており,本件患者の訴えが長くなるときには,30分を超えて訴えを傾聴することもあった。 そのほか,原告は,本件患者が廊下や病棟のホールを歩いてい 毎日の回診において,本件患者についても1日1回は診察しており,本件患者の訴えが長くなるときには,30分を超えて訴えを傾聴することもあった。 そのほか,原告は,本件患者が廊下や病棟のホールを歩いているときに出 会うと,その機会に本件患者に話しかけ,その場で立ち話をしたり,ホールのベンチに座って話をすることもあった。このように本件患者とコミュニケーションを取ることで,原告は,本件患者における幻聴や妄想の有無などの精神症状を把握していたほか,そのように話をすること自体で本件患者の気分を和らげ,危険な行動に至らないうちに落ち着かせることも あった。原告は,C医師やE医師と比べても,本件患者との間で密接なコ ミュニケーションを取っており,本件患者から最も心を開かれていた。 (6) 本件ケースレポート(甲1の1)の作成E医師は,本件申請の約1年前に,指定医の申請をし,指定医の指定を受けた。 原告は,本件症例に係るケースレポートを,E医師が指定医の申請をする 際に,E医師と共に作成した。本件ケースレポートには,本件症例の概要(本件患者の氏名・生年月日,入院期間,指導医,本件患者の入院時現症及び状況,入院後の治療経過)等の記載があり,E医師が提出したケースレポートの記載内容とほぼ同じであるが,以下の「考察」欄の記載は,原告が本件申請に当たり自らの意見に基づき作成したものである。 「右円蓋部再発性髄膜腫摘出術の約3年後に左傍矢状洞部に新たな髄膜腫が生じ,それによる脳組織への圧迫が原因で幻覚妄想状態を来たした症状精神病の症例である。幻覚妄想の影響で自宅生活が困難となったが,病識を欠き治療を拒否した為,医療保護入院が必要となった。薬物治療のみでは消退しなかった幻覚妄想が放射線治療による腫瘍の消失後に消退し,薬 病の症例である。幻覚妄想の影響で自宅生活が困難となったが,病識を欠き治療を拒否した為,医療保護入院が必要となった。薬物治療のみでは消退しなかった幻覚妄想が放射線治療による腫瘍の消失後に消退し,薬物治療中止 後にも再燃せず,現実との疎隔化にも至ったことから,上記診断と考えた。 症状性精神疾患の治療には他科との連携が重要であることを再認識した症例であった。」(甲1の1)(7) 別件症例について(甲14~15)ア原告は,本件病院において,C医師の指導の下,イニシャル「T.T」 の患者(昭和24年1月生まれ。以下「別件患者」という。)の診断及び治療を主治医として単独で担当した。別件患者は,医療保護入院者であり,平成21年1月6日から同年10月13日まで本件病院に入院した。 イ原告は,別件患者は,脳挫傷を負って以降,社会的逸脱行為が出現して いることなどから,脳挫傷後遺症による社会的行動障害によって抑制力 が損なわれた状態であると診断し,別件患者に係るケースレポート(別件ケースレポート)を作成した(甲14)。 ウ別件患者の診療録には,原告による記載が多数存在し,他の医師による記載は存在しない(甲15)。原告は,別件患者について診察し,治療方針を決定した際には,自らその旨を診療録に記載した上で,指導医である C医師には事後的に報告をし,必要な場合に相談をしていた。 エ原告は,本件申請に当たり,器質性等診療経験要件に係るケースレポートとして,本件ケースレポートと別件ケースレポートのいずれを提出するのがよいかをC医師に相談した。C医師は,どちらの症例も指定医の申請には問題がないと認識していたが,本件症例の方が,他科との連携が必要 となった症例であり,また,身体疾患の治療により精神 するのがよいかをC医師に相談した。C医師は,どちらの症例も指定医の申請には問題がないと認識していたが,本件症例の方が,他科との連携が必要 となった症例であり,また,身体疾患の治療により精神症状も変わるという医学的所見も得られ,精神医学的には貴重な症例であることから,本件症例に係るケースレポートの提出を勧めた。原告は,この助言に従い,本件ケースレポートを提出した。 2 事実認定の補足説明 上記1の事実認定に関し,被告は,原告の本件症例への関わりとして本件診療録や本件看護記録等に記載されているもの以外は客観的な裏付けを欠くと主張する。 しかし,以下に詳述するとおり,本件診療録等に記載されている以外にも上記1に認定した各行為を原告が行ったとするC医師の証言及び原告本人の供述 (陳述書における陳述を含む。以下同じ)は,本件症例に係る診療の経過や,本件複数医体制の下における各医師の役割分担に照らして不自然なものとはいえず,いずれも信用性を有するものと認められるから,本件症例への原告の関与については上記1のとおり認定するのが相当である。 (1) 本件診療録の記載方法に関する本件取決めの存否 本件患者に対する診療は,C医師の指導の下,同医師に加えて,E 医師 及び原告の3名の医師による本件複数医体制(認定事実(1)イ(イ))により行われたものであるところ,C医師は,精神科の経験が豊富で本件病院の副院長であり,E医師は,医師として20年以上の経験を有し,神経科を専門として研究機関の准教授を務めるなどの経歴を有していたのに対し,原告は,内科等の複数の経験を有していたものの,医師としての経験は3年8か月余 りであったことからすれば,本件複数医体制においては,それぞれの経験年数・分野を踏まえた各 歴を有していたのに対し,原告は,内科等の複数の経験を有していたものの,医師としての経験は3年8か月余 りであったことからすれば,本件複数医体制においては,それぞれの経験年数・分野を踏まえた各医師の役割分担が想定されていたものと認められる。 この点,C医師の証言及び原告本人の供述の内容は,本件複数医体制に当たり本件取決め(認定事実(5)ア)をし,E医師及び原告が,主観的情報(S)及び客観的情報(O)を本件診療録に記載するか,C医師に報告する こととし,情報の評価(A)及び治療計画(P)については,3名の医師による協議の上で,C医師が本件診療録に記載することとしたというものであるところ,C医師は精神科の経験が豊富で本件病院における上級医であるのに対し,E医師及び原告はいずれも精神科診療の経験に乏しく,3名の医師がそれぞれ情報の評価(A)等を記載したならば複数の医師による所見が 区々となり看護師への指示等の指揮系統に混乱が生ずるおそれがあったといえるから,C医師のみが情報の評価(A)等を記載することとした本件取決めは,当時の状況に照らして合理性を有するものであったといえる。また,精神科診療の経験に乏しくとも医師としては上記のように豊富な経験を有するE医師が,本件診療録に客観的情報(О)に係る記載のみを行い,情報の 評価(A)等に関する記載をしていないことも合わせて考慮すれば,本件取決めがされたことは優に認められるというべきである。 これに対し,被告は,本件取決めがあったとされる直後に,それに反して原告が本件診療録に情報の評価(A)を記載していること(原告カルテ記載①,認定事実(4)ア(ア))などを根拠に,本件取決め等に係るC医師の証言 及び原告本人の供述は信用できないと主張する。 しかし,医師 価(A)を記載していること(原告カルテ記載①,認定事実(4)ア(ア))などを根拠に,本件取決め等に係るC医師の証言 及び原告本人の供述は信用できないと主張する。 しかし,医師として豊富な経験を有するE医師が,本件診療録に客観的情報(О)に係る記載のみを行い,情報の評価(A)等に関する記載をしなかったという事実が,本件取決めがされたことを具体的に裏付けるものといえることは,既に説示したとおりである。そして,本件取決めは,本件複数医体制を行うに当たっての口頭による一応の決まりであるから,本件診療録 の一部に本件取決めに違反した記載が見られるからといって,本件取決めがされた事実が直ちに否定されるものとはいい難い。被告の上記指摘に係る平成21年12月11日の原告カルテ記載①は,本件患者が本件病院に入院した同月10日の診察時に「電波が来ている」との妄想をしきりに訴えていたことを踏まえたものであり,同月11日の診察時にその電波の発信源が医療 センターであるとの訴えがあったことを記載したものであるところ,これが病的体験に支配されていることは自明のことであるから,このような評価を記載したからといって,複数の医師による所見が区々になり看護師への指示等の指揮系統に混乱を及ぼすことを防止しようとする本件取決めの趣旨に反するとはいえないし,医師としての経験の浅い原告が診療録への記載につい て熟達していないが故に記載されたものと理解することもできるのであり,上記の記載があることをもって本件取決めの存在が否定されるということはできない。 (2) 原告による本件患者の診療に関する具体的な関与についてアまず,原告が主張するエピソード①~⑤(認定事実(2)ア,イ,エ,カ, (3)イ(ア))については,いずれもC医師が ない。 (2) 原告による本件患者の診療に関する具体的な関与についてアまず,原告が主張するエピソード①~⑤(認定事実(2)ア,イ,エ,カ, (3)イ(ア))については,いずれもC医師が具体性のある証言をしている上,診療方針の決定に関するものは医師間の協議の結果決定された方針が本件診療録等に記載され,客観的な裏付けを伴うものといえる一方,上記証言の信用性を否定するような事情はうかがわれないから,いずれのエピソードも認定することができる。 なお,被告は,原告カルテ記載①~④は,他の記載と日付が前後してい る部分があることなどから,後から書き加えられた可能性があるとも主張するが,診療録への記載がその当日ではなく後日にされることもあり得ないことではない上,本件診療録における上記各記載が,厚生労働省から診療録の提出を求められた後になってされたことを具体的にうかがわせる証拠は見当たらない。 イ次に,原告が勤務日ごとに本件患者を診察していた事実(認定事実(5)イ,オ)について検討する。 そもそも原告は本件複数医体制の下における主治医の一人として本件取決めに基づいて診療を担当していたものであるところ,本件取決めは,3人の医師がそれぞれ勤務日ごとに本件患者の診察を行うことを前提と したものであり(認定事実(5)ア),原告のように外来診療を担当せず入院患者のみを受け持っている場合には,勤務日に担当する全ての患者を回診することは当然のこととして日々実施されていたものと推認できる(認定事実(5)オ)。