主文 被告人を懲役10年に処する。 未決勾留日数中150日をその刑に算入する。 理由 (犯行に至る経緯) 1 被告人は,大分市内で生まれ,鹿児島県内の高校を卒業後,大分市に戻り,花屋店員として勤務した後,平成10年2月ころ,人材派遣業を営む有限会社Aに就職し,造船関係の作業員として稼働するようになった。同社の事務所は,暴力団B組C会D興業大分支部の組事務所を兼ねており,同社の実質的経営者は同支部組長であるE,役員はその妻及び同支部若頭であるFであり,従業員であるGやHも同支部の組員であった。同社は,金融業も行っており,その貸付及び回収業務については主にFが取り仕切っていた。被告人は,同社に入社後,慕っていたFの誘いを受け,平成12年11月3日ころ,Fと兄弟分の杯を交わして同組組員となり,以後は専らFの指示を受けて同組の事務所当番や同人の運転手を務めるようになった。 2 被害者Iは,有限会社Jを設立し,土木建築請負業を営んでいたが,平成7年末ころ,Eと知り合い,同社の運転資金をAから借入れするようになった。しかし,Iは,他にも合計1億円以上の借金を抱えていたため,Aに対する返済を遅延することが多くなり,平成11年7月末には,3000万円の借用書をEに差し入れ,月々分割返済をしていた。 3 Eは,平成12年8月ころから生命保険会社の外交員であるKと情交関係を有していたが,同年9月25日ころ,同女が以前Iとの間でも情交関係にあったことを知って憤慨し,同年10月,Kに対し,3回にわたり顔面を殴打するなどの暴行を加えて傷害を負わせた。このころ,Fは,Iに対し,Kとの関係を追及すると共に前記貸付金3000万円を同月末までに一括で支払うように要求したが,Iが返済を怠ったばかりか居所も明らかにしないようになったため,Jの事務所に乗り込み,同社の従業員を退 し,Kとの関係を追及すると共に前記貸付金3000万円を同月末までに一括で支払うように要求したが,Iが返済を怠ったばかりか居所も明らかにしないようになったため,Jの事務所に乗り込み,同社の従業員を退社させた上で,同社で使用していた普通貨物自動車(以下「本件自動車」という。)等を前記貸付金の担保としてAの事務所付近の駐車場に移動し,帳簿等を持ち帰った。Iは,FがIの妻に対し前記貸付金の保証人になるように迫ったり,Iの兄,父及びIの経営上の相談役を呼び出し,前記貸付金の返済を執拗に求めたりするようになったため,暴力団B組L会会長に対し,前記貸付金の返済の猶予について仲介にあたるように依頼した。 また,Fは,そのころ,被告人に対し,事務所で使用するためと言って刺身包丁2丁を購入させ,これを持ってIの知人宅までIを探しに行ったり,当時Iが居住していた東国東郡a町所在のアパートへ赴くなどしていたが,結局Iを見つけることはできなかった。 4 Kは,同年11月9日,警察に対し,Eの前記暴行により受けた傷害の被害について被害届を提出した。そのため,Eは,Iの知人に対し,Iを説得してKの被害届を取り下げさせるよう依頼したが断られ,Fも,Iに対し,知人を介して被害届を取り下げるかIの妻にKを相手に訴訟を起こさせるように依頼をしたが断わられた。 Eは,同月25日,Fと共に名古屋市内に所在するC会D興業本部の事務所当番に就くために大分空港に赴いたが,同人の目の前でKに対する前記傷害の容疑により逮捕された。そのため,Fは,Eの見送りに来ていた被告人を連れて名古屋の同組事務所に向かい,Eの逮捕について報告した後,上京し,都内の弁護士にEの弁護を依頼した。さらに,Fは,前記被害届はIがKに指図して提出させたものであるから,Eを助けるためには,Iに対し,前記刺身包丁を 所に向かい,Eの逮捕について報告した後,上京し,都内の弁護士にEの弁護を依頼した。さらに,Fは,前記被害届はIがKに指図して提出させたものであるから,Eを助けるためには,Iに対し,前記刺身包丁を突きつけて脅し,拉致するなどしてKの被害届を取り下げさせる必要があると考え,Iの対応によっては同人を刺殺することも辞さない覚悟を固め,直ちに大分に戻った。 5 Fは,被告人と共に翌26日午前2時ころ大分の組事務所に到着し,その際,被告人に対し,Jから引き上げた本件自動車を運転して自宅まで迎えにくるように指示した。 そして,自らは,組事務所から前記刺身包丁を入れた箱2箱,ロープ,ガムテープ,ゴム手袋,作業着2着等を紙袋に入れて運び出し,自宅に戻って作業着に着替えた。 Fは,同日午前3時ころ,被告人が本件自動車でF宅に到着すると,被告人を前記作業着に着替えさせた後,前記包丁等を入れた紙袋を持って本件自動車に乗り込んだ。