主文 原判決を次のとおり変更する。 (1)控訴人は,被控訴人Aに対し,2741万6556円,同B,同C,同D及び同Eに対し,それぞれ685万4139円,及びこれらに対する平成13年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2)被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを2分し,その1を控訴人の負担とし,その余を被控訴人らの負担とする。 事実 及び理由第1当事者の求めた裁判 控訴の趣旨(1)原判決を取り消す。 (2)被控訴人らの請求を棄却する。 (3)訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。 控訴の趣旨に対する答弁(1)本件控訴を棄却する。 (2)控訴費用は控訴人の負担とする。 第2事案の概要 本件は,国が設置運営していたF病院(当時。現在の名称は「Gセンター」。 以下「控訴人病院」という。控訴人は国から控訴人病院の運営及び権利義務関係等を引き継いだ独立行政法人である。)において,胸部大動脈瘤の診断を受けたH(以下「H」という。)が,人工的な代用血管であるステントグラフトを血管内に留置する井上式ステントグラフト内挿術(以下「本件手術」という。)による治療を受けた際,左外腸骨動脈が破損して出血性ショックを起こし死亡したことについて,Hの相続人である被控訴人らが,上記出血は本件手術を担 当したI医師(以下「I医師」という。)が左外腸骨動脈にステントグラフトを留置するための器具であるダイレータ付シースを通過させようとした際に血管壁を貫通して左外腸骨動脈を破損させたことによるものであり,I医師は,①治療方法を選択するに際し,患者の安全性に配慮すべき注意義務があるのに,これを怠り,成功率の乏しい臨床治験段階の危険な本件手術を選択した過 て左外腸骨動脈を破損させたことによるものであり,I医師は,①治療方法を選択するに際し,患者の安全性に配慮すべき注意義務があるのに,これを怠り,成功率の乏しい臨床治験段階の危険な本件手術を選択した過失がある,②上記安全配慮義務があるのにこれを怠り,Hの胸部大動脈瘤が上行大動脈にかかっていたため手術適応がないにもかかわらず本件手術を実施した過失がある,③動脈内をシースを通過させる際に,その通過状況をX線透視のモニター方法で凝視しつつ,無理な挿入を避け,手の感触で少しでも抵抗感,違和感を感知したときはいったん挿入を中止し,当該部位の解剖学的,病理学的諸要因を検討の上,さらに挿入した場合の安全性を確認できない限りはシース等の挿入を中止する注意義務があったのに,これを怠り,以前の手術によってHの腹部に留置されていたY型ステントグラフト(以下「Y型グラフト」という。)内にシースを挿入する際,その手前で大きな抵抗を感知したにもかかわらず,その挿入を強行して左外腸骨動脈を破損させた手技上の過失がある,④I医師は,治験段階で試行的な治療法である本件手術を選択する以上,H及びその家族に対し,<ア>試行的な治療行為であること,<イ>当該治療行為の有効性とその合理的な根拠,<ウ>当該治療行為を採用する必要性とその合理的な根拠,<エ>当該治療行為を採用した場合の危険性の具体的内容,<オ>上記危険性がある場合,その危険性が具体化した場合における医師の対応措置の内容,<カ>当該疾病に対し,従来採られている他の治療方法の内容,その効果の程度,他の治療法と当該試行的治療行為との比較,<キ>当該医師及び医療機関における当該治療行為の試行の程度,その際の結果・内容について説明を十分にしてその同意を得る注意義務があるのに,これを怠り,上記の必要十分な説明を怠った過失があ との比較,<キ>当該医師及び医療機関における当該治療行為の試行の程度,その際の結果・内容について説明を十分にしてその同意を得る注意義務があるのに,これを怠り,上記の必要十分な説明を怠った過失があるなどと主張して,債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償金(被控訴人Aにおいて5130万円5000円,その余の被控訴人において各 1282万6250円)及びこれに対する支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めたところ,控訴人が,これを争った事案である。 原審は,I医師らにおいて,上記①ないし③の注意義務違反は認められないが,④について,I医師らは井上式ステントグラフト内挿術を実施する医師に求められる注意義務に違反し,従来の経験を頼りにして力を入れて押せば通過する可能性があると即断してステントグラフトを過度の力で押したためにHの左外腸骨動脈壁を破損させるに至ったものと解されるなどとして,被控訴人らの請求を被控訴人Aにおいて4930万円7757円,その余の被控訴人において各1232万6939円及び上記遅延損害金の支払を求める限度でこれを認容したため,控訴人はこれを不服として控訴したものである。 前提となる事実,争点及びこれに対する当事者の主張は,当審における主張の訂正を踏まえて以下のとおり補正し,かつ当審における補充主張を加えるほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1)原判決4頁18行目の「単位」の次に「,1Fr=約1/3㎜」を加える。 (2)同4頁23行目の次に改行して,以下のとおり加える。 「既設Y型グラフト(実際は型(逆Y)に設置されている。)