平成14(行コ)166 損害賠償代位請求住民訴訟控訴事件(原審・さいたま地方裁判所平成8年(行ウ)第3号)

裁判年月日・裁判所
平成14年12月24日 東京高等裁判所 住民訴訟
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判決文本文12,685 文字)

主文 1 原判決を取り消す。 2 本件をさいたま地方裁判所に差し戻す。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人ら主文と同じ。 2 被控訴人ら本件控訴を棄却する。 第2 事案の概要等 1 事案の概要埼玉県は,被控訴人日本下水道事業団(以下「被控訴人事業団」という。)との間で,荒川右岸流域下水道終末処理場汚泥焼却灰再資源化設備工事に関する委託協定を締結し,被控訴人事業団は,これに基づき,被控訴人三菱電機株式会社(以下「被控訴人三菱電機」という。)にその設備の一部である電気設備工事を発注した。本件は,埼玉県の住民である控訴人らが,被控訴人事業団を除く被控訴人ら9社(以下「被控訴人9社」という。)の談合及びこれに荷担した被控訴人事業団の共同不法行為によって上記電気設備工事の請負代金が不当につり上げられ,埼玉県は談合がなかった場合との差額相当の損害(受注価格の20%)を被ったものであり,被控訴人らに対し同額の損害賠償請求権を有するところ,埼玉県はその行使を違法に怠っていると主張して,平成14年法律第4号による改正前の地方自治法(以下「法」という。)242条の2第1項4号に基づき,埼玉県に代位して,当該怠る事実の相手方である被控訴人らに対し,損害賠償を請求した住民訴訟である。被控訴人らは,控訴人ら主張の談合の事実を争うほか,本案前の主張として,本訴に係る監査請求は「怠る事実」を対象としたものとされているが,怠る事実の原因となる損害賠償請求権の実質からみて監査請求期間の制限規定が適用されるとし,上記監査請求は監査請求期間経過後にされたもので,監査請求期間を経過したことについて正当な理由がないなどと主張した。 原審は,地方公共団体において違法に財産の管理を怠る事実があるとして監査請求があった場合,それが地方公共 間経過後にされたもので,監査請求期間を経過したことについて正当な理由がないなどと主張した。 原審は,地方公共団体において違法に財産の管理を怠る事実があるとして監査請求があった場合,それが地方公共団体の長その他の財務会計職員の特定の財務会計上の行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実としているときは,怠る事実に係る請求権の発生原因たる当該行為のあった日又は終わった日を基準に,監査請求期間の制限規定を適用すべきであり,本件では,本件監査請求で行使を怠っているとされた損害賠償請求権の成立原因事実を主張することが,財務会計行為としての実施協定(支出負担行為)の違法を主張することになっているから,監査請求期間の制限規定の適用があるとした上,本件監査請求はその制限期間経過後にされたものであり,監査請求期間を経過したことについて正当な理由があったと認めるに足りる証拠はないとして,訴えを却下した。 このため控訴人らがこれを不服として控訴をした。 2 事案の要旨,基本的事実関係及び争点に対する当事者の主張本件の事案の要旨,基本的な事実関係及び争点に対する当事者の主張は,次のとおり当審における当事者の主張を付加するほか,原判決事実及び理由の「第2 事案の概要」欄の各項に記載のとおりである(但し,原判決4頁6行目の「電機設備工事」を「電気設備工事」に改める。)から,これを引用する。 (1) 控訴人らア法242条の2が住民訴訟の対象として規定する職員等の「怠る事実」について,法242条2項の1年間の期間制限の適用がないことは,判例及び通説の一致して認めるところである。 この原則に対して,最高裁昭和62年2月20日判決は,一定の例外的な場合について,「怠る事実」についても同項の期間制限が適用される 限の適用がないことは,判例及び通説の一致して認めるところである。 この原則に対して,最高裁昭和62年2月20日判決は,一定の例外的な場合について,「怠る事実」についても同項の期間制限が適用される場合のあることを判示している。