平成26(ワ)27214等 地位確認等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成28年5月13日 東京地方裁判所
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判決文本文30,596 文字)

平成28年5月13日判決言渡平成26年(ワ)第27214号,同第31727号地位確認等請求事件主文 1 原告らが,被告に対し,被告賃金規定2条,9条,12条,13条,14条,16条,17条,18条,19条及び賃金表並びに被告就業規則49条ロ及び平成16年9月17日付け協定書1項(2)④が適用される労働契約上の地位にあることを確認する。 2 被告は,原告Aに対し,204万9160円及び別紙2(請求債権目録〔A〕)の「合計」欄記載の各金員に対する「支払日」欄記載の日の翌日から支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。 3 被告は,原告Bに対し,111万9333円及び別紙3(請求債権目録〔B〕)の「合計」欄記載の各金員に対する「支払日」欄記載の日の翌日から支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。 4 被告は,原告Cに対し,98万6329円及び別紙4(請求債権目録〔C〕)の「合計」欄記載の各金員に対する「支払日」欄記載の日の翌日から支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。 5 この判決の第2項から第4項までは,仮に執行することができる。 6 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求(主位的請求)主文同旨(予備的請求) 1 被告は,原告Aに対し,204万9160円及び別紙2(請求債権目録〔A〕)の「合計」欄記載の各金員に対する「支払日」欄記載の日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。 2 被告は,原告Bに対し,111万9333円及び別紙3(請求債権目録〔B〕)の「合計」欄記載の各金員に対する「支払日」欄記載の日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。 3 被告は,原告Cに対し,98万6329円及び 33円及び別紙3(請求債権目録〔B〕)の「合計」欄記載の各金員に対する「支払日」欄記載の日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。 3 被告は,原告Cに対し,98万6329円及び別紙4(請求債権目録〔C〕)の「合計」欄記載の各金員に対する「支払日」欄記載の日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,被告を定年退職した後に被告との間で期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」ともいう。)を締結して就労している原告らが,原告らと期間の定めのない労働契約を締結している従業員との間に不合理な労働条件の相違が存在すると主張して,主位的には,当該不合理な労働条件の定めは労働契約法20条により無効であり,原告らには一般の就業規則等の規定が適用されることになるとして,被告に対し,当該就業規則等の規定の適用を受ける労働契約上の地位の確認を求めるとともに,労働契約に基づき,当該就業規則等の規定により支給されるべき賃金と実際に支給された賃金との差額及びこれに対する各支払期日の翌日以降の商事法定利率年6パーセントの割合による遅延損害金の支払を求め,予備的には,被告が上記労働条件の相違を生じるような嘱託社員就業規則を制定し,原告らとの間で嘱託社員労働契約書を締結し,これらを適用して本来支払うべき賃金を支払わなかったことは,労働契約法20条に違反するとともに公序良俗に反し,違法であるとして,被告に対し,民法709条に基づき,上記差額に相当する額の損害賠償金及びこれに対する各賃金の支払期日以降の民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(争いのない事実並びに末尾掲記の各証拠〔以下,証拠の掲記は,特に断らない限り枝番号を含む。〕及び弁論の全趣旨により認め 年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(争いのない事実並びに末尾掲記の各証拠〔以下,証拠の掲記は,特に断らない限り枝番号を含む。〕及び弁論の全趣旨により認められる事実)(1) 当事者等 ア被告は,一般貨物自動車運送事業等を目的とし,昭和39年12月7日に成立した株式会社であり,セメント輸送,液化ガス輸送,食品輸送等の輸送事業を営んでおり,平成27年9月1日現在,バラセメントタンク車(以下「撒車」という。)21台を含む運送車両合計54台を保有している。 被告の従業員は,同日現在,66名である。(乙51,弁論の全趣旨)イ(ア) 原告Aは,昭和28年▲月▲日生まれの男性であり,昭和55年6月23日,被告との間で期間の定めのない労働契約を締結し,以後,撒車の乗務員として勤務してきたが,平成26年3月31日,被告を定年退職した。原告Aは,同日付けで被告との間で有期労働契約を締結し,同年4月1日以降も撒車の乗務員として勤務している。(甲5の1,甲24,乙8,11)(イ) 原告Bは,昭和29年▲月▲日生まれの男性であり,昭和61年10月9日,被告との間で期間の定めのない労働契約を締結し,以後,撒車の乗務員として勤務してきたが,平成26年9月30日,被告を定年退職した。原告Bは,同日付けで被告との間で有期労働契約を締結し,同年10月1日以降も撒車の乗務員として勤務している。 (甲7,27,乙9,13)(ウ) 原告Cは,昭和29年▲月▲日生まれの男性であり, 平成5年1月18日,被告との間で期間の定めのない労働契約を締結し,以後,撒車の乗務員として勤務してきたが,平成26年9月30日,被告を定年退職した。原告Cは,同日付けで被告との間で有期労働契約を締結し,同年10月1日以降も撒車 期間の定めのない労働契約を締結し,以後,撒車の乗務員として勤務してきたが,平成26年9月30日,被告を定年退職した。原告Cは,同日付けで被告との間で有期労働契約を締結し,同年10月1日以降も撒車の乗務員として勤務している。 (甲8,28,乙10,14)ウ D労働組合E支部(以下「本件組合」という。)は,主としてセメント・生コンクリートの製造・販売・輸送事業に関わる労働者で組織された産業別労働組合であるD労働組合の支部であり,組合員は約200名である。 本件組合には,被告の従業員である組合員で構成されたF分会があり,平成27年8月31日現在,分会員は,原告らを含めて9名である。(甲23)(2) 雇用期間の定めのない従業員の労働条件被告との間で期間の定めのない労働契約を締結している撒車等の乗務員(以下「正社員」という。)の労働条件は,下記アからスまでのとおりである。 (甲1から3まで,乙1,2,3,21)ア賃金構成賃金は,①基準内賃金と②基準外賃金とで構成し,①基準内賃金は,基本給,職務給,精勤手当,役付手当,住宅手当,無事故手当及び能率給とし,②基準外賃金は,家族手当,超勤手当,その他手当及び通勤手当とする(賃金規定〔甲2の1,乙2の1〕2条)。 イ基本給基本給は原則として月給とする(賃金規定9条)。基本給は,下記(ア)及び(イ)で構成される(賃金表〔甲2の2,乙2の2〕)。 (ア) 在籍給在籍1年目を8万9100円とし,在籍1年につき800円を加算(ただし,在籍41年目の12万1100円が上限。)。 (イ) 年齢給 20歳をゼロ円とし,1歳につき200円を加算(ただし,50歳の6000円が上限。)。 ウ能率給乗務員に対して当該月稼働 在籍41年目の12万1100円が上限。)。 (イ) 年齢給 20歳をゼロ円とし,1歳につき200円を加算(ただし,50歳の6000円が上限。)。 ウ能率給乗務員に対して当該月稼働額に属する職種の一定の指数を乗じた額を支給する(賃金規定12条)。その指数は,下記(ア)から(エ)までのとおりとする(賃金表)。 (ア) 10トン撒車 4.60パーセント(イ) 12トン撒車 3.70パーセント(ウ) 15トン撒車 3.10パーセント(エ) 撒車トレーラ 3.15パーセント エ職務給職種により職務給を支払う(賃金規定13条)。その額は,下記(ア)から(エ)までのとおりとする(賃金表)。 (ア) 10トン撒車 7万6952円(イ) 12トン撒車 8万0552円(ウ) 15トン撒車 8万2952円(エ) 撒車トレーラ 8万2900円オ精勤手当就業規則所定の休日を除いて出勤した者(満勤者)に精勤手当を支払う(賃金規定14条)。その額は5000円とする(賃金表)。 カ無事故手当乗務員にして1か月間無事故であった者に対して無事故手当を支払う(賃金規定15条)。その額は5000円とする(賃金表)。 キ住宅手当従業員に対して職種,地域,その他に応じ住宅手当を支払う(賃金規定16条)。