令和4(ワ)2640 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和6年2月6日 札幌地方裁判所
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判決文本文7,852 文字)

- 1 - 判決 主文 1 被告は、原告Aに対し、1737万6588円及びこれに対する平成27年12月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告B、原告C及び原告Dに対し、それぞれ1609万6335円及びこれに対する平成27年12月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は、原告Aに生じた費用の3分の1と被告に生じた費用の39分の4を同原告の負担とし、原告B、原告C及び原告Dに生じた費用の各9分の1と被告に生じた費用の各39分の1を上記各原告の負担とし、その余の費用を被告の負担とする。 5 この判決は、1、2項に限り、仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求 1 被告は、原告Aに対し、2490万3344円及びこれに対する平成27年12月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告B、原告C及び原告Dに対し、それぞれ1872万1772円及びこれに対する平成27年12月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の概要本件は、被告雄武町(以下「被告」という。)の職員であった亡E(以下「被災者」という。)が精神疾患を発症して自死したことについて、被災者の相続人である原告らが、被告に対し、国家賠償法1条1項又は民法415条に基づく損害賠償として、原告Aについて2490万3344円及びこれに対す- 2 - る被災者の死亡日である平成27年12月9日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの、以下同じ。)所定 として、原告Aについて2490万3344円及びこれに対す- 2 - る被災者の死亡日である平成27年12月9日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの、以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金、原告B、原告C及び原告D(以下「原告子ら」と総称する。)についてそれぞれ1872万1772円及びこれに対する前同様の遅延損害金の各支払を求める事案である。 2 前提事実以下の事実は、当事者間に争いがないか、後掲各証拠(特に断りがない限り、証拠番号には枝番号を含む。)又は弁論の全趣旨により認められる。 ⑴ 当事者等ア原告Aは、被災者の妻であり、原告子らは、いずれも被災者の子である(被災者に係る相続の法定相続分は、原告Aが2分の1、原告子らが各6分の1)。 被災者は、昭和45年1月22日生まれの男性であり、昭和63年4月1日、被告の臨時職員として採用され、平成4年4月1日、被告の正職員として採用された後、平成27年4月1日以降は係長を務めていたが、同年11月頃、気分障害を発症し、同年12月9日、被災者の自宅内で自死した。 イ被告は、普通地方公共団体である。 ⑵ 公務外認定処分取消訴訟の経過及び地方公務員災害補償法等による支給ア原告Aは、被災者の自死は公務上災害であるとして、地方公務員災害補償基金北海道支部長に対し公務災害認定請求をしたが、同支部長は、平成29年7月12日、公務外の災害と認定する処分(以下「公務外認定処分」という。)をした。 これに対し、原告Aは、地方公務員災害補償基金北海道支部審査会に対し審査請求をしたが、同審査会は、平成30年8月7日、同請求を棄却した。 - 3 - 原告Aは、平成30年9月13日、公務外認定処分の取消しを求める訴えを札幌地方裁判所に提起 部審査会に対し審査請求をしたが、同審査会は、平成30年8月7日、同請求を棄却した。 - 3 - 原告Aは、平成30年9月13日、公務外認定処分の取消しを求める訴えを札幌地方裁判所に提起した(平成30年(行ウ)第30号)が、同裁判所は、令和3年1月13日、被災者の気分障害発症が公務に起因するとは認められないとして、原告Aの請求を棄却した。 これに対し、原告Aは札幌高等裁判所に控訴した(令和3年(行コ)第6号)。同裁判所は、被災者に公務による強い負荷があったと認められること及び他に本件精神疾患の原因になり得る事情がうかがわれないことから、気分障害の発症及び自死が公務に起因すると認められるとして、公務外認定処分を取り消す旨の判決を言い渡し(以下「前件判決」という。)、その後、前件判決は確定した(以下、一連の訴訟手続を「前件訴訟」という。)。 