Fは,被告人に対し,本件自動車をa町方面へ走らせるように指示し,途中スーパーに立ち寄って軍手等を購入させた上,これを着用させ,同日午前5時ころ,a町所在の前記I方アパート付近に到着した。そこには,既にFがIを殺害するなどの行動に出ることを恐れたG及びHがFを待っていたため,Fは,いったん本件自動車及びGが運転してきた自動車を同所から移動させた後,G及びHに対し,Iには手を出さない旨約束して帰らせた。 6 その後,Fは,被告人に対し,前記I方アパートの南側の駐車場に本件自動車を停車して軍手の上からゴム手袋を両手にはめるように指示し,自らもゴム手袋をはめて前記刺身包丁2丁を箱から出して身に付け,ガムテープ1巻を手にとって本件自動車を降り,被告人にガムテープを持たせてI方アパートに向かった。Fは,当初,Iを拉致するため,窓ガラスを割ってそこ をはめて前記刺身包丁2丁を箱から出して身に付け,ガムテープ1巻を手にとって本件自動車を降り,被告人にガムテープを持たせてI方アパートに向かった。Fは,当初,Iを拉致するため,窓ガラスを割ってそこからI方に侵入しようと考え,被告人を連れてI方の南東側に回り,角部屋のガラス戸の錠付近にガムテープを貼り,その上から金属製のガスのバルブキャップでガラスを叩き割り始めたが,物音に気付いたIが室内に姿を現したため,本件自動車に駆け戻った。Fは,同じように本件自動車に戻ってきた被告人に対し,前記刺身包丁の内の1丁を渡し,もう1丁の刺身包丁を自ら手にすると,居宅から出てきたIに近づき,被告人もFの後を追った。 (罪となるべき事実)被告人は,第1 Fと共謀の上,平成12年11月26日午前5時35分ころ,大分県東国東郡a町大字bc番地のd付近路上において,I(当時40歳)に対し,殺意をもって,こもごも同人の左前胸部等を所携の刃体の長さ約18.7センチメートルの各刺身包丁(平成13年押第19号の1及び2)で3回突き刺し,よって,そのころ,同所において,同人を左肺静脈損傷による失血により死亡させて殺害し,第2 業務その他正当な理由による場合でないのに,前記日時・場所において,前記刺身包丁1丁(柄がないもの。平成13年押第19号の1)を携帯し,第3 同日午前5時50分ころ,同県杵築市大字ef番地先の信号機により交通整理の行われている交差点において,本件自動車を運転してg町方面から杵築市方面に向け時速約70キロメートルで進行中,折から同交差点で右折を開始した普通乗用自動車を自車前方に認め,同車をその右側から追い越した際,同車右側部に自車左前部を衝突させて前記普通乗用自動車右側前後部ドア等を損壊させる交通事故を起こしたのに,その事故発生の日時及び場所等法律の定 動車を自車前方に認め,同車をその右側から追い越した際,同車右側部に自車左前部を衝突させて前記普通乗用自動車右側前後部ドア等を損壊させる交通事故を起こしたのに,その事故発生の日時及び場所等法律の定める事項を直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかったものである。 (証拠の標目) 省略(事実認定の補足説明)弁護人は,先にFが被害者に対して致命傷を負わせたことを前提として,被告人は,被害者を刺突した際,被害者は既に死んでいたものと認識していたのであって被告人には殺意がない,被害者の殺害について被告人とFとの間で共謀が成立したこともない,被告人が被害者を突き刺したときの被害者の生死は不明である(生存していたとの立証がない。)から殺人罪は成立しない旨主張し,被告人も,公判廷で,「先にFが刺したので,私が刺したときは,被害者は既に倒れて口などから血を流していたので,死んでいると思って刺した。」旨,これに沿う供述をしているので,以下,判示のとおり被告人の殺意及びFとの共謀を認定した理由を補足して説明する。 1 関係各証拠によれば,以下の事実が認定できる。 (1) 被害者は,左鎖骨下部刺創(以下,「第1創」という。),左乳房部刺創(以下「第2創」という。),左下肋部刺創(以下「第3創」という。)を負っている。 第1創は左鎖骨下部にあり,身体に対して水平に刺入する深さ9.4センチメートルの刺創で,大きな血管を損傷したり,臓器を損傷したりしておらず,胸腔に向かわずに胸郭に沿って刺入しており,第1創によっては,吐血を生ずることも大量の出血をすることもない。 第2創は,左乳房部にあり,被害者から見て後ろ右やや下に向かって刺入する刺創で,左肺静脈とそのすぐ近くにある左気管支を切断しており,これにより大出血をし,一呼吸すれば吐血することになる。