主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告が,平成10年8月11日に発生したaを被相続人とする相続に係る相続税について,平成13年7月4日付けでした, 1 原告bに対する更正のうち課税価格8655万円及び納付すべき税額1093万3100円を超える部分,並びに過少申告加算税賦課決定 2 原告cに対する更正のうち課税価格4586万9000円及び納付すべき税額513万4700円を超える部分,並びに過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。 第2 事案の概要本件は,平成10年8月11日に死亡したaを被相続人とする相続(以下「本件相続」という。)について,原告らを含む相続人が,相続財産中の企業組合に対する出資持分を,払込済出資金額により評価して相続税の申告をしたところ,被告が,上記持分を当該組合の純資産価額に基づいて評価した上,平成13年7月4日付けで,更正及び過少申告加算税賦課決定をしたため,原告らがこれらの処分の取消しを求めた事案である。 1 前提となる事実(1) 原告らの身分関係(本件記録中の戸籍謄本)ア原告bは,昭和30年4月9日,a及びその妻dとの間に出生した。 イ原告cは,平成元年7月8日,原告b及びその妻との間に出生し,平成10年8月5日,同夫婦が代諾して祖父母に当たるa及びdとの間の養子縁組届を了した。 (2) 本件相続の発生と相続財産aは,平成10年8月11日に死亡し,d及び原告らが相続したが,その相続財産中には,中小企業等協同組合法に基づき設立されたe組合(甲3。以下「本件組合」という。)に対する出資持分(以下「本件持分」という。)が含まれていた。 (3) 本件組合の定款本件組合の定款(甲4。以下「本件定款」という。)には,「組合員が されたe組合(甲3。以下「本件組合」という。)に対する出資持分(以下「本件持分」という。)が含まれていた。 (3) 本件組合の定款本件組合の定款(甲4。以下「本件定款」という。)には,「組合員が脱退したときは,組合員の本組合に対する出資額(本組合の財産が出資の総額より減少したときは,当該出資額から,当該減少額を各組合員の出資額に応じて減額した額)を限度として持分を払いもどすものとする。ただし,除名による場合は,その半額とする。」との規定があり(13条),出資1口の金額は,50円とされている(15条)。 (4) 本件組合の財務内容本件相続開始時点(平成10年8月11日)における本件組合の財務内容は,別表記載1のとおりであった(以下,当該部分を「本件貸借対照表」という。)。 (5) 課税の経緯等本件相続に係る相続税について,d及び原告らは,本件持分の評価額を払込済出資金額に基づいて評価した上,平成11年6月2日に申告し(以下「本件当初申告」という。),次いで平成13年6月27日に修正申告をした(甲1。以下「本件申告」という。)ところ,被告は,原告らに対し,平成13年7月3日付けで,本件当初申告と本件申告の差額に係る過少申告加算税の賦課決定をするとともに,同月4日付けで,後記の被告主張のとおり,本件持分の評価が誤っていることを理由として,更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税の賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)をした(甲2。以下,本件更正と本件賦課決定とを併せて「本件各処分」という。)。 なお,dについては,被相続人の配偶者に対する相続税額の軽減措置を定めた相続税法(以下「法」という。)19条の2等が適用される結果,被告主張の本件持分評価額に基づいて計算しても納付すべき税額は存在しない。 (6) 不服申立てと訴え提 者に対する相続税額の軽減措置を定めた相続税法(以下「法」という。)19条の2等が適用される結果,被告主張の本件持分評価額に基づいて計算しても納付すべき税額は存在しない。 (6) 不服申立てと訴え提起の経緯原告らは,本件各処分を不服として,平成13年9月3日,被告に異議申立てをしたが,同年11月21日付け名古屋東資1-013をもって,棄却された(甲5)ため,さらにこれを不服として,同年12月19日,国税不服審判所長に審査請求をしたところ,平成14年12月16日付け名裁(諸)平14第22号をもって,これも棄却された(甲6)。 そこで,原告らは,平成15年3月14日,本件訴えを提起した。 2 本件における争点と当事者の主張本件の争点は,本件持分の評価額であり,具体的には,その評価方法を巡って主張が対立している。 (被告の主張)(1) 「時価」の意義法22条は,財産評価につきいわゆる時価主義を採用しているところ,「時価」とは,課税時期において,それぞれの財産の現況に応じ,不特定多数の当事者間における自由な取引が行われる場合に通常成立する価額をいうものとされ,評価に当たっては,その財産価額に影響を及ぼすべきすべての事情が考慮される。