平成22(行ク)144 執行停止申立事件

裁判年月日・裁判所
平成22年6月1日 東京地方裁判所 警察関係
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判決文本文23,459 文字)

主文 処分行政庁が申立人に対し平成22年5月20日付けでした柔道整復師免許取消処分の効力を,本案訴訟の第1審判決の言渡しまでの間停止する。 申立人のその余の申立てを却下する。 申立費用は相手方の負担とする。 理由 第1申立ての趣旨処分行政庁が申立人に対し平成22年5月20日付けでした柔道整復師免許取消処分の効力を,本案訴訟の第1審判決の言渡しの日から起算して30日後まで停止する。 第2事案の概要本件は,柔道整復師の免許を有し,その業務を行ってきた申立人が,懲役刑に処せられたことを理由として,処分行政庁から柔道整復師の免許を取り消す旨の処分(以下「本件処分」という。)を受けたことに対し,本件処分には重大な手続的瑕疵が存在するとともに,考慮すべき事項を考慮せず比例原則違反の判断をしたものとして裁量権の範囲の逸脱があると主張して,本件処分の取消訴訟を提起するとともに,これを本案として,本件処分の効力の停止を申し立てる事案である。 柔道整復師法の定め(1)次の各号のいずれかに該当する者には,免許を与えないことがある。(4条)ア(略)(1号,2号)イ罰金以上の刑に処せられた者(3号)ウ(略)(4号)(2)柔道整復師が,上記(1)アないしウのいずれかに該当するに至ったときは, 厚生労働大臣は,その免許を取り消し,又は期間を定めてその業務の停止を命ずることができる。(8条1項)(3)上記(2)の規定により免許を取り消された者であっても,その者がその取消しの理由となった事項に該当しなくなったとき,その他その後の事情によりふたたび免許を与えることが適当であると認められるに至ったときは,再免許を与えることができる。(同条2項) 前提事実(一件記録(本案事件の記録を含む。以下同じ。)により一応認められ の事情によりふたたび免許を与えることが適当であると認められるに至ったときは,再免許を与えることができる。(同条2項) 前提事実(一件記録(本案事件の記録を含む。以下同じ。)により一応認められる事実)(1)申立人は,昭和▲年▲月▲日生まれであり,昭和59年4月21日に柔道整復師免許を受けた。(疎甲1,2,3,疎乙2)(2)申立人は,平成▲年▲月▲日,さいたま地方裁判所で,詐欺罪により○の判決を受け,控訴したが,同年▲月▲日,東京高等裁判所で控訴を棄却する旨の判決を受け,○の刑が確定した(以下,同判決に係る申立人の犯行を「本件詐欺事件」という。)。(疎甲1,2,4,疎乙1)(3)申立人は,上記(2)の刑によりA刑務所に服役していたが,平成20年11月12日,仮釈放された。(疎甲2,5)(4)申立人は,平成21年5月16日,株式会社Bに雇用され,現在,介護施設である有料老人ホームの機能訓練指導員として稼働している。(疎甲7,9,10)(5)処分行政庁は,平成22年2月4日,申立人に対し,予定される不利益処分の内容を柔道整復師業務停止又は免許取消しとして,同年3月5日に聴聞を行う旨を通知した。(疎甲13,疎乙3)(6)厚生労働省事務官は,平成22年3月5日,申立人に対する聴聞手続を行った。(疎甲13,17,疎乙4,5)(7)処分行政庁は,平成22年5月20日,申立人に対し,同年6月3日をもって柔道整復師免許を取り消す旨の本件処分を行った。(疎甲1) (8)申立人は平成22年5月27日,本件処分の取消訴訟を提起するとともに,本件の申立てをした。(顕著な事実) 争点 (1)重大な損害を避けるための緊急の必要の有無(行政事件訴訟法25条2項)(2)本案について理由がないとみえることの有無(同条4項)(3) ,本件の申立てをした。(顕著な事実) 争点 (1)重大な損害を避けるための緊急の必要の有無(行政事件訴訟法25条2項)(2)本案について理由がないとみえることの有無(同条4項)(3)公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれの有無(同条4項) 争点に関する当事者の主張の要旨(1)争点(1)(重大な損害を避けるための緊急の必要の有無)についてア申立人(ア)本人にとっての重大な損害原告は,現在機能訓練士(機能訓練指導員)として稼働しているところ,機能訓練指導員の資格は柔道整復師の資格に基づくものであって,この資格を失えば申立人がこの業務に携わることはできなくなるから,本件処分の効力が発生した時点で,原告は,現在の施設における機能訓練士としての仕事を失うことになる。 申立人は昭和59年に柔道整復師の免許を受けて以降,約2年間の派遣社員期間を除き,柔道整復師一筋でその仕事に従事してきた。仮釈放後も,すぐに柔道整復師として兄の接骨院を手伝い,刑期終了後は,必死の就職活動を経て(ただでさえ経済状況の厳しい中で服役を経た出所者が定職を得ることは極めて難しいことである。),ようやく見付けた現在の仕事をまじめに行っている。施設においては,リハビリ部門のチーフとして職場や利用者たちからその仕事振りを評価されている。現在職を失えば,申立人の再起をくじく結果となる。 また,申立人は,現在破産手続中であるが,その過程においても継続的な就労とそれに基づく収入の確保を裁判所及び破産管財人から求めら れている。本件処分の効力が発生すると,申立人は直ちに収入の道を失うことになる。本件事情からすれば自己都合退職又は解雇となるから,失業保険の受給までには数か月を要し,すぐに働ける仕事を見つけることは現在の経済状況下でははなはだ困難である。そうすると 収入の道を失うことになる。本件事情からすれば自己都合退職又は解雇となるから,失業保険の受給までには数か月を要し,すぐに働ける仕事を見つけることは現在の経済状況下でははなはだ困難である。そうすると,申立人は,生活費さえねん出できなくなり,破産手続等によって始まった経済的更生も著しく困難となる。 機能訓練士として雇用された者が,その資格を失ってもその雇用が継続される現実的な見込みがあるといった相手方の主張は,到底,現在の社会情勢や福祉雇用の現場の現実を理解しないものである。また,相手方は職を失っても兄からの援助が期待できるというが,申立人が兄から援助を受けていたのは,更生保護委員会から住居地に指定された仮釈放期間中の2か月間に限られ,兄にそれ以上の余裕があるわけではない。 なお,申立人は高齢で障害を有する母親との二人暮らしであり,母親は生活保護を受給しながらぎりぎりの生活を送っており,その生活の世話や支援は申立人のみが行っている。申立人の失職により,そうした母親の生活も困難となる。 (イ)勤務先施設にとっての重大な損害申立人の勤務先施設である老人ホームは特定施設入居者生活介護事業を行っているが,その事業を行うためには機能訓練士1名以上を置かなければならないとされている(指定介護予防サービス等の事業の人員,設備及び運営並びに指定介護予防サービス等に係る介護予防のための効果的な支援の方法に関する基準(平成18年厚生労働省令第35号)231条1項3号)ところ,同施設には申立人のほかに機能訓練士の資格を有する者はおらず,申立人が柔道整復師としての免許を取り消す本件処分を受けた場合,利用者に対する機能訓練を実際に行うことができないばかりか,特定施設入居者生活介護事業者として同事業を適法に行う ことができなくなり,勤務先施設にとって重大な損 許を取り消す本件処分を受けた場合,利用者に対する機能訓練を実際に行うことができないばかりか,特定施設入居者生活介護事業者として同事業を適法に行う ことができなくなり,勤務先施設にとって重大な損害が生ずる。また,機能訓練が中止されることで,同施設の利用者の身体に重大な影響が及ぶことも考えられる。本件処分の告知から効力の発生までの期間が著しく短いことからすれば,その間に,勤務先施設が機能訓練士としての資格を有する人材を募集・採用し,申立人の代替要員を確保することは実質的に不可能である。 このように申立人が柔道整復師の資格及びこれを前提とする機能訓練士としての資格を失えば,申立人の勤務先にとって極めて重大な損害が生じることとなる。 (ウ)以上のとおり,本件において免許の取消しによって生じる申立人及び勤務先に対する不利益は極めて大きい反面,処分行政庁が,不利益処分の根拠となる事実が発生して3年近くの間,漫然と当該手続を行わなかったにもかかわらず,今になって処分の効力発生までにわずかな期間しか設けず処分を行う旨告知していることからすれば,平成22年6月3日に申立人の免許取消処分の効力を生じさせることによって得られる利益は乏しいといわざるを得ない。 なお,執行停止期間については,本案判決で請求が認められなかった場合に,申立人や申立人が勤務している施設が過大な不利益を受けぬよう準備する期間等も考慮に入れて,本案判決後1か月間の期間を認めるのが相当である。 イ相手方(ア)本件処分の内容及び性質について検討すると,柔道整復師免許の取消処分は,柔道整復師の業務が適正に運用されるように規律することを目的としており(柔道整復師法1条),柔道整復師が国民の健康に直接かかわる職業であることから,柔道整復師に対する行政処分が厳格に定められたものであ 整復師の業務が適正に運用されるように規律することを目的としており(柔道整復師法1条),柔道整復師が国民の健康に直接かかわる職業であることから,柔道整復師に対する行政処分が厳格に定められたものである。 免許の取消し等を定める柔道整復師法8条1項の規定は,柔道整復師として職業倫理を欠き人格的に適格性を有しないものと認められる場合には柔道整復師の資格をはく奪することにより,柔道整復師としての業務から排除し,そうまでいえないとしても,柔道整復師の職業倫理に違背したものと認められる場合には一定期間業務の停止を命じて反省を促すべきものとし,当該柔道整復師に制裁を科すことで他の柔道整復師による犯罪,不正,柔道整復師として職業倫理に反するような行為等の再発を防止し,これによって柔道整復師の信頼を確保するとともに柔道整復師の業務が適正に行われることを期するものである。そのような柔道整復師に対する行政処分の効力が安易に停止されると,本来,柔道整復師としての適格性を欠く者が,柔道整復師としての業務を継続し,同種の犯罪,不正等が再び行われるおそれが否定できず,国民の安全な生活の維持及び確保,他の柔道整復師による犯罪等の再発の防止並びに柔道整復師に対する国民の信頼の維持という柔道整復師免許制度の趣旨に反する状態を招来し,ひいては,公共の利益を害する結果を生じさせるおそれがある。 したがって,仮に,免許の取消しの処分の効力を停止すべき場合があるとしても,それは,適格性を欠く柔道整復師が業務を継続するおそれがあることを踏まえても,なお社会通念上受忍できないような重大な損害が発生する場合に限られるものというべきであって,免許の取消しの処分の執行停止は極めて例外的な場合にのみ認められるべきと解されることから,本件処分により申立人に重大な損害が生じるかどうかは 大な損害が発生する場合に限られるものというべきであって,免許の取消しの処分の執行停止は極めて例外的な場合にのみ認められるべきと解されることから,本件処分により申立人に重大な損害が生じるかどうかは慎重に検討すべきである。 (イ)申立人は,本件処分の執行により,申立人が収入の道を失い,経済的更正も困難になる旨主張するが,この損害は,稼働できなくなることにより生じる金銭的な損害であるから,金銭賠償をもって回復すること が可能な財産的損害である。また,申立人には,本件処分の効力が発生しても,勤務先の施設で機能訓練士の補佐の業務を割り当てられるなどして稼働を続ける現実的な見込みがあるといえるし,兄による経済的な援助を期待できる現実的な見込みがある上,申立人が就労すること自体には特段の障害はない。また,本件処分が発効するかどうかと破産手続が終了するかどうかは関係がない。以上のとおり,申立人が主張する上記の損害は,仮に生ずるとしても,それをもって,重大な損害を避けるための緊急な必要性があるとはいえない上,そもそも申立人の主張するとおりの損害自体が発生するとはいえない。 申立人は,申立人の母親の生活への影響や申立人が勤務している施設への影響も主張するが,これらは,申立人以外の第三者の被る損害にすぎず,行政事件訴訟法25条3項の損害に該当しない。なお,申立人が,実母と同居を始めたのは,平成21年1月以降であり,それまで実母は単身居住していた上,実母は,生活保護を受給しているのであるから,申立人が実母の生計を支えていないことも明らかであり,本件処分により,申立人が主張する程の損害を実母が被らないことは明らかである。 (2)争点(2)(本案について理由がないとみえることの有無)についてア相手方(ア)行政事件訴訟法25条4項にいう「本案につい り,申立人が主張する程の損害を実母が被らないことは明らかである。 (2)争点(2)(本案について理由がないとみえることの有無)についてア相手方(ア)行政事件訴訟法25条4項にいう「本案について理由がないとみえるとき」とは,「本案について理由がないことが明らかなとき」とは異なり,本案訴訟において申立人(原告)敗訴の見込みがあることを意味するものではなく,執行停止の申立てを審理する段階において,双方から提出された疎明方法に照らして,本案に関する申立人の主張が一応理由なしと認められるときを意味すると解される。本件においては,以下のとおり,「本案について理由がないとみえるとき」に当たることは明らかである。 (イ)柔道整復師法によれば,厚生労働大臣は,柔道整復師が欠格事由(同法4条)に該当するに至ったときは,免許を取り消し,又は,期間を定めてその業務の停止を命ずることができる(同法8条1項)と規定されている。 