主文 原判決を破棄する。 本件を広島地方裁判所に差し戻す。 理由 本件控訴の趣意は,検察官見越正秋提出(検察官山舖弥一郎作成)の控訴趣意書に記載されているとおりであり,これに対する答弁は,弁護人田中千秋作成の答弁書に記載されているとおりであるから,これらを引用する。 論旨は,要するに,(1)被害者A(以下「A」という。)に対する殺人の公訴事実について,殺意を否定して,傷害致死罪が成立するにすぎないとした原判決には事実の誤認がある,(2)検察官が取調請求をした共犯者B(以下「B」という。)の検察官に対する供述調書4通を却下した原審の措置には,刑訴法321条1項2号後段の解釈適用を誤った訴訟手続の法令違反があり,いずれも判決に影響を及ぼすことが明らかである上,(3)被告人を懲役15年に処した原判決の量刑は,著しく軽きに失して不当である,というのである。 そこで,まず,事実誤認の所論にかんがみ,原審の記録を調査して検討する。 第1 被害者Aに関する殺人の公訴事実の要旨と原判決の認定の要旨 1 本件公訴事実の要旨は,被告人は,広島市内のマンションの一室において,B及びその長男A(当時6歳)らとともに生活していたものであるが,Bとともに,平成11年8月下旬ころから,Aに対し,その裸体に花火の火の粉を浴びせ,あるいは,Aの両手両足を紐様の物で緊縛した上,水を入れた浴槽に沈め,さらには,Aの体を布団叩き等で多数回殴打するなどの虐待行為を繰り返し,Aが極度に衰弱していることを認識していたにもかかわらず,同年9月26日ころ,上記マンションの一室において,Aをビニール袋に入れて同袋の口を真結びにした上,その状態でAを大型スポーツバッグに入れてファスナーを閉めるなどして密封状態にし,B もかかわらず,同年9月26日ころ,上記マンションの一室において,Aをビニール袋に入れて同袋の口を真結びにした上,その状態でAを大型スポーツバッグに入れてファスナーを閉めるなどして密封状態にし,Bと共謀の上,殺意をもって,助けを求めるAの声を無視してそのまま放置し,よって,そのころ,同所において,Aを窒息死するに至らしめて殺害した,というものである。 2 原判決は,上記殺人の公訴事実について,被告人は,本件犯行当時,Aの死が相当に切迫していることを認識していたが,死に至ることを認容していたと断じるには,なお合理的な疑いが残るとして,殺意の存在を否定して,傷害致死の限度でBとの共同正犯が成立すると認定した。 第2 当裁判所の判断 1 関係証拠に照らし検討すると,所論が指摘するとおり,被告人は,後述するように,Aに対して,執拗で強烈な暴行等によるいわゆる虐待行為を繰り返した結果,Aが全身衰弱状態に陥っていたところ,これを熟知していながら,Aを二重のビニール袋に入れて,その口を固く二重に結んだ上,大型スポーツバッグ内に押し込んで,約5分間にわたって,そのまま放置した(以下「本件密封行為及びその後の放置行為」という。)のであるから,少なくとも未必の殺意を有していたことは明白であって,未必の殺意を否定した原判決の認定は到底是認することができない。以下,説明を加える。 2 まず,関係証拠によれば,本件犯行に至る経緯,本件犯行状況,その後の状況として,次の事実が認められ,この認定を左右する証拠はない。 (1) 被告人は,広島県呉市内において,妻子と同居し,C建設と称して土木工事の下請をしていたが,次第に仕事が減少して収入も少なくなった焦燥感も加わり,妻に暴力を振るったり,覚せい剤を頻繁に使用するようになっていたところ,平成11年6月初旬ころ,広 ,C建設と称して土木工事の下請をしていたが,次第に仕事が減少して収入も少なくなった焦燥感も加わり,妻に暴力を振るったり,覚せい剤を頻繁に使用するようになっていたところ,平成11年6月初旬ころ,広島市内のいわゆるファッションヘルスにおいて,いわゆるヘルス嬢として接客に当たったBと知り合って,交際を始め,度々肉体関係を持つようになった。