昭和47(う)240 所得税法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
昭和48年9月12日 東京高等裁判所
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【DRY-RUN】主    文      本件控訴を棄却する。          理    由  本件控訴の趣意は、被告人および弁護人山本稜威雄各作成名義の各控訴趣意書記 載のとおりであるから、これを引用し、これに対し

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判決文本文7,948 文字)

主文 本件控訴を棄却する。 理由 本件控訴の趣意は、被告人および弁護人山本稜威雄各作成名義の各控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用し、これに対して、当裁判所は、記録を調査し当審における事実取調の結果に基づき、つぎのとおり判断する。 一、 被告人の控訴趣意および弁護人の控訴趣意第一の一、二(商品取引清算益は課税所得か。事業所得か。)について(一)、 商品取引所において一定の商品について先物取引をすること、すなわち商品先物取引は、一般顧客の場合、買つた商品の値上りを待つて売るか、売つた商品の値下りを待つて買うか、そのいずれかによつて差額の利得を目的として行われるものではあるが、商品の価格は期限内に「上る」か「下る」か「横ばい」のいずれかであり、もし商品の価格が上れば買い建てしていたときには利益となるが、売り建てしていたときには損になる。商品の価格が下つた場合にはその逆になる。 横ばいであつたならば手教料だけ損となる。要するに、一般顧客の商品先物取引は、損をするか利益となるかのどちらかであつて、相場取引である以上当然のこととはいえ、確実な成算のある取引ではない。 したがつて、その差金決済によつて生じた利益(以下商品取引清算益という)は偶発的性質を持つているものであるといわなければならない。継続して相場を張つた場合に必しも毎年継続して商品取引清算益が生ずるとは限らないこと各所論の指摘するとおりである。 しかし、そうであるからといつて、一般顧客の先物取引による商品取引清算益が課税所得を構成しないものであるというわけにはいかない。 考えてみるに、所得税法は、課税物件たる「所得」を正面から定義した規定をおいていないので、「所得」とはなんであるかはもつぱら同法の他の規定の解釈から理解しなければ のであるというわけにはいかない。 考えてみるに、所得税法は、課税物件たる「所得」を正面から定義した規定をおいていないので、「所得」とはなんであるかはもつぱら同法の他の規定の解釈から理解しなければならないところ、所得は発生原因やその種類によつて担税力に相違のあることから、所得税法はその二三条ないし三五条において、所得を発生原因から考察して、利子所得・配当所得・不動産所得・事業所得・給与所得・退職所得・山林所得のほか、さらに譲渡所得、これらの八種類の所得以外の所得のうち営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務または資産譲渡の対価としての性質を有しないものを指称する一時所得、および以上のいずれにも該当しない所得を包括して指称する雑所得の十種類に区分して、これらを課税物件たる各種所得としてその金額の計算方法につき規定している(一般的には、その年中における各種所得の収入金額から必要経費を控除した残額とする)。 他方、その九条、一〇条、一一条では担税力が薄弱であるとか、徴収技術上あるいは公益または政策上の理由から、二十数項目にわたる多数の非課税所得を列挙し、そのほか租税特別措置法やその他の法令にも、特定の利子や給付金などを課税除外所得とする規定をもうけている。 <要旨>右のように現行税法は、所得を一定期間における各人の勤労や資産等より生ずる継続的な収入からこれ</要旨>を得るに必要な経費を控除した残額というような所得源泉の限定はしておらず、広く資産の譲渡により実現された経済的利益、賞金や競輪競馬等の投票券の払い戻し金等の一時的、偶発的な経済的利益、その他いやしくも収支計算上各人に帰属した経済的利益は、すべて所得に包含されるとして、これを課税の対象にとらえようとしていること、そして多数の非課税所得を所得税法その の一時的、偶発的な経済的利益、その他いやしくも収支計算上各人に帰属した経済的利益は、すべて所得に包含されるとして、これを課税の対象にとらえようとしていること、そして多数の非課税所得を所得税法その他の法律の規定上に挙示していることをあわせ考えると、現行税法は納税義務者各人に発生帰属した経済的利益のすべてを所得といい、所得税法やその他の法令上において明らかに非課税とする趣旨が規定されていない以上、その所得の生じた原因または法律関係のいかんを問わず、それは課税の対象たる所得を構成するとしているものと解される(財政法八条参照)。 