平成30(わ)1973 覚せい剤取締法違反

裁判年月日・裁判所
令和元年6月14日 名古屋地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-88992.txt

判決文本文7,827 文字)

主文 被告人は無罪。 理由 第1 公訴事実訴因変更後の本件公訴事実は,「被告人は,A,B,C及び氏名不詳者らと共謀の上,営利の目的で,みだりに,平成30年10月4日,名古屋市(住所省略)所在の倉庫内において,覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する結晶約306.0511kg及び覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパンを含有する結晶約33.5376kgを所持した」というものである。 第2 前提となる事実及び本件の争点関係証拠によれば,次のとおり認められる。 警察官は,平成30年10月4日(以下の日付は特段断らない限り平成30年のことをいう。),被告人の知人であるDの通報を受けて,名古屋市(住所省略)所在の倉庫(以下「本件倉庫」という。)に臨場した。この際,A,B及びCは,本件倉庫内に保管されていた段ボールからホイールを取り出し,そのホイールからアルミホイールを取り外す作業をしていた。本件倉庫内にはホイールが入った段ボール,段ボールから取り出されたホイール,ホイールから取り外されたアルミホイール等があり,そのアルミホイールの中にはビニール袋入りの覚せい剤が入っていた。前記警察官は,この覚せい剤を差し押さえるとともに,Aら3名を現行犯人逮捕した。捜査の結果,本件倉庫内にはホイール192本(以下「本件ホイール」という。)があり,覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する結晶約306.0511㎏及び覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパンを含有する結晶約33.5376㎏(以下これらの覚せい剤を合わせて「本件覚せい剤」という。)が隠匿されていたことが判明した。 本件の争点は,⑴被告人が本件倉庫内に隠匿されていた本件覚せい剤を所持し る結晶約33.5376㎏(以下これらの覚せい剤を合わせて「本件覚せい剤」という。)が隠匿されていたことが判明した。 本件の争点は,⑴被告人が本件倉庫内に隠匿されていた本件覚せい剤を所持していたか否か(争点⑴),⑵被告人が本件倉庫内に本件覚せい剤が隠匿されていると認識していたか否か(争点⑵),⑶被告人が共犯者との間で,本件覚せい剤の所持について共謀していたか否か(争点⑶),⑷被告人に本件覚せい剤の所持について営利目的があったか否か(争点⑷),である。 第3 争点⑴に対する判断 1 関係証拠によれば,次のとおり認められる。 被告人は,8月20日,E商会の名義で本件倉庫を賃借する契約を締結し,その後,本件倉庫の鍵2本のうち1本を保管していた。被告人は,9月19日,名古屋税関西部事務所において,本件ホイールの輸入申告を行い,10月2日,本件倉庫内に段ボールに収納された本件ホイールを自ら搬入した。被告人は,同月3日,本件倉庫を施錠して日本を出国し,その際,Dに対し,自らの不在時に本件倉庫の見回りをするように依頼した。 2 これらの事情に加え,前記のとおり,10月4日,本件倉庫内に本件ホイールがあり,本件ホイール内等に本件覚せい剤が隠匿されていたことなどを併せ考えると,被告人は,本件倉庫を管理するとともに,本件倉庫内において,本件ホイールを保管していたと認められ,本件ホイール内に隠されるなどした本件覚せい剤についても所持していたと認められる。 弁護人は,被告人が10月4日は本件倉庫にいなかったので,本件覚せい剤を所持していたとはいえない旨主張する。しかしながら,覚せい剤の所在地にいなくても,同所を管理している状態が認められれば,その内部に存在している物についても所持していると認められるので,弁護人の主張は採用できない。 第4 争点 張する。しかしながら,覚せい剤の所在地にいなくても,同所を管理している状態が認められれば,その内部に存在している物についても所持していると認められるので,弁護人の主張は採用できない。 第4 争点⑵に対する判断 1 本件ホイールは,正規品ではないにもかかわらず,高額な費用,複数の人手や手間を掛けて本邦に輸入されたものであることについて⑴ 検察官は,被告人は,本件ホイールが正規品ではなく,高額では転売でき ないにもかかわらず,高額な費用,複数の人手や手間を掛けて大量に本邦に輸入されたものであるので,本件ホイールに仮装して違法な物品が密輸されたと認識し得たと認められ,高額の費用をかけてまで海外から密輸するものとして想定されるのは覚せい剤を含む違法薬物であることは明らかであるので,本件ホイール内に覚せい剤を含む違法薬物が隠されていることを認識していたと推認される,と主張する。 ⑵ そこで検討すると,関係証拠によれば,次のとおり認められる。 ア被告人は,平成29年10月頃,台湾所在のタイヤホイールを製造する会社の社長(CEO)を名乗るFなる人物から,いわゆるF1用のタイヤホイールを日本で販売するので,これを保管する倉庫を借りてほしい旨依頼された。被告人は,同年11月6日,Fから250万円を受け取り,同月21日,名古屋市a区b所在の倉庫(以下「b倉庫」という。)を被告人自身が賃借する内容の賃貸借契約を締結した。その後,被告人は,Fから預かった金員を使い込むなどしてb倉庫の賃料を支払わず,その賃貸借契約を解約された。 8月18日,Fが台湾から名古屋に向けて輸出手続をしたサンプル用ホイールが名古屋港に到着した。その頃までに,Fらは,b倉庫の賃貸借契約が解約されていることを知り,被告人に対して,別の倉庫を賃借するように依頼した。 台湾から名古屋に向けて輸出手続をしたサンプル用ホイールが名古屋港に到着した。その頃までに,Fらは,b倉庫の賃貸借契約が解約されていることを知り,被告人に対して,別の倉庫を賃借するように依頼した。同月20日,被告人が本件倉庫を賃借する旨の契約を締結した際,その場に同席したAが1か月分の賃料20万円を含む合計81万6000円の初期費用を現金で支払った。また,被告人は,9月10日,本件倉庫に関する費用等として60万円をFから振込みの方法で受け取った。 イ被告人は,Fらの依頼に基づいて,9月11日,名古屋税関西部事務所において,前記サンプル用ホイールの輸入申告手続を行ってこれを受け取り,その後,トラックを手配するなどして,本件倉庫内に前記サンプル用 ホイールを搬入した。被告人は,同サンプル用ホイールが入った段ボールを開封して検品したり,取引業者等に引き渡したりすることなく,そのままの状態で保管していた。 ウ被告人は,9月18日,Fから振込みの方法により本件ホイールの輸入申告時の納税資金等として190万円を受け取ったものの,同日頃,その全額を自己の借金返済に充てるなどした。そのため,被告人は,本件ホイールの輸入に必要な納税をして本件ホイールを受け取ることができず,同月23日,日本を出国した。 エ Fは,被告人による前記ウの着服に気付いて,9月28日,来日中のAらをして本件ホイールの輸入に必要な納税資金を用意させ,同日中に,Dに対し,60万円を現金で手渡すとともに,約70万円を中国の銀行口座に振り込む方法で送金した。Dは,同日,被告人に確認した上,名古屋税関西部出張所において,本件ホイールの輸入申告時の消費税及び地方消費税合計121万7200円を納付し,本件ホイールの輸入について許可を受けた。 オ被告人は,9月30日,日本に 認した上,名古屋税関西部出張所において,本件ホイールの輸入申告時の消費税及び地方消費税合計121万7200円を納付し,本件ホイールの輸入について許可を受けた。 オ被告人は,9月30日,日本に帰国し,10月2日,本件倉庫の賃料として20万円を振込み送金した。また,被告人は,同日,G運送会社に依頼して本件ホイールを本件倉庫まで運搬させた上,被告人自身が本件倉庫内に本件ホイールを搬入した。 カ本件ホイールが入った段ボールには製造番号が記載されていない上,正規の品質認定証を真似た虚偽の品質認定証のシールが貼られており,本件ホイールは,その構造上,安全性に問題があるなど,自動車用のホイールとして,正規に販売することができないものであった。被告人は,段ボールに製造番号が記載されていないことを見て本件ホイールに製造番号が付されていないことを認識しており,Fに対して,Fの経営するという会社とその取引先との間の本件ホイールについての契約書を示すように求めた ものの,Fからその契約書を示されたことはなかった。 ⑶ 前記のとおり,被告人は,本件ホイールは正規品であれば付されているはずの製造番号が付されていないなど正規品でないことを認識するとともに,Fらが本件ホイールの輸入や輸入後の保管のために,本件倉庫に関する費用等60万円,納税費用190万円,Dが納付した税金約122万円及び本件倉庫の賃料等約100万円の合計約500万円もの多額の費用を負担していることを認識していた。このように,被告人は,正規品でない本件ホイールの輸入や保管のために高額の費用が負担されていることを認識していたと認められ,このことから,被告人は,本件ホイールの取引が正常なものでないことを認識していたと推認することができる。 