そして,同月末ころ,仕事を請け負っていた工事業者から今後C建設には発注しない旨通告を受けて,自暴自棄となり,同年7月初旬ころ,妻子の元を飛び出し,Bが長男のA及び長女のD(当時4歳)とともに居住していた上記マンションの一室に転がり込んで同居するようになり,その後,連日にわたって,Bと濃厚な種々の性行為を続け,それまで経験したことのないような性的満足感を得て精神的にも身体的にも被告人に心酔したBから受け取った金員で,日中はパチンコやスロットマシーン等の遊技にふけるようになったが,パチンコ店に同行したBのやり方が悪いと言って,Bに暴行を加えたことがあったことから,同月8日,Bから別れ話を切り出され,手切れ金として10万円受け取ったものの,同月9日,通行中の男性から強制わいせつの被害を受けて警察に保護されたBを迎えに行った際,これを喜んだBとよりを戻して,その後,Bに対して暴行を振るわなくなり,Bは一層被告人に傾倒するようになった。 (2) 被告人は,その後も,Bから受け取った金員でパチンコ等の遊興にふける一方で,妻子のことや仕事のことなどを思い巡らしてはいら立ちを募らせ,当初は覚せい剤を使用して気を紛らわせていたが,同月中旬ころからは,Aに対して,いたずらをしたなどと称して,その頭部や顔面等を平手で殴打したり,点火したタバコをその身体に押しつけたり,Bに命じて購入させたもぐさを使用して,その身体にきゅうを ,同月中旬ころからは,Aに対して,いたずらをしたなどと称して,その頭部や顔面等を平手で殴打したり,点火したタバコをその身体に押しつけたり,Bに命じて購入させたもぐさを使用して,その身体にきゅうを据えるようなことを繰り返すようになった。そして,同年8月16日ころ,Bの留守中,原判示第1のとおり,Aの左前頭部を右手こぶしで殴打して,安静加療約1週間を要する頭部打撲等の傷害を負わせたが,大人の握りこぶし大の巨大なこぶができたため,あわててBに連絡を取ったところ,帰宅して傷の状態を見たBがAを病院に連れて行って診察を受けさせたいと言い出したのに対して,そうなれば自己のこれまでの虐待行為が発覚すると考えて反対したものの,Bから被告人の行為によるものとは言わない旨の約束を取り付けて,ようやくAを病院に連れて行くことを了承し,Aの受診後帰宅したBから,診察した医師が,このようなことを続けると,今後は警察に通報することになる旨告げられたと聞かされた。 (3) しかしながら,被告人は,依然としてAに対して暴行等を加え続け,顔面をこぶしで殴打したり,身体を足で蹴るなどしたほか,身体にガムテープを巻き付けダンボール箱に収納して押入れに閉じこめ,頭からビニール製のゴミ袋をかぶせて犬の首輪をはめ,これをロープでカーテンレールにつないで,腹部をサンドバッグのようにこぶしで殴打し,足で蹴るなどしたり,プラスチック製の掃除用具や布団叩きで後述する火傷により皮膚がはがれた状態の背中等を多数回殴打した結果,掃除用具が折れたことさえあり,また,尿を飲ませたり,漏らした大便が付着したパンツを頭にかぶらせて嘲笑したり,陰茎の先端を縛って排尿できないようにしたり,パンツ1枚にして手錠を掛けたAに犬の首輪をはめて,これをロープで結んでドア上部につないで,そのような状態下での したパンツを頭にかぶらせて嘲笑したり,陰茎の先端を縛って排尿できないようにしたり,パンツ1枚にして手錠を掛けたAに犬の首輪をはめて,これをロープで結んでドア上部につないで,そのような状態下でのAの行動を密かにビデオカメラで撮影したビデオテープをBとともに鑑賞して楽しむなどしていた。さらに,同年8月下旬ころから,3回にわたって,全裸のAを風呂桶に入れ,点火した多数の花火の火の粉を頭や背中に浴びせたことがあるほか,全裸のAに対して,噴射した靴の消臭スプレーに点火して胸付近に浴びせたり,ライターオイルを手足にかけて点火したり,背中にティッシュペーパーを粘着テープで貼り付けた上,ライターでこれに点火したり,タバコの火を身体に押し当てるなどの行為を繰り返して,「Aの熱がり方が面白い。」