また,上記アのとおり認定できるエピソード①~④は,原告が日々の回診により本件患者の心身の状態を把握していたこと を前提に,投薬や検査等の提案をしていたことがうかがわれるものであり,エピソード⑤は,原告が とおり認定できるエピソード①~④は,原告が日々の回診により本件患者の心身の状態を把握していたこと を前提に,投薬や検査等の提案をしていたことがうかがわれるものであり,エピソード⑤は,原告が日々の回診を通じて本件患者との間に十分な信頼関係を築き,本件髄膜腫再発(認定事実(3)イ(ア))に伴う他院での治療について本件患者及びその家族に説明することを任されるまでに至っていたことを推認させるものである。これらに照らせば,原告が勤 務日ごとに本件患者を診察したとするC医師の証言及び原告の供述は信用することができる。 ウ上記ア及びイに対し,被告は,本件診療録の原告による記載が4点にとどまることから,上記証言等は信用することができない旨主張する。しかし,本件診療録が,C医師が病棟医を務める本件病棟に保管されており, 本件診療録への記載を最も行いやすい状況にあったのはC医師であったこ と(認定事実(5)ウ),また,E医師及び原告の診察において病状の変化や問題があったときは,医局においてC医師と会ったときに報告や協議がされ,その結果をC医師が本件診療録に記載することも少なくなかったこと(認定事実(5)イ,ウ),本件病棟における入院患者に係る診療録への記載は診察した度に必ずされるものではなく,病状等に変化が見られない 場合には診療録に記載しないこともあること(C医師)に照らせば,本件診療録に原告による記載が少ないことについては,合理的に説明し得る理由が存するといえる。 また,本件診療録へのE医師による記載(12点)と比べても,その多くは,頭痛やイライラ等を訴えているとの本件患者の情報を端的に記載 したものであり(Eカルテ記載①②,④~⑨,⑪),中には看護師から聞いた内容をそのまま記載したにとどまるものも存 ても,その多くは,頭痛やイライラ等を訴えているとの本件患者の情報を端的に記載 したものであり(Eカルテ記載①②,④~⑨,⑪),中には看護師から聞いた内容をそのまま記載したにとどまるものも存する(Eカルテ記載③)ことや,原告がE医師よりも医師としての経験年数が圧倒的に少なく,C医師及びE医師の記載する本件診療録に記載することに遠慮していた可能性も認められることからすると,本件診療録への記載点数の多 寡から本件患者に対する関与の度合が直ちに認定されるものではないというべきである。むしろ,本件診療録の記載点数の少ない原告の方がE医師よりも本件患者と密接なコミュニケーションを取っていたことは,C医師も証言するところであり,また,上記のとおり原告が本件髄膜腫再発に関する本件患者及びその家族への重要な説明を任されていたこと からも推認されるものである。 エまた,被告は,平成22年5月26日に行われた本件カンファレンスの参加者について,本件看護記録及び本件カンファレンス記録には,参加者として原告の氏名が記載されていない(認定事実(3)ア(ア))ことから,原告は本件カンファレンスに参加していないと主張する。 しかし,上記ア及びイのとおり,原告は,本件患者の診察を勤務日ごと に行い,C医師及びE医師と協議してその治療方針を決定していたのであるから,看護師及び本件患者の家族等を交えた重要な打合せである本件カンファレンスに参加していないとはにわかに認め難い。また,本件看護記録及び本件カンファレンス記録には本件カンファレンスの参加者としてE医師の氏名も記載されていないことに照らせば,作業療法士や 精神保健福祉士を含め参加者の多かった本件カンファレンスについては,主治医の記載はあえて記載しなくても当然参加して ンスの参加者としてE医師の氏名も記載されていないことに照らせば,作業療法士や 精神保健福祉士を含め参加者の多かった本件カンファレンスについては,主治医の記載はあえて記載しなくても当然参加しているものとして関係者に理解されることから,代表1名の記載のみにとどめ,その余の2名については省略した可能性も否定し得ない。そうすると,これらに原告の氏名の記載がないというだけで,本件カンファレンスに原告も参加し ていたとするC医師の証言及び原告本人の供述の信用性が否定されるものとはいえない。 オ本件聴取記録,本件退院時要約及び本件診療情報提供書の草稿の作成について①本件聴取記録(甲5,認定事実(1)ウ(ア))は,入院時の診療録の記 載に必要となる本件患者の生活歴,現病歴,入院時現症等をまとめたものであり,原告とE医師による共同の作成名義とされているところ,最も医師としての経験が浅い原告が,まず草稿を作成し,医師として20年以上の経験を有するE医師がこれを添削したとする原告の供述及びC医師の証言は,自然であり合理性を有するものといえ,信用することが できる。 また,②本件退院時要約(甲10,認定事実(3)カ)は,本件患者の退院に当たり,既往症や入院後の経過・治療内容等を記載したものであり,主治医を記載する欄には,C医師及びE医師とともに原告の氏名が記載されている。これに加えて,C医師が自ら加筆した部分を具体的に特定 する証言をしていることや,上記①のとおり原告が3名の医師の中で最 も経験が浅いことを考慮に加えれば,本件退院時要約の草稿を原告が作成したとする原告の供述及びC医師の証言は,信用することができる。 さらに,③本件髄膜腫再発に係る他院での診療のために作成された本件診療情報提供書(甲7・1 加えれば,本件退院時要約の草稿を原告が作成したとする原告の供述及びC医師の証言は,信用することができる。 さらに,③本件髄膜腫再発に係る他院での診療のために作成された本件診療情報提供書(甲7・18頁,認定事実(3)イ(イ))は,本件聴取記録の記載を引用した上で入院後の経過を記載したものであるところ,これ についても,最も経験の浅い原告が草稿を作成したとするC医師の証言及び原告本人の供述に何ら不自然な点はなく,本件聴取記録及び本件退院時要約と同様に,その草稿の作成を原告が行ったと認めるのが相当である。 ⑶ 以上のとおり,事実認定に関する被告の主張はいずれも採用することがで きず,前記1の認定事実のとおり認定することができる。 3 精神保健福祉法19条の2第2項該当性に関する検討(1) 判断枠組みア精神保健福祉法19条の2第2項は,「指定医がこの法律若しくはこの法律に基づく命令に違反したとき」という事由のほか,「その職務に関し 著しく不当な行為を行ったときその他指定医として著しく不適当と認められるとき」という規範的な評価を要する事由を掲げた上で,これらの事由のいずれかに該当すると認められるときは,指定医の指定を取り消し,又は期間を定めてその職務の停止を命ずる処分をすることができると定めている。そして,同項の規定上,当該指定医が上記の規範的な処分事由に該 当するか否か及びこれらの処分事由の一つに該当すると認められる場合に指定の取消し又は職務の停止のいずれの処分を選択するかについては,具体的な基準が定められていない。また,指定医の指定において,厚生労働大臣が定める精神障害につき同大臣が定める程度の診断又は治療に従事した経験を有すること(同法18条1項3号)などの事由に該当する医師の うち, れていない。また,指定医の指定において,厚生労働大臣が定める精神障害につき同大臣が定める程度の診断又は治療に従事した経験を有すること(同法18条1項3号)などの事由に該当する医師の うち,同法19条の4所定の指定医の職務を行うのに必要な知識及び技能 を有すると認められる者について,あらかじめ医道審議会の意見を聴いた上で指定するものとしていること(同法18条1項柱書,3項)からすれば,指定医の指定には,精神障害等に関する専門的見地からの判断を要する事項が要件とされているといえるところ,その指定の取消しや職務の停止に関わる上記の規範的な処分要件該当性や処分選択についても,専門的 見地からの判断を要するものというべきである。これらの点を踏まえると,かかる規範的な処分要件該当性及び処分選択に関する判断については,同法19条の2第3項に基づき医道審議会の意見を聴く前提の下で,厚生労働大臣の合理的な裁量に委ねられているものと解される。 したがって,厚生労働大臣が精神保健福祉法19条の2第2項に基づき その裁量権の行使としてした指定医の指定の取消しの処分は,それが重要な事実の基礎を欠き又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となると解するのが相当である。 イ精神保健福祉法18条1項は,患者本人の意思によらない入院医療や一 定の行動制限を行うことがある精神科医療において,指定医が患者の人権にも十分に配慮した医療を行うのに必要な資質を備えている必要があるとの観点から,医師として,5年以上診断又は治療に従事した経験及び3年以上精神障害の診断又は治療に従事した経験に加え,厚生労働大臣が定める精神障害につき同大臣が定める程度の診断又は治療に 必要があるとの観点から,医師として,5年以上診断又は治療に従事した経験及び3年以上精神障害の診断又は治療に従事した経験に加え,厚生労働大臣が定める精神障害につき同大臣が定める程度の診断又は治療に従事した経験を有 し(診療経験要件),所定の研修の課程を修了しており,かつ,各種の入院や行動制限の要否の判定などの同法19条の4所定の職務を行うのに必要な知識及び技能を有することを指定医の指定の要件としており,指定医の指定につき厳格な要件を定めている。 上記の規定を受けて厚生労働大臣が定める診療経験要件は,器質性精神 障害等を含む6つの精神障害について,最低でも合計8例以上の症例を 経験しなければならないとするものであり(本件告示),上記経験の有無の確認に係る運用指針である本件取扱要領は,指定医の指定の申請において提出することとされているそれらの症例に係るケースレポートが,指導医の指導のもとに自ら担当として診断又は治療等に十分な関わりをもった症例について報告するものでなければならず(関与基準),入院 から退院までの期間継続して,少なくとも1週間に4日以上,当該患者について診療に従事した症例を対象とするものでなければならない旨を定めているところ,本件取扱要領のかかる内容は,その指定について指定医の職務を行うのに必要な知識及び技能を有すると認められる者に対して行うこと(精神保健福祉法18条1項柱書)とするなど厳格な要件 を定めた同法の上記趣旨に沿うものということができる。 