平成24(行ケ)10273 審決取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成25年2月6日 知的財産高等裁判所 3部 判決 審決取消
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判決文本文19,651 文字)

- 1 -平成25年2月6日判決言渡平成24年(行ケ)第10273号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成24年12月11日判決 原告 X訴訟代理人弁護士野田宗典同叶幸夫訴訟代理人弁理士阿部美次郎 被告財団法人日本数学検定協会 訴訟代理人弁護士小林康恵同中野壮洋訴訟代理人弁理士高橋徳明同日比敦士主文 1 特許庁が無効2011-890088号事件について平成24年6月21日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由 第1 請求主文と同旨第2 前提事実 1 特許庁における手続の経緯等登録第4995445号商標(平成16年1月16日登録出願,平成18年8月 - 2 -29日登録審決,同年10月13日設定登録。以下「本件商標」といい,本件商標に係る商標権を「本件商標権」という。)は,「数検」及び「数学検定」の文字を上下二段に横書きしてなり,第41類「数学に関する資格認定試験の実施算数・数学検定に関する電子書籍の提供」を指定役務として,現に有効に存続するものである。本件商標の商標権者は原告として登録されている。 被告(請求人)は,平成23年10月11日,特許庁に対し,本件商標の登録を無効にすることを求めて審判の請求をし として,現に有効に存続するものである。本件商標の商標権者は原告として登録されている。 被告(請求人)は,平成23年10月11日,特許庁に対し,本件商標の登録を無効にすることを求めて審判の請求をし(無効2011-890088号事件),特許庁は,平成24年6月21日,「登録第4995445号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。」との審決をし,その謄本は同月29日,原告(被請求人)に送達された。 2 審決の理由別紙審決書写しのとおりである。その判断の概要は以下のとおりである。 (1) 被告が行う実用数学技能検定事業は,公的資格として全国的に定着し,遅くとも平成15年ころには,実用数学技能検定に係る事業の略称と認められる本件商標についても周知著名なものとなっていた。本件商標を構成する「数検」及び「数学検定」の商標が,全国的に周知となった被告の実用数学技能検定に係る事業に使用され,かつ,被告の活動が社会的な影響力を有していたことなどからすると,本件商標は,被告が行う実用数学技能検定試験の実施のみならず,その余の実用数学技能検定に係る事業において,被告によって使用されるべき性格の商標になったとみるのが相当である。 (2) 被告は,旧民法34条に基づく公益法人として設立された財団法人であるところ,原告は,被告の理事長を退任後,被告の名称と酷似した「数検日本数学検定協会」(住所:原告に同じ。「『数検』日本数学検定協会」,「数検財団/日本数学検定協会」,「基礎力財団」又は「『数検』民営化準備委員会」とも表記している。)を創設した上,被告が行っていた事業と同様の事業を開始し,自己が本件商標権を有することを奇貨として,被告の業務に係る役務等を表示する商標として周 - 3 -知著名になっている商標と同一の商標を使用し,かつ, 告が行っていた事業と同様の事業を開始し,自己が本件商標権を有することを奇貨として,被告の業務に係る役務等を表示する商標として周 - 3 -知著名になっている商標と同一の商標を使用し,かつ,「『数検』は民営化いたしました」の見出しのもと,「『数検』は平成23年7月より民営団体で行っていくことになりました。現在の財団法人は法律改正で,平成20年12月から特例民法法人と称する団体になっています。現在の特例民法法人は公益団体ではありません。」,「(注意)特例民法法人は法律改正で,平成25年11月末をもって整理されます。*『数検』は民営の日本数学検定協会が継続して実施して参ります。したがいまして,平成23年10月から特例民法法人の行う数学の検定合格者には,『数検』合格資格が与えられなくなりますので注意してください。」,「*民営化後の団体表示は次の通りです/数検財団/日本数学検定協会/住所((注)原告に同じ)」等が記載された「お知らせ」を,平成23年7月ころ,2回にわたり,被告が実施する数学検定の団体受検校の窓口である数学担当の先生に対し送付した。 「お知らせ」の内容を知った全国の数学検定の受検生,保護者及び数学担当の先生は,同年9月ころには,大きく混乱した。 「数検財団/日本数学検定協会/『数検』民営化準備委員会」が,被告が実施する数学検定の受検生等に対し,恰も被告が民営化され,『数検』が公的資格ではなくなるのかのような趣旨のお知らせを通知したこと,自らは恰も被告であるかのように,「財団法人日本数学検定協会」と酷似する「数検財団/日本数学検定協会」の名称を使用していること,被告の登記簿上の住所を使用していること(判決注:被告は,平成23年8月27日,主たる事務所を移転した。),5回の検定日(団体受検)は被告が実施する団体受検検定日に 協会」の名称を使用していること,被告の登記簿上の住所を使用していること(判決注:被告は,平成23年8月27日,主たる事務所を移転した。),5回の検定日(団体受検)は被告が実施する団体受検検定日にすべて重なっていること,被告が設立当初から使用してきた登録商標を引き続き使用していること,日本数学検定協会(数検)が分裂したようにみえることが,全国的に知れ,被告に対して,悪い印象が,少なからず植え付けられたとみるのが相当である。 