などと言い放っていた。そして,同年9月初旬ころからは,手首と足首を縛って水を張った浴槽内に座らせ,首に巻いた紐を蛇口に結んで,その紐を操作して浴槽内に沈めたりするなどしたほか,同月中旬ころには,大型スポーツバッグ内に正座させたAを入れてファスナーを閉め,乾燥機に放り込んで,温風を浴びさせた上,これを浴槽内に移して水を張り,30秒くらいの間隔で,上記バッグを沈めたり引き上げたりするうち,Aの声が聞こえなくなったことから,慌てて引き揚げて上記バッグを開けたところ,Aが意識を失っていたため,上記バッグから取り出したAの腹部を押して,水を吐かせるなどしたり,身体を硬直させて引き付けを起こしていたのを,頬をたたくなどして,ようやく意識を回復したことがあった。しかも,被告人は,同年8月下旬ころからは,Aに対して,食事をすることを全面的に禁止し,被告人の目を盗んでBからわずかに与えられた食事についても,Aの腹部が膨らんでいるのに気付くと,勝手に食事をしたと言っては,その 年8月下旬ころからは,Aに対して,食事をすることを全面的に禁止し,被告人の目を盗んでBからわずかに与えられた食事についても,Aの腹部が膨らんでいるのに気付くと,勝手に食事をしたと言っては,その身体に暴行を加える有様であり,空腹に耐えかねたAは,シャワーを浴びる際,隠れて大量の水を飲むことさえあった。 このような一連の暴行の結果,Aの身体は衰弱の一途をたどり,原判示第2の犯行前には,頭部や左頬の傷口が化膿して開き,顔や胸が腫れ上がり,前歯は二,三本欠けていたほか,背中,大腿部,尻,手の甲,足裏や足の指など,広範囲に及ぶ火傷があり,傷口の皮膚が破れてしまい,これらの傷口からは膿や血が混じった汁が出てきており,異臭が甚だしく,栄養不良の状態にあることも加わって,全身性炎症反応症候群の状態にあり,足を引きずりながら,辛うじて歩行できる状態にあったとはいえ,被告人に閉じこめられた部屋の中で,全裸のまま,一日中横になっていることが多くなっていた。 (4) Bは,当初こそは,被告人の暴行を諫めたり,Aの火傷の手当をするなどしていたが,被告人の機嫌を損ねた場合には,被告人と別れなければならなくなると恐れて,被告人の暴行等を放置するようになっただけではなく,被告人に命じられて,上記花火の火の粉を浴びさせた際や,浴槽の水中に紐を使用して沈めた際には,自ら被告人と同様の行為に直接加わっており,しかも,このようなAに対する暴行等が発覚することを恐れて,Aを病院に連れて行くこともなく,Aを幼稚園に通園もさせず,実父が自宅を訪問することさえ避けるようになり,被告人の目を盗んで,わずかの食事を時折与えることがあるだけであった。 (5) 被告人は,同年9月26日午前零時過ぎころ,Aがいる部屋に赴いて,夕方摂取した食事のため,腹部が膨れていることに気付き,「 人の目を盗んで,わずかの食事を時折与えることがあるだけであった。 (5) 被告人は,同年9月26日午前零時過ぎころ,Aがいる部屋に赴いて,夕方摂取した食事のため,腹部が膨れていることに気付き,「腹が膨れとるじゃないか。」「寝たふりをしたって。」などと怒鳴り,「立て。」と命じて,「ごめんなさい。」と謝罪するAに対して,約30分間にわたって,その身体を激しく殴打するなどの暴行を加えた上,Bを呼び付けてから,大の字になって倒れ,息荒く腹部を上下させている状態のAに対して,繰り返し,「はよ立て。」と命じながら,その大腿部を足で小突いたところ,Aは,ようやく上半身を起こし,手で支えながら座った。すると,被告人は,上記大型スポーツバッグ(底部の縦約33センチメートル,横約73センチメートル,高さ約30センチメートル。以下「本件バッグ」という。)と黒色ビニール製ゴミ袋(縦90センチメートル,横80センチメートル,厚さ0.04ミリメートル。以下「ビニール袋」という。)を持ち出して,本件バッグの中にビニール袋を入れて口を開き,Aに対して,「汚いけえ,よういらわん。」