の両脚部λ分は総腸骨動脈であり,同グラフトの左脚入口のすぐ末梢側(下側)で外腸骨動脈と内腸骨動 目の次に改行して,以下のとおり加える。 「既設Y型グラフト(実際は型(逆Y)に設置されている。)の両脚部λ分は総腸骨動脈であり,同グラフトの左脚入口のすぐ末梢側(下側)で外腸骨動脈と内腸骨動脈に分岐している(別紙図面のほぼ×部分。以下「本件分岐部」という。),本件手術は,Hの左大腿動脈から外腸骨動脈,総腸骨動脈・腹部大動脈(Y型グラフト)を経路として,より中枢側にある胸部下行大動脈までシースを進め,その後にシース内を通して動脈瘤が存在する箇所までステントグラフトを運搬する予定であった。」(3)同5頁18行目の次に改行して,以下のとおり加える。 「ウ仮に血管壁を貫通しなかったとしても,シースの挿入によって血管壁 に亀裂を生じさせ,さらにステントグラフトの挿入を続行したことにより,血管破綻が決定的なものになった。」(4)同9頁15行目から17行目までを「本件手術を中止し,③直ちに外科的再建手術に切り替えるか,少なくともシース抜去の際は,一挙にシースを抜去するのではなく,血管破綻が発見されても,直ちにシースを挿入方向に戻して出血をシースの壁面で一次的にブロックし,直ちに血管破綻部位に止血用のステントグラフトを留置して止血の応急措置ができるように,術中血管造影検査で血管破綻の有無を確認しつつ,徐々にゆっくりとシースを抜去すべき,」と改める。 (当審における補充主張)(1)手術適応についてア被控訴人ら本件手術後に,本件手術で使用された24Frのシースよりも外径の細い20Frのシースを,術前検査によるHの血管内径8.84㎜より太い約9㎜の左外腸骨動脈に挿入したところ,同動脈が根部から完全に離断される血管損傷事故の例が報告されている(甲B22)。 粥腫形成を伴った高度な動脈硬化が総・内外腸骨動脈まで及んでいたHにおいて,経路 約9㎜の左外腸骨動脈に挿入したところ,同動脈が根部から完全に離断される血管損傷事故の例が報告されている(甲B22)。 粥腫形成を伴った高度な動脈硬化が総・内外腸骨動脈まで及んでいたHにおいて,経路血管の脆弱性は当然予見可能であったこと,左外腸骨動脈の起始部の狭窄率は少なくとも17.3%もあったこと,術前検査では厳密な血管内径は分からないこと,ステントグラフトを折り畳んだ際の太さはシースの内径を上回る可能性があることなどの事情を総合すれば,I医師らが,血管内径とシース外径を単純に比較してHの本件手術への適応を判断したのは誤りである。 イ控訴人I医師らは,病院が採用している適応性の判断基準に従ってそれを判断しており,誤りではない。上記報告例の一例をもって本件手術への適応性 判断が誤りというのは暴論である。 (2)逸失利益についてア控訴人Hの役員報酬の収入は大部分が利益配当であるから,逸失利益は労務の対価部分に限定されるべきである。 Hは,J,K及びLの3社を経営していたところ,いずれも決算期は12月1日から翌年の11月30日までであり,Hの死亡当時を含めた直前3期の決算のうち,黒字であったのは,わずかにLの平成11年12月1日から平成12年11月30日(第10期),同年12月1日から平成13年11月30日(第11期)のみであり,全体としては収益が上がっていない。Hの役員報酬は3期とも3社合計で年間1500万円を超えており,従業員の平均年収(約185万円)や役員報酬(被控訴人Dの725万円が最高額)と比較しても突出しており,大部分が利益配当であると考えられるから,その労務対価部分は,賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計・年齢別男性平均賃金である年間約400万円を上回るものではない。 また,Hは,70歳以降は息子に事業を譲って 配当であると考えられるから,その労務対価部分は,賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計・年齢別男性平均賃金である年間約400万円を上回るものではない。 また,Hは,70歳以降は息子に事業を譲って世界一周旅行をすることを予定していたのであるから,事業承継後に役員報酬を得たとしてもそれはすべて利益配当であるというべきであるから,70歳以降の逸失利益は認められない。 さらに,Hは被控訴人Aと2人暮らしであり,被控訴人A自身にも480万円から660万円ほどの収入があったのであるから,30%の生活費控除は低すぎる。 イ被控訴人らHの役員報酬と上記3社の損益とは相関関係になく,Hの役員報酬は労務の対価とみるべきである。また,経営者と従業員とでは労務の対価に1 0倍程度の格差があることはむしろ当然であるから,これらとの対比を理由にHの役員報酬の大部分が利益配当であるとはいえない。 Hは会社のシステムがうまく成立したら息子に会社の経営を委ねると考えていたにすぎず,後継者に会社経営を譲っても何らかの形でそれをサポートすることはよくあることであるから,事業承継後の役員報酬がすべて利益配当であるというのは暴論である。 被控訴人Aの収入は,Hの会社経営すなわち収入に依存していたのであるから,生活費控除は一家の支柱が死亡した場合として30%とするのが相当である。 第3当裁判所の判断当裁判所は,被控訴人らの本訴請求は,主文掲記の限度で理由があるものと判断する。その理由は,以下のとおりである(当審における補充主張に対する判断を含む。)。 