平成14(う)181 業務上過失致死,道路交通法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
平成15年7月15日 広島高等裁判所 広島地方裁判所 平成14(わ)415
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判決文本文11,594 文字)

主文 原判決を破棄する。 被告人を懲役2年に処する。 原審における未決勾留日数中80日をその刑に算入する。 理由 検察官の本件控訴の趣意は,検察官室田源太郎提出に係る控訴趣意書(広島地方検察庁検察官大森淳作成のもの)に,被告人の本件控訴の趣意は,弁護人山本一志作成の控訴趣意書にそれぞれ記載されているとおりであるから,これらを引用する。 検察官の論旨は,要するに,原判決は,被告人に対し,業務上過失致死罪の成立を認めたほか,被告人の認識について,車両火災のため左側路肩に停止していた被害車両に衝突した認識は認定できるものの,同車の右側直近に佇立していた被害者の存在を認識していたことについて,合理的な疑いが残るとして,救護義務違反を否定して,報告義務違反の成立のみを認めたが,本件における関係証拠を総合評価すれば,被告人が,衝突直前に被害者を発見し,かつ,自車を被害者に衝突させたことの認識は優に認定できるのであるから,原判決は,証拠の取捨選択ないし評価を誤り,不合理な推論に基づいて自白調書の信用性の判断を誤り事実を誤認したものである,というのである。 弁護人の論旨は,要するに,被告人を懲役1年6月に処した原判決の量刑は,不当に重い,というのである。 第1 検察官の論旨について 1 原審及び当審において取り調べた関係証拠によれば,以下の事実を認定することができる。 (1) 現場の道路状況,事故の発生時刻,天候本件交通事故の現場は,広島県佐伯郡大野町広島岩国道路の岡山方面から山口方面に向かう下り320.2キロポスト付近道路であり,緩やかに右にカーブしている。下り線の全幅員は約10.2メートル,走行車線及び追い越し車線の幅員はそれぞれ約3.6メート 国道路の岡山方面から山口方面に向かう下り320.2キロポスト付近道路であり,緩やかに右にカーブしている。下り線の全幅員は約10.2メートル,走行車線及び追い越し車線の幅員はそれぞれ約3.6メートル,左側路側帯の幅員は約2.1メートルである。 本件交通事故の現場は,指定速度80キロメートル毎時に規制されており,進路前方に視界を妨げる障害物はなかった。 本件交通事故の発生日時は,平成14年4月24日午前2時50分ころ(以下,平成14年の表記は省略する。)であり,当時,天候は小雨で路面は濡れていた。 (2) 被害車両の停車位置,破片等の散乱状況被害車両は,長さ8.46メートル,幅2.24メートル,高さ2.41メートルの普通貨物自動車であり,車両前部を山口方面に向け,後部荷台部分が焼毀した状態で左側路側帯に停車していた。そして,被害車両の停車位置付近から,前方に向け,マーカーレンズ,ミラー,ドアガーニッシュなどの車両の破損部品が多数散乱していた。また,付近の路面に車両のスリップ痕は認められなかった。 (3) 被害者の遺体等の状況被害者のA(当時43歳)は,被害車両の運転者であり,被害車両の前方約42.2メートルの走行車線のほぼ中央において,頭部はなく,胸部等の骨折,内臓や脳漿の脱出などの状態で,首部を山口方面に向け,うつ伏せの姿勢で倒れていた。 被害車両から,前方約21.1メートルの路上に繊維片ようのものが散乱し,前方約34メートル付近の路上には,人体の組織片が一帯に飛散し,脳漿ようのものが南東方向に向けて激しい勢いで飛散した状況が認められ,コンクリート壁に叩きつけられたように脳漿ようのものや,頭蓋骨片が付着,落下していた。そして,被害者の遺体から,前方約20.5メートルから約68.9メート 向けて激しい勢いで飛散した状況が認められ,コンクリート壁に叩きつけられたように脳漿ようのものや,頭蓋骨片が付着,落下していた。