【DRY-RUN】主 文 原判決を破棄し、本件を東京高等裁判所に差し戻す。 理 由 上告指定代理人真鍋薫、同古館清吾各名義および上告代理人田中治彦、同環昌一、 同西迪雄の上告理
主文 原判決を破棄し、本件を東京高等裁判所に差し戻す。 理由 上告指定代理人真鍋薫、同古館清吾各名義および上告代理人田中治彦、同環昌一、同西迪雄の上告理由(一)および(二)について。 原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)は、その確定にかかる事実関係のもとにおいて、被上告人は本件土地および建物が台東簡易裁判所の敷地として利用されると信じたからこそ、これを時価の半額にも満たない五〇〇万円という代金額で上告人に売り渡すことを承諾したものというべく、これが右のような使用目的に供されないとしたならば、決してこのような金額で売り渡さなかつたであろうことは明白であり、上告人側も八杉弁護士を通じて台東簡易裁判所の敷地として使用するからとの理由で極力売却方を頼み込んでいるのであるから、このような事情を考慮するならば、本件土地が台東簡易裁判所の敷地として使用されるものであるとの事実が上告人と被上告人との間で単に表示されていたというにとどまらず、本件売買契約において、暗黙のうちに上告人は被上告人に対して本件土地を台東簡易裁判所の敷地として使用すべき法律上の債務を負つたものと推定するのが相当であり、上告人には右債務につきその責に帰すべき不履行があつたものとして、被上告人のした本件土地および建物についての売買契約解除の効力を認めている。 しかしながら、上告人が右売買契約の締結に際し、被上告人に対して右のような法律上の債務を負担した旨の原審の認定判断には、にわかに首肯しがたいものがある。 思うに、原判決の趣旨とするところは、本件土地および建物の売買契約に付帯して、上告人と被上告人との間に、上告人が本件土地を台東簡易裁判所の敷地として使用すべき旨の土地の利用方法に関する特約が成立したことにより、上告人は被 するところは、本件土地および建物の売買契約に付帯して、上告人と被上告人との間に、上告人が本件土地を台東簡易裁判所の敷地として使用すべき旨の土地の利用方法に関する特約が成立したことにより、上告人は被上- 1 -告人に対して右特約を履行すべき債務を負担したというにあるものと解されるのであるが、本件売買契約の一方の当事者である上告人国が私人との間に売買契約を締結するについては、会計法五〇条の委任に基づく予算決算及び会計令(昭和二二年勅令第一六五号)が適用されるところ、当時の同令六八条(昭和二七年政令第七六号による改正前)には、「各省各庁の長又はその委任を受けた官吏が契約をしようとするときは、契約の目的、履行期限、保証金額、契約違反の場合における保証金の処分、危険の負担その他必要な事項を詳細に記載した契約書を作製しなければならない。」と定められ、契約をしようとする国の職員に対し契約書の作成が義務づけられていたのであつて(この趣旨は現行規定においても異ならない。会計法二九条の八第一項参照)、本件売買契約においても、本件土地および建物のうち、宅地二筆については昭和二六年三月二二日付の、その余の宅地一筆および地上建物については同年四月一九日付の各売買契約書(乙一、二号証)が作成されており、その各契約書には、それぞれ売買の目的物、代金額、代金の支払および所有権移転登記義務の履行に関する定めその他詳細な特約条項が六か条にわたつて定められているにかかわらず、原審認定のような特約に関する定めが存在しないことは、本件記録中の右契約書の記載に照らして明らかである。しかして、原審の認定したような売買の目的たる土地の利用方法に関する特約は、契約の当事者にとつては極めて重要な事項であるから、前記法令の規定に基づき当事者間に契約書が作成された以上、かかる特約の趣旨 かして、原審の認定したような売買の目的たる土地の利用方法に関する特約は、契約の当事者にとつては極めて重要な事項であるから、前記法令の規定に基づき当事者間に契約書が作成された以上、かかる特約の趣旨はその契約書中に記載されるのが通常の事態であつて、これに記載されていなければ、特段の事情のないかぎり、そのような特約は存在しなかつたものと認めるのが経験則であるといわなければならない(なお、上告人は、上告理由(一)において、国と私人間の契約においては、契約書に記載されなかつた事項は契約の内容とはなりえず、法律上の効力を生ずる余地がないというが、かかる見解は当裁判所の採用しないところである。)。この点について、原判決は、前示のよ- 2 -うに、被上告人としては本件土地が台東簡易裁判所の敷地として利用されると信じたからこそ時価の半額に満たない金額で売り渡すことを承諾したもので、右のような目的に供されないとしたならば、決してこのような金額では売り渡さなかつたであろうことが明白であること、上告人側も右の目的に使用することを理由にして被上告人側に売却方を頼み込んだことを挙げているが、被上告人が本件土地の売渡を承諾するまでの経緯として右のごとき事情があつたとしても、直ちにそれによつて上告人が前示のような法律上の債務を負担するに至るとはいえないばかりでなく、その余の原審の確定にかかる事実関係をもつてしても、本件売買契約により上告人が法律上右の債務を負担するに至つたと解することは困難である。また、原判決は、本件契約の実体は売買と贈与の混合契約であると解することができるとし、上告人が被上告人に対して暗黙のうちに負つた本件土地を台東簡易裁判所の敷地として使用すべき債務は、負担付贈与における負担とみることもできると付加説示しているが、本件契約の実体を売買と贈与と るとし、上告人が被上告人に対して暗黙のうちに負つた本件土地を台東簡易裁判所の敷地として使用すべき債務は、負担付贈与における負担とみることもできると付加説示しているが、本件契約の実体を売買と贈与との混合契約と解することが問題であるのみならず、かりにそのように解しうるとしても、そのことから当然に上告人において前示のような法律上の債務を負担することとなるものではなく、また、贈与の趣旨を含むとしても、本件土地を前示のような目的に使用することをもつて上告人の負担とする合意が成立したと認めるに十分でないことは、さきに、売買契約に付帯する特約の成否に関し説示したところと同様である。 してみれば、本件土地および建物の売買契約に際し、上告人が被上告人に対し、本件土地の使用につき法律上の債務を負担したものとする原審の認定判断には、契約の成否および解釈に関する経験則の適用に誤りがあり、ひいては審理不尽、理由不備の違法があるものというべきであつて、論旨は結局理由があり、原判決は、その余の論旨につき判断を加えるまでもなく、破棄を免れない。 よつて、前示の点および原審の判断を経ていないその余の被上告人の主張につい- 3 -てさらに審理を尽させるため、民訴法四〇七条に従い、本件を原審に差し戻すこととし、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。 最高裁判所第一小法廷裁判長裁判官大隅健一郎裁判官岩田誠裁判官藤林益三裁判官下田武三裁判官岸盛一- 4 - 裁判官 下田武三 裁判官 岸盛一
▼ クリックして全文を表示