平成24(ワ)772 B型肝炎損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和2年6月23日 福岡地方裁判所 棄却
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判決文本文86,647 文字)

主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求の趣旨 被告は,原告らに対し,それぞれ1300万円及びこれに対する原告Aについては平成24年3月30日から,原告Bについては平成25年7月23日から,原告Cについては平成26年12月13日から,原告Dについては平成27年3月12日から,原告Eについては平成28年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等本件は,その乳幼児期(0~6歳時)に集団ツベルクリン反応検査及び集団予防接種(以下,併せて「本件予防接種等」という。)を受け,B型肝炎ウイルスに感染して,慢性B型肝炎を発症した原告らが,本件予防接種等を実施していた被告に対し,本件予防接種等の際,被接種者に対して同じ注射器(針又は筒。以下 同じ。)が連続して使用されたことによってB型肝炎ウイルスに感染し,感染状態が一時的でなく持続的に続くこととなって(持続感染),これにより,①慢性B型肝炎を発症した上,②これが,6年以上にわたって持続し(以下「慢性肝炎の長期持続」ということがある。),又は③①の慢性B型肝炎が鎮静化した後に,慢性B型肝炎を再発(再発後に鎮静化して,さらに再発した場合を含む。以下同 じ。)した(以下,①から③までの病状を併せて「本件各基礎事情」といい,それぞれ個別に「本件基礎事情①」などということがある。)と主張し,国家賠償法1条1項に基づき,本件基礎事情②又は同③に基づく損害として,各1300万円(包括一律請求としての損害額1250万円及び弁護士費用50万円)及びこれに対する不法行為の後である訴状送達日の翌日(原告Aについては平成24年3 月30日,原 づく損害として,各1300万円(包括一律請求としての損害額1250万円及び弁護士費用50万円)及びこれに対する不法行為の後である訴状送達日の翌日(原告Aについては平成24年3 月30日,原告Bについては平成25年7月23日,原告Cについては平成26 年12月13日,原告Dについては平成27年3月12日,原告Eについては平成28年3月11日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,それぞれ求めた事案である。 被告は,原告らの求める損害を基礎づける病状(本件各基礎事情)について,その原因となる原告らのB型肝炎ウイルス持続感染は本件予防接種等との間に 因果関係がなく(請求原因の否認),また,慢性B型肝炎が6年以上にわたって持続し(本件基礎事情②),又は慢性B型肝炎が再発した(本件基礎事情③)としても,それはB型肝炎ウイルス持続感染によって最初に発症した慢性B型肝炎(本件基礎事情①)の経過の一部にすぎず,したがって,本件基礎事情②又は同③に基づく損害は,慢性肝炎の長期持続が鎮静化した日又は慢性肝炎が再発した日 (原告らの主張)ではなく,最初に慢性B型肝炎を発症した時点(本件基礎事情①)で発生しているから,当該損害賠償請求権についての除斥期間は経過した(抗弁)と主張し,原告らの各請求の棄却を求めている。 1 前提事実(争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実。枝番号のあるものは,特に断りのない限り,枝番号を含む。以下 同じ。)(1) B型肝炎についてア B型肝炎ウイルスとその感染機序(ア) B型肝炎とはB型肝炎は,宿主の肝細胞に住み着いて増殖するB型肝炎ウイルス(H BV)に感染することによって発症す ア B型肝炎ウイルスとその感染機序(ア) B型肝炎とはB型肝炎は,宿主の肝細胞に住み着いて増殖するB型肝炎ウイルス(H BV)に感染することによって発症する肝炎(ウイルスを排除しようとする宿主の免疫反応〔免疫応答〕により,自らの肝細胞を破壊し,肝臓に炎症を起こした状態)であり,慢性化して長期化すると,肝硬変,肝がんを発症させることがある。(甲A6,13,56,57〔1頁〕,60,62,乙A2,37,61,62,68,71〔1頁〕,75) (イ) B型肝炎ウイルスの感染機序 B型肝炎ウイルスは,核酸の種類によりDNAウイルスに分類されるが,脱殻(ウイルスが核又は細胞質に運ばれてウイルス遺伝物質を露出,ゲノム発現が可能になった状態)によりウイルス核酸を細胞内に送り込み,その核酸を鋳型としてウイルスの遺伝子(ウイルスゲノム)を複製し,ウイルスを作るのに必要な蛋白(後述するHBs抗原,HBe抗原等。)を合 成する。複製されたウイルスの遺伝子は合成された蛋白と細胞内で組み合わされてウイルス粒子となり,宿主細胞外へと放出される。このような過程を経て,宿主細胞でウイルス粒子を形成し,増殖するようになることで感染が成立する。感染の態様は,主として血液を介して人から人へ感染する。B型肝炎の原因となるB型肝炎ウイルスの感染様式には,①感染成立 後一定期間の後にウイルスが生体から排除されて治癒するもの(一過性の感染)と,②ウイルスが年余にわたって生体(主として肝臓)の中に住みついてしまうもの(持続感染。B型肝炎ウイルスに持続感染した患者のことを「B型肝炎ウイルスキャリア」という。)とがある。(甲A6,34,62,乙A2,55,57) (ウ) 持続 みついてしまうもの(持続感染。B型肝炎ウイルスに持続感染した患者のことを「B型肝炎ウイルスキャリア」という。)とがある。(甲A6,34,62,乙A2,55,57) (ウ) 持続感染の主な感染経路成人がB型肝炎ウイルスに持続感染することはまれである。他方,免疫が未発達の幼少期にある者がB型肝炎ウイルスに感染すると,持続感染に至りやすい。B型肝炎ウイルス持続感染の主な感染経路は,出産時の垂直感染(母子感染)と,乳幼児期における水平感染(注射針・注射器の共用, 輸血,性交渉等。)である。(甲A6,34,56,57〔1頁〕,62,乙A57,71〔1頁〕)イ B型肝炎の病状等(ア) 急性肝炎と慢性肝炎成人が初めてB型肝炎ウイルスに感染した場合に生じる一過性の肝炎 は,急性B型肝炎と呼ばれる。他方,主としてB型肝炎ウイルスキャリア に生じる,ある程度の期間持続する肝炎は,慢性B型肝炎と呼ばれる(「B型慢性肝炎」と呼ばれることもある。以下,単に「慢性肝炎」という。)。 (甲A62,乙A2,61)。 (イ) 肝炎による肝細胞の破壊と再生肝炎により肝細胞が破壊されると(壊死),破壊された組織の再生が追 い付かない部分に,線維芽細胞によりコラーゲンが産生されて線維化が生じ,肝臓の機能が低下する。肝細胞が破壊された後は,肝臓の中に存在する肝細胞が分化して新しい肝細胞が発生し,線維は体内に吸収されて,肝臓が再生される。(乙A61,68)肝炎が,長期間持続し,又は大きな炎症(後述するALT値が正常値上 限の10倍,すなわち300以上であることが一つの目安である。)を伴うなどして,肝細胞の破壊が繰り返された場合,肝臓の再生が追 肝炎が,長期間持続し,又は大きな炎症(後述するALT値が正常値上 限の10倍,すなわち300以上であることが一つの目安である。)を伴うなどして,肝細胞の破壊が繰り返された場合,肝臓の再生が追い付かなくなり,肝硬変へ進展する。肝臓の再生速度が肝細胞が破壊される速度を上回ると,線維化の程度は軽減し,さらには改善することもある。このことは,肝硬変まで進展した場合でも同様である。(甲A52,57〔69 頁〕,乙A15,46,50,51,52,53,61,62,68,71〔69頁〕,75)(ウ) 肝硬変肝硬変とは,反復する炎症に伴う肝細胞の壊死と線維化による肝臓の硬化により肝機能の低下を来した,慢性肝炎の終末像とされる。肝硬変に至 ると,肝細胞の機能不全や,種々の合併症が生じるようになるほか,年率1~8%の確率で肝がんが発生する。もっとも,B型肝炎ウイルスキャリアにおいては,肝硬変に進展していない慢性肝炎の場合でも年率0.5~0.8%程度の確率で,また,肝炎の症状が認められない場合でも年率0. 1~0.4%程度の確率で,肝がんが発生する。(甲A6,乙A15,5 2,92,99) ウ慢性肝炎等の検査項目及びその意義慢性肝炎は,臨床的には,6か月以上にわたってALT値などの肝機能検査値に異常があり,B型肝炎ウイルス感染が持続している病態と定義され,組織学的には,門脈域にリンパ球を主体とした細胞浸潤と線維化を認め,肝実質内には種々の程度の肝細胞の変性・壊死所見を認めるものとして,肝細 胞の線維化と壊死・炎症の程度により分類される。(甲A15,32,62,乙A62,71,72,96,110)B型肝炎ウイルス感染の有無や,慢性肝炎等病状の診断に用いられる, ,肝細 胞の線維化と壊死・炎症の程度により分類される。(甲A15,32,62,乙A62,71,72,96,110)B型肝炎ウイルス感染の有無や,慢性肝炎等病状の診断に用いられる,主な検査項目とその意義は,次のとおりである。 (ア) ウイルスマーカーによる診断 ウイルスに感染すると,血液中にウイルスの核酸(遺伝子)や抗原(ウイルス蛋白)といったウイルスの成分と,抗原に対する免疫反応により産出される抗体が出現する。そこで,B型肝炎の診断や治療では,ウイルス感染後に血中に出現する抗原や抗体の有無,ウイルス量などが,感染の有無等の指標(ウイルスマーカー)として用いられる。B型肝炎ウイルスの 主要なウイルスマーカー及びその臨床的意義は,次のaからeまでのとおりである。(甲A6,56,62,乙A57,60,62,69)aHBs抗原(甲A6,56,62,乙A57,60,62,69)DNA型ウイルスであるB型肝炎ウイルスの粒子は,ウイルスDNAを含む,コア粒子と,これを覆う外殻から成り立っている。HBs抗原 は,上記外殻を構成する蛋白である。 HBs抗原が陽性であるとの反応(以下「HBs抗原陽性」という。)は,B型肝炎ウイルスが肝臓に住み着いてB型肝炎ウイルスに感染している状態にあることを示す。 bHBs抗体(甲A6,56,62,乙A57,60,62,69) HBs抗体は,HBs抗原に対する抗体であり,B型肝炎ウイルスの 感染を防御する働きを持つ。 HBs抗体が陽性であるとの反応は,かつてB型肝炎ウイルスに感染したことがある状態を指す。 cHBe抗原HBe抗 感染を防御する働きを持つ。 HBs抗体が陽性であるとの反応は,かつてB型肝炎ウイルスに感染したことがある状態を指す。 cHBe抗原HBe抗原は,本来,B型肝炎ウイルスのコア粒子の一部を構成する 蛋白であるが,これとは別個に,B型肝炎ウイルスが増殖する際,HBe抗原を過剰に産生した結果,血中に分泌されるものがある。B型肝炎ウイルスにとってのHBe抗原の役割は必ずしも明らかとなっていないが,血中に分泌されたHBe抗原は,宿主の免疫応答を抑制し,又はかく乱する作用をもたらすなど,B型肝炎ウイルスの持続感染と関連し ていると考えられている。(甲A6,20,23,32,34,56,60,62,乙A57,58,60,62,68,69)上記のようなHBe抗原の産生の仕組みから,HBe抗原が陽性であるとの反応(以下「HBe抗原陽性」などということがある。)は,B型肝炎ウイルスの増殖力が強い状態にあることを示す。もっとも,B型肝 炎ウイルスには,増殖時のHBe抗原の産生が停止又は低減する遺伝子変異(転写・複製の下となったウイルス粒子〔鋳型〕と異なる塩基配列を持つ核酸が生み出されることをいい,以下単に「変異」ともいう。一定の変異の有無により,変異のないウイルスを野生株,変異のあるウイルスを変異株と呼ぶことがある。以下,HBe抗原の産生を低減又は減 少させる遺伝子変異が生じたウイルスを「HBe抗原非産生変異株」という。)が生じることがあり,この変異が生じたウイルスが増殖すると,HBe抗原の有無及び量は,B型肝炎ウイルスの増殖状態を必ずしも反映しなくなる。(乙A68,76)dHBe抗体(甲A6,56,62,乙A60,62,68,69) 殖すると,HBe抗原の有無及び量は,B型肝炎ウイルスの増殖状態を必ずしも反映しなくなる。(乙A68,76)dHBe抗体(甲A6,56,62,乙A60,62,68,69) HBe抗体は,HBe抗原に対する抗体であり,免疫応答により産生 される。HBe抗体は,HBe抗原に結合してしまうため,HBe抗原の量が多い場合には検出されず,HBe抗原の減少とともに検出されるようになる。 HBe抗体陽性の状態は,B型肝炎ウイルスの増殖力が弱い状態にあることを示す。もっとも,HBe抗体の有無及び量も,HBe抗原と同 様,HBe抗原非産生変異株の発生により,B型肝炎ウイルスの増殖状態を必ずしも反映しなくなる場合がある。 eHBV-DNA量体内のB型肝炎ウイルスの量を具体的に把握するために,かつては,B型肝炎ウイルスのDNAポリメラーゼ(B型肝炎ウイルスの複製酵素 としてウイルス内に存在する酵素の一種。基準値は30cpm未満である〔甲B357-19の11枚目。以下,単位表記は略する。〕。)を測定する方法が用いられていたが,現在では,B型肝炎ウイルス(HBV)の遺伝子(以下「HBV-DNA」という。)の定量測定が可能となっている。(甲A6,56,62,乙A5の8,7,57,60,62,69, 82)HBV-DNA量の測定法には,PCR法,TMA法などがある。PCR法の測定値の単位はlogcopies/mlであり(以下,HBV-DNA量については,特に断りのない限りPCR法による検査結果を表すものとし,単位表記は略する。),7.0以上(TMA法の7. 0LGE/ml〔以下,単位表記は略する。〕に相当する。)が高ウイルス量,4 いては,特に断りのない限りPCR法による検査結果を表すものとし,単位表記は略する。),7.0以上(TMA法の7. 0LGE/ml〔以下,単位表記は略する。〕に相当する。)が高ウイルス量,4.0~7.0未満が中ウイルス量,4.0未満が低ウイルス量(以下「低値」ということもある。)である。低ウイルス量の場合,一般に,肝炎の活動性(炎症の程度)は高くなく,感染性も弱い。 (甲A56,乙A57,69) もっとも,上記各測定法の検出量には限界があるため,検査結果が基 準値未満(以下,HBV-DNA量の検査結果が基準値未満である場合を「HBV-DNA量が陰性である」などという。)であったとしても,ウイルスが体内に存在する可能性を否定することはできない。(乙A7)(イ) ALT値による診断慢性肝炎の病状の重さを把握するためには,①炎症の程度,重さと,② 炎症を起こしていた期間の2点が重要とされる。(乙A68)肝細胞の壊死・炎症や,線維化の程度の正確な判断には,肝生検の実施が必要となるものの,肝生検は,肝臓に針を刺して細胞を採取するという侵襲的な検査であることなどから,実施は必ずしも容易でない。(甲A14,乙A68,112) そのため,臨床的には,肝細胞が破壊される際に血中に放出される肝細胞内の酵素であるAST(GOT)や,ALT(GPT)の値による評価・推測が行われる。ALT値が一定期間高値を示し,かつ変動が認められる場合には,肝細胞の壊死が高度であり,肝炎の活動性が高い可能性が大きいとされる。(甲A13,14,32,乙A68,75,112) ALT値の正常値について,明らかなコンセンサスは存在せず,検査施設ごとに,独自の基準値が定義さ が高い可能性が大きいとされる。(甲A13,14,32,乙A68,75,112) ALT値の正常値について,明らかなコンセンサスは存在せず,検査施設ごとに,独自の基準値が定義されている。日本肝臓学会(肝炎診療ガイドライン作成委員会編)「B型肝炎治療ガイドライン(第3.0版)」(乙A71。以下「本件ガイドライン」という。)は,ALT値の正常値を30U/L(以下,単位表記は略する。)以下としている(以下,特記しない限 り,ALT値の正常値とは,ALT値が本件ガイドラインの上記基準値以下である場合を指すものとする。)。 (甲A52,57〔4頁〕,乙A71〔4,12頁〕)エ B型肝炎ウイルスキャリアの自然経過B型肝炎ウイルスキャリアの病状の自然経過は,宿主の免疫応答とウイル ス増殖の状態(HBV-DNA量)によって,いくつかの「病期」(疾病の 経過を,その特徴により区分した時期をいう。)に分けて説明されることが多い(本件ガイドラインは,免疫寛容期,免疫応答期,低増殖期,寛解期の4つの病期に区分している。)。その概要は,次の(ア)から(オ)までのとおりである。(甲A56,57〔1,2,67,68頁〕,58~62,69,乙A57,60,62,63,68,71〔1,2,12,56,67,68頁〕, 75)(ア) 免疫寛容期乳幼児は,B型肝炎ウイルスに対する宿主の免疫応答が未発達のため,B型肝炎ウイルスに感染すると持続感染に至ることが多い。その後,多くの例で,HBe抗原陽性の状態となり,かつウイルス増殖が活発でありな がら,ALT値は正常で肝炎の活動性がほとんどない状態(免疫寛容の状態)が,数年から20年以上の長期間にわたって持続する(以下,この状態 抗原陽性の状態となり,かつウイルス増殖が活発でありな がら,ALT値は正常で肝炎の活動性がほとんどない状態(免疫寛容の状態)が,数年から20年以上の長期間にわたって持続する(以下,この状態の患者のことを「無症候性キャリア」という。)。 (イ) 免疫応答期成人に達すると,B型肝炎ウイルスに対する免疫応答が活発となり,活 動性肝炎となることが多い。そして,自然経過においては,年率7~16%程度の割合で,HBe抗原陽性・HBe抗体陰性の状態から,HBe抗原陰性・HBe抗体陽性の状態に変化する現象である,HBe抗原セロコンバージョン(以下,単に「セロコンバージョン」ともいう。)が生じる。 セロコンバージョンが生じないまま肝炎が持続してHBe抗原陽性の 状態が長期間続くと,年率約2%の割合で肝硬変に進展し,さらには肝がん,肝不全に進展し得る。 また,セロコンバージョンが生じても,後記(ウ)のとおり,ウイルス増殖が低下せず,HBe抗原陰性の状態のまま,慢性肝炎が持続する症例もある。 (ウ) 低増殖期 セロコンバージョンが生じると,多くの場合は,①HBe抗原が陰性,②ALT値が正常,③HBV-DNA量が低値,という状態が持続するようになる(以下,この状態を「慢性肝炎の鎮静化」という。この状態の患者についても,「無症候性キャリア」と呼ぶことがあるが〔甲A56の4頁〕,以下では,「非活動性キャリア」という。)。本件ガイドラインは,「治 療適応のないHBe抗原セロコンバージョン後の非活動性キャリア」を,抗ウイルス治療がなされていない状態での,1年以上の観察期間における3回以上の血液検査で,上記①~③の状態が満たされている症例,と定義してい いHBe抗原セロコンバージョン後の非活動性キャリア」を,抗ウイルス治療がなされていない状態での,1年以上の観察期間における3回以上の血液検査で,上記①~③の状態が満たされている症例,と定義している(以下,このような症例の患者を「ガイドラインの定義を満たす非活動性キャリア」という。)。もっとも,一部の症例では,セロコンバー ジョンが生じても,慢性肝炎が鎮静化せず,HBe抗原陰性の状態で長期持続する。 非活動性キャリアの80~90%は,肝硬変や肝がんに進展するリスクが低く,長期予後が良好である。他方,当初非活動性キャリアと診断された症例のうち,10~20%は,HBe抗原陰性の状態でB型肝炎ウイル スが再増殖して,ALT値の上昇が見られるようになり(このような経過について,原告らは,当初発症した慢性肝炎とは別の病状であるとの理解の下で「慢性肝炎の再発」である旨主張し,被告は,当初発症した慢性肝炎と別の病状ではないとの理解の下で「慢性肝炎の再燃」である旨主張するなど,どのように呼ぶかについて意見の違いはあるものの,以下では, このような経過を,繰り返される場合を含めて,「慢性肝炎の再発」という。),再び免疫応答期に入る(これを「再活性期」と位置付ける見解もある。)。さらに,慢性肝炎が再発した後,HBe抗体が消失して,HBe抗原が再度出現する(HBe抗原陽性の状態となる)こともある(以下,この現象を「リバースセロコンバージョン」という。)。 HBe抗原陽性の状態で生じる慢性肝炎は,HBe抗原陽性慢性肝炎と 呼ばれることがあり,HBe抗原陰性の状態で生じる慢性肝炎は,HBe抗原陰性慢性肝炎と呼ばれることがある。上記のとおり,HBe抗原陽性慢性肝炎には,最初に慢性肝炎を発症した場合( 肝炎と 呼ばれることがあり,HBe抗原陰性の状態で生じる慢性肝炎は,HBe抗原陰性慢性肝炎と呼ばれることがある。上記のとおり,HBe抗原陽性慢性肝炎には,最初に慢性肝炎を発症した場合(慢性肝炎の長期持続を含む。)と,セロコンバージョンによりHBe抗原が陰性の状態となった後,慢性肝炎が再発し,リバースセロコンバージョンが生じてHBe抗原が陽 性の状態となった場合とがあり,HBe抗原陰性慢性肝炎には,セロコンバージョンによりHBe抗原が陰性の状態となった後,慢性肝炎が鎮静化せず,長期持続した場合と,慢性肝炎がいったん鎮静化した後に再発した場合とがある。 (エ) 寛解期 セロコンバージョンを経た一部の症例では,さらに,HBs抗原が消失してHBs抗体が出現する,HBs抗原セロコンバージョンが生じ,血液検査所見,肝組織所見ともに改善する。 (オ) B型肝炎ウイルスキャリアの80~90%の症例は,慢性肝炎発症後,自然経過で,セロコンバージョンと慢性肝炎の鎮静化が起こり,非活動性 キャリアとなる。このような経過の症例は,予後が良く,治療を必要としないことが多い。他方,慢性肝炎の発症後,HBV-DNA量が十分低下せず慢性肝炎が持続する症例では,肝硬変への進行や,肝がん合併の危険性が高い。このため,積極的な治療が必要である。 オ慢性肝炎の治療 現在の医学では,B型肝炎ウイルスを完全に排除することは困難なため,B型肝炎ウイルスの増殖を持続的に抑制することにより慢性肝炎を鎮静化させて,線維化の進行,肝硬変や肝がんへの進展を防ぐことが重要とされる。 (甲A56,57〔3頁〕,62,乙A57,71〔3頁〕,112)B型肝炎ウイルスの増殖を抑制する治療(抗ウイル 化させて,線維化の進行,肝硬変や肝がんへの進展を防ぐことが重要とされる。 (甲A56,57〔3頁〕,62,乙A57,71〔3頁〕,112)B型肝炎ウイルスの増殖を抑制する治療(抗ウイルス療法)に使われる主 な薬は,①インターフェロン及び②核酸アナログ製剤である。(甲A6,5 7〔5,6頁〕,65,乙A53,61,63,71〔5,6,23,33頁〕,112)インターフェロンは,HBV-DNA増殖抑制作用,抗ウイルス作用(この作用を優先する場合は連日投与),免疫賦活作用(免疫応答を活性化させる作用)を有する注射薬である。副作用が生じやすく,その治療の都度,入 通院を要するものの,奏功した場合,高確率で,ウイルスの増殖が抑制されることでHBe抗原陰性の状態となるという効果が持続する。(甲A51,56,57〔5,6頁〕,65,乙A57,71〔5,6,23,24,28,32,33頁〕)核酸アナログ製剤は,強力なHBV-DNA増殖抑制作用をする。治療に は,これを服用することで足り,ほとんどの症例で抗ウイルス作用を発揮し,慢性肝炎を鎮静化させるものの,長期投与が必要であり,薬剤耐性を持つ変異株が出現することもある。現在までに保険適用となった核酸アナログ製剤として,ラミブジン(製品名ゼフィックス),アデホビル(製品名ヘプセラ),エンテカビル(製品名バラクルード)などがある。(甲A17~19,51, 57〔5,6頁〕,65,乙A47~49,71〔5,6,33,53頁〕)そのほか,強力ミノファーゲンシー(以下「強ミノ」という。)や,ウルソデオキシコール酸(SNMC。以下「ウルソ」という。)などの肝庇護薬を用いた治療が行われることもある。(甲A62,乙A53)(2) 原告 ミノファーゲンシー(以下「強ミノ」という。)や,ウルソデオキシコール酸(SNMC。以下「ウルソ」という。)などの肝庇護薬を用いた治療が行われることもある。(甲A62,乙A53)(2) 原告らの予防接種,B型肝炎ウイルス感染及び臨床経過等に関する事情等 ア原告A(ア) 出生から乳幼児期まで原告A(昭和●●年●月●●日生まれ)は,B型肝炎ウイルスキャリアであるところ,0歳から6歳頃までにB型肝炎ウイルスに感染した可能性が高い。 原告Aは,昭和●●年●月●●日に満7歳になるまでの間に,日本国内 において本件予防接種等を受けた。 原告AがB型肝炎ウイルスに持続感染した原因は,垂直感染,輸血及び性行為ではない。また,原告Aの母はB型肝炎ウイルスキャリアではない。 (原告Aの母について,甲B357-13~15)(イ) 慢性肝炎の発症とセロコンバージョン 原告Aは,平成2年10月頃,HBs抗原及びHBe抗原が陽性の状態であることが判明し,遅くとも平成2年12月14日までにHBe抗原陽性の状態で慢性肝炎を発症して,インターフェロン治療を受け,平成8年6月8日にセロコンバージョンした後,同年7月頃,ALTが30以下となった。 (ウ) ALT値の再上昇と核酸アナログ製剤の服用開始原告Aは,その後,経過観察を受けていたところ,HBe抗原陰性の状態で,ALT値が,平成10年2月7日に265となり,その後,ALT値は,平成18年12月4日まで,31から242までの間で推移した。 原告Aは,遅くとも同年4月頃までに,核酸アナログ製剤(ラミブジン) の服用を開始した。 (エ) 小括 ,平成18年12月4日まで,31から242までの間で推移した。 原告Aは,遅くとも同年4月頃までに,核酸アナログ製剤(ラミブジン) の服用を開始した。 (エ) 小括前記(ア)から(ウ)までを含む,原告Aの,医療記録等から明らかになる診療経過は,別紙2(原告A 医療記録等により認められる診療経過等)のとおりであり,医療記録等から明らかになる血液検査等の結果は,別紙3 (原告A 医療記録等により認められる血液検査の結果等)のとおりである。 イ原告B(ア) 出生から乳幼児期まで原告B(昭和●●年●●月●●日生まれ)は,B型肝炎ウイルスキャリ アであるところ,0歳から6歳頃までにB型肝炎ウイルスに感染した可能 性が高い。 原告Bは,昭和●●年●●月●●日に満7歳になるまでの間に,日本国内において本件予防接種等を受けた。 原告BがB型肝炎ウイルスに持続感染した原因は,垂直感染,輸血及び性行為ではない。また,原告Bの母はB型肝炎ウイルスキャリアではない。 (原告Bの母について,甲B840-12~14)(イ) 慢性肝炎の発症とセロコンバージョン原告Bは,平成3年1月頃に,HBs抗原,HBe抗原及びDNAポリメラーゼがいずれも陽性の状態であることが判明し,遅くとも平成5年2月22日までに慢性肝炎を発症して,インターフェロン治療を受けた後, 遅くとも平成6年1月26日までにセロコンバージョンして,平成12年1月頃から,ALT値は,検査施設の基準でおおむね正常値(45以下)となった。 (ウ) ALT値の上昇と核酸アナログ製剤の服用開始原告Bは,その後,経過観察を受けてい 12年1月頃から,ALT値は,検査施設の基準でおおむね正常値(45以下)となった。 (ウ) ALT値の上昇と核酸アナログ製剤の服用開始原告Bは,その後,経過観察を受けていたところ,平成22年5月12 日にALT値が56となり,同年7月頃から,核酸アナログ製剤(エンテカビル)の服用を開始した。 (エ) 小括前記(ア)から(ウ)までを含む,原告Bの,医療記録等から明らかになる診療経過は別紙4(原告B 医療記録等により認められる診療経過等)のと おりであり,医療記録等から明らかになる血液検査等の結果は,別紙5(原告B 医療記録等により認められる血液検査の結果等)のとおりである。 ウ原告C(ア) 出生から乳幼児期まで原告C(昭和●●年●月●●日生まれ)は,B型肝炎ウイルスキャリア であるところ,0歳から6歳頃までにB型肝炎ウイルスに感染した可能性 が高い。 原告Cは,昭和●●年●月●●日に満7歳になるまでの間に,日本国内において本件予防接種等を受けた。 原告CがB型肝炎ウイルスに持続感染した原因は,垂直感染,輸血及び性行為ではない。また,原告Cのきょうだいの一人はB型肝炎ウイルスキ ャリアではない。(原告Cのきょうだいについて,甲B1138-10~13,15,16)(イ) HBs抗原陽性の判明とセロコンバージョン原告Cは,昭和56年8月頃,HBs抗原陽性の状態であることが判明し,遅くとも昭和57年4月1日までにHBe抗原のセロコンバージョン が生じていた。 (ウ) 慢性肝炎の発症原告Cは,その後,経過観察を受けていたところ,遅くとも,平成5年 とも昭和57年4月1日までにHBe抗原のセロコンバージョン が生じていた。 (ウ) 慢性肝炎の発症原告Cは,その後,経過観察を受けていたところ,遅くとも,平成5年8月6日までに,HBe抗原陰性の状態で,慢性肝炎を発症した。また,その後,平成10年3月19日から同年9月29日までの間,ALT値が 44から67までの間で推移し,平成11年6月頃から平成12年3月頃までは,30以下で推移した。 (エ) ALT値の再上昇と核酸アナログ製剤の服用開始原告Cは,その後,経過観察を受けていたところ,平成14年7月12日にALT値が47となり,その後,平成16年7月8日までの間,AL T値は,40から148までの間で推移した。原告Cは,同年8月頃までに,核酸アナログ製剤(ラミブジン)の服用を開始した。 (オ) 小括前記(ア)から(エ)までを含む,原告Cの,医療記録等から明らかになる診療経過は,別紙6(原告C 医療記録等により認められる診療経過等)の とおりであり,医療記録等から明らかになる血液検査等の結果は,別紙7 (原告C 医療記録等により認められる血液検査の結果等)のとおりである(ただし,別紙6の「受診及び医療記録提出の状況」欄に「昭和57年1月5日~平成4年8月12日の血液検査結果なし」とある点は誤りであり,別紙7には,平成17年12月10日から同月22日まで入院した事実が記載されていない。)。 エ原告D(ア) 出生から乳幼児期まで原告D(昭和●●年●月●●日生まれ)は,B型肝炎ウイルスキャリアであるところ,0歳から6歳頃までにB型肝炎ウイルスに感染した可能性が高い。 原告D 乳幼児期まで原告D(昭和●●年●月●●日生まれ)は,B型肝炎ウイルスキャリアであるところ,0歳から6歳頃までにB型肝炎ウイルスに感染した可能性が高い。 原告Dは,昭和●●年●月●●日に満7歳になるまでの間に,日本国内において本件予防接種等を受けた。 原告DがB型肝炎ウイルスに持続感染した原因は,垂直感染,輸血及び性行為ではない。また,原告Dの母はB型肝炎ウイルスキャリアではない。 (原告Dの母について,甲B1201-11~13) (イ) 慢性肝炎の発症原告Dは,平成元年2月6日までに「慢性活動性肝炎」と診断されてインターフェロン治療を受けた後,平成4年10月頃,肝生検に基づいて慢性肝炎と診断された。同時点で,HBe抗原は陽性の状態であった。 原告Dは,その後,インターフェロン治療や経過観察を受け,平成4年 11月頃から平成17年4月頃までの間,HBe抗原は陽性又は判断保留若しくは「±」と判定され,ALT値は,13から19までの間で上昇と下降を繰り返していたところ,平成17年9月頃に初めてHBe抗原陰性の状態となり,平成19年8月10日からから平成20年5月2日までの間,ALT値は34以下で推移した。 (ウ) 核酸アナログ製剤の服用開始 その後,ALT値は,平成22年3月13日から平成23年1月22日までの間,31から63までの間で推移し,同年2月19日から平成25年8月13日までの間,30未満で推移した。他方,HBV-DNA量は,平成22年3月13日から平成25年8月13日までの間,2.4から6. 4までの間で推移した。原告Dは,平成25年8月頃,核酸アナログ製剤 (エンテカビル)の服用を開始 他方,HBV-DNA量は,平成22年3月13日から平成25年8月13日までの間,2.4から6. 4までの間で推移した。原告Dは,平成25年8月頃,核酸アナログ製剤 (エンテカビル)の服用を開始した。 (エ) 小括前記(ア)から(ウ)までを含む,原告Dの,医療記録等から明らかになる診療経過は,別紙8(原告D 医療記録等により認められる診療経過等)のとおりであり,医療記録等から明らかになる血液検査等の結果は,別紙9 (原告D 医療記録等により認められる血液検査の結果等)のとおりである。 オ原告E(ア) 出生から乳幼児期まで原告E(昭和●●年●月●●日生まれ)は,B型肝炎ウイルスキャリア であるところ,0歳から6歳頃までにB型肝炎ウイルスに感染した可能性が高い。 原告Eは,昭和●●年●月●●日に満7歳になるまでの間に,日本国内において本件予防接種等を受けた。 原告EがB型肝炎ウイルスに持続感染した原因は,垂直感染,輸血及び 性行為ではない。また,原告Eの母はB型肝炎ウイルスキャリアではない。 (原告Eの母について,甲B1450-8,9)(イ) 慢性肝炎の発症原告Eは,平成5年以前に,B型肝炎ウイルスキャリアであることが判明していたところ,平成5年3月15日に,HBe抗原陽性の状態で,「B 型肝炎」と診断され,同年4月3日から同年9月22日までALT値が3 3から86までの間で推移し,平成6年7月25日,肝生検に基づいて,「慢性活動性肝炎」と診断された。平成9年8月頃,ALT値が30以下となった。 (ウ) ALT値の再上昇と核酸アナログ製剤の服用開始原告Eは,その後,経過 肝生検に基づいて,「慢性活動性肝炎」と診断された。平成9年8月頃,ALT値が30以下となった。 (ウ) ALT値の再上昇と核酸アナログ製剤の服用開始原告Eは,その後,経過観察を受けていたところ,平成18年3月2日 に,ALT値が上昇して209となり,同年4月6日時点で,HBe抗原陰性の状態であった。 その後,ALT値は,平成20年2月7日に100,同年4月17日に58となり,原告Eは,同年7月頃,核酸アナログ製剤(エンテカビル)の服用を開始した(甲B1450-20)。 (エ) 小括前記(ア)から(ウ)までを含む,原告Eの,医療記録等から明らかになる診療経過は,別紙10(原告E 医療記録等により認められる診療経過等)のとおりであり,医療記録等から明らかになる血液検査等の結果は,別紙11(原告E 医療記録等により認められる血液検査の結果等)のとおり である。 (3) 被告の過失責任ア予防接種等において注射器が,被接種者ごとに取り換えられることなく,連続して使用(連続使用)された場合,先行する被接種者にB型肝炎ウイルス感染者がいると,後行の被接種者は,ほぼ確実に,B型肝炎ウイルスに感 染するといえるところ,被告は,遅くとも昭和26年には,本件予防接種等の際,注射器を連続使用すれば,B型肝炎ウイルスに感染した被接種者の後行の被接種者がB型肝炎ウイルスに感染するおそれがあることを予見できた。 したがって,被告は,原告らに本件予防接種等を実施するに当たっては, 各実施機関に対し,注射器について,被接種者1人ごとに,交換又は徹底し た消毒の励行等を指導して,B型肝炎ウイルスへの感染を未然に防止すべき義務があった。それ 施するに当たっては, 各実施機関に対し,注射器について,被接種者1人ごとに,交換又は徹底し た消毒の励行等を指導して,B型肝炎ウイルスへの感染を未然に防止すべき義務があった。それにもかかわらず,被告は,原告らが本件予防接種等を受けた可能性のある昭和26年から昭和44年までの間,各実施機関に対して,注射器の交換又は徹底した消毒の励行等を指導せず,注射器の連続使用の実態を放置して,上記義務を怠った(本件予防接種等は,被告による伝染病予 防行政上の公権力の行使に当たる。)。 イ被告は,本件予防接種等と原告らのB型肝炎ウイルス持続感染との間の因果関係を否認し,損害賠償責任を争っている。 (4) 基本合意の締結等(基本合意の締結につき,甲A63,64)ア当時,被告に対して,各地で111件の訴訟を提起していた全国B型肝炎 訴訟原告団・弁護団は,平成23年6月28日,被告との間で,B型肝炎訴訟に関する和解の手続及び内容等について,合意を取り交わした(以下「基本合意」という。)。被告は,基本合意において,上記111件の訴訟における原告らに対して,次の(ア)から(キ)までのとおりの,病態(病状)等の区分に応じた,定額の和解金と,弁護士費用相当額(平成23年1月11日より も後に提訴された場合には,次の各和解金に対する4%の割合による金員。)を支払うこととされた。 (ア) 死亡,肝がん又は肝硬変(重度) 3600万円(イ) 肝硬変(軽度) 2500万円(ウ) 慢性肝炎(後記(エ)及び(オ)に該当する者を除く。) 1250万円 (エ) 慢性肝炎(発症後提訴までに20年を経過したと認められる者のうち,現に治療を受けている者等) 300万円(オ) エ)及び(オ)に該当する者を除く。) 1250万円 (エ) 慢性肝炎(発症後提訴までに20年を経過したと認められる者のうち,現に治療を受けている者等) 300万円(オ) 慢性肝炎(発症後提訴までに20年を経過したと認められる者のうち,上記(エ)に該当しない者) 150万円(カ) 無症候性キャリア(後記(キ)に該当する者を除く。) 600万円 (キ) 無症候性キャリア(一次感染者又は出生後提訴までに20年を経過し た二次感染者) 50万円イ前記アの原告団・弁護団及び被告は,平成27年3月28日,基本合意に定めのなかった,死亡又は発症から20年を経過した死亡・肝がん・肝硬変の患者及び家族に対する和解金の支払等について,多中心性発生による肝がん(過去に発症した肝がんの根治後における,非がん部〔治療後の残存肝〕 から発生した新しい肝細胞がん)を再発した場合は,当該多中心性発生による肝がんを再発した時期を肝がんの発症の時期とみなすなどの合意を取り交わした(以下「基本合意(その2)」という。)。 ウ基本合意を受けて,特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法(以下「特措法」という。)が制定(平成24年1月13日)さ れ,また,基本合意(その2)を受けて,特措法の一部を改正する法律が制定(平成28年8月1日)された。 (5) 本件訴訟提起及び和解協議の不調(顕著事実)ア原告Aは,平成24年2月29日,原告Bは,平成25年6月27日,原告Cは,平成26年11月5日,原告Dは,平成27年3月2日,原告Eは, 平成28年3月2日,それぞれ本件訴訟を提起した。 イ被告は,仮に,原告らが慢性肝炎の発症について損害賠償請求 告Cは,平成26年11月5日,原告Dは,平成27年3月2日,原告Eは, 平成28年3月2日,それぞれ本件訴訟を提起した。 イ被告は,仮に,原告らが慢性肝炎の発症について損害賠償請求権を有していたとしても,同各請求権は除斥期間の経過により消滅していると主張する一方で,原告らについては,特措法6条1項7号の「慢性B型肝炎にり患した者のうち,当該慢性B型肝炎を発症した時から20年を経過した後にされ た訴えの提起等に係る者」に該当するとして,同法に基づき,原告らに対し,312万円(300万円及びこれに対する4%の弁護士費用相当額〔特措法7条2項〕)を支払う旨の和解を提案した。 ウこれに対し,原告らは,原告らの損害賠償請求権はいずれも除斥期間を経過していない旨主張し,和解協議は不調に終わった。 2 争点及び争点に関する当事者の主張 本件の争点は,(1) B型肝炎ウイルス持続感染と本件予防接種等との間の因果関係の有無(争点1),(2) 慢性肝炎の病状等に関する医学的知見(慢性肝炎の6年以上にわたる長期持続〔本件基礎事情②〕又は慢性肝炎の再発〔本件基礎事情③〕は,最初に発症した慢性肝炎〔本件基礎事情①〕とは別の病状か。)及び原告らの具体的な病状はどのようなものか(争点2),(3) 除斥期間の起算点は, 慢性肝炎の発症(本件基礎事情①)時か,慢性肝炎の長期持続(本件基礎事情②)終了時,又は慢性肝炎の再発(本件基礎事情③)の時か(慢性肝炎の発症〔本件基礎事情①〕に係る損害と慢性肝炎の長期持続〔本件基礎事情②〕又は慢性肝炎の再発〔本件基礎事情③〕に係る各損害とは,質的に異なる損害といえるか。)(争点3),(4) 原告らが主張する損害はどの程度か(争点4)である。 (1) 争点1 基礎事情②〕又は慢性肝炎の再発〔本件基礎事情③〕に係る各損害とは,質的に異なる損害といえるか。)(争点3),(4) 原告らが主張する損害はどの程度か(争点4)である。 (1) 争点1(B型肝炎ウイルス持続感染と本件予防接種等との間の因果関係の有無)(原告らの主張)次のアからウまでに照らせば,原告らは本件予防接種等によってB型肝炎ウイルスに持続感染した蓋然性が高く,原告らのB型肝炎ウイルス持続感染と本 件予防接種等との間には,因果関係が認められる。 ア B型肝炎ウイルスは,極めて強い感染力を有するが,血液を媒介としてしか感染せず,考えられる感染経路は,①出産(垂直感染),②輸血,③性行為,④滅菌不十分な医療器具の連続使用による予防接種等である。 イ原告らはいずれも,0歳から6歳頃までにB型肝炎ウイルスに持続感染し ており,その原因は,垂直感染,輸血又は性行為ではない。 ウ原告らはいずれも,満7歳になるまでの間に本件予防接種等を受けているところ,本件予防接種等では,いずれも,注射器が連続して使用されていた。 本件予防接種等において,B型肝炎ウイルス感染者に対して使用した注射器をその後の被接種者にも連続して使用した場合,後の被接種者は,ほぼ確実 に,B型肝炎ウイルスに感染する。 エ前記イのとおり,原告らに,前記アの①~③を原因とする感染の可能性はなく,原告らの個別事情に照らしても,原告らのB型肝炎ウイルス持続感染の原因は,前記④以外に考えられない。 以上からすれば,原告らのB型肝炎ウイルス持続感染と本件予防接種等との間には,因果関係が認められる。 (被告の主張)原告らのB型肝炎ウイルス感染の原因が本件予防接種等 以上からすれば,原告らのB型肝炎ウイルス持続感染と本件予防接種等との間には,因果関係が認められる。 (被告の主張)原告らのB型肝炎ウイルス感染の原因が本件予防接種等にあることは,否認ないし争う。 ア B型肝炎ウイルスが極めて強い感染力を有することと,原告らが主張する感染経路があることは認めるが,感染者の血液中のB型肝炎ウイルス量が多 い場合,感染者の体液(唾液,汗,涙,尿,精液等)を介してB型肝炎ウイルスに感染することもあるから,B型肝炎ウイルスに感染した父親等からの家庭内感染も,感染経路としては十分考えられる。 イしかるに,原告らの感染原因が家庭内感染でないことは何ら立証されておらず,原告らが本件予防接種等によってB型肝炎ウイルスに持続感染した蓋 然性が高いとはいえないから,原告らのB型肝炎ウイルス持続感染と本件予防接種等との間に,因果関係は認められない。 (2) 争点2(慢性肝炎の病状等に関する医学的知見及び原告らの具体的な病状)(原告らの主張)ア医学的知見に照らせば,慢性肝炎の長期持続又は再発は,最初に発症した 慢性肝炎とは別の病状であること次の(ア)及び(イ)の医学的知見からすれば,原告らの主張する損害の基礎となる事情(本件各基礎事情)のうち,最初に慢性肝炎を発症したこと(本件基礎事情①)と,当該慢性肝炎が6年以上にわたり長期持続したこと(本件基礎事情②)又はHBe抗原陰性の状態で慢性肝炎を再発したこと(本件基 礎事情③)とは,医学的にみて,別の病状である。 (ア) 慢性肝炎の長期持続又は再発は,例外的な症例であることB型肝炎ウイルスキャリアの大多数(80~90%)は,自然経過で, は,医学的にみて,別の病状である。 (ア) 慢性肝炎の長期持続又は再発は,例外的な症例であることB型肝炎ウイルスキャリアの大多数(80~90%)は,自然経過で,10歳代後半から20歳代頃に免疫寛容期から免疫応答期に移行して慢性肝炎を発症した後,年率7~16%(平均11.5%)程度の割合で自然経過のうちにセロコンバージョンが生じて慢性肝炎が鎮静化し,非活動 性キャリアとなり,良好な予後を送る。 これに対し,B型肝炎ウイルスキャリアの一部は,セロコンバージョンが生じないまま慢性肝炎が長期持続し,又は,非活動性キャリアとなった後にHBe抗原陰性の状態で慢性肝炎が再発するところ,これらの症例は,予後が悪いとされる。そして,セロコンバージョンの上記平均年率(11. 5%)からすれば,慢性肝炎を発症した者のうち,慢性肝炎が6年以上にわたり長期持続する者は50%にも満たないことに照らせば,少なくとも慢性肝炎が6年以上にわたり長期持続する症例は,例外的ということができる。また,慢性肝炎の再発についても,セロコンバージョン後に鎮静化した症例の10~20%であることに照らせば,例外的ということができ る。 したがって,慢性肝炎の6年以上にわたる長期持続(本件基礎事情②)又は慢性肝炎の再発(本件基礎事情③)は,例外的な,予後の悪い症例であって,最初に発症した慢性肝炎(本件基礎事情①)とは,医学的にみて,別の病状である。 (イ) 慢性肝炎の再発(本件基礎事情③)について次のaからdまでのとおり,HBe抗原陰性慢性肝炎は,ⓐHBe抗原非産生変異株により惹起される,ⓑ肝硬変や肝がんに進展するリスクが高い,Ⓒセロコンバージョンの有無は重要な指標とされてい 次のaからdまでのとおり,HBe抗原陰性慢性肝炎は,ⓐHBe抗原非産生変異株により惹起される,ⓑ肝硬変や肝がんに進展するリスクが高い,Ⓒセロコンバージョンの有無は重要な指標とされている,ⓓ治療対象が異なるといった点から,HBe抗原陽性慢性肝炎とは区別された,独立 の病期として認識されている。したがって,最初に発症したHBe抗原陽 性慢性肝炎(本件基礎事情①)と,セロコンバージョンにより慢性肝炎が鎮静化した後に再発したHBe抗原陰性慢性肝炎(本件基礎事情③)とは,医学的にみて,別の病状である。 aHBe抗原陽性慢性肝炎とHBe抗原陰性慢性肝炎は,原因となるウイルスが異なること HBe抗原陰性慢性肝炎は,HBe抗原の産生が停止又は低減しているにもかかわらず,ウイルス増殖が続いている症例であるから,HBe抗原の産生にかかわる領域に遺伝子変異を生じたウイルス(HBe抗原非産生変異株)により惹起されるということができる。 したがって,HBe抗原陰性慢性肝炎は,野生株により惹起されるH Be抗原陽性慢性肝炎とは,ウイルスの性質が異なっている。 bHBe抗原陰性慢性肝炎は肝硬変や肝がんに進展するリスクが高いことHBe抗原陰性慢性肝炎は,HBe抗原非産生変異株により惹起されるため,HBe抗原陽性慢性肝炎と比較して,肝硬変や肝がんへ進展す るリスクが高い。 また,仮にそのようにいえないとしても,HBe抗原陰性慢性肝炎は,HBe抗原陽性慢性肝炎と比較して,高齢で線維化も進展した例が多いため,「より進んだ病期」(本件ガイドライン68頁)と認識すべきであることは,確立した医学的知見である。 したがっ e抗原陽性慢性肝炎と比較して,高齢で線維化も進展した例が多いため,「より進んだ病期」(本件ガイドライン68頁)と認識すべきであることは,確立した医学的知見である。 したがって,HBe抗原陰性慢性肝炎は,少なくとも,鎮静化して良好な予後を送るHBe抗原陽性慢性肝炎の一般的な症例とは,肝硬変や肝がんに進展するリスクが異なる。 この点について,被告は,HBe抗原陰性慢性肝炎の予後が,HBe抗原陽性慢性肝炎と比較して不良とはいえない旨主張し,F教授(広島 大学大学院医歯薬保健学研究院統合健康科学部門疫学・疾病制御学)の 意見書(乙A80。以下「F意見書」という。)を援用するが,同意見書は,比較対象や解析方法を誤っており,被告の上記主張の根拠とはならない。 c セロコンバージョンの有無に重要な意義があること慢性肝炎を発症した後,セロコンバージョン(HBe抗原の陰性化及 びHBe抗体の陽性化)が生じると,多くの症例において慢性肝炎は鎮静化する。現に,HBe抗原陽性慢性肝炎の治療では,まずセロコンバージョンを目指すこととされているのであるから,セロコンバージョンの有無は,慢性肝炎の経過において重要な意義を持つ。 したがって,セロコンバージョンの有無(HBe抗原が陽性か陰性か) は,病状を区分する指標といえる。 被告は,非活動性キャリアの大多数の症例で,肝臓には線維化と同時に炎症が存在している旨主張するが,このような主張は本件ガイドラインの記載に反するし,根拠もない。 dHBe抗原陽性慢性肝炎とHBe抗原陰性慢性肝炎とでは,治療対象 が異なっていることHBe抗原陽性慢性肝炎の場合は,自然経過 ンの記載に反するし,根拠もない。 dHBe抗原陽性慢性肝炎とHBe抗原陰性慢性肝炎とでは,治療対象 が異なっていることHBe抗原陽性慢性肝炎の場合は,自然経過でのセロコンバージョンを期待して,ALT値が上昇していても,治療対象とならない場合がある。これに対して,HBe抗原陰性慢性肝炎の場合は,ALT値が上昇すれば,当然に治療対象となる上,ALT値が持続して正常値を示して も,ウイルス量(HBV-DNA量)が多いときは,治療対象とされている。 したがって,HBe抗原陽性慢性肝炎と,HBe抗原陰性慢性肝炎とでは,治療対象が異なっている。 イ原告らの具体的な病状 前提事実のほか,原告の具体的な事情は次の(ア)から(オ)までのとおりであ る。 (ア) 原告Aは,遅くとも平成2年12月14日頃までに,HBe抗原陽性慢性肝炎を発症した後,慢性肝炎が鎮静化していたが,平成10年2月7日,HBe抗原陰性の状態で,慢性肝炎が再発した。 (イ) 原告Bは,遅くとも平成3年6月11日頃までに,HBe抗原陽性慢 性肝炎を発症した後,慢性肝炎が鎮静化していたが,平成22年5月12日,HBe抗原陰性の状態で,慢性肝炎が再発した。 (ウ) 原告Cは,遅くとも平成4年8月13日頃までに,HBe抗原陽性慢性肝炎を発症した後,慢性肝炎が鎮静化し,平成10年3月19日,HBe抗原陰性の状態で慢性肝炎が再発した後,再び鎮静化していたが,平成 14年7月12日,再度,HBe抗原陰性の状態で,慢性肝炎が再発した。 (エ) 原告Dは,平成4年10月頃,HBe抗原陽性慢性肝炎を発症した後,慢性肝炎が鎮静化していたが,平成22年3月13日,H 7月12日,再度,HBe抗原陰性の状態で,慢性肝炎が再発した。 (エ) 原告Dは,平成4年10月頃,HBe抗原陽性慢性肝炎を発症した後,慢性肝炎が鎮静化していたが,平成22年3月13日,HBe抗原陰性の状態で慢性肝炎が再発し,又は,平成4年に発症した上記慢性肝炎が,6年以上長期持続した。 (オ) 原告Eは,遅くとも平成6年7月25日頃までに,HBe抗原陽性慢性肝炎を発症した後,慢性肝炎が鎮静化していたが,平成18年3月2日,HBe抗原陰性の状態で,慢性肝炎が再発した。 (被告の主張)ア医学的知見に照らせば,慢性肝炎の長期持続又は再発は,最初に発症した 慢性肝炎の経過の一部にすぎないこと次の(ア)及び(イ)からすれば,医学的にみて,原告らの主張する損害の基礎となる事情(本件各基礎事情)において,慢性肝炎の長期持続(本件基礎事情②)又は慢性肝炎の再発(本件基礎事情③)と,最初に発症した慢性肝炎(本件基礎事情①)とが,別の病状であるということはできない。 (ア) 多様な経過を辿る慢性肝炎において,慢性肝炎の長期持続又は再発を 殊更に例外視できないことB型肝炎ウイルスに持続感染した場合,ウイルスが体内から排除されることはまれであり,慢性肝炎を発症した後は,非活動性キャリアとなった場合でも,体内に残存するウイルスに対して,軽度ながら炎症は持続する。 そして,非活動性キャリアと診断された症例の10~20%はその後慢性 肝炎が再発するところ,慢性肝炎が再発する症例と,そうでない症例との鑑別は困難なため,非活動性キャリアと診断されたとしても,6~12か月ごとの経過観察は必要とされている。 また,慢性肝炎を発症すると,肝細胞の壊死・ が再発する症例と,そうでない症例との鑑別は困難なため,非活動性キャリアと診断されたとしても,6~12か月ごとの経過観察は必要とされている。 また,慢性肝炎を発症すると,肝細胞の壊死・炎症が持続する結果として線維化が生じるが,これと並行して,肝細胞の再生や線維の吸収による 再生も進行するため,肝細胞の線維化は,必ずしも不可逆的に進行するものではない(現在では,治療水準の進歩,改善により,核酸アナログ製剤を用いたウイルス増殖の抑制が可能となっているため,線維化の改善は更に容易になっている。)。すなわち,慢性肝炎とは,一度発症すると,B型肝炎ウイルスが体外に排出されるまで,免疫応答とウイルス増殖力により 規定される一定の幅の中で,肝機能障害の軽快と増悪とが繰り返されて,多種多様な経過を辿る,長期持続性・可逆性の疾患であり,慢性肝炎の長期持続も,慢性肝炎の再発も,当初発症した慢性肝炎の,上記幅の中で生じる経過の一部にすぎない。 そうすると,セロコンバージョンが生じずに,又はセロコンバージョン 後も慢性肝炎が長期持続する症例や,非活動性キャリアとなった後に慢性肝炎が再発した症例だけを殊更に例外視して別の病状として扱うことに合理性はない。 加えて,自然経過でセロコンバージョンが起こる症例の割合は,1年に5%程度であって,慢性肝炎発症後にセロコンバージョンが起こる症例の 割合は,発症から14年で初めて50%を超えるといえるから,この点で も,慢性肝炎が6年以上にわたる長期持続について,例外的な症例であるとはいえない。 したがって,慢性肝炎の6年以上にわたる長期持続(本件基礎事情②)又は慢性肝炎の再発(本件基礎事情③)が,医学的にみて,当初発症した慢性肝炎(本 て,例外的な症例であるとはいえない。 したがって,慢性肝炎の6年以上にわたる長期持続(本件基礎事情②)又は慢性肝炎の再発(本件基礎事情③)が,医学的にみて,当初発症した慢性肝炎(本件基礎事情①)と別の病状であるということはできない。 (イ) 慢性肝炎の再発(本件基礎事情③)について原告は,HBe抗原陰性慢性肝炎が独立した病期として扱われていることを重視して,当初発症したHBe抗原陽性の状態での慢性肝炎と,HBe抗原陰性の状態での慢性肝炎の再発とは,別の病状である旨主張する。 しかし,B型肝炎ウイルスキャリアに関する「病期」は,ウイルスの増殖 と免疫応答(ALT値の上昇)の経過を示すものであって,肝細胞の壊死・炎症や線維化の程度を示すものではないし,次のaからdまでのとおり,HBe抗原陽性慢性肝炎とHBe抗原陰性慢性肝炎との間に本質的な相違は認められない。これらは,慢性肝炎が持続する中で,その時々における血液中のHBe抗原の状態が陽性か陰性かに応じて呼び分けられたも のにすぎず,HBe抗原陰性慢性肝炎がHBe抗原陽性慢性肝炎よりも重い症状であると医学的に認識されているわけではない。 したがって,最初に発症したHBe抗原陽性慢性肝炎(本件基礎事情①)と,HBe抗原陰性の状態での慢性肝炎の再発(本件基礎事情③)とが,医学的にみて,別の病状であるとはいえない。 aHBe抗原陽性慢性肝炎とHBe抗原陰性慢性肝炎とで,肝炎の本態に変わりはないこと原告は,HBe抗原陰性慢性肝炎がHBe抗原非産生変異株により惹起される旨主張するが,必ずしもそうといえるかは明らかでない上,肝炎を惹起するのが野生株であろうと変異株であろうと,ウイルスに対す は,HBe抗原陰性慢性肝炎がHBe抗原非産生変異株により惹起される旨主張するが,必ずしもそうといえるかは明らかでない上,肝炎を惹起するのが野生株であろうと変異株であろうと,ウイルスに対す る免疫応答による肝細胞の壊死・炎症及び線維化という肝炎の本態に, 変わりはない。 したがって,HBe抗原非産生変異株の存在は,HBe抗原陽性慢性肝炎とHBe抗原陰性慢性肝炎とを別の病状として扱う根拠とならない。 bHBe抗原陰性慢性肝炎が,HBe抗原陽性慢性肝炎と比較して,肝 硬変や肝がんに進展するリスクが高いとはいえないこと慢性肝炎の症状の重篤さは,ウイルス要因(ウイルスの量,活動性の強さ),宿主要因(主に免疫応答の強さ)及び環境因子に影響を受ける。 HBe抗原は,B型肝炎ウイルスが増殖する過程で産生される蛋白の一つであるところ,慢性肝炎の症状の重篤さに影響を与える因子とは考え られていない。 そして,F意見書(乙A80・15頁)にもあるように,HBe抗原陰性慢性肝炎群の患者は,HBe抗原陽性慢性肝炎の時期を経験したという持ち越し効果を有しているにもかかわらず,HBe抗原陽性慢性肝炎群の患者と比較して,予後が不良であるとはいえない。 本件ガイドラインの,「HBe抗原陽性の慢性肝炎と比較し高齢で線維化進展例が多いため,より進んだ病期であると認識すべきである」という記載は,HBe抗原陰性慢性肝炎が認められるのが,主に35歳をすぎてもHBV-DNA量が十分低下せずに慢性肝炎が持続する症例,すなわち線維化の進行がうかがえる上に,肝硬変や肝がんに進展するリ スクが高くなる年齢(40歳以上)で慢性肝炎を再発する症例であることに基づいて,一般的な 分低下せずに慢性肝炎が持続する症例,すなわち線維化の進行がうかがえる上に,肝硬変や肝がんに進展するリ スクが高くなる年齢(40歳以上)で慢性肝炎を再発する症例であることに基づいて,一般的な傾向を述べたものにすぎない。 そもそも,多様な経過を辿り,かつ可逆性もある慢性肝炎について,HBe抗原陽性慢性肝炎の症状とHBe抗原陰性慢性肝炎の症状とを一般化して単純に比較することは困難であるから,HBe抗原陽性慢性 肝炎の患者と,HBe抗原陰性慢性肝炎の患者とを比較した場合に,必 ず後者の方が線維化が進行しているとはいえない。 したがって,HBe抗原陰性慢性肝炎が,HBe抗原陽性慢性肝炎と比較して,肝硬変や肝がんに進展するリスクが高いとはいえない。 c セロコンバージョンの有無に重要な意義があるとはいえないこと従前は,セロコンバージョンすれば慢性肝炎が鎮静化すると考えられ ていたため,セロコンバージョンの有無は,慢性肝炎の経過において重要な意義をもつとされていた。 しかし,平成元年頃から,セロコンバージョンによっても慢性肝炎が鎮静化しない症例が認識されるようになり,現在は,慢性肝炎の経過において重要なのはウイルス量そのものであるとされ,セロコンバージョ ンの有無は,ウイルス量の低下をうかがわせる指標の一つとされているにすぎない。また,セロコンバージョンが生じて非活動性キャリアとされた症例であっても,体内では残存するウイルスに対する炎症が持続している。 したがって,セロコンバージョンの有無によって,慢性肝炎の一部を 別の病状として扱うことに合理性はない。 d 治療の場面でHBe抗原陽性慢性肝炎とHBe抗原陰性慢性 したがって,セロコンバージョンの有無によって,慢性肝炎の一部を 別の病状として扱うことに合理性はない。 d 治療の場面でHBe抗原陽性慢性肝炎とHBe抗原陰性慢性肝炎とは区別されていないこと慢性肝炎の診断において,HBe抗原の陽性・慢性の別は用いられていないし,本件ガイドラインでも,ALT値31以上,かつHBV-D NA量3.3以上という条件を満たす症例は,HBe抗原の陽性・陰性や年齢にかかわらず,治療対象とされている。 したがって,HBe抗原陽性慢性肝炎とHBe抗原陰性慢性肝炎とは,治療に際して別の病状として取り扱われておらず,別の病状として扱うことに合理性はない。 イ原告らの具体的病状 (ア) 原告Aについて原告Aは,遅くとも平成2年12月14日時点で,慢性肝炎を発症していた。その後の病状については,慢性肝炎の予期できる症状のとおりである。 また,原告Aについて,平成2年9月2日から平成8年6月8日までの 間,HBe抗原陽性とHBe抗原陰性の状態を行き来していたと窺われ,HBe抗原陽性慢性肝炎の状態を継続していたとはいえない。 (イ) 原告Bについて原告Bは,遅くとも平成5年2月22日時点で,慢性肝炎を発症していた。その後の病状については,慢性肝炎の予期できる症状のとおりである。 また,原告Bについて,平成6年1月26日にセロコンバージョンが生じたといえる。しかし,セロコンバージョンしたからといって鎮静化したとはいえない。 (ウ) 原告Cについて原告Cは,遅くとも平成5年8月6日時点で,慢性肝炎を発症していた。 その後の病状については,慢性肝炎の予期できる症状のとおりである。 また,原告Cについ えない。 (ウ) 原告Cについて原告Cは,遅くとも平成5年8月6日時点で,慢性肝炎を発症していた。 その後の病状については,慢性肝炎の予期できる症状のとおりである。 また,原告Cについて,慢性肝炎が鎮静化したとはいえないし,治癒したといえないことは明らかであるから,再発ともいえない。 (エ) 原告Dについて原告Dは,おそくとも,平成元年2月6日までに,慢性活動性肝炎の診 断を受けた上で,インターフェロンの治療を受けていることから,遅くとも同日時点で,慢性肝炎を発症していた。その後の病状については,慢性肝炎の予期できる症状のとおりである。 (オ) 原告Eについて原告Eは,遅くとも平成5年9月22日時点で,慢性肝炎を発症してい た。その後の病状については,慢性肝炎の予期できる症状のとおりである。 また,原告Eについて,セロコンバージョンが確認できるのは,平成20年4月17日,平成26年9月11日であり,原告Eが主張するその余の時点(平成9年7月5日)では,セロコンバージョンしていたとはいえない。また,肝炎が沈静化したともいえない。 (3) 争点3(除斥期間の起算点) (被告の主張)不法行為により発生する損害の性質上,加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には,当該損害の全部又は一部が発生した時が除斥期間の起算点となる(最高裁平成16年4月27日第三小法廷判決・民集58巻4号1032頁)。 次のア及びイのとおり,原告らは,いずれも,本件訴訟を提起した時(前提事実(5)ア)より20年以上前の時点(原告Aは平成2年12月14日,原告Bは平成5年2月22日,原告Cは平成5年8月6日,原告Dは平成元年2月6日,原告Eは平成5年9月 本件訴訟を提起した時(前提事実(5)ア)より20年以上前の時点(原告Aは平成2年12月14日,原告Bは平成5年2月22日,原告Cは平成5年8月6日,原告Dは平成元年2月6日,原告Eは平成5年9月22日)に慢性肝炎を発症しており(本件基礎事情①),この慢性肝炎を発症した時点で,実体法上は,慢性肝炎の6年以上にわた る長期持続(本件基礎事情②)又は慢性肝炎の再発(本件基礎事情③)に係る各損害も発生しているから,当該損害に係る原告らの請求については,いずれも,除斥期間が経過している。 ア除斥期間の起算点の考え方(ア) 最高裁昭和42年7月18日第三小法廷判決・民集21巻6号155 9頁及び最高裁平成6年2月22日第三小法廷判決・民集48巻2号441頁(以下「平成6年判決」という。)を踏まえれば,身体に蓄積する物質が原因で人の健康が害される(蓄積進行性),又は一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる(遅発性)疾病において,最初に発生した損害がその後進行・拡大した場合,当該進行・拡大に係る損害は,加害行為後に発 生した最初の損害と牽連一体を成す損害であるから,最初の損害が発生し た時に,その後の進行・拡大という将来の損害まで含む全損害につき一個の損害賠償請求権が成立し,除斥期間が進行するのが原則である。このような事案で例外的に新たな除斥期間の起算点を観念し得るのは,当該進行・拡大に係る損害が,最初の損害とは質的に異なる損害として,これが生じた時点で,最初に発生した損害とは別個の,新たな損害賠償請求権が 成立したと評価できる場合に限定される。 (イ) 原告らは,損害がその後進行・拡大した場合であっても,当該進行・拡大に係る損害が生じるかどうかを,最初の損害発生時に確定することができ 成立したと評価できる場合に限定される。 (イ) 原告らは,損害がその後進行・拡大した場合であっても,当該進行・拡大に係る損害が生じるかどうかを,最初の損害発生時に確定することができなければ,当該進行・拡大に係る損害は,最初の損害とは質的に異なる旨主張するが,このような主張は,損害が一度に発生しないすべての場合 に妥当し,いたずらに訴訟物の細分化を図るものであって,失当である。 平成6年判決を踏まえれば,質的に異なる損害に当たるというためには,単に,最初の損害発生時に,これがその後進行・拡大するかを確定することができなかったというだけでは足りず,じん肺の特異性のように,その疾病の性質に鑑み,最初の損害発生時においては,その後に進行・拡大す る損害について,その賠償を請求することが全く不可能であり,最初の損害も含めた単一の損害賠償請求権を実体法上の権利として観念し得ないような事情(最初の損害と後の損害について,①各損害に対応する病状の間に,損害額の算定にも影響するような看過できない差異がある,又は,②前後の損害の基礎をなす病状には,医学的観点から比較して,類型的な 軽重の相違があるなど,病状に基づく損害に対する法的評価が異なってしかるべき事情)が認められる必要がある。 イ慢性肝炎の長期持続又は再発に係る各損害は,最初の慢性肝炎発症に係る損害と,質的に異ならないこと(ア) 前記(2)アのとおり,慢性肝炎の6年以上にわたる長期持続(本件基礎 事情②)又は慢性肝炎の再発(本件基礎事情③)は,肝硬変や肝がんとい った,最初に発症した慢性肝炎(本件基礎事情①)の上位の病状ではなく,その後予想される一連の経過の一部にすぎないところ,これらの間に,じん肺の管理区分に対応 情③)は,肝硬変や肝がんとい った,最初に発症した慢性肝炎(本件基礎事情①)の上位の病状ではなく,その後予想される一連の経過の一部にすぎないところ,これらの間に,じん肺の管理区分に対応する病状の間や,慢性肝炎及び肝硬変,又は肝硬変重度及び軽度の間においてそれぞれみられるような,損害額の算定に影響するような看過できない差異(前記ア(イ)①)や,医学的観点から比較し た類型的な軽重の相違(前記ア(イ)②)は認められない。 (イ) 原告らは,法及び法解釈は,不合理や不可能を強いるものであってはならないところ,将来発生するかどうかを確定することができない損害の賠償請求権に係る除斥期間が,現実に請求できない時点から起算されることは,長年苦しみ続けてきた原告ら被害者に不合理な結果をもたらすもの であるから,許されない旨主張する。 しかし,原告らがここで主張する被害者側の不合理な結果は,除斥期間制度を採用したことによる論理的帰結であって,本件に限らず,いずれの不法行為にも該当するものであるから,立法により解決すべき問題であるといわざるを得ない。 ウ原告の生活状況等原告の慢性肝炎の経過を見ても,病態・病状に基づく損害に対する法的評価が異なってしかるべき差異を見出すことはできない。すなわち,慢性肝炎を発症した後,慢性肝炎が6年以上にわたって持続したことは,持続する慢性肝炎の経過の一部に過ぎず,これを切り取って,その前後の慢性肝炎の病 状を比較した場合でも,同様である。 (原告らの主張)原告らの,慢性肝炎の6年以上にわたる長期持続(本件基礎事情②)又は慢性肝炎の再発(本件基礎事情③)に係る各損害は,いずれも当初慢性肝炎を発症した(本件基礎事情①)時に発生 原告らの主張)原告らの,慢性肝炎の6年以上にわたる長期持続(本件基礎事情②)又は慢性肝炎の再発(本件基礎事情③)に係る各損害は,いずれも当初慢性肝炎を発症した(本件基礎事情①)時に発生したものではない。除斥期間の起算点は, 原告A,原告B,原告C及び原告Eについては,慢性肝炎の再発(本件基礎事 情③)の日(原告Aは平成10年2月7日,原告Bは平成22年5月12日,原告Cは平成14年7月12日,原告Eは平成18年3月2日)であり,原告Dについては,慢性肝炎の再発(本件基礎事情③)の日(平成22年3月13日)か,6年以上にわたり長期持続した慢性肝炎(本件基礎事情②)が鎮静化した日(原告Dは慢性肝炎が鎮静化したとはいえないので,除斥期間の起算点 となるべき日はいまだ到来していないことになる。)である。 したがって,上記各損害に係る原告らの損害賠償請求権は,いずれも除斥期間を経過していない。 ア除斥期間の起算点の考え方(ア) 不法行為制度の趣旨 損害の填補及び公平な分担を目的とする民法の不法行為制度の趣旨及び最高裁の判例に照らせば,発生する確率が低いため,最初の損害発生時点において,その損害が進行・拡大していくかどうかを確定することができず,上記時点で客観的に権利行使の可能性がない場合には,その進行・拡大に係る損害は,将来,損害が進行・拡大した時点において初めて賠償 請求できるようになるというべきである。 (イ) 質的に異なる損害の意義平成6年判決のいう「質的に異なる」とは,法的異質性を意味する。医学的に見れば,当該病状が,当初の損害の進行・拡大にすぎない場合であっても,当初の損害が発生した時点で,その後の進行・拡大を医学的に確 6年判決のいう「質的に異なる」とは,法的異質性を意味する。医学的に見れば,当該病状が,当初の損害の進行・拡大にすぎない場合であっても,当初の損害が発生した時点で,その後の進行・拡大を医学的に確 定することができないために,当初の損害発生時に,あらかじめ将来進行・拡大した場合の賠償を求めることが不可能(将来の進行・拡大に係る損害賠償請求が,当初の損害が発生した時点では認容されないこと)であれば,当該進行・拡大に係る損害は,質的に異なる損害といえる。 最高裁は,当初の損害と後の損害の客観的異質性ではなく,後の損害の 発生の不確実性(法的異質性)に着目し,あらかじめ将来の損害を請求・ 立証することが不可能であるかどうかを判断基準に,時効期間や除斥期間の起算点を繰り下げて,何ら落ち度のない被害者の犠牲によって加害者が救済されるという不当な結果を,できる限り回避してきた。 最高裁は,質的に異なる損害について,被告が主張するような限定的な判断基準は示していないし,そのような判断基準を用いるべき合理的な根 拠もない。じん肺も,医学的には一つの病状が進行・拡大したケースであり,管理区分に対応する病状に差異があるのは,進行性・不可逆というじん肺の特質から結果的に生じたものにすぎない。 基本合意及び特措法においても,肝硬変重度,肝がん,死亡の損害額はいずれも3600万円とされ,各損害の間に差異は認められていないし, また,肝硬変(軽度)及び肝硬変(重度),並びに多中心性発生による肝がんを再発した場合の,その再発に係る肝がん及び最初の肝がんは,いずれも同一の病状であるが,これらは,いずれも質の異なる損害として扱われている。 イ慢性肝炎の長期持続又は再発に係る各損害は,最初に発 した場合の,その再発に係る肝がん及び最初の肝がんは,いずれも同一の病状であるが,これらは,いずれも質の異なる損害として扱われている。 イ慢性肝炎の長期持続又は再発に係る各損害は,最初に発症した慢性肝炎に 係る損害とは質的に異なること(ア) 慢性肝炎の長期持続又は再発と,最初に発症した慢性肝炎との間には,医学的観点から比較して,類型的な軽重の相違が認められること仮に,被告主張のとおり,質的に異なる損害というためには,医学的観点から比較して,類型的な軽重の相違が認められなければならないとして も,前記(2)アのとおり,慢性肝炎の発症(本件基礎事情①)に係る損害と,慢性肝炎の6年以上にわたる長期持続(本件基礎事情②)又は鎮静化後に再発した慢性肝炎(本件基礎事情③)に係る各損害の間には,医学的観点から比較して,類型的な軽重の相違があるから,質的に異なる損害といえる。 (イ) 最初に慢性肝炎を発症した時点で,その後,慢性肝炎が長期持続し,又 は慢性肝炎が鎮静した後に慢性肝炎を再発するかどうかを確定することはできないこと慢性肝炎を最初に発症した(本件基礎事情①)時点では,その後,慢性肝炎の6年以上にわたる長期持続(本件基礎事情②)又は慢性肝炎の再発(本件基礎事情③)が生じるか否かを確定することはできないところ,次 のa及びbのとおり,長期持続又は再発に係る各損害は,最初の慢性肝炎発症時点では請求不可能な損害であるから,これらの各損害が,最初の慢性肝炎発症時点において発生していたとみるのは,慢性肝炎という疾病の特質及び実態に反し非現実的であって,このようにその賠償を求めることが不可能な将来の損害をも包含する単一の損害賠償請求権なるものが,最 初の おいて発生していたとみるのは,慢性肝炎という疾病の特質及び実態に反し非現実的であって,このようにその賠償を求めることが不可能な将来の損害をも包含する単一の損害賠償請求権なるものが,最 初の慢性肝炎の発症時点において既に実体法上の権利として発生したものと考えることはできない。したがって,㋐6年以上にわたり長期持続した慢性肝炎が鎮静化した時点,及び,㋑慢性肝炎が再発した時点で,それぞれ,質的に異なる損害が発生したというべきである。 a 慢性肝炎の長期持続(本件基礎事情②)について 前記(2)ア(ア)のとおり,HBe抗原陽性慢性肝炎を発症した後,セロコンバージョンが生じないまま,6年以上慢性肝炎が長期持続する症例(本件基礎事情②)は,全体の50%を下回るから,最初の慢性肝炎発症時点(本件基礎事情①)で,その後6年以上慢性肝炎が長期持続する蓋然性はなく,慢性肝炎の6年以上の長期持続に係る損害が,将来請求 として認められる余地はない。 そして,慢性肝炎の長期持続に係る損害は,鎮静化した時に初めて確定されるから,慢性肝炎の長期持続に係る損害賠償請求権の除斥期間の起算点は,慢性肝炎の鎮静化時点とすべきである。 b 慢性肝炎の再発(本件基礎事情③)について 前記(2)ア(ア)のとおり,慢性肝炎の鎮静化後に,慢性肝炎が再発する 症例は,例外的な症例である。将来損害の損害賠償請求が認められるためには,同損害の発生する蓋然性が80%以上あると認められなければならないところ,発症する確率が10~20%に留まる慢性肝炎の再発(本件基礎事情③)に係る損害が,慢性肝炎発症時点(本件基礎事情①)で将来請求として認められる余地はない。 (ウ) 慢性 らないところ,発症する確率が10~20%に留まる慢性肝炎の再発(本件基礎事情③)に係る損害が,慢性肝炎発症時点(本件基礎事情①)で将来請求として認められる余地はない。 (ウ) 慢性肝炎の6年以上にわたる長期持続(本件基礎事情②)又は慢性肝炎の再発(本件基礎事情③)に係る各損害が,慢性肝炎の発症(本件基礎事情①)に係る損害と質的に異なる損害と扱われるべきことは,前記各事実に加え,基本合意において,慢性肝炎に係る損害を検討するに当たって想定されていたのが,B型肝炎ウイルスキャリアの80%以上が辿る,H Be抗原陽性慢性肝炎発症後にセロコンバージョンが生じて鎮静化する症例であること,慢性肝炎の鎮静化が,障害等級の認定において,治癒として扱われていること等からも,明らかである。 また,基本合意は,当時,全国B型肝炎訴訟原告団が,一定程度の範囲の被害者ごとに包括一律請求を行っていたことを受けて,多数の被害者の 迅速な被害回復を目的として,特定の病状ごとに損害額を定めたものであるから,基本合意で,慢性肝炎の病状について,さらに持続期間や再発による区別がされていなかったことは,これらが,医学的又は社会的に,最初に発症した慢性肝炎と一体の病状として認識されていたことの根拠とはならないし,これを受けて制定された特措法が,除斥期間の解釈におけ る規範となることもあり得ない。 