主文 一原判決中控訴人に関する部分を取り消す。 二被控訴人の請求を棄却する。 三訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第一控訴の趣旨主文と同旨第二事案の概要本件は、被控訴人が、控訴人に対し、川崎市情報公開条例(以下「本件条例」という。)に基づいて、川崎市が買い取る予定の土地の価格について行った不動産鑑定の鑑定書(以下「本件鑑定書」という。)の公開を請求したところ、控訴人が非公開の決定をしたため、その取消しを求めるとともに、川崎市に対し、本件訴訟追行に要した弁護士費用相当額の損害賠償を求めた事案である。 原審は、被控訴人の川崎市に対する損害賠償請求については棄却したが、控訴人に対する本件鑑定書の非公開決定取消請求を認容したため、控訴人がこれを不服として控訴した。なお、川崎市については、被控訴人から控訴の申立てがなく、原判決が確定している。 前提となる事実関係及び争点は、次の一のとおり訂正し、当審における当事者双方の主張として二及び三のとおり加えるほかは、原判決「事実及び理由」欄中の「第二事案の内容」二及び三のうち控訴人に関する部分のとおりであるから、これを引用する。 一1 原判決6頁11行目の「(1)略」を次のとおり改める。 「(1) 個人生活事項について特定の個人が識別され、又は識別され得る情報。 ただし、次に掲げる情報を除く。 ア何人でも法令の規定により閲覧することができるとされている情報イ公表することを目的として作成し、又は取得した情報ウ法令の規定により行われた許可、免許、届出その他これらに相当する行為に際して作成し、又は取得した情報であって、公開することが公益上必要と認められるもの」 2 同14頁1行目の「五号」を「六号」に改める。 二当審における控訴人の主張 出その他これらに相当する行為に際して作成し、又は取得した情報であって、公開することが公益上必要と認められるもの」 2 同14頁1行目の「五号」を「六号」に改める。 二当審における控訴人の主張 1 価格折衝の難航による用地買収事務の支障について(本件条例第7条第1項第3号イ)(一) 川崎市の機関が保有している情報の中には、それを公開した場合に、特定の者に不当な利益を得さしめる等、市又は国等の機関が行う事務又は事業の公正を害することになる情報や、経費の著しい増大、当該事務事業の大幅な遅れなどを生じ、事務事業の適正な執行を妨げることになる情報等が存在するため、本件条例第7条第1項第3号イの規定は、このような情報について公開しないことができるとしたものである。 このように、上記規定は、行政執行上の支障の観点から非公開事由を定めたものであり、また、本件鑑定書は高速川崎縦貫線の事業用地の代替地取得のために作成されたものであるから、本件鑑定書の公開の是非については、同事業のための代替用地取得事務に遅れをもたらすなど適正・公正な事務執行に支障を生じさせるおそれがあるか否かが問題となる。 そうすると、代替用地取得事務に対する市民(近隣地権者)の対応ないし主張がたとえ非合理であって、保護に値するものではないとしても、上記規定が市民(近隣地権者)の利益保護の規定ではない以上、本件鑑定書の公開がそのような対応ないし主張を引き起こす蓋然性があり、代替用地取得事務に遅れを生じさせるおそれがあるのであれば、上記規定の適用は肯定されるというべきである。 (二) 原判決は、代替用地買収事務にあっては、ある土地の買収に手間取り、買収自体が失敗に終わることがあっても、そのようなことは事務の支障とはいえないとするが、これは、要するに、代替用地の買収であれば、どの土地でも 、代替用地買収事務にあっては、ある土地の買収に手間取り、買収自体が失敗に終わることがあっても、そのようなことは事務の支障とはいえないとするが、これは、要するに、代替用地の買収であれば、どの土地でもよいとの考えに基づくものである。 しかしながら、被補償者が代替地の取得を希望するときは、所有地の隣接地又は近隣の土地を要望することが多く、また、取得金額、土地における建物の建築条件、最寄りの交通機関の駅、商店街、公共施設への近接性、周囲の環境条件、得意先との近接性、関連工場との近接性流通経路の確保等、様々な条件を提示するものであり、それに適した代替地の範囲は自ずと限定され、更に、被補償者から特定した場所を要望されることも多い。したがって、川崎市の実施する代替地取得事務にあっては、その対象土地がどの土地であってもよいというものではなく、市の提示価格に代替地所有者が応じず、当該土地を代替地として取得できなければ、結局、被補償者との関係において必要とされる代替地を取得することができないことになってしまう。そのため、市において、当該被補償者に適する他の代替用地を求めることになれば、その探索や、被補償者との再度の交渉及び新たな代替候補地の地権者との交渉等に時間を必要とし、代替用地取得事務に大幅な遅れが生じることになる。最終的に被補償者に適する代替用地の取得ができなかった場合はもとより、取得できたとしても、それ遅延すれば、公共事業の施行が遅れるとともに、被補償者の生活再建も遅れることになるのであって、その支障は明らかである。 (三) 買収対象地の所有者は、自発的意思によって土地を売却するのではなく、買主である地方公共団体の要請に応じて土地を手放すのであるから、できるだけ有利な条件で売却しようとし、少なくとも近隣に買収事例(あるいは、本件のように買収し 的意思によって土地を売却するのではなく、買主である地方公共団体の要請に応じて土地を手放すのであるから、できるだけ有利な条件で売却しようとし、少なくとも近隣に買収事例(あるいは、本件のように買収しようとした事例)があれば、それより不利な価格条件にならないよう対応するのは当然のことである。 