平成22(行ケ)1 選挙無効請求事件

裁判年月日・裁判所
平成23年2月24日 名古屋高等裁判所 棄却
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判決文本文15,663 文字)

- 1 - 主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1請求の趣旨平成22年7月11日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙の愛知県選挙区における選挙を無効とする。 第2事案の概要平成22年7月11日,公職選挙法に基づき参議院議員通常選挙(以下「本件選挙」という。)が施行されたが,本件選挙の前提となる公職選挙法の参議院議員の定数配分規定が,丁,町,村,大字を最小単位の行政区画として用い,人口比例に基づいた定数配分をせず,憲法が規定する「正当(な)選挙」に基づく代議制及び選挙権の平等の保障に反する配分で,憲法に違反し無効であるとして,愛知県選挙区の選挙人である原告が,本件選挙のうち愛知県選挙区における選挙の無効を求めた。 前提事実(証拠を摘示したものを除いて,当事者間に争いはない。)㨯原告は,本件選挙の愛知県選挙区の選挙人である。 㨯本件選挙は,平成18年法律第52号(同年6月7日公布)による改正(以下「平成18年改正」という。)後の公職選挙法14条1項,別表第三の選挙区及び議員定数の定め(以下「本件定数配分規定」という。)に従って施行された。本件選挙施行日(平成22年7月11日)当時の選挙制度によれば,参議院議員の定数は242人とされ,そのうち146人が選挙区選出議員,96人が比例代表選出議員とされている(公職選挙法4条2項)。 平成21年12月25日付総務省報道資料8頁㨯「参議院(選挙区)1人当たり登録者数(在外選挙人名簿登録者含む)」(平成21年9月- 2 -2日現在)によれば,議員1人当たりの登録有権者(在外選挙人名簿登録者含む)の較差は,最少の鳥取県選挙区と最 院(選挙区)1人当たり登録者数(在外選挙人名簿登録者含む)」(平成21年9月- 2 -2日現在)によれば,議員1人当たりの登録有権者(在外選挙人名簿登録者含む)の較差は,最少の鳥取県選挙区と最多の神奈川県選挙区との間で1対4.99である。有権者数最少の参議院・鳥取県選挙区(参議院議員1人当たりの登録有権者(在外選挙人名簿登録者含む)24万4081人)と,原告の属する参議院・愛知県選挙区(参議院議員1人当たりの登録有権者(在外選挙人名簿登録者含む)97万2199人)との間の参議院議員1人当たりの登録有権者(在外選挙人名簿登録者含む)の較差は1対3.98である。また,参議院・鳥取県選挙区の有権者の選挙権の価値を1票とすると,原告の属する参議院・愛知県選挙区の選挙権の価値は,計算上0.25票である。 なお,平成22年7月11日時点における選挙区間の有権者数(速報値)の較差の最大(以下「最大較差」という。)は,1対5.00(以下,較差に関する数値はすべて概数である。)であった(乙1)。 争点 本件定数配分規定は憲法に違反するか。 原告の主張㨯憲法前文第1段第1文冒頭で「日本国民は,正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し」と規定しているところ,ここでいう「正当(な)選挙」とは,多数の国民が国会における多数の代表者を選出できる選挙を意味し,それを実現するのは,投票価値の平等に基づいた議員定数配分規定に基づく選挙以外にはない。すなわち,投票価値の較差を定める選挙法の下では,多数の国民の意思が,少数の国会の代表者の投票行動に変換され,このような事態は,「正当に選挙された国会における代表者を通じて行動」するとの定めの想定していないことで,憲法前文第1段第1文冒頭,第2文,44条,56条2項,14条に違反する 投票行動に変換され,このような事態は,「正当に選挙された国会における代表者を通じて行動」するとの定めの想定していないことで,憲法前文第1段第1文冒頭,第2文,44条,56条2項,14条に違反する。 - 3 -そして,本件定数配分規定の下での選挙区選出の参議院議員選挙においては,投票価値の最大較差は,1対4.99であり,全有権者の33%が,選挙区選出の全参議院議員(定数146名)の多数(74名)を選出している。このように,投票価値の不平等により,少数の国民から構成される「各選挙区の合計」から選出された国会議員が,全選挙区選出参議院議員の中で多数を占めることになり,このような選挙は,憲法前文第1段第1文冒頭の「正当(な)選挙」とは到底いえない。 したがって,投票価値の不平等を定めている本件定数配分規定は,憲法前文第1段第1文冒頭,第2文,44条,56条2項,14条に違反し,本件定数配分規定に基づいた本件選挙も,憲法に違反し無効である。 