平成11(ワ)295 漁業補償等請求

裁判年月日・裁判所
平成14年2月27日 名古屋地方裁判所
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判決文本文26,788 文字)

主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 原告らの請求 1 被告は,各原告に対し,別紙請求金額一覧表記載の各金員及びこれに対する平成11年2月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 仮執行宣言第2 事案の概要本件は,原告らが被告のA川河口堰建設事業により,しらすうなぎの採捕ができなくなったと主張して,憲法29条3項等に基づく損失補償又は民法709条に基づく損害賠償を求めた事案である。 1 前提となる事実当事者間に争いのない事実と,後記各証拠及び弁論の全趣旨によると,以下のとおり認められる。 (1) 原告らは,三重県桑名郡a町に在住し,金魚の養殖業等を営む者であり,昭和46年に設立されたB組合の組合員である(甲19号証の1ないし34,甲23号証)。 原告らは,昭和50年代初めころまでに,農閑期にしらすうなぎを採捕するようになり,捕れたしらすうなぎを買付業者に売ったり,金魚の養殖用の池に入れたりし,昭和53年からは,C組合の採捕従事者であった(甲1号証の1,甲2号証の2,甲19号証の1ないし34,甲23,28号証)。 (2) しらすうなぎとは,うなぎの幼魚を指すが,日本では1月から3月ころが遡上の盛期である。しらすうなぎは夜間に川岸から光を照らすと光の下に集まる習性があり,A川河口では,従前からこの習性を利用して,12月中旬から3月ころまでの間,日没後の午後7時ころ以降の満ち潮のときに,川岸でカーバイトランプやライトを照らし,川岸に集まるしらすうなぎをタモ網ですくうという方法で漁が行われていた(甲23,28号証)。 三重県では,昭和23年10月制定の三重県規則87号「漁業取締規則」19条で,全長1 プやライトを照らし,川岸に集まるしらすうなぎをタモ網ですくうという方法で漁が行われていた(甲23,28号証)。 三重県では,昭和23年10月制定の三重県規則87号「漁業取締規則」19条で,全長18センチメートル以下のうなぎの漁獲,所持,販売,又はその製品の所持,販売を禁止し,昭和26年9月1日制定の三重県規則52号の1「三重県漁業調整規則」35条で,全長20センチメートル以下のうなぎの採捕を禁止した(乙12号証,漁業取締規則は廃止)。その後,昭和41年4月15日全部改正の三重県規則21号「三重県漁業調整規則」38条で,熊野川水系に限り全長30センチメートル以下のうなぎの採捕を禁止することと変更したが(甲14号証),昭和45年7月21日一部改正の三重県規則34号で,全長20センチメートル以下(但し熊野川水系は30センチメートル以下)のうなぎの採捕を禁止する内容に改正され,同改正は昭和48年1月1日以降適用された(甲15,18号証)。ただ,同規則52条は,試験研究,教育実習又は増養殖用の種苗(種卵を含む。)の供給(自給を含む。)のため水産動植物の採捕について知事の許可(以下「特別採捕許可」という。)を受けた者が行うその試験研究等については同規則38条の適用を除外している。なお昭和26年制定の前記規則にも同様の除外規定が設けられていた。 したがって,しらすうなぎを採捕するためには,三重県から特別採捕許可を得なければならない。 (3) C組合は,昭和24年11月18日に成立し,組合員の事業又は生活に必要な物資の供給等を目的とする組合であり,三重県からしらすうなぎの特別採捕許可を得ていた。 C組合の組合員以外の者でも,15歳以上の義務教育終了者で,同組合の認めた者であれば,採捕従事者としてしらすうなぎを採捕することができた(乙1,2,13,28,29 うなぎの特別採捕許可を得ていた。 C組合の組合員以外の者でも,15歳以上の義務教育終了者で,同組合の認めた者であれば,採捕従事者としてしらすうなぎを採捕することができた(乙1,2,13,28,29号証)。 (4) 被告は,A川河口堰建設事業(以下「本件事業」という。)を予定して,昭和63年3月,河口堰本体工事に着手し,平成7年3月,本件事業を完成した。被告が河口堰本体工事に着手したころ,原告らは,C組合の採捕従事者としてA川の河口堰建設予定地周辺でしらすうなぎを採捕していたが,被告の本件事業の施行により,平成元年末ころから,しらすうなぎの採捕は殆どできなくなった。 (5) 被告は,平成3年5月30日,C組合との間で,本件事業の施行及び,これによって生じる施設の管理運営(以下「本件事業の施行等」という。)に伴う漁業上の一切の損失の補償につき補償契約(以下「本件補償契約」という。)を締結して,補償金9000万円(以下「本件補償金」という。)を支払ったが,C組合は原告らに本件補償金を配分しなかった。 本件補償契約の内容は,次の通りである(乙5号証)。 ア被告は,本件事業の施行等に伴いC組合及びその組合員並びにしらすうなぎの採捕に従事する者等の被る漁業上の一切の損失に対する補償金として,9000万円をC組合に支払うものとする。 イ C組合は,被告の本件事業の施行に同意し協力する。 ウ C組合は,被告がアの補償金の支払いを行うことにより本件事業の施行に伴うC組合及びその組合員並びにしらすうなぎの採捕に従事する者等が被る漁業上の一切の損失がすべて解決したことを確認し,今後,被告に対し名目の如何を問わず補償その他一切の要求を行わないものとする。 エこの契約に定める権利及び義務は,C組合及びその組合員並びにしらすうなぎの採捕に従事する者等の変更,又は,し 確認し,今後,被告に対し名目の如何を問わず補償その他一切の要求を行わないものとする。 エこの契約に定める権利及び義務は,C組合及びその組合員並びにしらすうなぎの採捕に従事する者等の変更,又は,しらすうなぎ特別採捕許可の更新,変更及び新たな許可等にかかわらず効力を有するものとする。 