- 1 -平成25年7月24日判決言渡平成24年(行ケ)第10206号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成25年6月12日判決 原告遼東化学工業株式会社 訴訟代理人弁護士新保克芳同髙 仁同近藤元樹同洞敬同井上彰同酒匂禎裕訴訟代理人弁理士小野信夫同井出浩同鶴目朋之 被告宇部興産株式会社 被告田辺三菱製薬株式会社 被告両名訴訟代理人弁護士鮫島正洋同髙見憲同 下彰 被告両名訴訟代理人弁理士津国肇- 2 -同小澤圭子同小國泰弘同塩見敦同齋藤房幸主 小國泰弘同塩見敦同齋藤房幸 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求特許庁が無効2011-800097号事件について平成24年4月23日にした審決を取り消す。 第2 前提事実 1 特許庁における手続の経緯被告らは,発明の名称を「光学活性ピペリジン誘導体の酸付加塩及びその製法」とする特許第4562229号(平成9年12月19日(優先権主張:平成8年12月26日)を出願日とする特願平9-350784号の一部を平成12年2月10日に新たな出願としたもの。平成22年8月6日特許権の設定登録。請求項の数は3である。以下「本件特許」といい,その明細書(甲1)を「本件明細書」という。)の特許権者である。 原告は,平成23年6月9日,特許庁に対し,請求項1ないし3のすべてについて本件特許を無効にするとの無効審判を請求した(無効2011-800097号)。 特許庁は,平成24年4月23日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本を同年5月9日原告に送達した。 2 特許請求の範囲の記載本件特許の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(甲1。以下,請求- 3 -項1の発明を「本件特許発明1」といい,以下同様に,「本件特許発明2」,「本件特許発明3」といい,これらを併せて「本件特許発明」という。)。 「【請求項1】実質的に(R)体を含有しない,(S)-4-〔4-〔(4-クロロフェニル)(2-ピリジル)メトキシ〕ピペリジノ〕ブタン酸・ベンゼンスルホン酸塩を有 「本件特許発明」という。)。 「【請求項1】実質的に(R)体を含有しない,(S)-4-〔4-〔(4-クロロフェニル)(2-ピリジル)メトキシ〕ピペリジノ〕ブタン酸・ベンゼンスルホン酸塩を有効成分としてなる,医薬組成物。 【請求項2】実質的に(R)体を含有しない,(S)-4-〔4-〔(4-クロロフェニル)(2-ピリジル)メトキシ〕ピペリジノ〕ブタン酸・ベンゼンスルホン酸塩の結晶を有効成分としてなる,請求項1記載の医薬組成物。 【請求項3】抗ヒスタミン剤または抗アレルギー剤である,請求項1または2に記載の医薬組成物。」 3 審決の理由(1) 審決の理由は,別紙審決書写し記載のとおりであり,その要点は次のとおりである。 本件特許発明1は,特開平2-25465号公報及び特願昭63-175142号についての特許法17条の2の規定による補正の掲載(平成4年2月6日発行)(甲2。以下「甲2公報」という。)に記載された発明(以下「甲2発明」という。)ではなく,また,甲2公報等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから,本件特許発明1に係る特許は,特許法29条1項3号及び同条2項の規定に違反してされたものとすることはできない。 本件特許発明2は,本件特許発明1における医薬組成物の有効成分が「結晶」の形態に限定された発明であり,本件特許発明3は,本件特許発明1あるいは2における医薬組成物の用途が「抗ヒスタミン剤または抗アレルギー- 4 -剤」に限定された発明であるから,本件特許発明2及び3に係る特許についても,上記と同じ理由により,特許法29条1項3号及び同条2項の規定に違反してされたものとすることはできない。 (2) 審決が認定した甲2発明の内容,同発明と本件特許発明1との一致点及び相違点は, ても,上記と同じ理由により,特許法29条1項3号及び同条2項の規定に違反してされたものとすることはできない。 (2) 審決が認定した甲2発明の内容,同発明と本件特許発明1との一致点及び相違点は,次のとおりである。 ア甲2発明4-〔4-〔(4-クロロフェニル)(2-ピリジル)メトキシ〕-1-ピペリジル〕ブタン酸のベンゼンスルホン酸塩を有効成分とする抗ヒスタミン剤イ一致点4-〔4-〔(4-クロロフェニル)(2-ピリジル)メトキシ〕ピペリジノ〕ブタン酸・ベンゼンスルホン酸塩を有効成分としてなる医薬組成物である点ウ相違点医薬組成物の有効成分である4-〔4-〔(4-クロロフェニル)(2-ピリジル)メトキシ〕ピペリジノ〕ブタン酸・ベンゼンスルホン酸塩を構成する4-〔4-〔(4-クロロフェニル)(2-ピリジル)メトキシ〕ピペリジノ〕ブタン酸が,本件特許発明1では「実質的に(R)体を含有しない,(S)体」であるのに対し,甲2発明では,光学異性についての特定がされていない点(以下, 4-〔4-〔(4-クロロフェニル)(2-ピリジル)メトキシ〕ピペリジノ〕ブタン酸を「本件化合物」という。)第3 原告主張の取消事由審決には,新規性についての判断の誤り(取消事由1)及び進歩性についての判断の誤り(取消事由2)があり,これらの誤りは審決の結論に影響を及ぼすものであるから,審決は違法であり,取り消されるべきである。 - 5 - 1 取消事由1(新規性についての判断の誤り)(1) ラセミ体の開示とその光学異性体の開示について審決は,医薬に用いられる化合物の場合には,ラセミ体が開示されていることをもってそれを構成する光学異性体が開示されているとすることはできないとして,本件特許発明の新規性を肯 学異性体の開示について審決は,医薬に用いられる化合物の場合には,ラセミ体が開示されていることをもってそれを構成する光学異性体が開示されているとすることはできないとして,本件特許発明の新規性を肯定しているが,この判断は誤りである。 すなわち,東京高裁平成3年10月1日判決(平成3年(行ケ)第8号)(以下「東京高裁平成3年判決」という。)は,ラセミ体が公知であればその光学異性体には新規性がない旨判示している。特許庁も,この判決以降,医薬組成物に対しても,ラセミ体の開示をもって(R)体及び(S)体の開示があると判断している(例えば,平成3年審判第778号(甲78))。 したがって,ラセミ体が開示されていれば,(R)体及び(S)体がそれぞれ開示されていると見るべきであり,その光学異性体に新規性は認められない。特に本件化合物については,光学異性体の存在が甲2公報に明記されているのであるから,(S)体を対象とする本件特許発明が新規性を欠くことは明らかである。 このことは,特許庁の運用指針「物質特許制度及び多項制に関する運用基準」(昭和50年10月特許庁策定)(甲72。以下「運用指針」という。)に照らしても明らかである。すなわち,運用指針には,「立体異性体の存在が自明でない化学物質の発明と,その立体異性体の発明とは,原則として別発明とする。(なお,ここでいう自明とは単純な光学異性体のように,不整炭素原子の存在により,その光学異性体の存在が明らかである場合をいう。)」(特-13頁)との規定がある。この規定は,光学異性体の存在が明らかであればラセミ体の発明と立体異性体の発明とを同一発明として取り扱うことを説明したものである。本件化合物(ラセミ体)は,この規定でいう「不整炭素原子の存在により,その光学異性体の存在が明らかである- 6 -場合」 発明と立体異性体の発明とを同一発明として取り扱うことを説明したものである。本件化合物(ラセミ体)は,この規定でいう「不整炭素原子の存在により,その光学異性体の存在が明らかである- 6 -場合」に当たり,(S)体の本件化合物の存在は自明であるから,(S)体の本件化合物は甲2発明に包含されている。したがって,(S)体を対象とする本件特許発明が新規性を欠くことは明らかである。 (2) 甲8の実験報告書記載の方法(以下「甲8記載の方法」という。)が自明であることについて審決は,本件化合物を光学分割する方法として甲8記載の方法が当業者にとって自明であったとはいえないと判断しているが,この判断は誤りである。本件特許の優先日当時,甲8記載の方法で使用されたカラムを使用して実際に分割に成功した例は多数存在している(甲25,35)から,本件化合物を光学分割する方法として甲8記載の方法は当業者にとって自明であったというべきである。したがって,甲2公報には,甲8記載の方法で本件化合物を光学分割する方法が記載されているに等しいというべきである。 (3) 延長登録と本件特許発明の新規性との関係について被告らは,(S)体である本件化合物のベンゼンスルホン酸塩を含む医薬が受けた製造承認に基づいて,甲2公報に係る特許権の存続期間の延長登録を受けており,(S)体である本件化合物のベンゼンスルホン酸塩が甲2発明に含まれることを自認している。この点について,審決は,延長登録を受けるためには,当該処分を受けたものに係る発明が特許発明の特許請求の範囲の技術的範囲に包含されていればよく,当該処分に係る発明が明細書等に個別具体的に記載された発明であることは必要ではないという。しかし,特許請求の範囲に属するのであれば,その発明は明細書に開示されているはずであり 包含されていればよく,当該処分に係る発明が明細書等に個別具体的に記載された発明であることは必要ではないという。しかし,特許請求の範囲に属するのであれば,その発明は明細書に開示されているはずであり,開示がないのであれば,その特許は特許法36条の無効理由を有することになる。したがって,甲2公報の特許請求の範囲に属することを理由として延長登録が認められている以上,甲2公報に(S)体の本件化合物のベンゼンスルホン酸塩が開示されていることは否定できないというべきである。甲2公報に開示がないとして本件特許発明の新規性を認め,一方で,甲- 7 -2発明に開示があるから延長が認められるとする審決の判断は不当である。 甲2公報には,(S)体の本件化合物をも発明の対象として含む旨の明示的な開示があり,かつ,ベンゼンスルホン酸塩についても開示されているのに,甲2公報に係る特許に続いて,本件特許によってさらに同じ物質の保護を認めることは,法の予定しないものである。 2 取消事由2(進歩性についての判断の誤り)(1) ジアステレオマー法について審決は,本件化合物の光学分割を行う際に,当業者はジアステレオマー法を最初に検討し,ジアステレオマー法によって分割できなかった場合には,同じ原理に基づくHPLC法を用いても分割は困難であると予想すると判断しているが,この判断は誤りである。 審決が判断の根拠とした平成元年発行の「季刊化学総説」No.6「光学異性体の分離」と題する刊行物(甲54。以下「甲54刊行物」という。)の記載は,ジアステレオマー法と他の分離方法を具体的に比較したものではない。また,甲54刊行物は本件特許の優先日よりも7年も前の文献であるところ,本件特許の優先日に近い平成7年10月5日発行の「分離技術」第25巻第5号(甲75の1。以下「 を具体的に比較したものではない。また,甲54刊行物は本件特許の優先日よりも7年も前の文献であるところ,本件特許の優先日に近い平成7年10月5日発行の「分離技術」第25巻第5号(甲75の1。以下「甲75の1刊行物」という。)には,HPLC法が新薬開発における最適の方法である旨が記載されている。さらに,甲76の見解書にも,優先日当時の当業者がラセミ体の分割を行う際に最初に検討するのはクロマトグラフィー法であることが記載されている。 (2) 移動相について審決は,本件化合物のような両性化合物をHPLC法により光学分割する際に,ヘキサン/イソプロパノール/トリフルオロ酢酸(0.1%)を含む移動相を選択することは当業者が容易に想到できるとはいえないと判断しているが,この判断は誤りである。 甲8記載の方法で使用したCHIRALPAKADでの取扱説明書(甲- 8 -73の2。