㨯憲法は,衆議院と参議院とからなる二院制を採用しているが(42条),憲法43条は,「両院は,全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。」と定めていて,衆議院議員も参議院議員も,ともに「全国民を代表する選挙された議員」であることに変わりはない。また,予算(憲法60条2項),条約の承認(同61条),内閣総理大臣の指名(同67条2項)以外の議事については,衆議院の過半数の決議と参議院の過半数の決議は,対等の力を持ち(同56条),法律案については,参議院の過半数の決議は,衆議院の3分の2以上の多数決の決議によってのみ劣後する(同59条2項)。 このように,参議院の決議は,立法について衆議院の3分の2以上の多数の決議(憲法59条2項)がない限り,衆議院の決議と対等の力を持 以上の多数決の決議によってのみ劣後する(同59条2項)。 このように,参議院の決議は,立法について衆議院の3分の2以上の多数の決議(憲法59条2項)がない限り,衆議院の決議と対等の力を持っているので,衆議院議員の選挙と同様,参議院議員の選挙についても,少数の国民が多数の参議院議員を選出するという- 4 -負の代議制ではなく,多数の国民が多数の参議院議員を選出し得るという正の代議制,すなわち,正当な選挙を前提としている。そして,二院制の中での参議院の独自性は,国会が「一人一票」を前提として,その高度な政治的裁量によって,確保すべきものである。 したがって,二院制の中での参議院の独自性は,投票価値の平等を減殺するための正当化事由たり得ない。 㨯最高裁判所の多数意見は,大要「公職選挙法の定める「一票の不平等」が国会の有する裁量権の合理的行使として是認され得る限り,公職選挙法は合憲である。」と説く。しかし,「一票の不平等」を定めた公職選挙法の下で当選した国会議員は,「一票の不平等」を定めた公職選挙法が有効であるか否かの問題について当事者であり,仮にそうでないとしても,上記の問題について直接かつ特別の「利害関係者」である。 このように公職選挙法が有効か否かという問題について「当事者」または「利害関係者」である国会議員は,この点を判断する審判者となり得ず,上記最高裁判所の多数意見は,説得力を欠いている。 㨯原告は,該当選挙区間の人口較差が,均一な人口の選挙区にしようとする誠実な努力によって減少もしくは排除可能であったことについて立証責任を負い,この立証責任を果たせば,被告は,選挙区間の人口較差が憲法上許容される一定の適法目的を達成するために必要であったことの立証責任を負う。そして,原告は,投票価値の最大 たことについて立証責任を負い,この立証責任を果たせば,被告は,選挙区間の人口較差が憲法上許容される一定の適法目的を達成するために必要であったことの立証責任を負う。そして,原告は,投票価値の最大較差が1対4.99であることを立証し(甲1),選挙区間の人口較差を均一化しようと誠実に努力すれば,1対4.99という投票価値の最大較差を縮小または排除可能であることを立証した(甲11)ので,被告は,投票価値の1対4.99の最大較差- 5 -が一定の適法目的を達成するために必要であったことを主張立証しなければならない。 したがって,被告が上記の点について主張立証できなければ,本件定数配分規定を違憲と判断すべきである。 㨯1983年アメリカ合衆国連邦最高裁判決は,アメリカ合衆国下院議員選挙に関し,1対1.007倍(または1票対0.993票)の最大較差を定めるニュージャージー州内の連邦下院議員選挙選挙区割規定を違憲・無効とする連邦地裁判決を維持した。民主主義国家の根幹ルールは,主権者たる国民の多数の意見が,直接的にまたは間接的に(ただし代議制により),立法・行政を決定・支配し,最高裁判所裁判官を指名・任命するというもので,これは,普遍的なものである。アメリカ合衆国では,1票対0.993票の選挙権の価値の不平等ですら違憲とするほど選挙権の価値の平等を厳格に実現していることに鑑みると,日本においても,同様のレベルの厳格性をもって,人口に基づく選挙区割を定めることで「選挙権の価値の平等」を実現しなければならず,その一例は甲11記載のとおりである。 このように,日本でも,アメリカ合衆国と同程度の選挙権の平等化を実現することができ,被告が「日本ではアメリカ合衆国と同程度の選挙権の平等化を実現できない合理的理由・根拠がある」と主張 る。 このように,日本でも,アメリカ合衆国と同程度の選挙権の平等化を実現することができ,被告が「日本ではアメリカ合衆国と同程度の選挙権の平等化を実現できない合理的理由・根拠がある」と主張するのであれば,それらを主張立証する責任を負っている。 被告の主張㨯憲法は,いかなる選挙制度が国民の利害や意見を効果的に国政に反映され得るかについての決定を国会の裁量にゆだねていて(43条2項,44条,47条),投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,参議院の独自性等,国会が正当に- 6 -考慮することができる他の政策的目的等との関連において調和的に実現されるべきものである。