その額は1万円とする(賃金表)。 ク家族手当従業員に対して家族手当を支払う(賃金規定17条)。その額は,妻(配偶者を指すものと解される。)について5000円,子一人について5000円(二人まで)とする(賃金表)。 ケ役付手当役付者に対して役付手当を支払う(賃金規定18条)。その額は,班長が3000円,組長 。)について5000円,子一人について5000円(二人まで)とする(賃金表)。 ケ役付手当役付者に対して役付手当を支払う(賃金規定18条)。その額は,班長が3000円,組長が1500円とする(賃金表)。 コ超勤手当従業員に対し,時間外労働,休日労働を命じた場合は,時間外勤務手当,休日勤務手当をそれぞれ支給する(賃金規定19条)。 サ通勤手当従業員に対して通勤手当を支給する。鉄道,バス通勤者に対し通勤定期代を補助する(賃金規定20条)。その額は,公共交通機関の1か月定期券相当額とするが,4万円を限度とする(賃金表)。 シ賞与被告の就業規則(甲1,乙1。以下「正社員就業規則」という。)49条ロは,従業員の賞与について,別に定めるところによる旨を定めているところ,被告が本件組合との間で平成16年9月17日に締結した同日付け協定書(甲3,乙21。以下「本件協定書」という。)1項(2)④には,年間賞与を基本給の5か月分(ただし,出勤率80パーセント未満の者には出席率を適用し,事故1件につき5000円〔2件まで〕を減額し,算出額の100円未満を四捨五入する。)とする旨が定められている。 ス退職金3年以上勤務して退職した現務員(運転手・作業員・整備員)には,退職金を支給する(退職金規定〔乙3〕2条,3条)。 (3) 被告の定年後再雇用制度ア正社員就業規則19条は,従業員の定年を満60歳とし,4月1日から9月30日までの間に定年に到達した者は,9月30日に定年退職し,10月1日から3月31日までの間に定年に到達した者は,3月31日に定年退職する旨を定めている。(甲1,乙1)イ被告の嘱託社員就業規則は,定 に定年に到達した者は,9月30日に定年退職し,10月1日から3月31日までの間に定年に到達した者は,3月31日に定年退職する旨を定めている。(甲1,乙1)イ被告の嘱託社員就業規則は,定年で退職する者のうち本人が継続勤務を希望し,被告が雇用を必要と認めて採用された者等を嘱託社員という旨を定めた上で(2条),嘱託契約は期間を定めて締結すること(4条1項),契約期間は1年以内とすること(4条2項),嘱託社員の給与は原則として嘱託社員労働契約に定めるところによること(12条),嘱託社員には賞与その他の臨時的給与及び退職金を支給しないこと(13条)等を定めてい る(以下,「嘱託社員」というときは,特に断らない限り,定年退職後に被告との間で有期雇用契約を締結して引き続き撒車等の乗務員として勤務する従業員を指す。)。(甲4,乙4)ウまた,被告は,平成22年4月1日,嘱託社員の採用基準,賃金等の労働条件を定めた「定年後再雇用者採用条件」(以下「再雇用者採用条件」という。)を策定し,その後これを改定してきており,平成26年4月1日付けで改定された再雇用者採用条件は,下記(ア)から(オ)までのとおり定めている。(乙25から27まで,51)(ア) 採用対象者(1項)60歳定年に達した者で,再雇用を希望する者(イ) 契約開始時期(3項)満60歳に達した後の10月1日又は4月1日のいずれか早い日(ウ) 契約期間(4項)1年以内の期間を定めて再雇用する。 (エ) 賃金(5項,7項)①基本賃金 12万5000円②歩合給 (ⅰ)撒車12トン車稼働額×12パーセント(ⅱ)撒車15トン車稼働額×10パーセント(ⅲ)トレ (エ) 賃金(5項,7項)①基本賃金 12万5000円②歩合給 (ⅰ)撒車12トン車稼働額×12パーセント(ⅱ)撒車15トン車稼働額×10パーセント(ⅲ)トレーラー稼働額×7パーセント③無事故手当 5000円④調整給老齢厚生年金の報酬比例部分が支給されない期間について月額2万円を支給する。 ⑤通勤手当公共交通機関の1か月分の定期代(ただし,4万円を上限とする。)⑥時間外手当法定労働時間を超える時間外勤務,法定休日,深夜勤務には労働基準法所定の割増賃金を支給する。 ⑦欠勤控除基本給,無事故手当は日割り。通勤手当は,出勤率85パーセント未満の場合に日割り。 ⑧賞与,退職金支給しない。 (オ) 更新(6項)更新の最終期限は満65歳に達した後の9月末日又は3月末日のいずれか早い日とする。 (4) 嘱託社員の労働条件等に関する労使交渉等ア平成16年6月,高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下「高年齢者雇用安定法」という。)が改正され,平成18年4月以降,段階的に65歳までの高年齢者雇用確保措置(定年の引上げ,継続雇用制度の導入又は定年の定めの廃止をいう。以下同じ。)を講じることが事業主に義務づけられた。 イ被告は,上記法改正を受けて本件組合と協議を行い,平成17年1月13日,本件組合との間で,継続雇用措置として,定年に達した者がいったん退職した後,嘱託社員労働契約書に基づき再雇用すること,この措置を平成25年4月1日までに段階的に引き上げていき,同日以降は65歳までとすること等を内容とする協定を締結した。(乙22)ウ被告は,平成22年4月1日,再雇用者採用 雇用すること,この措置を平成25年4月1日までに段階的に引き上げていき,同日以降は65歳までとすること等を内容とする協定を締結した。(乙22)ウ被告は,平成22年4月1日,再雇用者採用条件を策定した。この再雇用者採用条件における賃金の定めは,下記①から⑥までのとおりであった。 (乙25,51)①基本賃金 10万円②歩合給撒車(13トン,15トン)稼働額×10パーセント③無事故手当 1万円④通勤手当 1か月の定期代(ただし,4万円を上限とする。)⑤時間外手当法定労働時間を超える時間外勤務,法定休日・深夜勤務には労働基準法所定の割増賃金を支給する ⑥欠勤控除基本給,無事故手当は日割り。通勤手当は,出勤率85パーセント未満の場合に日割り。 エ(ア) 被告は,平成24年3月27日,同年4月4日,同年5月10日,同年6月7日,同年7月10日及び同年10月30日,定年後に継続して勤務する従業員の労働条件等について,本件組合との間で団体交渉を行った。本件組合は,団体交渉において,賃金等の労働条件を引き下げることなく65歳までの雇用確保措置をとること,定年延長を原則とすること等を要求したが,被告は,定年の引上げは行わず,定年後再雇用を行うこと,賃金水準を正社員と同程度にすることはできないこと等を回答した。(甲23,乙37から39まで,51から71まで,95)(イ) この間,被告は,同年5月10日の団体交渉において,本件組合に対し,前記ウの再雇用者採用条件を交付するとともに,定年後再雇用者の賃金水準が定年前の75パーセント程度になることを説明した。これに対し,本件組合は,以後,繰り返し,賃金の引下げ幅を20パーセントや10パーセントにした場合の影響について試算するよう求めるとともに,再雇用条件の交 の75パーセント程度になることを説明した。これに対し,本件組合は,以後,繰り返し,賃金の引下げ幅を20パーセントや10パーセントにした場合の影響について試算するよう求めるとともに,再雇用条件の交渉の土台になる資料として,会社全体の売上高,運送原価,販売費及び一般管理費等の推移,バラセメント運送部門の売上高及び運送原価の推移,バラセメント運転手の平均年収の推移等といった経営資料の提示を求めたが,被告は,これらの要求に応じなかった。 なお,本件組合は,平成25年12月以降も,被告に対して上記経営資料の提示を求めたが,被告は,現在までこれに応じていない。(甲23,乙37,61から66まで,68,77,84,88,95)(ウ) 他方において,被告は,平成24年6月中旬,定年後再雇用者の基本賃金を同月分から2万円増額して月12万円とすることを決定し,同年7月10日の団体交渉において,本件組合にその旨を伝えた。 (甲23,乙37,51,68,95) (エ) 本件組合は,上記基本賃金の増額後も,被告に対し,定年後再雇用者の年収を正社員との均衡を考慮した水準に引き上げるよう検討することを要求するとともに,再雇用者の就労と収入の実態に基づいて団体交渉を行うために,再雇用者の就労日数,歩合給の支給額,賃金総支給額,年収,残業時間等を開示するよう要求したが,被告は,いずれの要求にも応じられない旨を回答した。(甲23,乙69から71まで,95)オ(ア) 被告は,平成25年3月13日及び同月28日,同月31日に定年退職を迎えるG組合員の定年後再雇用等について,本件組合との間で団体交渉を行った。なお,本件組合の組合員で定年退職を迎えるのは同組合員が初めてであった。上記団体交渉において,本件組合は,G組合員を定年前の賃金体系に基づく賃金 再雇用等について,本件組合との間で団体交渉を行った。なお,本件組合の組合員で定年退職を迎えるのは同組合員が初めてであった。上記団体交渉において,本件組合は,G組合員を定年前の賃金体系に基づく賃金,労働条件で再雇用し,一時金(賞与)についても定年前と同一の基準で支給すること等を要求したが,被告は,再雇用者採用条件に基づいて採用する方針である旨を回答し,上記要求に応じなかった。