しかし、土地の価格については、各土地ごとの個別要因に差がある上、個別要因の差の判断も評価的要素を含み、一律に機械的に決定されるものではなく、更に、個別要因自体も専門的な事項であって、鑑定評価の知識を有しない一般人が直ちに理解できるとは限らない。また、例えば価格時点の差異についても、いつから当該土地の買収に着手するかという市側の都合によるものであるから、価格時点の差異による価格の差に関しては、いかに理論的に説明しても土地所有者の納得を得られるというものではない。 これらの点を考えれば、公共事業に伴う用地買収の継続中に、既買収地の買収価格が明らかにされたり、あるいは、特定の時点において特定の土地の買収価格となるべき価格が明らかにされたりすると、未買収地の土地所有者が上記土地と自己所有地との画地条件の違い、価格時点の違い等を正しく認識、評価せず、あるいは買収時期(価格時期)の違いを納得せず、上記価格を前提に自己に有利な価格を算定し、これに固執することは十分にあり得ることである。その際、土地所有者にとって、租税特別措置法による課税の軽減は、特に大きな意味を持つものではない(同法34条の2により、代替用地の取得については1500万円の特別控除があるのみである。)。 以上のような代替用地取得事務の実情に照らし、買収地の買収価格が鑑定書の公開により明らかになるならば、用地買収が成功せず、少なくとも用地取得事務に大幅な遅れが生じるおそれがあることは明らかである。 以上のような代替用地取得事務の実情に照らし、買収地の買収価格が鑑定書の公開により明らかになるならば、用地買収が成功せず、少なくとも用地取得事務に大幅な遅れが生じるおそれがあることは明らかである。 なお、用地取得事務に大幅な遅れが生じた場合には、土地所有者に提示した価格の時点修正を行う必要があるが、地価の現状は続落の途にあることから、提示した価格を時点修正すると低額になり、更に用地買収が困難となることが予想される。 (四) 以上のとおり、本件鑑定書が公開され、本件土地の買受申入価格(買収予定価格)が近隣地権者に明らかになると、川崎市が現に継続中の高速川崎縦貫線事業のための代替地取得事務に少なくとも大幅な遅れを生じさせるおそれがあり、本件鑑定書の公開は、本件条例第7条第1項第3号イに該当するというべきである。 2 買収拒否による用地買収事務の支障について(本件条例第7条第1項第3号イ)(一) 用地買収事務は、私人間の売買と異なり、売却を希望する者との間で売買契約を締結するものでないことから、そもそも容易なものではなく、交渉担当者において、土地所有者を繰り返し訪問し、同人との間に人間関係を作り、信頼を得ることを必要するものである。そして、土地所有者の所有に係る土地の具体的な売買価格は、土地所有者の私的内部的な財産状態に関する情報であり、その情報の保護がなければ、川崎市と土地所有者との間に信頼関係を維持することはできない。現に、土地所有者は、そのほとんどが隣人、親族等にも絶対に売買価格を漏らしてくれるなと要望するものである。 (二) 本件条例の非公開事由との関係において問題になるのは、土地価格の公開を土地所有者において受忍すべきか否かではなく、売買価格等を公表することにより、用地交渉の相手方となった土地所有者に不信、不快の念を抱かせ、川崎市と 事由との関係において問題になるのは、土地価格の公開を土地所有者において受忍すべきか否かではなく、売買価格等を公表することにより、用地交渉の相手方となった土地所有者に不信、不快の念を抱かせ、川崎市との信頼関係を破壊し、用地交渉事務に支障をもたらすおそれがあるか否かである。 上記のように、ほとんどの地権者が売買価格を秘密にすることを強く望んでいる以上、買収側によるその一方的公表(公開)は、地権者に不信、不快の念を抱かせ、以後の用地交渉事務に支障をもたらすことは明らかである。かくては、将来川崎市が行う用地買収を伴う公共事業において、自己の私的内部的情報を一方的に公開されることを危倶し、交渉にすら応じない者が現われるおそれがあるし、少なくとも、そのような不信、不快、あるいは危倶の念を越えて信頼関係を構築し、売却してもよいとの意思を土地所有者に生じさせるには相当の時間が必要となり、代替用地取得事務に大幅な遅れが生じるおそれがある。 殊に、本件鑑定書のように買収にまで至らない土地の鑑定評価書については、当該地権者からすれば、川崎市に売却してもいない土地の価格をその意思に反して公開されることになり、信頼関係の毀損及びこれによる影響は一層大きなものである。 (三) 以上のとおりであるから、本件鑑定書の公開は、今後、高速川崎縦貫線事業のため代替用地取得の相手方となる地権者との信頼関係を破壊し、少なくとも同事業のための代替地取得事務を大幅に遅らせるおそれがあるものということができるから、この点からも、上記公開は本件条例第7条第1項第3号イに該当する。 (四) なお、原判決は、本件土地の買収事務は実質的に終了しているとして、本件における川崎市の買受申入価格(買収予定価格)の公開が高速川崎縦貫線事業に支障を生じないとする。 しかしながら、一個の公共事業の なお、原判決は、本件土地の買収事務は実質的に終了しているとして、本件における川崎市の買受申入価格(買収予定価格)の公開が高速川崎縦貫線事業に支障を生じないとする。 しかしながら、一個の公共事業のための用地買収が進行している場合には、買受申入価格(買収予定価格)の公開による当該事務事業への支障は存続するのであって、個々の土地の買収交渉が締結したことを理由に支障のおそれを否定することはできない。 また、本件土地について、川崎市といすヾ自動車との間に売買予約契約が成立したということはない。 