したがって,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を是認し得るものである限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で後退することとなっても,憲法に違反するものではない。そして,参議院議員の選挙制度の仕組みは,憲法が二院制の採用により参議院の独自性を持たせようとしたことや,半数改選制,都道府県の政治的単位としての独自の意義と実体に照らし,合理性を有するものであり,社会的,経済的変化が激しい中で不断に生ずる人口変動をいかなる形で選挙制度の仕組みに反映させるかという問題は,複雑かつ高度な政策的判断を要するものとして,国会の裁量にゆだねられている。 したがって,人口変動の結果,上記選挙制度の仕組みの下において投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが,国会の裁量権を超えると判断される場合に,初めて議員定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解される。こ 態が生じ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが,国会の裁量権を超えると判断される場合に,初めて議員定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解される。このことは,これまで累次の最高裁判例が判示しているところである。 㨯本件定数配分規定に基づく本件選挙当時の最大較差は1対5.00で,これは,最高裁判所がこれまで参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定について違憲状態にないと判断した最大較差のいずれをも下回っている。最高裁判所平成20年㨯第209号同21年9月30日大法廷判決(以下「平成21年大法廷判決」という。)は,最大較差1対4. 86であった平成19年7月29日に実施された参議院議員通常選挙(以下「平成19年選挙」という。)について憲法に違反するに至っていたとはいえない旨判示しているところ,本件選挙当時の最大較差は1- 7 -対5.00で,平成19年選挙当時の最大較差1対4.86から大きく拡大しているとはいえない。 したがって,本件選挙当時においても,本件定数配分規定につき,投票価値の平等の重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度の著しい不平等状態が生じていたとは認め難い。 㨯仮に,本件選挙当時,本件定数配分規定について,投票価値の著しい不平等状態を生じさせるに至っていた(いわゆる違憲状態にあった)という見方があり得るとしても,本件選挙までに議員定数の不均衡を是正する立法措置が講じられなかったことが立法裁量権の限界を超えるものとはいえない。 すなわち,これまで参議院議員選挙に関し,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差が1対5.00程度でも違憲状態にあるとした最高裁判決は存在しない。 また,参議院議員の議員定数の配分を長期にわたって固定す で参議院議員選挙に関し,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差が1対5.00程度でも違憲状態にあるとした最高裁判決は存在しない。 また,参議院議員の議員定数の配分を長期にわたって固定することも合理的な立法政策である上,憲法が半数改選制を採用していることから,平成18年6月1日にいわゆる4増4減案に基づく公職選挙法の一部を改正する法律(平成18年法律第52号)が成立し(平成18年改正),本件定数配分規定の下で2回目となる本件選挙を施行した後に,本件定数配分規定の見直しを行うことにも一定の合理性が認められる。 その上,上記の程度の較差が到底看過することができないと認められる程度に達したかどうかの判定は,国会の裁量的権限の限界にかかわる困難な問題であり,かつ,どのような形で改正するかについても種々の議論を経る必要があるところ,本件改正時から起算しても本件選挙までの期間は4年余りにすぎず,選挙制度の問題が長期的,継続的な視点で検討すべき問題であることからすると,憲法違反と判断されるほどに相当の長期間が継続しているとは認め難い。 - 8 -さらに,参議院は,最高裁判所平成17年㨯第247号同18年10月4日大法廷判決(以下「平成18年大法廷判決」という。)後の同19年11月30日,参議院議長の諮問機関として新たに「参議院改革協議会」を設置し,定数是正も含めた参議院の組織及び運営に関する諸問題の調査検討を継続していて,平成21年大法廷判決に先立つ同20年6月9日,参議院の選挙制度を抜本的に見直す目的で「参議院改革協議会専門委員会(選挙制度)」を設置し,上記専門委員会で協議等を繰り返すとともに,平成21年大法廷判決を踏まえた議論も行われている。 