平成28(ネ)796 損害賠償請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成29年9月14日 名古屋高等裁判所 津地方裁判所 平成27(ワ)460
ファイル
hanrei-pdf-87267.txt

判決文本文23,007 文字)

平成29年9月14日判決言渡名古屋高等裁判所平成28年(ネ)第796号損害賠償請求控訴事件(原審・津地方裁判所平成27年(ワ)第460号)主文 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人に対し,50万円及びこれに対する平成27年2月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 控訴人のその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを10分し,その9を控訴人の負担とし,その余は被控訴人の負担とする。 5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 控訴の趣旨 1 主文第1項同旨 2 被控訴人は,控訴人に対し,500万円及びこれに対する平成27年2月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 4 上記2項につき仮執行宣言第2 事案の概要 1 本件は,D市議会議員で教育民生委員会に所属する控訴人が,同委員会において計画された視察旅行の必要性に疑問を感じてその実施に反対意見を述べ,欠席願いを提出した上,同視察旅行を欠席したところ,D市議会運営委員会(以下「議会運営委員会」という。)が控訴人に対して同欠席について厳重注意処分を決定し,A議長(以下「A議長」という。)が多数の新聞記者のいる議長室で上記処分の事実を公表するという名誉棄損行為によって精神的苦痛を被ったと主張して,国家賠償法1 条1項に基づき,被控訴人に対し,慰謝料500万円及びその遅延損害金の支払を求めた事案である。 原審は,議会運営委員会が厳重注意処分を決定し,A議長が同処分を公表したことは,控訴人に対する名誉棄損行為に該当するものの,上記 し,慰謝料500万円及びその遅延損害金の支払を求めた事案である。 原審は,議会運営委員会が厳重注意処分を決定し,A議長が同処分を公表したことは,控訴人に対する名誉棄損行為に該当するものの,上記処分は地方議会の自律権の範囲内で決定されたものであって,その適否については司法審査が及ばないとして,控訴人の請求を棄却したため,控訴人が控訴した。 2 前提事実(1) 当事者控訴人は,平成26年9月1日にD市議会議員に就任した者であり,D市議会の常任委員会である教育民生委員会に所属している。 D市議会は,D市議会議員で構成する議会運営委員会を設置している。D市議会議長はA議長である。 (2) 教育民生委員会では,平成26年11月11日,委員全員を対象として,以下のとおりの視察旅行(以下「本件視察旅行」という。)を行うとの提案がされ,同年12月16日の委員会閉会後の協議を経て,同委員長はA議長に対して委員派遣の承認申請をし,A議長は,同月18日,同委員会の委員全員に対して出張命令を発した。 (ア) 日程平成27年1月28日から同月30日(イ) 研修内容 ①岡山県倉敷市介護支援いきいきポイント制度について②岡山市ごみの減量化の取組みについて③福岡県北九州市いのちをつなぐネットワークの取組みについて(3) 本件視察旅行は,予定どおり平成27年1月28日から同月30 日にかけて実施されたが,控訴人は本件視察旅行を欠席した。 (4) 議会運営委員会は,平成27年2月4日,「平成27年1月28日から1月30日まで教育民生委員会の委員会視察が行われた。本委員会視察は,D市議会会議規 たが,控訴人は本件視察旅行を欠席した。 (4) 議会運営委員会は,平成27年2月4日,「平成27年1月28日から1月30日まで教育民生委員会の委員会視察が行われた。本委員会視察は,D市議会会議規則に基づく公務であるにも関わらず,貴殿は正当な理由なく欠席した。ついては,D市議会議員政治倫理要綱の規定に基づき厳重注意処分とする。加えて,今後,公務に対する正確な認識のもと,議員としての責務を全うするよう強く求める。」と記載したA議長名義の厳重注意処分通知書(以下「本件通知書」という。甲5)を作成し,同日,A議長が控訴人に対してこれを交付することにより,厳重注意処分を行った(以下「本件処分」という。)。 3 関連法令本件に関係する法令等の定めは,別紙「関係法令等の定め」のとおりである。 4 争点(1) 本件訴えの適法性(本案前の主張)(争点1)(2) 本件処分による控訴人の社会的評価の低下の有無(争点2)(3) 本件処分の公共性,公益目的性及び真実性又は真実相当性の有無(争点3)(4) 正当職務行為の主張の許否(争点4)(5) 信義則違反の有無(争点5)(6) 損害の発生及びその額(争点6) 5 争点に関する当事者の主張(1) 争点1(本件訴えの適法性)(被控訴人の主張)地方議会は高度に自律性・自主性を有する団体なのであるから,地方議会の内部的事項については原則として司法審査が及ばないと考え るのが相当である。昭和35年10月19日の最高裁判決において,懲戒処分であっても除名処分以外の処分については司法審査の対象とならないと判示しているのであるから,懲戒処分にも当たらない事実行為である厳重注意のような行為は司法審査の対象とならない。 (控訴人の主張)控訴人は,本件処分の無効や取消しを主張する 査の対象とならないと判示しているのであるから,懲戒処分にも当たらない事実行為である厳重注意のような行為は司法審査の対象とならない。 (控訴人の主張)控訴人は,本件処分の無効や取消しを主張するものではなく,控訴人の人格権としての名誉が毀損されたとの主張をしているにすぎないから,本件請求や本件通知書記載の事実の真実性を司法審査の対象としても議会の自律権を侵害するものとは認められない。 (2) 争点2(本件処分による控訴人の社会的評価の低下の有無)(控訴人の主張)ア控訴人に本件視察旅行の出席義務はなく,正当な欠席理由書を提出したにもかかわらずなされた本件処分は違法であり,控訴人の社会的評価を低下させるものである。 イ議会運営委員会は,本件通知書を作成するに当たって,法的に意味のない「処分」という言葉を付した。社会一般には,「処分」とは,処罰の意味合いを持つとされているから,「処分」という言葉を付すこと自体が,議会が控訴人を処罰したとの意味を与えるものであって,控訴人の社会的評価を低下させるものである。 ウ A議長は,平成27年2月4日,新聞記者の多数いる議長室で,本件通知書を読み上げ,これを控訴人に交付することで,控訴人に本件処分を通知するとともに,本件処分の事実を公表した。 (被控訴人の主張)ア控訴人は,自身の政治的主張に基づいて本件視察旅行を欠席したのであり,その欠席理由も新聞記事において適切に報道されているところ,一般の読者の普通の注意と読み方をすれば,議会の考えと 控訴人の考えが対立していることを示すにすぎず,これによって控訴人の議員活動の誤りが示されたとはいえないから,控訴人の社会的評価は何ら低下していない。 イ通常の一般人は,「処分」とは,取扱いを決めて物事の決まりを付けることという意味 ぎず,これによって控訴人の議員活動の誤りが示されたとはいえないから,控訴人の社会的評価は何ら低下していない。 イ通常の一般人は,「処分」とは,取扱いを決めて物事の決まりを付けることという意味と捉えており,その関心事は「処分」という言葉の有無ではなく,どのような問題につきどのような決まりを付けたのかということにある。したがって,厳重注意に「処分」という言葉が付されたことで,通常の厳重注意よりも重い措置がなされたと認識することにはならず,「処分」という言葉そのものが対象者の社会的評価を左右するものとは認められない。 (3) 争点3(本件処分の公共性,公益目的性及び真実性又は真実相当性の有無)(被控訴人の主張)ア議会運営委員会が本件処分を行うと決定した事実は,市民において極めて関心の高いものであって,議会運営の透明性の確保という観点からも広く一般市民に知らせる必要性があるから,公共の利害に関する事実である。また,一般市民に知らせるために,議長の職務として公表したのであるから,目的の公益性もある。 そして,A議長が摘示した事実は,控訴人の行った行為そのものではなく,控訴人の行った行為を議会運営委員会がどのように判断し,どのような措置を採ったかであるから,「議会運営委員会において,控訴人がD市議会会議規則において公務とされる委員会視察に正当な理由なく欠席したことを理由として厳重注意という措置が採られた事実」は真実に相違ないものである。 イ仮に,本件視察旅行がD市議会会議規則(以下「会議規則」という。)に基づく公務であること,控訴人が本件視察旅行を正当な理 由なく欠席したことという事実の真実性が問題となるとしても,これらについては高度に自律性・自主性を有する地方議会の内部的事項に関わるものであるから,司法審査が及ば 人が本件視察旅行を正当な理 由なく欠席したことという事実の真実性が問題となるとしても,これらについては高度に自律性・自主性を有する地方議会の内部的事項に関わるものであるから,司法審査が及ばない。 ウ教育民生委員会は,地方自治法109条8項に基づき議会閉会後であっても継続審査を行うことができるとの議決を得た委員会であり,当該委員会で本件視察旅行を行うことを決定し,会議規則104条に基づき当該委員会の調査のための委員派遣の承認を議長に届け出て,これについて議長の承認を得ている。そのため,本件視察旅行は,会議規則105条にいう委員の派遣に当たり,委員会活動に該当する公務となる。その承認にあたり,委員会派遣の原則に則り,委員全員を参加者とする委員会の決議を行っているため,控訴人も視察参加者に含まれており,控訴人の公務となる。 そして,議長は,地方自治法104条に規定される議長の議会代表権と事務統理権に基づき,控訴人を含む委員に対して出張命令を出しており,同命令によって本件視察旅行に出席する義務が発生している。 また,委員会を欠席する場合は,正当な理由を付して教育民生委員長に届け出る必要がある(会議規則90条)ところ,控訴人は,議長宛に欠席願を提出しており,正当な委員会の欠席願とはならない。 このように公務への出席を怠ったことは,議員としての責務を全うしなかったということができるから,D市議会議員政治倫理要綱(以下「政治倫理要綱」という。)2条2号に該当する。 エなお,委員派遣は,議決事項ではないため,本件においては議決はなされていないが,十分な資料提供がなされた上で委員会の協議を行い,委員の多数の意思をもって派遣を決定したから,委員会の 意思形成として欠けるところはない。 オまた,本件処分は,控訴人が はなされていないが,十分な資料提供がなされた上で委員会の協議を行い,委員の多数の意思をもって派遣を決定したから,委員会の 意思形成として欠けるところはない。 オまた,本件処分は,控訴人が本件視察旅行を欠席した事実を前提にして,控訴人の今後の行動について忠告するものであり,意見等を表明するものである。本件処分は,控訴人の今後の行動を正す目的でなされたものであるから,その行為が公共の利害に関する事実に係り,その目的が専ら公益を図ることにあったといえる。また,控訴人が本件視察旅行を欠席したことは事実であるから,意見の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明又は真実と信じるにつき相当の理由があったといえる。そして,本件処分が人身攻撃に及ぶものでないことは明らかである。したがって,議会運営委員会が本件処分を決定したことは,正当な意見等の表明であって,違法性が阻却される。 (控訴人の反論)ア A議長は,あえて新聞記者を呼び集めて衆人環視の下で法的に意味のない「処分」という言葉を付した本件通知書を控訴人に手渡したのであるから,控訴人に対する攻撃的意図によるものである。したがって,A議長の通知・公表行為に公益を図る目的があったとは認められない。 イ議会運営委員会及びA議長が摘示した控訴人の社会的評価を低下させる事実には,本件視察旅行が公務であること及び控訴人が本件視察旅行を正当な理由なく欠席したことが含まれる。しかし,本件視察旅行は公務ではないから,これらが真実とは認められない。 ウ会議規則105条に基づく委員派遣は,教育民生委員会で審議議決されなければならないが,これが一切されていないから,公務とはいえない。 (4) 争点4(正当職務行為の主張の許否) (被控訴人の主張)仮にA議長が本件 遣は,教育民生委員会で審議議決されなければならないが,これが一切されていないから,公務とはいえない。 (4) 争点4(正当職務行為の主張の許否) (被控訴人の主張)仮にA議長が本件処分を通知・公表したことにより控訴人の名誉が毀損されるとしても,正当な職務行為としてその違法性は阻却される。 (控訴人の反論)A議長が本件通知書を交付したことは,控訴人に対する攻撃的意図によるものであるから,A議長の通知・公表行為が正当な職務行為とは認められない。 (5) 争点5(信義則違反の有無)(被控訴人の主張)控訴人は,本件処分を受けるに当たって,甘んじて処分は受ける旨を明言しており,既存の議会運営に対抗している姿勢を有権者に示すためにあえて本件視察旅行を欠席し,自ら本件処分を誘発した。それにもかかわらず,本件処分がされると,名誉が毀損されたなどと主張して本件訴訟を提起しているから,このような主張は信義則に反し,許されない。 (控訴人の主張)控訴人が本件処分を受けるに当たり甘んじて処分は受ける旨を述べたことは認めるが,信義則違反とはいえない。 (6) 争点6(損害の発生及びその額)(控訴人の主張)控訴人の損害(名誉)を回復するためには,本来は本件処分を出した議長名で本件処分が誤りであったと謝罪して同処分を取り消すことが必要であるが,それが法的にはできないため,500万円を請求せざるを得ない。 (被控訴人の主張)否認し,争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記の前提事実に加え,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 第361回臨時会の開催経過平成26年9月8日,選挙後最初の議会である平成26年D市議会第361回臨時会が開催された。同議会において, び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 第361回臨時会の開催経過平成26年9月8日,選挙後最初の議会である平成26年D市議会第361回臨時会が開催された。同議会において,議長としてA議長が選任され,控訴人を含む7名が教育民生委員会の委員に選任された(乙4・4,6頁)。 また,上記議会において,「閉会中の継続審査について」を日程に追加して議題とすることが決まり,各常任委員会所管に係る事務調査及び審査に関する事項は,議員の任期の間,閉会中も継続審査とすることが決定された(乙4・7頁)。 (2) 教育民生委員会の議事経過等ア平成26年10月7日午前9時58分,選挙後初めての教育民生委員会が開会された。この日の付託議案は条例の制定に関する議案第52号ないし同第54号,同第57号,同第58号及び平成26年請願第4号ないし同第7号であった。上記議題について予定どおり議決又は審査され,午後1時58分に閉会した(甲18の1)。 委員会閉会後,副委員長が山口県光市のコミュニティースクール,北九州市の民生委員の支援の仕組みを中心に,ごみゼロ,生ごみ減量の関係で熊本,佐賀又は食育の取り組み等,先進事例の視察先を調整したい旨提案した。これに対して控訴人は,「コミュニティースクールの先進地は三重県にもいくつかあり,京都市が最先端と位置付けられているのに,なぜわざわざ遠方に出かける必要があるのか」と異議を唱えた。 イ平成26年11月11日午前9時56分,第2回教育民生委員会が開会された。この日の議題は,D市地域福祉計画(第3次)素案などの7件及び「平成26年度全国学力・学習状況調査の結果・分析と今後の取組について」と題する報告事項であった。最後に上記報告事項についての質疑応答がなされて予定の議題を終え,午 計画(第3次)素案などの7件及び「平成26年度全国学力・学習状況調査の結果・分析と今後の取組について」と題する報告事項であった。最後に上記報告事項についての質疑応答がなされて予定の議題を終え,午後3時30分に閉会となった(甲18の2)。 委員会閉会後,副委員長から,視察地として次の3つが発表された。 ① 岡山県倉敷市(介護支援いきいきポイント制度について)② 岡山市(ごみの減量化の取組みについて)③ 福岡県北九州市(いのちをつなぐネットワークの取組みについて)これに対して控訴人は,欠席を表明した。他の委員から,一度行って視察の実情を体験してから判断すべきであるとの意見が出たが,控訴人は,情報化時代において大抵のことは現地に行かずとも分かると意見を述べた。 ウ平成26年12月16日午前9時57分,第3回教育民生委員会が開会された。この日の議案は,議案第77号,同第78号,同第80号,同第81号,同第86号及び同第87号であり,午前11時27分,予定の議事を終えて終了した(甲18の3)。 委員会閉会後,委員派遣の是非及び委員派遣が行われた場合の控訴人の欠席の是非について協議がなされた(乙38の3・4参照)。 なお,上記(2)アないしウの各委員会において,本件視察旅行に関する議決が行われた事実はなく,委員会の会議録にも記載はない(当事者間に争いがない)。 エ平成26年12月18日,教育民生委員会委員長Bは,「本委員会は,下記のとおり委員を派遣することに決定」したとして,A議長宛に本件視察旅行を承認するよう会議規則105条に基づく届出を行い(乙6),同日,供覧票によりA議長の承認を得た(乙7)。 (3) 本件処分に至る経過ア控訴人は,認定事実1(2)イ記載の委員会閉会後に発表された本件視 会議規則105条に基づく届出を行い(乙6),同日,供覧票によりA議長の承認を得た(乙7)。 (3) 本件処分に至る経過ア控訴人は,認定事実1(2)イ記載の委員会閉会後に発表された本件視察旅行の必要性に疑問を感じ,平成26年12月11日,A議長に対し,「過去4年間に行われた各委員会の行政視察は,市民に役立った形跡が全く認められず,このような内容の行政視察は市民から『費用対効果』を問われても説明がつかない」,「視察目的がバラバラで一貫性が無く,しかも『行き先(方面)決定』を先行して目的が後付けになっていると言われても弁明できない」,「視察先が沖縄・九州各地・関東・東北等,遠隔地ばかりでは『懇親旅行』と言われても反論の余地無し」等の理由を記載して「教育民生委員会行政視察欠席願」(甲1)を提出したところ,教育民生委員長から欠席理由を補充するように指摘を受けた。 そこで,控訴人は,同月22日,「現在のD市財政は危険水域にあることを議会は重く受け止めるべきであり,このような時期に成果が不確実な行政視察を行うべきではない」,「視察・調査の必要性が生じた場合は必要最小限の議員を派遣すべきで,委員全員派遣が規則ならば,規則を改めるべきである」等,欠席理由を一部修正し,「教育民生委員会行政視察は,D市の財政が危険水域にある現状下では『実施すべきで無い』と判断し,欠席させていただきます」と記載した「教育民生委員会行政視察欠席願」(甲2)を再度提出した。 イ控訴人が本件視察旅行を欠席したため,議会運営委員会は,平成27年2月4日,控訴人について本件処分を行うことを決定し(乙1・6枚目),本件通知書を作成した。 ウ D市役所では,各委員会の様子をD市役所に設けられている記者室に音声放送しており,各社報道記者は,この ,控訴人について本件処分を行うことを決定し(乙1・6枚目),本件通知書を作成した。 ウ D市役所では,各委員会の様子をD市役所に設けられている記者室に音声放送しており,各社報道記者は,この音声放送によって委員会の内容について取材の要否を判断し,取材活動をしていた。 前記(3)イの平成27年2月4日の議会運営委員会の様子についても記者室に音声放送がされており,同日,記者室にいた新聞記者から本件処分に関する取材の申入れがあった。そこで,A議長及び被控訴人の議会事務局長であったCは,上記申入れを了承し,新聞記者5ないし6名を議長室に入室させた(乙16の1・2)。 