3 不動産鑑定士の著作権侵害について(本件条例第7条第1項第2号、第3号イ、第4号)(一) 不動産鑑定書は、不動産鑑定士から委託者に対してのみ提供されるものであり、一般的に「公衆に提供」されることが予定された著作物ではないし、一般に公衆に出回っているものでもない。川崎市では、買収対象地の地権者に対しても、当該土地の不動産鑑定書を公開していない。 (二) 本件鑑定書の提供についても、川崎市と不動産鑑定士との間において鑑定委託契約が締結されているが、鑑定書が公表されることを前提とする約定は全く存在しない。 また、上記鑑定委託契約は、川崎市が、買収予定地の買受価格を決定するに当たっての参考のため、その内部資料として本件土地価格の鑑定評価を委託したものであり、不動産鑑定士としても、あくまで川崎市の内部資料として使用されることを前提に本件鑑定書を作成し、同市に提出したものである。このことは、本件鑑定書中に通常記載してはならないとされている近隣地の取引事例に関する詳細な情報が記載されていることからも明らかである。 (三) 不動産鑑定士が行う鑑定評価活動は、専門的な知識と経験に基づいてなされるものであるが、鑑定書が上記のとおり内部資料として用いられることを目的と 情報が記載されていることからも明らかである。 (三) 不動産鑑定士が行う鑑定評価活動は、専門的な知識と経験に基づいてなされるものであるが、鑑定書が上記のとおり内部資料として用いられることを目的として作成された場合、第三者がこれを取得し、あたかも不当な鑑定であるような印象を与える形で公表したならば不動産鑑定士は、業務運営上不測の不利益を受け、名誉侵害、社会的評価の低下を余儀なくされるおそれがある。 (四) また、上記のとおり、本件鑑定書は、外部に公表されることが予定されていないことはもとより、その想定もされておらず、かえって、川崎市内部において使用されることを前提に作成、提出されたものであることからみて、不動産鑑定士は、その提出の際、本件鑑定書の外部への公表を黙示的に承諾していたと解することもできない。 (五) 以上によれば、本件鑑定書の公開は、著作者である不動産鑑定士の著作者人格権(公表権)を侵害するものであり、本件条例第7条第1項第2号、第3号イ、第4号に該当するというべきである。 4 鑑定における情報量の低下等による用地買収事務の支障について(本件条例第7条第1項第3号イ)(一) 不動産の価格を求める鑑定評価を行う場合、その代表的手法として取引事例比較法があり、本件鑑定書も同手法による評価が記載されている。 (二) ところで、不動産鑑定士の行う取引事例の資料の取扱いについては、社団法人日本不動産鑑定協会の「資料の収集、管理及び閲覧規程」第14条第1項において、「資料は、資料作成者、取引当事者及び官公庁に支障及び迷惑のないよう慎重に取り扱わなければならない。」とされ、更に、「資料の収集、管理及び閲覧規程運用細則」第7条第4項において、「地番又は居住表示」「事例の位置を明確に示す図面」「取引当事者名、居住者、店舗、ビル名等」のいわゆる取 ければならない。」とされ、更に、「資料の収集、管理及び閲覧規程運用細則」第7条第4項において、「地番又は居住表示」「事例の位置を明確に示す図面」「取引当事者名、居住者、店舗、ビル名等」のいわゆる取引事例の詳細な情報を鑑定書に登載してはならないとされている。 他方、本件鑑定書には、鑑定対象地の近傍の取引事例地における所在・地番、事例の位置を示す図面、取引価格、取引時点、地積、形状、街路条件、交通近接条件、環境条件及び公法上の規制等の情報が記載されており、上記運用細則第七条第四項の情報が含まれているが、これは、同条第六項において、「依頼者が国又は地方公共団体、その他公的機関であって、当該機関が、使途を明確にし、かつ、事例資料に係る守秘義務を了承した場合は、本条四項一号から三号に規定する事項を別添資料として記載することができる。」として、地方公共団体等の公的機関が依頼する場合に限って、鑑定書に取引事例の詳細な情報を記載することができるとする例外規定が設けられているためである。 この例外規定は、公的機関が守秘義務を了承する場合には、情報の取扱いを誤るおそれがないとの信頼に基づくものであり、日本不動産鑑定協会が、上記の場合に鑑定書に上記情報の記載がなされてもの秘密を保護し得ると判断したことにものである。 (三) 以上から明らかなとおり、本件書中における取引事例の詳細な記載は動産鑑定士から川崎市に対し、非公開ることを前提に提供されたものというであるから、これを公開することは、市のみに止まらず、地方公共団体等の機関に対する不働産機関に関する不動産鑑定士の信頼を著しく損ない、今後、鑑定書に詳細な情報が記載されなくなる等、不動産の買収を伴う事務事業に支障が生ずることが明らかである。 したがって、この点からも、本件鑑定書の公開は本件条例第7条第1項第 の信頼を著しく損ない、今後、鑑定書に詳細な情報が記載されなくなる等、不動産の買収を伴う事務事業に支障が生ずることが明らかである。 したがって、この点からも、本件鑑定書の公開は本件条例第7条第1項第3号イに該当するというべきである。 (四) 原判決は、行政機関が鑑定を裁判所に提出することなどは普通に行われていることであり、本件鑑定書を開示しても、不動産鑑定士の川崎市に対する信頼が損なわれることはないとするが、鑑定書の裁判所への提出行為は、裁判官及び訴訟当事者という限定された関係者に対しなされるに過ぎず、一般公衆への公開とは明らかに異なるものである。したがって、不動産鑑定士が、鑑定書の裁判所に対する提出を了承したとしても、一般公衆に対する公開までを了承したことになるものでないことは明らかである。 