争点1(本件手術中における出血の原因)について(1)本件手術の経過及びHの死亡等についてこの点については,以下のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第3当裁判所の判断」1(1)記載(14頁1行目か おける出血の原因)について(1)本件手術の経過及びHの死亡等についてこの点については,以下のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第3当裁判所の判断」1(1)記載(14頁1行目から17頁5行目)のとおりであるから,これを引用する。 ア原判決14頁2行目の「21,22号証」を「21,22,24号証,M医師及びI医師の各証言」と,同頁末行から同15頁1行目にかけての「血管内径がシースの外径よりも太いこと」を「血管内径は本件分岐部付近で約8.84㎜ないし約9.64㎜であり(乙A15の8・9),シースの外径約8.7㎜(24Fr)よりも太いこと」とそれぞれ改める。 イ同16頁24行目の「血管破裂及びその位置を確認した。」を「血管破損及びその位置を確認したところ,推定される破損部位は,本件分岐部よりやや末梢寄りの外腸骨動脈で,留置されていた腹部Y型ステントグラフ トの左脚入口から少なくとも1㎝から3㎝程度離れた地点であった(原審被告第2準備書面図3・4,乙B20号証の2)。この付近は,上記のとおり左外腸骨動脈が本件分岐部に向けて約50度屈曲している部分であり,上記の推定破損部位は末梢側から進行するとこの屈曲部分の中枢側(上側)である。」と改める。 ウ同16頁25行目の「シ」を「サ」と,同17頁2行目の「ス」を「シ」と,同4行目の「セ」を「ス」とそれぞれ改める。 エ同17頁5行目の次に改行して,以下のとおり加える。 「セ(血管壁等の状況)(ア)ステントグラフト内挿術を実施する患者の多くは搬送経路の血管に動脈硬化の症状を有しており,健常者と比較すると動脈壁が脆弱化している可能性が高い。Hの大動脈も粥腫(動脈硬化の状態の一つで,粥のようにどろどろしたものが血管壁に付着している状態のこと)形成を伴った動脈硬化が高度で,総・内 ,健常者と比較すると動脈壁が脆弱化している可能性が高い。Hの大動脈も粥腫(動脈硬化の状態の一つで,粥のようにどろどろしたものが血管壁に付着している状態のこと)形成を伴った動脈硬化が高度で,総・内外腸骨動脈まで及んでいた(甲A3)。 (イ)血管が石灰化している部分のすぐ横の血管壁は脆弱化しやすい。 Hにおいて推定される血管の破損部位には血管の石灰化はみられないが,それよりやや中枢寄りの本件分岐部付近にはそれがみられる。 血管の粥腫,屈曲,狭窄及び石灰化はシースやステントグラフトを挿入する際の障害となり得るものであり,術前検査のCT画像では,石灰化した硬い部分はX線を吸収して白く鮮明に写るが,粥腫は必ずしもX線を十分吸収せず,造影剤の濃度が十分でないと粥腫部分を血液と誤認し,実際の血管内径より大きくみてしまうことがある。 (ウ)血管の狭窄の形状は楕円であったり,三日月であったり,種々の形状をしており,同一部位でも内径は方向により一定とはいえない。I医師らは,血管内径について1,2方向からデータを取るが, すべての方向からデータを取っているわけではない。 (エ)動脈壁を破損すると大量の出血を生じるおそれがあり,その場合には,生命の危険が生じることがある(証人I28頁)。 ソ(ダイレータ付シース及びステントグラフト)(ア)本件手術に使用したダイレータ付シースは,細長い形状であり,ダイレータの先端は細く尖っている(乙A16号証の3)が,材質は比較的柔らかい。 また,本件手術に使用したステントグラフトは,蛇腹を持ち,平織りポリエステル人工血管の外側に血管壁に固定するためにニッケルチタンワイヤーのリングが数個取り付けられているものである。 長さは約192㎜,太さは細い部分(長さ約50㎜)が直径32㎜,太い部分(長さ約142㎜)が直径38㎜で 側に血管壁に固定するためにニッケルチタンワイヤーのリングが数個取り付けられているものである。 長さは約192㎜,太さは細い部分(長さ約50㎜)が直径32㎜,太い部分(長さ約142㎜)が直径38㎜であり,この側面に約20㎜の長さの2つの枝が付けられている(乙A14号証)。これをシース内に挿入する際には細く折り畳むので,枝のある部分が太くなりシースの外径より若干大きいが,この折り畳んだときの太さを実際には計ることはできない。 (イ)I医師がステントグラフトを押しているとき,アシスタントの医師が同時にガイドワイヤーを引いており,ガイドワイヤーやシースが挿入されると血管はまっすぐの方向に伸ばされ,屈曲が90度程度ある場合でも30度くらいになる。シースの先端のダイレータはこれに沿って進み,シースが挿入されると,血管とシースの間は,余り隙間のない密着した状態であることが多い。したがって,血管が破損していても破損部位から血液が漏れないことが考えられる。 タ(I医師の説明)I医師は,本件手術中にHの容態が急変したため,被控訴人Aらに対し,腹部に人工血管を留置する治療をしていたが,なかなかうまく入 らず,操作中に瘤を破いてしまったようである旨説明したが,本件手術後の夜に改めて,被控訴人A及び同Bに対し,血管が石のように固くて管を無理に入れて裂けてしまった旨の説明をした(乙A7)。」