平成24(行ウ)347等 給与等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成26年10月30日 東京地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-84997.txt

判決文本文83,015 文字)

平成26年10月30日判決言渡平成24年(行ウ)第347号,第501号,第502号給与等請求事件主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由 第1 請求 1 被告は,原告番号1ないし325の原告らに対し,別紙2の各原告の「平成24年4月分~平成26年3月分までの合計」欄記載の各金員及びうち各原告の「差額」欄記載の各金員に対する平成24年4月19日以降支払済みまで,「平成24年5月分~平成26年3月分までの合計」欄記載の各金員に対する平成26年4月1日以降支払済みまで,年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告番号1ないし325の原告らに対し,それぞれ10万円及びこれに対する平成24年4月19日以降支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告は,原告番号326ないし330の原告らに対し,別紙2の各原告の「平成24年4月分~平成26年3月分までの合計」欄記載の各金員及びうち各原告の「差額」欄記載の各金員に対する平成24年6月16日以降支払済みまで,「平成24年6月分~平成26年3月分までの合計」欄記載の各金員に対する平成26年4月1日以降支払済みまで,年5分の割合による金員を支払え。 4 被告は,原告番号326ないし330の原告らに対し,それぞれ10万円及びこれに対する平成24年6月16日以降支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 被告は,原告番号331ないし370の原告らに対し,別紙2の各原告の「平成24年4月分~平成26年3月分までの合計」欄記載の各金員及びうち 各原告の「差額」欄記載の各金員に対する平成24年4月17日以降支払済みまで,「平成24年5月分~平成26年 2の各原告の「平成24年4月分~平成26年3月分までの合計」欄記載の各金員及びうち 各原告の「差額」欄記載の各金員に対する平成24年4月17日以降支払済みまで,「平成24年5月分~平成26年3月分までの合計」欄記載の各金員に対する平成26年4月1日以降支払済みまで,年5分の割合による金員を支払え。 6 被告は,原告番号331ないし370の原告らに対し,それぞれ10万円及びこれに対する平成24年4月19日以降支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 7 被告は,原告P1に対し,1000万円及びこれに対する平成24年4月19日以降支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等(以下,年月日については,特に断りのない限り平成23年のことを指す。) 1 当事者等及び主要な法律等に関する略称(1) 当事者等P2原告P1原告P1を除く個人原告は,「個人原告」または「個人原告ら」P3P4P5P6(2) 主要な法律等議員立法により成立した「国家公務員の給与の改定及び臨時特例に関する法律」(平成24年法律第2号)は「給与改定・臨時特例法」政府提出の「国家公務員の給与の臨時特例に関する法律案」は「給与臨時特例法案」「一般職の職員の給与に関する法律」は「給与法」 P7党及びP8党所属の国会議員ら提出に係る「一般職の国家公務員の給与の改定及び臨時特例等に関する法律案」は「P9案」「国家賠償法」は「国賠法」「国家公務員法」は「国公法」 2 事案の要旨本件は,政府が,厳しい財政状況及び東日本大震災に対処する必要性に鑑み,一層の歳出の削減が不可欠であるとして,国家公務員(以 国賠法」「国家公務員法」は「国公法」 2 事案の要旨本件は,政府が,厳しい財政状況及び東日本大震災に対処する必要性に鑑み,一層の歳出の削減が不可欠であるとして,国家公務員(以下「国家公務員」という場合,本件で問題となっている非現業の国家公務員をさす。)の給与について減額支給措置を講ずる方針を決定し,当該措置を実施するため国会に提出した給与臨時特例法案の内容を基礎として,議員立法により平成24年2月29日に成立し翌3月1日に施行された給与改定・臨時特例法について,(1)個人原告らが,被告に対し,①国家公務員の給与減額支給措置を講じるに当たり,人事院勧告に基づかず,かつ,職員団体との合意に向けた交渉を尽くさず制定され,立法事実に合理性・必要性もない給与改定・臨時特例法は,憲法28条,72条,73条4号,ILO第87号条約及びILO第98号条約に違反し無効である旨主張して,従前の法律状態に基づく給与相当額との差額の支払を請求し(差額給与請求),これと選択的に,国会議員が,人事院勧告に基づかずに,また,政府をして原告P1と団体交渉を行わせることなく給与改定・臨時特例法を成立させた行為並びに内閣総理大臣が,人事院勧告に基づかず,国会議員により提案された給与改定・臨時特例法の成立を看過し,その成立に際して原告P1と団体交渉を行わなかった行為及び憲法とILO条約に反する給与改定・臨時特例法に基づき減額された給与を支払った行為が,それぞれ国賠法上違法である旨主張して,同法1条1項に基づき,給与減額相当分の損害の賠償を請求(損害賠償請求)するとともに,②上記の違法行為による慰謝料として,個人原告ら1人あたり10万円の支払を求め,(2)原告P1が,被告に対し,給与改定・臨時特 例法が成立する過程において,内閣総理大臣が原告P )するとともに,②上記の違法行為による慰謝料として,個人原告ら1人あたり10万円の支払を求め,(2)原告P1が,被告に対し,給与改定・臨時特 例法が成立する過程において,内閣総理大臣が原告P1と団体交渉を行わなかったことなどが国賠法上違法である旨主張して,同法1条1項に基づき,1000万円の支払を求める事案である。 3 前提事実(以下の事実は,当事者間に争いがないか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。)(1) 当事者ア個人原告ら個人原告らは,別紙2の各個人原告の所属官庁欄記載の官庁又は裁判所に勤務する国家公務員であり,その合計は370名である。 個人原告らは,国家公務員で組織する個人原告らの各職場の各労働組合に加盟している組合員又は裁判所職員で組織する全司法労働組合に加盟している組合員であり,個人原告らが所属する各労働組合又は全司法労働組合は,国家公務員の労働組合の連合体であるP2に加盟している。 イ原告P1原告P1は,P2のうち,1府7省及び人事院の行政職の労働組合で構成する部会である。構成員数は約4万6000人であり,組合加入対象となる国家公務員18万7000人のうち,約24%を組織している。 なお,P2は,裁判所や1府7省(内閣府,総務省,法務省,財務省,文部科学省,厚生労働省,経済産業省,国土交通省),人事院及びその関係する独立行政法人などで働く正規・非正規の国公関連労働者で組織する16組合約7万900人の産業別組合であり,労働組合の全国組織(ナショナルセンター)であるP3に加盟している。 ウ P4P4は,中央省庁,地方の出先機関,特殊法人などに所属する日本の国家公務員とそれに準じる者で構成される労働組合の連合組織である。行政職の国家公務員の構成員数は5万9000人であり,組合 ウ P4P4は,中央省庁,地方の出先機関,特殊法人などに所属する日本の国家公務員とそれに準じる者で構成される労働組合の連合組織である。行政職の国家公務員の構成員数は5万9000人であり,組合加入対象となる 国家公務員約18万7000人のうち,約31%を組織しており,労働組合の全国組織(ナショナルセンター)であるP5に加盟している。 なお,P5の傘下にはP4,P6等がある。 (2) 給与改定・臨時特例法が成立するまでの経緯ア政府は,平成22年11月1日,「公務員の給与改定に関する取扱いについて」と題する閣議決定を行った(甲14,乙3,以下「平成22年11月閣議決定」という。)。その要旨は,「同年8月10日の人事院勧告をそのとおり実施する。」,「我が国の財政事情が深刻化している状況に鑑み,行財政改革を引き続き積極的に推進し,総人件費を削減する必要があり,そのため各般の措置を講じる。」,「国家公務員の給与改定について,次期通常国会に自律的労使関係制度を措置するための法案を提出し,交渉を通じた給与改定の実現を図り,その実現までの間においても,人件費を削減するための措置について検討し,必要な法案を次期通常国会から順次提出する。」というものであった。 イ 3月11日,東日本大震災が発生した。 ウ政府は,平成22年11月閣議決定及び東日本大震災の復旧・復興のための財源確保の必要性等を踏まえ,自律的労使関係制度が措置されるまでの間においても,国家公務員の人件費削減のため,平成25年度まで給与を減額するための臨時的措置を講ずることについて職員の理解が得られるよう,職員を代表する立場にある職員団体と話し合う必要があると考え,5月13日以降,職員を代表する立場にある職員団体と交渉を行った。P2との間では,同月13日,17日,20日, 職員の理解が得られるよう,職員を代表する立場にある職員団体と話し合う必要があると考え,5月13日以降,職員を代表する立場にある職員団体と交渉を行った。P2との間では,同月13日,17日,20日,25日及び27日並びに6月2日にそれぞれ交渉を行い(甲1ないし6,乙4の1ないし6),P6との間では,5月13日,17日,19日及び23日にそれぞれ交渉を行った(乙5の1ないし4)。 エ政府は,6月3日,「国家公務員の給与減額支給措置について」と題する 閣議決定(乙6の1,以下「平成23年6月閣議決定」という。)を行った。同決定の要旨は,「我が国の厳しい財政状況及び東日本大震災に対処する必要性に鑑み,一層の歳出の削減が不可欠であることから,国家公務員の給与について減額支給措置を講じ,必要な法律案を今国会に提出する。」というものであり,同日,その内容を具体化した給与臨時特例法案を衆参両議院に提出した。この給与減額支給措置は,給与法の適用者の給与について,別紙3「給与臨時特例法案」欄のとおりの支給減額率に従い減額するというものであり,減額支給する期間は,公布の日の属する月の翌々月の初日から平成26年3月31日までというものであった。 また,政府は,平成23年6月閣議決定に合わせ,「国家公務員の給与に関する内閣総理大臣の談話」(乙6の2,以下「平成23年6月総理大臣談話」という。)を発表し,「我が国の財政事情は,総債務残高が主要先進国中最悪の水準であるなど極めて厳しい状況であり,さらに3月11日に発生した未曾有の国難ともいうべき東日本大震災に対処するため,一層の歳出削減が不可欠なものとなっている。」,「徹底的な歳出見直しの一環として,国家公務員の給与費についても削減せざるを得ないと考えている。」,「現在の人事院勧告制度の下では極めて異例 するため,一層の歳出削減が不可欠なものとなっている。」,「徹底的な歳出見直しの一環として,国家公務員の給与費についても削減せざるを得ないと考えている。」,「現在の人事院勧告制度の下では極めて異例の措置であるが,今回の給与減額支給措置を決定した。」,「このための所要の法案とともに自律的労使関係制度を措置するための法案を閣議決定し,政府として両法案の成立を目指す。」旨を表明した。 オ人事院は,9月30日,4月分給与について官民比較した結果,国家公務員給与が民間給与を0.23%上回ったとして,衆参両議院議長及び内閣総理大臣に対し,その逆較差を解消するため,50歳台を中心に40歳台以上を念頭に置いた俸給表の引下げなどを内容とする勧告をした(乙7,以下「本件人事院勧告」という。)。 カ本件人事院勧告を受けた政府は,10月28日,「公務員の給与改定に 関する取扱いについて」と題する閣議決定(乙8,以下「平成23年10月閣議決定」という。)を行った。その要旨は,「給与臨時特例法案が,本件人事院勧告による給与水準の引下げ幅と比べ,厳しい給与減額支給措置を講じようとするものであり,総体的にみれば,その他の人事院勧告の趣旨も内包しているものと評価できることなどを総合的に勘案し,政府としては,給与臨時特例法案の早期成立を期し,本件人事院勧告を実施するための給与法改正法案は提出しない。」というものであった。 キ給与臨時特例法案は,6月3日に第177回国会(8月31日まで)に提出されていたところ,同国会及び第178回国会(9月13日から9月30日まで)ではいわゆる継続審議扱いとなり,第179回国会(10月20日から12月9日まで)が始まった。 ク上記オないしキのような状況の中,P7党及びP8党所属の国会議員から,給与法の特例を )ではいわゆる継続審議扱いとなり,第179回国会(10月20日から12月9日まで)が始まった。 ク上記オないしキのような状況の中,P7党及びP8党所属の国会議員から,給与法の特例を定めるP9案が衆議院に提出された。P9案及び給与臨時特例法案は継続審議扱いとなり,平成24年1月24日,第180回国会が始まった(乙9)。 ケ P9案及び給与臨時特例法案が並立する中で,法案の取扱いにつきP10党・P7党・P8党の3党で協議が行われ,平成24年2月17日,P10党・P7党・P8党の3党政調会長間で「国家公務員給与等の取扱いについて」と題する合意(乙10,以下「3党合意」という。)がされた。 3党合意では,「平成23年度人事院勧告を実施し,さらに7.8%まで国家公務員の給与削減を深堀りするため」P9案を基本にして修正を行うというものであり,P10党・P7党・P8党の3党共同提案という形で給与改定・臨時特例法案が議員立法として国会に提出された。 コ給与改定・臨時特例法案の概要は,以下のとおりである。なお,給与臨時特例法案と給与改定・臨時特例法の内容及びその異同の概要については,別紙3のとおりである。 (ア) 人事院勧告に基づく給与の改定本件人事院勧告に基づき,施行日から国家公務員の俸給月額を平均0. 23%減額し,平成23年4月から法施行前までの較差相当分は平成24年6月期の期末手当で調整する。 (イ) 人事院勧告によらない給与の減額平成24年4月から平成25年度末(平成26年3月31日)までの間,以下の給与の引下げを行う。 a 月例給部分ⓐ 俸給月額① 本 平成24年4月から平成25年度末(平成26年3月31日)までの間,以下の給与の引下げを行う。 a 月例給部分ⓐ 俸給月額① 本省課室長相当職以上 9.77%減額② 本省課長補佐・係長相当職員 7.77%減額③ 係員 4.77%減額その他の俸給表適用職員については行(一)俸給表に準じた支給減額率ⓑ 俸給の特別調整額(管理職手当) 一律10%の減額ⓒ 地域手当等の俸給月額に連動する手当の月額は,減額後の俸給月額等の月額により算出b 期末手当及び勤勉手当一律9.77%減額(ウ) 防衛省職員についての特例(略)(エ) 施行期日(略)サ給与改定・臨時特例法案は,衆議院では,平成24年2月23日に衆議院総務委員会において審議・可決され,同日,衆議院本会議において可決され,参議院では,同月28日に参議院総務委員会において審議・可決され,翌29日,参議院本会議において可決され,給与改定・臨時特例法が成立した (同日公布,同年3月1日施行。ただし,国家公務員の給与の臨時特例に係る部分は同年4月1日施行)。 なお,衆議院総務委員会では,P2の談話やP5の意見等の資料に基づいて審議が行われ,参議院総務委員会では,P2のP11委員長を参考人として招致して審議が行われた(乙11,12)。 シ政府は,平成25年11月15日,「公務員の給与改定に関する取 基づいて審議が行われ,参議院総務委員会では,P2のP11委員長を参考人として招致して審議が行われた(乙11,12)。 シ政府は,平成25年11月15日,「公務員の給与改定に関する取扱いについて」と題する閣議決定(以下「平成25年11月閣議決定」という。)において,給与改定・臨時特例法に基づく給与減額支給措置は,平成26年3月31日をもって終了するとした(甲74)。 4 争点(1) 差額給与請求ア給与改定・臨時特例法が憲法28条等に違反するか(ア) 人事院勧告に基づいていないこと(イ) 立法の必要性及び立法内容の合理性(ウ) 団体交渉イ給与改定・臨時特例法に基づく給与減額支給措置がILO第87号条約及びILO第98号条約に違反するか(2) 個人原告らの国家賠償請求ア国会議員の行為イ内閣総理大臣の行為ウ損害(3) 原告P1の国家賠償請求第3 争点に関する当事者の主張 1 争点(1)ア(ア)(給与改定・臨時特例法は,人事院勧告に基づいていないことにより憲法28条等に違反するか)【原告らの主張】 (1) はじめに国家公務員の労働基本権制約を正当化するには,憲法28条との関係で「代償措置」が必要となる。そして,現行法の下において,給与水準決定に際して,この代償措置と実質的にいい得るのは,情勢適応の原則に則った人事院勧告制度である。労働基本権制約の代償措置である人事院勧告に基づかずに,給与減額を内容とする立法を行うことは,憲法28条の労働基本権保障を無意味にするものであり,当該立法は違憲・無効である。 (2) 実質的な代償措置は人事院勧告しかないことアそもそも,憲法28条が公務員を含むすべての国民に基本的人権の一つとして労働基本権を保障しているにもかかわらず ,当該立法は違憲・無効である。 (2) 実質的な代償措置は人事院勧告しかないことアそもそも,憲法28条が公務員を含むすべての国民に基本的人権の一つとして労働基本権を保障しているにもかかわらず,国家公務員のスト権や団体交渉権を制約していることは,1日も早く解決すべき問題であるが,最高裁昭和48年4月25日大法廷判決・刑集27巻4号547頁(以下「全農林警職法事件大法廷判決」という。)は,労働基本権保障の意義と国民全体の共同利益の擁護との調整の観点から代償措置の存在を理由として労働基本権制約を合憲としている。 イそして,同判決は,労働基本権保障の意義と国民全体の共同利益の擁護との調整の観点から「相応の措置」の必要性を説くくだりにおいて,人事院勧告制度を中心とした代償措置の存在を,現行法下における国家公務員に対する労働基本権制約の合憲性を支える不可欠の条件として位置付けている。憲法28条の労働基本権保障との関係において,情勢適応の原則に則った人事院勧告制度は代償措置の中心に位置付けられるべきものである。 ウこの点,被告は,人事院勧告制度のほかにも,国公法による国家公務員の身分保障,人事院の設置(及びその下における勤務条件法定,行政措置要求,審査請求)が代償措置として存在する旨主張する。 しかし,国公法制改定の経緯に照らせば,国家公務員の身分保障制度等は,労働基本権制約とは直接の関わりなく,日本国憲法下での公務員制度 創設の当初から設けられたものであって,労働基本権制約の代償措置として設けられたものではない。 また,確かに,全農林警職法事件大法廷判決は,代償措置として,人事院勧告制度のほか,勤務条件の法定,行政措置要求,不利益処分に関する審査請求を挙げており,その意味において同判決は,争議行為の禁止を含む労働基本権の制 林警職法事件大法廷判決は,代償措置として,人事院勧告制度のほか,勤務条件の法定,行政措置要求,不利益処分に関する審査請求を挙げており,その意味において同判決は,争議行為の禁止を含む労働基本権の制約と合わせて国公法に導入されたのは人事院勧告制度のみであるという国公法制改定の経緯を必ずしも正確に捉えていない。しかし,人事院勧告制度を代償措置の中心とした判断であることは,判決文から十分に読み取れるというべきである。 (3) 人事院勧告は国会や内閣を法的に拘束するものであることア情勢適応の原則国家公務員は全体の奉仕者であって(憲法15条),時の政治権力に左右されず法律に基づき行政をなすべく,公務の中立性が確保されなければならない。公務の中立性の要請及びその担当する職務の重要性に鑑みて,国家公務員の給与は,継続性があり安定していることが求められている。 逆に,政権が交代するたびに,あるいは,政権を取るために,給与の引下げ競争のようにして,給与を増減させることは許されない。 国家公務員の給与水準の増減を決定するシステムにおいては,その増減の基準は客観的なものでなければならない。これまでの歴史的経過から極めて長期にわたり,その基準として「情勢適応の原則」に基づき「民間労働者の水準」としてきた以上,行政も立法も司法もその水準の範囲内で判断すべきは当然である。 情勢適応の原則とは,全体の奉仕者たる国家公務員の在り方を念頭に置きつつ,これら国家公務員の勤務条件が,わが国の社会,経済上の一般情勢の変化に応じ,適宜機動的に定められるべきものであることを表明したものであり,同時に,労働基本権が制約された職員の勤務条件をそれによ って保障する意義を有している。 国公法28条1項は国会に国家公務員の給与の変更の権限を与えてい 明したものであり,同時に,労働基本権が制約された職員の勤務条件をそれによ って保障する意義を有している。 国公法28条1項は国会に国家公務員の給与の変更の権限を与えているが,その権限の範囲は法律により明記されている「情勢適応の原則」,すなわち国公法64条2項の「民間の賃金」との較差是正の範囲を超えることは許されない。 イ勤務条件法定主義勤務条件法定主義は,国公法28条1項で「情勢適応の原則」と一体のものとして定められており,同項後段の人事院勧告制度と相俟って,労働基本権制約の代償措置としての意義を持つものである。 そうであるとすれば,「勤務条件法定」も「情勢適応の原則」に基づくものでなければならない。そして,国公法28条1項と同法64条2項によってその法定の際の基準とされる「民間準拠の原則」は,給与決定の「憲法の趣意」としての位置付けを有する大原則であり,この大原則を超えて給与を減額することは許されない。 ウ人事院勧告制度公務の中立性の要請から,「情勢適応の原則」に基づく民間準拠の給与水準は,内閣から独立した専門的人事行政機関である人事院が調査し,内閣及び国会に勧告するものとされている。同時に,それは労働基本権制約を合憲とするための不可欠の代償措置である。 このことを踏まえて,「法律の定める基準に従い,官吏に関する事務を掌理する」(憲法73条4号)使用者である内閣は,人事院勧告を最大限尊重すべき義務を憲法上負っている。 国権の最高機関である国会は,勧告が内閣によってないがしろにされることなく最大限尊重されるように厳重に監視する役割を負っている。上記イの勤務条件法定主義も,この観点からの帰結である。 このように,人事院勧告制度は「憲法の趣意」(全農林警職法事件大法 廷判決)に基づく 限尊重されるように厳重に監視する役割を負っている。上記イの勤務条件法定主義も,この観点からの帰結である。 このように,人事院勧告制度は「憲法の趣意」(全農林警職法事件大法 廷判決)に基づくものである。そして,それが本来の機能を発揮するには,給与法の改定に先立ち勧告が示されていなければならないから,給与法案を国会が可決するには,人事院勧告が前置していなければならない。 エ憲法28条等に違反すること国公法28条2項後段は,人事院が,内閣だけでなく,国会に対しても勧告しなければならないと規定していること,国公法28条で規定される情勢適応の原則及び勤務条件法定主義の意義や機能に照らせば,人事院勧告は国会及び内閣を法的に拘束するものであり,人事院勧告がその勧告のとおり実施されない場合には,代償措置がその本来の機能を喪失したといえる。そして,憲法28条に基づき,給与法案を作成・提出する内閣総理大臣及びこれを可決成立させる国会議員には,人事院勧告の限度で国家公務員の給与を減額する義務がある。したがって,本件において,国会議員が給与改定・臨時特例法を可決成立させた行為は,憲法28条に違反し,内閣が人事院勧告どおりの法案を提出しなかったことは,憲法28条,72条,73条4号に違反する。 