この規定は,柔道整復師が同法4条の規定に該当することから,柔道整復師として,職業倫理に反し人格的に適格性を有しないものと認められる場合には柔道整復師の資格をはく奪し,そうまでいえないとしても,柔道整復師としての職業倫理に違背したものと認められる場合には,一定期間柔道整復師の業務の停止を命じて反省を促すべきものとし,これによって柔道整復師の資質を担保し,柔道整復師業務が適正に行われることを期するものであると解される。 したがって,柔道整復師が同法4条3号に規定する「罰金以上の刑に処せられた者」に該当する場合に,免許を取り消し,又は,期間を定めて一定期間柔道整復師の業務の停止を命じるかどうか,そして,一定期間柔道整復師の業務の停止を命じるとしてその期間をどの程度にするかということは,当該刑事処分の対象となった行為の種類,性質, 間を定めて一定期間柔道整復師の業務の停止を命じるかどうか,そして,一定期間柔道整復師の業務の停止を命じるとしてその期間をどの程度にするかということは,当該刑事処分の対象となった行為の種類,性質,違法性の程度,動機,目的,社会的影響等のほか,当該柔道整復師等の性格,処分歴,反省の程度等諸般の事情を考慮し,同法8条1項の規定の趣旨に照らして判断すべきものであり,その判断は,柔道整復師の免許の免許権者である厚生労働大臣の合理的な裁量にゆだねられているものと解するのが相当である。 したがって,厚生労働大臣が,その裁量権の行使として行った柔道整復師の免許を取り消す処分は,それが社会通念上著しく妥当性を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し,これを濫用したと認められる場合でない限り,その裁量権の範囲内にあるものとして,違法とはならないものと解される。 そして,厚生労働大臣の裁量権を逸脱,濫用したことについての具体的事実に関する主張,立証責任は,被処分者である申立人側にあるというべきである。 以上からすると,本件申立てについては,申立人において,厚生労働大臣がその裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用して本件処分を行ったものであることを疎明しない限り,違法とはならず,「本案について理由がないとみえるとき」に該当することとなる(行政事件訴訟法30条参照)。 (ウ)本件処分は,柔道整復師法及び行政手続法が要求する手続を経てされており,その手続要件に欠けるところはない。 申立人は,①処分理由が明示されていないことから行政手続法14条1項及び憲法31条に違反し,かつ,本件処分については,行政手続法26条に定める主宰者の意見に反する判断を示しているにもかかわらず,その理由が具体的に明示されておらず行政手続法14条1項及び26条に違反すること,②本件 し,かつ,本件処分については,行政手続法26条に定める主宰者の意見に反する判断を示しているにもかかわらず,その理由が具体的に明示されておらず行政手続法14条1項及び26条に違反すること,②本件処分に際しては,審査基準が示されておらず,またそれに従っていないことから行政手続法5条1項に違反することを理由に本件処分の手続には取り消し得べき瑕疵がある旨主張する。 しかし,上記①について,行政手続法14条1項の趣旨にかんがみれば,不利益処分をすると同時に示さなければならない理由は,いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して不利益処分がされたかを名あて人においてその記載から了知し得るものであれば,十分であるというべきであり,聴聞における当事者の主張及び主宰者の意見につき,行政庁としてどのようにしんしゃくしたのかを示さなかったからといって,直ちに同項に違反すると解することはできない。これを本件についてみると,柔道整復師法8条1項が引用する同法4条1項3号の構成要件は,「罰金以上の刑に処せられた者」と極めて明確であり,命令書にも, 「平成▲年▲月▲日,東京高等裁判所において詐欺により○の刑に処せられ,柔道整復師法(昭和45年法律第19号)第4条第3号に該当することとなったため。」と明瞭に事実関係と適用法規が記載されている。 また,本件処分は,聴聞手続の実施を要する不利益処分であるから,行政庁のし意抑制機能及び相手方の不服申立便宜機能は,聴聞手続によっても,果たされることが予定されているところ,本件においても,法令の規定に従った聴聞手続が実施され,処分行政庁は,本件処分の決定に当たり,これらの調書の内容及び報告書に記載された主宰者の意見を十分に参酌してこれを行ったものである。そうすると,本件処分について,行政庁のし意抑制機能及び相手方の ,処分行政庁は,本件処分の決定に当たり,これらの調書の内容及び報告書に記載された主宰者の意見を十分に参酌してこれを行ったものである。そうすると,本件処分について,行政庁のし意抑制機能及び相手方の不服申立便宜機能は,聴聞手続によって十分に果たされているといえるから,この点からも,本件処分をする際の理由付記は適法なものであったということができる。 また,上記②についても,本件処分は,申請に対する処分ではなく,不利益処分であるから,同条項は適用されず,行政手続法12条1項が適用されるのであって,行政手続法5条1項に基づいて本件処分の手続を論難する申立人の主張は理由がない。なお,行政手続法12条1項は,努力義務を定めたものであり,この点に関する義務違反は,本件処分の違法性の瑕疵をもたらすものではない。 (エ)a柔道整復師法は,柔道整復師の資格を定めるとともに,その業務が適正に運用されるように規律することを目的としている(柔道整復師法1条)。 これは,柔道整復師の施術の業務は医業と密接な関連にあり,身体に及ぼす影響も大きいので,十分な専門的知識及び技能が求められるとともに,国民の信頼に足る職業倫理性が求められることから,この業務を行うことを一般に禁止し,柔道整復師としての業務を支障なく行うことができるための十分な知識技能を修得している者についての み免許を与えるなどして,その業務が適正に運用されるように規律することとしたものである。 本件詐欺事件の犯行は,上記の柔道整復師法の趣旨目的を損なう悪質な犯行であり,柔道整復師法の上記趣旨にかんがみれば,厚生労働大臣が,上記のように柔道整復師法の趣旨を没却する悪質な犯行に及んだ申立人に対し,犯罪の悪質性その他諸般の事情を考慮した上で,柔道整復師としての品位を損ない,あるいは柔道整復師の職業倫理 ,厚生労働大臣が,上記のように柔道整復師法の趣旨を没却する悪質な犯行に及んだ申立人に対し,犯罪の悪質性その他諸般の事情を考慮した上で,柔道整復師としての品位を損ない,あるいは柔道整復師の職業倫理に違背したものと認めて本件処分をしたことが,社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し,これを濫用したと認められる場合に当たらないことは明らかであるから,本件処分は適法である。 b申立人は,①申立人が本件詐欺事件を起こすに至った経緯にしんしゃくすべき事情があること,②本件詐欺事件については,実刑判決に服することで刑事的責任を既に取っていること,③処分時において考慮されるべき事情が考慮されず,結果として比例原則違反の判断がされていることを理由に,本件処分は裁量権の逸脱があるから違法であるなどと主張する。 