主文 1 本件控訴に基づき,原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。 2 被控訴人の請求を棄却する。 3 本件附帯控訴を棄却する。 4 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人主文同旨 2 被控訴人(一) 本件控訴を棄却する。 (二) 原判決を次のとおり変更する。 (三) 控訴人は,被控訴人に対し,2500万円及びこれに対する平成9年1月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。(遅延損害金につき当審での請求減縮)(四) 訴訟費用は,第1,2審とも控訴人の負担とする。 (五) 仮執行宣言第2 事案の概要 1 本件事案の概要は,次のとおり付加,訂正し,後記2のとおり当審における当事者の主張を付加するほか,原判決「事実及び理由」中の「第二事案の概要」のとおりであるから,これを引用する。 (一) 原判決5頁末行から同6頁1行目にかけての「損害合計一億〇一三八万五〇〇〇円」を「火災共済金2000万円を控除した残損害額8138万5000円」と,同2行目の「日である平成八年四月二〇日から」を「日の後である平成9年1月31日から」と,それぞれ改める。 (二) 同11頁末行の「ガス漏れなどの」から同12頁2行目の「場合は」までを「E県農業協同組合連合会のガスセンターは,供給するガスの状況について集中管理システムを採用しており,ガス漏れ等の事故が発生した場合には」と,同6行目の「保安点検を」から同7行目の「確認したし」までを「保安点検を実施して異常がないことを確認し」と,それぞれ改める。 (三) 同12頁末行の「右事故の信号」を「ガスセンターには前記事故の信号」と,同13頁1行目から2行目にかけての「正 し」までを「保安点検を実施して異常がないことを確認し」と,それぞれ改める。 (三) 同12頁末行の「右事故の信号」を「ガスセンターには前記事故の信号」と,同13頁1行目から2行目にかけての「正常を確認したし」を「正常が確認され」と,それぞれ改め,同行目の「〇・八五一であり,」の次に「同月15日のガスメーター取換え時の指針が0.1であったから,」を加える。 (四) 同21頁1行目の「集中監視」を「集中管理」と改める。 (五) 同23頁6行目から7行目にかけての「OEMと認められるのである」を「OEM商品というべきである」と改める。 2 当審における当事者の主張(一) 控訴人(1) 争点1(本件火災の原因)についてア被控訴人は,本件火災がガス漏れによるものであることについて,①火災の数日前からガス漏れがあり,コンロの火が引火したことにより発生した,あるいは②ガス漏れにコンロの火が引火して,次々と漏れたガスが送り込まれることによって燃焼し続けて本件火災に至ったと主張しているが,ガス漏れによって火災が発生していたとすれば,Hが供述するように,「炎が床面を這うように広がる」ことは絶対にあり得ないのであるから,このような「広がり状況」を認める限り,本件火災がガス漏れによるものであるとは認められないというべきである。 イ本件本宅の本件火災後の状況をみれば,台所東側にあった物置は完全に焼失し,残った柱についても,ガスボンベの間近にあった台所南東角の柱よりも,同物置に接した台所東側の柱数本の焼きが強くなっており,被控訴人がガス漏れがあったと主張するガス元栓は,台所南東側ではなく,むしろ台所南側の中央部付近にあったことからすれば,本件の発火場所がガスコンロないしガス元栓付近であったとは考え難いというべきであり,消 がガス漏れがあったと主張するガス元栓は,台所南東側ではなく,むしろ台所南側の中央部付近にあったことからすれば,本件の発火場所がガスコンロないしガス元栓付近であったとは考え難いというべきであり,消防組合の調査結果も「出火箇所の特定には至らなかった。」としているところである。 ウ本件火災においては,台所南東部の屋外に据え付けられていた2本のガスボンベが破裂し,被控訴人は「出火後5,6分」で破裂したと主張している。 ガスボンベは,ボンベ周辺の何らかの熱源により急激に加熱されれば破裂すると考えられるが,本件建物の室内あるいは室外のガス漏れによっては,このような破裂に至るような燃焼が生じることはなく,むしろ他の可燃物(ガソリンや灯油等の揮発性の可燃性液体)が原因と考えるのが合理的である。 (2) 争点2(控訴人の責任原因)について本件工事を担当したE,Fの両名は,いずれもガス設備工事を専門とする職員であり,EについてはLPガス設備士,ガス製造保安主任の資格を持つベテラン技師であったから,原判決が推認するようなゴムホースの元栓への接続不良といった単純なミスを犯すとは考え難いのであって,本件工事後,本件火災に至るまでガスの使用状況は正常であったことからすれば,本件工事には何らの過失もなかったと認められるべきである。 本件工事についてのE,Fの証言に曖昧な点があったとしても,当時,両名は一日数軒ずつのガスメーター取替え等の工事を行っていたのであり,本件工事から証言のときまで約4年が経過していたのであるから,工事の詳しい状況について記憶が曖昧になるのは当然というべきであるから,それをもって工事における過失があったと推認するのは不当である。 (二) 被控訴人(1) 争点1(本件火災の原因) の詳しい状況について記憶が曖昧になるのは当然というべきであるから,それをもって工事における過失があったと推認するのは不当である。 (二) 被控訴人(1) 争点1(本件火災の原因)ア本件火災がガス漏れによるものであることについては,①台所内の火災の発生について,ガス漏れ以外に火源となるものがないこと,②ガスボンベが破裂した原因は,ガス漏れ引火により急激に熱せられたためであること,③プロパンガスが勢いよく供給されるならば,被控訴人が主張するような火災の状況は十分考えられること,④被控訴人やHその他の関係者の供述は一貫していること,⑤本件工事の際には不手際があったことから,同工事の不良によってガス漏れが生じたと考えられること,⑥セキュリティシステムが正常に作動しているとの確認はなされていないから,控訴人の主張は前提を欠くものであること,以上の事実から十分に認められるものである。 イ控訴人は本件火災の原因をガソリンや灯油と推測しているが,全く何の根拠もない主張である。 被控訴人は,ガソリンを本件本宅から200メートル離れたミカン倉庫に,灯油は家の車庫に置いていたのであり,本件火災の調査を行ったI警察署が「台所南東部付近の焼燬が激しい」としていることからも,ガスの元栓があった台所南東部が出火場所であるというべきである。 (2) 争点2(控訴人の責任原因)についてE及びFは,本件工事の検査時に不用意に2回出火させているのであり,しかも警報器の作動確認等工事のマニュアルを遵守していなかったのであるから,ガスメーターとガス配管との連結部分を十分に閉めたか,元栓へのゴムホースの接続が適切になされたかに疑問があり,本件工事によるガス漏れを否定できないというべきである。 ( なかったのであるから,ガスメーターとガス配管との連結部分を十分に閉めたか,元栓へのゴムホースの接続が適切になされたかに疑問があり,本件工事によるガス漏れを否定できないというべきである。 (3) 争点3(被控訴人の損害額)についてア本件本宅及び本件風呂便所については,その合計額が本件本宅の焼失に伴って支払われた更生共済金2000万円を下回るとすることは不当である。 イ庭木については,被控訴人が請求する320万円の60パーセント相当である200万円以下ではあり得ない。 ウ家財道具等の動産類にかかる損害額は,被控訴人の請求する6238万5000円の60パーセント相当である3500万円を下るものではない。 エ被控訴人の本件請求は,債務不履行等を理由とする損害賠償請求であるが,欠陥住宅等に関する場合と同様,弁護士費用についても相当因果関係のある損害として認められるべきである。 第3 争点に対する判断 1 争点1(火災の原因)について(一) 引用にかかる原判決認定の前提事実,証拠(甲8の1,2,甲9の1,2,甲11,26,乙1,乙2の1,乙3の1,2,乙4の1,2,乙5,8,証人H,E,F,被控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (1) 本件本宅の間取りは別紙「出火建物平面図」のとおりであり,1階南東に台所があり,その床はタイル張りにしていた。台所の東側には被控訴人が建てたトタン葺きの物置があって,台所東側の引き戸を通って出入りできるようになっており,洗濯機を置いていたほか,味噌や漬け物の保管等に使用していた。 台所南側に設置された調理器具,炊事器具等は概ね別紙「出火場所復元図」のとおりであり,東側から冷蔵庫,炊飯器を置いた台とコンロ,流し台が並ん ,味噌や漬け物の保管等に使用していた。 