(2)出血の原因についてア上記認定のとおり,破損部位は,外腸骨動脈の本件分岐部に近接した箇所であり,I医師が術前検査で本件分岐部付近の血管内径の細い部分より約0.14㎜細い外径を有するシースが同部付近で抵抗を感じ,これを強く押さないと挿入できなかったこと,Hの大動脈はシース等の挿入の障害となる粥腫形成を伴った動脈硬化が高度で外腸骨動脈まで及んでいたこと,術前検 細い外径を有するシースが同部付近で抵抗を感じ,これを強く押さないと挿入できなかったこと,Hの大動脈はシース等の挿入の障害となる粥腫形成を伴った動脈硬化が高度で外腸骨動脈まで及んでいたこと,術前検査のCT画像では,造影剤の濃度が十分でないと粥腫部分を血液と誤認し,実際の血管内径より大きくみてしまうことがあること,狭窄部分の形状は楕円等種々であり,同一部位でも血管内径は一定とは限らないことからすると,本件分岐部を含む推定破損部位付近では,外腸骨動脈の粥腫形成等により,実際には術前検査の結果より血管内径が小さく,それに対し,外径がシースより大きいステントグラフトはもとより,シース自体の外径も適応を欠くものであったものと推認せざるを得ず,そのほかにシース等の挿入の障害となる事由を認めるに足りる証拠はない。 しかして,I医師及びM医師は,シース及びステントグラフトを挿入する際,いずれもY型グラフトの脚入口からやや末梢寄りのところで抵抗を感じ,ガイドワイヤーによって引っ張られて伸ばされた状態の血管に力をかけてステントグラフト等を挿入しようとして失敗し,本件手術の中止決定後は,血管との間が密着して隙間のないシースを,折り畳まれて外径がそれより大きいステントグラフトの入った状態で抜いたのであるから,こうした経過において,血管壁には挿入を試みるための下から上へ押す力,その後抜くための上から下へ引く力が強く加えられたものということができる。 加えて,Hの破損部位付近は,粥腫形成等により動脈壁が脆弱化していた可能性が高く,また上記場所付近は,ガイドワイヤーである程度まっすぐの方向に伸ばされていたとはいえ,元来屈曲していて負荷がかかりやすい場所であったこと,これに本件手術後のI医師の上記説明をも踏まえると,上記各事情が重なって,シース又はステントグ である程度まっすぐの方向に伸ばされていたとはいえ,元来屈曲していて負荷がかかりやすい場所であったこと,これに本件手術後のI医師の上記説明をも踏まえると,上記各事情が重なって,シース又はステントグラフトの挿入あるいは抜去の一連の手技において外腸骨動脈がその負荷に耐えられず,破裂して破損したものと推認するのが相当である。 そして,上記破損が生じた時点については,具体的にこれを特定することは困難ではあるものの,シースを抜去するまで血圧の低下などの大量出血を示す兆候はみられなかったこと,シースが推定破損部位に到達すると,その外周が血管の内壁に密着して破損部位から血液が漏れない可能性が考えられることからすると,少なくとも,I医師がシースの挿入に抵抗を感じて強く押したころから,シースを抜去するまでの間に破損したものと推認するのが合理的であるというべきである。 イこれに対し,被控訴人らは,ダイレータの先端が屈曲した外腸骨動脈の血管壁を貫通した旨主張し,上記認定のとおり,ダイレータの先端が尖っていることや,破損部位は,外腸骨動脈が本件分岐部に向けて屈曲しているその中枢側であることからすると,ダイレータの先端が屈曲した外腸骨動脈の血管壁を貫通した可能性も一応考えられないではない。 しかしながら,ダイレータの先は比較的柔らかく,血管をまっすぐの方向に伸ばしたガイドワイヤーに沿って進むこと,仮にダイレータの先端が血管壁を貫通したとすると,挿入されたシースが血管壁に密着する前に出血していた可能性が高いものと推認されるが,実際にはシースを抜去するまで出血の兆候はみられないことなどの事情に照らすと,ダイレータの先端が血管壁を貫通したと認めることはできないというべきである。なお,Hの診療録(乙A8)中には,「人工血管をあげるときに左外腸骨動脈破 裂」とい られないことなどの事情に照らすと,ダイレータの先端が血管壁を貫通したと認めることはできないというべきである。なお,Hの診療録(乙A8)中には,「人工血管をあげるときに左外腸骨動脈破 裂」という記載部分があるが,これをもってダイレータの先端が血管壁を貫通したものと推認することもできないというべきである。 他方,控訴人は,I医師が最初に抵抗を感じた箇所は,本件分岐部であって,破損部位との間に隔たりがあるから,破損の原因は手技とは関係がなく,動脈硬化により破損場所の血管の伸展性がなかったことが破損の原因である旨主張し,I医師も,破損部位ではシースの抵抗をほとんど感じなかったと証言する(証人I35,37頁)。 しかしながら,上記認定のとおり,I医師はY型グラフトの脚入口からやや末梢寄りの箇所で抵抗を感じ,本件分岐部付近にシースがあるものと推測したのであって,抵抗を感じたという推定される破損部位が本件分岐部から1㎝から3㎝程度の近接した箇所であることからすると,抵抗を感じた部位が破損部位ではないと断言できるか否か疑問がある(I医師も,ステントグラフトの挿入中に破損したとすれば,折り畳んで膨らんだ部分が当たって破損させた可能性を否定していない(証人I38頁)。)上,仮に抵抗を感じた箇所が本件分岐部であるとしても,破損部位との距離に照らすと,抵抗を感じた箇所の血管壁にかかる負荷が破損部位に影響しないとは言い難いから,I医師の上記証言のみをもって,出血原因に関する上記認定を左右するには足りないというべきである。 ウ以上を踏まえて,以下,I医師らに過失があったか否かについて判断する。 争点2(治療方針選択の過失の有無)についてこの点については,以下のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第3当裁判所の判断」2記載(18頁1行目 あったか否かについて判断する。 