平成26年1月29日判決言渡同日原本受領裁判所書記官平成25年(ネ)第10055号損害賠償請求控訴事件原審・東京地方裁判所平成20年(ワ)第38602号口頭弁論終結日平成25年12月5日判決当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。事実及び理由第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人に対し,10億円及びこれに対する平成21年1月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。第2 事案の概要本判決の略称は,原判決に従う。 1 本件は,発明の名称を「無線アクセス通信システムおよび呼トラヒックの伝送方法」とする特許権を有する控訴人が,移動電話通信サービスの提供を行う被控訴人に対し,被控訴人の通信システムは控訴人の特許発明の技術的範囲に属すると主張して,民法709条,特許法102条3項に基づき,損害賠償として10億円及びこれに対する平成21年1月16日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。原判決は,本件補正は,本件当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるとは認められないから,旧特許法41条所定の「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」においてするものということはできず,要旨変更に該当し,旧特許法40条により本件出願は本件補正書が提出された平成8年7月31日にされたものとみなされるとした上で,本件発明1は,本件特許の対 範囲内」においてするものということはできず,要旨変更に該当し,旧特許法40条により本件出願は本件補正書が提出された平成8年7月31日にされたものとみなされるとした上で,本件発明1は,本件特許の対応米国特許である乙6文献の特許請求の範囲の請求項6に記載された発明と同一であり,本件発明2は,同請求項6に記載された発明及び同請求項21に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきであるのみならず,本件発明はいわゆるサポート要件及び実施可能要件を充足しないから,本件発明に係る特許はいずれも特許無効審判により無効にされるべきものと認められ,特許法104条の3第1項により,控訴人は被控訴人に対し本件特許権を行使することができないと判断して,控訴人の請求を棄却したため,控訴人が,これを不服として控訴したものである。 2 前提事実原判決12頁19行目の次に,改行して次のとおり加えるほかは,原判決の「事実及び理由」の第2の2記載のとおりであるから,これを引用する。「 本件特許に係る審決取消訴訟被控訴人は,平成22年12月2日,本件発明にかかる特許について,特許無効審判を請求した。特許庁は,平成23年7月27日,「特許第2588498号の請求項6及び請求項11に係る発明についての特許を無効とする。」旨の審決をしたため,控訴人は,同審決の取消しを求める審決取消訴訟(平成23年(行ケ)第10401号)を提起した。知的財産高等裁判所は,平成25年1月17日,控訴人の請求を棄却する旨の判決(以下「審決取消訴訟判決」という。)をした(乙69)。」 3 争点原判決の「事実及び理由」の第2の3記載のとおりであるから,これを引用する。第3 争点に関する当事者の主張争点(本件発明に係る特許が特 いう。)をした(乙69)。」 3 争点原判決の「事実及び理由」の第2の3記載のとおりであるから,これを引用する。第3 争点に関する当事者の主張争点(本件発明に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきものとみとめられるか)の「ア無効理由1(要旨変更による出願日繰下げを前提とする新規性・進歩性の欠如)」について,次のとおり当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の第2の3記載のとおりであるから,これを引用する。 1 当審における控訴人の主張 構成要件F2の「出口」「入口」の意義についてア原判決は,本件発明の要旨認定において,「交換システム」「送信」「受信」という文言以外については,当業者の理解や技術常識,構成要件の文脈を一切考慮していない。しかし,特許請求の範囲や明細書・図面が当業者に向けられたものであることからすれば,発明の要旨認定において,明細書の発明の詳細な説明や図面に記載された発明の技術内容を理解した上で,当該技術分野の技術常識に照らし,出願当時の当業者が特許請求の範囲の記載をどのように理解するかを考慮することが当然の前提となる。