平成12(わ)1326 覚せい剤取締法違反

裁判年月日・裁判所
平成14年2月19日 神戸地方裁判所
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判決文本文10,389 文字)

判決平成14年2月19日平成12年(わ)第1326号,第1473号覚せい剤取締法違反被告事件 主文 被告人を懲役3年6月及び罰金50万円に処する。 未決勾留日数中360日をその懲役刑に算入する。 その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。 押収してあるチャック付きポリ袋入り覚せい剤白色結晶粉末5袋(平成13年押第205号の1ないし5)及びティッシュ包み覚せい剤白色結晶粉末1包(同押号の6)を没収する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,第1 法定の除外事由がないのに,平成12年10月16日ころ,神戸市A区B町a番所在のC橋下に駐車中の普通乗用自動車内において,フェニルメチルアミンプロパンの塩類を含有する覚せい剤約0.1グラムを飲料水で溶かして自己の身体に注射し,もって,覚せい剤を使用した第2 みだりに,営利の目的で,同月17日午後4時20分ころ,同市D区Eb丁目c番d号所在の兵庫県兵庫警察署内において,フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤白色結晶粉末約22.48グラム(平成13年押第205号の1ないし5はいずれもその鑑定残量)を所持した第3 みだりに,同月18日午後3時40分ころ,前記兵庫警察署車庫に保管中の普通乗用自動車内において,フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有するティッシュ包み覚せい剤白色結晶粉末約0.947グラム(同押号の6はその鑑定残量)を所持したものである。 (証拠の標目)―括弧内の数字は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号―省略(弁護人の主張に対する判断 せい剤白色結晶粉末約0.947グラム(同押号の6はその鑑定残量)を所持したものである。 (証拠の標目)―括弧内の数字は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号―省略(弁護人の主張に対する判断)第1 弁護人は,(1)被告人に対する現行犯人逮捕手続は,警察官職務執行法2条に違反する違法な身柄拘束により取得された証拠に基づくものであって違法であるから,違法な現行犯人逮捕に引き続く身柄拘束中に収集された覚せい剤,被告人の尿,それらの鑑定書等の関係各証拠はいずれも違法収集証拠として証拠能力がなく,(2)平成12年10月18日兵庫警察署において実施された判示普通乗用自動車(以下「本件自動車」という。)に対する捜索差押手続は,被告人に捜索差押許可状を呈示せず,かつ,被告人の立会のないまま,捜索に着手した重大な違法があるから,これによって取得された覚せい剤等の関係各証拠についても証拠能力はなく,(3)被告人の検察官及び司法警察員に対する各弁解録取書又は各供述調書並びに裁判官に対する勾留質問調書のうち,①同月17日ないし同月19日付けで作成された供述調書等は,いずれも前記の違法な身柄拘束の影響下において,覚せい剤の使用や睡眠不足により,被告人において正常な判断能力を欠如した状態で作成されたものであって,いずれも任意性がないから証拠能力がなく,②その余の自白調書は,取調官である司法警察員Fが被告人に飲食物を提供する等の利益誘導を図って作成したものであって,いずれも任意性はないから証拠能力がなく,これらの証拠を除くと,本件各公訴事実はいずれも証明がないから無罪である旨主張し,仮にそうでないとしても,判示第2につき,被告人には営利の目的はなかった旨主張する。 当裁判所は,前掲関係証拠書類及び証拠物はいずれも証拠能力が認められ,これらの証拠を含む 無罪である旨主張し,仮にそうでないとしても,判示第2につき,被告人には営利の目的はなかった旨主張する。 