被害者の死因 第2創は,左乳房部にあり,被害者から見て後ろ右やや下に向かって刺入する刺創で,左肺静脈とそのすぐ近くにある左気管支を切断しており,これにより大出血をし,一呼吸すれば吐血することになる。被害者の死因は,第2創によって左肺静脈が損傷されたことに起因する失血(致命的大出血)である。また,第2創はいわゆる2度突きになっており,その深さは,一方が18.5センチメートル,他方が18.3センチメートルであるが,2度突きの原因としては,加害者が途中まで抜いてもう1度刺したことや加害者が凶器を引き抜こうとしたときに,その動きに合わせて被害者が加害者の方に倒れ込むか向かってきたことなどが考えられる。 第3創は左下肋部にあり,被害者から見て後ろ右に向かって刺入している深さ21センチメートルの刺創で,胸部臓器や血管に損傷を与えておらず,また,柄の抜けた刺身包丁が刺入されたままで,血液が体外に流失しにくい状態になっており,血が噴き出したりすることは考えにくい。 (2) 被害者は,道路西側の歩道上に仰向けに倒れていた。被害者は,口から多量の血液を吐き出した状態で仰向けに倒れており,口から吐いた血液は顔から四方に向かって放射状に流れ,さらに路上にまで流れ出ており,第2創及び第3創の付近からも被害者の左脇を伝って路上まで多量の血液が流れ出ている。 道路の中央線付近の東側車線上から被害者の倒れていた道路西側の歩道上付近までは,点々と半円を描くように大豆大ないし小豆大の大きさの滴下血痕が十数メートルほど続いているが,その間に多量の出血を窺わせる血痕はない。また,被害者の腹部や下半身には,第2創及び第3創の傷口のあたりから足の方に血液が流れ落ちたことを示す血痕は認められない。 (3) 被告人及びFは,本件殺害後,被告人の運転により本件自動車で現場から逃走したが,被告人らが 身には,第2創及び第3創の傷口のあたりから足の方に血液が流れ落ちたことを示す血痕は認められない。 (3) 被告人及びFは,本件殺害後,被告人の運転により本件自動車で現場から逃走したが,被告人らが乗り捨てた本件自動車内には,Fが座っていた助手席側に血液の付着が認められるほか,被告人が座っていた運転席側のドア内側ノブ,コックピットパネル,ハンドル,座席にも血痕が認められる。 (4) 本件殺害時,Mが軽トラックを運転して現場を通りかかった。軽トラックにはNが同乗していた。MとNは,被害者らが道路西側の歩道上に至る前後の状況を目撃した。 Nは,3人の男がほぼ一列になって道路の西端から歩道上に移動していた,被害者は一人の男から胸ぐらをつかまれたようにしてふらふらしながら前に進んでいた,もう一人の男が被害者の左後ろに立ち,3人がほぼ一列になって,歩道上に移動した,このとき,被害者の左後ろにいた男が,他方の男と入れ替わり,被害者と正対し,一瞬,この男が被害者の胸ぐらを掴んだ,そのため,他方の男は被害者の右横に回った,被害者と正対している男が右手で被害者の胸か腹のあたりを突き上げた,被害者はいったん体を前屈みにして,被害者を突き上げた男に寄りかかるような姿勢になった後,背筋を伸ばすような形で姿勢を戻したが,姿勢を保つことなく,仰向けに倒れた,被害者が倒れるとすぐに,被害者を突き上げた男が腰を低くし,前屈みになって,右手を被害者の左脇腹か左胸付近に向けてまっすぐ突き出した,その直後2名の男は逃走した旨供述している。なお,Nは,周囲の明るさや路面の段差・傾斜等から見間違える可能性があることは認めつつ,各人の身長について,被害者を突き上げるなどした男は,他の2人より背が低く見え,160ないし165センチメートルくらい,被害者及びもう一人の男はほぼ同じくら から見間違える可能性があることは認めつつ,各人の身長について,被害者を突き上げるなどした男は,他の2人より背が低く見え,160ないし165センチメートルくらい,被害者及びもう一人の男はほぼ同じくらいで170ないし175センチメートルくらいに見えた旨供述している。証拠(甲25,148)によると,被告人の身長は約165センチメートル,Fは約174センチメートル,被害者は約175センチメートルである。 