台所南側に設置された調理器具,炊事器具等は概ね別紙「出火場所復元図」のとおりであり,東側から冷蔵庫,炊飯器を置いた台とコンロ,流し台が並んで設置され,コンロに向かって右端のやや上方からガスの配管が突き出ており,2股に分かれてそれぞれに元栓が付いており,その一方が湯沸かし器にゴムホースでつながれ,他方はさらに二つに分かれてガスコンロと炊飯器にゴムホースでつながれており,それぞれガスコックが付いていた。 (2) EとFが行った本件工事は,ガス漏れ警報器の取付け,ガスメーターの交換及びこれらの結線工事であったが,Eがガスメーターの交換を行い,その他の警報器の取付けと結線工事はFが担当した。Eは,以前から取り付けられていたガスメーターを配管からはずして,新しいガスメーターを取り付ける作業をしたが,その際,従前のガスの配管とガスメーターの取付部分のサイズが異なっていたために,異径エルボを使い,取付後は取付部に検査液を塗って,ガスが漏れていないか否かを検査した。 本件工事終了後,Fは,ガスの供給が正常に行われているかを確かめるために,気密検査及び燃焼と閉塞テストを自記圧計を使って行い,異常は認められなかったが,念のために簡易テスターを使って閉塞圧力及び燃焼器入口圧力を測定し,正常であることを確認した。これらの検査の途中で,燃焼と閉塞テストを行うために,コンロを着火しようとした際に,コンロから大きく火が上がり,また,簡易テスターによる検査のときには,簡易テスターのバルブを十分に閉めていなかったために,バルブから漏れたガスにコンロの火が引火して炎が大きく上がったが,元栓を閉めて直ちに消火した。 これらの検査の結果等は,保安調査報告書類(乙3の1)にまとめて めていなかったために,バルブから漏れたガスにコンロの火が引火して炎が大きく上がったが,元栓を閉めて直ちに消火した。 これらの検査の結果等は,保安調査報告書類(乙3の1)にまとめて,本件工事に立ち会っていたHから確認の印をもらった。 (3) 本件火災後,J消防組合による調査によれば,建物の柱,梁等の骨組みの焼き状況は,全体に炭化が激しいものであったために,目視による焼きの方向を確認することはできなかったが,台所付近の柱の炭化深度を測定した結果は,別紙「主な柱の炭化深度測定値」のとおりであった。 (4) 本件建物の近隣に居住し,本件火災を通報したKは,J消防組合からの聞き取りに対し,「『ボーン』と言う音と共に,ガラス戸がビリビリ揺れるので,地震かと思い外に出て見ると,被控訴人宅の台所のかけだした所から黒い煙が上がっていたのでね,火事かもしれないと思い,……通報をしました。電話をかけ終わり外に出て,Dさん宅を見るとすでに炎が出ていました。」との供述をした(乙5)。 (5) J消防組合は,関係者からの聞き取り結果や炭化深度の測定結果から,出火場所を台所南東部付近と判断し,台所周辺の発掘調査を行った結果,台所南東側に設置してあったガスボンベ2本について,1本がボンベ上部の溶接箇所で破裂した状態で,もう1本は溶けた状態で発見され,破裂したボンベの安全弁は作動していなかった。 (6) J消防組合は,火災現場の調査のほか,関係者(被控訴人,H,K,ガスセンター職員)からの聞き取りや,E及びFに対するI警察署による取調結果を踏まえて,平成8年5月21日付「火災原因認定書2」を作成し,①台所の南東部分に火源となり得るような電気器具は見当たらず,発火原因が電気的なものによる可能性が薄い,②台所中央部 察署による取調結果を踏まえて,平成8年5月21日付「火災原因認定書2」を作成し,①台所の南東部分に火源となり得るような電気器具は見当たらず,発火原因が電気的なものによる可能性が薄い,②台所中央部に置かれていた丸形の石油ストーブについては,見分によってもストーブ自体からの発火は認められず,建物の焼き状況や焼きの方向からみて,右ストーブが出火原因とは考えにくい,③放火の可能性も薄い④Hの供述によれば,ガス漏れにより,コンロの火が引火し,火災になったと考察できるが,ガス漏れが原因であるとの物的証拠は得られなかったとして,「本火災の出火原因は不明とする。」との判断を示した。 (7) E県農業協同組合連合会のガスセンターは,戸別に供給するガスの集中管理システムを取っており,同システムによって,被控訴人宅については,平成8年4月19日の検針と同時にセキュリティシステムが正常であるとの信号が送られていた。また,被控訴人宅における同年3月19日(午前0時56分)から同年4月19日(午前0時56分)までのガス使用量は,本件工事によるガスメーター取替前6.523立方メートル(=163.9-157.377)と,取替後0.618立方メートル(=0.718-0.1)との合計7.141立方メートルとなる。 (二) プロパンガスの性質とその燃焼について証拠(甲24,乙7)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 プロパンガスは,都市ガス等と同様,可燃性ガスの一つであり,本来はわずかに灯油の臭いがする程度の無色の気体であるが,ごくわずかのガス漏れでも(空気中の濃度が0.1パーセント以下)分かるように,着臭剤(メルカブタン)で臭いがつけられている。 プロパンガスは,空気中の濃度が9.5パーセントから2.2パー くわずかのガス漏れでも(空気中の濃度が0.1パーセント以下)分かるように,着臭剤(メルカブタン)で臭いがつけられている。 プロパンガスは,空気中の濃度が9.5パーセントから2.2パーセントの範囲(燃焼範囲又は爆発範囲という。)になった場合にのみ燃焼ないし爆発し,濃度がこの上限より濃くても,または薄くてもプロパンガスは燃えたり爆発することはない。したがって,ガスボンベに充てんされている液化プロパンがボンベ内で蒸発し,吹き出し口(充てん孔)から空気中に噴出させた場合には,充てん孔のすぐ近くではガスの濃度が100パーセントに近い状態であるから,この付近で着火することはなく,充てん孔から離れた場所で空気とまじり合うことによって,プロパンガスの濃度が燃焼範囲になったところで着火する。 燃焼範囲のプロパンガスが燃え移る速さは,毎秒1000メートルないし3000メートルであるから,大量のガスも一瞬の間に燃え尽きてしまい,いわゆるガス爆発を起こすことになる。 液化プロパンガスの重さは水の約2分の1であるが,気体のプロパンガスは空気の約1.5倍であるから,ガス漏れが起こるとプロパンガスは下へ下へと沈んでいくこととなる。 (三) 本件火災の状況に関する被控訴人及びHの供述について(1) Hの供述ア Hは,本件火災が発生した日の翌日の平成8年4月21日の午前中に,J消防組合担当者に対して供述し,その内容は次のとおりであった(乙1)。 「夕食の支度をしようと台所のガスの元栓をあけ,瞬間湯沸器に火をつけ,鍋に湯をくみ,ガステーブルの右側のコンロに置き,つまみを回して,火をつけました。3分程たってから元栓の口付近の右側から火がつき,あっという間,床面に広がりました。びっく け,瞬間湯沸器に火をつけ,鍋に湯をくみ,ガステーブルの右側のコンロに置き,つまみを回して,火をつけました。3分程たってから元栓の口付近の右側から火がつき,あっという間,床面に広がりました。びっくりして大声で着替えをしていた主人を呼びました。主人は消火器で消火をしましたので,火の勢いは衰えて,消えたと思いましたが,台所の外のプロパンガスをおいて有る部分から大きな爆発する音がしました。爆発したと同時に一気に火が台所に入ってきて手がつけられなくなり,主人と一緒に避難しました。」。 イ Hは,I警察署における事情聴取では「台所で鍋に湯を入れ,ガスコンロで沸かしていたところ,コンロ側の栓部品から炎が吹き出してきたので,直ぐに主人を呼びガスの元栓とコンロのスイッチを切ったが,既に床辺りに炎が舞っていた。主人が消火器で火を消したので,台所内の火は消えたが,その後,台所東側外の下屋付近から火が上がり,家の外に出ようとしている時に,『ドカーン』という音が2回し,建物が燃え出して,手がつけられない状態になった。」と供述した(甲8の1,2)。 ウ Hは,証人尋問において,本件火災の状況について,大要次のように証言する。 (ア) 平成8年4月20日,まず湯沸かし器を使って湯を出し,コンロに鍋をかけてさらに湯をわかし,Hは流し台の向かって左端(コンロ側)にまな板を置いて,ゴンパチをゆでる準備をしていたところ,3分位してから火が出た。 (イ) 火が出たときには,前のコックの辺りからシューと噴き出してきたのですぐに元栓を止めたけれども,火は噴き出し続けて,コックの辺りから下へ流れるように落ちて床面のコンロの前辺りに広がった。 (ウ) そこで,Hは被控訴人を呼び,被控訴人が消火器で消火したところ,燃え広がる範囲は小 ども,火は噴き出し続けて,コックの辺りから下へ流れるように落ちて床面のコンロの前辺りに広がった。 (ウ) そこで,Hは被控訴人を呼び,被控訴人が消火器で消火したところ,燃え広がる範囲は小さくなったものの,消化液がなくなると再び広がってきて,火が出たときから4,5分ほど経ったときに,ボンベを置いた辺りから爆発音が2回して,台所の東側の出入り口の方から火が一気に吹き込んできた。 (2) 被控訴人の供述ア被控訴人の平成8年4月21日のJ消防組合担当者に対する供述内容は次のとおりであった(乙1)。 「着替えをしていると,台所から妻の声が聞こえたので,すぐに台所に行きました。コンロの下の方が燃えていたので,消火器で消そうとしましたが,一度は勢いが衰えましたが,外で爆発する音がして一気に中に火が入ってきて手がつけられなくなり,妻と避難しました。」イ被控訴人は,本人尋問において,大要次のとおり供述した。 (ア) 被控訴人が台所に入ったときには,火が部屋の6割位に回っており,コンロも見えない位,火が噴き出ていた。 (イ) 被控訴人は,消火器で消そうとしたが,消火器をかけた方は一旦火勢が衰えても,他の部分の消火を始めると元に戻るという状況だった。 (ウ) 3分か4分ほどして,大きな音がして,爆発で東側の冷蔵庫が置いてあるところの壁が破られて,火が一気に入ってきたと思う。 (3) Hは,前記(1)アのとおり,J消防組合担当者に対して,元栓の右側から火が出火したと述べていたものの,その後の火の広がった状況については,床面に広がり,被控訴人の消火活動によって鎮まりかけたが,外からの爆発によって一気に火が広がったと述べていた。これに対し,I警察署における供述や本件 ていたものの,その後の火の広がった状況については,床面に広がり,被控訴人の消火活動によって鎮まりかけたが,外からの爆発によって一気に火が広がったと述べていた。これに対し,I警察署における供述や本件訴訟における証人尋問では,出火が台所の元栓付近であったとの点は同一であるものの,出火の状況が「コンロ側の栓部品から炎が吹き出してきた」あるいは「シューと火が噴き出てきた」と供述しているところ,このような状況は非常に特徴的なものであり,しかも,その後もこのように火が噴き出るという状態はHが元栓を閉めてからも続いていたというのであるから,本件火災の原因を調べる上で重要な事実であるにもかかわらず,同消防組合担当者の作成した質問調書(乙1,22頁)にはこのような状況についてHが供述した旨の記載はない。 また,同担当者やI警察署に対するHの供述では,被控訴人の消火活動によって火は消えかけたと述べていたのに対し,本件訴訟における証人尋問では,燃える範囲は小さくなったものの,消化液がなくなって再び広がったと証言しているのであるから,Hの火災発生時以後の状況についての供述内容は必ずしも一貫しておらず,変遷がみられる。 同様に,被控訴人の供述内容についても,J消防組合担当者に対しては,本件火災を最初に見たときの状況については,「コンロの下の方が燃えていた」と比較的狭い範囲での出火状況である旨述べていたにもかかわらず,本件訴訟では,台所の6割位に火が回っており,コンロの辺りは見えない位に火が噴き出ていたと供述しているのであって,供述内容が大きく変わっているといえる。 H及び被控訴人の供述は,自宅の火災という突発的に生じた異常な出来事についての供述であるから,このような緊急時の状況については必ずしも詳細な記憶がな が大きく変わっているといえる。 H及び被控訴人の供述は,自宅の火災という突発的に生じた異常な出来事についての供述であるから,このような緊急時の状況については必ずしも詳細な記憶がないことも考えられるが,出火直後の状況や,あるいは最初に火災を目撃したときの状況については,その後の周囲の状況の変化に関する供述が求められる場合に比べて,鮮明な記憶が残っているものと考えられるのであって,前記のとおり,両名の供述内容が変化していることは,その信用性に疑問を抱かせるものである。 (四) 本件火災の原因について(1) 前記(二)認定のとおり,プロパンガスは,その性質上,空気中の濃度が一定割合でなければ燃焼せず,また,滞留しているガスが発火した場合には瞬間的に燃焼が広がるのであるから,燃焼するためのガスが供給され続けない限り,プロパンガスが燃え続けることはないという特性がある。 前記認定のとおり,Hや被控訴人は,本件火災の翌日から出火時の状況として,コンロの下付近で火が燃え続けていたと述べており,さらにHはその燃えている状況について,床やそこに置かれた物が燃えているということではなく,単に火があっただけであるとの証言をしている(第3回弁論)のであるが,前記のようなプロパンガスの特性に鑑みれば,ガス漏れによって台所内に滞留していたガスが燃え続けていたとは考え難い。