これによれば,「怠る事実」について,例外的に期間制限が適用になるのは,「監査請求が,当該普通地方公共団体の長その他の財務会計職員の特定の財務会計上の行為を違法であるとし,当該行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって,財産の管理を怠る事実としているものであるとき」であり,「財務会計行為の違法」すなわち公法上の違法を要件とし,「財務会計行為の違法性」と「請求権の発生」の間に因果関係のあることを要求している。 イ本件は,被控訴人らによる談合行為の存在を前提に,埼玉県が,談合がなければ指名競争入札により適正な価額で本件工事の委託契約ができたにもかかわらず,被控訴人らの談合により,この適正な価額より高い金額での委託契約を締結せざるを得なくなったことから,被控訴人らの談合行為を共同不法行為として,想定される適正金額と現実の契約金額の差額を賠償請求しているものである。 これを前提とすると,「怠る事実」に例外的に期間制限の適用があるための要件のうち,職員等の特定の財務会計上の行為が「(公法上)違法である」こと及び「当該行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって,財産の管理を怠る事実としている」という要件には該当しないことは明らかである。 ウ被控訴人らの談合行為は,独占禁止法に違反する違法行為であり,これを,埼玉県との関係で,不法行為の成立要件である違法性の観点から評価しても,違法であることは,論を待たない。しかも,この違法行為は,被控訴人らが共同して行っ 独占禁止法に違反する違法行為であり,これを,埼玉県との関係で,不法行為の成立要件である違法性の観点から評価しても,違法であることは,論を待たない。しかも,この違法行為は,被控訴人らが共同して行ったものであり,これが,被控訴人らの共同不法行為に該当し,損害賠償の根拠になることは明らかである。 また,本件委託契約を契約法の観点から分析すれば,契約当事者間において,業務委託の内容及び代金の合意において,その意思表示上は何らの齟齬が生じているものではないので,契約は有効に成立している。被控訴人らの談合行為は,この委託契約の締結過程においては,あくまでも契約当事者間において契約締結に向けての動機形成の部分において,被控訴人らが,違法な行為を行ったというものである。被控訴人らの談合行為は,本来,談合行為が独占禁止法で禁止されている以上,かかる談合行為を行ってはならないのであり,他方,埼玉県は,こうした法規が存在する以上,被控訴人らが談合行為を行っていないことを当然の前提として本件契約を締結している。とするならば,被控訴人らは,埼玉県に対して自らが談合行為を行って落札価格を協議によって決定しているにもかかわらず,あたかも適正に指名競争入札が行われて価格が決定されたかのように欺罔行為を行い,その旨,埼玉県の担当職員を錯誤に陥れ,もって同職員をして契約締結をなさしめたものであり,被控訴人らの行為は民法96条規定の詐欺に該当するものである。 よって,本件契約は,当然に違法,無効となるものではなく,民法96条により,埼玉県によって取り消し得ることになる。 この場合,埼玉県としては,この契約を取り消して契約自体を当初から無効であったものとすることもできるし,契約自体の取消を行わずに被控訴人らの詐欺行為により被った損害を不法行為として,損害の賠償を請求する 場合,埼玉県としては,この契約を取り消して契約自体を当初から無効であったものとすることもできるし,契約自体の取消を行わずに被控訴人らの詐欺行為により被った損害を不法行為として,損害の賠償を請求することもできる。 以上のとおり,被控訴人らの談合行為は違法であるが,それは本件契約自体が当然に無効となるものではない。 エ以上のように,民事上は,被控訴人らの談合行為は,不法行為法上の違法行為に該当し,契約法上は民法96条の詐欺行為に該当し,埼玉県が一旦は有効に成立した契約の取消権を取得するという関係になっている。 本件契約の締結ないしその履行を担当した職員等は,契約法上で評価すれば,被控訴人らによる欺罔行為によって錯誤に陥って「特定の財務会計上の行為」を行ったものであり,この職員及び埼玉県は被害者にすぎないのであり,これについて公法上の違法性はない。 