イ 「送信」という動作は,機械においてプロセッサ等の頭脳による一定の制御を要する。当業者は,「交換システム」が「送信」の主体として記載されている場合,交換システムが内部のソフトウェア・ハードウェアの処理によって「送信」を行うものであると理解しても,「交換システムの出口」のような,頭脳を有しない,出線の一点が送信の具体的な主体であるとは考えない。したがって,当業者は,「交換システムが送信する」「交換システムから送信される」「交換システムで受信」との文言について,「交換システムの出口(外部との境界点)から送信する」「交換システムの ない。したがって,当業者は,「交換システムが送信する」「交換システムから送信される」「交換システムで受信」との文言について,「交換システムの出口(外部との境界点)から送信する」「交換システムの入口(外部との境界点)で受信」することを意味すると第一義的に理解することはあり得ない。ウ 「受信」という用語は,「どこで」受信するかについて,それ自体,何ら限定していないから,その点を厳密に特定するためには,前後の文脈,文の背景ないし前提又は用いた者の真意等を確認する必要があるところ,通常は,情報を少なくとも情報として認識した時点から「受信」したと評価されるのであって,受信側の「入口」(外部との境界点)を情報が通過したことだけをもって「受信」したということはない。携帯電話で音声データを「受信」したという場合,携帯電話のアンテナは外部から来る無数の信号を捉えているが,それらの信号の中から復調可能なデータが受信された場合に限り,当該携帯電話で「受信」されたというのが通常である。しかも,構成要件F2は,「交換システムから送信される時刻の前の所定のウィンドウ時間内に…受信」と明確に規定しており,当業者が「受信」の厳密な意味を理解しようとする場合,受信が望まれる「所定のウィンドウ時間」がいかなるものかについての検討が不可避となる。したがって,「交換システムで受信」という文言に接した当業者が,「交換システムの入口」が受信場所になるなどと第一義的に理解することはあり得ない。エ構成要件F2の課題は,「不規則な受信と規則的な送信」が伴う場所において存在するから,当業者は,トラヒックが「決定論的」に送られるボコーダ以降の場所,特に交換システムの「出口」のような,全く本件発明の課題が生じ得ないような場所での制御を構成要件F2が規定するもの いて存在するから,当業者は,トラヒックが「決定論的」に送られるボコーダ以降の場所,特に交換システムの「出口」のような,全く本件発明の課題が生じ得ないような場所での制御を構成要件F2が規定するものではないことを自然に理解するものである。また,バッファは,常に交換システムの内部に設置されるものである。さらに,「個々の呼のトラヒック」についてされる送信時刻の制御は,「複数の呼のトラヒック」が既に多重化されている交換システムの出口では行うことができないし,エコー・キャンセラーの後の「出口」においてトラヒックの送信時刻制御を行うこともできないから,当業者が本件発明の特許請求の範囲の記載に接した場合,構成要件F2が規定する制御が「出口」における制御を含むと理解するとは考え難い。以上のとおり,当業者の理解や技術常識を考慮すれば,構成要件F2について, 交換システムの「出口」「入口」などという要旨認定が成り立つ余地はない。オ原判決は,構成要件F2の制御はマルチプレクサの前に行う必要があるとの控訴人の主張について,交換システムが必ずマルチプレクサを備えるものであることは特許請求の範囲に記載されておらず,マルチプレクサが必要な場合も,交換システムの出口から送信する時刻を制御することがおよそ不可能であるという前提が正しいと認めるに足りる的確な証拠もなく,内部における送信時刻の制御しかあり得ないということには結びつかないとする。しかしながら,当業者の技術常識を特許請求の範囲に記載する必要はない。また,原判決は,マルチプレクサを有しない交換システムがあり得ると想定しているようであるが,本件発明の出願当時の技術水準において,全く多重化を行わない非効率な交換システムを実際の通信システムに用いるなどということはあり得ない。したがって,原 ステムがあり得ると想定しているようであるが,本件発明の出願当時の技術水準において,全く多重化を行わない非効率な交換システムを実際の通信システムに用いるなどということはあり得ない。したがって,原判決の認定は誤りである。 原判決特有の理由部分についてア原判決は,審決取消訴訟判決とは異なり,構成要件F2が構成要件Cの「交換システム」を受けており,「交換システム」が構成要件Aの「セル」や構成要件Bの「通信リンク」と同列に扱われていることも理由とする。