令和5年(わ)第90号 主文 被告人を懲役13年に処する。 未決勾留日数中330日をその刑に算入する。 理由 (犯行までのいきさつ)被告人は、令和2年12月頃、パチンコ店において、Aと知り合い、Aと行動を共にするようになった。被告人は、当時、茨城県ひたちなか市(住所省略)にあるBハイツ102号室(以下、この建物を「Bハイツ」、この部屋を「102号室」ということがある。)に住んでいたところ、遅くとも令和3年2月4日頃から同月11日頃までと同月14日以降、そこでAと同居した。被告人は、Aと共に生活するうち、Aのせいで1200万円の損害を被った、また、Aから多額の金銭を得られるはずだったのにそれができなかったなどと考えて立腹し、以下の犯行に及んだ。 (罪となるべき事実)被告人は、令和3年2月中旬頃から同月24日午前0時26分頃までの間に、102号室又はその周辺において、A(当時39歳)に対し、その頭部、胸部、腹部、背部、左右上肢及び左右下肢に不詳の方法で暴行を加え、Aに全身多発性の皮下出血、組織挫滅等の傷害を負わせ、よって、同日午前8時56分頃、茨城県ひたちなか市(住所省略)の病院において、Aを多発外傷に基づく外傷性ショックにより死亡させた。 (事実認定の補足説明)第1 争点と当事者の主張何者かが、罪となるべき事実に記載した暴行(この項において以下単に「暴行」という。)をAに加え、その記載のとおりの傷害を負わせ、その記載のとおりの日時場所でその記載のとおりの死因により死亡させたことは、当事者間に 争いがなく、証拠により明らかに認められる。 争点は、被告人が、暴行を行った犯人かどうかである。被告人は、Aに対して暴行を加えておらず、Aは何者かによって暴行を受けたと供述す ことは、当事者間に 争いがなく、証拠により明らかに認められる。 争点は、被告人が、暴行を行った犯人かどうかである。被告人は、Aに対して暴行を加えておらず、Aは何者かによって暴行を受けたと供述する。弁護人も、被告人は暴行をしていないため犯人ではなく、第三者にもAと接触して暴行を加える機会が十分にあったのであるから、被告人は無罪であると主張する。 当裁判所は、被告人が犯人であると判断したので、以下その理由を説明する。 第2 被告人が犯人かどうかを検討する上で前提となる事実以下の事実は、証拠によって明らかに認められる。 被告人は、令和2年12月頃、Aとパチンコ店で知り合い、令和3年1月中旬以降、Aと毎日のようにラインで連絡をとっていた。 C、D、E、F及びGは、いずれも被告人の知人であり、このうちCとDは兄弟である。 被告人は、遅くとも同年2月4日以降、102号室にAを寝泊まりさせるようになり、一時中断したものの、同月24日まで同居していた。被告人は、この間の同月中旬頃から同月23日にかけて、Aと一緒に買い物に行くなどして行動を共にした。 Aの体には、少なくとも同月17日までは、外から明らかに確認できるけがなどの異変はなかった。 Aは、H銀行I支店を訪れた同月21日午後3時44分頃までに、右手や右上腕に赤く皮膚が変色するけがを負っていた。 Aは、同月23日午後1時54分頃から同日午後2時3分頃まで、被告人と共にコンビニエンスストアJ店(以下「コンビニ」という。)を訪れたが、その際、両手が赤紫色に腫れ上がるけがを負っていた。また、その店で買い物をする際、被告人は、Aに買い物かごを持たせ、自ら選んだ商品をその買い物かごに次々に入れるなどしたが、そのうち、買い物かごを代わって持つようになった。 被告人は、同日午後11時13分 で買い物をする際、被告人は、Aに買い物かごを持たせ、自ら選んだ商品をその買い物かごに次々に入れるなどしたが、そのうち、買い物かごを代わって持つようになった。 被告人は、同日午後11時13分頃、Cに対し、「緊急事態で電話した!電話くれないか!大至急」とメッセージを送るなどして、Cに102号室に来るように言った。 Cが同月24日午前0時26分頃に102号室に着くと、被告人とAだけがおり、Aは、顔や手などが青紫色に腫れ上がり、耳たぶに血が付き、起き上がることができないほどの重傷を負った状態であった。 その後、Bハイツで火事が起きたため、被告人とCは、動けないAを連れて102号室を出て、同日午前4時51分頃、被告人の車両とCの車両に分かれて出発した。被告人の車両とCの車両は、茨城県内をしばらく走行した。Cは、同日午前8時54分頃、Aを病院に連れて行き、同日午前8時56分頃、Aの死亡が確認された。 第3 公訴事実と今後の検討の視点公訴事実は、罪となるべき事実と同旨であり、被告人が令和3年2月中旬頃から同月24日午前0時26分頃までにAに暴行を加えたとするものである。 そうすると、検察官としては、上記認定の同月21日午後3時44分頃や同月23日午後1時54分頃にAに見られた傷害の原因となる暴行を含め、全ての暴行を被告人が行ったことを主張するものと解される。もっとも、同月23日午後1時54分より前の暴行と同日午後2時3分から後の暴行(以下「コンビニ前の暴行」と「コンビニ後の暴行」という。)とでは、証拠関係が大きく異なるため、それぞれ別個に検討するのが合理的である。 なお、公判前整理手続の争点整理においても、時期の異なる二つの暴行があることとされ、その分かれ目は同月23日夜とされた。これについては、弁護人から、暴行の時期の分かれ目は同 するのが合理的である。 なお、公判前整理手続の争点整理においても、時期の異なる二つの暴行があることとされ、その分かれ目は同月23日夜とされた。これについては、弁護人から、暴行の時期の分かれ目は同日午後2時3分ではないかという指摘があったものの、検察官が同日夜であると主張したためにそのような争点整理となった経緯もある。