当裁判所は,前掲関係証拠書類及び証拠物はいずれも証拠能力が認められ,これらの証拠を含む前掲関係各証拠によれば,判示の各犯罪事実はいずれも優に認められるし,かつ,被告人が営利の目的で同第2の犯行に及んだことも優に認められると判断したのであるが,所論にかんがみ,補足して説明する。 第2 現行犯人逮捕手続の違法性の有無について 1 証人Hの当公判廷における供述,第2回公判調書中の証人Iの供述部分その他前掲関係各証拠によれば,次の事実が認められる。 (1) 被告人は,平成12年10月17日午前6時30分ころ,神戸市D区Ge丁目先路上において,本件自動車を運転して物損事故を起こした。 (2) いずれも兵庫警察署勤務の警察官であるI,H及びJは,同区Kf丁目所在のL(注:マンション)に不審者がいるとの通報を受け,同マンションに臨場し,同日午後2時20分ころ,同マンション5階踊り場において,被告人を発見した。Iは,被告人に対し職務質問を開始し,その結果,同区Mg丁目h番i号先駐車場入口前道路(以下「本件駐車場所」という。)に駐車中の本件自動車が前記物損事故を起こした被告人のものであるらしいことなどが判明し,Iらは,被告人に案内させて同所に至った。 (3) I及びHは,本件駐車場所において,被告人に本件自動車のエンジンキーを出すよう促すと,被告人はなくした旨申し立て,また,被告人に運転免許証の呈示を求めるとこれを拒否された。そこで,Iらは,兵庫警察署駐車対策係や事故係の警察官に応援を求め,現場に臨場した同警察官らによる本件自動車の移動や事情聴取等が行われた。 (4) 顔が青白く,頬も痩けており,終始落ち着かない態度で,何かブツブツと 警察署駐車対策係や事故係の警察官に応援を求め,現場に臨場した同警察官らによる本件自動車の移動や事情聴取等が行われた。 (4) 顔が青白く,頬も痩けており,終始落ち着かない態度で,何かブツブツと独り言を言い,Iらが運転免許証やセカンドバッグの中身の呈示を求めても全く応じない被告人に対し,Iらは,兵庫警察署への任意同行に応じるよう説得した。被告人は,当初は拒否していたものの,同日午後3時30分ころ,「もう腹を決めたから,20分ほど待って欲しい。」等と述べるに至り,Iは,兵庫警察署にパトカーの出動を要請し,その場で被告人とともに待機した。 (5) パトカーが出動し,本件駐車場所において,本件自動車に縦列させてその後部に駐車した後である同日午後3時50分ころ,Iから,すでに20分が経過したとしてパトカーのほうに向かうよう促された被告人は,いったんパトカーの側まで歩いたものの,突如走って逃げ出し,同所から5メートルほど離れた車道中央の中央分離帯まで逃げ,追跡して追いついたIが,同所の街路樹にしがみついていた被告人に対し,「約束を守らんかい」等と一喝し,被告人の服の肩口を右手で掴んだところ,被告人は,同街路樹から手を離し,I及びH両名に挟まれ,Iに左腕を取られる形でパトカーまで歩き,自らパトカーに後部助手席側ドアから乗り込んだ。 (6) 同日午後4時5分ころ,パトカーが兵庫警察署に到着すると,被告人は,自ら同パトカーを降車し,その前後をJ及びH両名に挟まれた状態で同署1階応接室まで歩いて移動した。 (7) 同日午後4時10分ころ,Iらは,同署1階応接室において,被告人に対し,セカンドバッグの中身を見せるよう説得したところ,被告人が「俺も男だ,腹くくった」旨述べて,自ら番号を合わせてダイヤル式のセカンドバッグの鍵を開け,同バッグを開 署1階応接室において,被告人に対し,セカンドバッグの中身を見せるよう説得したところ,被告人が「俺も男だ,腹くくった」旨述べて,自ら番号を合わせてダイヤル式のセカンドバッグの鍵を開け,同バッグを開けて中身を呈示し,同バッグ中の判示第1の覚せい剤白色結晶粉末5袋(平成13年押第205号の1ないし5)を発見した。その後,覚せい剤の予試験の実施を経て,同日午後4時26分,Iは,被告人を覚せい剤所持の現行犯人として逮捕した。 2 以上のとおり認められるところ,被告人は,パトカーの側から突如走って逃げ出した後,被告人は車道中央部の街路樹付近で追跡してきた警察官に取り押さえられ,そのまま警察官らに両手両足を掴まれて足が地面に付かない状態で強制的にパトカー内に連れ込まれた,また,警察官らが被告人のセカンドバッグの鍵の番号を被告人から聞きだし,これを勝手に開けて前記覚せい剤等を取り出した旨当公判廷で供述する。 