しかし,本件持分のように不特定当事者間における自由な取引が行われることの可能性の少ない財産についてまで,換金した際の価額によるべき理由は必ずしもなく,その性質に従った合理的な評価方法をもってその時価を算出すれば足りると解すべきである。 (2) 評価通達の意義相続税又は贈与税の課税対象となる財産は多種多様であり,これらの時価を的確に把握することは必ずしも容易なことではないが,納税者間で財産の評価が区々になることは,公平の観点から見て好ましくない。そこで,国税庁では,内部的な取扱いを統一するとともに,納税者 れらの時価を的確に把握することは必ずしも容易なことではないが,納税者間で財産の評価が区々になることは,公平の観点から見て好ましくない。そこで,国税庁では,内部的な取扱いを統一するとともに,納税者の申告の便宜に供するため,各財産の評価方法に共通する原則や各種の財産の評価単位ごとの評価の方法を具体的に定めた財産評価基本通達(以下「評価通達」という。)に従って現実の評価事務を行っている。そして,これによることが不合理な場合には,他の合理的な方法によって評価を行うことができるとされている(同通達6)ものの,納税者間の実質的な負担の公平の観点から,同通達に定める方法以外の方法によって評価を行うことは安易に許されるべきではない。 (3) 評価通達の合理性評価通達においては,組合等への出資の評価については,組合の行う事業が組合員及び会員のために最大の奉仕をすることを目的とし,営利を目的として事業を行わない組合(農業協同組合,漁業協同組合,消費生活協同組合)等と,組合自体が1個の企業体として営利事業を行うことができる組合(企業組合,漁業生産組合,協業組合)等とを区別し,前者を払込済出資金額により(評価通達195),後者を純資産価額に着目して評価する(同196。以下,この方式を「純資産価額方式」という。)こととしているところ,この区別は,その組合の設立の基となった法令によって払込済出資金額しか返還されないことが担保されているか否かによる。 ところで,中小企業等協同組合法の適用を受ける企業組合においては,「……定款の定めるところにより,その持分の全部又は一部の払戻を請求することができる。」(同法20条1項)とされているにすぎず,持分の返還が払込済出資金額を限度とすることが法令で担保されていない上,総会の特別の議決により定款の変更や解散を行うことがで の払戻を請求することができる。」(同法20条1項)とされているにすぎず,持分の返還が払込済出資金額を限度とすることが法令で担保されていない上,総会の特別の議決により定款の変更や解散を行うことができ(同法53条1,2号,62条1項1号),残余財産も出資持分に応じて分配され得る(同法69条による商法131条の準用)ことに照らすと,組合に対する出資持分の換価の方法は,独り脱退による払戻しに限られるものではないから,評価通達196を適用して出資持分を純資産価額方式によって評価することは十分に合理的であり,同通達による方法で評価することにより,租税平等主義の実現が図られるというべきである。 (4) 本件持分の評価額本件組合は,中小企業等協同組合法に基づいて設立された企業組合であるから,その出資持分の評価は,前記のとおり,評価通達196を適用し,純資産価額方式に準じて行われるべきである。なお,本件定款13条は,出資持分の払戻しについて,「組合員の本組合に対する出資額(略)を限度として持分を払いもどす」旨定めているが,この規定による組合員脱退の際の払戻金の制限により,本件組合の企業組合としての性質が変化するわけではなく,同通達195の適用を受ける組合に該当するようになるものではないことは明らかである。 しかるところ,平成10年決算期における本件組合の財務内容は,本件貸借対照表中の帳簿価額欄のとおりであり,その資産のうち土地,建物及び電話加入権を評価通達に定める評価方法で評価し直すと同表中の相続税評価額欄のとおりとなるから,本件相続に係る相続税の課税時期(平成10年8月11日)における本件持分の価額は,別表記載2及び3のとおり1口当たり1223円と評価すべきである。 原告bは,本件相続によって本件持分1万2000口を取得したから,その価額は 期(平成10年8月11日)における本件持分の価額は,別表記載2及び3のとおり1口当たり1223円と評価すべきである。 原告bは,本件相続によって本件持分1万2000口を取得したから,その価額は1467万6000円となり,本件申告に際し1口当たり50円として計算された額(60万円)を差し引けば,同原告に対する課税価格は1407万6000円の増額となって,納付すべき税額は本件申告より268万0900円多い1361万4000円となり,これに基づけば過少申告加算税として26万8000円を賦課決定すべきである。 また,原告cに対する課税価格4586万9000円は変わらないものの,相続税の総額が増加するため,納付すべき税額は本件申告より41万1000円多い554万5700円となり,これに基づけば過少申告加算税として4万1000円を賦課決定すべきである。 