ウ原告らの生活状況等(ア) 原告A原告Aは,中学卒業後,何百年も持つ立派な家を建てたいという夢を持ち,大工仕事をしながら,妻及び3人の子と暮らしていた。 平成2年頃(●●歳),慢性肝炎を発症して約3か月間入院した。入院中 は,吐き気が酷く,病室とトイレを往復する日々であっ 仕事をしながら,妻及び3人の子と暮らしていた。 平成2年頃(●●歳),慢性肝炎を発症して約3か月間入院した。入院中 は,吐き気が酷く,病室とトイレを往復する日々であった。貯蓄は底をつき,生活費や治療の支払のため,妻が就労せざるを得ず,子供たちを保育園に預けなければならなくなって,原告Aはたまらない思いでいた。 退院後,原告Aは,身体的負担の大きさから大工仕事に復帰することはできず,家族を養うために,苦手な営業の仕事に就くこととなった。 再就職からわずか半年後に,原告Aは再び体に酷いだるさを感じるようになり,営業先の近くの墓地で体を横にして休むようなこともあった。原告Aは,再入院してインターフェロン治療を受けたが,酷いだるさを感じるとともに,鬱のような状態に陥った。 インターフェロン治療後,原告Aの症状は段々とよくなり,医師からも 「ここで抗体ができたので,よくなった」といわれたことから,原告Aは,慢性肝炎を克服して人生をやり直そうと,仕事に復帰して営業成績を伸ばしていき,責任者の立場になることができた。平成9年頃には会社から表彰状を贈られるまでになり,経済的にゆとりのある生活を送ることができるようになった。原告Aは,家族のために最高の家を建てたいという希望 をもつに至った。 ところが,平成10年頃,再びALT値が異常値を示しはじめ,原告Aは再び体に酷いだるさを感じるようになった。営業成績は落ちて収入は大幅に下がり,責任者の立場からも外されることとなった。年下の元部下の下で働かなければならなくなり,プライドも酷く傷つけられた原告Aは, ついには退職を余儀なくされた。 核酸アナログ製剤の服用により,ALT値はおおむね落ち となった。年下の元部下の下で働かなければならなくなり,プライドも酷く傷つけられた原告Aは, ついには退職を余儀なくされた。 核酸アナログ製剤の服用により,ALT値はおおむね落ち着いているものの,原告Aは,生涯服薬をしなければならないことに,精神的な負担を感じるとともに,経済的な負担をも感じている。 原告Aは,このように,日常生活における様々な制約と,病態が進行す る可能性への恐怖心に悩まされるなど,多くのものを犠牲にしてきた。 (イ) 原告B原告Bは,山登りやスキー,●●●●●●などを楽しみながら,●●●●●●として誇りと生きがいを持って働いていた。 平成元年頃,●●歳の時に,B型肝炎ウイルスに感染していることを指摘されて感染が判明し,直ちに入院し,その後も経過観察となった。平成 5年頃には,ALT値が増悪し,再入院してインターフェロン治療を受けた。その際,脱毛,嘔吐,脱力感,鬱状態といった副作用があり,希死念慮が生じて,原告Bは死ぬなら今かと考えられるほど精神的に追い詰められた。 原告Bはインターフェロン治療継続中に退院して職場復帰をしたもの の,●●●の地位は喪失することとなり,収入も減少した。仕事の休み時間には横になっていなければならないほど酷い倦怠感を感じていた。 やがて,インターフェロン治療が奏功し,ALT値が落ち着くようになった。その後も経過観察は続いたが,配送部門の仕事をこなせるようになり,旅行のための長時間の移動も可能となって,●●●●の大世話人も務 められるようになった。 しかし,平成22年頃,●●歳の時,再びALT値が上昇して慢性肝炎を再発し,原告Bは,核酸アナログ製剤の服 間の移動も可能となって,●●●●の大世話人も務 められるようになった。 しかし,平成22年頃,●●歳の時,再びALT値が上昇して慢性肝炎を再発し,原告Bは,核酸アナログ製剤の服用を開始することとなった。 核酸アナログ製剤は,途中でやめることなく一生服用し続けなければならない薬であると認識し,経済的負担が一生続くことから躊躇はしたもの の,肝がんにならないよう,服用することとした。それでも,またALT値が上昇するのではないかという不安は拭えていない。 慢性肝炎の再発後,原告Bの職場で原告BがB型肝炎ウイルスキャリアであることが広まった。「うつる」「近寄るな」など心ない言葉を投げつけられ,また,慰安旅行では近くの席に座る人がいなくなるなど,差別や偏 見に晒されるようになり,70歳まで働こうと考えていた原告Bは,●● 歳で退職するに至った。 原告Bは,このように,日常生活における様々な制約と,病態が進行する可能性への恐怖心に悩まされるなど,多くのものを犠牲にしてきた。 (ウ) 原告C原告Cは,昭和56年頃,●●歳の時,自身がB型肝炎ウイルスに感染 しており,二人の子供がB型肝炎ウイルスに母子感染していたことを知った。原告Cは,明らかに距離を取った医師から「周りに感染させたらいけない」と言われ,今後,親戚付合いすらできなくなるのか,子供たちも友達と遊べなくなるのかと混乱した。 その後,子らと定期検査を受けることになったが,幼い子が注射針を刺 される恐怖心から泣き叫ぶ声を聴くたびに,母子感染させてしまった自分を責めて辛くなり,子供たちの将来の健康や,結婚についても不安を覚えた。 原告Cは平成4年頃からウル 射針を刺 される恐怖心から泣き叫ぶ声を聴くたびに,母子感染させてしまった自分を責めて辛くなり,子供たちの将来の健康や,結婚についても不安を覚えた。 原告Cは平成4年頃からウルソを服用していたものの,ALT値は一進一退を繰り返し,仕事と家事と子供の送迎を行う中で,頭痛や吐き気,体 のだるさを感じるとともに,気分も暗くなった。 平成5年頃,ALT値が落ち着き,身体の調子もよくなった。原告Cは,キャリアアップのためにパソコンや簿記の講座を受けるなど,活発に行動するようになった。平成13年頃には,夫の両親のために,仕事の後,片道1時間をかけて自転車で病院に通うなどして,介護に励むようになった。 平成14年頃,慢性肝炎を再発し,病院へ通うことが大きな負担となったものの,自動車学校に通い直してまで,病院へ通い続けた。夫の両親は,退院後は在宅で介護を受けることを強く希望していたが,慢性肝炎を再発している原告Cに在宅介護は無理であるとの主治医の意見もあり,最終的には施設に入るほかなくなった。このことで,夫と,夫の両親との関係が ぎこちなくなり,原告Cは,夫や,自宅に帰ることを希望する夫の両親に 対して申し訳ない気持ちになった。 一方で,原告Cはウルソを服用し続けており,毎日不自由さを感じていた。特に,職場では,周囲にB型肝炎ウイルスキャリアであることが知られることで,職を失い,あるいは働きづらくなるのではないかとの不安から,隠れて薬を飲まなければならなかった。 原告Cは,平成16年頃から核酸アナログ製剤の服用を開始した。核酸アナログ製剤の服用は,生涯続けなければならないことから,副作用により別の病気にかかるのではないかとの心配が消えず,また, 原告Cは,平成16年頃から核酸アナログ製剤の服用を開始した。核酸アナログ製剤の服用は,生涯続けなければならないことから,副作用により別の病気にかかるのではないかとの心配が消えず,また,薬の携行を欠かさないよう気をつけなければならないため,経済的負担のみならず,思い精神的な負担をも感じている。 原告Cは,このように,日常生活における様々な制約と,病態が進行する可能性への恐怖心に悩まされるなど,多くのものを犠牲にしてきた。 (エ) 原告D原告Dは,大学卒業後,製薬会社の営業部に就職し,地域で一番大きな病院の担当を任されていたほか,結婚して,二人の子供にも恵まれていた。 平成元年頃,●●歳の時,肝障害を起こして入院し,インターフェロン治療を受けたが,期待した効果は出ず,退院後は仕事に復帰したが,体調が万全でなかったため,外回りの負担の少ない病院に担当替えとなり,悔しい思いを感じるようになった。また,営業先の病院に患者として通うことになったため,気まずい思いもした。セロコンバージョンもなかなか生 じず,ALT値の悪化や,肝がんの発症を恐れる日々が続いた。 平成4年頃,入院して2度目のインターフェロン治療を受け,発熱や,体のきつさ,食欲減退などの副作用は苦しく,心の壊れるような思いがした。しかし,期待した効果は生じず,この状態が長引けば肝臓へのダメージが強くなり,肝がんにも進行しやすくなるのではないかと不安になった。 退院後は,体への負担や家庭内感染を恐れて,幼い子供たちと一緒に動 き回るなどスキンシップを図ることもできなかった。 平成17年9月に初めてHBe抗原陰性の状態となり,平成19年から平成21年に や家庭内感染を恐れて,幼い子供たちと一緒に動 き回るなどスキンシップを図ることもできなかった。 平成17年9月に初めてHBe抗原陰性の状態となり,平成19年から平成21年にかけて,ようやくHBe抗原が陰性の状態を維持するようになった。しかし,最初のインターフェロン治療から15年以上経っていたことから,肝臓へのダメージは大きく,肝がんに進展するリスクが残存し ていることへの不安は払拭できなかった。 その後,治療期間のロスを取り戻すため,原告Dは仕事に精を出し,東京の支店に異動し,責任の重い仕事を担当することとなった。しかし,平成22年,●●歳の時に慢性肝炎を再発し,裏切られたような気持になった。余計な気を遣わせ,あるいや差別や偏見を受けることおそれ,職場に 慢性肝炎のことを説明していなかった原告Dは,入院することになれば,説明せざるを得なくなると,深く悩んだ。 平成25年頃,原告Dは核酸アナログ製剤の服用を開始したが,経済的負担を感じたほか,副作用の可能性に不安を覚えた。その後,薬剤耐性を持つ変異株が出現したことから,他の各線アナログ製剤も服用することと なったが,新たな副作用への不安を払拭できない日々が続いている。また,長年蓄積した肝臓へのダメージから,肝がんへ進展するリスクがあることへの不安も解消されないままである。 原告Dは,このように,日常生活における様々な制約と,病態が進行する可能性への恐怖心に悩まされるなど,多くのものを犠牲にしてきた。 (オ) 原告E原告Eは,大学卒業後,研究職として会社に入社し,●●●●●●●●●●●薬開発に携わることとなった。同開発に先立って受けた血液検査で,B型肝炎ウイルスに感染していること (オ) 原告E原告Eは,大学卒業後,研究職として会社に入社し,●●●●●●●●●●●薬開発に携わることとなった。同開発に先立って受けた血液検査で,B型肝炎ウイルスに感染していることを告げられ,大きなショックを受けた。後に原告Eの夫となる交際相手は,原告Eの感染を受け入れたものの, 原告Eは,感染者である自分が家族を持って幸せになれるのかなど,交際 や結婚について深く思い悩むようになった。 原告Eは,平成4年頃,新婚旅行の直前で,ALT値が悪化し,入院を余儀なくされた。約5年にわたる治療の結果,セロコンバージョンが生じて,原告Eは,主治医から「もう治ったね。大丈夫だよ」と言われた。 平成15年頃,原告Eは,夫が医院の独立開業を決意したことから,受 付や経理,労務管理,保険請求などの事務全般をこなしてこれをサポートするようになっていた。ところが,開業から半年後,ALT値が大幅に上昇していることが判明した。 原告Eは,B型肝炎ウイルスキャリアであることを夫の医院の患者に知られて,医院への信頼が損なわれることをおそれ,隣の県の病院に通院し, 核酸アナログ製剤服用のための費用の助成も受けられずにいる。 原告Eは,このように,日常生活における様々な制約と,病態が進行する可能性への恐怖心に悩まされるなど,多くのものを犠牲にしてきた。 (4) 争点4(原告らの損害の程度)(原告らの主張) ア包括一律請求について(ア) B型肝炎ウイルスキャリアに生じる損害慢性肝炎は,進行性,致死性,難治性の疾患である。B型肝炎ウイルスキャリアになると,高い頻度で肝炎を発症してこれが慢性化し,さらに肝硬変,肝がんへと進展 炎ウイルスキャリアに生じる損害慢性肝炎は,進行性,致死性,難治性の疾患である。B型肝炎ウイルスキャリアになると,高い頻度で肝炎を発症してこれが慢性化し,さらに肝硬変,肝がんへと進展していく。また,慢性肝炎や肝硬変に至らない場合 でも,肝がんに進展する可能性がある。そして,肝硬変や肝がんに進展すると,死に至る可能性が極めて高くなる。他方で,現代医学では,B型肝炎ウイルスに持続感染した場合に,体内から完全にウイルスを排除することはできない。そして,抗ウイルス療法に用いられるインターフェロンや核酸アナログ製剤には,副作用がある上,治療効果が確実とはいえないし, 治療による経済的負担や時間的制約も極めて重い。 そして,日常生活において,B型肝炎ウイルスに感染する危険はほとんどないにもかかわらず,B型肝炎ウイルスキャリアは,学校,職場,家庭等,日常生活・社会生活の様々な場面で,感染を懸念した差別や偏見を受け,行動の自己抑制を強いられている。 以上から明らかなとおり,B型肝炎ウイルスキャリアであることは,そ れ自体が人生に対する深刻な脅威であり,B型肝炎ウイルスキャリアは,生涯にわたって,病状の進展や,発がんによる死の恐怖に直面し続ける上,病状や治療のために多大な経済的負担を被り,日常生活を大きく制約される。 加えて,B型肝炎ウイルスキャリアは,国から何の補償も受けられない まま放置され,社会から偏見や差別を受け,時には家族ぐるみで社会から疎外される,悲惨な生活を強いられてきた。原告らも例外ではなく,前記(3)ウのとおり,大きな制約を受けながら生活をしてきたのである。 (イ) 包括一律請求によるべきこと前記(ア)のとおりであるから,B いられてきた。原告らも例外ではなく,前記(3)ウのとおり,大きな制約を受けながら生活をしてきたのである。 (イ) 包括一律請求によるべきこと前記(ア)のとおりであるから,B型肝炎ウイルスキャリアは,精神的に も,経済的にも,社会的にも,大きな負担を強いられるところ,これらの損害は,相互に影響し合い,被害者である原告らの人生に複雑かつ深刻な影響をもたらすものであるから,個別積算方式による立証で損害の全容を把握することは不可能であり,被害者の多面的被害を正しく評価して早期救済を図るためには,複雑多岐にわたる損害を総体として有機的に関連付 けて捉える,包括請求方式によるべきである。 また,被害者らには,予防接種という共通の原因により,B型肝炎ウイルス持続感染及びこれによる慢性肝炎等の発症という共通の結果が生じている。そして,慢性肝炎は進行性の疾患であるから,被害の程度は症状の段階により異なるものであるところ,人間一人ひとりの生命,身体,健 康の価値に差異はなく,社会生活上の権利が平等であることに照らせば, 症状の段階に応じた一律請求方式によるべきである。 したがって,原告らの損害賠償請求については,包括一律請求によることが認められるべきである。 イ具体的な損害額B型肝炎ウイルスキャリアにおいて,①慢性肝炎が6年以上にわたり長期 持続した場合,又は,②慢性肝炎を再発した場合,当初発症した慢性肝炎により生じたものとは別に,医療費,障害等級第9級程度の労働能力喪失及び精神的苦痛といった甚大な被害が見込まれ,少なくとも,各1250万円の損害が生じるというべきである。 前記アのとおり,原告らは,いずれも慢性肝炎が6年以上にわたり長期持 労働能力喪失及び精神的苦痛といった甚大な被害が見込まれ,少なくとも,各1250万円の損害が生じるというべきである。 前記アのとおり,原告らは,いずれも慢性肝炎が6年以上にわたり長期持 続した(本件基礎事情②)か,慢性肝炎が再発をした(本件基礎事情③)ものであるから,原告らの各損害額は,1250万円に弁護士費用50万円を加えた,1300万円を下らない。 (被告の主張)慢性肝炎が進行性,致死性,難治性の疾患であること,慢性肝炎の病状及び そのリスクは認めるが,その余は不知ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(B型肝炎ウイルス持続感染と本件予防接種等との間の因果関係の有無)(1) 因果関係の考え方について訴訟上の因果関係の立証は,一点の疑義も許されない自然科学的証明ではな く,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とし,かつ,それで足りるものと解すべきである(最高裁昭和50年10月24日第二小法廷判決・民集29巻9号1417頁参照)。 (2) 水平感染の可能性について ア前提事実及び後掲証拠により,次の各事実が認められる。 (ア) 感染経路B型肝炎ウイルスの感染経路としては,出生時に生じる垂直感染と,水平感染とがあり,水平感染の具体例としては,注射器の連続使用,輸血,社会生活や家庭生活での濃厚接触が挙げられる。(甲A6,乙A12) (イ) 本件予防接種等予防接種とは,疾病に対して免疫の効果を得させるため,疾病 射器の連続使用,輸血,社会生活や家庭生活での濃厚接触が挙げられる。(甲A6,乙A12) (イ) 本件予防接種等予防接種とは,疾病に対して免疫の効果を得させるため,疾病の予防に有効であることが確認されているワクチンを,人に注射し,又は接種することをいう(予防接種法2条1項)。 (ウ) 母子間感染阻止事業 昭和61年に,HBe抗原陽性の状態の母親から生まれた新生児に公費でワクチン等を使用するという,母子間感染阻止事業が開始された結果,昭和61年生まれ以降の世代における新たなB型肝炎ウイルスキャリアの発生は,ほとんどみられなくなった。(甲A3,6,21,23,32,48~50,57〔1頁〕,乙A71〔1頁〕,112) イ前記アの認定事実によると,昭和61年から母子間感染阻止事業が開始された結果,新たなB型肝炎ウイルスキャリアの発生がほとんどみられなくなったというのであり,この事実は,①同事業開始以前においては,母子間の垂直感染によるB型肝炎ウイルスキャリアが相当数存在し,これらが,原告らが本件予防接種等を受けた時期に,本件予防接種等の被接種者の中に相当 数含まれていたこと,及び②同事業開始以後,水平感染によるB型肝炎ウイルスキャリアの発生がほとんどなくなったことを示すものであるから,一般に,幼少時において,本件予防接種等における注射器の連続使用による感染を除けば,家庭内感染を含む水平感染の可能性は極めて低いものと認められる。 (3) 原告らの個別的事情 ア原告A(ア) 前提事実及び証拠(甲B357-3・4・6)によれば,原告Aは,昭和●●年●月●●日に出生してから満7歳になるまでの間に,ツベルクリン反応・BCG ア原告A(ア) 前提事実及び証拠(甲B357-3・4・6)によれば,原告Aは,昭和●●年●月●●日に出生してから満7歳になるまでの間に,ツベルクリン反応・BCG,ジフテリア,百日咳及び種痘につき本件予防接種等を受けたことが認められる。そして,上記予防接種等においては,滅菌不十分 な注射器が連続使用されることがあった(前提事実(5)ア)。 (イ) 原告Aは,前記(ア)の期間内にB型肝炎ウイルスに持続感染した可能性が高いところ,その感染原因は,垂直感染又は輸血ではない(前提事実(2)ア(ア))。 (ウ) 前記(ア)の期間内に原告Aの父母その他同居する家族がB型肝炎ウイ ルスに感染していたことをうかがわせる具体的な事情は認められない。 (甲B357-14・15,弁論の全趣旨)イ原告B(ア) 前提事実及び証拠(甲B840-3・4・13)によれば,原告Bは,昭和●●年●●月●●日に出生してから満7歳になるまでの間に,ツベル クリン反応・BCG,ジフテリア,百日咳,種痘,腸チフス及びパラチフスにつき本件予防接種等を受けたことが認められる。そして,上記予防接種等においては,滅菌不十分な注射器が連続使用されることがあった(前提事実(5)ア)。 (イ) 原告Bは,前記(ア)の期間内にB型肝炎ウイルスに持続感染した可能性 が高いところ,その感染原因は,垂直感染又は輸血ではない(前提事実(2)イ(ア))。 (ウ) 前記(ア)の期間内に原告Bの父母その他同居する家族がB型肝炎ウイルスに感染していたことをうかがわせる具体的な事情は認められない。 (甲B840-13・14,弁論の全趣旨) ウ原告C (ア) 前提事 同居する家族がB型肝炎ウイルスに感染していたことをうかがわせる具体的な事情は認められない。 (甲B840-13・14,弁論の全趣旨) ウ原告C (ア) 前提事実及び証拠(甲B1138-2~6)によれば,原告Cは,昭和●●年●月●●日に出生してから満7歳になるまでの間に,ツベルクリン反応・BCG,ジフテリア,百日咳,種痘,腸チフス及びパラチフスにつき本件予防接種等を受けたことが認められる。そして,上記予防接種等においては,滅菌不十分な注射器が連続使用されることがあった(前提事実 (5)ア)。 (イ) 原告Cは,前記(ア)の期間内にB型肝炎ウイルスに持続感染した可能性が高いところ,その感染原因は,垂直感染又は輸血ではない(前提事実(2)ウ(ア))。 (ウ) 前記(ア)の期間内に原告Cの父母その他同居する家族がB型肝炎ウイ ルスに感染していたことをうかがわせる具体的な事情は認められない。 (甲B1138-10~13,弁論の全趣旨)エ原告D(ア) 前提事実及び証拠(甲B1201-2~5)によれば,原告Dは,昭和●●年●月●●日に出生してから満7歳になるまでの間に,数度にわたり, ツベルクリン反応・BCG,ジフテリア,百日咳,種痘,腸チフス及びパラチフスにつき本件予防接種等を受けたことが認められる。そして,上記予防接種等においては,滅菌不十分な注射器が連続使用されることがあった(前提事実(5)ア)。 (イ) 原告Dは,前記(ア)の期間内にB型肝炎ウイルスに持続感染した可能性 が高いところ,その感染原因は,垂直感染又は輸血ではない(前提事実(2)エ(ア))。 (ウ) 前記(ア)の期間内に原告Dの父母その他同居する家族がB型肝炎ウイ スに持続感染した可能性 が高いところ,その感染原因は,垂直感染又は輸血ではない(前提事実(2)エ(ア))。 (ウ) 前記(ア)の期間内に原告Dの父母その他同居する家族がB型肝炎ウイルスに感染していたことをうかがわせる具体的な事情は認められない。 (甲B1201-11~13,弁論の全趣旨) オ原告E (ア) 前提事実及び証拠(甲B1450-2・3)によれば,原告Eは,昭和●●年●月●●日に出生してから満7歳になるまでの間に,数度にわたり,百日咳及び種痘につき本件予防接種等を受けたことが認められる。そして,上記予防接種等においては,滅菌不十分な注射器が連続使用されることがあった(前提事実(5)ア)。 (イ) 原告Eは,前記(ア)の期間内にB型肝炎ウイルスに持続感染した可能性が高いところ,その感染原因は,垂直感染又は輸血ではない(前提事実(2)オ(ア))。 (ウ) 前記(ア)の期間内に原告Eの父母その他同居する家族がB型肝炎ウイルスに感染していたことをうかがわせる具体的な事情は認められない。 (甲B1450-9・11,弁論の全趣旨)(4) B型肝炎ウイルス持続感染と本件予防接種等との間の因果関係について前記(3)の認定事実によると,原告らは,いずれも水平感染によりB型肝炎ウイルスに持続感染したものと認められるところ,本件において,原告らについて,本件予防接種等のほかには,感染の原因となる可能性の高い具体的な事 実の存在はうかがわれず,家庭生活での濃厚接触を含む,他の原因による感染の可能性は,一般的,抽象的なものにすぎない。 他方,本件予防接種等の被接種者の中にB型肝炎ウイルス感染者が存在した場合に,注射器が連続使用されると,後 の濃厚接触を含む,他の原因による感染の可能性は,一般的,抽象的なものにすぎない。 他方,本件予防接種等の被接種者の中にB型肝炎ウイルス感染者が存在した場合に,注射器が連続使用されると,後の被接種者は,ほぼ確実に,B型肝炎ウイルスに感染し,被告は,原告らが本件予防接種等を受けた可能性のある昭 和26年から昭和44年までの間,本件予防接種等の実施機関に対して,注射器の交換又は徹底した消毒の励行を指導せず,上記期間に実施された本件予防接種等においては,消毒が不十分なまま,注射器が連続使用されていた(前提事実(3)ア)というのであるから,本件予防接種等は,原告らの感染の原因となる可能性の高い具体的な事実ということができる。このことと,前記(2)イの事 実を併せて考えれば,原告らは,本件予防接種等における注射器の連続使用に よってB型肝炎ウイルスに持続感染した蓋然性が高いというべきであり,経験則上,本件予防接種等と,原告らのB型肝炎ウイルス持続感染との間の因果関係を肯定するのが相当である。 2 争点2(慢性肝炎の病状等に関する医学的知見及び原告らの具体的な病状)(1) 前提事実及び後掲証拠によれば,B型肝炎に関する医学的知見について, 以下の各事実が認められる。 アセロコンバージョンについて(ア) B型肝炎ウイルスは,遺伝子変異が生じやすい。B型肝炎ウイルスの遺伝子変異は,ウイルス増殖に影響を及ぼすのみならず,肝炎の重篤度や発がん性,宿主免疫からの回避などにより,様々な病状の発現(無症候性 キャリア,慢性肝炎,非活動性キャリア,肝硬変)に関与し,薬剤耐性変異株の出現等,多くの臨床的問題を引き起こす。