主文 1 原告が、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。 2 被告は、原告に対し、113万7298円及びうち27万2898円に対する令和5年12月26日から支払済みまで、うち43万2200円に対する令 和6年1月26日から支払済みまで、うち43万2200円に対する同年2月26日から支払済みまで、年3パーセントの割合による金員を支払え。 3 被告は、原告に対し、令和6年3月から本判決確定の日まで毎月25日限り43万2200円及びこれらに対する各弁済期日の翌日から各支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 4 被告は、原告に対し、57万3300円及びこれに対する令和5年12月26日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 5 被告は、原告に対し、令和6年2月から本判決確定の日まで毎年6月25日限り57万3300円及びこれらに対する各弁済期日の翌日から各支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 6 被告は、原告に対し、令和6年2月から本判決確定の日まで毎年12月25日限り57万3300円及びこれらに対する各弁済期日の翌日から各支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 7 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 8 訴訟費用は、これを5分し、その1を原告の、その余を被告の負担とする。 9 この判決は、2項ないし6項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求1項から6項まで主文同旨。 7 被告は、原告に対し、令和6年2月から本判決確定の日まで、毎年3月末日 限り13万0528円及びこれらに対する各弁済期日の翌日から各支払済みま で年3パーセントの割合による金員を支払え。 原告に対し、令和6年2月から本判決確定の日まで、毎年3月末日 限り13万0528円及びこれらに対する各弁済期日の翌日から各支払済みま で年3パーセントの割合による金員を支払え。 8 被告は、原告に対し、165万円及びこれに対する令和5年12月9日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は、被告の運営する特別養護老人ホーム恵楽園(以下「本件施設」とい う。)で勤務していた原告が、被告が原告に対してした令和5年12月8日付け懲戒解雇(以下「本件懲戒解雇」という。)につき、名目は原告の勤務時の言動を懲戒事由とするものであるが、実際には原告が高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく通報をしたことを理由にされたものであって、同法(以下「高齢者虐待防止法」という。)21条7項に反して無 効であり、仮にそうでなくても、原告には懲戒事由とされた言動はなく、又は懲戒解雇事由には当たらないから、労働契約法15条及び16条によりやはり無効であると主張して、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、未払及び本判決確定日までの期間に支払われるべき将来分の賃金・手当の支払を求め、また、上記通報を理由とした懲戒解雇を したことが不法行為に該当するとして、損害賠償金165万円及び金銭請求についてはこれらに対する各弁済期の翌日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による各遅延損害金の支払を請求する事案である。 1 前提事実本件訴訟に対する判断の前提となる事実は、以下のとおりであって、当事者 に争いがないか、括弧内に挙示する証拠又は弁論の全趣旨によって認めることができ、この認定を妨げる証拠はない。 ⑴ 原告及び被告と に対する判断の前提となる事実は、以下のとおりであって、当事者 に争いがないか、括弧内に挙示する証拠又は弁論の全趣旨によって認めることができ、この認定を妨げる証拠はない。 ⑴ 原告及び被告との労働契約の概要原告は看護師資格を有する者であり、平成30年4月1日、本件施設で看護及び機能訓練業務に従事することを仕事内容として、被告との間で労働契 約を締結した。 労働契約の詳細条件は以下のとおりである。 ア仕事の内容看護及び機能訓練業務イ基本給 36万2900円なお、令和5年12月当時、原告には、本俸38万2200円、精勤手当5万円が支給されていた。 ウ賃金支払日毎月25日(賃金締切日は当月末日)⑵ 被告及び本件施設の人員状況等被告は特別養護老人ホームである本件施設等を運営している社会福祉法人である。 本件施設は、施設入所者の定員が50名であり、看護師として原告及び原 告の上司に当たるA看護主任(以下「A」といい、原告と併せて「原告ら看護師」ということがある。)の2名、介護士として20名程度が配置されていた(甲4)。 ⑶ 入所者に対する拘束等に関する定め及び本件施設における不適切な身体拘束 ア入所者に対する拘束等に関する定め本件施設においては、条例により、入所者又は他の入所者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他入所者の行動を制限する行為(以下「身体的拘束等」という。)を行ってはならない(北海道指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準を 定める条例(以下単に「条例」という。)16条4項)とされ、身体的拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の入所者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由を記録しなけ 運営に関する基準を 定める条例(以下単に「条例」という。)