Mは,被害者を含めて3人の男が喧嘩をしているようだったので,運転車両を減速して止めた,車を止めたとき,3人は道路西側の歩道上におり,被害者の右手に一人の男がおり,もう一人の男は被害者と対峙する格好で立っていた,被害者は2,3歩後ずさりしたかと思うと,そのまま仰向けの状態で倒れた,異常な倒れ方だった,被害者が倒れると,すぐに被害者と対峙していた男がきらっと光る物を握っているのが目に入った,その男は,腰を落として仰向けに倒れた被害者の左脇腹か左胸付近を中腰の姿勢で1回刺し,その後にその男が一呼吸おいてから立ち上がった時には,右手に持っていた包丁が見当たらなかった,その直後2名の男は逃走した旨供述している。なお,Mも,路面の傾斜や段差による見間違いの可能性があることを認めつつ,被害者を刺した男は,他の2人より拳1個分以上背が低く見えた旨供述している。 両名は,事件直後から上記の内容を一貫して供述をしていること,両名とも被害者ら3人を発見し,喧嘩をしているように見えたため,更に3人の動静を確認するために道路の東端に停車させた軽トラック内の運転席又は助手席から3人の様子を注視していたこと,上記供述内容は相互に一致しており,前記(1),(2)の客観的証拠と矛盾していないことから,上記供述の信用性は高い。 (5) 被告人の元恋人であり,その後も良き相談相手 人の様子を注視していたこと,上記供述内容は相互に一致しており,前記(1),(2)の客観的証拠と矛盾していないことから,上記供述の信用性は高い。 (5) 被告人の元恋人であり,その後も良き相談相手となっていたOは,本件犯行直後以降,逃亡中の被告人から何度も電話を受けているが,Oは,犯行当日の電話では,被告人から「a町で殺人事件があったの知っているか。それは,俺とFの兄貴が殺った(やった)んじゃ。」,「兄貴が殺ったので,俺も一緒に殺った。俺は何も知らなかったんじゃ。社長が捕まって,前の日に大分に帰ってきて,兄貴から突然『行くぞ』と言われて,そのまま兄貴と一緒に行って殺ってしまった。会社の人が2人先に来ていて,兄貴と言い争いになってもめた。もめていたらそこに相手が出てきて,兄貴が殺ってしまった。俺はそんなことしたくなかったけれど,兄貴の下に付いているので,兄貴が殺ったなら,俺もやらなければならない。兄貴が殺ったから,俺も一緒に殺った。社長が捕まったときに,兄貴は,殺すことを決めていたと思う。こんなことをしてしまって申し訳ない,ごめんね。・・・」などと途中から泣きながら話され,翌12月27日ころ受けた電話では,Oが被告人に被害者が数か所刺されていた記事が載っていた旨話すと,被告人は,「兄貴が殺って,その後で俺が2回殺った。」とはっきり言ったと供述しており,この点について,被告人は,「兄貴と俺で2回以上は刺したと思う。」と言ったと思う旨述べているが,Oは,被告人は,自分が被害者を刺した回数が2回であるとはっきり言ったのであって「Fと被告人の2人が合計で2回刺した。」と言っていたのではない旨供述している。これら被告人が電話で話した内容は,被告人が自ら自己に不利益な供述を信頼している第三者に話したものであり,犯行後間もないころの,Fと口裏合わせを 2回刺した。」と言っていたのではない旨供述している。これら被告人が電話で話した内容は,被告人が自ら自己に不利益な供述を信頼している第三者に話したものであり,犯行後間もないころの,Fと口裏合わせをする前でもあるから,真実を述べたと考えるのが自然である。 2 3つの創の形成順序・発生場所について被告人とFは,両名が被害者を刺した順序等について,Fが先に2回刺し,最後に被告人が刺した,被告人が刺す前に被害者は口から血を吐いて倒れていた,包丁の柄が抜けた(第3創)のはFが刺したときである旨概ね一致した供述をし,これを受けて弁護人は,先にFが第2創,第3創をその順番で負わせ,最後に被告人が第1創を負わせたと主張する。これに対して検察官は,第2創,第3創を生じさせた犯人は被告人であると主張するので,まず,各創の形成順序等から検討する。 前記認定の路面の血痕付着状況からすると,被害者は,遅くとも東側車線の中央線付近で1度刺されたことが明らかである。そして,同所から被害者が絶命した道路西側の歩道に至る十数メートルにわたっては,大豆大ないし小豆大の血痕が点々と落ちているものの,この間に大量の血痕が落ちていないこと,これに対して,道路西側の歩道では,被害者が倒れて口から大量の血を吐いていること,第2創は,一呼吸すれば吐血し大出血をきたすものであること,第2創の傷口のあたりから足の方に血液が流れ出たような血痕が認められないことからみて,東側車線の中央線付近で受傷した創は,第2創であるはずはなく,第1創又は第3創であり,第2創は道路西側の歩道において受傷したものと認められる。