以上から,本件は「怠る事実」について法242条2項の期間制限が課せられる例外に該当しない。 (2) 被控訴人株式会社日立製作所以下に述べるとおり,控訴人らの本件監査請求は,監査請求期間を徒過するものである。 ア住民訴訟の提起は,適法な監査請求を経ることを前提とする一方(法242条の2第1項),監査請求はその対象となるべき行為の日又は終わった日から1年を経過したときはすることができないとされている(法242条2項)。法が監査請求期間の規定を設けた趣旨は,地方公共団体の機関,職員の行為である以上,いつまでも争いうる状態にしておくことは法的安定性の見地から好ましくないという理由によるものである。 財産管理を怠る事実に対する監査請求については,監査請求期間の定めがない。 しかし,法が監査請求期間の規定を設けた前記趣旨に照らすと,財産管理を怠る事実について原因となる違法な財務会計上の行為が全く存在 産管理を怠る事実に対する監査請求については,監査請求期間の定めがない。 しかし,法が監査請求期間の規定を設けた前記趣旨に照らすと,財産管理を怠る事実について原因となる違法な財務会計上の行為が全く存在せず,監査請求することが不可能な場合は別として,原因となる特定の財務会計上の行為を違法なものとして監査請求をすることにより違法是正措置を取る機会がある限り,当該行為に対する監査請求において是正措置として求めうる請求権の不行使をもって財産管理を怠る事実とする監査請求についても,上記行為時を基準として監査請求期間の規定の適用を認めるべきである。 なぜなら,このような場合に当該行為の違法性を実質的に問題とするものであるにもかかわらず,当該行為の違法を直接主張せず,当該行為が行われたことによって発生する請求権の不行使を財産管理を怠る事実として構成すると,監査請求期間の制限がないとすれば,当該監査請求と同一の是正措置を求める機会を別途期間制限なく認めることとなる。しかし,監査請求の目的は,監査請求をすること自体ではなく,その是正措置を取らしめて,自治体の行財政の適正を図るところにあるのであるから,このように別途期間制限なく是正措置を取る機会を認めるということは,当該行為について期間制限なく監査請求を行う機会を認めることとなり,実質的に当該行為についていつまでも監査請求しうることとなって,法的安定を図ろうとした法の趣旨が没却される。他方,監査請求期間については当該行為を起算点として容易に算定することができ,かつ,住民としても,当該行為を起算点とする監査請求期間内に当該行為又は怠る事実について監査請求すればよく,当該行為を起算点として監査請求期間を定めても何の不都合も生じないからである。 したがって,特定の財務会計上の行為についての監査請求において是正措 内に当該行為又は怠る事実について監査請求すればよく,当該行為を起算点として監査請求期間を定めても何の不都合も生じないからである。 したがって,特定の財務会計上の行為についての監査請求において是正措置として行使を求めることができる請求権の不行使を怠る事実とする監査請求については,当該財務会計上の行為時から監査請求期間が進行すると解するべきである。 最高裁昭和62年2月20日判決は,特定の財務会計上の行為の違法,無効に基づく実体法上の請求権,すなわち特定の財務会計上の行為の違法是正等の措置として請求しうる実体法上の請求権の不行使をもって財産管理を怠る事実とする監査請求について,当該財務会計上の行為に係る監査請求の範囲に含まれるものとし,当該行為についての監査請求期間の制限に服せしめるという趣旨のものであり,この趣旨は実質的にも妥当であるから,本件においてもこの基準に従うべきである。 イ控訴人らの主張する損害賠償請求権は,談合が行われた場合と談合が行われなかった場合における代金額の差額を損害の内容とする不法行為に基づく損害賠償請求権であるところ,控訴人らの主張する損害賠償請求権が発生するためには,埼玉県に控訴人らの主張する内容の損害が発生しなければならない。しかし,談合が行われただけでは埼玉県に何らの損害も発生しない。埼玉県が談合に基づく不当に高額の支出をした場合には埼玉県に損害が発生するが,埼玉県が当該支出を行うためには,その前提として,そのような支出を容認する債務負担行為がなされているはずである。