16条4項)とされ、身体的拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の入所者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由を記録しなければならず(条例16条5項)、これを2年間保存しなければならない(条例43条)とされていた。 イ本件施設における不適切な身体拘束 本件施設においては、少なくとも後記の原告による本件通報前、家族等 から同意を得ることも、条例で求められている記録の作成をすることもなく、入所者に対して、上記条例の定めに照らし不適切な身体的拘束等が行われていた。 ⑷ 原告による函館市への通報原告は、令和5年10月13日、自らの妹を通じ、函館市指導監査課に対 し、本件施設において入所者に対する不適切な身体的拘束等の高齢者への虐待行為があるとして通報(以下「本件通報」という。)をした(甲11の1)。 ⑸ 被告による原告に対する自宅待機命令被告は、令和5年10月20日、原告に対し、本件施設の「複数の入所者に対する心理的嫌がらせ、および介護職員に対する何らかの意図をもっての 介護日誌の書き換えの強制、および入所者の救命措置に関する看護日誌と看護記録の記載内容の差異と適切な報告を怠ったことの調査のため」として、自宅待機を命じた(甲9。以下「本件自宅待機命令」といい、本件懲戒解雇と併せて「本件懲戒解雇等」という。)。 ⑹ 原告による被告に対する受任通知(被告が本件通報の存在を認識した時期) 原告は、令和5年12月5日、被告に対し、代理人弁護士の受任通知書を発送し、同通知は、同月7日に被告に到達した(甲11の1、2)。 被告は、遅くとも同通知書の受領によって、本件通報の存在を認識した。 なお、被告が実際に本件通報の存在を認識した時 弁護士の受任通知書を発送し、同通知は、同月7日に被告に到達した(甲11の1、2)。 被告は、遅くとも同通知書の受領によって、本件通報の存在を認識した。 なお、被告が実際に本件通報の存在を認識した時期がこれより前の時点であるか否かについては、後記のとおり争いがある。 ⑺ 本件懲戒解雇被告は、令和5年12月8日、原告が被告の「施設利用者や同僚に対してハラスメント行為を繰り返した」ことを懲戒事由として、本件懲戒解雇をした(被告就業規則50条5号、51条4号。甲2、12)。 本件懲戒解雇に際して原告に交付された懲戒解雇通知書には、就業規則5 0条5号に該当する行為として、原告が本件施設利用者や同僚に対してハラ スメント行為を繰り返した旨記載されている。 ⑻ 被告の就業規則等及び高齢者虐待防止法の規定について本件に関連する被告の就業規則等及び高齢者虐待防止法の規定は、別紙1のとおりである。 別紙1⑵のとおり、高齢者虐待防止法21条1項は、養介護施設従事者等 が、業務に従事している養介護施設において、他の養介護施設従事者等による虐待を受けている高齢者を発見した際には、速やかに市町村に対し通報することを義務付けている。また、同条7項は、養介護施設従事者等は同通報をしたことを理由として解雇その他不利益な取扱いを受けない旨定めており、本件懲戒解雇が本件通報を理由としてされた場合には無効となる。 2 争点及び当事者の主張⑴ 第1の争点は、本件懲戒解雇が本件通報を理由としてされたものであるため高齢者虐待防止法21条7項により無効か否かであるが、この点に関する各当事者の主張は、要旨、以下のとおりである。 (原告の主張) 本件懲戒解雇は、本件通報を理由としてされたものであり、無効である。 本件懲戒解 条7項により無効か否かであるが、この点に関する各当事者の主張は、要旨、以下のとおりである。 (原告の主張) 本件懲戒解雇は、本件通報を理由としてされたものであり、無効である。 本件懲戒解雇は令和5年12月8日に行われているところ、同時期は、原告が本件通報をした同年10月13日の直後であることから、本件通報に対する報復・事実隠ぺいなどの目的で行われたものであるといえる。 なお、被告が本件通報を確知した契機として、原告の母が、令和5年10 月16日午前10時頃、電話で被告代表者と話をし、原告が本件通報をしたことを含め、被告に対する苦情を告げたことが挙げられる。当該電話は、匿名でされたものではあったが、原告に対する不適切な待遇を具体的に指摘しての苦情を含むもので、その中で原告の経歴にも言及したものであるから、原告に親しい者によることが分かるものであった。 被告は、本件通報に先立ち、原告に対する処分に向けた調査が行われてい た旨主張するが、これらの調査は、本件懲戒解雇前から原告を疎んでいた被告が、原告を陥れようとあら捜しを行っていたにすぎず、又は、当時本件施設において死亡した入所者であるBの死亡経過の調査として行われたに過ぎない。 (被告の主張) 本件懲戒解雇が本件通報を理由としてされたものであるとの原告の主張は争う。 被告は、令和5年12月8日の本件懲戒解雇の時点において、本件通報の存在自体認識していなかった。被告が本件通報の事実を認識したのは、前提事実⑹の同月7日受領の原告代理人名義の受任通知によってであるし、同通 知によってもなお、原告のした本件通報の具体的内容及び趣旨は理解できず、これらを把握したのは原告代理人からの同月12日付け通知文書(甲14)によってである。しかも、被告は ってであるし、同通 知によってもなお、原告のした本件通報の具体的内容及び趣旨は理解できず、これらを把握したのは原告代理人からの同月12日付け通知文書(甲14)によってである。しかも、被告は、函館市との間で身体的拘束等についてやりとりをした同月20日になって初めて、本件通報で指摘された事実が真実であることを認識した。なお、原告が主張する原告の母による被告への架電 については、少なくとも被告に対して電話がされた事実はなく、仮に原告の母が原告の待遇等に関し、被告についてなんらかの苦情を述べる電話をかけていたとしても、それは被告とは別法人の経営する医療機関(本件施設の協力病院でもある市立恵山病院)に対してされたものと思われ、いずれにせよ、被告が当該電話によって本件通報の事実を知ったことはない。 本件懲戒解雇は、遅くとも令和5年10月4日から開始された原告の非違行為に関する調査(同月12日及び同年11月7日実施の原告からの聞取りを含む。)を踏まえ、同年11月9日の退職勧奨の後に実施されていることからも明らかなとおり、同月28日付け懲戒委員会で決定したものであり、またその理由も後記⑵の解雇事由のとおりであるから、本件通報とは無関係で ある。 