5 本件鑑定書における取引事例の情報について(本件条例第7条第1項第1号、同項第2号)(一) 本件鑑定書における各取引事例についての情報は、各土地が、何時、いかなる価格で売却されたかを明らかにする情報であり、各土地所有者及び買受人が誰であるかは不動産登記簿によって容易に判明する。 したがって、上記情報は、その所有者ないし買受人が個人である場合には、個人生活事項について特定の個人が識別され、又は識別され得るものとして本件条例第7条第1項第1号に、また、その所有者ないし買受人が法人である場合には、専ら法人の内部に関する情報として同項第2号に該当する。 (二) 本件鑑定書には、作成者である不動産鑑定士の押印した印影が表示されている。 事業者は、その事業に使用する印章・印影について、いわゆる内部管理情報として秘密にしておくことが是認され、その公開の可否及び範囲を自ら決定できる権利、ないしはそれを自己の意思によらずにみだりに他に公開、公表されない利益を する印章・印影について、いわゆる内部管理情報として秘密にしておくことが是認され、その公開の可否及び範囲を自ら決定できる権利、ないしはそれを自己の意思によらずにみだりに他に公開、公表されない利益を有している。 したがって、事業者の意思によらずにその内部管理情報が公表されることは、事業者の正当な意思、期待に反するというべきであるから、本件鑑定書における不動産鑑定士の印影部分は、本件条例第7条第1項第2号に該当する。 6 被控訴人は、平成12年8月現在、本件土地の買収の目的とされた高速川崎縦貫線事業について、その継続が見直されている段階にあるから、本件鑑定書の公開により、同事業の代替地取得事務が影響を受けることはあり得ないと主張する。 (一) しかしながら、本件決定の適否が判断される基準時は処分時であり、処分後の事情の変化はその適法性に影響を与えるものではないから、被控訴人の上記主張はそもそも失当である。 (二) 高速川崎縦貫線事業については、鋭意工事が進められており、事業の継続が見直されているということはない。 すなわち、川崎縦貫道路事業Ⅰ期区間については、平成13年3月現在、事業に必要な用地面積約35・7ヘクタールのうち、約29・8ヘクタールが取得済みであり、用地取得率は約83パーセントである。そして、未買収の画地数が27あることから、現在、首都高速道路公団(以下「公団」という。)が十数件の地権者と用地交渉を行っている。したがって、現在においても、本件土地付近のⅠ期区間の事業用地について、取得の必要性及び代替用地取得事務の必要性は十分に存するものである。 また、同事業Ⅱ期区間については、現在、国土交通省、神奈川県、川崎市、公団及び日本道路公団で構成される「川崎縦貫道路計画調整協議会」において協議が進められている最中であり、計画の早期 のである。 また、同事業Ⅱ期区間については、現在、国土交通省、神奈川県、川崎市、公団及び日本道路公団で構成される「川崎縦貫道路計画調整協議会」において協議が進められている最中であり、計画の早期確定に向けての準備がなされている。被控訴人の主張する建設省道路局長の発言は、むしろ早期整備に向けた方策を示したものである。 三当審における被控訴人の主張 1 本件条例は、その前文において、「知る権利は、最大限に尊重されなければならない。」(原則1)、「市に関する情報は、公開することを原則とし、非公開とすることができる情報は、必要最小限にとどめられること。」(原則4)と定め、情報公開の原則を謳っている。 したがって、情報はあくまでも公開されることが原則であり、例外的に非公開とすることができる情報は、公開により個人のプライバシーを侵害するおそれがあるなど、非公開とするに足りる合理的な理由を有するものに限定されるべきである。 2 価格折衝の難航による用地買収事務の支障について(一) 仮に、本件鑑定書の公開が、鑑定評価された土地の近隣の地権者に対し、非合理的な対応をする手掛かりを与えることになるとしても、そのことが、代替地買収事務全体について公正・適正な執行を妨げるおそれを生じさせるとはいえない。代替地買収事務にとって少しでも支障となる可能性のある情報であればすべて開示しないという控訴人の態度は、市民の「知る権利」を保障し、一層開かれた市政の実現を図り、地方自治の本旨に即した市民自治を推進する」(本件条例前文)という、情報公開制度の趣旨・目的を全く没却することになる。控訴人の主張する近隣地権者の対応による代替地買収事務への支障・結果的に保護に値しない近隣地権者を保護することでしかなく、本件鑑定書を非公開とするに足りるだけの合理的な理由となるものでは とになる。控訴人の主張する近隣地権者の対応による代替地買収事務への支障・結果的に保護に値しない近隣地権者を保護することでしかなく、本件鑑定書を非公開とするに足りるだけの合理的な理由となるものではない。 行政執行上の支障防止を目的として例外的に情報の非公開が許されるのは、単に行政執行上の便宜を図るためではなく、行政の円滑な執行により市民の福祉の増大を図るためである。本件鑑定書を公開することによって得られる利益と、行政執行上多少手間が増える不利益とを比較すれば、後者は取るに足りない。 (二) 控訴人は、原判決が、代替用地の買収であればどの土地でもよいとの考えに基づいて本件鑑定書の公開の是非を判断したものと主張するが、誤りである。 土地収用法の適用のない代替地の買収にあっては、その土地の買収が手間取り、あるいは買収自体が失敗に終わることは、もとより予想されるところであるから、原判決は、それらのことが、本件鑑定書の非公開を容認できるほどの、行政事務の適正・公正な執行を妨げるおそれとなる事由に当たるものではないとするのである。 (三) 控訴人は、鑑定書の公開が単に代替地取得事務にとって支障となるか否かだけを問題にしているが、ここで考慮すべきは、その支障が、情報公開の大原則の例外として非公開処分をするのに値するだけの、合理的な理由となり得るか否かである。 