そうすると、これから行う検討は、争点整理の内容には沿わないものとなるが、公判前整理手続においては裁判所は証拠を見られないため、 暴行の時期の分かれ目について主体的に関わることができなかったものである。 その上、被告人と弁護人は、暴行の時期の分かれ目がどこであるかにかかわらず、令和3年2月中旬頃から同月24日午前0時26分頃までの暴行に対して防御をすべき立場にあり、実際の訴訟進行を見ても、十分に防御を尽くしたと見ることができるから、不意打ちによる認定などの問題はないものと考える。 第4 当裁判所の判断 1 判断の概要被告人が犯人であると認定するためには、証拠によって認められる事実の中に、被告人が犯人ではないとすると合理的に説明することができない事実関係が含まれていることが必要である。 そこで、以下、証拠によってどのような事実が認定できるかを示した上(後記2)、それらの事実が認定できる理由を示し(後記3)、それらの事実に基づいて、コンビニ後の暴行について、被告人が犯人ではないとすると合理的に説明することができないといえるかを検討し(後記4)、さらに、コンビニ前の暴行について、被告人が犯人ではないとすると合理的に説明することができないといえるかを検討する(後記5)。 2 認定事実以下の事実は、証拠により認めることができる。 ⑴ Cが令和3年2月24日午前0時26分頃、102号室に到着した際、一人では動 ことができないといえるかを検討する(後記5)。 2 認定事実以下の事実は、証拠により認めることができる。 ⑴ Cが令和3年2月24日午前0時26分頃、102号室に到着した際、一人では動くことができないほどの重傷を負った状態のAと被告人の二人だけがいた(以下、「事実①」という。)。 ⑵ 被告人は、同月23日夜から24日にかけて、Cが102号室に向かっている際、Cと電話で話し、「チビを殴った。うそをついたから殴った。」などと言い、Cが102号室に到着した後は、Aが重傷を負っている理由について尋ねられ、「うそをついたから殴った。」「ボコボコにした。」「頭も殴った。」と言ったり、その部屋にあったつえを指さして「つえでケツや太もも を殴った。」と言ったりした(以下、「事実②」という。)。 ⑶ 被告人は、遅くとも同日午前0時26分頃までには、Aが重傷を負っていることを分かっていたのに、病院に連れて行ったり警察に相談したりせず、Bハイツを出た後もしばらく茨城県内を走行した後、CにAを病院に連れて行かせ、自らはEの家に身を寄せるなどした(以下、「事実③」という。)。 ⑷ Kは、Bハイツ203号室の住人であったところ、自室で、同月23日午後4時頃から5時頃の間に、102号室から、「これでやってやる。」「これで突いてやる。」のように聞こえる被告人の怒鳴り声を聞き、同日午後8時頃から午後10時頃の間に、同じく102号室から、何かが壁にぶつかるような「ドーン」「ドスン」という音が続いているのを聞いた(以下、「事実④」という。)。 ⑸ Aに暴行を加える理由を持つ第三者や、Aに暴行を加えることができた第三者の存在をうかがわせる事情がない(以下、「事実⑤」という。)。 ⑹ 被告人は、遅くとも同月中旬頃から、Aに対して金銭関係の不満を持ち、金銭を る理由を持つ第三者や、Aに暴行を加えることができた第三者の存在をうかがわせる事情がない(以下、「事実⑤」という。)。 ⑹ 被告人は、遅くとも同月中旬頃から、Aに対して金銭関係の不満を持ち、金銭を払わせようとしており、被告人にはAに暴行を加える理由があった(以下、「事実⑥」という。)。 ⑺ 被告人は、同月23日夜、Eに電話し、「もうチビがやばいんだ。」「ゴルフのパターでバチバチたたいた。」などと言い、翌24日にE方を訪ねた時も、同じことを言った。また、被告人は、その1週間後くらいに、EがGに電話し、Eと電話を代わった際、Gに対し、「ひたちなかで起きた事件のことを知ってますか。」「自分が連れてきた人間を、一発二発殴った。」などと言った(以下、「事実⑦」という。)。 3 上記事実を認定した理由まず、事実認定の根拠とした各証人の供述の信用性を検討した上、その供述から認定した事実や、その事実を総合して認められる事実を示す。 ⑴ Cの供述について ア Cの供述の概要被告人とは、令和2年の夏頃に知り合った。Aとは令和3年1月に初めて会い、二、三回会ったことがある。被告人はAをチビと呼んでいた。 同年2月23日の夜遅くに、被告人からラインでBハイツに来てほしいと言われた。自分の車に乗ってBハイツに向かっている途中、被告人と電話で話した時、被告人から「チビを殴った。」「うそをついたから殴った。」と聞いた。 Bハイツに着いて102号室に入ると、被告人とAの二人だけがいた。Aは、ふとんに横になっており、顔と手が青紫色に腫れて、爪が白くなっていたのが見えた。Aは、自分で体を起こしたり動いたりすることができない状態だったため、被告人から頼まれて、二人でAを立たせたが、二、三歩歩いて、ふとんの上に膝をついて倒れた。その時、Aの耳たぶに ていたのが見えた。Aは、自分で体を起こしたり動いたりすることができない状態だったため、被告人から頼まれて、二人でAを立たせたが、二、三歩歩いて、ふとんの上に膝をついて倒れた。その時、Aの耳たぶに血がついているのに気づき、被告人に理由を尋ねたところ、被告人から「頭も殴った。」と言われた。Aの手や顔が腫れ、動けない状態になっている理由についても尋ねたところ、被告人は「ボコボコにした。」と言ったり、2つに折れたつえを指さして「つえでケツや太ももを殴った。」と言ったりした。 被告人はAを殴った理由について「現場に遅れて1200万円の損害が出た。」「貯金があると言っていたが、18万円しかなかった。」と言ったり、何人かの名前、金額や土地などが書かれたメモを見せながら「メモ用紙に書かれていたのも全部うそだった。」