しかしながら,「同列」であることが原判決における結論の理由となることについて,原判決は具体的に明らかにしていない。また,構成要件F2が構成要件Cの「交換システム」を受けているという点も,原判決の「入口」「出口」に関する解釈を正当化する理由とはならない。イ原判決は,当業者の観点からすれば,本件構成は,第一義的には交換システムの出入口における送受信の制御を意味するものと解されるとしても,交換システムの内部における送受信の制御という動作をも含んでいると解するのが相当であるとする。しかしながら,構成要件F2において,原判決のような「出口」「入口」における制御を前提とする解釈を採用した場合,本件発明の目的を達成できない以上, 「出口」「入口」における制御を前提とする解釈と,「内部手段」における制御という解釈は併存し得ず,両方の解釈があり得ると考えた当業者は,いずれが合理的な解釈であるかについて,本件当初明細書等を参酌して確定しなければならない。 「出口」「入口」における制御という解釈を先に確定した後に,これと両立し得ない「内部手段」における制御という解釈がさらに含まれるかという点についてのみ,一義的明確性を検討し,本件当初明細書等を参酌する原判決の判断手法は,当業者が採用しな 先に確定した後に,これと両立し得ない「内部手段」における制御という解釈がさらに含まれるかという点についてのみ,一義的明確性を検討し,本件当初明細書等を参酌する原判決の判断手法は,当業者が採用しない不合理な解釈である。 予備的主張について控訴人は,予備的主張として,仮に構成要件F2における制御対象が「交換システムの出口から送信する時刻」であるとしても,パケットが所定のウィンドウ時間内に交換システムで受信されるように,PCMサンプルを当該交換システムの出口から送信する時刻を制御する構成は,プロセッサ602が送信時刻を制御する構成の記載により,本件当初明細書等に開示されていると主張した。原判決は,控訴人の上記予備的主張について,ボコーダ以降における着信先への「送信」の時刻の変化が「125μ秒毎」に「一定」という枠を外れて送信タイミングを合目的的に任意に変更できるものではないとして,これを排斥している。しかしながら,所定のウィンドウ時間内にパケットが受信されることを実現するために,「125μ秒毎に一定という枠内で送信時刻を制御する」ことも,「合目的的な制御」ということができる。また,構成要件F2は,送信時刻を任意の単位で制御することを要求していないから,125μ秒毎に一定という枠内で送信タイミングを変更することも,構成要件F2の「制御」に該当する。したがって,原判決の認定は誤りである。 原判決が認定するとおり,当業者が構成要件F2について,交換システムの「内部手段」からの送受信を規定していると解釈することがあり得る以上,本件明細書等の発明の詳細な説明や図面の記載を理解し,当業者の理解や技術常識を考 慮の上,構成要件F2について正しい要旨認定を行えば,構成要件F2において,交換システムの「内部手段 得る以上,本件明細書等の発明の詳細な説明や図面の記載を理解し,当業者の理解や技術常識を考 慮の上,構成要件F2について正しい要旨認定を行えば,構成要件F2において,交換システムの「内部手段」が「送信」「受信」の主体であると解されることは明らかである。仮に,構成要件F2について,交換システムの「入口」「出口」からの送受信を規定しているとの要旨認定がされたとしても,控訴人の予備的主張には理由がある。したがって,「所定のウィンドウ時間内に交換システムの内部手段で受信」し,「交換システムの内部手段が送信する時刻を制御する」構成は本件当初明細書等に記載されているということができるから,本件補正が要旨の変更に該当するものではなく,本件出願の出願日は本件補正書が提出された日に繰り下がるということはないから,本件発明に係る特許はいずれも特許無効審判により無効にされるべきものと認めることはできない。よって,原判決の判断は誤りであって,本件特許権の侵害に基づく損害賠償を求める控訴人の請求は認容されるべきである。 2 当審における控訴人の主張に対する被控訴人の主張 構成要件F2の「出口」「入口」の意義についてア構成要件F2における「交換システムから送信」「交換システムで受信」が,それぞれ「交換システムの出口から外への送信」「交換システムの入口での外からの受信」を意味することは,特許請求の範囲の記載から一義的に把握可能である。控訴人の主張は,特許請求の範囲の記載を越えて,本件明細書等の発明の詳細な説明や図面だけに記載された構成要素を付加して発明の要旨を認定するものであるのみならず,特許請求の範囲の記載とも矛盾するから,誤りである。イ構成要件F2における「交換システムから送信される時刻」「交換システムが送信する時刻」は, 付加して発明の要旨を認定するものであるのみならず,特許請求の範囲の記載とも矛盾するから,誤りである。