したがって,埼玉県に控訴人らの主張する内容の損害が発生するためには,埼玉県において,談合に基づく不当に高額の支出を容認する債務負担行為がなされなければならない。 このように談合に基づく高額の支出を容認する債務負担行為を行うことは,埼玉県の財 が発生するためには,埼玉県において,談合に基づく不当に高額の支出を容認する債務負担行為がなされなければならない。 このように談合に基づく高額の支出を容認する債務負担行為を行うことは,埼玉県の財務の健全性を害するものであって,法2条14項(平成11年法律第87号による改正前の13項)に定める最小経費・最大効果の原則に反し,当然に違法であり,また目的を達成するための必要最小限度の支出を超えることになることから地方財政法4条1項にも違反する。 したがって,このような債務負担行為は,客観的にみて違法な債務負担行為である。 以上述べたとおり,控訴人らの主張する損害賠償請求権が発生する場合には,埼玉県の財務会計上の行為である債務負担行為は必ず違法ということになる。したがって,控訴人らの主張する損害賠償請求権は,財務会計上の行為の違法を必ずその前提とするものである。 よって,控訴人らの主張する損害賠償請求権は,財務会計上の行為の違法,無効に基づく実体法上の請求権である。 ウ控訴人らの主張に従えば,埼玉県の債務負担行為という財務会計上の行為について法242条2項に定める当該行為のあった日から1年の監査請求期間内に監査請求を行い,この監査結果に不服のある住民は,本件において控訴人らが主張する損害賠償請求権を代位行使する本件と同内容の住民訴訟を提起することが可能であった。すなわち,控訴人らが主張する損害賠償請求権は,埼玉県の債務負担行為に対する監査請求において是正措置として求め得る請求権なのである。 したがって,本件監査請求は,埼玉県の債務負担行為の違法,無効に基づく請求権についての監査請求であり,上記債務負担行為についての監査請求期間の制限に服する。 エ控訴人らの主張を前提とすると,控訴人らの主張する損害賠償請求権の成立要件は,談合により不 ,無効に基づく請求権についての監査請求であり,上記債務負担行為についての監査請求期間の制限に服する。 エ控訴人らの主張を前提とすると,控訴人らの主張する損害賠償請求権の成立要件は,談合により不当に高額の委託料債務の負担をさせたことであり,他方,控訴人らの主張を前提とした場合に,財務会計上の行為の違法事由は,談合に基づく不当に高額な委託料債務の負担ということであり,同じことを事業団側から見たか,地方公共団体側から見たかの相違に過ぎない。 したがって,控訴人らの監査請求は,埼玉県の債務負担行為について談合により不当に高額であるという違法を理由とする監査請求と同一の違法を問題とするものにほかならず,控訴人らの主張する損害賠償請求権が,埼玉県の財務会計上の行為の違法に基づいて発生する請求権であることは明らかである。 オ埼玉県において控訴人らが主張する損害の発生原因となった債務負担行為について,不当に高額であることのみを理由として違法であるとする監査請求は,談合に基づいて不当に高額になったことを理由として違法であるとする監査請求と同一性の範囲内にある監査請求である。 次に,埼玉県の債務負担行為が談合に基づいて不当に高額になったことを理由として違法であるとする監査請求,及び控訴人らが主張している損害賠償請求権の不行使をもって,財産管理を怠る事実とする監査請求は,いずれも当該債務負担行為を対象とする監査請求であるから,同一性の範囲内にある。 したがって,控訴人らの主張する損害賠償請求権の不行使をもって財産管理を怠る事実とする監査請求は,控訴人ら主張の損害の発生原因となった埼玉県の債務負担行為について,不当に高額であることのみを理由とする監査請求と同一性の範囲内に含まれる監査請求である。 カ被控訴人らが談合を行い,これにより埼玉県に損害が発生 損害の発生原因となった埼玉県の債務負担行為について,不当に高額であることのみを理由とする監査請求と同一性の範囲内に含まれる監査請求である。 カ被控訴人らが談合を行い,これにより埼玉県に損害が発生したとして,談合及び埼玉県の損害の発生並びに談合と埼玉県の損害との間の因果関係を肯定する控訴人らの主張を前提とすると,埼玉県と事業団との間の年度実施協定は,本件工事についての支払義務を確定させた違法な債務負担行為である。