イ前件判決の確定後、地方公務員災害補償基金は、地方公務員災害補償法に基づき、原告Aに対し、遺族補償年金1753万9233円及び葬祭費用122万8200円を支給した。 ウ原告Aは、イの金員のほか、地方公務員等共済組合法に基づく公務遺族年金として292万4265円、厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金として562万9352円、国民年金法に基づく遺族年金として225万9348円の支給を受けた。 ⑶ 被告の注意義務違反及び被災者の自死との因果関係ア被告は、被災者の使用者として、被災者に従事させる業務を定めて管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負っており、被災者に業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、被告が負う注意義務の内容に従い権限を行使すべき義務を負っていた。 イ被災者は、平成27年9月22日 損なうことがないよう注意する義務を負っており、被災者に業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、被告が負う注意義務の内容に従い権限を行使すべき義務を負っていた。 イ被災者は、平成27年9月22日から同年10月24日まで33日間連続して勤務し、その期間内である同年9月25日から同年10月24日ま- 4 - での30日間の時間外勤務時間は、109時間25分に及んだ。被災者が係長となった平成27年度の同係は、人員が削減された状態にあり、また、平成26年度から平成27年度にかけて同係の業務が遅滞している状態にあったこと等から、被災者に相当の負荷を与える状況にあった。(甲2の1)ウこのような状況にもかかわらず、被災者の上司として被災者の業務上の指揮監督を行う権限を有していた者らは、被災者へのサポートを特段しておらず、アの注意義務の履行がなされていなかったため(甲2の1、甲5、6)、被災者は気分障害を発症し、自死するに至った。 3 争点及び当事者の主張本件の争点は、損害額である。 【原告らの主張】⑴ 被災者の損害 9767万8821円ア逸失利益 6801万4560円被災者は、死亡当時45歳であり、雄武町職員の給与に関する条例(以下「給与条例」という。)に基づく職員の職務の級及び号俸は4級65号俸であった。被災者は、仮に自死をしていなかった場合、被告において勤務を続け、年次を重ねるにつれて号俸が増え、昇任することが見込まれていた。 被告の行政職員のうち、職務の級が4級で、かつ65号俸と同等又はより上位の号俸であった職員6名と、職務の級が5級又は6級であった職員18名の、計24名における給与の年間総支給額の平均額は738万1574円であり、同額を基 務の級が4級で、かつ65号俸と同等又はより上位の号俸であった職員6名と、職務の級が5級又は6級であった職員18名の、計24名における給与の年間総支給額の平均額は738万1574円であり、同額を基礎収入と見るのが相当である。 なお、仮に、被告が主張するように定年前後で基礎収入を区別するとしても、定年は65歳とすべきであり、基礎収入については、将来の収入増加の蓋然性や逸失利益として退職金の増額分を計上していないこと- 5 - を考慮すべきである。 被災者は、本件自殺当時、原告Aのほか、原告C及び原告Dを扶養していたから、生活費控除率は30%とするのが相当である。 被災者の67歳までの就労可能年数は22年であり、ライプニッツ係数は13.1630である。 よって、被災者の逸失利益は、次の計算式のとおり算出される。 (計算式)738万1574円×(1-0.3)×13.1630≒6801万4560円イ慰謝料 2800万円本件は交通事故のような突発的な不法行為事案とは事情を異にすること、被告の被災者に対する義務違反の態様が悪質であること等を考慮すると、慰謝料は2800万円を下らない。 ウ葬儀費用 166万4261円⑵ 原告Aの損害 2490万3344円ア被災者の損害の相続分(⑴の2分の1) 4883万9410円イ固有慰謝料 200万円本件は交通事故のような突発的な不法行為事案とは事情を異にすること、原告Aと被災者が平成4年10月22日に婚姻し、以来、20年以上にわたり連れ添ってきたこと、被告が被災者の死亡後長期間にわたり原告らに寄り添う姿勢を見せ 突発的な不法行為事案とは事情を異にすること、原告Aと被災者が平成4年10月22日に婚姻し、以来、20年以上にわたり連れ添ってきたこと、被告が被災者の死亡後長期間にわたり原告らに寄り添う姿勢を見せないまま、原告Aに前件訴訟の追行等の負担を強いてきたこと等を考慮すれば、慰謝料は200万円を下らない。 ウ損益相殺 ▲2918万4328円原告Aが支給を受けた年金等のうち、からまでは逸失利益の相続分から控除する。 については、同支給が対象とする損害と同性質であり、同一の事由の関係にあると肯定できる損害費目は、葬儀費用のみであるこ- 6 - とから、葬儀費用166万4261円のうち原告Aが賠償請求権を相続した83万2130円から控除する。 