主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴の趣旨(1) 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。 (2) 被控訴人の請求を棄却する。 (3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 2 控訴の趣旨に対する答弁主文と同旨第2 事案の概要本件は,控訴人の従業員である被控訴人が,控訴人が被控訴人に対し,長時間にわたる振動工具による作業を命じ,保護具を与えず,作業方法の指導もしなかったため,頸肩腕症候群に罹患したと主張して,不法行為又は安全配慮義務の不履行に基づく損害賠償金として179万7715円(休業損害79万7715円,慰謝料100万円)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成12年2月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。 原判決は,休業損害については全額を認め,慰謝料については50万円の限度で認めたが,その余を棄却した。棄却部分につき被控訴人から控訴の申立てはない。 1 基礎事実(各項の末尾に証拠を掲げるもののほかは,当事者間に争いがないか,控訴人において争うことを明らかにしないので,これを自白したものとみなす。)(1) 控訴人は,a市bにおいてCカントリークラブと称するゴルフ場を経営する会社である。 被控訴人は,控訴人に雇用されて,従前はCカントリークラブのキャディ職に,平成10年7月以降はコース管理職に従事しており,平成11年3月から5月までの平均給与の日額は,4700円であった。 (2) 被控訴人は,平成11年4月以降,控訴人の指示により,振動工具である草刈機を使用する草刈作業に従事することが多くなった。 1年3月から5月までの平均給与の日額は,4700円であった。 (2) 被控訴人は,平成11年4月以降,控訴人の指示により,振動工具である草刈機を使用する草刈作業に従事することが多くなった。 (3) 被控訴人は,前記の草刈作業により,右顔面,右腕,右の手指にしびれを生じたなどと訴えて,同年6月11日,a市立病院を受診し,同月13日,控訴人に対し,草刈作業ができないと申し入れ,それ以降休業している。 (4) 被控訴人は,同月16日,D病院において,頸肩腕症候群との診断を受けた(甲2,3の1・2)。 (5) なお,労働省通達(昭和50年10月20日基発第608号)によれば,振動工具による作業については,次の点を遵守すべきことが定められている。 ① 連日による振動作業には従事させないこと② 1日における振動業務の作業時間は,2時間以内とすること③ 振動作業の1連続作業は,おおむね30分以内とすること④ 防振保護具を付けること⑤ 工具の操作の方法・作業方法につき,適切な指導を行うこと 2 争点(1) 被控訴人の作業内容及び控訴人の責任原因【被控訴人】控訴人は被控訴人に対し,平成11年4月30日以降,出勤日には草刈作業に専従するように命じ,被控訴人は,これに従った。 被控訴人が控訴人から命じられた作業の内容は,出勤日には8時間にわたり振動工具による草刈作業に従事するというものであり,休憩時間も,午前10時から15分間,正午から1時間,午後3時から15分に限られていた。また,1連続作業時間は,30分を大幅に超えており,被控訴人は,作業に当たり何ら保護具を与えられず,また,作業方法等の指導も受けなかった。 上記のような内容の作業を,防振保護具を与えず,作業方法等について適切な指導を 0分を大幅に超えており,被控訴人は,作業に当たり何ら保護具を与えられず,また,作業方法等の指導も受けなかった。 上記のような内容の作業を,防振保護具を与えず,作業方法等について適切な指導をすることもなく被控訴人に命じた控訴人の行為は,前記労働省通達の遵守事項にも反するものであり,労働契約上の安全配慮義務に著しく違反するとともに,違法に被控訴人の健康を侵害したものであるから,控訴人は,債務不履行及び不法行為により,被控訴人に生じた損害についての賠償責任がある。 【控訴人】控訴人が被控訴人に対し,草刈作業に専従するように命じたことは否認する。 被控訴人の作業時間,休憩時間については認める。被控訴人には,その主張の時間以外にも休憩時間があったが,1日の作業時間が2時間を超えていたことは認める。 保護具を与えなかったことは認める。 被控訴人が作業方法等の指導を受けなかったことは否認する。 (2) 被控訴人が従事した作業と被控訴人の傷病との因果関係及び損害【被控訴人】ア被控訴人は,控訴人に命じられた草刈作業に従事したことにより,頸肩腕症候群に罹患した。 イその結果,被控訴人は,平成11年6月16日から平成12年8月30日まで,442日間休業した。また,被控訴人は,労災保険からこの治療期間中の休業補償給付として,127万9685円の給付を受けた。したがって,休業損害の額は,79万7715円となる。 (計算式)4700円/日×442日-127万9685円=79万7715円【控訴人】ア草刈作業には,被控訴人を含め,約10名の従業員が従事していたが,被控訴人以外には,体調不良を訴える者はいなかった。 イ仮に,被控訴人の傷病がCカントリークラブでの業務に 【控訴人】ア草刈作業には,被控訴人を含め,約10名の従業員が従事していたが,被控訴人以外には,体調不良を訴える者はいなかった。 イ仮に,被控訴人の傷病がCカントリークラブでの業務に起因して発症したとしても,その休業期間は通常の程度を超えて長期にわたっていることからすれば,被控訴人の傷病の程度については,被控訴人自身の素因が影響していると考えられる。 (3) 慰謝料額【被控訴人】被控訴人は,控訴人従業員で組織するCカントリークラブ労働組合の副委員長であったところ,控訴人は被控訴人に対し,差別的意図をもって,キャディ職からコース管理職へと配転した上,意図的に過酷な作業に従事するよう命じ,前記傷病を発生させるに至ったものである。 被控訴人が控訴人から受けた精神的苦痛を金銭によって慰謝するに足りる額は,100万円を下ることはない。 【控訴人】控訴人が被控訴人に対する差別的意図をもって配転し,意図的に苛酷な作業を命じたとの点は否認する。被控訴人の実通院日数は40日程度であるから,慰謝料額を100万円とすることは高額にすぎる。 第3 証拠原審及び当審記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから,これを引用する。 第4 当裁判所の判断 1 争点(1)(作業内容及び責任原因)について(1) 証拠(甲3の1・2,4,7)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人は,控訴人のコース管理課長Eの指示により,平成11年4月30日から6月9日までの間連日(同年5月1,2,8,9,15,16,22,23,26,29,30,31日,6月5ないし7日を除く。),概ね午前8時から正午までと午後1時から午後5時まで,Cカントリークラブ内で,内燃機関を動力源とする振動工具である草刈機を使用した草刈作業に従事したこ 9,30,31日,6月5ないし7日を除く。),概ね午前8時から正午までと午後1時から午後5時まで,Cカントリークラブ内で,内燃機関を動力源とする振動工具である草刈機を使用した草刈作業に従事したことが認められる。そして,被控訴人の1日のうちの正規の休憩時間は,午前10時から15分間,正午から1時間,午後3時から15分間であったこと,被控訴人の1日の作業時間は,2時間を超えていたこと,被控訴人が,前記の草刈作業に従事するに当たり,何ら保護具を与えられていなかったことは当事者間に争いがない。 (2) 以上の事実によれば,被控訴人が控訴人の指示により従事した作業は,前記の労働省通達により定められている時間を大幅に超え,また,作業方法も同通達を遵守しないものであったものであり,仮に控訴人が主張するように,正規の休憩時間以外にも若干の休憩を取る機会があったとしても,被控訴人に課せられた業務は,その身体に相当の悪影響を与える程度のものであったことが認められ,また,そのことは十分に予想できたものと認められるから,被控訴人は,被用者である控訴人に対して振動工具である草刈機を使用する作業をさせるに際しては,上記労働省通達を遵守して作業者の安全に配慮すべき義務があったのに,これを怠ったものとして,上記作業に起因して被用者たる被控訴人に生じた損害について賠償すべき責任があるものというべきである。 2 争点(2)(因果関係及び損害)について(1) 証拠(甲2,3の1・2,5の1~8,6の1~5,7)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人は,昭和15年3月26日生まれの女子であること,被控訴人は,前記の草刈作業に従事したことにより,平成11年5月20日ころから右手指や腕にしびれを感じるようになり,日が経つに連れて,このしびれは右顔面にまで広がり,手で物を まれの女子であること,被控訴人は,前記の草刈作業に従事したことにより,平成11年5月20日ころから右手指や腕にしびれを感じるようになり,日が経つに連れて,このしびれは右顔面にまで広がり,手で物を持つことが困難になったこと,被控訴人は,同年6月16日,D病院でF医師の診察を受けて,頸肩腕症候群と診断され,休業を指示され,その後平成12年12月20日まで,1か月に1ないし3日間病院に通院(総通院日数は39日)して,基本的に同様の訴えを繰り返し,治療を受けたこと,被控訴人は,この間,平成11年6月16日から平成12年8月30日まで442日間休業し,この期間中の休業補償給付として,労災保険から127万9685円の給付を受けたことが認められる。 (2) 控訴人は,草刈作業に従事した控訴人の従業員のうち,被控訴人以外には体調不良を訴える者はいなかったと主張するが,被控訴人の年齢が平成11年6月当時59歳であったことや,前記のとおり,被控訴人が従事した草刈作業が身体に相当の悪影響を与える程度のものであったことに加え,F医師は鑑別診断を経て被控訴人を頸肩腕症候群であると診断していること(甲3の1・2),同医師は,被控訴人代理人の質問に対し,被控訴人の症状が従事した作業が振動工具である草刈機による草刈作業という過重な負担のものであることや,連日長時間従事したことなどからして,当該作業に従事後比較的短期間に発症したとはいえ,従事した作業により発症したことは明白であるとの趣旨の回答をしていること(甲6の5)が認められ,これらの事実に照らせば,被控訴人が,控訴人の指示により従事した作業により,頸肩腕症候群の傷病を負ったことは明らかであるといえる。 (3) また,控訴人は,仮に被控訴人が頸肩腕症候群の傷病を負ったとしても,その治療のために通常以上の休業 の指示により従事した作業により,頸肩腕症候群の傷病を負ったことは明らかであるといえる。 (3) また,控訴人は,仮に被控訴人が頸肩腕症候群の傷病を負ったとしても,その治療のために通常以上の休業期間を要しているので,被控訴人の前記傷病には被控訴人の素因が影響していると主張するが,証拠(甲6の4・5)によると,F医師は,頸肩腕症候群による要休業期間・要治療期間は数年に及ぶこともあるところ,被控訴人の症状経過も,頸肩腕症候群の傷病を負った場合に通常見られる経過をたどっており,医学的に不自然な症状経過はなく,被控訴人に特別な素因はない,と判断していることが認められ,この事実に照らせば,休業期間が1年2か月余りの長期に及んだからといって,これに被控訴人自身の素因が影響していると認めることはできない。 (4) そして,F医師は,平成12年7月19日,被控訴人は同年8月までの休業治療で軽作業に復帰できると判断しており,被控訴人は同年8月以降は,F医師に対し,冷気による痛みと天候の変化による痛みを訴えるに止まっていること(甲3の2),前記の休業補償給付は,平成12年8月30日までの期間をもって打ち切られていること(甲5の1~8,7)が認められ,これらの事実に照らせば,被控訴人は,平成12年8月30日までは,前記の作業に起因する頚肩腕症候群の傷病により休業を要する状態にあったが,その後は軽作業であれば従事しえる程度に回復したものと認められる。 (5) 以上の事実によれば,控訴人の行為と相当因果関係のある被控訴人の休業損害の額は,207万7400円であり,これから上記の休業補償給付額を控除すると,79万7715円となる。 (計算式)4700円/日×442日-127万9685円=79万7715円 3 争点(3)(慰謝料額)につ り,これから上記の休業補償給付額を控除すると,79万7715円となる。 (計算式)4700円/日×442日-127万9685円=79万7715円 3 争点(3)(慰謝料額)について(1) 被控訴人の前記頸肩腕症候群による通院状況は,前記基礎事実及び認定事実記載のとおりであるが,証拠(甲2,3の1・2)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人の平成11年6月16日から平成12年8月30日までの通院実日数は,34日間である。 (2) そして以上のような傷病の発生原因,程度,治療内容,治療期間等の事実に加え,証拠(甲6の1~5,7)によると,被控訴人のキャディ職からコース管理職への配置換えが,労働組合結成メンバーであり現に副委員長である被控訴人に対する,控訴人の嫌がらせから出た一方的なものと窺われること,60歳になろうかという年齢の女性である被控訴人を,起伏・傾斜の多い場所で振動工具を用いての草刈りという過酷な作業に,連日,長時間従事させた結果,上記のような傷病を発生させたことなど,本件に現われた一切の事情を総合すると,本件傷病を負ったことにより被控訴人が被った精神的肉体的苦痛を慰謝するに足るべき慰謝料の額は,被控訴人の請求どおり100万円が相当である。 4 まとめ以上によれば,控訴人の,従業員の安全に対する配慮を欠いた就業指示により,被控訴人が被った損害は,休業損害として79万7715円,慰謝料として100万円,合計179万7715円となる。 よって,被控訴人の本訴請求は,すべて理由があるからこれを認容すべきところ,原判決は,慰謝料を50万円の限度で認めて,被控訴人の請求のうち129万7715円の損害賠償金及びこれに対する平成12年2月4日から支払い済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払いを認めたに ころ,原判決は,慰謝料を50万円の限度で認めて,被控訴人の請求のうち129万7715円の損害賠償金及びこれに対する平成12年2月4日から支払い済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払いを認めたにとどまるが,これに対する控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし(なお,棄却部分につき被控訴人から不服申立てはないから,不利益変更の禁止により,原判決は変更しない。),控訴費用の負担につき民訴法67条1項,61条を適用して,主文のとおり判決する。 広島高等裁判所第3部裁判長裁判官下司正明裁判官檜皮高弘裁判官齋藤憲次
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