なお,この団体交渉において,本件組合は,無事故手当について,正社員が5000円であるのに嘱託社員が1万円であるのは不合理である等と主張した。(甲12,23,乙28,51,72から76まで,95)(イ) G組合員は,同月29日,被告との間で,期間を同年4月1日から平成26年3月31日までとする有期労働契約を締結した。(乙15)(ウ) 被告は,その後,嘱託社員の無事故手当を1万円から5000円にし,基本賃金を12万円から12万5000円にすることを決定し,平成25年4月1日付けで再雇用者採用条件を改定するとともに,同月4日に行われた団体交渉において,これを本件組合に伝えた。上記改定後の再雇用者採用条件は,前記(3)ウ(エ)④の調整給の定めがないほかは,前記(3)ウ記載の平成26年4月1日改正後のものと同じであった。また,被告は,平成25年4月23日,G組合員との間で,同組合員の基本賃 金及び無事故手当を上記改正内容に変更する旨の合意をした。(乙16,26,29,95)カ(ア) 厚生年金保険法附則8条の2第1項は,同法附則8条の定める特例により老齢厚生年金の支給を受けられる者の年齢(同条によれば60歳以上)を,昭和28年4月2日から昭和30年4月1日までの間に生まれた男子については,原則として61歳以上とする旨を定めている。 例により老齢厚生年金の支給を受けられる者の年齢(同条によれば60歳以上)を,昭和28年4月2日から昭和30年4月1日までの間に生まれた男子については,原則として61歳以上とする旨を定めている。 (イ) 被告は,平成26年1月9日及び同年3月13日,本件組合との間で,定年後再雇用者の労働条件等について団体交渉を行った。本件組合は,同月13日の団体交渉において,老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢が引き上げられたことに伴い,原告Aには61歳になるまで年金の支給がないことを指摘して,同月31日に定年退職を迎える原告Aを定年退職前と同じ賃金で再雇用するよう要求した。被告は,同日の団体交渉において,定年後再雇用者の労働条件は現行制度どおりとする旨を回答したが,その後の同月22日,本件組合に対し,定年後再雇用者の賃金について,再雇用者採用条件記載の賃金に加え,老齢厚生年金の報酬比例部分が支給されない期間について,月額1万円の調整給を別途支給する(適用対象者は平成25年4月1日以降の定年退職者とする。)旨の同日付け回答書を送付した。これに対し,本件組合は,同月24日,上記回答では不十分である旨を記載した書面を被告に送付した。 (甲23,乙30,40,41,51,77から84まで,95)(ウ) 原告Aは,平成26年3月31日に被告を定年退職し,同日,被告との間で,期間を同年4月1日から平成27年3月31日までとする有期労働契約を締結した。同契約に係る契約書(嘱託社員労働契約書)に記載された労働条件は,前記オ(ウ)記載の平成25年4月1日付け再雇用者採用条件に,調整給として1万円を支給する旨が付加されたものであった。(甲5の1,甲24,乙11) (エ) 本件組合は,平成26年4月10日の団体交渉において, 1日付け再雇用者採用条件に,調整給として1万円を支給する旨が付加されたものであった。(甲5の1,甲24,乙11) (エ) 本件組合は,平成26年4月10日の団体交渉において,被告に対し,前記(イ)の同年3月22日付け回答書では不十分であると改めて主張し,定年退職者を定年前と同額の賃金で再雇用することを要求した。 被告は,この団体交渉においては,月1万円の調整給の支給を妥当なものと考えている旨を回答したが,その後の同年4月25日の団体交渉において,老齢厚生年金の報酬比例部分が支給されない期間について,月額2万円の調整給を別途支給する(適用対象者は平成25年4月1日以降の定年退職者とする。)旨を伝えるとともに,平成26年4月1日付けで前記(3)ウのとおり再雇用者採用条件を改定した。(乙27,31,51,95)(オ) 被告は,同年5月7日,原告Aとの間で,老齢厚生年金の報酬比例部分が支給されない期間(同年11月まで)について月額2万円の調整給を別途支給する旨の合意をした。(甲5の2,乙12)キ被告は,その後,同年6月2日及び同年7月23日にも本件組合と団体交渉を行い,同年9月18日及び同月25日には原告B及び同Cの定年退職後の労働条件等について団体交渉を行った。本件組合は,これらの団体交渉において,原告B及び同Cを含む定年退職者を定年前と同額の賃金で再雇用するとともに,再雇用者に一時金を支給することを改めて求めたが,被告は,これに応じなかった。(甲15から18まで,乙43,85から95まで)(5) 原告らの有期労働契約の内容等ア(ア) 原告Aは,前記(4)カ(ウ)記載のとおり,平成26年3月31日,被告との間で有期労働契約を締結した。なお,本件組合は,同年4月1日,被告に対し,同日付けの抗 告らの有期労働契約の内容等ア(ア) 原告Aは,前記(4)カ(ウ)記載のとおり,平成26年3月31日,被告との間で有期労働契約を締結した。なお,本件組合は,同年4月1日,被告に対し,同日付けの抗議及び団体交渉申入書を送付したが,同書面には「A組合員は,再雇用条件についての会社回答では同意できず,そもそも協議中で決まっていなかったが,雇用契約書に署名捺印し提出し なければ4月1日以降の就労ができなくなるため,条件について同意はできないが,やむなく雇用契約書を会社に提出したのである。」との記載があった。(甲5の1,甲13,乙11)(イ) また,原告Aは,前記(4)カ(オ)記載のとおり,同年5月7日,被告との間で月額2万円の調整給を支給する旨の合意をした。なお,本件組合は,同月8日,被告に対し,同日付けの抗議及び団体交渉申入書を送付したが,同書面には「A組合員は,『合意書』にサインしなければ4月分賃金が支払ってもらえないので,会社の回答内容には同意できず,現在も組合と交渉中であるが,仕方なく『同意書』に署名したものである。」との記載があった。(甲5の2,甲14,乙12)イ原告B及び同Cは,いずれも平成26年9月30日に被告を定年退職し,同日,被告との間で,それぞれ,期間を同年10月1日から平成27年3月31日までとする有期労働契約を締結した。同契約に係る契約書(嘱託社員労働契約書)に記載された労働条件は,平成26年4月1日付けの再雇用者採用条件と同じであった。なお,本件組合は,同年9月30日,被告に対し,「会社は再雇用契約書を提出しなければ『就労させない』としているので,B,C両組合員の嘱託社員労働契約書は,雇用期間と賃金条件などは不満であり同意できないが,今後も再雇用条件の是正を求める事を前提に,やむを得ず判 約書を提出しなければ『就労させない』としているので,B,C両組合員の嘱託社員労働契約書は,雇用期間と賃金条件などは不満であり同意できないが,今後も再雇用条件の是正を求める事を前提に,やむを得ず判をつき提出することを通知する。」との記載がある同日付け抗議申入書を送付した。(甲7,8,18,27,28,乙13,14)ウ原告らの有期労働契約(以下,前記ア及びイのとおり原告らが被告との間で締結した有期労働契約を併せて「本件有期労働契約」ということがある。)において,賃金は,毎月末日締めで翌月10日払とされていた。(甲2の1,乙2の1,弁論の全趣旨)エ本件有期労働契約において,勤務場所はH営業所,業務は撒車乗務員と されていたが,被告が業務の都合により勤務場所及び担当業務を変更することがある旨が定められていた。なお,この点に関し,正社員就業規則13条は,業務の都合により配置転換又は転職を命じることがある旨を定めている。(甲1,5の1,甲7,8,乙1,11,13,14)オ原告らは,本件有期労働契約の締結後,被告において,従前と同様に撒車の乗務員として勤務した。原告らの業務の内容は,正社員である乗務員らと同じく,撒車に乗務して指定された配達先にバラセメントを配送するというものであり,嘱託社員である原告らと正社員である乗務員らとの間において,業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度に違いはない。(甲24,27,28,弁論の全趣旨)カ原告らは,平成27年3月31日,それぞれ,被告との間で,雇用期間を同年4月1日から平成28年3月31日までとする旨の嘱託社員労働契約書を取り交わし,本件有期労働契約を更新する旨の合意をした。(乙44から46まで)(6) 原告らの賃金等ア原告らは,平 月1日から平成28年3月31日までとする旨の嘱託社員労働契約書を取り交わし,本件有期労働契約を更新する旨の合意をした。(乙44から46まで)(6) 原告らの賃金等ア原告らは,平成26年5月(原告A)又は同年11月(原告B及び同C)以降,平成27年10月までの間,別紙5(実際の支払額一覧表)記載のとおり,被告から賃金の支払を受けた。(甲6,9,10,争いのない事実〔なお,原告Aの平成27年4月支給に係る有給休暇手当は,甲6の12では8454円であるが,被告の「請求の拡張申立に対する答弁書」による争いのない8453円で計算する。