【DRY-RUN】主 文 本件控訴を棄却する。 理 由 本件控訴の趣意は、東京地方検察庁検察官検事高橋正八の控訴趣意書に記載され たとおりであり、これに対する答弁は弁護人渡辺正
主 文 本件控訴を棄却する。 理 由 本件控訴の趣意は、東京地方検察庁検察官検事高橋正八の控訴趣意書に記載され たとおりであり、これに対する答弁は弁護人渡辺正雄、西村昭、金城睦、佐々木恭 三連名の答弁書に記載されたとおりであるから、それぞれこれを引用する。 検察官の控訴趣意は、原判決は、被告人四名に対する本件住居侵入及び傷害の公 訴事実につき 被告人ら四名を含むA連合会B支部連絡会の者たち二〇数名が昭和四〇年五月一 四日、東京都中央区ab丁目c番地dビルe階C株式会社D支社に同支社技術課員 Eに対する支社側の顛末書提出要求問題についてこれがEに対する不当な処分につ ながるおそれがあるとする見地から抗議におもむき午后〇時一五分頃から四五分頃 まで約三〇分間、支社側の意思に反して同支社事務室にふみとどまり、その間被告 人Fが同支社総務課長兼技術課長Gの前で右B支部連絡会のC株式会社社長に対す る抗議文を朗読していた際、Gが突然フラツシユをたいてその情況を写真撮影した こと、被告人らが肖像権などをたてにそれに抗議し、そのフイルムの破棄ないし引 渡を要求したが、Gに拒否されたため、同人の手からカメラを取り上げようとして もみあい、その際同人の右拇指等に軽微な傷害を負わせた、との事実を認めなが ら、そのうち不退去の点については (1) 被告人らの本件抗議行動は、憲法上その存立を保障された労働組合とし ての正当な目的に出た、ある程度やむを得ない行動であつたこと、 (2) 目的が抗議文手交のためであつたこと、 (3) 支社事務室は比較的自由に出入できる構造で従来同所への出入に関して トラブルが起つたことはなかつたこと、 (4) 支社の業務に格別の支障を与えていないこと、 (5) 事務室の平穏を乱そうとする積極的意図がなかつたこと、 に出入できる構造で従来同所への出入に関して トラブルが起つたことはなかつたこと、 (4) 支社の業務に格別の支障を与えていないこと、 (5) 事務室の平穏を乱そうとする積極的意図がなかつたこと、 (6) H課長らがすげない態度で退去を要求したこと、および双方の利益の比 較 などを総合して考えると、結局「不退去罪として処罰するほどの違法性を備えて いないとの法律的判断をし、また傷害の点については (1) 写真撮影は顔写真をとつたものて明らかに挑発的であつたから相手に強 い不安を抱かせ、被告人らがフイルムの破棄ないし引渡を要求したのは当然であつ たこと、 (2) 右要求に応じない場合フイルムを渡せといつてカメラに手をかけひつぱ る程度のことは、とくに常軌を逸した行動ではないこと、 (3) 僅かでも傷を負わせたことは遺憾で被告人らに強い反省が望まれるが、 Gの身体に対する積極的暴行の意思はなかつたこと、 (4) Gは別に助けを求めていないこと、 (5) 被告人らは労組のリーダーで、刑罰法規に触れるような行為は従来から さし控えていたこと、 (6) 傷害の程度がきわめて軽微なものであつて日常生活に支障がなかつたこ と などを総合すれば「有形力の行使により発生した軽微な結果を、単に外形的にと らえ、傷害罪として処罰するのは、刑法第二〇四条の立法趣旨及び法秩序全体の精 神に照らし相当でない」こと、 を理由として、いずれも無罪である旨言い渡した。しかしながら、原判決には判 決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認及び法令の解釈適用の誤りが存するか ら、到底破棄を免がれない。すなわち、 不退去の点(論旨第一点)については 1、 A連合会B支部連絡会は、単なる連絡機関であつて労働組合ではなく、団 体交渉権をもたないものであるから、C株式会社D支社側は本件抗議交渉に応 い。すなわち、 不退去の点(論旨第一点)については 1、 A連合会B支部連絡会は、単なる連絡機関であつて労働組合ではなく、団 体交渉権をもたないものであるから、C株式会社D支社側は本件抗議交渉に応ずべ き義務はない。2、Eに対する支社長Iの顛末書提出要求は同人がメーデーに参加 したこととは関係なく、昭和四〇年五月一日に予定されていた電波法に基づく免許 切替えのための郵政省電波管理局放送業務課と支社との打合せ事務をEの都合によ り延期するよう電波管理局当局に働きかけてその予定を変更させ、よつてC株式会 社の信用を失墜させたことに基づくものであるから、B支部連絡会のこれが撤回要 求は、社内問題に不当に容喙したものである。3、五月一〇日以降本件の前日まで 再三に亘つて行なわれたB支部連絡会の支社に対する交渉は執拗かつ不当な抗議、 要求が繰り返えされたもので決してトラブルのない平穏なものではなかつた、4、 本件五月一四日の支社事務室における交渉には被告人Jは当初から参加していた、 5、右事務室における被告人らの交渉行動はやむを得ない行動ではなく、抗議文の 手交が目的ではなく、多衆の威力を背景に暴行、脅迫に及んでもあくまで顛末書提 出要求撤回の目的を貫徹させようとするにあつたのであるから抗議文を手交すれば 引き上げたのではなく、滞留時間の予測は不可能であり、事務所は誰でも立ち入る ことのできるような開放的な構造ではなく、入口には施錠のできるドアがあり、室 内にはカウンターがあつて、社員の席とは仕切られていた。支社員は正午から一時 までの休憩時間中は当番制で執務しており当日当番に当つていたG課長は勿論H課 長も予定の業務を妨害され、来客もその間待たされた。その抗議行動はG課長の写 真撮影前においても事務室の平穏を乱していた。支社は労働慣行上も抗議文を受け 取らなければならない義務は いたG課長は勿論H課 長も予定の業務を妨害され、来客もその間待たされた。その抗議行動はG課長の写 真撮影前においても事務室の平穏を乱していた。