平成28(ネ)1730 地位確認等請求控訴,同附帯控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成29年3月9日 東京高等裁判所 その他
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判決文本文29,340 文字)

- 1 -平成29年3月9日判決言渡平成28年(ネ)第1730号,同第3767号地位確認等請求控訴,同附帯控訴事件(原審・東京地方裁判所平成24年(ワ)第29263号) 主文 1 本件控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する。 2 控訴費用は控訴人の,附帯控訴費用は被控訴人の各負担とする。 事実 及び理由第1 当事者の求めた裁判 1 控訴の趣旨(1) 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。 (2) 前項の取消部分に係る被控訴人の請求を棄却する。 2 附帯控訴の趣旨(1) 原判決主文第5項を次のとおり変更する。 (2) 控訴人は,被控訴人に対し,1000万円及びこれに対する平成24年6月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 本件は,控訴人との間で労働契約を締結していた被控訴人が,控訴人に対し,控訴人による平成24年6月29日付け懲戒解雇(以下「本件懲戒解雇」という。)は無効であると主張して,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに,労働契約に基づき,平成24年7月1日から同月31日までの月例賃金の残金17万7500円及びこれに対する平成24年7月11日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金並びに同年8月1日以降の月例賃金,平成25年以降の賞与及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の各支払を求め,また,本件懲戒解雇は被控訴人に対する不法行為に当たると主張して, - 2 -民法709条に基づき,慰謝料1000万円及びこれに対する不法行為の日である平成24年6月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 原審は,被控訴人の本件訴 9条に基づき,慰謝料1000万円及びこれに対する不法行為の日である平成24年6月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 原審は,被控訴人の本件訴えのうち,原判決確定の日の翌日以降に支払期が到来する月例賃金及び賞与並びにこれらに対する遅延損害金の各支払請求に係る部分を却下し,地位確認請求を認容し,月例賃金及び賞与並びにこれらに対する遅延損害金の各支払請求(前記却下された部分を除く。)のうち月例賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を求める部分を認容し,賞与及びこれに対する遅延損害金の支払を求める部分を棄却し,慰謝料の支払請求を棄却したところ,控訴人が控訴し,被控訴人が慰謝料の支払を求めて附帯控訴した。したがって,当審における審理の対象は,被控訴人の地位確認請求,月例賃金(原判決確定の日の翌日以降に支払期が到来するものを除く。)及びこれに対する遅延損害金並びに慰謝料の支払請求の当否である。 2 前提事実,争点及びこれに関する当事者の主張は,次のとおり補正し,次項に当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」第2の1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。 (原判決の補正)⑴ 原判決10頁4行目の「(乙22)」を「なお,Z1は,Z1に対してされた前記決定について東京地方裁判所に取消訴訟を提起し,同裁判所は,平成28年9月1日,当該決定を取り消す旨の判決(以下「別件事件判決」という。)を言い渡した。(甲55,乙22)」と改める。 ⑵ 同11頁12行目の「ならない。」」を次のとおり改める。 「ならない。 (禁止行為)第32条営業社員は,次に掲げる行為のほか,金融商品取引法その他の法令又は,当社が加入する金融商品取引業協会若しくは金融商品取引所 - 」」を次のとおり改める。 「ならない。 (禁止行為)第32条営業社員は,次に掲げる行為のほか,金融商品取引法その他の法令又は,当社が加入する金融商品取引業協会若しくは金融商品取引所 - 3 -の定める諸規則に違反する行為を行ってはならない。 (中略)(13) 顧客との取引につき,顧客に対して法人関係情報を提供して勧誘する行為」」(3) 同15頁11行目冒頭から同行目末尾までを削り,同頁12行目の「(3)」を「(2)」と改める。 (4) 同26頁21行目冒頭から同27頁11行目末尾までを削り,同頁12行目の「(3) 争点(3)」を「⑵ 争点⑵」と改める。 3 当審における当事者の主張(控訴人の主張)(1) 第1懲戒事由についてア第1懲戒事由に当たる被控訴人の行為について第1懲戒事由は,被控訴人による未公表の法人関係情報の外部への伝達行為が,金融商品取引法38条8号の委任を受けて定められた金融商品取引業等に関する内閣府令(以下「金商業等府令」という。)117条1項14号に実質的に違反し,かつ,同号の趣旨を具体化した控訴人の社内規定に違反するものであり,そのため,控訴人の名誉又は威信が害されたことを根拠とするものである。すなわち,控訴人は,内部者取引管理に関する規程2条3号において,「上場会社等の運営,業務又は財産に関する公表されていない重要な情報であって,顧客の投資判断に影響を及ぼすと認めるもの等」を「法人関係情報」と定義した上で,営業社員規程第32条13号において,「顧客との取引につき,顧客に対して法人関係情報を提供して勧誘する行為」を禁じている。したがって,社外の者に対し未公表の法人関係情報を伝達することは,営業社員規程32条13号に違反し,就業規則42条20号に該当するだけではなく,金融 人関係情報を提供して勧誘する行為」を禁じている。したがって,社外の者に対し未公表の法人関係情報を伝達することは,営業社員規程32条13号に違反し,就業規則42条20号に該当するだけではなく,金融商品取引法38条8号,金商業等府令117条1項14号にも違反し,この点でも就業規則4 - 4 -2条20号に該当する。 以上のとおりであるから,第1懲戒事由の存否については,被控訴人が社外の者に対し未公表の法人関係情報を伝えたか否か,その結果として控訴人に与えた影響の程度が控訴人の名誉又は威信を傷つけたといえるか否かによって判断すべきである。 イ被控訴人による法人関係情報の取得について(ア) 一旦,金融商品取引業者等に帰属し,法人レベルで取得し,管理されるに至った法人関係情報について,当該金融商品取引業者等の他の役員・使用人が当該法人関係情報を取得したといえるためには,控訴人のように,情報遮断等の方法等により業務上不必要な部署に当該法人関係情報が伝わらないように情報隔壁が設けられるなど,組織上の手当てがされていた場合には,法人関係情報を最初に取得した者から積極的に伝達されるときに限らず,当該管理態勢の脆弱性を知って法人関係情報にアクセスしたり,法人関係情報の管理や取扱いの実態について情報を有している他の役員・使用人が法人関係情報を管理し又はそれに関連する使用人や部署に接触して収集した断片的な情報を取得した上でそれらを組み合わせたりすることによって,法人関係情報を認識することとなったときは,その者は,当該金融商品取引業者等に帰属する法人関係情報を取得したと解するのが合理的である。 そして,これを具体的な事実関係に適用するに当たっては,役員・使用人が,当該金融商品取引業者等の組織の内部において,特に法人関係情報との関わりに 人関係情報を取得したと解するのが合理的である。 そして,これを具体的な事実関係に適用するに当たっては,役員・使用人が,当該金融商品取引業者等の組織の内部において,特に法人関係情報との関わりにおいてどのような地位・立場にいたか,法人関係情報の管理態勢の実態,その者が法人関係情報の当該金融商品取引業者等における取扱いの実態をどの程度把握しており,具体的にどのような方法を用いて管理されている法人関係情報又はその一部にアクセスしたか,その結果どのような情報を得たのか,同様の地位・経験を有する者であ - 5 -ればそのようにして断片的に取得した情報から法人関係情報を再構成し得ると考えられるか等を総合的に勘案して,法人関係情報を取得したといえるかどうかを判断すべきである(以上につき,●●大学大学院法学政治学研究科Z2教授作成の意見書(乙46。