と言ったりした。 被告人に対し、Aを病院に連れていくことを提案したところ、被告人から、Aが行きたくないと言っていると言われたが、実際にAがそのように言っているのを聞いたことはない。火事でBハイツを出ることになり、Aを自分の車の助手席に乗せ、被告人は被告人自身の車に乗って移動した。Bハイツに来ていた警察官や消防隊員に対し、被告人がAの状態などについて話すことはなかった。Aをトイレに連れていくという話になり、何か所か公衆ト イレを回ったが、被告人がここは駄目だな、などと言って、トイレに寄ることはなかった。 しばらくして、Aの様子を確かめると、冷たくなっていて息をしていないことがわかり、被告人にそのことを伝えた。被告人から、Aを病院に連れていくよう指示されたため、一人で行くのは嫌だ、一緒に来てほしいと何度も伝えたところ、後ろからついていくと言われた。被告人に対し、病院に対してどのように状況を説明すればいいのか尋ねたところ、「ヤクザに二、 よう指示されたため、一人で行くのは嫌だ、一緒に来てほしいと何度も伝えたところ、後ろからついていくと言われた。被告人に対し、病院に対してどのように状況を説明すればいいのか尋ねたところ、「ヤクザに二、三日前に絡まれたって言え。」と言われた。その後、Aを病院に連れて行ったが、被告人が後ろからついてくることはなかった。 イ Cの供述の信用性Cは、被告人からラインで呼び出されて102号室に向かい、そこで重傷を負ったAを見てから、最終的にAを病院に連れて行くまでの経過を具体的かつ詳細に話している。その内容は、メッセージや通話の履歴、防犯カメラにより認められる自動車の動きなどと合っているほか、Aの背中に棒状のものによる外力が加わってできたと考えることのできる皮膚変色が存在していることや、102号室に1200万円という金額が記載された念書があったことなどとも合っている。 弁護人は、Cが、この事件の直後に行われた警察官の取調べの中で、Aは二、三日前にヤクザに絡まれたなどと話していて、話が変わった理由として納得できるものはないと主張する。Cは、取調べでうそを言った理由について、顔や手などが腫れ、動けない状態になっているAを見たり、被告人の犯行告白を聞いたりしたことで、次は自分がAと同じような目に遭わされると思い怖くなり、恐怖感から本当のことを正直に話せなかったなどと説明している。また、Cは、話を変えた理由について、本当のことを話して被告人から報復される怖さと、本当のことを話したいという気持ちの間で葛藤し、Aに申し訳ないという思いから正直に話すことにしたと説明している。 二、三日前にヤクザに絡まれたというのは、既に認定した前提事実からすると明らかに事実に反するものであるから、被告人からそのように言うように言われ、上記の理由でうそを言ったというの 説明している。 二、三日前にヤクザに絡まれたというのは、既に認定した前提事実からすると明らかに事実に反するものであるから、被告人からそのように言うように言われ、上記の理由でうそを言ったというのは、よく納得できることであり、話を変えた理由についても合理的であって納得できる。 また、弁護人は、102号室から発見されたつえは、4つに折れていたところ、2つに折れていたというCの供述は、そのような客観的な証拠に反していて信用できないと主張する。そこで検討すると、102号室から発見されたつえは4つに折れていたものの、4等分という折れ方ではなく、持ち手の部分が取れ、本体部分も全長の半分以上の長さの真ん中の部分とその両端の部分とに分かれていて、じっくり見るのでなければ2つに分かれているように見えてもおかしくないものといえるから、Cの上記の供述部分も、その信用性の判断に影響しない。その他の弁護人の主張も、Cの供述の信用性の判断に影響しない。 したがって、Cの供述は信用できる。 ⑵ Kの供述についてア Kの供述の概要令和3年2月24日の火事がきっかけで退居するまでは、Bハイツ203号室に住んでいた。 当時、103号室と201号室には、それぞれ男性が一人で住んでいて、挨拶をするような関係であった。103号室の住人の声はしわがれた声であり、201号室の住人の声は底広がりのような声であった。101号室は空室で、202号室には男性が一人で住んでいたが、話したことはない。 102号室の住人とは、あまり顔を合わせる機会がなかったが、その住人がBハイツに新しく入居した時の大家さんの奥さんとのやりとりが聞こえたことがあったので、声を知っていた。102号室の住人は、ドスンとした太い声で、茨城なまりの話し方をしていた。 同月23日午後4時頃から5時頃 く入居した時の大家さんの奥さんとのやりとりが聞こえたことがあったので、声を知っていた。102号室の住人は、ドスンとした太い声で、茨城なまりの話し方をしていた。 同月23日午後4時頃から5時頃に、犬のトイレのためにBハイツの駐車場のそばにある芝生に行って203号室に戻ったところ、「これでやってやる」「これで突いてやる」という声が聞こえ、その声が102号室に住んでいる男性の声だったことや、声が聞こえてきた方向から、その声は102号室から聞こえたと思った。 同日午後8時頃から「ドン」「ドスン」という何かが壁にぶつかるような大きな物音が鳴り始め、その音は、102号室がある方向の、下から上がってくるような感じで聞こえ、102号室の住人が、訪ねてきた人とけんかをしているのかなと思った。「ドン」「ドスン」という音が聞こえていた時、203号室の玄関ドアを開けて201号室の方を見てみた。午後10時前頃に「ドン」「ドスン」という音が鳴りやみ、その後、202号室の住人が帰宅して玄関ドアの鍵を閉める音が聞こえた。 