平成15(わ)34 殺人被告事件

裁判年月日・裁判所
平成15年11月13日 福井地方裁判所
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判決文本文5,666 文字)

主文 1 被告人を懲役14年に処する。 2 未決勾留日数中180日をその刑に算入する。 理由 (犯行に至る経緯)被告人は、昭和43年3月に夫と婚姻し、夫の母(以下「被害者」という)と父とが夫と同居する福井県内の夫方で生活を始め、夫との間に昭和44年1月に長男を,昭和46年2月に次男を,昭和47年10月に長女をもうけた。 夫は、昭和52年頃、元勤務先の同僚であったA子と惣菜製造販売の共同経営を始めたが、被告人は、その頃から、夫が自分から離れて行くとの不安を感じ、被害者が食事の席で夫と楽しげに話したりしただけでも被害者に対し睨みつけたり文句を言ったりして嫌がらせをし、さらに、昭和58年頃に夫が始めた惣菜販売の食堂で手伝いをするようになると、夫がA子を自動車で送迎する姿やA子と息の合った仕事をしている姿を見て、A子が夫と親密な関係にあると思い込み、夫を取られると思ってA子に嫉妬し、昭和59年頃からA子に対し夫との関係を非難する内容の電話をかけたり無言電話をかけたりして嫌がらせを繰り返した。その録音テープの声を聞いて被告人の仕業と確信した夫は、被告人に対し、そのテープに録音された被告人の声を聞かせて、嫌がらせの理由等を追及したが、夫が浮気していると思っていた被告人は、明白な証拠を突きつけられても、自分の仕業であることを頑強に否定した。このように現実離れの思い込みが激しく他罰的で自分の非を認めようとしない被告人の性行に愛想を尽かした夫は、一旦は離婚まで考えたものの、世間体や子供らの心情に配慮し、被告人を自宅から出して別居させるだけにとどめることとしたため、被告人は、昭和60年頃から福井市内のアパートに一人で暮らすようになった。 上記のとおり他罰的で自分の非を 体や子供らの心情に配慮し、被告人を自宅から出して別居させるだけにとどめることとしたため、被告人は、昭和60年頃から福井市内のアパートに一人で暮らすようになった。 上記のとおり他罰的で自分の非を認めようとしない性格の被告人は、夫方を出た後も、その性格を改めようとはせず、約15年間にわたり夫方を訪れようともしなかった。他方、被告人がいなくなった家では、被害者が母親代わりとなって子供3人の世話をしたため、3人とも被害者に懐き、とりわけ長男は被害者に対する親愛の情を深めていった。 しかるところ、被害者は、喜寿も過ぎた平成11年頃、夫及び子供3人に対し被告人を自宅に戻すよう提案し、長女の結婚式に母親がいないと嫁ぎ先の親戚に肩身の狭い思いをするだろうし、自分が死んだら家事をする者がいなくなるなどと説得した。被告人が以前のように被害者に嫌がらせをすることを危惧した夫や長男が当初は反対したものの、結局、全員が被害者の提案に従うことになった。そこで、被害者は、被告人に戻るよう電話し、これに応じた被告人が再び夫方で生活するようになった平成12年1月頃、自分の部屋を納屋の隣に移し、被告人がするようになった家事については口出しをしないようにして、被告人との争いが起こらないように努めていた。 しかるに、上記のとおり現実離れの思い込みが激しく他罰的な性格を直すことのできなかった被告人は、食事の際に被害者が夫や長女と楽しそうに振る舞っていたりするのを見ただけで、夫や長女を被害者に取られてしまうと思い込み、被害者に対し扉をわざと強く閉めたり食器を乱暴に扱ったりして嫌がらせをした。夫は、かかる被告人の嫌がらせに気づいたときには、やめるよう被告人を叱ったが、被告人が以前と同様に自分の非を認めようとはしないこともあって愛想を尽かし、次第に被告人に対し無関心な態 嫌がらせをした。夫は、かかる被告人の嫌がらせに気づいたときには、やめるよう被告人を叱ったが、被告人が以前と同様に自分の非を認めようとはしないこともあって愛想を尽かし、次第に被告人に対し無関心な態度をとるようになった。他方、長男は、被告人の被害者に対する嫌がらせを見聞きしたときには、被告人に対し「何でそんな嫌らしいことを言うんや。結局、お前の性格は何も変わってえんな。」などと何度も怒鳴りつけただけではなく、帰宅すると、被告人の嫌がらせから被害者を守る目的で被害者の部屋へ赴き、その話し相手となって過ごすようになった。 