本件処分は,器質性精神障害等の症例に係る診療を経験したものとして提出された本件ケースレポートに係る本件症例が,原告が自ら担当として診療に十分な関わりを持った症例とは認められない(関与基準を満たさない)との判断をその基礎とするものである 診療を経験したものとして提出された本件ケースレポートに係る本件症例が,原告が自ら担当として診療に十分な関わりを持った症例とは認められない(関与基準を満たさない)との判断をその基礎とするものであるところ,以下,原告が本件症例 の診療について自ら担当として十分な関わりを持ったとは認められないとした厚生労働大臣の認定の適否について検討を加えることとする。 (2)ア前記1で認定したとおり,原告は,本件複数医体制の下,C医師及びE医師とともに本件症例に係る診療に関与したものであるところ,①本件患者が本件病院に入院した平成21年12月10日から平成22年6 月26日までの間,勤務日(基本的に毎週月曜日~金曜日)ごとに本件患者を診察し(認定事実(5)イ,オ),②他の2名の医師とともに本件患者の治療やリハビリの方針等について協議を行ったほか,看護師や本件患者の家族等を交えたリハビリテーションカンファレンス(本件カンファレンス)にも参加し(認定事実(2)ア,イ,エ,オ,カ,キ,(3)ア, ウ),③上記のような医師間の協議の場において,抗精神病薬の投与, 食事量に合わせた点滴の実施,鎮痛薬の投与について具体的な提案をし(認定事実(2)ア,イ,カ〔エピソード①,②,④〕),④看護師がC医師と連絡を取れないときには代わりにドクターコールを受けて対応し(認定事実(5)エ),さらに,⑤本件髄膜腫再発が判明した際には,本件患者及びその家族に対し,本件髄膜腫再発の事実及び他病院での治療の 必要性について説明し(認定事実(3)イ(ア),〔エピソード⑤〕),⑥本件聴取記録,本件診療情報提供書及び本件退院時要約の各草稿を作成するなどした(認定事実(1)ウ(ア),(3)イ(イ),カ)ものである。これらの事実に照らせば,原告は,本件入 〔エピソード⑤〕),⑥本件聴取記録,本件診療情報提供書及び本件退院時要約の各草稿を作成するなどした(認定事実(1)ウ(ア),(3)イ(イ),カ)ものである。これらの事実に照らせば,原告は,本件入院期間を通じて,本件患者の診療に少なくとも1週間に4日以上関与していたものと認められる。 イ原告が本件症例について単なる補助者ではなく自ら担当として十分な関わりを持ったといえることについて上記アのとおり,原告は本件入院期間中,勤務日ごとに本件患者の診察を行っていたところ,これらはC医師又はE医師の診察とは別途に,自ら単独で行っていたものと認められる(認定事実(5)ア~オ)。 もっとも,原告が診察の結果に基づき看護師に対する投薬等の指示を単独で行うことはなかったけれども,これは,本件症例について,経験の異なる3名の医師による本件複数医体制が採用された上,看護師への指揮系統に混乱を生じさせないために,看護師への指示(本件診療録における情報の医学的評価〔A〕及び治療計画〔P〕の記載を含む。)は C医師が行う旨の本件取決めがされたこと(認定事実(1)イ(イ),(5)ア)によるものである。上記3名の医師のうち精神科診療の経験が圧倒的に豊富なC医師が,他の2名の医師を指導しつつ治療方針の決定や看護師への指示等を統括することは当然の理であって,3名の中で医師としての経験が最も少ない原告がその指導を受けながら診療に関与したからと いって,本件症例について自ら担当として十分な関わりを持ったことが 否定されるものではない。 そして,原告は,本件複数医体制の下で,指導医から指導を受ける立場の担当医に期待される役割,すなわち,勤務日ごとの診察,診察結果のC医師への報告,医師間の協議における具体的な提案,本件聴取記録 。 そして,原告は,本件複数医体制の下で,指導医から指導を受ける立場の担当医に期待される役割,すなわち,勤務日ごとの診察,診察結果のC医師への報告,医師間の協議における具体的な提案,本件聴取記録等の草稿の作成などを行っており,担当医としての役割を果たしている ものといえる。しかも,原告は,日々の回診その他の機会に本件患者の訴えを丁寧に傾聴し,本件患者やその家族からも信頼され,C医師からもこの点を認められて,本件髄膜腫再発に関する本件患者等への説明を任されている(認定事実(3)イ,(5)オ)。本件髄膜腫再発の発覚は,本件カンファレンスの数日後,退院も間近であると思われていた中での出 来事であり,早期の退院を望んでいた本件患者にとって容易に受け入れ難い事柄であったことも考慮すると,原告が上記の説明をし,他院での治療について本件患者等の了承を得たことは,患者の心情等に配慮しつつ適切な手続を実施すべき精神科医に求められる能力を有していたことを示すものであり,担当医としての役割を十分に果たしていたことを推 認させるものというべきである。 以上によれば,原告は,本件症例について,単なる補助者ではなく,自ら担当として十分な関わりを持ったものと認めるのが相当である。 ウ本件患者の身体症状についての関与も精神科医としての関わりと評価し得るものであること 本件症例は器質性精神障害等に係るものであるところ,器質性精神障害等(症状性又は器質性精神障害)は,頭蓋内病変(器質性)や全身性疾患(症状性)等の幅広い疾患がその原因となり得るものであり,その治療には,例えば,全身性疾患を原因とする症状性精神障害については,原因となる身体疾患の治療を本質的としつつ,対症療法的に向精神病薬 の投与が必要とされる(甲24)など り得るものであり,その治療には,例えば,全身性疾患を原因とする症状性精神障害については,原因となる身体疾患の治療を本質的としつつ,対症療法的に向精神病薬 の投与が必要とされる(甲24)など,精神科及び内科等の双方の医学 的知見が求められるものであって,本件評価基準においても,「当該疾患と精神症状の関連性についての考察の記載があるか」「原因(基礎)疾患名,身体的(神経学的)症状・所見,関係が深い検査の結果,他科医の診断と治療の概要の記載があるか」を評価基準とすることとされている(関係法令等の定め(3)ア(e),(f))。 これを本件についてみると,本件患者は,髄膜腫の摘出手術後に幻覚が生じ,リストカットを反復するとともに,餓死することを宣言した拒食,拒薬により全身状態が悪化した状態であったことから,C医師において,全身状態を管理しながら精神科薬物医療を行うとの方針の下,内科の経験のある原告及び神経科を専門としていたE医師の3名による本件複数 医体制を採用したものである(認定事実(1)ア,イ)。そして,原告が本件患者の身体症状についてした関与は,下部消化管内視鏡検査の実施に関する進言(認定事実(2)エ,〔エピソード③〕)のように器質性精神障害等の治療と無関係なものを除けば,いずれも本件症例の診療に関わるものであったといえる。すなわち,上記のとおり本件患者は拒食により 全身状態が悪化していたのであるから,食事量の増減について観察しつつ適切な処置を取ることが必要とされていたものであり,原告が,本件患者が十分な食事量を摂ることができない場合の点滴の方法について,「1日の食事摂取量の総量が半量以下の時にのみ点滴をする」との意見を述べるとともに,食事量の測定方法についても具体的に提案したこと (認定 食事量を摂ることができない場合の点滴の方法について,「1日の食事摂取量の総量が半量以下の時にのみ点滴をする」との意見を述べるとともに,食事量の測定方法についても具体的に提案したこと (認定事実(2)イ,〔エピソード②〕)や,その後本件患者が十分な食事量を摂ることができる状態に回復したことを確認し,その旨を本件診療録に記載したこと(認定事実(2)ウ,原告カルテ記載②)は,このような観点からの関わりであったといえる。 また,本件患者が頭痛を訴えた際の鎮痛剤の投与に関する提案(認定事 実(2)カ,〔エピソード④〕)や,リハビリ計画の策定(認定事実(2)オ, (3)ウ)なども,頭痛や下肢のしびれ等の軽減が精神状態の改善につながることを期待したものであり,本件症例に係る診療の一環として位置付けることができる。 さらに,本件髄膜腫再発が判明した後の本件患者等への説明(エピソード⑤),再発した髄膜腫の治療を行うR病院に宛てた本件診療情報提供 書の草稿の作成,同病院における本件外来受診に向けた準備,外来受診日における出発時及び帰院時の精神状態の確認(認定事実(3)イ(ア)~(ウ))などの行為については,髄膜腫が,周囲の脳組織を圧迫することにより精神症状を生じさせるおそれがあるものであり,器質性精神障害等の原因疾患となり得るものであること(弁論の全趣旨),本件症例も, 本件患者が,髄膜腫の摘出術後に幻覚を訴えるなどして本件入院に至ったものであり,本件髄膜腫再発によりR病院での治療を受けた後に精神症状も改善していること(認定事実(1)ア,(3)オ)などに照らせば,髄膜腫の治療は本件患者の精神症状と密接に関連するものといえる。したがって,原告が本件髄膜腫再発の判明後に行った上記の行為は,本件症 例の原因疾患そ 定事実(1)ア,(3)オ)などに照らせば,髄膜腫の治療は本件患者の精神症状と密接に関連するものといえる。したがって,原告が本件髄膜腫再発の判明後に行った上記の行為は,本件症 例の原因疾患そのものに関し,精神科医の立場から関与したものと評価されるものであって,器質性精神障害等の診療における重要な関わりであるということができる。 これらの事実に照らせば,原告の本件症例に係る診療経験のうち,本件患者の精神状態の観察や抗精神病薬の投与のみならず,本件患者の身体 症状に関する関与も,器質性精神障害等の診療に係る精神科医としての関わりと評価することができる。 エ小括以上のとおり,原告は,本件複数医体制の下で,指導医から指導を受ける立場の担当医に期待される役割を果たし,本件症例について単なる補 助者ではなく自ら担当として十分な関わりを持ったということができ, しかも,これらの関わりは一部の例外を除き,器質性精神障害等の診療に係る精神科医としての関わりと評価することができるものであったから,本件症例に係る本件ケースレポートは,本件取扱要領に定める関与基準を満たすものであったというべきである。 (3) 被告の主張について ア以上に対し,被告は,医師法24条1項は,「医師は,診療をしたときは,遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない。」と定めていることから,原告が本件症例について,自ら担当として診断又は治療等に十分な関わりを持ったといえるかどうかの判断は,原則として本件診療録の記載内容をもって行うのが明確かつ合理的であるところ,原告 の本件診療録への記載は僅か4点にすぎないと主張する。 しかし,診療録への記載義務を定める医師法24条1項は,厚生労働大臣が精神保健福祉法19条の2第 うのが明確かつ合理的であるところ,原告 の本件診療録への記載は僅か4点にすぎないと主張する。 