しかし,上記①については,前提事実(2)の第1審判決が,「関係者から本件犯行を持ちかけられ,自分の利益にもなることから安易に承諾したものであるが,いうまでもなく,犯行の動機ないし経緯等において酌むべき事情は全くない。」と判示するとおり,その犯行に至る経緯及び動機に酌量すべき点はなかったというべきである。また,上記②については,犯罪を敢行した以上,受刑によりその責任を取ることは当然の話であり,殊に,申立人の敢行した犯行が,柔道整復師の資格に対する信頼を悪用した事案であることからすれば,それ自体,柔道整復師としての適格性を否定する徴表であることは明らかであり,上記刑事罰を受けたということだけでは,裁量権の行使としての合理 性が否定されるものではない。さらに,上記③については,考慮すべきであるとする前提に誤りがあるものもある上,処分の性質上,被処分者に有利な事情を考慮しても,不利益処分を課さざるを得ない場合のあることは 否定されるものではない。さらに,上記③については,考慮すべきであるとする前提に誤りがあるものもある上,処分の性質上,被処分者に有利な事情を考慮しても,不利益処分を課さざるを得ない場合のあることは当然である。 なお,柔道整復師法8条2項は,法文上明らかなとおり,同条1項の規定による免許の取消しの処分を受けた者について,再免許を与える余地を認めたものであり,同条1項による免許の取消しの制裁を受け,反省を余儀なくされた者を対象とすることを前提とするものであるから,その趣旨が免許の取消しの処分を受けていない者に及ばないことは明らかである。 また,申立人は,要件該当事由が生じてから合理的期間を経過しても裁量権の行使がされない場合には,当該処分がされないことに対する対象者の期待権を保護すべきである旨主張するが,処分行政庁が本件詐欺事件について把握したのは,埼玉県保健医療部医療整備課長から行政処分対象事案として情報提供のあった平成20年12月であるところ,従前より,柔道整復師を対象とする行政処分は,医師・歯科医師,看護師等を除くその他の医療職種の事案と共に1年1回の割合で行っており,平成20年度については平成21年3月を予定していたが,本件事案を把握した平成20年12月時点において,その後資料を収集し,これに基づいて事実関係を把握した上,聴聞の手続を実施しなければならず,そのスケジュールを考慮すると,平成21年3月までに処分をすることは,時間的に困難であると判断されたために,やむを得ず翌年度に持ち越しとなったものである。したがって,本件処分は,合理的期間内にされたものである。また,そもそも行政手続法は,不利益処分については,受益処分と異なり,標準処理期間(6条)に類する規定を一切設けていないこと及び不利益処分については, 受益処分よりも 期間内にされたものである。また,そもそも行政手続法は,不利益処分については,受益処分と異なり,標準処理期間(6条)に類する規定を一切設けていないこと及び不利益処分については, 受益処分よりも慎重な判断が必要であることに照らすと,本件処分について,裁量権の行使の瑕疵をもたらすような遅滞があるということはできないというべきである。 c以上により,本件処分には,社会的通念上著しく妥当を欠くような点は何ら認められず,裁量権の逸脱があったこと理由として本件処分が違法であるとする申立人の主張は前提を欠いたものであり,失当である。 イ申立人(ア)本件処分においては,以下のとおり,重大な手続的瑕疵が存在するとともに,実体的判断においても,比例原則に違反し,法規の趣旨に照らし考慮すべき事情を考慮しないでされたという裁量権を逸脱する違法があるというべきである。本件処分の裁量権行使の適法性については,その審査基準が示されておらず,また,本件処分についての裁量権行使の実質的な理由についても示されていないことなどからすれば,他の例について柔道整復師の免許取消しや業務停止命令の運用がどのように行われているかの検討がされていない現段階においては,本案について理由がないとみえるということはできない。 なお,相手方は,「本案について理由がないとみえるとき」の要件について,本案に関する申立人の主張が一応理由なしと認められるときを意味するというが,その解釈は独自のものであり,同要件については,双方の主張及び提出された疎明資料から本案についての認容可能性が一定程度ある場合には充足されないと解すべきである。 (イ)本件処分の手続的瑕疵についてa本件処分に係る命令書においては,「柔道整復師法第4条3号違反に該当する」旨の記載があるが,同法8条は当該要件に該当 る場合には充足されないと解すべきである。 (イ)本件処分の手続的瑕疵についてa本件処分に係る命令書においては,「柔道整復師法第4条3号違反に該当する」旨の記載があるが,同法8条は当該要件に該当した場合には免許取消処分もしくは業務停止処分をすることが「できる」と記 載されており,その趣旨は,処分をするか否か及び処分の内容については,当該要件に該当するとされた上で,新たな判断によって決定されるというものと解され,当該要件に該当した場合に直ちに一定の処分が一義的に導かれるわけではない。 本件のような形式的な理由のみが示されその裁量権行使の実質の判断過程の理由をうかがわせる理由が何ら示されていない場合には,その判断の慎重・合理性を担保してし意を防ぐことは到底可能ではないし,裁量権行使の理由が明らかでない以上不服申立ての判断も不可能である。法文上は,免許取消しを行う場合と業務停止を命ずる場合には何らの要件上の区別はなされておらず,しかしその効果には大きな違いがあるのであるから,少なくともいかなる理由によって免許取消しの処分が選択されたのかという理由の付記は行政手続法の趣旨からしても不可欠であった。このような理由が示されないでの不利益処分は,手続的違法がある。 b行政手続法5条1項は「行政庁は審査基準を定めるものとする」と規定し,同条2項はその審査基準が処分の性質に照らして可及的に具体的なものであることを要求しているが,柔道整復師の免許取消処分・業務停止処分についての審査基準は何ら設けられておらず,当然,申立人に示されてもいない。 同法12条1項は,その規定上努力義務となっているが,同法が審査基準を求める理由は同法5条と同様であり,可能な限り,行政庁のし意を防ぐ程度には審査基準を設けることが求められているというべきである。 柔道整 条1項は,その規定上努力義務となっているが,同法が審査基準を求める理由は同法5条と同様であり,可能な限り,行政庁のし意を防ぐ程度には審査基準を設けることが求められているというべきである。 柔道整復師法の規定上,厚生労働大臣の裁量権の行使の有無及びその内容によって被処分者である申立人に及ぼす影響は極めて大きい。 したがってその裁量権がどのように行使されるかについては,行政の し意を防ぎ,平等原則を実現するためにも合理的な審査基準が設けられ,これを公正かつ合理的に適用することが必要である。