【判示事項の要旨】約款において主債務者の破産申立てが期限の利益の喪失事由とされているにもかかわらず,主債務者が破産申立てをしたことから保証人が主債務者に代わって割賦金の支払を継続するとの合意が債権者と保証人の間で成立し,主債務者が破産宣告を受けた後も,債権者が長期間破産宣告による期限の利益の喪失を主張しなかったという事実関係の下においては,債権者が主債務者の破産宣告を期限の利益の喪失事由として主張することは信義則に反し許されない。 判決当事者の表示(略) 主文 1 原判決を次のとおり変更する。 2 控訴人は,被控訴人に対し,金71万4000円及びこれに対する内金13万6000円については平成14年7月9日から,内金3万4000円については同年7月30日から,内金3万4000円については同年8月28日から,内金3万4000円については同年9月28日から,内金3万4000円については同年10月29日から,内金3万4000円については同年11月28日から,内金3万4000円については同年12月28日から,内金3万4000円については平成15年1月28日から,内金3万4000円については同年2月28日から,内金3万4000円については同年3月28日から,内金3万4000円については同年4月29日から,内金3万4000円については同年5月28日から,内金3万4000円については同年6月28日から,内金3万4000円については同年7月29日から,内金3万4000円については同年8月28日から,内金3万4000円については同年9月30日から,内金3万4000円については同年10 6月28日から,内金3万4000円については同年7月29日から,内金3万4000円については同年8月28日から,内金3万4000円については同年9月30日から,内金3万4000円については同年10月28日から,内金3万4000円については同年11月28日から,各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 3 被控訴人のその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを7分し,その3を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。 5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,第1,2審を通じて被控訴人の負担とする。 第2 事案の概要 1 請求原因及びこれに対する認否原判決「事実及び理由」中の「第2 当事者の主張等」1,2記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決2頁2行目から同3行目にかけての「,破産宣告を受けたときは期限の利益を失うこと」を,同19行目から同20行目にかけての「また」から同21行目末尾までを,それぞれ削る。)。 2 抗弁(1) 被控訴人の立替払に係るAによる分割支払金に関する契約書(以下「本件契約書」という。)の約款には,期限の利益の喪失事由として破産申立てが記載されているところ,被控訴人は,Aが破産申立てをした平成14年3月5日の直後の同月7日に,控訴人との間において,Aの分割支払金の支払口座を控訴人名義の口座に変更する旨合意した(以下「支払口座変更の合意」という。)。したがって,被控訴人は,期限の利益を付与したというべきであり,その後,Aに対して破産宣告がされたから期限の利益を喪失したと主張することは信義則に反する。 (2)ア控訴人と被控訴人は 」という。)。したがって,被控訴人は,期限の利益を付与したというべきであり,その後,Aに対して破産宣告がされたから期限の利益を喪失したと主張することは信義則に反する。 (2)ア控訴人と被控訴人は,上記(1)記載のとおり,支払口座変更の合意をし,変更後の口座をB銀行C支店の控訴人名義普通預金口座(口座番号○○○。以下「本件口座1」という。)とした。そして,本件口座1には,少なくとも平成14年中は,分割支払金を引き落とすことができる預金残高があったにもかかわらず,被控訴人は,分割支払金を引き落とさなかった。 イ被控訴人の従業員が,平成14年7月11日,控訴人に対し,同年3月ないし同年6月分の分割支払金が引き落とされていないとして,未払金及び延滞金の合計14万1956円の支払を求めるとともに,同年7月16日までに支払わない場合には直ちに車両を引き揚げる旨を記載した通知書を交付した。これに対し,控訴人は,毎月1万5000円程度の分割払を提案したため,同従業員は,持ち帰って後日連絡する旨回答した。しかし,被控訴人からは全く回答がなかった。 ウ控訴人は,平成15年3月18日付け書面により,被控訴人が本件口座1から分割支払金を引き落とさず,また,支払を求める督促も行わなかったことを抗議したが,これに対しても,被控訴人から一切返答はなかった。 