と言いながら,その中に入るように命じて,Aがよろめきながら立ち上がってビニール袋内に入って正座すると,本件バッグのファスナーを閉めてから,これを手にして自分の部屋に赴き,敷いてあった布団から約1メートル離れた位置に本件バッグを置き,遅れて駆けつけたBとともに,布団に横になった。ところが,本件バッグの中から物音がしなかったため,被告人は,本件バッグのファスナーを開けて,「死んだふりか。」と言うと,Aが本件バッグの外に手の指を出してきたことから,「汚い。」「穴を開けて息をしよる。」「袋を二重にしちゃろうよ。」と言って,台所から持ち出したビニール袋にAが入ったビニール袋を入れて二重にして,2 Aが本件バッグの外に手の指を出してきたことから,「汚い。」「穴を開けて息をしよる。」「袋を二重にしちゃろうよ。」と言って,台所から持ち出したビニール袋にAが入ったビニール袋を入れて二重にして,2枚のビニール袋の端を重ねて持ち,両端を交差させて固く2回真結びにして,完全な密封状態にした上,本件バッグのファスナーを閉めてから,部屋の照明を豆電球だけにして,周囲を暗くし,布団に横になっていたBに対して,「静かにしとけよ。」と声を掛けた。間もなく,本件バッグ内のAが,「E君ごめんなさい。」「E君開けて。」などと5分くらいの間に30回くらい繰り返し声を上げたほか,身動きしながらごそごそと物音を立てていたが,いびきの音のような,ガァッという大きな音(以下「いびき音」という。)が七,八秒の間に3回続いた後は,音がしなくなった。すると,被告人は,Bの顔を見ながら,「A,死んだんじゃないか。」と言って起き上がり,本件バッグのファスナーを開け,Bとともにビニール袋を破って,中からAを出したが,ぐったりとして呼吸をしていなかったため,2時間30分くらいの間,Bとともに,代わる代わる口移しの人工呼吸をしたり,心臓マッサージを施したものの,蘇生しなかったことから,顔にティッシュペーパーを載せて,「ほんまに息しよらん。」と言って,Aの上半身を起こして,倒れるところを確認して,Bに対して,「お前には悪いと思うけど,Aが死んでも,まだ腹が立つ。」と言って,その頬や足を叩いたり,遺体となったAに対して,「死にやがって,このくそやろう。」などと発言していた。そして,「私が自首するわ。」とBが言うと,被告人は,「何を言いよるんなら,そがあなことしたら,わしのシャブもばれて大ごとになる。わしは一生出てこれんようになる。そうなったら,わしはお前を一生許さん。」と言った後 首するわ。」とBが言うと,被告人は,「何を言いよるんなら,そがあなことしたら,わしのシャブもばれて大ごとになる。わしは一生出てこれんようになる。そうなったら,わしはお前を一生許さん。」と言った後,新しいビニール袋を持ってきて,手首と足首を縛ったAの遺体を入れて,本件バッグに詰め,「わしが分からんように山に捨ててくる。」と言った。被告人は,同日の日中はパチンコ店に赴き,深夜帰宅してから,Aの遺体が入った本件バッグを自動車に積載して,死体を遺棄するに適した場所を探し回ったあげく,原判示第3記載のとおり,Aの遺体を山中に投げ捨てた。 3 ところで,健康な6歳くらいの男児の場合,ビニール袋やスポーツバッグに密封されて,低酸素の状態に置かれた場合には,10分ないし15分で低酸素血症により死亡すると考えられること,Aの場合には,被告人による長期間に及ぶ暴行等によって,全身の衰弱状態が甚だしく,栄養の低下により,肺がむくんで肺の酸素の通りが悪くなって,血液中への酸素の取り込みが悪くなる一方で,血液自体も脱水状態となって粘りが出て,末梢血管の通りが悪くなって,全身の細胞への酸素の供給状態が悪くなったり,生命エネルギーを生み出すための反応を制御する酵素類が欠乏するなど,種々の要因が相乗的に作用して,より短時間で死亡する可能性が高かったことが認められる。