このように,本件改正後も,平成18年大法廷判決や平成21年大法廷判決の判示内容に沿った較 )」を設置し,上記専門委員会で協議等を繰り返すとともに,平成21年大法廷判決を踏まえた議論も行われている。 このように,本件改正後も,平成18年大法廷判決や平成21年大法廷判決の判示内容に沿った較差を是正するための継続的な取り組みがなされている。 以上によれば,本件選挙までの間に国会が本件定数配分規定を是正する措置を講じなかったことについて,立法裁量権の限界を超えると評価することはできないというべきである。 㨯ア原告は,本件選挙が憲法の定める投票価値の平等に違反し無効であると主張する。 しかし,憲法は,関連する規定の趣旨,目的,立法経過等からみて,投票価値の平等(人口比例主義)を,選挙制度の仕組みを決定する上で唯一,絶対の基準として要求しているわけではなく,累次の最高裁判決においても,原告が主張する見解を採る者はごく少数にとどまり,法廷意見を占めたことはない。憲法が国会議員の選挙に関して「1人1票のドグマ」を採用していない以上,原告の主張は,その前提を欠き失当である。 イ原告は,「一票の不平等」を定めた公職選挙法が有効であるか否かについて,当事者または利害関係者たる国会は,一票の平等,不平等という争点を判断する審判者たり得ないと主張する。 - 9 -しかし,憲法は「選挙区,投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は,法律でこれを定める」と規定し(47条),選挙区や選挙制度の決定を国会の裁量判断にゆだねているから,原告の主張は解釈論として成り立たない。 ウ原告は,参議院の独自性は投票価値の平等を減殺するための正当化事由たり得ないと主張するが,この主張も,憲法が「1人1票のドグマ」を認めているという前提に立つもので,失当である。 エ原告は,アメリカ合衆国連邦最高裁判決に依拠した主張をしているが, 正当化事由たり得ないと主張するが,この主張も,憲法が「1人1票のドグマ」を認めているという前提に立つもので,失当である。 エ原告は,アメリカ合衆国連邦最高裁判決に依拠した主張をしているが,代表民主制の下における選挙制度は,選挙された代表者を通じて国民の多様な利害や意見を公正かつ効果的に国政の運営に反映させることを究極の目的として,それぞれの国において,その国の事情に応じた政策的及び技術的考慮の下に具体的に決定されるもので,そこに論理的に要請される一定不変の形態が存在するわけではない。日本とアメリカ合衆国とでは,選挙制度の運用を支える基本となる国家構造(連邦制を採用しているか否かなど),政治的,歴史的及び社会的(人種,民族,宗教等を含む。)背景,憲法の規定の内容,司法の在り方,社会的な価値観や文化等を異にしている以上,アメリカ合衆国連邦最高裁判決が示した憲法解釈が,我が国の参議院議員選挙に係る憲法解釈に直ちに当てはまるものではない。 第3当裁判所の判断 前提事実に加え,証拠(甲1,乙1ないし3),公知の事実及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。 㨯参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)は,参議院議員250名を全国選出議員100人と地方選出議員150名とに区分し,全国選出議員については,全都道府県の区域を通じて選出されるものとする一方,地方選出議員については,その選挙区及び各選挙区における議員定- 10 -数を別表で定め,都道府県を単位とする選挙区において選出されるものとした。そして,各選挙区ごとの議員定数については,定数を偶数とし,その最小限を2人とする方針の下,昭和21年当時の人口に基づき,各選挙区の人口に比例する形で,2人ないし8人の偶数の議員数を配分した。 昭和25年に制 議員定数については,定数を偶数とし,その最小限を2人とする方針の下,昭和21年当時の人口に基づき,各選挙区の人口に比例する形で,2人ないし8人の偶数の議員数を配分した。 昭和25年に制定された公職選挙法の参議院議員定数配分規定は,上記の選挙制度の仕組みに基づく参議院議員選挙法の議員定数配分規定をそのまま引き継ぎ,その後,沖縄返還に伴って沖縄県選挙区の議員定数2人が付加された(昭和46年法律第130号)。昭和57年法律第81号により公職選挙法が改正されて,拘束名簿式比例代表制が導入され,これにより,参議院議員の定数は,比例代表選出議員100人と都道府県を単位とする選挙区ごとに選出される選挙区選出議員152人とに区分されることになった。比例代表選出議員は,全都道府県を通じて選出され,各選挙人の投票価値に差異がない点において,従来の全国区選出議員と同様であり,また,選挙区選出議員も従来の地方区選出議員の名称が変更されただけで,実質的な差異はなかった。 