(甲A60,乙A58,62,71〔15頁〕,75,76,82)( キャリア,慢性肝炎,非活動性キャリア,肝硬変)に関与し,薬剤耐性変異株の出現等,多くの臨床的問題を引き起こす。(甲A60,乙A58,62,71〔15頁〕,75,76,82)(イ) B型肝炎ウイルス遺伝子の,HBe抗原の産生にかかわるコアプロモーター領域,又はプレコア領域に変異が生じたウイルス(HBe抗原非産 生変異株)は,増殖時にHBe抗原の産生を停止し,又はその産生量を低減するようになって,その結果,セロコンバージョン(HBe抗原の陰性化)が生じる。これらの領域の変異は,B型肝炎ウイルスキャリアにおいて高頻度に見られる。もっとも,これらの領域に変異が見られない場合であっても,セロコンバージョンは生じ得るため,セロコンバージョンが生 じる原因は,複数あると考えられている。(甲A58,乙A5の2,64,66,67,68,73,74)(ウ) セロコンバージョンが生じ,B型肝炎ウイルスの増殖が抑制されると,肝細胞の壊死・炎症が下火になり,ALT値が上昇するほどの肝細胞の破壊が続かない状態となるが,B型肝炎ウイルスは,増殖が抑制されても, 体内から完全に排除されることはないため,残存するウイルスに対する免 疫応答は生じており,ALT値が正常であっても,肝生検所見により,炎症が認められる場合がある。もっとも,HBV-DNA量が3.3未満であれば,肝炎の活動性も,肝線維化も,いずれも軽度にとどまる。(甲A34,乙A68,71〔68頁〕,75,99)イセロコンバージョン後の経過に関する知見の変遷 (ア) かつてはセロコンバージョンが生じれば,総じて予後が良いものと考えられ,臨床的治癒として扱われていた。(甲A4,58,60,乙A63,73,74)(イ 知見の変遷 (ア) かつてはセロコンバージョンが生じれば,総じて予後が良いものと考えられ,臨床的治癒として扱われていた。(甲A4,58,60,乙A63,73,74)(イ) しかし,HBe抗原が陰性化しても予後の悪い症例が報告されるようになり,また,HBV-DNA量を高感度に測定できるようになったほか, HBe抗原非産生変異株が発見されるなど,B型肝炎ウイルスの遺伝子構造及び機能に関する知見が集積され,遅くとも平成元年頃までには,HBe抗原陰性の状態でもウイルスが増殖し,肝病変が進展する場合があることが確認された。そして,HBe抗原の陰性化が,必ずしもウイルス増殖の減弱や,ウイルス量の減少を意味しないことが明らかとなり,慢性肝炎 を発症したB型肝炎ウイルスキャリアについて,ウイルス量をモニターすることの重要性が認識されるようになった。(甲A58,乙A67,74,81,83,84,103,107,108)(ウ) そして,平成15年頃には,B型肝炎ウイルスキャリアの自然経過(病期)について,ALT値,組織所見,ウイルスマーカーなどを評価した上 で,免疫寛容期(無症候性キャリア),免疫応答期(HBe抗原陽性慢性肝炎及びセロコンバージョン後も鎮静化しないHBe抗原陰性慢性肝炎),低増殖期(非活動性キャリア),再活性期(又は免疫応答期)(セロコンバージョン後非活動性キャリアを経たHBe抗原陰性慢性肝炎),寛解期などに分類されるようになった。(甲A58,59,69,乙A36,64, 94,96) ウ慢性肝炎の症状及び進展リスクについて(ア) 慢性肝炎から肝硬変へは連続的に移行するものであるところ,炎症の強さ及び持続期間により,肝細胞の線維化の程度等,肝臓 ) ウ慢性肝炎の症状及び進展リスクについて(ア) 慢性肝炎から肝硬変へは連続的に移行するものであるところ,炎症の強さ及び持続期間により,肝細胞の線維化の程度等,肝臓の病理形態的変化には,かなりの幅がある。すなわち,炎症が弱く持続期間が短ければ正常な肝臓に近く,他方,炎症が強く持続期間が長ければ肝硬変に近い状態 となる。慢性肝炎は,自然経過で著明に改善することがある一方,短期間に悪化することもある。我が国の肝硬変の症例は,50歳以上の者に多いが,20歳未満で肝硬変に至る者も少数ながらいる。(甲A15,乙A68,112)(イ) HBe抗原陽性慢性肝炎は,HBV-DNA量が6から10まで(中 ウイルス量から高ウイルス量)の範囲で変動し,肝炎が持続的に生じる傾向があるとされる。そのため,肝炎の活動性は高く,病状の進展も早いとされる。(甲A56,乙A57,96,106)他方,HBe抗原陰性慢性肝炎は,HBV-DNA量が3から8まで(低ウイルス量から中ウイルス量)の範囲で変動し,間欠的に激しい肝炎を起 こす傾向があり,自然寛解する可能性が低いとされる。本件ガイドラインは,HBe抗原陰性慢性肝炎について,HBe抗原陽性の状態の慢性肝炎と比較して,高齢であり,肝臓の線維化が進展した症例が多いため,「より進んだ病期と認識すべきである」と説明している。(甲A56,58,60,乙A57,62,71〔68頁〕,82) もっとも,慢性肝炎による肝細胞の壊死・炎症の程度は,その時のウイルスの量や宿主の免疫応答の程度に左右されるため,同じ患者であっても時期によって異なり,また,同じウイルス量であっても患者ごとに異なる。 (乙A68,75)インターフェロン の時のウイルスの量や宿主の免疫応答の程度に左右されるため,同じ患者であっても時期によって異なり,また,同じウイルス量であっても患者ごとに異なる。 (乙A68,75)インターフェロン治療を行いHBe抗原陰性の状態となった症例は,治 療介入が必要であると専門家が判断した,肝炎の活動性がもともと高い症 例であるから,HBe抗原陰性の状態となった後もALT値の上昇を伴う肝炎が持続しやすく,リバースセロコンバージョンが起こることもあるので,自然経過観察例とは別に考える必要があるとされる。(乙A68)(ウ) HBe抗原陰性・HBe抗体陽性の状態でウイルスの増殖を伴う慢性肝炎患者は,HBe抗原非産生変異株が増殖していることが多い。ただし, 遺伝子変異は,一度に全てのウイルスに生じる訳ではない。また,HBe抗原非産生変異株が,ウイルスの増殖力の全てを決定している訳ではなく,慢性肝炎の病状には,他の遺伝子変異等も関与しているとされるなど,慢性肝炎の再発の原因は必ずしも明らかとなっていない。 (甲A58,68,乙A67,68,72,73,76) (エ) 慢性肝炎は,ウイルス要因(ウイルス遺伝子・ウイルスの産生する様々な蛋白〔HBe抗原等〕),宿主要因(年齢・性・並存疾患・ウイルスに対する免疫応答に関する遺伝子・線維化や腫瘍の合併を規定する遺伝子など。)や環境要因が複雑に絡んで予後に影響を及ぼす疾患であり,その影響について,現在解明されていることはその一部にすぎない。 (乙A68) 現状では,B型肝炎ウイルスキャリアの肝臓からB型肝炎ウイルスを完全に排除することはできないため,全てのB型肝炎ウイルスキャリアが,肝炎,肝硬変,肝がんのリスクを持ち合わせているといえるが,知見の 現状では,B型肝炎ウイルスキャリアの肝臓からB型肝炎ウイルスを完全に排除することはできないため,全てのB型肝炎ウイルスキャリアが,肝炎,肝硬変,肝がんのリスクを持ち合わせているといえるが,知見の集積により,高リスクのB型肝炎ウイルスキャリアを選び出すことは少しずつ可能となってきている。(乙A68) (オ) HBV-DNA量とその後の臨床経過には強い関連があり,HBV-DNA量が多いほど,肝硬変や肝がんに進展するリスクは高くなる。HBV-DNA量が4.0未満になると慢性肝炎は鎮静化し,肝発がん率も低下する。(甲A56,乙A57,62,71〔17頁〕)(カ) 現代の医学では,非活動性キャリアについて,鎮静化後に慢性肝炎が 再発しない者と,長期経過の中で再発する者との厳密な鑑別は困難であり, 非活動性キャリアと診断された後でも,6~12か月ごとの経過観察が必要である。(乙A71〔67頁〕)エ慢性肝炎の治療(ア) 本件ガイドラインは,治療対象を選択する上で最も重要な基準を,①組織学的進展度,②ALT値,③HBV-DNA量とし,その推奨する慢 性肝炎の抗ウイルス療法の開始基準を,HBe抗原の状態が陽性か陰性かを問わず,HBV-DNA量3.3以上かつALT値31以上と設定している。ただし,HBe抗原陽性慢性肝炎については,ALT値が上昇した場合でも,線維化の進行度が高くなく,肝炎が劇症化する可能性がないと判断されれば,自然経過でのセロコンバージョンを期待して,1年間程度 治療を待機することも選択肢とされる。 (甲A57〔68頁〕,乙A71〔10~14,68頁〕)(イ) 本件ガイドラインは,HBe抗原陽性慢性肝炎では,HBe抗原の陰性化により肝不全のリスクが を待機することも選択肢とされる。 (甲A57〔68頁〕,乙A71〔10~14,68頁〕)(イ) 本件ガイドラインは,HBe抗原陽性慢性肝炎では,HBe抗原の陰性化により肝不全のリスクが減少し,生存期間が延長するとして,まず目指すべき目標はセロコンバージョン(HBe抗原の陰性化)であるとし, 他方,HBe抗原陰性の慢性肝炎では,まず目指すべき目標を,非活動性キャリアの状態(ALT値30以下及びHBV-DNA量3.3未満)と設定し,線維化が進行している例では,さらにHBV-DNAの持続的な陰性化を目指すとしている。そして,HBe抗原陽性慢性肝炎でも,HBe抗原陰性慢性肝炎でも,最終的な目標は,HBs抗原の陰性化としてい る。(乙A71〔65,68頁〕)また,本件ガイドラインは,HBe抗原の状態が陽性か陰性かを問わず,非活動性キャリアの状態といった短期目標を達するための治療は,原則としてインターフェロンを第一選択とし,インターフェロンの効果不良例や,肝線維化が進展し肝硬変に至っている可能性が高い症例については,核酸 アナログ製剤を第一選択としている。(乙A71〔66,69頁〕) (ウ) 慢性肝炎患者は,日常生活において,基本的には,飲酒,肥満,過労を避け,適度の運動と適正な食事をとることが肝要であるとされる。(乙A35)オ肝硬変の治療(ア) 肝硬変は,機能的な分類として,主として肝細胞機能不全の程度によ り代償性肝硬変と,非代償性肝硬変に分類される。代償性肝硬変は,肝機能が比較的維持され,機能の低下を補うことができる状態であり,症状はあまり現れない。非代償肝硬変は,肝臓の障害が強くなって体に必要な機能が果たせなくなり,黄疸や出血傾向,腹水,むくみな 硬変は,肝機能が比較的維持され,機能の低下を補うことができる状態であり,症状はあまり現れない。非代償肝硬変は,肝臓の障害が強くなって体に必要な機能が果たせなくなり,黄疸や出血傾向,腹水,むくみなどの症状が現れ,命にかかわることもある状態である。(乙A15,46,51,52,5 3,99)(イ) 本件ガイドラインは,肝硬変は慢性肝炎と比較して肝不全や肝がんに進展するリスクが高いため,より積極的な治療介入が必要であるとして,①HBV-DNA量が陽性であれば,HBe抗原陽性・陰性の状態であるかどうかを問わず,また,ALT値及びHBV-DNA量の程度にかかわ らず,肝硬変を治療対象とするという,慢性肝炎とは異なる治療適応基準を採用し,②HBV-DNA量について,その低下ではなく,HBe抗原陰性の状態の維持を目指すとして,慢性肝炎とは異なる短期目標を採用し,治療方法としては,核酸アナログ製剤の投与を推奨している(特に非代償性肝硬変では,インターフェロン治療は禁忌とされる)。 (乙A71〔14, 15,69~71頁〕)(ウ) 肝硬変は不可逆的な症状ではなく,核酸アナログ製剤を長期投与することで線維化の改善が可能となる。もっとも,本件ガイドラインは,核酸アナログ製剤投薬中止後の慢性肝炎の再発は,肝不全を誘発するリスクがあるため,基本的には,肝硬変においては,生涯にわたる治療継続を基本 とし,線維化が改善し,又は慢性肝炎の治療中止検討基準に該当した症例 においても,治療中止を推奨していない。(乙A71〔70頁〕)(エ) 代償性肝硬変の患者は,日常生活において,基本的には,慢性肝炎と同様,規則正しい生活をし,十分な睡眠をとり,過労や飲酒を避けるべきとされる。非代償性肝硬変の患者は, 1〔70頁〕)(エ) 代償性肝硬変の患者は,日常生活において,基本的には,慢性肝炎と同様,規則正しい生活をし,十分な睡眠をとり,過労や飲酒を避けるべきとされる。非代償性肝硬変の患者は,日常生活において,さらに,アミノ酸製剤の服用や,頻回食が必要とされる。(乙A35) (2) 慢性肝炎の病態等に関する理解ア(ア) 前提事実(1)及び前記(1)の認定事実によれば,①B型肝炎ウイルスキャリアは,B型肝炎ウイルスに感染した後,免疫応答が働かないまま体内でウイルスが増殖する時期(免疫寛容期)を経て,免疫応答が働くようになって肝炎を発症し(免疫応答期),ウイルスの増殖力が弱まると,肝炎 が鎮静化する(低増殖期),といった経過を辿るものの,B型肝炎ウイルスを体内から完全に排除することは困難であり,ウイルス量と免疫応答とのバランスによって,免疫応答期のまま経過し,あるいは低増殖期から免疫応答期に逆戻りすることがあること,②B型肝炎ウイルスキャリアのうち,10~20%程度は,上記①の経過において,HBe抗原陽性慢性肝 炎を発症した後,㋐セロコンバージョンが生じないまま,HBe抗原陽性慢性肝炎が長期持続する,㋑セロコンバージョンが生じても,HBe抗原陰性の状態で慢性肝炎が長期持続する,㋒セロコンバージョンが生じて,慢性肝炎が鎮静化した後にHBe抗原陰性の状態で慢性肝炎が再発する,㋓㋒の後,リバースセロコンバージョンによりHBe抗原陽性慢性肝炎の 状態になる,といった経過を辿ること,③HBe抗原陽性慢性肝炎には,高ウイルス量の下で持続的に生じるといった傾向が,HBe抗原陰性慢性肝炎には,中ウイルス量の下で間欠的に生じるといった傾向がそれぞれみられるなど,慢性肝炎の経過についての一般的な傾向は病期によって説明さ ルス量の下で持続的に生じるといった傾向が,HBe抗原陰性慢性肝炎には,中ウイルス量の下で間欠的に生じるといった傾向がそれぞれみられるなど,慢性肝炎の経過についての一般的な傾向は病期によって説明され得るものであり,また,慢性肝炎の長期持続の症例や再発の症例は, 慢性肝炎発症当初と比較すれば,線維化等が進行している場合が多いとい うことができるものの,肝炎の活動性は,様々な影響により変動する,ウイルスの増殖力と免疫応答の強さのバランスによって定まり,肝臓の線維化の進行も可逆的であって,短期間であっても肝硬変に至るような症例も存在することから,慢性肝炎患者の具体的な肝細胞の壊死・炎症の程度及び線維化の程度を,特定の病期,セロコンバージョンの有無,又はセロコ ンバージョンが生じるまでの期間等によって類型的に把握することはできないこと,④B型肝炎ウイルスの遺伝子に関する技術の発展と知見の集積に伴い,慢性肝炎が肝硬変や肝がんに進展する高リスク要因(HBe抗原非産生変異株の存在や高ウイルス量など)が明らかになってきているほか,特にインターフェロン治療を行った症例は,慢性肝炎の長期持続又は 再発の可能性が高いと認識されてきているものの,セロコンバージョンが生じる原因,慢性肝炎が再発する原因等は,特定されるに至っていないことから,非活動性キャリアと診断された場合であっても,今後再発する可能性があり,経過観察を要するものとされていること,⑤本件ガイドラインにおいては,慢性肝炎の治療は,HBV-DNA量(低値)及びALT 値(31以上)を基準として,抗ウイルス療法(第一選択は原則としてインターフェロン。)が開始され,非活動性キャリア化(ALT値30以下,HBV-DNA量3.0未満)及びHBV-DNA量の陰性化(線維化が 1以上)を基準として,抗ウイルス療法(第一選択は原則としてインターフェロン。)が開始され,非活動性キャリア化(ALT値30以下,HBV-DNA量3.0未満)及びHBV-DNA量の陰性化(線維化が進行している場合。)を目指すものとされており,HBe抗原の有無(陽性か陰性か)や持続期間によって治療の扱いを異にすることなく,他方, 肝硬変に至った場合には,代償性肝硬変と非代償性肝硬変で区別を設けた上,生涯にわたる治療継続を基本として,核酸アナログ製剤によりHBV-DNA量の陰性化の維持を目指すものとされていることが認められる。 (イ) 前記(ア)からすれば,B型肝炎ウイルスキャリアの80~90%は,慢性肝炎を発症した後,やがては鎮静化して良好な予後を辿るものの,10 ~20%は,慢性肝炎が鎮静化せず長期持続し,又は鎮静化しても再発し て不良な予後を辿るところ,現代医学では,慢性肝炎の長期持続又は再発の原因が必ずしも明らかとなっておらず,体内からB型肝炎ウイルスが完全に排除されることもまれであるため,慢性肝炎は,一たび発症すれば,生涯にわたり,それが長期持続し,又は再発する可能性を保有し続ける疾患であると認識されているものと認められる。そして,HBe抗原の有無 自体は,慢性肝炎から肝硬変や肝がんに進展する高リスク要因とはされておらず,慢性肝炎の症状を直接左右するとは考えられていない一方で,慢性肝炎の具体的な症状は,ウイルスの増殖力及び免疫応答の強さにより決まると考えられていること,治療においては,ALT値及びHBV-DNA量又は線維化の進行の程度が基準とされ,HBe抗原の有無や病期によ って,特段異なる取扱いはされていないこと,肝硬変にまで至った場合には,治療基準等を別に扱うものとされていることから -DNA量又は線維化の進行の程度が基準とされ,HBe抗原の有無や病期によ って,特段異なる取扱いはされていないこと,肝硬変にまで至った場合には,治療基準等を別に扱うものとされていることからすれば,肝硬変に至らない慢性肝炎の経過の中においては,いくらかの症状の差異があるとしても,対応を異にする必要があるとは考えられておらず,肝硬変に至るまでの段階として,HBe抗原陽性慢性肝炎であっても,HBe抗原陰性慢 性肝炎であっても,あるいは長期持続の症例であっても,同様の基準の下に取り扱われているものということができる。 そうすると,慢性肝炎の長期持続や,慢性肝炎の再発は,医学的に,慢性肝炎という一つの病状の中での,連続する経過の一部であると認識され,かつ,その経過の一部について,特段異なる取扱いはされていないのであ るから,慢性肝炎の長期持続(本件基礎事情②)又は慢性肝炎の再発(本件基礎事情③)と,慢性肝炎の発症(本件基礎事情①)とが,医学的にみて,異なる病状であるということはできない。 本件において提出された医師等の意見書の中には,HBe抗原陰性慢性肝炎を独立の病期として捉えるべきであるという意見もあるものの(Gの 意見書〔甲A58〕),この見解も,HBe抗原陽性慢性肝炎とHBe抗原 陰性慢性肝炎を別個の病状として捉えるべきであるとまでいうものではない上,多くが,鎮静化後の慢性肝炎の再発は,慢性肝炎の一連の病態(病状)と考えるべきであるという趣旨の意見を述べているのは(Hの意見書〔乙A64〕,Iの意見書〔乙A68〕,Jの意見書〔乙A75〕),慢性肝炎に対する上記のような理解に基づくものであると考えられる。 イ原告らの主張について原告らは,慢性肝炎の長期 4〕,Iの意見書〔乙A68〕,Jの意見書〔乙A75〕),慢性肝炎に対する上記のような理解に基づくものであると考えられる。 イ原告らの主張について原告らは,慢性肝炎の長期持続又は再発が例外的な経過であること,及び,HBe抗原陽性慢性肝炎とHBe抗原陰性慢性肝炎とが別の病期として位置付けられていることから,慢性肝炎の長期持続(本件基礎事情②)又は慢性肝炎の再発(本件基礎事情③)と,慢性肝炎の発症(本件基礎事情①)と は,医学的にみて別の病状である旨主張するので,以下検討する。 (ア) 慢性肝炎の長期持続又は再発が例外的な症例であるとの主張について原告らは,B型肝炎の自然経過において,多くの症例では,セロコンバージョン後,ウイルスの活動性が低下して,慢性肝炎が鎮静化するのであって,セロコンバージョンが生じずに,あるいはこれが生じても慢性肝炎 が長期持続する症例や,慢性肝炎が再発する症例は,例外的である旨主張する。 しかしながら,前記認定のとおり,慢性肝炎は,一たび発症すれば,B型肝炎ウイルスが体外に排出されるまで,慢性肝炎が長期持続し,又はいったん鎮静化しても再発する可能性がある疾患である上,慢性肝炎による 壊死・炎症の程度や線維化の進行,慢性肝炎の持続期間等は,HBe抗原の有無によってある程度の傾向はあるものの,患者の個別要因により大きく異なり,炎症が長期間持続して肝硬変に至る症例もあれば,高度な炎症により短期間で肝硬変に至る症例もあり(前記(1)ウ(ア)),慢性肝炎が長期持続しているといっても,ALT値をみると,比較的低値にとどまった ままで,すなわち大きな炎症は生じずに数年を経過するときもあれば,激 しい炎症が続くときもあり,また,慢性 炎が長期持続しているといっても,ALT値をみると,比較的低値にとどまった ままで,すなわち大きな炎症は生じずに数年を経過するときもあれば,激 しい炎症が続くときもあり,また,慢性肝炎が再発するといっても,長期の鎮静化を経て再発する症例もあれば,鎮静化の期間がわずかなうちに再発を繰り返す症例があるなど,様々な症例があるのであって(前提事実(2)),これらは,いずれもB型肝炎ウイルスキャリアが辿る可能性のある多様な経過の一つとして認識されている上,慢性肝炎の長期持続又は再発 に至る割合も,10~20%と通常想定されないというほど低い割合とはいえず,ことに,インターフェロン等の治療介入を行った場合には,これらの経過を辿る可能性が高いとの認識により経過観察等が行われているなど(前記(1)ウ(イ)),慢性肝炎の長期持続又は再発に至る以前の段階や,当初発症した慢性肝炎の段階で,慢性肝炎の長期持続又は再発を見据えた 扱いがされているのであるから,臨床の場面においては,慢性肝炎という一つの疾患について,その具体的な経過に応じて必要な処置がとられているということができ,慢性肝炎の長期持続又は再発がB型肝炎ウイルスキャリアにおいて比較的少ない症例であるとしても,そのことが直ちに,医学的にみて,これが例外的であるとか,最初に発症した慢性肝炎と別の病 状であることの根拠にはならないというべきである。なお,原告らは,慢性肝炎の2年以上の長期持続という事情についても損害を基礎づける事情と主張しているが,これを主張する原告は,慢性肝炎が6年以上にわたって長期持続した原告Dのみであり,慢性肝炎が2年以上にわたり長期持続する者の割合は,原告らの主張においても,慢性肝炎を発症した者のう ち80%に満たない程度というのであり,6 6年以上にわたって長期持続した原告Dのみであり,慢性肝炎が2年以上にわたり長期持続する者の割合は,原告らの主張においても,慢性肝炎を発症した者のう ち80%に満たない程度というのであり,6年以上にわたり長期持続する者の割合(50%)をはるかに上回るものであって,例外的な事情といえないことは明らかであり,採用することはできない。 (イ) HBe抗原陰性慢性肝炎とHBe抗原陽性慢性肝炎の違いについてaHBe抗原非産生変異株により惹起されるとの主張について 原告らは,HBe抗原陰性慢性肝炎は,HBe抗原非産生変異株とい う,HBe抗原陽性慢性肝炎とは異なるウイルスにより惹起されるから,HBe抗原陽性慢性肝炎とHBe抗原陰性慢性肝炎は,医学的にみて別の病状である旨主張する。 しかしながら,遺伝子変異は,全てのウイルスにおいて一度に生じるものではないのであるから,HBe抗原陽性慢性肝炎においても,HB e抗原非産生変異株が増殖していれば,肝炎の一部は同変異株が惹起しているといえるし,HBe抗原陰性慢性肝炎においても,野生株が残存する限りは,肝炎の一部は野生株が惹起しているといえるから,そもそも,HBe抗原陰性慢性肝炎がHBe抗原陽性慢性肝炎とは異なるウイルスにより惹起される,と単純に言い切ることはできない。 また,仮にそのようにいえるとしても,肝炎の活動性は,宿主要因,ウイルス要因,環境要因などの影響を受けるHBV-DNA量と免疫応答のバランスによって定まるとされている一方で,HBe抗原非産生変異株が,肝炎の程度を左右する要因となるとの医学的知見が確立しているとは認められないから,HBe抗原非産生変異株により惹起されるこ とが,医学 って定まるとされている一方で,HBe抗原非産生変異株が,肝炎の程度を左右する要因となるとの医学的知見が確立しているとは認められないから,HBe抗原非産生変異株により惹起されるこ とが,医学的に,HBe抗原陽性慢性肝炎とHBe抗原陰性慢性肝炎が異なる病状として扱われていることの根拠とはならない。 b 肝硬変や肝がんに進展するリスクが高いとの主張について原告らは,HBe抗原陰性慢性肝炎は,HBe抗原非産生変異株により惹起されるため,HBe抗原陽性慢性肝炎と比較して,肝硬変や肝が んに進展しやすく,仮にそうはいえないとしても,HBe抗原陽性慢性肝炎と比較すると,HBe抗原陰性慢性肝炎は,高齢で線維化も進展した症例が多いため,より進んだ病期と認識されるべきとの医学的知見が確立しているから,HBe抗原陽性慢性肝炎とHBe抗原陰性慢性肝炎とは,医学的にみて別の病状である旨主張し,これに沿う記載のあるF 意見書(甲A58),慢性肝炎・肝硬変の診療ガイド2016(甲A56) 及び本件ガイドライン(甲A57)を提出する。 