そして,Hが本件訴訟において証言するように,元栓付近から火が噴き出る状況が続いていたとしても(このように証言内容が変わったことから信用性に疑問があることは前記のとおりであるが,その点はしばらく措くとして),プロパンガスの特性として床から30から40センチメートル位の高さで炎が広がることはないのであるから(乙13の1,2,証人L),Hや被控訴人が供述す のとおりであるが,その点はしばらく措くとして),プロパンガスの特性として床から30から40センチメートル位の高さで炎が広がることはないのであるから(乙13の1,2,証人L),Hや被控訴人が供述する本件火災の状況を前提としても,その原因がガス漏れによるものであるとは直ちに認め難いというべきである。 (2) そして,前記認定のとおり,E県農業協同組合連合会のガスセンターでは,ガスの供給状況について集中管理システムを採用しているところ,被控訴人宅からのガス漏れを示す信号は送られておらず,また,ガスの使用状況から検討しても,平成8年3月19日(午前0時56分)から本件工事前までのガス使用量は6.523立方メートル(1日当たり平均0.241立方メートル)であったところ,本件工事後から同年4月19日(午前0時56分)までは0.618立方メートル(1日当たり平均0.206立方メートル)であって,本件工事後もガスの供給量にはほとんど変化はなかったのであるから,本件工事後,被控訴人宅においてガス漏れが生じていたとは認められない。なお,乙2の1,乙8によれば,同年4月19日午前0時56分から同日午前10時01分までの約9時間の被控訴人宅におけるガス使用量は,0.133立方メートルであり,上記認定の1日当たりの平均使用量の半分以上となってはいるが,その使用量が異常に多いとはいえず,当時のガスの利用状況も証拠上明らかとはいえないから,これをもってガス漏れの事実を認めることはできないというべきである。 (3) これに対し,被控訴人は,①台所内の火災の発生について,ガス漏れ以外に火源となるものがないこと,②ガスボンベが破裂した原因は,ガス漏れ引火により急激に熱せられたためであること,③プロパンガスが勢いよく供給されるならば,被控訴人が主張するような火 いて,ガス漏れ以外に火源となるものがないこと,②ガスボンベが破裂した原因は,ガス漏れ引火により急激に熱せられたためであること,③プロパンガスが勢いよく供給されるならば,被控訴人が主張するような火災の状況は十分考えられること,④被控訴人やHその他の関係者の供述は一貫していること,⑤本件工事の際には不手際があったことから,同工事の不良によってガス漏れが生じたと考えられること,⑥セキュリティシステムが正常に作動しているとの確認はなされていないこと等からすれば,ガス漏れが原因であることは明らかであると主張するので,以下検討する。 アガス漏れ以外の原因がないこと前記認定の事実によれば,本件火災の出火場所とされる本件本宅の台所では,Hが調理の準備をするためにコンロを使っており,また,台所中央部に石油ストーブを置いていたのであるから,ガス漏れ以外に出火の原因となるものがないとはいえない。 Hは,証人尋問において,本件火災当時,コンロでいつもどおりお湯を沸かしていただけであり,台所に置いていたストーブは使っていなかったと証言し,被控訴人も同旨の供述をして,これらが火災の原因であることを否定しているが,前記のとおり出火の状況についてのHの証言及び被控訴人の供述の信用性に疑問があることに照らし,同両名の上記供述はすぐには採用し難い。 証拠(甲10)によれば,被控訴人は本件火災によって両下腿部火傷(2度)のほか,両手にも火傷があることが認められるところ,その原因について,被控訴人は「手はどうもなかったです。」「消火のとき,ちょっとびりびりするほどやったけど,跡形つくようなけがやなかったです。」と供述するのみであり,他方,被控訴人やHは消火器による消火活動自体は一応の効果があったとも供 もなかったです。」「消火のとき,ちょっとびりびりするほどやったけど,跡形つくようなけがやなかったです。」と供述するのみであり,他方,被控訴人やHは消火器による消火活動自体は一応の効果があったとも供述しているのであるから,消火活動中に予想外に火の手が上がってきたというような状況が生じたとは認め難いのであって,このように被控訴人の両手に火傷が生じた原因は必ずしも明らかではないことからすれば,被控訴人やHの人為的ミス等によって本件火災が発生したとの疑いは払拭できない。 なお,J消防組合が作成した火災原因認定書2(甲11,乙1)によれば,台所中央部に開放型(丸形)ストーブがあったことを認めた上で,「見分によりストーブ自体からの発火は立証できず,建物の焼き状況や焼きの方向から考察すると,出火原因とは考えにくく,又,付近に可燃物はなかった。」