【被告の主張】(1) はじめに原告らが主張するように,国家公務員の給与を減額する場合には人事院勧告に基づき,かつ,その限度でなければならないということが憲法28条により義務付けられていると解することはできないから,原告らの主張は,その前提において失当である。 (2) 代償措置は人事院勧告制度に限られないこと全農林警職法事件大法廷判決は,労働基本権を制約することに見合う代償措置として,人事院勧告制度のほかに,法律により公務員の身分,任免,服 である。 (2) 代償措置は人事院勧告制度に限られないこと全農林警職法事件大法廷判決は,労働基本権を制約することに見合う代償措置として,人事院勧告制度のほかに,法律により公務員の身分,任免,服務,給与その他に関する勤務条件について周到詳密な規定を設けていることや,人事院に対する行政措置要求制度,不服審査制度等が存することなどを 具体的に指摘している。 (3) 人事院勧告がそのとおりに実施されない場合であっても,直ちに代償措置がその本来の機能を喪失したものとはいえないことア(ア) 確かに,公務員の労働基本権が制約されている現状において,人事院勧告制度は,国家公務員の労働基本権を制約する代償措置として重要なものの一つであり,尊重することが求められるものであること自体は否定し得ない。 しかしながら,国家公務員の給与を定めるに当たり,憲法が許容する範囲内で具体的にどのような内容のものを構築するかについては,立法府に裁量が与えられている。現行法制における人事院勧告は,文字どおり「勧告」として制度設計されているものであり,内閣や国会を拘束するものではない。そして,国公法28条は,給与等の勤務条件について,国会が「社会一般の情勢に適応するように,随時これを変更することができる。」と規定し,高度に政治的政策的判断を伴う国家公務員の給与の改定について,国民の代表たる国会の場で立法により最終的に決定されることを要求している。そして,全農林警職法事件大法廷判決は,かかる内容の人事院勧告制度を代償措置の一つとする現行法上の公務員の労働基本権の保障に関する法状態について,その憲法適合性を肯定しているのである。 (イ) このように,人事院勧告制度は,国家公務員の労働基本権を制約する代償措置の一つとして重要であるものの,前記(2)のとおり代償 に関する法状態について,その憲法適合性を肯定しているのである。 (イ) このように,人事院勧告制度は,国家公務員の労働基本権を制約する代償措置の一つとして重要であるものの,前記(2)のとおり代償措置はそれに限られるものではない上,人事院勧告には内閣や国会に対する法的拘束力まではなく,国家公務員の給与等を含む勤務条件は最終的には国会の立法により決定されるものであることを考慮すれば,人事院勧告がそのとおり実施されないことをもって,直ちに代償措置がその本来の機能を喪失したといえるものではないし,憲法上,国会が人事院 勧告どおりの立法をすることが一義的に義務付けられているものでもない。 そして,政治的,財政的,社会的その他諸般の合理的事情から,一時的に人事院勧告とは異なる給与水準を決定する必要性が生ずる場合も否定できないのであるから,労働基本権の制約を受ける公務員について,法によって設けられた代償措置による保障機能を侵害しない限度において,政治的,財政的,社会的その他諸般の合理的事情に照らし,人事院勧告に基づかない措置を講ずる必要性があり,その措置が一時的なもので内容的にも合理性が認められる場合には,人事院勧告のとおりの給与改定が行われず,人事院勧告に基づかない給与減額支給措置が講じられたとしても,それが直ちに代償機能の喪失と評価され,違憲となるものではないというべきである。 (ウ) 本件についてみるに,給与改定・臨時特例法は,国の厳しい財政事情と東日本大震災への対処の必要性に鑑み,2年間という限定された期間の臨時措置として,特例法の形式で立案されたもので,減額率についても,地方公共団体における特例減額の例を参考とし,給与の絶対額の少ない若年層に対して減額率も配慮を加えるなど,内容的にも合理性を有するものである。 また,政 形式で立案されたもので,減額率についても,地方公共団体における特例減額の例を参考とし,給与の絶対額の少ない若年層に対して減額率も配慮を加えるなど,内容的にも合理性を有するものである。 また,政府は,給与改定・臨時特例法のうち国家公務員の給与の臨時特例に係る部分の内容的な基礎となった給与臨時特例法案の立案に当たっては,憲法との関係につき,過去の判例などを参照しつつ十分に検討を重ねている。すなわち,全農林警職法事件大法廷判決にいういわゆる「画餅論」や,その当てはめ事例となった最高裁平成12年3月17日第二小法廷判決・裁判集民事197号465頁(以下「最高裁平成12年判決」という。)等についても詳細に分析した上で,総務省内での検討を重ね,内閣法制局における慎重な審査を受け,関係府省との協議を 経た上で総務大臣より閣議請議を行い,最終的に内閣として憲法に反するものではないとの判断の下,給与臨時特例法案を閣議決定し,国会に提出したものである。 (エ) したがって,給与改定・臨時特例法には,その立法の必要性や内容の合理性が認められることはもとより,法によって設けられた代償措置による保障機能を侵害するものではないというべきであるから,本件給与減額支給措置が人事院勧告に基づかないで実施されたとの一事をもって,違憲・無効であるとする原告らの主張は失当である。 (オ) なお,給与改定・臨時特例法に基づく給与減額支給措置は,平成26年3月31日までの2年間の措置とされていたところ(同法9条等参照),平成25年11月15日,政府は人事院勧告制度を尊重するという基本姿勢の下,同措置について,同法の規定どおりに終了する旨を閣議決定した(平成25年11月閣議決定)。 イまた,原告らは,国公法28条1項,64条1項の定める情勢適応の原則に照らせば るという基本姿勢の下,同措置について,同法の規定どおりに終了する旨を閣議決定した(平成25年11月閣議決定)。 イまた,原告らは,国公法28条1項,64条1項の定める情勢適応の原則に照らせば,民間の賃金との較差是正の範囲を超えて,国家公務員の給与を減額することは許されない旨主張する。 しかしながら,国家公務員の勤務条件の改定に当たっては,国家公務員の「給与の財源が国の財政とも関連して主として税収によって賄われ,私企業における労働者の利潤の分配要求のごときものとは全く異なり,その勤務条件はすべて,政治的,財政的,社会的その他諸般の合理的な配慮により適当に決定されなければならず,しかもその決定は民主国家のルールに従い,立法府において論議のうえなされるべきもの」(全農林警職法事件大法廷判決)である。また,情勢適応の原則とは全体の奉仕者である公務員の在り方を念頭に置きつつ,公務員の勤務条件が,国の社会,経済上の一般情勢の変化に応じ適宜機動的に定められるべきものであることを表明したものであって,原告らが主張するように民間との較差是正のみを意 味するものではない。 そうすると,人事院勧告を尊重するのが基本であるとしても,国の厳しい財政事情や東日本大震災という未曾有の国難に対処するため,国家公務員について,法によって設けられた代償措置による保障機能を侵害しない限度において,期間を区切って一時的に人事院勧告に基づかない立法等を行うことも,その必要性があり,その内容が合理的なものである限り,許容されると解すべきである。 したがって,民間賃金との較差是正の範囲を超える立法はおよそ許されないとする原告らの主張は,全農林警職法事件大法廷判決及び情勢適応の原則を正解しないものであって,失当である。 ウ以上からすれば,人事院勧告が内閣及び国 の較差是正の範囲を超える立法はおよそ許されないとする原告らの主張は,全農林警職法事件大法廷判決及び情勢適応の原則を正解しないものであって,失当である。 ウ以上からすれば,人事院勧告が内閣及び国会を法的に拘束することを前提に,内閣及び国会において人事院勧告に基づかず,給与改定・臨時特例法を制定したことをもって,直ちに代償措置がその機能を喪失したとし,憲法28条等に違反するとする原告らの主張は,その前提を誤るものであって,失当である。 2 争点(1)ア(イ)(給与改定・臨時特例法は立法の必要性がないこと又は立法内容が合理性を欠くことによって憲法28条等に違反するか)【原告らの主張】(1) はじめにア人事院勧告に基づかない給与減額支給措置を定める立法は,憲法28条による立法裁量を逸脱するものであって,違憲・無効であるが,仮に,人事院勧告に基づかない給与減額支給措置が合憲となる場合があるとしても,そのためには,実体的要件として,民間労働者に適用される「就業規則による労働条件の不利益変更法理」と同等の要件が満たされなければならない。すなわち,給与減額について「高度の必要性に基づく合理性」が存在することが必要である。 この点,労働者の合意によらない労働条件の不利益変更に関しては,確立した判例(最高裁平成9年2月23日第二小法廷判決・裁判集民事181号539頁,以下「最高裁平成9年判決」という。)によれば以下の要件を総合的に考慮して,その法的効力を判断すべきものとされている。 ① 「労働者が受ける不利益の程度」(不利益が大きいほど,強い必要性が要求される。)② 「労働条件の変更の必要性」(財政的な必要性の存在,特に賃金などの引き下げに関しては高度の必要性を要する,具体的な財政的なシミュレーション 」(不利益が大きいほど,強い必要性が要求される。)② 「労働条件の変更の必要性」(財政的な必要性の存在,特に賃金などの引き下げに関しては高度の必要性を要する,具体的な財政的なシミュレーションが必要とされている。)③ 「内容の相当性」(新しく変更された制度が合理的・相当であること,また著しい不利益を受ける人には激変緩和措置や代償措置などが講じられること。)④ 「労働組合との交渉の状況」(労働者・労働組合に対して,十分納得できるだけの財政資料を提示し,十分な説明を行い誠実に協議すること。)本件においては,個人原告ら「労働者が受ける不利益の程度」を前提として,「高度の必要性」,「内容の相当性」等の要件が検討されなければならない。 イまた,人事院勧告に基づかないで給与を減額する場合は,情勢適応の原則,勤務条件法定主義の趣旨に照らし,代償措置が機能を喪失したか否かに関して,人事院勧告に基づく給与改定の見送りないし一部実施の場合に比べて,厳格に合憲性が判断されなければならない。 ウ国家公務員の労働基本権制約の「代償措置」の設定について立法府に一定の裁量があるとしても,代償措置が全く機能しない状況を敢えて作り出し,その下で給与減額の立法化を図ることは憲法上許されない。「代償措置」の設定についての立法府の権限も,あるいは,財政民主主義に基づく 国家公務員の給与決定に関する立法府の権限も,憲法28条の労働基本権保障から導かれる内在的制約を受けるというべきである。 (2) 個人原告らが被った不利益の重大性給与減額支給措置は,平均7.8%,一時金も一律9.77%の大幅な減額である。個人原告らの給与は,年間数十万円から100万円もの減額となる。本件の給与減額支給措置が平成26年3月で終了した現段階で 給与減額支給措置は,平均7.8%,一時金も一律9.77%の大幅な減額である。個人原告らの給与は,年間数十万円から100万円もの減額となる。本件の給与減額支給措置が平成26年3月で終了した現段階では,2年間の累積で最大200万円以上の甚大な被害となった。 (3) 高度の必要性が存在しないことア被告の主張する「厳しい財政事情」とは,公債発行額や公債依存度,公債残高の大きさのみから財政事情をみるもので,一般論に過ぎず,一面的である。本件で問題となっているのは,年間約2900億円の給与減額の問題であり,一般論として「我が国の厳しい財政事情」を論じても意味がない。国の財政事情及びその国家公務員の給与との関係を客観的に見れば,国家公務員の給与を2年間で約5800億円削減することが必要となるほどの「厳しい財政事情」にあったとはいえない。 イ本件の給与減額支給措置は,東日本大震災と無関係に,P10党マニフェストに基づき検討され,閣議決定もされていたもので,東日本大震災がなくても実施される予定の既定路線であった。東日本大震災の復興に対処するという給与減額支給措置の「必要性」は,後付けの口実に他ならない。 この点について,5月13日に行われたP2との第1回交渉において,片山善博総務大臣(以下「片山総務大臣」という。)は,「今回の措置は震災の復興財源確保を前提にするものではない。」と述べているところである。 政府が原告P1等に対して1割減額の給与減額支給措置を提案した5月13日の時点では,復興事業の規模も,復興事業の期間を「復興期間」と「集中復興期間」に分けることも,それぞれの期間に復興財源をどう確保 するのかも決まっていなかった。政府は,震災復興を給与減額の理由としながら,震災復興の「基本政策」すらまとまらないうちに,国家公務員の給 」に分けることも,それぞれの期間に復興財源をどう確保 するのかも決まっていなかった。政府は,震災復興を給与減額の理由としながら,震災復興の「基本政策」すらまとまらないうちに,国家公務員の給与減額支給措置のみを先行して決定した。 政府は,平成23年度,震災復興のためとして3次にわたり約15兆円の補正予算を組んだ。ところが,その執行においては,震災復興とは何ら関係のない「流用」が多々指摘されている。 平成24年末に成立した安倍内閣は,「アベノミクス」の名の下に,13.1兆円の平成24年度補正予算を組み,大型公共事業などに財政支出を行い,平成24年度から導入された復興特別法人税は,当初3年間の予定で税額の10%を追加徴収するものであったが,平成25年12月に,1年前倒しで廃止することが決定された。しかし,平成24年4月に給与減額支給措置が開始されてから,1年足らずの間に抜本的に財政状況が変化することはあり得ない。震災復興のために国家公務員の給与減額支給措置が必要であったというのは,こうした同措置後の事情に照らしても,根拠のないものである。 (4) 合理性・相当性が存在しないことア国の財政状況を好転させる方法には,歳入を拡大する方法,歳出を削減する方法の双方があり得る。仮に「一層の歳出の削減が不可欠」(給与改定・臨時特例法1条)であるとしても,歳出の項目は多数ある。その中で,国家公務員の給与減額支給措置をとらなければならない理由について,被告は何ら主張しない。「我が国の厳しい財政状況及び東日本大震災に対処する必要性」は,歳出の削減を要求するとしても,国家公務員の給与減額支給措置を必然的に要求するものではない。歳出削減の方法として給与減額支給措置を選んだことに,何ら合理的理由はない。 イまた,国家公務員の給与減額支給措置は 要求するとしても,国家公務員の給与減額支給措置を必然的に要求するものではない。歳出削減の方法として給与減額支給措置を選んだことに,何ら合理的理由はない。 イまた,国家公務員の給与減額支給措置は,給与所得にかかる所得税収を減らすなど財政健全化も阻害するし,公務員家計の消費支出を減らし景気 悪化要因ともなる。このように給与減額支給措置は,復興財源確保策としてそもそも有効性の低い政策である。 ウ被告は,給与減額支給措置が「地方公共団体における減額支給措置も参考としつつ,平均7.8パーセントという減額率」であることを合理性の一つの根拠として主張するが,本件の給与減額支給措置は,地方公共団体における同措置よりも減額幅が大きく,地方において一般的といえる給与減額支給措置とは異なる。被告の主張するところは,要するに,地方公共団体における給与減額支給措置を参考にしたというのは,せいぜい地方公共団体で8~10%程度の削減を行っているところも一部あることを確認したというにすぎない。 エ本件では,給与減額支給措置の実施に当たって他の労働条件の改善など代償措置は全くとられていない。個人原告らは,ただ給与減額支給措置による不利益だけを被っている。 オ国家公務員について給与減額支給措置を実施した場合には,独立行政法人や地方公務員にも影響が生じる。現に国立大学法人においては,政府・文部科学省が運営費交付金の削減等によって職員の賃金を減額するよう圧力をかけ,その結果,国立大学法人が職員の合意を得ることなく給与の減額支給措置を強行している。 (5) 時限的措置は後付けの理由にすぎないこと被告は,「2年間という限定された期限を設け」ていることを給与減額支給措置の合理性の一つの根拠として主張する。しかし,被告の主張は,後付けの理屈であり合理性を 限的措置は後付けの理由にすぎないこと被告は,「2年間という限定された期限を設け」ていることを給与減額支給措置の合理性の一つの根拠として主張する。しかし,被告の主張は,後付けの理屈であり合理性を欠く。 総務省が国家公務員の給与減額支給措置の検討を始めたという平成22年11月の時点では,将来的には人事院を廃止し,「自律的労使関係制度」の名の下に,人事院勧告によらずに給与改定ができる仕組みを導入することが検討されており,「2年間の限定」など全く念頭に置かれていなかった。 給与減額支給措置における「2年間」というのは,人事院の廃止を前提とした自律的労使関係制度創設までの,いわば「つなぎ」に過ぎず,人事院勧告に基づかない同措置の合憲性を担保するための限定の意味はない。被告の主張は,その後,自律的労使関係制度の創設が見送られ,給与減額支給措置が議員立法により単独で行われることとなったために,後付けで加えられた理由に他ならない。 政府は,平成25年11月閣議決定に至り,ようやく給与減額支給措置を法の規定どおり2年間で終了することを決定した。政府は,決して2年間の時限立法であることを理由として合憲性が保たれるという姿勢をとってきたわけではない。 【被告の主張】(1) 給与改定・臨時特例法には合理的な立法事実が存在することア給与改定・臨時特例法は,同法1条に定められているとおり,「我が国の厳しい財政状況及び東日本大震災に対処する必要性に鑑み」定められたものであり,以下のとおり,給与改定・臨時特例法が可決・成立した当時の国の財政状況や東日本大震災に対処する必要性に鑑みれば,国家公務員の給与減額支給措置を講じることには合理的な理由があった。 イすなわち,給与改定・臨時特例法成立の時点における顕著な事実として,国の公債依存度(一 日本大震災に対処する必要性に鑑みれば,国家公務員の給与減額支給措置を講じることには合理的な理由があった。 イすなわち,給与改定・臨時特例法成立の時点における顕著な事実として,国の公債依存度(一般会計総額に占める公債発行額の割合)は平成23年度は51.9%,平成24年度当初予算は49.0%にも達しているほか,公債発行残高も平成23年度末は676兆円(確定値は670兆円),平成24年度末時点見込みは709兆円(確定値は705兆円)に上り,その金額は一般会計税収の約17年分に相当するという極めて厳しい財政事情にあった。 ウ政府としては,平成22年6月に閣議決定した「財政運営戦略」において,国の財政事情について,「歳出が税収等を大きく上回る状態が恒常的 に続き,過去20年間で我が国の国債残高は470兆円増加している。」との認識を示すとともに,平成23年度予算に係る具体的な取組として,「平成23年度予算の概算要求組替え基準について」(平成22年7月27日閣議決定)に基づき,「ムダづかいの根絶の徹底や不要不急な事務事業の大胆な見直しにより,新たな政策・効果の高い政策に重点配分する財源を確保することが必要である。」として,予算の構造改革に取り組むこととしていた。そして,これを踏まえて,平成23年度予算においては,事業仕分けの適切な反映,独立行政法人の事務・事業見直しといった他の取組に加えて,政府全体としての歳出削減の取組の一環として,国家公務員人件費の削減に取り組むこととした。 さらに,政府としては,前記のような財政状況の厳しさゆえ,行政改革にも極限まで取り組んでいる状況であった。このうち,国家公務員の定員については平成18年度から初めて「純減」の目標数値を定めた取組を開始し,平成22年には新規採用抑制の方針を閣議決定し,自衛官 革にも極限まで取り組んでいる状況であった。このうち,国家公務員の定員については平成18年度から初めて「純減」の目標数値を定めた取組を開始し,平成22年には新規採用抑制の方針を閣議決定し,自衛官などを除いた平成23年度の国家公務員新規採用者数について,前年度比40%減とすることを政府方針として決定し,取り組んだのである。 エこうした状況下で,3月11日に東日本大震災が発生し,復興財源確保の観点からも,給与の特例減額の必要性は一層高まった。その復旧・復興に当たっては,「東日本大震災からの復興基本方針」(7月29日東日本大震災復興対策本部)において,平成27年度末までの「集中復興期間」に実施される施策・事業の事業規模については,国・地方(公費分)合わせて少なくとも19兆円程度が見込まれることとなった。この金額は,平成24年度に見込まれる一般会計における税収42兆円と比較しても,巨額というべきである。 このような事態に対し,政府としては,東日本大震災の復旧・復興事業に充てる財源を確保するため,公務員人件費の見直しのほか,歳出の削減, 国有財産の売却,特別会計等の見直し,更なる税外収入の確保及び時限的な税制措置等を行うこととした。 オ以上のような事情に照らせば,給与改定・臨時特例法制定当時の国の財政状況が,最高裁平成12年判決が是認した東京高裁平成7年2月28日判決(判例タイムズ877号195頁)が基礎とする,昭和57年当時の「未曾有の危機的な状況」と比べても明らかに厳しい状況にあったというべきであり,各種の歳出削減策を講じても,なお一層の削減策が求められる状況にあった。 政府において,職員団体との交渉も経て給与臨時特例法案の立案を検討し,また,国会において,本件人事院勧告に基づく給与改定を行うことに加え,平成25年度末ま 一層の削減策が求められる状況にあった。 政府において,職員団体との交渉も経て給与臨時特例法案の立案を検討し,また,国会において,本件人事院勧告に基づく給与改定を行うことに加え,平成25年度末までの限定した期間において国家公務員の給与減額支給措置を行う旨の内容の給与改定・臨時特例法を制定するという形で歳出を削減することもやむを得ないと判断した一連の経緯は,かかる事情を踏まえたものである。 カこのように,給与改定・臨時特例法が可決・成立した当時,国の財政事情は極めて厳しい状況にあったことに加え,3月11日に東日本大震災が発生し,その復旧・復興に当たって,政府として巨額の財源確保が必要となり,公務員人件費を含め様々な歳出削減・歳入確保のための措置を講じる必要が生じた。そして,実際に,給与減額支給措置に伴う給与削減相当額が,東日本大震災復興特別会計に繰り入れられ,復興財源に充てられている。したがって,国の厳しい財政事情及び東日本大震災に対処する必要性といった給与改定・臨時特例法の立法事実に合理性・必要性が認められることは明らかであって,原告らの主張には理由がない。 (2) 給与改定・臨時特例法の内容が合理性を有すること前記1【被告の主張】(3)アのとおり。 (3) 原告らの主張に対する反論ア人事院勧告に基づかない給与減額支給措置については,厳格に合憲性を判断すべき旨の主張について人事院勧告に基づかない給与減額支給措置の場合に,人事院勧告に基づく給与改定の見送りないし一部実施の場合と比べて,何ゆえに,その合憲性判断基準が変更されることとなるのか,その根拠は不明といわざるを得ない。 その点はおくとしても,原告らの主張は,国家公務員の給与を減額する場合には,人事院勧告 の場合と比べて,何ゆえに,その合憲性判断基準が変更されることとなるのか,その根拠は不明といわざるを得ない。 その点はおくとしても,原告らの主張は,国家公務員の給与を減額する場合には,人事院勧告に基づき,かつ,その限度でなければならず,そうでない場合は,直ちに「代償措置が機能を喪失した」場合に該当し,このような措置は憲法28条に違反すると解すべきであるとの理解が前提となっているものと思われるが,給与を減額する場合に人事院勧告に基づき,かつ,その限度でなければならないということが憲法上の義務とはいえない。 