弁護人は,最初の一撃が加えられたと見られる位置と被害者が倒れた位置は約9メートルと近い,被害者が刺されたショックで息を吐かずのみ込んでしまう可能性もあるなどとして,東側車線の中央線付 と認められる。弁護人は,最初の一撃が加えられたと見られる位置と被害者が倒れた位置は約9メートルと近い,被害者が刺されたショックで息を吐かずのみ込んでしまう可能性もあるなどとして,東側車線の中央線付近で最初に第2創を受けた可能性があるというが,被害者が最初の一撃を受けた場所と被害者が倒れた位置は,直線では9メートル程度であるが,血痕から見ると,被害者は直線的に移動したのではなく,13,14メートルは移動していると考えられ,また,その移動速度はそれほど速いとは思われないことからすると,被害者が,最初に第2創の傷害を負わされた後,息を全くしないまま十数メートル移動したとは考えられず,その上,第2創の傷口からその間全く出血しない(衣服の足の方に血が流れない。)ということも考えにくいから,弁護人の主張は採用できない。 そこで,東側車線の中央線付近で被害者が受傷した創が第1創であるか,第3創であるかを検討するに,第3創は,被害者の身体に柄の抜けた刺身包丁が刺入されたままになっているところ,Mは,道路西側の歩道上で倒れている被害者を刺した後,刺した者の手には,それまで持っていたはずの包丁が見あたらなかったと供述している。Mは,包丁が見あたらなかった点について,「私は以前に素手での喧嘩の現場は何度か目撃したことはありますが,刃物で直接突き刺す現場は後にも先にもこのときが初めてのことで,刃物のことが大変気になっていましたので,突き刺した後の甲の背の低い男の右手を即座に確認したのです。そうしたところ,このときに甲の背の低い男の右手には先ほどまで握っていたはずの刺身包丁様の刃物が見あたらなかったのです。」などと供述していることからしても,この点について見間違えたような可能性はないといえる。したがって,包丁が被害者の身体に刺入されたままの第3創は,被害者が道 包丁様の刃物が見あたらなかったのです。」などと供述していることからしても,この点について見間違えたような可能性はないといえる。したがって,包丁が被害者の身体に刺入されたままの第3創は,被害者が道路西側の歩道上で倒れているときに受けたときのものであり,そうすると,東側車線の中央線付近で被害者が受傷した創は第1創であるということになる。 これは,第1創の状況とも一致している。すなわち,第1創は,胸腔に向かわずに胸郭に沿って被害者の身体に水平に刺入しているのであるから,仰向けの状態でいた被害者に対して包丁を刺して形成することはできず,被害者がまだ立位でいた東側車線の中央線付近で形成されたとみるのが合理的だからである。 さらに,第2創が何時形成されたかについて検討すると,N及びM供述によれば,(包丁が刺さったままの)第3創ができた後には被害者が刺されるような状況はないから,第2創は第1創と第3創との間に刺されたことになる。そして,Nは,一人の男が右手で被害者の胸か腹のあたりを突き上げてから,被害者はいったん体を前屈みにして,突き上げた男に寄りかかるような姿勢になったと供述しており,これは2度突きである第2創がこのときに形成されたことを合理的に説明するものである。 以上からすると,被害者は,東側車線の中央線付近で第1創を刺され,ふらつきながら被告人らとともに道路西側の歩道まで移動し,そこに至って第2創を刺され,これによって仰向けに倒れてから第3創を刺されたとみるべきである。 3 被告人及びFの実行行為についてまず,最初の一撃である第1創を被告人とFのいずれが与えたかであるが,被告人は,「兄貴が殺ったので,俺も一緒に殺った。」旨ほぼ一貫して述べており,これは「犯行に至る経緯」で述べたFと被告人の関係から見て十分納得できるものであること,被告人には被 が与えたかであるが,被告人は,「兄貴が殺ったので,俺も一緒に殺った。」旨ほぼ一貫して述べており,これは「犯行に至る経緯」で述べたFと被告人の関係から見て十分納得できるものであること,被告人には被害者を殺害するような直接の動機は見あたらないこと,被告人とFが,事前に被害者殺害について相談した形跡がないことなどからすると,最初の一撃を被告人が加えたということは考えにくく,被告人らの述べるとおり,最初の一撃はFが与えたものというべきである。 次に,場所を移動した後,第2撃となる第2創をいずれが与えたかであるが,N供述によれば,被害者が倒れた後に被害者を刺した男とその直前に被害者を刺した男は同一人物である。