そして,被害者の遺体から,前方約20.5メートルから約68.9メートルの路上に,左靴,右靴,手袋1双及び帽子が遺留されていた。 (4) 被害車両の損傷状況被害車両は,荷台前部右側部分の焼失が激しく,車両右側面に後部方向から前部方向へ硬質物による擦過痕が顕著に認められた。すなわち,被害車両の右後輪外側タイヤは,ショルダー部が硬質物により裂かれた状態でパンクし,右側あおり外板は,最後部から前方への擦過痕が認められ,とりわけ,右後輪の上部付近の擦過痕が顕著であり,前部から8本目のあおり丁番ピンの部分には,後部方向から前部方向へ長さ約60センチメートルのアルミ製のものがくい込んでピンが脱落するなどしていた。 (5) 被告人車両の損傷状況,付着物の状況被告人車両は,長さ11.93メートル,幅2.49メートル,高さ3.76メートルの普通貨物自動車である。 本件交通事故の当日である4月24日及び5月1日に実施された実況見分によれば,被告人車両は,前部パネル左側,グリル,バンパー部及び助手席ドアが顕著に損傷し,左前側の前照灯,車幅灯,方向指示器及びフォグランプが破損,欠損していた。また,被告人車両の助手席ドア側のバックミラー,アンダーウインドガラス,ドアガーニッシュなどが脱落し,荷台パネルの左側側面の前部には,硬質物によりえぐられた損傷痕があり,金属製のピンが入り込んでいた。 また,被告人車両のフロントパネル左端,左前照灯グリル下部,フロントバンパー左寄り上部などの付近には,布目圧着痕などが認められた。5月1日に実施された実況見分の際には,フロントパネル左端付近の打突による破れ部分等に緑 ロントパネル左端,左前照灯グリル下部,フロントバンパー左寄り上部などの付近には,布目圧着痕などが認められた。5月1日に実施された実況見分の際には,フロントパネル左端付近の打突による破れ部分等に緑色ようの単繊維が,フロントグリル左側の破断部に青色ようの単繊維がそれぞれ付着しているのが認められた(なお,4月24日に実施された実況見分の際,フロントパネル左端付近の破損部分の状況について警察官による見分がなされているが,緑色ようの単繊維は発見されていないところ,その付着していた場所や状況からすると,その際はこれを見落としてしまい,5月1日に実施された詳細な実況見分において,これを発見するに至ったというのも,その経緯が殊更不自然とまではいえない。)。 4月24日に実施された実況見分の際には,被告人車両の後部燃料タンク,左シャーシ後部側面部,スペアタイヤに毛髪が付着しているのが認められ,5月1日に実施された実況見分の際にも,燃料タンクの底面のコック取り付けボルトの穴等に毛髪が付着しているのが認められた。 (6) 被害車両,被害者に対する視認状況本件交通事故現場での被害車両及び被害者に対する視認状況を,5月8日午前2時5分ころから午前4時23分ころまでにかけて,霧雨の天候状況で見分したところ,前照灯下向き(ロービーム)による照射実験では,約342メートル手前の地点で車のハザードランプ等をはっきりと見ることができ,約149.6メートル手前の地点で車らしきものがぼんやりと見え,約48.2メートル手前の地点で車がはっきりと見え,約52.2メートル手前の地点で車両の横に佇立する人らしきものが見え,約28.4メートル手前の地点で人をはっきりと見ることができた。 (7) 事故直前の被害車両,被害者の目撃状況本件交通事故の直前に トル手前の地点で車両の横に佇立する人らしきものが見え,約28.4メートル手前の地点で人をはっきりと見ることができた。 (7) 事故直前の被害車両,被害者の目撃状況本件交通事故の直前に,現場道路を通行した車両の運転者は,被害車両がテールランプかハザードランプを点灯して左側路側帯に停車し,荷台右側付近から出火しており,被害者が被害車両の後部から右側中央部付近で中腰になるなどして消火活動をしていた状況を目撃している。 (8) 被告人車両の走行状況被告人は,4月23日午後9時10分ころ,被告人車両を運転して福山市内から鹿児島市内の配達先に向けて出発し,山陽自動車道下り線を走行し,途中,小谷サービスエリア,奥屋パーキングエリアで停車して仮眠休憩し,翌24日午前2時15分ころ,奥屋パーキングエリアを出発した。被告人は,広島インターチェンジを過ぎた辺りから眠気を覚え,宮島サービスエリア付近で眠気が強くなったが,予定時間よりかなり遅れていたため,時速約70ないし80キロメートルの速度で前照灯を下向きにして走行車線を走行し続けた。そして,被告人は,本件交通事故現場の手前約871メートル付近で,眠気を覚ますためにタバコに火をつけて二,三回吸ってから,ハンドルを持った右手の指にタバコを挟みながら,被告人車両を運転し続けたが,仮睡状態に陥り,同日午前2時50分ころ,本件事故現場付近に差しかかった。 その後,被告人は,一旦はスピードを落としたものの,そのまま停車することなく走行を続け,途中,山陽自動車道下り347.1キロポスト先の玖珂インターチェンジ付近で停車し,被告人車両の破損状況を確認した後,運転を再開し,ワイパーが動かない状態になっていたが,そのままで走行を続け,同日午前10時40分ころ,鹿児島市内の配達先に到着した。 インターチェンジ付近で停車し,被告人車両の破損状況を確認した後,運転を再開し,ワイパーが動かない状態になっていたが,そのままで走行を続け,同日午前10時40分ころ,鹿児島市内の配達先に到着した。 2 被告人の捜査段階での自白の信用性について(1) 被告人は,4月24日午後11時37分ころ,本件の業務上過失致死及び道路交通法違反の罪により通常逮捕され,逮捕当初,居眠りをしたことが原因で車に衝突したとか,人を跳ねた事故ではなく,壁にぶつかった自損事故であると思っている旨供述していたが,同月29日,よく思い出してみると,ぶつかった相手は壁ではなく,車であったことに間違いない旨供述し始めた。そして,被告人は,5月3日,事故当時,居眠り運転をしていて,夢か現実か分からなかったけれど,路肩に止まっているトラックの横に人影らしいものを見た旨供述するに至り,それ以後の取調べにおいては,一貫して,概ね,一瞬,意識がない状態があったが,後方から大型車両と思われるクラクションが2回鳴り,はっと目が覚め,前を見ると路肩に車が止まっており,車の横に人が車の方を向いて前屈みになっているのを見た記憶が残っている旨供述していた。 (2) 被告人は,被害者が,服装までは分からないが,車の方を向いて前屈みになっていたなどと供述しているが,被告人の供述は,本件交通事故の直前に被害者を目撃した運転者の供述内容ともほぼ符合している。そして,被告人は,衝突及び轢過の状況について,大きな衝撃で相手に衝突し,右にはね返り,ぐにゅとしたもの,例えば,やわらかい粘土を踏んだ感じがし,直ぐに左に切り返したなどと供述しているが,その供述内容は具体的で,真に迫ったものといえる。さらに,5月4日付けの警察官調書(原審検第37号証)は,被害車両及び被害者と衝突した状況について,問答式で ぐに左に切り返したなどと供述しているが,その供述内容は具体的で,真に迫ったものといえる。さらに,5月4日付けの警察官調書(原審検第37号証)は,被害車両及び被害者と衝突した状況について,問答式で作成されている。 そして,被告人は,かなりの眠気を感じて,一瞬まぶたを閉じたこともあったというのであるが,他方で,タバコを吸うなどして眠気を覚まそうともしており,眠気を覚えてからも,本件事故現場付近まで,相当の距離にわたりガードレール等に衝突することもなく被告人車両を運転している。また,被告人車両及び被害車両の損傷状況などからすると,衝突時,被告人車両は自車の左側部分に相当強度の衝撃を受けて右方向にはね返ったと考えられるが,被告人は,直ぐにハンドルを操作して被告人車両の進路を元に戻して運転を継続している。