イ給与減額支給措置に最高裁平成9年判決の法理が適用される旨の主張について上記最高裁判決は,私企業において,賃金等の労働条件に実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更が有効とされた事例であるが,私企業の労使関係と国家公務員の任用関係とはその法的性質に大きな差異が存するので,これらの差異を無視して上記判例法理が国家公務員に妥当すると解することはできない。このことは,労働契約法22条が,国家公務員を適用除外としていることからも明らかである。 ウ給与減額支給措置の必要性を肯定する根拠がない旨の主張について原告らは,公債依存率が高いまま多額の歳出予算を成立させたことや,他に財源があることなどを指摘し,「給与減額支給措置の必要性を肯定する根拠がない」旨主張する。 しかしながら,前記(1)のとおり,国の財政状況が悪化してい たところに,東日本大震災が発生したことにより,財源の確保が喫緊の課題となっていたことは明らかである。国家公務員の給与は主として国民の税金によって賄われているのであるから,各種の歳出削減措置を講じる一環として,給与減額支給措置を行うことも,その措置が 保が喫緊の課題となっていたことは明らかである。国家公務員の給与は主として国民の税金によって賄われているのであるから,各種の歳出削減措置を講じる一環として,給与減額支給措置を行うことも,その措置が一時的なもので内容的にも合理性が認められる場合は立法府の裁量判断として一定の限度で許容されるものといわなければならない。 そして,前記(1)のとおり平成25年度末までの限定した期間において,臨時的な措置として給与の減額を行うものとした給与改定・臨時特例法には必要性・合理性があるものというべきである。したがって,原告らの当該主張に理由はない。 エ東日本大震災に対する対処の必要性が後付けの口実である旨の主張について原告らは,5月13日に行われたP2との第1回交渉における片山総務大臣の発言などを根拠に,東日本大震災の復興に対処するという給与減額支給措置の「必要性」は後付けの口実に他ならない旨主張する。 しかしながら,給与減額支給措置の目的は国の厳しい財政事情及び東日本大震災に対処することにあり,その旨が給与改定・臨時特例法1条に明記されていることは,これまで繰り返し主張したとおりである。また,原告らが指摘する片山総務大臣の発言は,その交渉において,P2のP11委員長の「復興財源は,国家公務員の賃金の一部をカットして確保できる金額とは桁違いであり,それに見合った財源論議が必要だ」という趣旨の発言に対し,人件費を削減するための措置について検討し,必要な法案を次期通常国会から,順次,提出することとした平成22年11月閣議決定の段階では,復興財源の確保を前提としていたものではないが,復興財源確保の全体像が描かれるのを待たずとも,議論を開始することは相当であるという趣旨を述べたものにすぎない。そして,同日の交渉で,片山総務大臣は ,復興財源の確保を前提としていたものではないが,復興財源確保の全体像が描かれるのを待たずとも,議論を開始することは相当であるという趣旨を述べたものにすぎない。そして,同日の交渉で,片山総務大臣は「我が国は厳しい 財政事情にあり,特に今般の東日本大震災の発生とそれへの対処を考えれば,歳出削減は不可欠だ」という趣旨の発言をしていることからすれば,当時から東日本大震災への対処を目的として給与臨時特例法案について交渉を行ってきたことは明白である。したがって,原告らの上記主張には理由がない。 オ復興予算の「目的外」支出が横行している旨の主張について給与減額支給措置に伴う給与削減相当額が,東日本大震災復興特別会計に繰り入れられ,復興財源に充てられていることは前記(1)カで述べたとおりであり,また,復興関連予算については,被災地の復旧・復興に直接資するものを基本とし,使途の厳格化を行うこととしている。 3 争点(1)ア(ウ)(本件の団体交渉について違憲・違法な点が認められるか,また,それによって給与改定・臨時特例法が憲法28条等に違反するか)【原告らの主張】(1) 政府の団体交渉義務ア労働者の団結権,団体交渉権,団体行動権(争議権)を保障する憲法28条の「勤労者」には国家公務員も含まれることについて異論はない。憲法28条が保障する団体交渉権は,被告が主張するような労働条件の共同決定を前提とするものではない。労働条件の決定方式の如何にかかわらず,「労働者の集団または労働組合が代表者を通じて使用者または使用者団体の代表者と労働者の待遇または労使関係上のルールについて合意を達成することを主たる目的として交渉を行う」権利と解される。 イ本件のように人事院勧告に基づかない給与減額支給措置を行う場合には,使用 の代表者と労働者の待遇または労使関係上のルールについて合意を達成することを主たる目的として交渉を行う」権利と解される。 イ本件のように人事院勧告に基づかない給与減額支給措置を行う場合には,使用者たる政府は,同措置について労働者・労働組合の合意を得るか,少なくとも合意を得るために交渉を尽くすことがより一層求められる。このように解することは,財政民主主義及び勤務条件法定主義と相反するものではない。勤務条件を最終的に法律・予算という形で決定する国会の権限を侵さない限り,その前提として労使で給与の内容を合意することは許容 される。 ウところが,本件の給与減額支給措置の根拠である給与改定・臨時特例法は,平成24年2月17日の3党合意に基づく議員立法として同月22日に国会に提出され,同月29日には可決成立したのであり,全く事前に国家公務員を組織する労働組合との団体交渉を経ていない。被告は,給与改定・臨時特例法と同様の内容の給与臨時特例法案の国会提出前に,職員団体との団体交渉を経ている旨主張するが,両法案は,その理念や提案された前提条件が異なっており,同様のものではない。その上,給与臨時特例法案の国会提出前の原告P1との交渉においても,およそ被告の誠実交渉義務が尽くされたといえない。 エ団体交渉に際して,使用者は単に労働組合の要求や主張を聞くだけでなく,それら要求や主張に対しその具体性や追及の程度に応じた回答や主張をなし,必要によってはそれらにつき論拠を示したり必要な資料を提示する義務があり,使用者には,合意を求める労働組合の努力に対しては,そのような誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務がある。したがって,使用者に以下のような交渉態度のいずれかが見られる場合には,その交渉は,憲法28条の団体交渉権に基づく誠実交渉義務 は,そのような誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務がある。したがって,使用者に以下のような交渉態度のいずれかが見られる場合には,その交渉は,憲法28条の団体交渉権に基づく誠実交渉義務を果たしたものとはいえない。 ① 拒否回答や一般論のみで議題の内容につき実質的検討に入ろうとしない交渉態度② 労働組合の要求・主張に対して具体的に資料提示するなどして実質的な回答・説明を行っていない場合③ 合意達成の意思のないことを当初から明確にした交渉態度オまた,複数の労働組合が併存する場合において,使用者はいずれの労働組合をも平等に取り扱う義務を負っている(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号730頁)。 カさらに,使用者が,自ら提案の条件として提示した約束を反故にした場合には,交渉中から真摯に提案理由を説明せず約束を守る気がなかったと推認され,誠実交渉義務を果たしたとはいえない。 (2) 給与減額理由について具体的な説明を一切行っていないことア政府は,5月13日の交渉で,原告P1に対して,「平成25年度末まで,俸給,ボーナスの1割減額を基本として引き下げる。」という具体的な給与減額の提案を初めてした。 そして,政府は,同月17日の2回目の交渉では,「一般職国家公務員の給与減額支給措置要項(案)」を提示した。 イこれに対して,原告P1は,憲法違反の手法に対する抗議に加えて,大幅に賃金を減額する必要性(理由)がないことを重視して臨み,政府に対して,以下の4点の基本的な問題を指摘し,納得のいく説明を求めた。 ① 財政事情と総人件費2割削減方針との関係(財政破綻の原因や責任の所在を明らかにし,再建に向けた全体計画を明らかにした上で提案すべき)を明確にすること。 ② 民間労働者への波及は避 を求めた。 ① 財政事情と総人件費2割削減方針との関係(財政破綻の原因や責任の所在を明らかにし,再建に向けた全体計画を明らかにした上で提案すべき)を明確にすること。 ② 民間労働者への波及は避けられず,地域経済や景気に及ぼす影響も大きく,大震災で消費マインドが冷え込む中での政策として問題であること。 ③ 被災地で自らのことを後回しに奮闘している職員への挑戦ともいえるようなやり方ではなく,緊急増員を含む行政体制の拡充こそ今政府としてやるべきことであること。 ④ 「自律的労使関係制度の先取り」といいながら,一方的に閣議決定されても対抗手段がない以上,現行制度によらない給与減額提案は決定ルールとして重大な問題であること。 ウこれに対して,政府は,5月17日(第2回),同月20日(第3回),同月27日(第5回)にP12総務大臣政務官(以下「P12政務官」と いう。),同月25日(第4回)にP13人事・恩給局長,6月2日(第6回)に片山総務大臣が交渉に応じたが,形式的に交渉の回数を重ねただけで,政府は,前述の重要な疑問には全く応えないまま,交渉を打ち切り,給与臨時特例法案を閣議決定した。 (3) 当初から合意達成の意思のない交渉態度ア政府は,第2回交渉で,給与減額の幅について5%,8%,10%という差を設ける提案を提示した後は,いっさいの譲歩案を示さなかった。 イ政府の姿勢は,具体的な資料を提示することもせずに,ただひたすら原告P1に「理解」と「協力」を求めるというもので,およそ最初から譲歩の意思を全く欠いていたものであった。この政府と原告P1との交渉は,人事院勧告に全く基づかず人事院勧告よりも前に給与減額支給措置の法案を国会に提出するという,憲法上の疑義を政府自身認めていた重大な事項を内容とする交渉である。それにも この政府と原告P1との交渉は,人事院勧告に全く基づかず人事院勧告よりも前に給与減額支給措置の法案を国会に提出するという,憲法上の疑義を政府自身認めていた重大な事項を内容とする交渉である。それにも関わらず,5月13日から6月2日まで6回の話し合いというのは,回数・期間だけ見ても余りに少ない。 ウしかも,政府の態度は,十分な資料による説明も欠き,「同じことの繰り返しで,理解と協力をお願いしたいの一点張り」であり,内容的にも全く進展がないものであった。 エ政府は,提案してからわずか3週間で原告P1との交渉を一方的に打ち切り,給与臨時特例法案を閣議決定して国会に提出した。加えて,P2と交渉継続中の5月には,総務省は,「国家公務員の給与の臨時特例に関する法律案説明資料」(甲86)を内閣法制局に提出し,6月3日の閣議に向けて,5月25日には,「国家公務員の給与減額支給措置について」(甲88),同月26日には,法律案の「提案理由説明」(甲87)を起案済みであった。 そのうち,同月25日付け「国家公務員の給与減額支給措置について」には,原告P1とは「ギリギリまで交渉を行いましたが,残念ながら合意 にいたることは出来ませんでした。」との文章が盛り込まれていた。同月27日,6月2日の2回の交渉の前に,既に総務省がこうした文章を起案済みであったということは,ギリギリまで交渉を行い合意を得る気がなかったことを示している。 これは,実質的に「合意達成の意思のないことを当初から明確にした交渉態度」であるといえる。 (4) 併存する組合との差別的取扱いア政府は,原告P1とP6という二つの労働組合が併存している下で,両者に平等な取り扱いをすることなく,P6との合意を得ることを最優先する交渉を行った。 イ政府は,5月13日の第1回交渉で いア政府は,原告P1とP6という二つの労働組合が併存している下で,両者に平等な取り扱いをすることなく,P6との合意を得ることを最優先する交渉を行った。 イ政府は,5月13日の第1回交渉で,原告P1とP6の双方に「1割の給与減額」を初めて提案した。これに対して,P6は,第1回交渉冒頭で,片山総務大臣に地方公務員には影響させないことを約束させている。また,「職責に応じて負うべき」,「若年層については,給与の絶対額が少ないことから特段の対応を求める。」など,一律1割削減との政府提案に対する具体的な要求を行っている。これは事前の「内々の話し合い」や「意見の交換」で政府提案の内容を知っていない限りできないことがらである。 ウ被告は,P14証人の尋問後,政府とP6が事前に折衝を行ったことを否定し,事前折衝とは1月11日の会見のことだと強弁するが,そのような弁解は成り立たない。 被告のいう新年の会見では,片山総務大臣と原告P1ないしP6とが新年の挨拶を行った場である。その場で片山総務大臣からは,「今削減の具体的な中身について検討を始めている。」との話がされただけであり,「内々の話し合い」や「意見の交換」といえるものでは全くなかった。 エ政府は,5月17日の第2回交渉で,当初の「1割減額」から減額に段階を設けた「一般職国家公務員の給与減額支給措置要綱(案)」を提示し た。給与減額自体に反対する原告P1の意見を無視し,P6の意見に基づいて給与減額の幅を調整する提案を行うことは,明らかに不平等な取り扱いである。 オ政府は,P6と5月23日に給与減額支給措置について合意したが,その後は原告P1と交渉を尽くすという姿勢を見せず,早期の交渉打ち切りを前提としてことを進めた。 (5) 自ら提示した条件を反故にしたことア政府は, 3日に給与減額支給措置について合意したが,その後は原告P1と交渉を尽くすという姿勢を見せず,早期の交渉打ち切りを前提としてことを進めた。 (5) 自ら提示した条件を反故にしたことア政府は,原告P1やP6との給与臨時特例法案についての交渉に際して,①給与減額支給措置を地方自治体には波及させない,②自律的労使関係法案との同時成立をめざすことを条件として再三提示した。そして,P6は,これらの政府の約束を条件として給与減額支給措置に合意した。 イしかしながら,政府は,以下のとおり,交渉において提示した条件をことごとく反故にした。 ① 給与改定・臨時特例法案の3党合意や同法附則では,「地方公務員への不拡大」については後退し,給与減額立法の「趣旨を踏まえる」こととしている。さらに,政府は,平成25年1月28日に地方公共団体に対して国同様の給与減額支給措置を行うよう要請までしている。 ② 「自律的労使関係法案」に反対していたP7党・P8党との3党合意時には,「自律的労使関係法案」との「同時成立」から後退し,給与改定・臨時特例法自体,「自律的労使関係制度」が成立することを前提としたものではなくなった。結局,「自律的労使関係法案」は廃案となった。 すなわち,給与臨時特例法案の交渉時に説明された給与減額にあたっての条件は,議員立法である給与改定・臨時特例法案の国会提出時には変化・変質している。これは,政府が実際にはこれらの条件を実際に実現する確実な保証もないまま提案したのであり,不真面目なものであったことを 示している。 (6) 議員立法についての使用者としての責任を放棄したこと政府は,P7党・P8党の抵抗によって,給与臨時特例法案の国会審議が進まなくなると,3党合意に基づく給与改定・臨時特例法案の議員立法が国会に提出されるに についての使用者としての責任を放棄したこと政府は,P7党・P8党の抵抗によって,給与臨時特例法案の国会審議が進まなくなると,3党合意に基づく給与改定・臨時特例法案の議員立法が国会に提出されるに任せ,原告P1に対して何の説明すら行わず,政府としての責任を放棄した。 この点について被告は,給与改定・臨時特例法は給与臨時特例法案を踏襲していると弁解する。しかし,上記(5)のとおり,給与臨時特例法案についての交渉の際の政府の約束した条件が,3党合意時には変化していたのであるから,改めてその変化について政府と労働組合との交渉が必要なはずであった。また,閣法たる給与臨時特例法案は,人事院勧告が出されていない中,自律的労使関係制度の先取りとして,役職段階に応じて5~10%(平均7. 8%)給与を引き下げるというものであった。他方で,給与改定・臨時特例法は,人事院勧告に基づき平均0.23%給与を引き下げた上に,更に臨時特例として役職段階に応じて4.77~9.77%給与を引き下げるというものである。よって,給与臨時特例法案と給与改定・臨時特例法とは異質の法案であることから,さらなる交渉が必要であった。しかし,そうした交渉はなされていない。被告は,9月30日以降,P2と「やりとり」した旨主張するが,それは,給与改定・臨時特例法案を対象としていないのであり,同法案について交渉したことになるものではない。 (7) まとめアそもそも,国家公務員の給与に関して立法をなす場合,一般職国家公務員の労働組合の交渉相手は内閣(政府)である(憲法73条4号)。しかし,本件の給与減額支給措置は,そのような交渉を一切経ることなしに,議員立法による給与改定・臨時特例法案の可決という形をとって,国会によって一方的に行われた。全農林警職法事件大法廷判決がいうように,勤 本件の給与減額支給措置は,そのような交渉を一切経ることなしに,議員立法による給与改定・臨時特例法案の可決という形をとって,国会によって一方的に行われた。全農林警職法事件大法廷判決がいうように,勤 務条件法定主義が憲法上の要請であって,それが争議行為禁止の合憲性を根拠付ける有力な根拠であるとしても,全農林警職法事件大法廷判決も団体交渉権の実質的保障を「相応の措置」として憲法上の要請と位置付けている以上,最初から団体交渉の余地を封ずることとなりかねない議員立法により,人事院勧告に基づかない給与減額をなすことは,給与に関する政府と労働組合との団体交渉権を侵害するものであって,憲法28条及び73条4号に違反することは明らかである。 イこの点,被告は,給与改定・臨時特例法と同様の内容の給与臨時特例法案の国会提出前に,職員団体との団体交渉を経ている旨主張するが,そもそも給与改定・臨時特例法と給与臨時特例法案とは,その理念や提案された前提条件が異なっており,同様のものではないし,上記(1)から(5)のとおり,給与臨時特例法案の国会提出前における政府と原告P1との交渉においても,およそ被告の誠実交渉義務が尽くされたとはいえず,失当である。 【被告の主張】(1) はじめに国会議員が政府をして原告P1との間で誠実に妥結に向けた団体交渉を行わせず,原告らの同意を得させなかったことや,内閣総理大臣がこれらを行わなかったことが,いかなる理由で給与改定・臨時特例法の違憲無効を基礎付けるのか全く不明といわざるを得ず,その主張自体失当というべきであるが,その点はおくとしても,原告らの前記主張は,以下に述べるとおり失当である。 (2) 憲法28条が保障する団体交渉権について憲法28条に定める団体交渉とは,労使双方が譲歩を重ねつつ,賃金 あるが,その点はおくとしても,原告らの前記主張は,以下に述べるとおり失当である。 (2) 憲法28条が保障する団体交渉権について憲法28条に定める団体交渉とは,労使双方が譲歩を重ねつつ,賃金を始めとする勤務条件等について合意に達することを主たる目標とするものであって,本来的には私企業とそこにおける労働者の関係を念頭に おいて規律されたものである。ところが,私企業と異なり,憲法は,国民主権,議会制民主主義の下,公務員の選定罷免権は国民固有の権利であり,すべての公務員は全体の奉仕者(憲法15条1項,2項)と位置付け,内閣は法律の定める基準に従い公務員に関する事務を掌理する(憲法73条4号)と定めるとともに,財政民主主義(憲法83条,85条,86条)の下,公務員に関する財政面についても国会による民主的統制を及ぼしているのであって,国家公務員の勤務条件は,法律ないし予算により定めることを予定している(勤務条件法定主義)。 そうすると,国家公務員で組織する職員団体とその使用者たる国との間で,国家公務員の勤務条件について,国会による民主的統制を全く排除し,団体交渉を通じて労働協約を締結することにより決定していくというようなことは,国家公務員の勤務条件を国会による民主的統制により決定しようとした趣旨に反するものであり,現行法上,許容されていない。現に国公法108条の5第2項は明確に国家公務員の団体協約締結権を否定している。 以上のとおり,国家公務員は,使用者たる国に対し,現行法上,団体交渉を通じて労働協約を締結するような方法で勤務条件を決定すべきことを求めることは許されておらず,このことは,人事院勧告に基づかずに給与減額支給措置を行う場合であっても変わりはないものというべきである。 したがって,憲法28条により,国が,国家公務員 すべきことを求めることは許されておらず,このことは,人事院勧告に基づかずに給与減額支給措置を行う場合であっても変わりはないものというべきである。 したがって,憲法28条により,国が,国家公務員で組織する労働組合との間で勤務条件について誠実に合意に向けた団体交渉を行う(ひいては団体交渉により合意を得る)義務を負っていると解することはできない(全農林警職法事件大法廷判決,最高裁昭和52年5月4日大法廷判決・刑集31巻3号182頁,最高裁昭和53年3月28日第三小法廷判決・民集32巻2号259頁参照)。 上記のとおり,政府は,P2との間で妥結に向けた団体交渉をすべき憲法 上の義務を負うものではないが,給与改定・臨時特例法のうち国家公務員の給与の臨時特例に係る部分の内容的な基礎となった給与減額支給措置の方針を決定するに当たって,政府は,P2との間で真摯な態度で交渉に臨んだ。 (3) 政府は,職員団体の理解を得られるよう努めていたことア政府が職員団体との間で十分な交渉に努めたこと政府は,人事院勧告に基づかずに公務員の給与を減額することは異例の措置であることに鑑み,P2を含む職員団体の理解を得るために,できる限りの努力が必要であると考え,職員団体への説明に意を尽くしてきた。 まず,片山総務大臣は,1月11日,P6及びP2の幹部を総務大臣室に招き,給与減額支給措置を検討していること,具体案がまとまった段階でよく説明し,理解が得られるよう話し合いたい旨を伝えた。これに対し,P2は,交渉に応じる準備はできているが,内容は容認し難い旨,交渉には地方公務員によって構成されるP15やP16も参加したいと言っている旨などを述べた。 この点,少なくとも総務省が発足した平成13年以来,総務大臣とP2が新年の挨拶といった趣旨で面会した実績はなく は地方公務員によって構成されるP15やP16も参加したいと言っている旨などを述べた。 この点,少なくとも総務省が発足した平成13年以来,総務大臣とP2が新年の挨拶といった趣旨で面会した実績はなく,1月11日の会見は,非公式なものではあるが,片山総務大臣から上記のような説明を行うための,話合いの場として設けられたものである。 その後,総務省内において具体案を検討して取りまとめ,5月13日以降,片山総務大臣の2回の出席を含め,延べ6回,合計6時間近くにわたりP2の理解を得るべく,交渉が行われた。かかる交渉は,通常の給与法案を立案する場合よりもはるかに手厚い対応であった。 このように,政府としては,給与減額支給措置を検討する過程において,総務大臣以下の幹部が直接交渉に当たるなどしつつ,十分な交渉に努めていた。 また,政府は,給与臨時特例法案を国会に提出した後においても,9月 30日,10月21日,同月25日,同月27日,平成24年2月16日,同年3月14日,同月28日に総務大臣政務官や総務省人事・恩給局長がP2と話合いを継続するなどして,同法案ないし給与改定・臨時特例法案について理解を得るように努めてきた。 イ P2が交渉に応じる態度を示していなかったことこれに対し,P2側は給与減額支給措置についての実質的な協議に応じないことを前提とするかのような態度で交渉に臨んでいた。