ところで、一般顧客の商品先物取引は実物取引ではなく、これによつて生じた商品取引清算益が僥倖的な性質を有するものであるとはいえ、それは顧客の収得した金銭的利益であることに相違ないところであるし、これを非課税とする規定はないのであるから、一般顧客の場合であつても、この商品取引清算益が所得税法上の課税所得に当ることは明らかである。 各所論は、商品先物取引は利益の確率のないもので、一時的には利益を挙げても、二、三年取引を継続すれば結果的には赤字となるものであるから、その利益は実質的には仮受金的性質のものであつて、一暦年間の所得をとらえて課税する所得税法上の所得にはなじまないものであり、商品取引清算益に右法律を適用して課税することは租税負担の公平の原則に反するばかりでなく、実質的には所得なきところに課税することになり、所得税制の根本原理にももとるという。しかし商品の先物取引が確実な成算のない取引であるといつても相場変動の見込みが的中すれば利益となるわけで、長期間これを継続して行なつた場合に必ず損失をまねくとも限らない。 したがつてまた商品取引清算益を仮受金的性質のものとみることはできないのであつて、各所論のこの点に関する すれば利益となるわけで、長期間これを継続して行なつた場合に必ず損失をまねくとも限らない。 したがつてまた商品取引清算益を仮受金的性質のものとみることはできないのであつて、各所論のこの点に関する主張は全く独自の見解で採用できない。この商品取引清算益を一暦年ごとに区切つて課税所得としてほそくすることはなんら租税負担の公平の原則に反しないし、所得のないところに課税することにもならない。 各所論は、また有価証券の譲渡による所得が原則として非課税とされていることに微しても、株式の信用取引とその取引態様を同じくしている商品先物取引による商品取引清算益については、これを非課税とするのが当然であるというけれども、有価証券の譲渡による所得を原則として非課税としたのは、国民大衆に対する有価証券市場への投資を奨励する政策上の理由からであると解されるので、右の主張も論拠のないものといわなければならない。 (二)、 そこで問題は、この商品先物取引によつて生じた商品取引清算益がいかなる所得に当るかである。 所得税法二七条一項によると、事業所得とは農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得をいうとされており、同法施行令は六三条一号ないし一一号で林業、建築業、金融業、不動産業、運輸通信業、医療保健業等多数の事業を掲げ、同条一二号においてさらに「前各号に掲げるもののほか、対価を得て継続的に行なう事業」と定めている。 ところで、この対価を得て継続的に行なう事業という場合の「事業」とは、社会通念に照らし、事業と認められるもの、すなわち個人の危険と計算において独立的に継続して営まれる仕事をいい、所得税法の所得課税の目的から、原則として対価を得ること、すなわち営利性、有償性のあるものを総称すると解するのが相当である。 すなわち個人の危険と計算において独立的に継続して営まれる仕事をいい、所得税法の所得課税の目的から、原則として対価を得ること、すなわち営利性、有償性のあるものを総称すると解するのが相当である。 そして当業者ではなく、一般顧客の差金決済による利得を目的として行なわれる商品先物取引が右の対価を得て継続的に行なう事業に当るかどうかは、当該取引の回数、数量、金額、過去の取引の状況、取引のための施設その他の状況に照らして決すべきものと考える。 そこで本件における被告人の商品先物取引の実態についてみるに、原審において適法に取り調べた関係証拠によれば、つぎのような事実が認められる。被告人は昭和二六年ころ商品(繊維)取引の仲買人A商店に入り、同店のB出張所責任者として二、三年勤務し、そのころ同商店がC株式会社になると同時に被告人も同会社D出張所長となり、昭和三九年一月同社を退職するまで右出張所長として商品取引の受託等の業務に従事したものであるが、退職後の同四一年一月以降は、仕事の大部分を生糸等商品の清算取引(差金決済取引)に充て、その収入によつて生活費を賄い資産の増加をはかつてきたものであり、そのための事務所ないし事業所を自宅以外に設けるようなことはしなかつたが、日常自宅において、午前八時ころから九時ころまでにまず業界紙や新聞などを通覧して当日の相場を見込み、午前九時ころから午後四時ころまで終始仲買店と電話で連絡をとりつつ取引の注文をなし、夕刻から夜半にかけては資料の収集とケイ線の作成に当つていた。 