このことは,被告が行う公共性を有する事業を信頼し,それに依拠して参加する国民一般(受検生)や数学検定資格を受け入れている社会に影響を与えたとみるのが相当である。してみると,上述した社会的混乱とともに,被告に蓄積された社会 - 4 -的信用が,少なからず失墜したといわざるを得ない。 (3) 原告は,本件商標を平成16年1月6日に出願し,同年6月9日で文部科学省から,「財団からX理事長に商標料を支払うことがないよう措置を図り,対外的に分かりやすくすること」等の改善を要する事項について通知を受けているところ,被告との間で,被告が原告に対して支払うべき商標パテント料について契約を結んでおり,平成23年4月24日に,「財団法人である被告が検定に関わる資料,問題,書籍,HPその他の募集活動に伴う表示物等に,原告所有の登録商標を使用しないこと」等を記載した誓約書を交わした。これらによる被告への社会的信用の失墜に加え,被告においても,円滑な事業遂行に支障を来すおそれが発生し,社会的混乱が生じたものと認められる。 原告は,平成23年9月15日に,被告宛てに,本件商標と同一又は類似の商標の使用に対する警告書を送付しているが,原告が,周知著名となった商標を保有すること自体に問題なしとはいえないのに加え,公益法人として,使用に 3年9月15日に,被告宛てに,本件商標と同一又は類似の商標の使用に対する警告書を送付しているが,原告が,周知著名となった商標を保有すること自体に問題なしとはいえないのに加え,公益法人として,使用による信用の蓄積がある被告に,その著名な検定事業の略称と認められる本件商標と同一又は類似の商標の使用に対して警告を求め,その円滑な事業の展開を阻み,社会に重大な影響を与えることは認めがたい行為である。 (4) 以上の状況を総合勘案すれば,本件商標は,平成23年9月27日には,商標法4条1項7号に該当するものとなった。本件商標は,商標登録がされた後において,同号に該当するものとなったから,同法46条1項5号の規定に基づき,その登録を無効とすべきものである。 第3 当事者の主張 1 原告の主張審決は,以下のとおり,本件商標に関する商標法46条1項5号,4条1項7号該当性の判断を誤ったものであり,違法として取り消されるべきである。 (1) 事実認定の誤りア審決は,被告が本件商標(以下,設定登録前の本件商標と同一の商標も含め - 5 -て「本件商標」という。)を取引者又は需要者に広く知らしめた旨認定した。 しかし,「数検/数学検定」なる標章は,被告が財団法人として認可を受ける前にも,任意団体である日本数学検定協会の活動により生徒・学生,学校に広告,宣伝されており,全国数学検定試験の受検者は,平成6年には5500人(団体受験校55校),平成7年には2万6000人(団体受験校160校),平成8年には4万0500人(団体受験校630校),財団法人設立年度の平成11年には約9万4000人(団体受験校2500校)に達していた。すなわち,本件商標は,被告が財団法人として設立した時には,既に周知著名であったものであり,被告が本件商標を取引者又は 設立年度の平成11年には約9万4000人(団体受験校2500校)に達していた。すなわち,本件商標は,被告が財団法人として設立した時には,既に周知著名であったものであり,被告が本件商標を取引者又は需要者に広く知らしめたとはいえない。 イ審決は,被告が事業として行う実用数学技能検定は,文部科学省から認定された公的資格である旨認定した。 しかし,被告の検定内容に関する公益認定は許可されておらず,実用数学技能検定は文部科学省から認定された公的資格検定とはいえない。 なお,文部科学省の検定に対する知識・技能の認定制度は平成18年に廃止され,被告の行う数学検定は,平成21年に文部科学省後援がなくなっているから,国や地方公共団体が行うような公益性はなく,民間資格として利用されているにすぎない。また,被告は,平成22年以降,特例民法法人の地位にあり,公益法人というためには,内閣府の下に発足した公益認定等委員会に認定申請を行い,認定されなければならないが,被告は未だその地位にない。 (2) 法適用の誤り審決は,商標自体に公序良俗違反のない商標が商標法4条1項7号に該当するのは,その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるとし,また,その商標が登録後に公益的不登録事由に該当するかの判断は,出願された商標のときの判断と,判断基準については同じとしつつ,商標登録後に周知著名となった商標等について,その登録後の事情いかんによっては,特定の者に - 6 -独占させることが好ましくなくなった商標等について,社会通念に照らして著しく妥当性を欠き,国家・社会の利益,すなわち公益を害すると評価しうる場合に限って上記判断が許される旨判断した。 しかし -独占させることが好ましくなくなった商標等について,社会通念に照らして著しく妥当性を欠き,国家・社会の利益,すなわち公益を害すると評価しうる場合に限って上記判断が許される旨判断した。 しかし,商標法4条1項7号は,原則として,「文字,図形,記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合」である標章それ自体が,公の秩序又は善良な風俗に反するような場合に,そのような商標については,登録をしないとの規定であり,例外的に,商標の構成自体に公序良俗違反のない商標が同号に該当するのは,その登録の出願経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する社会秩序に反するものとして,到底容認し得ない場合に限られる。同号は一般条項であり,法的安定性等の観点から,むやみに拡張して解釈されるべきではなく,同号の解釈に当たっては,公益的な不登録事由である同項1号ないし6号までを考慮して行うべきである。