支社は労働慣行上も抗議文を受け 取らなければならない義務はなく、支社の都合もきかずにする一方的な読み上げを 受忍する義務もなかつた。そもそも団体交渉権のないB支部連絡会の行動につき労 働慣行を云々することはできない。退去の要求は来室当初からH及びG両課長によ つてなされ特に写真撮影後一層強くなされた。原判決が、B支部連絡会の者が約三 〇分支社側の意思に反して事務室にふみ止まつたことを認めながら撮影後の退去要 求を売り言葉、買言葉に止まるものと認めているのは誤りである。カメラの取上げ については写真撮影後被告人ら四人が最前列にあつて、HやGにつめより、被告人 JがGの肩を叩き、体当りを加え、四人が寄つてたかつてGの腕をねじ上げてカメ ラを取り上げたのであつて、かかる暴行が加えられたことは原審第七回公判期日に おける証人Kの供述によつても明らかである。これらの点において原判決には事実 の誤認がある以上、これを前提として支社側業務上の支障とB支部連絡会側の不利 益とを比較考量しB支部連絡会側の法益優先を論ずるのは失当である。被告人らの 事務室滞留行為は不退去罪の犯罪構成要件に該当する違法、有責な行為であり、被 害法益は軽微ではなく、動機、目的の正当性、手段、方法の相当性を欠き法益の均 衡をも欠いていて違法性阻却事由はない。されば原判決が不退去罪の成立を否定し たのは、事実誤認及び法令適用の誤りを犯したものであつて、被告人らは有罪たる べきである。といい、次に 傷害の点(論旨第二点)については 1、 原判決は、不退去罪の成立を認め難い状況の下においてG課長が空然二、 三メートルの至近距離からフラッシュをたいて相手方の意思に反することを知り 。といい、次に 傷害の点(論旨第二点)については 1、 原判決は、不退去罪の成立を認め難い状況の下においてG課長が空然二、 三メートルの至近距離からフラッシュをたいて相手方の意思に反することを知りな がら顔写真を撮つたことは相手方の人格を無視する挑発的行為であるとしている が、当時既に不退去罪は成立していたのであるし、人格を無視して顔写真を撮つた ものではなく、抗議文を朗読中の被告人Fを中心としてその場全体の状況を証拠保 全のために撮影したのは違法行為ではない。2、Cの従業員でない被告人らが右現 場写真の撮影に不安を感ずる理由はない。3、カメラを取り上げるためGに加えら れた暴行は被告人J、同FがGの両腕を強く持ち上げるようにして行なわれた強度 のものである。4、被告人Lもこの暴行に加わつている、カメラ取上げのため加え られた暴行は、常軌を逸しており、被害者が救助を求めず、室内にいた他の支社員 がこれを救助しなかつたのは、いずれもB支部連絡会の者の行動に対する畏怖の程 度が甚しかつたからであり、労働組合のリーダー又は経験者であるからといつて暴 行その他刑罰法規にふれる行動をしないとの保障はなく、預り証の差入れ、新品フ イルムの返還は本件暴行罪の成立には何等影響するところはない。5、Gの受けた 傷害は軽微であつて不問に付してよい程度のものではない。原判決にはこれらの点 について事実の誤認があり、原判決が被告人らの有形力の行使は「社会的に容認さ れる限度を明らかに逸脱した行為とは認めがたく、その違法性の有無については、 多分の疑いを免れない。したがつて、右のような有形力の行使により発生した軽微 な結果を、単に外形的にとらえ、刑法第二〇四条の傷害罪として処罰するのは、同 条の立法趣旨および法秩序全体の精神に照らし、相当でないと思われる」旨判示し たのは、それが刑法第二〇四条の より発生した軽微 な結果を、単に外形的にとらえ、刑法第二〇四条の傷害罪として処罰するのは、同 条の立法趣旨および法秩序全体の精神に照らし、相当でないと思われる」旨判示し たのは、それが刑法第二〇四条の構成要件に該当することを認めながら、安易に違 法性阻却事由の存在を認めることに帰し、失当であり、傷害が軽微でないこと、行 為の動機、目的に正当性がないこと、手段、方法が相当でないことを考えると、当 然傷害罪を構成するものといわなければならないから、これを無罪とした原判決は 法令の解釈適用を誤つたものであるというのである。 しかし、記録を調査し、当審における事実取調の結果をも加えて考察しても、原 判決には右不退去及び傷害に関して判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認な いし法令の解釈適用の誤りがあるものとは認められない。 まず不退去罪の成否について考えると 1、 A連合会B支部連絡会は労働組合法第五条に定める労働組合ではないが、 昭和三八年にA連合会がその加盟する放送会社の支社が東京に置かれることが多い ため、支社の従業員が住宅、手当その他の労働条件において本社の労働組合員にく らべて不利益な取扱を受けることがないように、またD支社相互間において労働条 件の較差をなくし、それぞれの向上を図るために実体を調査し、各支社と交渉する ために設けられたものであるから、憲法及び労働法の予定する労働組合と認めるべ きものであつて、団体交渉権を有し、単なる親睦団体ないし連絡機関たるに止まる ものではないことは、原審第二五回公判及び当審第二回公判における被告人Lの供 述や、当審において提出された支部連ニュース等の書証によつて認められるところ であり、従つて支部連が団体交渉の主体となり得ることは、本件当時までC株式会 社D支社がその存在を知らなかつたことにより何等の消長を来すものではない。 れた支部連ニュース等の書証によつて認められるところ であり、従つて支部連が団体交渉の主体となり得ることは、本件当時までC株式会 社D支社がその存在を知らなかつたことにより何等の消長を来すものではない。 