争点2(治療方針選択の過失の有無)についてこの点については,以下のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第3当裁判所の判断」2記載(18頁1行目から19頁19行目まで)のとおりであるから,これを引用する。 (1)原判決18頁12行目から13行目の「保険適用がなかった(乙A21,22号証)ものであり」を「保険適用がなく,臨床治験の段階にあった(甲 B3,乙A21,22号証)ものであり」と改める。 (2)同18頁25行目から26行目にかけての「施行されていたことによれば,」の次に「成功率の乏しい危険な手術とまでいうことはできず,」を加える。 (3)同19頁15行目の「実施して事例」を「実施した事例」と改める。 争点3(手術適応判断の過失の有無)について(1)M医師らの手術適応の判断についてアM医師らの術前検査を前提とする本件手術の適応に関する判断基準等については,原判決「事実及び理由」中の「第3当裁判所の判断」4(1)ア(ア)(21頁5行目から25行目)のとおりであるから,これを引用する。 イそして,M医師らが,Hの本件手術の適応について判断した内容については,原判決「事実及び理由」中の「第3当裁判所の判断」4(2)ア(27頁16行目から28頁21行目)記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決27頁17行目の「乙A17」を「乙A15の8・9,17」と改める。 ウ以上のとおり,搬送経路の血管の状態に関する術前検査の結果から,ステントグラフトの形状やサイズを決定するM医師は,造影CTによる複数の要素を総合的に判断してHに本件手術の適応があると判断したものであり,I医師の判断も同様であって,その判断基準が不合理であると認めるに足りる証拠はないから,M医師ら るM医師は,造影CTによる複数の要素を総合的に判断してHに本件手術の適応があると判断したものであり,I医師の判断も同様であって,その判断基準が不合理であると認めるに足りる証拠はないから,M医師らが,Hについて本件手術の適応があると判断したことに過失はないというべきである。 (2)反論について上記に対する被控訴人らの反論及びこれに対する判断は,原判決「事実及び理由」中の「第3当裁判所の判断」3(1)ないし(4)(19頁21行目から20頁25行目)のとおりであるから,これを引用する。ただし,同20頁25行目の「したがって」から同行目末尾までを削除した上,改行して以 下のとおり加える。 「(5)被控訴人らはまた,本件手術後,本件手術で使用されたシースよりも細い20Frのシースを,術前検査によるHの血管内径8.84㎜より太い約9㎜の左外腸骨動脈に挿入した事例において,同動脈が根部から完全に離断される血管損傷事故が発生した旨報告されている(甲B22)ことに加え,Hの経路血管の脆弱性が予見可能であったこと等の諸事情を総合すれば,I医師らが,血管内径とシース外径を単純に比較してHの本件手術への適応を判断したのは誤りである旨主張する。 しかしながら,上記のとおり,M医師らが手術適応を判断するにおいては,複数の要素を総合的に判断しているのであって,術前検査の結果における血管内径とシース外径を単純に比較してHの本件手術への適応を判断しているものではないから,上記報告例が存在するからといって,Hの本件手術の適応に関するM医師らの上記判断が誤りであるということはできない。 したがって,被控訴人らの上記主張はいずれも採用できない。」 争点4(手技上の過失の有無)について(1)証拠(乙A21,22,24号証,M医師及びI医師の各証言),当該箇 うことはできない。 したがって,被控訴人らの上記主張はいずれも採用できない。」 争点4(手技上の過失の有無)について(1)証拠(乙A21,22,24号証,M医師及びI医師の各証言),当該箇所に掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア(Hの外科手術の適応等について)胸部大動脈瘤の手術としては,本件手術のようなステントグラフト内挿術のほかに,既に長期成績が出ていて確立された治療法である胸部外科手術があり,Hはその適応があったが,HはI医師からの説明を受け,本件手術を受けることに同意した(甲A5)。 なお,本件手術である井上式ステントグラフト内挿術は,臨床使用され始めた平成6年から本件手術当時までに357例の手術が実施されており,そのうち胸部大動脈瘤に関するものは117例であった。 イ(術前検査について)血管の狭窄の形状は種々であり,CT画像においても血管の内径も粥腫などによって実際より大きく見えてしまうことがあるなど,術前検査によっても,搬送経路の血管の内径に関して必ずしも正確に把握することができるわけではないことは既に認定,判断したとおりであるが,そのほかに,屈曲や石灰化の角度についても,見る角度やその人の見方によって誤差が生じ,また,このような検査結果によって動脈壁の脆弱性の程度や場所を正確に推測することはできない。 