地方公務員災害補償基金からの遺族補償年金 1753万9233円地方公務員等共済組合法に基づく公務遺族年金 292万4265円厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金 562万9352円国民年金法に基づく遺族基礎年金 225万9348円地方公務員災害補償基金からの葬祭費用 122万8200円エ弁護士費用 324万8262円⑶ 原告子らの損害各1872万1772円ア被災者の損害の相続分(⑴の6分の1) 各1627万9802円イ弁護士費用各244万1970円【被告らの主張】⑴ 被災者の損害ア逸失利益基礎収入は、本件自殺の前年度の年収によるべきであるから、被災者の平成26年度の年収である669万8739円となる。 生活費控除率は争う。45歳の時点で扶養家族がいたとしても、その後、扶養状況は変化するため、 件自殺の前年度の年収によるべきであるから、被災者の平成26年度の年収である669万8739円となる。 生活費控除率は争う。45歳の時点で扶養家族がいたとしても、その後、扶養状況は変化するため、少なくとも60歳以降の生活費控除率は50%とすべきである。 イ慰謝料争う。被災者に本件精神疾患を発症する具体的な兆候が認められた上でこれを放置したというわけではなく、義務違反の悪質性が指摘される事案ではない。 ウ葬儀費用否認する。葬儀費用は150万円を上限とするのが裁判実務であり、これに従うべきである。 - 7 - ⑵ 原告Aの固有慰謝料争う。本件の事案の性質上、審理に期間や相応の労力を要することはやむを得ない側面がある。 ⑶ 損益相殺原告Aが支給を受けた額は認める。もっとも、地方公務員災害補償法に基づく葬儀費用として受領した金員を、原告Aの相続分と主張する葬儀費用からのみ控除する計算は否認して争う。 ⑷ 弁護士費用争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実のほか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ⑴ 被災者は、平成12年以降、死亡した平成27年まで、毎年1月1日に昇給していた。(甲3〔149~151頁〕)⑵ 被告において、職員の昇給は、直前1年間における勤務成績に応じて行われ(給与条例4条4項)、昇給の号俸数は、同期間の全部を良好な成績で勤務した職員を4号俸とすることが標準とされている(同条5項)ところ、被災者は、平成23年1月、平成24年1月、平成26年1月、平成27年1月のいずれにおいても4号俸の昇給とされていた。(甲3〔151頁〕)⑶ 被災者は、平成27年12月9日の死亡当時45歳であり、職員の職務の級及び号俸は、4級65号俸であった 6年1月、平成27年1月のいずれにおいても4号俸の昇給とされていた。(甲3〔151頁〕)⑶ 被災者は、平成27年12月9日の死亡当時45歳であり、職員の職務の級及び号俸は、4級65号俸であった。(甲3〔152頁〕)⑷ 被災者が死亡した平成27年当時、被告の行政職員のうち、職務の級が4級で、かつ、65号俸と同等又はより上位の号俸であった職員6名と、職務の級が5級又は6級であった職員18名の、計24名における給与の年間総支給額の平均額は738万1574円であった。(弁論の全趣旨)- 8 - 2 被災者の損害 8779万8195円⑴ 逸失利益 5829万8195円ア逸失利益は、将来の長期間にわたって取得することが想定される収入を基礎とするものであるから、客観的に相当程度の蓋然性をもって予測される収入の額を算出することができる場合には、その限度で損害の発生を認めるべきである。 平成27年12月9日の死亡当時、被災者の職務の級及び号俸は4級65号俸であったところ、被災者に予定されていた昇給の見込みを具体的に認定することは困難であるものの、普通地方公共団体の行政職員という職務の性質に加え、被災者の従前の昇給の経過からしてその勤務成績が良好であったと評価できること(認定事実、⑵)に照らすと、被災者死亡当時、被告において被災者と同等又はより上位にあった行政職員の給与の平均額である738万1574円を被災者の基礎収入とすることは合理的であり、相当と認められる。 イ被災者が、死亡当時、妻である原告A並びに子2名(原告C及び原告D)を扶養していたことは当事者間に争いがないところ、子2名は当時19歳と16歳であり(甲1)、その後被災者に扶養される期間は長くはなか 被災者が、死亡当時、妻である原告A並びに子2名(原告C及び原告D)を扶養していたことは当事者間に争いがないところ、子2名は当時19歳と16歳であり(甲1)、その後被災者に扶養される期間は長くはなかったと推認されるから、生活費控除率を40%とするのが相当である。 ウ就労可能年数は、死亡当時の年齢である45歳から67歳までの22年間であり、当該期間に対応するライプニッツ係数は13.1630である。 