1995年(平成7年)9月から1996年(平成8年)2月末までの期間に購入したCHIRALPAKADに付属されていたもの(甲73の1))には,ヘキサン/2-プロパノールから成る移動相に添加する物質として,ジエチルアミン,トリフルオロ酢酸及び酢酸の3種類しか記載されておらず,酸性と塩基性の両方の官能基を有する化合物について,この3種類の添加剤を用いて光学分割を試みることは,当業者であれば通常行うことである。 (3) 固定相について本件化合物をHPLC法により光学分割する際には,キラル固定相としてCHIRALCELODやCHIRALPAKADを採用することは当業者が最初に検討することといえるとした審決の判断に誤りはない。 (4) 本件特許発明の効果についてア審決は,本件明細書には,(S)体が(R)体よりも優れていることを示す薬理試験結果が記載され 者が最初に検討することといえるとした審決の判断に誤りはない。 (4) 本件特許発明の効果についてア審決は,本件明細書には,(S)体が(R)体よりも優れていることを示す薬理試験結果が記載されているので,(S)体である場合とラセミ体である場合の医薬組成物としての効果上の違いを理解し得ると判断しているが,この判断は誤りである。 本件明細書に記載されているのは,(S)-((S)ブタン酸エチルのフマル酸塩)と(R)-エステル((R)-ブタン酸エチルのフマル酸塩)の薬理効果を比較したデータであり,エステル化されていない本件化合物の(S)体や(R)体はもちろん,ラセミ体との効果上の違いは何ら理解できない。 イラセミ体ではそれを構成する2種の光学異性体のうち一方のみが所望の生物活性を有している場合が大変多く(甲71),(R)体-エステルが(S)体-エステルより効果があるといっても,それは光学異性体間でごく普通に認められることである。 ウ本件化合物の(R)体が全く薬効を示さないことは,国立医薬品食品衛- 9 -生研究所長の審査報告書(甲22)で明らかにされており,(R)体は一般症状及び循環器系にも影響を与えないことが記載されているから,ラセミ体と比較しても本件化合物の(S)体は2倍程度の効果しか示さないこととなり,本件特許発明の進歩性を基礎づけるような顕著な効果は認められない。 第4 被告らの反論 1 取消事由1(新規性についての判断の誤り)に対し(1) 本件特許発明1と甲2発明の相違点は,より正確には,①本件特許発明1では(S)体の本件化合物を用いるのに対し,甲2発明ではこの点につき特定がないこと(相違点①)のみならず,②本件特許発明1では,(S)体の本件化合物をベンゼンスルホン酸塩とするが,甲2公報にはこの点につき S)体の本件化合物を用いるのに対し,甲2発明ではこの点につき特定がないこと(相違点①)のみならず,②本件特許発明1では,(S)体の本件化合物をベンゼンスルホン酸塩とするが,甲2公報にはこの点につき記載がないこと(相違点②)の2点となる。 相違点①については,甲2公報に記載された本件化合物のラセミ体から甲8,甲15及び甲41の各実験報告書に記載された分取方法・条件を用いて(S)体を分取することは本件特許発明の優先日当時知られていない。相違点②については,甲2公報には,本件特許発明に係る「(S)体」の本件化合物の「ベンゼンスルホン酸塩」について開示がない。したがって,本件特許発明には新規性が認められる。 (2) 原告は,東京高裁平成3年判決及び運用指針を根拠に,ラセミ体の開示をもって(R)体及び(S)体の開示があると見るべきであるとして,本件特許発明に新規性は認められないと主張する。 しかし,東京高裁平成3年判決は,殺虫剤の中間体というそのままでは何の活性もない「物」に関してなされた判決であるのに対し,本件特許発明は「医薬の有効成分として用いられる化合物」に関する発明であるから,上記判決の射程は本件特許発明には及ばない。 また,運用指針に係る原告の主張は,「(なお,ここでいう自明とは・・- 10 -・をいう。)」との記載を利用して,「立体異性体の存在が自明でない化学物質の発明と,その立体異性体とは,原則として別発明とする。」との部分を反対解釈したものと考えられるが,上記括弧書きは,「自明」の文言を定義しているにすぎず,上記のような反対解釈の根拠となるものではない。そもそも,運用指針は,平成5年の審査基準の改定によってもはや運用指針として用いられることはなく,審決でも採用されていない。 (3) 原告は,甲2公報に係 のような反対解釈の根拠となるものではない。そもそも,運用指針は,平成5年の審査基準の改定によってもはや運用指針として用いられることはなく,審決でも採用されていない。 (3) 原告は,甲2公報に係る特許権の存続期間の延長登録と本件特許発明の特許性との関係について主張するが,甲2公報に係る特許権の延長登録の無効理由を論じても意味がない上,甲2公報に係る特許権の存続期間の延長登録と,本件特許発明の特許性とは全く別の問題である。 すなわち,特許権の延長登録を受けるためには「その特許発明の実施」ができなかった期間があることが必要である(特許法67条2項,67条の3第1項1号)。そして,甲2公報に係る特許権は,その特許請求の範囲にタリオン錠の有効成分であるベシル酸ベポタスチンが含まれており,この部分については,タリオン錠についての薬事法上の承認が得られるまで特許発明の実施ができなかったから,特許庁は存続期間の延長登録を認めたのである。この点につき,審決は,「・・・特許法67条の3で規定される延長登録を得るための要件(特許発明の実施に当該処分が必要であったこと)は,当該処分を受けたものにかかる発明が,特許発明の特許請求の範囲の技術的範囲に包含されていることが必要とされるのであって・・・」(22頁)との認定をしており,これは特許法67条の3の規定に従った正当な判断であるから,甲2公報に係る特許権の延長登録には何ら問題がない。 他方,本件特許発明は,甲2発明と対比して,(S)体の本件化合物を選択した上で(相違点①),(S)体の本件化合物の酸付加塩としてベンゼンスルホン酸塩を選択(相違点②)することにより,結晶性がよく吸湿性がなく,性状・安定性に優れ,かつ薬理効果にも優れる顕著な効果が奏されるも- 11 -のであるから,本件特許の有効性は してベンゼンスルホン酸塩を選択(相違点②)することにより,結晶性がよく吸湿性がなく,性状・安定性に優れ,かつ薬理効果にも優れる顕著な効果が奏されるも- 11 -のであるから,本件特許の有効性は揺るぎないものであり,これを維持することが法の予定するところである。 2 取消事由2(進歩性についての判断の誤り)に対し(1) ジアステレオマー法について原告は,ジアステレオマー法が最初に用いられる方法であるとした審決の認定は誤りであると主張する。しかし,原告がその主張の根拠とする甲75の1刊行物には,原告の主張に必ずしも合致しない記載も存在しており(376頁左欄17行~20行,377頁左欄19行~20行),原告の主張を根拠付けるものではない。 本件特許の優先日当時,ラセミ体の本件化合物から(S)体を分取しようとする場合,当業者にとってなじみのある方法は,ジアステレオマー法であった(甲54)。HPLC法を選択した場合,分取のためのカラムの種類が少なくかつ高価であり,特定の専門業者に委託して行う必要があったため(乙2),こうした事情からも,当業者においてHPLC法による分取は簡単には選択できる方法ではなかった。 (2) 移動相について原告は,本件化合物のような両性化合物をHPLC法により光学分割する際に,ヘキサン/イソプロパノール/トリフルオロ酢酸(0.1%)を含む移動相を選択することを当業者が容易に想到できるとはいえないとした審決の判断は誤りであると主張する。しかし,以下のとおり,審決の判断に誤りはない。 アトリフルオロ酢酸を添加するのは,試料がカルボキシル基等の酸性基のみを有する化合物,すなわち,酸性物質である場合に限られる。 イ移動相には,分離された成分の回収が容易であることが必要とされる(乙5)ところ,トリ を添加するのは,試料がカルボキシル基等の酸性基のみを有する化合物,すなわち,酸性物質である場合に限られる。 イ移動相には,分離された成分の回収が容易であることが必要とされる(乙5)ところ,トリフルオロ酢酸を添加して取得した分離成分にはトリフルオロ酢酸が不純物として0.9%残存することが判明した(甲65)- 12 -ので,移動相にトリフルオロ酢酸を添加することは当業者の技術常識を無視してなされたものである。 ウ甲8記載の方法では試料の調製で本件化合物をエタノールに溶解させているところ,移動相以外の溶媒を用いる場合には,カラム中での試料の沈殿によるトラブル発生を防止するために,移動相よりも溶解性の小さい溶媒を用いる必要があるとされており(乙6),移動相より試料の溶解性の高い溶媒は使用しないことが技術常識であったことから,本件化合物をエタノールに溶解させることは当業者にとって容易に想到できるものではない。 エエタノールを選択するためには,本件化合物が甲8記載の方法の移動相に溶けにくいことを確認し,かつ,本件化合物を溶解する溶媒として,種々のものの中からエタノールが最適であることを見出す必要があるところ,これは,エタノールの選択が当業者の高度な創作能力の発揮の結果なされたことを明確に示すものである。 (3) 固定相について審決は,本件化合物をHPLC法により光学分割する際には,キラル固定相としてCHIRALCELODやCHIRALPAKADを採用することは当業者が最初に検討することといえると判断しているが,以下のとおり,この判断は誤りである。 ア本件特許の優先日当時,オールマイティーな固定相は存在せず,経験に頼りつつ試行錯誤しながらキラル固定相が決定されていたので,キラル固定相の選択は,当業者にとって容易ではなか 判断は誤りである。 ア本件特許の優先日当時,オールマイティーな固定相は存在せず,経験に頼りつつ試行錯誤しながらキラル固定相が決定されていたので,キラル固定相の選択は,当業者にとって容易ではなかった。また,高分子系キラル固定相による分離機構の解明は,ようやく端緒についたところにあり,高分子系キラル固定相の不斉識別機能を事前に予測することは困難である。 さらに,平成5年当時に市販されていた高分子系キラル固定相は6種に分類され,CHIRALCELOD及びCHIRALPAKADは,この- 13 -中で多糖誘導体固定相に分類されるものの一部にすぎなかったことから,本件化合物から(S)体を分離する場合に,市販されている高分子キラル固定相から多糖誘導体固定相を選択し,更にその中からCHIRALPAKAD又はCHIRALCELODを選択するためには,当業者は,相当の試行錯誤を強いられることになる。平成7年3月15日発行の「化学便覧応用化学編第5版」(甲6。以下「甲6刊行物」という。)及び平成5年3月25日発行の「分離精製技術ハンドブック」(甲25(甲63と同じ)。以下「甲25刊行物」という。)に記載されている分割能(率)については,膨大な化学物質が存在する中で,そのうちのほんの一部にすぎない限られた500種類程度の化学物質における結果の数字であるにすぎず,CHIRALCELOD及びCHIRALPAKADを用いるとすべての化合物を上記の割合で分離することができることを示しているものではない。 イ両性イオン化合物であるアミノ酸は,CHIRALCELOD又はCHIRALPAKADが含まれるTypeⅡのキラル固定相では光学分割ができないことが「高速液体クロマトグラフィーハンドブック改訂2版」(甲64。以下「甲64刊行物」という RALCELOD又はCHIRALPAKADが含まれるTypeⅡのキラル固定相では光学分割ができないことが「高速液体クロマトグラフィーハンドブック改訂2版」(甲64。以下「甲64刊行物」という。)に報告されているので,本件特許の優先日当時,CHIRALCELOD又はCHIRALPAKADでは,分子中に酸性基であるカルボキシル基と塩基性基であるピペリジル基及びピリジル基とを有する両性イオン化合物である本件化合物を分割することはできなかったと考えるのが自然である。 