イ Kの供述の信用性Kは、自宅にいる間にあった特別な体験について語ったものであり、うそを言う理由がないのはもちろん、聞き違いや勘違いなどがあったとも考えられない。その供述のうち、102号室の住人の「これでやってやる」「これで突いてやる」という声を聞いたという部分については、ほかの部屋の住人の声を具体的に述べ、それらとは全く違う声だったと述べているから、十分に信用できる。また、「ドン」「ドスン」という音を聞いたという部分については、長い時間にわたり聞いたことや、気になって玄関ドアを開けたことなどを述べていて、体験した者ならではの供述であるといえる。 したがって、Kの供述は信用できる。弁護人がKの供述の信用性を争ってする主張は、い にわたり聞いたことや、気になって玄関ドアを開けたことなどを述べていて、体験した者ならではの供述であるといえる。 したがって、Kの供述は信用できる。弁護人がKの供述の信用性を争ってする主張は、いずれも以上の判断に影響しない。 もっとも、「これでやってやる。」「これで突いてやる。」という言葉は、そのままであるとするとやや説明的にすぎて不自然であり、被告人がこの言葉をそのまま言ったと認めることはためらわれる。実際には前後の 言葉があるのにその部分しか聞こえなかった可能性なども否定できないから、この部分については、Kに「これでやってやる。」「これで突いてやる。」と聞こえるような言葉を言ったという限度で事実を認定する。 ⑶ Eの供述についてア Eの供述の概要被告人とは土木作業の現場で知り合って友達になった。Aとは、被告人がEの家にAを連れてきたことがきっかけで知り合った。 令和3年2月中旬に102号室に行った時、被告人から、Aに念書を書かせたと言われて念書を見せられ、そこには、Aが100万円を超える金額のお金を用意できなければAの母からお金を引っ張ってくるという内容が書かれていた。 同月23日の夜に被告人と電話をした時、被告人から「もうチビがやばいんだ。」「ゴルフのパターでバチバチたたいた。」と聞いた。同月24日に被告人がEの家に来た際も、被告人から同じ内容の話を聞いた。その後被告人がEの家に滞在していた約2週間の間に、Fと電話をした、その電話の中で、Fから、被告人とEがAを殺したんじゃないかと大問題になっていると言われた。 イ Eの供述の信用性Eの供述のうち、同月23日夜以降の被告人との会話に関する部分は、前後の文脈を含めて具体的で前提事実にも合っており、102号室にゴルフセットがあったこととも合っていて、実際には Eの供述の信用性Eの供述のうち、同月23日夜以降の被告人との会話に関する部分は、前後の文脈を含めて具体的で前提事実にも合っており、102号室にゴルフセットがあったこととも合っていて、実際には体験していない事実を話しているとは考えにくい。うそを言おうとすれば、単に殴ったと聞いたとしておけば足りると思われるのに、あえて「ゴルフのパター」でたたいたといううそを言う理由も見当たらない。 弁護人は、まず、Eの供述は、パターがゴルフバッグの中にしまわれた状態で発見され、凹みや血痕の付着等の異変が一切生じていなかったこと などの客観的な状況と合わないと主張する。パターの発見状況は、外見上明らかな異変がないという限度では弁護人の主張するとおりであるが、発見時には凶器である可能性があると認められず、詳細な見分がされていないものである上、パターの素材や形状からすると、人の体をたたいた場合に必ず異変が生じるとは限らないから、弁護人の主張は当たらない。 また、弁護人は、Eの供述は内容が変わっているところ、その理由も納得できないと主張する。すなわち、Eは、令和3年7月から9月までの取調べの中で、2月23日や24日、被告人は犯行を認める発言をしなかった、Fと事件のことについて電話をしたとき、被告人は犯行を否定する発言をしたと述べる。その一方で、その取調べの中では、被告人がAに暴行をしてけがをさせたと直感で思った、被告人は暴行を否定したが、その反応で被告人がやったと判断したなどとも述べていて、被告人をかばったり、被告人が犯人であることを隠したりしていないから、法廷でかばったり隠したりするのをやめて本当のことを話したとは解釈できず、ほかに話の内容が変わったことについて納得できる理由もないというのである。 Eは、法廷で、取調べでうそを言った理由として、 、法廷でかばったり隠したりするのをやめて本当のことを話したとは解釈できず、ほかに話の内容が変わったことについて納得できる理由もないというのである。 Eは、法廷で、取調べでうそを言った理由として、被告人が犯人であると知りながら被告人をかくまったとして罪に問われるのを避けるため、警察には被告人が犯人であると分かっていることを知られたくなかったことなどを挙げる。また、話の内容を変えて本当のことを言うことにした理由について、被告人が不起訴になったことについて責任を感じ、Aに申し訳ないことをしたと思ったからであるとも述べる。 そこで検討すると、Eが、取調べにおいて、被告人が犯人だと述べたとしても、それに沿う証拠がなければ犯人をかくまった罪に問われないだろうと考え、被告人との会話だけを隠すことは理解できる行動であり、法廷で事実を話そうとした理由も頷けるものであるから、話が変わったことには納得できる理由があるといえる。 したがって、Eの供述は信用できる。 ⑷ Gの供述についてア Gの供述の概要被告人とは、四、五年前からの知り合いである。 この事件の1週間後くらいにEから電話があり、これに応じると、Eが被告人と代わった。そして、被告人は、「ひたちなかで起きた事件のことを知ってますか。」と尋ねてきた。その事件のことは分からなかったが、「どうしたの。」と聞くと、被告人は、「自分が連れてきた人間を、一発二発殴った。それを女に病院に連れて行かせた。