エしたがって、被災者の逸失利益は、次の計算式のとおり算出される。 (計算式)738万1574円×(1-0.4)×13.1630≒5829万8195円オなお、被災者の死亡当時、被告における定年は60歳と定められていたが(令和3年法律第63号による改正前の地方公務員法28条の2第2項、- 9 - 同年法律第61号による改正前の国家公務員法81条の2第2項参照)、これら改正により被告における定年が令和13年4月1日までに段階的に65歳まで引き上げられること(上記改正後の地方公務員法28条の6第2項、附則21項、上記改正後の国家公務員法81条の6第2項、附則8条参照)、原告らにおいて被災者が定年まで勤続した場合の退職金の増額分を逸失利益として主張していないことに照らすと、退職の前後を問わず上記基礎収入により逸失利益を算出するのが相当である。 ⑵ 慰謝料 2800万円被災者が長期間にわたり精神的負荷のかかる業務に従事し、その結果、精神疾患を発症して、家族を残しながら45歳で自死するに至ったこと、その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、(後記のとおり原告Aについて固有の慰謝料を認めるべきことを考慮しても)慰謝料は2800万円とするのが相当である。 ⑶ 葬儀費用 たこと、その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、(後記のとおり原告Aについて固有の慰謝料を認めるべきことを考慮しても)慰謝料は2800万円とするのが相当である。 ⑶ 葬儀費用 150万円原告らが被災者の葬儀に要した費用は166万4261円であったところ(甲11の2の「支出計」記載の金額から「香典返し(小島葬儀店)」記載の金額を控除した金額)、このうち150万円の範囲において、被告の注意義務違反と相当因果関係を認めるのが相当である。 3 原告Aの損害⑴ 被災者の損害の相続分(2分の1) 4389万9097円⑵ 固有慰謝料 100万円20年以上共に過ごしてきた夫が、仕事上の精神的負担に苦しみ、自ら命を絶ったこと、本件訴訟に至るまでの経緯等本件に現れた一切の事情を考慮すると、原告A固有の慰謝料を100万円とするのが相当である。 ⑶ 損益相殺 ▲2910万2198円ア地方公務員災害補償基金からの遺族補償年金 1753万9233円- 10 - イ地方公務員等共済組合法に基づく公務遺族年金 292万4265円ウ厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金 562万9352円エ国民年金法に基づく遺族基礎年金 225万9348円オ地方公務員災害補償基金からの葬祭費用 75万円地方公務員災害補償法に基づく葬祭補償は、通常葬祭に要する費用を考慮して政令で定める金額が支給されるものであり(同法25条1項7号、42条、同施行令2条の2参照)、目的が特定された補償金であることから、これをもって損益相殺的な調整を図ることのできる損害は、受給者たる原告Aの財産 金額が支給されるものであり(同法25条1項7号、42条、同施行令2条の2参照)、目的が特定された補償金であることから、これをもって損益相殺的な調整を図ることのできる損害は、受給者たる原告Aの財産的損害のうち葬祭費用に限られると解するのが相当である。 ⑷ 小計 1579万6899円⑸ 弁護士費用 157万9689円⑹ 以上によれば、原告Aは、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき、1737万6588円及びこれに対する被災者の死亡日である平成27年12月9日から支払済みまで民法所定の遅延損害金の支払を求めることができる。 4 原告子らの各損害⑴ 被災者の損害の相続分(6分の1) 1463万3032円⑵ 弁護士費用 146万3303円⑶ 以上によれば、原告子らは、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき、それぞれ1609万6335円及びこれに対する3と同様の遅延損害金の支払を求めることができる。 第4 結論よって、原告Aの請求は、1737万6588円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、原告子らの各請求は、それぞれ1609万6335円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、それぞれその限度で認容し、その余の請求は理由がないからいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。 - 11 - 札幌地方裁判所民事第1部 裁判長裁判官布施雄士 裁判官長峰志織 裁判官小松美 布施雄士 裁判官長峰志織 裁判官小松美

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