よって,これらと同額又はその範囲内である本件各処分は適法である。 (原告らの主張)(1) 「時価」の意義法22条にいう「時価」とは,課税時期において,それぞれの財産の現況に応じ,不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる(取引に制約条件のない)場合に通常成立すると認められる価額(客観的な交換価値を示す価額)をいう。貨幣経済下にあっては,交換価値とは購買力のある金銭(流通貨幣)との換価額を示すことはもちろんであり,金銭換価を欲した時にはいつでも,不特定多数を相手にした自由な取引,合理的方法によって,社会通念上相当な期間のうちにそれが実現できるものでなければならず,究極的には資産の換価可能性に収れんされるべきものである。 この点につき,被告は,本件持分のように不特定当事者間における自由な取引が行われることの可能性の少ない財産についてまで,換金した際の価額によるべき理由は必ずしもなく,その性質に従 きものである。 この点につき,被告は,本件持分のように不特定当事者間における自由な取引が行われることの可能性の少ない財産についてまで,換金した際の価額によるべき理由は必ずしもなく,その性質に従った合理的な評価方法をもってその時価を算出すれば足りると主張するところ,なるほど,本件持分について不特定多数当事者間において自由な取引が行われることが少ないのは事実であるが,この場合でも,上記の時価の概念を前提にして,できるだけこれに近接した手法でどのように具体化するかという観点から,「合理的方法」が判断されなければならず,不特定多数当事者間の自由な取引が少ないからといって,時価判断に際して,「換金」の概念から自由になるものではない。 (2) 評価通達の射程国税庁長官は,租税法規の統一的執行を確保するため,評価通達を定めているが,それ自体は法令ではなく下級行政庁に対する命令ないし指令にすぎないから,その内容は法令に抵触するものであってはならない。そして,個別の財産の評価は,法22条に基づいて行われるべきであり,その資産の特性からみて評価通達の方法によることが不合理な場合には,それと異なる他の合理的な方法によって評価を行うべきことはもちろんであるから,「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は,国税庁長官の指示を受けて評価する。」と定める同通達6は,当然の法理を確認したものである。したがって,これに該当する場合以外は評価通達に定める方法以外の方法によって評価することができないとするのは,事実上,評価通達に法規範性を認める結果となり,許されるものではない。 (3) 評価通達の不合理性本件組合をはじめとする企業組合の事業は,組合自身の利益の追求ではなく,組合員の相互扶助により有利な共同事業を行い,これを各組合員 める結果となり,許されるものではない。 (3) 評価通達の不合理性本件組合をはじめとする企業組合の事業は,組合自身の利益の追求ではなく,組合員の相互扶助により有利な共同事業を行い,これを各組合員が利用して各組合員の利益に結びつけるという意味において,会社自身が利益を上げて株主に利益を配当することを目的とする会社とは異なっており,中小企業等協同組合法(5条1項3号,10条3項,14条)上も,資産処分,解散・清算等を一部の者によって支配することは不可能であり,本来的な法制度として,不特定多数性,継続性が明確である。したがって,組合員にとって,その出資持分を現実化する手段は,究極的にも,組合から脱退して出資持分の払戻しを受けるほかはない。被告主張に係る解散による財産分配は,現実的にほとんどあり得ず,法律も予定していない机上の空論による換価方法である。 そして,企業組合に対する出資持分の評価を純資産価額方式によることとしている評価通達196は,不動産等の資産を所有せず,主たる資産が営業設備等に限定されている大半の企業組合については,純資産価額方式によって時価算定した持分価額が出資額と変わらないか,むしろ下回ることが多いので,この限りで時価算定の方式として有効性が認められる。しかしながら,土地建物を主要な資産とする企業組合にあっては,組合資産を前提として持分を払い戻そうとすれば,その資金調達のため企業活動の中枢となるべき不動産の売却を余儀なくされ,事業の継続に困難を来すから,出資持分は定款の規定にかかわらず払込済出資金額を限度としてしか返還されないのであって(大阪地方裁判所平成8年3月27日判決・判タ916号216頁参照),出資金は,投資というより加入保証金として機能しているものであり,この場合,評価通達196による評価額は時価と一致せ いのであって(大阪地方裁判所平成8年3月27日判決・判タ916号216頁参照),出資金は,投資というより加入保証金として機能しているものであり,この場合,評価通達196による評価額は時価と一致せず,その有効性が認められないから,まさに資産の特性からみて評価通達196の方法によることが不合理な場合に該当する。 