令和4(う)760 金融商品取引法違反

裁判年月日・裁判所
令和7年2月4日 東京高等裁判所 東京地方裁判所 平成30特(わ)3350
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判決文本文31,708 文字)

令和7年2月4日宣告東京高等裁判所第4刑事部判決令和4年(う)第760号金融商品取引法違反被告事件 主文 本件各控訴を棄却する。 理由 第1 本件事案の概要と控訴の趣意(以下、呼称等は原則として原判決の例による。) 1 本件各公訴事実の概要は、A株式会社の代表取締役等であった被告人が、同社の代表取締役会長等であったB及び同社の秘書室長であったCらと共謀の上、A株式会社の業務に関し、平成22年(2010年)度から平成 29年(2017年)度までの各連結会計年度につき、関東財務局長に対し、Bの報酬、賞与その他その職務執行の対価としてA株式会社及びその主要な連結子会社から役員として受ける財産上の利益について、虚偽の記載のある有価証券報告書を提出した、というものである。 2 原判決は、平成29年(2017年)度の連結会計年度に係る公訴事 実について被告人を有罪とし(原判示第2)、その余の公訴事実については被告人を無罪とした。 3 検察官の控訴の趣意は、原判決が無罪とした各事実に関する各事実誤認の主張である。 弁護人の控訴の趣意は、不告不理違反、訴訟手続の法令違反及び事実誤認 の主張である。 第2 原判決の事実認定の補足説明の概要 1 本件の争点 検察官は、Bの報酬の中には、取締役としての職務執行の対価として、支払われる金額は定まっているものの、支払を延期され、いずれ支払われる ものとして管理されている未払の報酬があり、この未払報酬を含めた報酬額 を有価証券報告書に記載して開示すべきであったのに、これを記載せずに既払分の報酬額しか開示しなかったことをもって「虚偽の記載」(金商法197条1 払の報酬があり、この未払報酬を含めた報酬額 を有価証券報告書に記載して開示すべきであったのに、これを記載せずに既払分の報酬額しか開示しなかったことをもって「虚偽の記載」(金商法197条1項1号)に当たると主張する。そして、Cは、裏報酬である未払報酬の金額の記録及び管理の役割を担い、被告人は裏報酬である未払報酬の支払方法(支払名目)の検討及び整備の役割を担っていたもので、被告人が検討 していた各種の支払方法等はBの未払報酬を支払うためのものであった旨主張する。 弁護人は、Bの報酬について有価証券報告書に記載した金額のほかに記載すべき未払の報酬は存在しないし、仮にBとCとの間に有価証券報告書に本来記載すべき金額より低い金額を記載して提出する旨の共謀があったと しても、被告人との間にはそのような共謀はない旨主張するとともに、本件でA株式会社が提出した有価証券報告書におけるBの報酬に関する記載は、刑事罰の対象となる「虚偽の記載」に該当しない旨も主張し、被告人は無罪であるとする。 検察官及び弁護人の各主張を踏まえると、まず、Bの報酬の中に有価 証券報告書に記載して開示すべきであるのに開示されていない未払の報酬が存在するのか否か、すなわち、「Bの開示すべき未払の報酬の存否」が争点となる。 次いで、Bの開示すべき未払の報酬の存在が認められた場合、これを含む報酬額を有価証券報告書に記載せずに提出することについて、B及びCに認 識があったか否か、更にはBとCとの間で共謀があったか否か(「BとCとの共謀の有無」)が問題となり、結論としてB及びCに虚偽記載有価証券報告書提出罪が成立するか否かを検討することになる。なお、同罪の成否を検討するに当たっては、本件でA株式会社が提出した各有価証券報告書に「虚偽の )が問題となり、結論としてB及びCに虚偽記載有価証券報告書提出罪が成立するか否かを検討することになる。なお、同罪の成否を検討するに当たっては、本件でA株式会社が提出した各有価証券報告書に「虚偽の記載」があるのか否かが前提の問題となる。 さらに、BとCとの共謀が認められ、両者に虚偽記載有価証券報告書提出 罪の成立が肯定された場合に、「被告人とB及びCとの共謀の有無」が問題となる。そして、その前提として、被告人に虚偽記載有価証券報告書提出罪の故意が認められるか否かが問題となり、更にその前提として被告人がBの開示すべき未払の報酬の存在について認識していたか否か(「Bの開示すべき未払の報酬に関する被告人の認識の有無」)が問題となる。 2 Bの開示すべき未払の報酬の存否会社としては、①会社における権限規定等に基づいて取締役の報酬について決定する正当な権限を有する者が、②会社の所定の手続に従って取締役の報酬額を決定し、③会社の所定の部署において取締役の報酬が継続的に管理されている場合、その取締役の報酬額を開示すべきである。 本件当時、取締役社長又は取締役会長の地位にあったBは、自身を含む各取締役の報酬について決定する正当な権限を有していた。また、Bは、毎年度末に、新年度の自己の報酬に関する方針を秘書室長に指示し、秘書室長らが所要の計算を行って算定された報酬総額(「GRANDTOTAL」)、有価証券報告書で開示することとした報酬額(「Actuallypaidamount」)、報酬総額から 開示することとした報酬額を差し引いた残額である未払の報酬額(「Remaining」)を1円単位まで明記した報酬計算書を作成してBに提示していた。Bは、これを確認するなどして報酬額の案を決定し、その決定を踏ま とした報酬額を差し引いた残額である未払の報酬額(「Remaining」)を1円単位まで明記した報酬計算書を作成してBに提示していた。Bは、これを確認するなどして報酬額の案を決定し、その決定を踏まえて報酬通知書が作成されてBに交付され、報酬計算書で確認された内容に従って月次の報酬がBに支払われ、さらに、秘書室において、支払額に基 づく報酬明細書のほかに、報酬総額に基づく報酬明細書も作成して保管していたほか、「Remaining」又は「PostponedRemuneration」の額をその後の年度において累積していくものとして継続的に管理していた事実が認められる。 このように、取締役の報酬について最終的に決定する正当な権限を有するBがA株式会社の所定の手続に従ってBの報酬を決定し、その後もBの報酬 は秘書室において継続的に管理されていたといえる。 以上によれば、A株式会社は、各連結会計年度において、Bが報酬計算書に基づいて決定した報酬額、すなわち報酬計算書に記載された実際に支払われた報酬額と未払の報酬額を合わせた報酬総額を、当事業年度に係るBの報酬として開示すべきであったと認められる。 3 虚偽記載有価証券報告書提出罪の成否(客観的構成要件該当性) 取締役の報酬等の額は金商法197条1項1号の「重要な事項」に当たる。 また、真実に合致しない情報を投資者に提供したと評価される場合には「虚偽の記載」があるといえる。 本件有価証券報告書の「役員の報酬等」の記載全体を読んだ投資者は、A株式会社が支払う取締役の報酬には確定額金銭報酬と株価連動型インセンテ ィブ受領権があると理解し、後者は「<役員ごとの連結報酬等の総額等但し、連結報酬等の総額1億円以上である者>」との標題の一覧表欄外の注記により、未 には確定額金銭報酬と株価連動型インセンテ ィブ受領権があると理解し、後者は「<役員ごとの連結報酬等の総額等但し、連結報酬等の総額1億円以上である者>」との標題の一覧表欄外の注記により、未払の報酬であることが明らかであるから、未払の報酬も一覧表に記載されていると理解すると考えられる。そうすると、その前提となる「当事業年度の取締役及び監査役に支払われた報酬」とは、既に支払われた報酬 に限定する意味ではなく、未払の報酬も含むと理解すると考えられる。この場合、「支払われた」の意味は、「支払われることとなった」という意味に解釈することになる。したがって、本件有価証券報告書の「役員の報酬等」の項目を読んだ投資者は、A株式会社がBに支払う「総報酬」欄及び「金銭報酬」欄には、既に支払われた金銭報酬と未払の金銭報酬のいずれもが記載さ れているとの認識を持つと考えられる。ところが、実際には、Bの「総報酬」欄及び「金銭報酬」欄には実際に支払われた金銭報酬のみが記載され、未払の金銭報酬は、それがあるにもかかわらず記載されていなかった。そうすると、本件有価証券報告書には真実に合致しない記載がされていて、それによってBの「総報酬」欄及び「金銭報酬」欄の記載は未払の金銭報酬を含むも のであるとの誤った情報が投資者に提供されたと評価できる。 よって、本件有価証券報告書におけるBの「総報酬」欄及び「金銭報酬」欄の記載は「虚偽の記載」に当たる。 4 BとCとの共謀の有無等虚偽記載有価証券報告書提出罪の故意が認められるためには、提出する有価証券報告書に「虚偽の記載」があることを認識している必要があり、本件 では、Bの報酬の中に支払済の報酬以外の「開示すべき未払の報酬」が存在することの認識がなければならない。そうすると、取 る有価証券報告書に「虚偽の記載」があることを認識している必要があり、本件 では、Bの報酬の中に支払済の報酬以外の「開示すべき未払の報酬」が存在することの認識がなければならない。