まず,F意見書及び慢性肝炎・肝硬変の診療ガイド2016には,HBe抗原陰性慢性肝炎が,変異株により惹起され,肝硬変や肝がんに進展するリスクが高いとの報告がある旨の記載がある。 しかしながら,そもそも,HBe抗原陽性慢性肝炎,HBe抗原陰性 慢性肝炎といっても,肝炎の活動性や持続期間は人によって多種多様である上,慢性肝炎による線維化には可逆性が認められ,しかも,原告らの臨床経過においても見られるとおり(前提事実(2)),HBe抗原の有無及び量は,頻繁に変動する場合もあることに照らせば,原告の主張するような,「数年でセロコンバージョンが生じて鎮静化 かも,原告らの臨床経過においても見られるとおり(前提事実(2)),HBe抗原の有無及び量は,頻繁に変動する場合もあることに照らせば,原告の主張するような,「数年でセロコンバージョンが生じて鎮静化するHBe抗原 陽性慢性肝炎の症例におけるHBe抗原陽性慢性肝炎」,「HBe抗原陽性慢性肝炎が発症してセロコンバージョンが生じて鎮静化した後,HBe抗原陰性の状態で慢性肝炎が再発する症例におけるHBe抗原陰性慢性肝炎」,と単純に切り分けて,いずれのリスクが高いかを評価することが果たして可能であるか疑問であり,F意見書及び慢性肝炎・肝硬変 の診療ガイド2016の上記各記載がこの点をどのように考慮しているかは不明である。さらに,上記各記載があることを踏まえても,HBe抗原陽性慢性肝炎とHBe抗原陰性慢性肝炎とを比較した場合に,後者の方が肝硬変や肝がんに進展するリスクが高いという医学的知見が確立しているとはいえず,他に,HBe抗原陰性慢性肝炎の方が,肝硬 変や肝がんに進展するリスクが高いと認めるに足りる証拠もない。上記各記載は,前記認定を左右しない。 次に,本件ガイドラインには,HBe抗原陰性慢性肝炎は,より進んだ病期と認識されるべきである旨の記載がある。 しかしながら,本件ガイドラインにおいて,HBe抗原陰性慢性肝炎 が「より進んだ病期」であるとされるのは,HBe抗原陰性慢性肝炎は, 慢性肝炎の長期持続又は慢性肝炎の再発の症例であるから,最初にHBe抗原陽性慢性肝炎を発症した場合と比較して,患者が高齢となっていること,最初に発症したHBe抗原陽性慢性肝炎により線維化がある程度進展していること,といった,肝硬変や肝がんのリスク要因が認められるケースが多いからにすぎない。すなわち,肝 ,患者が高齢となっていること,最初に発症したHBe抗原陽性慢性肝炎により線維化がある程度進展していること,といった,肝硬変や肝がんのリスク要因が認められるケースが多いからにすぎない。すなわち,肝硬変や肝がんに進展す るリスクとなるのは,HBe抗原陰性慢性肝炎期にあることそれ自体ではなく,高齢であること又は線維化がある程度進展していることなのであり,上記記載はそのようなリスクの可能性への注意を促す趣旨と解され,具体的な対応は,個別の症状によって区別されることになると考えられるから,上記のように認識されていることをもって,HBe抗原陽 性慢性肝炎であるか,HBe抗原陰性慢性肝炎であるかによって異なる扱いがされているということはできず,前記認定を左右しない。 c セロコンバージョンの有無に重要な意義があるとの主張について原告らは,大多数の症例はセロコンバージョン後に慢性肝炎が鎮静化することから,セロコンバージョンは短期治療目標の一つとされ,その 有無には重要な意義がある旨主張する。 しかしながら,慢性肝炎の病状を左右するのは,年齢や免疫応答力などの宿主要因,変異の有無や増殖力などのウイルス要因及び環境要因であって,セロコンバージョンの有無は,B型肝炎ウイルスの増殖力の強弱を示す一般的な目安にすぎず,しかも,HBe抗原非産生変異株が増 殖している場合には必ずしも目安にならないのであって,特定の症状を示すものではないし,後の経過を直接左右し,あるいは予測可能とするようなものでもないから,セロコンバージョンの有無を,病状を別個に捉えるための指標とする合理性はない。 d 治療方針を異にするとの主張について 原告らは,HBe抗原陽性慢性肝炎の場合は,治療 セロコンバージョンの有無を,病状を別個に捉えるための指標とする合理性はない。 d 治療方針を異にするとの主張について 原告らは,HBe抗原陽性慢性肝炎の場合は,治療が行われない場合 もあるのに対し,HBe抗原陰性慢性肝炎は,①ALT値が上昇すれば当然に治療対象となり,また,②ALT値が持続して正常値を示しても,ウイルス量が多いときは治療対象とされるから,HBe抗原陽性慢性肝炎とHBe抗原陰性慢性肝炎とで治療対象が異なる旨主張する。 しかしながら,慢性肝炎における短期の治療目標は,ALT値及びH BV-DNA量の持続低下,すなわちウイルス量の低下による慢性肝炎の鎮静化であるところ,HBe抗原陽性慢性肝炎において,待機が選択肢であるとされるのは,副作用や経済的負担の大きな抗ウイルス療法によらなくても,自然経過により,治療目標と同様の結果,すなわちセロコンバージョン及び慢性肝炎の鎮静化が生じる場合もあるためであっ て,他方,HBe抗原陰性慢性肝炎においてこのような選択肢がないのは,HBe抗原陰性慢性肝炎が,セロコンバージョンは生じたものの,ウイルス量が低下せずその後に慢性肝炎の鎮静化が見られない,又は,いったんウイルス量が低下して慢性肝炎が鎮静化したものの,後にウイルスが再増殖して慢性肝炎が再燃したという症例であり,自然経過では 治療目標と同様の結果を期待できないということから来る論理的帰結によるものにすぎない。そして,治療対象として抗ウイルス療法を行う場合においては,HBe抗原の状態が陽性か陰性かにかかわらず,治療内容は同じであるというのであるから,結局,HBe抗原陽性慢性肝炎とHBe抗原陰性慢性肝炎とで,治療方針に本質的な相違があるとは認 められず,治療 e抗原の状態が陽性か陰性かにかかわらず,治療内容は同じであるというのであるから,結局,HBe抗原陽性慢性肝炎とHBe抗原陰性慢性肝炎とで,治療方針に本質的な相違があるとは認 められず,治療対象が異なるとの事実は,前記認定を左右しない。 (ウ) 以上のとおりであるから,前記(イ)にかかる原告らの主張は,いずれも採用することができない。 (3) 原告らの具体的な病状ア原告Aについて (ア) 前提事実及び証拠(甲B357-16・22・101~104,原告A 本人)によれば,原告Aについて,概要,平成2年9月頃,ALT値が1491になったこと,その後入院して,同年12月頃までに,慢性肝炎と診断されて入院治療を受けたこと,退院後の平成3年1月頃,ALT値及びDNAポリメラーゼが低下してセロコンバージョンしたものの,間もなくいずれも上昇し,同年7月頃,リバースセロコンバージョンが生じて, 平成8年5月頃まではALT値の異常値と,DNAポリメラーゼの上昇が認められたこと,平成8年6月頃,再びセロコンバージョンし,平成9年6月頃までの間,ALT値は30以下を維持し,DNAポリメラーゼ又はHBV-DNA量は陰性を維持したこと,平成10年2月頃にALT値が265に再上昇し,平成18年4月頃までの間,HBe抗原陰性の状態で, ALT値の異常値が持続し,HBV-DNA量も低ウイルス量から中ウイルス量の間で推移したこと,その頃,原告Aは核酸アナログ製剤(ラミブジン)の服用を開始し,その後しばらくして,ALT値は正常値となり,HBV-DNA量も陰性となったこと,の各事実が認められる。その詳細は別紙12(原告Aの病状等について)の「1 具体的病状」記載のとお りである。 (イ) ,ALT値は正常値となり,HBV-DNA量も陰性となったこと,の各事実が認められる。その詳細は別紙12(原告Aの病状等について)の「1 具体的病状」記載のとお りである。 (イ) 前記認定事実によれば,原告Aは,遅くとも平成2年12月14日までに,HBe抗原陽性慢性肝炎を発症し,以後,平成8年5月頃までの間,HBe抗原のセロコンバージョンとリバースセロコンバージョンを繰り返し,ALT値及びウイルス量も増減を繰り返していた。そして,平成8 年6月頃にセロコンバージョンした後,同年7月6日から平成9年6月28日までの間において,原告Aがガイドラインの定義を満たす非活動性キャリアに該当するか否かは医療記録上明らかでないものの,上記期間中,原告Aが,医師から「もう大丈夫だろう」と言われて,薬の服用等治療を受けることなく経過観察のみを続けていたこと,上記期間中測定されたA LT値とHBV-DNA量はいずれも基準値未満であったことからすれ ば,この間,原告Aは,慢性肝炎が鎮静化していたものと認めるのが相当である。 そして,平成10年2月7日には,HBe抗原陰性の状態であったものの,ALT値が265と急激に上昇し,ウイルスも再増殖するようになっているから,同時点において,HBe抗原が陰性の状態で,慢性肝炎が再 発したと認めるのが相当である。さらにその後,ALT値の異常値が継続し,HBV-DNAも度々検出されていたところ,原告Aが,平成18年4月より核酸アナログ製剤の使用を開始したことから,平成18年5月頃からウイルス増殖が抑制され,これに伴い,平成19年2月以降はALT値も正常値にまで下降し,以後は1年に1回程度,ALT値が異常値を示 し,あるいはウイルスが検出されることがあるものの 5月頃からウイルス増殖が抑制され,これに伴い,平成19年2月以降はALT値も正常値にまで下降し,以後は1年に1回程度,ALT値が異常値を示 し,あるいはウイルスが検出されることがあるものの,いずれも,おおむね,ALT値については正常値の間で,HBV-DNA量は陰性の状態で推移するようになっていることが認められる。 したがって,原告Aは,平成2年12月頃(●●歳)までに慢性肝炎を発症して,約7年半にわたってセロコンバージョンとリバースセロコンバ ージョンを繰り返した後,平成8年6月頃には鎮静化に至ったものの,約1年半後の平成10年2月頃(●●歳)より,HBe抗原陰性の状態のまま,B型肝炎ウイルスが再増殖し,慢性肝炎が再発して持続するようになったものであるから,原告Aについて,当初発症した慢性肝炎(本件基礎事情①)が,鎮静化後にHBe抗原陰性の状態で慢性肝炎を再発した(本 件基礎事情③)ということができる。 イ原告Bについて(ア) 前提事実及び証拠(甲B840-8・17・101,乙A7,原告B本人)によれば,原告Bについて,概要,平成5年2月頃,ALT値が148になったこと,同月頃,入院して「慢性活動性肝炎」と診断され,イン ターフェロン治療を受けたこと,退院中はALT値が1385まで増加し たこと,退院後,平成6年1月頃にセロコンバージョンし,DNAポリメラーゼ又はHBV-DNAも陰性となり,ALT値は,平成11年頃までは31から81までの間で推移したものの,平成12年1月から平成18年3月頃までは,平成16年7月14日に47となったほかは,検査施設の基準値以内(45以下)で推移したこと,平成18年4月頃,ALT値 が3524に増悪して入院治療を受けるようになっ ら平成18年3月頃までは,平成16年7月14日に47となったほかは,検査施設の基準値以内(45以下)で推移したこと,平成18年4月頃,ALT値 が3524に増悪して入院治療を受けるようになったが,同年5月頃には検査施設の基準値以内(45以下)となったこと,同月から平成22年1月頃までは,ALT値は17から44までの間(検査値の基準値は42)で推移し,HBV-DNA量もおおむね低値で推移したこと,平成22年5月頃,ALT値が56に上昇し,核酸アナログ製剤(エンテカビル)の 服用を開始したこと,上記セロコンバージョンの後,検査結果において,HBe抗原陰性,HBe抗体陽性の状態を維持していること,の各事実認められる。その詳細は別紙13(原告Bの病状等について)の「1 具体的病状」記載のとおりである。 (イ) 前記認定事実によれば,原告Bは,遅くとも平成5年2月22日まで に慢性肝炎を発症し,平成6年1月26日までにセロコンバージョンし,その後,しばらくは慢性肝炎が持続したものの,B型肝炎ウイルスの増殖力が徐々に低下して,平成12年1月頃までにはALT値も検査施設の基準で正常値になったものと認められる。そして,このときから,再びALT値が異常値となった平成16年7月14日までの間において,原告Bが, 本件定義の非活動性キャリアに該当するか否かは,医療記録上明らかでないものの(別紙4),上記期間中,原告Bが経過観察を受けていたこと,その一方で,原告Bが服薬等の治療を受けたことを認めるに足りる証拠はないこと,上記期間中測定されたALT値とHBV-DNA量はいずれも検査施設の基準値未満であったことからすれば,平成12年1月頃から平成 16年7月14日までの間,原告Bは,慢性肝炎が鎮静化していたものと 測定されたALT値とHBV-DNA量はいずれも検査施設の基準値未満であったことからすれば,平成12年1月頃から平成 16年7月14日までの間,原告Bは,慢性肝炎が鎮静化していたものと 認めるのが相当である。 その後,平成16年7月14日には低値ながらALT値が異常値となり,同年10月6日には,ALT値は正常値であったものの,HBV-DNA量が3.7と低値ながら基準値を超えていたことも併せて考えれば,同年7月14日頃,原告Bの体内でB型肝炎ウイルスが再増殖し,HBe抗原 陰性の状態で,慢性肝炎が再発したことが認められる。他方,平成16年10月6日のHBV-DNA量は上記のとおり低値であること,同日から平成18年3月8日までの間は,ALT値の異常値が認められないことに加え,原告Bが服薬等の治療を受けたことを認めるに足りる証拠はないことを併せて考えれば,医療記録上,上記期間中のHBV-DNA量の推移 は明らかでないものの,平成16年7月頃増殖したB型肝炎ウイルスは,免疫応答により抑え込まれ,慢性肝炎は再び鎮静化したものと認めるのが相当である。 さらに,平成18年4月13日には,原告BのALT値が3524の異常高値となったこと,入院治療を受けたこと,約1か月後にALT値が正 常値まで下がったことに照らせば,平成18年4月頃,HBe抗原陰性の状態で,慢性肝炎が再発し,約1か月で鎮静化したことが認められる。 また,平成18年5月24日から平成22年1月27日までの間は,ALT値は検査施設の基準でおおむね正常値を示していたが,HBV-DNA量については,おおむね低ウイルス量から中ウイルス量の間で推移して おり,この間,ウイルスの増殖が再活性化し,平成22年5月12日以降 査施設の基準でおおむね正常値を示していたが,HBV-DNA量については,おおむね低ウイルス量から中ウイルス量の間で推移して おり,この間,ウイルスの増殖が再活性化し,平成22年5月12日以降は8か月にわたりALT値が異常値を示すようになっているから,遅くとも平成22年5月12日までに,HBe抗原陰性の状態で,慢性肝炎が再発したことが認められる。そして,同月より核酸アナログ製剤の使用を開始したことから,ウイルス増殖が抑制され,これに伴い,ALT値も検査 施設の基準で正常値のまま推移するようになったものと認められる。 したがって,原告Bは,平成5年2月22日頃(●●歳)までに慢性肝炎を発症して,平成6年頃セロコンバージョンし,平成12年1月頃に鎮静化に至ったものの,その後,HBe抗原陰性の状態のまま,平成16年7月頃より,再増殖したB型肝炎ウイルスに対する慢性肝炎の再発を繰り返すようになったものであるから,平成22年5月12日(●●歳)に, HBe抗原陰性の状態で生じた慢性肝炎は,当初発症した慢性肝炎(本件基礎事情①)が,鎮静化後に再発したもの(本件基礎事情③)ということができる。 ウ原告Cについて(ア) 前提事実及び証拠(甲B1138-8・22・101・102,原告C 本人)によれば,原告Cについて,概要,昭和56年8月28日,ALT値が229を示したことから,慢性B型肝炎と診断されたこと,昭57年3月頃から平成3年8月頃までの間は,ALT値は1から40までの間で推移し,平成4年8月頃ALTが202となり,その後29(ただし,検査施設の基準では異常値)まで下降したものの,平成5年8月6日には5 4に上昇し,同年9月8日には113まで上昇したこと,平成5年12月 4年8月頃ALTが202となり,その後29(ただし,検査施設の基準では異常値)まで下降したものの,平成5年8月6日には5 4に上昇し,同年9月8日には113まで上昇したこと,平成5年12月10日から平成9年8月13日までの間は,ALT値は検査施設の基準で正常値,DNAポリメラーゼもおおむね基準値内で推移したこと,平成10年3月頃から同年9月頃までの間は,ALT値が44から67までの間で推移し,DNAポリメラーゼも基準値を超えたこと,平成10年11月 頃から平成14年6月頃までは,ALT値が,10から98までの間で上昇と下降を繰り返し,HBV-DNA量はおおむね中ウイルス量で推移し,HBe抗原の陽性化が認められたこと,同年7月から平成16年7月頃までは,ALT値が40から149までの間で推移したこと,原告Cは,平成16年8月5日に核酸アナログ製剤(ラミブジン)の服用を開始し,同 年9月には再びセロコンバージョンが見られ,その後,同年11月から平 成17年4月7日頃までの間,ALT値は検査施設の基準で正常値,HBV-DNA量は基準値未満で推移したこと,平成17年4月21日から同年12月頃までの間,ALT値が最大747まで,HBV-DNA量が高ウイルス量まで,それぞれ上昇したこと,原告は,平成18年11月頃,ラミブジンの服用を中止し,平成19年10月頃,他の核酸アナログ製剤 (エンテカビル)の服用を開始し,翌11月頃からはALT値及びHBV-DNA量が正常値を維持していること,の各事実が認められる。その詳細は別紙14(原告Cの病状等について)の「1 具体的病状」記載のとおりである。 (イ) 前記認定事実によれば,原告Cは,昭和56年8月28日頃までに慢 性肝炎との診断を受けているものの,A 14(原告Cの病状等について)の「1 具体的病状」記載のとおりである。 (イ) 前記認定事実によれば,原告Cは,昭和56年8月28日頃までに慢 性肝炎との診断を受けているものの,ALT値の異常が6か月以上継続したことを裏付ける証拠はなく,遅くとも昭和57年4月1日にはセロコンバージョンし,その頃から平成4年8月頃までは,漢方薬を服用したほかは定期的に検査を受けていた中で,ALT値は,正常値か,異常値であっても低値でとどまっていたのであるから,上記期間のDNAポリメラーゼ 又はHBV-DNA量は明らかでないものの,ウイルス量も低値にとどまっていたものと推認できる。他方,平成4年8月13日にはALT値が200を超え,その後も,検査施設の基準値によれば1年以上ALT値の異常が続いたというのであるから,遅くとも平成5年8月6日頃までに慢性肝炎を発症したものと認められ,平成5年12月10日から平成9年2月 頃までの間は,ALT値が施設の基準で正常値内,DNAポリメラーゼも基準値未満であったことから,慢性肝炎が鎮静化していたものと認めるのが相当である。 そして,平成9年8月頃から,ウイルスの増殖が再活性化するようになり,平成10年9月29日には慢性肝炎が再発して,以後,平成14年6 月11日までの間,数か月ごとに,肝炎を繰り返し,一時的にはリバース セロコンバージョンも生じていたことが認められる。 さらに,平成14年7月12日からは,ALT値の上昇が持続するようになったところ,原告Cがラミブジンの服用を開始すると,ウイルス増殖が抑制され,ALT値が正常となって,遅くとも平成16年頃には再びセロコンバージョンが生じものの,遅くとも平成18年11月頃までにはラ ミブジンの耐 がラミブジンの服用を開始すると,ウイルス増殖が抑制され,ALT値が正常となって,遅くとも平成16年頃には再びセロコンバージョンが生じものの,遅くとも平成18年11月頃までにはラ ミブジンの耐性株が出現して,ウイルス増殖が抑制できなくなり,平成19年10月頃,原告Cがエンテカビルの服用を開始すると,ウイルス増殖が再び抑制され,ALT値も正常となったものと認められる。 したがって,原告Cは,昭和56年8月28日頃(●●歳)までに慢性肝炎を発症して慢性肝炎となり,昭和57年4月までにはセロコンバージ ョンが生じて慢性肝炎が鎮静化したものの,平成4年頃,HBe抗原陰性の状態のまま慢性肝炎が再発した。そして,平成5年から約4年間は慢性肝炎が鎮静化したものの,平成10年頃から慢性肝炎が再発し,変動的な炎症の中で,リバースセロコンバージョンが生じ,その後,平成14年7月12日(●●歳)から,ALT値の持続的な上昇より慢性肝炎の再発に 至ったものとあるところ,同日再発した慢性肝炎(本件基礎事情③)は,HBe抗原の状態が陰性か陽性かは不明であるものの,当初発症した慢性肝炎(本件基礎事情①)が,鎮静化した後に生じたものであるということができる。 エ原告Dについて (ア) 前提事実及び証拠(甲B1201-8・10・14・15・101・102,原告D本人)によれば,原告Dについて,概要,遅くとも平成元年2月頃までに慢性肝炎を発症したこと,平成3年4月頃から同年12月頃までは,HBe抗原陽性の状態で,ALT値は30以下となることがあったものの,おおむね32から292までの間で推移したこと,平成4年1 月9日から平成17年4月頃までの間は,HBe抗原陽性又は判断保留若 しくは「±」と判定 30以下となることがあったものの,おおむね32から292までの間で推移したこと,平成4年1 月9日から平成17年4月頃までの間は,HBe抗原陽性又は判断保留若 しくは「±」と判定された状態で,ALT値が,数か月おきに30以下から83までの間で上昇と下降とを繰り返したこと,同年9月頃から平成21年11月頃までの間は,HBe抗体は陽性の状態を維持していたものの,HBe抗原の状態は陰性から陽性,陽性から陰性と変動し,ALT値は28から62までの間で,HBV-DNA量は中程度で推移したこと,平成 21年1月13日にセロコンバージョンしたものの,平成22年3月13日から平成22年10月頃までの間,ALT値は異常値のままであり,HBV-DNA量も中程度を維持し,平成23年2月以降はALT値の正常値が持続するようになり,同年6月以降はHBV-DNA量がおおむね3未満を維持するようになったこと,の各事実が認められる。その詳細は別 紙15(原告Dの病状等について)の「1 具体的病状」記載のとおりである。 (イ) 前記認定事実によれば,原告Dは,遅くとも平成元年2月6日までに慢性肝炎を発症した。そして,平成17年4月15日までの間は,HBe抗原が陰性の状態とならないまま,ALT値及びウイルス量は増減を繰り 返し,両者が正常値を維持することはあったものの,これが持続した期間は最大で9か月程度であった。その後,平成17年9月6日に初めてセロコンバージョンが生じたが,平成22年2月6日までの間,ALT値は上昇と下降を繰り返し,ALT値が4年程度正常値を維持した間も,HBV-DNA量は中ウイルス量を維持し,HBe抗原の状態も陽性と陰性の間 で推移していた上,平成22年3月から同年10月まではALT値が異常値と し,ALT値が4年程度正常値を維持した間も,HBV-DNA量は中ウイルス量を維持し,HBe抗原の状態も陽性と陰性の間 で推移していた上,平成22年3月から同年10月まではALT値が異常値となっていたものと認められる。 そして,平成22年12月4日以降は,ALT値は異常値を示さなくなったものの,HBV-DNA量は,低ウイルス量を維持し,陰性化には至らなかったため,原告Dは,平成25年8月13日から核酸アナログ製剤 の服用を開始し,これによりウイルス増殖が抑制されるようになったこと が認められる。 そうすると,原告Dが当初慢性肝炎を発症してから,平成23年4頃までの間,ALT値,DNAポリメラーゼ又はHBV-DNA量及びHBe抗原は,正常値又は陰性と,異常値又は陽性の状態を繰り返し,これらがいずれも正常値又は陰性の状態を1年以上維持したことはなかったとい うのであるから,この間,慢性肝炎が鎮静化した時期があったと認めることはできず,原告Dは,当初慢性肝炎を発症した後,6年以上にわたって,慢性肝炎が長期持続し,平成25年9月頃からは,核酸アナログ製剤の効果によって,慢性肝炎が鎮静化しているものと認めるのが相当である。 したがって,原告Dは,平成元年2月6日(●●歳)に慢性肝炎を発症 した後(本件基礎事情①),6年以上にわたり,慢性肝炎が長期持続した(本件基礎事情②)ものということができる。 