以下「Z2意見書」という。))。 (イ) 本件においては,被控訴人がZ3やZ4から得た情報の内容,被控訴人が機関投資家営業のプロが集まる機関投資家営業○部に約2年半にわたって在籍し,周辺から集まる情報の収集・分析を日々行っておりこれに精通していたこと,Z5による本件公募増資の可能性は相当程度高いと認識していたこと,アナリストにあからさまにコメントの可否を確認し,募集担当者に休暇取得や機関投資家との食事予定の可否を何度も聞き,バリュエーションシートも確認していたこと等からすれば,被控訴人は,平成22年9月21日のZ3の発言をもって,本件公募増資に関する情報を知ったと評価することができる。したがって,少なくとも,同日に,Z3から被控訴人に対し本件公募増資に関する未公表の法人関係情報が伝わったことは明らかである。 また,被控訴人は,Z3から,Z5が本件公募増資の実施を決定した旨の法人関係情報の くとも,同日に,Z3から被控訴人に対し本件公募増資に関する未公表の法人関係情報が伝わったことは明らかである。 また,被控訴人は,Z3から,Z5が本件公募増資の実施を決定した旨の法人関係情報の伝達を受けていたところ,その実施公表に係る具体的な日付に関する情報は得られていなかったという状況であるから,この時点の被控訴人にとって,具体的な日付こそが本件公募増資に係る重要事実の核心部分であった。このような状況の下で,被控訴人は,Z4から,同月29日に何かがあるかもしれない,規模は大きいかもしれないなどと言われたのであるから,これにより,被控訴人は,本件公募増資が公表される具体的な日時を認識し,少なくとも相応の可能性を認識したことは明らかである。したがって,これにより,被控訴人が本件公募増資に関する未公表の法人関係情報を取得したことは明らかである。 - 6 -(ウ) なお,Z3と被控訴人の会話があった時点において,被控訴人が公募増資の可能性を質問したのはZ5とZ6のみであったところ,Z6は経営統合初年度の設立第1期の期中であり,有価証券届出書及び目論見書に従前の財務諸表を記載することができないため,実務上,このような経営統合初年度に公募増資が行われた例はなく,被控訴人もこのことを十分認識していた。したがって,被控訴人がZ3からZ5に関して否定も肯定もしないという回答を引き出した以上,本件公募増資に関する法人関係情報が伝わったと優に評価できる。 (エ) 被控訴人は,機関投資家との食事予定の可否についてZ4とやりとりをしたのは平成22年9月20日前後であり,Z4がイン登録をした同月24日より前のことであると主張するが,被控訴人自らが,原審において,機関投資家との食事予定の可否についてZ4に照会したのは同月22日から24日頃である 月20日前後であり,Z4がイン登録をした同月24日より前のことであると主張するが,被控訴人自らが,原審において,機関投資家との食事予定の可否についてZ4に照会したのは同月22日から24日頃であることを供述しているのであるから,その主張は失当である。 なお,Z1に対する課徴金納付命令を取り消した別件事件判決においては,被控訴人が,Z5が本件公募増資を実施すると決定したこと及びそれが同月29日に公表されることを知った事実はいずれも認められないとしているが,その判断は,同月24日のZ4のイン登録前に,被控訴人がZ4に対して機関投資家との食事の予定を入れることができるかどうかを問い合わせたといえるかどうかは明らかではないとの事実認定によるところが大きいと考えられる。しかし,前記のとおり,被控訴人自身が,同月22日から同月24日にかけて機関投資家との食事予定の可否をZ4に問い合わせたことを認める供述をしているのであるから,被控訴人がZ4に対し,同月22日から同月24日の間に同食事予定の可否を問い合わせ,これに対し,Z4から,その日は何かがあるかもしれない,規模が大きいかもしれないとの回答を得た事実が認定できるこ - 7 -とは明らかであって,前記の別件事件判決の事実認定は誤りといわざるを得ない。 (オ) 以上のとおり,被控訴人は,控訴人に帰属し,その管理下にあった未公表の法人関係情報を取得したものであることは明らかである。 ウ控訴人の名誉又は威信が傷つけられたことについて(ア) 未公表の法人関係情報が法人関係情報規制に違反して顧客に提供された場合には,未公表の法人関係情報に基づき実際に市場で取引が行われたこと,当該取引が内部者取引に該当すること,当該取引について証券取引等監視委員会の勧告が出されたという事実,さらに,当該勧 提供された場合には,未公表の法人関係情報に基づき実際に市場で取引が行われたこと,当該取引が内部者取引に該当すること,当該取引について証券取引等監視委員会の勧告が出されたという事実,さらに,当該勧告が報道されたという事実が加わるごとに,控訴人の信用毀損の程度は大きくなるのであり,本件においては,被控訴人から本件法人関係情報を取得したZ1が自らZ5の株式を売り付けるとともに,Z7のZ8に対しても本件法人関係情報を伝え,Z8もZ5株式を売り付けたのであり,この事実だけをもってしても,極めて厳格な情報管理を行うべき証券会社である控訴人の信用が深く毀損されたことは明らかである。仮に,前記Z1及びZ7の行為が内部者取引に該当しないとしても,当該取引について証券取引等監視委員会の本件勧告が出され,しかも,そのことが広く報道されたことは事実であるから,この点では控訴人の信用毀損の程度を増加させる重大な事情が存在したことは明らかである(Z2意見書)。 (イ) しかも,控訴人の名誉又は威信の毀損は,本件勧告及びその報道によるものに限られない。被控訴人の行為によって,控訴人の情報管理態勢の不備や,監督官庁による厳しい処分が予想されることまでが報道され,発行会社であるZ5による控訴人に対する批判,控訴人の親会社(Z9株式会社)の株価の低下,控訴人の株主総会における批判及び営業自粛などを招き,控訴人が主幹事証券会社として極めて厳密な情報管 - 8 -理態勢を構築していることに係る名誉,信用その他社会的評価は著しく毀損された。被控訴人の行為と,控訴人の主幹事会社としての極めて厳格な情報管理態勢の構築に係る社会的評価が失墜させられたこととの間には,相当因果関係がある。 (ウ) 本件勧告は,上記一連の経過の中では,それに伴い控訴人の情報管理態勢の不 事会社としての極めて厳格な情報管理態勢の構築に係る社会的評価が失墜させられたこととの間には,相当因果関係がある。 (ウ) 本件勧告は,上記一連の経過の中では,それに伴い控訴人の情報管理態勢の不備が社会的非難を受けたという因果の流れの中の1つの事実として意味を持つにすぎない。すなわち,未公表の法人関係情報の外部への伝達が,それ自体,法に違反する悪質な行為であり,これにより,控訴人の主幹事会社としての極めて厳格な情報管理体制の構築に係る社会的評価が失墜させられたことは明らかであるため,本件勧告の有効性は,第1懲戒事由に係る被控訴人の行為の違法性・有責性に何らの影響を及ぼすものではない。 (エ) なお,本件勧告及びこれについての報道は,被控訴人ではない第三者の行為であるから,本件勧告及びこれについての報道による控訴人の名誉又は威信の毀損について,被控訴人に帰責事由がなければならないとすることは誤りである。 ⑵ 金融商品取引法166条1項5号の解釈についてア金融商品取引法166条1項5号は,同号にいう会社関係者の属性として,同項2号,同号の2又は4号に掲げる者であって法人であるものの役員等であることを必要とし,かつ,当該役員等がその職務に関して重要事実を知ったと認められることを必要とし,さらに,その対象となる重要事実について,当該法人の他の役員等が同項2号,同号の2又は4号の定めるところによって知ったものであることを必要とするとして,構成要件の客観化,明確化が実現されている。したがって,同号の文言から離れてその適用範囲を限定すべきではなく,同号に該当するというために,法人の役員等が単にその者が職務の遂行上重要事実を知ったというのでは足りず, - 9 -当該契約の締結若しくはその交渉又は履行に関して他の役員等が知った重要事 く,同号に該当するというために,法人の役員等が単にその者が職務の遂行上重要事実を知ったというのでは足りず, - 9 -当該契約の締結若しくはその交渉又は履行に関して他の役員等が知った重要事実が法人内部でその者に伝わったということのできる場合でなければならないと解する必要はない。 