同じアパートでガス爆発だか何かが起きて、自分のその事件が発覚しそうだ。」などと言っていた。 その後、ネットニュースを調べると、Aという人が死亡した事件であると分かった。 イ Gの供述の信用性Aは、実際には全身に多数回にわたり打撃を受けているから、一発二発殴ったと 言っていた。 その後、ネットニュースを調べると、Aという人が死亡した事件であると分かった。 イ Gの供述の信用性Aは、実際には全身に多数回にわたり打撃を受けているから、一発二発殴ったというのは、犯人の行動であるとすると事実と合わないが、犯人が他人に説明するときに犯行を過少に言うのはよくあることである。そのほかに、Gの供述に不自然なところはない。また、Gは、被告人をかわいいやつだと思っているなどとも述べていて、あえてうそを言う理由が見当たらない。 もっとも、Gは、令和3年8月の取調べにおいては、事件はニュースで知っていた、被告人と電話で話した時、被告人は、「俺はやっていない。」などと言っていた、その意味は、殴ったり蹴ったりしたけど、死ぬとは思っていなかった、殺すつもりでやったわけではないということだと思う、暴行をしたのは被告人なんだと考えてしまう、とも述べている。弁護人は、Gの話はこのように変わっており、取調べでも被告人をかばってはいないから、話が変わったことに納得できる理由はないと主張する。Gは、話が 変わった理由について、以下のとおり述べる。すなわち、取調べの時には、被告人が友達でもあり、仲間でもあるので、かばう気持ちと、自分が余計なことを言わなくてもいいと思うのとで本当のことを言わなかった。しかし、被告人が不起訴になった際、Eや自分に電話の一本もなかったことや、今でもかばいたい気持ちはあるものの、いつまでもこのようなことを続けず、本人に正直に言ってもらいたいという気持ちから、本当のことを話したと述べる。Gが取調べ時において、被告人が犯人だと思うと話しながらも、その根拠となる発言を話さなかったのは、Gなりに被告人をかばう行動と解釈できるものであり、法廷で事実を話すに至った理由も納得ができるものである。 したが いて、被告人が犯人だと思うと話しながらも、その根拠となる発言を話さなかったのは、Gなりに被告人をかばう行動と解釈できるものであり、法廷で事実を話すに至った理由も納得ができるものである。 したがって、Gの供述は信用できる。 ⑸ Dの供述についてア Dの供述の概要令和3年1月頃、102号室に行って被告人と車の売買などの話をしたことがある。そのうちの少なくとも1回、車の陸送の話から仕事の話になった際、被告人が「チビが仕事をしても集金してこない。」「一回しめてやるしかない。」などと言ったことがある。チビという言葉がAのことを指していることは、この事件の数日後に知った。車の売買代金などの名目で被告人に金銭を支払ったが、結局車は手に入らなかった。 イ Dの供述の信用性Dの供述は、具体的で自然なものである。 もっとも、Dは、令和3年3月の取調べでは、「チビが仕事をしても集金してこない。」などの被告人の発言について述べておらず、令和4年12月の取調べでは、その発言について二、三回聞いたと述べ、法廷では1回は聞いた、それ以上に聞いたかもしれないと述べている。弁護人は、話が変わったことについて納得できる理由はないから、Dの供述は信用でき ないと主張する。D自身は、令和3年3月の取調べで上記の被告人の発言について述べなかった理由について、詐欺罪のことをメインに聞かれたから思い出さなかったと説明し、法廷でこれを述べた理由は、検察庁で傷害致死のことを主に聞かれ、Aのことをよく聞かれるうちに思い出したからであると説明する。しかし、Aが死亡した事件があったからこそDが事情聴取を受けたことは明らかであり、Dの説明をそのまま受け入れることはできない。もっとも、被告人から「一回しめてやるしかない。」などの話を聞いたとする当時、DはチビがAの 事件があったからこそDが事情聴取を受けたことは明らかであり、Dの説明をそのまま受け入れることはできない。もっとも、被告人から「一回しめてやるしかない。」などの話を聞いたとする当時、DはチビがAのことであると知らなかったのであるから、この話が強く印象に残らなかったとしても不自然ではなく、取調べの中で思い出せなかったとしても無理はない。他方で、複数回取調べを受け、この事件のことやAのことについて詳しく質問される中で、被告人の上記の発言を思い出したとしても不自然ではない。なお、発言を聞いた回数については、話が変わったというのは当たらない。 また、弁護人は、Dが過去の取調べにおいて、被告人をペテン師だと言っていて、被告人への悪感情からうそを言っている可能性があると主張する。Dは、金銭をだまし取られたことについては、金がない人から取れないから今は返してほしいと思わない、被告人がそういう人間だと諦めたと述べており、いずれにしても、偽証罪に問われる危険を冒してうそを言う理由が現在でもあるとは考えにくい。 したがって、Dの供述は信用できる。 ⑹ 事実①ないし③について事実①ないし③は、前提事実及びCの供述から認められる。 ⑺ 事実④について事実④は、Kの供述から認められる。 ⑻ 事実⑤についてア証拠から認定できる事実 警察官であり、この事件の捜査をした証人Lの供述、Aの母である証人Mの供述、Aの兄である証人Nの供述、Eの供述等の証拠によれば、以下の事実が認められる。 警察において、Aの人となりや身辺を捜査し、被告人以外にAに暴行を加える可能性のあった第三者がいるかどうかが調べられた。当時Aが使用していたスマートフォンの電話帳、通話明細、メッセージアプリ、検索履歴などを調べても、Aが被告人以外の 査し、被告人以外にAに暴行を加える可能性のあった第三者がいるかどうかが調べられた。