すなわち,P2側は,現行制度に基づかない給与減額支給措置は憲法違反であって「『異例の措置』として検討すること自体が不当なもの」などとして政府側の提案する同措置におよそ賛成できないことを前提として交渉に臨んでおり,交渉においても給与減額を撤回せよと主張するもののP2内部において代替案を検討することすらしていなかった。 また,P2は,交渉において,現行国公 およそ賛成できないことを前提として交渉に臨んでおり,交渉においても給与減額を撤回せよと主張するもののP2内部において代替案を検討することすらしていなかった。 また,P2は,交渉において,現行国公法上は協約締結権が定められていないこと,交渉が折り合わなかった場合に職員団体側に対抗手段がないことなどを主張しており,国家公務員が交渉により労働条件を決める制度がない限りは交渉に応じる余地がないとする態度を示していた。 このように,P2は,政府側の提案に対し,撤回以外に合意に至る余地はなく,交渉によって労働条件が決定し得ない現行制度の下においては交渉する前提を欠くとの態度を示していたため,政府側としても給与減額支給措置の具体的な内容について協議することができなかったものである。 ウ政府がP2との間で真摯な態度で交渉に臨んでいたこと政府は,給与減額支給措置が異例の措置であることに鑑み,職員団体の理解を得ることが重要であると考え,原告らが主張する誠実交渉義務があるかどうかとは別次元の問題としてではあるが,話合いを丁寧に行い,理解を得る方針であった。 上記イで述べたとおり,交渉においてP2側が実質的に協議に応じない 態度を示していたことから,給与減額支給措置の具体的な内容以外の点に関する議論に終始した状態が続いていたが,政府側としてはでき得る限りP2側の質問に回答し,実質的な協議ができるよう努力をしていた。すなわち,政府側としては,P2側の求めに応じて給与減額支給措置の必要性や景気への影響,公務員の士気への影響,地方公務員の給与への影響及び現行制度に基づかない交渉形式などに関して具体的に資料を示しながら説明をするなどし,繰り返しP2側に理解を求めていた。 この点に関し,原告らは,5月27日,6月2日の2回の交渉の前に,既に総務省が 現行制度に基づかない交渉形式などに関して具体的に資料を示しながら説明をするなどし,繰り返しP2側に理解を求めていた。 この点に関し,原告らは,5月27日,6月2日の2回の交渉の前に,既に総務省が,政府がP2とは給与減額支給措置について合意できなかったことを前提とした法律案の提案理由説明や閣議での大臣発言案(乙43,44,以下,「本件決裁文書」という。)を起案済みであり,本当は,ギリギリまで合意を得る努力をする気がなかった旨主張する。 しかしながら,行政組織内の事務処理上,決裁が必要となる文書については,決裁にかかる期間を考慮してその起案を行うのが通例である。本件決裁文書は副大臣2名や大臣政務官,事務次官等,多数の関係者の決裁を経る必要があったことから,決裁に一定の時間を要することを想定し,起案自体は,職員団体との交渉と並行して行わざるを得なかったものである。 上記のとおり,P2との交渉においてはそれまでの交渉で合意を得られる見通しが立っていなかった一方,立法府に法案審議をお願いする立場である政府として,国会会期末を念頭に事務的な作業は進めざるを得ず,飽くまでも仮案として本件決裁文書を起案したものであるから,そのことが合意を得る努力をする気がないことを示すものということはできない。 さらにいえば,本件決裁文書の最終決裁権者は総務大臣であり,最終的には片山総務大臣も出席して行われた6月2日のP2との交渉が終了し,P2の合意が得られないまま交渉を打ち切ることとした後に,同大臣の決裁を得て文書が確定したものであり,交渉が進展して話合いを継続する余 地があると認められれば,当然当該文書が確定することもなかった。 したがって,本件決裁文書の作成を先行させていたからといって,政府がP2との間での交渉において合意を得る努力をしていないという 地があると認められれば,当然当該文書が確定することもなかった。 したがって,本件決裁文書の作成を先行させていたからといって,政府がP2との間での交渉において合意を得る努力をしていないということはできず,原告らの当該主張はおよそ理由がない。 エ小括以上のとおり,P2との間の交渉は,法案の具体的内容以外の点についての議論に終始し,平行線をたどっていたものであり,政府側としては,6回にわたり交渉を継続した結果として,合意の見通しが極めて乏しいものと認識せざるを得ない状況にあったため,国会の会期末が迫っていることも考慮して交渉を終了することとなった。このように,政府が,P2ら職員団体との交渉に真摯な姿勢で臨んだものの,やむなく交渉を打ち切るに至ったことは証拠上明らかである。したがって,政府側が真摯な態度で交渉に臨んでいなかったとする原告らの主張には理由がない。 (4) 原告らの主張に対する反論ア自律的労使関係制度の先取りの説明について原告らは,誠実交渉義務に違反する政府の交渉態度として,P2との交渉における片山総務大臣の「自律的労使関係制度の先取り」という説明は当初から虚構であり,その後,給与改定・臨時特例法のみが成立し,自律的労使関係制度を措置するための法案は成立しなかったのだから,上記「先取り」という説明には何の保証もなかった旨主張する。 しかしながら,政府が,P2との交渉においてはもとより,P6との交渉においても,給与減額支給措置が国家公務員制度改革関連4法案の成立なくしては違憲であるとの認識を示したことはないし,給与臨時特例法案を国会に提出する条件として,国家公務員制度改革関連4法案を同時に成立させる旨約束したという事実もない。また,原告らが指摘する,「自律 的労使関係制度を先取 したことはないし,給与臨時特例法案を国会に提出する条件として,国家公務員制度改革関連4法案を同時に成立させる旨約束したという事実もない。また,原告らが指摘する,「自律 的労使関係制度を先取りして行われる交渉」との発言も,そのような趣旨でなされたものではない。 したがって,政府が,給与減額支給措置の実施について,国家公務員制度改革関連4法案の成立をその条件として各職員団体との交渉を行っていたとはいえないから,原告らの主張は前提を欠くものであって理由がない。 イ地方公務員への波及について原告らは,給与減額支給措置に係る交渉の経過において,政府が地方公務員給与への波及を否定していたことについて,政府が方針転換し,その後,地方公共団体に対し,給与減額支給措置の事実上の強制を行っているなどとした上で,結局,地方公務員に波及させない,との約束は口先だけだったといわざるを得ず,まさに不誠実な交渉の典型である旨主張する。 しかしながら,5月13日以降に行われたP2との交渉は,国家公務員の給与減額支給措置を議題として開始されたもので,地方公務員の給与に関しては議題外であり,P2からの質問に回答する形で,対応をしたにすぎず,政府とP2との間で,同措置を地方公務員へ波及させないことが国家公務員の同措置に係る交渉の前提となっていたものではない。もとより,地方公務員の給与は,地方公共団体の議会における審議を経て定められるものであり(地方公務員法24条),政府が地方公共団体に対して給与の減額を強制することはあり得ない。 よって,原告らの指摘する点が政府の交渉態度が不誠実なものであったことを示すものとはいえず,原告らの主張には理由がない。 ウ給与減額支給措置を議員立法によって行うこと原告らは,給 よって,原告らの指摘する点が政府の交渉態度が不誠実なものであったことを示すものとはいえず,原告らの主張には理由がない。 ウ給与減額支給措置を議員立法によって行うこと原告らは,給与減額支給措置を議員立法によって行うことは,職員団体の団体交渉権を実質的に否定するものであって憲法28条及び73条4号に違反する旨主張する。 しかしながら,給与減額支給措置を講じるに当たり,職員団体に勤務条件の共同決定を内容とする団体交渉権が保障されていないことは前記(2)のとおりであるから,原告らの当該主張は前提を欠き失当である。 この点をおくとしても,国公法及びその他の法令を見ても,国家公務員の勤務条件に関する法律案の提出権を内閣に独占させることを認めた規定は見当たらない上,原告らが主張するように国会による単独立法を認めないことは,国会が国の唯一の立法機関であることを否定するものにほかならず,原告らの主張は失当である。 4 争点(1)イ(給与改定・臨時特例法に基づく給与減額支給措置はILO第87号条約及びILO第98号条約に違反するか)【原告らの主張】(1) ILO第87号条約及びILO第98号条約に基づく義務ア ILO条約による労働基本権の保障(ア) ILO第87号条約は,軍隊及び警察を除く全ての労働者に団結権を保障し,軍隊,警察及び国家の名において権限を行使する公務員を除く全ての労働者に団体交渉権を保障し,軍隊,警察及び国家の名において権限を行使する公務員及び「不可欠業務」に従事する労働者もしくは急迫した国家的危機下で雇用された労働者を除く全ての労働者に争議権を保障している。また,ILO第98号条約も,軍隊及び警察を除く全ての労働者に団結権を保障し,軍隊,警察及び国家の名において権限を行使する公務員を除く全 で雇用された労働者を除く全ての労働者に争議権を保障している。また,ILO第98号条約も,軍隊及び警察を除く全ての労働者に団結権を保障し,軍隊,警察及び国家の名において権限を行使する公務員を除く全ての労働者に団体交渉権を保障している。 (イ) ILO諸機関は,ILO第87号条約第3条1項の規定については,団体交渉権及びストライキ権を団結権保障のコロラリーと把握し,同条項の「計画を策定する権利」については,団体交渉権はもとよりストライキ権の行使も含むと解釈している。 また,ILO第98号条約がその第6条で条約適用対象外とする「公 務員」については,「国家の名において権限を行使する公務員」を指し,一般の国家公務員は団体交渉権が保障されているとの解釈を確立している。 さらにILO諸機関は,前記ILO条約に関する各種意見・報告を通じ,労働基本権が禁止又は制約される労働者に対しては,労働者があらゆる段階で参加し,一旦下された裁定が全面的に速やかに実施される適切,公平,かつ迅速な調停仲裁制度による適切な代償措置が保障されなければならないとしている。 (ウ) 憲法98条は条約等の遵守義務を規定し,国が批准した条約は,同条2項により国内法的にも法的拘束力を有するとされる。前記ILO条約は批准済みであるから,両条約は,国を法的に拘束する法源性を有し,国の国家機関は前記ILO条約と抵触してはならない法的義務を負っている。 イ人事院勧告に基づかない給与減額支給措置の立法は条約違反人事院勧告制度は,労働基本権制約の代償措置として極めて不完全なものであるが,その点はおいても,同勧告に沿った措置が講じられないなど同勧告制度が正しく機能しない事態が生じるならば,労働基本権を侵害する結果となること 労働基本権制約の代償措置として極めて不完全なものであるが,その点はおいても,同勧告に沿った措置が講じられないなど同勧告制度が正しく機能しない事態が生じるならば,労働基本権を侵害する結果となることは,ILO条約の保障内容からは明白である。 以上から,国は,人事院勧告に基づき,内閣によって給与法案を策定することなく,国家公務員の労働条件の既得の権利を奪い,一方的に不利益を課す行為を行ってはならないという条約上の義務を負っているといえるから,人事院勧告に基づかない給与減額支給措置はILO条約に違反する。 ウ内閣総理大臣及び国会議員の義務(ア) 内閣総理大臣は,人事院勧告に基づいて給与法を策定して国会に提出することが義務付けられており,国会議員もまた,同様に人事院勧告に基づいて給与法案を成立させる義務を負っているところ,内閣総理大臣が人事院 勧告に基づく給与法案を国会に提出せず,国会議員が給与改定・臨時特例法案を可決・成立させたことは,前記ILO条約上の義務に違反する。また,内閣総理大臣は,人事院勧告に基づかないで給与法案を策定して国会に提出するのであれば,中央人事行政機関として,国家公務員と誠実に妥結に向けた団体交渉を行いその同意を得ること(少なくとも同意を得るための団体交渉を行うこと)が,前記ILO条約により義務付けられている。 (イ) 国会議員は,人事院勧告に基づかないで給与法案を成立させるのであれば,政府をして国家公務員と誠実に妥協に向けた団体交渉を行わせ,国家公務員の同意を得させること(少なくとも同意を得るための交渉を行わせること)が前記ILO条約により義務付けられているところ,これらの団体交渉を行わなかったことは原告らの労働基本権(特に団体交渉権)を侵害し,前記ILO条約上の義務に違反する。 (2) 被告 行わせること)が前記ILO条約により義務付けられているところ,これらの団体交渉を行わなかったことは原告らの労働基本権(特に団体交渉権)を侵害し,前記ILO条約上の義務に違反する。 (2) 被告の主張に対する反論ア被告は,ILO第87号条約は結社の自由と団結権の保護について定めているにとどまる,同条約第3条1項の「計画を策定する権利」について,その規定の体裁からみて管理活動等の組合内の自由に係るものであることは明らかであって,団体交渉権及びストライキ権を保障するものではない旨主張する。 ILO第87号条約が団体交渉権及びストライキ権の保障を明示した規定を置いていないことはそのとおりであるが,同条約が団体交渉権及びストライキ権を保障し,一部の例外を除いてその保障を公務労働者についても及ぼし,さらに,例外的にストライキ権が制約ないし禁止される場合においても,適切な代償措置の保障が与えられるべきことを定めていると解するのがILO条約監視機関の一貫した態度である。 イ被告は,ILO第98号条約については,団結権及び団体交渉権についての原則を定めた条約ではあるが,同条約第6条の「この条約は,公務員 の地位を取り扱うものではなく,また,その権利または分限に影響を及ぼすものと解してはならない。」との定めから,同条約が公務員に関する団体交渉権を保障するものでないことは明らかである旨主張する。 ILO第98号条約に関しては,第6条の「公務員」の訳語をめぐり,ILO条約監視機関と政府との間に見解の対立がある。条約の英語原文は「国の行政にたずさわる公務員(publicservantsengagedintheadministrationofthestate)」であるが,政府はこれに「公務員」との訳語をあて, 国の行政にたずさわる公務員(publicservantsengagedintheadministrationofthestate)」であるが,政府はこれに「公務員」との訳語をあて,そこから現業公務員以外のすべての国家公務員と地方公務員をILO第98号条約の適用範囲から除外する立場をとっている。しかし,政府の「公務員」という和訳は明らかに条約原文に反している。 ILO条約監視機関も,昭和58年及び平成6年の条約勧告適用専門家委員会報告において,日本政府の解釈を批判している。現業公務員を除くすべての公務員にILO第98号条約第6条を広く適用させる解釈にはおよそ無理があるのであり,ILO第98号条約が国家公務員に団体交渉権を保障していると解すべきことについて異論を差し挟む余地はないというべきである。 ウ被告は,ILO諸機関の意見・勧告について,「…条約の適用状況等に関し,ILOとしての統一的な見解を与える権限を有しておらず,加盟国もその見解に拘束されるものではない。」(条約勧告適用専門家委員会について),「…同委員会の行った勧告は,条約の解釈を示したものではなく,また,法的拘束力も有しない。」(結社の自由委員会について)などと述べ,その法的拘束力を否定する。しかし,こうした被告の主張は,ILO諸機関に付与された条約実施の監視・監督権能を余りに軽視する暴論といわざるを得ない。 【被告の主張】(1) ILO第87号条約は,結社の自由と団結権の保護について規定し ているにとどまり,団体交渉については何ら規定はない。また,ILO第87号条約第3条1項は,労働者団体及び使用者団体の権能として,規約等の作成,代表者の選任,管理及び活動の取決め等に並べて,計画を策定する権利を有することを定めているものであるが, 。また,ILO第87号条約第3条1項は,労働者団体及び使用者団体の権能として,規約等の作成,代表者の選任,管理及び活動の取決め等に並べて,計画を策定する権利を有することを定めているものであるが,その規定の体裁からみても,計画を策定する権利が管理活動等の組合内の自由に係るものであることは明らかである。以上のようなILO第87号条約の解釈に照らして,ILOの条約勧告適用専門家委員会及びILO結社の自由委員会が示しているILO第87号条約第3条1項の「計画を策定する権利」に団体交渉権及びストライキ権を含むとの見解は採り得ない(東京高裁平成17年9月29日判決・判例時報1920号146頁,以下「東京高裁平成17年判決」という。)。 (2) ILO第98号条約は,団結権及び団体交渉権についての原則を定める条約であるが,ILO第98号条約第6条が,「この条約は,公務員の地位を取り扱うものではなく,また,その権利又は分限に影響を及ぼすものと解してはならない。」と定めているとおり,ILO第98号条約は,公務員に関する団体交渉権について保障するものではないことは明らかである(最高裁平成5年3月2日第三小法廷判決・裁判集民事168号21頁,以下「最高裁平成5年判決」という。東京高裁平成17年判決)。原告らは,ILO第98号条約第6条の公務員に一般の公務員は含まれない旨主張するが,そのように解すべき根拠はない。 5 争点(2)(個人原告らの国家賠償請求)【個人原告らの主張】(1) 国会議員の行為ア給与改定・臨時特例法は,勤務条件法定主義の要請に基づき,使用者としての国が被用者である国家公務員を特定の対象として勤務条件である給与額を具体的に定めるものであるから,一般的抽象的法規範とは性質を異 にし,国会議員の職務上の法的義務は,上 基づき,使用者としての国が被用者である国家公務員を特定の対象として勤務条件である給与額を具体的に定めるものであるから,一般的抽象的法規範とは性質を異 にし,国会議員の職務上の法的義務は,上記の法的性質を踏まえたものでなければならない。そうすると,国会議員は,国家公務員に対し,① 労働基本権制約の代償措置である人事院勧告に基づかずに,国家公務員の労働条件につき既得の権利を奪い,一方的に不利益を課す等の行為をしてはならない注意義務② 人事院勧告に基づかないのであれば,政府をして国家公務員の所属する職員団体を介して誠実に妥結に向けた団体交渉を行わせ,国家公務員の同意を得させること(少なくとも同意を得るための団体交渉を行わせること)なく,国家公務員の労働条件につき既得の権利を奪い,一方的に不利益を課す等の行為をしてはならない注意義務が課されていると解するのが相当であり,国会議員が,人事院勧告に基づかず,かつ政府をして国家公務員の所属する職員団体を介して誠実に妥結に向けた団体交渉を行わせ,国家公務員の同意を得させること(少なくとも同意を得るための団体交渉を行わせること)なく,国家公務員の給与減額支給措置の立法をすることは,憲法28条,72条及び73条4号に違反する。 イ仮に,給与改定・臨時特例法の制定が憲法に違反することと,この国会議員の立法行為が国賠法上の違法を構成することとは別であり,本件においても「明白性」の基準に該当するかどうかが問題となるとしても,給与改定・臨時特例法を制定した国会議員の行為が,最高裁平成17年9月14日大法廷判決(民集59巻7号2087頁,以下「最高裁平成17年判決」という。)の挙げた,①「立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合」や, 日大法廷判決(民集59巻7号2087頁,以下「最高裁平成17年判決」という。)の挙げた,①「立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合」や,②「国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合」(ただし,給 与改定・臨時特例法の制定がなされた本件においては,「違憲にならない立法措置を執るべきことが明白である場合」と読み替える)に該当し,国賠法上の違法を構成することは明らかである。 ウまた,本件は,給与改定・臨時特例法を制定する過程で国家公務員が団体交渉権を行使する機会を保障しないまま,労働基本権制約の代償措置である人事院勧告に基づかない給与減額支給措置を立法したのであり,立法という作為により労働基本権を侵害した事案であるところ,③立法行為により国民の憲法上保障されている権利の制約を代償する措置を執らなかったことが明白である場合,④国民に憲法上保障されている権利行使の機会を奪う立法措置を執ったことが明白である場合,にも該当するといえ,国賠法上の違法を構成すると解するのが相当である。 (ア) 立法行為により国家公務員の労働基本権の制約を代償する措置を執らなかったことが明白である場合といえること国会議員が人事院勧告に基づかず,国家公務員の給与を減額する給与改定・臨時特例法を制定した行為は,情勢適応の原則に則った人事院勧告という最も重要な代償措置がないゆえに,「労働基本権の保障と国民全体の共同利益との間の均衡」(全農林警職法事件大法廷判決)が崩れる結果となり,国家公務員の労働基本権制約の正当化事由が存在しなかったことになる。よって,給与減額 いゆえに,「労働基本権の保障と国民全体の共同利益との間の均衡」(全農林警職法事件大法廷判決)が崩れる結果となり,国家公務員の労働基本権制約の正当化事由が存在しなかったことになる。よって,給与減額支給措置の立法をすることは憲法28条に基づく内在的制約に違反し,国会議員が立法裁量を逸脱・濫用したものとなる。 したがって,国会議員が給与改定・臨時特例法を制定するに当たって,国家公務員の労働基本権制約を憲法上正当化する代償措置を執らないことになることを容易に予見し得たのであり,それにもかかわらず,同法を成立させたことは立法裁量を逸脱・濫用したものである。ゆえに,国会議員は,上記ア①の法的義務に違反し,上記ウ③に該当する違法行為 を行ったものというべきである。 (イ) 国家公務員に保障されている団体交渉権行使の機会を奪う立法措置を執ったことが明白である場合といえること国会議員が人事院勧告に基づかないで給与改定・臨時特例法を制定する際に,国家公務員が組織する労働組合との間で政府をして同意を得るための団体交渉を行わせなかったのであれば,「労働基本権の保障と国民全体の共同利益との間の均衡」(全農林警職法事件大法廷判決)が崩れる結果となり,国家公務員の労働基本権制約の正当化事由が存在しなかったことになるから,給与減額支給措置の立法をすることは憲法28条に基づく内在的制約に違反し,国会議員が立法裁量を逸脱・濫用したものとなる。 したがって,国会議員が給与改定・臨時特例法を制定するに当たって,国家公務員の団体交渉権行使の機会を奪うことが容易に予見し得たのであり,それにもかかわらず,同法を成立させたことは立法裁量を逸脱・濫用したものである。ゆえに,国会議員は,上記ア②の法的義務に違反し,上記ウ④に該当する違法行為を行ったものというべきであ し得たのであり,それにもかかわらず,同法を成立させたことは立法裁量を逸脱・濫用したものである。ゆえに,国会議員は,上記ア②の法的義務に違反し,上記ウ④に該当する違法行為を行ったものというべきである。 エよって,国会議員が給与改定・臨時特例法を制定したことは違法であり,この違法行為を行うことにつき過失が認められる。したがって,被告は,国賠法1条1項に基づき,個人原告らが被った財産的損害及び精神的損害について賠償する責任がある。 (2) 内閣総理大臣の行為ア内閣総理大臣は,国家公務員に対し,給与減額支給措置が人事院勧告に基づかない場合には,個人原告らの所属する各労働組合が加盟している原告P1を介して団体交渉を行うことなく,個人原告らの労働条件につき既得の権利を奪い,一方的に不利益を課す等の行為をしてはならない注意義務を有している。 イ内閣総理大臣は,官吏に関する事務を掌理するものとして,漫然と議員提案をなさしめるべきではなかったし,議員提案であっても,法案内容を上程前から成立に至るまでの間に原告P1を通じて説明すべきであった。 