本件に即していえば、高速川崎縦貫線事業を遂行するに当たって、本件土地の近傍に早急に代替地を必要とする事情はなく、同事業のための代替地取得事務について、本件鑑定書の公開による具体的な影響は全くない。 すなわち、本件土地の買収は高速川崎縦貫線事業のためになされるものであるが、同事業のⅡ期区間工事(国道15号~東名高速道路、延長約14キロメートル)については、建設省(現国土交通省)道路局長が平成1 すなわち、本件土地の買収は高速川崎縦貫線事業のためになされるものであるが、同事業のⅡ期区間工事(国道15号~東名高速道路、延長約14キロメートル)については、建設省(現国土交通省)道路局長が平成12年8月24日に事実上中止する旨の発言をし、具体的な工事完成の目途は全く立っていない。また、同事業のⅠ期区間工事(α地先~国道15号、延長約7・9キロメートル)についても、Ⅱ期区間工事計画の中止により、事業の継続が見直されている段階にある。更に、Ⅰ期区間工事について用地買収に応じていない地権者5名は高速川崎縦貫線の建設自体に反対しており、価格交渉の余地がない上、本件鑑定書が作成された時期は平成8年以降平成9年3月4日までの間であるから、今後買収交渉を継続するとすれば、時期の経過により新たに鑑定評価をし直す必要がある。 以上からみるならば、本件鑑定書を公開することについては何らの支障もないはずである。 (四) 土地買収における価格については、買収事務担当者において、地権者に対し近隣の地価を説明し、当該土地の買収が決して不利なものでないことを納得してもらうことが重要である。近隣土地との個別要因の差異を無視して、同一の価格条件に固執する地権者は特殊な存在であり、その根本原因は、土地に対する執着、縦貫線事業に対する反対等、価格条件以外の点にあることも十分考えられる。そのような者が存在する可能性を一般化して、情報公開の例外となるべき事情とすることは許されない。 逆に、買収交渉の遅延は、市側が近隣価格との比較を含めた提示価格の根拠を十分に説明しないということによっても起こり得るのであり、買収価格(鑑定価格)開示・不開示と買収交渉の遅延との間には因果関係があるとはいえない。 3 買収拒否による用地買収事務の支障について(一) 一般に、地権者が買収に応じる よっても起こり得るのであり、買収価格(鑑定価格)開示・不開示と買収交渉の遅延との間には因果関係があるとはいえない。 3 買収拒否による用地買収事務の支障について(一) 一般に、地権者が買収に応じるか否かを決定する要素として重要なものは、当該土地を所有することに強いこだわりを持つ事情があるかどうか、買収価格が高額であるかどうかであって、買収価格が事後に公表されるか否かは決定的要因となるものではない。地方公共団体における用地買収は、市民の税金を投入してなされるものであり、公共性を有する事柄であるから、買収価格が公開されることになったとしても受忍すべきである。 (二) 本件鑑定書は、いすヾ自動車所有の高等工業学校敷地の売買に関連して、当該土地(本件土地)の価格を鑑定したものである。すなわち、本件鑑定書は、重大な汚職事件に絡む土地の鑑定書であるから、この公開を求める市民は多く、公開されたからといって、川崎市の代替地買収事務に有意な支障が発生するおそれは全くない。 (三) 川崎市による代替地の取得は、公示価格を基準とした公正な価格によるべきであるから、地権者との信頼関係により買収価格を秘匿すべき余地はない。 仮に、本件において、買収の相手方であるいすヾ自動車が本件鑑定書の非公開を望むとしても、そのような期待は保護に値するものではない。 (四) 控訴人は、一個の公共事業のための用地買収が進行している場合には、買受申入価格(買収予定価格)の公開による当該事務事業への支障は存続し、個々の土地の買収交渉の終結を理由に支障のおそれが消滅したとすることはできない旨主張するが、現在、高速川崎縦貫線計画が破綻していることは前記のとおりであり、同事業のための代替地取得事務も、実質上継続しているとはいい難い状況にある。 したがって、本件鑑定書を公開しても、本件におけ 張するが、現在、高速川崎縦貫線計画が破綻していることは前記のとおりであり、同事業のための代替地取得事務も、実質上継続しているとはいい難い状況にある。 したがって、本件鑑定書を公開しても、本件における代替地取得事務に支障が生じるとは認められない。 4 不動産鑑定士の著作権侵害について本件鑑定書の公開が、著作者である不動産鑑定士の著作者人格権(公表権)を侵害するものであることは争う。 なお、もともと土地の所有や土地価格に関しては、土地の公共性に鑑み、プライバシーの対象としての性格が比較的希薄であるといえる。 したがって、その点からも、本件鑑定書が公開されることについての支障はない。 5 本件鑑定書における取引事例の情報について(一)(1) 本件条例第7条第1項第1号は個人のプライバシーを保護する趣旨の規定であるところ、そもそも土地の売買価格に関する情報は、個人のプライバシーないしは基本的人権に関わる情報とはいえないから、その公開がプライバシーの侵害になるものではない。 (2) また、本件条例第7条第1項第1号の「個人生活事項について特定の個人が識別され、又は識別され得る情報」とは、本件条例が情報公開を原則としていることからみて、当該文書自体から特定の個人が識別される情報を指すものと限定して解釈すべきであり、他の情報と組み合わせることにより特定の個人を識別し得る情報を含まないと解される。そして、本件鑑定書中の取引事例部分には前所有者の氏名及び住所等が記載されていないから、その取引事例情報は、本件条例第7条第1項第1号に該当するものではない。 