㨯参議院議員選挙法制定当時,選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は,1対2.62であったが,その後,次第に較差が拡大し,平成4年7月26日施行の参議院議員通常選挙当時には,1対6.59にまで拡大していたことから,平成6年法律第47号により公職選挙法の議員定数配分規定を改正した(以下「平成6年改正」という。)。この平成6年改正は,参議院議員の選挙制度の仕組みに変更を加えることなく,直近の平成2年10月に実施された国勢調査の結果に基づき,できる限り増減の対象となる選挙区を少なくし,かつ,いわゆる逆転現象を解消することにして,参議院議員の総定数(252人)及び選挙区選出議員の定数(152人)を増減しないまま,7選挙区で議員定数を8- 11 -増8減(ただし,改選は なくし,かつ,いわゆる逆転現象を解消することにして,参議院議員の総定数(252人)及び選挙区選出議員の定数(152人)を増減しないまま,7選挙区で議員定数を8- 11 -増8減(ただし,改選はその半数)するものであった。これにより,上記国勢調査の結果による人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は,1対6.48から1対4.81に縮小し,いわゆる逆転現象を解消することとなった。 平成7年7月23日,平成6年改正後の議員定数配分規定の下において参議院議員通常選挙が施行され,この当時の選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は,1対4.97であった。 㨯平成12年法律第118号により公職選挙法が改正され(以下「平成12年改正」という。),比例代表選出議員の選挙制度が,いわゆる非拘束名簿式比例代表制に改められるとともに,参議院議員の総定数が10人削減されて242人となった。定数削減に当たっては,改正前の選挙区選出議員の定数を6人削減して146人とし,比例代表選出議員の定数を4人削減して96人とした上,選挙区選出議員の定数削減については,直近の平成7年10月に実施された国勢調査の結果に基づき,平成6年改正後に生じたいわゆる逆転現象を解消するとともに,選挙期間における議員1人当たりの選挙人数又は人口の較差の拡大を防止するため,定数4人の選挙区の中で人口の少ない3選挙区の定数を2人ずつ削減した。この平成12年改正により,いわゆる逆転現象は消滅したが,上記国勢調査の結果による人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は1対4.79であった。 平成13年7月29日,平成12年改正後の参議院議員定数配分規定の下で参議院議員通常選挙が実施されたが(以下「平成13年選挙」という。) 人当たりの人口の最大較差は1対4.79であった。 平成13年7月29日,平成12年改正後の参議院議員定数配分規定の下で参議院議員通常選挙が実施されたが(以下「平成13年選挙」という。),当時,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は1対5.06であった。 平成13年選挙について,最高裁判所平成15年㨯第24号同16年1月14日大法廷判決(以下「平成16年大法廷判決」という。)は,- 12 -その結論において,平成13年選挙当時,上記定数配分規定は憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨を判示したが,平成16年大法廷判決には,裁判官6名の反対意見があり,また,漫然と現在の状況が維持されるならば違憲判断がされる余地がある旨を指摘する裁判官4名の補足意見が付されていた。 㨯平成16年2月6日,参議院議長が主宰する各会派代表者懇談会は,平成16年大法廷判決を受けて,「参議院議員選挙の定数較差問題に関する協議会」を設け,協議を行った。しかし,平成16年7月に施行される参議院議員通常選挙(以下「平成16年選挙」という。)までに定数較差を是正することは困難であったため,同年6月1日,平成16年選挙の後に協議を再開することにした。平成16年7月11日,平成16年選挙が施行されたが,当時,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は1対5.13であった。 平成16年選挙について,平成18年大法廷判決は,平成16年選挙当時,上記定数配分規定は憲法に違反するに至っていたということはできないと判示したが,投票価値の平等の重要性を考慮すると,今後も,国会においては,人口の偏在傾向が続く中で,これまでの制度の枠組みの見直しをも含め,選挙区間における選挙人の投票価値の較差をより縮小するため 判示したが,投票価値の平等の重要性を考慮すると,今後も,国会においては,人口の偏在傾向が続く中で,これまでの制度の枠組みの見直しをも含め,選挙区間における選挙人の投票価値の較差をより縮小するための検討を継続することが,憲法の趣旨にそうものというべきであると判示した。 