- 1 - 平成29年1月24日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成27年(ワ)第4376号売買代金請求事件口頭弁論終結の日平成28年10月28日判決 原告 P 同訴訟代理人弁護士伊東幸太朗 被告 P 被告 P 上記2名訴訟代理人弁護士松本徹意 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告らは,原告に対し,連帯して,3100万円並びに内金2100万円に対する平成25年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員及び内金1000万円に対する平成26年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告が被告P2(以下「被告P2」という。)に対し,同被告との間で,平成25年5月12日付けで締結された発明の名称を「凝集剤及びその製造方法」とする特許第4003832号の特許権(以下「本件特許権」という。)についてなされた契約(以下「本件契約」という。)が売買契約であることを前提に,同契約- 2 - に基づく,その弁済期既到来分の売買代金合計3100万円(平成25年5月31日が弁済期分の2100万円,平成26年2月末日が弁済期分の1000万円の合計3100万円)及び各弁済期の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,また被告P3(以下「被告P3」という。)に対し,同被告が本件契約に基づき被告P2が負う債務を 計3100万円)及び各弁済期の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,また被告P3(以下「被告P3」という。)に対し,同被告が本件契約に基づき被告P2が負う債務を連帯保証した旨主張して,連帯保証契約に基づき,被告P2に対すると同額の保証債務の履行を求めた事案である。 1 判断の基礎となる事実(当事者間に争いがないか又は弁論の全趣旨及び後掲の証拠により容易に認定できる事実)(1) 当事者ア原告は,凝集剤を研究している技術者であり,本件特許権の共有者である。 イ被告P2は,健康食品の企画販売等の事業を営んでいる者である。 ウ被告P3は,鮮魚事業等を営む事業者であり,原告が研究開発している凝集剤の事業化について協力していた者である。(甲3,乙2)エ P4(以下「P4」という。)は,株式会社A(以下「A社」という。)の代表者である。A社は,平成20年頃から平成21年頃まで原告による凝集剤の研究を資金援助するなどしていた。また同社は,後記(2)イ,ウのとおり,一時期,本件特許権の共有持分を有していた。(甲1,甲10,甲11の1,2)(2) 本件特許ア原告は,下記特許権(本件特許権)をP5から譲り受け,平成19年10月3日,その旨登録を経由した(以下,その特許を「本件特許」といい,その特許に係る発明を「本件特許発明」という。)。(甲1,乙7)記特許番号第4003832号発明の名称凝集剤及びその製造方法出願日平成16年3月11日登録日平成19年8月31日- 3 - 特許請求の範囲【請求項1】水酸化カルシウムを主成分とするカーバイドスラリーを800℃~1300℃で焼成し,酸溶液に溶解してなる凝集剤。 【請求項2】請求項1に記載の凝集 3 - 特許請求の範囲【請求項1】水酸化カルシウムを主成分とするカーバイドスラリーを800℃~1300℃で焼成し,酸溶液に溶解してなる凝集剤。 【請求項2】請求項1に記載の凝集剤において,前記カーバイドスラリーが,亜鉛,二酸化珪素,酸化アルミニウム,酸化第二鉄の群から選ばれる1又は2以上の凝集作用物質を含有する凝集剤。 【請求項3】請求項1又は2に記載の凝集剤において,前記酸溶液が塩酸又は希塩酸である凝集剤。 【請求項4】請求項1乃至3のいずれかに記載の凝集剤において,前記酸溶液に鉄又は鉄化合物を溶解した凝集剤。 【請求項5】水酸化カルシウムを主成分とするカーバイドスラリーを800℃~1300℃で焼成する焼成手段と,焼成したカーバイドスラリーを塩酸又は希塩酸に溶解する溶解手段とからなる凝集剤の製造方法。 【請求項6】請求項5に記載の凝集剤の製造方法において,鉄又は鉄化合物を塩酸又は希塩酸に溶解し,前記凝集剤に添加する鉄分添加手段を具備する凝集剤の製造方法。 