なお,同条3項は明文で「伝達」を要件としているのに対し,同条1項5号は「伝達」を要件としていない。 イ法人の情報管理態勢は多種多様であり,法人の役員等の間で重要事実そのものが伝えられることなく,重要事実を推知させる情報が与えられたり,断片的な複数の重要事実に関する情報が複数部署をまたがって管理されたりすることも想定されるから,当該役員等が重要事実を認識した経緯が,単一の情報源から重要事実の主要部分を構成し若しくはその主要部分を認識し得る情報の伝達を受けたか,又は複数の情報源から断片的な情報を総合して認識したかにかかわらず,インサイダー取引規制の対象とすることが相当であり,同号の解釈に当たっても,複数の情報源から断片的な情報を総合して認識したときについても,「その者の職務に関し知ったとき」に当たるというべきである。 ウ金融商品取引法166条1項5号における「知った」の意義は,確定的な認識のみならず,未必的な認識にすぎない場合も含まれると解されている。したがって,同号にいう「重要事実を・・・知った」とは,「重要事実」の少なくとも投資者の投資判断に影響を及ぼすべき一部に該当する情報である「かもしれないと思」うという程度の認識を有することを意味し,かつ,それで足りる。 (3) 第2懲戒事由についてア被控訴人は,Z1に対し,複数の機会にわたり,情報端末を見ながら表示される顧客情報を次々と開示するという悪質な態様で,顧客情報を漏えいしていた。被 れで足りる。 (3) 第2懲戒事由についてア被控訴人は,Z1に対し,複数の機会にわたり,情報端末を見ながら表示される顧客情報を次々と開示するという悪質な態様で,顧客情報を漏えいしていた。被控訴人とZ1とはほぼ毎日のように会話していたのであるから,平成24年3月14日に行われた会話(原判決別紙(通話記録)5 - 10 -ないし9)だけがこのような顧客情報の漏洩に当たると解するのは不合理である。 イ被控訴人は,第2懲戒事由についても,弁解の機会は与えられていたし,実際にも,本件訴訟における主張と同様の弁明を行っていた。 (4) 本件懲戒解雇の相当性についてア第1懲戒事由について,被控訴人のZ1に対する未公表の法人関係情報の伝達により,控訴人の会社としての名誉,信用その他の社会的評価は,その存立を脅かしかねないほど著しく毀損されたものであり,被控訴人は,極めて厳密な情報管理を行うという機関投資家向け営業を行う部署の業務に従事する従業員として遵守すべき基本的義務に違反したことに鑑みると,被控訴人の「法令・諸規則,会社の諸規程・諸規則を遵守する姿勢及び過去の遵守状況」が著しく悪質であることは明白である。 イ第2懲戒事由について,金融機関である控訴人において,顧客情報の情報管理は最低限の基本的義務であるところ,当該義務に反する顧客情報の第三者への漏えいは,顧客の信頼を失墜させる行為であり,控訴人の会社としての存立を脅かしかねない事態である。被控訴人は,極めて重要な顧客情報を相当数漏えいし,極めて厳密な情報管理を行うという機関投資家向け営業を行う部署の業務に従事する従業員として遵守すべき基本的な義務に違反したものであり,機密情報に関する会社の規則に違反し,また,法令・諸規則,会社の諸規程・諸規則を遵守する姿勢及び過去の遵 家向け営業を行う部署の業務に従事する従業員として遵守すべき基本的な義務に違反したものであり,機密情報に関する会社の規則に違反し,また,法令・諸規則,会社の諸規程・諸規則を遵守する姿勢及び過去の遵守状況も著しく悪質であることは明白である。 ウしたがって,第1懲戒事由及び第2懲戒事由は,いずれも単独で被控訴人を控訴人という企業から排除する理由として相当であり,両事由を併せて考えると,被控訴人を控訴人という企業から排除することが相当であることは更に明白である。ゆえに,被控訴人に対して,就業規則43条1項7号に基づき本件懲戒解雇をしたことは相当である。 - 11 -エまた,控訴人は,被控訴人に対し,合計9回にわたり,被控訴人の自発性と任意性を尊重した事情聴取を行っているのであるから,懲戒解雇に至る手続についても相当性が認められる。 オなお,Z10の情報を漏えいしたZ11に対して処分が行われなかったのは,同人が自発的に控訴人を退職したからにすぎない。 (5) 普通解雇の意思表示について控訴人は被控訴人との雇用関係を解消したいとの意思を有しており,本件懲戒解雇に至る経緯に照らせば,本件懲戒解雇の意思表示には普通解雇の意思表示が内包されていると解すべきである。したがって,本件懲戒解雇が懲戒解雇として無効であるとしても,被控訴人との間の雇用契約は普通解雇により終了している。 仮に本件懲戒解雇の意思表示に普通解雇の意思表示が内包されていないとしても,控訴人は,平成28年7月14日の当審第1回口頭弁論期日において,予備的に,被控訴人に対し,普通解雇の意思表示をした。被控訴人には,就業規則42条11号,14号及び20号に定める懲戒事由があるため,被控訴人に対する普通解雇の意思表示が有効であることは明らかである。 (6) 民 人に対し,普通解雇の意思表示をした。被控訴人には,就業規則42条11号,14号及び20号に定める懲戒事由があるため,被控訴人に対する普通解雇の意思表示が有効であることは明らかである。 (6) 民法536条に関する主張について仮に,本件懲戒解雇が無効であるとしても,控訴人が本件懲戒解雇の意思表示をした時において証券取引等監視委員会による事実認定に誤りがあったことを知ることは極めて困難であったものであり,また,被控訴人の非違行為の内容からして,控訴人が懲戒解雇相当と判断したのも無理からぬものがあったといえるから,被控訴人に対する平成24年7月以降の月例賃金については,控訴人に被控訴人の労務の提供を拒絶することにつき「責めに帰すべき事由」(民法536条)がないため,控訴人は支払義務を負わない。 (7) 慰謝料請求について懲戒解雇が権利濫用に当たるため無効とされる場合であっても,直ちに不 - 12 -法行為となるわけではなく,懲戒解雇によって労働者に特段の精神的苦痛が生じた事実があるとしても,故意・過失,因果関係などの不法行為の成立要件が吟味されなければならないところ,仮に本件懲戒解雇が無効であったとしても,次のとおり不法行為は成立しない。 ア被控訴人には,懲戒事由に該当する軽視できない違反があったことが明らかであったために,本件懲戒解雇の処分をしたものであり,見せしめ的な処分を行ったものではない。 イ被控訴人は,Z12・レポートに対するコメントの可否自体をZ3に問うことによって,Z3がイン登録されたか否か確認すること自体を目的とする不適切な接触等をしているのであり,単なる通常業務としてアナリストに接触していたということはできない。 ウ被控訴人は,Z1に対し,平成22年9月の第5週に休暇を取ることができない旨 を目的とする不適切な接触等をしているのであり,単なる通常業務としてアナリストに接触していたということはできない。 ウ被控訴人は,Z1に対し,平成22年9月の第5週に休暇を取ることができない旨を伝えてその週に何らかの案件があることをほのめかし,複数の顧客の具体的な取引内容を次々に明らかにしているのであって,これは単なる噂や推測情報のやり取りとはいえない。 エ控訴人は,証券取引等監視委員会が調査に基づいて認定した事実が正しいと信じて本件懲戒解雇を行ったことは当然の前提としている。すなわち,本件においては,Z1のZ7に対するチャットの存在等,控訴人による調査が不可能な事実について,証券取引等監視委員会がその権限に基づいて調査し,把握していた。控訴人は,証券取引等監視委員会から開示されたこのような事実を前提として本件懲戒解雇を行ったものである。 また,本件調査委員会が調査報告書(乙15)を作成するに当たっては,特殊な事情から委員に開示できなかった情報があり,その記載のみから結論ありきで本件懲戒解雇を行ったものではない。 (被控訴人の主張)(1) 第1懲戒事由について - 13 -ア第1懲戒事由に当たる被控訴人の行為について(ア) 控訴人は,被控訴人が未公表の法人関係情報を外部へ伝達した行為が第1懲戒事由に当たると主張するけれども,控訴人は,以下のとおり,控訴人の名誉又は威信が失墜した原因として,証券取引等監視委員会の事実認定を前提とした勧告及びそれを受けた報道を挙げていた。そして,証券取引等監視委員会の事実認定では,被控訴人について,金融商品取引法166条1項に定める重要事実の伝達の有無が問題とされ,金商業等府令の定める法人関係情報の伝達は問題とされていないのであるから,第1懲戒事由の存否の検討においても,重要 訴人について,金融商品取引法166条1項に定める重要事実の伝達の有無が問題とされ,金商業等府令の定める法人関係情報の伝達は問題とされていないのであるから,第1懲戒事由の存否の検討においても,重要事実の伝達の有無が問題とされるべきである。 (イ) 懲戒解雇通告書(甲6)においては,被控訴人が未公表の法人関係情報を伝えたことを独立の事実として捉えず,証券取引等監視委員会の勧告を受け,報道されたことの契機として指摘しているにすぎない。 本件勧告の有効性如何が第1懲戒事由としての被控訴人の行為の違法性・有責性に影響を及ぼすことはないという控訴人の主張は,同書面の文言と食い違うものである。 (ウ) 就業規則42条に定める懲戒事由との関係では,同条10号の定める「服務基準に対する違反,または職場秩序を乱す行為のあったとき」又は同条16号の定める「違法行為あるいはその他の一般に認められている倫理基準に反する行為を行った場合」を懲戒事由として掲げていないのであるから,本件において,被控訴人による法人関係情報の伝達行為自体を問題にすることは,不適切である。 イ被控訴人による法人関係情報の取得について(ア) 控訴人が(控訴人の主張)⑴イ(ア)・(イ)で主張するところは,金商業等府令117条1項14号の文言から直ちに導かれる解釈ではなく,許されない拡張解釈である。同号は,法令違反行為として協会員に - 14 -対する外務員登録取消処分の前提となるものであり,同処分は,対象となった労働者に対し,5年にわたり金融商品取引業に従事することができなくなるという重大な不利益を与えるものであるから,その規制の要件及び効果が事前に明らかにされている必要がある。したがって,規制の根拠法令の文理を超えた拡張解釈は許されない。 そもそも,控訴人の主張する という重大な不利益を与えるものであるから,その規制の要件及び効果が事前に明らかにされている必要がある。したがって,規制の根拠法令の文理を超えた拡張解釈は許されない。 そもそも,控訴人の主張する「断片的な情報」については,それに該当するか否かの基準が不明であり,法人関係情報に該当しない情報がすべて「断片的な情報」に当たると解することは,規制範囲が無限定になるので,許されない。それ自体で法人関係情報に該当しない「断片的な情報」と市場の噂等を併せて「再構成することによって」形成された認識は,あくまで当人の推測にすぎない。また,控訴人の主張する具体的な判断基準についても,そのような判断基準を定める根拠は明らかではなく,被控訴人に対する処分を正当化するために,後から持ち出した判断基準でしかない。 (イ) Z3は,被控訴人によるZ12・レポートに対するコメントの求めやロンドンのプレゼンテーション用資料の送付の依頼に応じず,また,Z5の公募増資の可能性について尋ねる趣旨の質問に対しても,可能性は否定できない,やってもおかしくないと答えるにとどまっているのであるから,中立の立場を守っていたということができ,被控訴人はZ3から法人関係情報を取得していない。 (ウ) Z4との関係では,被控訴人は,Z4に平成22年9月27日の週の休暇取得の可否を尋ね,その週は忙しくなりそうであると言われ,また,同月20日頃,同月29日に機関投資家との食事の予定を入れることについて確認し,Z4から同日に何かがあるかもしれないと言われたものにすぎず,いずれも情報とすらいえないものである上,Z5とは何ら関係のないやりとりがZ4のイン登録前にされたにすぎない。 - 15 -また,被控訴人が,同月24日頃,Z4から同月29日に規模の大きな何かがあるかもしれない いものである上,Z5とは何ら関係のないやりとりがZ4のイン登録前にされたにすぎない。 - 15 -また,被控訴人が,同月24日頃,Z4から同月29日に規模の大きな何かがあるかもしれないと聞いていたとしても,Z1がZ8に第2チャットを送ったのは同月27日であり,それまで3日の間が空いていること,Z1とZ8はZ5の公募増資の可能性について懐疑的であり,Z8は同月27日にはZ5を買い戻していることからすれば,被控訴人からZ1に対して未公表の法人関係情報が伝達されていないことは明らかである。 (エ) 以上のとおり,Z3から被控訴人に対しては,Z5の公募増資についての法人関係情報は伝わっておらず,また,被控訴人は,Z4からZ5の公募増資の日時に関する情報の伝達を受けておらず,Z3に対しても通常の業務執行として接触していたにすぎないから,被控訴人が未公表の法人関係情報を取得したと評価することはできない。 (オ) なお,被控訴人が機関投資家との食事予定の可否についてZ4とやりとりをしたのは平成22年9月20日前後であり,Z4がイン登録をした同月24日より前のことである。被控訴人が原審において同月22日から24日の間に前記やり取りが行われたと主張したのは,休暇取得の可否についてのやりとりと混同したための誤りである。 ウ控訴人の名誉又は威信が傷つけられたか否かについて(ア) 控訴人が(控訴人の主張)⑴ウ(ア)において主張するところについては,被控訴人が提供した未公表の法人関係情報に基づいて実際に市場で取引が行われたという事実はなく,Z1の取引は内部者取引に該当せず,当該取引についてされた証券取引等監視委員会の本件勧告は誤りであるとして別件事件判決において取り消されており,本件勧告に係る報道自体も控訴人に帰責されるものではない。 取引は内部者取引に該当せず,当該取引についてされた証券取引等監視委員会の本件勧告は誤りであるとして別件事件判決において取り消されており,本件勧告に係る報道自体も控訴人に帰責されるものではない。 (イ) 控訴人の情報管理態勢に不備があるという報道がされたのは,本件だけではなく,Z13及びZ10の公募増資案件における控訴人の従 - 16 -業員の関与があったからであり,しかも,それら2件は,複数の運用会社が控訴人の従業員から情報提供を受けたことを認め,また,機関投資家営業一部の部長がインサイダー情報を得た上で,それを同部の従業員に漏えいしていたという事案であるから,主としてその2件が前記報道の原因である。控訴人においても,「改善策について」(乙23)で情報管理態勢に不備があったことを認め,機関投資家営業部以外でも自覚の欠如があったことを指摘するなど,控訴人の態勢そのものに問題があったのであるから,これらの報道は被控訴人自身に帰責されるべきものではない。 ⑵ 金融商品取引法166条1項5号の解釈についてア金融商品取引法166条1項5号の文言によれば,同号の「その者の職務に関し知ったとき」とは,当該法人の他の役員等が当該契約の締結若しくは交渉又は履行に関し重要事実を知った場合において,当該契約交渉等に携わっていない別の役員に対し当該重要事実が伝わったときを意味するとしか解釈できない。 イ控訴人は,金融商品取引法166条1項5号にいう「知った」とは未必的な認識で足りるとし,「重要事実」の少なくとも一部を「かもしれない」と思う程度に認識したことで足りるとする。しかし,重要事実の未必的な認識と推測とは次元の異なる認識であり,これを「かもしれない」という言葉で一括りにして論じることは,処罰範囲の無限定な拡大につながり,相当では 認識したことで足りるとする。しかし,重要事実の未必的な認識と推測とは次元の異なる認識であり,これを「かもしれない」という言葉で一括りにして論じることは,処罰範囲の無限定な拡大につながり,相当ではない。 (3) 第2懲戒事由について控訴人は,被控訴人が他の機会においても控訴人の端末を見ながら顧客の具体的な情報を次々に開示したと主張するが,通話記録は控訴人が所持しているはずであるにもかかわらず,証拠として提出されていない。 また,控訴人は,反訳書を提示するなど具体的な事実を提示した上で第2 - 17 -懲戒事由について弁明の機会を与えることをしておらず,その瑕疵は重大である。 さらに,控訴人は,上司及び同僚が被控訴人の発言を聞いていたはずであるにもかかわらず,注意・指導もないまま突然被控訴人を解雇したものである。 (4) 本件懲戒解雇の相当性についてア第1懲戒事由についてはそもそも懲戒事由が存在せず,相当性を論ずるまでもなく,これに基づく懲戒解雇は無効である。 イ第2懲戒事由については,控訴人が懲戒事由に該当すると主張する会話は,顧客情報漏えいには該当しないか,又は顧客情報の伝達そのものを目的としたものではないし,反復継続して行われたものでもなく,しかも控訴人は,被控訴人に対し何ら指導,注意等をすることなく,弁解の機会も与えずに懲戒解雇したものであり,相当性は認められない。 ウ控訴人の機関投資家営業○部の営業員であったZ11は,Z10の公募増資について,事前に重要事実を取得し,顧客に伝達していたにもかかわらず,何ら懲戒処分を受けていない。