そうすると、取締役の職務執行の対価としてA株式会社から受け取ってしかるべきであるのに受け取っていない報酬(差額)があるという認識だけでは足りず、その「差額」が有価証券報告書に記載して開示すべきものであるという認識も必要となる。そして、Bの 報酬の決定手続及び管理状況について認識があれば、Bの未払となっている報酬も開示すべきであること、すなわちBの「開示すべき未払の報酬」の存在について認識していたといえることになる。 本件当時、B及びCは、開示すべきBの報酬額としては報酬総額を記載しなければならないのに、実際には支払われた報酬額のみが記載された「虚偽 の記載」のある有価証券報告書を提出することについて認識していたから、虚偽記載有価証券報告書提出罪の故意を有していたといえる。 そして、平成23年(2011年)4月の時点で、B及びCは、平成22年(2010年)度のBの報酬に関し、「虚偽の記載」のある有価証券報告書を提出することの認識を共有しながら、当該有価証券報告書の提出に当た って協働していたのであるから、共謀の上、A株式会社の業務に関し、「虚偽の記載」のある平成22年(2010年)度の有価証券報告書を提出したといえる。平成23年(2011年)4月より後の各連結会計年度においても、B及びCは、同様に、共謀の上、A株式会社の業務に関し、「虚偽の記載」のある平成23年(2011年)度から平成29年(2017年)度ま での各有価証券報告書を提出したといえる。 5 被告人とB及びCとの共謀の有無等 本件では、被告人がB 載」のある平成23年(2011年)度から平成29年(2017年)度ま での各有価証券報告書を提出したといえる。 5 被告人とB及びCとの共謀の有無等 本件では、被告人がB及びCとの間で「虚偽の記載」のある有価証券報告書を提出することについて共謀したことを直接証明する証拠は存在しない。 被告人がBの報酬の決定手続及び管理状況に直接関与していたとの事情は 認められず、Bの報酬の決定手続及び管理状況に関する被告人の認識を直接証明する証拠も存在しない。 本件では、基本的に、Bが被告人とCに個別に指示し、指示を受けた被告人とCがそれぞれ個別にBに資料や情報を提供するという関係にあり、被告人とCとの間で本件に関して密な情報共有がされていたとは考え難く、Bと Cとの間で共有されていた事実・情報が被告人との間でも共有されていたわけではなかった。 したがって、本件では、認定した事実関係を基に、Bの報酬に関する被告人の認識を推認することによって、故意更には共謀が認められるか否かを検討することになる。中でも、被告人が「shortfall」を「開示すべき未払の 報酬」として認識していたのか否かを明らかにする必要がある。 各種支払方法等の検討状況からの推認ア平成21年(2009年)度のBの報酬の一部返金に関する検討被告人は、平成22年(2010年)4月頃、Bが平成21年(2009年)度の報酬の一部を返金したことを認識しており、この一部返金に伴うB の報酬の「shortfall」をどのように開示を避けて支払うのかという検討の一環として、D社等の非連結会社からの支払方法を検討していたと認められる。そして、平成21年(2009年)度の確定した報酬の一部である7億円は、同年度の確定した金銭報酬とし て支払うのかという検討の一環として、D社等の非連結会社からの支払方法を検討していたと認められる。そして、平成21年(2009年)度の確定した報酬の一部である7億円は、同年度の確定した金銭報酬として有価証券報告書に記載して開示すべきであったことは明らかである。そうすると、同年度の報酬に関していえば、 被告人にはBの開示すべき未払の報酬の存在について認識があり、「虚偽の 記載」のある有価証券報告書であるとの認識もあったといえる。したがって、同年度の有価証券報告書については、被告人とB及びCとの間で、虚偽記載有価証券報告書提出罪について共謀があったと考えられる。 イ D社等からの支払方法の検討被告人は、上記の一部返金に伴う「shortfall」に加えて、それ以降も毎 年度発生することが見込まれる「shortfall」をどのように開示を避けて支払うのかについての検討の一環として、D社等の非連結会社からの支払方法を検討していた。被告人は、D社等から支払われる報酬は、報酬という性質から毎年度発生するもので、一定の金額になると想定しており、また、CがBの報酬を管理し、D社等からの報酬もCによって継続的に管理されるとの 認識もあったと考えられる。そうすると、被告人には、平成22年(2010年)度以降のBの報酬の「shortfall」については、毎年度発生する一定の金額のもので、Cにおいて継続的に管理されるものとの認識があったと思われる。 しかし、D社等から支払われるBの報酬の決定手続及び管理状況について 被告人が認識していたとの事情は見受けられない。そうすると、平成22年(2010年)度以降のBの報酬がどのように決定・管理されるのか、具体的には、平成22年(2010年)度以降もこれまでと同様にA株式会社の所 していたとの事情は見受けられない。そうすると、平成22年(2010年)度以降のBの報酬がどのように決定・管理されるのか、具体的には、平成22年(2010年)度以降もこれまでと同様にA株式会社の所定の手続に従って決定・管理された上で、その一部がD社等から支払われるのか、A株式会社からの報酬とD社からの報酬を完全に切り離し、A株式 会社からの報酬は開示することとした報酬額についてのみA株式会社の所定の手続に従って決定・管理されるのかなどの点について、被告人が認識していたとはいえない。 また、D社等からの支払方法は、結局、平成23年(2011年)4月の時点までにいずれも断念され、代わって取締役退任後に相談役報酬等の名目 による支払方法が検討されることとなったが、この支払方法は毎年度一定の 金額を支払うことを前提にしておらず、退任後にまとめて支払うものとされていたことからすると、毎年度A株式会社の所定の手続でその額を決定させる必然性はなく、決定以降の報酬の管理も秘書室で継続的にされる必然性はないこととなる。 このようなD社等からの支払方法と相談役報酬等の名目による支払方法の 差異に鑑みれば、被告人が平成21年(2009年)度のBの報酬の一部返金の事実を認識し、D社等からの支払方法を検討していたからといって、平成22年(2010年)度以降のBの報酬の決定手続及び管理状況について未必的にも認識していたとはいえず、同年度以降のBの報酬の「shortfall」が開示すべきものであるとの認識があったとはいえない。 ウ相談役報酬等の名目による支払方法及びDDSOの名目による支払方法の検討被告人は、Bの報酬の「shortfall」を支払うために相談役報酬等の名目による支払方法やDDSO(権利行使価格を1円等 相談役報酬等の名目による支払方法及びDDSOの名目による支払方法の検討被告人は、Bの報酬の「shortfall」を支払うために相談役報酬等の名目による支払方法やDDSO(権利行使価格を1円等の低い価格に設定して対象者に自社の株式を取得する権利を付与し、一定の期間を経過後にその権利 の行使が可能になって利益を得るというストックオプションに類する制度。 DeeplyDiscountedStockOption)の名目による支払方法を検討していたと認められる。 しかし、相談役報酬等の名目による支払方法は、前提となるBの報酬の「shortfall」の額を毎年度A株式会社の所定の手続で決定し、その後も秘 書室で継続的に管理する必然性はなく、DDSOの名目による支払方法も、毎年度決定した金額を支払うことを前提にしていないことからすると、これらの支払方法を検討していたからといって、被告人がBの報酬の決定手続及び管理状況について未必的にも認識していたとは必ずしもいえないから、Bの報酬の「shortfall」が開示すべきものであるとの認識が被告人にあった とはいえない。 エ LTCIPの付与及び退職慰労金打切支給の増額への関与平成23年(2011年)2月にBに対してLTCIP(長期キャッシュ・インセンティブ報酬制度。Long-TermCashIncentivePlan)を付与する旨の文書(LTCIP文書)が作成され、その作成に被告人が関与したことなどに照らせば、被告人は、LTCIPの付与による支払方法を 「shortfall」を支払う方法の一つとして理解していたと認められる。 しかし、LTCIPの付与により受け取ることができる金額は、有価証券報告書で公表された金額であり、「shortfall」との直 shortfall」を支払う方法の一つとして理解していたと認められる。 しかし、LTCIPの付与により受け取ることができる金額は、有価証券報告書で公表された金額であり、「shortfall」との直接的な関連性はないことなどからすると、Bの報酬の「shortfall」が開示すべきものであるとの認識が被告人にあったとはいえない。 平成25年(2013年)夏から秋にかけて、Bの退職慰労金打切支給の増額に関する検討が行われ、同年度末に約24億円が増額されているところ、被告人は、これをBの報酬の「shortfall」を支払うための方法の一つと捉えていたと認められる。 