イ構成要件F2における「交換システムから送信される時刻」「交換システムが送信する時刻」は,制御の対象として記載されている。「交換システム」「交換システムから送信される」等の文言は,制御の対象となる「時刻」を修飾しているにすぎず,制御の主体は,構成要件Fの冒頭の「当該第2の手段」である。送信のタイミングの決定等を行う「頭脳」が,当該決定に従った制御の行われる出口にある必要がないことは文言上明らかであるし,当業者がそのようなシステムを構築することに何らの支障もないから,控訴人の主張は誤りである。ウ構成要件F2は,「交換システムで受信」と定めるものであって,「受信」という用語の意味内容が問題となるわけではない。また,「所定のウィンドウ時間」は,「交換システムから送信される時刻」に基づいて,これよりも時間的に「前」に設けられるべき時間的な基準(比較対象)でしかなく,場所的な限定を伴うものではないから,「所定のウィンドウ時間」から「受信の場所」を限定することはできない。控訴人の主張は誤りである。エ控訴人は,構成要件F2の課題は「不規則な受信と規則的な送信」が伴う場所において存在するなどと主張するが,当該主張は,本件明細書等の実施例にのみ開示されているボコーダ604に基づく解釈であって,失当である。交換システムを構成する膨大な部品ないし回路の中から,特許請求の範囲に記載されていない回路にすぎないボコーダを特定し,当該回路に基づく解釈を当業者に強いるのは,特許請求の範囲の公示機能を無視するものである。バッファについても,構成要件F2における「交換システムからの送信」において,バッファの存在は要件とされていない。エコー・キャ 釈を当業者に強いるのは,特許請求の範囲の公示機能を無視するものである。バッファについても,構成要件F2における「交換システムからの送信」において,バッファの存在は要件とされていない。エコー・キャンセラーやマルチプレクサについても同様である。 原判決特有の理由部分について控訴人は,原判決は「交換システム」が構成要件Aの「セル」や構成要件Bの「通信リンク」と同列に扱われていることも理由とするが,「同列」の具体的意味を明らかにしていないなどと主張する。しかしながら,原判決は,交換システムが一定の形状や構造を有する実体を有することにおいて,構成要件Aのセルや構成要件Bの通信リンクと同列に扱われていると判示しているのであって,「同列」の具体的な意味は明らかである。また,控訴人は,構成要件F2において,原判決のような「出口」「入口」という解釈を採用した場合,本件発明の目的を達成できない以上,「出口」「入口」という解釈と,「内部手段」という解釈は併存し得ず,両方の解釈があり得ると考えた 当業者は,いずれが合理的な解釈かについて,本件当初明細書等を参酌することにより確定しなければならないなどと主張するが,「交換システムから送信」等の文言を「交換システムの内部機器から他の内部機器への送信」を規定すると解釈することが許されない以上,控訴人の上記主張はその前提自体を欠くというべきである。 予備的主張について控訴人は,予備的主張として,主位的主張におけるいわゆる直接的制御とは異なり,いわば間接的制御が本件当初明細書等に開示されていると主張する。しかしながら,控訴人が主張する「125μ秒毎に一定という枠内で送信時刻を制御する」とは,ボコーダより前に行われた送信時刻の制御に伴う結果として送信タイミングが変更されることを意 いると主張する。しかしながら,控訴人が主張する「125μ秒毎に一定という枠内で送信時刻を制御する」とは,ボコーダより前に行われた送信時刻の制御に伴う結果として送信タイミングが変更されることを意味するにすぎず,当該変更によって実現しようとする目的を伴わないものであって,目的を達成するための操作とはいえないから,「制御」に該当するものではない。また,控訴人の予備的主張は,ボコーダ以降の回路において,入トラヒックの処理に要する時間が常に一定であり,入トラヒックの送信時刻を変化させる事象が生じないことを当然の前提とするものであるが,本件当初明細書等及び本件明細書等には,控訴人が主張するような,トラヒックのボコーダへの送信時刻が遅らされた場合,当該トラヒックのボコーダ又はそれ以降の回路等からの送信時刻も自ずと同じだけ遅れることについての記載は一切存在しないから,控訴人の当該主張は,その前提自体を欠くものである。 以上のとおり,本件補正が要旨の変更に該当するとした原判決に誤りはない。第4 当裁判所の判断 1 当裁判所も,控訴人の本訴請求は理由がなく,これを棄却すべきものと判断する。