ウ内閣総理大臣は,人事院勧告に基づかない給与改定・臨時特例法の上程・成立を看過し,しかも,上程・成立に際して,個人原告らとの交渉を一切することなく,成立した給与改定・臨時特例法を執行して,同法成立前の給与法に従い支払われてきた個人原告らの既得の権利を奪い,一方的に不利益を課す行為を行った。 エよって,これらの行為は憲法28条,72条及び73条4号に違反し,また国公法28条に違反して,違憲・違法というべきである。内閣総理大臣の違法行為には過失が認められるから,被告は,国賠法1条1項に基づき,個人原告らが被った財産的損害及び精神的損害を賠償する責任がある。 (3) 損害ア個人原告ら というべきである。内閣総理大臣の違法行為には過失が認められるから,被告は,国賠法1条1項に基づき,個人原告らが被った財産的損害及び精神的損害を賠償する責任がある。 (3) 損害ア個人原告らは,①給与が減額されたことによって生活設計,人生設計を狂わされた,②人員削減による多忙や公務員バッシングに耐えている中で給与が減額されたものでその精神的打撃は大きく,③給与減額に際しては,震災時の活動を理由に,自衛隊のみこの実施がされなかったが,自衛隊に限らず全ての公務員が震災復興支援に尽力しており,④中には自らも被災者でありながら公務に従事している者も少なくないことから,給与が減額されたことによって多大な経済的・精神的被害を受けた。 イ個人原告らは,給与減額支給措置によって,別紙2の「平成24年4月分~平成26年3月分までの合計」欄記載のとおりの財産的損害を被った。 ウまた,個人原告らは,上記アのとおり多大な精神的被害を受けており,あえて金銭に換算すれば,個人原告ら各人につき,10万円を下ることはない。 【被告の主張】 (1) 国会議員の行為ア国会は立法機関であるから,国会議員の立法行為はその法律の上位規範たる憲法に拘束される。したがって,国会議員の立法行為の違法性を判断するについては,まずもって,当該立法行為の内容又は手続が憲法に違反するか否かを検討する必要があり,当該立法の内容又は手続が憲法に違反しない場合には,それだけで国賠法上の違法性は否定される。 仮に,当該立法行為の内容又は手続が憲法に違反する場合でも,それが直ちに国賠法上の違法となるものではない。国会議員の立法行為は,立法の内容又は手続が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うような場合や,立法の内容又は立法不作為が国民 に国賠法上の違法となるものではない。国会議員の立法行為は,立法の内容又は手続が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うような場合や,立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合など,容易に想定し難いような例外的な場合でない限り,国賠法1条1項の規定の適用上,違法の評価を受けない。 イ内閣や国会は,人事院勧告に基づき法案の提出を行うことや立法を行うことが憲法上義務付けられておらず,また,国家公務員については,労使により勤務条件を共同決定することを内容とする団体交渉権が憲法上保障されていない。したがって,かかる各義務違反があること又は個人原告ら主張の団体交渉権が侵害されたことを前提として,国会議員の給与改定・臨時特例法の可決・成立行為が国賠法1条1項の適用上違法である旨の個人原告らの主張は,前提を欠くことが明らかであり,その余について検討するまでもなく,失当である。 ウまた,個人原告らは,国会議員には憲法28条を尊重する義務があるから,国会は政府をして職員団体との団体交渉を行わせなければならない旨 主張するが,国家公務員に勤務条件の共同決定を内容とする団体交渉権は保障されておらず,一般に,国会が立法を経ずに政府に対して指揮命令し得る立場にないことに鑑みれば,個人原告らの当該主張はおよそ前提を欠き失当である。 エ以上,国会議員による給与改定・臨時特例法の可決・成立行為については,憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行ったとは の当該主張はおよそ前提を欠き失当である。 エ以上,国会議員による給与改定・臨時特例法の可決・成立行為については,憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行ったとはいえず,また,立法の内容が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合であるということもいえないから,立法行為又は立法不作為が国賠法1条1項の適用上違法と評価される例外的な場合に当たらないことも明らかである。 したがって,給与改定・臨時特例法に関わる立法行為について,国賠法1条1項の規定の適用上違法であるとの評価を受ける余地はない。 (2) 内閣総理大臣の行為ア上記(1)のとおり,立法について固有の権限を有する国会議員の立法行為について,国賠法1条1項の適用上違法と評価され得ないのであるから,国会に対して法律案の提出権を有するに止まる内閣の法律案の提出行為等についても,同項の適用上違法性を観念する余地はない(最高裁昭和62年6月26日第二小法廷判決・裁判集民事151号147頁,以下「最高裁昭和62年判決」という。)。 イまた,給与改定・臨時特例法は法律として成立している以上,その法律に従った執行行為(給与法7条にいう適用行為)が国賠法1条1項の適用上違法と評価される余地はない。個人原告らの主張は,給与改定・臨時特例法に従わず,給与等を支払うことを求めるものであって,およそ失当である。 ウ個人原告らは,人事院勧告に基づかない給与減額については,内閣総理大臣において原告P1を介して団体交渉することなく個人原告らの給与減 額をしてはならない義務があるとの理解の下,給与改定・臨時特例法案が国会に提出された際,内閣総理大臣は,この義務に違反して原告P1と団体交渉を行わなかった行為が憲法28条及び国公法1 給与減 額をしてはならない義務があるとの理解の下,給与改定・臨時特例法案が国会に提出された際,内閣総理大臣は,この義務に違反して原告P1と団体交渉を行わなかった行為が憲法28条及び国公法108条の5第1項に違反する旨主張する。 しかしながら,本件において,人事院勧告に基づかずに制定された給与改定・臨時特例法に何ら違憲・違法な点はないこと,給与改定・臨時特例法の制定に際し,政府に勤務条件の共同決定を内容とする団体交渉義務が認められないことは前記1【被告の主張】,2【被告の主張】,3【被告の主張】のとおりであるから,内閣総理大臣に個人原告らが主張するような義務がないことは明らかであって,個人原告らの上記主張はその前提において失当である。 (3) 損害個人原告らの損害については争う。 6 争点(3)(原告P1の国家賠償請求)【原告P1の主張】(1) 給与改定・臨時特例法案が国会に提出された時点の団体交渉義務違反内閣総理大臣は,中央人事行政機関として,給与改定・臨時特例法案が国会に提出される前及び提出された際に,前記5【個人原告らの主張】(2)のとおり課されている注意義務に反して,原告P1と誠実に妥結に向けた団体交渉を行わなかった。ゆえに,この行為は,憲法28条に違反するものであり,かつ国公法108条の5に違反する。 (2) 給与臨時特例法案を閣議決定する前の誠実交渉義務違反給与臨時特例法案を閣議決定する前の交渉経過は前記3【原告らの主張】(2)ないし(5)のとおりであり,かかる経過に鑑みれば,中央人事行政機関たる内閣総理大臣は,原告P1との実質的な労使交渉を拒んだものといわざるを得ず,憲法28条及び国公法108条の5に違反する。 (3) 損害原告P1は,労働組合としての団体交渉権を実質的に否定された 理大臣は,原告P1との実質的な労使交渉を拒んだものといわざるを得ず,憲法28条及び国公法108条の5に違反する。 (3) 損害原告P1は,労働組合としての団体交渉権を実質的に否定されたことにより組合員の権利を擁護し得なかったため,労働組合としての存在意義にかかわる深刻な事態に陥っており,信用や権威を失墜させられており,無形の損害を被った。原告P1は,組合員の権利を擁護するため,本件訴訟を提訴せざるを得なくなったが,全国の組織への情報・宣伝行動,裁判対策などで多大な出費を余儀なくされている。原告P1が被った損害を金銭に評価すれば1000万円とするのが相当である。 【被告の主張】(1) 原告P1は,人事院勧告に基づかない給与減額については,内閣総理大臣においてP2を介して団体交渉することなく原告らの給与減額をしてはならない義務があるとの理解の下,給与改定・臨時特例法案が国会に提出された際,内閣総理大臣は,この義務に違反してP2と団体交渉を行わなかった行為が憲法28条及び国公法108条の5第1項に違反し,原告P1の団体交渉権を侵害する旨主張する。 しかしながら,本件において,人事院勧告に基づかずに制定された給与改定・臨時特例法に何ら違憲・違法な点はないこと,給与改定・臨時特例法の制定に際し,政府に勤務条件の共同決定を内容とする団体交渉義務が認められないことは前記1【被告の主張】,2【被告の主張】,3【被告の主張】(2)のとおりであるから,内閣総理大臣に原告P1が主張するような義務がないことは明らかであって,原告P1の主張はその前提において失当である。 (2) 原告P1の損害については争う。 第4 当裁判所の判断 1 事実経過前提事実,証拠(掲記のもの。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 提において失当である。 (2) 原告P1の損害については争う。 第4 当裁判所の判断 1 事実経過前提事実,証拠(掲記のもの。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 政府と職員団体との交渉に至るまでア P10党は,平成21年8月の衆議院議員総選挙において,「国家公務員の総人件費の2割削減」をマニフェストに掲げ,その後政権についた。 そして,片山総務大臣は,平成22年10月28日に開催された人事院勧告を調査対象とする衆議院の総務委員会において,「労働基本権回復の問題は避けて通れない。」,「人事院勧告制度は労働基本権制約の代償措置として設けられている。」,「人事院勧告は基本的に尊重しなければならない。」,「現下の厳しい財政事情をみると緊急避難的に特例的なものがあってもいいのではないかという考え方もある。」旨の答弁をした。(甲50,76,証人P17)イ政府は,平成22年11月1日,平成22年11月閣議決定を行った(その要旨は前提事実(2)ア)。 ウ上記閣議決定を契機として,政府(法案作成に関する具体的検討は総務省)は,国家公務員の給与減額支給措置を検討することとした。そのためには,職員団体の理解・協力を得ることが重要であると考え,正式な交渉を開始する前の1月11日,片山総務大臣は,P2及びP6の幹部をそれぞれ総務大臣室に招き,両職員団体に対し,人件費の削減を可能とするための措置を検討しそのための作業に入ること,その際職員団体の考えも聞いていきたい旨伝えた。(甲69,乙33,34,35,37,証人P14)エ政府は,1月以降,給与減額支給措置に関する法案の検討を具体的に開始したところ,その手続を進めていた3月11日に東日本大震災が発生した。政府は,人事院勧告によらない給与 ,37,証人P14)エ政府は,1月以降,給与減額支給措置に関する法案の検討を具体的に開始したところ,その手続を進めていた3月11日に東日本大震災が発生した。政府は,人事院勧告によらない給与減額支給措置と憲法28条の関係については,厳しい財政事情と東日本大震災への対処の必要性があるとしても無限定な減額支給措置が可能であるとは判断しておらず,人事院勧告についてはこれを基本的に尊重する立場を堅持した上で,減額支給措置の 必要性,合理性があるかどうか,また臨時的なものかどうか,職員団体の理解を得る手続をとらなければならないことなどの諸点について,地方公共団体の給与減額の例も参照しながら検討を加えることとした。そして,東日本大震災については,復旧・復興のために財源確保の観点から減額支給措置の必要性が高まった事情と位置付けられていた。総務省は,上記法案の内容について,内閣法制局,財務省及び法務省とも協議を行った。 (甲91,乙33,証人P14)オ政府は,上記検討を経て,人事院勧告制度下での異例の措置として,自律的労使関係制度が措置されるまでの間においても,国家公務員の人件費削減のため,平成25年度まで給与を減額支給するための臨時的措置を講ずることを内容とする法案を提出することとした。そして,その提出に当たっては,職員団体と話し合う必要があると考え,その方針を閣議で確認した上で,具体案がまとまった後の5月13日以降,職員団体との交渉を行うこととした。(乙33,証人P14)(2) 政府と職員団体との交渉ア政府とP2との交渉政府とP2との交渉は,5月13日,17日,20日,25日,27日,6月2日の6回が開催されたところ,その概要は下記のとおりである。そして,通常国会の会期末が6月22日に迫る中(なお 政府とP2との交渉は,5月13日,17日,20日,25日,27日,6月2日の6回が開催されたところ,その概要は下記のとおりである。そして,通常国会の会期末が6月22日に迫る中(なお,その後,会期は同年8月31日まで延長された),最終的にP2からは合意が得られないまま,交渉を終了した。なお,職員団体との交渉については,正式な交渉の前に予備交渉が行われることが多いが,給与減額支給措置に関して,P2との間で予備交渉が行われることはなかった。(乙4の1ないし6,33,証人P14,証人P17)(ア) 5月13日の総務省(片山総務大臣ら)とP2との交渉(甲1,乙4の1) a 総務省(片山総務大臣)は,国家公務員給与減額に関する方針について,概ね以下のとおり説明した。 政府は,かねてより現下の社会経済情勢や厳しい財政事情を踏まえ,国家公務員の人件費削減について,極めて異例ではあるが,自律的労使関係制度が措置されるまでの間においても,その移行を先取りする形で,給与の引下げを内容とする法案を平成23年の通常国会に提出すべく検討を行ってきた。今回の給与引下げは,国の厳しい財政事情,特に東日本大震災への対処を考えれば,さらなる歳出削減は不可欠であり,国家公務員の人件費も例外ではないと考えている。具体的には,平成25年度末までの間,俸給等の支給額の1割削減を基本とする引下げを提案したい。 b これに対し,P2は,概ね以下のとおり意見を述べた。 ① 給与減額の内容は,公務労働者の労働条件の大幅な切り下げであり,重大な問題があり,認め難い。 ② 復興財源確保の一環としての給与減額は認められない。復興財源は,国家公務員の賃金を一部減額して確保できる金額とは桁違いであり,それに見合 切り下げであり,重大な問題があり,認め難い。 ② 復興財源確保の一環としての給与減額は認められない。復興財源は,国家公務員の賃金を一部減額して確保できる金額とは桁違いであり,それに見合った財源論議が必要である。 ③ 以下の点について総務大臣としての考え方を明らかにすべきである。 なぜ道理のない公務員総人件費減額にしがみつくのか。やるべきことは賃下げよりも震災復興のために公務員の数を増やすことだと思う。 公務員の賃下げによる広範囲に及ぶ否定的な影響を踏まえた検討が必要であるが,この点についてどのように考えるのか。 労働基本権制約の下での,人事院勧告に基づかない労働条件の切下げは,明確に憲法に違反するものであり,賃金減額が可能だとす るなら職員が納得できる合理的説明を求める。 c これに対し,総務省(片山総務大臣)は,概ね以下のとおり説明し,近日中に具体的な提案をしていきたいと述べ,交渉を継続することとした。 ① 国家公務員の給与削減の問題は,昨年11月の人勧処理の段階で表明しており,復興財源のために先行してやるという経緯ではない。 総人件費2割削減という政策は,与党のP10党が掲げたものであるから,できる限り実現するということが民主政治の基本である。 ② 今回の提案は,国家公務員の給与に関するものであり,地方公務員についても同列に論じて同じように求めることは考えていない。 ③ 人事院勧告に基づかない賃金引下げについては,財政状況が厳しい中での東日本大震災の発生という異例の状態であり,平成25年度までの臨時的な措置として整理している。 (イ) 5月17日の総務省(P12政務官ら)とP2との交渉(甲 いては,財政状況が厳しい中での東日本大震災の発生という異例の状態であり,平成25年度までの臨時的な措置として整理している。 (イ) 5月17日の総務省(P12政務官ら)とP2との交渉(甲2,乙4の2)a 総務省は,俸給の減額割合を本省課室長相当職員以上は10%,本省課長補佐及び係長相当職員は8%,係員は5%,俸給の特別調整額については一律10%,期末手当及び勤勉手当についても一律10%等とする「一般職国家公務員の給与減額支給措置要綱(案)」を提示した。 bP2は,前回指摘した疑問点に納得できる説明がないまま具体的な話合いに入るわけにはいかないと前置きしつつ,以下の4点につき見解を求めた。 ① 財政事情と総人件費2割削減方針との関係② 地域経済や景気へのマイナスの波及効果③ 緊急増員を含む行政体制の拡充 ④ 一方的に閣議決定されても対抗手段がない以上,現行制度によらない賃下げ提案は決定ルールとして重大な問題がある点c これに対し,総務省は,概ね以下のとおり説明したものの,P2の理解を得ることはできず,次回の交渉で,財政事情の悪化した原因等に関する資料を示し,給与減額に関する交渉ルールの問題,給与を減額しなければならない必要性・根拠についても改めて回答することとして,交渉を継続することとした。 ① 総人件費2割削減は,人件費を削減し財政健全化に寄与するとの発想と思われる。国の財政事情が極めて厳しい中,東日本大震災があり,復興のための支出に向けて更なる歳出削減が不可欠である。 ② 給与の減額がデフレ状況に対しマイナスの影響を与えることは否定できないが,一方で徹底的に歳出を見直して財政の健全化を図ることは国民経済の発展に資する。 更なる歳出削減が不可欠である。 ② 給与の減額がデフレ状況に対しマイナスの影響を与えることは否定できないが,一方で徹底的に歳出を見直して財政の健全化を図ることは国民経済の発展に資する。 ③ 給与の減額により職員の士気が低下することは否めないが,財政再建のために,職員にも協力をお願いしたい。 ④ ルールの問題は,極めて異例の措置ということで,理解いただけるよう話し合っていきたい。 (ウ) 5月20日の総務省(P12政務官ら)とP2との交渉(甲3,乙4の3)a 総務省は,前記(ア),(イ)の交渉におけるP2の主張を受け,給与減額支給措置の必要性について,国の財政状況に関する資料(乙4の3添付)を提示するなどして,以下のとおり説明を行った。 ① 給与減額支給措置の提案趣旨及び同措置における削減率の設定について給与の減額は,極めて厳しい国の財政事情と東日本大震災への対処のために巨額の財源が必要となり,更なる歳出削減が不可欠であ ることから提案しているものである。給与の削減率の設定に当たっては,厳しい財政状況にある地方公共団体における給与削減の取組等を参考とした。 ② 給与減額の根拠となる厳しい財政状況等について平成23年度当初予算においては,公債依存度が47.9%,公債残高が668兆円に上るなど,主要先進国の中で最悪の水準にある。さらに,震災復興のための第2次補正予算の編成が見込まれることから,歳入歳出の更なる見直しが必要となっており,5月17日に閣議決定された「政策推進指針」においても,震災の復興財源を確保することが課題として示されている。 ③ 給与減額の必要性について政府は,これまで「財政運営戦略」(平成22年6月 閣議決定された「政策推進指針」においても,震災の復興財源を確保することが課題として示されている。 ③ 給与減額の必要性について政府は,これまで「財政運営戦略」(平成22年6月22日閣議決定)を策定して財政健全化目標を設定し,平成23年度当初予算案の編成に当たっては,事業仕分けの結果の反映等による歳出の見直しや公共事業の縮減を行うなど,財源確保,財政規律の維持のために努力を行ってきた。さらに,第1次補正予算の編成に当たっては,東日本大震災関係費用約4兆円に必要な財源を確保するため,成立したばかりの予算について見直しを行い,約3兆7000億円の既定経費の削減を行っている。このように,国の財政事情は極めて厳しい状況にあり,更なる歳出削減が不可欠であり,国家公務員の人件費についても例外ではない。 ④ 公務員の士気の低下について職員は,東日本大震災への対応を含め,日夜公務に精励していると認識している。その一方で,給与を減額することについては,大変心苦しく思うが,現下の経済社会情勢や厳しい財政事情に加え,東日本大震災の復旧・復興のために多額の経費が必要となることを 踏まえれば,歳出の削減は待ったなしの課題である。職員においては,かかる事情を是非とも理解してもらいたい。 ⑤ 景気への影響について一般論として,所得の低下は,個人消費の減少要因の一つであると考えているが,一方で,東日本大震災の被災者の生活支援対策や復旧・復興対策については,政府として全力で取り組んでいるところ,国家公務員の給与減額分は,これらの財源となり,政府の復興政策が実施に移されれば,全体として景気に対してプラスの効果が期待されると考えている。 ⑥ 地方公務員の給与への影響について 家公務員の給与減額分は,これらの財源となり,政府の復興政策が実施に移されれば,全体として景気に対してプラスの効果が期待されると考えている。 ⑥ 地方公務員の給与への影響について地方公務員の給与については,地方公務員法の趣旨を踏まえ,それぞれの地方公共団体が条例で定めるものであり,国と同様の措置をとることを前提としていないことは,既に総務大臣から回答したとおりである。 b これに対し,P2は,概ね以下のとおり意見を述べ,上記回答に強い不満を表明し,最後には,財政再建に向けた資料も方針も出さないままで,賃金の削減だけはやらせてほしいという提案では到底納得できないとして,各単位組合代表を交えた交渉の場の設定の検討を申し入れた。 ① 組合の主張とかみ合わない回答だ。今回の措置は危機的な財政事情に至った責任を職員に転嫁するようなものだ。米軍思いやり予算や政党助成金に手を付けるべきではないか。 ② 現状は人事院勧告制度の下にある以上,交渉の法的根拠を明確にすべきである。政府によって賃下げが強行されても組合は対抗手段がないこととの関係はどう説明できるのか。 (エ) 5月25日の総務省(P13人事・恩給局長ら)とP2との交渉 (甲4,乙4の4)aP2からは各単位組合を代表する組合員を含む20名が参加し,各参加者は,給与削減には納得できず,仕事のモチベーションにも大きく影響するなどと,給与減額提案の不当性を述べた。 b 総務省は,概ね以下のとおり説明した。 ① 国の財政状況が厳しい中,震災前から歳出削減をしなければならない状況があり,東日本大震災の復旧・復興に向けて莫大な財政需要が見込まれていることから,人件費も例 下のとおり説明した。 ① 国の財政状況が厳しい中,震災前から歳出削減をしなければならない状況があり,東日本大震災の復旧・復興に向けて莫大な財政需要が見込まれていることから,人件費も例外ではない。政府としては色々な見直しを行っている。 ② 各職員が被災地や各職場でがんばっていることは承知しているし,業務が増えていることも理解しているが,復興手助けという観点からもご理解いただきたい。 ③ 今回は異例の事態であり,臨時,異例の措置であるから違法とは考えていない。また,3年間の時限措置であり,労働基本権の法案も併せて提出するよう努力している。最終的には国会で判断していただくことになる。 cP2は,政府の回答は,P2の主張を受け止めた回答になっているとは思えないとして,①一方の組合と合意したことを理由にP2が納得できないまま強行するつもりか,団結権のない職員にはどう説明するのか,②交渉が不調となった場合の救済手段がないことをどう考えるのか,③職員の生活問題等についてどう考えるかについて,回答できるよう検討を求めると述べた。 (オ) 5月27日の総務省(P12政務官ら)とP2との交渉(甲5,乙4の5)a 総務省は,給与減額支給措置について,その必要性について十分に理解が得られるよう努力したいと述べた上で,上記(エ)の交渉におけ るP2からの質問に対し,概要以下のとおり回答した。 ① 団結権のない職員等への対応について団結権のない職員への対応については,使用者である政府としては,職員を代表している立場である職員団体とまずは真摯に話合いを行っており,その上で,各府省に対しては,内閣官房副長官から各省事務次官に対し,給与減額を行う趣旨などについ は,使用者である政府としては,職員を代表している立場である職員団体とまずは真摯に話合いを行っており,その上で,各府省に対しては,内閣官房副長官から各省事務次官に対し,給与減額を行う趣旨などについて説明を行い,総務省からも,団結権のない職場も含め,各府省人事当局に対しても説明を行っている。さらに,今後,国家公務員全体に対するメッセージを政府から発し,給与減額支給措置について職員全体からの理解が得られるように努めたい。 また,団結権のない職員の給与への対応について,従来,人事院勧告の対象となる職員の給与をベースに考えており,今回も一定の交渉グループの結論に準じて改定するのが原則と考えている。団結権のある職員の給与水準とバランスを取って決めることになるので,一定の権利は確保されている。最終的には団結権のない職員の給与も,法律として提案し,国会の判断を受けることになるから,勤務条件法定主義の下,一定の権利は保障されるものと考えている。 ② 交渉が不調となった場合の救済措置の考え方について今般検討している給与減額支給措置は,極めて厳しい財政状況等に鑑み,極めて異例の措置として,時限的に行うものであり,職員団体とも真摯に話し合った上で行おうとしているものである。政府としては,職員団体との交渉を通じ,給与減額支給措置の必要性について十分に理解が得られるよう,努力したい。 国公法28条は,公務員の勤務条件は国会が社会一般の情勢に適応するよう随時変更できるとする勤務条件法定主義を規定しており,最終的には国会が判断するものと考えている。 ③ 職員の生活が非常に厳しい状況にあることへの理解について職員が,東日本大震災への対応を含め,日夜公務に精励していることは認識している。一方で,現下の経済社会情勢や厳しい財 ③ 職員の生活が非常に厳しい状況にあることへの理解について職員が,東日本大震災への対応を含め,日夜公務に精励していることは認識している。一方で,現下の経済社会情勢や厳しい財政事情に加え,東日本大震災の復旧・復興支援のために多額の支援が必要となることを踏まえれば,歳出の削減は待ったなしの課題であり,職員の協力が不可欠であると考えている。提案している給与減額支給措置は,職員にとり大変厳しい内容であり,職員の生活にも大きな影響を与えるものであることはよく理解している。そのため,俸給の減額率について,給与額の少ない中堅・若手層には一定の配慮を行うなどしている。 b これに対し,P2は,概ね以下のとおり述べ,また,納得できる内容ではない,議論は平行線であるが,交渉の席を立つつもりはない,政府と真正面から対峙し,どちらに大義があるのか,広く国民にも判断してもらいたいなどとして,次回は,これまでの議論を踏まえて,片山総務大臣と直接交渉することを求めた。 ① 人事院勧告に基づかない給与変更が可能な法的根拠を明らかにすべきである。自律的労使関係制度が3年後に確立する保障も担保もなく,それを論拠とする議論もおかしい。 ② 3年間の時限措置というが,3年後に財政が好転する見通しは全くなく,改めて削減が提案されることにもなりかねない。勧告なしでも政府の判断で給与減額法案が出せるという認識は問題である。 ③ 財政状況が給与減額の根拠というなら,具体的指標や財政再建に向けた計画などを示した上で提案するのが当然である。交渉というなら,使用者として責任ある態度をとるべきである。 (カ) 6月2日の総務省(片山総務大臣ら)とP2との交渉(甲6,乙4の6) どを示した上で提案するのが当然である。交渉というなら,使用者として責任ある態度をとるべきである。 (カ) 6月2日の総務省(片山総務大臣ら)とP2との交渉(甲6,乙4の6) a 総務省(片山総務大臣)は,P2との従前の議論の状況を踏まえ,概ね以下のとおり説明した。 ① 給与減額支給措置の理由と根拠について給与減額支給措置の提案は,「総人件費2割削減」を金科玉条と考えたものではなく,国家公務員給与の現状,財政事情,国民世論の動向を見ながら検討を進めてきた。そこに,東日本大震災が発生し,一層財政事情が厳しくなり,やむを得ない措置として提案したものである。 ② 社会経済全体・景気へのマイナス波及について可処分所得の減少により,家計支出へマイナスの影響があることは否めない。ただし,国家公務員給与だけで国の経済が左右されるわけではない。今後,震災復興のための経済対策も行われ,第1次補正予算に続き,第2次,第3次と対策を図れば,マイナスを上回るプラスの効果が生じるものと思われ,それらを含めて判断する必要がある。 ③ 職員の士気への影響について被災地には国家公務員も地方公務員もいろいろなルートで派遣されており,復興に向けて役割を果たしていることは承知している。 その中での提案は心苦しいが,厳しい財政事情からあえてやらざるを得ない。理解の上,協力してほしい。 ④ 現行制度下における今回の交渉のルール問題について本来,労働基本権の回復後に給与を論じるのが一番真っ当なやり方であるが,平成22年11月閣議決定のとおり,給与減額支給措置は臨時・異例の措置であり,ある程度時間をとって,職員団体の理解を得られるよう真摯に交渉を進めてきたつもりである。仮に交渉が 当なやり方であるが,平成22年11月閣議決定のとおり,給与減額支給措置は臨時・異例の措置であり,ある程度時間をとって,職員団体の理解を得られるよう真摯に交渉を進めてきたつもりである。仮に交渉が決裂した場合には,勤務条件法定主義に基づいて最終的には国 会が判断することになるので,担保は取られているものと考える。 また,今回の措置は,平成25年度までの時限的措置であり,現行憲法の枠組みの中でも臨時・異例の措置として許されるものと考えている。 b これに対し,P2は以下のとおり意見を述べた。 ① 復興財源は給与減額で確保できる金額とは桁違いであり,それに見合った財源論議が必要である。公務員賃金減額は,国民負担増・増税の露払いであり,その点からも断じて認められない。 ② 公務員の賃下げは,景気回復に逆行する。 ③ 地方公務員に波及しないといっても,政府として統一した見解なのかについても疑問がある。 ④ 奮闘している公務員の労苦に報いるのになぜ賃下げなのか。今やるべきことは被災者本位の復旧・復興に向けた緊急増員を含む行政体制の拡充ではないのか。 ⑤ 人事院勧告制度の下で,政府の判断で法案を出しても国会で承認されればよいという認識は問題である。自律的労使関係制度の関連法案をめぐっては内閣府と議論しているが,法案には多くの問題点がある。 c その後のやりとりを経て,P2は,「政府はあくまで賃下げ法案の決定を強行する構えであるが,国会での審議の段階では,各議院にも訴え,政府とP2のどちらに大義があるかを判断してもらうつもりだ。 国民にも同様に判断してもらう。政府は誠意を尽くして交渉すると言ったが,時間がきたから国会に出すというのでは,労使関係制度のいいとこどりでアリ とP2のどちらに大義があるかを判断してもらうつもりだ。 国民にも同様に判断してもらう。政府は誠意を尽くして交渉すると言ったが,時間がきたから国会に出すというのでは,労使関係制度のいいとこどりでアリバイ作りの交渉ではないか。」との意見を述べ,これに対し,政府は,「あらかじめ内容,スケジュールを決めて交渉に臨んだのではなく,決してアリバイ作りではない。政府としては法案 を国会に出すことになる。政府としても今回の措置や事情や考え方を改めて説明し国会の判断を仰ぎたい。」と述べ,交渉は終了した。 イ政府とP6との交渉政府とP6との交渉は,5月13日,17日,19日,23日に開催され,その結果,給与臨時特例法案の提出についてP6の同意が得られた。 その過程の概要は以下のとおりである。(乙33,証人P14)P6は,給与減額率は一律とせず,若年層には特段の配慮をし,給与引下げ措置を退職手当の算定に反映させないこと,給与減額法案と労働基本権回復の法案の同時提出,同時成立等を求めたところ(5月13日,乙5の1),総務省は,給与臨時特例法案は給与減額率等についてのP6の意見を踏まえたものにする旨,また,給与減額法案と公務員制度改革法案は同時に提出し決着できるよう進めていく旨回答した(5月17日,乙5の2)。さらに,総務省は,段階的な減額率とした根拠を説明するなどしたところ,P6は,交渉を通じて労使関係で決着するという姿勢があり誠意ある対応がされたと評価した(5月19日,乙5の3)。5月23日の交渉においては,P6は,改めて,①給与減額法案と労働基本権付与の法案の同時提出,②定員削減の凍結,③震災対応に対する必要な超勤予算の確保等,④地方公務員への影響の遮断等を求めた。これに対し総務省は,①について同時提出したいと考えてい 減額法案と労働基本権付与の法案の同時提出,②定員削減の凍結,③震災対応に対する必要な超勤予算の確保等,④地方公務員への影響の遮断等を求めた。これに対し総務省は,①について同時提出したいと考えている,②は大幅な純減目標を掲げて定員削減に取り組む状況ではない,③は勤務すればそれに見合った手当が出るのが原則である,④は自治体と議会で決定されるべきものなどと回答した。 そして,P6は,給与削減原資は復興財源に活用されると承知しており,東日本大震災からの復旧・復興は大変困難な道のりであり,P6としても被災者・被災地とともに歩んで行かなければならないという思いをもって今回の提案・交渉結果を受け入れることとするとの見解を表明した(5月23日,乙5の4)。 ウ給与臨時特例法案が国会提出された後の政府とP2とのやりとり(ア) 9月30日の総務省(P18人事・恩給局長ら)とP2とのやりとり(甲7,乙19の1)P2は,本件人事院勧告の取扱に関して意見を述べ,また,給与臨時特例法案については人事院も懸念を示しており,これを撤回すべきである旨の意見を述べた。これに対し総務省は,政府としての対応は,給与関係閣僚会議で検討を進めたいと回答した。 (イ) 10月21日の総務省(P19人事・恩給局総務課長ら)とP2とのやりとり(甲8,乙19の2)P2は,本件人事院勧告の取扱に対する政府の見解を求めたところ,総務省は,現在検討中である旨回答した。 (ウ) 10月25日の総務省(P18人事・恩給局長ら)とP2とのやりとり(甲29,乙19の3)総務省は,給与関係閣僚会議の検討を踏まえ,本件人事院勧告を実施するための (ウ) 10月25日の総務省(P18人事・恩給局長ら)とP2とのやりとり(甲29,乙19の3)総務省は,給与関係閣僚会議の検討を踏まえ,本件人事院勧告を実施するための新たな法案は提出しない方向である旨を説明した。これに対し,P2は,本件人事院勧告を見送るのは暴挙である,給与臨時特例法案の撤回を求める旨の意見を述べた。給与臨時特例法案に関するやりとりの中では,最高裁平成12年判決に関する議論がされた。 (エ) 10月27日の総務省(P20総務大臣政務官ら)とP2とのやりとり(甲30,乙19の4)総務省は,本件人事院勧告を実施するための給与法改正案は提出せず,給与臨時特例法案の早期成立を期すとの最終回答を示した。これに対しP2は,人事院勧告の無視は二重のルール違反であるなどとして,改めて給与臨時特例法案の撤回を求めた。 (オ) 平成24年2月16日の総務省(P18人事・恩給局長ら)とP2とのやりとり(甲9,乙19の5) P2からは,春闘要求の中の要求の一つとして,給与臨時特例法案の撤回を求めた。これに対し,総務省は,P2から提出された要求について,3月下旬の最終回答に向けて検討する旨回答した。 (3) 給与臨時特例法案の国会提出及び人事院勧告等ア政府は,6月3日,平成23年6月閣議決定を行い,内閣総理大臣は,「平成23年6月総理大臣談話」(その要旨は前提事実(2)エ)を発表した。政府は,平成25年度まで国家公務員の給与について減額支給措置を講ずることを内容とする給与臨時特例法案を国会に提出した(乙6の1・2)。 イ人事院総裁は,同日,給与臨時特例法案の国会提出を受けて,「このような給与減額支給 の給与について減額支給措置を講ずることを内容とする給与臨時特例法案を国会に提出した(乙6の1・2)。 イ人事院総裁は,同日,給与臨時特例法案の国会提出を受けて,「このような給与減額支給措置は遺憾といわざるを得ず」,「今回の給与減額支給措置が行われる間,労働基本権制約の代償措置が本来の機能を果たさないことにならないかとの懸念があり」,「今後,国会において,これらの点も含め,慎重な審議が行われることを期待する。」旨の談話を発表した(甲38の1・2)。 ウ人事院は,9月30日,本件人事院勧告を行った。また,同日,人事院総裁は,給与臨時特例法案等に関して,「民間準拠により国家公務員給与を適切に決定することは,職員の努力や実績に報いるとともに,人材の確保にも資するものであり,組織活力の向上,労使関係の安定などを通じて,行政の効率的,安定的な運営に寄与するものである。」,「現在,給与臨時特例法案が提出されているが,国会及び内閣においては,人事院勧告の意義と役割に深い理解を示され,勧告どおり実施されるよう要請する。」旨の談話を発表した。(甲39)エ政府は,10月28日,平成23年10月閣議決定(その要旨は前提事実(2)カ)を行った。これを受けて,同日,人事院総裁は,「東日本大震災という未曾有の国難に対処するに当たっては,平時とは異なって,内閣 及び国会において,大所高所の立場から,財源措置を検討することはあり得ることと考える。」,「労働基本権の一部制約の代償措置である人事院勧告を尊重することは憲法上の責務であり,人事院勧告を実施しないことは極めて遺憾である。」,「人事院勧告と,厳しい財政状況及び東日本大震災に対処する必要性に鑑み国家公務員人件費を削減するための給与臨時特例法案は,趣旨・目的が全く異な り,人事院勧告を実施しないことは極めて遺憾である。」,「人事院勧告と,厳しい財政状況及び東日本大震災に対処する必要性に鑑み国家公務員人件費を削減するための給与臨時特例法案は,趣旨・目的が全く異なる。」,「復旧・復興のための財源確保という課題は,人事院勧告とは別に,内閣及び国会で検討されるべきものである。その場合においても,人事院勧告をめぐる過去の事例や最高裁の判例の趣旨を踏まえたものであることが必要である。」旨の談話を発表した。(甲40の1・2)(4) 給与改定・臨時特例法の成立ア上記状況の中,P7党及びP8党所属の国会議員から,給与法の特例を定めるP9案が衆議院に提出された。P9案及び給与臨時特例法案は継続審査扱いとなり,平成24年1月24日,第180回国会が始まった。 イ P9案及び給与臨時特例法案が並立する中で,法案の取扱いにつきP10党・P7党・P8党の3党で協議が行われ,平成24年2月17日,3党合意がされた(その要旨は前提事実(2)ケ)。そして,P10党・P7党・P8党の3党共同提案という形で給与改定・臨時特例法案が議員立法として国会に提出された。これに基づき,同月22日国会に提出された給与改定・臨時特例法案は衆参両議院の審議を経て,同月29日に成立し(乙22,23),翌3月1日施行された(同法附則1条参照)。 ウ上記審議において,川端達夫総務大臣は,人事院勧告は基本的に尊重してしっかりやるというのが原則である,現行制度のもとで給与の減額措置期間を相当程度長期間又は当分の間などとすることは憲法上の問題が生じると考えている旨の答弁をし,給与改定・臨時特例法案等の提案者である国会議員らも,政府案の考え方を踏襲し,同様の臨時特例的な削減措置を 講じているものである旨の答弁をした(乙11,12)。 ( と考えている旨の答弁をし,給与改定・臨時特例法案等の提案者である国会議員らも,政府案の考え方を踏襲し,同様の臨時特例的な削減措置を 講じているものである旨の答弁をした(乙11,12)。 (5) その後の経過政府は,平成25年11月閣議決定において,給与改定・臨時特例法に基づく給与減額支給措置は,平成26年3月31日をもって終了するとした。 同日,内閣官房長官は,労働基本権制約の代償措置の根幹を成す人事院勧告制度を尊重するとの基本姿勢に立ったものである旨の談話を発表した。(甲74,乙39,40)。 (6) 自律的労使関係制度の措置に関する経過ア自律的労使関係制度の措置は,平成20年6月13日に公布・施行された国家公務員制度改革基本法(平成20年法律第68号)12条において,「政府は,協約締結権を付与する職員の範囲の拡大に伴う便益及び費用を含む全体像を国民に提示し,その理解のもとに,国民に開かれた自律的労使関係制度を措置するものとする。」とされ,同法4条1項後段において,「必要となる法制上の措置については,この法律の施行後三年以内を目途として講ずるものとする。」とされていることを受けて,政府において検討が進められていた。 イ政府は,6月3日,国家公務員の労働関係に関する法律案(乙25)などの国家公務員制度改革関連4法案を閣議決定し,同日,国会に提出した。 これらの法案は,第177回国会,第178回国会,第179回国会及び第180回国会でいわゆる継続審議扱いとなり,第181回国会における衆議院解散(平成24年11月16日)に伴い,結果として成立しないまま廃案となった。 2 人事院及び人事院勧告制度証拠(甲31の1・2,37,乙7,15)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認 4年11月16日)に伴い,結果として成立しないまま廃案となった。 2 人事院及び人事院勧告制度証拠(甲31の1・2,37,乙7,15)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 人事院は,国公法の定めにより,内閣の所轄の下に置かれた中央人事行 政機関であり,法律の定めるところに従い,給与その他の勤務条件の改善及び人事行政の改善に関する勧告,採用試験及び任免,給与,研修,分限,懲戒,苦情の処理,職務に係る倫理の保持その他職員に関する人事行政の公正の確保及び職員の利益の保護等に関する事務をつかさどるとされている(国公法3条1項,2項)。給与その他の勤務条件の改善及び人事行政の改善に関する勧告を一般に人事院勧告という。 (2) 昭和22年に国公法が制定され,その結果,国家公務員(一般職)の労働基本権について,その全てが禁止される者,団結権と団体交渉権は認められるが争議権が否定される者,全ての労働基本権が保障される者という3分類の法制度が成立した。昭和23年に国公法が改正され,全ての国家公務員について団体交渉権が制約され,また争議権が禁止され,国家公務員の労使関係には労働組合法が適用されないこととなった。その際,人事委員会に定められていた組織及び権限を強化され人事院が設置された。 (3) 国家公務員の給与制度の原則として,情勢適応の原則,職務給制度,成績主義があるとされる。情勢適応の原則とは「国公法に基づいて定める給与,勤務時間その他勤務条件に関する事項は,国会により社会一般の情勢に適応するように変更する。」(国公法28条1項)というものであり,この点に関し,上記変更について勧告権限を有する人事院(同条1項後段)は,給与について,国家公務員の給与水準を民間企業従業員の給 勢に適応するように変更する。」(国公法28条1項)というものであり,この点に関し,上記変更について勧告権限を有する人事院(同条1項後段)は,給与について,国家公務員の給与水準を民間企業従業員の給与水準と均衡させること(以下「民間準拠原則」という。)を基本としている。 (4) 人事院勧告(給与)は,昭和23年の制度発足以来,出されているところ,昭和35年から昭和44年までは,内容(較差)については勧告どおり実施されているが,実施時期がずれていたりし,この点も含めて勧告どおり実施されたのは昭和45年以降である。人事院勧告における民間準拠原則が確立したのは昭和35年前後であり,昭和34年に官民給与比較でラスパイレス方式が採用された。人事院は,昭和57年に4.58%の給与引上げ勧 告をしたが,国会はその実施見送りを決定し,昭和58年は6.47%の引上げ勧告に対して2.03%の実施,昭和59年は6.44%の引上げ勧告に対し,3.37%の実施がされた。その後,昭和60年から勧告どおり実施され,平成13年までは増額勧告が出されていたが,その後平成24年までの間は,平成19年を除いて減額勧告あるいは改定なしの勧告が続き,実施内容は勧告どおりである。 3 地方公共団体における給与減額支給措置証拠(甲44ないし48,94,証人P14)及び弁論の全趣旨によれば,平成19年から平成23年についてみると,全地方公共団体の過半数を超える団体が独自の給与減額支給措置を実施していること,平成23年4月1日現在についてみると,1794団体のうちの981団体(率にして54.7%)において独自に給料や手当の減額支給措置が実施されており,そのうち,都道府県・指定都市における一般職の給料(本給)の減額状況をみると,8パーセントを超える減 のうちの981団体(率にして54.7%)において独自に給料や手当の減額支給措置が実施されており,そのうち,都道府県・指定都市における一般職の給料(本給)の減額状況をみると,8パーセントを超える減額率によって実施しているのが9団体,5%ないし8%未満が12団体,3%ないし5%未満が4団体,2%ないし3%未満が3団体,2%未満が1団体であったことが認められる。 4 争点(1)ア(ア)(給与改定・臨時特例法は,人事院勧告に基づいていないことにより憲法28条等に違反するか)(1) 国家公務員給与改定についての国会の権限ア憲法73条4号は,内閣の事務の一つとして,「法律の定める基準に従ひ,官吏に関する事務を掌理すること。」と定め,国家公務員の勤務条件法定主義を定めている。国家公務員の給与は,法定されるべき勤務条件の一つである。また,給与の決定は国の財政支出を伴うものであるから,憲法83条「国の財政を処理する権限は,国会の議決に基いて,これを行使しなければならない。」,同法85条「国費を支出し,又は国が債務を負担するには,国会の議決に基くことを必要とする。」の定めからすれば, 国家公務員の給与決定は,憲法上,国会の権限である。 イ上記のとおり,国家公務員の給与決定は憲法上国会の権限に属するところ,国公法は,その給与決定手続,原則を定めている。すなわち,同法28条1項は,「この法律に基いて定められる給与,勤務時間その他勤務条件に関する基礎事項は,国会により社会一般の情勢に適応するように随時これを変更することができる。」としていわゆる情勢適応の原則を定め,また,給与等の変更に関しては「その変更に関しては,人事院においてこれを勧告することを怠ってはならない。」として人事院の勧告権限を定めている。 ( 。」としていわゆる情勢適応の原則を定め,また,給与等の変更に関しては「その変更に関しては,人事院においてこれを勧告することを怠ってはならない。」として人事院の勧告権限を定めている。 (2) 国家公務員の労働基本権とその制約及び代償措置ア憲法28条の労働基本権の保障は,国家公務員に対しても及ぶと解されるが,労働基本権は,勤労者の経済的地位向上のための手段として認められたものであって,それ自体が目的とされる絶対的なものではないから,国家公務員についてはおのずから勤労者を含めた国民全体の共同利益の見地からする制約を免れない。もとより,憲法15条だけを根拠として国家公務員の団結権を始めとするその他一切の労働基本権を否定することは許されないが,公共の利益のために勤務するという国家公務員の地位の特殊性と職務の公共性に鑑みると,これを根拠として労働基本権に対し必要やむを得ない限度の制約を加えることは,十分合理的な理由がある。 