しかし,診療録への記載義務を定める医師法24条1項は,厚生労働大臣が精神保健福祉法19条の2第2項に規定する指定医の指定の取消し等の処分をするに当たっての診療行為に係る認定資料を診療録に限定すべきとする法令上の根拠となるものではないから,当該医師が提出した ケースレポートに係る症例について入院中の患者に対して,いかなる診療がされたかについては,通常は診療録が第一次的な補充的資料となるとしても,これ以外に,例えば,精神科病院の管理者の報告や,当該医師あるいは指導医の供述等についても,認定の基礎とすることが許されるものというべきである。 特に,複数の医師が診療に関与する場合には,各医師が当該診療にどの程度関与したかについては,必ずしも診療録の記載のみからは判定できない場合もあり得るから,診療録以外の資料も併せて,各医師の関与を認定するのが相当な場合が想定されているといえる。 本件においても,厚生労働大臣は,本件処分に先立ち,まず本件診療録 の写しの提出を求め(本件提出命令1),本件診療録への原告による記 載が4点にとどまることから,原告についてさらに本件症例に係る診療への関わりの程度を調べるために,それを裏付ける資料の提出を求め(本件提出命令2),これに対して,C医師が,本件症例について,事情を説明する本件送付書面を提出したものである(前提事実(3)イ)。被告の上記主張は,本件診療録に記載された以外の診療行為を原告が行っ たとは認定し得ないとの主張に帰するものというべきであり,かかる主張が採用できないことは前記2(2)に説示したとおりである。 イ被告は,本件入院計画書及び本件退院計画書に主治医と 原告が行っ たとは認定し得ないとの主張に帰するものというべきであり,かかる主張が採用できないことは前記2(2)に説示したとおりである。 イ被告は,本件入院計画書及び本件退院計画書に主治医として原告の氏名が記載されていないこと(認定事実(1)ウ(ウ),(3)カ)などから,原告が本件症例に係る診療に十分な関わりを持ったとは認められないと主張する。 しかし,入院診療計画書は,医療法6条の4第1項に基づき,当該患者の診療を担当する医師により当該患者又はその家族に対し,傷病名及び症状,入院期間中に行われる治療の計画等に関し,適切な説明をするためのものであって,退院療養計画書(同法6条の4第3項)についても,同様に患者又はその家族に説明するためのものである。このような上記 各書面の目的や性質に照らせば,本件複数医体制における3名の医師のうち,上級医であり,かつ指定医の資格を有するC医師のみの氏名を記載したからといって,不合理であるということはできない。また,そもそも原告が本件症例における担当医であったか否かは本件取決めやその下での具体的な診療への関与から判断されるべきであり,これらの認定 については前記1及び2に説示したとおりであって,これに照らせば原告は本件症例の担当医であったと評価し得るものである。 被告は,原告が行ったとされる本件症例への関わりのうち,本件患者の訴えの傾聴は,医学的判断を伴わない単なる日常的会話にすぎず,診療に関する原告の提案についても,C医師に否定されたことがあり,採用 されたものも,初期研修医が習得する程度の診療にとどまるものといえ, また,原告が行ったとされる本件髄膜腫再発に関する本件患者等への説明はC医師の指示に従ったにすぎず,それは職分上当然のことであるから,原告 医が習得する程度の診療にとどまるものといえ, また,原告が行ったとされる本件髄膜腫再発に関する本件患者等への説明はC医師の指示に従ったにすぎず,それは職分上当然のことであるから,原告の本件症例への関わりは,C医師の診療を見学又は補助したにすぎないと主張する。 しかし,原告が,週5日の出勤日ごとに本件患者を単独で診察していた ことは前記(2)に説示したとおりであるところ,回診時のほか廊下や病棟のホールで本件患者を見かけたときの声かけ(認定事実(5)オ)は,本件患者の訴えを聴取することにより,幻覚や妄想,抑うつの有無等や身体の症状を把握するために行っていたものであり,その結果を踏まえて,C医師及びE医師とともに医学的な観点からの分析を行い,必要に応じ て診療上の措置が取られてきたことからすれば,原告によるこのような本件患者の訴えの傾聴は,診察行為の一環として行われたものと認めるべきである。これに加えて,精神科診療においては,医師が患者の訴えを傾聴することは,必要に応じて患者に医学的見解を伝え,質問をするなどしてコミュニケーションを重ねることを通じて,患者の心理的苦痛 や不安感を和らげたり,医師と患者との共感的で協力的な治療関係を醸成する意義を有するものであり,それ自体が治療行為としての側面をも有する場合がある(甲26,33)。したがって,原告による本件患者の訴えの傾聴は,単なる日常的会話にすぎないものではないことはもちろん,看護師や他の病院職員との会話と同視し得るものともいえない。 また,原告の本件患者の診療に関する提案が採用されないことがあったことなどについても,そもそも本件複数医体制の下では,経験の異なる3名の医師がそれぞれ担当医としての役割を果たすことが期待されていたのであり,3名の中で医 診療に関する提案が採用されないことがあったことなどについても,そもそも本件複数医体制の下では,経験の異なる3名の医師がそれぞれ担当医としての役割を果たすことが期待されていたのであり,3名の中で医師としての経験が最も浅い原告が,本件患者の治療方針について積極的に提案し,精神科診療の経験が豊富で指導的 な立場にあるC医師の指摘を受けるという方法で治療方針に関する協議 に関与することは,上記体制の下で担当医に期待される役割を果たすものと評価することができ,これをもって単なる見学あるいは補助的な関与と評価すべきものではない。なお,原告が提案したが採用されなかったもの(認定事実(2)ア,〔エピソード①〕,認定事実(2)カ,〔エピソード④〕)は,器質性精神障害等の患者に対する抗精神病薬の投与の在 り方,あるいは頭痛などの身体症状を訴える場合の鎮痛剤の投与の在り方に関するものであって,原告が指導医の指導の下で本件症例を通じて習得しようとしていたものにほかならないから,原告の提案が採用されなかったことが精神科医としての技術及び知見が不十分であることを示すものともいえない。 さらに,原告がC医師の指示を受けて本件髄膜腫再発及びその治療の必要性について本件患者及びその家族に対し説明したことについても,前記(2)ウで説示したとおり髄膜腫の治療は本件患者の精神症状と密接に関連し,かかる説明をすること自体が,本件症例の診療における重要な関わりを示すものであったということができ,C医師が原告にこれを指示 したのは,原告が本件患者の診察において本件患者の訴えをよく傾聴し,本件患者やその家族からの信頼が得られていたためであるから,原告がC医師から上記説明を指示されたことは,かえって,原告の担当医としての十分な関わりを示すも の診察において本件患者の訴えをよく傾聴し,本件患者やその家族からの信頼が得られていたためであるから,原告がC医師から上記説明を指示されたことは,かえって,原告の担当医としての十分な関わりを示すものといえる。 ウしたがって,被告の上記主張はいずれも採用することができない。 4 まとめ以上のとおり,原告が本件申請に当たり提出した本件ケースレポートは,原告が自ら担当として診断又は治療に十分な関わりを持ったと認められる本件症例について作成されたものであるから,本件症例につき原告に十分な関わりがなかったことを前提に,本件ケースレポートの提出を精神保健福祉法19条の 2第2項に規定する「指定医として著しく不適当と認められるとき」に該当す るとした本件処分は,裁量判断の前提となる重要な事実の基礎を欠くものといわざるを得ない。 よって,本件処分は,厚生労働大臣の裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法であるというべきである。 第4 結論 以上によれば,原告の請求は理由があるから,これを認容することとして主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第51部 裁判長裁判官清水知恵子 裁判官村松悠史 裁判官松原平学(別紙1省略) (別紙2-1) ○ 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律 (この法律の目的) 第一条 この法律は、精神障害者の医療及び保護を行い、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に の目的) 第一条 この法律は、精神障害者の医療及び保護を行い、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成十七年法律第百二十三号)と相まつてその社会復帰の促進及びその自立と社会経済活動への参加の促進のために必要な援助を行い、並びにその発生の予防その他国民の精神的健康の保持及び増進に努めることによつて、精神障害者の福祉の増進及び国民の精神保健の向上を図ることを目的とする。 (精神保健指定医) 第十八条 厚生労働大臣は、その申請に基づき、次に該当する医師のうち第十九条の四に規定する職務を行うのに必要な知識及び技能を有すると認められる者を、精神保健指定医(以下「指定医」という。 )に指定する。 一 五年以上診断又は治療に従事した経験を有すること。 二 三年以上精神障害の診断又は治療に従事した経験を有すること。 三 厚生労働大臣が定める精神障害につき厚生労働大臣が定める程度の診 治療に従事した経験を有すること。 三 厚生労働大臣が定める精神障害につき厚生労働大臣が定める程度の診断又は治療に従事した経験を有すること。 四 厚生労働大臣の登録を受けた者が厚生労働省令で定めるところにより行う研修(申請前一年以内に行われたものに限る。 )の課程を修了していること。 厚生労働大臣は,前項の規定にかかわらず,第十九条の二第一項又は第二項の規定により指定医の指定を取り消された後五年を経過していない者その他指定医として著しく不適当と認められる者については,前項の指定をしないことができる。 厚生労働大臣は、第一項第三号に規定する精神障害及びその診断又は治療に従事した経験の程度を定めようとするとき、同項の規定により指定医の指定をしようとするとき又は前項の規定により指定医の指定をしないものとするときは、あらかじめ、医道審議会の意見を聴かなければならない。 (指定の取消し等) 第 ないものとするときは、あらかじめ、医道審議会の意見を聴かなければならない。 (指定の取消し等) 第十九条の二(略) 指定医がこの法律若しくはこの法律に基づく命令に違反したとき又はその職務に関し著しく不当な行為を行つたときその他指定医として著しく不適当と認められるときは、厚生労働大臣は、その指定を取り消し、又は期間を定めてその職務の停止を命ずることができる。 厚生労働大臣は、前項の規定による処分をしようとするときは、あらかじめ、医道審議会の意見を聴かなければならない。 (略) (職務) 第十九条の四 指定医は、第二十一条第三項及び第二十九条の五の規定により入院を継続する必要があるかどうかの判定、第三十三条第一項及び第三十三条の七第一項の規定による入院を必要とするかどうか及び第二十条の規定による入院が行われる状態にないかどうかの判定、第三十六条第三項に規定する行動の制限を必要とす 条の規定による入院が行われる状態にないかどうかの判定、第三十六条第三項に規定する行動の制限を必要とするかどうかの判定、第三十八条の二第一項(同条第二項において準用する場合を含む。)に規定する報告事項に係る入院中の者の診察並びに第四十条の規定により一時退院させて経過を見ることが適当かどうかの判定の職務を行う。 指定医は、前項に規定する職務のほか、公務員として、次に掲げる職(別紙2-1)務を行う。 一 第二十九条第一項及び第二十九条の二第一項の規定による入院を必要とするかどうかの判定 二 第二十九条の二の二第三項(第三十四条第四項において準用する場合を含む。)に規定する行動の制限を必要とするかどうかの判定 三 第二十九条の四第二項の規定により入院を継続する必要があるかどうかの判定 四 第三十四条第一項及び第三項の規定による移送を必要とするかどうかの判定 五 第三十八条の三第三項(同条第六項 四条第一項及び第三項の規定による移送を必要とするかどうかの判定 第三十八条の三第三項(同条第六項において準用する場合を含む。)及び第三十八条の五第四項の規定による診察 第三十八条の六第一項の規定による立入検査、質問及び診察 第三十八条の七第二項の規定により入院を継続する必要があるかどうかの判定 第四十五条の二第四項の規定による診察 (略) (指定医の必置) 第十九条の五 第二十九条第一項、第二十九条の二第一項、第三十三条第一項、第三項若しくは第四項又は第三十三条の七第一項若しくは第二項の規定により精神障害者を入院させている精神科病院(精神科病院以外の病院で精神病室が設けられているものを含む。第十九条の十を除き、以下同じ。)の管理者は、厚生労働省令で定めるところにより、その精神科病院に常時勤務する指定医(第十九条の二第二項の規定によりその職務を停止されている者を除く。) 精神科病院に常時勤務する指定医(第十九条の二第二項の規定によりその職務を停止されている者を除く。 第五十三条第一項を除き、以下同じ。 )を置かなければならない。 第二十条 精神科病院の管理者は、精神障害者を入院させる場合においては、本人の同意に基づいて入院が行われるように努めなければならない。 (申請等に基づき行われる指定医の診察等) 第二十七条 都道府県知事は、第二十二条から前条までの規定による申請、通報又は届出のあつた者について調査の上必要があると認めるときは、その指定する指定医をして診察をさせなければならない。 都道府県知事は、入院させなければ精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあることが明らかである者については、第二十二条から前条までの規定による申請、通報又は届出がない場合においても、その指定する指定医をして診察をさせることができる。 ~ (略) (判定 届出がない場合においても、その指定する指定医をして診察をさせることができる。 (判定の基準) 第二十八条の二 第二十七条第一項又は第二項の規定により診察をした指定医は、厚生労働大臣の定める基準に従い、当該診察をした者が精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあるかどうかの判定を行わなければならない。 (都道府県知事による入院措置) 第二十九条 都道府県知事は、第二十七条の規定による診察の結果、その診察を受けた者が精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めたときは、その者を国等の設置した精神科病院又は指定病院に入院させることができる。 (別紙2-1) 第二十九条の二 都道府県知事は、前条第一項の 入院させることができる。 (別紙2-1) ~ (略) 第二十九条の二 都道府県知事は、前条第一項の要件に該当すると認められる精神障害者又はその疑いのある者について、急速を要し、第二十七条、第二十八条及び前条の規定による手続を採ることができない場合において、その指定する指定医をして診察をさせた結果、その者が精神障害者であり、かつ、直ちに入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人を害するおそれが著しいと認めたときは、その者を前条第一項に規定する精神科病院又は指定病院に入院させることができる。 ~ (略) 第二十七条第四項及び第五項並びに第二十八条の二の規定は第一項の規定による診察について、前条第三項の規定は第一項の規定による措置を採る場合について、同条第四項の規定は第一項の規定により入院する者の入院について準用する。 第二十九条の二の二 都道府県知事は、第二十九条第 規定により入院する者の入院について準用する。 第二十九条の二の二 都道府県知事は、第二十九条第一項又は前条第一項の規定による入院措置を採ろうとする精神障害者を、当該入院措置に係る病院に移送しなければならない。 (略) 都道府県知事は、第一項の規定による移送を行うに当たつては、当該精神障害者を診察した指定医が必要と認めたときは、その者の医療又は保護に欠くことのできない限度において、厚生労働大臣があらかじめ社会保障審議会の意見を聴いて定める行動の制限を行うことができる。 (入院措置の解除) 第二十九条の四 都道府県知事は、第二十九条第一項の規定により入院した者(以下「措置入院者」という。 )が、入院を継続しなくてもその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがないと認められるに至つたときは、直ちに、その者を退院させなければならない。 この場合においては、都道府県知事は、 られるに至つたときは、直ちに、その者を退院させなければならない。 この場合においては、都道府県知事は、あらかじめ、その者を入院させている精神科病院又は指定病院の管理者の意見を聞くものとする。 前項の場合において都道府県知事がその者を退院させるには、その者が入院を継続しなくてもその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがないと認められることについて、その指定する指定医による診察の結果又は次条の規定による診察の結果に基づく場合でなければならない。 (医療保護入院) 第三十三条 精神科病院の管理者は、次に掲げる者について、その家族等のうちいずれかの者の同意があるときは、本人の同意がなくてもその者を入院させることができる。 一 指定医による診察の結果、精神障害者であり、かつ、医療及び保護のため入院の必要がある者であつて当該精神障害のために第二十条の規定による入院が行われる状態に 及び保護のため入院の必要がある者であって当該精神障害のために第二十条の規定による入院が行われる状態にないと判定されたもの。 二 第三十四条第一項の規定により移送された者。 ~ (略) (応急入院) 第三十三条の七 厚生労働大臣の定める基準に適合するものとして都道府県知事が指定する精神科病院の管理者は、医療及び保護の依頼があった者について、急速を要し、その家族等の同意を得ることができない場合において、その者が、次に該当する者であるときは、本人の同意がなくても、七十二時間(別紙2-1)を限り、その者を入院させることができる。 一 指定医の診察の結果、精神障害者であり、かつ、直ちに入院させなければその者の医療及び保護を図る上で著しく支障がある者であって当該精神障害のために第二十条の規定による入院が行われる状態にないと判定されたもの。 二 第三十四条第三項の規定により移送された者。 ~ (略) 行われる状態にないと判定されたもの 二 第三十四条第三項の規定により移送された者 ~ (略) (医療保護入院等のための移送) 第三十四条 都道府県知事は、その指定する指定医による診察の結果、精神障害者であり、かつ、直ちに入院させなければその者の医療及び保護を図る上で著しく支障がある者であつて当該精神障害のために第二十条の規定による入院が行われる状態にないと判定されたものにつき、その家族等のうちいずれかの者の同意があるときは、本人の同意がなくてもその者を第三十三条第一項の規定による入院をさせるため第三十三条の七第一項に規定する精神科病院に移送することができる。 (略) 都道府県知事は、急速を要し、その者の家族等の同意を得ることができない場合において、その指定する指定医の診察の結果、その者が精神障害者であり、かつ、直ちに入院させなければその者の医療及び保護を図る上で著しく支障がある者 の者が精神障害者であり、かつ、直ちに入院させなければその者の医療及び保護を図る上で著しく支障がある者であつて当該精神障害のために第二十条の規定による入院が行われる状態にないと判定されたときは、本人の同意がなくてもその者を第三十三条の七第一項の規定による入院をさせるため同項に規定する精神科病院に移送することができる。 第二十九条の二の二第二項及び第三項の規定は、前三項の規定による移送を行う場合について準用する。 (報告徴収等) 第三十八条の六 厚生労働大臣又は都道府県知事は、必要があると認めるときは、精神科病院の管理者に対し、当該精神科病院に入院中の者の症状若しくは処遇に関し、報告を求め、若しくは診療録その他の帳簿書類の提出若しくは提示を命じ、当該職員若しくはその指定する指定医に、精神科病院に立ち入り、これらの事項に関し、診療録その他の帳簿書類(その作成又は保存に代えて電磁的記録の作成 病院に立ち入り、これらの事項に関し、診療録その他の帳簿書類(その作成又は保存に代えて電磁的記録の作成又は保存がされている場合における当該電磁的記録を含む。)