イ原告は,本件特許権の一部をA社に譲渡し,平成20年10月27日,その旨登録を経由した。 ウ A社は,平成25年3月11日,被告P2に対し,本件特許権の持分を譲渡し,同月19日,その旨の登録を経由した。 なお,その際,被告P2は,「特許権の売買契約内容の履行が出来ない場合は,- 4 - 速やかに,特許名義の変更前の名義に戻します。」と記載のある念書(甲5)を原告に差し入れ,原告は,本件特許権の共有者として上記譲渡に同意した(乙5)。 (3) 本件契約原告と被告らは,平成25年5月12日,同日付け「特許権譲渡契約書」と題する契約書(以下「本件契約書」という。)にそれぞれ署名押印をして,それぞれ同契約書を取り交わし,原告と被告P2は 本件契約原告と被告らは,平成25年5月12日,同日付け「特許権譲渡契約書」と題する契約書(以下「本件契約書」という。)にそれぞれ署名押印をして,それぞれ同契約書を取り交わし,原告と被告P2は,これにより本件契約をした(本件契約書中「甲」を「原告」,「乙」を「被告P2」,「丙」を「P4」,「本特許権」を「本件特許権」とそれぞれ読み替えている。なお,これにより被告P3が原告との間で,被告P2を主債務者とする連帯保証契約をしたかについては争いがある。)。 主要な条項は以下のとおりである。 第1条(特許権の譲渡)原告は,原告の保有する本件特許権を被告P2に譲渡するものとする。 第2条(権利の移転時期) 1 原告及び被告P2は,第3条に基づく対価の支払い完了をもって,本件特許権が原告から被告P2に移転することに合意する。 2 被告P2は,第4条に定める移転登録手続きが完了するまでは,本件特許権が被告P2に移転しないことを予め確認する。 第3条(対価)被告P2は前条本件特許の譲渡の対価として,円建(円換算)税抜き1億5000万円とする。原告への支払いは下記特許権売買契約に係わる支払計画通りに行うものとする。 第4条(支払計画)特許権売買契約に係わる支払い計画※支払い計画の紙面に特許権移転登録及び技術移譲工程を記載するが,本移譲記載は支払い計画に合わせて区切ったことではなくアバウトな移譲作業の流れを記したものである。 - 5 - ○P4の特許権持分を被告P2に移転登録する。 被告P2は移転登録を持って原告のP4への負債2100万円を肩代わりしてP4に支払う。残500万円を原告に支払う。 第1回支払 2013(平成25)年5月31日 2600万円○コスト算出に関する開示,生産(製造)に向けた具体的な打ち合せ等。 0万円を肩代わりしてP4に支払う。残500万円を原告に支払う。 第1回支払 2013(平成25)年5月31日 2600万円○コスト算出に関する開示,生産(製造)に向けた具体的な打ち合せ等。 第2回支払 2014(平成26)年2月30日 1000万円○生産(製造)に掛かる技術工程の開示,上記打ち合せの継続第3回支払 2014(平成26)年12月31日 3500万円○「薬剤」使用操作レクチャー生産プラントの稼働試験,製造実証第4回支払 2015(平成27)年8月31日 4000万円○現状に合わせた製造マニュアルの作成,「薬剤」使用操作の実習,反復全ての技術移譲作業完了第5回支払 2016(平成28)年5月31日 3900万円第10条(契約の解除)原告又は被告P2が本契約の条項に違反したときは,相手方に解約通知催告を持って,本契約を解除することができる。 (以下略)第11条(特許権譲渡の付帯) 1 本契約締結から2年以内として,原告は被告P2の「薬剤」生産段取りの状況に応じて製造,使用技術の移譲の為,製造実証,基本使用操作の実習を行う。 2 原告の技術移譲に被告P2は技術受領者を専任して技術の習得に当たらせることとする。 3 原告,被告P2は,「薬剤」の経時変化の有無を製造実証で作った「薬剤」を1年間取り置き効果試験を行う。 4 経時効果試験で劣化が認められたら,原告は「薬剤」の改善を行う。 第13条(原告の義務と協力の範囲)- 6 - 義務としては技術移譲の被告P2の技術習得,「薬剤」の生産稼働までとする。 それ以上は協力として原告の経験で知り得た事の提供とする。尚,原告の知りえない未知の事は仕事として研究を請け負うこととする。 第14条(連帯保証人)被告P3は,原告,被告P2の連帯保証人と る。 それ以上は協力として原告の経験で知り得た事の提供とする。尚,原告の知りえない未知の事は仕事として研究を請け負うこととする。 