〕)イ仮に,本件有期労働契約における労働条件が前記(2)アからシまでのとおりであったとした場合,原告らに支給されるべき賃金は,別紙6(正社員基準による計算額一覧表)記載のとおりとなり,これと実際に支払を受けた金額(前記ア)とを差引き計算すると,その結果は,別紙2から4まで(請求債権目録)記載のとおりとなる(正社員の「基本給」,「能率給」及 び「超勤手当」と,嘱託社員の「基本賃金」,「歩合給」及び「時間外手当」とが,それぞれ対応するものとして計算した。)。(争いのない事実〔なお,上記アを踏まえての原告Aの請求債権目録の「合計」欄の総額は計算上204万9159円となるが,被告の「請求の拡張申立に対する答弁書」による争いのない総額は204万9160円となる。〕) 2 争点(1) 労働契約法20条違反の有無(2) 労働契約法20条違反が認められる場合における原告らの労働契約上の地位(主位的請求関係)(3) 不法行為の成否及び損害の金額(予備的請求関係) 3 争点に関する当事者の主張(1) 争点(1)(労働契約法20条違反の有無)【原告らの主張】ア被 (主位的請求関係)(3) 不法行為の成否及び損害の金額(予備的請求関係) 3 争点に関する当事者の主張(1) 争点(1)(労働契約法20条違反の有無)【原告らの主張】ア被告の嘱託社員と正社員との間には,賃金及び賞与について労働条件の相違があり,その結果,嘱託社員である原告らの収入は,正社員であった定年前1年と比較して3割前後も引き下げられている。したがって,本件では,使用者との間で有期労働契約を締結している労働者(以下「有期契約労働者」という。)と期間の定めのない労働契約を締結している労働者(以下「無期契約労働者」という。)との間に労働条件の相違があるのであるから,本件には労働契約法20条が適用される。 イ労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違の不合理性について,①労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。),②当該職務の内容及び配置の変更の範囲,③その他の事情を考慮すべきものと定めている。しかるところ,本件において,嘱託社員である原告らと正社員とでは,上記①及び②が全く異ならない。また,上記③の「その他の事情」として考慮すべき事 情は,その例示である上記①及び②と性格が同様又は類似のものである必要があるというべきところ,本件においては,特段の「その他の事情」もない。 ウその上で,嘱託社員と正社員との間の個々の労働条件について,その不合理性を検討すると,まず,被告は,嘱託社員に対し,正社員に支給する職務給を全く支払わず,能率給(歩合給)の支給割合を上げるという賃金体系をとっているが,職務給及び能率給(歩合給)は,車両の大きさ・種別が異なることで乗務員に要求される運転技量,乗務員に課される責任,運送貨物量等が異なることに照らし )の支給割合を上げるという賃金体系をとっているが,職務給及び能率給(歩合給)は,車両の大きさ・種別が異なることで乗務員に要求される運転技量,乗務員に課される責任,運送貨物量等が異なることに照らし,車両の大きさ・種別に着目して定められているものであるから,定年退職の前後で同一の車両に乗務し,同じ業務をしているにもかかわらず,上記のような差異を設けることは不合理である。役付手当については,役付者に他の乗務員と比較して特別の責任や業務負担があるわけではなく,年功給・勤続給的性格のものであり,定年後は定年前より勤続期間が長くなるのであるから,嘱託社員に役付手当を支払わないという相違は不合理である。精勤手当は,欠勤なく勤務することを奨励する目的で,住宅手当は,従業員の住居費の一部を填補する目的で,家族手当は,従業員の生活維持に資する目的で,それぞれ支給されるものであるから,嘱託社員が正社員と同じ業務をしているにもかかわらず,正社員にこれらの手当を支払い,嘱託社員に支払わないという相違は,明らかに不合理である。また,以上のとおり基準内賃金の相違が不合理であるから,これに基づいて計算される超勤手当の相違も不合理である。そして,賞与については,本件組合が最低年収500万円を要求し,これに近づけるために賞与を基本給の5か月分としたという経緯に照らし,被告における低い月例賃金を補完し,一定の生活水準を保障する性質のものであるから,同じ業務をしているにもかかわらず,正社員に賞与を支払い,嘱託社員に支払わないという相違は,明らかに不合理であり,これによる 不利益の程度は非常に大きい。 エ以上のとおり,嘱託社員である原告らと正社員との間には,労働契約に期間の定めがあることによる労働条件の相違があり,これらの相違がいずれも不合理なものであるこ 不利益の程度は非常に大きい。 エ以上のとおり,嘱託社員である原告らと正社員との間には,労働契約に期間の定めがあることによる労働条件の相違があり,これらの相違がいずれも不合理なものであることは明らかである。したがって,原告らと正社員との間の上記労働条件の相違は,労働契約法20条に違反するというべきである。 オこれに対し,被告は,嘱託社員と正社員との間の労働条件の相違が,「期間の定めがあること」を理由とするものではないとして,本件に労働契約法20条の適用はない旨を主張する。しかしながら,労働契約法20条の「期間の定めがあることにより」との文言は,期間の定めがあることと労働条件の相違との間に一定の因果関係が存在することを要件とするものであるが,この因果関係の要請は,期間の定めがあることと明らかに関係のない相違を排除する趣旨にすぎない。したがって,有期労働契約制度の成り立ち,契機,使用者の意図等は問題にならないというべきであるから,定年後再雇用として新たに有期労働契約を締結するものであるからといって,労働契約法20条の適用を免れるものではない。このことは,労働契約法の一部を改正する法律(平成24年法律第56号)の立案担当者であった厚生労働省労働条件政策課長の労働政策審議会労働条件分科会における発言や厚生労働省労働基準局長通達(平成24年8月10日基発0810第2号「労働契約法の施行について」)が,定年後再雇用としての有期労働契約にも労働契約法20条の適用があることを想定していることからも明らかである。被告は,高年齢者雇用確保措置として定年後再雇用制度を導入したことを強調するが,被告が高年齢者雇用確保措置として,定年の引上げや定年の定めの廃止ではなく,有期労働契約による再雇用制度を選択した目的は,再雇用としての有期契約の形式を 定年後再雇用制度を導入したことを強調するが,被告が高年齢者雇用確保措置として,定年の引上げや定年の定めの廃止ではなく,有期労働契約による再雇用制度を選択した目的は,再雇用としての有期契約の形式を利用して従前の労働条件を切り下げることにあったというべきであるから,本件有期労働契約が期 間の定めのある契約であることと労働条件の相違との間に因果関係があることは明らかである。 カまた,被告は,労働契約法20条の「不合理」について,有期契約労働者の労働条件が法的に否認すべき程度に不公正に低いものとの趣旨である旨を主張する。しかしながら,そのような条文にない要件を読み込むのは「不合理」の通常の理解に反するし,「不合理」の意味をこのように限定的に解釈することは,有期契約労働者の均等待遇の実現を目指すという法の趣旨にも反する。「不合理」とは,合理的でないということであるから,合理性を説明できないのであれば,違法の扱いを受けると解すべきである。 キ被告は,労働契約法20条の不合理性について,個々の労働条件ではなく,賃金体系全体として合理性の有無を検討すべきである旨を主張するが,不合理性の判断を個々の労働条件ごとに行うべきことは,前記オの通達や国会審議における政府答弁等に照らして明らかである。 ク被告は,原告らと正社員との間の労働条件の相違が不合理でないとして,種々の事情を列挙するが,いずれも労働契約法20条が定める職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲と同様又は類似の事情とはいえないものであって,同条の「その他の事情」として不合理性判断の考慮要素になるものではない。また,この点をおいても,以下のとおり,被告の主張する事情は,いずれも不合理性の評価を妨げるものとはいえない。 (ア) 被告は,被告の定年後再雇用制度において 性判断の考慮要素になるものではない。また,この点をおいても,以下のとおり,被告の主張する事情は,いずれも不合理性の評価を妨げるものとはいえない。 (ア) 被告は,被告の定年後再雇用制度において,正社員時からの賃金の下げ幅が世間水準に比べて小さい旨や,定年後再雇用者の賃金水準が同業他社の水準を上回る旨を主張するが,労働契約法20条は,同一の使用者における有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件を比較するものであるから,世間水準との比較に何らの意味もないし,仮に,定年後再雇用者の賃金水準が低いという現状があったとしても,それが期間の定めがあることによる不合理なものであれば,その格差を是正す ることこそが労働契約法20条の目的である。 (イ) 被告は,老齢厚生年金の不支給期間については調整給を支給して配慮しており,その後は老齢厚生年金が支給されている旨を主張するが,老齢厚生年金の支給をもって労働契約法20条の不合理性の判断に影響するものではなく,また,被告の援用する独立行政法人労働政策研究・研修機構(以下「労働政策研究・研修機構」という。)の調査結果をみても,公的年金を受け取ることになった時点で年間給与の水準を変更しない会社のほうが多数なのであり,老齢厚生年金の支給に伴い,調整給の支給を停止して賃金を引き下げることに合理性は乏しい。また,被告は,年金受給者に聞き取り調査をするなどして調整給の金額を決定したものではないし,2万円という調整給の金額は,嘱託社員と正社員との間の賃金格差に比して余りに少ない。 (ウ) 被告は,嘱託社員の労働条件について,被告が一方的に設定したものではなく,組合との労使協議を経て改善を図り決定してきたものである旨を主張する。しかしながら,原告らを含む定年後再雇用者の労働条件に関して,団体 託社員の労働条件について,被告が一方的に設定したものではなく,組合との労使協議を経て改善を図り決定してきたものである旨を主張する。しかしながら,原告らを含む定年後再雇用者の労働条件に関して,団体交渉は行われてきたものの,被告の姿勢は,被告が提示した条件に同意した場合は再雇用するというもので,再雇用者の労働条件を切り下げる根拠や理由を示すこともなく,一時金の支給や賃金水準の引上げ等の具体的な改善について協議をしなかった。被告は,団体交渉に形ばかり応じるだけで,その交渉態度には誠意を尽くして労使合意を達成しようとする姿勢がみられず,「経営判断」や「裁量権」を振りかざし,一方的に労働条件を押しつけているだけであった。被告は,一貫して定年後再雇用における嘱託社員の労働条件について不誠実な交渉態度をとり続けてきたのである。 (エ) 被告は,原告ら自身が被告の提示した労働条件に同意して本件有期労働契約を締結している旨を主張する。しかしながら,労働契約法20 条は,期間の定めがあることによる不合理な労働条件を違法,無効とするものであり,民法90条の公序を構成するものであるし,有期契約労働者は,雇止めの不安があることによって合理的な労働条件の決定が行われにくいのであるから,労働者の同意によって不合理性が解消されるものではない。被告は,被告が定めた再雇用条件に同意することを再雇用の条件としており,個別の労働者が労働条件を交渉する余地はなかったし,原告らは,雇用契約書を提出した直後に,再雇用条件には同意できないが署名押印しないと再雇用されないのでやむを得ず雇用契約書を締結することにした旨を通知しているのである。したがって,この点が不合理性の評価を妨げるものと解することは許されない。 ケ以上のとおり,被告は,世間一般に定年後再雇用 やむを得ず雇用契約書を締結することにした旨を通知しているのである。したがって,この点が不合理性の評価を妨げるものと解することは許されない。 ケ以上のとおり,被告は,世間一般に定年後再雇用者の賃金は正社員より下げている,被告の賃金は高水準である,年金により賃下げ分を補える,形式的にでも労使協議を続け,本人から同意書を取っているので問題がない,などといった独自の理屈に基づき,個々の労働条件の相違についての合理性を検討することもなく,漫然と定年後再雇用者の賃金を正社員に比して著しく低いものにしたのであり,本件こそ,労働契約法20条を適用して不当な差別を是正すべき事案である。 【被告の主張】ア労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の相違が「期間の定めがあること」を理由とするものである場合に,これを規制するものである。しかし,被告における定年後再雇用制度は,満60歳の定年によりいったん退職した者との間で,高年齢者雇用安定法により義務づけられている定年後再雇用として,新たに有期労働契約を締結するものである。その場合の賃金等の労働条件は,定年退職後の労働契約として新たに設定したものであり,定年後再雇用であることを理由に,正社員との間で労働条件の相違を設けているのであって,「期間の定めがあること」 を理由として労働条件の相違を設けているわけではない。したがって,嘱託社員である原告らと正社員との間の労働条件の相違は,「期間の定めがあること」を理由とする労働条件の相違ではないから,本件に労働契約法20条は適用されない。 イこの点を一応おくとしても,被告における定年後再雇用者の賃金設定は,以下のとおり,何ら不合理なものではない。 ウ労働契約法20条の「不合理と認められるものであってはな 条は適用されない。 イこの点を一応おくとしても,被告における定年後再雇用者の賃金設定は,以下のとおり,何ら不合理なものではない。 ウ労働契約法20条の「不合理と認められるものであってはならない」とは,有期契約労働者に対する不利益な取扱いが「合理的なもの」と認められる必要はないが,「不合理」とまで認められるものであってはならないという趣旨であり,有期契約労働者の労働条件が無期契約労働者の労働条件に比して単に低いばかりでなく,法的に否認すべき程度に不公正に低いものであってはならないとの趣旨を表現したものであると解される。また,賃金に関して不合理性を判断するに際しては,賃金を構成する項目ごとに相違の不合理性を検討すべきではない。各賃金項目は,緊密に関連して全体としての賃金水準を設定するものであるから,不合理性の判断に当たっては,賃金体系全体として判断する必要がある。さらに,労働契約法20条が不合理性の判断要素として挙げる事情のうち,「その他の事情」については,有期契約労働者と無期契約労働者との扱いの相違が問題となる処遇に様々な事項や性質のものがあることに鑑みれば,幅広い事情が考慮されるものと解される。 エこれらを前提に,本件についてみれば,次の点を指摘することができる。 (ア) 被告における定年後再雇用は,高年齢者雇用安定法に基づいて,被告をいったん退職した労働者と新たに労働契約を締結するものであり,被告と定年退職者との合意によって賃金を含めた労働条件が定められるものである。被告は定年前と同一の労働条件で再雇用しなければならない法的義務を負っているものではなく,再雇用時に一定割合で賃金を引 き下げたとしても,当然に不当,不合理とすべき理由はない。被告の従業員は,入社後,正社員として年功的要素を含む賃金体 らない法的義務を負っているものではなく,再雇用時に一定割合で賃金を引 き下げたとしても,当然に不当,不合理とすべき理由はない。被告の従業員は,入社後,正社員として年功的要素を含む賃金体系で処遇され,年齢,勤続年数に応じて賃金水準が引き上げられていき,定年退職時には一定額の退職金も支給されており,一般的には,その頃までに家族構成も変化し,子女を扶養する必要もなくなっているのであり,再雇用に当たって賃金水準を一定程度引き下げられることもやむを得ないというべきである。 (イ) 被告は,定年後再雇用の賃金体系を設定するに当たり,正社員時に支給していた一部の手当等(職務給,役付手当,精勤手当,住宅手当,家族手当)を廃止したが,それに代わって歩合給を上げて,所定労働時間における歩合給をより多く得やすくするなどの考慮を行い,定年後再雇用者の想定賃金の引下げ率が,同一の就労条件のもとで平均して21パーセント程度になるように設定した。すなわち,被告は,定年後再雇用者の賃金に関して,新たな労働契約の締結として,総支給額が平均して定年前の79パーセント程度になるように考慮して賃金水準を設定した。これに対し,労働政策研究・研修機構の調査によれば,8割前後の会社が,高年齢者雇用確保措置として継続雇用制度(そのほとんどが再雇用制度)を採用している中で,継続雇用者の業務内容,勤務日数,時間を定年前後で変更せず,継続雇用者に定年前と同じように業務に従事させながら,多くの会社が定年前に比べて定年後再雇用者の賃金を3割程度引き下げており,被告の引下げ幅は,一般的な水準よりも小さい。 (ウ) 被告における定年前の労働者の賃金水準は,世間水準を相当上回っており,原告らの定年前の平均年収も,同業他社に比べて1割以上高い水準であった。このように, ,一般的な水準よりも小さい。 (ウ) 被告における定年前の労働者の賃金水準は,世間水準を相当上回っており,原告らの定年前の平均年収も,同業他社に比べて1割以上高い水準であった。このように,被告においては,もともと定年前の賃金水準が高い上に,引下げ率も一般的な水準より小さいことから,被告の定年後再雇用制度における賃金水準は,同業他社の同年代の賃金水準より も相当程度高いものである。 (エ) 被告は,本件組合との間で,定年退職後再雇用された場合の労働条件は,個別の労働契約によることを合意した。その後,本件組合から定年後再雇用者の賃金水準を引き上げるように要求があったことから,被告は,本件組合との協議を経て,基本賃金を10万円から12万円に引き上げ,無事故手当を1万円から5000円に減額する代わりに基本賃金を12万5000円に増額した。また,被告は,老齢厚生年金の報酬比例部分が支給されない期間があるとの本件組合の指摘を踏まえ,その不支給期間について,調整給として月額2万円を別途支給することにした。