しかしながら,証人Hの公判供述及び同Iの公判調書中の供述部分は,いずれも具体的かつ詳細で相互に符合し,その供述内容に格別不自然不合理な点は見出し難く,いずれも信用性は十分である。これに対し,被告人の公判供述は,被告人がパトカー到着前に任意同行に応じる旨明らかにしていたこと,パトカーの駐車場所が住宅街の公道であり,被告人がパトカーに乗車した午後3時50分ころには,通行人等の人目が多くあったと考えられること,被告人自身が,本件逮捕の10日以上前から覚せい剤を連続使用してほとんど寝ていないことや,パトカーに乗車して警察署に連行された経過につき,睡眠不足や疲労により記憶の不明確な部分があることを自認していること等を考慮すると,信用することができない。 3 前記1の認定事実を前提に現行犯人逮捕手続の違法性の有無について検討するに,前認定のとおり, や疲労により記憶の不明確な部分があることを自認していること等を考慮すると,信用することができない。 3 前記1の認定事実を前提に現行犯人逮捕手続の違法性の有無について検討するに,前認定のとおり,被告人がパトカーへの乗車前に逃走して前記街路樹にしがみついた際,Iが,被告人に対し,一喝して同人の衣服を掴んだこと,被告人がパトカーに向かう際,左からIが,右からHが被告人を挟み,かつIにおいて被告人の左腕を取っていたこと,パトカーから降車後,被告人は,前後をそれぞれ警察官に挟まれていたことが認められるけれども,Iらが本件駐車場所付近で被告人に任意同行を求めた際,被告人の身体状況や言動等から,被告人に覚せい剤使用の濃厚な嫌疑が認められたこと,Iらから身分証明のための運転免許証やセカンドバッグの呈示を求められても,被告人は頑なにこれを拒否し続けていたが,Iらから,任意同行に応じるよう再三にわたり説得されるや,被告人は,最終的にはこれに応じる旨返答したこと,被告人がパトカーへの乗車前に逃走して近くの街路樹にしがみついた際,Iから一喝されるや,被告人は街路樹から自ら手を離したのであって,Iらにおいてそれ以上の実力を行使していないこと,被告人は,パトカーの側に行く際,再び逃走しようとしたり,改めて任意同行を拒否したりすることなく,自ら素直にパトカーに乗車したこと,パトカー降車後,被告人は,自ら兵庫警察署1階応接室まで歩き,任意同行を拒否する態度を示さなかったこと,被告人は,Iからセカンドバッグの中身を呈示するよう求められたのに対し,当初は拒否したが,Iらによる再三の説得に応じて自らダイヤル式の錠を開けて中身を呈示したことを総合考慮すると,Iらの前記行為は,いずれも職務質問(警察官職務執行法2条1項)又は任意同行(同法2条3項,刑事訴訟法197条1項, る再三の説得に応じて自らダイヤル式の錠を開けて中身を呈示したことを総合考慮すると,Iらの前記行為は,いずれも職務質問(警察官職務執行法2条1項)又は任意同行(同法2条3項,刑事訴訟法197条1項,198条1項)の際における強制にわたらない程度の実力行使として許容される範囲内の行為であると認められる。 4 したがって,現行犯人逮捕手続はその経緯を含めて適法であるから,弁護人の前記第1の(1)の主張は理由がない。 第3 捜索差押手続の違法性の有無について 1 証人N及び同Oの当公判廷における各供述,第3回公判調書中の証人東内一裕の供述部分その他前掲関係各証拠によれば,次の事実が認められる。 平成12年10月18日午後2時ころ,Oは,神戸地方裁判所裁判官から本件自動車に対する捜索差押許可状の発付を受け,同日午後3時20分ころ,兵庫警察署交通課にT字型の金属片様の開錠道具の借り出しを依頼した。Oの依頼を受けた同課の警察官は,被告人の立会のないまま,本件自動車の助手席ドアにその器具を差し込むなどして開錠を試みるうち,これに成功した。Oは,上記警察官が本件自動車の錠を開けたことを知らされたが,同日午後3時40分ころ,被告人に対し,このことを秘して「車のドアは開いとるぞ」等と申し向けて,前記捜索差押許可状を呈示し,本件自動車内を捜索した。