エ平成27年2月4日,A議長は,副議長,議会運営委員会の正副委員長,議会事務局長,前記(3)ウの取材要請をした新聞記者5ないし6名のいる議長室において,本件通知書を朗読し,これを控訴人に手交した(乙16の2・2頁)(4) 本件処分後の経過ア平成27年2月5日,読売新聞,朝日新聞,伊勢新聞,中日新聞,毎日新聞の各社は,控訴人が視察を欠席し厳重注意処分を受けた旨を報じた(甲6の1~5)。 イ平成27年2月13日,控訴人は,「D市議会規則には『委員会視察は委員全員が出席すべき義務規定』『委員会視察は全委員に課される公務』と解される規定は存在しない」などとして,本件処分は不当であり,自己の名誉が著しく棄損されたこと,2月末までに文書による本件通知書の取消しと謝罪を求める旨記載した異議申立書(甲7)をA議長宛に提出した。 ウ平成27年2月25日,A議長は,本件処分は行政不服審査法上 の処分に当たらず不適法であるとして,上記異議申立てを却下する旨の決定をした(甲8)。 A議長は,新聞記者がいる議長室において,控訴人に対して同決定書を交 件処分は行政不服審査法上 の処分に当たらず不適法であるとして,上記異議申立てを却下する旨の決定をした(甲8)。 A議長は,新聞記者がいる議長室において,控訴人に対して同決定書を交付し,その場面が翌26日,新聞報道された(甲9)。 エ平成27年3月30日,控訴人は,「恒例となっている二泊三日の委員会視察は公務であり,議員には出席の責務がある」ことが正当か,不当かについて明確な回答をお願いしますなどと3つの質問事項を記載した質問状(甲10)をA議長宛て提出した。 オ平成27年5月1日,A議長は,控訴人に対し,議長室において,上記質問状については「従前の説明のとおりで回答の必要なしということで了承してください」と口頭で伝えた。 2 争点1(本件訴えの適法性)について(1) 裁判所の司法審査の範囲については,一般市民社会の中にあってこれとは別個に自律的な法規範を有する特殊な部分社会における法律上の係争は,それが一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り,その自主的,自律的な解決に委ねるのを適当とし,裁判所の司法審査の対象にはならないものとされている(最高裁昭和52年3月15日第三小法廷判決民集31巻2号234頁)。 そして,地方議会は,憲法上定められた地方公共団体の議事機関であり(憲法93条1項),憲法の採用する議会制民主主義と地方自治,住民自治制度の下において,当該地方公共団体における住民の間に存する多元的な意見や利益を,住民の直接選挙によって選出された議員の自由な討論を通して調整し,究極的には多数決原理によって当該団体の重要事項について統一的な意思を形成するとともに,執行機関の事務を監視,調査等をすべき役割を担っており,その役割・機能を適正・円滑に果たすため,その内部の組織 究極的には多数決原理によって当該団体の重要事項について統一的な意思を形成するとともに,執行機関の事務を監視,調査等をすべき役割を担っており,その役割・機能を適正・円滑に果たすため,その内部の組織や運営に関する一定の事 項について,他の機関等から関与を受けることなく,自主的・自律的に決定し,処理する権限(自律権)を有していると解され(地方自治法103条ないし137条,市議会委員会条例,会議規則),このような地方議会の運営に関する事項は,それが議会の内部規律の問題にとどまる限り,裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」には当たらないというべきである。 しかし,他方で,議会の議員に対する措置が,一般市民法秩序において保障されている権利利益を侵害する場合や明白な法令違反がある場合は,もはや議会の内部規律の問題にとどまるものとはいえないから,当該措置に関する紛争は,裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」にあたると解するのが相当である。 (2) 本件についての検討(ア) まず,控訴人の本件請求は,名誉権(人格権)という私権の侵害を理由とする国家賠償請求であり,出席停止のような懲罰の効力をめぐる争いのように地方議会が自主的・自律的に決定した事項の是非を直接の問題とするものではない。 (イ) また,本件請求における紛争の内容について検討すると,本件処分は,平成27年1月28日から同月30日に行われた倉敷市,岡山市及び北九州市への本件視察旅行の参加の是非を問題とするものであるから,単なる議会内での議事運営上の行為や議員の資格に必然的に伴う義務ではなく,議会外に赴き調査等の対外的活動を行うという行為義務を課すものである。しかも,公費を伴う本件視察旅行の必要性について疑問を呈する控訴人は,その政治的信条として参加を拒否したものである 義務ではなく,議会外に赴き調査等の対外的活動を行うという行為義務を課すものである。しかも,公費を伴う本件視察旅行の必要性について疑問を呈する控訴人は,その政治的信条として参加を拒否したものであるから,思想信条の自由も問題となる。 移動の自由は憲法22条により,思想信条の自由は同法21条より保障された重要な基本的人権であるところ,本件視察旅行への強制 参加は,かかる権利を制約するものと認められる。 (ウ) さらに,本件通知書には,「本委員会視察は,D市議会会議規則に基づく公務であるにも関わらず,貴殿は正当な理由なく欠席した。ついては,D市議会議員政治倫理要綱の規定に基づき厳重注意処分とする。」と記載されているから,この点だけに着目すると,会議規則や政治倫理要綱という自主的な規範に基づく倫理的義務の遵守のみが問題となっているようにもみえる。しかし,本件通知書の記載は控訴人に視察に参加する義務があったことを前提とし,これに参加しなかったことを法的義務違反としていることが明らかであり,また,後述するように,本件視察旅行の決定手続には明白な法令違反があると主張されているから,単なる内部規律の問題として地方議会の自治的措置に任せることができない事項を含んでいる。 (エ) そうすると,控訴人の本件請求は,外形的な請求内容だけでなく,紛争の実態に照らしても,一般市民法秩序において保障されている移動の自由や思想信条の自由という重大な権利侵害を問題とするものであるから,一般市民法秩序と直接の関係を有するといえ,かつ,その手続には明白な法令違反があると主張されている(後述)。よって,本件請求は,裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たり,司法審査の対象となると認めるのが相当である。 (3) 被控訴人の主張についての検討被控訴人は, ると主張されている(後述)。よって,本件請求は,裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たり,司法審査の対象となると認めるのが相当である。 (3) 被控訴人の主張についての検討被控訴人は,昭和35年10月19日の最高裁判決において,懲戒処分であっても除名処分以外の処分については司法審査の対象とならないと判示しているのであるから,懲戒処分にも当たらない事実行為である本件処分は司法審査の対象とならないと主張する。 しかし,昭和35年10月19日最高裁判決は,除名処分以外の一 切の処分について司法審査の対象とならないと判示したものではない。また,事実行為にとどまる限り司法審査の対象とならないとする合理的根拠もない。よって,被控訴人の上記主張は採用できない。 (4) 小括以上から,本件訴えは適法であり,これを却下することはできない。 3 争点2(本件処分による控訴人の社会的評価の低下の有無)について(1) 名誉毀損の不法行為は,問題とされる表現が,人の品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価を低下させるものであれば,それが事実を摘示するものであるか,又は意見ないし論評を表明するものであるかを問わず成立し得るものである。 そして,問題とされている表現が,事実を摘示するものであるか,意見ないし論評の表明であるかによって,名誉棄損に係る不法行為責任の成否に関する要件が異なるため,当該表現がいずれの範ちゅうに属するかを判別することが必要となるが,当該表現が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと理解されるときは,当該表現は,上記特定の事項についての事実を摘示するものと解するのが相当である(最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決 可能な他人に関する特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと理解されるときは,当該表現は,上記特定の事項についての事実を摘示するものと解するのが相当である(最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決・民集第51巻8号3804頁,最高裁平成16年7月15日第一小法廷判決・民集58巻5号1615頁参照)。 (2) 本件についての検討認定事実1(3)イ及びエ記載のとおり,議会運営委員会が本件処分を決定し,かつ,A議長が本件通知書を読み上げて控訴人に対して交付しているところ,本件通知書の記載内容全体からすると,①控訴人が会議規則に基づく公務として参加すべき義務のある本件視察旅行を正 当な理由なく欠席したこと,②政治倫理要綱の規定に基づき控訴人を厳重注意処分としたこと,③控訴人が公務に対する正確な認識を欠き,議員としての責務を全うしていないとの3点につき明示又は黙示に主張するものと理解され,これらは証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項に当たるから,上記3点について事実を摘示したものと認められる。 そして,これらの事実は,一般人の注意と読み方を基準に考えると,議会運営委員会が,控訴人がD市議会議員として行うべき法的義務のある公務を怠ったものと断定し,厳重注意処分をしなければ控訴人が議員としての責務を全うし得ない人物であると評価・判断し,懲罰類似の処分に出たことを示すものといえるから,控訴人のD市議会議員として社会的評価の低下をもたらすものと認められる。 また,A議長は,多数の新聞記者の面前で本件通知書を読み上げて交付したのであるから,控訴人の社会的評価を低下させる上記事実は伝播する可能性があり,かつ,多数の新聞報道(甲6の1 ないし5)により実際に伝播したことが認められ,上記事実の流布により,控訴 上げて交付したのであるから,控訴人の社会的評価を低下させる上記事実は伝播する可能性があり,かつ,多数の新聞報道(甲6の1 ないし5)により実際に伝播したことが認められ,上記事実の流布により,控訴人の社会的評価が低下したと認められる。 (3) 被控訴人の主張についての検討被控訴人は,控訴人は自身の政治的主張に基づいて本件視察旅行を欠席したのであり,その欠席理由も新聞記事において適切に報道されているところ,一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば,議会の考えと控訴人の考えが対立していることを示すにすぎず,これによって控訴人の議員活動の誤りが示されたとはいえないから,控訴人の社会的評価は何ら低下していないと主張する。 しかしながら,一般の読者の普通の注意と読み方からすると,本件処分の内容は,議会の公的判断として,控訴人の考え及び行動が法的 義務に反するものであると一方的に断定した上,その点を理由に控訴人に厳重な注意を与えるというものであるから,議会の考えと控訴人の考えが対立しているにすぎないことを示すだけのものとは到底認められず,被控訴人の上記主張はその前提を欠き,採用できない。 (4) 小括したがって,議会運営委員会が本件処分の決定をし,A議長が本件通知書を手交した行為は,控訴人に対する名誉毀損行為に該当する。 4 争点3(本件処分の公共性,公益目的性及び真実性又は真実相当性の有無)について(1) 事実を摘示しての名誉毀損については,その行為が公共の利害に関する事実に係り,専ら公益を図る目的に出た場合に,摘示された事実が真実であると証明されたときには,当該行為は違法性を欠き,不法行為は成立しないこととなり,摘示された事実が真実であることが証明されなくても,その行為者においてその事実を真実と信じるにつ れた事実が真実であると証明されたときには,当該行為は違法性を欠き,不法行為は成立しないこととなり,摘示された事実が真実であることが証明されなくても,その行為者においてその事実を真実と信じるについて相当の理由があるときには,上記行為には故意又は過失がなく,不法行為は成立しない(最高裁昭和41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁,最高裁昭和58年10月20日第一小法廷判決・裁判集民事140号177頁参照)。そこで,以下,これについて検討する。 (2) 本件処分の公共性及び公益目的性ア本件処分は,D市議会議員である控訴人が本件視察旅行を欠席したことにつき,控訴人に対して公務の正確な認識と議員の責務を果たすことを求めるものであるから,公共の利害に関する事実について,専ら公益を図る目的でされたものであると認められる。 イこれに対して控訴人は,A議長が本件通知書を新聞記者の面前で交付したことは,控訴人に対する攻撃的意図によるものであって, 公益を図る目的とは認められないと主張する。 しかし,D市議会においては,議会の透明性を確保し,市民による監督を強化することに繋がる等の考えから,公表に馴染まない事項を除いて基本的に報道機関の取材に応じており,A議長は,本件についても同様の観点から新聞記者の要請に応じたものと認められる(乙16の1・2頁参照)。