もっとも,被告人が本件ホイールの取引が正常な取引 担されていることを認識していたと認められ,このことから,被告人は,本件ホイールの取引が正常なものでないことを認識していたと推認することができる。 もっとも,被告人が本件ホイールの取引が正常な取引でないことを認識していたとしても,そのことから直ちに本件ホイールに何らかの物質が隠匿されているかもしれないと思い至ることが当然であるということはできない。 被告人自身,正常な取引ではないと感じながらも報酬を得られるのであればそれで構わないと思い,高額の費用に見合う物品が本件ホイールに隠匿されている可能性まで思い付くことなく,Fらの指示通りに行動していたにすぎない可能性も否定できないからである。 2 Fからの依頼内容や行動が不自然であることについて⑴ 検察官は,①台湾所在の大手タイヤホイール製造会社の社長自身が,いわゆるF1用のタイヤホイールを日本で販売するため,それまで取引の実績のない被告人に対して,そのタイヤホイールを保管するための倉庫の賃貸借契約の締結を依頼したこと,②被告人が金銭を使い込んだことからb倉庫についての賃貸借契約が解除されたことを知りながら,更に被告人に新たな倉庫の賃貸借契約の締結を依頼したこと,③サンプル用ホイールの品質の確認や引渡しが行われていないにもかかわらず,サンプル用ホイールの輸入から10日も経たないうちに更に192本もの本件ホイールが輸入されたこと,④ 本件ホイールには正規品であれば当然付されるべき製造番号が付されていないことなどを指摘して,本件ホイールの取引は正常な取引とかけ離れた不自然なものであり,被告人は,それらのことを認識していたので,本件ホイール内に覚せい剤を含む違法薬物が含まれていることを認識していたことは一層明らかである,と主張する。 ⑵ そこで検討すると,前記認定のとおり,本件ホイールが それらのことを認識していたので,本件ホイール内に覚せい剤を含む違法薬物が含まれていることを認識していたことは一層明らかである,と主張する。 ⑵ そこで検討すると,前記認定のとおり,本件ホイールが製造番号が付されていないなど正規品でないものである一方,その輸入・保管にFが高額の費用を負担していた。しかも,Fは,被告人がFから渡された金銭を使い込み賃料の支払を怠っていたためにb倉庫の賃貸借契約が解除されたことを知っていたにもかかわらず,被告人に対して本件倉庫の賃借を依頼した。また,サンプル用ホイールを輸入したのであれば,取引業者等によってその品質を確認し,取引業者等に引渡しを行うのが通常であるのに,被告人が輸入手続を行ったサンプル用ホイールは取引業者等による品質の確認や取引業者等への引渡しが行われず,被告人もそのことを認識していた。そして,被告人は,台湾のタイヤホイール会社とその取引先との本件ホイールについての契約書も確認していなかった。 このように,本件ホイールの取引には不自然な点が多数あり,これらは,本件ホイールの取引が正常な取引でないという被告人の認識を強める事情であったといえる。 しかしながら,被告人が本件ホイールの取引が正常な取引でないことを十分認識していたとしても,前記のとおり,そのことから直ちに本件ホイール内に覚せい剤を含む違法薬物が隠匿されていると認識していたということはできない。 この点,被告人は,本件ホイールは模造品だと思っており,本件ホイール内に覚せい剤が隠匿されているとは認識していなかった旨供述する。前記のとおり,被告人は,本件ホイールの取引が正常な取引でないと認識していた と認められ,このような正常でない取引として模造品の取引を想起することは十分にあり得ることである。もっとも,検察官の指摘するとおり ,被告人は,本件ホイールの取引が正常な取引でないと認識していた と認められ,このような正常でない取引として模造品の取引を想起することは十分にあり得ることである。もっとも,検察官の指摘するとおり,模造品であれば廉価であることが通常であるので,本件ホイールの輸入等に多額の費用が投じられていることは本件ホイールが模造品であることと整合しない事実であるとみることもできる。しかしながら,本件ホイールが模造品である場合にそれを正規品と偽って販売することができれば,本件ホイールの本数が192本と多数であることも考え合わせると,本件ホイールの輸入や保管に費やした費用や労力に見合った利益を得られる可能性もあり,そうだとすれば,正規品でない本件ホイールの取引に多額の費用が投じられていることも直ちに不合理ということはできない。そうすると,被告人が本件ホイールを模造品だと信じており,本件ホイールに覚せい剤が隠匿されていると認識していなかった可能性もやはり否定できない。 