第14条(連帯保証人)被告P3は,原告,被告P2の連帯保証人として本契約の円滑なる履行を補佐する。 (4) 被告P2による弁済ア被告P2は,本件契約締結に先立つ,平成25年3月19日,800万円をP4に支払い,A社の有する本件特許権の共有持分を譲り受けた。(甲1,証人P4,被告P2)イ被告P2は,同年5月31日,原告に対し,本件契約の第4条に記載された500万円の趣旨で500万円を支払った。 (5) 弁済期の経過本件契約に基づく第1回,第2回の弁済期は経過した。同弁済期までに弁済を予定していた額は,本件契約書の条項によると平成25年5月31日の第1回分につき2100万円,平成26年2月末日の第2回分につき1000万円の合計3100万円である。 2 争点(1) 本件契約締結の意思表示の瑕疵の有無(被告らの主張)ア錯誤による無効(ア) 本件契約は,単純な本件特許権の売買契約ではなく,原告と被告らで本件特許発明を使用した凝集剤の製造を共同事業で営むことを前提とするものであり,原告が負うべき債務は,単純な本件特許権の譲渡ではなく,本件特許発明を使用した凝集剤の製造方法の技術を提供することを内容とする。 そして,被告P2は,原告から提供される凝集剤の製造方法は本件特許権の効力- 7 - が及ぶものであり,本件特許権に5億円の価値があるとする原告によって示された資料等から,本件特許権にそれだけの価値があるものと考えて1億5000万円を対価として本件契約を締結した。 しかし,原告が被告らに提供した凝集剤の製造方法は,焼成工程を経ない乾燥カーバイトスラリーを用いるもの 本件特許権にそれだけの価値があるものと考えて1億5000万円を対価として本件契約を締結した。 しかし,原告が被告らに提供した凝集剤の製造方法は,焼成工程を経ない乾燥カーバイトスラリーを用いるものであり,これにさらに主原料としてアルミニウムを使用する製造方法は,本件特許権の効力が及ぶものではなかった。 原告が提供しようとしていた凝集剤の製造方法に本件特許権の効力が及ばず,特許権による独占の利益を得ることができないのであれば,本件特許権を取得する意味はないから,そのような権利の取得に1億5000万円もの対価を支払うことはなかった。 すなわち,被告P2には,本件契約締結の意思表示をするに当たって要素の錯誤があり,この錯誤がなければ本件契約締結の意思表示をしなかったことが明らかであるから,本件契約締結の意思表示は錯誤により無効である。 (イ) 被告P2は,特許法の知識がないことはもとより技術についても素人であることから,本件契約の締結に当たり原告の説明に依存せざるを得なかった。 他方,原告は,本件特許権とともに提供しようとした,原告がいう「改善進化させた製造ノウハウ」は本件発明とは技術的に異なることを熟知しているだけでなく本件特許権の効力が及ばないことも知っていたものである。 被告P2が,本件契約締結に当たり錯誤に陥った原因は原告にあり,したがって被告P2が錯誤したことに重過失があったとはいえない。 イ詐欺による取消上記ア(ア)の本件契約締結の経緯のとおり,原告は,本件特許権の効力の及ばない凝集剤の製造方法に本件特許権の効力が及ぶように虚偽を述べて被告P2を欺罔し,もって被告P2をして本件契約締結の意思表示をさせたのであるから,被告らは,本件契約締結の意思表示を,詐欺を理由に取り消す。 (原告の主張)- 8 - ア 虚偽を述べて被告P2を欺罔し,もって被告P2をして本件契約締結の意思表示をさせたのであるから,被告らは,本件契約締結の意思表示を,詐欺を理由に取り消す。 (原告の主張)- 8 - ア錯誤による無効について(ア) 本件契約は,本件特許権を目的物とする譲渡契約であるから,本件特許権を取得しようとして本件契約を締結した被告P2の意思表示に錯誤はない。 本件特許は無効となったり取り消されたりしたわけではないから,焼成工程を省いた製造方法に本件特許権の効力が及ばないとしても,本件特許権が有効に存在することに変わりはなく要素に錯誤があるともいえない。 (イ) 原告が提供しようとした焼成工程を省く製造方法は,被告P2が焼成工程によるコストを気にしていたため説明したものであり,焼成工程を省略するか否かは被告P2の判断に委ねられていた。原告は,焼成工程を省いた製造方法に本件特許権の効力が及ばないものとは考えておらず本件特許に附帯する技術と考えていた。 