N及びM供述によれば,被害者が倒れる直前に第2創を刺されるとき,もう一人の男も被害者のすぐ側にいたことになるが,N及びMの供述によれば,被害者が倒れる前後には,倒れた被害者を刺した男が被害者と正対しており,もう一人の男は被害者の右側にいたことになるので,このもう一人の男がこの時点でいずれも被害者の左側に生じている創を刺す可能性はなく,Nが,被告人とFがそれぞれ1回ずつ刺したのを同一人が刺したと見誤った可能性はないと考えられる。そして,被告人は,回数はともかく,被害者を刺したことは,逮捕当初の否認供述以外は一貫して認めており,Fも被告人が刺したことを認めている。また,前記O供述によると,被告人は,被害者を2回刺したと電話で話している。これらから判断すると,第2創及び第3創は同一人によるものであるが,それは被告人であると考える以外にはない。このことは,N,M両名が,被害者を刺した男は背の低い方の男のように目撃していることや,本件自動車の運転席と助手席に座っていた2人の男がそれぞれ返り血を浴びていることを示す1(3)の本件自動車内の血痕の付着状 ,N,M両名が,被害者を刺した男は背の低い方の男のように目撃していることや,本件自動車の運転席と助手席に座っていた2人の男がそれぞれ返り血を浴びていることを示す1(3)の本件自動車内の血痕の付着状況にも合致している。 以上のとおり,本件犯行は,まずFが東側車線の中央線付近で被害者の左胸を1回刺して第1創を負わせ,その後,被告人が道路西側の歩道上付近で被害者の左胸を刺して第2創を負わせたところ,被害者は仰向けに倒れ,多量の血液を吐き出し,被告人も大量の返り血を浴びたが,被告人は,更に倒れた被害者の左脇腹付近を刺して第3創を負わせ,自らが突き刺した包丁を被害者の身体から引き抜くことができなかったため,これを現場に残したまま,返り血を浴びた状態で本件自動車を運転し,現場から逃走したものと認めるのが相当である。 これに対し,被告人らの供述を総合すると,最初にFが東側車線の中央線付近で第2創を刺し,道路西側の歩道上付近に移動後,第3創を刺し,その後に被告人が第1創を刺したことになるが,これは,被害者が第2創を受けたのが道路西側の歩道上であることを示す前記創傷の部位や状態,血痕の付着状況といった客観証拠と矛盾しており信用できない。被告人らは,現時点では概ね前記のような一致した供述をするに至っているが,被告人らは,逃走中に口裏合わせをし,逮捕当初は,両名とも,被害者を刺したのはFだけである旨述べていたのが,その後,前記のような供述になったものである。そこで弁護人は,逮捕後は被告人らは接見禁止を受けており,被告人が犯行に加わったことを前提とする事実関係については口裏合わせをする機会はなかったから被告人らは真実を述べている旨主張するのであるが,逃走中に被告人らがどのような口裏合わせをしたのかは不明であるし,何よりも,被告人らの供述する犯行態様では客観的状 口裏合わせをする機会はなかったから被告人らは真実を述べている旨主張するのであるが,逃走中に被告人らがどのような口裏合わせをしたのかは不明であるし,何よりも,被告人らの供述する犯行態様では客観的状況と合致せず,供述が一致しているからといってそれが真実であるとはいえない。よって,弁護人の主張は理由がない。 4 被告人の殺意について前記認定のとおり,被告人は所携の刺身包丁で被害者を刺し,第2創及び第3創を負わせていること,第2創は致命傷であり,第3創も包丁が抜けなくなるほど深く,かつ強く突き刺したものであること,被告人は凶器である刺身包丁の殺傷能力や刺突部位が人体の枢要部であることを明確に認識していたことからすれば,被告人が被害者を刺した際,被害者に対して殺意をもっていたことが優に認められる。 これに対し,被告人は,被害者を刺した際,既に同人の首と口と鼻から道路に血が流れていたので,同人は死んでいるのかなと思ったなどと供述する。しかし,被告人自身が致命傷となった第2創を刺していることから,その際に被害者がまだ生きていたことは明らかであり,前記のとおり,被害者が吐血したり,多量に出血したのは第2創を受けた後であるから,被告人が第2創を刺した時点で,被害者の顔面等にそれほど多量の血液が付着していたとは考えられないこと,被告人が被害者を刺した回数などの重要な点について,真実とは大きく異なる供述をしていることなども考えれば,前記被告人の供述は単なる弁解としかいえず,信用できない。