このように,被告は,本件組合との間の労使協定に基づき,定年後再雇用者と個別の労働契約を締結し,本件組合との協議を経て賃金水準の改善を行ってきた。 (オ) 年金との関係についていえば,被告は,原告らに老齢厚生年金が支給されない期間について,月2万円の調整給を支給しており,原告らは,61歳以降については,その収入に応じて一定額の老齢厚生年金の報酬比例部分を受給することができる。 (カ) 原告らは,被告との間で嘱託社員労働契約を締結したものであるが,その際,原告らが被告の提示した賃金その他の労働条件に同意して契約を締結したものであることはいうまでもない。仮に,原告らが被告の提示した賃金に納得できないのであれば, 働契約を締結したものであるが,その際,原告らが被告の提示した賃金その他の労働条件に同意して契約を締結したものであることはいうまでもない。仮に,原告らが被告の提示した賃金に納得できないのであれば,契約締結を拒絶することもできたのである。 (キ) これらの事情に照らせば,原告らに適用している定年後再雇用制度に基づく賃金の額が不合理と評価され,法的に否認される余地はないというべきである。 オ以上のとおり,本件が労働契約法20条に違反する旨の原告らの主張は全く理由がないことが明らかである。 (2) 争点(2)(労働契約法20条違反が認められる場合における原告らの労働契約上の地位〔主位的請求関係〕)【原告らの主張】ア前記(1)において主張したとおり,原告らの労働条件のうち,職務給,能率給(歩合給),役付手当,精勤手当,住宅手当,家族手当,超勤手当及び賞与に関する正社員との間の労働条件の相違は不合理であるから,労働契約法20条により,原告らとの関係では,嘱託社員就業規則及び嘱託社員労働契約書の労働条件のうち,これらに関する部分は無効となる。 イところで,正社員就業規則3条は,「この規則は会社に在籍する全従業員に適用する。」とした上で,「嘱託者」についてはその一部を適用しないことがあるものとしており,この規定により,嘱託社員である原告らには,嘱託社員就業規則及び嘱託社員労働契約書の規定が適用され,正社員就業規則が適用されないという関係になっていた。しかし,上記のとおり,嘱託社員就業規則及び嘱託社員労働契約書の一部が無効になることにより,これらが適用されない結果として,正社員就業規則及び賃金規定が適用されることになり,正社員就業規則49条ロの規定により,本件協定書も適用されることになる。 ウ の一部が無効になることにより,これらが適用されない結果として,正社員就業規則及び賃金規定が適用されることになり,正社員就業規則49条ロの規定により,本件協定書も適用されることになる。 ウしたがって,原告らは,上記労働条件との関係では,正社員就業規則,賃金規定及び上記協定書が適用される労働契約上の地位にあるものである。 【被告の主張】争う。 (3) 争点(3)(不法行為の成否及び損害の金額〔予備的請求関係〕)【原告らの主張】ア前記(1)において主張したところからすれば,被告が正社員との間に賃金格差を生じるような嘱託社員就業規則を制定し,原告らとの間で本件有期労働契約を締結し,これらの定める労働条件を適用して,原告らに対し, 原告らが正社員であれば支払うべき賃金を支払わなかったことは,労働契約法20条に反して違法である。 イまた,労働基準法3条,4条のような差別禁止規定の根底には,およそ人はその労働に対し等しく報われなければならないという均等待遇の理念が存在している。均等待遇の理念は,ILOの国際憲章に規定されるなどして,国際社会における普遍的な原則として確立しており,労働契約法3条2項も一般的な均等待遇の理念を規定したものである。同一(価値)労働同一賃金の原則の基礎にある均等待遇の理念は,賃金格差の違法性判断において,一つの重要な判断要素として考慮されるべきものであって,その理念に反する賃金格差は,使用者に許された裁量の範囲を逸脱したものとして,公序良俗違反の違法を招来する場合があり,許容される賃金格差の範囲を明らかに超えた場合,その限度において公序良俗違反として違法になる。本件において,嘱託社員である原告らと正社員とでは,職務の内容並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲が同 容される賃金格差の範囲を明らかに超えた場合,その限度において公序良俗違反として違法になる。本件において,嘱託社員である原告らと正社員とでは,職務の内容並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲が同一であるにもかかわらず,原告らと正社員との間に各種手当について大きな格差があることは,許容される賃金格差の範囲を明らかに超え,同一労働同一賃金の原則(均等待遇の原則)に反し,公序良俗に反する。 ウ以上のとおり,被告が正社員との間に賃金格差を生じるような嘱託社員就業規則を制定し,原告らとの間で本件有期労働契約を締結し,これらの定める労働条件を適用して,原告らに対し,原告らが正社員であれば支払うべき賃金を支払わなかったことは,労働契約法20条に反し違法であるとともに,公序良俗に反するものであるから,原告らに対する不法行為を構成し,原告らは,被告に対し,民法709条に基づき,賃金の差額に相当する金額の損害賠償請求権を有する。 【被告の主張】ア前記(1)において主張したとおり,本件では労働契約法20条違反がない から,同条違反を根拠とする原告らの主張は,その前提を欠く。 イまた,我が国の労働市場においては,現在も年功序列的な賃金体系が一般的であり,賃金決定については,学歴,勤続年数,職種,職能資格,成果,責任の度合い等が考慮されているほか,家族の有無等の生活給的要素まで勘案されることがある。すなわち,労働者の賃金は,単純に労働により生み出された成果や付加価値によって決定されるものではなく,生活給的性格を反映した多様な考慮要素をしんしゃくして決せられている。したがって,原告らの主張する同一労働同一賃金の原則は,労働契約を規律する一般的な法規範として存在しているとは認められないし,公の秩序として同原則が存在していると 素をしんしゃくして決せられている。したがって,原告らの主張する同一労働同一賃金の原則は,労働契約を規律する一般的な法規範として存在しているとは認められないし,公の秩序として同原則が存在していると認めることもできない。また,被告の賃金制度においても,正社員の基本給は,在籍給と年齢給によって構成されており,同一内容の労働を行っても,在籍年数と年齢により支給される基本給の額が異なるのであって,被告の賃金制度上も,正社員間で同一労働同一賃金の原則は妥当しておらず,ましてや正社員と定年後再雇用者との間で同原則を適用する余地はない。したがって,同原則違反を根拠とする原告らの請求も理由がない。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(労働契約法20条違反の有無)について(1) 本件有期労働契約は,期間の定めのある労働契約であるところ,その内容である賃金の定め(前提事実(3)ウ(エ)の定めをいう。以下同じ。)は,正社員(被告との間で期間の定めのない労働契約を締結している撒車等の乗務員)の労働契約の内容である賃金の定め(前提事実(2)アからシまでの定めをいう。以下同じ。)と相違しているから(以下,この相違を「本件相違」という。),本件有期労働契約には,労働契約法20条の規定が適用されることになる。 (2)アこの点,被告は,本件有期労働契約の内容である労働条件は,定年退 職後の労働契約として新たに設定したものであり,定年後再雇用であることを理由に正社員との間で労働条件の相違を設けているのであって,期間の定めがあることを理由として労働条件の相違を設けているわけではないから,本件有期労働契約に労働契約法20条の規定は適用されない旨を主張する。 イしかしながら,労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違 けているわけではないから,本件有期労働契約に労働契約法20条の規定は適用されない旨を主張する。 イしかしながら,労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違が不合理なものであることを禁止する趣旨の規定であると解されるところ,同条の「期間の定めがあることにより」という文言は,ある有期契約労働者の労働条件がある無期契約労働者の労働条件と相違するというだけで,当然に同条の規定が適用されることにはならず,当該有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違が,期間の定めの有無に関連して生じたものであることを要するという趣旨であると解するのが相当であるが,他方において,このことを超えて,同条の適用範囲について,使用者が期間の定めの有無を理由として労働条件の相違を設けた場合に限定して解すべき根拠は乏しい。