2、 支社の同社技術課員Eに対する顛末書提出要求の経緯について見ると、支 社業務課長Gの原審及び当審証言によれば、昭和四〇年四月二七日午前一一時頃支 社において同課員Eから五月一日のメーデーに参加したい旨の申出を受けたところ 午前一一時三〇分頃郵政省電波管理局(以下電管局という)放送業務課第三免許係 M事務官から、Cの再免許申請手続について事業収支の見積り、固定資産の減価償 却方法、番組交流に関する覚書等の重要な事項につき訂正を求めたい点と質問事項 があるから来局されたいとの電話連絡があり、双方の都合を打ち合せてその期日を 五月一日午前中と定め、四月二七日中にI支社長にその旨報告するとともに本社に も連絡し、当日関連部署全員の待機方を要請した。四月三〇日午后一時頃支社にお いて再びEからメーデー参加の申出を受けたので再免許申請につき電管局と折衝す る重要事務があり、その事務連絡の必要上、五月一日はメーデー参加をやめて支社 で待機するよう指示した。同日電管局に赴いたところN労働組合O支部のP書記長 からEをメーデーに参加させるよう配慮方の申込れがあり、同日夕刻電管局のM事 務官からも電話で組合関係の内紛にかかわり合うのは困るから五月一日の打合せは 延期したい旨の申入れを受けた。そこで、五月一日朝郵政省に赴いてM事務官らに 前日の不始末を詫び、支社に帰つてEにメーデー参加を許可したというのであるが 当審で取り調べた右電管局第三免許係長Q、同係事務官Mの捜査官に対する各供述 調書によれば、四月三〇日G課長から、かねて電管局から支社に申し入れてあつた Cの再免許申請書類に取締役の住 というのであるが 当審で取り調べた右電管局第三免許係長Q、同係事務官Mの捜査官に対する各供述 調書によれば、四月三〇日G課長から、かねて電管局から支社に申し入れてあつた Cの再免許申請書類に取締役の住所を追加記入する訂正事務の処理を翌五月一日に 行ないたいとの申入れがあつたので、支社側の都合にまかせ五月一日に行なうこと を諒承した。右追加記入事務は十分もあれば済む簡単なもので特に五月一日でなけ ればならないということはなく、当時は再免許申請に関する重要な事項の折衝は済 んで、もはやこの程度の機械的な事務を残すのみとなつていた。同日(四月三〇 日)NのP書記長からCとの間に五月一日に打合せ事務があるかと尋ねられたので 打合せ事務はないと答えた。五月一日朝G課長が電管局に来てすまなかつたとい い、追加記入事務は行なわないで帰つたというのであつて、G証言とくいちがい、 G証言において、四月二七日に電管局から電話連絡を受けて支社と再免許に関する 重要事項の打合せを行なう期日を、電管当局の都合もあつて五月一日に行なう旨取 り決めたといいながら、それ以前にメーデー参加の申出をしていた同課員Eに対 し、その前日である四月三〇日に至り始めてその旨を告げて支社待機を命じたとい うことはその間支社員の慰安旅行が行なわれ、天皇誕生日の休日があつたことを考 慮しても些か不可解であること、また、五月一日支社が電管局と再免許申請の重要 事項につき打合せを行なうため、本社の関連部署が全員待機の態勢をとつたとの事 実の証拠上認め難いことなどに徴し、その証言中、四月二七日に電管局からの電話 連絡により電管局の都合もあつて再免許に関する重要事項の打合せを五月一日に行 なう旨取り決めたものであり、これが延期されたのは、電管局側の申入れによるも のである旨の部分は措信し難く、これと、証拠によつて認められる、Eは四 合もあつて再免許に関する重要事項の打合せを五月一日に行 なう旨取り決めたものであり、これが延期されたのは、電管局側の申入れによるも のである旨の部分は措信し難く、これと、証拠によつて認められる、Eは四月三〇 日メーデー参加を拒絶されるや支部連にその旨を告げたので、支部連幹部において Nの書記長Pに実情調査方を依頼し、Pは電管局業務課第三免許係長Q及び同係事 務官Mにその旨問い訊したところ五月一日には支社との打合せ事務はないとの返答 を得たので、Pはその旨支部連に報告するとともにたまたまその頃同局に赴いてい たG課長に会い、Eのメーデー参加取計らい方を申し入れたとの事実とに徴すれ ば、Gは少なくとも四月二七日Eからメーデー参加の申入れを受けた後において、 Eをメーデーに参加させないため、ことさら電管局担当係員に申し出て五月一日に 行なうべき再免許申請書類への追加記入事務を設定したが四月三〇日同局において P書記長からEのメーデー参加取計らい方を促されるや、その間における労組の動 き等を察知し、自ら五月一日の追加記入事務を中止しEのメーデー参加を許したも のであることの疑いが濃厚であり、さすればEの連絡によるものとはいえ、同人が 支部連を通じNに働きかけて五月一日電管局において行なわれるべきC再免許に関 する重要事項の打合せ事務を延期せしめよつてCの社内秩序を乱し、その信用を失 墜したとする根拠はなく、Eに顛末書の提出を命ずる理由も薄弱であるというべ く、Eらからこの間の経緯を聴取した支部連のものが、Cの既往における労働組合 員に対する苛烈な労務政策にかんがみ、右顛末書提出要求の意図は、Eの組合活動 を妨害するため、ことさら電管局との間に処理すべき用務を設定しその事務取扱い の期日を五月一日と定めてメーデー参加を阻止したうえ、これが延期されてEがメ ーデーに参加したことをとらえ 図は、Eの組合活動 を妨害するため、ことさら電管局との間に処理すべき用務を設定しその事務取扱い の期日を五月一日と定めてメーデー参加を阻止したうえ、これが延期されてEがメ ーデーに参加したことをとらえて、同人が支部連を通じ電管当局に右期日延期の働 きかけをしたものとして同人を処分することにあるものと思惟し、顛末書要求を拒 否したEを支援し、支社に抗議してその提出命令撤回方を要求するため本件抗議行 動に出るに至つたのは無理のないところであつて、その動機、目的において非難す べきものはなく、支社はその交渉に応ずる義務があつたものといわなければならな い。 