を検査させ、若しくは当該精神科病院に入院中の者その他の関係者に質問させ、又はその指定する指定医に、精神科病院に立ち入り、当該精神科病院に入院中の者を診察させることができる。 ~ (略) (別紙2-2) ○ 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行令 〔精神保健指定医の指定申請〕 第二条の二 精神保健指定医(以下「指定医」という。)の指定を受けようとする者は、申請書に厚生労働省令で定める書類を添え、住所地の都道府県知事を経由して、これを厚生労働大臣に提出しなければならない。 (別紙2-3) ○ 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行規則 〔精神保健指定医の指定申請書類〕 第一条 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行規則 〔精神保健指定医の指定申請書類〕 第一条 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行令(昭和二十五年政令第百五十五号。以下「令」という。)第二条の二の厚生労働省令で定める書類は、次のとおりとする。 一 履歴書 二 医師免許証の写し 三 五年以上診断又は治療に従事した経験を有することを証する書面 四 三年以上精神障害の診断又は治療に従事した経験を有することを証する書面 五 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和二十五年法律第百二十三号。以下「法」という。)第十八条第一項第三号に規定する厚生労働大臣が定める精神障害につき厚生労働大臣が定める程度の診断又は治療に従事した経験を有することを証する書面 六 法第十八条第一項第四号に規定する研修の課程を修了したことを証する書面 (略) (別紙2-4) る研修の課程を修了したことを証する書面 (略) (別紙2-4) 「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第18条第1項第3号の規定に基づき厚生労働大臣が定める精神障害及び程度〔昭和63年4月8日号厚生省告示第124号〕 厚生労働大臣の定める精神障害厚生労働大臣の定める程度統合失調症圏、躁うつ病圏、中毒性精神障害(依存症に係るものに限る。),児童・思春期精神障害、症状性若しくは器質性精神障害(老年期認知症を除く。)又は老年期認知症のいずれか精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和二十五年法律第百二十三号。以下「法」という。)第二十九条第一項の規定により入院した者(以下「措置入院者」という。)又は心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(平成十五年法律第百十号)第四十二条第一項第一号若しくは第六十一条第一項第一号の決定により入院している者(以下「医療観察法入院対象者」という。)につき一例以上統合失調症圏措置入院者、法第三十三条第一項の規定により入院した者(以下「医療保護入院者」という。)又は医療観察法入院対象者につき二例以上躁うつ病圏措置入院者、医療保護入院者又は医療観察法入院対象者につき一例以上中毒性精神障害(依存症に係るものに限る。)措置入院者、医療保護入院者又は医療観察法入院対象者につき一例以上児童・思春期精神障害精神障害者、措置入院者、医療保護入院者又は医療観察法入院対象者につき一例以上 症状性又は器質性精神障害(老年期認知症を除く。)措置入院者、医療保護入院者又は医療観察法入院対象者に 障害者、措置入院者、医療保護入院者又は医療観察法入院対象者につき一例以上 症状性又は器質性精神障害(老年期認知症を除く。)措置入院者、医療保護入院者又は医療観察法入院対象者につき一例以上老年期認知症措置入院者、医療保護入院者又は医療観察法入院対象者につき一例以上 (別紙3)争点に関する当事者の主張の要旨(原告の主張の要旨)(1) 原告は,本件患者の診療に十分な関わりを持っていなかったとは認められないのであり,本件処分は,処分理由とされている事実の認定に誤認があ るため,社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことは明らかであり,裁量権の範囲を逸脱し又はその濫用をした処分として,違法である。 (2) 本件患者の主訴は,別紙4の「本件患者の症状・主訴の重要な変化対応者・対応方法」欄のとおりであり,これらについて,原告は,同別紙「原告の本件症例への関わり」欄のとおり診療に関与したものであり,それは同 別紙「本件症例への関わりを示す医療記録上の記載と説明」欄のとおり裏付けられており,同別紙「原告の関わりが精神科医としての関わりといえるか」欄のとおり,精神科医としての関わりと評価できるものである。 中でも以下のエピソードは,原告の本件症例への関わりが十分であることを基礎づけるものである。 アエピソード①(平成21年12月10日〔抗精神病薬の選定〕)入院当日の本件患者の妄想の訴えを踏まえ,原告は,C医師に抗精神薬投薬(ハロペリドール)の投与を提案し,C医師の指導に沿って,本件患者に対し,より副作用の少ない抗精神病薬(セロクエル)の処方を少量から開始することとした。 イエピソード②(平成21年12月15日〔食事量が少ない時の対処〕)原告は,C医師から 本件患者に対し,より副作用の少ない抗精神病薬(セロクエル)の処方を少量から開始することとした。 イエピソード②(平成21年12月15日〔食事量が少ない時の対処〕)原告は,C医師から問われ,本件患者の食事量が少ない時の対処法を提案し,これが採用された。 ウエピソード③(平成22年3月〔下部消化管内視鏡検査の提案〕)入院時から便に血液が混入していたことについて,原告は,C医師に, 大腸がんの可能性を調べるため,下部消化管内視鏡検査を行うことを提 案し,その結果,同検査を行う方針とされた(ただし,本件患者が検査を拒否したため実施されなかった。)。 エエピソード④(平成22年4月1日〔プラセボ薬の投与〕)本件患者が訴えた頭痛に対し,原告は,C医師に鎮痛剤の投与を提案したが,プラセボ薬を投与して様子を見ることとされた。そして,プラセ ボ薬の投与により,本件患者の頭痛の訴えは改善した。 オエピソード⑤(平成22年6月2日〔新たな髄膜腫の発生に伴う他院での治療〕)本件患者に新たな脳腫瘍(髄膜腫)の発生が確認されたことから,専門的治療が実施可能なR総合病院への転院について原告が本件患者に説明 し,納得を得られた(ただし,R病院が患者受入れに難色を示したため,日帰り外来受診により治療を受けることとなった。)。 カその他の関与原告は,出勤日(毎週月曜日~金曜日の週5日)は毎日本件患者の回診を欠かしたことはないし,その際,本件患者から主訴があれば聴き取る ようにし,投薬や検査の指示をし,回診以外にも,病院の廊下等で積極的に本件患者に声を掛けるなどしてコミュニケーションを取り,本件患者の訴えを聴き取るとともに,本件患者の気持ちを楽にするようにしていた。原告は,その年齢や性格から ,回診以外にも,病院の廊下等で積極的に本件患者に声を掛けるなどしてコミュニケーションを取り,本件患者の訴えを聴き取るとともに,本件患者の気持ちを楽にするようにしていた。原告は,その年齢や性格から,本件患者及びその家族から好印象が持たれ,心を開かれていた。後記クのとおり,精神科においては,こ のような会話や交流自体が,診療行為に当たるものというべきである。 また,原告は,他病院への外来診察時の付き添いや見送りをした。外来診察は,本件患者や家族にとって肉体的にも精神的にも大きな負担を伴うものであり,原告の行為は本件患者の精神疾患の改善に資する行為といえる。 さらに,診療録に編綴する入院時聴取記録(甲5),診療情報提供書 (甲7)を起案し,医療保護入院届(甲4),退院時要約(甲10)の草稿を作成した。このことからも,原告が本件患者の診断を行っていたことが明らかというべきである。 キ本件患者は,本件病院に入院する前に,餓死を宣言して拒食及び拒薬していた影響から全身状態が悪化し,脳腫瘍の既往歴があったことから, C医師は,全身状態を管理しながら精神疾患の治療を行うには複数の主治医で治療に当たるのが有益と考え,新臨床研修制度を終了し多数の診療科での経験を有する原告及び神経内科学を専門とするE医師の3名による複数主治医制により,本件患者の診療に当たることとしたところ,原告は,本件患者の診療について,E医師以上に関与した。 本件症例については,E医師も指定医の申請のためにケースレポートを作成して提出し,関与基準を充たすと認定されているから,原告についても同基準を充たすものというべきである。それにもかかわらず,本件処分が原告について「十分な関わり」がなかったと判断する趣旨であれば,平等原則にも違 関与基準を充たすと認定されているから,原告についても同基準を充たすものというべきである。それにもかかわらず,本件処分が原告について「十分な関わり」がなかったと判断する趣旨であれば,平等原則にも違反するものである。 本件診療録から読み取ることのできる本件症例への関与について,原告とE医師とを比較すると,E医師は,本件患者の主訴の記録が中心であるのに対し,原告は,本件患者の主訴の記録のほか,本件患者の症状を踏まえての処方薬の提案,食事量が少ないときの対処法の策定,検査結果を分析した上での追加検査の提案,新たに発生した髄膜腫についての 本件患者及び患者家族への説明,髄膜腫治療に際しての他院との連携,診療録に編綴する文書(入院時聴取記録,診療情報提供書,退院時要約)の起案など,多種多様な関与をした。 したがって,本件症例について,原告がE医師以上に関与していたことは明らかである。 ク精神科医療の現場では,精神疾患に苦しむ患者を治療する際,抗精神病 薬等の投薬に限らず,患者の主訴を傾聴し,共感し,患者の心理の健康部分を支えるといった技法を用いるなど,患者にとって有効と考えられるあらゆる手段を用いて精神疾患の改善を図っている。医師が行う傾聴は,単純に話を聴くというものではなく,患者との対話を通じて共に解決法を模索する治療行為である。本件取扱要領は,精神保健福祉法18条1項2号 に規定する「精神障害の診断又は治療に従事した経験」を「精神科実務経験」と呼称するとした上で,これを「精神科を標榜している医療機関において行った精神障害者の診断又は治療(デイ・ケア)を含む」としているところ,その趣旨は,上記のような精神科の医療現場の実態に鑑み,精神疾患の改善に資する行為については,デイ・ケアを含め,広 機関において行った精神障害者の診断又は治療(デイ・ケア)を含む」としているところ,その趣旨は,上記のような精神科の医療現場の実態に鑑み,精神疾患の改善に資する行為については,デイ・ケアを含め,広く精神科実務 経験として勘案するものと解される。 