- 1 -平成22年(受)第2035号求償金請求事件平成24年5月29日第三小法廷判決 主文 原判決中上告人敗訴部分を破棄する。 前項の部分につき,本件を広島高等裁判所に差し戻す。 理由 上告代理人平松敏男ほかの上告受理申立て理由(第1を除く。)について 1 本件は,交通事故の被害者との間で締結した自動車保険契約に基づき,上記被害者の相続人に対して保険金を支払った被上告人が,上記交通事故の加害者である上告人に対し,上記相続人の上告人に対する自動車損害賠償保障法3条に基づく損害賠償請求権を代位取得したとして,損害賠償金の支払を求める事案である。上記保険金は,上記保険契約に適用される普通保険約款中の人身傷害補償条項に基づいて支払われたものであるところ,被上告人が代位取得する上記損害賠償請求権の範囲が争われている。 2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。 (1) Aは,平成18年5月12日午後11時30分頃,横断歩道の設けられていない道路を横断しようとした際,前方注視を怠って上記道路を進行してきた上告人が運転する普通貨物自動車に衝突されて,胸部外傷,頭部外傷,全身打撲の傷害を負い,同月13日,死亡した(以下,この事故を「本件事故」という。)。 本件事故における過失割合は,Aが35%であり,上告人が65%である。 (2) Aの妻及び3名の子ら(以下「Aの相続人ら」という。)は,Aの上告人- 2 -に対する損害賠償請求権を相続により取得した。 (3) Aは,本件事故当時,被上告人との間で,人身傷害補償条項のある普通保険約款(以下「本件約款」という。)が適用される自動車保険契約を締結しており,上記条 害賠償請求権を相続により取得した。 (3) Aは,本件事故当時,被上告人との間で,人身傷害補償条項のある普通保険約款(以下「本件約款」という。)が適用される自動車保険契約を締結しており,上記条項に係る被保険者であった。 (4) 本件約款中の人身傷害補償条項には,要旨,次のような定めがあった。 ア被上告人は,日本国内において,自動車の運行に起因する事故等に該当する急激かつ偶然な外来の事故により,被保険者が身体に傷害を被ることによって被保険者又はその父母,配偶者若しくは子が被る損害に対し,保険金を支払う。 イ被上告人は,被保険者の故意又は極めて重大な過失(事故の直接の原因となり得る過失であって,通常の不注意等では説明のできない行為(不作為を含む。)を伴うものをいう。)によって生じた損害に対しては,保険金を支払わない。 ウ被上告人の支払う保険金の額は,本件約款所定の基準により算定された金額の合計額(以下「人傷基準損害額」という。)から,自動車損害賠償保障法に基づく責任保険から支払われた金員等の既払額を控除した額とする。 エ保険金請求権者が他人に損害賠償の請求をすることができる場合には,被上告人は,その損害に対して支払った保険金の額の限度内で,かつ,保険金請求権者の権利を害さない範囲内で,保険金請求権者がその他人に対して有する権利を取得する(以下「本件代位条項」という。)。 (5) 被上告人は,平成19年11月27日,本件約款中の人身傷害補償条項に基づき,Aの相続人らに対し,保険金として,Aに係る人傷基準損害額から自動車損害賠償保障法に基づく責任保険から支払われた金員等の既払額を控除した金員を支払った。 - 3 - 3 原審は,被上告人が代位取得するAの相続人らの上告人に対する損害賠償請求権の範囲につき,Aに係る 賠償保障法に基づく責任保険から支払われた金員等の既払額を控除した金員を支払った。 - 3 - 3 原審は,被上告人が代位取得するAの相続人らの上告人に対する損害賠償請求権の範囲につき,Aに係る人傷基準損害額に35%の過失相殺をした金員から上記の既払額等を控除した271万8206円と判断し,被上告人の請求をその限度で認容した。 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 本件約款中の人身傷害補償条項の被保険者である被害者に交通事故の発生等につき過失がある場合において,上記条項に基づき被保険者が被った損害に対して保険金を支払った被上告人は,本件代位条項にいう「保険金請求権者の権利を害さない範囲」の額として,被害者について民法上認められるべき過失相殺前の損害額(以下「裁判基準損害額」という。)に相当する額が保険金請求権者に確保されるように,上記支払った保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が裁判基準損害額を上回るときに限り,その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得すると解するのが相当である(最高裁平成21年(受)第1461号・第1462号同24年2月20日第一小法廷判決・民集66巻2号登載予定参照)。 そして,裁判基準損害額は,人傷基準損害額よりも多額であるのが通例であり,その場合は,被上告人が代位取得する上記損害賠償請求権の範囲は,原審の上記の認容額よりも少額となるから,原審の上記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そこで,以上の見地に立って更に審理を尽くさせるため,上記部分につき,本件を原審に差し戻すこととする。 すことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そこで,以上の見地に立って更に審理を尽くさせるため,上記部分につき,本件を原審に差し戻すこととする。 - 4 -よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官田原睦夫の補足意見がある。 裁判官田原睦夫の補足意見は,次のとおりである。 私は法廷意見に与するものであるが,本件約款に関し,以下のとおり補足意見を述べる。 法廷意見のとおり,本件約款の下で保険会社が代位取得する損害賠償請求権の範囲を裁判基準損害額を基準として算定すべきであるとする場合には,裁判基準損害額は,人傷基準損害額よりも多額であるのが通例であるから,被害者に過失があるときは,被害者は人傷基準損害額よりも多額の塡補を受けることができることになる。 ところが,本件約款上,支払われる保険金は,算定される人傷基準損害額から保険金請求権者が賠償義務者から既に取得した損害賠償金の額等を差し引くこととされているから,本件約款による限り,過失のある被害者が加害者から既に過失相殺により差し引かれるべき金額以上の損害賠償金の支払を受けている場合には,被害者は人傷基準損害額の範囲でしか塡補を受けられないことになる。 このように,同一の約款の下で,保険金の支払と加害者からの損害賠償金の支払との先後によって,被害者が受領できる金額が異なることは決して好ましいことではない。また,この点は,代位の範囲を人傷基準損害額を基準として算定すべきであるとの説の論拠とされていたものである。 ところで,当審として,人身傷害補償条項に基づき保険金を支払った保険会社が代位取得する損害賠償請求権の範囲は,裁判基準損害額を基準として算定すべきであると解した以上,保険金の支払と加害者から 。 ところで,当審として,人身傷害補償条項に基づき保険金を支払った保険会社が代位取得する損害賠償請求権の範囲は,裁判基準損害額を基準として算定すべきであると解した以上,保険金の支払と加害者からの損害賠償金の支払との先後によっ- 5 -て被害者が受領することができる金額が異ならないように,現行の保険約款についての見直しが速やかになされることを期待するものである。 (裁判長裁判官大谷剛彦裁判官田原睦夫裁判官岡部喜代子裁判官寺田逸郎)
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