かくして、被告人は昭和四〇年と四一年にも相当の商品取引清算益収入を挙げたが、本件の同四二年一月一日より同年一二月三一日までの一年間には、さらに差金決済益を得る目的で本名およびE、F、Gという架空名義にてC株式会社(D出張所)、H商事株式会社(I出張所 算益収入を挙げたが、本件の同四二年一月一日より同年一二月三一日までの一年間には、さらに差金決済益を得る目的で本名およびE、F、Gという架空名義にてC株式会社(D出張所)、H商事株式会社(I出張所)、J株式会社(K支店)に委託して横浜生糸、神戸生糸、名古屋毛糸、大阪三品(綿糸)の先物取引を行い、年間少なくとも二百数十回に亘り、九百数十枚の「売り」注文と三百数十回に亘り六百数十枚の「買い」注文をし、総取引金額は売り八億五、七〇〇余万円、買い八億一、〇〇〇余万円手仕舞いした枚数は九八四枚に達し、四、四七六万九、二〇〇円の商品取引清算益収入を挙げたのである。 以上の事実を総合考察すると、本件の商品先物取引は、被告人の危険と計算のもとに独立的に継続して行なわれた生糸等商品の売買であつて、かつ大量に反覆継続した営利行為で、社会通念上対価を得て継続的に行なう事業と認められるものである。 したがつてこれから生じた本件の商品取引清算益四、四七六万九、二〇〇円は所得税法上の事業所得に係る収入であり、右の金額から所定の経費等を控除した本件商品取引清算所得四、三五二万二、二四〇円は同法上の事業所得と認めるのが相当である。 右の点につき、各所論は、本件の如く差金決済による利益のみを目的として行なわれる商品先物取引には、偶然性が強く支配し、客観的な営利性がないから、右取引を継続して行なつても、それは事業とは認められないものである。このことは、地方税法において本件の如き商品先物取引を事業税の課税対象にしていないところからも明らかであるという。 なるほど、差金決済による利益のみを目的として行なわれる商品先物取引には堅実な実物取引と比較して、その営利性に不確実さがあることは明白であるが、個々の取引について利益の発生が不確実であるからといつて、直ちに本件の如く被 よる利益のみを目的として行なわれる商品先物取引には堅実な実物取引と比較して、その営利性に不確実さがあることは明白であるが、個々の取引について利益の発生が不確実であるからといつて、直ちに本件の如く被告人自身がケイ線を作成し、その他の相場資料を収集して相場の変動を見込んだうえで、反覆継続して大量に行なつた取引についての営利性、事業性を否定することはできない。また事業税は応益負担の原則に立脚して、個人、法人の事業に対し、所得または収入金額を課税標準として課する都道府県税で、所得税とはその性格を異にし、法令上、法人については公共法人を除くすべての法人を課税対象としているが、個人についてはその行なう第一種事業(商工業等四一業種)、第二種事業(原始産業四業種)および第三種事業(主として自由業二九業種)に対して課税されるという法定列挙主義を採用している。したがつて地方税法および政令の定める事業税の対象となる事業の中に、本件の如き、一般顧客の差額決済による利益のみを目的とする商品先物取引が掲記されていないことは何んら異とするには当らない。 右の次第で本件の商品取引清算所得を事業所得と認めた原判決の認定判断は正当として是認することができる。各論旨は理由がない。 二、 弁護人の控訴趣意第一の三および第二の一のうち雑所得に関する主張について後記のとおり、被告人としては、本件商品取引清算所得を非課税所得と確信していたとは認めがたく、この所得に対し、所得税が課せられることを認識していた。したがつて被告人の昭和四五年四月二七日付質問てん末書の信用性を、所論の主張するような理由で疑うべきふしはない。 右の質問てん末書によれば、被告人は収税官吏大蔵事務官の割引債の償還差益などの所得をなぜ申告しなかつたかという問に対し、「割引債を買つたのは四一年が最初で、株式の ような理由で疑うべきふしはない。 右の質問てん末書によれば、被告人は収税官吏大蔵事務官の割引債の償還差益などの所得をなぜ申告しなかつたかという問に対し、「割引債を買つたのは四一年が最初で、株式のように大部分が四〇年以前に買つたものであれば購入資金の出所を追求される心配もありませんが、割引債については、四二年には約二、八〇〇万円も買つており、その資金源を明らかにすれば、清算益も判つてしまいますので、買入れもL証券のM支店で大部分を仮名の口座で買つており、申告しませんでした」と供述している。これによれば被告人は雑所得一一万五、〇〇三円について通脱の意思があつたものと認められる。原判決には所論の事実の誤認はなく、論旨は理由がない。 