イまた,勤務条件の決定について,私企業の労働者と国家公務員とでは大きく異なり,利潤追求が原則として自由とされる私企業においては,労働者側の利潤の分配要求の自由も当然に是認され,争議行為等による解決が許されるのに対し,国家公務員の場合は給与をはじめ,その他の勤務条件は,原則として,国民の代表者により構成される国会の制定した法律,予算によって定められることになっているから,争議行為の圧 力による強制を容認することはできない。このように,国家公務員の労働基本権に対する憲法上の保障と,私企業の労働者の労働基本権に対する憲法上の保障とは,おのずからその内容を異にする。 ウしかしながら,国家公務員についても憲法によってその労働基本権が保障される以上,この保障と国民全体の共同利益の擁護との間に均衡が保 権に対する憲法上の保障とは,おのずからその内容を異にする。 ウしかしながら,国家公務員についても憲法によってその労働基本権が保障される以上,この保障と国民全体の共同利益の擁護との間に均衡が保たれていることを必要とすることは憲法の趣意であると解されるから,その労働基本権を制約するに当たっては,これに代わる相応の措置が講じられなければならない。 我が国の法制度の公務員の勤務関係における具体的な代償措置をみると,国家公務員は,法定の勤務条件を享受し,かつ法律等による身分保障を受けながらも,特殊な公務員を除いて,職員団体を結成し,それに対する加入・不加入の自由を保障していることに加え,原則的にはいわゆる交渉権が認められている。また,争議行為等が,勤労者をも含めた国民全体の共同利益の保障という見地から制約を受ける国家公務員に対しても,その生存権保障の趣旨から,法は,国家公務員に対して,身分,任免,服務,給与その他に関する勤務条件についての周到詳密な規定を設け,さらに中央人事行政機関として準司法機関的性格をもつ人事院を設けている。ことに国家公務員は,法律によって定められる給与準則に基づいて給与を受け,その給与準則には俸給表のほか法定の事項が規定される等,いわゆる法定された勤務条件を享有しているのであつて,人事院は,国家公務員の給与,勤務時間その他の勤務条件について,いわゆる情勢適応の原則により,国会及び内閣に対し勧告または報告を義務付けられている。そして,国家公務員たる職員は,個別的にまたは職員団体を通じて給与,勤務時間その他の勤務条件に関し,人事院に対しいわゆる行政措置要求をし,あるいはまた,もし不利益な処分を受けたときは,人事院に対し審査請求をする途も開かれている。(以上,アないしウについて全農林警職法事件大法廷判決 に関し,人事院に対しいわゆる行政措置要求をし,あるいはまた,もし不利益な処分を受けたときは,人事院に対し審査請求をする途も開かれている。(以上,アないしウについて全農林警職法事件大法廷判決 参照)(3) 検討ア上記(2)ウのとおり,国家公務員の労働基本権を制約することに見合う代償措置としては,人事院勧告制度のほかに,法律により国家公務員の身分,任免,服務,給与その他に関する勤務条件について周到詳密な規定が設けられているところであるが,人事院勧告制度が,国家公務員の労働基本権制約の代償措置として中心的かつ重要なものであるといえる。そして,人事院に関する国公法の定め,人事院の設置経過(前記2(1)(2))等からすれば,人事院は,公務員制度の運用について,中央人事行政機関として内閣及び国会からの独立性を持つ専門機関として十分にその機能を発揮すべきものとして設置されているといえる。 また,前記(1)アのとおり,国会は,国家公務員の給与決定の権限を有するところ,国家公務員は全体の奉仕者であって(憲法15条),法律に基づき行政をなすべく,公務の中立性が確保されなければならないから,国家公務員の給与水準の増減を決定するシステムにおいては,その増減の基準は客観的なものであることが望ましい。 これらのことからすれば,国会は,国家公務員の給与決定において,人事院勧告を重く受け止めこれを十分に尊重すべきことが求められているといえる。そして,人事院勧告が採用してきた民間準拠原則(前記2(3))は,国家公務員の給与水準の増減決定においてその客観性を支えるものといえる。 イ他方,前記2(1),4(1)イのとおり,人事院勧告は,文字どおり「勧告」として制度設計されており,人事院勧告によって国会を当然に法的に拘束できないことは明 の客観性を支えるものといえる。 イ他方,前記2(1),4(1)イのとおり,人事院勧告は,文字どおり「勧告」として制度設計されており,人事院勧告によって国会を当然に法的に拘束できないことは明らかであり,国会は,人事院勧告どおりの立法をすることが義務付けられているとはいえない。実際上も,人事院勧告が開始されて数十年を経ているが,この間,人事院勧告どおりに給 与が改定されたことが多いものの,実施が見送られたり,勧告された率から減じられた率による給与改定が実施されたこともある(前記2(4))ところである。また,憲法上,国会による国家公務員の給与増額措置と給与減額措置を切り離し,給与減額措置の局面についてのみ,人事院勧告に基づく以外の立法が禁じられていると解すべき根拠もない。 したがって,国家公務員の給与を定めるに当たり,憲法が許容する範囲内で具体的にどのような内容のものを定めるかについては,立法府に裁量が与えられているといえる。 ウまた,国会による国家公務員の給与決定手続に関して国公法にいう「社会一般の情勢」の意味は,民間労働法制やそれに基づく実際の民間の労働関係における労働条件の状況を重要な要素とするが,それに限定されると解することは相当ではなく,広く社会情勢や経済情勢を含み得るものと解するのが相当である。 この点について,原告らは,情勢適応の原則は,民間準拠原則を意味するのであり,国公法28条1項による国会の給与の変更の権限は,国公法64条2項の「民間における賃金」との較差是正の範囲を超えることは許されない旨主張する。確かに,民間の労働条件,賃金は重要な考慮要素であるとはいえるし,人事院は,基本的に「民間準拠原則」によって人事院勧告を行っているし(前記2(3)),民間準拠原則は公務員の給与水準の ない旨主張する。確かに,民間の労働条件,賃金は重要な考慮要素であるとはいえるし,人事院は,基本的に「民間準拠原則」によって人事院勧告を行っているし(前記2(3)),民間準拠原則は公務員の給与水準の客観性を支え公務の中立性を確保するものといえる(前記ア)。しかし,国公法28条1項の法文からして直ちに原告ら主張のように解すべきかは疑問であること,情勢適応の原則とは全体の奉仕者である公務員の在り方を念頭に置きつつ,公務員の勤務条件が,国の社会,経済上の一般情勢の変化に応じ適宜機動的に定められるべきものであることを表明したものであると考えられること,また,政治的,財政的,社会的その他諸般の合理的事情から,一時的に「民間準拠原則」とは異なる給与水準を決定する必 要性が生ずる場合も否定できないこと,人事院勧告における国家公務員給与の民間準拠原則が確立したのは昭和35年前後とされており(前記2(4)),人事院においても当初からそのような解釈が採用されていたかは明らかではないことなどからして,前記原告らの主張は採用することができない。 エ以上からすれば,国会が,国家公務員について,人事院勧告や民間準拠原則に基づかず,給与減額支給措置の立法をすることが一義的に許されていないと解することはできない。ただし,人事院勧告が国家公務員の労働基本権制約の代償措置としては中心的かつ重要なものであること,民間準拠原則が国家公務員の給与水準の増減決定において客観性を支えるものであることからすれば,国会は,国家公務員について給与減額支給措置を立法する場合,当該立法について必要性があり,かつ,労働基本権制約の代償措置として中心的かつ重要なものとして設けられた人事院勧告制度が本来の機能を果たすという点に留意すべきであって,当該立法について必要性が 合,当該立法について必要性があり,かつ,労働基本権制約の代償措置として中心的かつ重要なものとして設けられた人事院勧告制度が本来の機能を果たすという点に留意すべきであって,当該立法について必要性がなく,又は,人事院勧告制度がその本来の機能を果たすことができないと評価すべき不合理な立法がされた場合には,立法府の裁量を超えるものとして当該法律が憲法28条に違反する場合があり得るというべきである。そして,この点の判断に当たっては,給与減額支給措置を必要とする理由,減額の期間及び程度等の当該措置の内容等の事情を考慮すべきである。 したがって,給与改定・臨時特例法が人事院勧告に基づいていないことをもって,直ちに憲法28条に反するとはいえない。そして,当該立法が必要性がなく,又は,人事院勧告制度の本来の機能を果たすことができないと評価すべき不合理な立法といえるか否かは,後記5において,具体的に検討することとする。 (4) なお,原告らは,労働基本権を制約したまま国家公務員の給与を引き下 げる立法をなすには,情勢適応の原則に則った人事院勧告が前置されていることが憲法上の要請である旨主張する。しかし,国公法28条の解釈として,人事院勧告が前置されなければならないとの考え方は採用できない(前記(3)イウ)し,また,人事院勧告が労働基本権制約の代償措置として重要なものであることを考慮したとしても,そのことから,当然に人事院勧告前置が憲法上の要請であるとまでは解することはできず,上記原告らの主張は採用できない。 5 争点(1)ア(イ)(給与改定・臨時特例法が立法の必要性がないこと又は立法内容が合理性を欠くことによって憲法28条等に違反するか)(1) 立法の必要性ア給与改定・臨時特例法の立法趣旨等 )ア(イ)(給与改定・臨時特例法が立法の必要性がないこと又は立法内容が合理性を欠くことによって憲法28条等に違反するか)(1) 立法の必要性ア給与改定・臨時特例法の立法趣旨等同法は,「我が国の厳しい財政状況及び東日本大震災に対処する必要性に鑑み」定められたものである(同法1条)。 (ア) 厳しい財政状況給与改定・臨時特例法の成立時点において,国の公債依存度(一般会計総額に占める公債発行額の割合)は,平成23年度で51.9%,平成24年度当初予算で49.0%に達しているほか,公債発行残高も平成23年度末で676兆円(確定値は670兆円),平成24年度末時点見込みで709兆円(確定値は705兆円)に上り,その金額は一般会計税収の約17年分に相当するという極めて厳しい財政事情にあった(乙1,13,45)。 政府は,平成22年6月22日に閣議決定した「財政運営戦略」(乙46)において,国の財政事情について,「歳出が税収等を大きく上回る状態が恒常的に続き,過去20年間で国の国債残高は470兆円増加している。」との認識を示すとともに,平成23年度予算に係る具体的な取組として,「平成23年度予算の概算要求組替え基準について」 (平成22年7月27日閣議決定)に基づき,「ムダづかいの根絶の徹底や不要不急な事務事業の大胆な見直しにより,新たな政策・効果の高い政策に重点配分する財源を確保することが必要である。」(乙16)として,予算の構造改革に取り組むこととしていた。そして,平成23年度予算においては,事業仕分けの適切な反映,独立行政法人の事務・事業見直しといった他の取組に加えて,政府全体としての歳出削減の取組の一環として,国家公務員人件費の削減に取り組むこととした(乙17)。 また,政府としては, けの適切な反映,独立行政法人の事務・事業見直しといった他の取組に加えて,政府全体としての歳出削減の取組の一環として,国家公務員人件費の削減に取り組むこととした(乙17)。 また,政府としては,かかる財政状況の厳しさゆえ,行政改革に取り組み(乙33,証人P14),「国の行政機関の定員の純減について」(平成18年6月30日閣議決定)に基づき国家公務員の定員については平成18年度から「純減」の目標数値を定めた取組を開始し(乙47),「平成23年度の国家公務員の新規採用抑制の方針について」(平成22年5月21日閣議決定)に基づき新規採用抑制の方針を採用して,自衛官などを除いた平成23年度の国家公務員新規採用者数について,前年度比40%減とすることを政府方針として決定し,取り組んだ(乙48)。 (イ) 東日本大震災3月11日,東日本大震災が発生した。政府は,東日本大震災からの復旧・復興に当たり,「東日本大震災からの復興基本方針」(平成23年7月29日東日本大震災復興対策本部)において,平成27年度末までの5年間の「集中復興期間」に実施すると見込まれる施策・事業の事業規模が,国・地方(公費分)合わせて,少なくとも19兆円程度の巨額の費用が見込まれるとして,5年間の「集中復興期間」中の復旧・復興事業に充てる財源は,平成23年度第1次補正予算等及び第2次補正予算における財源に加え,歳出の削減,国有財産売却のほか,特別会計, 公務員人件費等の見直しや更なる税外収入の確保及び時限的な税制措置により13兆円程度を確保するとした(乙14)。 (ウ) このように,給与改定・臨時特例法が可決・成立した当時,国の財政事情は極めて厳しい状況にあったことに加え,3月11日に東日本大震災が発生し,その復旧・復興 とした(乙14)。 (ウ) このように,給与改定・臨時特例法が可決・成立した当時,国の財政事情は極めて厳しい状況にあったことに加え,3月11日に東日本大震災が発生し,その復旧・復興に当たって,政府として巨額の財源確保が必要となり,公務員人件費を含め様々な歳出削減・歳入確保のための措置を講じる必要性が生じていたといえる。 イ原告らの主張について(ア) 原告らは,5月13日に行われたP2との第1回交渉において,片山総務大臣が「今回の措置は震災の復興財源確保のためにやるという経緯ではない」旨述べたことなどから,あたかも東日本大震災への対処という立法趣旨が後付けのものである旨主張する。 しかしながら,原告らが指摘する片山総務大臣の発言は,交渉において,P2P11委員長の「復興財源は,国家公務員の賃金の一部を減額して確保できる金額とは桁違いであり,それに見合った財源論議が必要だ。」という趣旨の発言に対して,平成22年11月閣議決定の段階では,復興財源の確保を前提としていたものではない旨を述べたものと理解できる。また,同日の交渉で,片山総務大臣は「国の厳しい財政事情,特に東日本大震災への対処を考えれば,歳出削減は不可欠である。」旨の発言をしている。 以上からすれば,片山総務大臣も東日本大震災への対処を一つの目的として給与臨時特例法案について交渉を行ってきたことは明らかであり,原告らの主張するように東日本大震災の対処という立法趣旨が後付けであるとはいえない。そもそも,立法の必要性は,当該立法が成立した時点を基準として判断されるべきものであり,給与改定・臨時特例法が立法された遠因としてP10党が掲げたマニフェストがあり,それが厳しい財政事情のみを理由としていたとしても,そのことは,給与改定・臨 時特例法の立法の必 べきものであり,給与改定・臨時特例法が立法された遠因としてP10党が掲げたマニフェストがあり,それが厳しい財政事情のみを理由としていたとしても,そのことは,給与改定・臨 時特例法の立法の必要性を左右すべき事情とはいえない。 (イ) 原告らは,国が公債依存率が高いまま多額の歳出予算を成立させたことや,他に財源があることなどを指摘し,給与減額支給措置の必要性を肯定する根拠がない旨主張する。 しかしながら,国家公務員の勤務条件の改定に当たっては,国家公務員の給与の財源が国の財政とも関連して主として税収によって賄われ,私企業における労働者の利潤の分配要求とは異なり,その勤務条件はすべて,政治的,財政的,社会的その他諸般の合理的な配慮により適当に決定されなければならないところ(全農林警職法事件大法廷判決),前記アのとおり,給与改定・臨時特例法が可決・成立した当時,国の財政事情は極めて厳しい状況にあったことに加え,3月11日に東日本大震災が発生し,その復旧・復興に当たって,政府として巨額の財源確保が必要となり,公務員人件費を含め様々な歳出削減・歳入確保のための措置を講じる必要が生じたことは明らかである。他に財源確保措置があることはそのとおりではあるが,それぞれに必要性があるといえるのであって,他の措置の存在をもって,直ちに給与減額支給措置の必要性が否定されるものではない。 (ウ) 原告らは,復興予算の「目的外」支出が横行している旨主張する。 しかしながら,本件給与減額支給措置に伴う給与削減相当額は,東日本大震災復興特別会計に繰り入れられ,復興財源に充てられており(乙30の1・2),また,復興関連予算については,被災地の復旧・復興に直接資するものを基本とし,使途の厳格化を行うこととされているところである(乙49)。「目的外」支 れ,復興財源に充てられており(乙30の1・2),また,復興関連予算については,被災地の復旧・復興に直接資するものを基本とし,使途の厳格化を行うこととされているところである(乙49)。「目的外」支出が横行しているとすればそれは不適切なものであって是正されるべきものであるといえるが,そのことが本件の給与減額支給措置の必要性を否定することになるものではない。 (エ) 原告らは,本件で問題となっているのは,年間約2900億円の給 与減額の問題であり,一般論として「我が国の厳しい財政事情」を論じても意味がない,国の財政事情及びその国家公務員の給与との関係を客観的に見れば,国家公務員の給与を2年間で約5800億円削減することが必要となるほどの「厳しい財政事情」にあったとはいえない旨主張する。確かに,国家公務員の給与を減額しても年間約2900億円の歳出削減にしかならず,平成24年度末の公債発行残高705兆円に遠く及ばないことは明らかであり,今回の給与減額支給措置が直ちに被告主張の厳しい財政事情の改善をもたらすものとは考え難い。しかし,政府(国会)としては,厳しい財政事情を改善するために様々な措置をとる必要性があるのであって,その様々な措置の取り方について議論はある(甲34)にしても,その一つとしての給与減額支給措置をとるとする判断が不合理なものとはいえない。もとより,厳しい財政事情が直ちに解消するとは考え難い現状において,そのことのみをもって今回のような大幅な給与減額支給措置の必要性が当然に満たされるかについては議論があり得るところではあるが,今回給与減額支給措置がとられた理由としては,厳しい財政事情に加えて,東日本大震災が発生し,短期的にみて復興予算確保の必要性が生じた状況が存在するのであり,この事情を併せ考えれば,本件給与減額支 ,今回給与減額支給措置がとられた理由としては,厳しい財政事情に加えて,東日本大震災が発生し,短期的にみて復興予算確保の必要性が生じた状況が存在するのであり,この事情を併せ考えれば,本件給与減額支給措置を実施することが,そのことのみによって直ちに厳しい財政事情を有意に改善することにならないからといって,その必要性が否定されるものではない。 ウ前記ア認定のとおり,給与改定・臨時特例法は,国の厳しい財政事情に加えて東日本大震災への対処の必要性に鑑み立法されたものであるところ,厳しい財政事情に加えて東日本大震災への対処の必要性が存在することにおいて,同法の必要性は否定できず,この点に関する国会の判断を不合理なものとはいえない(P6は,「東日本大震災からの復旧・復興は大変困難な道のりであり,P6としても被災者・被災地とともに歩んで行かなけ ればならないという思いをもって今回の提案・交渉結果を受け入れることとする。」との見解(前記1(2)イ)を,人事院総裁は,一定の留保は付けつつも「東日本大震災という未曾有の国難に対処するに当たっては,平時とは異なって,内閣及び国会において,大所高所の立場から,財源措置を検討することはあり得ることと考える。」との見解(前記1(3)エ)をそれぞれ表明している。)。したがって,給与改定・臨時特例法が必要性が認められないにもかかわらず立法されたものということはできない。 (2) 立法内容の合理性(人事院勧告制度が本来の機能を果たすことができないと評価すべき不合理な立法といえるか)ア給与改定・臨時特例法に基づく給与減額支給措置と本件人事院勧告の内容とを比較するならば,上記支給措置の内容が,2年間にわたり,減額率が本件人事院勧告の内容を大きく超える平均7.8%であるという点において,本 臨時特例法に基づく給与減額支給措置と本件人事院勧告の内容とを比較するならば,上記支給措置の内容が,2年間にわたり,減額率が本件人事院勧告の内容を大きく超える平均7.8%であるという点において,本件人事院勧告の内容とは乖離している。そして,その大きな減額幅は,国家公務員に予想外の打撃を与え,個々の国家公務員においては著しい打撃を与える場合もあり得る(甲70の1ないし370,原告P21,同P22,同P23,同P24,同P25,同P26,同P27,同P28,同P29,同P30各本人尋問の結果)ところである。 しかし,この減額率の乖離は,人事院勧告が民間準拠原則を採用しており,一方,給与改定・臨時特例法は前記(1)の立法の必要性を理由とすることによるものと考えられるところ,上記のとおり同法の立法の必要性は否定されない。また,本件の給与減額支給措置においては,給与の絶対額の少ない若年層に対して減額率を逓減するなどの配慮を加えている。国家公務員においては異例の減額率とはいえ,上記減額率と同様若しくはそれを超える減額率で減額された地方公務員の例も存する(前記3,なお,地方公務員の給与減額には,地方公共団体それぞれに個別の事情があることが考えられるが,議会により減額されるという点に限れば国家公務員も地 方公務員も同様の立場にある。)。また,昭和57年から同59年にかけて,国会が人事院勧告を4.58%ないし3.07%減じて給与改定を実施した例も存する(昭和57年に人事院は4.58%の引上げ勧告をしたが,その勧告は,内閣,国会により,財政非常事態のみを理由に不実施とされたところ,この点について,最高裁平成12年判決は,「国家公務員の労働基本権の制約に対する代償措置が本来の機能を果たしていなかったといえない。」旨判示している。もとより, 態のみを理由に不実施とされたところ,この点について,最高裁平成12年判決は,「国家公務員の労働基本権の制約に対する代償措置が本来の機能を果たしていなかったといえない。」旨判示している。もとより,昭和57年は引上げ勧告に対する不実施であり,今回は,減額の人事院勧告を実施した上でさらに減額することを内容とする立法であるから,この点に本質的な相違があるとの考え方もあり得るが,この点については,昭和57年当時はそれまで増額勧告,実施が長く継続していた時期であり,一方,今回はそれまで減額勧告又は据え置きが長く継続していた時期であるところ,これらの経過の背景となる経済事情の相違も考慮されるべきである。)ことを指摘できる。 そして,本件の給与減額支給措置は,2年間に限定されたものであって,長期間でも恒久的なものでもない。また,人事院は設立以来数十年という長い期間にわたって極めて重要な機能を果たしてきており,今後も果たすことが期待されているし(前記2,弁論の全趣旨),政府としても本件給与減額支給措置を極めて異例の措置と位置付け,今後とも人事院勧告を尊重していく姿勢を示し,また,給与改定・臨時特例法の審議において,同法を提出した国会議員らも同様の認識を示していた(前提事実(2)エ,前記1(2)ア(カ)a,前記1(4)ウ)。これらの事情からすれば,給与減額支給措置が恒久的,あるいは長期間にわたるものや,減額率が著しく高いものであればともかく,今回,前記(1)の必要性のもと,東日本大震災を踏まえた2年間という限定された期間の臨時的な措置として,平均7.8%という減額率で実施された本件給与減額支給措置について,人事院勧告制度がその本来の機能を果たすことができなくなる内容であると評価するこ とは相当ではない。 イ原告らの主張について う減額率で実施された本件給与減額支給措置について,人事院勧告制度がその本来の機能を果たすことができなくなる内容であると評価するこ とは相当ではない。 