㨯平成16年12月1日,参議院改革協議会の下に参議院改革協議会専門委員会(選挙制度)が設置され,平成17年2月から同年10月まで,各種の是正案(4増4減案,6増6減案ないし14増14減案,合区案)について具体的な検討がなされた。そして,平成19年7月の選挙に向けて当面の是正案として,最大較差5倍を超える又は近い将来に超えるおそれのある選挙区を含めて是正を図るため,有力意見であったいわゆ- 13 -る4増4減案に基づく公職選挙法の一部を改正する法律案が国会に提出され,平成18年6月1日,公職選挙法の一部を改正する法律(平成18年法律第52号)が成立した(平成18年改正)。これにより,参議院議員の総定数及び選挙区選出議員の定数を維持したまま,4選挙区でその定数を4増4減する議員定数配分規定の改正が行われ(本件定数配分規定),平成17年10月に実施された国勢調査の結果による人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は,1対4. 84となった。なお,上記専門委員会の報告書は,現行の選挙制度の仕組みを維持する限り,各選挙区の定数を振り替える措置により較差の是正を図ったとしても,較差を1対4以内に抑えることは困難であり,参議院の在り方にふさわしい選挙制度に関する議論を進めていく過程で,定数較差の継続的な検証等を行う場を設け,調査を進めていく必要がある旨を指摘している。 平成19年7月29日,平成18年改正後の本件定数配分規定の下で参議院議員通常選挙が実施 論を進めていく過程で,定数較差の継続的な検証等を行う場を設け,調査を進めていく必要がある旨を指摘している。 平成19年7月29日,平成18年改正後の本件定数配分規定の下で参議院議員通常選挙が実施されたが(平成19年選挙),当時,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は1対4.86であった。 平成19年選挙について,平成21年大法廷判決は,平成19年選挙までの間に本件定数配分規定を更に改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えたものということはできず,平成19年選挙当時,本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできないと判示したが(裁判官5名の反対意見がある。),投票価値の平等という観点からは,なお大きな不平等が存する状態であり,選挙区間における選挙人の投票価値の較差の縮小を図ることが求められる状況にあるといわざるを得ないと判示した。 㨯平成19年11月30日,新たに参議院議長の諮問機関として「参議- 14 -院改革協議会」が設置され,同年12月4日から平成20年12月19日までの間,4回にわたって協議が行われ,その間,参議院改革協議会専門委員会(選挙制度)の設置が協議決定され,同委員会は,平成22年5月21日,検討結果についての報告書(乙3)を提出した。 それによると,平成22年の通常選挙(本件選挙)への対応について,①現行の選挙制度を前提に選挙区の定数を増減する従来の改正方法では,定数較差是正の効果は限定的であり,定数較差是正の論議は,参議院の選挙制度の見直しと併せて行うべきで,それには時間がかかること,②平成18年に行った4増4減の公職選挙法改正は,平成19年及び平成22年の選挙で完了すること,③平成22年の選挙について,定数較差是正を行うこととすると,法改正から選挙実施までの 間がかかること,②平成18年に行った4増4減の公職選挙法改正は,平成19年及び平成22年の選挙で完了すること,③平成22年の選挙について,定数較差是正を行うこととすると,法改正から選挙実施までの周知期間が短いこと等から,定数較差是正を行うことは困難とする意見が出される一方,投票価値の平等を確保することの重要性,有権者の目線に立った議論を行うことの必要性等から,定数較差是正を行う努力を続けるべきとの意見も出され,協議の結果,平成22年の通常選挙に係る定数較差是正は見送り,平成25年の通常選挙に向け選挙制度の見直しを行うことになった。 また,選挙制度の見直しについては,平成22年の通常選挙後,専門委員会を立ち上げ,平成25年の通常選挙に向け,改正案の検討に入り,平成23年には改正案のとりまとめを行い,その後,参議院改革協議会の議を経て,平成23年中に公職選挙法改正案を提出するとしている。 