当時Aが使用していたスマートフォンの電話帳、通話明細、メッセージアプリ、検索履歴などを調べても、Aが被告人以外の第三者とトラブルを抱えていることが分かる事実は発見されなかった。102号室、Aの実家並びにA、被告人及びCが使用していた各自動車を捜索したが、Aが使用していたと見られる上記スマートフォン以外の携帯電話は発見されなかった。 Aの銀行口座を調べても、令和3年1月中旬以降、合計78万円の出金はあるが、Aが金融機関や第三者からお金を借り入れたり返済したりしていることが分かる記録はなく、Aがお金に困っている様子はなかった。さらに、Aの信用情報を調べても、銀行、消費者金融及びクレジットカード会社等からの借り入れをしていた記録はなかった。なお、上記の合計78万円の出金については、既に被告人と知り合った後の出金であるところ、被告人以外の第三者に支払われた形跡はない。 MとNは、Aから、Aが第三者とトラブルを抱えているという話などを聞いたことはなかった。また、Aの死後、Aの実家に、Aにお金を貸していたという人が取り立てに来たり、借金の督促状などが届いたこともない。 そして、Aが、死亡時に使用していたスマートフォン以外の携帯電話を使用するのを見たことはなかった。 Eも、被告人やAとは互いの家に泊まり合ったりする仲であったが、Aが死亡時に使用していたスマートフォン以外の携帯電話を使用するのを見たことはなかった。 イ上記事実から事実⑤が認定できることについて そこで、被告人の弁解も踏まえて、Aに暴行を加える理由を持つ第三者や、Aに暴行を加えることができた第三者の存在をうかがわせる事情がないといえる理由を説明する。 被告人の弁解は次のとおりである。Aは そこで、被告人の弁解も踏まえて、Aに暴行を加える理由を持つ第三者や、Aに暴行を加えることができた第三者の存在をうかがわせる事情がないといえる理由を説明する。 被告人の弁解は次のとおりである。Aは、被告人と出会った当初からやくざ者との金銭トラブルを抱えていて、同居している期間中も、外でけがをして戻ってくることがあったが、誰にやられたかを聞いても答えてもらえず、病院や警察に行くことについても、Aが家族らに迷惑が掛かるからと言って拒んでいた。Aは、スマートフォンとは別にいわゆるガラケーを持っていて、それでよく人と連絡を取っていた、令和3年2月23日にコンビニから帰った後も、Aはそのガラケーで誰かと連絡を取って外出した。 その夜にドアをノックする音がしたので開けてみると、Aが外でけがをした状態で座っていた。 しかし、被告人のいうガラケーについては、仮に被告人の言うとおりであるとして、Aが同日夜に帰った時に所持していなかったことは不可解であるし、充電器など、Aがガラケーを持っていた痕跡といえるものも全くない。また、Aの家族や、被告人やAと互いに泊まり合う仲だったEも、Aがスマートフォン以外の携帯電話を使用するのを見たことがないと述べるところ、令和3年当時にガラケーを見ることは比較的珍しいことであるから、仮に見ていればその通りに述べるものと考えられるし、たまたまAが被告人の前でだけ使用していたというのも考えにくい。 そうすると、Aは、死亡時に使用していたスマートフォン以外の携帯電話を使用していなかったものと認められる。そのほか、Aが被告人以外の第三者とトラブルを抱えていれば、何らかの痕跡が見られて当然であるといえるところ、これが全く見られなかったのであるから、そのようなトラブルはなかったと見るほかない。 したがって、Aに暴行を加える理由を 者とトラブルを抱えていれば、何らかの痕跡が見られて当然であるといえるところ、これが全く見られなかったのであるから、そのようなトラブルはなかったと見るほかない。 したがって、Aに暴行を加える理由を持つ第三者や、Aに暴行を加える ことができた第三者の存在をうかがわせる事情はないものといえる。 ⑼ 事実⑥についてアまず、上記のとおり信用できる証人の供述等から以下の事実が認められる。 被告人は、令和3年1月頃、102号室でDと会った際、「チビが仕事をしても集金してこない。」「一回しめてやるしかない。」と言った。 被告人は、同年2月中旬頃、Eの家を訪れた際、Eに対し、100万円を超える金額が記載された念書を見せた。 Aは、同月19日、スマートフォンで「念書」と検索した。(甲301〔Aの負傷状況等〕)被告人は、同月23日夜、Cが102号室に向かっている際、Cに電話で「チビを殴った。」「うそをついたから殴った。」と言い、Cが翌24日0時26分頃に102号室に着いた後には、Cに対し、「現場に遅れて1200万円の損害が出た。」「貯金があると言っていたが、18万円しかなかった。」と言ったり、何人かの名前、金額や土地などが書かれたメモを見せながら「メモ用紙に書かれていたのも全部うそだった。」と言ったりした。 この事件の後、102号室に残されていた被告人のバッグの中に、令和3年2月29日午前9時までに親から300万円を借りてくること、借りられなかった場合には、同じ日の午後7時までに1200万円を支払うこと、Aの母が保証人となることが記載された、A名義で宛名がない念書があった。(甲303〔Bハイツの状況等〕)イ以上の事実から事実⑥が認定できることについてCとDの供述からすると、被告人は、Aに対して金銭のことで が記載された、A名義で宛名がない念書があった。(甲303〔Bハイツの状況等〕)イ以上の事実から事実⑥が認定できることについてCとDの供述からすると、被告人は、Aに対して金銭のことで不満を持っており、その不満の一部は遅くとも令和3年1月には持っていたものと認められる。 102号室にあった念書は、1200万円という金額がCの供述と一致している。その上、被告人のバッグの中から発見されているのであるから、Aが被告人に宛てて書いたものと考えるのが自然である。