令和7年6月12日宣告令和6年(わ)第616号殺人、殺人未遂被告事件判決 主文 被告人を懲役23年に処する。 未決勾留日数中100日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、令和6年10月4日午後2時30分頃、北九州市a区大字bc番地dA採石場において、同所に立っていたB(当時51歳)及びC(当時61歳)に対し、殺意をもって、その身体に向けて自己の運転するダンプトラック(重量約72. 3トン、全長約10.3メートル、幅約6.9メートル、高さ約5.05メートル、タイヤの直径約2.7メートルの大型特殊自動車)を遅くとも時速約30キロメートルの速度で進行させ、さらに、普通乗用自動車に乗車して同所に臨場したD(当時50歳)に対し、殺意をもって、同人が乗車中の前記普通乗用自動車に向けて、自己の運転する前記ダンプトラックを加速させながら進行させて前記普通乗用自動車を轢過し、これらの一連の行為により、Bを前記ダンプトラックで轢過するなどして同人を胸腹部圧迫による多発外傷により死亡させ、Cについては同人が回避したため、Dについては直前に同人が前記普通乗用自動車から脱出したため、それぞれ殺害の目的を遂げなかった。 (法令の適用)罰条Bに対する殺人の点令和4年法律第68号441条1項により同年法律第67号2条による改正前の刑法(以下「旧刑法」という。)199条に該当 C及びDに対する各殺人未遂の点いずれも令和4年法律第68号441条1項により旧刑法203条、199条に該当科刑上一罪の処理刑法54条1項前段、10条(ただし、同条1項は旧刑法。1個の行為が3個の罪名に触れる場合であるから、1罪として犯情 号441条1項により旧刑法203条、199条に該当科刑上一罪の処理刑法54条1項前段、10条(ただし、同条1項は旧刑法。1個の行為が3個の罪名に触れる場合であるから、1罪として犯情の最も重いBに対する殺人罪の刑で処断)刑種の選択無期懲役刑を選択酌量減軽刑法66条、71条、旧刑法68条2号、14条1項未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)本件は、採石場において、ダンプトラックの運転に従事していた被告人が、前方に立っていた上司(班長、B)及び同僚(C)に向けてこれを加速進行させ、そこに駆けつけた現場監督(元請会社の課長、D)が乗車する自動車に向けて更に進行させ、上司1名を轢過するなどして殺害し、同僚と現場監督の2名については未遂にとどまったという事案である。 本件ダンプトラックは、重量70トン超、幅6メートル超、高さ5メートル超という巨大なものである。これで人を轢けば死亡させることは必至であり、現に、自動車2台(ランドクルーザープラド)ですら、これに轢かれて原型をとどめないほど潰れている。そのような車両を人に向けて加速進行させることは危険性が極めて高い行為である。しかも、被告人は、本件ダンプトラックを上司及び同僚に向けて進行させた後、左側に回避した同僚の姿に気づき、本件ダンプトラックを切り返した上で更に同人を狙って発進させ、その後に車体が一旦停止した際も後退させて更に前進させるなど、執拗に攻撃を試みている。その途中、現場監督の乗った自動車が前方に停車したにもかかわらず、同車に乗った者の生命を無視してこれを躊躇な く轢過している。これらの一連の被告人の行動をみると、より危険性の高い犯行態様であったとい 現場監督の乗った自動車が前方に停車したにもかかわらず、同車に乗った者の生命を無視してこれを躊躇な く轢過している。これらの一連の被告人の行動をみると、より危険性の高い犯行態様であったといえるし、被告人には強固な殺意があったといえる。 人命が喪われたという結果が取り返しのつかないものであることはいうまでもなく、遺族が被告人の重い処罰を求めているのも当然である。未遂にとどまった2名についても、紙一重で助かったにすぎないのであり、巨大なダンプトラックが間近に迫る恐怖を体験したことによって深刻な精神的苦痛を受けている。本件犯行によって生じた被害結果は重大である。 本件犯行の動機は、被告人が上司や同僚への不満をため込んでいた中で、怒りが爆発したことによるものと認められる。この点について、被告人は、平素より上司からパワハラ的な言動を受けていた、腰痛のためにダンプトラック運転の担当となっていたが、ユンボ担当の同僚が激しく砕石を積み込んでくることにストレスを抱えていた、本件犯行当日、同僚に無線で不満を言ったところ、それを聞いていた上司が現れ、停車するように無線で言われたため叱責されると思った、などと供述する。被告人の供述を前提とすれば勤務環境に係る勤務先との認識の齟齬などから被告人が不満をため込んでいた背景に同情の余地が全くないとはいえないが、勤務先も被告人の体調を考慮してダンプトラックの運転を担当させるなど勤務環境に配慮していた面もあるし、被告人がそのような不満を有していたことと、本件のような殺人行為に及ぶこととの間には飛躍がある。本件犯行を正当化する事情はおよそ見当たらず、動機や経緯の面を被告人に殊更に有利に考慮することはできない。 以上によれば、本件の犯情は非常に悪質であるというほかない。計画性のない犯行であること、被告人に前科がな 化する事情はおよそ見当たらず、動機や経緯の面を被告人に殊更に有利に考慮することはできない。 以上によれば、本件の犯情は非常に悪質であるというほかない。計画性のない犯行であること、被告人に前科がないこと、未遂にとどまった2名に損害賠償金として各150万円を支払ったこと、被告人が事実を認めて謝罪の言葉を述べていることなど、弁護人の挙げる事情を十分に考慮しても、被告人の刑事責任は重大である。 この種の事案の量刑傾向を踏まえて検討すると(知人・友人・勤務先関係に対する前科のない単独犯による殺人2件ないし4件のうち殺人既遂1件に限定したものを基礎とし、それに先立ち殺人罪の基本的な量刑を把握するためにこの種の殺人既 遂1件の資料を参照した。)、本件にふさわしい刑は殺人罪に対する有期懲役刑の法定刑の上限(懲役20年)にとどまるものではなく、前記のとおり法令を適用した上、主文の刑を科すこととする。 (検察官の求刑懲役28年、弁護人の科刑意見懲役13年)令和7年6月12日福岡地方裁判所小倉支部第1刑事部 裁判長裁判官三芳純平 裁判官安藤諒 裁判官大野志明
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