すなわち原告は,本件特許権を譲渡した上で,さらにサービスとして焼成工程を省いた製造方法を説明しただけである。 仮に被告P2に錯誤があったとしても,同被告に重大な過失があったといえるから,錯誤による無効を主張することはできない。 イ詐欺による取消について原告が被告P2に譲渡したのは本件特許権である。技術供与は本件契約に付随するものであり,本件契約の目的ではない。 原告は,本件特許発明の製造方法も焼成工程を省く製造方法も提示した上で,商業ベースに乗せる際の選択を被告P2に委ねたのであり,被告らを欺罔した事実はないから,詐欺をいう被告らの主張は失当である。 ウまた,被告らによる上記錯誤無効又は詐欺取消の主張は,時機に後れた防御方法として却下されるべきである。 (2) 同時履行 らを欺罔した事実はないから,詐欺をいう被告らの主張は失当である。 ウまた,被告らによる上記錯誤無効又は詐欺取消の主張は,時機に後れた防御方法として却下されるべきである。 (2) 同時履行の抗弁(被告らの主張)原告には,本件契約に基づく第1回弁済期までに「本件特許のコスト算出に要する開示」を,第2回弁済期までに「生産(製造)にかかる技術工程の開示」をなす- 9 - 義務があるが,その義務の履行は一切ないから,被告らは,原告の義務の履行があるまで,弁済を拒絶する。 (原告の主張)本件契約は,本件特許権の売買契約であり,各弁済期までの原告による技術委譲は大まかな目安である。同時履行の抗弁をいう被告らの主張は失当である。 (3) 被告P3の連帯保証責任(原告の主張)本件契約書の第14条に記載しているとおり,被告P3は,本件契約につき被告P2を連帯保証したのであるから,被告P3は,被告P2が負う支払債務につき連帯して支払う義務を負う。 (被告P3の主張)被告P3が被告P2を連帯保証した旨の主張は否認する。 第3 当裁判所の判断 1 上記第2の1の各事実に後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実を総合すると,本件につき以下のとおりの事実が認められる。 (1) 原告は,かねてから凝集剤を研究している技術者であり,平成15年には,事業化のため有限会社I.N.G.研究室(以下「I.N.G.研究室」という。)を設立し,被告P3にその経営とともに,対外的契約交渉を任せていた。また原告は,平成16年3月11日,P5からの援助を受けて本件特許発明を開発したところ,P5は,この結果得られた本件特許発明を,原告を共同発明者に加えて特許出願し,平成19年8月31日に特許登録がなされた。なお,本件特許権は,同年1 P5からの援助を受けて本件特許発明を開発したところ,P5は,この結果得られた本件特許発明を,原告を共同発明者に加えて特許出願し,平成19年8月31日に特許登録がなされた。なお,本件特許権は,同年10月3日には原告宛に移転登録がされたが,原告は本件特許発明の開発によりP5から何ら報酬を得なかった。(甲1,乙7,原告本人)(2) 原告は,上記(1)のとおり凝集剤の研究開発を進めていたが,その成果を買おうとする事業者は現れず,研究開発の負債が嵩み,平成19年頃には自宅が売却されるおそれが生じてきた。 - 10 - そこで被告P3は,凝集剤の事業化のための資金提供者としてP4を原告に紹介したところ,P4は,同年末頃,代表を務めるA社において原告の自宅を買い取って原告の負債を処理し,その後も原告を無償で同所に居住させ,また原告を同社の社員扱いにするなどして資金提供を継続して研究を援助するなどした。加えてP4においては,本件特許発明を買い受ける事業者を探すなどの活動をした。 なお,A社は,原告の自宅を買い取るだけではなく,平成20年10月27日,本件特許権の持分を譲り受けていたが,平成21年5月頃には,原告とA社の間では,原告がA社の所有となった自宅を2075万7651円で買い戻しができること,買戻時にA社は本件特許権の持分を原告に返還することの確認がされていた。 (甲1,甲8,甲9の1ないし7,甲12,甲17,原告本人)(3) 被告P3は,その後,本件特許権の譲渡先を探して営業活動をし,平成22年中にはクリーニング事業者との間での交渉が進んでいたが,東日本大震災の発生により交渉が頓挫した。(被告P3)(4) その後,平成23年6月20日,原告と被告P3は,両者の関係につき,被告P3には,その人脈を活用して事業展開をすることを期待 でいたが,東日本大震災の発生により交渉が頓挫した。