オアの補償金の配分については,すべてC組合の責任において処理するものとし,C組合は被告に対し一切迷惑を掛けないものとする。 カこの契約について,第三者から異議等の申し出があったとき,又は,C組合の組合員及びしらすうなぎの採捕に従事する者等の間に紛争が生じ若しくは異議等の申し出があったときは,C組合の責任においてすべて解決するものとする。 (6) 平成9年12月26日,原告らは,被告,C組合及び三重県を相手方として,D簡易裁判所に金員の支払又は補償金の相当な配分を求める調停を申し立てた(平成9年(ノ)第○○○○号。甲7ないし10号証)。 前記調停の不調後,原告らは,E地方裁判所にC組合を被告とする訴訟(E地裁平成11年(ワ)第××××号,以下「別件訴訟」という。)を,また,名古屋地方裁判所に本訴を提起した。 2 争点(1) 原告ら個人が被告に対し憲法29条等に基づく損失補償請求権を有するか。 (原告らの主張)原告らは,C組合とは別個独立に,被告に対し,損失補償金の支払いを請求しうる権利を有している。 ア許可漁業であっても,漁民がその漁業に現に従事し,それが生活上の利益となっているときは,その漁業を営む地位は法的保護に値する利益・権利であり,それが侵害されることによって損失が生じる場合には,漁業補償請求権が発生する。許可漁業は,原則的に漁業営業に着手することを禁止した上で,許可を与えた範囲において,本来憲法上補償されている「漁業を営む権利」を回復するものである て損失が生じる場合には,漁業補償請求権が発生する。許可漁業は,原則的に漁業営業に着手することを禁止した上で,許可を与えた範囲において,本来憲法上補償されている「漁業を営む権利」を回復するものであるから,現にそれに従事し,生活上の利益となっているときに,その損失について適正な補償がなされるべきことは当然である。 イ原告らのしらすうなぎ採捕の成熟性の実現による補償請求権の発生(ア) 被告は,しらすうなぎの採捕事業の「成熟性」を権利として認めて補償したというが,しらすうなぎの採捕について,漁業としての「成熟性」を実現していたのは現実に採捕に従事していた原告らであり,C組合の組合員ではない。したがって,原告らの採捕従事の実績が,C組合とは別個独立に,社会通念上権利と認められる程度にまで成熟したものと認められ,原告らは,C組合とは別個独立に,被告に対し,補償金の支払いを請求しうる権利を有している。 (イ) 原告らは,昭和52年以前は各個人で特別採捕許可を受け,昭和53年ころ以降はC組合の採捕従事者として,禁止の解除を受けて,現実に昭和45年から同63年までの約20年間にわたって,しらすうなぎの採捕に従事し,三重県に対して採捕数量を報告してきた。昭和60年度から同63年度までの原告らの採捕実績は別表1(甲27号証末尾の別表)のとおりである。別表1の数量は,提訴当時に個別数量を確認する資料が現存しなかったため,原告個々の数量は不正確であるが,総計は間違いない。 (ウ) 指定集荷人制度について被告は,「成熟性」の要素として,指定集荷人のFによる荷受け,荷渡しが制度化されていたことを指摘するが,三重県から指定集荷人が決められた時期は,原告らの記憶では昭和63年からである。それ以前は,堤防まで来ていた養鰻業者に販売するのも,Fに売りに行くのも自 ,荷渡しが制度化されていたことを指摘するが,三重県から指定集荷人が決められた時期は,原告らの記憶では昭和63年からである。それ以前は,堤防まで来ていた養鰻業者に販売するのも,Fに売りに行くのも自由であった。仮に,昭和44年以降,指定集荷人制度が存在していたとしても,個人として許可を受けていた原告らに対して個別の行政指導がされたことはなく,また,C組合の採捕従事者になった後も,C組合から説明がなかったため,原告らは同制度を知らなかったが,これについて原告らに責任はない。指定集荷人への荷渡しは行政指導に過ぎず,原告らに法律上の義務が生じる性質のものではない。 そして,原告らは,指定集荷人制度の存在を知った後は,指定集荷人であるFに対し荷渡しを行っていたが,同人は,逐一,氏名や数量を記録することなく,しらすうなぎの目方に応じてその場で現金を支払い,水槽に入れるように指示していただけであった。他方,被告も,Fからの取扱い実績を具体的に明らかにしておらず,別件訴訟におけるGの証言(本件補償契約締結当時のC組合長,甲26号証。以下「G証言」という。)によれば,指定集荷人制度による種苗確保の運用は十分果たされていなかった。 このように,実態において,F以外の買い受け人が存在し,F自身が正式な採捕数量報告を行っておらず,採捕報告の記入用紙がC組合から原告らに対して交付され,さらに原告らが採捕したしらすうなぎを自家種苗用にも利用していたから,採捕全量の引渡を前提とする指定集荷人制度は存在しない。原告らには採捕従事者証が発行されていたのであり,原告らが採捕秩序を乱した事実はない。 ウ漁業補償の趣旨から見た補償請求権漁業補償は,権利の消滅に対して補償されるのではなく,権利の消滅によって生じる損失に対して支払われるものである。本件で,許可漁業が不能になることに た事実はない。 ウ漁業補償の趣旨から見た補償請求権漁業補償は,権利の消滅に対して補償されるのではなく,権利の消滅によって生じる損失に対して支払われるものである。本件で,許可漁業が不能になることにより損失を被るのは,原告らのように現にしらすうなぎの採捕に従事していた者であるから,補償請求権を有するのは原告らである。 原則として,補償請求権を有するには許可を受けていることを要するとしても,原告らがC組合から採捕従事者と認められていたこと,従前は個人で許可を受けていたが,行政側の事情で採捕従事者という立場におかれたこと等の事情からすれば,原告らに対し許可が与えられていないことが原告らの補償請求権を否定する理由にならない。 許可漁業において,許可を受けた者を当該漁業の権利を有する者として扱うのは,許可を受けた者に与えられた補償金がその構成員に配分されることにより,最終的には現実に当該許可漁業の利益を受けている者に対して補償が実現されるという結果になるからである。