また,ステントグラフト内挿術を実施する患者の多くが搬送経路の血管に動脈硬化の症状を有し,健常者と比較して搬送経路の動脈壁が脆弱化している可能性が高いことも既に認定,判断したとおりであるが,動脈硬化の進行と動脈壁の脆弱化の関係は不明であり,血管壁の弾力性は,部位毎に強弱があり,動脈硬化が進んだ部位とそれほどではない部位が混在している箇所において弾力性がどのように変化するのかも分かってお 硬化の進行と動脈壁の脆弱化の関係は不明であり,血管壁の弾力性は,部位毎に強弱があり,動脈硬化が進んだ部位とそれほどではない部位が混在している箇所において弾力性がどのように変化するのかも分かっておらず,動脈壁の弾力性の低下傾向を,CT画像及び血管造影の検査からは判別することはできない。 ウ(ステントグラフト内挿術を実施している医師の認識について)この点については,原判決「事実及び理由」中の「第3当裁判所の判断」4(1)ウ(24頁1行目から22行目)のとおりであるから,これを引用する。 エ(M医師及びI医師の認識について)この点については,原判決「事実及び理由」中の「第3当裁判所の判断」4(1)エ(24頁24行目から25頁19行目)のとおりであるから,これを引用する。但し,原判決25頁4行目の「井上式スタントグラフト内挿術」を「井上式ステントグラフト内挿術」と改める。 オ(挿入に抵抗がある場合の対応等について) シースやステントグラフトの挿入操作は,X線透視によるモニター画面を見ながらこれを行う。その場合,ガイドワイヤーやステントグラフトの金属部分は画面に写るが,ダイレータやシースはうっすらと写るのみで血管自体は画面に写らない。 また,シース又はステントグラフトを挿入する際に抵抗がある場合のI医師らの対応は以下のとおりである。 いったん押すのを中止して原因を推測する。その際には,術前の造影CTデータ,その場で見ているX線照射のモニター画面の両方を併せて考える。ただし,上記のとおりモニター画面には血管は写らず,血管の屈曲,狭窄の場所及び程度を見ることはできないので,造影剤を流してシースと血管の位置関係を確認することもある。しかし,何が原因で抵抗を感じているのか不明の場合もある。 (2)既に認定した事実(ステントグラフト内挿術の 程度を見ることはできないので,造影剤を流してシースと血管の位置関係を確認することもある。しかし,何が原因で抵抗を感じているのか不明の場合もある。 (2)既に認定した事実(ステントグラフト内挿術の内容,同手術を受ける患者の動脈壁の状況,Hの術前検査の結果,同手術を行う医師の認識等)に加え,上記認定事実を総合すれば,ステントグラフト内挿術は,本件手術当時,全国的規模で相当数の症例において実績が積み重ねられていたとはいえ,臨床治験の段階にとどまっていたもので,未だ完成された治療法として確立されたものとはいえない試行的な手術方法であったものといわざるを得ない。他方,これによる治療を受ける患者の多くはステントグラフトの搬送経路である動脈壁が脆弱化している可能性が高く,動脈壁を破損した場合には大量の出血を生じて極めて危険な状態に陥ることがあり得るのである。 しかして,ステントグラフトの搬送経路の血管について,狭窄の形状には楕円など種々のものがあるにもかかわらず明確には判明せず,粥腫部分はCT画像で明瞭でなく,これを血液部分と誤認して血管内径を大きく見てしまうなど,術前検査による血管内径の数字がステントグラフトの通過範囲を正確に反映しているとは限らず,また,血管の屈曲の角度や石灰化の範囲につ いても,見る角度やCT画像の見方によって誤差が生じるものであるなど,術前検査によるデータの結果にも限界があり,これらは一応の参考情報にとどまるものといわざるを得ないものである。さらに,動脈壁の弾力性の程度はこうした検査によって把握することはできない。 しかも,医師はX線照射のモニター画面を見ながら本件手術を実施するところ,モニター画面において,ガイドワイヤーとうっすらと写るシースにより血管の概ねの位置は分かるものの,血管自体は写らないため,必ずしも血管 師はX線照射のモニター画面を見ながら本件手術を実施するところ,モニター画面において,ガイドワイヤーとうっすらと写るシースにより血管の概ねの位置は分かるものの,血管自体は写らないため,必ずしも血管内部の正確な情報を伝えるとは限らない術前検査の結果と上記手術の経験による自らの手の感触を頼りにシース及びステントグラフトを挿入せざるを得ない。 以上のように,本件手術は当時試行的な手術方法であった一方,それを受ける患者は動脈壁が脆弱化している可能性が高く,それを破損すると危険な状態に陥る可能性があるにもかかわらず,井上式ステントグラフト内挿術を実施する医師は,血管自体は写らないX線照射のモニター画面を見ながら,必ずしも血管内部の正確な情報を伝えるとは限らない術前検査の結果と上記手術の経験による自らの手の感触を頼りに,シース及びステントグラフトを挿入するのであり,Hには外科手術の適応もあったことを併せて考慮すると,I医師らは,例えば,シース等の挿入時にある程度の抵抗を感じたときは,血管造影によって血管内を直ちに観察し,血管内の通過可能性について具体的な情報を得られない場合には,外科手術への移行やシースやステントグラフトのサイズの再検討のためにそこで手技を中止するなど,可能な限り安全性を確認しながら,血管を損傷しないように慎重に操作すべき注意義務を負っていたものということができる。 ところが,上記1(1)で認定したとおり,I医師は,シース及びステントグラフトを挿入する際,いずれもY型グラフトの脚入口からやや末梢寄りのところで抵抗を感じたにもかかわらず,血管造影によって血管内を観察するな どして抵抗の原因を調べることなく,必ずしも血管内部の正確な情報を伝えるとは限らない術前検査の結果と経験による自らの手の感触のみを根拠に安易に通過可能であると 管造影によって血管内を観察するな どして抵抗の原因を調べることなく,必ずしも血管内部の正確な情報を伝えるとは限らない術前検査の結果と経験による自らの手の感触のみを根拠に安易に通過可能であると判断し,これらを挿入しようとしてHの外腸骨動脈を破損したのであるから,I医師には過失があったというべきであり,引き続きステントグラフトの挿入を続けたM医師にも同様の過失があったというべきである。 