しかるところ,本件において,有期契約労働者である嘱託社員の労働条件は,再雇用者採用条件によるものとして運用されており,無期契約労働者である正社員の労働条件に関しては,正社員就業規則及び賃金規定が一律に適用されているのであって,有期契約労働者である嘱託社員と無期契約労働者である正社員との間には,賃金の定めについて,その地位の区別に基づく定型的な労働条件の相違があることが認められるのであるから,当該労働条件の相違(本件相違)が期間の定めの有無に関連して生じたものであることは明らかというべきである。 ウしたがって,この点に関する被告の主張を採用することはできない。 (3) そこで,本件相違が不合理なものと認められるか否かを次に検討する。 ア労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条 件の相違が不合理なものと認められるか否かの考慮要素として,①職務の内容,②当該職 認められるか否かを次に検討する。 ア労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条 件の相違が不合理なものと認められるか否かの考慮要素として,①職務の内容,②当該職務の内容及び配置の変更の範囲のほか,③その他の事情を掲げており,その他の事情として考慮すべき事情について特段の制限を設けていないから,上記労働条件の相違が不合理であるか否かについては,一切の事情を総合的に考慮して判断すべきものと解されるが,同条が考慮要素として上記①及び②を明示していることに照らせば,同条がこれらを特に重要な考慮要素と位置づけていることもまた明らかである。また,短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律9条は,有期契約労働者とともに非正規労働者と位置づけられることの多い短時間労働者に関し,職務の内容が通常の労働者と同一であり,その職務の内容及び配置が通常の労働者と同一の範囲で変更されると見込まれるものについては,短時間労働者であることを理由として賃金の決定その他の待遇について差別的取扱いをしてはならない旨を定めており,この差別的取扱いの禁止は,待遇の相違が不合理なものであるか否かを問わないものと解される。したがって,短時間労働者については,上記①及び②が通常の労働者と同一である限り,その他の事情を考慮することなく,賃金を含む待遇について差別的取扱いが禁止されていることになる。これらの事情に鑑みると,有期契約労働者の職務の内容(上記①)並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲(上記②)が無期契約労働者と同一であるにもかかわらず,労働者にとって重要な労働条件である賃金の額について,有期契約労働者と無期契約労働者との間に相違を設けることは,その相違の程度にかかわらず,これを正当と解すべき特段の事情がない限り,不合理であるとの評価 にとって重要な労働条件である賃金の額について,有期契約労働者と無期契約労働者との間に相違を設けることは,その相違の程度にかかわらず,これを正当と解すべき特段の事情がない限り,不合理であるとの評価を免れないものというべきである。 イ本件において,嘱託社員である原告らと正社員との間には,業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度に差異がなく(前提事実(5)オ),被告が業務の都合により勤務場所や業務の内容を変更することがある点でも両者の 間に差異はないから(同(5)エ),有期契約労働者である原告らの職務の内容(上記①)並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲(上記②)は,無期契約労働者である正社員と同一であると認められる。また,原告らの職務内容に照らし,定年の前後においてその職務遂行能力についての有意な差が生じているとは考えにくく,実際にもそのような差異が生じていることや,雇用期間中にそのような有意な差異が生じると推測すべきことを相当とする事情を認めるに足りる証拠もないから,職務の内容(上記①)に準ずるような事情の相違もない。そうすると,本件相違は,これを正当と解すべき特段の事情がない限り,不合理なものとの評価を免れないことになる。そこで,以下,上記特段の事情の有無について検討する。 ウ(ア) 本件有期労働契約は,被告が高年齢者雇用安定法により義務づけられている高年齢者雇用確保措置として,被告を定年退職した原告らと被告との間で締結された労働契約である。一般に,従業員が定年退職後も引き続いて雇用されるに当たり,その賃金が引き下げられる場合が多いことは,公知の事実であるといって差し支えない。そして,我が国においては,年功的処遇を維持しつつ賃金コストを一定限度に抑制するために不可欠の制度として定年制が広く採用される一方で,平均寿 場合が多いことは,公知の事実であるといって差し支えない。そして,我が国においては,年功的処遇を維持しつつ賃金コストを一定限度に抑制するために不可欠の制度として定年制が広く採用される一方で,平均寿命の延伸に伴って定年到達者の雇用確保の必要性が高まったことを背景に,高年齢者雇用安定法が改正され,同法所定の定年の下限である60歳を超えた高年齢者の雇用確保措置が段階的に義務づけられてきたものであり,企業において,定年後継続雇用者を定年前と同じ業務に従事させるのか否かという点はさておき,賃金コストの無制限な増大を回避しつつ定年到達者の雇用を確保するため,定年後継続雇用者の賃金を定年前から引き下げることそれ自体には合理性が認められるというべきである。 (イ) しかしながら,他方,我が国の企業一般において,定年退職後の継続雇用の際,職務の内容(上記①)並びに当該職務の内容及び配置の変 更の範囲(上記②)が全く変わらないまま賃金だけを引き下げることが広く行われているとか,そのような慣行が社会通念上も相当なものとして広く受け入れられているといった事実を認めるに足りる的確な証拠はない。この点に関し,被告は,労働政策研究・研修機構の平成26年5月付け調査結果(乙33,34)を援用し,継続雇用制度を採用する会社の多くが,定年前後で継続雇用者の業務内容,勤務日数,時間を変更せず,継続雇用者に定年前と同じ業務に従事させながら,定年前に比べて賃金を3割程度引き下げている旨を主張する。そして,上記調査結果によれば,継続雇用者の仕事内容,所属部署,勤務日数・時間に関するアンケートの結果は,「定年到達時と同じ仕事内容」が83.8パーセント,「定年到達時点と同じ部署」が93.7パーセント,「フルタイム(日数も時間も定年前から変わらない)」が77.4パーセ 間に関するアンケートの結果は,「定年到達時と同じ仕事内容」が83.8パーセント,「定年到達時点と同じ部署」が93.7パーセント,「フルタイム(日数も時間も定年前から変わらない)」が77.4パーセント(いずれも最も多いケースでの回答結果)であり,また,年間給与に関し,定年到達時の水準(手当や賞与等を含む。)を100とした場合の継続雇用者の水準(該当者の平均)についての回答結果は,平均値が68.3,中央値が70.0であったことが認められる。しかしながら,上記アンケートの「同じ仕事内容」については,必ずしも労働契約法20条にいう職務の内容(業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度。上記①)が同じことまで意味しているものとは読み取れないというべきであるし,上記アンケートの結果によっても,定年の前後で職務の内容及び配置の変更の範囲(上記②)に違いがあるのか否かは明らかでない。したがって,上記アンケートをもって,定年の前後で職務の内容(上記①)並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲(上記②)が全く変わらないまま賃金だけを引き下げることが,企業一般において広く行われているとまでは認められない。 (ウ) また,被告における正社員の賃金体系は,基本給に年功的要素が取 り入れられているものの,そのほかの賃金項目については,基本給の違いが金額に反映されることとなる超勤手当を別にすれば,勤続年数や年齢による違いがなく,基本給が最も低くなる在籍1年目で20歳以下の従業員(在籍給8万9100円,年齢給ゼロ円)と,これが最も高くなる在籍41年目以上で50歳以上の従業員(在籍給12万1100円,年齢給6000円)との間の賃金水準の相違は,月例賃金が3万8000円,賞与(基本給の5か月分)が19万円(3万8000円×5か月)であり,年間64万600 歳以上の従業員(在籍給12万1100円,年齢給6000円)との間の賃金水準の相違は,月例賃金が3万8000円,賞与(基本給の5か月分)が19万円(3万8000円×5か月)であり,年間64万6000円程度の差にとどまる。翻って,本件請求に係る期間について,原告らが正社員であったとした場合に支給されるべき賃金と原告らに実際に支給された賃金との差額は,別紙2から4まで(請求債権目録)に記載のとおりであり,原告らに対する賃金の引下げは,超勤手当を考慮しなくとも,年間64万6000円を大幅に上回る規模であることが明らかである。加えて,正社員の場合には,勤続するにつれて基本給が増額され,3年以上勤務すれば退職金が支給されるのに対し,嘱託社員の場合には,勤続しても基本賃金その他の賃金の額に変動はなく,退職金が支給されることもないのである。