さらに,被告人は,早い時期から原審公判に至るまで,衝突の直前,後続車両のクラクションで目を覚ました旨供述しており,この点の供述の信用性は高井ということができるところ,被告人が,一時的に仮睡状態に陥ったとはいえ,その程度は深いものではなく,しかも,衝突直前,後続車両のクラクションで仮睡状態から覚めて意識を回復していたと認めることができる。 そして,被告人立ち会いによる実況見分調書(原審検第5号証)によれば,被告人が,クラクションの音を聞いたのは,被害者から約20.1メートル手前の地点であるところ,被告人車両は時速約70ないし80キロメートルで進行していたから,被告人が目覚めてから衝突までの時間はわずかであったが,照射実験によると,同地点から被害者を視認することは十分可能である上,被害者は被告人車両のほぼ左前方にいたのであるから,被告人の視野に直ぐに入ってきたものと認められる。また,被告人は,衝突したのは壁ではなく,車であったなど ら被害者を視認することは十分可能である上,被害者は被告人車両のほぼ左前方にいたのであるから,被告人の視野に直ぐに入ってきたものと認められる。また,被告人は,衝突したのは壁ではなく,車であったなどと供述していた際に,相手方車両は,普通トラックで,キャビンは灰色,キャビンの上にビニールシートなどを載せる箱がついていた,キャビンの下に黒色の丸いものが見えていたなどと,被害車両の特徴を供述しており,そして,これは被害車両の実況見分を実施する以前であって,その信用性は高いところ,わずかの時間に,被害車両を目にして特徴を認識していることからすると,被害車両の側にいた被害者を発見することも十分に可能であったというべきである。 被告人は,捜査段階で自白したのは,警察官から被害者を見ていただろうと詰問され続けて追いつめられ,想像でもいいから話してみろと言われ,話しているうちに自分でもそうかなと思うようになったなどと供述するが,他方で,その供述内容は捜査官からの押しつけはないなどとも供述する。そうすると,被告人が自白するに至った理由として供述するところのものは,十分に納得しうるものではないし,被告人の供述には,被害者の姿勢や衝突及び轢過時の状況など,想像だけで供述するのは困難な内容が含まれており,しかも,供述した内容が客観的な事実と合致しているのであるから,その任意性はもちろんのこと,その信用性も十分であると認められる。 加えて,本件交通事故の衝突状況は,被害者車両及び被告人車両の損傷の部分や程度,被害者の遺体の轢過状況,路上の破片や遺留物の散乱状況などからすると,かなり激しい衝撃があり,軽微な接触衝突ではないことは,被告人においても,当然知り得たはずであるのに,被告人は,直ちに停車することなく,ワイパーも作動しないなど,被告人車両が相当 況などからすると,かなり激しい衝撃があり,軽微な接触衝突ではないことは,被告人においても,当然知り得たはずであるのに,被告人は,直ちに停車することなく,ワイパーも作動しないなど,被告人車両が相当の損傷を受け,走行にかなり危険な状況であったにもかかわらず,そのまま鹿児島市内まで運転を継続していることからすると,被告人は,本件交通事故が重大な人身事故であることを認識し,その発覚をおそれる余り,このような行動をとったとみることができる。 (3) 他方,被告人は,前記のとおり,逮捕当初は,壁と衝突した自損事故であると思っていた旨供述し,原審及び当審においても,同趣旨の供述をする。 しかしながら,後述するとおり,本件交通事故現場付近には,被告人車両の破損部分から落下したと考えられる多数の破片が散乱していたことからすると,被告人車両が本件交通事故現場付近の路上で衝突事故を起こしたことは明らかであるところ,付近には被告人が供述するようなコンクリート壁はないし,また,被告人車両にコンクリート壁との衝突により生じた痕跡を認めるに足りる証拠はない。さらに,被告人車両の損傷状況をみると,車両左側面のみならず,前面左側部分にも広範囲に凹損などの相当強度な損傷を受けていることに照らすと,被告人が,被告人車両を道路脇の壁に衝突させたと誤認するような状況であったとは考え難く,被告人の弁解は不自然といわざるをえない。 