そして,I医師らが,上記のとおり抵抗の原因を調べていれば,Hの外腸骨動脈破損を防ぐことはできたものと推認することができるから,I医師らの過失とHの死亡との間には相当因果関係があるというべきである。 なお,既に判断したとおり,シースを抜去する際に上記動脈を破損した可能性もあるが,その場合においても,それ以前の上記挿入行為によって動脈壁に負荷がかかったことが影響しているものと推認するのが相当であるから,シースを抜去するまでの上記一連のシース及びステントグラフトの操作に過失があり,これと相当因果関係があるものというべきである。 (3)以上に対し,控訴人は,シースと血管は密着しているから,血管造影を実施しても,シースの先端部分までしか血管内部の状況を調べることができず,抵抗の原因を把握することは困難である旨主張する。 しかしながら,I医師自身,抵抗がある場合,その原因を推測するに際し,造影剤を流してシースと血管の位置関係を確認することがあることを自認していることは上記のとおりであるから,控訴人の上記主張は採用できない。 もっとも,上記認定のとおり,それでも何が原因かわからない場合もあり得るがその場合に安全性を確認できなければ,本件手術を中止するのが相当というべきであるから,原因が判明しない可能性があることは,I医師らにおける上記注意義務を否定する理由にはならな らない場合もあり得るがその場合に安全性を確認できなければ,本件手術を中止するのが相当というべきであるから,原因が判明しない可能性があることは,I医師らにおける上記注意義務を否定する理由にはならないというべきである。 控訴人はまた,本件手術において,血管にどの程度負荷がかかっているかは,①X線透視モニター画面から推測される血管の走行とシース等の関係等, ②術前検査のデータにおける搬送経路の血管の屈曲,狭窄,石灰化の部位及び程度,③術中に感じる抵抗の強さを総合して推測するほかなく,血管壁が脆弱化している部分及び程度は術前検査によっても明らかにならないのであるから,当該抵抗部位がどの程度の負荷に耐えうるかは過去の手技における経験に基づき判断するほかなく,I医師らはそうした判断を尽くした旨主張する。 しかしながら,上記のとおり抵抗の原因を推測する方法として,さらに血管造影による方法もあるのであり,また,本件手術当時の井上式ステントグラフト内挿術の試行性に加え,血管壁を破損した場合の結果の重大性や,Hに外科手術の適応があったことを踏まえると,控訴人の上記主張は,I医師らの経験に頼りすぎるもので,直ちには採用できないというべきである。 (4)以上によれば,本件手術当時,控訴人病院を経営していた国は,I医師らの過失によってHを死亡させたことによって損害賠償責任を負い,控訴人は上記損害賠償債務を承継したものというべきである(独立行政法人国立病院機構法附則5条1項)。なお,M医師は控訴人病院に勤務する医師ではないが,I医師の依頼を受けて本件手術に立ち会った者であるから,控訴人病院に勤務する医師に準ずる立場にあるものとして,M医師の行為についても,国は損害賠償責任を負い,控訴人はこれを承継したものと解すべきである。 争点6(損害)について(1 た者であるから,控訴人病院に勤務する医師に準ずる立場にあるものとして,M医師の行為についても,国は損害賠償責任を負い,控訴人はこれを承継したものと解すべきである。 争点6(損害)について(1)逸失利益ア証拠(甲A4,C1,2の1・2,3の1ないし3,4の1ないし3,5の1ないし3,乙A7,被控訴人A本人)及び弁論の全趣旨によれば,H(昭和7年12月27日生まれで死亡当時68歳)は死亡当時,住宅模型の製造販売を業とするJ,K及びLの3社の代表取締役であり,死亡する前々年である平成11年には,給与収入(役員報酬)として1775万円,年金収入として182万2630円を,平成12年には給与収入(役 員報酬)として1740万円,年金収入として182万6332円を得ており,本件手術を受けて亡くなった時期を含む平成12年12月1日から平成13年11月30日までの決算期においても,K及びLから合計1544万5250円の役員報酬を受けていたこと,上記3社はいずれも同族会社であり,長男である被控訴人BはKの非常勤取締役,次男及び三男である被控訴人C,同DはLの常勤取締役,被控訴人Aは両社の監査役であったこと,被控訴人Aは,両社から平成11年には合計600万円,平成12年には合計480万円の報酬を得ていたこと,上記3社の従業員はアルバイトの5,6名を含めて約70人であったこと,Jは,第9期(平成10年12月1日~平成11年11月30日)決算では1091万4163円の営業損失,1115万7953円の経常損失を計上し,それ以降は営業活動を行っていた形跡はみられないこと,Kは,第15期(平成10年12月1日~平成11年11月30日)決算では,1197万6339円の営業損失を計上したが,51万1295円の経常利益を計上し,第16期(平成11年1 