したがって,本件工事についての控訴人らの主張する損害賠償請求権を怠る事実とする監査請求の監査請求期間の起算点は,年度実施協定締結日ということになる。 しかるところ,本件における年度実施協定の締結日は,控訴人らが監査請求を行った平成7年11月27日の1年以上前である。よって,控訴人らの本件監査請求は,既に監査請求期間を徒過した違法なものである。 キ以上のとおり,控訴人らの本件監査請求は,埼玉県の年度実施協定の違法に基づいて発生した実体法上の請求権の不行使をもって財産管理を怠る事実とするものであるから,年度実施協定の締結時点を起算日として監査請求期間の制限に服すべきものであるところ,本件監査請求は,年度実施協定の締結の時から1年を経過した後に行われた不適法なものであって,控訴人らの訴えは監査請求前置の要件を充たさない不適法なものである。 (3) 被控訴人株式会社明電舎最高裁平成14年7月2日判決のいう一般論が正しいとしても,談合を理由とする損害賠償請求権は,委託料の支払という行為が不可欠の前提である(それがなければ自治体に損害は発生しない。)から,まさに「特定の財務会計行為が財務会計法規に違反して違法であるからこそ発生する実体法上の請求権」であり,「当該行為が違法とされて初めて当該請求権が発生する」ものであって,「監査委員は当 ない。)から,まさに「特定の財務会計行為が財務会計法規に違反して違法であるからこそ発生する実体法上の請求権」であり,「当該行為が違法とされて初めて当該請求権が発生する」ものであって,「監査委員は当該行為が違法であるか否かを判断しなければ当該怠る事実の監査を遂げることができないという関係にある」というべきである。なぜなら,監査委員の違法判断とは,すなわち財務会計法規違反を構成する個々の事実の存否を判断することを意味するものであるところ,談合を理由とする損害賠償請求権の行使を怠る事実について監査をするについては,談合の有無(不法行為)及び委託料支払の有無(損害)並びに両者の間の因果関係の有無について判断せざるを得ないのであって,これが当該行為の財務会計法規(地方財政法4条等)を構成する事実の存否判断にほかならないからである。したがって,本件監査請求は「不真正怠る事実」に関するものであり,監査請求期間の適用があるものと解すべきである。 (4) 被控訴人神鋼電機株式会社控訴人らが本件訴訟で求めるものは,「被控訴人らの談合行為の存在を前提に,埼玉県が,談合がなければ指名競争入札により適正な価額で本件工事の請負契約が締結できたにもかかわらず,被控訴人らの談合により,この適正な価額より高い金額での委託契約を締結せざるを得なくなったことから,被控訴人らの談合行為を共同不法行為として,想定される適正な金額と現実の契約金額の差額を賠償請求している」のである。これからすれば,被控訴人らの独占禁止法上の談合行為が認められたとしても,そのことは不法行為による損害賠償を基礎づけることはない。独占禁止法上の談合行為は,一定の取引分野における競争制限の有無が問題になるのであり,談合の結果,たとえば入札価額が高額になるか否かということは重要なことではないのである。 を基礎づけることはない。独占禁止法上の談合行為は,一定の取引分野における競争制限の有無が問題になるのであり,談合の結果,たとえば入札価額が高額になるか否かということは重要なことではないのである。したがって,控訴人らの主張する「適正な価額より高い金額での委託契約を締結せざるを得なくなった」ということからすれば,監査請求の対象となるのは,談合行為そのものではなく,現実の委託契約が「適正な金額より高い金額」か否かということに他ならないはずである。そして,ここにいう「適正な金額」というものがあるとすれば,それは財務会計法規(例えば,地方財政法4条1項)に適った金額ということであり,逆にその委託契約が高額であったなら,財務会計法規に反した金額ということになる。したがって,控訴人らの請求に従う限り,監査請求の対象となるのは,現実の委託契約が財務会計法規に反して高額なものになっているか否かという点につきる。 したがって,本件監査請求については,最高裁平成14年7月2日判決が指摘する「当該行為が財務会計法規に違反して違法であるか」否かを判断しなければならない事案であることから,本件監査請求には期間制限の規定が適用される。 