しかし、このことは、「shortfall」が将来支払われる実体のあるものであ るとの認識を推認させるものではあるが、毎年度A株式会社の所定の手続に従って決定されるものであるとの認識まで推認させるものではないから、Bの報酬の「shortfall」が開示すべきものであるとの認識が被告人にあったとはいえない。 オ以上によれば、被告人が各種の支払方法等を検討していた状況から、 被告人において、Bの報酬の「shortfall」が毎年度発生する一定の金額のものであり、将来Bに支払われるものとしてCにより継続的に管理されているものであるとの認識があったことは推認できる。 しかし、一定の金額といった場合、平成26年(2014年)10月に被告人がBに対して行った説明の資料の記載のように毎年度10億円といった ことも考えられるが、10億円という切りの良い金額は、A株式会社の所定 の手続において算定されたものでないことは明らかであり、秘書室でわざわざ管理する必然性もないから、被告人がBの報酬の「shortfall」が開示すべきものであると認識していたとは の所定 の手続において算定されたものでないことは明らかであり、秘書室でわざわざ管理する必然性もないから、被告人がBの報酬の「shortfall」が開示すべきものであると認識していたとは必ずしもいえない。Bの未払の報酬については、概算額ではなく個々具体的な金額を認識していなければ、どのような手続で決定・管理されているかは判断できないというべきである。さらに、 実際のCによる取締役の報酬の管理状況を被告人が認識していたとは認められないから、CがBの報酬を管理していることを被告人が認識していたからといって、Bの報酬の「shortfall」の管理状況を認識していたとはいえない。 なお、被告人が、平成24年(2012年)6月に代表取締役に就任する 際、有価証券報告書における開示を避けるために被告人自身の報酬を減額することにより生じる「shortfall」について、取締役退任後に顧問契約等によって支払うことをBとの間で合意しているが、被告人の報酬の「shortfall」については、厳密な決定・管理がされていなかったことからすると、被告人がこのような合意をしていたからといって、Bの報酬の 「shortfall」に関する被告人の認識について具体的な内容が推認されるわけではない。 以上を総合すると、被告人が各種の支払方法等を検討していた状況からは、平成22年(2010年)度以降のBの報酬が毎年度A株式会社の所定の手続に従って決定されるのか、秘書室で継続的に管理されるのかといった点に ついて、被告人が認識していたとは推認されない。したがって、Bの報酬の「shortfall」が開示すべきものであるとの認識が被告人にあったとはいえず、Bの開示すべき未払の報酬の存在について被告人が認識していたと認定することはできない されない。したがって、Bの報酬の「shortfall」が開示すべきものであるとの認識が被告人にあったとはいえず、Bの開示すべき未払の報酬の存在について被告人が認識していたと認定することはできない。 Bの報酬に関する文書の記載からの推認 2018年6月27日付けRAPR文書(「RetirementAllowanceand PostponedRemuneration」との標題で、退職慰労金打切支給の金額と各年度のBの確定した報酬額、支払済の報酬額及びその差引額となる延期された報酬額等が記載された文書)には、将来支払われることが確実な退職慰労金打切支給とともに、平成21年(2009年)度から平成29年(2017年)度までの各連結会計年度におけるBの「FixedRemuneration 」、「Paid Remuneration」及び「PostponedRemuneration」が1円単位で記載されていた。そして、被告人は、平成30年(2018年)6月27日のC及びEとの打合せにおいて、同日付けのRAPR文書を目にしていた事実が認定できるところ、この文書を目にした被告人は、その記載から、Bの報酬の「shortfall」の額が、Bによって毎年度A株式会社の所定の手続に従って 決定され、その後、秘書室において「PostponedRemuneration」として継続的に管理されている状況を明確に認識したといえる。 したがって、遅くともこの時点では、Bの報酬の「shortfall」が開示すべきものであるとの認識が被告人にはあったと認められるから、Bの開示すべき未払の報酬の存在について被告人は認識していたと認定できる。 ⑷ 被告人の故意及び共謀についての判断以上のとおり、遅くとも平成30年 認識が被告人にはあったと認められるから、Bの開示すべき未払の報酬の存在について被告人は認識していたと認定できる。 ⑷ 被告人の故意及び共謀についての判断以上のとおり、遅くとも平成30年(2018年)6月27日の時点では、被告人にはBの開示すべき未払の報酬に関する認識があったと認められるから、平成29年(2017年)度の有価証券報告書には、Bの開示すべき未払の報酬を含めた報酬総額を記載すべきであるのに支払済の報酬額のみが記 載されていること、すなわち「虚偽の記載」があることを認識していたといえる。 被告人は、同年度の有価証券報告書に関して、B及びCが虚偽記載有価証券報告書提出罪の故意を有していることは十分に了解していたと認められ、また、被告人が同罪の故意を有していることはCにおいても当然に了解して いたと認められる。このような相互認識の下、被告人は、代表取締役として 虚偽記載を是正すべき立場にありながら、何らの措置を執ることなく「虚偽の記載」のある同年度の有価証券報告書が提出されるままにしていたのであるから、B及びCと共謀の上、虚偽記載有価証券報告書提出罪を犯したと認められる。 6 以上の検討の結果、被告人は、平成29年(2017年)度について は、B及びCと共謀の上、A株式会社の業務に関し、「虚偽の記載」のある有価証券報告書を提出したことが認定できるが、平成22年(2010年)度から平成28年(2016年)度までの各公訴事実については、Bの開示すべき未払の報酬の存在について認識していたとはいえない。 第3 弁護人の不告不理違反及び訴訟手続の法令違反の主張について 論旨は、要するに、原審検察官は平成23年(2011年)6月末までに共謀が成立したこと及び作為犯を主張していたのに、原 。 第3 弁護人の不告不理違反及び訴訟手続の法令違反の主張について 論旨は、要するに、原審検察官は平成23年(2011年)6月末までに共謀が成立したこと及び作為犯を主張していたのに、原審裁判所は争点を顕在化させることなく平成30年(2018年)6月時点での共謀成立を認定し、また、不真正不作為犯による犯罪の成立を認めているから、刑訴法378条3号の「審判の請求を受けない事件について判決をしたこと」に該当し、 また、このような訴訟手続には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある、というのである。 まず、原判決は、その説示に照らせば、平成29年(2017年)度の連結会計年度に係る虚偽記載有価証券報告書提出罪について、作為犯の共謀共同正犯を認定していることは明らかである。 また、原判決は、起訴状に記載された公訴事実と公訴事実の同一性を欠く別の事実を認定しているわけではないから、審判の請求を受けない事件について判決をしたものでないことは明らかである。 さらに、原判決は、平成30年(2018年)6月27日時点での共謀の成立を基礎付ける事情として、被告人が同日付けのRAPR文書を目にした ことを指摘しているところ、原審の訴訟経過をみると、原審検察官は、被告 人とB及びCとの共謀の有無という争点に関連して、同日に行われた被告人とCらとの打合せにおいて被告人が同文書を見たことを主張し、他方で、原審弁護人は、被告人は同文書を見ていないと主張して争っており、原審においてこの点が攻撃防御の対象となっていたことは明らかである。そうすると、原審裁判所が更に争点として顕在化させる措置を講じる必要があったとはい えない。 以上によれば、不告不理違反も訴訟手続の法令違反も認められないから、論旨はいずれも理由が かである。そうすると、原審裁判所が更に争点として顕在化させる措置を講じる必要があったとはい えない。 以上によれば、不告不理違反も訴訟手続の法令違反も認められないから、論旨はいずれも理由がない。 第4 弁護人の事実誤認の主張について 1 論旨は、要するに、原判示第2の事実について、有価証券報告書に記 載して開示すべきBの未払の報酬は存在せず、同報告書のBの報酬に関する記載は金商法197条1項1号の「虚偽の記載」には当たらず、BとCとの間に共謀は成立せず、被告人には故意も共謀も認められないから、被告人は無罪であるのに、虚偽記載有価証券報告書提出罪が成立すると判断した原判決には事実誤認がある、というのである。 しかし、原判示第2の事実を認定した原判決の認定、判断は、論理則、経験則等に照らして不合理とはいえない。以下、所論を踏まえ、補足して説明する。 