(被告P3)(4) その後,平成23年6月20日,原告と被告P3は,両者の関係につき,被告P3には,その人脈を活用して事業展開をすることを期待して同人にI.N.G. 研究室の代表取締役になってもらったこと,本件特許権の契約交渉につき原告の代理人になってもらっていること,それに伴う被告P3の利益分配などが口頭で約束されていたことが改めて確認されるなどした。また,平成24年3月30日には,上記両名間で,本件特許の活用事業に関し運用をI.N.G.研究室に一元化すること,原告と被告P3とで相談して本件特許権に関する契約を行うことを確認した。 (乙1,乙2)(5) 一方,P4も,本件特許権の譲渡先を探し,平成24年6月頃にも,具体的な事業者を紹介するなどしていた。その際,原告は,P4に対し,本件特許権のほか「改善進化させた製造ノウハウ」を譲渡対象とする交渉をするよう求めていた。 しかし,その事業者を含め,その後も,本件特許権を含め原告の凝集剤の技術を買って事業化をしようとする者は現れなかった。(乙20,証人P4)- 11 - (6) そのような中,被告P2は,平成24年中には,被告P3の営業活動の結果,本件特許権を買い取ってする凝集剤の製造事業を検討し始めていた。原告は,被告P3を介して被告P2と交渉し,A社名義となっていた共有持分を含む本件特許権全部の売買対価を,被告P2に対して当初5億円として提示していたが,平成25年2月頃までには,被告P2の提示する1億5000万円で合意することに決めた。 そして,その当時,P4から自宅の明渡しを求められる可能性が具体化してきたこともあって,被告P3に対し,被告P2との契約の早期締結を求めた。なお,その際,被告P3に対し,締結される契約の性質につき そして,その当時,P4から自宅の明渡しを求められる可能性が具体化してきたこともあって,被告P3に対し,被告P2との契約の早期締結を求めた。なお,その際,被告P3に対し,締結される契約の性質につき,「特許の売買であり附帯する条件は」ない契約となるよう交渉することを求めるほか,被告P3自身に原告及び被告P2の双方の連帯保証人となることも求めた。(乙10,原告本人)(7) 被告P2は,本件契約を原告と正式に締結する以前から,原告と契約を締結してする凝集剤の製造事業の準備を始めていたが,平成25年3月11日には,A社から,本件特許権の同社の持分を譲り受け,同月19日,その旨の登録を経由した。なお,被告P2は,上記持分を譲り受けるに当たり,P4名義の口座に800万円を振り込んで支払い,その際,「特許権の売買契約内容の履行が出来ない場合は,速やかに,特許名義の変更前の名義に戻します。」と記載のある念書(甲5)を原告に差し入れ,原告は,本件特許権の共有者として上記譲渡に同意していた。 (甲7の1,乙5,乙11)(8) 他方,原告も,被告P2と本件契約を正式にしていなかったが,被告P2の事業準備のため,被告P3を介して被告P2に対し,以下のとおりの技術提供をした。 すなわち,原告は,平成25年4月10日頃,同日付けで「契約を前提とする開示1号・反応釜について」(甲6の1)と題し,凝集剤製造に用いるに必要な反応釜の技術条件を書面化して,被告P3を介して被告P2に交付した。 次いで原告は,同月24日頃,同日付けで「契約を前提とする開示2号・P2氏提供のカーバイドスラリーを原料とするCa系凝集剤の製造(溶解)試験」(甲6- 12 - の2)と題し,凝集剤製造の原料となるカーバイトスラリーについての技術条件を書面化して,被告P3を介して被告P2 ーバイドスラリーを原料とするCa系凝集剤の製造(溶解)試験」(甲6- 12 - の2)と題し,凝集剤製造の原料となるカーバイトスラリーについての技術条件を書面化して,被告P3を介して被告P2に交付した。なお,そこで原料として示されていたカーバイトスラリーは,焼成工程を経ていないものであった。 (9) 原告と被告P2は,平成25年5月12日,「特許権譲渡契約書」と題する契約書を取り交わして,本件特許を被告に譲渡することを基本的内容とする本件契約を締結した。また,原告は,同日,同日付けで「契約に基づく開示1号・Ca系凝析剤1m3の原料」(甲6の3)と題する書面で,被告P2に技術情報を提供したが,そこには凝集剤製造に用いるカーバイトスラリーとして,焼成工程を経ない乾燥カーバイトスラリーが示されていた。