これに対し、被告人は、Aから念書の書き方を尋ねられたから教えたのであり、Aが書いた念書は被告人に宛てたものではないと述べるが、文章として完成している念書が、単に書き方を教える立場に過ぎない被告人のバッグの中に保管されていたことの説明が付かない。また、Aは、念書の書き方をスマートフォンで検索しており、書き方そのものの情報には接することができていたから、これを被告人から教わる必要はなく、金額や保証人が誰かなどの具体的な点について被告人から指示されて作成したと考えるのが自然である。なお、弁護人は令和3年2月29日という日付は存在しない日付であるから、この念書は書き方の練習のために作成されたものであると主張する。しかし、29日という日付は他の月には存在するもので、単なる間違いである可能性もあり、いずれにしても、作成日が実在しないことのために、被告人宛ての念書であることが否定されることはない。 そして、被告人が令和3年2月中旬頃にはEに念書を見せていたことも考え合わせると、被告人は、その頃から、Aに対して金銭のことで不満を持っており、暴行を加える理由があったものといえる。 ⑽ 事実⑦について事実⑦は、EとGの供述から認められる。 4 コンビニ後の暴行の犯人 、その頃から、Aに対して金銭のことで不満を持っており、暴行を加える理由があったものといえる。 ⑽ 事実⑦について事実⑦は、EとGの供述から認められる。 4 コンビニ後の暴行の犯人について被告人が犯人ではないとすると、事実①の説明が付きにくい。すなわち、Aは、令和3年2月24日午前0時26分頃の時点で自分では動けない状態であったから、自分で外出先から帰ってくることは考えられず、他人がわざわざ連れてきたと考えるには、その痕跡がなく、その理由も見当たらない。Aが102号室で暴行被害に遭ったと考える方がはるかに自然である。 また、被告人が犯人ではないとすると、事実②のとおり、Cに対して自分が殴ったと話す理由はない。 そして、事実③について、被告人の弁解は上記のとおりであり、A自身が警察や病院へ行くことを嫌がったというものであるが、CはそのようなAの発言を聞いていない。その上、被告人は、Aと生活を共にしていたものであり、仮に本人が嫌がったとしても、動けない状態にまでなっているAを前にして、あくまで本人の思いを尊重して警察や病院に連れて行かないなどというのは、通常の行動ではない。 事実④は、事実①と併せて、Aが102号室で被告人から暴行の被害を受けたことを推測させる。一方で、102号室にほかに暴行に及ぶ者がいたことをうかがわせる事情もなく、被告人が犯人ではないとすると説明できない。 事実⑤については、既に検討したところではあるが、被告人が犯人ではないとすると、他の犯人がいることをうかがわせる何らかの痕跡が残って当然であって、それが全くないことは説明しにくいものといえる。 事実⑥については、単体としては、被告人が犯人ではないとしても説明できる事情である。もっとも、事実⑤と併せると、他の犯人がいることがうかがわれず、 、それが全くないことは説明しにくいものといえる。 事実⑥については、単体としては、被告人が犯人ではないとしても説明できる事情である。もっとも、事実⑤と併せると、他の犯人がいることがうかがわれず、被告人には犯行の理由があることとなり、このような状況は、被告人が犯人ではないとすると説明しにくいものといえる。 事実⑦については、被告人が犯人ではないとすると、EやGに既に認定したような話をする理由がなく、やはり説明できないものである。なお、Gに対する話は、一発二発殴ったというもので、事実に反して暴行の回数が過少であるが、ほかの犯人の話をせず、自分が殴ったと話したのであるから、被告人が犯人であることを推測させる事情といってよい。 以上の検討を総合すると、コンビニ後の暴行については、被告人が犯人ではないとすると合理的に説明できないものといえる。 5 コンビニ前の暴行について まず、事実⑤については、コンビニ前の暴行についても同様に、被告人が犯人ではないとすれば説明しにくいものである。 また、前提事実のとおり、被告人は、令和3年2月23日午後1時54分頃から午後2時3分頃までの間、コンビニでAと買い物をしているところ、途中から代わったとはいえ、他人の暴行によりけがを負ったにしてはAを全く気遣うことなく、手が赤紫に腫れ上がっているAに買い物かごを持たせ、自ら選んだ商品をその買い物かごに次々に入れているのであり、このことも、被告人が犯人ではないとすると説明しにくいものといえる。 そして、Aは、コンビニ前の暴行の結果、特に上記の買い物の時点ではかなり大きな傷を負っているところ、A自身、警察や病院へ行っておらず、被告人もAを警察や病院へ連れて行っていない。これに関する被告人の弁解は、上記と同様、A自身が家族らに迷惑が掛かると言って嫌がったとい り大きな傷を負っているところ、A自身、警察や病院へ行っておらず、被告人もAを警察や病院へ連れて行っていない。これに関する被告人の弁解は、上記と同様、A自身が家族らに迷惑が掛かると言って嫌がったというものであるが、既に認定したとおり、Aはスマートフォン以外の携帯電話を使用してはいなかったのであり、Aに連絡を取って暴行を加えた第三者の存在はうかがわれない。 もっとも、コンビニ前の暴行については、日時の幅もあるから、行きずりの者から被害に遭ったということもあり得ないではないが、そうだとすると、警察や病院へ行かない理由は全くないこととなる。いずれにしても、Aがけがを負いながら、警察や病院へ行っていないことは、被告人が犯人ではないとすると説明できない。 