ケ診療録に原告による記載が少ないことは,原告が診療していないことにはならない。 本件患者について複数主治医制で診療に臨むに際し,C医師,E医師及び原告は,リーダー看護師との間で,看護スタッフへの指揮系統に混乱 が生じないよう,複数の医師がばらばらに指示を出すことのないようにすることとするとともに,原告とE医師は勤務日ごとに本件患者の診察を行い,主観的情報(S)と客観的情報(O)を本件診療録に記載するか,又はC医師に報告することとし,これらの情報を基に3名の医師で協議した上で情報の評価(A)と治療計画(P)の記載をC医師が行う 旨を取り決めた(以下「本件取決め」という。)。 もっとも,このような本件取決めをしたことや,C医師が本件診療録が保管されている病棟の病棟医であり,本件診療録へのアクセスが容易であったことなどから,E医師及び原告において本件診療録に記載すること自体を遠慮することにつながった上,C医師は本件病院の副院長,E 医師は前職が神経研究機関の准教授であり,いずれも原告よりも年長者 で,医師経験年数も格段に長かったため,原告はより一層本件診療録への記載を遠慮することとなり,そのために,本件診療録の記載が,C医師によるものが大部分を占め,原告による記載が少なくなった。このように本件診療録の記載は少ないものの,原告は,日常的に,C医師やE医師との間で,本件患者の所見等について,意見交換を行っていたもの である。 また,本件症例のよう る記載が少なくなった。このように本件診療録の記載は少ないものの,原告は,日常的に,C医師やE医師との間で,本件患者の所見等について,意見交換を行っていたもの である。 また,本件症例のように,複数主治医制における診療録の記載については,主治医のうち誰か1名が診療録を記載すれば,その他の主治医が重ねて同じ内容を記載しないというのが実態であり,原告も,そのような認識の下,重複する内容の記載を控えていた。C医師は,E医師及び原 告による記載が少ないことを特に問題として認識していなかった。 なお,本件診療録には,原告が情報評価(A)の記載をしているものも見られる(平成21年12月11日「病的体験に支配されている」,平成22年6月25日「病的体験でなく,現実的思考と考える」)が,これらは,その記載内容等から,医師により評価が分かれるものではなく, 看護スタッフに混乱を生じさせるおそれがなかったから,上記取決めの趣旨に反するものではなかった。 コ原告による本件診療録における4つの記載は,①入院翌日及び退院前日という入院期間の始点及び終点に記載されており,退院前日には原告が本件患者から感謝の言葉をかけられていること,②原告が,食事量に継続的 に着目して診療に当たっていたことを示す記載があること(平成22年1月18日及び同年6月25日)などから,原告が,本件入院期間の全体にわたり,日常的継続的に本件患者の診療に当たっていたことを示しているというべきである。本件患者は幻覚妄想状態で本件病院に入院したのであるから,仮に原告が,退院までに3回しか本件患者を診療していないとす れば,原告のことを覚えていないのが通常であり,原告に対し,感謝の言 葉を述べるとは考えられない。 サまた,診療録や関係資料上,「主 までに3回しか本件患者を診療していないとす れば,原告のことを覚えていないのが通常であり,原告に対し,感謝の言 葉を述べるとは考えられない。 サまた,診療録や関係資料上,「主治医」や「先生」との記載は,原告を意味するものである。平成22年5月26日に行われたリハビリテーションカンファレンス(以下「本件カンファレンス」という。)について,記録(看護経過記録,リハビリテーションカンファレンス記録)には参加者 として「主治医」の記載があるところ,これは,C医師,E医師及び原告を意味するものである。 シ別件症例に係る診療別件症例は原告が単独で主治医として診療に当たった症例であり,原告は,本件申請時に別件ケースレポートを作成し,C医師の助言を仰い だ上で,別件ケースレポートではなく,本件ケースレポートを提出することとしたものである。したがって,原告は,本件症例について十分な関わりを持ったか否かにかかわらず,器質性精神障害等について十分な関わりのある診療経験を有しているといえる。 仮に原告が本件症例について十分な関わりをもっていなかったとすれば, 原告が単独で主治医として診断及び治療を行った別件症例についてのみケースレポートを作成して提出するはずであるから,別件症例は,原告が本件症例に主治医として十分な関わりをもっていたことを推認させるものである。 (3) 別件症例に係る判断過程の違法について 指定医の申請時に提出されたケースレポートの症例について「診断又は治療に従事した経験」を満たしているか否かについて適正な審査を行うことができない場合には,申請者自らが提出した他の症例のケースレポートの提出を求めることができる(本件取扱要領)。そして,本件申請に係る審査の過程において,仮に本件ケ か否かについて適正な審査を行うことができない場合には,申請者自らが提出した他の症例のケースレポートの提出を求めることができる(本件取扱要領)。そして,本件申請に係る審査の過程において,仮に本件ケースレポートが不適であるとされたとすれば,原告 は,別件ケースレポートを提出することにより,指定医の指定を受けること ができたものである。 また,本件取扱要領は,「十分な関わり」を持ったかについての基準を何ら示しておらず,指定医の指定に係る審査基準(行政手続法5条2項)について,具体的な審査基準が策定・公表されていなかった。仮にこれが公表されていたとすれば,原告は別件ケースレポートを提出することにより,指定 医の指定を受けることができた。 さらに,本件処分は,原告が本件聴聞において別件症例に係る別件ケースレポート等を追完したにもかかわらず,これを考慮せずにされたものであり,その判断過程には違法があるというべきである。 (4) 比例原則違反について 本件処分は,5年を経過するまでは原則として再指定を受けられないという効果を伴う極めて重大な不利益処分であるから,本件処分が比例原則に反するかどうかを判断するに当たっては,処分理由とされるべき行為に至る経緯や動機等の諸事情を考慮すべきである。 原告は,単独で主治医を務めた別件症例についても別件ケースレポートを 作成し,指導医であるC医師に対して本件症例と別件症例のいずれのケースレポートを提出すべきか相談した上で医学的意義の大きい本件症例のケースレポートを提出することとしたものである。また,本件取扱要領には,いかなる関与があれば十分な関わりを持った症例と判断されるかについての基準について定めはないところ,仮にこのような基準が公表されていたとすれば, ととしたものである。また,本件取扱要領には,いかなる関与があれば十分な関わりを持った症例と判断されるかについての基準について定めはないところ,仮にこのような基準が公表されていたとすれば, 原告は別件症例を提出することができた。さらに,処分行政庁の諮問機関である審査部会がケースレポートを審査するに当たり,8症例のうち1症例のみ不適当なケースレポートが提出された場合,指定が保留され,再審査によって適当とされれば指定することができるという取扱いがされているところ,本件において原告には再審査の機会が与えられず,別件症例のケースレ ポートを提出することができなかった。 以上の諸事情によれば,原告の非難可能性は極めて低く,このことは,指定医がケースレポートの対象となる症例の患者について担当医師ではなかったことを自認し,同患者に係る診療録にも全く記載をしなかった事案と比較すれば明らかである。また,平成9年6月27日の公衆衛生審議会精神保健福祉部会において提出された「精神保険指定医の取消しについて」と題する 資料(甲22)は,精神保健福祉法19条の2第2項所定の「指定医として著しく不適当と認められるとき」の具体例を挙げており,裁量基準に準じた位置付けを有していた可能性があるところ,上記具体例として精神障害者の人権を侵害した場合等が挙げられていることに照らしても,人権侵害とは無関係の本件において指定医の取消処分をすることは重きに失する。 (被告の主張の要旨)(1) 精神保健福祉法19条の2第2項は,指定医の指定の取消し又は職務の停止に係る処分事由として,同法又は同法に基づく命令に違反したときという事由に加え,「その職務に関し著しく不当な行為を行ったときその他指定医として著しく不適当と認められるとき」という 消し又は職務の停止に係る処分事由として,同法又は同法に基づく命令に違反したときという事由に加え,「その職務に関し著しく不当な行為を行ったときその他指定医として著しく不適当と認められるとき」という規範的な評価を要する事由 を掲げるところ,被処分者が上記の規範的な処分事由に該当するか否か及びこれらの処分事由が認められる場合に指定の取消し又は職務の停止のいずれかの処分を選択するかについては,厚生労働大臣の合理的な裁量に委ねられているものと解され,指定医の指定取消処分は,それが社会通念上著しく妥当性を欠いて裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものと認められるも のでない限り,その裁量権の範囲内にあるものとして違法とならないものというべきである。 指定医の指定については,指定医の職務の重要性ゆえに精神保健福祉法18条によって厳格な要件が定められていること,同法18条1項3号が「診断又は治療に従事した経験」と規定していること,本件取扱要領の2(2)キ が「同一症例について,同時に複数の医師がケースレポートを作成すること は認められないものであること」としていること,本件取扱要領の2(2)アが「自ら担当として」と記載していること等に照らせば,診察の補助や助言をしたにすぎない者が「自ら担当として診断又は治療等に十分な関わりを持った」としてケースレポートを提出することはそもそも想定されていないというべきであり,ケースレポートの対象となる「自ら担当として診断又は治療 等に十分な関わりを持った症例」といえるためには,申請者自身が,当該患者の診断や治療自体に十分な関わりを持ち,かつ,主担当として当該患者に関わっていることが必要であり,診断又は治療そのものではない「診断又は治療等」の「等」に含まれるような,症例検討会等 身が,当該患者の診断や治療自体に十分な関わりを持ち,かつ,主担当として当該患者に関わっていることが必要であり,診断又は治療そのものではない「診断又は治療等」の「等」に含まれるような,症例検討会等の診断や治療に付随する関わりを主として持っていたにすぎない者や,主担当としてではなく主担当 に指導,助言をするなど補助的な立場で診断や治療に関わっていたにすぎない者が,「自ら担当として診断又は治療等に十分な関わりを持った」とは認められないというべきである。 