懲戒処分においては,同規定に同程度に違反した場合については,同程度の処分であることが必要とされるところ,被控訴人が本件懲戒解雇を受けたのは,平等取扱原則に反するもので 何ら懲戒処分を受けていない。懲戒処分においては,同規定に同程度に違反した場合については,同程度の処分であることが必要とされるところ,被控訴人が本件懲戒解雇を受けたのは,平等取扱原則に反するものであり,懲戒権を濫用したものとして無効である。 (5) 普通解雇の意思表示について普通解雇と懲戒解雇とは本質を異にし,また,その根拠・要件・効果が異なるのであるから,懲戒解雇の意思表示に普通解雇の意思表示は包含されず,また,意思表示の転換を認めると,労働者の地位は著しく不安定になるのであるから,許されない。 (6) 民法536条に関する主張について証券取引等監視委員会による事実認定に誤りがあっても控訴人がこれを認 - 18 -識するのは困難であったとの主張は,証券取引等監視委員会の勧告が正確であったか否かを考慮要素とすることは誤りであるとの控訴人の前記主張と矛盾している。 また,第1懲戒事由はそもそも存在せず,第2懲戒事由も悪質なものではなく,控訴人による指導・注意及び弁明の機会の付与がないのであるから,懲戒解雇がわずかに不相当な場合には該当しない。 (7) 慰謝料請求についてア懲戒解雇が無効とされる場合において,①使用者の行為に悪質性が認められるとき,②客観的合理的理由が欠けているのに敢えて解雇に及んだときや使用者が解雇理由として主張する内容が事実に基づくものとは認められないとき,③解雇が労働組合に対する嫌悪等の不当な動機に基づくとき等,賃金の支払によってもなお償うことができない「特段の精神的苦痛を生じた事実」があるときは,労働者に使用者に対する慰謝料請求が認められるべきである。 本件においては,次のような事情があるから,慰謝料請求が認められるべきである。 イ Z5の本件公募増資に関して,同時期にZ5株の きは,労働者に使用者に対する慰謝料請求が認められるべきである。 本件においては,次のような事情があるから,慰謝料請求が認められるべきである。 イ Z5の本件公募増資に関して,同時期にZ5株の売りを推奨した従業員はほかにも多数存在していたのに,処分を受けたのは被控訴人だけである。 これは,控訴人の情報管理態勢に対する社会的批判が噴出したため,これを抑えるために被控訴人のみを見せしめに懲戒解雇したものである。 ウ控訴人において,機関投資家営業部の営業員は,誰でもアナリストと直接連絡を取ることができ,担当セクターのバリュエーションシートの提供を求めること等も通常業務として行われていたことである。また,休暇取得の可否を管理することは,会社の方針として機関投資家営業部全体を通じて実施しており,被控訴人が独断で行ったものではなく,営業員が募集担当者に休暇取得の可否を尋ねることは日常的なやり取りの一つにすぎな - 19 -い。機関投資家との食事予定の可否についても,機関投資家営業部においては,事前に日程調整のため募集担当者に可否を確認することが通常行われていた。さらに,顧客とのやり取りにおいて,他の機関投資家の情報や特定の銘柄・取引状況についての情報を交換することは,他の営業員も日常的に行っていた。 エ控訴人においては,「改善策について」(乙23)で認めているとおり,同僚や顧客との間で噂や推測情報のやり取りをすることは禁止されておらず,当たり前のように行われていた。 オ控訴人は,本件懲戒解雇は,証券取引等監視委員会の事実認定に則って行われたものではなく,被控訴人自身が未公表の法人関係情報を取得し,これを第三者に伝達したこと自体を捉えたものであると主張している。そうであれば,控訴人が証券取引等監視委員会の事実認定が正しいと信頼し われたものではなく,被控訴人自身が未公表の法人関係情報を取得し,これを第三者に伝達したこと自体を捉えたものであると主張している。そうであれば,控訴人が証券取引等監視委員会の事実認定が正しいと信頼して本件懲戒解雇を行ったことを不合理ということはできないという理由は成り立たないし,控訴人自身の調査報告書(乙15)によっても,控訴人が認定した事実は,「何らかの方法により」被控訴人がイン情報を知り,Z1に伝達したというあいまいなものにすぎない。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,被控訴人の本件請求のうち,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに月例賃金(原判決確定の日の翌日以降に支払期が到来するものを除く。)及びこれに対する遅延損害金の支払を求める部分は理由があり,慰謝料の支払を求める部分は理由がないと判断する。その理由は,次のとおり補正し,次項に当審における当事者の主張に対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」第3の2,3及び5に記載のとおりであるから,これを引用する。 (原判決の補正)⑴ 原判決28頁12行目の「2」を「1」と改める。 - 20 -(2) 同29頁12行目の「乙23」を「乙15,23」と改める。 (3) 同29頁21・22行目の「甲44」の次に「,乙15」を加える。 (4) 同32頁4行目の「同月下旬頃」を「同月22日から24日までの間に」と改める。 (5) 同34頁6行目末尾の次に改行の上,以下を加える。 「2 事実認定の補足説明⑴ 前記1⑵クの認定中,被控訴人がZ4に平成22年9月29日に機関投資家との食事の予定を入れることの可否を確認した時期に関し,被控訴人は同月20日前後であったと主張し,被控訴人の質問調書(乙30)には,その時期は9月下旬頃である旨の記載があり,同 月29日に機関投資家との食事の予定を入れることの可否を確認した時期に関し,被控訴人は同月20日前後であったと主張し,被控訴人の質問調書(乙30)には,その時期は9月下旬頃である旨の記載があり,同調書の作成に係る証券取引等監視委員会による聴取があった後に作成されたメモ(乙16の1,2)には,「9/20前後に9/29のDinnerを入れるとしたら募担から大きなものがあるかもといわれた。」との記載がある。 (2) しかし,被控訴人本人尋問の結果及び同人作成の陳述書(甲37)中には,その時期は同年9月22日から24日までの間であった旨の供述ないし記載があるのであり,特に,被控訴人本人尋問においては,被控訴人は,前記質問調書には同年9月下旬と記載されているのに,陳述書(甲37)には同年9月22日ないし24日の間と記載されている理由について,控訴人が設置した第三者委員会の調べの中でいろいろなメールを見せられて記憶がよみがえってきて,陳述書(甲37)のとおり記載したものである旨供述しているのであり,これらについて特段不自然不合理な点はない。そうすると,前記(1)の被控訴人の質問調書(乙30)及びメモ(乙16の1,2)の記載は,これらの被控訴人本人の供述及び同人作成の陳述書の記載に照らし,採用することができず,他に,前記1(2)クの認定を左右するに足りる証拠はない。」(6) 同35頁2行目の「もっとも」から同頁12行目末尾までを次のとおり - 21 -改める。 「 もっとも,第1懲戒事由は,被控訴人が社外の者に未公表の法人関係情報を伝え,受領者がそれをもとにインサイダー取引を行ったことを前提とし,このような事実に関して,本件勧告,すなわち,金融商品取引法166条1項5号所定の会社関係者である被控訴人が,被控訴人の職務に関し知った重要 者がそれをもとにインサイダー取引を行ったことを前提とし,このような事実に関して,本件勧告,すなわち,金融商品取引法166条1項5号所定の会社関係者である被控訴人が,被控訴人の職務に関し知った重要事実をZ1及びZ7に伝達し,Z1及びZ7が当該重要事実の伝達を受けてZ5株の売買をしたことが同条3項に違反するとして,Z1及びZ7に対する課徴金納付命令を発出するよう勧告がされ,これが報道されたことが,控訴人の名誉又は威信を傷つけたとするものであるから,本件勧告の前提となった事実が事実であるか否かについて検討する必要がある。」(7) 同36頁3行目の「いうべきである」から同頁6行目の「解すべきである」までを「いうべきであるが,その者がその者の職務に関し知ったといえる限りは,重要事実の伝達ないし流出の方法や経路は問わないものと解される」と改める。 (8) 同38頁14行目の「認識した」を「推測するようになった」と改める。 (9) 同38頁15行目の「もっとも,」の次に「被控訴人は,同日,顧客2社の各担当者に対して,Z5の売りを推奨するとの電子メールを送付したが,その理由として,Z5は1兆円の海外投資を公表したが,格付けを維持するためのエクイティファイナンスリスクがあり,デットエクイティレシオ(自己資本比率)は,他の電力セクターのZ14,Z15と比較しても非常に低いことを挙げている(乙31)。