一方,商標法46条1項5号に基づく後発的無効として同法4条1項7号に該当するのは,時代の変化等により商標の構成自体が公序良俗に反することとなった場合に限定されるべきであり,そうでない場合であっても,査定時と同様の基準ではなく,同項6号,19号よりも公益性の高い事由でなければ公序良俗違反に当たらないと解すべきである。 また,審決は,被告が行う実用数学技能検定事業は,公的資格として全国的に定着し,平成15年ころには,実用数学技能検定に係る事業の略称と認められる本件商標についても周知著名となっていたこと,被告が本件商標を取引者又は需要者に広く知らしめたものであること,本件商標は被告によって使用されるべき性格の商標になったこと,「数検財団/日本数学検定協会」 からのお知らせ及び文部科学省からの改善を要する事項について通知を 需要者に広く知らしめたものであること,本件商標は被告によって使用されるべき性格の商標になったこと,「数検財団/日本数学検定協会」 からのお知らせ及び文部科学省からの改善を要する事項について通知を受けたことなどにより,公的資格を利用する受検者やその受け入れ先となる学校や企業などに対し,社会的混乱を生じさせたこと等の諸事情を根拠に,本件商標の登録が公序良俗違反に該当する旨判断した。 しかし,上記(1) のとおり,審決の事実認定には誤りがあるばかりでなく,本件商標が被告によって使用されるべき性格の商標になったとはいえず,社会的混乱を - 7 -生じさせたのは被告であって,原告ではない。また,上記の諸事情は,本件商標の登録を公序良俗違反とする内容のものではない。 (3) 審決は,甲19(電話対応録(写し))の内容を根拠として本件商標登録が公序良俗違反と判断した。 しかし,甲19の作成者は不明であって,その形式的証拠能力に問題があるほか,甲19に記載された問合せの内容は,本件商標に関する問合せではなく,被告の数学の検定事業に対する問合せであるから,そのような問合せに対応することは被告が当然になすべき業務であり,かかる問合せがあったことを根拠として,本件商標登録を公序良俗違反と判断することはできない。 2 被告の反論以下のとおり,審決の商標法4条1項7号該当性の判断に誤りはなく,取り消されるべき判断の誤りはない。 (1) 事実認定の誤りの主張に対しア原告は,本件商標は,被告が財団法人として設立した時には,既に周知著名であったものであり,被告が本件商標を取引者又は需要者に広く知らしめたとはいえない旨主張する。 しかし,受検者数の飛躍的な増加は,被告が,公益性を有する財団法人として設立を許可された以降に生じており,最も受検者数 り,被告が本件商標を取引者又は需要者に広く知らしめたとはいえない旨主張する。 しかし,受検者数の飛躍的な増加は,被告が,公益性を有する財団法人として設立を許可された以降に生じており,最も受検者数及び受検団体数が増加したのは,平成14年から平成15年にかけてである(受検者数は17万人から23万人へと増加(6万人の増加),受検団体数は5700団体から8300団体へと増加(2600団体の増加))。また,平成15年ころには,ほぼ全国規模で,入試優遇制度が大学・短期大学・専門学校,高等専門学校・高校・中学校において採用され,単位認定制度実施校も全国に分布した。さらに,平成14年1月17日付けで文科省より「確かな学力の向上のための2002アピール『学びのすすめ』」が公表され,「数検」は英検及び漢検とともに取り上げられたことからすれば,平成15年ころに各教育関係者の取組みが効果をあげ始めたと考えるのが合理的である。 - 8 -したがって,「遅くとも受検生が20万人を越え,団体受検校が8,000校を越えた2003年(平成15年)のころには,周知著名な商標となっていた」との審決の認定に誤りはなく,原告の主張は理由がない。 イ原告は,被告の検定内容に関する公益認定は許可されておらず,実用数学技能検定は文部科学省から認定された公的資格検定とはいえない旨主張する。 しかし,旧文部科学省認定技能審査として認定を受けていないからといって,被告が実施する実用数学技能検定が公的資格ではないとはいえない。被告が実施する実用数学技能検定は,2級以上の取得により,旧大検や高等学校卒業程度認定試験の試験科目「数学」の試験免除を受けることができるという公的資格としての側面を有しており,被告が財団法人として設立を認可されたことと相まって公的資格としての実質はより 大検や高等学校卒業程度認定試験の試験科目「数学」の試験免除を受けることができるという公的資格としての側面を有しており,被告が財団法人として設立を認可されたことと相まって公的資格としての実質はより高まったものといえる。 また,旧文部省認定技能審査制度は,平成17年度で廃止されたため,それまで同制度による認定を受けていた各種団体の検定試験は,平成18年度以降は,文科省の後援名義を使用して実施されることとなった。この後援名義の使用に関しては,文部科学省組織規則(平成13年文部科学省令第1号)6条2項5号に総合調整を司る組織が規定され,平成17年4月1日付けで事務次官決定がなされており,使用許可基準に関する規程(要領)もある。かかる要領によれば,主催者の要件として,国の機関,地方公共団体及びその機関,一般財団法人などが上げられており,行事等に関しても,その規模が広範囲にわたるものであり,営利を主たる目的とせず,かつ,特定の団体等の宣伝に利用されるおそれがないことなどが規定される。 被告が実施する実用数学技能検定も,平成18年度から平成21年度まで,文部科学省後援名義使用許可を取得しており,このような実績に鑑みても被告が実施する実用数学技能検定が公的資格としての実質を有するといえる。