との認定を行っていることが認められるが,前記認定のとおり,焼きの状況は,別紙「主な柱の炭化深度測定値」のとおり,台所東側の柱が強く焼きされていることが認められるものの,本件火災によって台所南東部外側に置かれていたガスボンベが破裂していることからすれば,これによって火災の状況が変化した可能性もあり,前記消防組合の認定をもって,ガス漏れ以外の原因の可能性は否定できないというべきである。 イガスボンベの破裂について被控訴人は,ガスボンベが破裂した原因について,火災が広がる前に破裂したのは,ボンベ付近にガス漏れが発生しており,これに引火したことによるものであると主張する。 しかし,火災が広がる前にガスボンベが破裂したことは,被控訴人やHが供述するのみであるところ,これらの供述が信用し難いことは前記のとおりであり,他にこれを証明する客観 張する。 しかし,火災が広がる前にガスボンベが破裂したことは,被控訴人やHが供述するのみであるところ,これらの供述が信用し難いことは前記のとおりであり,他にこれを証明する客観的な証拠はないから,被控訴人の前記主張はその前提を欠くものというべきである。 かえって,前記認定の事実及び証拠(甲24,乙1,9,10,乙13の1,2,検甲6,証人H,L)によれば,プロパンガスのボンベには安全弁が取り付けられており,ボンベ内の蒸気圧が異常に高くなったり,液化ガスが異常に膨張した場合には,ガスを吹き出してボンベの破裂を防ぐ仕組になっているが,ボンベが急激に熱せられた場合には,ボンベ自体の強度が高熱によって低下するために破裂する場合があること,控訴人からの委託に基づいて,M株式会社が行った実験では,ガスボンベにプロパンガスを噴出させることによる炎を約3分間吹き付けたところ,ボンベ容器壁の温度が500度を超えたこと,被控訴人宅では,ガスボンベを屋外に設置していたところ,鎖によって固定していたにすぎず,これを覆うような設備を設けていなかったこと,以上の事実が認められるほか,前記のとおりプロパンガスの燃焼速度が極めて速いことを考え併せると,屋外に何の覆いもなく設置されていたプロパスガスのボンベが,ガス漏れによって滞留するガスに引火して数分間熱せられ続けることは考え難く,この点からも被控訴人が主張するように,ガス漏れによってガスボンベが破裂したとは認められないというべきである。 なお,Hは,証人尋問(第3回弁論)において,本件火災の2,3日前に,ガスボンベを置いた辺りから,ガス漏れの臭いがしたことがあったと証言するが,証言自体,継続的にガス漏れがあったというものでなく,曖昧なものにとどまり,前 3回弁論)において,本件火災の2,3日前に,ガスボンベを置いた辺りから,ガス漏れの臭いがしたことがあったと証言するが,証言自体,継続的にガス漏れがあったというものでなく,曖昧なものにとどまり,前記のとおり,被控訴人宅のガス使用量からガス漏れがあったとはいい難いことからすれば,同証言をもって,ガスボンベ付近でガス漏れが生じていたとは認められない。 ウプロパンガスの燃焼状況との整合性について被控訴人は,ガス火災は千差万別の形で発生しているが,ガスの噴出が強く,広範囲であれば,被控訴人やHが供述するようなガス引火による火の広がりが生じ,燃焼範囲でしか着火しないというプロパンガスの性質からすれば,元栓の吹き出し口からかなり離れた場所で火がつき,床面付近で燃えていたとしても不思議ではないと主張する。 しかし,被控訴人及びHの本件火災の発生当時の状況についての供述内容が必ずしも一貫したものではないことは前記のとおりであり,被控訴人が主張するように,「ガスの噴出が強い」という状況がどのように発生したかについては,本件証拠からは全く明らかではない。想定される状況としては,ガスの元栓からホースがはずれる場合や,ホースの一部に切れ目等が生じて,当該箇所からガスが噴出する場合が考えられるが,Hは,元栓付近から火が噴き出したので,元栓を閉めたと証言しているものの,その際にホースがはずれていたとはこれまでまったく述べていないのであり,ホースが破損した可能性についても,本件火災の約1年前にゴムホースを取り替えたというのであるから(証人H,N),考え難いというべきであって,そもそもこれらの理由によるガスの噴出があったとしても,Hの証言にあるように元栓を閉めたとすれば,ガスの噴出が止まると同時に燃焼も止まるので のであるから(証人H,N),考え難いというべきであって,そもそもこれらの理由によるガスの噴出があったとしても,Hの証言にあるように元栓を閉めたとすれば,ガスの噴出が止まると同時に燃焼も止まるのであるから,その後も炎の噴出やコンロの下付近での燃焼が続いていたとの証言と矛盾するものである。 