そして,」を加える。 (10) 同38頁25行目の「上記説明」の次に「及びその説明内容は被控訴人の前記電子メールの内容と齟齬するものでないこと」を加える。 (11) 同39頁4行目の「認識」を「推測」と改める。 (12) 同39頁10行目の「その後,原告は」を「また,被控訴人は,同月 - 22 -22日から24日までの間に」と改める。 (13 (11) 同39頁4行目の「認識」を「推測」と改める。 (12) 同39頁10行目の「その後,原告は」を「また,被控訴人は,同月 - 22 -22日から24日までの間に」と改める。 (13) 同40頁12行目冒頭から同42頁8行目末尾までを次のとおり改める。 「ウ以上によれば,被控訴人は,同月21日の時点で,Z5の公募増資の可能性が相対的に高まったと推測するようになり,同月27日,Z1に対して,同月29日の可能性がある案件について,依然としてZ5の公募増資のような気がするという趣旨を伝えたものであるが,被控訴人が同月8日から同月14日までの間にZ3を含む控訴人の従業員らに接触したこと(認定事実(2)ウ・オ)は,被控訴人が前記のように推測するようになったことに影響を与えたものとは認められず,同月21日のZ3との会話(同(2)キ)については,被控訴人の前記推測に影響を与えなかったものとはいえないが,Z3の発言はZ5の公募増資の可能性を否定も肯定もしないという趣旨のものであったと解されることは前記イ(エ)判示のとおりであって,これによって,被控訴人に本件情報が伝わったものとは認めるに足りないというべきである。 エ次に,被控訴人とZ4との接触についてみると,被控訴人が同月29日に機関投資家との食事の予定を入れることの可否について確認したところ,Z4から,同月29日に何かがあるかもしれない,規模は大きいかもしれないなどと言われた時期は,同月22日から24日までの間であったところ(認定事実⑵ク),Z4が本件情報の伝達を受けてイン登録をしたのは同月24日であり,両者の先後関係を裏付ける的確な証拠はない。なお,被控訴人は,Z1に案件は同月29日らしいように思われること等を同月27日午前10時29分頃に伝えている(認定事実(3)オ) たのは同月24日であり,両者の先後関係を裏付ける的確な証拠はない。なお,被控訴人は,Z1に案件は同月29日らしいように思われること等を同月27日午前10時29分頃に伝えている(認定事実(3)オ)が,そのことから直ちに被控訴人がZ4から同月29日に何かがあるかもしれないなどと聞いたのがZ4のイン登録後のことであったと推認することはできない。他方,報告書(乙15)には,「Z4が平 - 23 -成22年9月24日のイン登録前にZ5の公募増資に関するイン情報を取得していたと認めるだけの明らかな証拠は見出すことができなかった(Z4はイン登録によりZ5の公募増資を初めて認識した旨供述している。)。」との記載があり,これによれば,Z4は,イン登録前には本件公募増資についての情報を有していなかったと認められ,また,Z4は被控訴人からは飲み会の設定可否についても細かく聞かれることがあり,Z4としては被控訴人からの問合せには情報が漏れないよう警戒をしていたことが認められる(乙24)のであるから,Z4が,イン登録後に,Z5の本件公募増資が予定されていることを念頭に置いて,被控訴人に対して,同月29日に何かがあるかもしれない,規模は大きいかもしれないと回答することは,容易には考え難いというべきであり,このことをも考慮すれば,被控訴人がZ4から同月29日に何かがあるかもしれないなどと聞いたのがZ4のイン登録の後のことであったとは認めるに足りないというほかない。したがって,Z4の発言によって,本件情報又は本件公募増資の実施公表の日が同月29日であることが被控訴人に伝わったものと認めることはできない。 なお,仮に被控訴人がZ4から同月29日に何かがあるかもしれないなどと聞いたのがZ4のイン登録の後のことであったとしても,Z4の発言は,当該案件の主体 訴人に伝わったものと認めることはできない。 なお,仮に被控訴人がZ4から同月29日に何かがあるかもしれないなどと聞いたのがZ4のイン登録の後のことであったとしても,Z4の発言は,当該案件の主体については全く触れられておらず,発言内容から当該案件の主体がZ5であることを推測することが可能であったとは解されないのであり,これによって,本件情報が被控訴人に伝わったものとも認められないというべきである。 以上のとおりであり,被控訴人がZ4から本件情報又は本件公募増資の実施公表の日が同月29日であることの伝達を受けたものとは認めるに足りない。 なお,被控訴人は,同月27日,Z1に対して,案件は同月29日ら - 24 -しいように思われることを携帯電話のメッセージで伝え,依然としてZ5のような気がすると携帯電話で話したことについては,前記認定のとおりであるところ,これについては,被控訴人が同月27日までの間にZ5の公募増資の噂を聞いたり,複数の情報を総合して被控訴人自身がそのように推測するに至ったものとみる余地があるのであって,被控訴人がZ1にこのような情報を伝えたことをもって,被控訴人が同月21日の時点でZ3との会話によって得た情報と,同月27日の週の休暇取得の可否や同月29日の機関投資家との食事予定の可否についてのZ4の発言とを組み合わせることにより,本件情報又は本件公募増資の実施公表の日が同月29日であるとの情報が被控訴人に伝わったものとも認めるに足りないというべきである。」(14) 同42頁9行目の「そして,」の次に「前記アないしエにおいて認定説示したところに照らせば,同月21日以前の被控訴人とZ3との接触,同日の被控訴人とZ3との会話,同月22日ないし24日の被控訴人とZ4との休暇取得や機関投資家との食事予定に関 ないしエにおいて認定説示したところに照らせば,同月21日以前の被控訴人とZ3との接触,同日の被控訴人とZ3との会話,同月22日ないし24日の被控訴人とZ4との休暇取得や機関投資家との食事予定に関するやり取りを併せ考えても,控訴人の内部において被控訴人に重要事実である本件情報又は本件公募増資の実施公表の日が同月29日であるとの情報が伝わったものとは認められず,」を,同行目の「本件情報」の次に「又は本件公募増資の実施公表の日が同月29日であるとの情報」をそれぞれ加える。 (15) 同43頁12行目の「被告」から同頁14行目の「さておき,」までを削る。 (16) 同43頁16行目冒頭から同44頁9行目末尾までを次のとおり改める。 「 (ウ) よって検討するに,第1懲戒事由にいう「法人関係情報」とは,内部者取引管理に関する規程にいう「上場会社等の運営,業務又は財産に関する公表されていない重要な情報であって,顧客の投資判断に影響 - 25 -を及ぼすと認められるもの」(前記前提事実(2)ア)を指すものと解されるところ,第1懲戒事由は,被控訴人が「社外の者に対し未公表の法人関係情報を伝え,受領者がそれをもとにインサイダー取引を行なったとして証券取引等監視委員会の勧告を受け,報道された」というものであるから,ここにいう法人関係情報は,前記アないしカにおいて検討したところの「重要事実」と同内容のものを指すと解するほかない。そして,被控訴人が控訴人の内部において本件情報又は本件公募増資の実施公表の日が同月29日であるとの情報を伝えられたものと認められないことは前示のとおりであるから,被控訴人が第1懲戒事由にいう「未公表の法人関係情報」を取得したものと認めることはできないのであり,したがって,被控訴人が「社外の者に対し未公表の法人関係情報 られないことは前示のとおりであるから,被控訴人が第1懲戒事由にいう「未公表の法人関係情報」を取得したものと認めることはできないのであり,したがって,被控訴人が「社外の者に対し未公表の法人関係情報を伝え」たとの事実も認められないというほかない。 そして,前示のとおり,本件において,被控訴人は,証券会社の営業員として不適切といわざるを得ない行為をしたものであり,また,当該行為が本件勧告発出のきっかけになったことも明らかであるが,第1懲戒事由にいう「社外の者に対し未公表の法人関係情報を伝え,受領者がそれをもとにインサイダー取引を行なった」との事実が認められない以上,被控訴人の行為によって,控訴人の名誉又は威信を傷つけたと評価することもできないというべきである。」(17) 同52頁4行目の「5 争点(3)」を「4 争点(2)」と改める。 