3、 五月一〇日以降昼間或いは夕刻、被告人ら支部連の者によつて連日のよう に支社側に対して行なわれた顛末書提出命令撤回要求の行動は双方の主張が併行線 を辿り、回を重ねるに従つて、次第に激化しこの交渉がやや執拗に行なわれ、興奮 の余り、威圧的な言辞、粗野な挙動にわたり、支社側においては、事態の推移を憂 慮し警察署に連絡するなどのことのあつた事実はこれを認めることができるが、既 に説明したように支部連が支社に対し団体交渉権をもつものとする以上は支社は支 部連との交渉に応じなければならず、当事者双方が各自の主張、要求をもつて相対 立する場合において、かかる事態を生じたとしても、これはかかる交渉の性質上、 ある程度やむを得ないところであつて、直ちにこれをもつて法秩序の認めない程度 に達したものとは解し得ない。 4、 しかしC本社は支部連側の再三の抗議行動の態様経過にかんがみ、五月一 一日に至り爾後E問題に関する交渉は本社において直接これを行なう旨支社を通じ て支部連の者に通告したので、被告人らは、本件当日(五月一四日)は、既に顛末 書提出命令撤回要求が支社を相手方としては行なうことができず、またその目的を 達し得ないことを知つて交 れを行なう旨支社を通じ て支部連の者に通告したので、被告人らは、本件当日(五月一四日)は、既に顛末 書提出命令撤回要求が支社を相手方としては行なうことができず、またその目的を 達し得ないことを知つて交渉の方針を変え、C本社R社長宛のE問題に関する抗議 文を持参してこれを読み上げた上、支社を通じて本社に送付させるのを目的として 支社に赴いたものであり、被告人L、同S、同Fを含む支部連のもの二〇数名は同 日午后O時一五分頃からそれぞれ支社事務室に入つたが、被告人Jはこれに当初か ら加わつてはおらず、後に被告人Fが抗議文を朗読している際に遅れて到着したも のと認められ、このことは、被告人Jが原審第二五回公判及び当審第一二回公判に おいて供述するところであり、これに反する証人G、Hの各証言は咄嵯の事態の正 確な認識に欠けるものがあつて直ちに措信し得べきではない。 <要旨第一>しかして、日常における他人との交渉はその住居、事務所等に赴いて 行なわれることが多く、その交渉は弁</要旨第一>済の督促、取引における相手方 の不誠実の指摘等居住者において快しとしないものがあるが、これは交渉に伴う必 要避くべからざる結果であるから、住居への立入りは相手方の意思に反するからと いつて直ちに刑法第一三〇条前段の住居侵入罪を構成するものではない。行為者の 目的、侵入の熊様、居住者の意思に反する程度等具体的事情の考慮が必要であつて これらを総合して住居等の平穏が乱されたかどうかを決定しなければならない。況 んや既に適法に住居或いは事務所内に入つている者の行為が同条後段の不退去罪を 構成するかどうかは、行為者の滞留の目的、その間になされた行動、居住者の意思 に反する程度、滞留時間等を具体的に考慮し、滞留の時間と滞留権との釣合いにお いて住居等の平穏が乱されたかどうかによつてこれを決すべきものである。こ 為者の滞留の目的、その間になされた行動、居住者の意思 に反する程度、滞留時間等を具体的に考慮し、滞留の時間と滞留権との釣合いにお いて住居等の平穏が乱されたかどうかによつてこれを決すべきものである。これを 被告人らの入室後の行為について見るに、先に到着入室した者らがカウンターのと ころで被告人Lを中心として来者を告げ抗議文の受理、本社宛送付方を求めたとこ ろ、応待に出た編成課長H、次いでGがそれぞれ支社は交渉相手とならない旨を告 げて退去を求め、抗議文の受領をも拒否したので、このときから支部連側の者から 不穏当な言辞が発せられ、支部連のものはなお室内に止まつて同様の要求を繰り返 えしたところ、G、Hは再び退去方を求めて応待を打ち切り、各自席に戻つて行つ たのでLら支部連の者はそのあとを追つてカウンター内に入りG課長の席に近づい て同人を取り囲み、抗議文の受領朗読を拒否するGを自席に着席させ、LがFを促 して抗議文を朗読せしめるに至つたものであつて、入室後この時点に至るまで約一 五分間に亘る被告人らの、事務室内滞留及び、その間の行動は平穏を欠いていてこ れを社会通念上相当な行動であるということはできないところであるが、既に述べ たようにC側は本社において交渉に応ずる旨通告し、支社としては直接団体交渉に 応ずる権限はなく支部連としても団体交渉権はないとしても、労使間の交渉方法は 極めて流動的なものであつて、支社に対し社長宛の抗議文を交付してその送付方を 求めるが如きは、労働慣行の有無を問うまでもなく、支部連のC本社に対する交渉 方法の一として是認し得るところであり、抗議文の受領、その朗読、本社宛郵送の 如きは、格別支社の業務を妨げ、その労務政策に反するものとは認められないか ら、支社側は、本社が交渉の相手であることを理由としてこれを拒否し得べきでは なく、この限りにおいて支社側 の朗読、本社宛郵送の 如きは、格別支社の業務を妨げ、その労務政策に反するものとは認められないか ら、支社側は、本社が交渉の相手であることを理由としてこれを拒否し得べきでは なく、この限りにおいて支社側は応待の義務があるものといわなければならないか ら、支社側のH、Gらが当初から支部連のものとの応待を拒否し又は抗議文の受領 を拒んで退去を求めたことは相当でなく、その退去要求は、刑法第一三〇条の不退 去罪の構成要件要素たる「退去を求め」たものに該らないものというべく、また支 部連の者らの如く各自の職場を持つているものが昼の休憩時間を利用して他の支社 に赴く場合には長時間滞留しないことを常とすることはそれぞれの所属する支社の 勤務時間の関係上肯けることであるのみならず、当日の支部連のものの行動は、従 前のものとは異り、支社を直接の交渉相手とするものではなく、本社宛抗議文の受 領、送付の要求を主眼とするものであつたことは、入室の当初被告人Lらから告げ られた来意に徴して明らかであつたのであるから、滞留時間は、この点からも自ら 予測され得るところであつて、このことは、支部連のものが、被告人Fの抗議文の 朗読後、カメラを取り上げてフイルムを預り、その預かり証をおくなど、Gによる 写真撮影の後始末を終えた後間もなく退去したことからも窺われるところである。 