令和2(わ)455 死体遺棄

裁判年月日・裁判所
令和3年7月20日 熊本地方裁判所
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判決文本文2,111 文字)

令和3年7月20日宣告令和2年第455号死体遺棄被告事件 主文 被告人を懲役8月に処する。 この裁判確定の日から3年間,その刑の執行を猶予する。 理由 (犯罪事実)被告人は,令和2年11月15日頃,熊本県葦北郡B町の当時の被告人方で,被告人がその頃出産したえい児2名の死体を段ボール箱に入れた上,自室に置きつづけ,もって死体を遺棄した。 (証拠の標目)省略(事実認定の補足説明) 1 被告人の行為が刑法190条の遺棄にあたるか。 刑法190条は,国民の一般的な宗教的感情を,社会秩序として保護する。したがって,同条の遺棄とは,一般的な宗教的感情を害するような態様で,死体を隠したり,放置したりすることをいう。 被告人は,死産を隠すために,えい児を段ボール箱に二重に入れ,外から分からないようにした。そして,回復したら誰にも伝えず自分で埋葬しようなどと考え,1日以上にわたり,それを自室に置きつづけた。これらの行為は,被告人に埋葬の意思があっても,死産をまわりに隠したまま,私的に埋葬するための準備であり,正常な埋葬のための準備ではないから,国民の一般的な宗教的感情を害することが明らかである。したがって,被告人がえい児を段ボール箱に入れて保管し,自室に置きつづけた行為は,刑法190条の遺棄にあたる。 2 被告人に死体遺棄の故意があったか。 被告人は,死産した際の手続について,明確な知識は持っていなかったかもしれないが,分別のある青年であり,2年以上,日本で生活している。そのような被告人なら,死産を隠し,私的に埋葬するためにえい児を段ボール箱に入れて保管し,自室に置きつづけることが,正常な埋葬のための準備とはいえず,一 ある青年であり,2年以上,日本で生活している。そのような被告人なら,死産を隠し,私的に埋葬するためにえい児を段ボール箱に入れて保管し,自室に置きつづけることが,正常な埋葬のための準備とはいえず,一般的な宗教的感情を害することは,容易に分かったはずである。したがって,被告人には死体遺棄の故意が認められる。 弁護人は,被告人は,産婦人科でも行われている方法で,えい児を段ボール箱に入れ,ベトナムで一般的に行われている土葬によってえい児を埋葬するつもりでいたから,死体を放置していたとはいえず,被告人には死体遺棄の故意がないと主張する。確かに,被告人は,えい児をタオルでていねいにつつみ,名前をつけるなどしており,えい児を愛おしむ気持ちがあった。また,ていねいに段ボールに入れ,埋葬するつもりで自室に置いている。しかし,被告人に愛情や埋葬の意思があったとしても,被告人はそれらをまわりに隠れてやろうとしたから,そのような私的な埋葬やその準備が,国民の一般的な宗教的感情を害することは変わりがない。ベトナムでも,まわりに隠したままで私的に埋葬することが許されているとは思われない。また,弁護人は,被告人は,墓地,埋葬等に関する法律で24時間以内に埋葬することを禁じられているから,えい児を放置しても死体遺棄にはあたらないと主張する。しかし,同法は,不審な死であるかどうかを確認するための規制であり,一般的な宗教的感情を害するかどうかとは関係がない。 3 被告人に葬祭義務を果たす期待可能性があったか。 弁護人は,被告人は,一人で出産し,肉体的に疲れ,死産で精神的にもショックを受けていたから,被告人には,当日,葬祭義務を履行するだけの期待可能性がなかったと主張する。確かに,被告人は,死産後,弁護人がいうような厳しい状態にあったといえる。しかし,少なくとも, もショックを受けていたから,被告人には,当日,葬祭義務を履行するだけの期待可能性がなかったと主張する。確かに,被告人は,死産後,弁護人がいうような厳しい状態にあったといえる。しかし,少なくとも,まわりの人に,出産や死産を告白し,助力を求めることはできたはずである。したがって,被告人には,それらを告白し,まわりの助力を得ながら,適切な葬祭義務を果たす期待可能性があった といえる。 (法令の適用)省略(量刑理由)本件は,技能実習生である被告人が,妊娠,出産をまわりに告白できず,死産になったえい児を自室で保管するなどして遺棄した事案である。被告人は収入の多くをベトナムの家族に送金していた。また,妊娠が解雇理由にならないとはいえ,実際には,仕事ができずに収入がなくなるため,家賃や生活費が出せなくなり,実習をやめて帰国に追い込まれてしまう。そのような状況を十分にサポートする制度もなく,実習生にとっては厳しい環境であった。被告人が,帰国をおそれ,妊娠をまわりに告白できずに思いつめ,中絶しようとしたが失敗し,ついに出産して犯行に及んだ経緯には,同情の余地が十分にある。遺棄の内容も,まわりの宗教的感情や平穏を害するものであるが,ていねいに箱に入れて自室で保管するなどしたもので,その程度が大きいとはいえない。これらを考慮すると,主文の刑が相当である。 (求刑・懲役1年)令和3年7月20日熊本地方裁判所刑事部 裁判官杉原崇夫

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