主文 被告人を懲役8 年に処する。 未決勾留日数中300 日を刑に算入する。 理由 第1 犯罪事実 被告人は、令和6 年8 月4 日午後3 時10 分頃から同日午後3 時15 分頃までの間、埼玉県入間市(住所省略)所在のA方1 階8 畳和室において、実母であるB(当時75歳)に対し、その後頭部を足で踏みつけ、その背部に何らかの打撃を加えるなどの暴行を加え、よって、同人に後頭部打撲による頭蓋内損傷、左肩甲骨骨折等の傷害を負わせ、同月6 日午前6 時22 分頃、同県日高市(住所省略)所在のC病院において、 同人を前記後頭部打撲による頭蓋内損傷により死亡させた。 第2 証拠(省略)第3 暴行の内容及び因果関係 1 争点 弁護人は、被告人は、被害者の頬を両手で叩き、足で腰を踏みつけただけであって、後頭部及び背部を足で踏みつける暴行をしたことはないし、暴行と死亡結果との間の因果関係も認められないから、傷害致死罪は成立しない旨主張する。 2 前提事実被告人の父及び被告人の供述等の証拠によれば、以下の事実が認められる。 被害者は、本件当日、午後3 時頃まで、昼食の支度をし、1 階8 畳和室で布団を片付けるなどしていた。午後3 時頃、同室において、被告人が被害者が借金返済のための費用を用立てられなかったことを追及したことから口論となり、被告人が被害者に頬を平手打ちするなどの暴行を加え、被害者は、午後3 時16 分、意識がなく、脈拍がとれない状態となった。被告人の父が119 番通報をし、救急隊が現場に到着した午 後3 時24 分には、被害者は、心肺機能停止状態となり、その後、搬送先の病院で後 意識がなく、脈拍がとれない状態となった。被告人の父が119 番通報をし、救急隊が現場に到着した午 後3 時24 分には、被害者は、心肺機能停止状態となり、その後、搬送先の病院で後 頭部打撲による頭蓋内損傷により死亡した。 被害者が約15 分間に急激に意識を失い心肺停止状態に陥った経過からすれば、被告人と被害者が口論となった午後3 時頃から16 分頃までの間に被害者が後頭部打撲を負った可能性が強く疑われるが、それ以前に同傷害が生じていた可能性も残り、被害者の死因となった後頭部打撲による頭蓋内損傷の発生時期及び死亡に至る機序が 問題となることから、まず、被害者の司法解剖の結果を検討する。 3 被害者の傷害及び死因令和6 年8 月7 日に被害者の遺体の司法解剖を行った医師は、次のとおり説明した。その認定や判断を否定すべき事情はない。 被害者の死因は後頭部打撲による頭蓋内損傷であり、後頭部右下端に致命傷となっ た打撲傷が認められる。被害者の頭蓋内には、硬膜下血腫、くも膜下出血、脳実質内の出血が認められる。首のうなじの奥にある筋肉(右肩甲挙筋)の筋腹に薄層の出血が認められることから、首に筋肉が不自然な伸び縮み(過伸展)をするような力が加わったことが示唆される。以上から、被害者の後頭部に強い衝撃が加わったと考えられる。 被害者の脳幹には腫脹が見られ、脳幹に外力が加わって障害が生じたことが示唆される。脳幹は、呼吸や循環等の生命維持の機能を有し、強い衝撃が加わると、短時間で呼吸停止や心肺停止が起こる可能性があり、被害者に急激な呼吸停止が生じたことや、他に急激な呼吸停止が起こる原因は見当たらないことから、被害者の脳幹に強い衝撃が加わったと考えられる。 また、上背部左端に打撲傷と左肩甲骨骨折が認 、被害者に急激な呼吸停止が生じたことや、他に急激な呼吸停止が起こる原因は見当たらないことから、被害者の脳幹に強い衝撃が加わったと考えられる。 また、上背部左端に打撲傷と左肩甲骨骨折が認められ、骨折線がシャープであることや出血の周囲の形態の変化が乏しいこと等からすれば、それほど時間の経っていない骨折と判断される。 後頭部の皮下出血と肩甲骨周囲の皮下出血は、色調や形態の変化に大きな差がないことから、隔たらない時期に生じたものと認められる。 被害者の左右上腕や左右前腕等には複数の打撲傷又は打撲傷群が認められ、病院で の注射痕や1 週間以内程度経過したと認められるものを除くと、それらは以上の傷害と同時期に生じたものと推認される。 4 被害者の死亡の原因午後3 時頃以降に被告人が被害者に何らかの暴行を加えたことに争いはなく、解剖結果から、被害者の後頭部に強い衝撃が加わって致命傷となった後頭部打撲が生じた ことや、肩甲骨の骨折がそれと隔たりのない時期に生じたと認められることから、被告人が被害者の後頭部及び背部に強い打撃を加えたことが強く推認される。