エ他の信販会社であれば1か月支払の遅滞があればその旨通知して支払を求めるのであるが,被控訴人は,平成14年3月から平成15年3月までの間にかけて,平成14年7月に1度しか催告を行わないなど,控訴人の債務を長期にわたって放置した過失があるのであり,その過失責任を控訴人に一方的に転嫁することは社会通念上許されない。したがって,被控訴人による遅延損害金の請求も理由がない。 3 抗弁に対する認否等(1) 争う。被控 て放置した過失があるのであり,その過失責任を控訴人に一方的に転嫁することは社会通念上許されない。したがって,被控訴人による遅延損害金の請求も理由がない。 3 抗弁に対する認否等(1) 争う。被控訴人は,Aの破産申立てによる期限の利益の喪失を主張しておらず,したがって,その後に期限の利益を付与することもあり得ない。主債務者が支払をしない場合に連帯保証人が代わって支払をするのは当然であり,支払口座変更の合意は,連帯保証人である控訴人が主債務者であるAに代わって支払をすること及びその支払方法を確認したにすぎない。 (2)ア否認する。変更後の口座は,D銀行E支店の控訴人名義普通預金口座(口座番号△△△。以下「本件口座2」という。)であった(口座変更のための口座振込依頼書は控訴人が記入して銀行に提出した。)が,本件口座2には残高がなく,引き落とすことができなかった。そして,被控訴人は,平成14年5月及び同年6月に,被控訴人に対し,請求書を発送したが支払はなかった。 イ第1,2文は認め,第3文は否認する。被控訴人は,控訴人の分割払の提案を受けて検討したが月々3万円以上でなければ応じられないとの結論に達したので,平成14年7月11日の数日後には,控訴人の分割案では応じられない旨の文書を控訴人に発送した。その後,控訴人からは何の応答もなかった。 ウ平成15年3月26日,控訴人から車両の引渡しには応じられない旨の文書が被控訴人に届いたことは認める。なお,被控訴人の従業員は,これに先立つ同月14日,控訴人宅の留守番電話に電話してもらいたい旨の伝言を残したところ,控訴人から電話があり,勤務先を解雇されて現在無職であって失業保険で生活していること,他にもローンの支払があるため本件についての支払は困難であることについて説明があったので,控訴人に対して車両を ,控訴人から電話があり,勤務先を解雇されて現在無職であって失業保険で生活していること,他にもローンの支払があるため本件についての支払は困難であることについて説明があったので,控訴人に対して車両を引き揚げる必要があることを伝えたものである。 エ争う。 第3 当裁判所の判断 1 請求原因原判決「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」1,2記載のとおりであるからこれを引用する(ただし,原判決3頁1行目「受けるとともに同時廃止決定を受け,同日の経過により期限の利益を失った」を「受けた」と改め,同6行目から同9行目までを削る。)。 2 抗弁(1) 抗弁(1)ア(ア) 本件契約書には,期限の利益の喪失事由として,購入者が自ら破産申立てをしたときとの規定がある(甲1)ところ,主債務者であるAは,平成14年3月5日,破産申立てをした(甲3)。 (イ) 被控訴人と控訴人は,Aが破産申立てをしたので,その2日後の平成14年3月7日,その後の支払口座を本件口座2とする支払口座変更の合意をした(甲2,3)。この点,控訴人は変更後の支払口座は本件口座1であると主張するが,口座変更のための口座振込依頼書は控訴人が記入して銀行に提出したこと(弁論の全趣旨),本件口座2から分割支払金の引き落としが開始されたこと(甲2)が認められ,控訴人自身が本件口座2と記入し,届出印を押捺した上で,口座振込依頼書を送付したと推認されるから,控訴人の主張は採用することができない。 (ウ) Aは,平成14年7月8日,破産宣告を受けたのであるが,被控訴人は,控訴人に対し,その3日後の同月11日付け書面により,同年3月ないし同年6月分の支払を求めたものの,Aの破産宣告により期限の利益を喪失したことやこれを前提として残債務全額の支払を求めるような記載は全くみられない(乙1)。被控訴人 11日付け書面により,同年3月ないし同年6月分の支払を求めたものの,Aの破産宣告により期限の利益を喪失したことやこれを前提として残債務全額の支払を求めるような記載は全くみられない(乙1)。被控訴人がAの破産宣告をもって期限の利益の喪失を主張したのは本件支払督促が最初である(弁論の全趣旨)。 イ主債務者であるAに破産申立てという期限の利益喪失事由が発生したわずか2日後に,被控訴人は,連帯保証人である控訴人との間で,支払口座変更の合意をしたというのであり,その合理的意思は,主債務者に期限の利益喪失事由が発生したにもかかわらず,連帯保証人である控訴人に対して,残債務全額ではなく,今後も分割払の方法で保証債務を履行させるというものであるから,控訴人に期限の利益が存在することが当然の前提とされていたものと解される。そして,被控訴人は,前記のとおり,Aが破産宣告を受けた後も本件支払督促に至るまで期限の利益の喪失を主張していなかった。