ウ両性イオン化合物は,順相系カラムの移動相(有機溶媒系移動相)に対する溶解度が低いため,順相系カラムにかけられない場合が多い(乙2)から,そもそも本件化合物のような両性イオン化合物を光学分割する場合に順相系のカラムを用いることは一般的ではない。 (4) 本件特許発明の効果について- 14 -原告は,本件特許発明の効果についての審決の判断に誤りがある旨主張する。しかし,本件特許発明の薬理効果については,審決が「・・・上記の試験結果から,定性的には,その有効成分のベジル酸塩を構成する本件化合物が(S)体である場合とラセミ体である場合の医薬組成物としての効果上の違いを理解し得ると解される。」と認定しているとおりであり,審決の判断に誤りはない。 第5 当裁判所の判断当裁判所は,原告主張の取消事由はいずれも理由がないものと判断する。その理由は以下のとおりである。 1 取消事由1(新規性についての判断の誤り)について(1) 本件特許発明についてア本件明細書の記載本件明細書には,以下の記載がある(甲1)。 (ア) 「発明の属する技術分野」の項「本発明は,抗ヒスタミン活性及び抗アレルギー活性が優れている(S)-4- ア本件明細書の記載本件明細書には,以下の記載がある(甲1)。 (ア) 「発明の属する技術分野」の項「本発明は,抗ヒスタミン活性及び抗アレルギー活性が優れている(S)-4-〔4-〔(4-クロロフェニル)(2-ピリジル)メトキシ〕ピペリジノ〕ブタン酸のベンゼンスルホン酸塩及びその製造法に関し,該酸付加塩は吸湿性が少なく,物理化学的安定性に優れているので,医薬品として特に適した化合物である。また,本発明は,これらを有効成分としてなる医薬組成物に関する。」(【0001】)(イ) 「従来の技術」の項「特開平2-25465号公報に記載された,式(Ⅱ)【化2】 - 15 -(式中,Aは低級アルキル基,ヒドロキシル基,低級アルコキシ基,アミノ基,低級アルキルアミノ基,フェニル基,又は低級アルキル置換フェニル基を表す)で示されるピペリジン誘導体又はその塩は,従来の抗ヒスタミン剤の場合にしばしば見られる中枢神経に対する刺激又は抑圧といった二次的効果が最小限に抑えられるという特徴を有しており,蕁麻疹,湿疹,皮膚炎等のアレルギー性皮膚疾患,アレルギー性鼻炎,感冒等の上気道炎によるくしゃみ,鼻汁,咳嗽,気管支喘息の治療,処理における医薬品として期待されている。しかしながら,このピペリジン誘導体は1個の不斉炭素を有しているものの,光学活性体を単離する本法は,現在まで知られていなかった。」(【0002】~【0004】)(ウ) 「発明が解決しようとする課題」の項「一般に光学異性体間で薬理活性や安全性が異なり,更に代謝速度,蛋白結合率にも差が生じることが知られている(ファルマシア,25(4),311-336,1989)。したがって,医薬品とするには薬理学的に好ましい光 性体間で薬理活性や安全性が異なり,更に代謝速度,蛋白結合率にも差が生じることが知られている(ファルマシア,25(4),311-336,1989)。したがって,医薬品とするには薬理学的に好ましい光学異性体を高光学純度で提供する必要がある。また該光学異性体の医薬品としての高度な品質を確保するために,物理化学的安定性に優れた性質を有することが望まれる。」(【0005】)(エ) 「課題を解決するための手段」の項「本発明者等は,この課題解決のため鋭意研究を重ねた結果,上記式(Ⅰ)で示される光学活性な(S)-4-〔4-〔(4-クロロフェニル)(2-ピリジル)メトキシ〕ピペリジノ〕ブタン酸のベンゼンスルホン酸塩及び安息香酸塩が医薬品として好ましい優れた安定性を有することを見い出し,本発明を完成するに至った。」(【0006】)(オ) 「発明の実施の形態」の項a 「〔薬理試験〕- 16 -次の光学活性ピペリジン誘導体エステルの(S)-エステル及び(R)-エステルを用いて,光学異性体による薬理作用の差を試験した。 (S)-エステル:(S)-4-〔4-〔(4-クロロフェニル)(2-ピリジル)メトキシ〕ピペリジノ〕ブタン酸エチルフマル酸塩(参考例3で調製)(R)-エステル:(R)-4-〔4-〔(4-クロロフェニル)(2-ピリジル)メトキシ〕ピペリジノ〕ブタン酸酸エチルフマル酸塩(参考例4で調製)ヒスタミンショック死抑制作用…モルモットを使用し,…ヒスタミンショック死抑制作用を試験した。実験動物を一夜(約14h)絶食させた後,試験物質5ml/kgを経口投与した。試験物質投与2時間後に,ヒスタミン塩酸塩1.25mg/kgを静脈投与して,ヒスタミンショックを誘発させた。誘発後,実験動物の症状観察及びヒスタミンショッ た後,試験物質5ml/kgを経口投与した。試験物質投与2時間後に,ヒスタミン塩酸塩1.25mg/kgを静脈投与して,ヒスタミンショックを誘発させた。誘発後,実験動物の症状観察及びヒスタミンショックの発現時間を測定し,呼吸停止又は回復まで観察した。試験結果を表1に示す。 【表1】 - 17 -7日間homologousPCA反応抑制作用…モルモットを使用し,…PCA反応抑制作用を試験した。前日に剪毛したモルモットの背部の正中線をはさんで左右2点に,生理食塩水で32倍希釈したモルモット抗BPO・BGG-IgE血清を0.05ml皮内投与した。 7日後に抗原としてbenzylpenicilloylbovineserumalbumin(BPO・BSA)500μgを含む1%EvansBlue生理食塩水1mlを静脈内投与してPCA反応を惹起させた。その30分後に放血し,皮膚を剥離して漏出した色素量を…測定した。実験動物は一夜(約16h)絶食させ,試験物質は抗原投与の2時間前に経口投与した。試験結果を表2に示す。 【表2】 表1の試験結果から,(S)-エステル及び(R)-エステルは共に用量依存的な抑制作用を示し,用量反応曲線より求めた(S)-エステル及び(R)-エステルのED50値は,各々0.023mg/kg,1.0mg/kgであり,(S)-エステルは(R)-エステルより約43倍強い活性を示した。また,表2に示すPCA反応抑制試験でも(S)-エステル及び(R)-エステルは共に用量依存的に反応を抑- 18 -制した。この試験における最大抑制率は約70%程度と推察され,その50%(すなわち,35%)抑制する投与量で比較すると,(S S)-エステル及び(R)-エステルは共に用量依存的に反応を抑- 18 -制した。この試験における最大抑制率は約70%程度と推察され,その50%(すなわち,35%)抑制する投与量で比較すると,(S)-エステルは(R)-エステルより約100倍以上強い作用を示した。これらのことから,光学異性体間で明らかな薬理作用の差が認められ,(S)-エステルの方が(R)-エステルより優れていることが確認された。」(【0030】~【0035】)b 「しかしながら,上記(S)-エステルは後記安定性試験結果(表4)に示すように吸湿性であり,また(S)-エスエルの代謝物である式(I)の(S)-ピペリジン誘導体は,(S)-エステルと同等の薬理作用を示すが,それ自体は極めて結晶性の悪い化合物で,通常は飴状物として得られ,医薬品として高度な品質を確保,維持することは困難であった。 そこで式(Ⅰ)の(S)-ピペリジン誘導体の種々の酸付加塩について,次の方法で結晶化を検討した。 〔実験例 1〕式(Ⅰ)の(S)-ピペリジン誘導体を有機溶媒に溶解し,表3に示す酸を加えて均一にした後,放置した。析出物が得られない場合には,溶媒を留去した後,難溶性の溶媒を加えて再び放置した。酸付加塩が油状,飴状の場合を除き,得られた固形物を濾取して減圧乾燥した。得られた各種酸付加塩の性状は表3に示すように,多くは油状物又は吸湿性の結晶であった。 - 19 -【表3】 しかしながら,式(Ⅰ)の(S)-ピペリジン誘導体のベンゼンスルホン酸塩及び安息香酸塩は吸湿性でない結晶として得られた。」(【0036】~【0039】)c 「〔安定性試験〕ベンゼンスル ら,式(Ⅰ)の(S)-ピペリジン誘導体のベンゼンスルホン酸塩及び安息香酸塩は吸湿性でない結晶として得られた。」(【0036】~【0039】)c 「〔安定性試験〕ベンゼンスルホン酸塩:(S)-4-〔4-〔(4-クロロフェニル)(2-ピリジル)メトキシ〕ピペリジノ〕ブタン酸一ベンゼンスルホン酸塩(実施例1で調製)安息香酸塩:(S)-4-〔4-〔(4-クロロフェニル)(2-ピリジル)メトキシ〕ピペリジノ〕ブタン酸一安息香酸塩(実施- 20 -例2で調製)上記各化合物を粉砕後,500μm篩を通過させたものを試験試料とした。各試料をガラスシャーレに分割して入れ,40℃,75%湿度にて保存し,1ヵ月後に取り出して,含有類縁物質量及びラセミ化による(R)-体含有量を測定して,試験開始時の含有量と比較した。 ……【表4】 表4の試験結果から,(S)-エステルは分解により類縁物質の増加が顕著に認められ,しかも(R)体量の増加に伴い光学純度が低下することが明らかになった。したがって,物理化学的に不安定な化合物であり,医薬品として長期間高度な品質を確保できるとは言い難い。一方,ベンゼンスルホン酸塩及び安息香酸塩は,類縁物質及び(R)体量の顕著な増加は認められず,吸湿性も少ないことが確認された。したがって,これらは光学活性体として物理化学的な安定性を有する化合物である。 以上のように,(S)-ピペリジン誘導体(Ⅰ)のベンゼンスルホン酸塩及び安息香酸塩は,抗ヒスタミン活性及び抗アレルギー活性を有するより優れた光学活性体であり,生体内で活性本体として作用し,また物理化学的に優れた安定性を示すことから,医薬品と- 21 -して適した性質を有するものである。」(【0040】~【0048】) より優れた光学活性体であり,生体内で活性本体として作用し,また物理化学的に優れた安定性を示すことから,医薬品と- 21 -して適した性質を有するものである。」(【0040】~【0048】)イ本件特許発明の概要上記アの本件明細書の記載によれば,本件特許発明は,概要次のとおりのものであることが認められる。 一般に光学異性体間で薬理活性や安全性が異なり,更に代謝速度,蛋白結合率にも差が生じることが知られていることから,医薬品には薬理学的に好ましい光学異性体を提供する必要があるところ,本件特許発明は,モルモットを使用した,ヒスタミンショック死抑制作用試験及びhomologousPCA反応抑制作用試験で,(S)-エステルが(R)-エステルより優れた活性を有することから,絶対配置が(S)体である本件化合物は,生体内で抗ヒスタミン活性及び抗アレルギー活性の本体として作用する優れた光学異性体であることを見出したというものである。 また,医薬品は,高度な品質を確保するために物理化学的安定性に優れた性質を有することが望まれるところ,本件特許発明は,絶対配置が(S)体である本件化合物の様々な酸付加塩で多くのものは,油状物であるか,吸湿性の結晶であったが,ベンゼンスルホン酸塩は吸湿性の少ない結晶として得られ,かつ,保存安定性に優れることから,医薬品として特に適した化合物であることを見出したというものである。 (2) 甲2公報についてア甲2公報の記載甲2公報のうち,特許法17条の2の規定による補正の掲載には,以下の記載がある(甲2)。 (ア) 「特許請求の範囲」の項a 「(1) 一般式[Ⅰ]: - 22 - [式中,Arl及びAr2は,いずれか一方がピリジル基であり,他 下の記載がある(甲2)。 (ア) 「特許請求の範囲」の項a 「(1) 一般式[Ⅰ]: - 22 - [式中,Arl及びAr2は,いずれか一方がピリジル基であり,他の一方がフェニル基又はハロゲン置換フェニル基を表し;Aは炭素数2~6の直鎖状のアルキレン基又はアルケニレン基を表し;Bは低級アルキル基,ヒドロキシ基,低級アルコキシ基,アミノ基,低級アルキルアミノ基,フェニル基又は低級アルキル置換フェニル基を表す]で示される化合物,及びその医薬的に許容される酸付加塩。」(1頁)b 「(5) 請求項1記載の化合物またはその医薬的に許容される酸付加塩を有効成分とする抗ヒスタミン剤。」(2頁)(イ) 「産業上の利用分野」の項「本発明は,新規なピペリジン誘導体,その製造方法並びにそれを含む抗ヒスタミン剤に関する。」