これらの事情に鑑みると,被告としては,定年退職者を再雇用して正社員と同じ業務に従事させるほうが,新規に正社員を雇用するよりも賃金コストを抑えることができるということになるから,被告における定年後再雇用制度は,賃金コスト圧縮の手段としての側面を有していると評価されてもやむを得ないものというべきである。そして,被告において上記のような賃金コスト圧縮を行わなければならないような財務状況ないし経営状況に置かれていたことを認めるべき証拠はなく(乙5ないし7の各1及び2では認めるに足りない。),かえって,被告代表者の供述によっても,定年後再雇用者の賃金水準ないし体系について,正社員の賃金水準が同業他社に比べて高いこと,再雇用となること,老齢厚生年金制度の存在 をもって決定したのであり,被告の財務状況ないし経営状況に基づいて決定したものではないことが認められる。そうすると,前述のとおり,企業において,賃金コスト ること,老齢厚生年金制度の存在 をもって決定したのであり,被告の財務状況ないし経営状況に基づいて決定したものではないことが認められる。そうすると,前述のとおり,企業において,賃金コストの無制限な増大を回避しつつ定年到達者の雇用を確保するため,定年後継続雇用者の賃金を定年前から引き下げることそれ自体には合理性が認められるものであるが,被告においてその財務状況ないし経営状況上合理的と認められるような賃金コスト圧縮の必要性があったわけでもない状況の下で,しかも,定年後再雇用者を定年前と全く同じ立場で同じ業務に従事させつつ,その賃金水準を新規採用の正社員よりも低く設定することにより,定年後再雇用制度を賃金コスト圧縮の手段として用いることまでもが正当であると解することはできないものといわざるを得ない。 (エ) 以上のとおりの本件における事実関係のもとでは,本件有期労働契約が,定年退職者との間で,高年齢者雇用安定法に基づく高年齢者雇用確保措置として締結されたものであったとの事実をもって,直ちに前記特段の事情があると認めることはできないというべきである。 (オ) なお,被告は,高年齢者雇用安定法の改正の目的が年金と雇用の接続を図る点にあり,被告の再雇用制度がその目的に見合うものであったという趣旨の主張をしている。しかしながら,被告の再雇用制度が年金と雇用の接続という点において合理性を有していたものであったとしても,そのことから直ちに,嘱託社員を正社員と同じ業務に従事させながらその賃金水準だけを引き下げることに合理性があるということにはならない。この点に関する被告の主張は,上記判断を左右するものではないというべきである。 エ次に,被告は,嘱託社員の労働条件について,本件組合との労使協議を重ね,その結果を踏まえて賃金 はならない。この点に関する被告の主張は,上記判断を左右するものではないというべきである。 エ次に,被告は,嘱託社員の労働条件について,本件組合との労使協議を重ね,その結果を踏まえて賃金水準の改善を図り,決定してきたものであると主張する。そして,前記前提事実によれば,被告は,平成24年3月 以降,定年後再雇用者の労働条件について本件組合との間で団体交渉を実施しており,その過程において,定年後再雇用者の基本賃金の2万円の増額(前提事実(4)エ(ウ)),無事故手当と基本賃金の額の変更(同(4)オ(ウ)),老齢厚生年金の報酬比例部分の未支給期間について調整給の支給(同(4)カ(イ)),同調整給の増額(同(4)カ(エ))等の労働条件の改善を実施してきたことが認められる。しかしながら,これらの労働条件の改善は,いずれも,被告と本件組合とが合意したものではなく,被告が団体交渉において本件組合の主張・意見を聞いた後に独自に決定して本件組合に通知したものである。この間,本件組合は,一貫して定年前と同じ賃金水準での再雇用を求めるとともに(同(4)エ(ア),(エ),オ(ア),カ(イ),(エ),キ),定年後再雇用者の賃金水準について実質的な交渉を行うために,現状と異なる賃金引下げ率による試算や経営資料の提示等を繰り返し求めてきたが,被告は,これらの要求に一切応じていない(同(4)エ(イ),(エ))。そして,本件組合と被告との間の団体交渉では,基本的に,本件組合が事前に書面でした要求に対して被告が回答をし,その場で本件組合が意見や主張を述べ,被告がこれを聴取して持ち帰るというやり取りが行われるにとどまっており(甲23,乙51,95,証人I,被告代表者),被告と本件組合との間で,定年後再雇用者の賃金水準等の労働条件に関する実質的かつ具体 告がこれを聴取して持ち帰るというやり取りが行われるにとどまっており(甲23,乙51,95,証人I,被告代表者),被告と本件組合との間で,定年後再雇用者の賃金水準等の労働条件に関する実質的かつ具体的な協議が行われたと認めるに足りる的確な証拠はない。まして,被告と本件組合とが定年後再雇用者の労働条件について合意したことはないし,被告が協定の締結に向けた協議を提案するなどして合意の形成に向けた交渉を行っていたとも認められない。これらの事情に照らすと,被告が本件組合の主張・意見を聞いて一定の労働条件の改善を実施したことをもって,本件相違を正当と解すべき特段の事情に当たるものとみることはできないというべきである。 オさらに,被告は,ほかでもない原告ら自身が本件有期労働契約に係る労 働条件に同意していた旨を主張する。しかしながら,原告らは,被告との間の有期労働契約締結の前後に,いずれも本件組合を通じて,雇用条件等には同意できないが雇用契約書を提出しなければ就労できなくなるのでやむを得ず提出する旨を明らかにしていたのであるから(前提事実(5)ア(ア),(イ),イ),原告らが労働条件を理解した上で雇用契約書に署名押印したことをもって,上記特段の事情があるということはできない。 カ以上のほか,本件において,嘱託社員と正社員との間に職務の内容,当該職務の内容及び配置の変更の範囲に全く違いがないにもかかわらず,賃金の額に関する労働条件に相違を設けることを正当と解すべき特段の事情は認められない。 (4) 以上によれば,本件相違は,労働者の職務の内容,当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情に照らして不合理なものであり,労働契約法20条に違反するというべきである。 2 争点2(労働契約法20条違反が認められる場合における 者の職務の内容,当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情に照らして不合理なものであり,労働契約法20条に違反するというべきである。 2 争点2(労働契約法20条違反が認められる場合における原告らの労働契約上の地位〔主位的請求関係〕)について(1) 前記認定判断のとおり,本件有期労働契約の内容である賃金の定めは,労働契約法20条に違反するところ,同条は,単なる訓示規定ではなく,民事的効力を有する規定であると解するのが相当であり,同条に違反する労働条件の定めは,その効力を有しないというべきである。 (2) ところで,証拠(甲1,4,5の1,甲7,8,乙1,4,11,13から15まで)及び弁論の全趣旨によれば,被告の正社員就業規則3条は,「この規則は,会社に在籍する全従業員に適用する。ただし,次に掲げる者については,規則の一部を適用しないことがある。」とし,規則の一部を適用しないことがある者として「嘱託者」を定めており,これを受けて,被告は,嘱託社員に適用される就業規則として「嘱託社員就業規則」を制定するとともに,嘱託社員労働契約書に具体的な労働条件を記載していたことが認 められる。 (3) このとおり,被告の正社員就業規則が原則として全従業員に適用されるものとされており,嘱託者についてはその一部を適用しないことがあるというにとどまることからすれば,嘱託社員の労働条件のうち賃金の定めに関する部分が無効である場合には,正社員就業規則の規定が原則として全従業員に適用される旨の同規則3条本文の定めに従い,嘱託社員の労働条件のうち無効である賃金の定めに関する部分については,これに対応する正社員就業規則その他の規定が適用されることになるものと解するのが相当である。 (4) そうすると,本件有期労働契約の内容である賃金の定めは 無効である賃金の定めに関する部分については,これに対応する正社員就業規則その他の規定が適用されることになるものと解するのが相当である。 (4) そうすると,本件有期労働契約の内容である賃金の定めは,これが無効であることの結果として,正社員の労働契約の内容である賃金の定めと同じものになるというべきであり,具体的には,前提事実(2)アからシまでのとおりであるものと認められる。 第4 結論以上によれば,原告らの主位的請求は理由があるから,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第11部 裁判長裁判官佐 々 木宗啓 裁判官鷹野旭及び裁判官戸畑賢太は転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官佐 々 木宗啓

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