以上のとおり,本件請求は,監査請求期間制限のある事案であり,期間内に監査請求をしていないから,適法な監査請求を前置していない。 第3 当裁判所の判断 1 甲第1号証によれば,次の事実が認められる。 (1) 控訴人らは,平成7年11月27日付けで,埼玉県監査委員に対し,埼玉県は,被控訴人らの談合行為(共同不法行為)によって埼玉県が被った損害につき,被控訴人らに対する損害賠償請求権の行使を怠っているとして監査請求(本件監査請求)を行ったが,監査委員は,平成8年1月17日付けで,控訴人らに対し,本件監査請求は,法242条2項に規定する監査 き,被控訴人らに対する損害賠償請求権の行使を怠っているとして監査請求(本件監査請求)を行ったが,監査委員は,平成8年1月17日付けで,控訴人らに対し,本件監査請求は,法242条2項に規定する監査請求期間を経過しているとの理由により,本件監査請求を却下する旨の監査結果を通知した。 (2) 控訴人らがした本件監査請求の内容は,次のとおりである。 ア埼玉県は,被控訴人事業団との間の基本協定に基づき,被控訴人事業団に対し,平成4年度に荒川右岸流域下水道荒川右岸終末処理場電気設備工事を委託した。 イ被控訴人事業団は,上記工事を指名競争入札の方式により発注し,これを被控訴人三菱電機が落札し,被控訴人事業団との間で工事請負契約(契約金額は1億9245万5500円)を締結した。この契約金額は埼玉県から被控訴人事業団に全額支払われた。 ウ被控訴人事業団の発注する電気設備工事に関しては,被控訴人三菱電機ら被控訴人9社により,平成2年以来「九社会」と称する談合組織が結成されていた。 そして,平成4年・5年両年度について,年度当初に被控訴人事業団より件名及び発注予定金額の提示を受けたうえで,被控訴人9社はドラフト会議と称する会合を開き,当該年度の工事全部につき受注予定者を一括決定し,かつ各工事の入札に先立って,受注予定者が必ず落札できるよう相指名者間で入札価格を調整するという談合を行った。 エこの談合により,少なくとも上記平成4年度,5年度に被控訴人事業団が発注した電気設備工事に関しては,受注業者間の競争が排除されたのであるが,もしも,受注予定者間に公正な競争が確保されていたとすれば,落札価格したがって契約金額は価格よりも20%以上低くなったはずである。 オすなわち,被控訴人らは,談合という不法行為を通じて,契約金額を不当につり上げることにより,工事 が確保されていたとすれば,落札価格したがって契約金額は価格よりも20%以上低くなったはずである。 オすなわち,被控訴人らは,談合という不法行為を通じて,契約金額を不当につり上げることにより,工事委託者として最終的にこの契約代金を負担した埼玉県に対し,上記差額に相当する損害を与えたものである。 カ埼玉県知事は,埼玉県の不法行為者に対して有する損害賠償請求権を行使して,埼玉県の被った損害を填補する措置を講ずる責任があるのにこれを怠っているので,請求人は,監査委員が県知事に対し,この措置を講ずべきことを勧告することを求める。 2 監査請求期間の制限を定めた法242条2項本文の規定(以下「本件規定」という。)は,監査請求の対象のうち財務会計上の行為については,当該行為のあった日又は終わった日から1年を経過したときは監査請求をすることができないものと規定しているが,上記の対象事項のうち怠る事実については,このような期間制限は規定されておらず,怠る事実が存在する限りはこれを制限しないこととするものと解される。もっとも,特定の財務会計上の行為が財務会計法規に違反して違法であるか又はこれが違法であって無効であるからこそ発生する実体法上の請求権の行使を怠る事実を対象として監査請求がされた場合には,当該行為が違法とされて初めて当該請求権が発生したと認められるのであるから,これについて上記の期間制限が及ばないとすれば,本件規定の趣旨を没却することとなる。したがって,このような場合には,当該行為のあった日又は終わった日を基準として本件規定を適用すべきものである(最高裁昭和62年2月20日第2小法廷判決・民集41巻1号122頁参照)。しかし,怠る事実については監査請求期間の制限がないのが原則であることにかんがみれば,監査委員が怠る事実の監査をするに当たり,当 高裁昭和62年2月20日第2小法廷判決・民集41巻1号122頁参照)。