(2頁左下欄下から7~5行)(ウ) 「従来の技術」の項「現在までに,薬理活性成分として有用なピペリジン誘導体が数多く見出されている。ピペリジン環を有する抗ヒスタミン剤を開示するものとしては,特開昭60-94962号公報及び特開昭61-194068号公報がある」(2頁左下欄下から3行~右下欄2行)(エ) 「発明が解決しようとする課題」の項「従来の抗ヒスタミン剤の多くは中枢神経系に作用して鎮静(眠気)をもたらすものであるが,本発明者らは,有効な薬理活性を有する新規なピペリジン誘導体を合成すべく鋭意研究を重ねた結果,本発明の新規なピペリジン誘導体,その医薬的に許容される酸付加塩が,有用な薬理- 23 -学的性質,特に強い抗ヒスタミン活性及び抗アレルギー活性を有し,しかも中枢神経抑制剤であるチオペンタールによる眠気を増強する作用が少ないことを見い出し,本 される酸付加塩が,有用な薬理- 23 -学的性質,特に強い抗ヒスタミン活性及び抗アレルギー活性を有し,しかも中枢神経抑制剤であるチオペンタールによる眠気を増強する作用が少ないことを見い出し,本発明を完成するに至った。」(2頁右下欄4~13行)(オ) 「課題を解決するための手段」の項a 「本発明の新規ピペリジン誘導体は,一般式[Ⅰ]: [式中,Arl及びAr2は,いずれか一方がピリジル基であり,他の一方がフェニル基又はハロゲン置換フェニル基を表し;Aは炭素数2~6の直鎖状のアルキレン基又はアルケニレン基を表し;Bは低級アルキル基,ヒドロキシ基,低級アルコキシ基,アミノ基,低級アルキルアミノ基,フェニル基又は低級アルキル置換フェニル基を表す]で示される化合物及びその医薬的に許容される酸付加塩である。」(2頁右下欄16行~3頁左上欄下から7行)b 「次に本発明の代表的化合物の一例を列挙するが,本発明がこれらの化合物に限定されることがないことはいうまでもない。 ……・4-〔4-〔(4-クロロフェニル)(2-ピリジル)メトキシ〕-1-ピペリジル〕ブタン酸及びそのベンゼンスルホン酸塩」(3頁左下欄10行~右下欄1行)c 「本発明の化合物(Ⅰ)においてArlとAr2が結合する炭素は不斉炭素であり,立体異性体が存在するが,その各々及びそれらの混合物のいずれも本発明に包含される。」(4頁左上欄13~16行)d 「また,本発明化合物[Ⅰ]に,適当な酸を作用させることによっ- 24 -て,非毒性の,薬理的に有効な酸付加塩にすることができる。この場合,適当な酸の例としては,例えば塩化水素酸,臭化水素酸などのハロゲン化水素酸類;硫酸,硝酸,リン酸などの無機酸類;酢酸,プロピオン酸,ヒドロキシ酢酸,2- 有効な酸付加塩にすることができる。この場合,適当な酸の例としては,例えば塩化水素酸,臭化水素酸などのハロゲン化水素酸類;硫酸,硝酸,リン酸などの無機酸類;酢酸,プロピオン酸,ヒドロキシ酢酸,2-ヒドロキシプロピオン酸,ピルビン酸,マロン酸,コハク酸,マレイン酸,フマル酸,ジヒドロキシフマル酸,シュウ酸,安息香酸,桂皮酸,サリチル酸,メタンスルホン酸,エタンスルホン酸,ベンゼンスルホン酸,p-トルエンスルホン酸,シクロヘキシルスルファミン酸,4-アミノサリチル酸などの有機酸などが挙げられる。」(5頁右下欄3~16行)e 「本発明に属する次の代表的な化合物についての薬理試験結果を以下に示す。 ……化合物C4-〔4-〔(4-クロロフェニル)(2-ピリジル)メトキシ〕-1-ピペリジル〕ブタン酸(実施例4で調製)……薬理試験ヒスタミンショック死保護作用…試験結果を表1に示す。」(6頁右上欄7行~右下欄8行)f 7頁右上欄の表1には,化合物Cの1mg/kg経口投与におけるヒスタミンショック死抑制率が100%であったことが記載されている。 g 「実施例2実施例1で得られた3-〔4-〔(4-クロロフェニル)(2-ピリジル)メトキシ〕-1-ピペリジル〕プロピオン酸エチル1.00g(2.48ミリモル)を50重量%水酸化ナトリウム水溶液1mlとエタノール8mlの混合溶液に溶解させた後,2時間室温で撹拌し- 25 -た。次いで,反応混合物を減圧下で濃縮し,希塩酸で中和した後,クロロホルムで抽出した。クロロホルム層を…乾燥した後濃縮し,3-〔4-〔(4-クロロフェニル)(2-ピリジル)メトキシ〕-1-ピペリジル〕プロピオン酸0.86g 圧下で濃縮し,希塩酸で中和した後,クロロホルムで抽出した。クロロホルム層を…乾燥した後濃縮し,3-〔4-〔(4-クロロフェニル)(2-ピリジル)メトキシ〕-1-ピペリジル〕プロピオン酸0.86g(92%)を得た。 ……実施例3a) 4-〔(4-クロロフェニル)(2-ピリジル)メトキシ〕ピペリジン4.98g(16.45ミリモル)及び4-ブロモブタン酸エチル3.85g(19.74ミリモル)をアセトン35mlに溶解させた後,この混合液に炭酸カリウム2.73g(19.75ミリモル)を加えて,4時間加熱還流撹拌した。…単離した目的化合物の画分を減圧下で濃縮し,油状物の4-〔4-〔(4-クロロフェニル)(2-ピリジル)メトキシ〕-1-ピペリジル〕ブタン酸エチル6. 26g(91%)を得た。 ……実施例4実施例3で得られた4-〔4-〔(4-クロロフェニル)(2-ピリジル)メトキシ〕-1-ピペリジル〕ブタン酸エチルを用いて,実施例2と同様の方法で4-〔4-〔(4-クロロフェニル)(2-ピリジル)メトキシ〕-1-ピペリジル〕ブタン酸を得た。 … 1H-NMR(CDCl3):δ(ppm)=1.84~1.98(6H,b,m),2.58(2H,t),2.73(4H,b,m),2.92(2H,b),3.68(lH,m),7.17~7.22(7H,m),8.51(1H,m),11.31(1H,b)」(8頁左上欄20行~9頁- 26 -左上欄15行)イ甲2公報の概要前記ア(オ)gの実施例4の記載によれば,甲2公報には,本件化合物が記載されているということができる。また,前記ア(オ)e及びfの記載によれば,本件化合物が抗ヒスタミン活性を有するというこ 概要前記ア(オ)gの実施例4の記載によれば,甲2公報には,本件化合物が記載されているということができる。また,前記ア(オ)e及びfの記載によれば,本件化合物が抗ヒスタミン活性を有するということができる。 (3) 本件特許の優先日当時の技術常識についてア刊行物の記載(ア) 昭和62年10月1日発行の「月刊薬事」Vol.29,No.10(甲4)「生体(酵素や受容体)はこれらの光学異性体を識別する能力を持っており,異性体にはまったく生理活性を持たないもの,弱い同類の生理活性を持つもの,拮抗的な生理活性を持つもの(アンタゴニスト)や別な生理活性を持つものがある。それゆえ,医薬品として用いるときにはラセミ体としてではなく,目的にあったエナンチオマーのみを用いることが好ましいと考えられるが,現状はほとんどがラセミ体として用いられている。…しかし,最近,医薬品としてラセミ体の開発・使用に関して問題が投げかけられてきた。その背景として,最近の薬物分析技術の進歩,とくに高速液体クロマトグラフィーにおけるキラルカラムの開発などにより,光学異性体の分離・定量の技術が進歩し,その結果,合成キラル医薬品の生体内動態,特に代謝に関して異性体間に著しい差があることが明らかになったことがあげられよう。」(2039頁左欄7行~右欄3行)(イ) 平成元年10月10日発行の「季刊化学総説」No.6「光学異性体の分離」(甲3)a 「1 光学活性体のプレパレーション」という表題の論文「研究の精密化に伴い,医薬品,農薬,食品,飼料,香料などの分- 27 -野で光学活性体を扱うことの重要性が日ごとに増大していることはいうまでもない。光学活性体が対掌体により生理活性をまったく異にする場合が多いからである。たとえばグルタミン酸の場合,L 分- 27 -野で光学活性体を扱うことの重要性が日ごとに増大していることはいうまでもない。光学活性体が対掌体により生理活性をまったく異にする場合が多いからである。たとえばグルタミン酸の場合,L体(S)には旨味があるが,D体(R)には旨味はなく,酸味が感じられるだけである。不幸な事件のために有名になってしまったサリドマイド…も,(R)体は催奇形性をもたないが(S)体には強い催奇形成があり,ラセミ体を実用に供したことが悲惨な薬害事件…をひき起す原因となった。さらに,対掌体の一方が有効な生物活性を示す場合,もう一方の異性体が単にまったく活性を示さないだけでなく,有効な対掌体に対して競合阻害…をもたらす結果,ラセミ体の生物活性が有効な対掌体に比べ1/2以下に激減してしまう場合があることは,医薬品の開発研究でしばしば体験するところである。…したがって,光学的に純粋な対掌体をいかにして入手(合成または分割)するかは,医薬品のみならず生物活性物質を対象とする研究において,不斉中心をもつ化合物を扱う場合,避けて通ることのできない重要課題である。この目的に対して,発酵法あるいは今日有機合成化学の中で最も研究の活発な分野である不斉合成法により解決の道が見出されれば,それに越したことはないが,ラセミ体を製造(合成)したうえで,それを効果的に光学分割…する手段もまた有効な方法として多用されている。」(2頁3行~下から5行)b 「2 光学活性体の生理活性」という表題の論文「動物はL-アミノ酸より成るタンパク質から構成されており,生体内の代謝に関与する酵素もタンパク質である。酵素の基質特異性に基質の光学特異性が大きく寄与するのは,酵素側に存在する不斉性を考えれば容易に『当然のこと』と受けとめることができる。生体内で起る複雑でありながら 関与する酵素もタンパク質である。酵素の基質特異性に基質の光学特異性が大きく寄与するのは,酵素側に存在する不斉性を考えれば容易に『当然のこと』と受けとめることができる。生体内で起る複雑でありながら選択性の高い反応は,酵素による『不斉を含む- 28 -三次元の分子認識』によるものと考えられる。生理(薬理)活性をもつ物質が生体に摂取され吸収されると,その物質に特異的な親和性をもつ受容体…との結合により生理活性が発現することになるので,基質が不斉中心をもっていれば,その(S)体と(R)体とでは生理活性に相違が生ずるのはこれまた自然であろう。医薬品の多くは生体にとって異物…であり,副作用が認められない場合でも,疾病という異常状態から正常状態への復帰に必要な最少限度の用量を(必要期間だけ)投与されるべきである。したがって,医薬品の構造中に不斉中心が存在している薬物は,たとえ一方の光学異性体が生体に対して何らの生理活性を示さないラセミ体であっても,光学分割して目的に適合した対掌体のみを提供すべきであると主張されるようになった。換言すれば,このようなラセミ体は『50%の不純物を含有する医薬品』とみなすべきであるとの提唱であり,これが共感を呼ぶに至ったのはごく自然のことである。このような考え方が出てきた背景には,1章のはじめに述べたサリドマイドに関する知見が大きく横たわっていたためと思われる。…近年の有機化学の進歩は,従来困難とされていた化合物の不斉合成や光学分割を容易にしつつある。また,分析化学の進歩は,生体内における微量な光学活性薬物の分離分析を可能なものとした。薬物の体内動態が的確に解明される結果,光学活性体の形での開発が刺激され『50%不純物問題』が力強く後押しされることになった。」(16頁3行~末行)(ウ) 平成4年 能なものとした。薬物の体内動態が的確に解明される結果,光学活性体の形での開発が刺激され『50%不純物問題』が力強く後押しされることになった。」(16頁3行~末行)(ウ) 平成4年2月10日発行の「日本化学会誌」NO.2(甲26)a 「1 はじめに」の項「1.1 光学異性に関する認識の深まり…二つの光学活性体,そしてラセミ体の三者がいずれも『異なる』化合物であるということは,概念的には古くから知られていた。にも- 29 -かかわらず,しばしばこれらが同等あるいは代用できるものとして扱われてきた一つの理由は,光学活性体を入手し,またその純度を評価するための手段が未発達であったことと,そのためにことさら,それら三者がいかに『異なる』かということが,実際的な問題として十分に認識されていなかったためであると思われる。