㨯平成22年7月11日,平成18年改正による本件定数配分規定に従って本件選挙が実施されたが,平成21年12月25日付総務省報道資料8頁㨯「参議院(選挙区)1人当たり登録者数(在外選挙人名簿登録者含む)」(平成21年9月2日現在)によれば,議員1人当たり登録有権者(在外選挙人名簿登録者含む)の較差は,最少の鳥取県選挙区と- 15 -最多の神奈川県選挙区との間で1対4.99であり,有権者数最少の参議院・鳥取県選挙区と原告の属する参議院・愛知県選挙区との間の参議院議員1人当たり登録有権者(在外選挙人名簿登録者含む)の較差は,1対3.98であった。 また,本件選挙時点における選挙区間の有権者数(速報値)の最大較差は,1対5.00であった。 2㨯憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等,すなわち,投 件選挙時点における選挙区間の有権者数(速報値)の最大較差は,1対5.00であった。 2㨯憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等,すなわち,投票価値の平等を要求していると解される(14条,15条3項,44条ただし書き)。しかし,他方,憲法は,国会議員の選挙制度について,議員の定数,選挙区,投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は,法律で定めるとし(43条2項,47条),どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるかについての決定を国会の裁量にゆだねているから,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,参議院の独自性等,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。 したがって,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を是認し得るものである限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても,憲法に違反するとはいえない。 前記認定の参議院議員の選挙制度の仕組みは,憲法が二院制を採用し参議院の実質的内容ないし機能に独特の要素を持たせようとしたこと,都道府県が歴史的にも政治的,経済的,社会的にも独自の意義と実体を有し,一つの政治的まとまりを有する単位としてとらえ得ること,憲法46条が参議院議員については3年ごとにその半数を改選すべきものと- 16 -していることなどに照らし,相応の合理性を有するものであり,国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えているとはいえない。そして,社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口の変動につき,それをどのような形で選挙制度の仕組みに反映さ のであり,国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えているとはいえない。そして,社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口の変動につき,それをどのような形で選挙制度の仕組みに反映させるかなどの問題は,複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要するものであって,その決定は,基本的に国会の裁量にゆだねられているものである。しかしながら,人口の変動の結果,投票価値の著しい不平等状態が生じ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが,国会の裁量権の限界を超えると判断された場合には,当該議員定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である(平成21年大法廷判決)。 㨯これに対し,原告は,憲法の規定やアメリカ合衆国連邦最高裁判決等を根拠に,議員定数配分規定が憲法に違反するかどうかは,投票価値の平等のみを基準として判断すべきで,投票価値の不平等をもたらす本件定数配分規定は,憲法に違反すると主張する。また,原告は,二院制の中での参議院の独自性は,投票価値の平等を減殺するための正当化事由たり得ないし,「一票の不平等」を定めた公職選挙法が有効であるか否かについて,当事者あるいは利害関係者である国会議員は,この点を判断する審判者となり得ないと主張する。 しかし,憲法上,衆議院議員と参議院議員の任期が異なり(45条,46条),参議院議員については3年ごとの半数改選制が採用され(46条),しかも,衆議院と異なり参議院については解散が存在しない(45条,54条)ことからすると,参議院の独自性は憲法の要請するところであるし,国会議員が上記の点について当事者あるいは利害関係者であるとしても,憲法は,そのことを踏まえた上で,「選挙区,投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事- 17 - 憲法の要請するところであるし,国会議員が上記の点について当事者あるいは利害関係者であるとしても,憲法は,そのことを踏まえた上で,「選挙区,投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事- 17 -項は,法律でこれを定める」(47条)と規定していると考えられる。 