そして,被告人は,Aに対して,上記のような種々の暴行等を加え続けていたのであるから,Aが極度に衰弱した状態にあることを認識していたこと,本件時より全身の状態が良好であったと思われる時期の上記スポーツバッグごと浴槽内の水に沈めた際にも,Aが仮死状態に陥っていた経験があるのであるから,極度の衰弱状態にあるAをビニール袋に二重に密封して,スポーツバッグ内に閉じこめた場合には,短時間のうちに,生命維持に必要 浴槽内の水に沈めた際にも,Aが仮死状態に陥っていた経験があるのであるから,極度の衰弱状態にあるAをビニール袋に二重に密封して,スポーツバッグ内に閉じこめた場合には,短時間のうちに,生命維持に必要な酸素不足により死亡することは,格別の医学知識を有さなくても容易に予測できたと思われること,しかるに,被告人は,Aがビニール袋内で必死に動いて,助けを求め続けていたことを認識していながら,これをそのまま放置していたものであり,異常としかいうほかのないいびき音がしても,何らの措置もとらず,全く物音がしなくなってから初めて本件バッグを開けるなどしていること,Aが死亡したことを確認した後も,上記のような言動に出ていただけではなく,直ちにAの遺体を山中に遺棄するための準備行動に及んでいること等が認められるのであって,このような諸事情を総合すると,被告人には少なくとも未必の殺意があったというべきである。そして,被告人に未必の殺意があったことは,Bの供述調書によっても裏付けられている。すなわち,Bは,検察官に対して,被告人の虐待が続けばAが死んでしまうのではないかと思っていた,本件当日,被告人が,Aの入ったビニール袋を本件バッグに入れて,ファスナーを再度閉じた後,部屋の明かりを豆電球だけにして,布団の上に寝ころんだ,次の瞬間からバッグの中でAが騒ぎ始めた,このまま放っておけば,Aは息ができずに死んでしまうことは,分かっていた,Aをスポーツバッグの中から助け出さなかった,数日前から,Aは死んだ方がいいと思うようになっていた,被告人のことが好きで,一緒にいたかったから,被告人に好きなだけAを虐待させておくしかなかった,その時点で,Aのことを諦め,切り捨てた,しかし,本件後,ぴくりとも動かないAのその姿を見たとき,初めてうろたえた,気が付けば,Aの口に自分 から,被告人に好きなだけAを虐待させておくしかなかった,その時点で,Aのことを諦め,切り捨てた,しかし,本件後,ぴくりとも動かないAのその姿を見たとき,初めてうろたえた,気が付けば,Aの口に自分の口を当て,息を吹き込んでいたなどと供述している。また,Bは,原審公判廷において,本件犯行当時のAの状態は,ちょっとでも触ったら死ぬんじゃないかという状態であった,被告人が二重にしたビニール袋の口を結ぶのを見て,Aは息ができなくなり死ぬかも知れないと思った,Aは「E君ごめんなさい。」「E君開けて。」と繰り返し言っており,息ができずに苦しがっていると思った,しかし,被告人の静かにしとけよという言葉に従い,被告人に対して,開けるように声を掛けていないし,何も行動をとらなかった,Aが死亡した時,これ以上,Aが虐待を受けなくて済むことや自分自身がそれを見なくても済むという意味で少しほっとした気持ちがあったなどと供述している(なお,Bは,原審公判廷では,Aが死亡する前に,被告人が本件バッグを開けてくれるのを待っていた,その可能性はあると思っていた,被告人は虐待を楽しんでいたのであり,死亡させるとまでは思っていなかったなどと供述しているが,その根拠について合理的な理由を述べていないし,捜査段階の自白と対比してみても,不自然に変遷しているから,その点の供述は信用することができない。)。このように,共犯者であるBも,Aに対する未必の殺意を有していたことを事実上認めているのであるから,Bと行動を共にしており,自ら本件密封行為及びその後の放置行為に及んだ被告人において,少なくとも未必の殺意があったことは優に認めることができるのである。 