(被告P3)(10) 原告は,平成25年5月20日頃,同日付けで「契約に伴う協力1号・(株)山崎の染料廃液の凝集分離実験レポート」(甲6の4)と題する実験レポートを,被告P3を介して被告P2に提供した。 (11) 本件契約によれば,平成25年5月31日には,本件特許権のA社の持分(本件契約においてはP4の持分として特定されている。)が原告に移転されることと引換えに,被告P2は,原告に対して500万円,A社(同じく本件契約においてP4と特定されている。)に対して2100万円を支払うことが約されていたが,被告P2は原告に対して500万円を支払い,また上記(8)の経緯でA社に対して800万円を支払ったが,A社に対する残額1300万円を支払わなかった(なお,本件特許権のA社の持分が被告P2に譲渡されたのは,本件契約を締結する以前であるが,これは本件契約締結に至る交渉時にされた合意内容が前倒しで実現されたものと認められる。)。 (12) 原告 なお,本件特許権のA社の持分が被告P2に譲渡されたのは,本件契約を締結する以前であるが,これは本件契約締結に至る交渉時にされた合意内容が前倒しで実現されたものと認められる。)。 (12) 原告は,上記(11)のとおり,被告P2が本件契約に基づく債務の履行を,第1回弁済期から遅滞していることから,平成25年10月,被告P2に対し,原告のP4に対する債務を肩代わりで弁済することになる2100万円を速やかに弁済し,原告の自宅を原告の所有名義に戻すよう求めた。(甲7の1)(13) 被告P2は,平成25年10月頃までに凝集剤の製造事業の為,中国の工- 13 - 場に反応釜を設置していた。(被告P2本人)(14) 原告は,平成25年11月2日頃,被告らに対し,「重要危惧されることですので契約上の役割として通知します。」(甲7の2)と題し,生産設備の選定設置について慎重を期すよう求める趣旨内容の書面を交付した。 (15) 被告P2は,平成25年末頃,凝集剤の製造方法についての質問を,被告P3を介して原告に対してなすとともに,工場設備についてのアドバイスを受けるため,原告を中国に招こうとした。(被告P2本人)原告は,上記質問の文書(甲13)を被告P3から平成26年1月7日に受け取り,これに速やかに文書化して回答した(甲6の5)が,訪中の要請には応じなかった。 (16) 原告と被告らとの関係は,その頃悪化しており,原告は,平成26年1月27日,「話し合いに臨む前提」と題するメール(甲7の3)を被告P2に送信し,その中で,どのような話合いであれ,被告P2が,本件契約に基づく第1回の支払をなし,その結果,自宅の所有名義がA社から原告に回復していることを前提とするという姿勢を示した。 (17) 原告は,平成26年3月頃,被告P2に対し,弁護 被告P2が,本件契約に基づく第1回の支払をなし,その結果,自宅の所有名義がA社から原告に回復していることを前提とするという姿勢を示した。 (17) 原告は,平成26年3月頃,被告P2に対し,弁護士を代理人として,本件訴訟で求めると同じ本件契約に基づく第1回弁済期分と第2回弁済期分の合計3100万円の支払をするよう求めるとともに,協議なく釜を設置することは契約違反だとする旨を内容証明郵便で通知した。(甲15)(18) これに対し被告P2は,回答を書面で送付し,その中で,技術について素人である被告P2は製造の準備が担当であり,販売は被告P3が,製造及び薬剤使用試験は原告の担当であって,本件契約は,被告P2と,原告及び被告P3間の契約であるとの理解を述べるとともに,原告に事業に参加してもらうよう求めた。(甲16) 2 検討(1) まず本件契約の性質について検討すると,原告は,本件契約が単なる本件特許権の売買契約であることを前提に請求しているが,本件契約の契約条項では,本- 14 - 件特許権の譲渡だけではなく,支払債務の分割弁済期が大まかなものとはいえ原告による具体的技術提供と関連付けられているし,原告は,被告P2が中国において進める凝集剤事業のための反応釜の設置について注意喚起をしたり,原告に無断でなすことが契約違反であると警告したりするなど(上記1(14),(17)),単純な権利譲渡契約ではない前提の対応をしている。そして,そもそも被告P3は原告の事業に長年かかわっているものの営業活動の面での関与にすぎず,被告P2についてはもともと凝集剤製造等の事業に知識があるわけではないことからすると,本件特許権を譲り受けてする事業活動は,原告の技術提供なしにできなかったことは明らかである。