ところが,本件の場合,許可を受けたC組合の構成員以外の者のみが,実際に許可漁業に従事していたため,許可を受けた者に与えられた補償金が現実に当該許可漁業の利益を受けていた者に配分されない結果になり,被害補償の趣旨に明らかに反している。他方,原告らを権利者として扱うことは,何ら被害補償の趣旨に反せず,むしろその趣旨に適合している。したがって,本件の場合,当該漁業の権利を有する者は,C組合ではなく,実際に許可漁業に従事している原告らを指すと言うべきであるから,原告らには,損失補償基準要綱で定める補償請求権がある。 エよって,原告らは,しらすうなぎの採捕が不能になったことについて,漁業法の準用ないし憲法29条に基づき,被告に対し補償請求権を有する。 (被告の主張)原告らの前記主張はいずれ 求権がある。 エよって,原告らは,しらすうなぎの採捕が不能になったことについて,漁業法の準用ないし憲法29条に基づき,被告に対し補償請求権を有する。 (被告の主張)原告らの前記主張はいずれも否認する。原告らは被告に対し,次のとおり損失補償金を請求しうる権利を有しない。 アしらすうなぎの特別採捕許可の制度は,水産資源保護の目的から自由にしらすうなぎを採取することを一般的に禁止していたものを,増養殖用の種苗供給の目的に限って,特定の者に一定の条件の下に禁止を解除するものであって,その限度での自由の回復に過ぎないのであるから,憲法上補償された漁業を営む権利を回復するものでもなく,許可を受けた者も特段の事情のないかぎり損失補償の対象とはなり得ない。ただ,社会通念上,権利と認められるほどにまで成熟していると判断される特段の事情が認められる場合は,被告は補償の対象として補償を行う。すなわち,権利でなくとも,社会通念上権利と認められる程度にまで成熟したものは,その他漁業に関する権利と認められ,補償の対象になるが,この場合でも,補償を受けるものは許可を受けているものである(公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱2条5項,17条,33条,公共用地の取得に伴う損失補償基準細則第7の3(三),第14の1(二),乙7号証)。原告らは,養鰻組合が得た特別採捕許可に基づき,単に採捕従事者として許可の範囲内においてしらすうなぎを採捕する者にすぎないから,何らの権利が発生する由もなく,個々に被告に対し補償を求める権利を有しない。 イ原告らのしらすうなぎ採捕の成熟性について(ア) 被告が平成3年5月30日,C組合との間で本件補償契約を締結したのは,組合が養鰻業を目的とし,長期間にわたり継続的に三重県知事から特別採捕許可を受けて,同許可に基づいてしらすうなぎの採 いて(ア) 被告が平成3年5月30日,C組合との間で本件補償契約を締結したのは,組合が養鰻業を目的とし,長期間にわたり継続的に三重県知事から特別採捕許可を受けて,同許可に基づいてしらすうなぎの採捕を継続的に行使してきたのを総合的にみた場合,社会通念上権利と認められるほどにまで成熟しているものと判断される特段の事情があると認められたためであり,実際の採捕実態に即して漁業としての成熟性を認めたのではない。原告らは,C組合が得た特別採捕許可に基づき,単に採捕従事者として同許可の範囲内においてしらすうなぎを採捕する者にすぎないから,個々に補償を求める権利を有しない。なお,C組合の組合員の中にも採捕従事者として実際に採捕を行っている者がいる。 (イ) 三重県漁業調整規則には,特別採捕許可を個人に与えないという規定はないが,特別採捕許可の趣旨からして許可を与えられるのは,①種苗を自給する採捕団体,②種苗を供給する採捕団体,③種苗を供給する許可実績者に限られ,また,県の「許可方針」によれば,許可の対象者は原則としてC組合,海面及び内水面漁業協同組合,ふくろ網許可保有者であるから,原告らが昭和52年以前に個人で採捕許可を受けていたことはあり得ない。 特別採捕許可を受けていないB組合なり同組合支部が,許可申請を代行することはあり得ず,採捕数量の報告義務もない。また,原告ら個人がC組合を経由して三重県に採捕数量の報告書を提出していたというのは県の「指導要領」からも考えられず,県が受理するはずもない(乙3号証)。原告らが別表1で主張する採捕量はでたらめであり,原告らの採捕実績が社会通念上権利と言いうるまでに成熟したとは認められない。 (ウ) 指定集荷人制度についてしらすうなぎの特別採捕許可の趣旨は,しらすうなぎの保護培養と種苗の確保との調整にあるから,許可 らの採捕実績が社会通念上権利と言いうるまでに成熟したとは認められない。 (ウ) 指定集荷人制度についてしらすうなぎの特別採捕許可の趣旨は,しらすうなぎの保護培養と種苗の確保との調整にあるから,許可数量の範囲内において採捕され,三重県下の養殖業者に種苗が安定供給されることをチェックするために指定集荷人制度が設けられていた。乙14,15号証によれば,この制度は,少なくとも昭和44年以降は存在していて,昭和54年11月以降,三重県は毎年「しらすうなぎ特別採捕許可方針」「しらすうなぎ特別採捕許可指導要綱」「同申請の事務手続き等」と題する書面を作成して指定集荷人制度について明記し,C組合に配布している。したがって,指定集荷人への荷渡しは,実質的には特別採捕許可を受けるにあたっての前提条件であり,許可を受けた者及び採捕従事者には義務となるが,C組合はこれを遵守していた。 原告らはC組合の採捕従事者として承認されていたから,指定集荷人以外の者に荷渡しできないことを十分承知していたはずである。三重漁連機関誌のコラムでも指定集荷人への荷渡しを遵守すべき旨の記事が掲載されている(乙14号証)。原告らが昭和63年まで指定集荷人制度を知らなかったということは,この時まで原告らが特別採捕許可制度の趣旨を理解せず,指導要領に反して指定集荷人以外の者に採捕したしらすうなぎを処分していたことになる。 G証言によると,指定集荷人制度は十分に機能しており,同制度が機能していたからこそ,別表2(乙15号証の別表)のような採捕量の把握もできた。原告らからの荷受量の記録がないのは,原告らにしらすうなぎの採捕の実績がないか,採捕実績があるとすれば,採捕したしらすうなぎを指定集荷人以外の者に売り渡していたかどちらかである。 