4 これに対し,原判決は,被告人において,本件犯行当時,Aの死が相当に切迫していることを認識していたが,死に至ることを認容し ,少なくとも未必の殺意があったことは優に認めることができるのである。 4 これに対し,原判決は,被告人において,本件犯行当時,Aの死が相当に切迫していることを認識していたが,死に至ることを認容していたと断じるには,なお合理的な疑いが残るとして,未必の殺意を否定し,その根拠として,(1)被告人が,これまで実際に行った虐待行為に際して具体的にAの死を認識し,かつこれを認容していたような状況までは認められない上,その虐待行為の延長線上で行われた密封行為の際の被告人の意図も,Aに死の恐怖を味わわせることにあったと認められるから,被告人は密封行為の際はもちろん,その後Aが本件バッグ内で助けを求めていた際にも,Aが死亡する以前にビニール袋から解放するつもりであったことは否定できない,(2)被告人は,Aを密封した後,Bとともにその側にいて終始Aの反応をうかがっており,Aを助け出そうと思えば容易にそうすることのできる状態にあったこと,(3)医学的に素人である被告人において,Aの発したいびき音が極めて切迫した生命の危険を示す兆候であると認識していなかったとしてもやむを得ない面があること,(4)Aがいびき音を発していたのは,約七,八秒という短い時間であり,被告人は,いびき音が途絶えるや慌てて本件バッグ内からAを出し,Aを蘇生させるべく,Bとともに長時間にわたって真摯な救命措置を講じており,このような救命行動は,Aの死を認容していた者の行動とはそぐわないものがあることなどの事情を指摘している。 しかしながら,(1)の点について,被告人が,本件犯行前の虐待行為に際して,具体的にAの死を認識し,かつこれを認容していたような状況まで認められないことは原判決指摘のとおりであるが,本件犯行当時,Aは,極度の全身衰弱状態にあったこと,本件密封行為及びその後の 為に際して,具体的にAの死を認識し,かつこれを認容していたような状況まで認められないことは原判決指摘のとおりであるが,本件犯行当時,Aは,極度の全身衰弱状態にあったこと,本件密封行為及びその後の放置行為は,その継続により確実に死の結果を招来する高い蓋然性を有しており,それ以前の虐待行為と対比してみても,死亡に至る危険性が格段に高い異質のものであって,被告人自身もそのことを認識していたことを検察官に対して明確に供述していること,Aは,本件バッグの中から,「E君ごめんなさい。」「E君開けて。」と30回くらい繰り返し懇願し,最後にも3回くらい大きな声で助けを求めて叫んだが,それでも被告人は,これらの声を無視し,死亡直前の舌根沈下により気道が閉鎖して生じる大きないびき音が3回して,Aが動けなくなって息絶えるまで解放しようとはしなかったことが認められる。この点について,被告人は,Aが謝ればすぐに出してやろうと思っていたが,謝罪の言葉がなかった,ビニール袋をこぶ結びにした覚えもなく,窒息死するとは思わなかったなどと弁解しているが,上記の事実経過とは明らかに異なっており,信用することができないばかりか,いつまで密封行為を続けるつもりであったのか分からないなどとも原審公判廷において供述しており,被告人において,Aが死亡するに至る前の時点で確実に解放する意図を有していたことをうかがわせるような言動等は全く見当たらないのである。そうだとすると,被告人が,Aの死亡前に同児をビニール袋から解放するつもりであったことを否定できないとした原判決の証拠評価は到底是認することができない。 次に,(2)の点について,Aを本件バッグ内に密封した後,被告人が,本件バッグから1メートルくらい離れた布団の上にBとともにいたことは認められるが,それは,いざという ることができない。 