その理由は,原判決85頁6行目冒頭から86頁末行まで,及び99頁12行目の「交換システムの出入口における」から同頁14行目の「解されるものの」までを削除し,次のとおり当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほか は,原判決の「事実及び理由」の第4の1ないし4のとおりであるから,これを引用する。 2 当審における控訴人の主張に対する判断 構成要件F2の「出口」「入口」の意義についてア控訴人は,発明の要旨認定において,明細書の発明の詳細な説明や図面に記載された発明の技術内容を理解した上で,当該技術分野の技術常識に照らし,出 構成要件F2の「出口」「入口」の意義についてア控訴人は,発明の要旨認定において,明細書の発明の詳細な説明や図面に記載された発明の技術内容を理解した上で,当該技術分野の技術常識に照らし,出願当時の当業者が特許請求の範囲の記載をどのように理解するかを考慮することが当然の前提となるところ,当業者は,「交換システム」が「送信」の主体として記載されている場合,「交換システムの出口」のような頭脳を有しない,出線の一点が送信の具体的な主体であるとは考えないから,「交換システムが送信する」「交換システムから送信される」「交換システムで受信」との文言について,「交換システムの出口(外部との境界点)から送信する」「交換システムの入口(外部との境界点)で受信」することを意味すると,当業者が第一義的に理解することはあり得ないし,「受信」についても,当業者が「受信」の厳密な意味を理解しようとする場合,受信が望まれる「所定のウィンドウ時間」がいかなるものかについての検討が不可避となるから,「交換システムで受信」という文言に接した当業者が,「交換システムの入口」が受信場所になるなどと第一義的に理解することはあり得ないなどと主張する。しかしながら,引用にかかる原判決第4の1アないしオのとおり,本件発明の特許請求の範囲の記載の「交換システム」という文言は,これらの機能を担う手段が一定の形状や構造を有する実体を伴う意義を有すること,本件発明における「送信」及び「受信」という文言も,「外へ(送信)」及び「外から(受信)」という意義を当然に含んでいるということができることなどからすると,「交換システム」による「送信」及び「受信」とは,「交換システム」の内部手段と区別された外への出口及び外からの入口において行われることを示すことは明らかであって,本件特許 できることなどからすると,「交換システム」による「送信」及び「受信」とは,「交換システム」の内部手段と区別された外への出口及び外からの入口において行われることを示すことは明らかであって,本件特許の出願人が,「送信」及び「受信」の主体を,あえて「交換システム」であるとした以上,上記解釈が技術常識を無視したものということはできない。したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。イ控訴人は,当業者はトラヒックが「決定論的」に送られるボコーダ以降の場所のような,全く本件発明の課題が生じ得ないような場所での制御を構成要件F2が規定するものではないことを自然に理解すること,バッファは常に交換システムの内部に設置されるものであること,「個々の呼のトラヒック」についてされる送信時刻の制御は,「複数の呼のトラヒック」が既に多重化されている交換システムの出口では行うことができないし,エコー・キャンセラーの後の「出口」においても同様に制御を行うことはできないことから,当業者は構成要件F2が規定する制御が「出口」における制御を含むと理解するとは考え難いなどと主張する。しかしながら,控訴人の上記主張は,本件発明の特許請求の範囲の記載が,送信時刻について,交換システムのいずれの部分における送信時刻であるかについて限定していないことを前提とするものであるが,本件発明では,「交換システム」が備える「第2の手段」において,入トラヒックを運ぶパケットが当該交換システムの出口から送信される時刻の前の所定のウィンドウ時間内に当該交換システムの入口で受信されるように入トラヒックを当該交換システムの出口が送信する時刻を制御するものであると認められること,本件発明の特許請求の範囲の記載において,バッファ,エコー・キャンセラー及びマルチプレクサが必須の構 れるように入トラヒックを当該交換システムの出口が送信する時刻を制御するものであると認められること,本件発明の特許請求の範囲の記載において,バッファ,エコー・キャンセラー及びマルチプレクサが必須の構成であるとはされていないことからすると,控訴人の主張はその前提を欠き理由がないというべきである。 原判決特有の理由部分についてア控訴人は,原判決は構成要件F2が構成要件Cの「交換システム」を受けており,「交換システム」が構成要件Aの「セル」や構成要件Bの「通信リンク」と同列に扱われていることも理由とするが,「同列」であることが原判決における結論の理由となることについて明らかにしていないなどと主張する。