オ原告Eについて(ア) 前提事実及び証拠(甲B1450-4~6・15・101,原告E本人)によれば,原告Eについて,概要,ALT値が上昇していることが分 かって平成5年3月に入院した際,肝炎の発症と診断されたこと,同年4月から平成9年7月5日までの間,HB ・101,原告E本人)によれば,原告Eについて,概要,ALT値が上昇していることが分 かって平成5年3月に入院した際,肝炎の発症と診断されたこと,同年4月から平成9年7月5日までの間,HBe抗原は陽性の状態で,ALT値は,30以下となることがあったものの,3か月以上継続したことはなく,おおむね異常値で推移し,300を超えることもあったこと,平成9年7月5日にはHBe抗体陽性の状態となり,同月17日にALTが44とな った後,平成10年1月頃まで,ALT値は30以下で推移し,以後,平成18年頃までの間,原告Eは経過観察を行っていないこと,平成18年3月に受けた健康診断において,ALT値が200を超えており,同年4月の検査ではHBe抗原は陰性の状態であったこと,原告Eは,平成20年7月頃,核酸アナログ製剤の服用を開始し,以後ALT値は正常を維持 していること,の各事実が認められる。その詳細は別紙16(原告Eの病 状等について)の「1 具体的病状」記載のとおりである。 (イ) 前記認定事実によれば,原告Eは,遅くとも平成5年9月22日までに慢性肝炎を発症し,一時的にALT値が正常値となることはあったものの,平成9年7月5日頃までは,おおむね肝炎が持続し,同月17日頃から平成18年3月頃までは,ALT値は正常値であったものと認められる。 また,医療記録上,平成18年4月6日以前にセロコンバージョンが生じていたか否かは明らかでないものの,平成9年7月5日にはHBe抗体陽性の状態となっており,その後ALT値が正常化したことからすれば,遅くとも,ALT値が再上昇する平成18年3月以前にセロコンバージョンが生じていたと認めるのが相当である。そして,平成9年7月頃から平成 18年3月頃までのDNAポリ 常化したことからすれば,遅くとも,ALT値が再上昇する平成18年3月以前にセロコンバージョンが生じていたと認めるのが相当である。そして,平成9年7月頃から平成 18年3月頃までのDNAポリメラーゼ又はHBV-DNA量は明らかでないものの,ALT値が正常であったのであるから,ウイルス量も低値にとどまっていたものと推認でき,この間,原告Eは,慢性肝炎が鎮静化していたものと認めることができる。 そして,平成18年3月2日からは再びALT値が上昇し,HBV-D NA量も中ウイルス量となっていたものであるから,同時点において,慢性肝炎が再発し,遅くとも同年4月6日にはHBe抗原陰性慢性肝炎の状態となったものと認めるのが相当である。 その後,ALT値の異常値が継続したところ,原告Eが,平成20年7月31日より核酸アナログ製剤の使用を開始したことから,同日以降ウイ ルス増殖が抑制され,これに伴い,ALT値は,同日以降,正常値にまで下降し,正常値内で推移するようになっていることが認められる。 したがって,原告Eは,平成5年9月22日(●●歳)までに慢性肝炎を発症し,慢性肝炎が4年程度継続した後,平成9年7月以降はこれが鎮静化していたが,平成18年3月頃(●●歳)より,HBe抗原陰性の状 態で,B型肝炎ウイルスが再増殖し,慢性肝炎が再発してALT値の上昇 が持続するようになったものであるから,同月にHBe抗原陰性の状態で生じた慢性肝炎は,当初発症した慢性肝炎(本件基礎事情①)が,鎮静化後に再発したもの(本件基礎事情③)ということができる。 3 争点3(除斥期間の起算点)(1) 除斥期間の起算点の考え方について ア(ア) 民法724条後段は,被害者側の認識の 後に再発したもの(本件基礎事情③)ということができる。 3 争点3(除斥期間の起算点)(1) 除斥期間の起算点の考え方について ア(ア) 民法724条後段は,被害者側の認識のいかんを問わず一定の時の経過によって法律関係を確定させるため,請求権の存続期間を画一的に定めた,除斥期間の規定であると解される(最高裁平成元年12月21日判決・民集43巻12号2209頁)。 そして,同条後段は,その起算点を「不法行為の時」と規定しており, 加害行為が行われた時に,その損害と牽連一体をなす範囲について損害賠償請求権が成立し,加害行為の時が,その起算点となると考えられる。 他方,身体に蓄積した場合に人の健康を害することとなる物質による損害(蓄積進行性)や,一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる損害(遅発性)のように,当該不法行為により発生する損害の性質上,加害行為が 終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には,損害の発生を待たずに除斥期間の進行を認めることは,被害者にとって著しく酷であるし,また,加害者としても,自己の行為により生じ得る損害の性質からみて,相当の期間が経過した後に被害者が現れて,損害賠償の請求を受けることを予期すべきであると考えられるから,当該損害の全部又は一 部が発生した時に,当該損害についての損害賠償請求権が成立し,その時が,除斥期間の起算点となると解される(最高裁平成16年4月27日第三小法廷判決・民集58巻4号1032頁,最高裁平成16年10月15日第二小法廷判決・民集58巻7号1802頁参照)。 (イ) これを,B型肝炎ウイルスに持続感染して慢性肝炎を発症した場合に ついてみると,乳幼児期にB型肝炎ウイルスに持続感染した場合, 第二小法廷判決・民集58巻7号1802頁参照)。 (イ) これを,B型肝炎ウイルスに持続感染して慢性肝炎を発症した場合に ついてみると,乳幼児期にB型肝炎ウイルスに持続感染した場合,肝炎が 発症しない無症候性キャリアの状態が十数年以上続き,実際に炎症が生じるのは成人期に達してからである(前提事実(1)ア(ウ),エ(ア))というのであるから,慢性肝炎を発症したことによる損害は,その性質上,加害行為が終了してから相当期間が経過した後に発生するものと認められ,その除斥期間の起算点は,加害行為(本件予防接種等)の時ではなく,損害が 発生した時ということになる(最高裁平成18年6月16日第二小法廷判決・民集60巻5号1997頁〔平成18年判決〕)。 イそして,不法行為による損害は,牽連一体をなす範囲,すなわち相当因果関係の範囲内で全損害が発生し,加害行為が終了してから相当期間経過した後に発生する損害についても,加害行為の時点で,これと相当因果関係にあ る損害の範囲が客観的には確定され得るのであり,損害発生時から損害が進行・拡大したとしても,加害行為時にその発生を予見することが可能であったものについては,当初の損害の賠償請求権に含まれるものということができ,除斥期間の起算点は,最初の損害が発生した時となるものと解される。 もっとも,最初の損害から進行・拡大した損害であっても,それが最初の損 害と質的に異なるものであるときには,最初に発生した損害とは別個の新たな損害賠償請求権が成立したと評価し得るのであり,当該損害が発生した時から除斥期間が起算されることになるものと解される(最高裁平成6年2月22日第三小法廷判決・民集48巻2号441頁〔平成6年判決〕参照。)。 本件でいえば,本件予防接種 該損害が発生した時から除斥期間が起算されることになるものと解される(最高裁平成6年2月22日第三小法廷判決・民集48巻2号441頁〔平成6年判決〕参照。)。 本件でいえば,本件予防接種等(加害行為)によりB型肝炎ウイルスに感 染した後,相当期間を経て慢性肝炎が発症すること(本件基礎事情①)で,原告らに当初の損害が発生したことになる。そして,前記2の認定判断のとおり,現代の医学では,B型肝炎とは,80~90%の症例において予後が良好であるものの,発症した慢性肝炎が長期間にわたり持続し,あるいは鎮静化しても慢性肝炎が再発することにより,線維化が進行して肝硬変や肝が んにまで進展するリスクを,生涯にわたり保有し続ける疾患であると認識さ れていることからすれば,慢性肝炎の長期持続は,それが6年以上にわたるものであっても,また,慢性肝炎の再発があっても,これらは,医学的にみて,慢性肝炎の進行・拡大として,一般に想定されるものといえる。そうすると,慢性肝炎の発症の時点で,慢性肝炎の長期持続による損害は,当初の損害発生時(加害行為時)にその発生を予見することが可能な損害というべ きである。 原告らについても,慢性肝炎を発症して以降,ALT値の異常値が継続する間は経過観察を受けており,慢性肝炎が鎮静化した者については,鎮静後も経過観察を継続し,あるいは経過観察は行わなかったものの,慢性肝炎の再発が想定外の病状として扱われた形跡もないのであるから,慢性肝炎の長 期持続又は再発はいずれも想定されていたものといえ,これを予見できなかったということはできない。 したがって,慢性肝炎の6年以上にわたる長期持続(本件基礎事情②)及び慢性肝炎の再発(本件基礎事情③)に基づく損害は,最初に発症した慢 いえ,これを予見できなかったということはできない。 したがって,慢性肝炎の6年以上にわたる長期持続(本件基礎事情②)及び慢性肝炎の再発(本件基礎事情③)に基づく損害は,最初に発症した慢性肝炎(本件基礎事情①)による損害と牽連一体のものということができる。 ウこれに対して,原告らは,当初の損害が進行・拡大したにすぎない損害であっても,その後にこれが進行・拡大するかを医学的に確定することができず,そのため,当初の損害発生時点では,その進行・拡大した場合の賠償を求めることが不可能な場合には,現実に損害が進行・拡大した時点を除斥期間の起算点とすべきである旨主張する。 その趣旨は,後の損害である慢性肝炎の6年以上にわたる長期持続(本件基礎事情②)又は慢性肝炎の再発(本件基礎事情③)による各損害が,最初の損害である慢性肝炎の発症(本件基礎事情①)とは質的に異なる損害であるとの主張とも解され,そうであれば後に検討するが,上記主張が,本件基礎事情②又は同③による損害の発生を予見不可能とする趣旨の主張である とすれば,かかる主張を採用することはできない。すなわち,前記2のとお り,慢性肝炎の性質上,これを最初に発症(本件基礎事情①)した時点で,その後の経過として,慢性肝炎の長期持続や慢性肝炎の再発が想定されるのであり,慢性肝炎の持続期間や,再発の有無・時期等を具体的に認識できないことは,牽連一体をなす範囲で損害賠償請求権が成立することを妨げないし,民法724条後段が,当事者の主観を要件としていないことに照らして も,原告らに具体的な予見可能性がなかったというだけで損害が発生していなかったということはできない。 したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 エ以 ことに照らして も,原告らに具体的な予見可能性がなかったというだけで損害が発生していなかったということはできない。 したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 エ以下,慢性肝炎の長期持続又は再発による損害が,最初の慢性肝炎発症による損害と質的に異なるものといえる事情があるかをみることとする。 (2) 慢性肝炎の発症(本件基礎事情①)に係る損害と慢性肝炎の6年以上にわたる長期持続(本件基礎事情②)又は慢性肝炎の再発(本件基礎事情③)に係る各損害は,質的に異なる損害といえるかア(ア) 不法行為における損害が,加害行為がなければ被害者が現在置かれていたであろう仮定的事実状態と加害行為がされたために被害者が置かれ ている現実の事実状態の差をいうものであることからすれば,損害が質的に異なるといえるかについては,事実状態の差に対する法的評価として,被害の状態や被害回復の在り方などの諸事情を総合考慮して,経験則に従って判断されるべきものと解される。 (イ) 被告の主張について 被告は,質的に異なる損害について,病状に基づく損害に対する法的評価が異なってしかるべき事情と捉え,当該事情としては,前後の損害の基礎をなす病状を医学的観点から比較して,類型的な軽重の相違がある場合,又は,前後の損害を比較して,各損害に対応する病状に損害額の算定にも影響するような看過できない差異がある場合に限られる旨主張する。 なるほど,損害の基礎となる事実状態において,医学的知見から異なる 事実(疾病,病状等)と評価し得るのであれば,法的評価として質的に異なるものといい得ることがあろうし,損害額の算定において大きな差異があるような基礎事情,例えば,病状や被害 見から異なる 事実(疾病,病状等)と評価し得るのであれば,法的評価として質的に異なるものといい得ることがあろうし,損害額の算定において大きな差異があるような基礎事情,例えば,病状や被害者の置かれた状況等に差異があれば,やはり,法的評価として質的に異なるといい得ることがあろうが,質的に異なる損害が,上記二つの類型が認められる場合にとどまるとまで 限定的に解すべきかは疑問であり,平成6年判決のじん肺訴訟における判断をみても,質的に異なる損害の基礎事情とされているのは,じん肺法上の管理区分に該当する各病状に係る損害に,医学的にみて差異があるという点だけではなく,じん肺法が,医学的にはじん肺という一つの疾患の中の病状について,その進展を防ぐために取るべき対策である健康管理方法 等に区分を設けたこと自体にもあると考えられるのであって,質的に異なる損害か否かについては,医学的見地のみならず,社会的事実も考慮すべきものであると解される。 したがって,被告の上記主張は上記限度で採用することができない。 イそこで,まず,医学的見地から,慢性肝炎の6年以上にわたる長期持続(本 件基礎事情②)や,慢性肝炎の再発(本件基礎事情③)が,最初に発症した慢性肝炎(本件基礎事情①)と質的に異なるといえるかをみると,前記2の認定判断のとおり,医学的には,慢性肝炎の長期持続又は再発は,いずれも最初に発症した慢性肝炎の病状の一部である上,HBe抗原の有無や,持続期間に応じた,特段の取扱いがなされているともいえないのであるから,抽 象的に,慢性肝炎の6年以上にわたる長期持続や,慢性肝炎の再発という事実のみを捉えて,医学的見地から,質的に異なる損害が生じたものと評価することはできない。 ウ次に,医学的見地以外 象的に,慢性肝炎の6年以上にわたる長期持続や,慢性肝炎の再発という事実のみを捉えて,医学的見地から,質的に異なる損害が生じたものと評価することはできない。 ウ次に,医学的見地以外の事情から,上記慢性肝炎の6年以上にわたる長期持続(本件基礎事情②)又は慢性肝炎の再発(本件基礎事情③)に係る各損 害が,当初発症した慢性肝炎(本件基礎事情①)と質的に異なるといえるか をみる。 前提事実及び後掲証拠によれば,以下の事実が認められる。 (ア) 基本合意説明書全国B型肝炎訴訟原告団・弁護団及び被告は,平成23年6月28日,基本合意に際し,基本合意書の解釈・運用について疑義が生じた場合には, 札幌地方裁判所が平成23年1月11日及び同年4月19日に,双方に提示した各「基本合意書(案)についての説明」(以下,同年1月11日に提示されたもの〔乙A86〕を「基本合意説明書」という。)の記載を十分尊重する旨合意した。(顕著事実)基本合意説明書においては,「慢性肝炎」の病状の区分にあるもののう ち,肝機能障害が鎮静化している者に係る和解金額について,「慢性肝炎について,一般に,B型肝炎ウイルスに持続感染した者は,その後,肝炎を発症しても,ほとんどはやがて沈静化し,中には,肝炎の発症を自覚しない者もいるといわれているが,本人も周囲も肝炎の発症に気付かずに沈静化した場合に,その者が訴訟において過去に慢性肝炎となったことを立 証しうるとはいささか考え難いことから,本基本合意案にあたって実際上考慮していたのは,肝炎の発症を自覚した者の受けた苦痛その他の損害に見合う和解金の額のいかんである。」,「この点,やがて沈静化しうるB型肝炎は,同じウイルス性肝炎であっても,発症 案にあたって実際上考慮していたのは,肝炎の発症を自覚した者の受けた苦痛その他の損害に見合う和解金の額のいかんである。」,「この点,やがて沈静化しうるB型肝炎は,同じウイルス性肝炎であっても,発症後肝硬変等に移行することの多いC型肝炎と同列に論じることはできないが,他方において,肝炎の 発症により,感染による損害とは質的に異なる損害,すなわち,少なくとも肝機能障害のある間は継続する死に対する現実的,具体的な恐怖や,発症前を上回る社会生活上の差別的取扱その他の被害による損害が発生するであろうこと,また,沈静化した後においても,一定の率で肝がんとなる危険があることから,たとえ肝機能障害が沈静化したとしても,その損 害に見合う和解金の額は,いわゆるC型肝炎救済特別措置法におけるC型 肝炎ウイルスの無症候性キャリアに対する給付金の額を下回るべきではないと考えた。」とされている。(乙A86)(イ) 障害等級の認定厚生労働省の,胸腹部臓器の障害認定に関する専門検討会は,平成16年頃,認定基準等の見直しのための検討を行った結果,慢性肝炎の鎮静化 については,ALT値が持続的に正常であることは医学的には慢性肝炎の病状が進行しないことを意味するとして,B型肝炎ウイルスが陰性化していなくても,ALT値が持続的に正常である場合に限り治癒とすることが適当であり,他方,ALT値が基準値を超え,持続的に高値を示した場合は,加療を要することから,再発として取り扱うことが適当であるとの趣 旨の報告をした。(甲A72)また,同検討会は,障害等級について,慢性肝炎(ウイルスの持続感染が認められ,かつ,AST値,ALT値が持続的に基準値を超えないものに限る。)は第11級相当であり,代償性肝硬変(ウ )また,同検討会は,障害等級について,慢性肝炎(ウイルスの持続感染が認められ,かつ,AST値,ALT値が持続的に基準値を超えないものに限る。)は第11級相当であり,代償性肝硬変(ウイルスの持続感染が認められ,かつ,AST値,ALT値が持続的に基準値を超えないものに 限る。)は第9級相当であり,非代償性肝硬変については,治療が不可欠であることから治癒として障害認定することは適当でないと報告した。この点について,同検討会は,代償性肝硬変は,通常自覚症状はないものの,肝機能の低下は慢性肝炎にとどまっている場合よりも明らかに高いから,持続的に肝機能検査値が基準値を超えない場合にあっても,生活等におい て,慢性肝炎よりも高度の制限が必要と考えられると説明している。(甲A72,73)(ウ) じん肺についてa じん肺とは,粉じんを吸入することによって肺に生じた線維増殖性変化を主体とする疾病をいう(じん肺法第2条1号)。 b じん肺は,肺内の粉じんの量に対応し,これが存在する限り進行する, 特異な疾患であり,その病変は不可逆的であり,現在の医学では治療は不可能である。(弁論の全趣旨)c じん肺法は,エックス線写真像と肺機能障害の程度の組み合わせによる,管理1から管理4までの「じん肺管理区分」(じん肺法4条2項)を,都道府県の労働局長が決定する手続を定めている(じん肺法13条)。 管理区分の決定を受けた労働者を雇用する事業者は,同管理区分に従い,健康管理のための措置として,当該労働者について,作業時間の短縮や,作業転換を行う義務を負う。また,管理4と決定された労働者等は,療養を要するものとされる(じん肺法20条の2~23条)。 ,健康管理のための措置として,当該労働者について,作業時間の短縮や,作業転換を行う義務を負う。また,管理4と決定された労働者等は,療養を要するものとされる(じん肺法20条の2~23条)。 エ前提事実(4)及び前記ウで認定した事実によれば,㋐肝硬変については, これを慢性肝疾患という,本来は慢性肝炎と連続した病状の一部とする見解はあるものの(Iの意見書〔乙A68〕),深刻な肝機能障害をもたらし,肝がんなどのリスクが慢性肝炎とは明らかに異なるなどの点から,肝硬変を,医学的にみて,慢性肝炎と異なる病状として,治療方針等において異なる扱いをすることが共通認識となっていたこと,㋑慢性肝炎については,平成元 年頃までには,B型肝炎という長期進行性の疾患においては,その経過の中で,慢性肝炎の長期持続又は再発といった病状が予測されることが医学的に明らかとなっていたものの,B型肝炎ウイルスを体内から排除することは困難であり,一たび慢性肝炎を発症した患者は,生涯にわたり肝硬変や肝がんに進展するリスクを保有し続けると考えられていること,㋒基本合意におい ては,慢性肝炎と肝硬変が区別され,また,肝硬変は,更に軽度と重度とで区別されたのに対し,慢性肝炎は,提訴までに20年を経過したか否かで区別がされる一方,軽重や鎮静化の有無など,症状の程度による区別はされず,むしろ,肝炎が生じている間に継続する死に対する現実的恐怖や差別的取扱いその他の被害による損害をも含めて,その損害額が検討されていたこと, ㋓障害等級の認定においては,慢性肝炎が鎮静化した場合が,第11級相当 と,代償性肝硬変については,これと区別されて第9級相当と扱われていることが認められる。 これらの事実は,慢性肝炎が,長期持続又は再発の可能性のあ 静化した場合が,第11級相当 と,代償性肝硬変については,これと区別されて第9級相当と扱われていることが認められる。 これらの事実は,慢性肝炎が,長期持続又は再発の可能性のある疾患であること(上記㋑)を踏まえ,その発症後に,確定的な進行は予測できないものの,慢性肝炎による肝細胞の壊死・炎症や線維化の程度は個人差が大きく, 特定の病期に対応するものではない上,線維化は可逆的であることから,じん肺のように進行の程度に応じた救済を図ることは困難であると認識されており,慢性肝炎において,肝硬変に至らない段階については将来のリスクを含めた損害評価を同じくするものとして一括した対応を図ることとされたものであると理解できる。 そうすると,慢性肝炎の6年以上にわたる長期持続(本件基礎事情②)や,慢性肝炎の再発(本件基礎事情③)は,いずれも慢性肝炎の発症(本件基礎事情①)により予測できる経過であり,他方,肝硬変については,同様に予測可能な経過ではあるものの,少なくとも,医学的観点から比較して,慢性肝炎とは類型的な軽重の相違のある病状であることが医学的な共通認識と されていた上,障害等級の認定の手続や基本合意の趣旨においても,その治療及び補償を含めた対応について,慢性肝炎と肝硬変とを別の枠組みとして扱うこととし,慢性肝炎の長期持続又は再発については,じん肺の管理区分や肝硬変のような段階に応じた特段の枠組みとして扱うことはせず,さらに基本合意において慢性肝炎が現に長期持続していても発症から20年で除 斥期間に係る扱いをしていたのであり,また,多中心性発生による肝がんを再発した場合に,肝がんを再発した時期を肝がんの発症の時期とみなすなどの合意が取り交わされたのに対して,慢性肝炎の長期持続又は再発につ 間に係る扱いをしていたのであり,また,多中心性発生による肝がんを再発した場合に,肝がんを再発した時期を肝がんの発症の時期とみなすなどの合意が取り交わされたのに対して,慢性肝炎の長期持続又は再発について,格別の定めがされておらず,かえって,慢性肝炎の発症後は,肝硬変に至る前の段階として,死への恐怖や社会的制約の負担などについて一体のものと して考えられていたのであるから,社会的には,B型肝炎ウイルスキャリア については,慢性肝炎を発症した後,肝硬変又は肝がんに至るまでの過程が,慢性肝炎という一個の病状として認識されているものと認めるのが相当であり,その期間が6年以上にわたっても,また,慢性肝炎が鎮静化後に再発しても,変わるところはない。そうすると,慢性肝炎の長期持続や慢性肝炎の再発を,当初の慢性肝炎の発症と区別する社会的事実と認めることはでき ない。なお,原告は,基本合意や特措法などの解釈が規範的意味をもつものではない旨主張するが,前記認定判断のとおり,それらの規範性ではなく,その成立経緯や受け止めをめぐる事実を考慮するものであって,採用することはできない。 したがって,社会的にみても,慢性肝炎の6年以上にわたる長期持続(本 件基礎事情②)又は慢性肝炎の再発(本件基礎事情③)は,いずれも慢性肝炎の経過の一部分であって,それぞれを,さらに区別して取り扱うべき「質的に異なる損害」ということはできない。 オ原告らの主張について(ア) 慢性肝炎発症時点で将来請求が不可能であったとの主張について 原告らは,時効期間・除斥期間の起算点については,損害の客観的な異質性を殊更重視するべきではなく,じん肺の事案と同様に,損害立証の困難性こそを考慮すべきであるとし,原告らが最初 原告らは,時効期間・除斥期間の起算点については,損害の客観的な異質性を殊更重視するべきではなく,じん肺の事案と同様に,損害立証の困難性こそを考慮すべきであるとし,原告らが最初に慢性肝炎を発症した時点において,生じるかどうかを確定できない将来の慢性肝炎の長期持続又は再発に係る各損害が認容される余地はなかった旨主張する。 確かに,原告らの症例は,B型肝炎ウイルスキャリアの中で,比較的発症する割合の低いものであり,現代の医学では,慢性肝炎を発症した時点において,その後の具体的経過(当該慢性肝炎がどの時点からどの程度長期持続し,又はセロコンバージョンして鎮静化した後に再発するかどうか)を確定することはできない。 しかしながら,発症する割合が低く,また,その時期,内容が具体的に 確定できないからといって,損害賠償を求める余地がないとはいえない。 