次に,(2)の点について,Aを本件バッグ内に密封した後,被告人が,本件バッグから1メートルくらい離れた布団の上にBとともにいたことは認められるが,それは,いざというときにAを助け出すためのものではなく,Aの呼吸が困難になり,その苦しむ様子を楽しむためにしていたことが明らかである上,Bに対し,静かにしておくように命じたほか,上記のとおり,Aが繰り返し助けを求め,最後には3回くらい叫び声を挙げているにもかかわらず,これらの声を無視して大きないびき音を3回発して息絶えるまでAを密封状態のまま放置していたのであるから,被告人とBがAの近くにいたことをもって,未必の殺意を否定する事情とはいえないのであって,この点に関する原判決の証拠評価は当を得ないものである。 さらに,(3)の点について,格別の医学知識のない一般人であっても,本件密封行為及びその後の放置行為により死の結果を招来する蓋然性が極めて高いと判断することは容易なことであり,現に,Bもその旨明確に証言しているところである。そして,被告人において,Aの発したいびき音が極めて切迫した生命の危険を示す兆候であると認識していなかったという事情をことさら取り上げて,未必の殺意を否定する証左とすることはできないのであるから,この点に関する原判決の判断も相当ではない。 最後に,(4)の点について,Aがいびき音を発したのは,合計七,八秒の短時間であり,その後,被告人とBが約2時間30分にわたり,人工呼吸等の措置を講じたことは,原判決が指摘するとおりであるが,他方では,犯行後,Aに対する虐待の事実が発覚することをおそれる余り,119番通報をして救急車の派遣を要請したり,病院へ搬送して専門的な医療措置を受けさせることもしていないのであるから,真摯な救命措置を講 ,犯行後,Aに対する虐待の事実が発覚することをおそれる余り,119番通報をして救急車の派遣を要請したり,病院へ搬送して専門的な医療措置を受けさせることもしていないのであるから,真摯な救命措置を講じたなどといえないことが明らかである。そして,Aの異変に気付いて,我に返り,とっさにビニール袋の中からAを解放して人工呼吸等の救命措置をとったことは,未必の殺意の存在と何ら矛盾するものではないというべきであるから,原判決の証拠評価を受け入れることはできない。 したがって,被告人について,Aの死が相当に切迫していることを認識しながら直ちに救出行為に出なかったものであるとしつつ,その際,同児が死に至ることを認容していたと断じるには,なお合理的な疑いが残るというべきである旨判示した原判決は,証拠の取捨選択及びその評価を誤ったものといわざるを得ない。 5 以上のとおり,被告人は,Aが死亡するに至るかも知れないことを認識しながら,あえて本件密封行為及びその後の放置行為に及んだものであり,その際,Bと暗黙のうちに意思を相通じていたことも認められるから,被告人にはBとの間で,殺人の共同正犯が成立することが明らかであり,被告人の殺意を否定して,傷害致死罪の限度でBとの共同正犯が成立するにとどまるとした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある。 論旨は理由がある。 第3 破棄差戻し原判決は,上記のとおり事実を誤認した原判示第2の事実について,原判示第1及び第3ないし第6の各事実と併せて,刑法45条前段の併合罪の関係にあるものとして1個の刑をもって処断しているから,刑訴法397条1項,382条により原判決を全部破棄し,訴訟手続の法令違反及び量刑不当の論旨に関する判断を省略し,当審においては事実の取調べを行っていないから,更に審 個の刑をもって処断しているから,刑訴法397条1項,382条により原判決を全部破棄し,訴訟手続の法令違反及び量刑不当の論旨に関する判断を省略し,当審においては事実の取調べを行っていないから,更に審判を尽くさせるため,同法400条本文により,本件を原裁判所である広島地方裁判所に差し戻すこととして,主文のとおり判決する。 平成17年3月17日広島高等裁判所第一部裁判長裁判官大渕敏和 裁判官芦高源裁判官島田一
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