3 原判決の説示についての検討原判決は,被告人の捜査段階の供述経過について,被告人が人身事故を起こしたとする明白な事実を突きつけられ,誘導や強制がなくとも,捜査官から「このような状況であったのだから,こうではないか。」と言われると,そうかも知れないと思い,想像で答えてしまったとの弁護人の主張をむげに排斥することができない,と説示して 強制がなくとも,捜査官から「このような状況であったのだから,こうではないか。」と言われると,そうかも知れないと思い,想像で答えてしまったとの弁護人の主張をむげに排斥することができない,と説示している。しかし,被告人の当初の弁解は不自然なものである上,被告人の供述経過をみると,死亡,ひき逃げという重大な事故を引き起こし,その刑責の重大さをおそれた心境を素直に述べており,また,被告人は,捜査官から供述内容を押しつけられたことはない旨認めており,自己の記憶に反してまで,想像して供述する理由は見当たらない。また,その供述内容にも,前記のとおり,目撃者の供述内容とほぼ符合するものや,具体的で迫真的なものも含まれている。 原判決は,クラクションを聞いて我に返った被告人が,1秒足らずの間に人が通常いるはずのない高速道路上に人がいることが認識できたかどうかは疑問である,と説示している。しかし,前記のとおり,被告人は,一瞬意識もうろう状態に陥ったとしても,深い眠りの状態にあったわけではないから,クラクションを鳴らされて我に返り,停車していた被害車両とともに,被害者が目に入って気付いたとの供述が不自然とはいえない。 また,原判決は,被告人の検察官調書(原審検第45号証)によれば,被告人は,後方から大型車と思われるクラクションが鳴ったので我に返り,目が覚めると同時に激しく車と衝突し,目の前に被害者が路肩に止めた自分の車のほうに向いていたことが,ぼやっとした頭の中でも分かりましたと供述しているが,被害者と衝突した後に相手のトラックと衝突したとする実況見分調書(原審検第5号証)における被告人の指示説明と必ずしも一致しないから,被告人の捜査段階の自白には疑問が残る,というのである。原判決が指摘するとおり,被告人車両と被害車両及び被害者との衝突の順序 調書(原審検第5号証)における被告人の指示説明と必ずしも一致しないから,被告人の捜査段階の自白には疑問が残る,というのである。原判決が指摘するとおり,被告人車両と被害車両及び被害者との衝突の順序について,上記検察官調書における被告人の供述と実況見分調書における指示説明とは一致していない。そして,本件交通事故の直前,被害者が被害車両の右側面の中央付近にいるところを目撃されており,被告人車両の前部左側を被害者に衝突させていること,被害車両は右後輪部にも損傷を受けていることからすると,被告人車両が被害車両の後部右側面に衝突した後,被害者に衝突したと認められるが,被告人車両の速度,被害者の位置関係からすると,被害車両の後部右側面及び被害者との衝突は,ほとんど同時であったといえるのであるから,被告人が被害者と被害車両との衝突の先後について,その記憶が混乱していたとしてもさほど不自然とはいえない。また,被告人は,警察官調書(原審検第42号証)において,クラクションの音で目が覚め,約9.7メートル前方に被害者を認めた旨,上記実況見分調書における被告人の指示説明と同趣旨の供述をし,検察官調書(原審検第47号証)においても,前方にトラックが止まっており,その側の約9.7メートル前方に人らしい影を見たなどとの供述をしていることに照らすと,衝突直前,被害者を発見したとの被告人の自白の信用性は十分であるというべきである。 4 被告人の犯人性についての職権判断なお,弁護人は,弁論要旨において,被告人車両が被害者及び被害車両と衝突したとの点について,これを裏付けるに足りる物的な証拠はいずれも薄弱であって,被告人は無罪である,と主張し,職権による判断を求めている。 そこで,検討すると,関係証拠によれば,本件交通事故現場の付近道路には,マーカーレンズ けるに足りる物的な証拠はいずれも薄弱であって,被告人は無罪である,と主張し,職権による判断を求めている。 