仮に、情報の公開請求人が登記簿と照合することにより前所有者を特定することができるとしても、それは、地方公共団体が特定人の氏名を公表したことに当たらないし、また、登記簿の地番表示は住居表示と異なる場合 に、情報の公開請求人が登記簿と照合することにより前所有者を特定することができるとしても、それは、地方公共団体が特定人の氏名を公表したことに当たらないし、また、登記簿の地番表示は住居表示と異なる場合が多いこと、登記簿謄本を請求するには1筆につき1000円の費用がかかること等からすれば、文書の公開を受けた後、特定の個人を識別しようとして調査を行う請求人は多くないはずであり、実際にプライバシーの侵害が生ずるおそれは小さい。 (3) 本件条例第7条第1項第2号は、法人等の内部情報のすべてを非公開としているものではなく、法人等の情報のうち、「当該事業に関する情報であって、公開することにより、当該法人等又は当該個人の活動利益を害することが明らかであるもの」に限って非公開にできるとするものである。 取引事例の公開が土地所有者もしくは土地買受人である法人等を直接明らかにするものではなく、上記の非公開事由に当たるものでないことは、上記(2)と同様である。 また、本件条例第7条第1項第2号における「法人等又は当該個人の活動利益を害することが明らかである」とは、当該法人等の情報が請求者のみならず広く一般に知られることにより、当該法人等が、事業競争上相当の不利益を受けることが通常予測される場合等を指す。しかしながら、土地の売買及び価格の公開が、法人等の「活動利益を害することが明らか」なものとはいえず、その点からも、本件鑑定書における情報が本件条例第7条第1項第2号に該当するとはいえない。 (二) 本件鑑定書中における不動産鑑定士の印影部分が、本件条例第7条第1項第2号に該当するものであることは争う。 第三当裁判所の判断一建設大臣から公団に対し高速川崎縦貫線の都市計画事業承認がなされ、現在、川崎市内において用地取得及び道路建設工事が行われていること、その支 号に該当するものであることは争う。 第三当裁判所の判断一建設大臣から公団に対し高速川崎縦貫線の都市計画事業承認がなされ、現在、川崎市内において用地取得及び道路建設工事が行われていること、その支援策及び用地買収に伴う住民の生活再建策として、川崎市において、別途土地を取得し、上記事業用地の地権者に対し代替地を提供する業務を行っていること、川崎市がいすヾ自動車から同社所有の本件土地を上記代替地として買い受けるための交渉がなされ、本件鑑定書が作成されるに至った経緯、川崎市が代替地を取得するに当たっての取得価格の決定方法等については、原判決「事実及び理由」欄中の「第三争点についての当裁判所の判断」一2(原判決23頁5行目から同29頁1行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決23頁10行目の「平成11年1月末現在」を「平成13年3月末現在」に、同11行目の「約80パーセント」を「約83パーセント」に、同12行目の「28・6ヘクタール」を「29.・8ヘクタール」にそれぞれ改める。)。 二そこで、まず、本件鑑定書が公開された場合における、近隣地権者との価格折衝の難航による代替地取得事務の支障の有無(争点1、原判決「事実及び理由」第二、三1(一))について検討する。 1(一) 乙12及び原審証人Aの証言によると、公共事業の施行に伴って生活の基盤を失う地権者(被補償者)が代替地の取得を希望するときは、所有地の隣接地又は近隣の土地を要望することが多く、また、取得金額、建物の建築条件(用途地域、建ぺい率、容積率など)、最寄りの交通機関の駅や商店街、市役所等公共施設への近接性、環境条件等について様々な要望が出され、更に、店舗・事務所・工場等の経営者の場合には、これらに加えて、得意先や関連工場等との近接性・流通経路の確保等について 駅や商店街、市役所等公共施設への近接性、環境条件等について様々な要望が出され、更に、店舗・事務所・工場等の経営者の場合には、これらに加えて、得意先や関連工場等との近接性・流通経路の確保等についての希望条件が提示されるのが通常であるが、住居、事業所等の密集している川崎市の市域においては、これらの要望や希望条件に適した代替地の範囲は自ずと限定されるし、特定の土地を代替地として要望されることもあること、したがって、川崎市の実施する代替地取得事務にあっては、その対象地がどの土地であってもよいというものではなく、市の提示する取得価格に相手方が応じず、当該土地を代替地として取得できなければ、結局、被補償者との関係において必要とされる代替地を取得することができなくなり、それができるとしても、別の代替用地の探索や、新たな代替用地についての被補償者との再交渉及び代替用地所有者との買収交渉等に時間を要し、代替用地取得業務に大幅な遅れが生じることになり、それがひいては公共事業の施行や被補償者の生活再建の遅れにつながることが認められる。 (二) 乙12及び原審証人Aの証言によると、川崎市が上記代替地をその所有者から買い取る場合の価格は、前記引用に係る原判決認定のとおり、不動産鑑定士の鑑定評価を資料に、同市の代替地取得・処分委員会において決定されるが、その金額は、結果的に(同委員会における買収価格の審査・決定に当たっては、不動産鑑定士の鑑定評価額、近傍類地の取引価格、公共事業の取引価格、地価公示価格、県基準値の標準価格等が考慮されるが、不動産鑑定士の鑑定評価額自体が、近傍類地の取引価格等のその他の要素を総合的に考慮して得られた価格であるため)、鑑定評価額と同額に定められることが通常であること、そして、代替地の所有者との買受け交渉に当たっては、原則として、上記 近傍類地の取引価格等のその他の要素を総合的に考慮して得られた価格であるため)、鑑定評価額と同額に定められることが通常であること、そして、代替地の所有者との買受け交渉に当たっては、原則として、上記のとおり決定された金額を増減させることができないものとされ(例外として、鑑定後の年数の経過により再度鑑定評価した場合には金額の変更があり得る。)