この相違の重大さが最初に認識されたのは医薬の分野であろう。サリドマイドの催奇性が,その(S)-体に基づくものであるというBlaschke らの研究はよく知られているが,同様の例はかなりの数が知られるようになった。 最近報告された例では,…。こうした背景から,近年医薬開発においては,ラセミ体を製剤化する場合にも,それぞれの光学活性体の薬理評価が必要とされ,またラセミ体の製剤化そのものに対する慎重論も高まっている。医農薬などの生理活性物質のみならず,機能性材料にも,強誘電性液晶などのように,光学活性体であることを必要条件とするものが見いだされ,光学活性体にかかわる研究,開発は,科学,技術の広い分野で活発化しつつある。しかし,その展開は光学活性体の製造,分析技術の水準による制約を受けざるを得ず,新たな技術の確立が希求されていた。 1.2 液体クロマトグラフィー法による光学異性体分離液体クロマ ある。しかし,その展開は光学活性体の製造,分析技術の水準による制約を受けざるを得ず,新たな技術の確立が希求されていた。 1.2 液体クロマトグラフィー法による光学異性体分離液体クロマトグラフィー法による光学異性体分離…は,これに答える新技術として注目されていた。」(133頁左欄2行~右欄12行)b 要約の項「筆者らは,…多糖誘導体が,液体クロマトグラフィー用固定相として,光学異性体を分離する能力を持つことを見いだした。さらにこれらをシリカゲルにコーティングすることにより,高効率液体クロマトグラフィーカラムを開発,現在までに12品種が上市された。ま- 30 -た,多糖誘導体を用いた大型カラムを含む分取システムを確立し,液体クロマトグラフィーによる光学異性体分離が世界で初めて事業化された。」(133頁)(エ) 平成7年10月5日発行の甲75の1刊行物(甲75の1)「1.はじめに近年,医薬,農薬,食品,香料,強誘電性液晶などの各分野において,光学活性化合物に対する関心が著しく高まっており,いろいろな試みや研究・開発が進められている。特に医薬分野においては,光学異性体間で,薬効の強さに差があったり,薬効そのものが異なる例もあり,また,活性体の一方には副作用がないのに他方にはあるという例など,異性体間の相違について,多くの知見が得られており,厚生省からの指導とも相まって,新規合成医薬品の光学活性体化の流れは急であり,現在では必要な光学活性化合物をいかに安価に安定確保するかが大きな課題となっている。 これらの新規光学活性化合物の開発に欠かせない技術として,液体クロマトグラフィー(HPLC)による光学異性体の分離・分析技術が挙げられる。キラル固定相を分離剤としたキラルカラムによる分析技術は新規光学活性医薬 光学活性化合物の開発に欠かせない技術として,液体クロマトグラフィー(HPLC)による光学異性体の分離・分析技術が挙げられる。キラル固定相を分離剤としたキラルカラムによる分析技術は新規光学活性医薬品の開発動向と相まって,ここ10数年で急速に進歩し,各社から次々と新規のキラル固定相を用いたキラルカラムが上市されており,現在では100種類以上のカラムが販売されるに至っている。」(375頁右欄1行~20行)イ上記甲75の1刊行物の記載によれば,本件特許の優先日(平成8年12月26日)における技術常識として,光学異性体の間で生物に対する作用が異なる場合があることが広く知られており,近年の不斉合成や光学分割についての技術の進歩により,光学異性体間で生物に対する作用が異なる化学物質については,これをラセミ体のままで使用するのではなく,光- 31 -学異性体として使用するようになりつつあったことが認められる。 このような本件特許の優先日における技術常識を参酌すれば,ある化学物質の発明について光学異性体の間で生物に対する作用が異なることを見出したことを根拠として特許出願がされた場合,ラセミ体自体は公知であるとしても,それを構成する光学異性体の間で生物に対する作用が異なることを開示した点に新規性を認めるのが相当である。 (4) ラセミ体の開示とその光学異性体の開示に係る原告の主張について原告は,東京高裁平成3年判決及び運用指針を根拠として,ラセミ体が開示されていれば,(R)体及び(S)体がそれぞれ開示されていると見るべきであり,特に本件化合物については,光学異性体の存在が甲2公報に明記されているのであるから,(S)体を対象とする本件特許発明が新規性を欠くことは明らかであると主張する。 しかし,東京高裁平成3年判決は,昭和53年1月31日を ては,光学異性体の存在が甲2公報に明記されているのであるから,(S)体を対象とする本件特許発明が新規性を欠くことは明らかであると主張する。 しかし,東京高裁平成3年判決は,昭和53年1月31日を優先日として特許出願された発明の新規性を否定した審決の取消しを求める審決取消訴訟において,一対の光学異性体から成るラセミ体が刊行物に記載されている場合,その一方を単独の物質として提供する発明の新規性を有するか否かが争われた事案について,光学異性体は,一般に,旋光性の方向以外の物理的化学的性質においては差異がないから,ラセミ体の開示をもって光学異性体が開示されているというべきであるとして上記発明の新規性を否定した判決であり,本件特許の優先日(平成8年12月26日)の技術常識を参酌したものでないことは明らかであるから,同判決を本件について適用すべき裁判例ということはできない。 すなわち,先に説示したとおり,本件特許の優先日(平成8年12月26日)における技術常識に照らせば,ある化学物質の発明について光学異性体の間で生物に対する作用が異なることを見出したことを根拠として特許出願がされた場合,ラセミ体自体は公知であるとしても,それを構成する光学異- 32 -性体の間で生物に対する作用が異なることを開示した点に新規性を認めるべきであって,本件特許の優先日における判断として,ラセミ体の開示をもって光学異性体が開示されているとして新規性を否定するのは誤りである。 また,運用指針については,確かに,原告の主張する規定(「立体異性体の存在が自明でない化学物質の発明と,その立体異性体の発明とは,原則として別発明とする。(なお,ここでいう自明とは単純な光学異性体のように,不整炭素原子の存在により,その光学異性体の存在が明らかである場合をいう。)」(特-13 明と,その立体異性体の発明とは,原則として別発明とする。(なお,ここでいう自明とは単純な光学異性体のように,不整炭素原子の存在により,その光学異性体の存在が明らかである場合をいう。)」(特-13頁))があり,この規定は,不斉炭素原子の存在により,その光学異性体の存在が明らかである場合については,立体異性体の存在が自明であるとして,ラセミ体の開示をもって光学異性体の開示があると見るべきである旨を述べているものと見る余地がなくはない。 しかし,上記のとおり,本件特許の優先日における技術常識は,昭和53年当時には未だ技術常識として確立していなかったのであるから,昭和50年当時にも技術常識として確立していなかったことは明らかである。本件特許発明の新規性の有無については,本件特許の優先日(平成8年12月26日)における技術常識に照らして判断すべきであり,運用指針の規定を根拠とするのは誤りである。 したがって,東京高裁平成3年判決及び運用指針を根拠とする原告の上記主張は採用することができない。 (5) 甲8記載の方法は自明であるとする原告の主張について原告は,本件特許の優先日当時,甲8記載の方法で使用されたカラムを使用して実際に分割に成功した例は多数存在している(甲25,35)として,本件化合物を光学分割する方法として甲8記載の方法は当業者にとって自明であったというべきであり,甲2公報には甲8記載の方法で本件化合物を光学分割する方法が記載されているに等しいと主張する。 しかし,甲8記載の方法で使用されたカラムを使用して分割できる物質が- 33 -多数存在するとしても,当該カラムを使用して本件化合物ないしこれと化学構造が類似した化合物を光学分割できる例が知られていない以上,本件特許の優先日当時において,本件化合物を光学分割する方法として -多数存在するとしても,当該カラムを使用して本件化合物ないしこれと化学構造が類似した化合物を光学分割できる例が知られていない以上,本件特許の優先日当時において,本件化合物を光学分割する方法として甲8記載の方法は当業者にとって自明であり,甲2公報には甲8記載の方法で本件化合物を光学分割する方法が記載されているに等しいということはできない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 (6) 延長登録と本件特許発明の新規性との関係に係る原告の主張についてア原告は,被告らが(S)体である本件化合物のベンゼンスルホン酸塩を含む医薬が受けた製造承認に基づいて,甲2公報に係る特許権の存続期間の延長登録を受けており,この点について,審決が,延長登録を受けるためには,特許法67条2項所定の処分を受けたものに係る発明が特許発明の特許請求の範囲の技術的範囲に包含されていればよく,当該処分に係る発明が明細書等に個別具体的に記載された発明であることは必要ではないと述べているが,当該処分を受けたものに係る発明が甲2公報の特許請求の範囲に属することを理由として延長登録が認められている以上,甲2公報に(S)体の本件化合物のベンゼンスルホン酸塩が開示されていることは否定できないというべきであると主張する。 確かに,当該処分を受けたものに係る発明が特許発明の特許請求の範囲の技術的範囲に包含されているのであれば,その発明は明細書に開示されているはずであり,その発明が明細書に開示されていないのであれば,特許は特許法36条6項1号の要件を欠くことになるから,その限りにおいて原告の主張は首肯することができる余地もある。 しかし,特許庁における延長登録の実務が審決の述べるようなものであるとすれば,その当否はさておき,甲2公報に係る特許権の存続期間の延長登 限りにおいて原告の主張は首肯することができる余地もある。 しかし,特許庁における延長登録の実務が審決の述べるようなものであるとすれば,その当否はさておき,甲2公報に係る特許権の存続期間の延長登録が認められているからといって,甲2公報に(S)体の本件化合物のベンゼンスルホン酸塩が開示されているということにはならない。ま- 34 -た,そもそも,本件特許発明の新規性の有無を検討する上で,甲2公報に(S)体の本件化合物のベンゼンスルホン酸塩が開示されているか否かという点については,本件特許の優先日の技術常識を参酌して判断すべき事柄であり,甲2公報に係る特許権の延長登録が認められたことは,この判断に何ら影響を及ぼすものではない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 イ原告は,甲2公報には,(S)体の本件化合物をも発明の対象として含む旨の明示的な開示があり,かつ,ベンゼンスルホン酸塩についても開示されているのに,甲2公報に係る特許に続いて,本件特許によってさらに同じ物質の保護を認めることは,法の予定しないものであるとも主張する。しかし,本件特許発明の新規性の有無を検討する上で,甲2公報に(S)体の本件化合物のベンゼンスルホン酸塩が開示されているといえないことは,既に説示したとおりである。原告の主張は前提を欠き,失当である。 (7) 小括よって,原告主張の取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(進歩性についての判断の誤り)について(1) ジアステレオマー法について原告は,本件化合物の光学分割を行う際に当業者はジアステレオマー法を最初に検討するとした審決の判断は誤りであると主張する。当裁判所は,以下の刊行物の記載から認められる本件特許の優先日の技術常識に照らすと,原告の主張は理由があるものと判断 業者はジアステレオマー法を最初に検討するとした審決の判断は誤りであると主張する。当裁判所は,以下の刊行物の記載から認められる本件特許の優先日の技術常識に照らすと,原告の主張は理由があるものと判断する。 