被告は、本件通報を受けた函館市の調査にも誠実に協力し、利用者に対する不適切な拘束があった点については真摯に認めて謝罪し、再発が生じないように対策を講じており、本件通報を理由に、原告に対して報復に及ぶ動機はない。 ⑵ 第2の争点は、本件懲戒解雇が、労働契約法15条及び16条により無効 であるか否か(原告の予備的主張の当否)であるが、この点に関する各当事者の主張は、要旨、以下のとおりである。 (被告の主張)本件懲戒解雇は、原告が本件施設において、別紙2「被告 により無効 であるか否か(原告の予備的主張の当否)であるが、この点に関する各当事者の主張は、要旨、以下のとおりである。 (被告の主張)本件懲戒解雇は、原告が本件施設において、別紙2「被告の主張」欄のとおり、原告が日常的に「社会福祉施設の職員としてふさわしくない非行」(就 業規則50条5号)に該当する行為をしたことを理由とするもので(以下、別紙2の「被告の主張」アないしタの非違行為を「本件非違行為ア」等といい、併せて「本件各非違行為」という。)、これらの行為は高齢者虐待にも該当しうるような、本件施設の利用者の生命・身体に危険を及ぼすものである上、ほかの職員に対しても心身の苦痛を与えるものであり、本件施設の運営 を継続するにあたって看過できない重大な行為であって、その程度は重い。 また、原告は、自己の不適切な言動について同僚介護職員から指摘を受けた際にも取り合わず、また、被告からの聞取りの際にもなお、入所者に対する不適切な呼称を継続する等、もはや改善の余地が認められない状況にあり、職務への適性を完全に欠いていた。以上のとおり、本件解雇は客観的に合理 的な理由に基づく社会的相当性のある有効なものである。 (原告の主張)被告の主張する本件各非違行為についての原告の主張は別紙2「原告の主張」のとおりであり、この点を措いても、原告は本件各非違行為のうち多くの言動をしておらず、また、原告がした言動についても懲戒解雇が妥当する ような不適切性をはらんだものはない。そのため、仮に、本件懲戒解雇が本 件通報以外の事実を理由としたものであるとしても、本件懲戒解雇には客観的に合理的な理由がなく、無効である。 ⑶ 第3の争点は、本件懲戒解雇が無効であった場合に、原告に認められる金銭請求の範囲であるが、この点に 事実を理由としたものであるとしても、本件懲戒解雇には客観的に合理的な理由がなく、無効である。 ⑶ 第3の争点は、本件懲戒解雇が無効であった場合に、原告に認められる金銭請求の範囲であるが、この点に関する当事者の主張は、要旨、以下のとおりである。 (原告の主張)原告の給与等に関する雇用条件は前提事実⑴イ、ウ及び別紙1就業規則イのとおりであり、原告は、被告に対し、民法536条2項に基づき、請求の趣旨2項ないし7項のとおりの賃金・期末手当・業績手当及びこれらに対する遅延損害金請求権を有する。 (被告の主張)争う。 ⑷ 第4の争点は、本件懲戒解雇等の不法行為該当性であるが、この点に関する当事者の主張は、要旨、以下のとおりである。 (原告の主張) 本件自宅待機命令及び本件懲戒解雇は、いずれも原告が本件通報をしたことを理由としてされたもので、高齢者虐待防止法21条7項に違反した違法な不利益取扱いであり不法行為を構成する。 原告は、上記不法行為により、生活の基盤を大きく破壊され、厚生年金や健康保険の被保険者資格も失い、自宅待機命令によって生じた身体的不調に ついて病院を受診できるのか不安を覚えることとなった。原告が上記不法行為に被った精神的苦痛を金銭に評価すれば150万円を下ることはなく、同不法行為と相当因果関係を有する損害は、これに弁護士費用として15万円を加えた165万円である。 (被告の主張) 争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ⑴ Bの死亡及びその後の被告の対応等ア令和5年4月25日、入所者であるBが死亡した(争いなし)。 イ被告においては、遅くとも令和5年10月には、Bが死亡した経緯 の事実が認められる。 ⑴ Bの死亡及びその後の被告の対応等ア令和5年4月25日、入所者であるBが死亡した(争いなし)。 イ被告においては、遅くとも令和5年10月には、Bが死亡した経緯について調査が開始され、同月12日及び本件自宅待機命令後の同年11月7日には、原告に対する聞取り調査が実施された(甲36、38)。 ウ被告は、令和5年10月18日、それまで行われていた利用者Cに対するベッドの壁付けによる移動の制限を解除した(乙8)。 エ被告は、令和5年10月24日頃、函館指導監査課に電話し、原告ら看護師が利用者に対して不適切なケアをしている旨報告した(甲31、被告代表者本人)。 ⑵ 原告に対する懲戒委員会の開催被告は、令和5年11月28日、原告の処分を決める懲戒委員会を開催し た。当該委員会において、懲戒事由として挙げられたのは、5つの事案であり、2事案は原告の服薬介助における心理的虐待、1事案は落薬の頻発、1事案は原告の落薬を報告した介護職員の叱責、1事案は利用者の体調不良報告に対する不適切な対応及び当該対応に関し、自己に有利な記録を残そうと介護職員が作成した介護日誌を書き直させたことであった。委員会において は、原告や対象入所者に対し聞取りを行った結果、上記不適切言動が認められ、職場復帰の余地はなく懲戒解雇が相当であるとされた。(甲17、乙27の1・2、被告代表者)⑶ 原告に対する退職勧奨被告代表者は、令和5年11月9日、原告に対し面談で直接に、また、同 月29日には本件自宅待機中の原告との電話において、原告に対し、有給休 暇の消化や金銭の支払を伴う退職を提案して、退職勧奨をした(甲38)。被告は、同月29日の退職勧奨においては、解雇予告手当相当の1か月分の給与 告との電話において、原告に対し、有給休 暇の消化や金銭の支払を伴う退職を提案して、退職勧奨をした(甲38)。被告は、同月29日の退職勧奨においては、解雇予告手当相当の1か月分の給与保証、残有給の被告による買い上げ、11月分の給与保証の合計として110万円ほどの支払を提案し、原告が難色を示し復職意思を示すと、その150万円まで支払額を上乗せすることを提案し、これに対し、原告は12月 8日までにあらためて回答するとした(甲10、32)。 