そこで,検討すると,関係証拠によれば,本件交通事故現場の付近道路には,マーカーレンズ,ミラー,ドアガーニッシュなどの車両の破損部品が多数散乱していたところ,現場に遺留されていたガラス片,プラスチック片等の多数の破片について,被告人車両の破損部分と照合したところ,被告人車両の左前照灯,左車幅灯,ドアガーニッシュ等の欠損部分と一致したこと,遺留破片は被告人車両あるいは被害車両のいずれか一方,あるいは双方に由来するものなどがあったが,他の車両に由来するとうかがわれるものはなかったこと,被告人車両の荷台パネルの左側側面の前部には,金属製のピンが入り込んでいたところ,このピンは被害車両の欠損していたあおり丁番ピンの形状と合致したことが認められる。 また,前記のとおり,被告人車両の前部左側付近には,複数か所に布目圧着痕などの人との衝突の痕跡が認められた上,鑑定結果書(当審検第9号証)等の証拠によれば,被告人車両のフロントパネル左端付近の損傷部分に付着していた単繊維や,フロントグリル左側の破断部に付着していた単繊維などの繊維付着物が,被害者が着用していた帽子,長袖シャツ,ズボンの構成繊維と同種のものであったことが認められる。さらに,前記のとおり,被告人車両の後部燃料タンク等には,毛髪が付着していたところ,鑑定結果書(当審検第11号証)及び鑑定書(当審検第12号証)によれば,これらの毛髪は,いずれも人頭毛であり,被害者の毛髪と形態学的特徴が非常によく類似しており,いずれも同一人に由来すると推測されること,毛髪の一部には,ヒトの組織片(表皮)が付着しており,その血液型はA型であり,被害者の血液型と一致することが認められる。 そうす 常によく類似しており,いずれも同一人に由来すると推測されること,毛髪の一部には,ヒトの組織片(表皮)が付着しており,その血液型はA型であり,被害者の血液型と一致することが認められる。 そうすると,弁護人がいろいろと指摘するところを考慮しても,被告人が被告人車両を運転して本件交通事故を引き起こしたことを優に認定することができるのであって,この認定に疑いをいれる余地はない。 5 結論そうすると,被告人が,衝突直前に被害者を発見し,被告人車両を被害者に衝突させたことを認識していたことを十分認定することができるのであって,原判決が,被害者を認識していたことについて合理的な疑いが残り,原判示第1の業務上過失致死の事実について,被告人が被害者に気づかないで自車を衝突させたと認定した上,原判示第2の報告義務違反については,これを認定することができるが,救護義務違反については証明がないとしたのは事実の誤認であり,被告人に対し救護義務違反を認定しなかった点は,事実の誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであるから,原判決は破棄を免れない。 検察官の論旨は理由がある。 よって,弁護人の量刑不当の論旨に対する判断を省略し,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄し,同法400条ただし書を適用して,当裁判所において更に判決する。 第2 自判部分(罪となるべき事実)被告人は,第1 平成14年4月24日午前2時50分ころ,業務として普通貨物自動車を運転し,広島県佐伯郡大野町広島岩国道路下り319.3キロポスト付近道路の走行車線を岡山県方面から山口県方面へ向かい時速約70ないし80キロメートルで進行中,過労などのため眠気を催し,前方注視が困難な状態に陥ったのであるから,直ちに運転を中止すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,直 面から山口県方面へ向かい時速約70ないし80キロメートルで進行中,過労などのため眠気を催し,前方注視が困難な状態に陥ったのであるから,直ちに運転を中止すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,直ちに運転を中止せず,漫然上記状態のまま運転を継続した過失により,そのころ,同町同道路320.2キロポスト先道路において仮睡状態に陥ったが,クラクションの音で目を覚まし,折から普通貨物自動車の車両火災のため前方左側路肩に停止し,同車右側直近に佇立していた同車運転手A(当時43歳)を前方約9. 