しかるところ,本件組合は,昭和25年6月に設立され,自動車・オートバイ・自転車の販売・整備等を事業内容としているが,名古屋市千種区千種通六丁目○○番の○に宅地(304.13平方メートル)と共同住宅を所有し,ここに組合事務局を置くほか,賃貸して賃料収入を得,運営資金に供しているところ,これらの価額は,別表記載1のとおり,組合資産総額6億4216万7000円のうち1億1716万1000円を占めている。そして,本件組合の清算資産は,事実上,これらの不動産に限られ,組合員から純資産価額方式による持分払戻請求がなされた場合は,これらを売却せざるを得ないが,このような事態になれば,本件組合の解散を余儀なくされることが明らかであるから,評価通達196の定める純資産価額方式によることは許されないというべきである。 (4) 本件持分の時価本件組合が,設立以来,財務内容にかかわらず,脱退組合員に対し,払込済出資金額である出資持分1口当たり50円を払い戻してきたのは,その旨を定めた本件定款13条の規定によるというよりも,企業組合の存続を維持するための法理的必然によるのであり,本件持分の価額は,1口当たり50円以外の金額はあり得ないから,これが本件持分の客観的な交換価値を示す,不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額として,法22条に規定する「時価」に相当する。 よって,本件更正のうち本件申告に係る額を超える 客観的な交換価値を示す,不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額として,法22条に規定する「時価」に相当する。 よって,本件更正のうち本件申告に係る額を超える部分及び本件賦課決定の取消しを求める。 第3 当裁判所の判断 1 「時価」の意義と評価通達の効力について相続税は,相続又は遺贈(死因贈与を含む。以下同じ。)により財産を取得した個人で,当該財産を取得した時において相続税法の施行地に住所を有する者については,その者が相続又は遺贈に因り取得した財産の全部に対して課される(法2条1項,1条1号)が,その課税価格は,当該相続又は遺贈により取得した財産の価額の合計額とされている(法11条の2第1項)。そして,「……相続,遺贈……に因り取得した財産の価額は,当該財産の取得の時(すなわち,相続については相続開始時点)における時価によ」る(法22条)ところ,ここにいう「時価」とは,上記課税時期において,それぞれの財産の現況に応じて,正常な条件の下に成立する客観的な交換価値をいうと解される(最高裁判所平成15年6月26日第一小法廷判決・裁判所時報1342号191頁参照)から,これが,不特定多数の者の間で自由な取引が行われる性質の資産である場合には,その間において通常成立する価額をいうべきことは当然である(「財産の価額は,時価によるものとし,時価とは,課税時期(中略)において,それぞれの財産の現況に応じ,不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい,(後略)」とする評価通達1(2)も同旨である。)が,不特定多数者の間で取引が行われることが必ずしも確保できない性質の資産についても,できる限り合理的な手法によって,その客観的な交換価値を探求した上で時価を評価すべきである。 )も同旨である。)が,不特定多数者の間で取引が行われることが必ずしも確保できない性質の資産についても,できる限り合理的な手法によって,その客観的な交換価値を探求した上で時価を評価すべきである。 しかるところ,国税庁長官発出の評価通達は,法形式上は行政庁内部における行政規則(行政命令)にとどまるものの,租税公平主義との関係でいえば,納税者に対して申告内容を確定する指針を与えるとともに,各課税庁における課税事務を統一するという積極的な意義を有することは否定し難いから,上記の観点から見て「時価」の評価として合理的な内容のものである限り,これに基づき評価した結果を「時価」と判断して差し支えないと解すべきであり,その限りで国民に対し事実上の法規範として機能する場合もあるが,他方,これに基づく評価が客観的な交換価値を上回れば,その評価は法22条の規定に反して違法となることも当然である(前掲最高裁判所第一小法廷判決参照)。 2 評価通達196適用の合理性についてそこで,この見地から,本件持分の評価に際し評価通達196を適用すべきか否かについて判断する。 (1) 企業組合と株式会社との類似評価通達196は,「企業組合,漁業生産組合その他これに類似する組合等に対する出資の価額は,課税時期における組合等の実情によりこれらの組合等の185《純資産価額》の定めを準用して計算した純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)を基とし,出資の持分に応ずる価額によって評価する。」