被害者は、昼食時まで、平常の活動をしていたというのであるし、脳幹に外力が加わってから脳幹腫脹による心肺停止等の症状が現れるまでに2、3 時間もかかることはないとの医師の説明からすれば、後頭部に外力が加わったのは午後0 時頃以降であると考えられ る。その頃から午後3 時頃までの間に被害者が本件傷害の原因となる強い衝撃を受けたのであれば、被告人やその父が気付くはずであるが、両名はそのような供述をしていないから、その間に被害者の後頭部に強い衝撃が加わったことはないと認められる。 そうすると、被告人が被害者の後頭部及び背部に頭蓋内損傷及び肩甲骨骨折の原因とな あるが、両名はそのような供述をしていないから、その間に被害者の後頭部に強い衝撃が加わったことはないと認められる。 そうすると、被告人が被害者の後頭部及び背部に頭蓋内損傷及び肩甲骨骨折の原因となる暴行を加えたことを推認することができる。このことから、被告人の父の、被 告人が膝を折って顔を床に向けた状態になった被害者の後頭部を何度も踏みつけていた旨の供述が裏付けられ、被告人が被害者の後頭部を踏みつけた事実を認めることができる。また、被告人の父の供述には、肩甲骨の骨折の原因となる暴行は含まれないものの、解剖の結果から、被告人が被害者の背部に何らかの暴行を加えた事実を認めることができる。 これに対し、被告人は、午後3 時頃、8 畳和室において、被害者が金銭を約束どおり用立てなかったことに立腹し、座っている被害者の頬を両手で平手打ちし、背を向けた被害者の腰を1 回踏みつけたところ、前につんのめった被害者が「生きている価値がない」と泣いた後、上体を反らせるようにして頭を上げて、子供用滑り台の滑り面の縁に頭を5 回以上打ち付け、その直後に激しくせき込み、その後いびきをかきは じめたなどと、滑り台に頭を打ち付けたことにより本件傷害が生じた可能性がある旨 供述する。しかしながら、被告人の供述によっては被害者に本件頭蓋内損傷を生じさせるような強い衝撃が生ずるとは考え難い上、左肩甲骨骨折が生じた原因も説明できないから、被告人の供述は信用することができない。 被告人やその父からも他に後頭部打撲を生じる可能性がある出来事は供述されておらず、被害者に暴行を加えていたのは被告人だけなのであるから、致命傷となった 頭蓋内損傷は被害者の後頭部を踏むという被告人の暴行により生じたものと認められ、これと同時期に生じた左肩甲骨骨折も、 おらず、被害者に暴行を加えていたのは被告人だけなのであるから、致命傷となった 頭蓋内損傷は被害者の後頭部を踏むという被告人の暴行により生じたものと認められ、これと同時期に生じた左肩甲骨骨折も、その態様は証拠上判然としないものの、同部位に打撃を与える被告人の何らかの暴行により生じたものと認められる。 5 結論したがって、第1 記載の暴行及びそれと被害者の死亡結果との間の因果関係は肯定 され、被告人には傷害致死罪が成立する。 第4 適用法令罰条令和4 年法律第67 号2 条による改正前の刑法205条 未決勾留日数の算入刑法21 条 訴訟費用の不負担刑事訴訟法181 条1 項ただし書第5 量刑の理由被告人は、75 歳の病弱な実母に対し、頭部や腰、背中等に多数の暴行を加え(被害者の遺体には、その頭部や手足、背中、腰に多数の打撲傷が認められるが、その色調等に照らせば、一部を除き、被告人の暴行により生じたものと認められる。)、無抵抗 な被害者の頭部を足で数回踏みつけたもので、被害者に対する配慮が一切感じられない危険な暴行である。被告人は、翌日に迫った被告人名義のクレジットカードの支払資金約5 万円を被害者が用立てられなかったことに激高し、暴行に及んだものであるが、被告人が返済に窮したのは被告人自身の金銭管理に起因するものと認められ、理不尽な理由で激しい暴行を受けて命を落とした被害者には同情を禁じ得ない。そうで あるのに、被告人は、暴力を振るったことを後悔する旨述べるが、本件が被害者の自 傷行為の結果であるかのような供述をし、激しい暴行に及んだ自己の問題点に真摯に向き合う姿勢はうかがわれない。以上によれば、被告人の刑事責任は誠に重大であり、被告人に前科前歴 件が被害者の自傷行為の結果であるかのような供述をし、激しい暴行に及んだ自己の問題点に真摯に向き合う姿勢はうかがわれない。以上によれば、被告人の刑事責任は誠に重大であり、被告人に前科前歴がないことなどを考慮しても、主文の刑は免れない。(求刑:懲役8年、弁護人の科刑意見:刑の執行猶予)令和7年11月18日 さいたま地方裁判所第2刑事部 主文 裁判長裁判官江見健一 裁判官林寛子 裁判官古関大樹
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