跡はみられないこと,Kは,第15期(平成10年12月1日~平成11年11月30日)決算では,1197万6339円の営業損失を計上したが,51万1295円の経常利益を計上し,第16期(平成11年12月1日から平成12年11月30日)決算では699万6150円の営業損失,368万7706円の経常損失を,Hが亡くなった第17期決算(平成12年12月1日から平成13年11月30日)では1201万0929円の営業損失,1086万6655円の経常損失をそれぞれ計上していたこと,Lは,第9期(平成10年12月1日~平成11年11月30日)決算では2067万2886円の営業損失,1655万5906円の経常損失を計上していたが,第10期(平成11年12月1日から平成12年11月30日)は,583万8091円の営業利益,538万6323円の経常利益を計上しており,Hが亡くなった第11期(平成12年12月1日から平成13年11月30日)でも,957万6765円の営業利益,1242万6040円の経常利益を計上していたこと,Hは,死亡当時被控訴人A(昭和13年8月20日生まれで H死亡当時63歳)と2人暮らしであり,70歳になったら息子に経営を任せて日本一周や世界一周をしたいと考えていたことが認められる。 イ以上の認定事実を前提に判断する。 (ア)労働可能期間Hが亡くなった平成13年簡易生命表によれば,68歳男性の平均余命は15.56年であることが認められるから(当裁判所に顕著な事実),Hは,本件手術によって亡くならなければ,少なくともその2分の1を上回らない7年間は稼働して収入を得ることが可能であったというべきである。 (イ)基礎収入Hの役員報酬は会社の損益の状況にほとんど影響されていない上,少人数の同族会社であることからすれば,そのうちの多 ない7年間は稼働して収入を得ることが可能であったというべきである。 (イ)基礎収入Hの役員報酬は会社の損益の状況にほとんど影響されていない上,少人数の同族会社であることからすれば,そのうちの多くは労務の対価であるというべきであること,しかして,Hの死亡当時Lに限っては一応利益を出しているが,それ自体はHのみによって生み出された利益とはいえないこと,Hは死亡当時すでに68歳であり,70歳で息子に経営を任せることを考えていたこと,賃金センサス平成13年企業規模計・産業計・学歴計の65歳以上の男性の平均収入が年間409万4500円であったこと(当裁判所に顕著な事実)を総合すれば,Hは死亡しなければ,少なくとも68歳から70歳までの2年間は,Hの労務の対価分として平成11年と平成12年の役員報酬の平均である1757万5000円の80%である各年1406万円,71歳から75歳までの5年間は,上記各年409万4500円の収入を得ることができたにとどまるものと認めるのが相当というべきである。 (ウ)生活費控除Hは被控訴人Aと2人暮らしであり,被控訴人Aは,K及びLから平成11年と平成12年の平均で年間540万円の役員報酬を得ており被 控訴人A自らの生活費に充てられるものと推認できること,他方,Hは年間約180万円ほどの年金収入があり,これは自らの生活費に充てられるものと推認できることを総合すると,生活費控除は40%とするのが相当である。 (エ)算定以上を前提に,ライプニッツ方式により死亡時から2年間(係数1. 8594),その後5年間(同3.9269(5.7863-1.8594))の中間利息を控除し,Hの逸失利益を算定すると,2533万3113円(1円未満切捨て。以下同じ。)となる。 (計算式)14,060,000×(1-0.4) .9269(5.7863-1.8594))の中間利息を控除し,Hの逸失利益を算定すると,2533万3113円(1円未満切捨て。以下同じ。)となる。 (計算式)14,060,000×(1-0.4)×1.8594+4,094,500×(1-0.4)×3.9269=25,333,113(2)慰謝料2300万円本件の諸事情を総合すると,Hの慰謝料としては2300万円を相当と認める。 (3)葬儀費用150万円控訴人病院医師の不法行為と相当因果関係のある葬儀費用としては150万円を相当と認める。 (4)弁護士費用500万円控訴人病院医師の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用としては500万円を相当と認める。 (5)以上によれば,Hは控訴人に対し,合計5483万3113円の損害賠償請求権を取得したものであり,被控訴人Aは2分の1,被控訴人B,同C,同D及び同Eは各8分の1の割合でこれを相続したから,被控訴人Aは2741万6556円,被控訴人B,同C,同D及び同Eは各685万4139円の損害賠償請求権を有することになる。 第4 結論 以上によれば,被控訴人らの本訴請求は,被控訴人Aにおいて,不法行為に基づく損害賠償金2741万6556円及びこれに対する本件手術の日である平成13年8月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金,被控訴人B,同C,同D及び同Eにおいて,上記損害賠償金各685万4139円及び上記同日から同割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由があり,これと結論を一部異にする原判決は相当でない。 よって,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第1部裁判長裁判官坂本慶一裁判官山崎秀尚裁判官山下美和子 主文 って,主文のとおり判決する。 理由 名古屋高等裁判所民事第1部裁判長裁判官坂本慶一裁判官山崎秀尚裁判官山下美和子
▼ クリックして全文を表示