また,日本とアメリカ合衆国とでは,国家構造や政治的,歴史的及び社会的背景等を異にしているから,アメリカ合衆国連邦最高裁判決が示した憲法解釈が我が国の憲法解釈に当てはまるものではない。 そして,上記のような憲法の規定に照らせば,前示のように,投票価値の平等も,参議院の独自性等,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきもので,選挙制度が憲法に違反するかどうかを判断するに当たり,投票価値の平等のみを唯一,絶対の基準とすることはできない。 したがって,上記原告の主張を採用することはできない。 3㨯前記認定事実にあるように,平成19年選挙は,本件選挙と同様,本件定数配分規定に従って実施された選挙であるが,選挙当時選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差が1対4.86であった平成19年選挙について,平成21年大法廷判決は,平成19年選挙までの間に本件定数配分規定を更に改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えたものということはできず,本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできないと判示している。そして,本件選挙当時,上記の最大較差は平成19年選挙に比べ1対5.00に拡大しているものの,平成21年大法廷判決の言渡しから本件選挙が実施されるまでの期間は,約10か月しかなく,この間に本件定数配分規定を見直し,結論を得て,実施することは事実上困難であったと解さざるを得ない。 また,前記認定 1年大法廷判決の言渡しから本件選挙が実施されるまでの期間は,約10か月しかなく,この間に本件定数配分規定を見直し,結論を得て,実施することは事実上困難であったと解さざるを得ない。 また,前記認定事実にあるように,平成18年改正により本件定数配分規定が設けられた後,平成19年11月30日に参議院議長の諮問機関として「参議院改革協議会」が設置され,さらに,参議院改革協議会専門委員会(選挙制度)が設置されて,較差是正に向けて協議がなされ- 18 -ているから,国会が,本件定数配分規定の投票価値の不平等状態を放置していたとはいえない。加えて,同専門委員会の報告書では「現行の選挙制度を前提に選挙区の定数を増減する従来の改正方法では,定数較差是正の効果は限定的であり,定数較差是正の論議は,参議院の選挙制度の見直しと併せて行うべき」とされているところ,参議院の選挙制度そのものの見直しには相応の時間を要するのもやむを得ないことと解される。さらに,同専門委員会の報告書では「平成25年の通常選挙に向け,改正案の検討に入り,平成23年には改正案のとりまとめを行い,その後,参議院改革協議会の議を経て,平成23年中に公職選挙法改正案を提出する」とされていて,本件定数配分規定の投票価値の不平等状態を是正するため,具体的な計画が示されている。 以上によれば,本件選挙までに本件定数配分規定を更に改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えているとはまではいえず,本件選挙当時本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない。 㨯もっとも,平成21年大法廷判決が判示したように,本件定数配分規定は,投票価値の平等という観点からは,なお大きな不平等が存在し,このような状態は,少なくとも憲法が想定していた事態とは言い難い。 しかも,前記認定事実にあ 大法廷判決が判示したように,本件定数配分規定は,投票価値の平等という観点からは,なお大きな不平等が存在し,このような状態は,少なくとも憲法が想定していた事態とは言い難い。 しかも,前記認定事実にあるように,平成6年改正以降,最大較差を是正するための公職選挙法の改正はなされているものの,結果として最大較差がほぼ1対5の割合で推移していることに照らすと,投票価値の不平等状態を是正するため,早急な立法措置が必要とされているというべきである。 よって,原告の請求は理由がないので,これを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 - 19 -名古屋高等裁判所民事第4部裁判長裁判官渡辺修明裁判官嶋末和秀裁判官末吉幹和

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