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平成10(あ)488 詐欺被告事件

裁判所

平成15年3月12日 最高裁判所第二小法廷 決定 棄却 大阪高等裁判所 平成9(う)1142

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2,562 文字

主文 本件上告を棄却する。当審における訴訟費用は被告人の負担とする。理由 弁護人日高章の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,所論引用の判例が所論の主張するような趣旨まで判示したものではないから,前提を欠き,その余は,憲法違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。所論にかんがみ,詐欺罪の成否について判断する。1 原判決及び原判決が是認する第1審判決によれば,以下の事実が認められる。(1) 税理士であるAは,被告人を含む顧問先からの税理士顧問料等の取立てを,集金事務代行業者であるB株式会社に委託していた。(2) 同社は,上記顧問先の預金口座から自動引き落としの方法で顧問料等を集金した上,これを一括してAが指定した預金口座に振込送金していたが,Aの妻が上記振込送金先を株式会社C銀行D支店の被告人名義の普通預金口座に変更する旨の届出を誤ってしたため,上記Bでは,これに基づき,平成7年4月21日,集金した顧問料等合計75万0031円を同口座に振り込んだ。(3) 被告人は,通帳の記載から,入金される予定のない上記Bからの誤った振込みがあったことを知ったが,これを自己の借金の返済に充てようと考え,同月25日,上記支店において,窓口係員に対し,誤った振込みがあった旨を告げることなく,その時点で残高が92万円余りとなっていた預金のうち88万円の払戻しを請求し,同係員から即時に現金88万円の交付を受けた。2 本件において,振込依頼人と受取人である被告人との間に振込みの原因となる法律関係は存在しないが,このような振込みであっても,受取人である被告人と- 1 -振込先の銀行との間に振込金額相当の普通預金契約が成立し, 振込依頼人と受取人である被告人との間に振込みの原因となる法律関係は存在しないが,このような振込みであっても,受取人である被告人と- 1 -振込先の銀行との間に振込金額相当の普通預金契約が成立し,被告人は,銀行に対し,上記金額相当の普通預金債権を取得する(最高裁平成4年(オ)第413号同8年4月26日第二小法廷判決・民集50巻5号1267頁参照)。 の銀行との間に振込金額相当の普通預金契約が成立し, 振込依頼人と受取人である被告人との間に振込みの原因となる法律関係は存在しないが,このような振込みであっても,受取人である被告人と- 1 -振込先の銀行との間に振込金額相当の普通預金契約が成立し,被告人は,銀行に対し,上記金額相当の普通預金債権を取得する(最高裁平成4年(オ)第413号同8年4月26日第二小法廷判決・民集50巻5号1267頁参照)。しかし他方,記録によれば,銀行実務では,振込先の口座を誤って振込依頼をした振込依頼人からの申出があれば,受取人の預金口座への入金処理が完了している場合であっても,受取人の承諾を得て振込依頼前の状態に戻す,組戻しという手続が執られている。また,受取人から誤った振込みがある旨の指摘があった場合にも,自行の入金処理に誤りがなかったかどうかを確認する一方,振込依頼先の銀行及び同銀行を通じて振込依頼人に対し,当該振込みの過誤の有無に関する照会を行うなどの措置が講じられている。これらの措置は,普通預金規定,振込規定等の趣旨に沿った取扱いであり,安全な振込送金制度を維持するために有益なものである上,銀行が振込依頼人と受取人との紛争に巻き込まれないためにも必要なものということができる。また,振込依頼人,受取人等関係者間での無用な紛争の発生を防止するという観点から,社会的にも有意義なものである。したがって,銀行にとって,払戻請求を受けた預金が誤った振込みによるものか否かは,直ちにその支払に応ずるか否かを決する上で重要な事柄であるといわなければならない。これを受取人の立場から見れば,受取人においても,銀行との間で普通預金取引契約に基づき継続的な預金取引を行っている者として,自己の口座に誤った振込みがあることを知った場合には,銀行に上記の措置を講じさせるため,誤った振込みがあった旨を銀行に告知すべき信義則上 普通預金取引契約に基づき継続的な預金取引を行っている者として,自己の口座に誤った振込みがあることを知った場合には,銀行に上記の措置を講じさせるため,誤った振込みがあった旨を銀行に告知すべき信義則上の義務があると解される。社会生活上の条理からしても,誤った振込みについては,受取人において,これを振込依頼人等に返還しなければならず,誤った振込金額相当分を最終的に自己のものとすべき実質的な権利はないのであるから,上記の告知義務があることは当然というべきである。 て,自己の口座に誤った振込みがあることを知った場合には,銀行に上記の措置を講じさせるため,誤った振込みがあった旨を銀行に告知すべき信義則上の義務があると解される。社会生活上の条理からしても,誤った振込みについては,受取人において,これを振込依頼人等に返還しなければならず,誤った振込金額相当分を最終的に自己のものとすべき実質的な権利はないのであるから,上記の告知義務があることは当然というべきである。そうすると,【要旨】誤った振込みがある- 2 -ことを知った受取人が,その情を秘して預金の払戻しを請求することは,詐欺罪の欺罔行為に当たり,また,誤った振込みの有無に関する錯誤は同罪の錯誤に当たるというべきであるから,錯誤に陥った銀行窓口係員から受取人が預金の払戻しを受けた場合には,詐欺罪が成立する。前記の事実関係によれば,被告人は,自己の預金口座に誤った振込みがあったことを知りながら,これを銀行窓口係員に告げることなく預金の払戻しを請求し,同係員から,直ちに現金の交付を受けたことが認められるのであるから,被告人に詐欺罪が成立することは明らかであり,これと同旨の見解の下に詐欺罪の成立を認めた原判決の判断は,正当である。よって,刑訴法414条,386条1項3号,181条1項本文により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。(裁判長裁判官亀山継夫裁判官福田博裁判官北川弘治裁判官梶谷玄裁判官滝井繁男)- 3 -

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