2 開示すべき未払の報酬が存在するとした誤りをいう所論について所論は、①企業内容等の開示に関する内閣府令(開示府令)において、 有価証券報告書に記載して開示すべきとされている「報酬等」の要件は、「報酬、賞与その他その職務執行の対価としてその会社から受ける財産上の利益であって、最近事業年度に係るもの及び最近事業年度において受け、又は受ける見込みの額が明らかとなったもの」とされており(以下、この要件を「開示府令の報酬要件」という。)、本件で報酬額を開示すべき場合に該当 するというためには、この要件のうち「受ける見込みの額が明らかとなった もの」であることが必要であるのに、原判決が定立した基準にはその指標が含まれておらず、要件の充足性が検討されていない、②原判決は、本件のように株主総会が定めた上限を超える取締役報酬の決定がされた場合、会社法 あることが必要であるのに、原判決が定立した基準にはその指標が含まれておらず、要件の充足性が検討されていない、②原判決は、本件のように株主総会が定めた上限を超える取締役報酬の決定がされた場合、会社法上は無効であっても金商法上は開示義務の対象になると判断したが、株主総会で追認されていない段階では「受ける見込みの額が明らかとなった」とは いえない、などと指摘して、原判決が開示すべき未払の報酬が存在すると判断したのは誤りである、と主張する。 しかし、①については、本件で報酬等の該当性が問題となるのは、開示府令の報酬要件のうち、「受ける見込みの額が明らかとなったもの」の該当性ではなく、「最近事業年度に係るもの」の該当性である(原審甲12、14 1、F原審公判供述参照。なお、この要件は既払の報酬に限られず、当該事業年度に係る職務執行の対価であれば未払のものも含まれると解される。)から、所論は前提を誤っている。 ②については、金商法及び開示府令が役員の報酬等の額を開示の対象としているのは、投資者が投資判断を行うに当たっては、会社の財務状況や事業 内容等のみならず、会社のコーポレート・ガバナンスの状況についての情報も重要な要素となるところ、役員報酬についての具体的な情報は、会社又は個々の役員の業績に見合ったものとなっているか、個々の役員に対するインセンティブとして適切か、会社のガバナンスがゆがんでいないかなどの観点から、投資者が会社のガバナンスを評価し、投資判断を行う上で重要な情報 であるからであると解される。そうすると、会社において取締役の報酬等の決定がされた場合、それが株主総会で定めた上限額を超えるものであったとしても、その決定された内容(報酬等の額等)をそのまま有価証券報告書に記載して開示することが、金商法及び開示 いて取締役の報酬等の決定がされた場合、それが株主総会で定めた上限額を超えるものであったとしても、その決定された内容(報酬等の額等)をそのまま有価証券報告書に記載して開示することが、金商法及び開示府令の趣旨、目的に適うと解されるから、所論は当たらない。 所論は、報酬計算書に記載された金額は参考にすぎなかったとするB の説明を排斥して開示すべき未払の報酬が存在すると判断した原判決は誤っている、などと主張する。 しかし、原判決が適切に説示するように、本件では報酬計算書の金額が1円単位まで記載されていることや、Bが具体的な計算をさせた上で「PostponedRemuneration」と表記させて累積額とともに秘書室に継続的 に管理させていたこと、「PostponedRemuneration」やその累積額が記載された各種文書を繰り返し作成させていたこと等に鑑みれば、報酬計算書に記載された金額は単なる参考にすぎないとはみられないから、Bの供述は信用できない。なお、所論は、本件ではGH文書(CがG及びHに提出した2011年3月28日付け「報酬の支払いについて(案)」と題する文書。原審 甲179資料V10-1)による手順が完全に履践されていないことを指摘するが、そのことが報酬計算書の金額が参考にすぎないとのBの供述を裏付けるものといえないことは原判決が適切に説示するとおりである。 ⑶ 所論は、平成22年(2010年)12月に設立したI社及びJ社からBに送金できる状況にしたのに実際には送金しなかったのは、Bや被告人 があくまでも適法性を遵守しようとしていたことを示している、と主張する。 しかし、Bや被告人が未払の報酬を支払うことのできる適法な方法を検討していたとしても、開示すべき未払の報酬そのものが存在 があくまでも適法性を遵守しようとしていたことを示している、と主張する。 しかし、Bや被告人が未払の報酬を支払うことのできる適法な方法を検討していたとしても、開示すべき未払の報酬そのものが存在しないことになるわけではないから、所論は当たらない。 3 金商法197条1項1号の「虚偽の記載」に当たるとした誤りをいう 所論について所論は、原判決がいう有価証券報告書の記載内容の意味の解釈は一般の投資者の普通の読み方に反しており、同報告書は未払の金銭報酬が存在するか否かには触れていないのであるから、仮に未払の金銭報酬があったとしても不記載にとどまり、「虚偽の記載」には当たらない、などと主張する。 しかし、上記のとおり、一定の額を超える報酬を受ける取締役については、 既払の報酬だけではなく、未払の報酬(当該事業年度に係る職務執行の対価として生じたもの)も有価証券報告書に記載しなければならないのであるから、Bの未払の報酬についてもA株式会社の有価証券報告書に記載しなければならなかったことは明らかである。そして、同有価証券報告書には、未払の報酬である「株価連動型インセンティブ受領権」も報酬に含まれるとの記 載があることも併せ考慮すると、その記載全体を見た投資者は、「支払われた報酬」には、既に支払われた金銭報酬と未払の金銭報酬のいずれもが記載されているとの認識を持つと考えられる。そうすると、有価証券報告書のBの「総報酬」欄及び「金銭報酬」欄の記載は、真実に合致しない誤った情報が投資者に提供されたものと評価できるから、有価証券報告書の記載が「虚 偽の記載」に当たるとした原判決に誤りはない。なお、所論は、「支払われた」は過去形の表現であり、まだ支払われていない報酬を含むとするのは文言解釈の限界を超えているなど 証券報告書の記載が「虚 偽の記載」に当たるとした原判決に誤りはない。なお、所論は、「支払われた」は過去形の表現であり、まだ支払われていない報酬を含むとするのは文言解釈の限界を超えているなどと主張する。しかし、有価証券報告書の記載を解釈するに当たっては、記載されている個別の文言のみにとらわれるのではなく、一般の投資者の視点で、有価証券報告書において記載することとさ れている事項やその趣旨、記載の文脈等を踏まえつつ全体の記載から理解する必要があるといえるから、有価証券報告書全体の記載を読んだ投資者は、「支払われた」には未払の金銭報酬も含まれている趣旨と理解すると考えられるとした原判決に誤りはない。 4 BとCに共謀が成立するとした誤りをいう所論について 所論は、①原判決は報酬を開示すべき場合についての判断基準で「受ける見込みの額が明らかになった」という点を考慮しておらず、定立した基準が誤っているから、それにより導き出した故意に関する判断も誤っている、②原判決は本件当時、毎年度、「Remaining」又は「PostponedRemuneration」の額をその後の年度においても累積していくものとして継続的に管理してい たと認定したが、BとCの共謀の有無を判断した平成23年(2011年) 4月の時点では、「毎年度」とか「継続的に管理」ということはあり得ず、論理則に反している、③Bが退任後に報酬を受領する確実性を高めようとするならば、GH文書に記載されているように複数の代表取締役が署名した文書を作成したはずである、などと指摘して、BとCに共謀が成立するとした原判決は誤っている、と主張する。 しかし、①については、既に述べたとおり、開示すべき報酬であるというためには「受ける見込みの額が明らかに ある、などと指摘して、BとCに共謀が成立するとした原判決は誤っている、と主張する。 しかし、①については、既に述べたとおり、開示すべき報酬であるというためには「受ける見込みの額が明らかになった」ことに該当する必要があるとするのは前提を誤っている。 ②については、原判決は、一連の経過として、Bが、本件当時、毎年度、秘書室において算定された報酬総額と、それから実際に支払われた報酬額を 差し引いた残額である未払の報酬額が記載された報酬計算書の提示を受けてその内容を決定し、秘書室において「Remaining 」又は「PostponedRemuneration」の額をその後の年度においても累積しているものとして継続的に管理していたと認定しているのであり、その認定に不合理な点はない。 そして、平成23年(2011年)4月の時点については、この時点でBと Cにおいてそのような決定を毎年度行い、継続的に管理していくまでの認識がなかったとしても、Bは、同年3月から4月にかけて、自らの報酬について、確定した報酬と支払済の報酬と延期された報酬の区分を明らかにし、平成22年(2010年)度の報酬については、実際に支払った報酬額のみを同年度の報酬額として有価証券報告書に記載して開示し、未払の残額につい ては支払を延期して継続的に管理することをCに指示し、Cはこれを受けて報酬計算書の書式を変更したのであるから、平成23年(2011年)4月の時点におけるBとCの共謀を認めた原判決に誤りはない。 ③については、複数の代表取締役が署名した文書が作成されていなかったからといって、Bの未払の報酬が発生していなかったことにはならないし、 BとCの共謀を認定した原判決の判断も左右されない。 5 平成30年(2018年)6月2 成されていなかったからといって、Bの未払の報酬が発生していなかったことにはならないし、 BとCの共謀を認定した原判決の判断も左右されない。 5 平成30年(2018年)6月27日の打合せに基づいて共謀成立を認めた誤りをいう所論について 所論は、Cが同日の打合せで被告人にRAPR文書を見せたと原判決が認定した点に関し、①原判決は同日付けRAPR文書のファイル名に被告人の名前が含まれている点を重視したと考えられるが、同ファイルには別シ ートで「RetirementAllowance / PostponedRemuneration / NESS」と題する文書(以下「NESS文書」という。)も含まれており、同文書には、被告人がCに対し退職慰労金打切支給の増額分は延期された報酬の一部ではないかと尋ねる契機となる記載がある、②Eは、BがNESS(A株式会社の株価連動型インセンティブ受領権)に関連して違法行為をしていると考えて いたので、Bの仲間とみなしていた被告人もNESSの取扱いを知っていたことにするために、BのNESS関連の文書を見せる理由があった、また、NESS文書が同日の打合せの後に作成されたとするのは不自然である、③Bは、自らの報酬に関して秘匿するようCに厳しく求めており、CがBの承諾なしに共謀に加わるメンバーを勝手に増やすような行為をするはずがない、 ④Cには虚偽供述をする強い動機があり、被告人を引き込もうとして積極的に虚偽の供述をしている、などと指摘して、原判決は誤っている、と主張する。 しかし、①については、所論が指摘するように同一ファイルの中に別シートの他の文書が含まれていたとしても、同ファイルには被告人の名前とEの 名前が付されていたのであるから、同日の被告人とEとの しかし、①については、所論が指摘するように同一ファイルの中に別シートの他の文書が含まれていたとしても、同ファイルには被告人の名前とEの 名前が付されていたのであるから、同日の被告人とEとの打合せに持っていった旨のCの供述を十分に裏付けるものである。また、仮に被告人が打合せの際に見た文書がNESS文書であったしても、同文書の標題は「RetirementAllowance / PostponedRemuneration / NESS」というもので、それぞれに対応して「1 RetirementAllowance」、「2 Remuneration」、 「3 NESS」という欄があり、それぞれ具体的な金額が記載されていたので あるから(原審甲187資料2)、この文書を見た被告人は、未払報酬の額が具体的に決められていることを読み取ることができたと認められるのであって、やはり原判決の認定を左右することにはならない。 ②については、Eが考えていたBの不正は、主として海外の不動産物件に関するものであったし、仮にNESSに関連する違法行為があると考えてい たとしても、そこから直ちに被告人にNESS文書を見せることにつながるものでもない。また、NESS文書のシート名には「20180709」と平成30年(2018年)6月27日より後の日付が付されていること(原審甲187)からすると、打合せの後に作成されたとするのは不自然とはいえない。 ③については、Kは、Cの指示で、同人が被告人やEとの打合せに持って いくためのものとして2018年6月27日付けRAPR文書を作成しており(K原審公判供述)、このことはCが現に被告人らに示すために同文書を作成させたと評価できる行動であるから、BがCに報酬の秘匿を強く求めていたからといっ 18年6月27日付けRAPR文書を作成しており(K原審公判供述)、このことはCが現に被告人らに示すために同文書を作成させたと評価できる行動であるから、BがCに報酬の秘匿を強く求めていたからといって、被告人に文書を示していないことになるとはいえない。 ④については、原判決もCの供述の信用性は慎重に検討しているところ、 2018年6月27日付けRAPR文書のファイル名とその記載内容、信用できるKの供述といった裏付けがあることに照らせば、同日の打合せで被告人にRAPR文書を見せた旨のCの供述の信用性を肯定した判断に誤りはない。なお、所論は、協議、合意の当事者であるCの供述の信用性を認めるためには、供述が既に収集されている証拠と整合するだけでは足りず、司法取 引に基づく供述を得た上で更に捜査をして新事実あるいは新証拠が得られたなどの事情がなければならないと主張するが、そのような事情がない限り一律に供述の信用性が認められないものではないから、所論は当たらない。また、所論は、Cの当審における供述が原審における供述から変遷している点を指摘するが、いずれも被告人にRAPR文書を見せたとする供述の信用性 に影響するようなものではない。 所論は、①被告人は有価証券報告書の作成や提出に関与しておらず、その内容も認識していなかったし、B及びCとの間で共謀共同正犯を認めるための緊密な意思連絡もなかった、②原判決は被告人による支払方法の検討が「shortfall」を支払うためであったという前提に立って共謀を導いているが、被告人が検討していた支払方法はBの退職後の役務提供ないし競業避 止義務に対するものであって、「shortfall」ないし累積未払報酬を支払う目的ではなかった、また、もし累積未払報酬を支払う目的であったと 討していた支払方法はBの退職後の役務提供ないし競業避 止義務に対するものであって、「shortfall」ないし累積未払報酬を支払う目的ではなかった、また、もし累積未払報酬を支払う目的であったとすると、被告人が検討していた金額が累積未払報酬額と一致するかそれを上回っていたはずであるが、両者はそのような関係にはなかった、③2011年L署名文書(Lが署名した「EMPLOYMENTAGREEMENT」と題する文書。原審甲185 資料Ⅰ3)、2013年LM署名文書(2013年にLと被告人が署名した「AGREEMENTbetween A株式会社 and B」と題する文書。原審甲185資料Ⅲ4)及びDDSOのプレゼンテーション資料(原審甲188資料9)では、Bが作成過程で対象役務を減らす変更を加えているが、取締役退任後の契約が未払報酬を支払うための名目にすぎないのであれば、高い報酬を自然 に見せるべくむしろ対象役務を多くしたはずである、などと指摘して、被告人に故意及び共謀を認めた原判決は誤っている、と主張する。 しかし、①については、被告人が実際の有価証券報告書の作成や提出に関与せず、その詳細な記載内容まで認識していなかったとしても、遅くとも秘書室が作成した2018年6月27日付けRAPR文書を目にした時点では、 Bの開示すべき未払の報酬の存在を認識したということができるから、虚偽記載有価証券報告書提出罪の故意を認めた原判決に誤りはない。また、そもそも被告人とB及びCとの間で緊密な意思連絡がなければ共謀が認定できないものではないし、原判決が、平成29年(2017年)度の虚偽記載有価証券報告書提出に関し、Bも含めて故意を有していることを被告人及びCが 相互に了解しつつ、代表取締役であった被告人が虚偽記載を是正する措 いし、原判決が、平成29年(2017年)度の虚偽記載有価証券報告書提出に関し、Bも含めて故意を有していることを被告人及びCが 相互に了解しつつ、代表取締役であった被告人が虚偽記載を是正する措置を 執ることなく虚偽の記載のある同年度の有価証券報告書が提出されるままにしたことをもって、被告人がB及びCと共謀の上、虚偽記載有価証券報告書提出罪を行ったと認定したことは不合理ではない。 ②については、Nメモ(平成22年(2010年)2月21日にNから被告人に対して送信された電子メールに添付されていたメモ。原審甲178資 料1-1)の記載内容からすれば、被告人が平成21年(2009年)度のBの報酬の支払を平成22年(2010年)度に延期して同年度に開示を避けてその報酬を支払うことを意図していたことは明らかであり、同メモの記載どおりに実際にBの報酬の一部が返金され、被告人はその後も引き続いてD社からの支払方法について検討を続けていたことを踏まえると、被告人に よる支払方法の検討は、開示を避けて「shortfall」を支払うためであったと考えられるとした原判決に誤りはない。他の支払方法についても、そのような経緯に引き続いて検討されていることからすると、開示を避けて「shortfall」を支払うためであったとする原判決に誤りはない。また、被告人が検討していた金額と累積未払報酬額との関係の点も、原審証拠(原審 甲185資料V1-1、2-1、3-1、4-1、189資料6、弁23資料16)によれば、被告人は、検討していた支払方法によりBの「shortfall」を(客観的にカバーできていたかはともかくとして)カバーすることができると認識していたと認められるから、支払方法の検討が「shortfall」を支払うためのものであっ よりBの「shortfall」を(客観的にカバーできていたかはともかくとして)カバーすることができると認識していたと認められるから、支払方法の検討が「shortfall」を支払うためのものであったとの原判決の認定を左右するこ とにはならない。 ③については、退任後の契約は未払報酬を支払うための手段として検討されていたものであるが、その全てが退任後の義務の履行を伴わないものである必要はないから、未払報酬の支払のための部分と退任後の義務の履行を伴う部分を混在させて検討したことも十分に考えられる。そうすると、Bが退 任後の自らの義務の履行の負担を減らすために対象役務を減らしたとみるこ となどもやはり十分に考えられるから、所論は当たらない。なお、所論は、未払報酬を支払う名目であることが露見しないような外形を整えるならば、例えばおざなりにでも役務を提供できるコンサルティング契約の案を準備すればよかったにもかかわらず、2015年LM署名文書(2015年にLと被告人が署名した「AGREEMENTbetween A株式会社 and B」と題する文 書。原審甲185資料Ⅶ4)には競業避止義務契約の案だけが準備されていたと主張する。しかし、後々第三者から批判される可能性があることなどを懸念して退任後の契約からおざなりな役務を提供していると誤解されるようなものを含まないようにしたことなども考えられるから、原判決の認定を左右することにはならない。 所論は、原判決が平成30年(2018年)に1枚の紙片を見たことだけで被告人に共謀の成立を認めたのは、平成21年(2009年)度の虚偽記載のある有価証券報告書の提出について被告人に共謀があったとする判断が前提になっていると推測されるが、原判決はNメモの趣旨を誤認してお 人に共謀の成立を認めたのは、平成21年(2009年)度の虚偽記載のある有価証券報告書の提出について被告人に共謀があったとする判断が前提になっていると推測されるが、原判決はNメモの趣旨を誤認しており、同年度の共謀成立を認めた原判決の判断は誤っている、などと主張する。 しかし、原判決の説示をみても、平成21年(2009年)度の虚偽記載有価証券報告書の提出について被告人に共謀が認められることが、平成29年(2017年)度の虚偽記載有価証券報告書提出罪の共謀を認定するための前提になっているという関係にはないから、所論は前提を誤っている。また、念のため所論を踏まえて検討しても、平成21年(2009年)度の虚 偽記載のある有価証券報告書の提出について被告人に共謀があったとした原判決の判断に不合理な点はみられない。 6 その他、所論が種々主張する点も、原判示第2の事実を認定した原判決の認定を左右するものではない。 7 弁護人の事実誤認の論旨は理由がない。 第5 検察官の事実誤認の主張について 1 論旨は、要するに、被告人には、平成22年(2010年)度から平成28年(2016年)度までの各連結会計年度について、虚偽記載有価証券報告書提出罪の故意及び共謀が認められるのに、それらが認められないとして無罪を言い渡した原判決には事実の誤認がある、というのである。 しかし、上記各連結会計年度に係る虚偽記載有価証券報告書提出罪につい て被告人を無罪とした原判決の判断は、その結論において不合理とはいえない。以下、所論を踏まえ、補足して説明する。 2 虚偽記載有価証券報告書提出罪の故意に関する理解の問題点をいう所論について所論は、原判決は虚偽記載有価証券報告書提出罪の故意を認めるために必 要とされる まえ、補足して説明する。 2 虚偽記載有価証券報告書提出罪の故意に関する理解の問題点をいう所論について所論は、原判決は虚偽記載有価証券報告書提出罪の故意を認めるために必 要とされる被告人の認識の内容を誤って理解していると主張する。 そこで検討すると、原判決は、本件において虚偽記載有価証券報告書提出罪の故意を認めるためには、Bの報酬の中に支払済の報酬以外の「開示すべき未払の報酬」が存在することの認識がなければならず、そのためにはBの報酬の決定手続及び管理状況についての認識が必要であるとしている。その 前提として、取締役の報酬について会社が開示しなければならない場合とは、①会社における権限規定等に基づいて取締役の報酬について決定する正当な権限を有する者が、②会社の所定の手続に従って取締役の報酬額を決定し、③会社の所定の部署において取締役の報酬が継続的に管理されている場合であると考えられると説示している。そして、原判決は、上記①ないし③の要 件を必要とする理由について、取締役の報酬について決定する正当な権限を与えられていない者が決定したような場合、会社の正規の決定として扱われる余地はない、権限がある者が決定しても、決定手続が全く履践されておらず、取締役の報酬の管理を担当する部署が全く把握していないような場合は、会社としては開示義務を果たしようがない、などとしている。 しかし、開示府令の報酬要件として定められているのは、取締役等の職務 執行の対価であること、その会社から受ける財産上の利益であること、最近事業年度に係るものであること(又は最近事業年度に受け又は受ける見込みの額が明らかになったもの)、というもので(原審甲160資料2-2)、原判決の定立する要件とは異なっている。そして、金商法にお 近事業年度に係るものであること(又は最近事業年度に受け又は受ける見込みの額が明らかになったもの)、というもので(原審甲160資料2-2)、原判決の定立する要件とは異なっている。そして、金商法における開示規制は、一定の取締役等の個別の報酬等について開示を求めているが、その趣旨は、 役員報酬についての具体的な情報は、会社又は個々の役員の業績に見合ったものとなっているか、個々の役員に対するインセンティブとして適切か、会社のガバナンスがゆがんでいないかなどの観点から、投資者が会社のガバナンスを評価し、投資判断を行う上で重要な情報であるからであるが、その制度趣旨に照らせば、開示対象となる「報酬等」の要件を殊更に狭く解する必 要はないというべきである。そうすると、結局のところ、会社から取締役等に対し当該年度に係る職務執行の対価として支払われる報酬等の額が有価証券報告書に記載できる程度に具体的に決められている場合、会社は、その報酬等を有価証券報告書に記載して開示する義務を負うものと解するのが相当である(F原審公判供述、原審甲12、141参照)。 以上によれば、原判決は、会社が取締役の報酬の開示義務を負う場合について、必ずしも必要とされない要件を課している点において誤っているといわざるを得ない。 そして、Bの未払の報酬について当該年度の虚偽記載有価証券報告書提出罪の故意を認めるためには、有価証券報告書におけるBの報酬等の記載が虚 偽であることの認識が必要となるが、本件においては、開示府令の報酬要件を踏まえると、「Bが当該年度のA株式会社の取締役の職務執行の対価として受ける(有価証券報告書に記載されない)未払の報酬等の額が具体的に決められていること」の認識があれば、故意を認めるに十分であるということができる。原判決は、被 株式会社の取締役の職務執行の対価として受ける(有価証券報告書に記載されない)未払の報酬等の額が具体的に決められていること」の認識があれば、故意を認めるに十分であるということができる。原判決は、被告人の故意を認めるためにはBの報酬の決定手続や 管理状況まで認識が必要であるとする点においても誤っているといわざるを 得ない。 もっとも、原判決の虚偽記載有価証券報告書提出罪の故意に関する理解の誤りを是正しても、被告人について平成22年(2010年)度から平成28年(2016年)度までの各連結会計年度の虚偽記載有価証券報告書提出罪の故意が認められないとした原判決は結論において誤りはなく、判決に影 響を及ぼさない。以下、所論を踏まえ、補足して説明する。 3 被告人の認識に対する評価の問題点をいう所論について⑴ 所論は、以下の点を指摘して、原判決は被告人の認識に対する評価を誤っていると主張する。すなわち、①原判決は、平成21年(2009年)度の故意を認めつつ、翌年(2010年)度から平成28年(2016年) 度までの故意を否定しているが、一般的に認められる「継続的に生じる同じ概念で表される対象についての人の認識内容は基本的に継続するものである」という経験則を無視している、②原判決は、Bの報酬の「shortfall」に関する被告人の認識を検討するに当たり、「相談役報酬等の名目による支払方法による場合には、毎年度『shortfall』の額を決定させる必然性がないこ と」から、本来は導かれないはずの「毎年度『shortfall』の額が決定されていないことの認識」を導いている、③原判決は、Bの報酬の「shortfall」が開示すべきものであることの認識として、明らかに必要とされないはずの「切りの良くない金額を具体的 ll』の額が決定されていないことの認識」を導いている、③原判決は、Bの報酬の「shortfall」が開示すべきものであることの認識として、明らかに必要とされないはずの「切りの良くない金額を具体的に認識していること」を事実上要求している、④原判決は、各種支払方法における支払額とBの報酬の「shortfall」の累 積額との不整合を問題視して被告人の故意を否定する根拠につなげているが、被告人が各種支払方法を検討していたのはその時点までの未払の報酬の累積額ではなく、Bが退任するまでに累積することが見込まれる未払の報酬額であるから、原判決は未払報酬あるいはBの報酬の「shortfall」と各種支払方法における支払額との関係を正しく理解しないまま、比較対象等を誤って 事実を評価している、⑤原判決は、Bの未払の報酬についての被告人の認識 の有無の判断において、Bの報酬の「shortfall」を継続的に管理する者が「C」であるのか「秘書室」であるのかに意味を見いだし、Bの報酬の「shortfall」を継続的に管理しているのがCであるとの認識では不十分とする誤った前提に立っている、という。 