なお,被告は平成21年に文部科学省後援名義使用許可を自ら返上しているが,これは,原告自身の不祥事を原因とするものといってよく,当時,事態の早期収拾を図るために,原告が被告の理事長として処断したことであって,上記後援名義使用許可の返上によって, - 9 -被告が実施する実用数学技能検定の性格や内容に変化が生じたものではない。 さらに,直近においても,被告の実施する実用数学技能検定は,29もの教育委員会から後援名義の使用を許可されている。 なお,平成20年12 る実用数学技能検定の性格や内容に変化が生じたものではない。 さらに,直近においても,被告の実施する実用数学技能検定は,29もの教育委員会から後援名義の使用を許可されている。 なお,平成20年12月以降,被告が果たしてきた役割は,旧公益法人と何ら変わることはない。平成25年11月30日までは,特例民法法人については,一般財団法人に移行するか,公益財団法人の認定を受けるかの移行期間とされているが,移行期間中は被告が文部科学省の指導監督下にあることも変わりがない。被告は,公益認定を受けるべく,既に関係省庁と協議に入っているのであって,ますます公共性が求められる存在といえる。 したがって,審決が実用数学技能検定を公的資格であると認定したことに誤りはない。 (2) 法適用の誤りの主張に対し原告は,①後発的無効として商標法4条1項7号に該当するのは,商標の構成自体に公序良俗違反があることとなった場合に限定されるべきであり,そうでない場合であっても,同項6号,19号よりも公益性の高い事由でなければ公序良俗違反に当たらないと解すべきである,②審決が公序良俗違反の根拠とする諸事情の事実認定には誤りがあるばかりでなく,本件商標が原告によって使用されるべき性格の商標になったとはいえず,社会的混乱を生じさせたのは被告であって,原告ではなく,審決が根拠とする諸事情は,本件商標の登録を公序良俗違反とする内容のものではない旨主張する。 ア上記①の主張に対し後発的無効事由としての商標法4条1項7号の解釈につき,商標の構成自体に公序良俗違反のない商標であっても,出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり,その登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合には,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に当 出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり,その登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合には,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に当たると解すべきである。 - 10 -また,商標登録後に周知著名となった商標等について,その登録後の事情いかんによっては,特定の者に独占させることが好ましくなくなった商標等について,社会通念に照らして著しく妥当性を欠き,国家・社会の利益,すなわち公益を害すると評価し得る場合に限って上記判断が許されると解される。 後発的無効事由の場合は商標の構成自体に公序良俗違反がある場合に限られるべきである旨の原告の主張は独自の見解にすぎず,商標法4条1項7号が適用される場合を限る理由はない。法的安定性の観点は,商標権者による登録商標の保有が,法的安定性が求められるほどの利益を有しているか否かを個別具体的に判断した上で,国家・公共の利益(公益)との衡量において検討することによって達成できるというべきである。 したがって,審決の商標法4条1項7号に関する解釈に誤りはない。 イ上記②の主張に対し以下の諸事情から,本件商標は被告によって使用されるべき性格の商標であり,その登録は,社会通念に照らして著しく妥当性を欠き,国家・社会の利益,すなわち公益を害するというべきである。 (ア) 原告と被告との間の本件商標のパテント料に関する一連の契約は,利益相反取引であって無効であり,被告の原告に対する多額の商標使用料の支払及び原告保有の商標を被告へ移管すべきことについては文部科学省から強い指導監督を受けてきたところである。原告が被告の理事長の地位にあったという立場などに鑑みれば,少なくとも原告による本件商標の保有は,法的安定性が求められるほどの利益を有してい ては文部科学省から強い指導監督を受けてきたところである。原告が被告の理事長の地位にあったという立場などに鑑みれば,少なくとも原告による本件商標の保有は,法的安定性が求められるほどの利益を有していない。 (イ) 「数検」等が被告の商標である旨の記載は,平成11年から平成21年までの試験問題や被告のパンフレット類でもなされており,多くの受検生,その保護者,教育関係者は,被告が実施してきた実用数学技能検定の略称であった「数検」に関する商標権者は被告であると認識し,その他のパンフレットや問題集等における表示と相まって,「数学検定」,「日本数学検定協会」に関しても被告の事業におい - 11 -て使われる商標と認識してきた。それと同時に,本件商標には,被告の事業上の信用が蓄積され,被告が実施する実用数学技能検定は,年々受検者数,団体数が増え,より価値の高い検定試験となっていった。このことは,被告の公益性,公共性を一層強めるだけでなく,実用数学技能検定を公的資格として信頼を置く受検生,学校や企業などの需要者,一般社会の利益にも適うことである。 (ウ) 文部科学省からは,原告から被告への本件商標権の移管の是非をも含めたより踏み込んだ指導監督が原告を理事長とする被告に対してなされており,商標権を原告から被告が譲り受けることに関しては,平成21年11月27日付けの報告でも触れられ,原告と被告は合意書も交わしていた。 (エ) 原告が保有する本件商標の使用料に関しては,金額や意思決定過程の不透明さ,原告所有のビルの賃料に充当されていること等から社会問題化し,文部科学省からの指導監督と相まって,当事者間の私的な問題とはいえなくなっている。 (オ) 原告は,被告の理事長の地位を離れ,平成23年7月ころから,被告の類似団体を創設し,被告と同様の数学検定 ,文部科学省からの指導監督と相まって,当事者間の私的な問題とはいえなくなっている。 (オ) 原告は,被告の理事長の地位を離れ,平成23年7月ころから,被告の類似団体を創設し,被告と同様の数学検定事業を行うに至り,名称が類似していることに加え,検定日も同一であったことから,教育関係者や受検者において,原告の検定事業と被告の検定事業とを混同する者もあり,大きな社会的混乱が生じた。受検者や受検団体から被告に対し,多くの問合せがあった。 被告は,原告と円満な解決を目指すべく代理人を通じて交渉を重ねてきたが,一方で,原告は,数人の理事を個人的に呼びつけ,理事らに誓約書にサインを迫り,被告が従来から使用してきた「数検」の使用取り止めを求めるなど,被告の事業に甚大な影響を与える要求を強めた。このような状況の中,被告は,社会的混乱を避けるために名称変更をし,また,原告による類似団体の創設により生じた混乱に対処するため,仮処分の申立てをするなど,文部科学省の指導監督の下,必要な措置をとってきたものである。 被告にとって,原告との間の使用許諾契約や誓約を遵守するなどの原告の要求に応じることは不可能であり,原告は,被告が原告の要求に応じることができないこ - 12 -とが分かっていながら,敢えて不合理な要求をし,被告が従前から使用してきた商標と全く同一の商標を使用した類似団体を創設し,被告又は被告の事業と混同誤認させて,社会を混乱させたものである。 平成23年7月ころ,原告が被告の類似団体を立ち上げたが,同類似団体の第1回検定日が同年10月29日であって,その申込みの受付が「9月15日~9月26日」であったから,遅くても同年9月ころには,本件商標は,商標法4条1項7号に該当するに至った。 (カ) 本件商標の出願経過からみても,拒絶査定不服審判 て,その申込みの受付が「9月15日~9月26日」であったから,遅くても同年9月ころには,本件商標は,商標法4条1項7号に該当するに至った。 (カ) 本件商標の出願経過からみても,拒絶査定不服審判の審決において,原告が被告の理事長の地位にあり,被告のために本件商標権を行使することを前提として,登録が認められたものと考えられるから,原告が被告の理事長の地位を離れ,被告の類似団体を創設して社会を混乱させている状況にあっては,原告に本件商標を独占させることは,社会的妥当性を著しく欠き,公益を害するというべきである。 (キ) 仮に,原告主張のように,後発的無効事由としての商標法4条1項7号の適用は,同項19号の「不正の目的」よりも強い悪性が必要であるとしても,原告は,被告の類似団体を創設することにより,意図的に受検者やその受け入れ先となる学校や企業などに対し,大きな社会的混乱を生じさせているから,強い悪性がある。 すなわち,原告の創設した類似団体の名称が被告の名称と酷似すること,同類似団体が,被告が従前から使用してきたロゴである「Suken」と「数検」を上下2段横書きに組み合わせたものをそのまま使用していること,被告の実施する実用数学技能検定の検定日と同類似団体の検定日が全く同じであること,同類似団体の住所が,被告の移転前の住所と同じであること,「数検」は民営化する旨の見出しと共に,財団法人又は特例民法法人が,平成25年11月末までに整理されるといった内容のお知らせやダイレクトメールを送っていること,FAX等により,被告が積み上げてきた事業の実績を自らの実績として剽窃的に利用していることなどから,原告の強い悪性が認められるべきである。 ウしたがって,本件商標について,商標法4条1項7号を適用した審決に誤り - 13 -はない。 ( の実績として剽窃的に利用していることなどから,原告の強い悪性が認められるべきである。 ウしたがって,本件商標について,商標法4条1項7号を適用した審決に誤り - 13 -はない。 (3) 原告は,審決は,甲19を,本件商標登録を公序良俗違反と判断した根拠とするが,甲19の作成者は不明であって,その形式的証拠能力に問題があるほか,甲19に記載された問合せの内容は,被告が当然に対応すべき業務であり,かかる問合せがあったことを根拠として,本件商標登録を公序良俗違反と判断することはできない旨主張する。 しかし,甲19の電話等対応記録は,被告の担当者が対応した記録をデータ化したものであるから(乙41,乙42の1ないし14),甲19の形式的証拠能力に問題はなく,原告の主張には理由がない。 第4 当裁判所の判断当裁判所は,以下のとおり,原告の主張に理由があり,審決は取り消されるべきであると判断する。 1 原告は,①審決には,被告が本件商標を取引者又は需要者に広く知らしめた旨認定した点及び被告が行う実用数学技能検定が公的資格である旨認定した点において,事実認定の誤りがある,②後発的無効として商標法4条1項7号に該当するのは,商標の構成自体に公序良俗違反があることとなった場合に限定されるべきであり,そうでない場合であっても,同項6号,19号よりも公益性の高い事由でなければ公序良俗違反に当たらないと解すべきであるにもかかわらず,審決は,商標登録後,その登録後の事情いかんによっては,特定の者に独占させることが好ましくなった商標等について,社会通念に照らして著しく妥当性を欠き,公益を害すると評価しうる場合には同項7号に該当するとした上,本件商標は被告によって使用されるべき性格の商標になったこと,社会的混乱を生じさせたこと等の諸事情を根 通念に照らして著しく妥当性を欠き,公益を害すると評価しうる場合には同項7号に該当するとした上,本件商標は被告によって使用されるべき性格の商標になったこと,社会的混乱を生じさせたこと等の諸事情を根拠に,本件商標の登録が同号に該当する旨判断しており,法適用に誤りがある,③審決が,甲19の内容を根拠として,本件商標登録が公序良俗違反であるとした判断は誤りであるとして,審決の本件商標に関する商標法46条1項5号,4条1項7号該当性判断には誤りがあると主張する。