かかる家族間の対立に心を痛めた被害者は、被告人に対して一層気を遣うようになり、自分用の冷蔵庫等を自分の部屋に置き、専用の携帯電話を持つなど、被告人と接触する機会をできるだけ減らす一方、長男が被告人を怒鳴りつけるのを見た際には長男をたしなめるなどして、被告人との対立関係の改善に努めていた。 しかしながら、被告人は、被害者の心痛や被告人に対する気遣いを全く思いやることができなかっただけではなく、自分に対し夫が無関心な態度をとるのも長男が罵声を浴びせかけるのも、もっぱら自分に原因があるということを全く理解しようとはしなかったため、長男から大切にされる被害者の様子を見て益々被害者をねたみ、被害者に対する嫌がらせを繰り返し、これを見聞きした長男に怒鳴りつけられることを繰り返した。かかる長男の言動を他罰的にしか受け取れない被告人は、その対応について夫に相談したものの、まともに取り合ってもらえなかったため、自分一人で孤独感を深めていっただけではなく、長男が自分にひどい仕打ちをするのは、被害者が長男の育て方を誤ったうえ自分の行動を誇張して長男に伝えているせいであると、全く筋違いの思い込みをして、長男を被害者に奪われたとの思いを募ら けではなく、長男が自分にひどい仕打ちをするのは、被害者が長男の育て方を誤ったうえ自分の行動を誇張して長男に伝えているせいであると、全く筋違いの思い込みをして、長男を被害者に奪われたとの思いを募らせ、こともあろうに被害者を憎むようになった。 平成14年8月19日の夕方、被告人は、長男から飼い犬に餌を与えるのを禁止されていたのに餌を与えようとしたところを長男に見つかり、これを長男から追及された際、悪気があったわけではないとの思いから、「私が食べようとしただけや。」などと嘘をついて頑強に否定したため、その態度に立腹した長男は、被告人の足や腰を足蹴にしたうえ、わざと被告人の旧姓を使って呼びかけ、被告人が家では不要な人間である旨を表明した。その声を聞いた被告人は、長男に親でもなければ子でもないと言われたのに等しいと感じて深く傷つくとともに、長男がそんなことを言うのは、被害者の躾が悪かったせいであると考え、被害者に対し怒りの気持ちまで抱くようになった。翌20日の夕方にも長男から怒りを込めた口調で「出て行け。」などと怒鳴りつけられた被告人は、その後、夫及び被害者と夕食をとった際、憎い被害者に嫌がらせをして自分の気持ちを伝えようと考え、夫が台所を離れたのち、被害者の面前の食卓に布巾を叩きつけたり、床に落ちていた小豆のかすを理由に被害者を非難したりした。これを被害者から聞いた長男は激怒し、被害者が止めるのも聞かずに台所へ行き、被告人に対し「おめーは、うちにはいらん。出て行ってしまえ。死んでしまえ。」などと激しく怒鳴りつけた。両日にわたって長男から罵声を浴びせられた被告人は、その内容も態度もこれまでになかったほど厳しく激しいものと感じ、夫に愚痴を言ったが、夫はまじめに取り合おうとはしなかった。 被告人は、同月20日夜、2階の寝室で床に就いたのちも せられた被告人は、その内容も態度もこれまでになかったほど厳しく激しいものと感じ、夫に愚痴を言ったが、夫はまじめに取り合おうとはしなかった。 被告人は、同月20日夜、2階の寝室で床に就いたのちも長男の罵声が頭から離れず、あれこれ思いを巡らすうち、長男が自分に罵声を浴びせるのは被害者がいるからであり、このままでは夫も子供3人も被害者に取られてしまう、自分がこんなにつらい思いをしているのも被害者が悪いからであるとの思いから、被害者さえいなくなれば家族とうまくやっていけるはずであるとの考えに至り、被害者の殺害を決意するとともに、殺害後、家族とうまくやっていくには自分の仕業と知れないことが絶対条件であり、被害者の部屋の隣室にあるたんすを荒らしておけば第三者の犯行を偽装できると考えた。翌21日午前4時頃になり、被告人は、時間が経てば明るくなるうえ、長男が目を覚まして気づかれるかも知れないと考え、その前に被害者の殺害を実行することとし、物音を立てないように忍び足で被害者の部屋に向かった。 (犯罪事実)被告人は、平成14年8月21日午前4時過ぎ頃、自宅1階の被害者の部屋において、殺意をもって、高さ数十センチメートルのベッドで就寝中の被害者に近寄り、近くにあったタオルを被害者の首に置いて前屈みになり、その首を両手で絞めつけたものの、苦しそうなうめき声を上げてもがく被害者がなかなか絶命しないため、被害者の手を左膝で押さえつけて胸を右膝で圧迫しながら両手で首を絞め続け、なおももがき続ける被害者の胸に両膝を乗せて馬乗りになり、その口と鼻をタオルの上から押さえつけ、さらに、憎い被害者を死ぬ間際に更に苦しませるために、ベッド枕頭の縦板を両手でつかんで支えにしながら体重をかけた両足で被害者の胸等を何回も踏みつけ、静かになった被害者にとどめを刺すために首を えつけ、さらに、憎い被害者を死ぬ間際に更に苦しませるために、ベッド枕頭の縦板を両手でつかんで支えにしながら体重をかけた両足で被害者の胸等を何回も踏みつけ、静かになった被害者にとどめを刺すために首を絞めるなどし、よって、その頃、上記ベッド上で被害者(当時81歳)を窒息死させて殺害した。 (弁護人の主張に対する判断)弁護人は、仮に本件犯行当時被告人に殺意があったとしても、ある事柄に過剰に反応する性格の被告人は、長男の二日間にわたる執拗な「いじめ」に当たる罵倒と暴行を受けて極限状態に達していたため、正常な判断能力を失い、事理の是非善悪を弁識する能力が著しく低下した状態で本件犯行に及んだものであって、心神耗弱の状態にあった旨を主張するが、証拠によれば、本件犯行当時、被告人に完全な責任能力があったことは明らかであるから、弁護人の主張は採用できない。 (法令の適用) 1 罰条刑法199条 2 刑種の選択有期懲役刑 3 未決勾留日数の算入刑法21条(量刑の事情) 1 本件は、自己洞察能力の乏しい他罰的な被告人が、長男から罵倒される原因はひとえに義母の被害者にあると思い込み、あろうことか、憎しみのあまり高齢の被害者を苦しめながら殺害したという事案である。 2 被告人が本件犯行の動機とした長男の言動には、実母に対する一片の情も窺われないが、それは、被告人が被害者に対する嫌がらせを繰り返し、いくら注意されても自分の非を認めようとはせず、その非を他に転嫁する被告人の性行にこそ原因があったのであり、長男が被告人に対し子としての情愛を喪失して罵倒するようになったのも、被告人がみずから招いた結果と見るほかはない。しかも、被害者は、家族を説得して、約15年間放逐されていた被告人を自宅へ迎え入れ、被告人から再び嫌がらせを受けるよ を喪失して罵倒するようになったのも、被告人がみずから招いた結果と見るほかはない。しかも、被害者は、家族を説得して、約15年間放逐されていた被告人を自宅へ迎え入れ、被告人から再び嫌がらせを受けるようになった後も、被告人のためになるよう可能な限り配慮して尽力していたのであって、被告人にとっては恩人と言っても過言ではない。にもかかわらず、被告人が筋違いの逆恨みをして被害者を殺害したのは、恩を仇で返したものというほかはない。本件犯行の動機に酌量の余地は全くない。 本件犯行の態様は、家人に気づかれないよう早朝の時間帯に、就寝中で抵抗できない被害者の首を絞め、もがき苦しむ被害者に一片の憐憫の情すらかけることなく、死の間際に更に苦しみをあたえるために胸を踏みつけるなどして殺害したというものであって、強固な殺意に基づく冷酷極まりない犯行である。 被害者は、被告人が家族としてなじめるように配慮しながら、曾孫の成長等を楽しみに老後の人生を送っていたのに、突然、気づかってきた被告人の手にかかり、苦しみながら一生を終えたのである。その無念さは察するに余りある。 さらに、被害者さえいなくなれば家族とうまくやっていけるとあさはかにも思い込んだ被告人は、第三者の犯行を装うための偽装工作を考えたうえで本件犯行を遂行し、現に犯行後、隣の納屋の戸外へ通じる引き戸の鍵を開け、たんすの引出から衣服等を取り出して散らかすなど、冷静沈着に行動して第三者が物色したような痕跡を作り出し、起訴前の勾留中に否認し切れなくなるまで、いくら追及されても頑強に本件犯行を否定し続け、自分の責任を直視しようとはしなかった。 このように本件犯行の動機及び態様は悪質極まりなく、その結果も重大であり、犯行後の態度も芳しくないことからすれば、被告人の刑事責任は相当に重く、厳罰をも 分の責任を直視しようとはしなかった。 このように本件犯行の動機及び態様は悪質極まりなく、その結果も重大であり、犯行後の態度も芳しくないことからすれば、被告人の刑事責任は相当に重く、厳罰をもって臨むほかはない。 3 他方、被告人は、前科も前歴もなく、遅ればせながら本件犯行自体を認めて争わず、今後は被害者の冥福を祈りながら生きていきたいと述べるに至っていることなど、被告人のために斟酌すべき情状もないではない。 4 以上の事情のほか諸般の事情をも考慮して、主文のとおり量刑した。 平成15年11月13日福井地方裁判所刑事部裁判長裁判官松永眞明裁判官中山大行裁判官松本展幸

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