しかし、①については、確かに、被告人は、平成21年(2009年)度 のBの報酬の一部返金に伴う「shortfall」に加えて、それ以降も毎年度発生することが見込まれる「shortfall」について開示を避けて支払う方法を検討していたのであるから、平成22年(2010年)度以降の「shortfall」は、毎年度発生する一定の金額のものであることを認識していたと認められる。しかし、そのことは平成22年(2010年)度以降の 故意を基礎付けることを意味するものではない。すなわち、平成21年(2009年)度については、Bの報酬について を認識していたと認められる。しかし、そのことは平成22年(2010年)度以降の 故意を基礎付けることを意味するものではない。すなわち、平成21年(2009年)度については、Bの報酬について既に具体的な額が決定され、支払もされていたところ、年度末になって制度改正により個別の役員報酬を開示しなければならなくなったという緊急の事態が生じ、それに対応するために一部返金等の措置がとられたという事情があったのであり、翌年度以降と は事情が異なっている。とりわけ、被告人は、Bの報酬の一部を非開示とする合法的な方法を検討していたのであるから、平成21年(2009年)度の報酬に関し緊急的な措置を容認していたとしても、それが直ちに翌年度以降の故意を推認させることにはならない。結局のところ、被告人が、平成22年(2010年)度以降発生する「shortfall」が、A株式会社における 当該年度のBの職務執行の対価として具体的な額まで決められるものであると認識していたことまで推認することはできないから、未必的な故意も認められないとした原判決の結論に誤りはない。 ②については、相談役報酬等の名目による支払方法は、毎年度支払うことを前提としておらず、退任後にまとめて支払うとされていることからすると、 当該年度の未払報酬の額が具体的に決められていることを推認させる事情と はならないから、Bの報酬の「shortfall」が開示すべきものであるとの認識が被告人にあったとはいえないとする原判決に誤りはない。なお、所論は、一般的な会社組織では、当該年度に係る取締役の職務執行の対価の額は毎年度その金額が算定されるのが通常であるから、報酬の「shortfall」の金額についても、発生年度ごとに定まるのが一般的であり、B以外の一般の役員 は、当該年度に係る取締役の職務執行の対価の額は毎年度その金額が算定されるのが通常であるから、報酬の「shortfall」の金額についても、発生年度ごとに定まるのが一般的であり、B以外の一般の役員 の報酬の決定過程にも関与していた被告人は、このような一般的事情等を当然理解していたはずであると主張する。しかし、被告人がA株式会社の他の役員の報酬の決定過程に関与していたとしても、Bの報酬の決定手続等は他の役員とは異なっていたのであり、Bの報酬の決定手続や管理には直接関与しておらず、Cと密な情報共有がされていたとも認められない被告人が、 「shortfall」が毎年度具体的な額まで決められるものであると認識していたと推認することはできない。 ③については、確かに、故意を認めるためには、未払の報酬の具体的な額まで認識していなくても、具体的な額が決められていることを認識していれば足りると考えられる。しかし、先に述べたとおり、平成21年(2009 年)度の有価証券報告書の虚偽記載を認識していたことから翌年度以降の故意を推認することはできないし、被告人は、Bの報酬について合法的に支払う方法を検討していたことなどからすると、「shortfall」がBのA株式会社における当該年度の職務執行の対価として具体的な額まで決められているものであるとの認識を推認させることにはならない。なお、所論は、Bの報酬 の「shortfall」の存在さえ認識していれば被告人の認識(故意)に欠けるところはないと主張する。しかし、本件において有価証券報告書に記載する必要があるのは、Bの未払の報酬のうち、A株式会社における当該年度の職務執行の対価として具体的な額を支払うことが決められているものであるから、被告人の故意を認めるためには、単に「shortfa する必要があるのは、Bの未払の報酬のうち、A株式会社における当該年度の職務執行の対価として具体的な額を支払うことが決められているものであるから、被告人の故意を認めるためには、単に「shortfall」の存在を認識して いるだけでは足りず、未払の報酬として具体的な額が決められていることの 認識が必要である。 ④については、確かに、被告人が検討していたのはBが退任するまでの「shortfall」の支払方法であるということができるものの、被告人が検討していた文書の中には、検討していた金額が想定退任時期において見込まれる累積未払報酬を客観的に下回る可能性のある記載(2015年LM署名文 書)があったり、検討していた金額がBの意向により変更(増額)されることが度々あったりしたことからすると、各種の支払方法等によってBに支給される予定の金額と「shortfall」の累積額との相関関係は薄いとする原判決が誤っているとはいえない。 ⑤については、先に述べたとおり、原判決が故意を認定するためにBの未 払報酬の管理状況の認識まで必要としていることは誤りであるが、被告人がBの報酬の「shortfall」の管理を秘書室が行っていると認識していたとしても、そのことから当該年度の職務執行の対価として具体的な額まで決められている未払の報酬があるとの認識が推認されるわけではないから、原判決の故意の認定を左右することにはならない。 ⑵ 所論は、客観証拠等のみからも以下の間接事実が認められ、それらの事実を総合すれば、被告人にはBの開示すべき未払の報酬に関する認識が認められると主張する。すなわち、①被告人は、平成21年(2009年)度のBの報酬の一部をA株式会社に返金して開示を避け、平成22年(2010年)度に支払を延期する 示すべき未払の報酬に関する認識が認められると主張する。すなわち、①被告人は、平成21年(2009年)度のBの報酬の一部をA株式会社に返金して開示を避け、平成22年(2010年)度に支払を延期することを提案しており、同様に同年度以降のBの各 年度の報酬の取扱いにおいて採用された「Bの報酬の一部の支払を後年度に延期する」というスキームも、被告人自身がBに提案したものである、②被告人は、平成21年(2009年)度末にBの報酬の一部が返金され平成22年(2010年)度に支払が延期されたことを前提に、その認識の下で、平成22年(2010年)度も引き続き、Bの報酬の一部について有価証券 報告書における開示を避けて支払う方法の検討等を行っていた、③被告人は、 上記②の流れで、平成22年(2010年)度を通じて、平成21年(2009年)度のBの報酬の「shortfall」及び平成22年(2010年)度以降毎年度生じるBの報酬の「shortfall」を支払う方法として、「取締役退任後の相談役報酬等の名目による支払」の検討等を行っていた、④被告人は、平成22年(2010年)度末を経て、「Bが、平成21年(2009年) 度以降毎年度のBの報酬の『shortfall』の支払方法として上記③の『取締役退任後の相談役報酬等の名目による支払』を採用したこと」を認識した、⑤被告人は、上記④を踏まえ、平成23年(2011年)度以降継続的に、毎年度のBの報酬の「shortfall」を開示を避けて確実に支払うための手段として、「取締役退任後の相談役報酬等の名目による支払」の準備を進めて いた、⑥被告人は、平成25年(2013年)度のBの退職慰労金打切支給の約24億2000万円の増額について、初期の頃から、Bの報酬の「shortfall」 等の名目による支払」の準備を進めて いた、⑥被告人は、平成25年(2013年)度のBの退職慰労金打切支給の約24億2000万円の増額について、初期の頃から、Bの報酬の「shortfall」の支払に充てられるべきものと理解していた、⑦被告人は、平成30年(2018年)6月27日にCからRAPR文書を見せられた際、Cに対し、「退職慰労金打切支給の増額分は延期された報酬の一部である (延期された報酬から差し引かれるものである)」という趣旨の指摘をしただけで、その他何ら異議をとどめず、その内容を受け入れている、⑧被告人は、同日にRAPR文書を見た後も、「PostponedRemuneration」を指して「shortfall」と呼んでいたのであるから、もとからBの報酬の「shortfall」とBの延期された未払報酬である「PostponedRemuneration」を同質のもの と理解していた、⑨被告人は、Bの報酬の「shortfall」について、将来Bに支払われるものとして秘書室長であるCによって継続的に管理されているものであることを終始認識していた、という。 