そこで,以下,検討する。 - 14 -(1) 認定事実文末に掲げた証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア原告は,数学の検定制度を開発し,平成2年に「数学能力検定」と称して,受検者を募集し仮検定を実施した。平成4年には任意団体である「日本数学検定協会」が発足し,第1回全国数学検定試験が行われた。同検定試験は「数検」とも称され,その受検者は,平成6年には5500人(団体受検校55校),平成7年には2万6000人(団体受検校160校),平成8年には4万0500人(団体受検校630校)に達した。(甲2,甲26,甲27,乙5の1ないし4,乙11)イ被告は,平成11年7月13日,当時の文部大臣から,公益法人(財団法人)としての設立を許可され,原告は被告の理事(理事長)となった。被告設立後,被告の実施する実用数学技能検定の受検者数は,平成11年は延べ約9万4000人(団体受検校2500校),平成15年は延べ約22万3000人(団体受検校8300校),平成18年以降は延べ30万人以上(団体受検校1万校超)となり,「数検」,「数学検定」の標章もより広く知られるようになった。同検定試験の結果は,全国の大学・短大で入試優遇や高校の入試優遇や単位認定制度等に用いられる べ30万人以上(団体受検校1万校超)となり,「数検」,「数学検定」の標章もより広く知られるようになった。同検定試験の結果は,全国の大学・短大で入試優遇や高校の入試優遇や単位認定制度等に用いられることもある。なお,被告の発行した試験問題やパンフレット類の多くには,「数検」等が被告の商標である旨が記載されていたが,後記オの文部科学省による「実地検査の結果について」と題する通知の中で,改善を要する事項の1つとして,あたかも被告が商標を保有しているかのような表記がなされている点を指摘されたことから,被告は同省に対し,「改善報告書」において,「数検」等は登録商標である旨の表記に変更することを報告している。(甲4ないし甲10,甲13,甲27,乙5の5ないし17,乙6ないし8,乙9の1ないし4,乙10の1,2,乙11,乙12の1ないし9,乙26,乙30)ウ原告と被告とは,平成11年7月17日,被告の理事会の議決に基づき,原告所有の商標や特許を被告が活用する場合の使用料について,被告が原告の商標や特許を活用する場合,一定の割合でパテント料を支払うこと,契約期間は平成11 - 15 -年7月から10年とすること等を内容とする「パテント料に関する契約」を,同年8月4日付けで締結した(ただし,平成11年時点では,本件商標は商標登録されていない。)。また,原告と被告とは,平成21年2月25日付けで「平成21年商標パテント料についての契約」を,平成23年3月9日付けで「平成22年商標パテント料についての契約」をそれぞれ締結し(ただし,平成23年時点では,原告は被告の理事を退任している。),被告は,これらの契約に基づき,平成11年分から平成22年分までのパテント料合計2億5553万3000円を原告に支払った。(甲29ないし甲31,乙1)エ原 原告は被告の理事を退任している。),被告は,これらの契約に基づき,平成11年分から平成22年分までのパテント料合計2億5553万3000円を原告に支払った。(甲29ないし甲31,乙1)エ原告は,平成16年1月6日,本件商標の登録を出願し,平成18年10月13日,登録がなされた。(甲1)出願過程において,本件商標の登録は,「公的な機関が主催する数学に関する検定試験の一つであるかのように認識,理解される『数検』『数学検定』の文字を二段に書してなるところ,これを一個人である出願人が自己の商標として採択使用することは,検定試験に対する社会的信頼を失わせるおそれがあり,穏当ではありません。・・・商標登録出願に係る商標は,商標法第4条第1項第7号に該当します。」との理由で拒絶査定されたところ,原告が,被告の理事長であり数学に関する検定試験の公的機関であるから,検定試験に対する社会的信頼を失わせるおそれはないことを記載した意見書,及び,被告の理事会の決議により原告が商標権の取得を認められている旨が記載された理事会議事録を提出したことから,審決において,本件商標を,原告が登録商標として確保することが穏当でないとは,いい得ない旨判断された。(乙57ないし乙60,乙62の1・2)オ文部科学省は,平成16年6月9日,被告の理事であった原告宛てに,「財団法人日本数学検定協会に対する改善事項について」と題する通知を行い,「財団からX理事長に商標料を支払うことがないよう措置を図り,対外的に分かりやすくすること」等の改善を要する事項を通知した。また,同省は,平成21年6月22日付けで,「実地検査の結果について」と題する通知を行い,商標使用に係る被告 - 16 -と原告との取引について,その必要性,適切性等の検証を行い,今後の対応方針の明確化 平成21年6月22日付けで,「実地検査の結果について」と題する通知を行い,商標使用に係る被告 - 16 -と原告との取引について,その必要性,適切性等の検証を行い,今後の対応方針の明確化を行うこと等を求めた。被告は,理事会において,原告を退席させた上で本件商標を含む商標の取扱い等について審議し,同省に対し改善報告書(同年9月11日付け)を提出したが,商標料の金額は妥当であり,平成23年を目処に段階的に減額するよう商標権者と交渉する旨の内容であったことから,同省より,商標料に係る適正規模について厳正に審議し,その明確化を図り,可及的速やかに適正化すること,商標の使用継続や被告への移管等の是非も含め,引き続き審議すること等を求められた。