これを設けず,示さず,したがって,当然に具体的な審査基準に基づかずされている本件不利益処分は,憲法31条,14条,行政手続法5条1項及びその趣旨に反する違法なものである。 c前提事実(6)の聴聞手続において,聴聞主宰者は,処分に当たっては,反省している点についても参酌願いたい旨の意見を述べ,免許取消処分をすべきである旨の意見を述べていない。行政手続法26条にかんがみれば,聴聞の主宰者意見に反する判断をする場合は,少なくとも合理的理由が必要であり,免許取消しという重大な不利益処分をする場合にはその理由が具体的に明示されるべきであるにもかかわらず,本件処分に係る命令書にはそのような理由が記載されていない。このように,処分行政庁が告知聴聞手続の結果である主宰者意見を無視することは行政手続法26条又はその趣旨に反するものであり,本件処分に手続的な瑕疵をもたらす。 (ウ)本件処分の実体的な裁量権の範囲の逸脱についてa申立人が,本件詐欺事件を起こすに至った経緯として,暴力団関係者の巧みともいい得るような巻き込み行為があり,いったんかかわった後には恐喝・脅迫行為等が繰り返されて逃れられない状態になってしまったというしんしゃくすべき事情がある。 bまた, して,暴力団関係者の巧みともいい得るような巻き込み行為があり,いったんかかわった後には恐喝・脅迫行為等が繰り返されて逃れられない状態になってしまったというしんしゃくすべき事情がある。 bまた,本件詐欺事件についての刑事的責任は,申立人が実刑判決に服し,つらい懲役生活を送るという形で果たしている。 c(a)処分について裁量的規定となっている柔道整復師法8条1項からすれば,単に刑事処分として懲役刑を受けたということだけで処分を行うのではなく,本件処分に際しては柔道整復師法の趣旨・目的に照らして,処分時において免許取消しというもっとも重い処分 を課すべき事情があるかどうかについて検討されるべきである。また,柔道整復師法の目的に照らせば,同法8条1項が引用する4条3号が罰金刑以上の判決を受けたことを要件としているのは,判決を受けたこと自体に実質的な処分理由があるのではなく,判決を受ける基礎となった事件を起こしたことが柔道整復師としての品位やその信頼を傷付けることになるからである。そうすると,処分についての裁量権行使の適否を考えるに当たっても,その判決の基礎となった事件の事実について検討をする必要がある。そして,同法8条2項によれば,柔道整復師の免許の保持に関しては,単に過去の一時点での事実(本件では罰金刑以上の判決を受けたこと)だけでなく,被処分者のその後の生活状況その他の事情を考慮して判断を行うべきとの立法者の意思が示されている。これは免許取消処分等の持つ効果が極めて重いことにかんがみて,時間的経過による変化等も含めた考慮要素を検討した上でその免許の保持の有無について判断すべきという比例原則の現れでもある。 (b)これを本件について検討すると,本件では対象となった保険料の不正請求が行われてから5年以上が経過しており,それ以降 た上でその免許の保持の有無について判断すべきという比例原則の現れでもある。 (b)これを本件について検討すると,本件では対象となった保険料の不正請求が行われてから5年以上が経過しており,それ以降申立人は不正行為には一切携わっていないし,本件詐欺事件の捜査機関等への発覚前に,申立人は接骨院を廃業し,不正行為への関与はできない状態となっていた。さらに,刑事判決を受けて出所した後も,申立人は,柔道整復師としてまじめに勤務し,また,事件の原因となった債務の整理のため破産手続を取る等,5年前の過ちを二度と起こさず,再び自らの柔道整復師としての品位と信頼を築くための努力を重ねてきていると認められる。本件処分は,処分事由が発生してから3年が経過した後に,上記のような3年間の変化(ひいては事件から5年間の変化)については一切触れず,3年前に要件該 当事由があった一事をもって最も重い処分を課すことを決めたものである。これは上記のとおり免許の保持に関して時間の経過による事情変化も含めた要素を考慮して裁量権を行使すべきとした法の趣旨に反する判断である。 また,不利益処分について裁量的な規定となっている場合においては,要件該当事由が生じてから合理的期間を経過しても裁量権が行使されないとき,対象者は当該処分がされないことについての一定の期待を抱くことになる。処分がされた場合に対象者の生活に対する影響が大きい場合,行政庁が時期的な制約なしに処分をすることができるとすると,処分対象者は余りに不安定な地位に置かれることになることからすれば,この期待権は一定の保護を受けるべきである。したがって,行政庁は,処分事由が生じており,かつ,それに基づく処分手続の実施が困難ではない場合には,迅速に当該処分を行う義務を負っている。本件について,処分行政庁は,刑事手 を受けるべきである。したがって,行政庁は,処分事由が生じており,かつ,それに基づく処分手続の実施が困難ではない場合には,迅速に当該処分を行う義務を負っている。本件について,処分行政庁は,刑事手続の確定後,速やかに処分手続を行うべきであった。告知聴聞手続との関係で,申立人が刑務所を出所した後でないと処分が困難であったとしても,申立人が出所してから1年以上経過してから告知聴聞手続の告知がされたというのは余りに遅いといわざるを得ない。 本件処分手続の前提となる事実関係が複雑であるとか,考慮する要素についての調査に時間を要するとかいった事情も認められない。 d前記前提事実(6)の聴聞手続において,聴聞主宰者は,処分に当たっては,反省している点についても参酌願いたい旨の意見を述べ,免許取消処分をすべきである旨の意見を述べていない。したがって,主宰者は,申立人が反省していることを踏まえ,被処分者である申立人に有利な方向での参酌をし,それを処分に反映させるべきである旨の意見を有していたものと解される。しかし,本件処分は最も重い処分で あり,当該主宰者の意見が十分に参酌されなかったか,あるいは参酌した上で反映されなかったことになる。これは,行政手続法26条に照らし,処分行政庁の裁量権の逸脱があったことを推察させる。 e以上のとおり,本件では,処分時において考慮されるべきであった,刑事事件の判決以後の事情が考慮されておらず,また処分手続を行うのにいたずらに時間を費やした結果,当該処分によって生じる不利益を増大させることになり,比例原則に反する不利益を申立人にもたらすことになった。このような処分は,厚生労働大臣に与えられた裁量権を逸脱するものであり,違法である。 (3)争点(3)(公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれの有無)についてア相手 申立人にもたらすことになった。このような処分は,厚生労働大臣に与えられた裁量権を逸脱するものであり,違法である。 (3)争点(3)(公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれの有無)についてア相手方上記(2)ア(イ)の柔道整復師免許取消処分等の趣旨にかんがみれば,その効力が安易に停止されるときには,本来,柔道整復師としての適格性を欠く者が,柔道整復師として医療等の業務を継続し,同種の犯罪,不正等が再び行われるおそれも否定できず,国民の安全な生活の維持及び確保,柔道整復師及び医療制度に対する国民の信頼の維持という柔道整復師免許制度の趣旨に反する状態を招来し,ひいては,公共の利益を害する結果を生じさせるおそれがある。殊に申立人の本件詐欺事件の犯行態様に照らせば,本件処分の効力を停止することは,かかる非違行為が柔道整復師として容認されるがごとき感覚を一般市民や医療従事者等に与え,柔道整復師の業務の現場の倫理のし緩を招来するとともに,国民の柔道整復師に対する信頼一般を害するものであるから,本件処分の執行を停止することが「公共の福祉に重大な影響を及ぼす」ことは明らかである。 イ申立人本件執行停止が認められたとしても,これまで厚生労働省が処分手続の着手に長期間を費やした事情や申立人の現在の生活状況からすれば,公共 の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとはいえない。 第3当裁判所の判断 前記前提事実に加え,一件記録等によれば,次の事実が一応認められる(関係する疎明資料を,適宜,掲記する。)。 (1)申立人は,昭和▲年▲月▲日生まれであり,昭和59年4月21日に柔道整復師免許を受けた。申立人は接骨院や病院等での勤務を経て,平成2年10月ころからは接骨院を経営して柔道整復師の業務を行ってきた。(疎甲1,2,3,疎乙2)(2)平成1 和59年4月21日に柔道整復師免許を受けた。申立人は接骨院や病院等での勤務を経て,平成2年10月ころからは接骨院を経営して柔道整復師の業務を行ってきた。(疎甲1,2,3,疎乙2)(2)平成13年ころから,申立人の接骨院の患者数が減少したこと等を理由として,申立人の債務が増加していった。(疎甲2)(3)申立人は,平成16年ころ,暴力団員から持ち掛けられ,当該暴力団員等と共謀の上,実際には行っていない柔道整復施術を行ったものと装い,自動車保険会社から柔道整復施術療養費を詐取した(本件詐欺事件)。その後,暴力団員等から金銭を要求されるようになったことなどから,申立人は,平成17年8月ころ,接骨院の経営をやめ,派遣社員として稼働していたが,平成19年1月24日,本件詐欺事件により逮捕された。(疎甲2,4)(4)平成▲年▲月▲日,さいたま地方裁判所は,本件詐欺事件について,大要,①暴力団員が交通事故の被害車両に乗車していたことを利用する詐欺を企て,損害保険会社から,交通事故による柔道整復施術療養費名下に約47万円を詐取し,②暴力団員と共謀して,損害保険会社から,交通事故による柔道整復施術療養費名下に約147万円を詐取したとの事実を認定し,申立人を○に処する旨の判決を言い渡した。申立人は控訴したが,東京高等裁判所は,同年▲月▲日に控訴を棄却する旨の判決を言い渡し,○の刑が確定した。(疎甲1,2,4,疎乙1)(5)上記(4)の第1審判決までに,申立人の兄は,本件詐欺事件の被害弁償に充てるための資金として20万円を用意したことから,申立人の弁護人は, 本件詐欺事件の被害者である保険会社のうちの1社に同額を支払った。(疎甲4,11,疎乙1)(6)申立人は,上記(4)の刑によりA刑務所に服役していたが,平成20年11月12日, 弁護人は, 本件詐欺事件の被害者である保険会社のうちの1社に同額を支払った。(疎甲4,11,疎乙1)(6)申立人は,上記(4)の刑によりA刑務所に服役していたが,平成20年11月12日,仮釈放され,申立人の兄が営む接骨院の手伝いをしていた。 (疎甲2,5)(7)埼玉県保健医療部医療整備課長は,平成20年12月1日付けで,厚生労働省医政局医事課長に対し,申立人に係る行政処分対象事案の情報提供を行った。(疎乙2)(8)平成21年1月20日,申立人の上記(4)の刑の執行が終了した。(疎甲2,5)(9)申立人は,平成21年5月16日,株式会社Bに雇用され,現在,特定施設入所者生活介護を行う老人ホームの機能訓練指導員として稼働している。 機能訓練指導員となるには,柔道整復師その他の資格を有する者であることが必要である。(疎甲2,7,9,10)なお,指定特定施設入居者生活介護事業者は,指定特定施設入居者生活介護の事業を運営する場合又は指定特定施設入居者生活介護の事業及び指定介護予防特定施設入居者生活介護の事業を一体的に運営する場合は,指定特定施設ごとに機能訓練指導員を1名以上置くべきものとされている(平成11年厚生労働省令第37号「指定居宅サービス等の事業の人員,設備及び運営に関する基準」175条)。指定介護予防特定施設入居者生活介護事業者が指定介護予防特定施設入居者生活介護の事業を運営する場合又は指定介護予防特定施設入居者生活介護の事業及び指定特定施設入居者生活介護の事業を一体的に運営する場合も同様である。(疎甲8)(10)申立人は,肩書住所地で,身体の不自由な75歳の母親と共に生活している。申立人の母は,生活保護を受給している。(疎甲2)(11)申立人は,弁護士に債務整理の依頼をしていたところ,平成21年12 月 は,肩書住所地で,身体の不自由な75歳の母親と共に生活している。申立人の母は,生活保護を受給している。(疎甲2)(11)申立人は,弁護士に債務整理の依頼をしていたところ,平成21年12 月21日,さいたま地方裁判所から破産手続開始決定を受けた。(疎甲2,6)(12)処分行政庁は,平成22年2月4日,申立人に対し,予定される不利益処分の内容を柔道整復師業務停止又は免許取消しとして,同年3月5日に聴聞を行う旨を通知した。(疎甲13,疎乙3)(13)厚生労働省事務官は,平成22年3月5日,申立人に対する聴聞手続を行った。(疎甲13,17,疎乙4,5)(14)上記(13)の厚生労働省事務官(聴聞主宰者)は,平成22年3月9日,厚生労働大臣に聴聞の結果を報告した。聴聞報告書には,意見として,「処分にあたっては,反省している点についても参酌願いたい」旨記載されていた。(疎乙5)(15)平成22年3月23日,申立人の破産手続に係る第1回目の債権者集会が開かれた。同集会における破産管財人からの報告によると,申立人の財産は,申立人の自由財産とされる予定の現金29万8700円及び預貯金等合計14万2045円のほか,簿価0円として破産財団から放棄された原動機付自転車,換価可能性が乏しいとされた借地権及び建物の共有持分並びに消費者金融会社に対する不当利得返還請求権(その一部である11万円を回収し,更に9万4000円が回収見込みとされている。)等であり,他方,財団債権及び優先債権として扱われる公租公課の債務は合計189万1604円となっている。また,上記建物の共有持分には,租税債権による差押えがされている。(疎甲18)(16)処分行政庁は,平成22年5月20日,申立人に対し,同年6月3日をもって柔道整復師免許を取り消す旨の本件処分を行 た,上記建物の共有持分には,租税債権による差押えがされている。