採捕従事者は,C組合に対し養殖のため与えられている特別採捕許可 にしらすうなぎの採捕の実績がないか,採捕実績があるとすれば,採捕したしらすうなぎを指定集荷人以外の者に売り渡していたかどちらかである。 採捕従事者は,C組合に対し養殖のため与えられている特別採捕許可の範囲内でしらすうなぎを採捕できるから,採捕したしらすうなぎをC組合の指定集荷人に荷渡しすることが義務づけられている。したがって,指定集荷人に荷渡しした実績のない原告らは,しらすうなぎが採捕できなくなったからといって,補償を求める立場にはない。 仮に,原告らが「指導要領」の採捕秩序を遵守した採捕従事者であるとしても,補償の対象者はC組合であり,組合員又は採捕従事者が個々に直接補償を請求することはできない。被告が支払った補償の配分は,C組合においてなすべきである。 ウ公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱17条によれば,漁業補償の本質は,消滅する「漁業権等」に対するものであり,補償すべき額は,当該権利を行使することによって得られる収益を資本還元した額とされている。 しらすうなぎの特別採捕許可は,うなぎの養殖用の種苗の供給のために行われるものであって,採捕者の利益のためではない。それ故,養殖業者を構成員とするC組合に特別採捕許可が与えられたのである。したがって,採捕量が減少することによって,実際に損失を被るのは組合であり,組合員であり,採捕秩序を遵守している採捕従事者である。 最高裁平成元年7月13日判決(民集43巻7号866頁)は,共同漁業権は,法人としての漁業協同組合に帰属し,組合員の漁業を営む権利は,漁業協同組合という団体の構成員としての地位に基づき,組合の制定する漁業権行使規則の定めるところに従って行使することのできる権利であるとし,漁業協同組合がその有する漁業権を放棄した場合に漁業権消滅の対価として支払われる補償金は,法人としての漁業協同組合 合の制定する漁業権行使規則の定めるところに従って行使することのできる権利であるとし,漁業協同組合がその有する漁業権を放棄した場合に漁業権消滅の対価として支払われる補償金は,法人としての漁業協同組合に帰属し,現実に漁業を営むことができなくなることによって損失を被る組合員に配分されるべきであるとしている。これを受けて,下級審判決でも,補償請求権は,漁業協同組合のみに存し,個々の組合員が被害の回復を求めることはできないと判示している。組合が受けている特別採捕許可があればこそ許可の範囲内の採捕も可能となり,組合員が営むうなぎの養殖も可能となるのであるから,本件における養鰻組合と組合員及び採捕従事者との関係は,共同漁業権の場合における組合と組合員との関係と同様であり,前記判例の趣旨からすれば,本件においても,補償金は許可を受けているC組合に帰属し,個々の組合員及び採捕従事者が被害の回復を求めることは許されない。 (2) 被告が原告らに対し補償金を支払わずに本件事業を行ったことが,原告らに対する民法709条の不法行為となるか。 (原告らの主張)被告がA川のしらすうなぎの採捕実態について不十分な調査しかなさず,原告らに対して本来行うべき補償金を支払わないまま違法に本件事業を行った故意過失により,原告らは,漁業を営む権利が侵害され,損害を被った。 ア原告らの権利性原告らは,現実に昭和45年から同63年までの約20年間にわたってしらすうなぎの採捕という漁業に従事し,それが生活上の利益となっているから,この漁業を営む地位は,法的に保護に値する利益すなわち権利である。 (ア) 原告らは,C組合の採捕従事者として許可を得て,採捕に従事していたが,実際には,昭和52年以前には原告らは個人で許可を受けていたものを,その後,三重県の行政上の都合で,C組合に集約した る。 (ア) 原告らは,C組合の採捕従事者として許可を得て,採捕に従事していたが,実際には,昭和52年以前には原告らは個人で許可を受けていたものを,その後,三重県の行政上の都合で,C組合に集約したにすぎず,もともとC組合に所属していなかった原告らに対しては,採捕従事者との名称において従前の許可に代わる地位を付与してきたものである。三重県漁業調整規則でも許可対象を限定しておらず,もともとは原告らを含めた個人も許可の対象者としていた。しらすうなぎの乱獲防止,養殖のための種苗の確保及び採捕を業とする者の利益との調和という特別採捕許可の趣旨は,許可対象者が団体であろうと個人であろうと達成可能である。よって,特別採捕許可の趣旨は,原告ら個人に許可を与えないという結論を導くものではない。 このように,しらすうなぎの採捕事業は,元来養鰻組合だけが対象となるものではなく,a町における従前からの採捕従事者の半数以上がC組合員ではない原告らであったから,本件の場合,C組合にだけ漁業権が帰属するものではない。 (イ) 原告らが特別採捕許可を直接受けていない場合でも,原告らの採捕の実績は,権利として認めうるものである。 原則として,海は自由に使用することができ,許可漁業は単に本来の自由を回復するにすぎない。原告らには,漁業で生活してきたことだけで,生活上の利益があることになり,権利性がある。しかも,かつては個別に許可を受けていたのであるから,しらすうなぎの採捕について社会通念上権利と認められる程度に成熟した利益を持つ「採捕に従事する者」である。 (ウ) 原告らは,過去においては特別採捕許可を受けた者として,昭和53年ころ以後は採捕従事者として,禁止の解除を受けて,現実に昭和45年ころから63年までの約20年間にわたってしらすうなぎの採捕に従事してきた。これに対し, いては特別採捕許可を受けた者として,昭和53年ころ以後は採捕従事者として,禁止の解除を受けて,現実に昭和45年ころから63年までの約20年間にわたってしらすうなぎの採捕に従事してきた。これに対し,C組合は採捕実績がなく,C組合の組合員は養鰻に従事するだけで,しらすうなぎの採捕には従事していない。 C組合が許可を受けた者として意味があるのは,三重県の行政事務を一部代行する程度である。 