ア刊行物の記載(ア) 平成元年発行の甲54刊行物(甲54)に掲載の「ジアステレオマー法」と題する論文には,「光学分割しようとするラセミ体をジアステレオマー誘導体に導き,結晶化技術を用いて光学活性体を得ようとするい- 35 -わゆるジアステレオマー法は,古くから最も一般的に行われてきた方法である。そして,この方法は適用範囲も広く,光学活性体の確実な取得方法として,いまなお多くの試みがなされている。ジアステレオマー誘導体に導くための光学分割剤の選択や分別結晶に用いる溶媒の選択については,現在においても試行錯誤的なところがあるが,いままでの研究の積み重ねにより,かなりの成功率で光学異性体を分離できるようになってきた。したがってこの方法は,ラセミ体から光学活性体を得る方法として,まず最初に試みてみる価値のある方法だと思われる。」(45頁3~10行)との記載がある。 上記記載によれば,平成元年当時の技術常識として,本件化合物の光学分割を行う際に,当業者はジアステレオマー法をまず最初に検討するものであったことが認められる。 (イ) 甲54刊行物掲載の「光学活性体のプレパレーション」と題する論文には,ラセミ体を光学活性体に分割する方法を4つに分類して,①結晶化法の一つとしてジアステレオマー法を挙げ,その他に②クロマトグラフィーを用いる方法,③酵素を用いる方法,④包接化合物法があることが記載されており(3頁図1の下),また,②のクロマトグラフィーを用いる方法について,「この領域での飛躍的進歩は,HPLC(高性能液体クロマト いる方法,③酵素を用いる方法,④包接化合物法があることが記載されており(3頁図1の下),また,②のクロマトグラフィーを用いる方法について,「この領域での飛躍的進歩は,HPLC(高性能液体クロマトグラフィー)の進歩に伴ってもたらされた。分子の立体構造に対して大きな識別力をもつ効率のよいカラムが開発され,分割能と同時に量的処理能力が向上したからである。…これらの詳細はⅤ部で詳述されるが,クロマトグラフィー法は技術的な改善だけでなく,分子間の会合状態の理論的進歩と相補的に関係しながらますます発展し,今後光学分割法の柱となっていくものと思われる。」(9頁化学反応式の下6行~末行)との記載がある。 上記記載によれば,HPLCで使用する優れたカラムが開発されたこ- 36 -とにより,甲54刊行物が発行された平成元年当時においても,クロマトグラフィーを用いる光学分割が飛躍的に進歩しており,当業者は,将来はクロマトグラフィーを用いる光学分割が光学分割法の柱となる可能性があると認識していたことが認められる。 (ウ) 平成7年10月5日発行の甲75の1刊行物(甲75の1)には,「新規光学活性化合物の開発に欠かせない技術として,液体クロマトグラフィー(HPLC)による光学異性体の分離・分析技術が挙げられる。キラル固定相を分離剤としたキラルカラムによる分析技術は新規光学活性医薬品の開発動向と相まって,ここ10数年で急速に進歩し,各社から次々と新規のキラル固定相を用いたキラルカラムが上市されており,現在では100種類以上のカラムが販売されるに至っている。」(375頁左欄13行~20行),「光学活性体の生産手段は…それぞれ長所,欠点を持っており,特に,新薬の開発段階において,高純度のものを迅速に供給するという観点から見ると,選択肢は極めて限定される。… 75頁左欄13行~20行),「光学活性体の生産手段は…それぞれ長所,欠点を持っており,特に,新薬の開発段階において,高純度のものを迅速に供給するという観点から見ると,選択肢は極めて限定される。…優先晶出法やジアステレオマー法が古くからの方法として,試みられている。しかし,目標光学純度に到達するために収率を度外視して再結晶操作を何度も繰り返す場合もあり,非常に手間がかかる。これらの方法と比較すると,HPLC法は,分析カラムで目的の光学異性体が分割されることが確認されれば,そのままカラムを大きくすることによって,必要な光学活性体を分取することが容易であろうことは誰しも想像されることである。事実,…分取用キラルカラム…や分取用途を目的としたキラル充填剤が多数販売されており,この目的に広く使用されている。」(377頁左欄9行~31行),「これらの特徴を考えると,HPLC法は,“時間が勝負”である新規医薬品の開発段階における評価用サンプル供給に求められる三つの条件-迅速性,高い光学純度,両活性体供給-を満たす最適の方法ということができる。」(377頁右欄表2の下1行~5行)との記載がある。 - 37 -上記記載によれば,甲54刊行物が発行された平成元年以降も,HPLC法で使用するカラムの開発が進行し,甲75の1刊行物が発行された平成7年の時点では,当業者は,医薬品の開発においては,HPLC法がジアステレオマー法と比較して優れた方法であると認識していたことが認められる。 イ上記認定のとおり,平成元年当時の技術常識としては,本件化合物の光学分割を行う際に,当業者はジアステレオマー法をまず最初に検討するものであったものの,HPLCで使用する優れたカラムが開発されたことにより,クロマトグラフィーを用いる光学分割が飛躍的に進歩し,平成7年の を行う際に,当業者はジアステレオマー法をまず最初に検討するものであったものの,HPLCで使用する優れたカラムが開発されたことにより,クロマトグラフィーを用いる光学分割が飛躍的に進歩し,平成7年の時点では,当業者は,医薬品の開発においては,HPLC法がジアステレオマー法と比較して優れた方法であると認識していたことが認められる。 そうすると,本件特許の優先日(平成8年12月26日)の技術常識として,本件化合物の光学分割を行う際に当業者はジアステレオマー法を最初に検討するとした審決の判断には誤りがあるというべきである。 (2) 移動相について原告は,本件化合物のような両性化合物をHPLC法により光学分割する際にヘキサン/イソプロパノール/トリフルオロ酢酸(0.1%)を含む移動相を選択することは当業者が容易に想到できるとはいえないとした審決の判断は誤りであると主張する。当裁判所は,以下のとおり,原告の主張は理由があるものと判断する。 ア 「光学分割用カラム取扱説明書」と題する書面(甲73の2。以下「甲73の2取扱説明書」という。)の記載甲73の1(甲73の2が,平成7年9月から平成8年2月末までの期間に購入したCHIRALPAKADに付属されていた取扱説明書であることを述べるもの)及び弁論の全趣旨によれば,甲73の2取扱説明書- 38 -の記載内容は,本件特許の優先日前に公知の事項であったものと認められるところ,同取扱説明書には,「2.標準使用条件溶離液;n-ヘキサン/2-プロパノール=80/20(v/v)」,「3.溶離液及び試料溶媒使用可能溶媒は以下の範囲です。 n-ヘキサン/2-プロパノール=100/0~0/100(v/v),n-ヘキサン/エタノール=100/0~85/15及び50/50~0/100(v 離液及び試料溶媒使用可能溶媒は以下の範囲です。 n-ヘキサン/2-プロパノール=100/0~0/100(v/v),n-ヘキサン/エタノール=100/0~85/15及び50/50~0/100(v/v):室温下,100/0~85/15及び35/65~0/100(v/v):40℃付近。・エタノールを含有する溶離液では,ベースラインが落ち着くまで時間がかかることが有ります。・一般に2-プロパノールよりエタノールの方が,またアルコール含量の高い方が保持時間を短くします。・試料が塩基性物質の場合,ジエチルアミンを0.1%(v/v)[Max.1.0%]添加すると,良い分離の得られる事があります。・試料が酸性物質の場合,トリフルオロ酢酸または酢酸を0.1%(v/v)[Max.0.5%]添加すると,良い分離の得られる事があります。なお,アルコールを含まない系でのご使用はお避け下さい。」,「〈ご注意〉 本カラムには,多糖誘導体をシリカゲルに担持した充填剤を用いております。溶離液及び,試料溶媒の項に記された溶媒以外をご使用になりますと,多糖誘導体を溶解または膨潤させ,カラム性能を損なう恐れがあります。使用可能溶媒以外をお使いになりたい場合には,お問い合わせ下さい。」との記載がある。 イ上記記載によれば,甲73の2取扱説明書には,CHIRALPAKADの標準的な移動相がn-ヘキサン/2-プロパノールであり,n-ヘキサン/エタノールも利用可能であること,良い分離を得るためにこれらの移動相に添加できる物質は,分離しようとする物質が塩基性物質の場合はジエチルアミン0.1%,酸性物質の場合はトリフルオロ酢酸又は酢酸0.1%であり,これら以外の溶媒を使用した場合にはカラム性能を損なう恐れがあることが記載されていると認められる。 - 39 -そうすると ミン0.1%,酸性物質の場合はトリフルオロ酢酸又は酢酸0.1%であり,これら以外の溶媒を使用した場合にはカラム性能を損なう恐れがあることが記載されていると認められる。 - 39 -そうすると,CHIRALPAKADを用いて光学分割を行おうとする当業者は,その取扱説明書の記載に従い,移動相としてn-ヘキサン/2-プロパノールを使用することを試みるということができ,その分離が芳しくない場合には,分離しようとする物質の液性によって,ジエチルアミン,又はトリフルオロ酢酸若しくは酢酸を添加しようとするものと認められる。本件化合物は,分子中に酸性基(カルボキシル基)と,塩基性基(ピペリジル基及びピリジル基)の両者を有するものであるから,本件化合物が酸性物質であるか又は塩基性物質であるかは,その化学構造からは直ちに判明しないが,甲73の2取扱説明書には,ジエチルアミン,トリフルオロ酢酸又は酢酸以外の溶媒を使用するとカラムの性能を損なう恐れがあることが記載されているから,当業者は,これら3種の物質のいずれかを移動相に添加して,良い分離を得ようとするものと認められる。すなわち,CHIRALPAKADを用いて本件化合物の光学分割を試みる当業者は,その取扱説明書の記載に従い,移動相としてn-ヘキサン/2-プロパノールを使用し,また,その際の分離が芳しくない場合には,本件化合物のような両性化合物については,ジエチルアミン,トリフルオロ酢酸又は酢酸のいずれかを0.1%移動相に添加して,分離の改善を試みることを想到するものと認められる。 したがって,本件化合物のような両性化合物をHPLC法により光学分割する際にヘキサン/イソプロパノール/トリフルオロ酢酸(0.1%)を含む移動相を選択することは当業者が容易に想到できるとはいえないとした審決の判断に 合物のような両性化合物をHPLC法により光学分割する際にヘキサン/イソプロパノール/トリフルオロ酢酸(0.1%)を含む移動相を選択することは当業者が容易に想到できるとはいえないとした審決の判断には誤りがある。 ウ被告らの主張について被告らは,審決の上記判断に誤りはない旨縷々主張するが,以下のとおりいずれも採用することができない。 (ア) 被告らは,トリフルオロ酢酸を添加するのは,試料がカルボキシル基- 40 -等の酸性基のみを有する化合物,すなわち,酸性物質である場合に限られると主張する。 しかし,前示のとおり,本件化合物が酸性又は塩基性のいずれの物質であるかはその化学構造からは直ちに判明しないから,当業者は,甲73の2取扱説明書に記載の3種のいずれかを移動相に添加することを試みるものといえる。また,甲73の2取扱説明書には,トリフルオロ酢酸の添加は,試料が酸性物質である場合に限定される旨の記載はない。 したがって,被告らの上記主張は採用することができない。 (イ) 被告らは,移動相には,分離された成分の回収が容易であることが必要とされる(乙5)ところ,トリフルオロ酢酸を添加して取得した分離成分にはトリフルオロ酢酸が不純物として0.9%残存することが判明した(甲65)ので,移動相にトリフルオロ酢酸を添加することは当業者の技術常識を無視してなされたものであると主張する。 しかし,本件特許の優先日の技術常識を参酌して本件化合物の光学異性体を入手できたというために,本件化合物の光学異性体が純度100%のものとして得られたことは必要ではない。したがって,被告らの上記主張を採用することはできない。 (ウ) 被告らは,甲8記載の方法では試料の調製で本件化合物をエタノールに溶解させているところ,移動相以外の溶媒を は必要ではない。