さらに支社の事務室はすべての人に解放されているものでないことは所論のとおり であるが、また所用のある者はドアを開けて事務室に立ち入りカウンターで用件を 果すに十分でないときは相手の席の傍らまで赴いて用件を果すことは、日常行なわ れているところであつて、何等違法ではない。もとよりこれは相手方の明示又は黙 示の同意があるものと認められる場合であつて、本件のように約二〇名で室内に立 ち入つた場合にまで直ちにこれを拡張することはできないが、既に ろであつて、何等違法ではない。もとよりこれは相手方の明示又は黙 示の同意があるものと認められる場合であつて、本件のように約二〇名で室内に立 ち入つた場合にまで直ちにこれを拡張することはできないが、既に説明したように 支社側が本社の窓口として被告人ら支部連の者との交渉に応じなければならない立 場にある以上、これらの者がカウンターからGの自席まで立ち入り滞留してこの種 の交渉を継続したこと自体は違法ではなく、これらのものの中には罵声を発して喧 騒にわたつた者があつたとしてもこれまたこの種の交渉に伴うある程度やむを得な い行動として不穏当ではあるが未だこれを以て法の認めない違法な状態に達したも のということはできない。従つてG、H両課長がその間各自予定の業務の遂行を妨 げられたとしても、支部連の者と応待する義務がある以上、これもこの業務の一内 容であるとみるべく、またやむを得ないところといわなければならない。しかし て、抗議文の取次を拒否された後、被告人Fが抗議文を朗読したのはその抗議行動 の一環と認められ、その朗読中、支部連の者らは静粛にこれを聴いていたところG 課長は突然、被告人Fの二、三メートル前からFを中心として支部連の者の写真を フラッシュをたいて撮影したので、支部連の者らは右朗読終了後直ちにこれに抗議 して、フイルムの引渡を求め、Gはこれを拒否してHと共に「帰れ」といつて退去 方を求めたこと、右写真撮影に対する抗議、フイルムの引渡要求は、支部連の者ら 挙つてこれを行ない、特に被告人Jは語気荒く、Gの身辺に詰め寄り、両手の指で Gの身体に触れるなどしてフイルムの引渡方を求めその気勢でGをして前に持つて いたカメラを背後にかくして被告人Fのいる方へ後退するに至らしめ、よつて被告 人FがGの背後からその手に持つたカメラを取り上げ、よつてGに軽微な傷を負わ しめたものであるこ その気勢でGをして前に持つて いたカメラを背後にかくして被告人Fのいる方へ後退するに至らしめ、よつて被告 人FがGの背後からその手に持つたカメラを取り上げ、よつてGに軽微な傷を負わ しめたものであることが認められる。これら写真撮影に対する抗議、フイルムの引 渡要求、カメラの取上げなどの一連の行為はGの写真撮影という偶発的な行為に挑 発されて起つたものであつて、(右カメラの取上げは後記のように違法である)、 その間フイルム引渡の要求を拒否するG等から退去要求が発せられたのは適法なも のであつたが、その後に行なわれた被告人Fによるカメラ取上げのための有形力の 行使は、右退去要求直後に行なわれて瞬時の内に終了し、その後退去に至るまでの 約一〇分間は、カメラからフイルムを抜き取り、預り証を認め、これを読み上げて 交付するという、Gの写真撮影行為が惹起した結果に対する必要な後始末のための 時間であつて、これを終るや、被告人ら全員は直ちに平穏に退去したことが認めら れるから、右退去要求が発せられてから退去するまでの時間は未だこれをもつて不 退去罪を構成するに必要な滞留時間の経過があつたものと認めることはできない。 そうであるとすれば被告人らの本件事務室滞留の所為は未だ刑法第一三〇条後段 の不退去罪に該当することの証拠があつたものということはできないものといわな ければならない。されば原判決が「被告人らが支社側から要求を受けてその事務室 から退去しなかつた行為は刑法第一三〇条所定の違法性を備えていないと認めるの が相当である」旨判示したのは措辞やや明確を欠く嫌いがあつて、所論のように不 退去罪の構成要件には該当するが、未だ可罰的違法性を備えていないかのように解 せられないてもなく、そうであるとすれば構成要件該当性と違法性との区別をあい まいにし、構成要件のもつ規律的機能、保護的機能をゆ 去罪の構成要件には該当するが、未だ可罰的違法性を備えていないかのように解 せられないてもなく、そうであるとすれば構成要件該当性と違法性との区別をあい まいにし、構成要件のもつ規律的機能、保護的機能をゆるめ、また逆に違法であり さえすれば構成要件に該当するとの論議を導き出す嫌いがあつて刑法の保障的機能 をも誤る蔚それがないではない。しかし原判決は結局不退去罪について犯罪の証明 がないとしたのであるからその結論が誤つているわけてはない。従つて法令の解釈 適用を誤った旨の(1)の論旨は採用できず、従つてまた違法性阻却事由がない旨 の「2」の論旨もまた採用の限りではない。以上認定の事実は、原判示認定事実と 異るところがあるとしてもこれが判決に影響を及ぼすところはないからこの点の論 旨は理由がない。 <要旨第二>次に、傷害罪の成否に関して、先づGの写真撮影行為の適否について 考察するに、憲法第一三条の保</要旨第二>障する個人の私生活上の自由の一つと して何人もその承諾なしにみだりにその容ぼう、姿態を撮影されない自由を有する ものというべきであるが、その自由も公共の福祉のため必要ある場合には相当の制 限を受けることは同条の規定に照らして明らかである。そして犯罪の捜査をするこ とは公共の福祉のため捜査官に与えられた国家作用の一つであり、これと並んで捜 査官以外の一般人にも現行犯逮捕の権限が与えられていることにかんがみ、一般人 でも現に犯罪が行なわれ、もしくは行なわれた後間がないと認められる場合であつ て、しかも証拠保全の必要性、緊急性があり、かつその撮影が一般に許容される限 度を超えない相当な方法で行なわれるならば、裁判官の令状やその者又は犯人の同 意なしに適法に犯人の容ぼう等のほか、犯人の近辺にいたため除外できない人の容 ぼう等を撮影することができるものといわなければならない。