とすれば,C組合は形式的には許可を受けた者であっても,しらすうなぎの採捕を実施しているのは,原告ら「従事者」であり,原告らが「当該漁業の権利を有する者」である。 (エ) 指定集荷人への荷渡しは行政指導に過ぎず,原告らに法律上の義務が生じる性質のものではない。原告らは,指定集荷人制度の存在を知った後は,指定集荷人であるFに対して荷渡しを行っていたが,同人は,逐一氏名や数量を記録することなく,しらすうなぎの目方に応じてその場で現金を支払い,水槽に入れるように指示していただけであった。このように,実態において,採捕全量の引渡を前提とする指定集荷人制度は存在していなかったから,指定集荷人制度に関連して原告らが採捕秩序を乱した事実はない。 イ権利侵害原告らは,昭和45年ころからしらすうなぎの採捕に従事して,生活上の利益を得ていたが,被告による本件事業により,一切の補償を受けることなく,その利益は奪われた。 被告は,平成3年5月30日,C組合との間に本件事業の施行等に伴う漁業上の一切の損失の補償につき補償契約を締結し,本件補償金を組合に支払ったが,原告は,C組合の組合員でないので,E地方裁判所でのC組合に対する別件訴訟で,本件補償金の分配を受けられる保障はない。 このように,被告がC組合へ本件補償金を支払って本件事業を行ったために,しらすうなぎの採捕に従事して得ていた原告 ,E地方裁判所でのC組合に対する別件訴訟で,本件補償金の分配を受けられる保障はない。 このように,被告がC組合へ本件補償金を支払って本件事業を行ったために,しらすうなぎの採捕に従事して得ていた原告らの利益,すなわち漁業を営む権利が侵害された。 ウ違法性被告は,補償を受けるべき対象に原告らが含まれるか,また,養鰻組合に原告らに対する補償金の受領権限があるかについて調査すべきであったのに,これを怠ったことが違法である。 (ア) 被告は,採捕従事者から採捕の実績を聴取し,それをもとに補償金の積算を行ったのであるから,しらすうなぎを採捕できなくなることが補償の対象とすべき損失であるとの考え方を前提としている。被告は,しらすうなぎの採捕実態を調査する過程で,原告らが長年採捕従事者証を得ていたこと,三重県に対し継続して採捕報告をしていたこと等から,実際の採捕が採捕従事者によってのみ行われていたことを認識できたはずである。また,被告は,三重県に対する平成2年5月15日の照会で,原告らが採捕従事者であるとの説明も受けているはずである(甲30号証)。とすれば,被告は,原告らが補償の対象に含まれることに気づいたはずであり,気づいていなければ調査不十分である。 (イ) 被告がC組合に対して支払った補償金に,原告らの損害に対する補償金が含まれていたとしても,原告らがC組合に対し漁業補償の交渉に関する代理権を授与した事実も,C組合にその権限が付与されていた事実も,また,原告らがC組合の受領行為を追認した事実もない(甲6号証)から,C組合は,原告らに対する補償金の受領権限を有していない。被告は,C組合の受領権限の有無について調査すべきであったのに,これを怠ってC組合に補償金全額を支払ったのであるから,その支払いを原告らに主張することはできない。 (ウ) 以上のとお 有していない。被告は,C組合の受領権限の有無について調査すべきであったのに,これを怠ってC組合に補償金全額を支払ったのであるから,その支払いを原告らに主張することはできない。 (ウ) 以上のとおりであるから,被告がC組合に対して支払った補償金が原告らに対する補償を含む趣旨か否かに関わらず,本件事業の実行の過程において必要な調査義務を懈怠し,調査不十分により原告らに補償金を支払わずに本件事業工事を行ったことは義務違反として違法である。 仮に,被告が過去の時点でなしうる調査を尽くしていたとしても,現時点においては,河口堰の建設により原告らの漁業を営む権利が事実上消滅し,原告らの生活上の利益が侵害されたことが明らかであるから,それにもかかわらず,被告が原告らに対する補償金支払いを拒むことは故意に補償を行わないものであり違法である。 (被告の主張)ア原告らの前記主張はいずれも否認する。原告らが漁業補償請求権を有しないということは,次のとおり採捕従事者の地位に法的保護に値する利益すなわち権利が認められないということである。 (ア) しらすうなぎの特別採捕許可は,一般的禁止の解除で,自由の回復に過ぎず,許可によって新たに権利が設定されるものではない。したがって,許可を受けた者も当然には権利者とならないが,許可漁業で当該漁業の利益が社会通念上権利と認められる程度にまで成熟していると判断される場合は,「その他漁業に関する権利」として権利と認められる(乙4,6,23号証)。しかし,この場合でも許可を受けた者の下における採捕従事者は,単に採捕ができるというにとどまるから,何らの権利が付与されるものではない。C組合の採捕従事者は,15歳以上の義務教育終了者で特別採捕許可を受けた組合が認めた者であれば何人でもなることができるのであり,単に組合の採捕従事者名 まるから,何らの権利が付与されるものではない。C組合の採捕従事者は,15歳以上の義務教育終了者で特別採捕許可を受けた組合が認めた者であれば何人でもなることができるのであり,単に組合の採捕従事者名簿に登載されているだけの者であって,組合の特別採捕許可の内容を行使するに過ぎない者であるから,権利性は認められない。 (イ) 三重県は,漁業調整規則52条に基づくしらすうなぎの採捕許可に関し,うなぎ資源の有効利用等を目的として,「しらすうなぎ特別採捕許可方針」を定めているが,これによれば,特別採捕許可の対象者は,漁業協同組合等であり,本件採捕区域においては,C組合が許可を受けている。原告らのような個々の採捕従事者は特別採捕許可の対象者に含まれないし,昭和52年以前に原告ら個人が特別採捕許可を受けていた事実もない。 水産資源保護法4条1項,三重県漁業調整規則1条,38条,52条によれば,しらすうなぎの特別採捕許可の趣旨は,水産資源の保護培養と増殖のための種苗の確保の調整にあり,採捕を業とする者の利益(採捕の自由の要請)などは含まれない。