なお、退職勧奨に関するやり取りにおいて、本件通報に関する言及はなかった。 ⑷ 本件施設における身体拘束に関する報道等令和6年2月21日、マスコミによる報道において、本件施設においては、 入所者のベッドを柵で囲ったり、下半身をシーツやタオルできつく巻いたりするなどして身動きをとれないようにする行為が日常的に行われ、介護保険法などで原則禁止されている身体拘束が不適切に行われている疑いがあり、函館市が調査している状況で、被告代表者が「身体拘束があったことは事実で大いに反省しているが、職員が介護に必要と考えて行ったもので、虐待を 指摘されるようなことはしていない」と述べたとされた(甲21)。 被告は、同年2月22日、記者会見を開き、同代表者において、少なくとも2年以上前から8名の入所者に対して不適切な身体拘束をしていたことを認め、全て自らの責任であるとして謝罪した(甲22、24ないし26)。 ⑸ 函館市による調査結果 函館市は、令和6年12月3日、被告に対し、本件施設に関する本件通報について、高齢者虐待防止法に基づく任意調査の結果を通知した(乙29)。 同通知においては、高齢者虐待の疑いがあるとして任意調査が行われ、以下の6点について、虐待又はネグレクトに該当するとさ 本件通報について、高齢者虐待防止法に基づく任意調査の結果を通知した(乙29)。 同通知においては、高齢者虐待の疑いがあるとして任意調査が行われ、以下の6点について、虐待又はネグレクトに該当するとされた。 アベッド柵による入所者の身体拘束(身体的虐待) イ看護職員が服薬介助時に入所者のマスクを乱暴に外したり、指示に従わ ないと服薬を後回しにしたりする不適切な服薬介助を一定期間にわたり複数回繰り返し行っていたこと(心理的虐待)ウ看護職員が、服薬介助時に故意に入所者の手の届かないところに薬を置く行為を一定期間、複数回にわたり繰り返し行っていたこと(心理的虐待)エ 2名の看護職員が、令和5年4月25日、入所者の体調に異変が生じて いたにもかかわらず、少なくとも2時間にわたり入所者の状態観察を怠ったこと(ネグレクト)オ入所者の腰部にタオルやシーツを巻きつけた身体拘束(身体的虐待)カ看護職員が、下剤が処方されていない入所者に他の入所者の下剤を転用していたこと(身体的虐待、ネグレクト) 上記行為のうち、主体を「看護職員」とするものは、いずれも被告が主張する原告の非違行為に対応するもの(それぞれイが別紙非違行為番号ウ、ウが同キ、エが同ア、カが同ス)である。 2 第1の争点(本件懲戒解雇は、本件通報を理由としてされたものであり、高齢者虐待防止法21条7項により無効か否か)について ⑴ 原告は、原告による本件通報がされた直後に本件懲戒解雇がされていることなどから、本件懲戒解雇は、本件通報を理由としてされたものであると主張する。 原告は、令和5年10月13日に函館市に対して本件通報を行っているところ、被告は原告に対して、同月20日に本件自宅待機命令を、同年11月 9日及び2 理由としてされたものであると主張する。 原告は、令和5年10月13日に函館市に対して本件通報を行っているところ、被告は原告に対して、同月20日に本件自宅待機命令を、同年11月 9日及び29日に退職勧奨をそれぞれ行い、同年12月8日に本件懲戒解雇をするに至っている(前提事実⑸、⑺、認定事実⑶)。このように、本件通報と本件懲戒解雇に至る一連の経過が時間的に近接している事実は、本件懲戒解雇が本件通報を理由とするものであることを一定程度推認させるものであることは否定できない。 しかし、本件全証拠によっても、被告が本件自宅待機命令を出した時点や、 懲戒委員会で本件懲戒解雇を決定した時点において、被告において原告による本件通報を認識していたとは認められない(この点についての原告の主張が採用できないのは後記⑵のとおりである。)。 また、本件懲戒解雇に際して原告に交付された懲戒解雇通知書には、就業規則50条5号に該当する行為として、原告が本件施設利用者や同僚に対し てハラスメント行為を繰り返した旨記載され(前提事実⑺)、本件懲戒解雇に先立って被告内部で実施された懲戒委員会でも、原告による非違行為として、利用者への服薬業務の関わる心理的虐待や落薬を繰り返し発生されたことによって健康被害をもたらせたこと、介護職員に対して威圧的に叱責したこと、体調に異変のある利用者についての報告を受けた際に看護師として適切な対 応をしなかったことなどを認定した上で、原告に対する処分を決定している(前提事実⑺、認定事実⑵)。このように、本件懲戒解雇の通知書に記載された解雇事由と、被告内部における検討は、原告による本件施設利用者や同僚へのハラスメント行為を問題としている点で共通しており、原告による本件通報に先立って、被告において、 件懲戒解雇の通知書に記載された解雇事由と、被告内部における検討は、原告による本件施設利用者や同僚へのハラスメント行為を問題としている点で共通しており、原告による本件通報に先立って、被告において、被告の懲戒処分に向けて手続が進行してお り、本件解雇につながったという被告の主張が特段不自然とはいえない。 以上のとおりの本件解雇に至る経緯からすると、本件懲戒解雇が本件通報を理由としている本件通報と本件懲戒解雇に至る経過が時間的に近接していることをもって、本件懲戒解雇が本件通報を理由としていると認めるには未だ不十分であると言わざるを得ない。 ⑵ 原告の主張についてこの点につき、原告は、被告が原告による本件通報の事実を認識したのは、原告の母が令和5年10月16日に被告に電話をした時点である旨主張し、証人D(原告の母)もこれに沿う供述をする。 しかし、原告の母の供述は、客観的な証拠による裏付けを欠くものであり、 原告の母との電話での会話を否定する被告代表者の供述を排斥するほどの証 明力をもたない。また、原告の母の供述を前提としても、原告の母が電話で話した内容は、被告における不適切な身体拘束に対する批判や、原告の待遇についての苦情に留まり、これを超えて、原告の母において、原告が本件通報を行った事実を述べたとは認められない。 また、原告は、被告が令和5年10月18日に入所者のCに対するベッド の壁付けを解除したこと(認定事実⑴ウ)を捉え、これは函館市から事情確認の電話があったことへの対応であり、被告は当該電話によって本件通報の事実を認識したとも主張するが、被告が函館市から電話で本件通報についての告知されたことを認めるに足りる証拠はなく(被告は、Cの壁付けを解除したのは体位交換のためと主張している。)