その他に控訴人の主張を認めるに足りる証拠はないから,控訴人の上記主張は採用できない。 (3) 真実性又は真実相当性ア司法審査の可否まず,本件請求が司法審査の対象となることは前記2のとおりであるから,本件処分において摘示された前記事実に関する真実性又は真実相当性についても裁判所が判断するべき事項であると認められる。 イ本件視察旅行についての委員 の対象となることは前記2のとおりであるから,本件処分において摘示された前記事実に関する真実性又は真実相当性についても裁判所が判断するべき事項であると認められる。 イ本件視察旅行についての委員の出席義務の有無(ア) 次に,控訴人は,会議規則105条の規定は委員派遣について全員参加を義務付けるものではないため,控訴人に本件視察旅行への出席の義務は生じないとも主張するので,これについて検討する。 まず,上記会議規則の規定は,同規則第2章委員会の第2節審査の中に置かれていることからして,委員会の審査に関する権限を定めたものにとどまり,当該派遣決定に関与した委員がこれに参加すべき義務を負うか否かを定めたものとは解し難い。また,地方議会の議員は,特別職の地方公務員であるから,職務命令に従うべきことを定めた地方公務員法32条の適用を受けるものではなく(同法4条2項),これに代わる一般的な規定は見当たらない。その上,地方議会の議員は,住民の選挙によって選出され た者として,その人格識見を地方議会の意思決定に生かすことを期待されているのであるから,その意に反することを議会の決定等によって義務付けられることは,法令に明確な根拠のある事項や会議体の一員として当然と考えられる事項(例えば,会議に出席すべきことや議場内の規律に従うべきこと)に限られるべきである。 そうすると,仮に本件視察旅行のような議会外での対外的活動について委員会で議決を行ったとしても,当該議決にはこれに反対した議員に対してまで法的な出席義務を負わせるものではないというべきである。 (イ) 被控訴人の主張についての検討被控訴人は,委員会において全員参加の決定を行うことで可能となり,全員参加となった後に議長から出張命令が出された場合は,地方自治法104条の定め きである。 (イ) 被控訴人の主張についての検討被控訴人は,委員会において全員参加の決定を行うことで可能となり,全員参加となった後に議長から出張命令が出された場合は,地方自治法104条の定める議長の議会代表権と事務統理権を根拠として対象議員には出席義務が生じると主張する。 確かに,議会の議長は,地方自治法上,議会の事務の統理権や議会の代表権(同法104条)を有するが,法文上,それらは議長が議員に対して出張命令を発する権限を有することまで定めていない。議長は,議員の中から選挙により選ばれるにすぎず(同法103条),議員の上司として出張その他の職務命令を発する法令上の根拠は見当たらない。 そうすると,議長の出張命令は,職務命令として発せられたとみることはできないから,出張を承認し,議会事務局に対して費用の支出を命ずる趣旨にとどまるものとみるのが相当であって,議決に賛成する議員に公費を支出する根拠とはなり得ても,議決に反対する議員に出席義務を生じさせ得る法的根拠とはならない というべきである。よって,被控訴人の上記主張は採用できない。 ウ本件視察旅行の決定手続の適否(ア) さらに,本件視察旅行の決定手続に際して委員会の議決を欠いたことは当事者間に争いがないところ,控訴人は,議決を欠く以上,公務とは認められないと主張するのに対して,被控訴人は,委員派遣は議決事項ではないから公務性は否定されないと主張し,これを争っている。そこで,以下,検討する。 この点,地方自治法109条1項は,「普通地方公共団体の議会は,条例で,常任委員会・・・を置くことができる」と規定しており,これを受けて被控訴人においては,D市議会委員会条例(以下「委員会条例」という。)において,常任委員会を置くことが認められ(同条例1条),その一つが「 員会・・・を置くことができる」と規定しており,これを受けて被控訴人においては,D市議会委員会条例(以下「委員会条例」という。)において,常任委員会を置くことが認められ(同条例1条),その一つが「教育民生委員会」とされている(同条例2条2項(2))。そして,各委員会は合議体であるから,「委員会の議事は,出席委員の過半数で決し,可否同数のときは,委員長の決するところによる」と定められている(同条例16条)。すなわち,委員会としての意思決定は多数決により決せられ,その議決事項について,委員会条例上,除外事項の定めはない。 そうすると,常任委員会の調査の一環として委員派遣を行うか否かについても,出席委員の過半数により決せられ,決議を経て初めて行い得ると解するのが相当である。 そして,会議規則105条は,「委員会は,審査又は調査のため委員を派遣しようとするときは,その日時,場所,目的及び経費等を記載した派遣承認要求書を議長に提出し,あらかじめ承認を得なければならない」と定めているから,事前に議長の承認を得た上で,委員会の議決を要することになる。 よって,議決を欠いた本件視察旅行の決定手続は,委員会条例16条に違反しているから,その公務性に疑問があり,少なくともこれに反対の意思を表明した控訴人に参加義務を負わせるものとは認め難い。 (イ) 被控訴人の主張についての検討(a) 被控訴人は,地方自治法,条例及び会議規則において議決事項であると定められた事項については(例えば,D市議会委員会条例19条),その決定は議決によって行う必要性があるが,その他は必ずしも議決が要求されていないと主張する。 しかし,前記のとおり委員会条例16条は,一般的に議決の方法を定めていると解され,特に除外する規定がない以上,す 決によって行う必要性があるが,その他は必ずしも議決が要求されていないと主張する。 しかし,前記のとおり委員会条例16条は,一般的に議決の方法を定めていると解され,特に除外する規定がない以上,すべての事項について議決を要する趣旨と解される。被控訴人が議決を要する事項として挙げている委員会条例19条は,「委員会は,その議決で秘密会とすることができる」として例外的に議事を非公開とするための手続を定めているにすぎず,議決事項がこれに限定される趣旨と解することは困難である。そもそも被控訴人は,これまで委員派遣の手続について,委員会の議決を前提とする旨記載された文献(例えば,乙30・24頁,乙32・80頁)を引用し,「委員派遣の決定機関は委員会であり,派遣それ自体及び派遣する議員については委員会がこれを決するところ,委員会は合議体であり,委員会としての意思決定は多数決で決せられるもの」(平成29年2月3日付け準備書面(1)4頁)などと主張していたものであり,被控訴人の主張は従前の自己の基本的な主張とも相容れないものであって採用し難い。 (b) また,被控訴人は,議決事項としない事柄であっても委員会 内においてその内部意思形成は十分に行われており,本件の委員派遣については,平成26年10月7日に派遣の日程につき副委員長が提案し,同年11月11日に派遣先及びその概要並びに行程案に関する資料が委員に配布され,同年12月16日の委員会において協議され,その多数の意思をもって派遣を決定したと主張する。 この点, 平成26年中の教育民生委員会は,被控訴人が指摘するように上記日程で3回開催されているところ,委員会条例29条1項は,「委員長は,職員をして会議の概要,出席委員の氏名等必要な事項を記載した記録を調製させ,これに署名又は押印し ,被控訴人が指摘するように上記日程で3回開催されているところ,委員会条例29条1項は,「委員長は,職員をして会議の概要,出席委員の氏名等必要な事項を記載した記録を調製させ,これに署名又は押印しなければならない」と規定しているから,その概要は甲18号証の1ないし3記載のとおりであると認められる。しかし,そのいずれの会議録においても委員派遣の議題は挙げられておらず,審議された形跡すらうかがえない。そうすると,認定事実1(2)記載のとおり,委員会閉会後に委員の間で本件視察旅行の話題は出たものの,それはあくまで非公式の会話にすぎず,委員会で正式に協議した事実は認められない。 また,本件において,被控訴人は,平成26年12月18日に会議規則105条に基づくA議長の承認を得た旨主張しているから,本来,その後に委員会の議決を要するところ,同日以後,本件視察旅行を議題とする教育民生委員会が開かれた事実もない。 よって,委員の多数の意思をもって派遣を決定したとの事実は認められないから,被控訴人の主張は採用できない。 エ小括以上によれば,一般に地方議会の委員会が実施する視察旅行は, 仮に委員会の議決がされたとしても,それは反対議員に出席義務を生じさせ得るものとは認められないし,本件視察旅行は,委員会条例16条に基づく議決を欠いており,その決定手続が同条に違反していることは明らかであるから,控訴人にこれに参加する義務は生じない。そうすると,控訴人が会議規則に基づく公務である本件視察旅行を正当な理由なく欠席した旨,及び控訴人が公務に対する正確な認識を欠き,議員としての責務を全うしていない旨の摘示は,真実に反するものと認められ,かつ,その事実を真実と信じるについて相当の理由があると認めるに足りる証拠もないから,真 訴人が公務に対する正確な認識を欠き,議員としての責務を全うしていない旨の摘示は,真実に反するものと認められ,かつ,その事実を真実と信じるについて相当の理由があると認めるに足りる証拠もないから,真実相当性も認められない。 (4) 意見・論評の表明による名誉棄損における真実性・相当性の抗弁について被控訴人は,本件処分が意見等を表明するものであるとして,意見・論評による名誉棄損を前提とした真実性・相当性の抗弁も主張するが,前記のとおり本件処分は事実を摘示するものであり,意見ないし論評の表明であるとは認められない。 また,仮に「加えて,今後,公務に対する正確な認識のもと,議員としての責務を全うするよう強く求める。」旨の後半部分が意見ないし論評の表明であると理解するとしても,前記のとおり,当該意見の前提とする事実が重要な部分について真実であること又は真実と信じるにつき相当の理由についての証明があったとはいえない。よって,これを理由とする被控訴人の抗弁も採用できない。 5 争点4(正当職務行為の主張の許否)について事実に反する内容を摘示し,これにより他人の名誉を棄損することは,単なる過失による場合といえども正当業務行為と目し得ないことはいうまでもない(最高裁昭和31年7月20日第二小法廷判決・民集1 0巻8号1059頁参照)。 そして,前記認定事実1(2)ウによれば,教育民生委員会の会議録には本件視察旅行に関する記載がないから,議決を欠いたことは明らかであるところ,同会議録は議長が保管するとされている(委員会条例29条2項)。そうすると,A議長は,議決を欠いていることを知っていたものと推認され,それにもかかわらず,委員会において正式な手続が踏まれたことを前提として本件通知書を交付したA議長には少なくとも過失がある )。そうすると,A議長は,議決を欠いていることを知っていたものと推認され,それにもかかわらず,委員会において正式な手続が踏まれたことを前提として本件通知書を交付したA議長には少なくとも過失があると認められる。 よって,本件処分が正当業務行為に当たるとは評価できないから,本件名誉棄損行為の違法性は否定されない。 6 争点5(信義則違反の有無)について控訴人は,本件処分を受けるに当たり,「甘んじて処罰は受ける」旨述べた事実が認められる(乙1・6枚目)。しかし,控訴人が,既存の議会運営に対抗している姿勢を有権者に示すため,あえて本件視察旅行を欠席し,自ら本件処分を誘発したと認めるに足りる証拠はない。 その他に控訴人の請求が信義則違反として許されないと認めるに足りる証拠もないから,被控訴人の主張は採用できない。 よって,被控訴人には国家賠償法1条1項による損害賠償責任があるというべきである。 7 争点6(損害の発生及びその額)について前記3で認定したように,控訴人は,本件処分により議員としての社会的評価が低下したことが認められ,かつ,新聞報道により本件処分が不特定多数の住民に知れ渡ることとなった。本件通知書の交付時の態様は,新聞記者等の面前で,あたかも控訴人が議員としての責務を適切に果たしておらず,懲罰を与えるかのような体裁が採られているから,これにより控訴人が多大な精神的苦痛を被ったことは明らかというべきで ある。 また,本件処分に至った経緯をみると,控訴人が欠席願(甲1,甲2)において本件視察旅行の必要性について疑問を呈しているにもかかわらず,委員会の会議録には何ら記載がなく,住民に対する透明性を全く欠いたまま手続が進められている。 他方で,地方議会の委員会が実施する視察旅行に委員が参加する義務があるか否か 呈しているにもかかわらず,委員会の会議録には何ら記載がなく,住民に対する透明性を全く欠いたまま手続が進められている。 他方で,地方議会の委員会が実施する視察旅行に委員が参加する義務があるか否かについては,参考となる先例等が見当たらず,地方議会の運営に関する文献等にはこれを肯定する趣旨とも理解し得る記載もあることからすると,議会運営委員会がこの点に関する法解釈を誤って本件処分に至ったことには一定程度酌むべき事情もある。 そこで,これら本件に現れた一切の事情を考慮すると,控訴人に認められるべき慰謝料の額としては50万円が相当である。 第4 結論以上によれば,控訴人の請求は,50万円及びこれに対する不法行為日である平成27年2月4日から支払済みまで民法所定の年5分の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却すべきところ,これと異なり,控訴人の請求を全部棄却した原判決は失当といわざるを得ない。