また,検察官は,本件ホイールが模造品であるならば,実際に販売先となる買取業者等が存在するはずであり,サンプル用ホイールを引き取りに来る業者もないまま,本件ホイールが輸入されたことは,それが模造品の取引であることを前提としても不自然であると指摘する。しかしながら,被告人は,Fの経営するという会社の内部事情や模造品の取引方法について知らされていたとは限らないので,本件ホイールの取引が模造品の取引として不自然であるとまでは考えておらず,なお本件ホイールに覚せい剤が隠されていることに思い至らなかった可能性も否定できない。 3 その他の検察官の主張について検察官は,被告人がH株式会社による機械警備を依頼したことは,被告人が本件倉庫内に搬入した荷物内に覚せい剤を含む違法薬物が隠匿されていること 能性も否定できない。 3 その他の検察官の主張について検察官は,被告人がH株式会社による機械警備を依頼したことは,被告人が本件倉庫内に搬入した荷物内に覚せい剤を含む違法薬物が隠匿されていることを認識していたという推認を強める事実である,と主張する。 関係証拠によれば,被告人は,9月頃,本件倉庫の仲介会社従業員に対し,本件倉庫周辺に塀を設置してほしい旨依頼し,本件ホイールを本件倉庫内に搬 入した後の10月2日午後6時頃,H株式会社から本件倉庫の機械警備の見積りを取り,同社との間で,同月8日に月額約1万5000円の料金プランの契約を締結することを約束していたことが認められる。これらの事実は,被告人が本件倉庫に盗難を防ぐ必要のある物品が保管されていると認識していたことを推認させるものではあるが,このことから直ちに本件ホイール内に覚せい剤を含む違法薬物が隠匿されているかもしれないとの認識に至るとまではいえず,かえって,これらの行動は本件倉庫に保管されている本件ホイール内に覚せい剤を含む違法薬物が隠匿されていることが第三者に発覚する可能性を高める行動ということもできる。したがって,被告人が本件ホイールが正規品でないにもかかわらず多額の費用を支出して本件倉庫内に保管されていることなどの事情を認識していたことを併せ考えても,上記事実から,被告人が,本件ホイール内に覚せい剤を含む違法薬物が隠匿されていることを認識していたと推認することはできない。 4 小括以上のとおり,関係証拠により認定できる事実によれば,被告人は,本件ホイールの取引が正常な取引でないと認識していたと推認できるものの,本件覚せい剤は本件ホイール内に隠匿する方法により輸入され,本件倉庫内に搬入されたのであり,被告人は外形的にはタイヤホイールの輸入の手続を取っていたにす 取引でないと認識していたと推認できるものの,本件覚せい剤は本件ホイール内に隠匿する方法により輸入され,本件倉庫内に搬入されたのであり,被告人は外形的にはタイヤホイールの輸入の手続を取っていたにすぎないのであるから,被告人が本件ホイールに何らかの物質が隠匿されているとは思い至らなかった可能性が否定できない。また,前記のとおり,被告人は,本件倉庫についてH株式会社と契約を進めており,関係証拠によれば,被告人は,10月3日,日本を出国したが,同日,Dに電話をして,本件倉庫の見回りをするように依頼したことも認められる。これらの行動は,本件倉庫内に保管された本件ホイール内に隠匿された覚せい剤を第三者に発見される危険性を高める行動ということができ,被告人が本件ホイール内に覚せい剤を含む違法薬物が隠匿されていることを認識していたとすれば不合理な行動ともい える。したがって,前記のとおり,本件ホイールを模造品だと思っており,本件ホイール内に覚せい剤が隠匿されていることを認識していなかったという被告人の弁解も直ちに排斥することはできない。これらの事情を総合的に考慮すると,被告人が本件ホイール内に覚せい剤を含む違法薬物が隠匿されていると認識していたと認めるには合理的な疑いが残るというべきである。 第5 結論以上のとおり,被告人に,本件ホイール内に覚せい剤を含む違法薬物が隠匿されているとの認識があったと認めるには合理的な疑いが残るというべきである。そうすると,その余の争点について判断するまでもなく,本件公訴事実については犯罪の証明がないことになるので,刑訴法336条により被告人に対し,無罪の言渡しをする。 (求刑-懲役10年,罰金350万円及び覚せい剤の没収)令和元年6月25日名古屋地方裁判所刑事第3部 裁判長裁判官吉 訴法336条により被告人に対し,無罪の言渡しをする。 (求刑-懲役10年,罰金350万円及び覚せい剤の没収) 令和元年6月25日名古屋地方裁判所刑事第3部 裁判長 裁判官吉井隆平 裁判官細野高広 裁判官澤田真里

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る