、同 って本件通報の事実を認識したとも主張するが、被告が函館市から電話で本件通報についての告知されたことを認めるに足りる証拠はなく(被告は、Cの壁付けを解除したのは体位交換のためと主張している。)、同主張は採用できない。 これらに加え、被告は、被告が原告による本件通報を認識した時期について、本件懲戒解雇をする前日である同年12月7日である旨主張しており、被告代表者もこれに沿う供述をしていること、原告本人は本件通報について誰にも話していないと述べ、Aも本件通報については自身の家族以外に話していない旨供述していることも併せ考慮すると、被告が本件懲戒解雇に先立 って本件通報の事実を認識していたとは認められない。この点についての原告の主張は採用できない。 3 第2の争点(本件懲戒解雇が、労働契約法15条及び16条に照らして違法無効であるか。)について⑴ 被告の主張する原告の非違行為について 被告は、原告による本件各非違行為が、就業規則50条5号の「社会福祉施設の職員としてふさわしくない非行」に当たり、懲戒事由に該当すると主張するため、以下、本件各非違行為が認定できるか、認定できる場合には懲戒事由に当たるかについて検討する。 ア本件非違行為ア(Bに対する同人死亡当日の原告の対応が不十分であっ たこと)について Bの死亡当日、食事摂取の前後に、介護職員から2度にわたる体調不良の訴えの報告があったこと、原告が2度目の訴えに対し、直接Bの状態を確認することなく、様子をみるよう指示をしたこと、その後Bが死亡したことについては当事者間に争いがない。 しかし、本件全証拠によっても、介護職員が原告に対して2度目の報告 をした際にBにチアノーゼがあることを伝達したとも、2度目の報告内容におけるBの様子が ことについては当事者間に争いがない。 しかし、本件全証拠によっても、介護職員が原告に対して2度目の報告 をした際にBにチアノーゼがあることを伝達したとも、2度目の報告内容におけるBの様子が、1度目に状態確認した際のそれから大きな変動があったとも認められず、原告が、Bが直前に食事を全量摂取していることを前提に、Bの状態について緊急性が高くなく、様子をみるべきであるとしたこと(原告本人)が、看護師の判断として不相当であったとは認められ ない(なお、介護職員からの1度目の報告の後、原告がBの脈を測ったか否かについては当事者間に争いがあるが、仮に原告が1度目の報告後にBの脈拍測定をしていなかったとしても、それが当時の状況において看護師として不適切であったと評価するに足りる事情は認められない。)。 イ本件非違行為イ(Bの死亡当日の介護日誌の書換え強制行為)について Bの死亡当日の介護日誌は介護職員が作成すべきものであること、Bについて、上記のとおり介護職員から2度にわたり原告に対し、体調不良の訴えが報告され、作成当初時点では介護日誌にその旨が記載されていたところ、原告が2度目の報告の事実を否定し、介護日誌から2度目の報告を削除するように求めたこと、原告が介護職員に対して介護日誌に当日のB への対応をより詳細に記載するよう求めたことには当事者間に争いがない。また、原告が後日、上記2度目の報告があったとの認識に転じたと表明したことも認められる(原告本人)。 このように、原告が、実際は介護職員から原告に対して2度目の報告があったのにもかかわらず、原告は当初2度目の報告の事実を否定し、介護 職員に対して介護日誌から2度目の報告を削除するように求めたことが 認められるが、原告はその後自ら当初の認識が自 ったのにもかかわらず、原告は当初2度目の報告の事実を否定し、介護 職員に対して介護日誌から2度目の報告を削除するように求めたことが 認められるが、原告はその後自ら当初の認識が自らの誤解であったことを認め、その理由として、1度目と2度目の報告の時間が近接していたことから、2度目の報告を失念したとの説明をしており(原告本人)、当該理由が不合理とまでは認められないことからすると、原告において、介護職員に対してことさら虚偽の記載を故意に求めたり、事実を歪曲したりする意 図があったものであるとは認められず、当該要求をもって、看護師として不適切な行動であるとはいえない。 また、原告が介護職員に対して介護日誌に原告の対応を含めたより詳細な記載を求めた点についても、虚偽の事実や、当日の状況を誤って認識させるような記載を要求したものとは認められず、その理由を、同日にBが 死亡したことから、後日に備えて当日の経過及びBの状況を詳細に記録しておこうと考えたこと(原告本人)に看護師として不適切な点があるとは認められない。 なお、被告は、看護記録が通常は看護師しか目にしないものであることを前提に、Bについて、死亡した日の看護記録にはBの鼻からゼリーが噴 出したとの記載があるが、原告は当該事実についてより広く職員が閲覧する看護日誌には記載せず、施設長にも同事態についての報告をしなかったことをも問題視していると窺われるので念のため判断するに、そもそも、看護記録と看護日誌に被告が主張するような取扱いの差異があると認めるに足りる証拠はなく、原告においてBが鼻からゼリーが噴出したことを 隠ぺいする意図を有していたと認めることはできない。 ウ本件非違行為ウ(入所者のEに対して、独自の合図で服薬をさせたり、服薬を後回しにし なく、原告においてBが鼻からゼリーが噴出したことを 隠ぺいする意図を有していたと認めることはできない。 ウ本件非違行為ウ(入所者のEに対して、独自の合図で服薬をさせたり、服薬を後回しにしたり、マスクを無理矢理はぎ取ったりしたこと等)についてEが目の不自由な入所者であり、原告がEの服薬順序を後にすることが あったこと、原告が服薬介助時、自らEのマスクを外すことがあり、これ にEが不満を述べたことがあったことは当事者間に争いがない。 しかし、Eと他の入居者の服薬順序の入替えにつき、その頻度、Eへの悪影響の有無及び程度は明らかでなく、同行為が不適切であるとは評価できない。 また、E本人にマスクを外すよう求め、応じられなかった場合には原告 自らマスクを外す行動をした理由について、服薬時にマスクを着用したままであれば服薬がしづらく、また口から薬がこぼれた際にもマスクに引っかかって同事態に気付きにくくなるからであるとする原告本人の供述に不合理な点は見当たらず、結果的にEがマスクを外されたことに不満を述べることがあったとしても、これをもって原告の行為が不適切であるとは いえない。 