、決定された金額を前提に、川崎市の交渉担当者が専ら説得に努めることにより売買契約を成立させるものであること(代替地の取得については土地収用法の適用がないため、あくまでも任意の売買契約を締結するしかない。)、その際、買受対象地、その他近隣の買受地の価格に関する鑑定評価書を呈示することはしていないことが認められる。 (三) また、乙12及び原審証人Aの証言によると、川崎市による代替地の買受けは、専ら買主である川崎市側の要請によるものであることから、土地所有者側が当初からそれに積極的に応じることは期待できず、常に相当の日数をかけての粘り強い説得を要すること、土地所有者としては、最終的に売却に応じるにしても、例外なく、できる限りの高額による売買を希望するものであることもまた認められる。 (四) 他方、土地の適正な価格の把握は必ずしも容易ではなく、その価格は、それぞれの土地の所在地、道路との近接状況、公共交通機関を利用するに当たっての利便性、土地の面積・形状・間口・奥行き、付近の土地の利用状況及び取引状況等の諸要因によって、各土地ごとに異なるものであり、同一の土地であっても、評価の時点によって左右されるものであることは顕著な事実である。 2 以上のような事情に鑑みると、川崎市が公共事業用地の地権者に代替地を提供するための用地買収の継続中に、他の既買収地あるいは買収交渉中若しくは買収交渉が行われたもののそれが不成 顕著な事実である。 2 以上のような事情に鑑みると、川崎市が公共事業用地の地権者に代替地を提供するための用地買収の継続中に、他の既買収地あるいは買収交渉中若しくは買収交渉が行われたもののそれが不成立に終わった他の土地の鑑定評価額が明らかにされると、未買収地の所有者が、既買収地若しくは他の土地と自己所有地の価格評価要因の違い、評価時点の違い等を正しく認識しないまま、自己所有地の買受申出額に対する疑問、不満を抱くことは大いにあり得ることである。また、代替用地として、所有者の異なる一定範囲の土地を買い受けようとする場合に、買受け対象地の全部又は一部の土地価格に関する鑑定書が公開されるならば、それによって、買受け対象地の各所有者に対し、自己所有地と他の買受け対象地との間の買受申出額ないし鑑定評価額との差異、各土地ごとの価格形成要因についての評価の違い等が具体的に明らかにされることになるため、その差異等の理由を正しく認識することなく、自己所有地の買受け価格に対する疑問、不満を持つ土地所有者が生じるおそれがあることは否定できない。そして、これらの場合に、公開された鑑定書に対抗するため、土地所有者が、自己に有利な価格を適正な価格であるとする私的な鑑定書を提出し、それを基に価格交渉を進めようとすることも考えられるところである。 これに対し、市側としては、前記1(二)のとおり、交渉の打開策として買受け価格を上積みすることが実際上不可能であり、仮に私的な鑑定書が提出されたとしても、なお従前の買受け提示額により説得を続ける以外にないことから、交渉が大幅に長引き、場合によっては代替地の売買契約が成立するまでに至らない事態もあり得るというべきである。 そうしてみると、上記のいずれの場合においても、鑑定書の公開は、結局、代替地の買受け交渉の長期化あるいは売買 場合によっては代替地の売買契約が成立するまでに至らない事態もあり得るというべきである。 そうしてみると、上記のいずれの場合においても、鑑定書の公開は、結局、代替地の買受け交渉の長期化あるいは売買契約の不成立という行政事務の支障を生じさせるおそれがあるものと認めざるを得ない。 そうすると、本件鑑定書の公開は、川崎市が今後川崎縦貫線事業用地の代替地とするため買い受けることとなる土地について、上記のような事態を発生させるおそれがあるものといわざるを得ないから、本件鑑定書は、本件条例第7条第1項第3号イにおける、「交渉の方針」についての市の「事務又は事業に関する情報であって、当該事務又は事業の性質上、公開することにより、当該事務又は事業の公正又は適正な執行を妨げるおそれのあるもの」に該当し、控訴人においてその公開を拒むことができるものというべきである。 3(一) これに対し、原判決は、土地の鑑定書が公開されても、その近隣地の地権者が、土地ごとの個別要因の差異を無視して高額の買取りを主張する等の非合理な対応に固執するとは考え難い旨を判示し、また、被控訴人は、上記のような非合理的な対応をする所有者がいたとしても、そのことが、代替地の買収事務全体の公正・適正な執行を妨げるおそれをもたらすとはいえず、市民の「知る権利」を保障するという情報公開制度の趣旨からみて、本件鑑定書を非公開とするに足りるだけの合理的理由になるものではないと主張する。 しかしながら、前記1(三)のとおり、代替用地の所有者は、その買収に応じなければならない義務がある訳ではなく、自らの必要により土地を売却するものでない以上、より高額での売買を希望することはむしろ当然というべきであって、それを一概に非合理的な対応と評するのは相当でないし、その所有者が近隣地の鑑定評価書の開示を受けた により土地を売却するものでない以上、より高額での売買を希望することはむしろ当然というべきであって、それを一概に非合理的な対応と評するのは相当でないし、その所有者が近隣地の鑑定評価書の開示を受けた場合、常に、土地ごとの個別の差異を了解、納得し、自己所有地の価格について自己に有利な主張をしない、あるいはこれに固執することはないと断定することは困難であり、その主張により、前記2のとおり、買収交渉の長期化等が予想される以上、上記鑑定書の公開により、代替地の買受け事務の公正・適正な執行に支障が生じるおそれがあるというべきである。 