しか 相当な方法で行なわれるならば、裁判官の令状やその者又は犯人の同 意なしに適法に犯人の容ぼう等のほか、犯人の近辺にいたため除外できない人の容 ぼう等を撮影することができるものといわなければならない。しかもかかる場合の 写真撮影は現行犯人逮捕の場合と異り、直ちに犯人の身体に拘束を加えるものでは なく、写真を後日犯罪の存否究明の資料に供するためにするに止まるものであるか ら、必ずしも何人にも現に犯罪の行なわれていることが疑いを容れない程度に明白 な場合でなければならないものではなく、社会通念に照らして犯罪の疑いある行為 が現に行なわれており、撮影者もまた犯罪の疑いある行為が現に行なわれているも のと認めた場合においても、また刑事訴訟法第二一七条の制限にかかわりなくこれ をすることができるものと解するのが相当である。これを本件について見ると、G 等は、支部連の者が来室した当初から応待並びに抗議文の受領を拒んで退去を求め ていたのに、これを無視して抗議文の受領、取次ぎを執拗に要求しながら二〇数名 の者がGの後を追つてカウンター内に入り、或る者はGに対し罵声を発したりしな がらGの自席(事務机)の所まで来てGを取り囲み、Gを着席させるなどした上、 Lの指示によりFが抗議文の朗読を始めたのであつて、その行為はGらの意思に反 し執拗、強要の嫌いがあり、社会通念上は、不退去罪等の現に行なわれている疑い の存する客観的状況であり、Gにおいて被告人Fを含む支部連の者二〇数名の来室 者の室内滞留行為に困惑し、たとえ抗議文朗読中は一時静粛であつたとしても、来 室後この時点までの一運の行為が社会通念上常軌を逸し不当であつて不退去の犯罪 を現に行なつていることの疑いがあるものと考えたとしても無理からぬところであ つたというべく、同人はかかる状況下において、H課長に示唆され、支部連の者の 右滞留行為中の一 を逸し不当であつて不退去の犯罪 を現に行なつていることの疑いがあるものと考えたとしても無理からぬところであ つたというべく、同人はかかる状況下において、H課長に示唆され、支部連の者の 右滞留行為中の一時点の情況の証拠を保全するため、前旦I支社長から命ぜられて 準備していたストロボつき写真機を取り出し、抗議文を朗読中の被告人Fの二、三 米前から同人を中心とする来室者の写真を、フラッシュをたいて撮影したものであ つて、その主観的意図においては故らに被告人Fの人格権を侵害する意図をもつて 同人の顔写真をとつたものとまでは認められないから、被告人Fらの来室後抗議文 朗読に至るまでの滞留行為につき住居侵入乃至不退去罪の成立の認め難いことは前 示のとおりであるとしても、これに対する証拠保全の意図に出たGの右写真撮影行 為は適法であるというべく、およそ一般人の出入する場所で一定の主張に基づいて 行動を行なう者は、一般人から認識されることを当然予定しているものというべ く、これが写真のフイルムやテープコーダー等に記録されることだけを拒否する権 利があるものとは解し難いところであるから、被告人Fらは右Gの写真撮影を拒否 し又は撮影したフイルムの引渡を求める権利を有しなかつたものといわなければな らない。しかしながら上記のような複雑な事実関係を背景とする労使間の紛争の場 において、支部連の者らにつき未だ住居侵入ないし不退去の罪の成立を認め難い状 況の下で、同人らの当面の応待の相手方である支社側責任者Gが、突然二、三メー トルの至近距離からフラツシユをたいて抗議文を朗読中の被告人Fらの容ぼう姿態 を含めての写真をその意思に反することを知りながら撮影したことは、被撮影者ら には同人らの人格を無視しこれをあらわに犯罪者として取り扱う侮辱的敵対行為と して映じたのは当然であつて、同人らが、右写真撮影は 含めての写真をその意思に反することを知りながら撮影したことは、被撮影者ら には同人らの人格を無視しこれをあらわに犯罪者として取り扱う侮辱的敵対行為と して映じたのは当然であつて、同人らが、右写真撮影は肖像権を侵害するばかりで なくCの既往における苛烈な労務政策から見て右写真を同人らに対する如何なる不 利益な証拠として利用されるかも知れないおそれがあるものと考えて不安危倶の念 を抱いたのも無理からぬところであり同人らが肖像権をたてに強く右写真撮影に抗 議し、直ちに撮影済みフイルムの引渡を求めるに至つたのは、Gの写真撮影行為を 被撮影者らの権利を侵害する違法行為と誤信したためとはいえ、同人らの権利を防 衛する意図に出たものと認められるのであつて同人らがかく誤信したのはその情況 下においては、やむを得ないところであつたと認められる。 次にカメラを取り上げるに至るまでの経過を見るに、被告人Fが抗議文の朗読を 終えた瞬間支部連の者たちの間から「写真をとるとは何事か」「われわれに挑戦す る気か」「誰の命令で写真をとつたか」「肖像権の侵害だ」「なんの証拠にするの か」「フイルムを返せ」など抗議の声が一斉に起りGは更に二枚目の写真をとろう として写真機を構えたが傍にいた支部連のものがレンズの前に手を出したりしたた め果さなかつたところ、Gは更に起つた抗議の声に対し「自分の部屋で写真をとる のが何故悪い」「帰れ」といい、Hも「帰れといつても帰らぬ奴はこじきか押売り だ」と怒鳴つたりしたが、電話がかかつて来たため支部連の者らの囲みから出て行 き、G一人がその場に残り、この時被告人Lが「みなさん、フィルムを預かりまし ようか」と支部連の者らにはかつたところ、皆賛意を表した。そこで被告人JがG に近づき激しい口調で「フイルムはなかつたことにしてもらいたい」、「フイルム を預からせてほしい、一緒に フィルムを預かりまし ようか」と支部連の者らにはかつたところ、皆賛意を表した。そこで被告人JがG に近づき激しい口調で「フイルムはなかつたことにしてもらいたい」、「フイルム を預からせてほしい、一緒にカメラ屋に行こう。」などといつてGにカメラの引渡 を求めるべく両手の指でGの体にふれたりして、強く要求した。