さらに、本件全証拠によっても、原告がEに対し声をかけることもなく肩をたたくことで、Eに顔を上に向け、マスクを顎に下ろし、口を開けさせるという一連の動作をするように促した事実は認められない。 エ本件非違行為エ(入所者のEに対して、下肢挙上の継続を強いたこと) について原告がむくみ対策のためEに下肢挙上を指示することがあり、Eがこれを中断した際に原告が再開を求めることがあったことは当事者間に争いがない。 下肢挙上がむくみの解消のために必要な措置であることについては被告 も前提としており、そうだとすれば、 り、Eがこれを中断した際に原告が再開を求めることがあったことは当事者間に争いがない。 下肢挙上がむくみの解消のために必要な措置であることについては被告 も前提としており、そうだとすれば、Eが自己判断で挙上を中断した際には、必要な範囲で再開を求めることは看護師として不適切とはいえないところ、原告が嫌がらせ目的でEに対して必要以上の挙上を求めたり、苦痛を訴えるEに対して強制的に挙上を継続させたりしたような事情を認めるに足りる証拠はなく、原告の行為が不適切であるとは評価できない。 オ本件非違行為オ(入所者に対する蔑称の使用)について 原告が、Eが機嫌の悪い状態を指して職員間で「ブラックE」と呼称していたこと、Bについて、B本人に対し、また職員間でも、Bの名前をもじった「Bちゃん」と呼称していたことは当事者間に争いはない。 被告は、Bの呼称「Bちゃん」につき、必要以上に幼児的扱いをする点で問題であると主張するが、当該呼称それ自体に侮蔑的な意味が含まれて いるものでないことはもとより、Bが同呼称を嫌がっていたと認めるに足りる証拠はない。 また、入所者であるEについて「ブラック」と、機嫌が悪いことを否定的に捉え揶揄するような表現を用いることが好ましいものといえるかはともかく、当該呼称は、職員間で当該入所者の機嫌が悪い状態を端的に共 有する表現でもあり(原告本人)、入所者本人に対して蔑称をもって呼びかけた事実はない以上、これをもって原告の行為が懲戒事由に該当するほど不適切であるとは評価できない。 また、原告が入所者Fを「クソババ」と呼んでいたとの被告の主張する事実について、本件施設の一部職員の陳述書(乙13)にはこれに沿う記 載があるが、当該証拠は十分な証明力を持たず、当該事実は認められない 告が入所者Fを「クソババ」と呼んでいたとの被告の主張する事実について、本件施設の一部職員の陳述書(乙13)にはこれに沿う記 載があるが、当該証拠は十分な証明力を持たず、当該事実は認められない。 カ本件非違行為カ(入所者であるGに対する不適切な態度)について本件施設の一部職員の陳述書(乙11、18、20)に被告の主張に沿う記載はあるが、これらの証拠は十分な証明力を持たず、当該事実は認められない。 キ本件非違行為キ(入所者のFに対し、リハビリとして薬を机の遠い位置に置いた対応等)について(ア) 原告が、入所者のFに対し、リハビリであると述べて、服用すべき薬をFの机の遠い箇所に置き、それをFに自ら取る行為をするように求めていたことには当事者間に争いはない。 確かに、薬の服用をリハビリの手段とすることは、対象者に心理的負 担が生じ得るものであり、実際、Fがこれを負担に感じている旨の発言をしていたことが窺われる(証人H、同I、同G、同J)。また、このような措置をとれば、入所者の動作によって薬が机から落ちるなど、入所者が服用すべき薬の服用を実現できなくなるおそれもある。しかも、Fにおいて、リハビリとしてこのような手段以外の手法を用いることがで きなかったことをうかがわせる事情もない。そうすると、原告が服薬をこのような手法でリハビリに活用したことは適切さを欠く。しかし、他方、Fは当時、生活に必要な動作に徐々に身体的制限がかかりつつある状況にあり、上記措置は、原告が看護師としてFの運動機能低下を防ぐ工夫として行ったものであって(証人A、原告本人)、Fに対する嫌がら せなどの目的でされたものとは認められないこと、Fにおいて実際に薬の服用ができなかったと認めるに足りる証拠はないことからすると、 として行ったものであって(証人A、原告本人)、Fに対する嫌がら せなどの目的でされたものとは認められないこと、Fにおいて実際に薬の服用ができなかったと認めるに足りる証拠はないことからすると、直ちに懲戒事由に該当するとは必ずしもいえないし、仮に懲戒事由に該当するとしても、その程度は重いものとはいえない。 (イ) また、原告が、食事を食べきらないFに対し、もっと食べるよう声掛 けをしていたことには争いがない。 しかし、食事を食べきらない入所者に対し、完食できるように声をかけること自体が、看護師として不適切な対応といえないことはもとより、原告がFをはじめとした入所者の意思に反して強制的に食事を完食するように要求した等の事実を認めるに足りる証拠はなく、原告の行為が懲 戒事由に当たるとはいえない。 ク本件非違行為ク(入所者に服薬に必要な水分量を与えなかったこと)について原告が、一定の入所者について、服薬時に健常者が服用の際に摂取する水分量を与えていなかったことは当事者間に争いはない。 しかし、原告において必要もないのに入居者に対して通常どおりの水分 を与えずに服薬させたり、また少ない水分で服薬する際、呑み込みが確実に行われているかについての確認を怠ったりした等の事実を認めるに足りる証拠はなく、これに加え、心臓に疾患を抱えている患者は、水分量に制限があり、これを超えて水分を摂取すれば健康に悪影響があるところ(証人A、原告本人)、被告において、原告の当該行為によって当該入居者 にどのような影響があったのかの主張もないことも併せ考慮すると、原告の行為が不適切であったとは認められない。 ケ本件非違行為ケ(原告による薬の誤配、及びそれに対する不適切な対応)について本件施設の一部職員の陳述書( のかの主張もないことも併せ考慮すると、原告の行為が不適切であったとは認められない。 ケ本件非違行為ケ(原告による薬の誤配、及びそれに対する不適切な対応)について本件施設の一部職員の陳述書(乙10)に被告の主張に沿う記載はある が、当該証拠は十分な証明力を持たず、当該事実は認められない。 