したがって,被告らの上記主張を採用することはできない。 (ウ) 被告らは,甲8記載の方法では試料の調製で本件化合物をエタノールに溶解させているところ,移動相以外の溶媒を用いる場合には,カラム中での試料の沈殿によるトラブル発生を防止するために,移動相よりも溶解性の小さい溶媒を用いる必要があるとされており(乙6),移動相より試料の溶解性の高い溶媒は使用しないことが技術常識であったことから,本件化合物をエタノールに溶解させることは当業者にとって容易に想到できるものではないとも主張する。 しかし,被告らが主張の根拠とする乙6に記載された注意事項は,試料を溶解性の大きい溶媒に溶かし,そのままカラムに注入する場合に関- 41 -するものである。甲8記載の方法では,試料をエタノールに溶解後,そのままカラムに注入するのではなく,移動相で希釈してカラムに注入しているため,乙6の注意事項は事前に回避されている。したがって,被告らの上記主張を採用することはできない。 (エ) 被告らは,エタノールを選択するためには,本件化合物が甲8記載の方法の移動相に溶けにくいことを確認し,かつ,本件化合物を溶解する溶媒として,種々のものの中からエタノールが最適であることを見出す必要があるところ,これは,エタノールの選択が当業者の高度な創作能力の発揮の結果なされたことを明確に示すものであるとも主張する。 しかし,甲2公報には,本件化合物の合成反応の溶媒としてエタノールが使用されていることが記載されており,これによれば,当業者には本件化合物がエタノールに溶解することも知られていたものと認められる。そうすると,CHIRALPAKADを使用する光学分割において,そこで標準使用条件とされる溶離液に本件化合物が溶けにくいことが判明した場合に タノールに溶解することも知られていたものと認められる。そうすると,CHIRALPAKADを使用する光学分割において,そこで標準使用条件とされる溶離液に本件化合物が溶けにくいことが判明した場合に,本件化合物が溶解する溶媒として知られており,また,甲73の2取扱説明書においても,溶離液の成分として挙げられているエタノールを選択することは,当業者であれば格別の創意を要する事項ではない。したがって,被告らの上記主張を採用することはできない。 (3) 固定相についてア被告らは,本件化合物をHPLC法により光学分割する際には,キラル固定相としてCHIRALCELODやCHIRALPAKADを採用することは,当業者が最初に検討するとした審決の判断は誤りであるとして縷々主張する。 しかし,以下の刊行物の記載から認められる本件特許の優先日における事情に照らせば,本件特許の優先日における当業者であれば,本件化合物- 42 -を光学分割する場合に,様々なHPLCのキラル固定相の中から,当時広く使用されていたセルロース又はアミロースの誘導体を選択し,かつ,これら誘導体の中で,多くの物質が光学分割可能であったCHIRALCELOD又はCHIRALPAKADの使用を最初に検討することは,ごく自然なことであったと認められる。 (ア) 平成12年5月1日発行の「高分子」49巻5月号(甲35)には,「1996年に"TetrahedronAsymmetry"誌には349報の論文が鏡像体の純度を報告している。その決定法の内訳は,HPLC(36%),NMR(32%),GC(22%),旋光度(11%)である。HPLCは主要な鏡像体の純度の決定法になっている。使用されるキラル固定相は5,6の誘導体が71%を占め,その有用性がうかがえる。」(3 MR(32%),GC(22%),旋光度(11%)である。HPLCは主要な鏡像体の純度の決定法になっている。使用されるキラル固定相は5,6の誘導体が71%を占め,その有用性がうかがえる。」(316頁右欄図1の下29行~317頁左欄表1の下4行)との記載がある。 ここでいう「5,6の誘導体」の5とはセルロースであり,6とはアミロースである(316頁左欄下から2行~1行)から,本件特許の優先日と同年の1996年(平成8年)当時,セルロースやアミロースの誘導体は,HPLCにおける各種キラル固定相の中でも実用性に高く,当業者に広く使用されていたキラル固定相であったことが認められる。 (イ)a 平成7年3月15日発行の甲6刊行物(甲6)には,「セルロースの…トリス(カルバミン酸フェニル)誘導体の多くは,興味深い光学分割能を示す。…なかでも3,5-ジメチルフェニル誘導体(34)は,芳香族炭化水素やハロゲン化物からアミンやカルボン酸まで,きわめて広範囲の化合物をかなりの確率(約60%)で光学分割することができる。…アミロースのカルバミン酸フェニル誘導体も,シリカゲルに吸着させると実用性のあるキラル充填剤となる。この場合もカルバミン酸3,5-ジメチルフェニル(35)がもっとも高い光学分割能を示すことが- 43 -多い。(35)の不斉識別能は(34)のそれとは異なり,両者はかなり相補的である。したがって,(34)と(35)を用いると80%前後の確率でラセミ体を分割できる可能性がある。」と記載されている(Ⅱ-570頁左欄4行~25行)。 b 平成5年3月25日発行の甲25刊行物(甲25,63)には,「セルロースとフェニルイソシアナート…を…反応させると,…フェニルカルバメート…に変換される。置換フェニルイソシアナートを用いれば,相当するカルバメ 25日発行の甲25刊行物(甲25,63)には,「セルロースとフェニルイソシアナート…を…反応させると,…フェニルカルバメート…に変換される。置換フェニルイソシアナートを用いれば,相当するカルバメート誘導体が得られる。…これら置換フェニルカルバメートのうち,4-メチル,4-クロロ,3,5-ジメチル誘導体が市販されている。なかでも3,5-ジメチルフェニルカルバメートは,分割可能な化合物の種類が多い。…ヘキサン-2-プロパノールを溶離液として,芳香族炭化水素からアミンやカルボン酸まで分割できる。 …筆者らのところで,このカラムにより493種のラセミ体の分割を行ったが,そのうち227種が完全分割され,86種は裾が一部重なった部分分割であった。この確率(313/493=0.63)は,ほかのキラルカラムによる確率に比べてかなり高い。アミロースのフェニルカルバメート…の誘導体についても同様の検討が加えられている。ここでもトリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)が高い光学分割能を示す。…このカラムにより,372種のラセミ体の光学分割が筆者らにより試みられている。そのうち108は完全分割,98は部分分割されている。これら2種の3,5-ジメチルフェニルカルバメートによる光学分割では,493種のラセミ体のうち,185がセルロース誘導体のみで分割され,78がアミロース誘導体のみで,128は両者で分割されたことになり,合計391(79%)が少なくともどちらかの誘導体で分割できることになる。」と記載されている(478頁右欄図11.35の下8行~480頁右欄1行)。 - 44 -c 甲6刊行物及び甲25刊行物とも,研究開発において当業者が広く参考にする便覧やハンドブックであり,甲6刊行物に記載のセルロースの誘導体(34)及び甲25刊行物に記載のセルロ )。 - 44 -c 甲6刊行物及び甲25刊行物とも,研究開発において当業者が広く参考にする便覧やハンドブックであり,甲6刊行物に記載のセルロースの誘導体(34)及び甲25刊行物に記載のセルロース誘導体はCHIRALCELODに相当し,また,甲6刊行物に記載のアミロースの誘導体(35)及び甲25刊行物に記載のアミロースの誘導体はCHIRALPAKADに相当する。 したがって,上記a,bの記載によれば,セルロース誘導体の1種であるCHIRALCELOD又はアミロース誘導体の1種であるCHIRALPAKADのいずれかのカラムをキラル固定相として使用することにより,500に近いラセミ体の約80%を光学分割することが可能であることが,本件特許の優先日において当業者に周知の事項であったことが認められる。 (ウ) 上記(ア),(イ)によれば,本件特許の優先日における当業者であれば,本件化合物を光学分割する場合に,様々なHPLCのキラル固定相の中から,当時広く使用されていたセルロース又はアミロースの誘導体を選択し,かつ,これら誘導体の中で,多くの物質が光学分割可能であったCHIRALCELOD又はCHIRALPAKADの使用を最初に検討することは,ごく自然なことといえる。 イ被告らの主張について(ア) 被告らは,本件特許の優先日当時,オールマイティーな固定相は存在せず,経験に頼りつつ試行錯誤しながらキラル固定相が決定されていたので,キラル固定相の選択は,当業者にとって容易ではなかった,高分子系キラル固定相による光学分割の機構の解明は端緒についたところであり,高分子系キラル固定相の不斉識別機能を事前に予測することは困難であったと主張する。しかし,そのような事情は,多くのキラル固定相の中からCHIRALCEL 分割の機構の解明は端緒についたところであり,高分子系キラル固定相の不斉識別機能を事前に予測することは困難であったと主張する。しかし,そのような事情は,多くのキラル固定相の中からCHIRALCELOD又はCHIRALPAKADを最- 45 -初に選択することを妨げるものではない。 また,被告らは,甲25刊行物記載の分割率は,膨大な数の化合物が存在する中,そのうちのほんの一部にすぎない限られた500種類程度の化合物における結果の数字であるにすぎず,CHIRALCELOD及びCHIRALPAKADを用いるとすべての化合物を上記の割合で分離することができることを示しているものではないとも主張する。しかし,問題は,本件特許の優先日に市販されていた複数の多糖誘導体固定相の中からいずれのものを選択するかということであって,CHIRALCELOD又はCHIRALPAKADを用いることにより,すべての化合物について上記の分割率で光学分割が可能であることを要するものではない。また,上記の分割率は,それが膨大な数の化合物のうちの500種類程度の化合物における結果であるとしても,CHIRALCELOD又はCHIRALPAKADを最初に選択するための動機付けとしては十分な数値である。 (イ) 被告らは,両性イオン化合物であるアミノ酸は,CHIRALCELOD又はCHIRALPAKADが含まれるType Ⅱのキラル固定相では光学分割ができないことが甲64刊行物に報告されているので,本件優先日当時,CHIRALCELOD又はCHIRALPAKADでは,分子中に酸性基であるカルボキシル基と塩基性基であるピペリジル基及びピリジル基とを有する両性イオン化合物である本件化合物を分割することはできなかったと考えるのが自然であると主張する。 KADでは,分子中に酸性基であるカルボキシル基と塩基性基であるピペリジル基及びピリジル基とを有する両性イオン化合物である本件化合物を分割することはできなかったと考えるのが自然であると主張する。 確かに,甲64刊行物(甲64)には,「目的化合物の基本的構造の違いと光学分割の可能性のあるCSP(判決注・キラル固定相を意味する。)との組合せをリストアップしたものであり,CSP選択の大凡のガイドラインとして使用することができる」ものとして,「含窒素エナンチオマーの光学分割を目的とした場合のCSP選択の目安」と題する- 46 -表4・6があり(101頁),これによれば,アミノ酸は,CHIRALCELOD又はCHIRALPAKADが含まれるType Ⅱのキラル固定相では光学分割ができないものとして分類されていることが認められる。 しかし,まず,甲64刊行物は,本件特許の優先日の後の平成12年3月25日に発行されたものであるから,これに記載されている事項が本件特許の優先日に当業者に知られていたものということはできない。 