更に、本件鑑定書のような、代替地として買受けの対象にされた土地価格の鑑定書の公開に比べて、代替地の買受け事務に対する支障のおそれが、その重要度において劣るものとは必ずしもいえないから、本件鑑定書を非公開とすることに合理的理由がないとすることも相当でない。 なお、本件における情報の開示請求権は、本件条例の制定に基づいて認められた権利と解されるから、本件条例における情報の非開示事由も第7条第1項の文言に即して解釈されるべきであり、これを、当審における被控訴人の主張1のように、個人のプライバシーを保護する必要がある場合等に限定して解すべき理由はない。 (二) また、被控訴人は、本件鑑定書の公開により、代替地の買受けに手間取ったり、買受けが失敗に終わる等の事態が生じたとしても、もともと代替地の買受け事務においては、そのような結果が生じることは予想されていることであるから、本件鑑定書を非公開とするだけの支障に当たるものではない旨主張する。 しかしながら、代替地の買受けについては、土地収用法の適用がないための制約があるとしても、代替地の買受け事務自体、公共事業の施行に付随する重要な業務というべきであることは前記(一)のとおりで る。 しかしながら、代替地の買受けについては、土地収用法の適用がないための制約があるとしても、代替地の買受け事務自体、公共事業の施行に付随する重要な業務というべきであることは前記(一)のとおりであるから、その事務に対する影響を考慮することなく、本件鑑定書の公開を常に優先させるべきものとすることは妥当でない。 (三) 更に、被控訴人は、川崎縦貫線事業のⅡ期区間工事については、建設省(現国土交通省)道路局長から事実上中止する旨の発言がなされたほか、同事業のⅠ期区間工事も、現在、事業の継続が見直されている段階にあるから、本件土地の近傍に早急に代替地を必要とする事情がなくなったものであり、また、現在、Ⅰ期区間工事における未買収地の地権者とも価格交渉の余地がないから、本件鑑定書を公開しても同事業の代替地取得事務に影響がない旨主張する。 しかしながら、乙27、28、29の1・2、30、31の1・2及び弁論の全趣旨によると、川崎縦貫線事業のⅠ期区間工事、Ⅱ期区間工事とも現段階において中止が決定された事実はなく、更に今後の事業続行が予定されていること、Ⅰ期区間工事の未買収地の地権者ともなお交渉の余地が残されていることが窺われるから、本件鑑定書の公開による代替地の買受け事務に対する支障がなくなったと認めることはできない。 (四) 更にまた、被控訴人は、本件鑑定書が作成された時期が平成9年3月4日以前であり、今後、川崎市において代替地の買受け交渉を継続する場合には新たな鑑定評価を要するはずであるから、本件鑑定書を公開することについて支障がなくなったと主張する。 しかしながら、本件鑑定書が、本件土地の平成9年3月以前の時点における評価を記載したものであるとしても、評価時点以外の各評価要因が、他の代替地の買受け価格を検討する際に影響を及ぼすおそれがあるこ しかしながら、本件鑑定書が、本件土地の平成9年3月以前の時点における評価を記載したものであるとしても、評価時点以外の各評価要因が、他の代替地の買受け価格を検討する際に影響を及ぼすおそれがあることは前記2のとおりであるから、本件鑑定書の公開による支障が消滅したと解することはできない。 (五) 被控訴人は、本件鑑定書の公開と川崎市による代替地の買受け交渉の遅延との間には因果関係がないとも主張するが、前記2のとおり、その間に因果関係があることは明らかであるから、上記主張は失当である。 (六) 被控訴人は、川崎市が、別件訴訟での調査嘱託において、同市の公社保有地の取得価格をすべて公開し、そのことにより支障が生じていない旨を回答しているとも主張するが、弁論の全趣旨によると、川崎市の上記回答に係る公開事例は、物件の所在地、金額等が本件鑑定書に記載された内容ほど具体的なものではなく、事業用地の買収が終了している事例も多いこと等が窺われるから、上記回答がなされたことをもって、本件鑑定書の公開により代替地の買受け事務に支障が生じない理由とすることはできない。 4 以上のとおり、本件鑑定書は公開しないことが許されるべきであるが、同鑑定書は、その性質上、内容が相互に関連した一体的なものであり、その一部を区分して公開するのに適さないものと解されるから、一部に限って公開する余地もないものというべきである。三以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、本件鑑定書を非公開とした本件決定は適法というべきであり、被控訴人の本訴請求は理由がないものといわざるを得ない。 第四よって、本件控訴は理由があるから、これと異なる原判決を取り消し、被控訴人の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第67条第2項、第61条を適用 第四よって、本件控訴は理由があるから、これと異なる原判決を取り消し、被控訴人の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第67条第2項、第61条を適用して、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第5民事部裁判長裁判官魚住庸夫裁判官飯田敏彦裁判官持本健司
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