コ本件非違行為コ(一部の利用者に対し、寝たまま服薬させたこと)について介護職員は被告の主張に沿う供述をするが(証人G)、これを裏付ける客観的な証拠はなく、他方、原告本人はこれを否定する供述をしており、被 告の主張する行為を認めることはできない。 サ本件非違行為サ(介護職員が入所者の体調変化を報告しても、必要なチェックをしないこと)について介護職員は被告の主張に沿う供述をするが(証人I、同G、同J)、これを裏付ける客観的な証拠はなく、他方、原告本人はこれを否定する供述を しており、被告の主張する行為を認めることはできない。 シ本件非違行為シ(K看護師を退職に追い込んだ事実)について本件全証拠によっても、当該事実は認められない。 ス本件非違行為ス(医師に不必要な下剤を処方させ、これを他の入所者に使用させて水様便にさせたこと)について 本件施設の一部職員の陳述書(乙10)に被告の主張に沿う記載はある が、これを否定する原告本人の供述に照らし、これらの証拠は十分な証明力を持たず、当該事実は認められない。 セ処方対象外の利用者に対する処方薬の転用や不適切な服薬時期、ハンマーでの薬の粉砕について(ア) これらの事実は当事者間に争いがないところ、まず、処方薬の転用に ついて、処方薬は医師の指示に従って服用させるべきであるから、不適切な行為であったと認められる。 一方で、当該取扱いは、本 ア) これらの事実は当事者間に争いがないところ、まず、処方薬の転用に ついて、処方薬は医師の指示に従って服用させるべきであるから、不適切な行為であったと認められる。 一方で、当該取扱いは、本件施設には、従来、常備配置薬として予め備え置かれるべき薬剤が備え置かれておらず、その代替として行われてきたもので、原告の上司であるAを含め、歴代の看護師の間でも行われ てきたものである(証人A)から、本件施設の薬剤管理体制の見直しやそれを踏まえた注意指導を行うべきであり、それをすることなく原告に対する懲戒事由として扱うことは相当ではない。 (イ) 次に、本来の服用時間とは異なる服用時間での服用について、処方薬は医師の指示に従って服用させるべきであるところ、服用時間によって も薬効が変化することはありえるのだから、不適切な行為であったと評価するのが相当である。 一方で、当該取扱いは、原告の上司であるAにおいても認識しながら、同人もこれを行い、本件施設の看護師の間で長年にわたって行われてきたというのである(証人A)から、まずは、本件施設の服薬介助に関す る業務体制見直しや、それを踏まえた事前の注意指導を行うべきであり、それをすることなく原告に対する懲戒事由として扱うことは相当ではない。 (ウ) 入所者に服用させるべき薬をハンマーを用いて床の上で砕いたことについて、薬の粉砕の手段としては不相当であるというべきであるが、原 告がこのような行為をしていたのは、そのままの形では服薬がしづらい 入所者の服薬介助の際に、薬の粉砕の必要があったが、机の上など他の場所では大きい音が出ることからこれを避けるため、やむを得ず床で粉砕を行ったとのことであり、粉砕する際は袋に入れたまま行っていたなど衛生面に対しても最低限の配 の粉砕の必要があったが、机の上など他の場所では大きい音が出ることからこれを避けるため、やむを得ず床で粉砕を行ったとのことであり、粉砕する際は袋に入れたまま行っていたなど衛生面に対しても最低限の配慮をしていたものである(原告本人)から、上記の行為が懲戒事由に該当するとしても、その程度は重いものと はいえない。 ソ本件非違行為ソ(利用者男性の肛門への軟膏塗布が不適切であった点)について本件施設の一部職員の陳述書(乙24)に被告の主張に沿う記載はあるが、当該証拠は十分な証明力を持たず、当該事実は認められない。 タ本件非違行為タ(入所者による点眼を拒否したこと)について原告が介護者に対して点眼行為を自分で実施するよう求めたことがあることには当事者間に争いがない。 しかし、原告が介護者に対して点眼行為を自分で実施するよう求めたことがあるとしても、これ自体が不適切とは必ずしもいえないところ、高齢 者施設においては自立的な生活を実現する観点から自らできることを安易に看護師が全て手伝うことはむしろ入所者のために逆効果であるとの考えのもと、点眼が自分で可能な入所者については自ら実施するよう求めていたという原告本人の供述が不合理なものであるとはいえず、他方、原告が看護師による点眼が必要不可欠であるのにこれを拒絶した等の事情 を認めるに足りる証拠はない。そうすると、原告の行為が看護師として不適切なものとはいえない。 チその他以下、本件懲戒解雇において解雇事由とされているか疑義があるものの、念のため、被告が本件訴訟において問題視する原告の言動について検討す る。 (ア) 被告は、入所者に関する医師との面談につき、原告が、Aと共に、ケアマネージャーや相談員、管理栄養士等の意見を聞かずに において問題視する原告の言動について検討す る。 (ア) 被告は、入所者に関する医師との面談につき、原告が、Aと共に、ケアマネージャーや相談員、管理栄養士等の意見を聞かずに設定したことについても問題視する。 原告が、ケアマネージャーや相談員、管理栄養士と打ち合わせることなく、医師と入所者家族との面談を実施したことがあったことには当事 者間に争いがない。しかし、当時の本件施設において、看護師が、被告が主張するような手順で医師との面談を設定する必要があったと認めるに足りる証拠はなく、原告の行為が看護師として不適切であったとは評価できない。 (イ) 被告は、原告は、落薬を放置し、薬を捨てるよう指示して取り合わな いことがあり、また、落薬の報告をした介護職員を怒鳴ることもあったとも主張する。 落薬事案が一定程度生じていたことは当事者間に争いはないが、原告がこれを放置したとか、落薬報告書に対して怒鳴ったなどの被告の主張に沿う介護職員の供述(証人G)は、これを裏付ける客観的な証拠もな い上、これを否定する原告本人の供述に照らして採用できず、被告が主張する原告の行為を認めることはできない。 ⑵ 小括上記⑴のとおり、原告の服薬介助等の一部行為には不適切であり、懲戒事由に該当し得るものもあるが、各項目で検討したとおり、その程度が必ずし も重いものといえないことからすると、懲戒処分の中で最も重い懲戒解雇とすることに客観的合理的理由があり、それが社会通念上相当であるとはいえず、本件懲戒解雇は、労働契約法15条及び同16条により無効である。 