イ原告らの主張について(ア) 原告らは,人事院勧告に基づかない給与減額支給措置が合憲となる場合があるとしても,民間労働者に適用される「就業規則による労働条件の不利益変更法理」と同等の要件が満たされなければならず,給与減額について「高度の必要性に基づく合理性」が存在することが必要であり,①労働者が受ける不利益の程度,②労働条件の変更の必要性,③内容の相当性,④労働組合との交渉の状況といった要件を総合的に考慮することになるとして,本件においては,個人原告ら「労働者が受ける不利益の程度」を前提として,「高度の必要性」,「内容の相当性」等の要件が検討されなければならない旨主張する。 しかしながら,国家公務員の場合,私企業とは異なり給与の財源が国の財政とも関連して主として税収によって賄われるため,その勤務条件は全て政治的,財政的,社会的その他諸般の合理的な配慮により適当に決定されなければならないとされている上,その決定手続も,私企業の場合のように労使間の自由な交渉に基づく合意によるのではなく,国民の代表者により構成される国会での法律・予算の審議・可決に基づくものとされているため,原告らの主張する準則は,そもそも,国家公務員の給与減額支給措置の場合に当てはまるとはいえず,民間労働者に適用される「就業規則による労働条件の不利益変更法理」と同等の要件が満たされなければならないことを前提とする原告らの主張は採用できない。 (イ) なお,原告らは,給与改定・臨時特例法が憲法28条に違反することを前提として,内閣が人事院勧告どおりの法案を提出しなかったことが憲法72条, ことを前提とする原告らの主張は採用できない。 (イ) なお,原告らは,給与改定・臨時特例法が憲法28条に違反することを前提として,内閣が人事院勧告どおりの法案を提出しなかったことが憲法72条,73条4号に反する旨主張するが,前記のとおり給与改定・臨時特例法が憲法28条に違反しないと解される以上,原告らの主張はその前提を欠くものである。 6 争点(1)ア(ウ)(本件の団体交渉について違憲・違法な点が認められるか,また,それによって給与改定・臨時特例法が憲法28条等に違反するか)(1) 原告らは,給与改定・臨時特例法が立法される過程において,原告P1の団体交渉権が侵害される違憲,違法な行為があったから,同法は憲法28条違反として無効である旨主張する。 (2) 国家公務員について,特殊な公務員を除き,一般に,その勤務条件の維持改善を図ることを目的として職員団体を結成すること,結成された職員団体に加入し,または加入しないことの自由を保有すること(国公法108条の2第3項)が認められるとともに,「当局は登録された職員団体から職員の給与,勤務時間その他の勤務条件に関し,及びこれに附帯して,社交的又は厚生的活動を含む適法な活動に係る事項に関し,適法な交渉の申入れがあった場合においては,その申入れに応ずべき地位に立つものとする。」とされ(国公法108条の5第1項),私企業におけるような団体協約を締結する権利までは認められないものの,原則的にはいわゆる団体交渉権が認められている。 そして,私企業における団体交渉においては,使用者が,①拒否回答や一般論のみで議題の内容につき実質的検討に入ろうとしない交渉態度,②労働組合の要求・主張に対して具体的に資料提示するなどして実質的な回答・説明を行っていない場合,③合意達成の意思のないことを 回答や一般論のみで議題の内容につき実質的検討に入ろうとしない交渉態度,②労働組合の要求・主張に対して具体的に資料提示するなどして実質的な回答・説明を行っていない場合,③合意達成の意思のないことを当初から明確にした交渉態度をとった場合などについては,誠実交渉義務に反するとされるところである。 (3) しかしながら,勤務条件の決定について,私企業の勤労者と公務員とは異なるものであり,憲法は,国民主権,議会制民主主義の下,国家公務員の勤務条件が法律ないし予算により定められることを予定している(勤務条件法定主義)。実際問題としても,国家公務員で組織する職員団体とその使用者たる国との間で,国家公務員の勤務条件について,国会による民主的統制 を全く排除し,団体交渉を通じて労働協約を締結することにより決定していくというようなことは,現行法上,認められていない。 したがって,給与の改定について,国家公務員について団体交渉権が認められ,政府として団体交渉に応じる義務があるとしても,果たされるべき団体交渉義務の内容としては,勤務条件法定主義の観点から一定の限界があるといわざるを得ない。 (4)ア政府とP2が団体交渉に至る経緯は前記1(1)のとおりであり,団体交渉の内容は前記1(2)アのとおりであり,その要旨は以下のとおりである。 第1回(5月13日)の交渉において,片山総務大臣から本件給与減額支給措置に関する方針について説明がされ,これに対して,P2からこの措置が認められれない旨の見解が出されるとともに給与減額を可能とする合理的な説明を求めた(前記1(2)ア(ア))。第2回(5月17日)の交渉においては,P12政務官は「一般職国家公務員の給与減額支給措置要綱(案)」を提示したところ,これに対して,P2からは,財政事情と総人件費2割削減方針 1(2)ア(ア))。第2回(5月17日)の交渉においては,P12政務官は「一般職国家公務員の給与減額支給措置要綱(案)」を提示したところ,これに対して,P2からは,財政事情と総人件費2割削減方針との関係など疑問点に関する政府の見解を求め,P12政務官は次回の交渉で財政事情が悪化した原因等に関する資料を示すなどして給与減額支給措置の必要性等について改めて回答することとした(前記1(2)ア(イ))。第3回(5月20日)の交渉において,P12政務官は,国の財政状況に関する資料を提示するなどして給与減額支給措置の必要性を説明したところ,P2は,自らの主張とかみ合わない回答であるとして強い不満を表明し,給与引下げが強行された場合,労働組合が対抗手段がないこととの関係の説明を求めるとともに,各単位組合代表を交えた交渉の場の設定を求めた(前記1(2)ア(ウ))。第4回(5月25日)の交渉において,P2の各単位組合代表らが給与減額支給措置の不当性を訴え,これに対し,P13人事・恩給局長は,政府として歳出削減について色々な見直しを行っていることを説明するとともに,今回の措置が臨時, 異例のものであるとして,理解を求めたが,P2は更なる回答を求めた(前記1(2)ア(エ))。第5回(5月27日)の交渉において,P12政務官は,団結権のない職員等への対応,交渉が不調となった場合の救済措置の考え方などについて説明したが,P2は,納得できる内容ではないとして,次回は片山総務大臣と直接交渉することを求めた(前記1(2)ア(オ))。第6回(6月2日)の交渉において,片山総務大臣は,改めて給与減額の理由と根拠,現行制度下における今回の交渉のルール問題等について説明し,これに対してP2はこれまでの主張を繰り返すとともに,国会での審議の段階では各議員にも訴え, ,片山総務大臣は,改めて給与減額の理由と根拠,現行制度下における今回の交渉のルール問題等について説明し,これに対してP2はこれまでの主張を繰り返すとともに,国会での審議の段階では各議員にも訴え,政府とP2のどちらに大義があるか判断してもらう,国民にも同様に判断してもらう旨述べ,政府も,政府としては法案を国会に提出することになり,国会の判断を仰ぎたいとして交渉を終了した(前記1(2)ア(カ))。 イ上記6回の交渉経過をみると,P2は,人事院勧告制度に基づかない給与減額支給措置は憲法違反であるなどとして政府提案にはおよそ賛成できないことを前提として交渉に臨み,一方,政府は,P2の求めに応じて給与減額支給措置の必要性について資料(乙4の3添付)を示し,また,景気への影響,公務員の士気への影響,地方公務員の給与への影響及び現行制度に基づかない交渉形式などについての見解を示すなどしたが,給与減額支給措置の法案提出そのものを撤回しないという態度を譲ることはなく,結局のところ,両者間において給与臨時特例法案の実質的内容について協議が行われることはなく,交渉を終了した。このような経過を辿った主な原因は,給与臨時特例法案が違憲であるかどうかという点に関して両者の間に基本的な見解の相違があることによると考えられるが,この点に関する政府の見解については前記のとおり不相当なものとはいえない。また,合計6回の交渉がされ,P2の要求・主張に対して政府は一応資料を提示するなどして回答・説明を行っていることを考慮すると,政府の上記交渉 における対応については,議題の内容につき実質的検討に入ろうとしない交渉態度であったとか,合意達成の意思のないことを当初から明確にした交渉態度をとったとはいえない。そして,前記(3)のとおりの勤務条件法定主義の観点か は,議題の内容につき実質的検討に入ろうとしない交渉態度であったとか,合意達成の意思のないことを当初から明確にした交渉態度をとったとはいえない。そして,前記(3)のとおりの勤務条件法定主義の観点から一定の限度がある団体交渉義務の範囲内では,政府の対応も止むを得ないものであったといわざるを得ず,原告P1の団体交渉権を侵害する違憲,違法な行為があったと評価することは相当ではない。 (5) 原告らの主張についてア原告らは,5月27日,6月2日の2回の交渉の前に,本件決裁文書が起案済みであったことから,合意を得る努力をする気がなかった旨主張する。 しかしながら,行政組織内の事務処理上,決裁が必要となる文書については,決裁にかかる期間を考慮してその起案を行うことは当然予想されるところであり,本件決裁文書は副大臣2名や大臣政務官,事務次官等,多数の関係者の決裁を経る必要があり,決裁に一定の時間を要することが想定されるところである。しかも,政府とP2との間の交渉が平行線をたどっていたことは前記(4)のとおりであったから,職員団体の交渉と並行して,本件決裁文書の起案を行ったこと自体,止むを得ないものと思われる。 また,本件決裁文書の最終決裁権者は総務大臣であり,最終的には片山総務大臣も出席して行われた6月2日のP2との交渉が終了し,P2の合意が得られないまま交渉を打ち切ることとした後に,片山総務大臣の決裁を得た上で確定したものである(乙43,44)。 したがって,本件決裁文書の作成を先行させていたからといって,政府がP2との間での交渉において合意を得る努力をする意思がなかったといえるものではなく,本件決裁文書の存在をもって,政府がP2と本件の給与減額支給措置について合意を得る努力をする意思がなかったとまで認めることはできない。 得る努力をする意思がなかったといえるものではなく,本件決裁文書の存在をもって,政府がP2と本件の給与減額支給措置について合意を得る努力をする意思がなかったとまで認めることはできない。 イ原告らは,P2との交渉における片山総務大臣の「自律的労使関係制度の先取り」という説明は当初から虚構であり,その後,給与改定・臨時特例法のみが成立し,自律的労使関係制度を措置するための法案は成立しなかったのだから,「先取り」という説明には何の保証もなかったとして,誠実交渉義務に反し,原告らの団体交渉権を侵害すると主張する。 しかしながら,政府が,P2との交渉において,本件給与減額支給措置が自律的労使関係制度を措置するための法案,すなわち国家公務員制度改革関連4法案の成立なくしては違憲であるとの認識を示したとか,給与臨時特例法案を国会に提出する条件として,国家公務員制度改革関連4法案を同時に成立させる旨約束したという事実を認めるに足りる証拠はない。 また,自律的労使関係制度を措置するための法案の経過は,前記1(6)のとおりであり,また,平成23年6月総理大臣談話においても総理大臣は同法案の成立を目指す意思を表明しており,これらの経過に照らしても,団体交渉時において,片山総務大臣が自律的労使関係制度構築の考えを有していたことを疑うべき事情はなく,同大臣が虚偽の説明をしたり,その制度構築の可能性がないにもかかわらずそのような説明をしたと認めるべき証拠もない。 ウ原告らは,給与減額支給措置に係る交渉の経過において,政府が地方公務員給与への波及を否定していたことについて,政府が方針転換し,その後,地方公共団体に対し,給与減額支給措置の事実上の強制を行っているなどとした上で,結局,地方公務員に波及させない,との約束は口先だけであり,不誠実な団体交 いたことについて,政府が方針転換し,その後,地方公共団体に対し,給与減額支給措置の事実上の強制を行っているなどとした上で,結局,地方公務員に波及させない,との約束は口先だけであり,不誠実な団体交渉の典型であると主張する。 しかしながら,5月13日以降に行われたP2との団体交渉は,国家公務員の給与減額支給措置を議題として開始されたもので,地方公務員の給与に関しては議題外となっており,P2からの質問に回答する形で対応したにすぎないもののようであるし,地方公務員の給与は,地方公共団体の 議会における審議を経て定められるものであって(地方公務員法24条),政府が地方公共団体に対して給与の減額を強制することは法律上予定されておらず,かかる趣旨の説明は,P2との団体交渉の中で説明されているところである(甲1,3,乙4の1,4の3)。 以上からすると,政府とP2との間で,給与減額支給措置を地方公務員へ波及させないことが国家公務員の給与減額支給措置に係る交渉の前提となっていたと認めるに足りる証拠はない。 エ原告らは,政府が,P2とP6という二つの労働組合が併存する下で,両者を平等に取り扱うことなく,P6との合意を得ることを最優先する交渉を行ったとして,具体的には,P6との間では,5月13日の第1回交渉以前に,事前に何らかの折衝が行われたと主張する。しかしながら,原告らが主張するような事実を認めるに足りる客観的な証拠は存在しない。 仮に,何らかの交渉が持たれた経過があったとしても,前記認定にかかる5月13日以降の団体交渉の経過からすれば,そのことで二つの労働組合間で違法な差別的取扱いがされたと認めることは困難である。 また,原告らは,政府が,P6の意見に基づいて5月17日の第2回交渉で「一般職国家公務員の給与減額支給措置要綱(案)」を提示 二つの労働組合間で違法な差別的取扱いがされたと認めることは困難である。 また,原告らは,政府が,P6の意見に基づいて5月17日の第2回交渉で「一般職国家公務員の給与減額支給措置要綱(案)」を提示したことや,政府が5月23日にP6との間で給与減額について合意したことをもって,併存する組合間における差別的な取扱いであると主張するが,いずれも差別的な取扱いと評価することは相当ではない。 オ原告らは,給与減額支給措置を議員立法によって行うことは,職員団体の団体交渉権を実質的に否定するものであって,憲法28条及び73条4号に違反する旨主張する。 しかしながら,現行法上,国家公務員の勤務条件に関する法律案の提出権を内閣に独占させることを認めた規定は見当たらない。 また,給与改定・臨時特例法は議員立法で行われたものであるが,その 内容的な基礎となっている給与臨時特例法案を国会に提出するにあたっては,前記1(2)アのとおり,政府とP2との間で団体交渉が行われ,同法案の国会提出後も,同法案をめぐるやりとりが交わされ,給与改定・臨時特例法案についての参議院総務委員会における審議においては,P2P11委員長が参考人として意見を述べている(前提事実(2)サ)ことが認められるのであり,給与改定・臨時特例法の内容については一定の団体交渉がなされたと評価できる。なお,原告らは,給与臨時特例法案と給与改定・臨時特例法とでは,前提条件が異なる異質の法案であると主張するが,原告らがその主張の前提とする政府の約束した条件(自律的労使関係制度を措置する法案を成立させること,給与減額を地方公共団体へは波及させないこと)が反故にされたとの主張は,前記イ,ウのとおりそもそもそのような条件自体が約束されていたと認めるに足りる証拠はない。また,給与臨時特例 を成立させること,給与減額を地方公共団体へは波及させないこと)が反故にされたとの主張は,前記イ,ウのとおりそもそもそのような条件自体が約束されていたと認めるに足りる証拠はない。また,給与臨時特例法案と給与改定・臨時特例法の異同は,別紙3のとおりであり,給与改定・臨時特例法が給与臨時特例法案の考え方を踏襲しながら,本件人事院勧告に基づく給与の改定を併せて行っていることは明らかであること,給与改定・臨時特例法案の審議においてそのような考え方が示されていたこと(前記1(4)ウ)などからすれば,給与臨時特例法案と給与改定・臨時特例法が前提条件が異なる異質の法案であるということは相当ではなく,原告らの主張は採用できない。 したがって,原告らが主張するように給与減額支給措置を議員立法によって行ったことが,直ちに憲法28条及び73条4号に違反するとは認められない。 (6) まとめ以上によれば,給与改定・臨時特例法が制定される過程において,被告が原告P1の団体交渉権を侵害する違法行為を行ったと認めることはできない。 原告らは,原告P1の団体交渉権が侵害されたことを,給与改定・臨時特例 法が違憲であるとする理由として主張するところ,仮に,そのような事情が憲法判断に当たり考慮すべき事情であるとしても,前記のとおり,違法行為があったとは認められないから,給与改定・臨時特例法が違憲とはいえない旨の前記判断は左右されるものではない。 7 争点(1)イ(給与改定・臨時特例法に基づく給与減額支給措置がILO第87号条約及びILO第98号条約に違反するか)(1) ILO第87号条約は,結社の自由と団結権の保護について規定しているにとどまり,団体交渉について規定はない。また,ILO第87号条約第3条1項は,労働者団体 LO第98号条約に違反するか)(1) ILO第87号条約は,結社の自由と団結権の保護について規定しているにとどまり,団体交渉について規定はない。また,ILO第87号条約第3条1項は,労働者団体及び使用者団体の権能として,規約等の作成,代表者の選任,管理及び活動の取決め等に並べて,計画を策定する権利を有することを定めているものであるが,その規定の体裁からみても,計画を策定する権利が管理活動等の組合内の自由に係るものであることは明らかである。かかるILO第87号条約の解釈に照らして,ILOの条約勧告適用専門家委員会及びILO結社の自由委員会が示しているILO第87号条約第3条1項の「計画を策定する権利」に団体交渉権を含むと解することはできない。 (2) ILO第98号条約は,団結権及び団体交渉権についての原則を定める条約であるが,ILO第98号条約第6条が,「この条約は,公務員の地位を取り扱うものではなく,また,その権利又は分限に影響を及ぼすものと解してはならない。」と定めており,ILO第98号条約は,公務員に関する団体交渉権について保障するものではない(最高裁平成5年判決,東京高裁平成17年判決)。 (3) 以上のとおり,ILO第87号条約及びILO第98号条約は,いずれも国家公務員の団体交渉権を保障したものではなく,内閣総理大臣が人事院勧告に基づく給与法案を国会に提出しないことや国会議員が給与改定・臨時特例法案を可決・成立させた行為が,これらの条約に反するものとはいえず, 原告らの主張には理由がない。 8 争点(2)(個人原告らの国家賠償請求)(1) 国会議員についてア国会議員の立法行為の違法性を判断するについては,まず,当該立法行為の内容又は手続が憲法に違反するか否かを検討し,当該立法行為の内容又は手続が憲 らの国家賠償請求)(1) 国会議員についてア国会議員の立法行為の違法性を判断するについては,まず,当該立法行為の内容又は手続が憲法に違反するか否かを検討し,当該立法行為の内容又は手続が憲法に違反しない場合には,それだけで国賠法上の違法性は否定される。仮に当該立法行為の内容又は手続が憲法に違反する場合でも,それが直ちに国賠法上の違法となるものではなく,国会議員の立法行為は,立法の内容又は手続が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うような場合や,立法の内容が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合など,容易に想定し難いような例外的な場合でない限り,国賠法1条1項の規定の適用上,違法の評価を受けないものというべきである(最高裁平成17年判決)。 イ本件についてみると,前記4,5のとおり,給与改定・臨時特例法が憲法28条に反するものとはいえない。本件の国会議員による給与改定・臨時特例法の可決・成立行為については,憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行ったとはいえず,また,立法の内容が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合であるということもいえない。したがって,国会議員が給与改定・臨時特例法を可決・成立させた行為が,国賠法1条1項の適用上違法であるという個人原告らの主張は,失当である。 ウまた,個人原告らは,国会議員には憲法28条を尊重する義務があるから,国会は政府をして職員団体との団体交渉を行わせなければならないとも主張する。 しかしながら,一般に,国会が立法を経ずに政府に対して指揮命令し得 る立場にないことからすれば,法的に国会が政府をして職員団体との団体交渉を行わせなければならない ばならないとも主張する。 しかしながら,一般に,国会が立法を経ずに政府に対して指揮命令し得 る立場にないことからすれば,法的に国会が政府をして職員団体との団体交渉を行わせなければならないといえるのか疑問であるし,その点をおくとしても,前記6のとおり,給与改定・臨時特例法の制定にあたって,個人原告らの団体交渉権が侵害されたとは認めることはできない以上,国会が政府をして職員団体との団体交渉を行わせなければならなかったとも認めがたい。 エしたがって,国会議員の行為について,個人原告らが国賠法1条1項に基づいて賠償を求める点については理由がない。 (2) 内閣総理大臣についてア立法について固有の権限を有する国会議員の立法行為について,国賠法1条1項の適用上違法と評価され得ないのであるから,国会に対して法律案の提出権を有するに止まる内閣の法律案の提出行為等についても,同項の適用上違法性を観念する余地はないというべきである(最高裁昭和62年判決)。 イまた,給与改定・臨時特例法は法律として成立している以上,その法律に従った執行行為(給与法7条にいう適用行為)が国賠法1条1項の適用上違法と評価される余地はない。 ウ個人原告らは,人事院勧告に基づかない給与減額支給措置については,内閣総理大臣においてP2を介して団体交渉することなく個人原告らの給与減額をしてはならない義務があるとして,給与改定・臨時特例法案が国会に提出された際,内閣総理大臣は,この義務に違反してP2と団体交渉を行わなかった行為が憲法28条及び国公法108条の5第1項に違反し,個人原告らの団体交渉権を侵害する旨主張する。 しかしながら,前記4,5のとおり,人事院勧告に基づかずに制定された給与改定・臨時特例法に違憲・違法な点はなく,前記6のとおり,給与改定・ に違反し,個人原告らの団体交渉権を侵害する旨主張する。 しかしながら,前記4,5のとおり,人事院勧告に基づかずに制定された給与改定・臨時特例法に違憲・違法な点はなく,前記6のとおり,給与改定・臨時特例法の制定に際し,原告P1の団体交渉権の侵害を認めるこ とはできないから,内閣総理大臣に個人原告らが主張するような義務または義務違反は認められない。 エしたがって,内閣総理大臣の行為について,個人原告らが国賠法1条1項に基づいて賠償を求める点については理由がない。 9 争点(3)(原告P1の国家賠償請求)前記4,5のとおり,給与改定・臨時特例法に違憲・違法な点は認められず,前記6のとおり,給与改定・臨時特例法の制定に関して,原告P1の団体交渉権が侵害されたと認めることはできないから,原告P1の主張には理由がない。 まとめ以上のとおり,原告らの請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第19部 裁判長裁判官古久保正人 裁判官伊藤由紀子 裁判官内藤寿彦

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る