そして,実際には自ら担当として「診断又は治療」等に十分な関わりを有していなかった症例に係る不正なケースレポートを作成・提出して指定医の 指定を受けるという事態は,厚生労働大臣及び医道審議会に対して,指定医に足る素質の有無を誤認させることを意味するものにほかならず,このような行為自体が,指定医の業務を専門的知識・経験を有する医師のみに関与させることとして,精神障害者の人権の一層の確保を図ることとした指定医の制度の趣旨を没却させるものであるから,精神保健福祉法19条の2第2項 の「指定医として著しく不適当と認められるとき」に該当する。 そして,医師法24条は,「医師は,診療をしたときは,遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない。」と定めているところ,その記載には,診断経過や患者の容態を遅滞なく確実に記載し,もって適切な診断,治療又は処方等を行わせるという趣旨,さらには,患者との関係で責 任の所在を明らかにするという意義があることに鑑みれば,自ら担当として 診断又は治療等に十分な関わりを持った症例といえるかどうかは,原則として診療録の記載内容をもって判断するのが明確かつ合理的である。 また,D指定取消処分を契機として,厚生労働大臣において調 診断又は治療等に十分な関わりを持った症例といえるかどうかは,原則として診療録の記載内容をもって判断するのが明確かつ合理的である。 また,D指定取消処分を契機として,厚生労働大臣において調査を行ったところ,複数の医師が,同一症例・同一入院期間についてのケースレポートを提出していることが明らかになったことから,当該医師らが指定医の指定 申請時に提出したケースレポートの記載内容の真実性を担保するために,診療状況を最も客観的に把握することのできる診療録を確認し,当該医師らが当該患者の診療に十分な関わりを有しているかどうかを客観的に判断する必要が生じたものであるから,その点の判断は,原則として診療録の記載によるのが明確かつ合理的である。 このことは,複数主治医制が採用された場合であっても,何ら異なるところはない。 (2) 本件入院期間は約28週間あるにもかかわらず,本件診療録への原告の記載は,僅か4点であった上,ほとんどの記載は,問診の際の主訴を記載するものにとどまり,それ以上に診断や治療方針等に係る記載は認められない。 原告が主張する本件取決めは,客観的な裏付けがない上に,原告が,本件取決めに反して,入院直後に評価(A)の記載をしていることからすれば,これを認めることができないし,仮にその事実があったとしても,C医師は原告に対して本件診療録に必要な事項を記載するように指導していたものであり,C医師やE医師が本件診療録に記載した日以外の日には,原告による 記載があってしかるべきである。また,原告は,C医師らが本件診療録に記載した内容と重複する内容を記載することはないとする一方で,本件診療録への原告の記載4点は,そのいずれも既になされた記載内容と重複するものであり,原告の主張は矛盾している。 以上のよ 件診療録に記載した内容と重複する内容を記載することはないとする一方で,本件診療録への原告の記載4点は,そのいずれも既になされた記載内容と重複するものであり,原告の主張は矛盾している。 以上のように,本件診療録への原告の記載が少ない理由に関する原告の主 張は,十分なものではない。 (3) 本件診療録以外の諸記録等や事情を踏まえても,原告が本件症例の診断又は治療に十分な関わりを持ったとは認められない。 ア原告の本件症例への関わりに関する被告の主張は,別紙4の「被告の主張」欄のとおりである。原告が主張するエピソード①~⑤は,いずれも客観的な裏付けを欠くものである。また,原告の提案がC医師により否定さ れたり(エピソード①及び④),初期研修医が習得する程度の診療であって,内科医として高度の知識や技術を要するものでもないもの(エピソード②及び③)であったり,原告の職分からすれば当然のものもあること(エピソード⑤)に加えて,C医師は,副院長と診療部長等の職務を併任して多忙であったにもかかわらず,C医師が本件診療録等の諸記録のほぼ 大半を作成しており,原告は,(原告の主張によっても)本件カンファレンスでは,後方に控えて参加していたにすぎないこと,本件診療録への記載に係る本件取決めについても原告が医師としての技量・経験が不十分であることが前提とされていることなどからすれば,原告の主張を前提としても,原告は,C医師の指導を主目的として本件症例を見学又は診療を補 助したと評価されるにすぎない。 イ診療情報提供書(乙17・18頁)の作成名義はC医師であるし,入院時聴取記録(甲5)の作成名義は原告とE医師の共同名義であるところ,原告の関与の度合いは不明であり,退院時要約(甲10)は,書面の記載上作成者を特定す 17・18頁)の作成名義はC医師であるし,入院時聴取記録(甲5)の作成名義は原告とE医師の共同名義であるところ,原告の関与の度合いは不明であり,退院時要約(甲10)は,書面の記載上作成者を特定することができない。 ウ入院診療計画書(医療法6条の4第1項)及び退院療養計画書(同条3項)は,患者に対して,どの医師が診療を担当する(した)かの説明責任を果たす目的が含まれるところ,本件症例の入院診療計画書及び退院療養計画書の各「主治医氏名」欄にはC医師の氏名が記載されている。また,入院診療計画書の「主治医以外の担当者名」欄には,担当医師が変更にな ることがある旨の注意書きがされていることから,同欄には「主治医氏名」 欄記載の医師以外の担当医師の氏名が記載されることが前提とされているにもかかわらず,同欄にも原告の氏名が記載されていない。 エ看護記録の記載からも,原告が自ら担当として本件症例の診療に十分な関わりを持っていたとはいえない。看護スタッフとの間では指示はC医師が一括して出すこととされていたこと,入院診療計画書等の諸書類の主治 医欄にC医師の名前が記載されていることからすれば,看護記録の「主治医」「Dr」の記載は, C医師を指すものというべきである。また,原告は,本件カンファレンスに参加したと主張するが,その記録(看護経過記録,カンファレンス記録)には,参加者として原告の氏名が記載されていない。 オ原告の内科の経験は,臨床研修の間のそれにすぎないから,原告は内科医としての診療経験を踏まえて本件症例を担当したということはできない。 カ本件症例は器質性等診療経験要件に係るものであるところ,本件症例において得るべき経験は,①本件症例の患者の髄膜腫の再発と本件患者の精神症状の関連性について適切 を担当したということはできない。 カ本件症例は器質性等診療経験要件に係るものであるところ,本件症例において得るべき経験は,①本件症例の患者の髄膜腫の再発と本件患者の精神症状の関連性について適切に考察した上で診療を行う経験,②髄膜腫と いう原因疾患名,身体的(神経学的)病状・所見,関係が深い検査結果,他科医の診療を踏まえた上で,診療を行う経験であるといえる。そして,髄膜腫の再発が確認されたMRI検査から治療に至る時期(平成22年3月19日~同年6月24日)までのほぼ3カ月間は,原告による本件診療録への記載は全くないことから,原告は,その中心的な時期において,本 件症例に関わりがないといえる。 また,この時期に原告が行ったとされる本件患者及び家族への髄膜腫の説明は,C医師の指示に基づき行ったものにすぎないし,原告の本件患者への関わりは医学的判断を伴わない単なる日常会話にとどまるものであり,治療に付随して行われる行為にすぎない。精神科デイ・ケアは, 本件取扱要領における「診断又は治療」に含まれない。 これとは異なり,E医師は,本件診療録上,髄膜腫の再発について診断し,サイバーナイフ治療中の経過を観察しており,原告とは異なり,器質性精神障害等の診療経験を有していることが見て取れる。 キ本件症例は,原告の経験や能力からするとC医師の指導を十分に受けなければならない事例であったにもかかわらず,C医師は,本件入院期間中 多忙を極めていたために,C医師の原告に対する指導は十分であったとは認められない。また,C医師が,原告の経験を十分に把握し判断できるような状況にあったとは認められないこと自体,原告が本件症例に十分な関わりがないことを裏付けるものというべきである。 (4) 別件症例に係る判断過程の違法 が,原告の経験を十分に把握し判断できるような状況にあったとは認められないこと自体,原告が本件症例に十分な関わりがないことを裏付けるものというべきである。 (4) 別件症例に係る判断過程の違法をいう原告の主張について 本件ケースレポートの提出行為(本件提出行為)自体が,精神保健福祉法19条の2第2項所定の「指定医として著しく不適当と認められるとき」との処分事由に該当するといえるから,仮に原告が本件提出行為後に別件ケースレポートを提出したとしても,処分事由が解消されるものではない。 (5) 比例原則違反に係る原告の主張について 原告は,自ら担当として診断又は治療に十分な関わりを有していない本件症例について,不正な本件ケースレポートを提出したことにより,厚生労働大臣に誤認させたのであるから,本件提出行為は,精神障害者の意思に基づかない入院医療や入院中の行動制限の要否を判定する業務を,精神科医療に関する専門的な知識及び経験等を有する医師のみに関与させることによって 精神障害者の人権の一層の確保を図るという指定医の制度の趣旨を没却するものであって,強い非難を受けるべき行為であるといわざるを得ない。 したがって,仮に原告が別件症例について十分な関わりを有していたとしても,本件処分は比例原則に反するとはいえない。 (6) また,行政手続法12条1項は,処分基準を定めることについての努力 義務を規定するにとどまるものであるから,精神保健福祉法19条の2第2 項に係る処分基準が定められていないことは,行政手続法の上記規定に違反するものではない。 以上 手続法の上記規定に違反するものではない。 以上
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