しかし、①及び②については、先に述べたとおり、被告人が平成21年(2009年)度の報酬の一部の返金を提案していたとしても、翌年度以降 の被告人の故意を認める事情とはならないし、平成22年(2010年)度 以降については、既に発生していたBの報酬の一部を返金するというものではなく、平成21年(2009年)度とは事情が異なっている。また、平成22年(2010年)度以降も報酬の一部の支払を先送りするという同様のスキームが採用されたとしても、それが直ちに各年度の職務執行の対価として具体的な額まで決められていることを被告人が認識していたと推認させる 10年)度以降も報酬の一部の支払を先送りするという同様のスキームが採用されたとしても、それが直ちに各年度の職務執行の対価として具体的な額まで決められていることを被告人が認識していたと推認させる ものではない。 ③ないし⑥については、原判決が説示するように、取締役退任後の相談役報酬等の名目による支払は、取締役退任後にまとめて支払われるもので、毎年度支払うことを前提にしたものではないから、Bの未払の報酬の具体的な額が決められているとの認識を推認させるものではない。退職慰労金打切支 給の名目による支払方法も、同様に毎年度支払うことを前提としていないから、故意を基礎づける事情とはならないとする原判決に誤りはない。 ⑦及び⑧については、被告人がその時に初めて未払の報酬の具体的な額が決められていたことを知るに至ったとしても、異議をとどめたりしないことはあり得ることである。むしろ、平成30年(2018年)6月以前のRA PR文書にも退職慰労金打切支給についての記載があったこと(原審甲102資料6等)からすると、被告人が同月の時点で退職慰労金打切支給の増額分が延期された報酬の一部ではないかと尋ねたことは、それ以前のRAPR文書を見ていなかったことと整合的ということもできる。また、被告人がRAPR文書を見た後も「shortfall」という言葉を使っていたという点も、 そうであるからといってそれ以前から未払の報酬の額が決められていることまで認識していたことを推認させるものではない。 ⑨については、秘書室長であるCが「shortfall」を管理していたことを被告人が認識していたことが故意を推認させる事情とならないことは先に述べたとおりである。 そして、所論①ないし⑨がいずれも当たらない理由等に鑑みると、それら を管理していたことを被告人が認識していたことが故意を推認させる事情とならないことは先に述べたとおりである。 そして、所論①ないし⑨がいずれも当たらない理由等に鑑みると、それら の事情を総合的に考慮しても、被告人の故意を否定した原判決の結論が誤っていることを基礎付けることにはならない。 4 Cの供述の信用性の評価手法に関する問題点をいう所論について⑴ 所論は、以下の点を指摘して、原判決は協議、合意の当事者であるCの供述の信用性に関する評価手法を誤っていると主張する。すなわち、①協 議、合意の当事者にとって、自己の供述が証拠上どの程度重要であるかは明らかではない以上、あえて虚偽を述べてまで共犯者に責任転嫁したり引き込んだりする危険性が類型的に高まるとは考えられないにもかかわらず、原判決は協議、合意の当事者の供述の証拠上の重要性を共犯者供述の危険性に直結させており、論理則、経験則等に反する、②原判決の「記憶がない又は薄 れている事項については、検察官の意向に沿うような供述をしてしまう危険性がより高まる」とする考え方は、論理則、経験則等に反する、③本来、一人の供述者の一連の供述は、特に理由がない限り一体的に信用性を評価すべきであるにもかかわらず、原判決は、直接の裏付けがある供述部分とそうでない部分に区分して信用性を判断しており、供述の信用性の判断指標には合 理的な根拠がない、④協議、合意の当事者であることをもって、その供述全体あるいはその供述自体が立証上重要な意味を持つ場面(直接的な裏付け証拠が十分でない供述部分)では基本的にその供述の信用性を認めないとすれば、協議、合意制度の趣旨を損ないかねない、という。 しかし、①については、合意内容書面の内容及び協議の経過(原審甲14 7、165な 供述部分)では基本的にその供述の信用性を認めないとすれば、協議、合意制度の趣旨を損ないかねない、という。 しかし、①については、合意内容書面の内容及び協議の経過(原審甲14 7、165ないし168)からすると、Cは、被告人やBらが本件について共犯者とされて捜査の対象となっていることを捜査段階から認識していたと認められる。そうすると、Cは、被告人の役割等について自己の供述が重要な証拠となる可能性があることは十分に認識していたと認められるから、所論は前提を誤っている。Cの供述は、共犯者とされるB及び被告人とのやり 取りに関して重要性を持つものであるから、Bに責任転嫁したり被告人を引 き込んだりするという共犯者供述の危険性をはらんでいるとする原判決に誤りはない。 ②については、原判決が指摘するように、Cは、検察官による本件等に関する供述その他の証拠の収集等に協力することの見返りに、自身の被疑事件について、公訴を提起されないという有利な処分を受けており、この事実を 踏まえると、有利な取扱いを受けたいとの思いから協議開始の当初から合意の成立に向けてB及び被告人の犯罪の立証に資する供述等を提供することに努め、合意成立後も提供した供述等を維持したものと考えられるから、検察官の意向に沿うような供述をしてしまう危険性をはらんでいるということができる。そうすると、Cにおいて記憶がない又は薄れている事項については、 検察官の意向に沿うような供述をしてしまう危険性がより高まると評価した原判決に誤りはない。 ③については、原判決は、Cの供述の信用性について、裏付けのある部分とそうでない部分を区分して判断しているのではなく、本件で問題となるエピソード(又は問題となる文書)ごとに判断しているのであり、所論は前提 判決は、Cの供述の信用性について、裏付けのある部分とそうでない部分を区分して判断しているのではなく、本件で問題となるエピソード(又は問題となる文書)ごとに判断しているのであり、所論は前提 を誤っている。また、原判決がそのような判断枠組みをとった上で、エピソード等ごとに裏付け証拠の有無等を検討して供述の信用性を慎重に判断したことは、一般に共犯者は自らも犯行体験を有していることから真実と虚偽を混在させて供述することが比較的容易であることなどに鑑みれば不合理とはいえない。 ④については、原判決は、一般論として、Cが協議、合意の当事者であり、有利な取扱いを受けたいとの思いから検察官の意向に沿うような供述をしてしまう危険性があり、その供述の信用性は裏付け証拠が十分に存在するなど積極的に信用性を認めるべき事情があるかという観点から慎重に検討すべきと説示しつつも、各エピソード等に関するCの供述の信用性を具体的に検討 するに当たっては、裏付け証拠の有無のほか、供述内容の自然性、具体性、 変遷の有無なども踏まえて判断しているのであるから、協議、合意の当事者であることを理由に基本的にその供述は信用できないという評価をしているとは解されない。所論は前提を誤っており、原判決の考え方が協議、合意制度の趣旨を損なうことになるともいえない。 ⑵ 所論は、Cの供述について、仮に協議、合意に付随する危険性を踏ま えるとしても、以下の点からすればその信用性は肯定されると主張する。すなわち、Cの供述は、記憶に関する問題に十分な手当てがなされ、記憶違いの危険性が相当程度限定されている、客観証拠等により十分裏付けられ、又は整合的である、その内容は合理的で自然であり、供述の一貫性が十分に保たれている、供述態度や供述経過などからも信用性 れ、記憶違いの危険性が相当程度限定されている、客観証拠等により十分裏付けられ、又は整合的である、その内容は合理的で自然であり、供述の一貫性が十分に保たれている、供述態度や供述経過などからも信用性を疑わせる事情は認めら れない、という。 しかし、これらの主張は、それ自体ではそれなりに合理性が認められるものの、結局のところCの供述の信用性に関し原判決とは異なる一つの見方を示すものにすぎず、原判決の判断が不合理であることを基礎付けるものとはいえない。なお、所論は、当審におけるCの証人尋問の結果、原判決の判断 が不合理であることが一層明らかになったと主張するが、いずれも原判決のCの供述の信用性の判断が不合理であることまで基礎付けるものではない。 ⑶ 以上によれば、原判決のCの供述の信用性の評価手法に不合理な点はなく、その判断も誤っているとはいえない。 5 検察官の事実誤認の論旨は理由がない。 第6 結論よって、刑訴法396条により、主文のとおり判決する。 令和7年2月4日東京高等裁判所第4刑事部 裁判長裁判官家令和典 裁判官早川幸男 裁判官丸山哲巳

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