よって,本件控訴の一部は理由があるから,これと異なる原判決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第4部 裁判長裁判官藤山雅行 裁判官水谷美穂子 裁判官金久保茂 (別紙)関係法令等の定め 1 地方自治法(1) 100条(調査権,出頭証言及び記録の提出請求,協議・調整の場,議員の派遣,政務活動費,刊行物の送付,図書室等)13項議会は,議案の審査又は当該普通地方公共団体の事務に関する調査のためその他議会において必要があると認めるときは,会議規則の定めるところにより,議員を派遣することができる。 (2) )13項議会は,議案の審査又は当該普通地方公共団体の事務に関する調査のためその他議会において必要があると認めるときは,会議規則の定めるところにより,議員を派遣することができる。 (2) 103条(議長・副議長)1項普通地方公共団体の議会は,議員の中から議長及び副議長一人を選挙しなければならない。 2項 (略)(3) 104条(議長の権限)普通地方公共団体の議会の議長は,議場の秩序を保持し,議事を整理し,議会の事務を統理し,議会を代表する。 (4) 109条(常任委員会,議会運営委員会,特別委員会)1項普通地方公共団体の議会は,条例で,常任委員会,議会運営委員会及び特別委員会を置くことができる。 2項常任委員会は,その部門に属する当該普通地方公共団体の事務に関する調査を行い,議案,請願等を審査する。 3項議会運営委員会は,次に掲げる事項に関する調査を行い,議案,請願等を審査する。 1号議会の運営に関する事項2号議会の会議規則,委員会に関する条例等に関する事項3号議長の諮問に関する事項 4項特別委員会は,議会の議決により付議された事件を審査する。 5項第115条の2〈利害関係者等からの意見聴取〉の規定は,委員会について準用する。 6項委員会は,議会の議決すべき事件のうちその部門に属する当該普通地方公共団体の事務に関するものにつき,議会に議案を提出することができる。ただし,予算については,この限りでない。 7項前項の規定による議案の提出は,文書をもつてしなければならない。 8項委員会は,議会の議決により付議された特定の事件については,閉会中も,なお,これを審査することができる。 9項前各項に定めるもののほか,委員の選任その他委 書をもつてしなければならない。 8項委員会は,議会の議決により付議された特定の事件については,閉会中も,なお,これを審査することができる。 9項前各項に定めるもののほか,委員の選任その他委員会に関し必要な事項は,条例で定める。 (5) 120条(会議規則)普通地方公共団体の議会は,会議規則を設けなければならない。 (6) 134条(懲罰理由等)1項普通地方公共団体の議会は,この法律並びに会議規則及び委員会に関する条例に違反した議員に対し,議決により懲罰を科することができる。 2項懲罰に関し必要な事項は,会議規則中にこれを定めなければならない。 (7) 135条(懲罰の種類,除名の手続)1項懲罰は,左の通りとする。 1号公開の議場における戒告2号公開の議場における陳謝3号一定期間の出席停止4号除名2項懲罰の動議を議題とするに当つては,議員の定数の8分の1以上の者の発議によらなければならない。 3項 (略) 2 D市議会委員会条例(昭和32年3月31日条例第10号。乙8)(1) 1条(常任委員会の設置)議会に常任委員会を置く。 (2) 2条(常任委員の所属並びに常任委員会の名称,委員定数及び所管)1項議員は,少なくとも一の常任委員となるものとする。 2項常任委員会の名称,委員の定数及び所管は,次のとおりとする。 (1)総務企画委員会 7人(略)(2)教育民生委員会 7人ア教育委員会の所管に属する事項イ市民部の所管に属する事項のうち,保険年金室の所管に属する事項ウ生 (2)教育民生委員会 7人ア教育委員会の所管に属する事項イ市民部の所管に属する事項のうち,保険年金室の所管に属する事項ウ生活環境部の所管に属する事項エ健康福祉部の所管に属する事項オ子ども部の所管に属する事項カ市立病院(介護老人保健施設及び看護専門学校を含む。)の所管に属する事項(3) (略)(3) 14条(招集)1項委員会は,委員長が招集する。 2項 (略)(4) 15条(定足数)委員会は,委員の定数の半数以上の委員が出席しなければ会議を開くことができない。ただし,17条(委員長及び委員の除斥)の規定による除斥のため半数に達しないときはこの限りではない。 (5) 16条(表決) 1項委員会の議事は,出席委員の過半数で決し,可否同数のときは,委員長の決するところによる。 2項前項の場合においては,委員長は委員として議決に加わることができない。 (6) 19条(秘密会)委員会は,その議決で秘密会とすることができる。 (7) 29条(記録)1項委員長は,職員をして会議の概要,出席委員の氏名等必要な事項を記載した記録を調製させ,これに署名又は押印しなければならない。 2項前項の記録は,議長が保管する。 (8) 30条(会議規則との関係)この条例に定めるもののほか,委員会に関しては会議規則の定めるところによる。 3 D市議会会議規則(甲12)(1) 90条(欠席の届出)委員は,事故のため出席できないときは,その理由を付け,当日の開議時刻までに委員長に届け出なければならない。 (2) 104条(所管事務等の調査)1項常任委員 (1) 90条(欠席の届出)委員は,事故のため出席できないときは,その理由を付け,当日の開議時刻までに委員長に届け出なければならない。 (2) 104条(所管事務等の調査)1項常任委員会は,その所管に属する事務について調査しようとするときは,その事項,目的,方法及び期間等をあらかじめ議長に通知しなければならない。 2項議会運営委員会が,法第109条第3項に規定する調査をしようとするときは,前項の規定を準用する。 (3) 105条(委員の派遣)委員会は,審査又は調査のため委員を派遣しようとするときは,その日時, 場所,目的及び経費等を記載した派遣承認要求書を議長に提出し,あらかじめ承認を得なければならない。 (4) 110条(閉会中の継続審査)委員会は,閉会中もなお審査又は調査を継続する必要があると認めるときは,その理由を付け,委員長から議長に申し出なければならない。 4 D市議会議員政治倫理要綱(甲11)(1) 2条(政治倫理基準)議員は,次に定める政治倫理基準を遵守しなければならない。 1号 (略)2号地方自治の本旨及びD市議会会議規則(平成8年議会規則第1号)にのっとり,議員としての責務を全うすること。 3号以下(略)(2) 3条(違反措置)この要綱に反した場合は,勧告その他必要な措置をとることができる。 以上

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る