と定める(乙1)ところ,同185は,「179《取引相場のない株式の評価の原則》の『1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)』は,課税時期における各資産をこの通達に定めるところにより評価した価額(中略)の合計額から課税時期における各負債の金額の合計額及び186-2《評 たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)』は,課税時期における各資産をこの通達に定めるところにより評価した価額(中略)の合計額から課税時期における各負債の金額の合計額及び186-2《評価差額に対する法人税額等に相当する金額》により計算した評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控除した金額を課税時期における発行済株式数で除して計算した金額とする。(以下略)」としている。 すなわち,評価通達上,企業組合,漁業生産組合その他これに類似する組合等に対する出資の価額は,課税時期における資産価額の合計額から負債額の合計額(いわゆる含み益に対する法人税等相当金額を含む。)を控除した金額(純資産価額)を,出資の持分割合に応じて按分して計算した金額とする純資産価額方式によって評価するとされており,これは,取引相場のない小規模株式会社の株式の評価における原則的方法並びに同じく大規模株式会社の株式及び中規模株式会社の株式の評価における補充的方法と同様である(評価通達179(1)ただし書,(2)ただし書,(3)本文)。 ところで,企業組合においては,商業,工業,鉱業,運送業,サービス業その他の事業を行うものとされ(中小企業等協同組合法9条の10),漁業生産組合においては,漁業及びこれに附帯する事業を行うことができるものとされていて(水産業協同組合法78条),いずれも産業一般を行うことが予定されている種類の組合であるから,企業体としての経済的実態からすると,会社とほとんど変わるところがないと考えられる。そうである以上,取引相場のない小規模株式会社の株式の評価方法として,広く社会一般に合理的なものとして受け入れられている純資産価額方式を,これらの産業一般を事業内容とする組合についても採用することは公平にかなうと考えられるし,逆に会社の株式の場合 の評価方法として,広く社会一般に合理的なものとして受け入れられている純資産価額方式を,これらの産業一般を事業内容とする組合についても採用することは公平にかなうと考えられるし,逆に会社の株式の場合と異なる扱いを認めるならば,企業形態に係る法形式の選択いかんによる脱法的節税を許容する結果を招き,租税負担の不公平感を醸成することにもなりかねないので,評価通達196は,それ自体合理的な内容のものであると判断できる。 この点につき,原告らは,企業組合に対する出資金は,投資というより加入保証金として機能しているにとどまる旨主張するが,一般に出資に対して剰余金の配当が予定されている(中小企業等協同組合法59条3項)以上,株式との間で経済的実質に大差はないというべきであり,採用することができない。 (2) 企業組合と消費生活協同組合との相違また,企業組合においては,組合員が脱退した場合,「定款の定めるところにより」その持分の全部又は一部の払戻しを請求することができ,その持分は,「脱退した事業年度の終における組合財産によって定める」とされていて(中小企業等協同組合法20条1,2項),例えば消費生活協同組合の組合員が脱退した場合に,その払戻額が「定款の定めるところにより,その払込済出資額の全部又は一部」と限定されている(消費生活協同組合法21条)のと異なっている。したがって,企業組合においては,定款の定め方によっては,企業組合の純資産価額を基礎とした払戻しを受けることが可能である。 もっとも,本件定款は,組合脱退時の持分払戻額は出資額である1口当たり50円を限度とすると定めている(13条,15条)。このように,脱退の際の払戻額が出資額を限度とする旨定められている場合に,なお持分の評価を純資産価額方式によるべきかは問題であるが,定款は,総会の特別の 円を限度とすると定めている(13条,15条)。このように,脱退の際の払戻額が出資額を限度とする旨定められている場合に,なお持分の評価を純資産価額方式によるべきかは問題であるが,定款は,総会の特別の議決によりいつでも変更することができる(中小企業等協同組合法53条1号)し,純資産価額を基礎とした額が出資額を上回っていれば,その差額は当該企業組合の内部に留保された状態になり,最終的に解散して清算することになれば,それらを含めた残余財産が分配されることになる(中小企業等協同組合法69条,商法131条)から,企業組合の持分は,究極的には当該組合の純資産価額を体現していると考えられ,本件定款19条1項が,組合員の持分を,「……本組合の正味財産につきその出資口数に応じて算定する。」