また,弁護人は,被告人は被害者がIであることを認識しておらず,被告人には被害者を殺害する動機はないと主張するが,被告人は,被害者に対する殺害行為に及んだFに加勢する意思で被害者を刺したのであるから,被告人自身に被害者を殺害する個人的な理由がないことは前記認定を左右す 被害者を殺害する動機はないと主張するが,被告人は,被害者に対する殺害行為に及んだFに加勢する意思で被害者を刺したのであるから,被告人自身に被害者を殺害する個人的な理由がないことは前記認定を左右する事情とはならない。 5 被告人とFの共謀について判示犯行に至る経緯のとおり,Fは,本件殺害現場に到着する前から被害者の対応によっては被害者を刺殺することも辞さない覚悟を固めていたと認められるところ,Fと被告人との従前からの指揮命令関係に加え,Fが被告人に対し,本件殺害現場への運転や作業着及び軍手の着用を指示し,前記刺身包丁2丁のうちの1丁を持たせていることからすると,Fにおいて,被告人に本件殺害現場への運転を指示した時点から,被害者に攻撃を加える際には被告人に援護させようと考え,被告人も自らの指示には従うだろうと考えていたことは明らかである。一方,被告人においても,Fの前記指示にすべて従っていること,Fが被害者宅のガラスを割りに行った際も,Fから具体的な指示説明は受けていないようであるが,その意を察し,Fの後に従って行動していること,前記刺身包丁のうちの1丁を渡された時も何ら抵抗を示していないことなどから,前記刺身包丁を受け取った時点では,Fが被害者を殺害することまでは予測していなかったとしても,Fが何者かに対し攻撃を加えるようなことがあれば,前記刺身包丁をもってFに加勢する意思を有していたことが認められる。そして,前記認定のとおり,被告人がFが刺したのをそばで見た後に,自ら殺意をもって,前記刺身包丁により被害者を刺し,致命傷となった第2創及び第3創を負わせていることからすれば,遅くとも被告人自身が被害者を刺した時までには,被告人はFと共に,同人に加勢して自らも被害者を刺殺する決意を固めたと認めるのが相当であり,ここで,被告人とFとの間 3創を負わせていることからすれば,遅くとも被告人自身が被害者を刺した時までには,被告人はFと共に,同人に加勢して自らも被害者を刺殺する決意を固めたと認めるのが相当であり,ここで,被告人とFとの間で被害者を殺害することについて少なくとも黙示の共謀が成立していたことが認められる。 6 以上によれば,本件殺害行為について被告人とFの間で現場共謀が成立し,両者が殺意をもって被害者を刺し,第2創による失血により死亡させたことが認められるので,弁護人の主張は採用しない。 (法令の適用)被告人の判示第1の所為は刑法60条,199条に,判示第2の所為は銃砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条に,判示第3の所為は道路交通法119条1項10号,72条1項後段にそれぞれ該当するところ,各所定刑中判示第1の罪については有期懲役刑を,判示第2及び第3の各罪について懲役刑をそれぞれ選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により,重い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役10年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中150日をその刑に算入することとし,訴訟費用は,刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由) 1 本件は,暴力団組員である被告人が同組幹部であるFと共謀の上,土木建築会社社長である被害者をそれぞれ鋭利な刺身包丁で刺して死亡させ,その後逃走中に当て逃げをした事件である。 2 首謀者であるFは,本件殺害に及んだ動機について,被害者は,KとEが交際しているのを知りながら未だにKと密会していた,前記傷害事件についてKに対し被害届を提出するように指示した,Fが融資した3000万円余りについて返済を怠る一方で,Kに保険金名目で隠し金を支払っていた ているのを知りながら未だにKと密会していた,前記傷害事件についてKに対し被害届を提出するように指示した,Fが融資した3000万円余りについて返済を怠る一方で,Kに保険金名目で隠し金を支払っていたなどの疑いがあり,また,被害者が前記貸付金の返済の猶予を求めるため他の暴力団組織に援助を求め,Fが所属する暴力団の面目をつぶしたと思ったため,これらのことについてIを非難する趣旨の言葉をかけたところ,Iが謝罪することもなく,開き直った態度を取ったため,同人を殺害することを決意した旨供述しているが,判示犯行に至る経緯に照らせば,Fが被害者に対し,所属暴力団の組長の逮捕や借金の返済に絡んで被害者に同組の体面を傷つけられたと感じ,いわゆる暴力団のお礼参りとして本件殺害に及んだものと考えるのが自然であって,本件殺害は暴力団特有の人命軽視の思考による極めて凶悪かつ大胆な犯行である。