その上、コンビニ後の暴行の犯人が被告人であることは上記のとおり明らかであるところ、コンビニ前の暴行の犯人が別人であったとすると、例えば、被告人から、Aが外出先からけがをして帰ることがあると聞いた知人がいるとか、被告人がCに対して手のけがは他人の暴行で既にできていたもののそれ以外は自分の暴行であると説明したとかいった、コンビニ前の暴行の犯人が別人であることを示す何らかの痕跡があって当然であるところ、そのような痕跡は全く見当たらず、このことも、被告人が犯人ではないとすると説明できない。 以上の検討を総合すると、コンビニ前の暴行についても、被告人が犯人ではないとすると合理的に説明できないものといえる。 (量刑の理由) 1 この事件は、被告人が、数日間にわたり、Aの頭部、胸部、腹部、背部、左右上肢及び左右下肢につえを用いる方法やその他の方法で暴行を加え、Aに全身多発性の皮下出血、組織挫滅等の傷害を負わせ、よって、Aを多発外傷に基づく外傷性ショックにより死亡させたというものである。 2 そこで 左右下肢につえを用いる方法やその他の方法で暴行を加え、Aに全身多発性の皮下出血、組織挫滅等の傷害を負わせ、よって、Aを多発外傷に基づく外傷性ショックにより死亡させたというものである。 2 そこで、傷害致死罪のうち、単独で、金銭トラブル又はその他の動機で、被告人の知人、友人又は勤務先の関係者であるAを死亡させた傷害致死事件1件の事案の量刑傾向を踏まえて、まず、犯情を検討してこの事件の重みを考え、次に一般情状を検討して刑を決める。 3 まず、犯情のうち、犯行までのいきさつや理由について見る。 被告人が否認しているため、被告人自身から暴行のいきさつや理由が語られてはいないが、既に検討したCの供述などの証拠からすると、犯行までのいきさつに記載したとおり、Aのせいで1200万円の損害を被った、また、Aから多額の金銭を得られるはずだったのにそれができなかったなどと考えて立腹したことが明らかに認められる。しかし、証拠によれば、被告人は、O工業という名前で事業をしていたものの、令和2年4月までに従業員はいなくなり、令和3年2月当時はほとんど仕事をしていなかったことが認められ、それほど多額の仕事を請け負っていたこと自体考えにくい上、パチンコ店で知り合ってせいぜい2か月程度のAにそのような仕事を任せたということも考えにくく、1200万円の損害については言いがかりというほかないものである。Aから多額の金銭を得られるはずなのにそれができなかったという点も、被告人が語らない限り詳細は明らかではないものの、合法的に金銭を得る理由があったとは考えにくい。その上、被告人とAとの間には明らかな上下関係があり、逃げられないAに対して犯行に及んだと考えられることも併せると、犯行のいきさつや理由に同情すべき事情は全 くないものといえる。 次に、犯行のやり方について とAとの間には明らかな上下関係があり、逃げられないAに対して犯行に及んだと考えられることも併せると、犯行のいきさつや理由に同情すべき事情は全 くないものといえる。 次に、犯行のやり方について見る。暴行の内容は明らかではなく、不詳の方法で暴行を加えたと認定せざるを得なかったものであるが、少なくとも、既に認定したCの供述中の被告人の発言に加えて、Aの背中には棒状のものによって殴打された跡と考えられる皮膚変色があったこと、事件後に102号室から4つに分かれたつえが発見されたことなどからすると、つえで殴る暴行はあったものと認められる。そして、Aの解剖をした医師の供述なども踏まえると、被告人は、つえを用いる方法やその他の方法で、令和3年2月中旬頃から2月23日の夜までの間に、筋肉や脂肪織が挫滅するほどの強い力で、全身に、何度も執拗に暴行を加えたといえる。また、Aの傷のつき方から、Aが抵抗できていなかったこともうかがわれる。このような犯行のやり方は、素手による暴行の事件や、回数が少なく、暴行を加える身体の部位が限定的な事件などに比べ、はるかに悪いものといえる。 そして、数日間に何度も暴行を受け、誰の助けも求められないまま動けない状態となり死亡するに至ったAの痛みや恐怖は計り知れないものがあり、遺族が強い処罰感情を持つのも当然といえる。 以上の犯情を総合すると、この事件の犯情は、同種の事件の中で重い部類に属する。 4 一般情状について見ると、被告人は、Aに暴行をしておらず、犯人である第三者が存在したなどという不合理な弁解に終始しており、自分が犯した罪と向き合おうとしていない。また、被告人には傷害致死罪などによる前科が1犯あり、服役の経験を生かして立ち直るべき立場にあったにもかかわらず、その刑の執行が終わってから僅か6年で今回の同種の犯 した罪と向き合おうとしていない。また、被告人には傷害致死罪などによる前科が1犯あり、服役の経験を生かして立ち直るべき立場にあったにもかかわらず、その刑の執行が終わってから僅か6年で今回の同種の犯行に及んだ。そして、被告人は、Aが死亡するまでの間、病院に連れて行くことができたのにそれをせず、一貫して自分の犯行が発覚しないよう、自己保身を優先する行動をとった。さらに、被告人は、Aの遺族に対して弁償も謝罪も全くしていない。 5 以上を踏まえて、被告人に対する具体的な刑を検討する。同種の事件の量刑傾向は、懲役2年から16年までに分布し、中間値は懲役7年というものである。 上記のとおり、この事件の犯情は同種の事件の中でも重いものである。また、上記の一般情状を見ても、被告人に有利なものは見当たらない。そうすると、この事件が令和4年5月の判決の事件と併合罪の関係にあることを考えても、主文の程度の懲役刑はやむを得ない。 (求刑-懲役15年)令和6年8月5日水戸地方裁判所刑事第2部 裁判長裁判官山﨑 威 裁判官薦田淳平 裁判官植木佑記
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