と定めている(19条1項)ことをも考慮すると,本件持分を譲渡する場合(当該組合の承諾は得なければならないものの,他の組合員に対しては本件持分を譲り渡すことができることにつき,中小企業等協同組合法17条1項・2項,10条3項1号参照)の対価も,このような事情を反映して決定されるものと推測することができる。したがって,このような観点からも,評価通達196の合理性を肯認することができる。 (3) 企業組合と農業協同組合,漁業協同組合との相違なお,被告は,脱退の場合の持分払戻額がその設立の基となった法令によって払込済出資額に限られることが担保されているか否かによって評価通達196の適用不適用を区別すべきであり,農業協同組合や漁業協同組合は,消費生活協同組合と同様,払込済出資額をもって評価すべき旨主張するところ,農業協同組合や漁業協同組合においては,その脱退時における持分払戻額が払込済出資額を限度とする旨定められておらず(農業協同組合法23条,水産業協同組合法28条),その点 て評価すべき旨主張するところ,農業協同組合や漁業協同組合においては,その脱退時における持分払戻額が払込済出資額を限度とする旨定められておらず(農業協同組合法23条,水産業協同組合法28条),その点では企業組合と同様であるから,被告の上記主張は,それ自体矛盾した内容を含むことは否定できない。 しかしながら,企業組合が総会の決議によって自由に解散でき,これを行政庁に届け出ればよい(中小企業等協同組合法62条1項1号,2項)のと異なり,農業協同組合や漁業協同組合においては,総会の議決(決議)によって任意に解散しようとしても,行政庁の認可を必要とし(農業協同組合法64条2項,水産業協同組合法68条2項。なお,消費生活協同組合法62条2項も同旨である。),解散の方法による持分の換価に法令上の規制を受けており,このことに加えて(1)で判断した企業組合や漁業生産組合における企業体としての経済的実態などをも考慮すれば,評価通達196の適用対象に関する被告の主張は,こと企業組合との関係において,結論として是認し得ないものではない。 (4) 原告らの主張についてこれに対し,原告らは,①企業組合の事業は,継続性,構成員の不特定多数性が明確であって,解散による財産分配は現実にほとんどあり得ない,②本件組合のように,不動産を主要な資産としている企業組合においては,純資産価額方式による払戻しを行おうとすれば,当該不動産を売却し,組合を解散することを余儀なくされるなどと主張して,評価通達196の適用は違法である旨主張する。 しかしながら,解散による財産分配が頻繁に行われるものではないとしても,前記のとおり,持分譲渡の対価が解散時の残余財産分配請求権と無関係に決定されるとは考え難い(通常,譲渡の方法による持分の換価を選択するのは,この価額が定款によって定められ れるものではないとしても,前記のとおり,持分譲渡の対価が解散時の残余財産分配請求権と無関係に決定されるとは考え難い(通常,譲渡の方法による持分の換価を選択するのは,この価額が定款によって定められた脱退の際の持分払戻額を上回るからと考えられる。)から,①をもって前記判断を覆すことはできず,②についても,問題となった企業組合の具体的資産構成によって,持分の評価方法を変えることは,大量,反復して行われる税務行政の客観性,公平性を害するといわざるを得ず,採用することはできない。 (5) まとめ以上によれば,企業組合である本件組合に対して,評価通達196を適用することは合理的であり,法22条に反する違法はないと認められる。 3 結論前記認定・判断によれば,本件持分は,評価通達196に従って評価すべきところ,これを本件組合の平成10年決算期における帳簿上の土地,建物及び電話加入権の価額につき評価通達に定める評価方法で評価し直した本件貸借対照表中の相続税評価額欄記載の財務内容(争いがない。)に基づいて評価して計算すると,別表記載2及び3のとおり,本件持分1口当たりの純資産価額は1223円となる。そうすると,本件更正は,原告らが納付すべき税額の範囲内にあるから適法であり,かつ過少申告を行ったことについて国税通則法65条4項所定の正当な理由も見当たらないことから,本件賦課決定も適法というべきである。 よって,本件各処分の取消しを求める原告らの本訴請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法65条1項本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第9部裁判長裁判官加藤幸雄裁判官舟橋恭子 5条1項本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第9部裁判長裁判官加藤幸雄裁判官舟橋恭子裁判官平山馨(別表添付省略)
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