しかし,怠る事実については監査請求期間の制限がないのが原則であることにかんがみれば,監査委員が怠る事実の監査をするに当たり,当該行為が財務会計法規に違反して違法であるか否かの判断をしなければならない関係にない場合には,当該怠る事実を対象としてされた監査請求に上記の期間制限が及ばないものとすべきであり,そのように解しても,本件規定の趣旨を没却することにはならない(最高裁平成14年7月2日第3小法廷判決・判例時報1797号3頁参照)。 3 本件監査請求の対象事項は,埼玉県が被控訴人らに対して有する損害賠償請求権の行使を怠る事実であるところ,当該損害賠償請求権の発生原因は,被控訴人9社が被控訴人事業団から工事の発注予定金額等の提示を受けて談合をした結果に基づいて,被控訴人三菱電機が被控訴人事業団と不当に高額の工事請負代金で請負契約を締結し,本件委託工事の委託者として最終的に上記工事請負代金相当額を負担することになる埼玉県に対し,公正な競争により形成されたであろう請負工事代金額と談合によりつり上げられた請負工事代金額との差額相当の損害を与える不法行為を行ったというものである。これによれば,本件監査請求について監査を遂げるためには,監査委員は,上記談合行為等があったか否か,これにより上記差額が生じたか否かを検討するとともに,埼玉県が本件委託工事を委託するために被控訴人事業団との間で締結した委託協定の内容,委託費用の支払経過等を明らかにして,埼玉県が本件発注工事の工事請負代金を最終的に負担させられ損害を被ったか否かを検討しなければならないことになる。しかしながら,埼玉県と被控訴人事業団との間における委託協定の締結や委託費用の支払等の財務会計上の行為が財務会計法規に違反する違法 負担させられ損害を被ったか否かを検討しなければならないことになる。しかしながら,埼玉県と被控訴人事業団との間における委託協定の締結や委託費用の支払等の財務会計上の行為が財務会計法規に違反する違法なものであったとされて初めて埼玉県の被控訴人らに対する損害賠償請求権が発生したと認められるものではなく,監査委員は,上記のような談合行為等とこれに基づく被控訴人事業団と被控訴人三菱電機との請負契約の締結が不法行為法上違法の評価を受けるものであること,これにより埼玉県に損害が発生したことなどを確定すれば足りるのであるから,本件監査請求は埼玉県の財務会計上の行為を対象とする監査請求を含むと解さなければならないものではない。したがって,本件監査請求を本件規定の適用がない怠る事実に係るものと認めても,本件規定の趣旨が没却されるものではなく,本件監査請求については本件規定による監査請求期間の制限が及ばないものと解するのが相当である。 被控訴人らの主張は,結局のところ,控訴人らの主張する損害賠償請求権は,「特定の財務会計行為が財務会計法規に違反して違法であるからこそ発生する実体法上の請求権」に該当するので,本件監査請求には期間制限の規定が適用されるということに尽きるが,上記のとおり,怠る事実については監査請求期間の制限がないのが原則であることからすれば,監査委員が怠る事実の監査をするに当たり,当該行為が財務会計法規に違反して違法であるか否かの判断をしなければならない関係にない場合には,当該怠る事実を対象としてされた監査請求に上記の期間制限が及ばないというべきであり,控訴人らの主張する損害賠償請求権は,当該行為が財務会計法規に違反して違法であるか否かの判断をしなければならない関係にない場合に当たるから,被控訴人らの主張はいずれも採用できない。 4 以上によ り,控訴人らの主張する損害賠償請求権は,当該行為が財務会計法規に違反して違法であるか否かの判断をしなければならない関係にない場合に当たるから,被控訴人らの主張はいずれも採用できない。 4 以上によれば,本件監査請求を不適法とし,本件訴えを却下すべきものとした原判決は相当でないので,これを取り消した上,本件をさいたま地方裁判所に差し戻すこととし,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第14民事部裁判長裁判官西田美昭裁判官森高重久裁判官伊藤正晴

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