県がC組合に特別採捕許可を与えたのは,採捕数量の把握と県内の養鰻業者への種苗の確保を確実ならしめるためであり,単なる行政上の都合のみによるものではない。原告ら個人に,一定の採捕数量の範囲で許可を与え,採捕数量を報告させることだけでは,前記特別採捕許可の趣旨は達成されない。 (ウ) また,原告らが指定集荷人制度を遵守せず,採捕したしらすうなぎを横流ししていたとすれば県の「指導要領」違反であり,原告らは,採捕秩序を乱したことになるから,保護される利益はない。 イ被告が,原告らの権利を違法に侵害した事実はない。 (ア) 被告の河口堰建設事業は,内閣総理大臣が昭和43年10月15日に決定した「木曽川水系における水資源開発基本 から,保護される利益はない。 イ被告が,原告らの権利を違法に侵害した事実はない。 (ア) 被告の河口堰建設事業は,内閣総理大臣が昭和43年10月15日に決定した「木曽川水系における水資源開発基本計画」に基づき施行された事業の1つであるから適法行為である。 (イ) 被告に調査義務違反はない。 被告が採捕従事者の採捕実績を各人について完全に把握することは困難で,客観的な採捕実績は,指定集荷人の取扱量に依らざるを得ない。被告としては,指定集荷人制度等が遵守されていると考えるのは当然であり,補償対象採捕量については,C組合から提出されたA川河口堰周辺の漁場の指定集荷人であるFの取扱い実績に基づき,補償対象採捕量とした(乙30号証)のであり,個々の採捕従事者の採捕量を調査する必要はない。ましてや,県の許可方針や指導要領に違反して採捕したものまで,補償の対象をすることは考えられない。また,被告が三重県に対し,平成2年5月15日に照会したのは,しらすうなぎの特別採捕の許可の方法に関してであり,原告らが採捕従事者であることの説明は受けていない。 また,原告らは漁業補償請求権を有しないのであるから,被告がC組合に原告らに対する補償金を受領する権限があるか否かを調査しなかったとしても,被告の過失が問われることにはならない。 被告がC組合と補償契約を締結するにあたっては,C組合が有する当該漁業権等の経済的価値を参考にして補償額を決定した。 (ウ) 原告らがC組合から補償金の分配を受けられなかったのは,指定集荷人であるFに対する荷渡しの実績がなく(乙11号証),実際に採捕に従事したか不明であるからである。仮に採捕していたとしても,Fに荷渡する義務に違反するから,配分を受ける資格はない。 (エ) 以上のとおり,被告がC組合との間で補償契約を締結し補償金を支払った過 捕に従事したか不明であるからである。仮に採捕していたとしても,Fに荷渡する義務に違反するから,配分を受ける資格はない。 (エ) 以上のとおり,被告がC組合との間で補償契約を締結し補償金を支払った過程に違法な点は認められないから,被告が原告らの採捕従事者の地位を故意過失により侵害したということはない。 (3) 損失ないし損害(原告らの主張)原告らの損失ないし損害としては,別表1のとおり採捕不能になる直近の昭和60年度から同63年度の4年間の原告らのしらすうなぎの採捕量から算出した1年当たり平均の6年分が相当である。 各原告の具体的な請求金額は,別紙請求金額一覧表記載のとおりであり,遅延損害金は,訴状送達日の翌日である平成11年2月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による。 (被告の主張)原告らの前記主張は否認する。 第3 当裁判所の判断 1 本件補償契約締結に至る経緯前提となる事実と,甲4,5,11,14,15,18,24ないし26,29号証,甲1号証の1ないし9,甲2号証の1ないし17,甲3号証の1ないし18(枝番を含む),甲16号証の1ないし4,甲19号証の1ないし34,甲21,23,27,28号証(各一部),乙1ないし3,5,12ないし15,17,20,28ないし30号証,及び原告H本人尋問の結果(一部),並びに弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。 (1) 昭和45年7月21日,三重県漁業調整規則の改正により,三重県全域で全長20センチメートル以下のうなぎの採捕が禁止され,同改正規定が昭和48年1月1日から適用されることになったため,C組合は,毎年,三重県内の海面及び河川の共同漁業権漁場区域を除く海面及び河川におけるしらすうなぎの特別採捕許可を三重県から受けていた(甲1号証の1ないし9,甲5,15,18,30号証 になったため,C組合は,毎年,三重県内の海面及び河川の共同漁業権漁場区域を除く海面及び河川におけるしらすうなぎの特別採捕許可を三重県から受けていた(甲1号証の1ないし9,甲5,15,18,30号証)。 三重県は,特別採捕許可に伴い,しらすうなぎの必要量を把握するため,養鰻業者の団体であるC組合から当該年度のしらすうなぎの必要量を報告させ,この報告に基づいて採捕数量の最高限度を決定し,許可対象者である関係組合へ採捕量を配分して特別採捕許可を与えていた(甲29号証)。 また,三重県は,特別採捕許可に関する基本的な事項については,「しらすうなぎ特別採捕許可方針」(以下「許可方針」という。),「しらすうなぎ特別採捕許可指導要領」(以下「指導要領」という。),「しらすうなぎ特別採捕許可申請の事務手続き等」により毎年定めていた(乙1,2,13号証,乙25号証の1ないし4)。具体的には,C組合は,三重県に対し,県下のうなぎ養殖業者名簿を提出することとされ,特別採捕許可を受けた者は,毎月のしらすうなぎの採捕報告書を翌月10日までに三重県へ提出するよう定められている。また,しらすうなぎの採捕を希望する者は,海面又は内水面の共同漁業区域で採捕しようとする場合はそれぞれの区域を管理する漁業協同組合に,共同漁業権区域以外の場所で採捕しようとする場合はC組合にそれぞれ申請し,各組合は,これらをとりまとめて採捕従事者名簿に登載して三重県に提出し,三重県から送付される特別採捕許可証の写しを採捕従事者名簿に従って採捕従事者に発行することとされている。 (2) 原告Iは,近所でしらすうなぎを採ると小遣い稼ぎになるという話を聞き,昭和36年ころから,冬場の農閑期の小遣い稼ぎとしてしらすうなぎの採捕を行い始めたが,当時,しらすうなぎの採捕には許可が必要であることを知らずに採捕を すうなぎを採ると小遣い稼ぎになるという話を聞き,昭和36年ころから,冬場の農閑期の小遣い稼ぎとしてしらすうなぎの採捕を行い始めたが,当時,しらすうなぎの採捕には許可が必要であることを知らずに採捕を行っていた(甲23,28号証)。 昭和40年代初めころ,a町内で減反政策がとられるようになったため,農業等に従事していた原告らは,水田を養殖池に変えて,金魚を養殖するようになった。そして,農閑期には,しらすうなぎを採捕して,買付業者に売ったり,金魚の養殖用の池に入れたりしていた(甲19号証の1ないし34,甲23,28号証)。 昭和54年,原告Hが,B組合のa支部長になった(甲27号証)。このころから,原告らは,B組合a支部長の原告H名で,「しらす採捕許可申請書」と題する,原告らを含む(但し,原告Jは昭和59年以降,原告Kは昭和57年以降申請)しらすうなぎの採捕希望者の氏名,年齢及び住所(但し地区名までの記載)を記載した書面を三重県知事宛に提出していた。C組合はこれらの書類を採捕従事者の届出書類として処理し,原告らはC組合の採捕従事者としてしらすうなぎの採捕が可能となっていた(甲1号証の2ないし9,甲2号証の3ないし17,甲29号証)。 昭和63年から,採捕従事者である旨の証明書の様式が変更され,三重県は許可の対象者である各組合に対して特別採捕許可証を発行する事務のみを行い,各組合が採捕従事者に対して採捕従事者である旨の証明書を発行するようになった(甲1号証の1ないし9,甲29号証)。 (3) 指定集荷人制度とは,三重県の指導により,C組合が集荷人を指定して,指定集荷人名簿を三重県及び特別採捕許可を受けた者に提出し,特別採捕許可を受けた者及びその採捕従事者は原則として指定集荷人へ荷渡しを行い,指定集荷人はC組合から提出されたうなぎ養殖業者名簿に記載 ,指定集荷人名簿を三重県及び特別採捕許可を受けた者に提出し,特別採捕許可を受けた者及びその採捕従事者は原則として指定集荷人へ荷渡しを行い,指定集荷人はC組合から提出されたうなぎ養殖業者名簿に記載されている者に荷渡しをするという制度である(乙2,13,20号証)。 C組合は昭和44年には,本件事業が施行される一帯である三重県桑名郡a町の指定集荷人としてFを指定し,同人宅の玄関に木の札をかけてC組合員や採捕従事者がFにしらすうなぎの荷渡しをするよう促し,また,しらすうなぎの採捕量の報告をFから一括して受けていた(甲26号証,乙15号証)。 昭和44年ころ以降,A川におけるしらすうなぎの採捕については,①採捕者から指定集荷人が買い入れ,これを養鰻業者に販売する方法,②養鰻業者が自給のため採捕者から買い入れる方法(自給集荷人),③養鰻業者が自給のため自ら採捕する方法により,C組合がその採捕量等を把握,管理してきた。 (4) 被告は,昭和49年ころから,本件事業を予定して三重県a町等と意見交換等を行っていた(甲11号証)。 昭和53年9月21日,C組合は,被告に対し,A川河口堰の建設による河川水の流量及び水質,河床の変化等からしらすうなぎ及びはく(ぼらの当年稚仔)の漁獲が望めなくなるおそれがあることを理由として,本件事業に対して養鰻業者全体の立場で反対するとの意向を示した(乙15号証)。これ以降,C組合が被告に対して本件事業に関する補償を要求する交渉を始め,補償交渉は,C組合長,L,Mの3名が行った。C組合の組合長理事は,昭和56年4月27日から平成7年11月22日までの間,Gが務めていた(甲26号証)。 (5) 昭和63年3月,被告が河口堰の建設工事に着工し,平成元年ころ以降,原告らはしらすうなぎを採捕できなくなった(甲3号証の14ないし16,甲 1月22日までの間,Gが務めていた(甲26号証)。 (5) 昭和63年3月,被告が河口堰の建設工事に着工し,平成元年ころ以降,原告らはしらすうなぎを採捕できなくなった(甲3号証の14ないし16,甲3号証の17の1ないし5,甲3号証の18の1ないし3)。 (6) 平成2年10月8日,C組合は,臨時総会を開き,本件事業に関する補償金の配分について,配分委員会を設置して配分委員を選任し,しらすうなぎの採捕を客観的に確認できる採捕従事者から,配分手続(配分委員会が配分基準案を作成して総会の確認を経て進めるという手続)についての同意書を徴収することを決議した。その後,指定集荷人のFや自給集荷人等により確認できるしらすうなぎの採捕従事者から前記同意書が徴収された(甲26号証)。 そして,平成3年5月30日,C組合と被告は,本件事業に関し,本件補償契約を締結した(乙5号証)。C組合側で補償契約書の作成に立ち会ったのは,配分委員会委員長のL,指定集荷人のF,C組合長のGの3名であった(甲26号証)。 (7) C組合は,受け取った補償金を,主に三重県a地区,b地区及びF関係とに分けて配分したが,原告らには配分しなかった(甲24ないし26号証)。 2 争点(1)(原告ら個人が被告に対し憲法29条等に基づく損失補償請求権を有するか。)について(1) 本件におけるしらすうなぎの採捕の性質漁業とは,水産動植物の採捕又は養殖の事業をいい(漁業法1条1項),漁業権とは,行政上の免許により一定の水面において排他的に一定の漁業を営むことを得る権利であり,漁業法上,定置漁業権,区画漁業権及び共同漁業権がある(同法6条1項)。 これに対し,許可漁業は,水産資源の保護,漁業調整の目的から自由に漁業を営むことを一般的に禁止した上で,行政庁が出願を審査して特定の者に禁止を解除するもの 漁業権及び共同漁業権がある(同法6条1項)。 これに対し,許可漁業は,水産資源の保護,漁業調整の目的から自由に漁業を営むことを一般的に禁止した上で,行政庁が出願を審査して特定の者に禁止を解除するものであって,本来の自由の回復であるので,他の漁業を排他して独占的に営む前記漁業権とはその性格を本質的に異にするものである。許可漁業には,大臣許可漁業と知事許可漁業があり,さらに知事許可漁業には法定知事許可漁業(漁業法66条)と漁業調整規則による知事許可漁業がある。