その結果,Oらは,同車の後部座席から判示第3のティッシュ包み覚せい剤白色結晶粉末1包(平成13年押第205号の6)を発見してこれを押収した。 2 以上のとおり認められるところ,被告人は,同日午前10時ころから警察官が本件自動車のドアを開けて捜索を開始していた旨主張し,当時兵庫警察署に留置中の者がこれを目撃しているというが,具体的かつ詳細で他の関係証拠とも符合する証人須賀斉及び同Oの各公判供述並びに同東内一 が本件自動車のドアを開けて捜索を開始していた旨主張し,当時兵庫警察署に留置中の者がこれを目撃しているというが,具体的かつ詳細で他の関係証拠とも符合する証人須賀斉及び同Oの各公判供述並びに同東内一裕の公判供述部分に照らして採用できない。 3 そこで,前記1の認定事実を前提として捜索差押手続の違法性の有無を検討するに,刑事訴訟法222条1項,110条によれば,令状の執行着手前に処分を受ける者に対して令状を呈示しなければならないところ,前記認定事実によれば,Oは,本件自動車の管理権者として捜索差押の処分を受ける者である被告人に対し,事前に令状の呈示ができない格別の事情もないのに,令状を呈示しないまま,捜索のための必要な処分である開錠を行ったのであるから,前記覚せい剤の捜索差押手続は,令状の呈示なく捜索差押許可状の執行に着手した違法があるといわざるを得ない。 しかしながら,前記認定事実によれば,本件自動車の開錠前に前記捜索差押許可状の発付を受けていたこと,開錠の約20分後には被告人に前記捜索差押許可状を呈示して本件自動車に対する実質的な捜索を開始したこと,Oらにおいて,令状主義に関する諸規定を潜脱しようという意思があったとは認められないこと,事前に開錠はされていたけれどもドアは開けられてはいなかったのであって,被告人の立会がないまま実質的な捜索活動が行われたわけではないこと等を総合勘案すると,前記覚せい剤の捜索差押手続の違法性は重大であるとはいえないし,これらの証拠に証拠能力を付与することが将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないとも認め難いから,前記覚せい剤等の証拠能力はこれを肯定すべきである。 4 したがって,弁護人の前記第1の(2)の主張は理由がない。 第4 被告人の自白調書の任意性について 1 平成12年10月 いとも認め難いから,前記覚せい剤等の証拠能力はこれを肯定すべきである。 4 したがって,弁護人の前記第1の(2)の主張は理由がない。 第4 被告人の自白調書の任意性について 1 平成12年10月17日ないし同月19日付けの供述調書等について弁護人の前記第1の(3)①の主張について検討するに,まず,現行犯人逮捕手続に違法な点が認められないことは前記第2のとおりであるから,被告人が違法な身柄拘束の影響下にあった旨の主張は理由がない。そして,前認定のとおり,被告人の供述によれば,被告人は,本件逮捕の10日以上前から覚せい剤を連続使用し,ほとんど寝ていなかったというのであり,逮捕直後の数日間,被告人に覚せい剤の影響あるいは覚せい剤離脱の影響により心身の若干の不調があったことは事実と認められるが,他方で,前記供述調書(検察官請求証拠番号25)中には体調は若干不良ではあるが取調べには十分に耐えられる旨の供述部分があるほか,逮捕当時の状況等につき,相当程度具体的な記憶を有しており,前記供述調書(同25)等には,被告人のみしか語り得ない事実が記載されていること,逮捕翌日の本件自動車に対する捜索実施の際には,特段体調不良を訴えることなくこれに立ち会ったこと,本件関係各証拠を総合しても,他に被告人の判断能力が格段に低下していたことを窺わせる事情は認められないことを総合考慮すると,前記各供述調書等の任意性に疑いを容れる余地はないから,弁護人の主張は理由がない。 2 その余の自白調書の任意性について(1) 弁護人は,被告人は,兵庫警察署でFの取調べが開始された約1週間後から,取調室で同人よりジュース,あめ,太巻き,ちらし寿司,クッキー,ケーキ,饅頭等の提供を受けていたところ,平成12年10月26日,取調べを受けた検察官に対し,営利目的を否認する された約1週間後から,取調室で同人よりジュース,あめ,太巻き,ちらし寿司,クッキー,ケーキ,饅頭等の提供を受けていたところ,平成12年10月26日,取調べを受けた検察官に対し,営利目的を否認する旨の供述をするや,Fがそのことに激怒して飲食物をくれなくなり,再び飲食物を貰うため,やむを得ず,翌27日昼ころ,改めて営利目的があった旨これを認める供述をし,その結果,Fから飲食物の提供を再び受けるようになった旨主張し,被告人も,当公判廷において,これに沿う供述をする。 (2) そこで検討するに,前掲関係各証拠によれば,①被告人は,平成12年10月25日に至るまでは,司法警察員,検察官及び裁判官に対し,概括的ながらも営利目的を自認していたところ,同月26日実施の検察官調べにおいて,突如「自分で使用するため所持していた。」旨営利目的を否認し,それにもかかわらず,同月30日からはFが録取した具体的な自白調書が順次作成されたこと,②Fによる被告人の取調べは,いずれも立会人のないまま行われたこと,③Fが録取した自白調書は,被告人の覚せい剤使用歴,密売歴,本件覚せい剤の購入先,営利目的の具体的内容等が具体的かつ詳細に述べられたもので,被告人によってしか語り得ない事実も多く含まれ,その意味で不自然不合理な点のない自白調書であるが,いったん否認した経過があるにもかかわらず,同調書中にはその理由のみならず,そのこと自体に全く触れるところがないのは奇異といわざるを得ないこと,証人Fの公判供述によっても,そのことについて首肯しうる合理的な説明はなされていないことに加えて,④飲食物の提供に関する限り,被告人の前記公判供述は,一貫した供述であるのに対し,証人Fの公判供述は,提供した飲食物,提供時期等の重要部分にあいまいな点や不自然な供述変遷があることを総合考慮す えて,④飲食物の提供に関する限り,被告人の前記公判供述は,一貫した供述であるのに対し,証人Fの公判供述は,提供した飲食物,提供時期等の重要部分にあいまいな点や不自然な供述変遷があることを総合考慮すると,被告人がFの取調べにより再度自白に転じた理由は,飲食物の提供を受けたいためであったとする被告人の公判供述の信用性は,あながちこれを排斥することはできないというべきである。しかしながら,被告人の供述によっても,当初営利の目的を認める供述をした段階では,飲食物の提供を受けることはなかったのであり,その影響のなかったことは明らかであること,同じく,被告人の供述によっても,全体を通じて,Fが被告人に飲食物の提供と引換に自白するよう迫ったわけではないこと,飲食物は,通常の食事とは別に提供されたものであって,これが虚偽自白を誘発しかねない強力な誘引になるとは解されないことなどを総合考慮すれば,Fが被告人に対して不適切な飲食物の提供をしたとしても,それは,被告人がFに対して任意に供述する動機の一つになったに止まるものというべきであって,前掲各供述調書中の被告人の供述部分の任意性に疑いを差し挟む余地があるとはいえないから,弁護人の前記主張は理由がない。 3 したがって,弁護人の前記主張はいずれも採用できない。 第5 営利目的について前掲関係各証拠によれば,被告人は,逮捕当時,所持していたセカンドバッグ内に,約3グラムないし5グラム弱に小分けされた合計22.48グラムものポリ袋入り覚せい剤5袋のほか,電子秤1個,ポリ袋入りプラスチック製注射器6組,チャック付きポリ袋3袋等を所持していたのであり,これらの事実のみからも,被告人が営利の目的で判示第2の覚せい剤を所持していたことが強く推認されるのであるが,加えて,被告人は,これ以外に自己使用分の覚せい ク付きポリ袋3袋等を所持していたのであり,これらの事実のみからも,被告人が営利の目的で判示第2の覚せい剤を所持していたことが強く推認されるのであるが,加えて,被告人は,これ以外に自己使用分の覚せい剤として本件自動車内にティッシュ包み覚せい剤1包と使用済み注射器を所持していたことのほか,被告人が前記第4のとおり捜査段階においては,概ね営利目的で覚せい剤を所持していたことを自認していたことを併せ考慮すれば,被告人が営利の目的で判示第2の覚せい剤を所持していたものと認めるに十分である。 したがって,この点に関する弁護人の主張も理由がない。 (累犯前科)被告人は,平成8年11月11日福井地方裁判所で殺人未遂罪により懲役3年に処せられ,平成11年6月13日その刑の執行を受け終わったものであって,この事実は検察事務官作成の前科調書(省略)及び判決書謄本(省略)によって認める。 (法令の適用)被告人の判示第1の所為は覚せい剤取締法41条の3第1項1号,19条に,判示第2の所為は同法41条の2第2項,1項に,判示第3の所為は同法41条の2第1項にそれぞれ該当するところ,判示第2の罪について情状により所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択し,前記の前科があるので刑法56条1項,57条により判示第1及び第3の各罪の刑並びに判示第2の罪の懲役刑についてそれぞれ再犯の加重(判示第2の罪の懲役刑については同法14条の制限に従う。)をし,以上は同法45条前段の併合罪であるから,懲役刑については同法47条本文,10条により最も重い判示第2の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をし,その刑期及び所定金額の範囲内で被告人を懲役3年6月及び罰金50万円に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中360日をその懲役刑に算入し,その罰金を完納することができないときは,同 定の加重をし,その刑期及び所定金額の範囲内で被告人を懲役3年6月及び罰金50万円に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中360日をその懲役刑に算入し,その罰金を完納することができないときは,同法18条により金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置し,押収してあるチャック付きポリ袋入り覚せい剤白色結晶粉末5袋(平成13年押第205号の1ないし5)は,判示第2の罪に係る覚せい剤であり,ティッシュ包み覚せい剤白色結晶粉末1包(同押号の6)は,判示第3の罪に係る覚せい剤であって,いずれも犯人の所有するものであるから,覚せい剤取締法41条の8第1項本文によりこれらをいずれも没収し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)本件は,被告人が,営利の目的で,覚せい剤を所持した(判示第2)ほか,覚せい剤を自己使用し(判示第1),覚せい剤を所持した(判示第3)という各覚せい剤取締法違反の事案である。 被告人の供述によれば,同人は,前記累犯前科である前刑の仮出獄後間もなく,平成11年6月ころから覚せい剤を使用するようになり,平成12年2月ころから少なくとも同年5月ころまでは,知人とともに覚せい剤を密売して生活の糧にしていたというのであり,その後,同年10月5日ころ,売人から覚せい剤約30グラム等を購入して,営利目的で約22.48グラムもの多量の覚せい剤を所持するという判示第2の犯行に及んだものであることにかんがみると,甚だ反社会的であり,犯情は悪質である。また,被告人は,前記の経過で覚せい剤を使用し始め,平成12年10月ころからは1日3回ほどのペースで継続して使用して本件各犯行に至ったのであり,その間,覚せい剤の薬理作用による幻覚や幻聴等も経験したごとくであり,このような常習的 い剤を使用し始め,平成12年10月ころからは1日3回ほどのペースで継続して使用して本件各犯行に至ったのであり,その間,覚せい剤の薬理作用による幻覚や幻聴等も経験したごとくであり,このような常習的な覚せい剤使用の一環として判示第1及び第3の各犯行が敢行されたことにかんがみると,覚せい剤に対する親和性,依存性はもとより常習性も顕著であるといわざるを得ない。 以上の諸事情に照らすと,被告人の刑事責任は重大である。 そうすると,判示第2の覚せい剤は幸い社会に拡散される前に押収されたこと,同種前科がないこと,起訴後の未決勾留が相当期間に及んだことなど被告人のために酌むべき事情を最大限に考慮しても,主文掲記の刑は免れない。 よって,主文のとおり判決する。 平成14年2月19日神戸地方裁判所第1刑事部裁判長裁判官杉森研二 裁判官溝國貞久 裁判官林史高

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