また,甲8,甲15及び甲41の各実験報告書には,CHIRALCELOD又はCHIRALPAKADを使用することにより本件化合物を光学分割できたことが記載されており,甲65の実験報告・陳述書にも,被告宇部興産株式会社の社員が行った実験において,CHIRALPAKADを使用して本件化合物を光学分割できたことが記載されているところ,本件化合物はいわゆる典型的なアミノ酸とはその化学構造が異なるものであることからすると,本件化合物は,甲64刊行物に記載されているType Ⅱのキラル固定相選択の目安の例外と解するのが合理的である。したがって,被告らの上記主張も採用することはできない。 (ウ) 被告らは,「両性イオン化合 物は,甲64刊行物に記載されているType Ⅱのキラル固定相選択の目安の例外と解するのが合理的である。したがって,被告らの上記主張も採用することはできない。 (ウ) 被告らは,「両性イオン化合物は,順相系カラムの移動相(有機溶媒系移動相)に対する溶解度が低いため,順相系カラムにかけられない場合が多い。」との慶應義塾大学A教授の見解(乙2)を根拠として,そもそも本件化合物のような両性イオン化合物を光学分割する場合に,順相系のカラムを用いることは一般的ではないとも主張する。 しかし,まず,本件化合物がアミノ酸を初めとする両性イオン化合物の例外と考えられることは上記(イ)のとおりである。 また,甲2公報の実施例4には,「実施例2と同様の方法」で本件化合物を得たと記載され,その実施例2には,「希塩酸で中和した後,ク- 47 -ロロホルムで抽出した」と記載されていることから,本件化合物は,中性の水よりもクロロホルムに溶けやすいと理解でき,順相系カラムの移動相である有機溶媒に対する溶解度が低いということはできない。 したがって,本件化合物は,A教授の見解に当てはまるものではない。 ウ以上のとおり,被告らの主張はいずれも採用することができない。本件化合物をHPLC法により光学分割する際には,キラル固定相として,CHIRALCELODやCHIRALPAKADを採用することは,当業者が最初に検討することといえるとの審決の判断に誤りはない。 (4) 前記(1)ないし(3)で認定判断したところによれば,審決における「本願出願時の技術常識を考慮しても,本件特許発明1の医薬品組成物の有効成分を構成する『実質的に(R)体を含有しない,(S)体である』本件化合物は,当業者が容易に得ることができなかった」(審決書25頁末行~26頁2行)と 考慮しても,本件特許発明1の医薬品組成物の有効成分を構成する『実質的に(R)体を含有しない,(S)体である』本件化合物は,当業者が容易に得ることができなかった」(審決書25頁末行~26頁2行)との判断には誤りがある。そして,甲2公報に記載された本件化合物のラセミ体から,実質的に(R)体を含有しない,(S)体である本件化合物を得ることは,原告が提出した甲8,甲15及び甲41の各実験報告書を参酌すれば達成可能な事項であるところ,上記各実験報告書における実験は本件特許の優先日における技術常識に基づく実験ということができる。したがって,審決が認定した本件特許発明1と甲2発明との相違点である,本件化合物のベンゼンスルホン酸塩が「実質的には(R)体を含有しない,(S)体」であるのに対し,甲2発明では光学異性体についての特定がされていない点については,その構成という観点からは,当業者が容易に想到可能であったものということができる。 しかし,実質的には(R)体を含有しない,(S)体である本件化合物のベンゼンスルホン酸塩が,甲2公報に記載された本件化合物のベンゼンスルホン酸塩と比較して顕著な効果を有するのであれば,本件特許発明1の進歩- 48 -性を肯定することができるというべきであるから,次に,実質的には(R)体を含有しない,(S)体である本件化合物のベンゼンスルホン酸塩の有する効果について検討する。 (5) 本件特許発明の効果についてア本件明細書(甲1)には,ヒスタミンショック死抑制作用試験において(S)-エステルが(R)-エステルより約43倍強い活性を示したこと,homologousPCA反応抑制作用試験において(S)-エステルが(R)-エステルより約100倍以上強い作用を示したことが記載されている(【0030】~【0035】)と 倍強い活性を示したこと,homologousPCA反応抑制作用試験において(S)-エステルが(R)-エステルより約100倍以上強い作用を示したことが記載されている(【0030】~【0035】)ところ,本件明細書は,この本件化合物のエステルによる(S)体と(R)体の比較を根拠に,本件化合物の(S)体がより優れた光学活性体であり,生体内で活性本体として作用すると結論づけている(【0048】)。 そして,このことは,甲9の4の意見書に添付された実験成績証明書に,モルモットから摘出した回腸におけるヒスタミン誘発収縮に対する薬理試験(試験3)の結果,本件化合物の(S)体のベンゼンスルホン酸塩がそのラセミ体に対して約7倍の活性を示したことが記載されており,また,本件明細書に記載のヒスタミンショック死抑制作用試験と同様の試験(試験4)の結果,本件化合物の(S)体のベンゼンスルホン酸がラセミ体に対して約3倍の生存率を示したことが記載されていることからも裏付けられる。 そうすると,本件化合物の(S)体は,その(R)体と比較して,当業者が通常考えるラセミ体を構成する2種の光学異性体間の生物活性の差以上の高い活性を有するものということができる。 したがって,本件化合物の(S)体のベンゼンスルホン酸は,審決が認定した甲2発明であるラセミ体の本件化合物のベンゼンスルホン酸塩と比較して,当業者が予測することのできない顕著な薬理効果を有するものと- 49 -いえる。 イ原告の主張について(ア) 原告は,本件明細書に記載されているのは,(S)-((S)ブタン酸エチルのフマル酸塩)と(R)-エステル((R)-ブタン酸エチルのフマル酸塩)の薬理効果を比較したデータであり,エステル化されていない本件化合物の(S)体や(R)体はもちろん,ラセミ体との効果 ン酸エチルのフマル酸塩)と(R)-エステル((R)-ブタン酸エチルのフマル酸塩)の薬理効果を比較したデータであり,エステル化されていない本件化合物の(S)体や(R)体はもちろん,ラセミ体との効果上の違いは何ら理解できないと主張する。 しかし,本件明細書には,ヒスタミンショック死抑制作用試験及びhomologousPCA反応抑制作用試験で,(S)-エステルが(R)-エステルより優れた活性を有することが記載されていることは前記1(1)ア認定のとおりであり,また,その【0036】には,「(S)-エステルの代謝物である式(Ⅰ)の(S)-ピペリジン誘導体は,(S)-エステルと同等の薬理作用を示す」との記載があり,【0048】には,「(S)-ピペリジン誘導体(Ⅰ)のベンゼンスルホン酸塩及び安息香酸塩は,抗ヒスタミン活性及び抗アレルギー活性を有するより優れた光学活性体であり,生体内で活性本体として作用し,また物理化学的に優れた安定性を示すことから,医薬品として適した性質を有する」との記載がある(甲1)ことからすれば,本件明細書には,本件化合物の(S)体が(R)体と比較して優れた活性を有することが記載され,開示されているというべきである(なお,甲9の4に添付された実験成績証明書には,モルモットから摘出した回腸におけるヒスタミン誘発収縮に対する薬理試験(試験3)の結果,本件化合物の(S)体のベンゼンスルホン酸が,そのラセミ体に対して高い活性を示したことが記載されており,また,本件明細書に記載のヒスタミンショック死抑制作用試験と同様の試験(試験4)の結果,本件化合物の(S)体のベンゼンスルホン酸がラセミ体より高い生存率を示したことが記載されている。)。 - 50 -したがって,本件明細書には,本件化合物の(S)体が(R)体と比較して優れた活性 ,本件化合物の(S)体のベンゼンスルホン酸がラセミ体より高い生存率を示したことが記載されている。)。 - 50 -したがって,本件明細書には,本件化合物の(S)体が(R)体と比較して優れた活性を有することが開示されているものと認められ,原告の上記主張を採用することはできない。 (イ)原告は,ラセミ体ではそれを構成する2種の光学異性体のうち一方のみが所望の生物活性を有している場合が大変多い(甲71)ところ,(S)体が(R)体より効果があるといっても,それは光学異性体間でごく普通に認められることであるとも主張する。 しかし,甲9の4に添付された実験成績証明書に記載の薬理試験では,上記のとおり,本件化合物の(S)体のベンゼンスルホン酸塩がそのラセミ体に対して約7倍という高い活性を示したことが記載されているところ,この数値は,仮に2種の光学異性体のうち一方のみが生物活性を有し,他方が生物活性を有さないと仮定した場合の活性の差,すなわち,2倍の差を上回るものである。 したがって,本件化合物の(S)体は,その(R)体と比較して,当業者が通常考えるラセミ体を構成する2種の光学異性体間の生物活性の差以上の高い活性を有するものということができる。原告の上記主張を採用することはできない。 (ウ) 原告は,本件化合物の(R)体が全く薬効を示さないことは国立医薬品食品衛生研究所長の審査報告書(甲22)で明らかにされており,同報告書には,(R)体は一般症状及び循環器系にも影響を与えないことが記載されているので,ラセミ体と比較しても本件化合物の(S)体は2倍程度の効果しか示さないこととなり,本件発明に進歩性を基礎づけるような顕著な効果は認められない旨を主張する。 しかし,上記報告書(甲22)には,「光学異性体であるR体は薬効を示さなかった。」と 2倍程度の効果しか示さないこととなり,本件発明に進歩性を基礎づけるような顕著な効果は認められない旨を主張する。 しかし,上記報告書(甲22)には,「光学異性体であるR体は薬効を示さなかった。」と記載されているにすぎず,この記載が,いかなる薬理試験において,どの程度の用量を使用した結果に基づくものである- 51 -かは不明である。 したがって,このような記載を根拠に本件特許発明の効果を否定することはできない。 ウ以上のとおり,原告の主張はいずれも採用することができない。本件特許発明1は,審決が認定した甲2発明と比較して,当業者が予測することのできない顕著な薬理効果を有するものである。 (6) 小括以上によれば,本件特許発明1の進歩性に係る審決の判断は,本件化合物をHPLC法により光学分割する際にキラル固定相としてCHIRALCELODやCHIRALPAKADを採用することは当業者が最初に検討するとした点に誤りはないものの(前記(3)),本件化合物の光学分割を行う際に当業者がジアステレオマー法をまず最初に検討するとした点及び本件化合物の光学分割に当たりヘキサン/イソプロパノール/トリフルオロ酢酸(0.1%)を含む移動相を選択することは当業者が容易に想到できるとはいえないと判断した点に誤りがあり(前記(1),(2)),したがって,実質的に(R)体を含有しない,(S)体である本件化合物は,本願出願時の技術常識を考慮しても,当業者が容易に得ることができなかったものであるとしたことは誤りであるけれども(前記(4)),本件特許発明1の実質的に(R)体を含有しない,(S)体である本件化合物は,審決が認定した甲2発明における本件化合物と比較して当業者が予測することのできない顕著な薬理効果を有するものであると認定判断した点に誤りはなく 的に(R)体を含有しない,(S)体である本件化合物は,審決が認定した甲2発明における本件化合物と比較して当業者が予測することのできない顕著な薬理効果を有するものであると認定判断した点に誤りはなく(前記(5)),結局のところ,本件特許発明は甲2発明に対して進歩性を有するものとした審決の判断は,結論において誤りはない。 よって,原告主張の取消事由2は理由がない。 3 まとめ- 52 -以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,審決に取り消すべき違法はない。 第6 結論よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官設樂 一 裁判官西理香 裁判官田中正哉
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