また,被控訴人は,本人尋問において,屋外に設置されたボンベ付近で漏れたガスが台所内に入ってきた可能性を述べているが,燃焼範囲の濃度のプロパスガスが,屋外から屋内に侵入すること自体極めて想定し難いというべきであり(乙13の1,2),したがって,また被控訴人の主張するように強く室内に噴出してくるという事態は到底認められないのであって,被控訴人の主張は採用できないものである。 エ本件工事における不手際について被控訴人は,本件工事まではガスの使用は何ら支障なく行われており,本件工事が,ガスメーターを取り替えるに当たってガス管との接続部分を取りはずし,また,台所内でも元栓からゴムホースを検査のために取りはずし,その5日後に本件火災が発生したこと及び本件工事後のテストに当たって,これが定められた作業手順どおりに行われていないことや2度にわたる出火があったことから,本件工事においてガス漏れを発生させる不手際があったと主張する。 しかし,前記認定の事実及び証拠(乙2の1ないし3,乙7)によれば,本件工事後も本件火災発生前まで,被控訴人宅においてプロパンガスを使用するについて何らの支障もなかったのであって,本件火災が本件工事の5日後に発生したことから,直ちに本件工事に何らかの過失があったと認めることはできない。 また,被控訴人らが指摘する本件工事後のテスト時の出火については, ,本件火災が本件工事の5日後に発生したことから,直ちに本件工事に何らかの過失があったと認めることはできない。 また,被控訴人らが指摘する本件工事後のテスト時の出火については,前記認定のとおり,1回目は気密テストを行う際に,空気をガス管内に送っていることから,コンロが着火しにくい状態になっていたために,コンロから大きく火が上がるような着火の仕方をしたというものであり,2回目は簡易テスターを用いた検査の際に,テスターのバルブを十分に閉めていなかったため,そこから漏れていたガスに引火したことによるものであるから,いずれも本件工事における器具やホースの取付に伴うものではなく,これらの出火の事実や作業手順どおりに本件工事後のテストが行われなかったこと(丙1,証人F)をもって,本件工事自体に過失があったとは認められない。 オセキュリティシステムの作動について被控訴人は,控訴人が主張するセキュリティシステムが正常に作動していたことの立証がなされていないことを主張するが,前記認定判示したところは,本件火災の状況からすれば,本件火災がガス漏れによるものであるとは認め難いというべきものであるから,システムの作動が正常であったことが立証されていないからといって,これをもって,ガス漏れの事実を認めることはできないし,前記認定判断を妨げるものとはいえない。なお,本件工事に過失があったと認め難いことは前記のとおりであり,証拠(乙2の1ないし3,乙8)によれば,本件工事後も被控訴人宅のプロパンガスの使用状況についての情報はガスセンターに届いていたことからすれば,上記システムに異常があったとは認められないというべきである。 (五) 以上のとおり,本件火災がガス漏れによって発生したことの根拠として被控訴人が主張 はガスセンターに届いていたことからすれば,上記システムに異常があったとは認められないというべきである。 (五) 以上のとおり,本件火災がガス漏れによって発生したことの根拠として被控訴人が主張する事由はいずれも理由がなく,被控訴人の主張する各事由を総合考慮しても,ガス漏れの事実は認められないというべきである。 2 争点2(一)ないし(四)について被控訴人は,控訴人の責任原因として,債務不履行責任(争点2(一)),土地工作物責任(同2(二)),製造物責任(同2(三)),使用者責任(同2(四))を主張するが,いずれも本件火災がガス漏れによるものであることを前提とする主張であるところ,これが認められないことは前記のとおりであるから,その余について判断するまでもなく,被控訴人の各主張はいずれも理由がない。 第4 結語よって,被控訴人の本件請求は理由がないから棄却すべきであり,これと異なる原判決は失当であるから取り消すこととし,主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第4民事部裁判長裁判官武田多喜子裁判官松本久裁判官森木田邦裕
▼ クリックして全文を表示