- 1 - 主文 原判決を破棄する。 本件を東京高等裁判所に差し戻す。 理由 上告代理人石畑晶彦、同小笠原憲介の上告受理申立て理由について 1 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。 被上告人は、地方住宅供給公社法(以下「公社法」という。)にいう地方住宅供給公社(以下「地方公社」という。)であり、神奈川県内において、多数の住宅を賃貸している。上告人らは、それぞれ、被上告人から第1審判決別紙物件目録記載の一棟の建物の一室を賃借する者である。 被上告人は、平成16年4月から平成30年4月までの間、おおむね3年ごとに、上告人らに対し、前記の各室の家賃を改定する旨を通知した(以下、これらの改定を総称して「本件各家賃改定」という。)。その結果、月額3万9530円ないし5万6350円であった家賃は、最終的に月額6万1950円ないし8万6910円になるものとされた。 2 本件の主位的請求は、上告人らが、被上告人に対し、本件各家賃改定による家賃の変更のうち適正賃料を超える部分は効力を生じないなどと主張して、家賃の額の確認を求めるとともに、変更後の家賃を支払ってきたことを理由に不当利得返還請求権に基づいて過払家賃の返還等を求めるものである。 3 原審は、地方公社は、公社法24条の委任を受けた地方住宅供給公社法施行規則(以下「公社規則」という。)16条2項に基づき、その賃貸する住宅(以下「公社住宅」という。)の家賃を変更することができ、同項は、借地借家法32条1項に対する特別の定めに当たるから、公社住宅の使用関係について、同項の適用令和4年(受)第1744号賃料減額等請求事件令和6年6月24日第一小法廷判決- 2 、同項は、借地借家法32条1項に対する特別の定めに当たるから、公社住宅の使用関係について、同項の適用令和4年(受)第1744号賃料減額等請求事件令和6年6月24日第一小法廷判決- 2 -はない旨判断した上、本件各家賃改定による家賃の変更は、公社規則16条2項に基づく有効なものであるとして、上告人らの主位的請求を棄却すべきものとした。 4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。 地方公社は、住宅の不足の著しい地域において、住宅を必要とする勤労者に居住環境の良好な集団住宅を供給し、もって住民の生活の安定と社会福祉の増進に寄与することなどを目的とする法人であり(公社法1条、2条)、その目的を達成するため、住宅の賃貸を含む所定の業務を行うことができるものとされている(公社法21条1項、3項)。地方公社の上記業務として賃借人との間に設定される公社住宅の使用関係は、私法上の賃貸借関係であり、法令に特別の定めがない限り、借地借家法の適用があるというべきである。 そこで、公社住宅の使用関係について借地借家法32条1項に対する特別の定めがあるかをみるに、公社法は、地方公社において住宅の賃貸等に関する業務を行うには、住宅を必要とする勤労者の適正な利用が確保され、かつ、家賃が適正なものとなるように努めなければならないことなどを規定した上(22条)、上記業務を行うときの基準について、「他の法令により特に定められた基準がある場合においてその基準に従うほか、国土交通省令で定める基準に従つて行なわなければならない。」と規定する(24条)。そして、公社規則16条2項は、公社法24条の委任を受けて、「地方公社は、賃貸住宅の家賃を変更しようとする場合においては、近傍同種の住宅の家賃、変更前の家賃、経済事情の変 い。」と規定する(24条)。そして、公社規則16条2項は、公社法24条の委任を受けて、「地方公社は、賃貸住宅の家賃を変更しようとする場合においては、近傍同種の住宅の家賃、変更前の家賃、経済事情の変動等を総合的に勘案して定めるものとする。この場合において、変更後の家賃は、近傍同種の住宅の家賃を上回らないように定めるものとする。」と定める。 公社法の上記各規定の文言に加え、地方公社の上記目的に照らせば、公社法24条の趣旨は、地方公社の公共的な性格に鑑み、地方公社が住宅の賃貸等に関する業務を行う上での規律として、他の法令に特に定められた基準に加え、補完的、加重的な基準に従うべきものとし、これが業務の内容に応じた専門的、技術的事項にわ- 3 -たることから、その内容を国土交通省令に委ねることにあると解される。そうすると、当該省令において、公社住宅の使用関係について、私法上の権利義務関係の変動を規律する借地借家法32条1項の適用を排除し、地方公社に対し、同項所定の賃料増減請求権とは別の家賃の変更に係る形成権を付与する旨の定めをすることが、公社法24条の委任の範囲に含まれるとは解されない。また、公社規則16条2項の上記文言からしても、同項は、地方公社が公社住宅の家賃を変更し得る場合において、他の法令による基準のほかに従うべき補完的、加重的な基準を示したものにすぎず、公社住宅の家賃について借地借家法32条1項の適用を排除し、地方公社に対して上記形成権を付与した規定ではないというべきである。このほかに、公社住宅の家賃について借地借家法32条1項の適用が排除されると解すべき法令上の根拠はない。 以上によれば、公社住宅の使用関係については、借地借家法32条1項の適用があると解するのが相当である。 5 以上と異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすこ されると解すべき法令上の根拠はない。 以上によれば、公社住宅の使用関係については、借地借家法32条1項の適用があると解するのが相当である。 5 以上と異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は上記の趣旨をいうものとして理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官深山卓也裁判官安浪亮介裁判官岡正晶裁判官堺徹裁判官宮川美津子)
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