三、 弁護人の控訴趣意第二(通脱の意思および不正な行為)について原審において適法に取り調べた関係証拠によると、被告人は、従前から一般顧客の差金決済のみを目的とする商品先物取引(商品清算取引)による所得に対しては、所得税は課すべきではないという考えを持つていたが、実務の実際においては、過去に課税された実例のあることを知つていたのみならず、本件間際にも、被告人と同様にC株式会社D出張所に出入りしていたホテル経営者Nが昭和四〇年中に七〇二万円余りの商品取引清算所得を挙げたのを所轄税務署に発見され、同人は同四一年一二月二三日詮方なく修正申告をして右所得に対する所得税を納付したが、被告人はこのこともその頃C株式会社の社員から聞かされていたこと、そして、被告人は昭和四二年中に四、三五二万二、二四〇円の商品取引清算所得を得たのに、ただ法定の申告期限内に所得税の確定申告書を提出しなかつたというだけではなく、これより先、昭和四一、二年頃委託先のH商事株式会社I出張所に対し、被告人の取引内容を税務署員に見られないように配慮され 、ただ法定の申告期限内に所得税の確定申告書を提出しなかつたというだけではなく、これより先、昭和四一、二年頃委託先のH商事株式会社I出張所に対し、被告人の取引内容を税務署員に見られないように配慮されたい旨の申入れをし、もし税務署員の調査があつたときには、本名とFなる架空名義の二本立で右会社に委託した商品先物取引の中で架空名義によるものについては、被告人の取引ではないとして押し通す旨を口外していたこと、さらに実際には商品取引清算益の一部を日常の生活費に充てていたのに、昭和四二年一月以降同会社から毎月五万円の講演料をもらい、日常の生活費には、これを充てている如く仮装するため、内容虚偽の領収証を作成して同会社に差し入れていたことが認められる。 また昭和四〇年か四一年頃、L証券株式会社M支店の営業係Oが被告人に対し「架空名義を使つているのをやめにして本名一本で取引願えないか」という申入れをしたのに対し、被告人は「本名一本にしたら税務署の方に判つてしまうのではないか、そうなつた場合会社ではどんな責任をとつてくれるか」と反問して右の申入れを拒否したことがあつた。 以上の事実関係からみると、被告人は、商品清算取引による所得には所得税を課すべきではないという意見を持つていたとはいえ、それはあくまでも被告人なりに考えた希望的意見にすぎず、税法上はこの所得も税務署に発見されれば課税されるという認識を持つていたことは明らかである。 このことと、証人P尋問調書の記載内容に徴して措信すべきものと認められる被告人の大蔵事務官に対する昭和四五年二月二八日付質問てん末書および検察官に対する同年一二月二二日付供述調書、Qの検察官に対する供述調書などを総合して考察すれば、本件の商品先物取引清算所得につき、被告人には所得税逋脱の意思があつたこと、前記のように、被告人が昭 び検察官に対する同年一二月二二日付供述調書、Qの検察官に対する供述調書などを総合して考察すれば、本件の商品先物取引清算所得につき、被告人には所得税逋脱の意思があつたこと、前記のように、被告人が昭和四二年中における本件商品先物取引を委託するに際し、被告人の本名のほかE、F、Gなどの架空名義を併用したのは、所論の主張する如く相場取引の作戦上の手段としてなされ、同時に所得税通脱の手段として委託者をまぎらわしくするためであつたこと、そしてその商品先物取引によつて挙げた清算益金四、四七六万円余りの大部分を架空名義の預金あるいは無記名の証券等にかえたのは、相場に敗れたときに再起する財産保金のためと、同時に税金対策として所得を秘匿するためであつたことを、それぞれ認めることができる。 そして、これら架空名義による取引や預金の設定は、取引の実態と所得の把握を困難ならしめ、ひいては租税の賦課徴収を困難ならしめるに足る行為で、かつ社会通念上不正と認められるから、本件において、原判決が被告人の犯意を認め、架空名義による取引の委託や預金の設定を「不正の行為」として認定したのは相当である。 ただ原判決はさらに被告人が右の清算益金を無記名の証券等にかえた行為までも「不正の行為」として判示している。関係証拠によると、この無記名の証券等とは割長、割興、国債等公社債と貸付信託と認められるが、これら無記名式で発行されている公社債や貸付信託を購入する行為は、被告人の主観的意図のいかんを問わず、社会通念上不正の行為とは認められない。したがつて被告人が清算益金を無記名の証券等にかえた行為までも「不正の行為」と判示した原判決には法令の解釈を誤つた違法があるといわなければならないが、この点についての法令の解釈の誤りはいまだ判決に影響をおよぼすことが明らかであるとは認められない。 た行為までも「不正の行為」と判示した原判決には法令の解釈を誤つた違法があるといわなければならないが、この点についての法令の解釈の誤りはいまだ判決に影響をおよぼすことが明らかであるとは認められない。論旨は結局理由がない。 よつて、本件控訴は刑事訴訟法第三九六条によりこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 (裁判長判事三井明判事石崎四郎判事杉山忠雄)

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