Gは、これを拒否 して応ずる気配を示さず、カメラを取り上げられるのを防ぐため両手で前に持つて いた前記カメラを後ろにまわしてかくす様にして両手に持ちかえ、事務室と応接室 との間仕切りあたりまで後ずさりし被告人Fの立つている前まで後退して前から詰 め寄る被告人Jと被告人Fとの間に挿まれた格好になり、Gが後ろ手に持つたカメ ラがFの眼の前に来る状態となつた。そこでFは「私が撮られたのだから私が預か ります」と支部連の者らの賛意を確かめると同時に、Gの諒承を求めるかの如くい いながら、Gの手にあるカメラの上と下から同被告人の両手をあててカメラを持 ち、これを下から上へ持ち上げるようにし一瞬強く力を加えて、カメラを取られま いとして強く押さえているGの両手から引き抜き取り上げた。この瞬間カメラを押 さえていたGの両腕が逆に持ち上げられる格好にはなつたけれども特に強く捻られ たという程のことはなく、唯カメラを強く押さえていたため、引き抜かれたとき右 栂指等に軽微な傷を受けた事実が認められる。これらの事実は被告人Fがカメラを 強く引き抜いたとの点及びGが傷害を受けたとの点を除き、ほぼ関係被告人らが原 審及び当審公判廷で認めているところである。原判決は被告人F、同JがGのひじ を押さえ被告人Sもこれに共同した旨認定しており証人Gは原審第五回及び第六回 公判廷においてその旨供述しているが、同人の右供述においても、被告人L、同S が参加したとする部分は、被告人F、同Jの行動に関する供述部分 人Sもこれに共同した旨認定しており証人Gは原審第五回及び第六回 公判廷においてその旨供述しているが、同人の右供述においても、被告人L、同S が参加したとする部分は、被告人F、同Jの行動に関する供述部分にくらべて概括 的で具体性に欠け被害感情からする誇張があるばかりでなく、被告人Jら支部連の 者に激しく詰め寄られて興奮した状態のもとでカメラの引渡を拒んでいるうちに背 後に廻したカメラを後ろから瞬時に奪われた関係で、その前後に亘る事実関係につ いての認識及び記憶が正確であるとは認められず果して被告人F及び同JがGの肘 を押さえ両腕を強く持ち上げるなど直接その身体に有形力を加えたか否かについて は同人の供述に十分の信憑性を認め難く、Gからやや離れた位置にいたと認められ る被告人L、同Sの行動については尚更であり、他にこれを認めるに足りる証左は ない。また原審第九回公判における証人Hの供述もカメラが取り上げられた当時G の身辺から離れていた関係から、その間の事実関係については必ずしも明らかなも のといい難く、原審第七回公判における証人Kの供述も、被告人の特定については 特に加えるものがない。しかし、被告人FがGの意に反してGが両手で押さえ持つ たカメラを取り上げるためこれを同人の両手で押さえ、引き上げるようにして取り 上げたことは同人の認めるところであり、刑法第二〇八条の暴行罪の成立には有形 力が直接人の身体に加えられなくても間接に身体に加えられれば足りるところ、被 告人Fにカメラ引渡を求める正当の理由のないことは前述のとおりであるから、被 告人FのGに対するカメラ取上げのための有形力の行使は客観的には暴行罪の構成 要件に該当する行為であるといわなければならない。しかしてこの暴行の結果Gが 左手人さし指のつけ根の内側に軽度の挫創及び左手背に打撲挫傷の傷害を受けたこ とは原審における の行使は客観的には暴行罪の構成 要件に該当する行為であるといわなければならない。しかしてこの暴行の結果Gが 左手人さし指のつけ根の内側に軽度の挫創及び左手背に打撲挫傷の傷害を受けたこ とは原審におけるGの証言及び冶療に当つた証人医師Tの原審第七回公判廷におけ る供述によりこれを認めることができる。もつとも同人の証言によれば、Gの受傷 のうち前者は長さ一糎と〇・四糎の切創で、せいぜい二、三日で治るものであつ て、人によつては手当も受けず放置する程度のものであり、後者はいわゆる打身で 患者の訴えに左右され、医師でも正確にはその程度を判断し難いものであるという のであり、受傷直後の告訴により、捜査官が前記預り証の提出を受けてこれを領置 した際の領置調書にも、被疑事件名に傷害が挙げられていないことに徴しても極め て軽微な負傷であつて、これがためGが執務や日常生活に特段の支障を被つたもの とは認められないものであり、後遺症がある旨のGの原審証言は措信し難い。 次に違法性阻却事由の有無を検討すると被告人Fがカメラを取り上げた行為につ いては違法性阻却事由ないし超法規的違法性阻却事由も存しない。すなわち暴行が 労働組合法第一条第二項により労働組合の正当な行為とされるものでないことは、 判例上明らかである。ところで社会生活には自然力の行使が常に必要であつて、暴 行と判断されるものにも主観、客観の要件において多種、多様であればこそ、それ に因る傷害が発生した場合においても刑法第二〇四条は重きは懲役一〇年から軽き は科料五円(罰金等臨時措置法第二条第二項)までの刑を定めているのであつて、 その最も軽い刑で処断するに足る違法性さえないということは殆んどあり得ない。 もとより通勤時の交通機関の乗降の際に往々生ずる自然力の行使及びそれに伴う擦 過傷程度のものは社会生活上着過されるが、これは基本的行 も軽い刑で処断するに足る違法性さえないということは殆んどあり得ない。 もとより通勤時の交通機関の乗降の際に往々生ずる自然力の行使及びそれに伴う擦 過傷程度のものは社会生活上着過されるが、これは基本的行為が暴行に当らない か、ないしは黙示の同意がある場合であるが故に看過されるものと解するのが相当 である。これに対して利益が相反する労使間の交渉の過程に同程度の揉み合いが起 り、傷害が発生するならば、その基本的行為は暴行に当り、黙示の同意もまた予想 されないので傷害罪と解されることが多いのであつて、本件においてもこれらの事 情の差異を考慮に入れることなしに可罰的違法性の理論を用いて刑法第二〇四条の 立法趣旨又は法秩序全体の精神を援用することは許されないものといわなければな らない。 