(疎甲18)(16)処分行政庁は,平成22年5月20日,申立人に対し,同年6月3日をもって柔道整復師免許を取り消す旨の本件処分を行った。(疎甲1)(17)申立人は平成22年5月27日,本件処分の取消訴訟を提起するとともに,本件の申立てをした。(顕著な事実) 争点(1)(重大な損害を避けるための緊急の必要の有無)について (1)行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(行政事件訴訟法3条3項に規定する裁決,決定その他の行為を除く。以下「処分」という。)については,その取消訴訟が提起されても,処分の効力,処分の執行又は手続の続行(以下「処分の執行等」という。)は妨げられないものとされており(同法25条1項。いわゆる執行不停止の原則),裁判所は,処分の執行等により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるとして原告から申立てがあった場合に限り,その処分の執行等の全部又は一部の停止(以下「執行停止」という。)をすることができる(同条2項本文)。そして,重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっては,損害の回復の困難の程度を考慮するものとし,損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとされ(同条3項),他方,公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき,又は本案について理由がないとみえるときは,執行停止をすることができない(同条4項)。 (2)これらの執行停止の要件に関する規定の趣旨に照らすと,行政事件訴訟法25条2項本文にいう「重大な損害を避けるため緊急の必要がある」か否かについては,処分の執行等により維持される行政目的の達成の必要性を踏まえた処分の内容及び性質と,これによって申立人が被ることとなる損害の性質及び程度とを,損害の回復の困難の 緊急の必要がある」か否かについては,処分の執行等により維持される行政目的の達成の必要性を踏まえた処分の内容及び性質と,これによって申立人が被ることとなる損害の性質及び程度とを,損害の回復の困難の程度を考慮した上で比較衡量し,処分の執行等による行政目的の達成を一時的に犠牲にしてもなおこれを停止して申立人を救済しなければならない緊急の必要性があるか否かという観点から検討すべきである。 そして,申立人は,専ら経済的損失の発生をいうところ,経済的損失は,基本的には事後の金銭賠償によるてん補が可能であることにかんがみれば,経済的損失が発生するおそれを理由として,上記緊急の必要性があるといえるためには,当該経済的損失の発生につき事後の金銭賠償によってはその回復が困難又は不相当であると認められるような事情が存することが必要であ るというべきである。 なお,申立人は,申立人の勤務先といった第三者に生ずる損害についても主張しているが,抗告訴訟が原告自身の権利救済を目的とする制度である以上,執行停止制度で救済されるべき利益も申立人(原告)自身の利益でなければならないと解すべきであって,第三者に生ずる損害は,行政事件訴訟法25条2項の「重大な損害」に該当しないというべきである。また,申立人は,本件処分によって職を失う結果となれば,犯罪からの再起をくじく結果となることが重大な損害である旨主張し,職を失うことによる経済的損害以外に何らかの損害が生じると主張するもののようであるが,申立人が柔道整復師として稼働できないことにより,経済的損害と別に何らかの具体的な損害が発生することを一応認めるに足りる疎明はないといわざるを得ない。 (3)そこで,上記(2)の観点から,申立人の主張について,以下,検討する。 ア申立人は,現在柔道整復師の資格を活用して介護施設の 害が発生することを一応認めるに足りる疎明はないといわざるを得ない。 (3)そこで,上記(2)の観点から,申立人の主張について,以下,検討する。 ア申立人は,現在柔道整復師の資格を活用して介護施設の機能訓練指導員として稼働しているところ(前記1(9)),申立人が柔道整復師の免許を取り消された場合,機能訓練指導員たる前提資格を欠くことになり,現在の職を失う可能性が高い。相手方は,申立人が現在の勤務先において,他の業務に従事するものとして引き続き雇用される現実的な見込みがあるというが,その疎明はない(指定特定施設入居者生活介護事業者及び指定介護予防特定施設入居者生活介護事業者は,施設ごとに機能訓練指導員を1名以上置くべきものとされていること(前記1(9))からすると,勤務先においても,申立人以外の新たな機能訓練指導員を雇用せざるを得なくなるのであり,それに加えて申立人を雇用し続けるという事態は想定し難いところである。)。そして,柔道整復師の資格を失う以上,特段の資格を要しない職を探すほかなく,申立人の年齢(46歳)及び本件詐欺事件による受刑歴があること,これまで柔道整復師としての稼働以外には,派遣社員として約2年間稼働した経験があるのみであることに照らして,早急に再 就職先を見付けることは非常に困難であることが容易に推認される。 イ申立人は,前記1(10)のとおり,現在生活保護を受けている母親(75歳)と2人暮らしであり,前記1(11)及び(14)のとおり,破産手続開始決定を受けており,平成22年3月現在で,現金及び預貯金として約44万円を有するほかには,直ちに換金可能な,又は借財の担保となるべき財産も有しない。また,前記1(5)のとおり,本件詐欺事件の公判に当たって,被害弁償のために兄が用意できたのが20万円であることにかんがみ, 有するほかには,直ちに換金可能な,又は借財の担保となるべき財産も有しない。また,前記1(5)のとおり,本件詐欺事件の公判に当たって,被害弁償のために兄が用意できたのが20万円であることにかんがみ,母及び兄等の親族からの援助を期待することも困難であることが推認される。 ウそうすると,本件処分の効力が発生した場合,申立人は収入の道を断たれ,他に利用可能な財産も限られていることから,申立人の生活は早晩困窮することが高い確率で予想され,申立人に,事後の金銭賠償では回復が困難な重大な損害をもたらす蓋然性が高いといわざるを得ない。 (4)他方,本件処分の執行により達成される行政目的は,第1次的には,犯罪を犯し,適格性を欠く柔道整復師が業務を行うことを防ぎ,当該柔道整復師による不正不当な行為が繰り返されることを防ぐことである。しかし,本件処分の原因となった事実は,申立人の業務に関して行われた犯罪であるとはいえ,申立人の柔道整復師としての知識・技術等に問題があることが原因となったものではないこと,また,申立人の患者が直接被害者になったものでもないことからすれば,本件処分の効力が停止されて申立人が引き続き柔道整復師としての業務を行ったとしても,直ちに申立人の不適当な施術等により患者の生命身体が害されるといった事態が発生するとは認められない。