そのため,本件殺害は,社会に暴力団組織の凶暴性を印象づけ,一般人に与えた恐怖心も大きい。被告人は,専ら同組での兄貴分に当たるFの指示に従い,あるいは同人の意を汲んでこれに加勢するために本件殺害に及んだものであるが,そのように幹部の意向に服従することを第一とし,そのためには他者の生命を犠牲にすることも躊躇しないという思考自体,強く非難されるべきであり,被告人の遵法精神の欠如は甚だしい。 被害者の側にも,自らの事業を維持するためとはいえ,軽率にも暴力団関係者から運転資金の融資を受け,その返済を遅延し,Fらから借金の一括返済を迫られたため,やむなく他の暴力団関係者に仲介を依頼したという事情はあるものの,一般人である被害者が暴力団組織から自分や家族を守るための自衛策としてこのような措置を採ったこと自体をFら暴力団関係者が非難できることではなく,Fが供述するその他の事情についても, 情はあるものの,一般人である被害者が暴力団組織から自分や家族を守るための自衛策としてこのような措置を採ったこと自体をFら暴力団関係者が非難できることではなく,Fが供述するその他の事情についても,客観的証拠に照らせば,Fの勝手な思い込みによる逆恨みともいうべきものにすぎない。 3 被告人とFは,不審者の気配を感じて屋外に出てきた被害者に対し,強固な殺意に基づき,左胸付近を立て続けに3回刺しており,特に被告人は致命傷となった第2創及び凶器が身体から引き抜けない状態になった第3創を刺したものであり,執拗で極めて残忍な犯行というほかない。Fは,被害者宅に赴くに当たり,被害者の対応次第では同人に対し,前記刺身包丁で危害を加える意思で,被害者の会社から引き上げてきた本件自動車を使用し,自分の手足として働かせていた被告人にこれを運転させ,前記刺身包丁や軍手などを用意し,予め作業着に着替え,手袋等をはめるなどして計画的に本件殺害に及び,被告人もFの指示に躊躇なく従ったもので,犯行に対するためらいは全く感じられない。また,被告人及びFは,犯行後,本件自動車を乗り捨て,前記作業着等を廃棄して証拠の隠滅を図り,更に1か月にわたって逃走を続け,現在においても真実を述べていないことなどからすれば,被告人は,本件殺害を真剣に反省していないというべきである。 被害者は,深い傷を負い,瀕死の状態に陥り,被告人らが逃走した後も助けを呼ぶこともできないまま,大量の失血によりまもなく死亡したのであって,家族と離れ,単身事業の再起を図るため努力していた矢先に,妻や幼い子供を残して殺害された無念の気持ちは察するに余りある。被害者は借金の取り立てから妻子を守るため形式的に離婚をしているが,事業を再興した暁には再び生活を共にするつもりであったものであり,被害者が死亡したことに 殺害された無念の気持ちは察するに余りある。被害者は借金の取り立てから妻子を守るため形式的に離婚をしているが,事業を再興した暁には再び生活を共にするつもりであったものであり,被害者が死亡したことにより生活の支えを失った妻子の精神的・経済的損害も甚大で,遺族の処罰感情も厳しいが,未だ何ら慰謝の措置はとられていない。 4 他方,被告人は,専ら首謀者であるFの指示に従って行動していたこと,本件殺害に当初から積極的に関与したとまではいえないこと,暴力団への加入から本件犯行時まで約1年しかたっておらず,現在は,暴力団組織の行動原理に従って本件殺害を行ったことを後悔している旨述べており,同暴力団から脱会していること,法廷においても被害者に対する謝罪の気持ちを述べ,贖罪の意思を表すために80万円の贖罪寄附を行い,本件当て逃げについては示談をしていること,若年でありこれまで前科はないこと,被告人の母親も法廷において被告人の監督及び今後の更生への協力を約束していることなどの情状も認められる。 5 よって,以上の諸事情を考慮し,主文の量刑が相当であると判断した。 (求刑懲役12年)平成13年9月6日大分地方裁判所刑事部裁判長裁判官久我泰博裁判官金田洋一裁判官金築亜紀
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