次に刑法第三五条ないし第三七条の定める違法性阻却事由に当らない場合におい てなお違法性がないと解される場合があるかは、いわゆる超法規的違法性阻却事由 として違法性の有無が具体的、実質的なものであるところがらその存在を否定する ことはできないが、またこれを安易に認めることは刑法の弱体化と社会的弊風の是 認につながるおそれがあるので慎重でなければならない。そして超法規的違法性阻 却事由については目的の正当性、手段、方法の相当性、他に適当な方法を容易にと り得なかつたのか(補充性)、法益の均衡等を考慮に入れ、社会通念上実質的違法 性を欠くかどうかを判断しなければならないが、本件においてはこれらすべての要 件を欠いているので、超法規的に違法性を阻却するともいうことができない。とこ ろで本件傷害の公訴事実は被告人四名の共謀による傷害として訴因が構成されてい るので更に検討すると、その間の事実経過は被告人Lの「写真を預かりましよう か」との提案に始まり、それによる被告人Jの前記カメラ引渡要求の行為、被告人 Fに 四名の共謀による傷害として訴因が構成されてい るので更に検討すると、その間の事実経過は被告人Lの「写真を預かりましよう か」との提案に始まり、それによる被告人Jの前記カメラ引渡要求の行為、被告人 Fによるカメラ取上げの暴行と展開するのであるが、叙上の経過状況からみても未 だ被告人四名の間に暴力ないし強制によつてもカメラを取り上げようとの共同意思 が構成され、被告人らが共同一体となつて被告人Fの手を籍りてその犯意を実行に 移したものとまでは認め難い。しかして被告人Jは前示のようにGに詰め寄り両手 の指でGの身体にふれるなどしてカメラの引渡を求めたものであるが、右は未だカ メラの引渡を促す説得行為たるに止まるものと認められ違法な有形力の行使とまで いうことはできない。もつとも被告人JがかようにしてGの左側から語気荒くカメ ラの引渡を求めて同人に詰め寄り、Gをして後退しながらカメラを後手に持ちかえ るに至らせたことは同人の原審第二六回公判及び当審第一二回公判の供述、原審証 人佐藤喜二郎の第七回公判の供述、原審証人Uの第二二回公判の供述によりこれを 認めることができ、その結果としてGがカメラを後ろ手に持ちかえて被告人Fの前 まで後退して行き、被告人Fをして有形力によるカメラの取上げを容易ならしめた ことは否定できないところであるから、これをFの前記暴行ひいては傷害の幇助と 認め得ないではない。しかしながらFにつき暴行ないし傷害の罪の成立を認め難い ことは後記のとおりであるからこれと同一の事情にあり、且つこれに従属して成立 すべきこれらの罪の幇助犯もまた被告人Jにつき(訴因の追加、変更等の措置をと るまでもなく)その成立を否定すべきものといわなければならない。被告人LはG 及びEの事務机を隔ててGと相対する位置にあり、直接カメラ奪取の暴行に手を加 えてはいないものと認められるし、「皆 の措置をと るまでもなく)その成立を否定すべきものといわなければならない。被告人LはG 及びEの事務机を隔ててGと相対する位置にあり、直接カメラ奪取の暴行に手を加 えてはいないものと認められるし、「皆さんフイルムを預かりましようか」と提案 し支部連の者らの賛成を得たということも暴力乃至強制をもつてしてもカメラを奪 取する意思をもつてこれを一同に諮つたものとまでは認められないから被告人Fの 右暴行ないし傷害罪の教唆ないしは共謀による共同正犯の罪責もこれを問うことは できない。被告人SはGの事務机とI支社長の事務机との中間辺に位置し、被告人 Fのカメラ奪取当時は、それ以上Gの方に近付いていなかつたものと認められるか ら、原判決認定の如くGのひじを押えてGの席の方へ押し出すなどしてもみ合い、 カメラ奪取の行為に加功したものとは認められない。 従つて傷害の点については被告人L、同J、同Sはいずれも犯罪の証明がないも のといわなければならな<要旨第三>い。さればカメラ取上げのため有形力を行使し たのは被告人Fのみの行為であると認められ、しかして右は</要旨第三>正当の理由 なき有形力の行使であること前示のとおりであるから客観的には暴行罪の構成要件 に該当する違法な行為たるを免がれないのであるが、前示のとおり、右有形力の行 使は、被告人FにおいてGの写真撮影が違法な行為であると誤信し、これが被告人 F等の権利を侵害し、又は侵害する現在急迫の危険があり、これを排除して自己の 権利を防衛するためフイルムの引渡を求めるのはやむをえないところと信じてなし たものと認められ、同人がその情況下においてかく信じたのは無理からぬところと 考えられるので、その所為はいわゆる誤想防衛行為に該当し、暴行罪の故意責任を 欠くものということができる。しかしながらGはよつて軽微な傷害を受けたもので あるから過失 てかく信じたのは無理からぬところと 考えられるので、その所為はいわゆる誤想防衛行為に該当し、暴行罪の故意責任を 欠くものということができる。しかしながらGはよつて軽微な傷害を受けたもので あるから過失傷害の成否につき検討すると被告人FはGの写真撮影行為を急迫不正 の侵害と誤認したことにつき前示事実経過に照らし、過失の責むべきものありとも 認め難いから訴因の追加、変更の措置をとるまでもなく、Gに対する傷害の行為 は、被告人Fについても犯罪の成立を認め得ないものといわねばならない。されば 本件傷害の公訴事実は被告人四名につきいずれも犯罪の証明なきに帰し、原判示認 定事実は以上の諸点において当裁判所の認定するところと異るものがあるが被告人 四名につき傷害罪の成立を否定すべきものとする点においては当裁判所の判断とそ の軌を一にして正当であるから、右事実の誤認は判決に影響を及ぼすところはない ものといわなければならない。それ故本論旨もまた理由がない。 よつて本件控訴はいずれもその理由がないから刑事訴訟法第三九六条に則り、こ れを棄却すべきものとし、主文のとおり判決する。 (裁判長判事 遠藤吉彦 判事 青柳文雄 判事 菅間英男)
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