そうすると,本件契約は,本件特許権の単純な売 もと凝集剤製造等の事業に知識があるわけではないことからすると,本件特許権を譲り受けてする事業活動は,原告の技術提供なしにできなかったことは明らかである。そうすると,本件契約は,本件特許権の単純な売買ではなく,それとともに本件特許発明を用いた事業実施のために必要な技術提供を原告がなすことも契約内容となっていたものと解するのが相当であり,したがって,本件契約の対価である1億5000万円も,本件特許権の価値が主たるものであるが,それだけでなく,その特許発明を使用した事業のために必要な技術提供の対価も含むものとして合意されていたというべきである。 (2) 以上のような本件契約の理解を前提に,まず被告らによる錯誤無効の主張について検討するが,被告らの錯誤無効の主張は,要するに,本件契約を締結して営む凝集剤の製造事業は,本件特許権の効力が及ぶことで独占的事業となるから,1億5000万円を対価とする契約を締結したのに,原告の提供しようとしていた凝集剤の製造方法は本件特許権の効力が及ばないものであって,結局,営もうとする事業につき特許権による独占の利益を得ることができないものであるから,本件契約の締結の必要性及び対価を判断する前提に誤りがあり,本件契約を締結した被告P2の意思表示には錯誤があるというものである。被告らは,これを内容の錯誤だと主張しているが,本件契約書そのものには本件特許権の譲渡及びそれに伴う技術提供が明示され,その債務も原告によって履行されないわけではないから,その主張に係る錯誤は,内容の錯誤というより,本件契約締結についての動機の錯誤というべきものである。 - 15 - (3) そこでさらに検討を進めると,動機の錯誤により本件契約が無効であるというためには,その動機が表示されて法律行為の内容になっているとともに,その錯誤が うべきものである。 - 15 - (3) そこでさらに検討を進めると,動機の錯誤により本件契約が無効であるというためには,その動機が表示されて法律行為の内容になっているとともに,その錯誤が法律行為の要素に関する錯誤であることが必要である。 この点につき本件についてみると,本件契約締結交渉の詳細は明らかではないものの,本件特許権だけでなく事業実施のための技術提供をすることを債務の内容とすることからすると,当事者間では事業実施のためには本件特許権が必要であることを前提として交渉されていたものと認められ,また本件契約の対価の相当性は,事業に独占的利益をもたらせる本件特許権の価値によって決定されていたと認められるから,本件契約締結の意思表示の際,原告から技術提供を受けて特許権による独占的地位に基づく事業を営むことを目的に本件特許権を取得することを必要とし,まただからこそ,主に本件特許権の価値を前提に本件契約に高額の対価を支払う必要があると考えたという被告P2の動機は,原告に対して表示されていたものと認められる。また,上記のような前提のもと,被告P3を介して本件特許権の売却交渉をして本件契約締結に至った原告においても,被告の本件契約締結の動機は当然認識されていたといえるから,上記動機は双方の法律行為の内容となっていたものと認められる。 しかし,本件契約に関連して原告が被告P2に対し,同人の事業準備のため提供していた技術内容は,本件特許発明では必須の構成要件となっている,カーバイトスラリーを800℃ないし1300℃で焼成するという工程が省略されたものであり,本件特許権の効力が及ばないものである。原告は,この焼成工程を経ない乾燥カーバイトスラリーを用いてする凝集剤の製造方法は,本件特許発明を改善進歩したより良いノウハウであり,焼成工程の採 ものであり,本件特許権の効力が及ばないものである。原告は,この焼成工程を経ない乾燥カーバイトスラリーを用いてする凝集剤の製造方法は,本件特許発明を改善進歩したより良いノウハウであり,焼成工程の採否はコストの問題にすぎないようにいうが,少なくとも焼成工程を省略した凝集剤の製造方法に本件特許権の効力が及ばないことは明らかである。また,焼成工程の採否が原告のいうようにコストの問題にすぎないというのなら,そもそも被告P2は凝集剤の製造事業を営むに当たって本件特許権を取得する必要さえなかったことになるから,これらの点からすると,そ- 16 - のような権利取得を主な目的として,原告の提示額を基礎に(上記1(6)),1億5000万円の対価を支払う義務が生じることになる本件契約締結を必要と判断した被告P2に錯誤があることは明らかである。 