そこで,被告は,理事会において更に審議し,原告が被告の理事を退任すること,原告の有する商標を譲り受ける方向で検討すること等を決議し,同年11月27日,同省に報告した。(甲11,乙26ないし乙34)カ原告は,平成22年1月21日,被告の理事を退任した。(甲13)原告と被告とは,同年5月ころ,原告名義で本件商標を含む商標の登録がなされていることを確認し,原告が被告に対し,これらを無償で譲渡すること等を内容とする合意書を作成したが,この合意書は,訴外会社が所有する不動産を被告に譲渡するとともに,被告が訴外会社の債務を引き受けることを監督官庁が承諾することが効力発生要件となっているところ,監督官庁の承諾が得られないため,効力が発生していない。被告は,同年10月1日,上記合意書に沿った解決を意図して,原告を相手方とする調停の申立てをしたが,商標の価値に関する認識の違いが大きく,合意に至らなかった。(乙39,乙40)キ一方,原告は,被告の理事を退任後,被告の名称と類似した「数検日本数学検定協会」( 手方とする調停の申立てをしたが,商標の価値に関する認識の違いが大きく,合意に至らなかった。(乙39,乙40)キ一方,原告は,被告の理事を退任後,被告の名称と類似した「数検日本数学検定協会」(「『数検』日本数学検定協会」,「数検財団/日本数学検定協会」,「基礎力財団」又は「『数検』民営化準備委員会」とも表記している。)なる団体(住所:原告に同じ)を創設した上,被告の事業と同様の事業を開始した。そして,「数検財団/日本数学検定協会」が実施する5回の検定日(団体受検)は,被告が実施する団体受検検定日に重なっていた。(甲15ないし甲17,甲23)数検日本数学検定協会は,平成23年7月吉日付けで,数学担当の先生に対し, - 17 -「『数検』は民営化いたしました」,「『数検』は平成23年7月より民営団体で行っていくことになりました。現在の財団法人は法律改正で,平成20年12月から特例民法法人と称する団体になっています。現在の特例民法法人は公益団体ではありません。」,「(注意)特例民法法人は法律改正で,平成25年11月末をもって整理されます。*『数検』は民営の日本数学検定協会が継続して実施して参ります。したがいまして,平成23年10月から特例民法法人の行う数学の検定合格者には,『数検』合格資格が与えられなくなりますので注意してください。」,「『数検』『数学検定』『suken』『児童数検』『日本数学検定協会』は本協会の商標です。『数検』『suken』は国際商標登録機関WIPOに登録されています。『数検』は東京葛飾が発祥地です。」などと記載された「お知らせ」を送付した。また,原告が創設した「数検財団/日本数学検定協会/『数検』民営化準備委員会」は,遅くとも平成23年7月半ばより前に,中学校の数学担当の先生に対し,同様の内容が記載された た「お知らせ」を送付した。また,原告が創設した「数検財団/日本数学検定協会/『数検』民営化準備委員会」は,遅くとも平成23年7月半ばより前に,中学校の数学担当の先生に対し,同様の内容が記載された「お知らせ」を送付した。(甲18)ク全国の数学担当の先生,受検生,保護者から,平成23年9月1日から27日までに,被告に対し,間違いやすい,混乱している等の多数の問い合わせがあり,被告は,多数の電話対応等を行った。(乙41,乙42の1ないし14)ケ原告と被告は,平成23年4月24日に,「平成11年8月4日に原告と被告間で交わされたパテント料に関する契約について,両者は平成23年6月30日をもって本契約を解約し,同契約を終了することを確認する。被告は平成23年1月から6月までの半年分の商標使用料を原告に支払う。以後,原告は被告に対し商標料の支払を求めないことを誓約する。被告は検定に関わる資料,問題,書籍,HPその他の募集活動に伴う表示物等に,原告所有の登録商標を使用しないことを誓約する。」旨が記載された誓約書を交わした。(甲32)コ原告は,被告に対し,「被告の本件商標と同一又は類似の商標の使用は,本件商標権を侵害する。」旨の警告書を,平成23年9月15日,内容証明郵便物として差し出した。(甲14) - 18 -サ被告は,平成23年10月27日付けで,原告を債務者として,「日本数学検定協会」なる表示の使用禁止を求めて仮処分命令の申立てをした(この仮処分申立事件は和解により終結した。)。また,原告は,被告を相手方として,同年11月29日付けで,本件商標を含む商標の使用禁止等を求める訴えを提起し,被告は,原告を相手方として,支払済みパテント料の不当利得返還等を求める反訴,及び,支払済み不動産賃料の不当利得返還等を求める別訴を 29日付けで,本件商標を含む商標の使用禁止等を求める訴えを提起し,被告は,原告を相手方として,支払済みパテント料の不当利得返還等を求める反訴,及び,支払済み不動産賃料の不当利得返還等を求める別訴を提起した。(乙48ないし乙50の各1,2)(2) 判断ア上記(1) 認定の事実によれば,本件商標又はこれに類似する標章は,被告が財団法人として認可を受ける前にも,任意団体である日本数学検定協会の数学検定試験に使用されており,財団法人(被告)の設立年度には受検者数が約9万4000人(団体受験校2500校)に達していたこと,被告の設立後,被告の実用数学検定試験の受検者数が大幅に増加し,本件商標もより広く知られるようになったが,原告は,平成22年1月21日に退任するまで被告の理事(理事長)であったこと,原告と被告とは,平成11年,平成21年及び平成23年に商標のパテント料に関する契約を締結し,被告が原告に対し,パテント料の支払(本件商標登録前の分も含む。)を行ったこと,原告が被告の理事を退任した後も,被告が,合意書や誓約書において,原告が本件商標権を有することを前提としていることが認められる。 