7メートルに発見したものの,何らの措置を講ずる間もなく自車前部左側を同人に衝突させて轢過し,よって,同人に対し頭部,胸腹部損傷等の傷害を負わせ,そのころ同所において,同人を同傷害に基づく多臓器損傷により死亡させた,第2 前記日時場所において,自車を前記Aに衝突させ,同人に前記傷害を負わせる交通事故を起こしたのに,直ちに車両の運転を停止して同人を救護するなど必要な措置を講じず,かつ,その事故の発生日時及び場所等法律の定める事項を,直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかったものである。 (証拠の標目)(記載を省略する。)(法令の適用)罰条判示第1の所為について,刑法211条1項前段判示第2の所為のうち,救護義務違反の点について,平成13年法律第51号による改正前の道路交通法117条,72条1項前段,報告義務違反の点について,同法119条1項10号,72条1項後段科刑上一罪の処理判示第2の所為について,刑法54条1項前段,10条(重い救護義務違反の罪の刑で処断)刑種の選択いずれも懲役刑を選択併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(重い判示第1の罪の刑に法定の加重)未決勾留日数 段,10条(重い救護義務違反の罪の刑で処断)刑種の選択いずれも懲役刑を選択併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(重い判示第1の罪の刑に法定の加重)未決勾留日数の算入刑法21条(原審における未決勾留日数中80日をその刑に算入する。)訴訟費用の不負担刑訴法181条1項ただし書(原審分及び当審分について,被告人に負担させない。)(量刑の理由)本件は,被告人が普通貨物自動車を運転し,仮睡状態のまま走行して,被害者に衝突して死亡させ,発覚をおそれて現場から逃走した,というものである。 被告人は,過労運転をして強い眠気を感じ,正常な運転ができない状態にあったのに,寝過ごしたことによる遅れを取り戻すため,停車して休憩することなく運転を継続して,本件交通事故を引き起こしたものであり,職業運転手として基本的な注意義務を怠ったもので,その運転態度は危険であり,過失の程度はかなり大きい。本件交通事故により,被害者の尊い命が失われており,結果も重大である。さらに,被告人は,このような交通事故を引き起こしていながら,身勝手な理由で現場から逃走しており,その人命を軽視する態度は強い非難を免れない。 したがって,本件の犯情はよくなく,被告人の刑事責任を軽視することは到底許されない。 そうすると,被害者も高速道路の走行車線上に佇立していたもので,ある程度の落ち度があったことは否定できないこと,被告人車両には対人賠償5000万円の自動車保険がかけられており,被害者の遺族らに対する被害弁償がなされる見込みも高いこと,被告人には,交通違反歴はあるが,前科はないことなど,被告人のために酌むべき事情も認められるので,これら諸般の事情を考慮した上,主文のとおり量刑した。 よって,主文のとおり判決する。 平成15年7 人には,交通違反歴はあるが,前科はないことなど,被告人のために酌むべき事情も認められるので,これら諸般の事情を考慮した上,主文のとおり量刑した。 よって,主文のとおり判決する。 平成15年7月15日広島高等裁判所第一部裁判長裁判官久保眞人裁判官芦髙源裁判官島田一

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