すなわち,前記2(1)イのとおり,遅くとも平成元年頃にはHBe抗原が陰性化しても予後の悪い症例が確認されていたのであり,慢性肝炎の上記性質を踏まえても,本件を含むB型肝炎に関する損害賠償請求で広く行われているように,慢性肝炎が発症した時点で,将来のリスクを考慮して行 う包括一律請求の方法により損害賠償を求めることは可能であったと考えられるし,また,前記2(1)ウのとおり,慢性肝炎の長期持続又は再発についても,高リスク因子が把握されるようになっているのであるから,数年の臨床経過に基づいて,慢性肝炎の長期持続又は再発の蓋然性を立証することは可能であったというべきである(その損害についても,肝硬変 に至るまでの,病状の進展への不安や社会的制約を受けることの負担などについて,一体として捉えられていたのであるから,具体的な損害の賠 は可能であったというべきである(その損害についても,肝硬変 に至るまでの,病状の進展への不安や社会的制約を受けることの負担などについて,一体として捉えられていたのであるから,具体的な損害の賠償を求めることもできたといえる。)。原告らについても,慢性肝炎の長期持続又は再発が現実に生じるまで,将来請求を行う術がなかったということはできない。 (イ) 基本合意の経過について原告らは,基本合意説明書の記載からすれば,基本合意及び基本合意(その2)において,「慢性肝炎」の病状として想定されていたのは,B型肝炎ウイルスキャリアの大多数が辿る,慢性肝炎の発症後に間もなくセロコンバージョンが生じて鎮静化する症例であった旨主張する。 しかしながら,当時の知見に照らせば,慢性肝炎について,これが長期持続し又は再発する可能性があることは明らかとなっていたのであるから(前記2(1)イ),これを黙示的に除外するとは通常考えられず,他に,基本合意において,慢性肝炎の長期持続や,再発事例を除外したと認めるに足りる証拠もない。 したがって,原告らの上記主張は採用できない。 (ウ) 障害等級の認定について原告らは,障害等級の認定において,慢性肝炎の鎮静化が「治癒」として扱われ,また,鎮静化後のALT値の上昇が「再発」として扱われていることから,少なくとも社会的には慢性肝炎の長期持続又は再発は,最初の慢性肝炎とは別の病状として扱われている旨主張する。 しかしながら,上記取扱いは,ウイルスが体内に存在する限り医学的には治癒に至らないものの,当面の病状の進展が考え難い状態に至っている慢性肝炎患者について,症状固定と同様に扱うことで救済を図ろ しかしながら,上記取扱いは,ウイルスが体内に存在する限り医学的には治癒に至らないものの,当面の病状の進展が考え難い状態に至っている慢性肝炎患者について,症状固定と同様に扱うことで救済を図ろうとする趣旨に基づくものと解されるところ,慢性肝炎が長期持続し,又は再発後に鎮静化した場合でも障害等級は変わらないのであり,慢性肝炎の長期持 続又は再発に係る病状を,最初の慢性肝炎とは別の病状として取り扱っているものではないから,障害等級の認定において上記取扱いがされていることは,上記エの認定判断を左右しない。原告らの上記主張は採用できない。 (エ) じん肺について 原告らは,じん肺の事案において,医学的には一つの病状が進行・拡大したケースであるにもかかわらず,管理区分に応じた取扱いがされている旨主張する。 なるほど,じん肺もまた,B型肝炎と同様に,病状の進行の速度や程度などが多様であり,具体的に予後が予測できない疾患であって,特定の時 点の病状をとらえた際に,その病状が今後どの程度まで進行するのかはもとより,進行しているのか,固定しているのかすらも,現在の医学では確定できないとされる。その上で,しかもその病変は不可逆的であることから,患者の救済を図るべく,病状の進行程度等に応じて行政上の管理区分が設けられている。B型肝炎においても,病態として異なるか否かの異論 はあるにしても,病状の進行程度等の医学的観点から,あるいは病状や患 者の受ける社会生活上の制約や精神的負担を含めた観点から,基本合意等により,慢性肝炎,肝硬変(重度,軽度),肝がんなどの区別を設けるだけでなく,多中心性発生による肝がんの再発の場合にはこれを発症の時期とみなすとするなどの取扱いがされ,患者の救済 点から,基本合意等により,慢性肝炎,肝硬変(重度,軽度),肝がんなどの区別を設けるだけでなく,多中心性発生による肝がんの再発の場合にはこれを発症の時期とみなすとするなどの取扱いがされ,患者の救済が図られている。 しかしながら,B型肝炎は,じん肺の病変が不可逆的であるとされてい るのに対し,未だ解明されていない点も多くあるものの,医学の進歩により,病態の解明が進み,B型肝炎ウイルスの増殖を抑え,HBV-DNA量を改善させる治療薬の開発などの対応策が採られるようになってきているのであり,肝機能障害を生じさせる線維化を改善することも可能だとされてきているのであって,不可逆的な疾患ではないのである。しかも, 慢性肝炎を発症したことにより,患者は,その後,長期にわたって,社会生活上の制約や精神的負担を受ける可能性があるが,これに対する補償としては,B型肝炎が多様な経過をたどり得ることから,肝硬変に至る前の,肝硬変や肝がんに至る危険性がある段階として,慢性肝炎の長期持続や慢性肝炎の再発を区別しない一体としての範囲が考えられている。そうする と,じん肺法の扱いを考慮するとしても,基本合意等において区別がされている以上に,慢性肝炎を,6年以上の長期持続のものとそうではないものと区別し,又は最初に発症したものと再発したものと区別して,それぞれ別個の損害と考えることはできない。原告らの上記主張は採用できない。 カさらに,原告らにおいて,当初の慢性肝炎の発症とは別個の新たな損害が 発生したものと認めるべき事情があるかを検討する。 (ア) 原告Aについて前記2(3)アの認定事実と,前提事実並びに証拠(甲B357-101~104,原告A本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告Aについて,慢性肝 検討する。 (ア) 原告Aについて前記2(3)アの認定事実と,前提事実並びに証拠(甲B357-101~104,原告A本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告Aについて,慢性肝炎を発症するまでは,大工で生計を立てていたものの,平成2年にH Be抗原陽性慢性肝炎を発症した後は,大工仕事を続けることが困難とな り,慢性肝炎が持続する中で,平成4年頃から●●販売の営業をするようになったこと,平成8年頃慢性肝炎が鎮静化して,営業成績が向上し,家族旅行などにも行けるようになったこと,平成10年にHBe抗原陰性の状態で慢性肝炎が再発し,これにより,営業成績が下がって収入が減り,平成16年には,肉体的にも精神的にも限界を感じて退職したことが認め られ,その詳細は,別紙12(原告Aの病状等について)の「2 生活状況等」記載のとおりである。 当時の医学的知見及び上記経過に照らせば,最初にHBe抗原陽性慢性肝炎を発症した時点において,原告Aが,その後慢性肝炎を再発するか否かについて確定することはできなかったものの,慢性肝炎が6年近く継続 し,またその間のALT値も1000を超えることもあったなど,症状が軽いとはいえなかったことなどに照らせば,最初に発症した慢性肝炎の経過の中で,今後,慢性肝炎が再発する可能性は具体的に予測でき,少なくともその段階で,今後の慢性肝炎の再発の可能性を含めた将来請求を行うことは可能であったと認めるのが相当である。また,原告Aが,慢性肝炎 の鎮静化後も経過観察を続けていた上,慢性肝炎が再発した際,格別これが想定外の病状であると取り扱われたと認めるに足りる証拠もないことからすれば,原告Aの臨床経過は,慢性肝炎の発症から,セロコンバージョン,そしてリバースセロコンバー ,慢性肝炎が再発した際,格別これが想定外の病状であると取り扱われたと認めるに足りる証拠もないことからすれば,原告Aの臨床経過は,慢性肝炎の発症から,セロコンバージョン,そしてリバースセロコンバージョンを生じるなど,HBe抗原の陽性又は陰性の状態に変化があり,また,ALT値及びHBV-DNA量に も時期によって大きな変化があって,これらにより慢性肝炎としての炎症の程度に違いを来し,それらの間に,治療における負担の程度等に違いはあるものの,慢性肝炎の再発も含めて,当初発症した慢性肝炎という一個の病状の中で予見される経過の中で生じたものということができる。ここにおいて,慢性肝炎の再発という事実(本件基礎事情③)をもって,当初 の慢性肝炎の発症(本件基礎事情①)とは別の社会的事実ということはで きず,他に,社会的に,これを別の症状として扱うべき事情も認められない。 したがって,原告Aについて,HBe抗原陰性の状態での慢性肝炎の再発(本件基礎事情③)に係る損害が,当初の慢性肝炎の発症(本件基礎事情①)に係る損害とは質的に異なると認めることはできない。 (イ) 原告Bについて前記2(3)イの認定事実と,前提事実並びに証拠(甲B840-101~107,原告B本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告Bについて,慢性肝炎を発症するまでは,●●会社に勤め,●●●の資格を取得して生計を立てていたものの,平成5年にHBe抗原陽性慢性肝炎を発症して入院 治療を受けるなどした後は,●●●の資格を喪失したこと,平成12年頃慢性肝炎が鎮静化し,仕事を普通にこなし,●●●●の競演会にも参加できるようになったこと,平成16年頃から慢性肝炎が再発するようになり,平成30年には肉体的に限界を感じて退職し たこと,平成12年頃慢性肝炎が鎮静化し,仕事を普通にこなし,●●●●の競演会にも参加できるようになったこと,平成16年頃から慢性肝炎が再発するようになり,平成30年には肉体的に限界を感じて退職したことが認められ,その詳細は,別紙13(原告Bの病状等について)の「2 生活状況等」記載のと おりである。 当時の医学的知見及び上記経過に照らせば,最初にHBe抗原陽性慢性肝炎を発症した時点において,原告Bが,その後慢性肝炎を再発するか否かについて確定することはできなかったものの,慢性肝炎が10年以上継続し,またその間のALT値も1000を超えることもあったなど,症状 が軽いとはいえなかったことなどに照らせば,最初に発症した慢性肝炎の経過の中で,今後,慢性肝炎が再発する可能性は具体的に予測でき,少なくともその段階で,今後の慢性肝炎の再発の可能性を含めた将来請求を行うことは可能であったと認めるのが相当である。また,原告Bが,慢性肝炎の鎮静化後も経過観察を続けていた上,慢性肝炎が再発した際,格別こ れが想定外の病状であると取り扱われたと認めるに足りる証拠もないこ とからすれば,原告Bの臨床経過は,慢性肝炎の発症から,セロコンバージョンを生じるなど,HBe抗原の有無に変化があるものの,引き続きALT値が変化し,核酸アナログ製剤を継続して服用する必要があって,これらの間,慢性肝炎としての炎症の程度に違いを来してはいるものの,慢性肝炎の再発も含めて,当初発症した慢性肝炎という一個の病状の中で予 見される経過の中で生じたものということができる。ここにおいて,慢性肝炎の再発という事実(本件基礎事情③)をもって,当初の慢性肝炎の発症(本件基礎事情①)とは別の社会的事実ということはできず,他に,社会的に,これを 生じたものということができる。ここにおいて,慢性肝炎の再発という事実(本件基礎事情③)をもって,当初の慢性肝炎の発症(本件基礎事情①)とは別の社会的事実ということはできず,他に,社会的に,これを別の症状として扱うべき事情も認められない。 したがって,原告Bについて,HBe抗原陰性の状態での慢性肝炎の再 発(本件基礎事情③)に係る損害が,当初の慢性肝炎の発症(本件基礎事情①)に係る損害とは質的に異なると認めることはできない。 (ウ) 原告Cについて前記2(3)ウの認定事実と,前提事実並びに証拠(甲B1138-101~103,原告C本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告Cについて, 慢性肝炎を発症するまでは,子供二人をもうけて家庭生活を送っていたこと,昭和56年頃慢性肝炎を発症し,やがて鎮静化したものの,平成4年頃に慢性肝炎が再発して,負担を感じながら生活していたこと,平成5年頃には再び慢性肝炎が鎮静化し,主治医からはもう大丈夫だという趣旨のことを言われ,外出やキャリアアップのための活発な行動が増えたほか, 仕事の後に片道1時間をかけて夫の両親の介護のために病院に通うなどしていたこと,平成10年頃からしばしば慢性肝炎が再発するようになり,仕事,家事及び介護に支障が生じたこと,平成16年頃からは,介護を続けることは困難となり,夫の両親は介護施設に入居せざるを得なくなったことが認められ,その詳細は,別紙14(原告Cの病状等について)の「2 生活状況等」記載のとおりである。 当時の医学的知見及び上記経過に照らせば,最初に慢性肝炎を発症した時点において,原告Cが,その後慢性肝炎を再発するか否かについて確定することはできなかったものの,最初に慢性肝炎を発症した約 当時の医学的知見及び上記経過に照らせば,最初に慢性肝炎を発症した時点において,原告Cが,その後慢性肝炎を再発するか否かについて確定することはできなかったものの,最初に慢性肝炎を発症した約10年後に慢性肝炎が再発し,さらにこれが鎮静化して5年後に慢性肝炎が再発していたことなどに照らせば,上記各再発の段階で,今後の慢性肝炎の再発の 可能性を含めた将来請求を行うことは可能であったと認めるのが相当である。また,原告Cが,慢性肝炎の鎮静化後も経過観察を続けていた上,慢性肝炎が再発した際,格別これが想定外の病状であると取り扱われたと認めるに足りる証拠もないことからすれば,原告Cの臨床経過は,慢性肝炎の発症から,セロコンバージョンを生じるなど,HBe抗原有無に変化 があるものの,引き続きALT値が変化し,核酸アナログ製剤を服用する必要を生じるなど,これまでの間,慢性肝炎としての炎症の程度に違いを来してはいるものの,慢性肝炎の再発も含めて,当初発症した慢性肝炎という一個の病状の中で予見される経過の中で生じたものということができる。ここにおいて,慢性肝炎の再発という事実(本件基礎事情③)をも って,当初の慢性肝炎の発症(本件基礎事情①)とは別の社会的事実ということはできず,他に,社会的に,これを別の症状として扱うべき事情も認められない。 したがって,原告Cについて,HBe抗原陰性の状態での慢性肝炎の再発(本件基礎事情③)に係る損害が,当初の慢性肝炎の発症(本件基礎事 情①)に係る損害とは質的に異なると認めることはできない。 (エ) 原告Dについて前記2(3)エの認定事実と,前提事実並びに証拠(甲B1201-101・102,原告D本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告Dについて,慢性 できない。 (エ) 原告Dについて前記2(3)エの認定事実と,前提事実並びに証拠(甲B1201-101・102,原告D本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告Dについて,慢性肝炎を発症するまでは,製薬会社の営業部に所属して順調な営業成績 を上げていたこと,平成元年頃,HBe抗原陽性慢性肝炎を発症し,平成 4年頃入院してインターフェロン治療を受けるなどしたものの,セロコンバージョンが生じず,体調の悪化により仕事に支障が生じたこと,その後も,子供と一緒に遊ぶことができないほどの不調を感じながら,懸命に仕事に励んでいたこと,平成25年頃に核酸アナログ製剤の服用を開始するまで,慢性肝炎の鎮静化はみられなかったことが認められ,その詳細は, 別紙15(原告Dの病状等について)の「2 生活状況等」記載のとおりである。 当時の医学的知見及び上記経過に照らせば,最初に慢性肝炎を発症した時点において,原告Dについて,慢性肝炎が長期持続するか否かについて確定することはできなかったものの,最初にHBe抗原陽性慢性肝炎を発 症した後,インターフェロン治療が必要と診断された上,これが功を奏せず,10年以上もの間HBe抗原陽性の状態のままであり,ALT値も度々異常値を示していたことなどに照らせば,最初に発症した慢性肝炎の経過の中で,今後,慢性肝炎が再発する可能性は具体的に予測でき,少なくともその段階で,今後の慢性肝炎の長期持続又は再発の可能性を含めた 将来請求を行うことは可能であったと認めるのが相当である。また,原告Dは,長年セロコンバージョンが生じないまま,入院治療を受けたほか,経過観察を受けていたところ,原告Dの慢性肝炎が長期持続した点について,格別,想定外の病状であると取り扱われたと認める 。また,原告Dは,長年セロコンバージョンが生じないまま,入院治療を受けたほか,経過観察を受けていたところ,原告Dの慢性肝炎が長期持続した点について,格別,想定外の病状であると取り扱われたと認めるに足りる証拠もないことからすれば,原告Dの臨床経過は,慢性肝炎の発症から,セロコン バージョン,そしてHBe抗体陽性の状態のままHBe抗原陽性の状態になるなど,HBe抗原の有無に変化があり,また,ALT値及びHBV-DNA量にも時期によって大きな変化があって,核酸アナログ製剤を継続して服用する必要があるなど,慢性肝炎としての炎症の程度に違いを来してはいるものの,当初発症した慢性肝炎という一個の病状の中で予見され る経過の中で生じたものということができる。ここにおいて,慢性肝炎の 6年以上にわたる長期持続という事実(本件基礎事情②)をもって,当初の慢性肝炎の発症(本件基礎事情①)とは別の社会的事実ということはできず,他に,社会的に,これを別の症状として扱うべき事情も認められない。 したがって,原告Dについて,慢性肝炎の6年以上にわたる長期長期持 続(本件基礎事情②)に係る損害が,当初の慢性肝炎の発症(本件基礎事情①)に係る損害とは質的に異なると認めることはできない。 (オ) 原告Eについて前記2(3)オの認定事実と,前提事実並びに証拠(甲B1450-4・101~103,原告E本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告Eについて, 慢性肝炎を発症するまでは,研究職として会社に入社して生計を立て,結婚を機に退職したところ,平成5年頃にHBe抗原陽性慢性肝炎を発症し,平成9年頃,慢性肝炎が鎮静化したこと,その際,医師からは,セロコンバージョンしたと告げられるとともに,これからは大丈夫だ て,結婚を機に退職したところ,平成5年頃にHBe抗原陽性慢性肝炎を発症し,平成9年頃,慢性肝炎が鎮静化したこと,その際,医師からは,セロコンバージョンしたと告げられるとともに,これからは大丈夫だよ,治るよ,などと言われ,今後再発する可能性についての説明は受けなかったこと, その後約9年近く,検診や通院をせず,仕事やボランティア活動に取り組むなどしていたこと,平成18年に慢性肝炎を再発し,夫の経営する●●医院への支障を考え,県外の病院への通院を続け,核酸アナログ製剤の費用の助成を受けられないでいることが認められ,その詳細は,別紙16(原告Eの病状等について)の「2 生活状況等」記載のとおりである。 当時の医学的知見及び上記経過に照らせば,最初にHBe抗原陽性慢性肝炎を発症した時点において,原告Eが,その後慢性肝炎を再発するか否かについて確定することはできなかったものの,セロコンバージョンが生じないまま慢性肝炎が4年以上継続し,またその間のALT値も300以上を超えることが度々あり,症状が軽いとはいえなかったことなどに照ら せば,医師が再発の可能性について特段の説明をしなかったことを踏まえ ても,最初に発症した慢性肝炎の経過の中で,今後,慢性肝炎が再発する可能性は具体的に予測でき,少なくともその段階で,今後の慢性肝炎の再発の可能性を含めた将来請求を行うことは可能であったと認めるのが相当である。また,原告Eについて,慢性肝炎が再発した際,格別これが想定外の病状であると取り扱われたと認めるに足りる証拠もないことから すれば,原告Eの臨床経過は,慢性肝炎の発症から,セロコンバージョンを生じるなど,HBe抗原の有無に変化があり,また,ALT値及びHBV-DNA量にも時期によって大きな変化があって いことから すれば,原告Eの臨床経過は,慢性肝炎の発症から,セロコンバージョンを生じるなど,HBe抗原の有無に変化があり,また,ALT値及びHBV-DNA量にも時期によって大きな変化があって,8年にわたり通院を要しせず,その後ALT値が変化し,核酸アナログ製剤を服用する必要を生じるなど,これらにより慢性肝炎としての炎症の程度に違いを来し,そ れらの間に,治療における負担の程度等に違いはあるものの,慢性肝炎の再発も含めて,当初発症した慢性肝炎という一個の病状の中で予見される経過の中で生じたものということができる。ここにおいて,慢性肝炎の再発という事実(本件基礎事情③)をもって,当初の慢性肝炎の発症(本件基礎事情①)とは別の社会的事実ということはできず,他に,社会的に, これを別の症状として扱うべき事情も認められない。 したがって,原告Eについて,HBe抗原陰性の状態での慢性肝炎の再発(本件基礎事情③)に係る損害が,当初の慢性肝炎の発症(本件基礎事情①)に係る損害とは質的に異なると認めることはできない。 キ小括 (ア) 前記アからカまでのとおりであり,原告らの慢性肝炎が6年以上にわたって長期持続し(本件基礎事情②),又は慢性肝炎が再発したこと(本件基礎事情③)をもって,原告らに,当初の慢性肝炎の発症(本件基礎事情①)とは質的に異なる損害が発生したものと認めることはできない。 したがって,いずれの原告についても,本件基礎事情②及び③に係る損 害賠償請求権は,除斥期間が経過しているといわざるを得ない。 (イ) 原告らは,法や法解釈が,被害者の犠牲の上に加害者を救済するという不合理な結果をもたらすものであってはならない旨主張する。 原告 ているといわざるを得ない。 (イ) 原告らは,法や法解釈が,被害者の犠牲の上に加害者を救済するという不合理な結果をもたらすものであってはならない旨主張する。 原告らは,前記認定のとおり,B型肝炎ウイルスに感染して,慢性肝炎を発症して以降,B型肝炎ウイルスキャリアとして,症状の改善を図り,増悪を防ぐための負担はもとより,社会生活の中で様々な制約を受けるこ とになり,精神的,肉体的のみならず,経済的にも負担を負い,また,原告らの家族等においても,同様の負担があったことが認められる。原告らにおいては,慢性肝炎を発症(本件基礎事情①)して以降,その6年以上にわたる長期持続(本件基礎事情②)又は再発(本件基礎事情③),そしてこれらに伴う上記制約や負担と闘い,健康を回復させ,家族や社会とのつ ながりを回復することこそが最も重要な目標であり,加害者に対して損害賠償を求めるために闘うことが最も重要なことではなかったということができる。その結果,B型肝炎という遅発性の健康被害に係る事案であり,かつ,進行等や見通しが必ずしも具体的に予測できず,長期にわたって経過観察や,治療を継続しなければならない病状に係る損害について,上述 のとおり,法理論的には,慢性肝炎を発症(本件基礎事情①)することにより,同時点で,その6年以上にわたる長期持続(本件基礎事情②)又は再発(本件基礎事情③),そしてこれらに伴う上記制約や負担について,賠償を求めることができるものの,原告らにおいては,上記制約や負担は大きく,これと闘いながら損害賠償を求めることは,困難な面があったも のと推察される。その意味で,本件が,法的安定を目的とし,権利の失効を定める除斥期間を適用することが相応しい事案であったとはいい難い。 しかしながら, 害賠償を求めることは,困難な面があったも のと推察される。その意味で,本件が,法的安定を目的とし,権利の失効を定める除斥期間を適用することが相応しい事案であったとはいい難い。 しかしながら,そのような事情をもってしても,法的安定性を求める法の建前を崩すまでの事情として,汲むことはできないのである。原告らの上記主張は採用することができない。 4 以上からすれば,慢性肝炎の6年以上にわたる長期持続(本件基礎事情②)又 は慢性肝炎の再発(本件基礎事情③)に係る各損害が,当初の慢性肝炎が発生した時(本件基礎事情①)に発生していなかったとみることはできず,原告らの個別事情を踏まえても,原告らの請求は,いずれの請求も除斥期間が経過しているから,争点4(原告らの損害の程度)について検討するまでもなく,いずれも理由がない。 第4 結論以上のとおり,原告らの請求にはいずれも理由がないから,主文のとおり判決する。 福岡地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官足立正佳 裁判官永田早苗 裁判官川上タイは,転補のため,署名押印することができない。 裁判長裁判官足立正佳 別紙1~16 [※省略]

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