すなわち,本件商標は,当初,原告によって使用されており,被告の設立後,被告によって使用されるようになったが,被告は,上記誓約書を作成した平成23年4月ころまでは原告が本件商標権を有することを前提としており,その後,被告が本件商標権を取得したとか,被告に対し本件商標に関する専用使用権が設定されたとの事実は認められない。上記の事情からすると,被告の設立後,本件商標の周知著名性が高まった事実があるとしても,本件商標が被告によって使用されるべき性格の商標になったということはできない。 イまた,上記(1) 認定の事実によれば,本件商標権のパテント料支払に 標の周知著名性が高まった事実があるとしても,本件商標が被告によって使用されるべき性格の商標になったということはできない。 イまた,上記(1) 認定の事実によれば,本件商標権のパテント料支払に関する - 19 -契約の有効性等につき原告と被告との間に見解の相違があること,本件商標に係るパテント料支払について文部科学省から改善を要する事項について通知を受けたこと,実用数学技能検定事業に関し,原告と被告とが同時期に同様な検定を実施したことから受検者等に混乱が生じた経緯があることが認められる。しかし,上記のような当事者間の民事上の紛争や受検生等の混乱は,もっぱら当事者間の反目や当事者による本件商標の使用態様その他の行動に起因して発生したものというべきであり,本件商標登録によって生じたとは認められない。そうすると,仮に,被告の実用数学技能検定事業が何らかの公的性格を有するとしても,民事上の紛争等が発生していることを根拠として,本件商標が被告によって使用されるべき性格の商標になったとか,社会通念に照らして著しく妥当性を欠き,公益を害するようになったということはできない。 加えて,本件商標の構成自体も社会的妥当性を欠くとはいえない。 したがって,本件商標登録が,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあると認めることはできない。 ウこれに対し,被告は,上記第3の2の(2)イ(ア)ないし(キ) 記載の諸事情を理由として,本件商標は被告によって使用されるべき性格の商標であり,その登録は,社会通念に照らして著しく妥当性を欠き,公益を害する旨主張する。 しかし,本件商標のパテント料等に関する契約の有効性や当該契約に対する監督官庁の指導,本件商標権の譲渡に関して作成された合意書の効力(上記(ア),(ウ),(エ)) は,本件商標登録が公の秩 する。 しかし,本件商標のパテント料等に関する契約の有効性や当該契約に対する監督官庁の指導,本件商標権の譲渡に関して作成された合意書の効力(上記(ア),(ウ),(エ)) は,本件商標登録が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるか否かとは直接関係がない問題というべきである。 また,多くの受検者等が,本件商標を被告の有する商標と認識し,被告の実施する実用数学技能検定を公的資格として信頼していることから,本件商標を被告が使用することが一般社会の利益にも適うとの点(上記(イ)) については,「数検」等が被告の商標である旨を試験問題等に記載することが,必ずしも適切とはいえない上,受検者等が被告の実施する実用数学技能検定を信頼しているからといって,本 - 20 -件商標が被告によって使用されるべきであるとまではいえない。 さらに,出願経過において,原告が被告の理事長の地位にあり,被告のために本件商標権を行使することを前提として,商標の登録が認められたと考えられるから,現状において,原告に本件商標を独占させることは,社会的妥当性を著しく欠き,公益を害するとの点(上記(カ)) について,上記(1)エ認定の事実に照らすならば,本件商標登録が認められたのは,むしろ,当時,原告が被告の理事長であり,被告の理事会の決議により原告が商標権の取得を認められている旨の議事録が提出されたことから,原告の出願に不正,不当な意図がないことが推認されたためと解するのが相当である。そうすると,被告の上記主張は前提を欠き,失当である。 そして,原告が被告の類似団体を創設し,被告が従前から使用していたロゴを用い,被告と同様の検定を実施して,受検者等に混乱を生じさせているから,強い悪性があるとの点(上記(キ)) については,仮に,原告の上記行為が被告ないし受検 を創設し,被告が従前から使用していたロゴを用い,被告と同様の検定を実施して,受検者等に混乱を生じさせているから,強い悪性があるとの点(上記(キ)) については,仮に,原告の上記行為が被告ないし受検生等の権利,利益を侵害するとしても,このような事情は商標の使用態様の問題であって,本件商標登録自体の問題ではないから,これを理由として,本件商標登録後に商標法4条1項7号に該当するものとなったとはいえないと解すべきである。 以上のほかに,被告の上記主張を根拠付ける事情は認められず,被告の上記主張は理由がない。 エしたがって,審決が,本件商標は被告によって使用されるべき性格の商標になったこと,社会的混乱を生じさせたこと等の諸事情を根拠として,本件商標は,商標登録がされた後において,商標法4条1項7号に該当するものとなったとした審決の判断には誤りがある。 2 結論以上のとおり,原告の主張には理由があるから,審決は違法として取り消されるべきである。被告は,他にも縷々主張するが,いずれも採用の限りではない。 よって,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。 - 21 -知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官芝田俊文 裁判官岡本岳 裁判官武宮英子 裁判官 武宮英子

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