このように,主債務者が破産申立てをした以上,民法137条1号所定の期限の利益喪失事由である破産宣告がされることもほぼ確実であると予想される状況の中で,債権者が,連帯保証人との間で期限の利益の存在を前提とする支払口座変更の合意をし,主債務者が実際に破産宣告を受けた後も長期間にわたって期限の利益の喪失を主張しなかったというものであるから,その後,主債務者の破産宣告を理由として期限の利益の喪失を連帯保証人に主張することは,禁反言の原則に照らし,信義則上許されないというべきである。また,本件契約書に期限の利益の喪失事由として破産申立てが規定されているのは,同号所定の期限の利益喪失事由である破産宣告を前倒しして,申立てによって期限の利益を失わせるためのものであって,債権者に有利な形で民法の規定を修正する趣旨と解されるから,破 てが規定されているのは,同号所定の期限の利益喪失事由である破産宣告を前倒しして,申立てによって期限の利益を失わせるためのものであって,債権者に有利な形で民法の規定を修正する趣旨と解されるから,破産申立てと破産宣告の2つの期限の利益の喪失事由のうち前者を債権者が主張しないとの信頼を与えた場合に後者も認めないとしても,債権者にとって酷な結論にはならない。 なお,被控訴人は,Aの破産申立てによる期限の利益の喪失を主張しておらず,したがって,支払口座変更の合意が期限の利益を付与するものでないとするが,少なくとも,このような合意が控訴人に期限の利益が存在することを前提とするものであるということはできるのであり,禁反言の原則(信義則)を適用する基礎となる事実としてはそれで十分というべきである。 そして,被控訴人は,裁判所から釈明を求められてもなお,Aの破産宣告以外の期限の利益喪失事由を主張しないから,期限の利益の喪失は認められないということにならざるを得ない。 (2) 抗弁(2)控訴人は,抗弁(2)を主張し,債務不履行責任も否定する。しかし,同アについては,上記のとおり,控訴人は,被控訴人に対して,分割支払金の本件口座2からの引き落としについて合意したのであるから,そこから引き落としができなかったことについては,控訴人の一方的過失によるものというべきである。被控訴人が控訴人に対して平成14年5月及び同年6月に催告を行ったか否かによってこの結論が左右されるものではない。 同イについては,被控訴人の従業員が,平成14年7月11日,控訴人に対し,同年3月ないし同年6月分の分割支払金が引き落とされていないとして,未払金及び延滞金の合計14万1956円の支払を求めるとともに,同年7月16日までに支払わない場合には直ちに車両を引き揚げる旨を記載した通知書 いし同年6月分の分割支払金が引き落とされていないとして,未払金及び延滞金の合計14万1956円の支払を求めるとともに,同年7月16日までに支払わない場合には直ちに車両を引き揚げる旨を記載した通知書を交付したこと,これに対し,控訴人は,毎月1万5000円程度の分割払を提案したため,同従業員が,持ち帰って後日連絡する旨回答したことは当事者間に争いがないが,そのことによって,被控訴人が控訴人のそれまでの債務不履行責任を免責したり,それ以降の履行期限を猶予したりするものでないことは明らかである。そして,被控訴人から控訴人の提案に応じる旨の意思表示がない以上,控訴人は,被控訴人が毎月27日に本件口座2から3万4000円を引き落とすことができるように準備して弁済の提供をしなければ債務不履行責任を免れることはできないところ,全く弁済の提供を行わなかった。仮に,被控訴人の従業員が控訴人の提案を持ち帰った後に控訴人に何の連絡もなかったとしても,控訴人が債務を履行することができないため自らに有利な条件の変更を被控訴人に依頼したのであるから,その場合には,むしろ,控訴人こそが被控訴人に結論を問い合わせるべきであり,それすら行わず,また,分割金支払義務について弁済の提供すら怠った控訴人が,被控訴人を非難する立場にはないというべきである。 同ウについても,被控訴人が控訴人の文書に対して回答しなかったとしても,そのことをもって控訴人が債務不履行責任を免れることがないのは当然である。 控訴人は,被控訴人が平成14年3月から平成15年3月までの間に1度しか控訴人に催告しなかった点に過失があるとするが,仮にそのような事実があったとしても,その間全く弁済の提供をせず,債務者としてなすべきことを行わなかった控訴人が債務不履行責任を免れることができないことは明らかである。 かった点に過失があるとするが,仮にそのような事実があったとしても,その間全く弁済の提供をせず,債務者としてなすべきことを行わなかった控訴人が債務不履行責任を免れることができないことは明らかである。 第4 結論以上から,控訴人の控訴は一部理由があり,その余は理由がないから,原判決をその旨変更することとし,主文のとおり判決する。 仙台高等裁判所秋田支部裁判長裁判官矢 﨑 正彦裁判官潮見直之裁判官西岡繁靖
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