そして,本件契約が対価を1億5000万円とすることの相当性をさておき,少なくとも本件特許権の価値がその対価決定の主要な部分であることは明らかであるから,本件特許権を取得して営む凝集剤の製造事業に本件特許権が不可欠であることは本件契約の主要な部分であるといえ,その点につき上記のような錯誤がなければ被告P2が高額の対価支払を約してまで本件契約締結の意思表示をしたとは考えられないし,また通常人も同様と考えられるから,被告P2の上記錯誤は法律行為の要素についての錯誤であるということができる。 したがって,本件契約は,被告P2がした本件契約締結の意思表示に錯誤があることにより無効というべきことになる。 (4) これに対し,原告は,被告P2に錯誤が認められるとしても重大な過失があるから錯誤無効の主張が許されないとして争う。 確かに一般的には,事業者が,その事業開始のためにある権利を取得する必要があるのか,これによっ 原告は,被告P2に錯誤が認められるとしても重大な過失があるから錯誤無効の主張が許されないとして争う。 確かに一般的には,事業者が,その事業開始のためにある権利を取得する必要があるのか,これによって,その事業は法的に保護されるのか,またその権利を取得するためにいくら費やすべきなのかは,その事業者の判断に委ねられ,その判断の誤りは事業者自身の責任として引き受けるべきであるから,被告P2の陥った錯誤については,同被告に少なくとも過失があることは否めない。 しかしながら,被告P2は,原告の長年の事業協力者である被告P3に勧誘され凝集剤の製造事業に取り組み始めた者であり,同分野の技術内容に詳しくはなかったと認められるから,本件特許権の価値や,本件特許権を用いてするという凝集剤の製造事業については,原告からの説明をそのまま受け入れていたものと認められるが,原告は,その本人尋問の結果によれば,現在においても,本件特許権には数億円の価値があると考えているというのであり,またそれを改善進化させたという,被告P2に対して提供しようとしていた製造技術には十分な価値があると考えてい- 17 - るだけでなく,本件特許権の効力が及ばないことについて理解していない様子さえ見受けられるのである。そうすると,原告が,凝集剤の製造事業に必須の特許権ではない本件特許権を被告P2を欺罔して販売しようとしたわけではないとしても,少なくとも被告P2が陥った上記認定に係る錯誤は,原告に惹起されたものというべきであるから,被告P2に誤った前提理解をさせ錯誤に陥らせた原告において,被告P2の錯誤が重大な過失に基づくものというのは失当というべきである(なお,被告P2と直接の契約交渉をしていたのは被告P3であるが,本件契約の締結交渉段階において,被告P3は原告の代理人として位置 被告P2の錯誤が重大な過失に基づくものというのは失当というべきである(なお,被告P2と直接の契約交渉をしていたのは被告P3であるが,本件契約の締結交渉段階において,被告P3は原告の代理人として位置付けられるから,上記のように評価するのが相当である。)。 なお,原告は,被告らによる上記錯誤無効の主張が時機に後れた防御方法であるとして却下の申立てをしているが,本件の経緯に鑑み,上記主張が故意又は重大な過失により時機に後れたものとは直ちにはいうことはできない。 (5) したがって,本件契約は,被告P2の本件契約締結の意思表示の錯誤により無効というべきであるから,本件契約に基づく被告P2に対する請求には理由がないというべきであり,またそうである以上,本件契約に基づき被告P2が原告に対して負う債務を主たる債務とする原告の被告P3に対する連帯保証契約に基づく請求も,その余の判断に及ぶまでもなく理由がないというべきである。 3 よって,原告の被告らに対する請求をいずれも棄却することとし,訴訟費用に負担につき民事訴訟法61条を適用して主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第21民事部 裁判長裁判官森崎英二 - 18 - 裁判官田原美奈子 裁判官大川潤子
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