さらに,処分行政庁において,申立人が柔道整復師としての業務を行っていることが公共の福祉に重大な影響を及ぼすものと認識していたのであれば,直ちにその免許取消し等に向けた手続を開始しているはずであるにもかかわらず,処分行政庁は,申立人が仮釈放されて柔道整復師としての業務を開始してから約1年2か月,申立人の刑期終了から起算しても1年以上経過した平 成22年2月になって初めて,申立人に対し本件処分に係る手続を通知して は,申立人が仮釈放されて柔道整復師としての業務を開始してから約1年2か月,申立人の刑期終了から起算しても1年以上経過した平 成22年2月になって初めて,申立人に対し本件処分に係る手続を通知しており,処分行政庁が公共の福祉に重大な影響を及ぼすものとして迅速に申立人の処分の手続を行ったものとは言い難い。 (5)以上の検討によれば,前記(2)の観点からみて,本件処分による行政目的の達成を一時的に犠牲にしてもなお申立人を救済しなければならない緊急の必要性があるということができるから,「重大な損害を避けるため緊急の必要がある」(行政事件訴訟法25条2項)と認めるのが相当である(これに反する相手方の主張は,以上に説示したところに照らし,いずれも理由がない。)。 争点(2)(本案について理由がないとみえることの有無)について(1)申立人は,本案について,前記第2の4(2)イのとおり,本件処分に手続的瑕疵がある旨主張するほか,申立人の本件詐欺事件の犯行に至る経過,受刑後の申立人の生活状況等といった事情が考慮されておらず,また,処分手続の遅延により,申立人に,比例原則に反する結果をもたらしたことからすれば,本件処分は処分行政庁に与えられた裁量権の範囲を逸脱するものであり,違法である旨主張している。 (2)一般に,柔道整復師法4条各号の事由がある柔道整復師に処分をするかどうか及びどのような処分をすべきかは処分行政庁の裁量にゆだねられているとしても,処分行政庁が考慮すべき事項を考慮せず,考慮すべきでない事項を考慮して判断をした場合や,その判断が合理性を持つ判断として許容される限度を超えた不当なものである場合には,処分行政庁による柔道整復師法8条に基づく処分が裁量権の範囲を逸脱又は濫用したものとして違法と判断される余地があり得るところ,本件に を持つ判断として許容される限度を超えた不当なものである場合には,処分行政庁による柔道整復師法8条に基づく処分が裁量権の範囲を逸脱又は濫用したものとして違法と判断される余地があり得るところ,本件についても,そのような余地の有無を判断するために,申立人の本件詐欺事件の犯行に至る経過や犯行態様,受刑後の生活状況や稼働状況等について,本案の審理を経る必要がないということはできない。 以上によれば,一件記録に照らしても,現段階において,本件処分が裁量権の範囲を逸脱するもので違法であるとの申立人の主張につき,本案事件の第1審の審理を経ることなく直ちに理由がないとまではいい難い(これに反する相手方の主張は,以上に説示したところに照らし,いずれも理由がない。)。 (3)そうすると,本件申立てが,「本案について理由がないとみえるとき」に該当するということはできない。 争点(3)(公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれの有無)について相手方は,本件処分の効力を停止すると,本来,柔道整復師としての適格性を欠く者が,柔道整復師として医療等の業務を継続し,同種の犯罪,不正等が再び行われるおそれも否定できず,国民の安全な生活の維持及び確保,柔道整復師及び医療制度に対する国民の信頼の維持という柔道整復師免許制度の趣旨に反する状態を招来し,ひいては,公共の利益を害する結果を生じさせるおそれがあり,殊に申立人の本件詐欺事件の犯行態様に照らせば,本件処分の効力を停止することは,かかる非違行為が柔道整復師として容認されるがごとき感覚を一般市民や医療従事者等に与え,柔道整復師の業務の現場の倫理のし緩を招来するとともに,国民の柔道整復師に対する信頼一般を害する旨主張する。 しかし,本件処分の効力が停止され,申立人が引き続き柔道整復師としての業務を行うことがあっても 整復師の業務の現場の倫理のし緩を招来するとともに,国民の柔道整復師に対する信頼一般を害する旨主張する。 しかし,本件処分の効力が停止され,申立人が引き続き柔道整復師としての業務を行うことがあっても,本件詐欺事件により有罪の判決を受け,実際に服役し,反省の態度を示している申立人が,再度刑事手続を受ける危険を冒して同種の犯罪行為を行うおそれは極めて低いと考えられるだけでなく,前記2(4)で説示した点を考慮すると,直ちに公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとは認め難いというべきである。また,本件の第1審判決言渡しまでという限られた期間において,申立人に対する本件処分の効力が停止されることになったとしても,非違行為が柔道整復師として容認されるがごとき感覚を一般市民や医療従事者等に与えるとは到底いえないのであって,本件執行停止の 申立てを認容することにより,公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとはいい難い。 本件処分の効力停止の期間について前記3の「本案について理由がないとみえるとき」に当たるか否かの判断は,事柄の性質上,本案事件の第1審判決の結論によって影響を受けるものであり,この点については,本案事件の第1審判決の結論を踏まえて改めて判断するのが相当であると思料される。 したがって,本件処分の効力停止の期間は,本案事件の第1審判決の言渡しまでの間とするのが相当である。申立人は,申立人の勤務先において,申立人が資格を有しなくなった場合の準備のために,第1審判決の言渡しから30日後まで効力停止を認めるべきであるというが,前記2(2)のとおり,執行停止の制度は申立人に生ずる損害を避けるためのものであるから,第三者の損害を考慮することは相当でない。 よって,本件申立ては,本件処分の効力を第1審判決の言渡しまで停止する限度で のとおり,執行停止の制度は申立人に生ずる損害を避けるためのものであるから,第三者の損害を考慮することは相当でない。 よって,本件申立ては,本件処分の効力を第1審判決の言渡しまで停止する限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから却下することとし,申立費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民訴法61条,64条ただし書を適用して,主文のとおり決定する。 平成22年6月1日東京地方裁判所民事第2部裁判長裁判官川神裕裁判官小海隆則 裁判官須賀康太郎

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