したがって、原告は被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあると認められる。 4 第3の争点(本件懲戒解雇が無効であった場合に、原告に認められる金銭請 条及び同16条により無効である。 したがって、原告は被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあると認められる。 4 第3の争点(本件懲戒解雇が無効であった場合に、原告に認められる金銭請 求の範囲)について⑴ 月額給与について原告は、本件懲戒解雇をされた時点において、毎月本俸として38万2200円を、精勤手当として5万円の合計43万2200円を受け取っていた(前提事実⑴)。 本件懲戒解雇は無効であるから、原告は、被告に対し、毎月25日限り、43万2200円の賃金請求権を有している。ただし、令和5年12月分については15万9302円が支払われている(甲7)から、残額の27万2898円が未払となっている。 ⑵ 期末手当について 被告の給与規程によれば、期末手当は、毎年6月20日及び12月20日各時点において在職する職員に対して支給するもので、期末手当の額は6月期、12月期ともに、当月の給料月額に100分の150を乗じて得た額に、所定就業日に出勤しなかった日数による一定の減額調整をしたものとするとされている(給与規程14条1項~3項)。 本件懲戒解雇は無効であるから、原告は、毎年6月25日及び12月25日に、それぞれ、当月の給与である38万2200円の100分の150である57万3300円の支給を受ける権利を有している(民法536条2項)。 ⑶ 業績手当について被告の給与規程によれば、業績手当は3月15日に在職する職員に対して 支給するものであるが、業績手当の額は、人事考課に基づき理事長が定めることとされている(給与規程15条1項、2項)。 そうすると、人事考課がされていない業績手当は、未だ具体的権利であると認めることはできないから、原告は、被告に対する賃金請求権を有して 理事長が定めることとされている(給与規程15条1項、2項)。 そうすると、人事考課がされていない業績手当は、未だ具体的権利であると認めることはできないから、原告は、被告に対する賃金請求権を有しているとはいえない。 したがって、業績手当に関する原告の主張には理由がない。 5 第4の争点(本件懲戒解雇等の不法行為該当性)について原告は、本件懲戒解雇等が本件通報を理由としたものであることを前提に、その不法行為該当性を主張するが、本件懲戒解雇等が本件通報を理由としないことは前記2のとおりであるから、原告の主張する不法行為の成立は認められない。 6 結論よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は、その1項ないし6項の限度で理由があるからこれを認め、7項及び8項については理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 函館地方裁判所民事部 裁判長裁判官五十嵐浩介 裁判官大門真一朗 裁判官北岡憧子 別紙1⑴ 就業規則等ア就業規則(制裁)・ 50条職員が次の各号の一に該当する場合においては、制裁を行う。 5号その他社会福祉施設の職員としてふさわしくない非行があった場合・ 51条前条の規定による制裁は、その行為の程度により、次の区分にしたがって行う。 1号戒告 2号けん責3号出勤停止4号懲戒解雇予告期間を設けることなく、即時解雇する。 イ給与規程(乙7)(期末手当) ・ 14条1項期末手当は6月20日及び12月20日にそれぞれ在職する職員に対 出勤停止4号懲戒解雇予告期間を設けることなく、即時解雇する。 イ給与規程(乙7)(期末手当) ・ 14条1項期末手当は6月20日及び12月20日にそれぞれ在職する職員に対し支給する。 ・ 14条2項期末手当の額は当月の給料月額に6、12月共に100分の150 を乗じて得た額に3項の出勤日数を、出勤を要する日数で除して得た額とする。 ・ 14条3項2項の計算期間は下記のとおりとする。 1号 6月支給分にあっては前年12月1日より5月31日まで 2号 12月支給分にあっては6月1日より11月30日まで (業績手当)・ 15条1項業績手当は、3月15日に在職する職員に対して支給する。 ・ 15条2項業績手当の額は人事考課に基き理事長が定め支給することができる。 ⑵ 高齢者虐待防止法の規定について・ 1条この法律は、高齢者に対する虐待が深刻な状況にあり、高齢者の尊厳の保持にとって高齢者に対する虐待を防止することが極めて重要であること等にかんがみ、高齢者虐待の防止等に関する国等の責務、高齢者虐待を 受けた高齢者に対する保護のための措置、養護者の負担の軽減を図ること等の養護者に対する養護者による高齢者虐待の防止に資する支援(以下「養護者に対する支援」という。)のための措置等を定めることにより、高齢者虐待の防止、養護者に対する支援等に関する施策を促進し、もって高齢者の権利利益の擁護に資することを目的とする。 ・ 21条1項養介護施設従事者等は、当該養介護施設従事者等がその業務に従事している養介護施設又は養介護事業(当該養介護施設の設置者若しくは当該養介護事業を行う者が設置する養介護施設又はこれらの者が行う養介護事業を含む。)において業 当該養介護施設従事者等がその業務に従事している養介護施設又は養介護事業(当該養介護施設の設置者若しくは当該養介護事業を行う者が設置する養介護施設又はこれらの者が行う養介護事業を含む。)において業務に従事する養介護施設従事者等による高齢者虐 待を受けたと思われる高齢者を発見した場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。 ・ 21条7項養介護施設従事者等は、第1 項から第3項までの規定による通報をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを受けない。 以上
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