しかしながら,引用にかかる原判決第4の1エは,本件発明の「無線電話通信システム」が備える「複数のセル」「複数の通信リンク」「交換システム」について,特許請求の範囲の記載では,いずれも内部機器等の具体的構成を限定するものではないが,一定の形状や構造を有する実体を有することが前提となっていることを説示するものであることは,その文脈上,明らかである。 したがって,控訴人の上記主張は採用できない。 イ控訴人は,原判決第4の1カについて,「出口」「入口」における制御という解釈を先に確定した後に,これと両立し得ない「内部手段」における制御という解釈がさらに含まれるかという点についてのみ,一義的明確性を検討し,本件当初明細書等を参酌する原判決の判断手法は,当業者が採用しない不合理な解釈であるなどと主張する。しかしながら,原判決第4の1カについて触れるまでもなく,本件発明の「交換システム」による「送信」及び「受信」が,「交換システム」の内部手段と区別された外への出口及び外からの入口において行われることを示すこと 判決第4の1カについて触れるまでもなく,本件発明の「交換システム」による「送信」及び「受信」が,「交換システム」の内部手段と区別された外への出口及び外からの入口において行われることを示すことは,引用にかかる原判決第4の1アないしオのとおりである。したがって,控訴人の上記主張は失当である。 予備的主張について控訴人は,パケットが所定のウィンドウ時間内に交換システムで受信されるように,PCMサンプルを当該交換システムの出口から送信する時刻を制御する構成は,プロセッサ602が送信時刻を制御する構成の記載により,本件当初明細書等に開示されているし,所定のウィンドウ時間内にパケットが受信されることを実現するために,「125μ秒毎に一定という枠内で送信時刻を制御する」ことも,「合目的的な制御」ということができるから,控訴人の間接的制御に係る原判決の判断は誤りであるなどと主張する。しかしながら,本件当初明細書等におけるプロセッサからボコーダに送信される時刻に関する制御は,当該制御の後において,プロセッサから交換システムの出口までの間に多数の処理回路が存在しており,プロセッサからボコーダに送信される時刻から,交換システムの出口までの時間が一定である旨の記載は存在しないから,交換システムの出口から送信する時刻を制御するものとはいえず,交換システムの内部手段から他の内部手段への送信に係るものというべきである。そうすると,交換システムから着信先への送信に係る時刻の変化は,プロセッサからボコーダに送信される時刻を制御することによって生じた変化に対応するものではないから,「交換システム」の「出口」における時刻の変化は,プロセッサにおける制御の結果ではないし,当該時刻の変化が生じることをもって,間接的に制御されて ることによって生じた変化に対応するものではないから,「交換システム」の「出口」における時刻の変化は,プロセッサにおける制御の結果ではないし,当該時刻の変化が生じることをもって,間接的に制御されているということもできない。したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。 以上のとおり,本件補正が要旨の変更に該当するとした原判決に誤りはない。したがって,本件補正が要旨の変更には該当しないことを前提として,本件発明に係る特許がいずれも特許無効審判により無効にされるべきものと認めることはできないとの控訴人の主張は,その前提自体を欠くというべきである。 3 結論よって,控訴人の本訴請求は理由がなく,原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所第4部裁判長裁判官富田善範裁判官田中芳樹裁判官荒井章光(別紙)当事者目録 控訴人ハイポイントエスアーエールエル訴訟代理人弁護士片山英二同服部 誠同 岡本尚美訴訟復代理人弁護士黒田薫訴訟代理人弁理士小林純子同黒川恵補佐人弁理士相田義明被控訴人KDDI株式会社訴訟代理人弁護士居幸一同渡辺 光補佐人弁理士那須威夫同谷口信行同工藤嘉晃被控訴人補助参加人 KDDI株式会社 訴訟代理人弁護士居幸一 同渡辺光 補佐人弁理士那須威夫 同谷口信行 同工藤嘉晃 被控訴人補助参加人株式会社日立製作所 訴訟代理人弁護士城山康文 同崎地康文 被控訴人補助参加人モトローラソリューションズインコーポレーテッド 訴訟代理人弁護士窪田英一郎 同柿内瑞絵 同乾裕介 同今井優仁 同野口洋高 同中岡起代子 同熊谷郁 補佐人弁理士矢作隆行以上
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