2 当審における当事者の主張について(1) 第1懲戒事由についてア控訴人は,金融商品取引業者等に帰属し,管理されるに至った法人関係情報について,役員・使用人が,その管理態勢の脆弱性を知って法人関係情報にアクセスするなどして収集した断片的な情報を取得した上で,それらを組み合わせたりすることによって,法人関係情報を認識することとな - 26 -ったときは,その者は当該金融商品取引業者等に帰属する法人関係情報を取得したと解するのが合理的であり,具体的には,その者の地位・立場,金融商品取引業者等における法人関係情報の管理態勢の実態,その者がどのような方法を用いて法人関係情報にアクセスし,どのような情報を得たのか,同様の地位・経験を有する者であればそのようにして断片的に取得した情報から法人関係情報を再構成し得ると考えられるか等を総合的に勘案すべきであるとし,本件においては,被控訴人がZ3やZ4 を得たのか,同様の地位・経験を有する者であればそのようにして断片的に取得した情報から法人関係情報を再構成し得ると考えられるか等を総合的に勘案すべきであるとし,本件においては,被控訴人がZ3やZ4から得た情報の内容,被控訴人が機関投資家営業○部に約2年半在籍し,情報の収集・分析に精通していたこと,Z5による公募増資の可能性は相当程度高いと認識していたこと,アナリストにあからさまにコメントの可否を確認し,募集担当者に休暇取得や機関投資家との食事予定の可否を何度も聞き,バリュエーションシートも確認していたこと等からすれば,被控訴人は,平成22年9月21日のZ3の発言をもって,本件情報を知ったと評価することができ,また,Z4の発言により,本件公募増資が公表される具体的な日時を認識し,少なくとも相応の可能性を認識したことは明らかであるから,被控訴人が未公表の法人関係情報を取得したということができると主張する。 しかし,被控訴人について,Z3に対するバリュエーションシートの送付の依頼やZ5に関するコメントの可否の確認等を行ったことにより9月16日の時点でZ5の公募増資の可能性についての判断に影響を与えるような情報を得ることができたとは認められないこと,同月21日のZ3との会話においても,本件情報が伝わったとは認められないこと,Z4との休暇取得や機関投資家との食事予定の可否についての会話によっても,本件情報又は本件公募増資の実施公表の日が同月29日であるとの情報が伝わったとは認められないこと,さらに,同月21日以前の被控訴人とZ3との接触,同日の被控訴人とZ3との会話,同月22日ないし24日の被 - 27 -控訴人とZ4との休暇取得や機関投資家との食事予定に関するやり取りを併せ考えても,控訴人の内部において,重要事実である本件情報又 被控訴人とZ3との会話,同月22日ないし24日の被 - 27 -控訴人とZ4との休暇取得や機関投資家との食事予定に関するやり取りを併せ考えても,控訴人の内部において,重要事実である本件情報又は本件公募増資の実施公表の日が同月29日であるとの情報が被控訴人に伝わったとは認められないことは,前記1説示のとおりである。法人関係情報の取得の判断方法に関する控訴人の主張を考慮しても,前記1説示の判断を左右するものとはいえない。 なお,控訴人は,同月21日のZ3との会話があった時点において,被控訴人が公募増資の可能性を質問したのはZ5とZ6のみであったところ,Z6については,経営統合初年度の期中であったから,実務上公募増資は行われず,被控訴人もそのことを認識していたから,被控訴人がZ3からZ5に関して否定も肯定もしないという回答を引き出した以上,Z5の公募増資に関する情報が伝わったと優に評価できると主張する。しかし,前記1において認定したところによれば,被控訴人は,同月14日まではZ6の公募増資の可能性があると考えていたのであり,同月21日の時点で,Z6について実務上公募増資は行われないことを被控訴人が認識していたものとは認められず,控訴人の指摘する事情があるからといって,Z5に関して否定も肯定もしないというZ3の態度から,Z5の公募増資に関する情報が伝わったものと認めることはできない。 したがって,控訴人の主張は採用することができない。 イ控訴人は,第1懲戒事由の存否については,被控訴人が社外の者に対し未公表の法人関係情報を伝えたか否か,その結果として控訴人に与えた影響の程度が控訴人の名誉又は威信を傷つけたといえるか否かによって判断すべきであり,本件勧告の有効性は,第1懲戒事由に係る被控訴人の行為の違法性・有責性に何らの影響 か,その結果として控訴人に与えた影響の程度が控訴人の名誉又は威信を傷つけたといえるか否かによって判断すべきであり,本件勧告の有効性は,第1懲戒事由に係る被控訴人の行為の違法性・有責性に何らの影響を及ぼすものではないと主張する。 しかし,被控訴人が社外の者に対し未公表の法人関係情報を伝えたとの事実が認められないこと,したがって,被控訴人について第1懲戒事由に - 28 -係る被控訴人の行為が就業規則42条11号所定の懲戒事由に該当するとは認められないことは,前記1説示のとおりである。控訴人の主張は採用の限りではない。 (2) 金融商品取引法166条1項5号の解釈についてア控訴人は,金融商品取引法166条1項5号にいう「その者の職務に関し知ったとき」の解釈について,当該契約の締結若しくはその交渉又は履行に関して他の役員等が知った重要事実が法人内部でその者に伝わったということのできる場合でなければならないと解する必要はないと主張する。 しかし,同号の文理上,他の役員が上場会社等との契約の締結若しくはその交渉又は履行に関して重要事実を知ったことと無関係に,その者の職務に関して重要事実を知った場合をも含むものと解するのは相当ではないから,控訴人の主張は採用の限りではない。 イまた,控訴人は,当該役員等が重要事実を認識した経緯が,単一の情報源から重要事実の主要部分を構成し若しくはその主要部分を認識し得る情報の伝達を受けたか,又は複数の情報源から断片的な情報を総合して認識したかにかかわらず,インサイダー取引規制の対象とすることが相当であり,金融商品取引法166条1項5号の解釈に当たっても,複数の情報源から断片的な情報を総合して認識した場合についても,「その者の職務に関し知ったとき」に当たると主張する。 しかし,平成22年 あり,金融商品取引法166条1項5号の解釈に当たっても,複数の情報源から断片的な情報を総合して認識した場合についても,「その者の職務に関し知ったとき」に当たると主張する。 しかし,平成22年9月21日以前の被控訴人とZ3との接触,同日の被控訴人とZ3との会話,同月22日ないし24日の被控訴人とZ4との休暇取得や機関投資家との食事予定に関するやり取りを併せ考えても,控訴人の内部において被控訴人に本件情報又は本件公募増資の実施公表の日が同月29日であるとの情報が伝わったとは認められないことは,前記1説示のとおりであり,控訴人の前記主張を考慮しても,前記判断を左右するものとはいえない。 - 29 -ウさらに,控訴人は,金融商品取引法166条1項5号における「知った」の意義は,確定的な認識のみならず,未必的な認識にすぎない場合も含まれ,「重要事実」の少なくとも投資者の投資判断に影響を及ぼすべき一部に該当する情報を「かも知れないと思」うという程度の認識を有することを意味し,かつそれで足りるとも主張する。 しかし,金融商品取引法166条1項5号における「知った」には,確定的な認識のみならず,未必的な認識も含まれるものと解されるとしても,本件において,控訴人の内部で重要事実が被控訴人に伝わったとは認められず,そうすると,被控訴人がその職務に関し重要事実を知ったとして金融商品取引法166条1項5号に該当すると認めることができないことは,前記1説示のとおりである。控訴人の主張は,前記判断を左右するものではない。 (3) 第2懲戒事由についてア控訴人は,被控訴人は,Z1に対し,複数の機会にわたり,情報端末を見ながら表示される顧客情報を次々と開示するという悪質な態様で,顧客情報を漏えいしていたものであり,被控訴人とZ1とはほぼ いてア控訴人は,被控訴人は,Z1に対し,複数の機会にわたり,情報端末を見ながら表示される顧客情報を次々と開示するという悪質な態様で,顧客情報を漏えいしていたものであり,被控訴人とZ1とはほぼ毎日のように会話していたのであるから,平成24年3月14日に行われた会話だけがこのような顧客情報の漏洩に当たると解するのは,不合理であると主張する。 しかし,被控訴人の固定電話機によるZ1との会話が録音されており,そのうち平成24年3月8日から同月23日までのものが保存されており,その内容が原判決別紙(通話記録)記載のとおりであること,そのうち,複数の顧客の具体的な取引内容を次々と明らかにするという態様のものは,原判決別紙(通話記録)5ないし9のもののみであったことは前示のとおりであり,このような態様の情報漏洩が他にも複数の日に反復継続して行われたと認めるに足りる的確な証拠はない。 - 30 -イまた,控訴人は,被控訴人は,第2懲戒事由についても,弁解の機会は与えられていたし,実際にも,本件訴訟における主張と同様の弁明を行っていたと主張するけれども,被控訴人の陳述書(甲37)によれば,被控訴人は,Z16弁護士から「Z17の顧客情報を漏えいしていますね。」という質問をされたのに対し,「そのようなことはないと思います。」と答えたにすぎず,顧客情報の漏えいについての具体的内容が示されたものではないから,実質的な弁明の機会が与えられたとは認められない。控訴人の主張は採用することができない。 (4) 本件懲戒解雇の相当性について控訴人は,第1懲戒事由及び第2懲戒事由はいずれも単独で被控訴人を控訴人という企業から排除する理由として相当である旨主張するが,第1懲戒事由については,就業規則42条11号及び20号所定の懲戒事由に該当す は,第1懲戒事由及び第2懲戒事由はいずれも単独で被控訴人を控訴人という企業から排除する理由として相当である旨主張するが,第1懲戒事由については,就業規則42条11号及び20号所定の懲戒事由に該当するものとは認められず,第2懲戒事由については,その一部(本件会話)が同条14号及び20号所定の懲戒事由に該当するものと認められるものの,本件会話を懲戒事由として懲戒処分の中で最も重い懲戒解雇処分を行うことは重きに失することが明らかである上,手続的にも妥当性を欠くものであって,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認めることができず,懲戒権を濫用したものとして無効であるというべきであることは,前記1説示のとおりである。控訴人の主張は採用することができない。 (5) 普通解雇の意思表示についてア控訴人は,本件懲戒解雇の意思表示には,普通解雇の意思表示が内包されているから,本件懲戒解雇が懲戒解雇として無効であるとしても,被控訴人との間の雇用契約は普通解雇により終了していると主張する。 しかし,懲戒解雇は,就業規則上企業秩序違反に対する制裁罰として規定されており,普通解雇とは制度上区別されているのであるから,当然に本件懲戒解雇の意思表示に普通解雇の意思表示が予備的に包含されている - 31 -ということはできないし,また,本件懲戒解雇に係る辞令書(甲6)にも,「懲戒規定に基づき懲戒解雇に処す」との記載がある一方,予備的にも普通解雇の意思表示をする旨の記載は認められないのであるから,本件懲戒解雇の意思表示に普通解雇の意思表示が内包されているものとは認められない。 イまた,控訴人は,平成28年7月14日の当審第1回口頭弁論期日において,予備的に,被控訴人に対し,普通解雇の意思表示をし,被控訴人には,就業規則42条11号, れているものとは認められない。 イまた,控訴人は,平成28年7月14日の当審第1回口頭弁論期日において,予備的に,被控訴人に対し,普通解雇の意思表示をし,被控訴人には,就業規則42条11号,14号及び20号に定める懲戒事由があるため,被控訴人に対する普通解雇の意思表示が有効であることは明らかであると主張する。 本件においては,被控訴人の行為に第2懲戒事由に該当する行為があったことは前記1説示のとおりであり,被控訴人の経歴や,社内における地位(アシスタントのコーポレートタイトルを付与)に照らすと,相応の評価ないし処遇上の不利益を受けることはやむを得ない。しかし,そのことを考慮しても,前記予備的普通解雇の意思表示は,本件懲戒解雇から4年以上が経過した後に,その効力が争われた本件訴訟の控訴審に至って初めてなされたものであること,前記1及び前記(3)イで認定のとおり,第2懲戒事由に関連する顧客情報の漏えいについては,注意や指導及び弁明の機会が被控訴人に与えられていないこと,控訴人が設置した調査委員会の作成に係る「改善策について」(甲23)によれば,機関投資家営業部においては,「多くの増資案件につき社内に未公表の重要情報が存在することについての認識が甘かった」,「法人関係情報を推測させる情報が社員間の会話,チャット機能の利用,待機指示などの業務指示,部長の言動などによって拡散していた」,「個別銘柄のファイナンス予想を行い,各人の情報発信に役立てることが当たり前のように行われていた」等の記載があることからすると,当時の機関投資家営業部においては,未公表の法人 - 32 -関係情報の適切な取扱いを確保するための体制が確立されていなかったという組織的な問題があり,これを被控訴人個人の問題として控訴人から排除するのは酷ともいえること は,未公表の法人 - 32 -関係情報の適切な取扱いを確保するための体制が確立されていなかったという組織的な問題があり,これを被控訴人個人の問題として控訴人から排除するのは酷ともいえることなど,本件に顕れた事情の下では,被控訴人に対する普通解雇について,客観的に合理的な理由があるものとは認められず,社会通念上相当であるとも認められないのであり,普通解雇は権利の濫用として無効といわざるを得ない。 (6) 民法536条に関する主張について控訴人は,仮に,本件懲戒解雇が無効であるとしても,本件懲戒解雇の意思表示をした時において証券取引等監視委員会による事実認定に誤りがあったことを知ることは極めて困難であり,また,被控訴人の非違行為の内容からして,控訴人が懲戒解雇相当と判断したのも無理からぬものがあったといえるから,被控訴人に対する平成24年7月以降の月例賃金について,被控訴人の労務の提供を拒絶したことにつき控訴人に「責めに帰すべき事由」(民法536条2項)がないため,控訴人は支払義務を負わないと主張する。 しかし,被控訴人について,第1懲戒事由に係る被控訴人の行為が就業規則42条11号所定の懲戒事由に該当するとは認められないことは,前記1説示のとおりであり,また,前記1において認定説示したところに照らせば,第1懲戒事由に関し,控訴人による事実の把握には誤りがあり,そのことについて,控訴人の責めに帰すべき事由がなかったとはいえないのであるから,本件は,「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったとき」に当たらないものとはいえず,控訴人の主張は採用の限りではない。 (7) 慰謝料請求について被控訴人は,本件懲戒解雇は,被控訴人のみを見せしめ的に処分したものであること,控訴人においてアナリス たらないものとはいえず,控訴人の主張は採用の限りではない。 (7) 慰謝料請求について被控訴人は,本件懲戒解雇は,被控訴人のみを見せしめ的に処分したものであること,控訴人においてアナリストとの接触は禁止されていなかったこと,控訴人において噂や推測情報のやり取りは禁止されていなかったこと等 - 33 -の事情を指摘して,賃金の支払によってもなお償えない「特段の精神的苦痛を生じた事実」が認められるから,慰謝料請求が認められるべきであると主張する。 しかし,被控訴人には第1懲戒事由に関連して著しく不適切な行為があり,また,第2懲戒事由にも軽視することができない違反行為が含まれていたのであり,被控訴人に相応の処分を受けること自体はやむを得ないといえる事情があったこと,また,控訴人は,証券取引等監視委員会がその権限に基づいて調査をした結果認定した事実が正しいものと信じて本件懲戒解雇を行ったものと解することができ,当時の控訴人の判断それ自体が,不自然,不合理なものであったとまでは認められないこと,そして,本件において第1懲戒事由に係る被控訴人の行為が控訴人の主張する懲戒事由に該当するとは認められないことの結果として,控訴人による懲戒解雇処分が無効と評価されるとしても,そのことから直ちに,本件懲戒解雇が不当な意図に基づく見せしめの処分であったと認めることはできず,ほかに控訴人に不当な意図を認めるに足りる的確な証拠はないことは,前記1で認定説示したとおりである。 被控訴人の主張は採用することができない。 3 よって,原判決は相当であって,本件控訴及び附帯控訴はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第14民事部 裁判長裁判官後藤 博 裁判官大須賀 本件控訴及び附帯控訴はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 主文 東京高等裁判所第14民事部 裁判長裁判官後藤博 裁判官大須賀寛之 裁判官南部潤一郎

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