漁業調整規則による知事許可漁業とは,漁業法65条1項及び水産資源保護法4条1項の規定に基づき,漁業取締りその他漁業調整及び水産資源の保護培養上の必要性から,各都道府県において「漁業調整規則」「内水面漁業調整規則」を制定して,各種の制限措置を講じたものである。 本件におけるしらすうなぎの採捕は,三重県漁業調整規則38条で一般的に禁止したものを,同規則51条に基づく知事の許可により禁止を解除したものであるから,漁業調整規則による知事許可漁業である。許可の期間は,12月15日から翌年4月30日までであり,毎年許可の申請が必要である。 (2) 許可漁業に対する漁業補償ア漁業法39条5項は,漁業法上の漁業権の変更若しくは取消又はその行使の停止によって生じた損失を当該漁業権者に対し補償すべき旨定めているが,許可漁業に対する補償を定める規定はない。 イ原告は,許可漁業は,許可を与えられた範囲で漁業を営む権利が回復されるものであるから,現にそれに従事し生活上の利益となっているときには,その損失に対して補償がなされるのは当然であると主張する。 しかし,「許可」とは,本来自由である行為を公共の福祉上の要請から法令によって一般的に禁止し,これを特定の場合に解除するものに過ぎず,新たに権利が設定されるもので なされるのは当然であると主張する。 しかし,「許可」とは,本来自由である行為を公共の福祉上の要請から法令によって一般的に禁止し,これを特定の場合に解除するものに過ぎず,新たに権利が設定されるものではない(甲6号証)。 もっとも,昭和37年6月29日閣議決定により定められた「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」(乙4号証,以下「補償基準要綱」という。)17条は,「消滅させる漁業権,入漁権その他漁業に関する権利に対しては,当該権利を行使することによって得られる収益を資本還元した額を基準とし,当該権利に係る水産資源の将来性等を考慮して算定した額をもって補償するものとする」と規定し,同2条5項は,「社会通念上権利と認められる程度にまで成熟した慣習上の利益を権利に含む」と規定している。また,「公共用地の取得に伴う損失補償基準細則」(乙6号証,以下「補償基準細則」という。)第7の2(三)は,「その他漁業に関する権利」とは,許可漁業及び自由漁業(免許可以外の漁業)を当該漁場において反復継続して営んでいること等当該漁業の利益が社会通念上権利と認められる程度にまで成熟しているものをいうと規定している。 そうすると,許可漁業においても,当該漁業の利益が社会通念上権利と認められる程度にまで成熟している場合には,補償の対象になるものと解することができる。 (3) 許可漁業における漁業補償の対象者補償基準細則第7の3は,漁業権等の消滅に係る補償を受ける者として,①漁業権においては当該権利の設定につき免許を受けている者,②入漁権においては当該権利を取得している者,③許可漁業においては当該漁業の権利を有する者,④免許・許可以外の漁業においては都道府県知事又は漁業調整委員会が認める者である旨規定する(乙6号証)。 同規定の「③許可漁業においては当該漁業の権利を有する者」 においては当該漁業の権利を有する者,④免許・許可以外の漁業においては都道府県知事又は漁業調整委員会が認める者である旨規定する(乙6号証)。 同規定の「③許可漁業においては当該漁業の権利を有する者」とは,「許可漁業が社会通念上権利と認められる程度にまで成熟した場合における当該許可を受けた者」と解するのが相当である。 (4) 本件における漁業補償請求権の帰属アしらすうなぎの特別採捕許可の趣旨甲4,14,15号証によれば,漁業調整規則は,水産資源の保護培養,漁業取締り,その他漁業調整を図り,併せて漁業秩序の確立を期することを目的として制定されたものであり,昭和45年7月21日一部改正の漁業調整規則(甲15号証)38条で20センチメートル以下(熊野川水系では30センチメートル以下)のうなぎの採捕を禁止する一方で,同52条で試験研究,教育実習,増養殖用の種苗の供給(自給を含む。)のための採捕については,知事の特別採捕許可により前記制限規定を適用しない旨定めており,また,三重県は,県内のうなぎ増養殖用の種苗の確保を図るために,しらすうなぎの特別採捕許可に関する許可方針や指導要領を毎年定めている(甲18号証,乙1,2,13,28,29号証)。 そうすると,しらすうなぎの特別採捕許可の趣旨は,水産資源の保護培養とともにうなぎ増養殖用の種苗の確保を図る点にあると解され,それ故,三重県は,養鰻業者の団体であるC組合に特別採捕許可を与えてきたものと認められる(甲5,29号証,乙20号証)。 イ C組合のしらすうなぎ採捕の成熟性について前示のとおり,特別採捕許可を受けたC組合は,「許可方針」及び「指導要領」に従って,三重県に対し当該年度のしらすうなぎの必要量を報告するとともに県下のうなぎ養殖業者の名簿を提出し,また,集荷人を指定して指定集荷人名簿を三重県及 受けたC組合は,「許可方針」及び「指導要領」に従って,三重県に対し当該年度のしらすうなぎの必要量を報告するとともに県下のうなぎ養殖業者の名簿を提出し,また,集荷人を指定して指定集荷人名簿を三重県及び採捕許可を受けた者に提出してきた。そして,指定集荷人制度の運用等により,C組合は,昭和44年ころ以降,A川におけるしらすうなぎの採捕について,指定集荷人取扱いの採捕量,自給集荷人取扱いの採捕量及び養鰻業者による採捕量をそれぞれ把握,管理してきた。 このように,C組合の前記一連のしらすうなぎの採捕事業は,しらすうなぎの特別採捕許可の趣旨を継続して実現してきたものと言え,その利益は社会通念上権利と認められる程度にまで成熟したものと認めることができる。したがって,本件事業による損失補償を受ける権利は,許可漁業における当該権利を有する者としてのC組合に帰属すると認めるのが相当である。 なお,原告らは,指定集荷人制度が決められたのは昭和63年であり,実態として指定集荷人制度は機能していなかったからC組合に成熟性は認められず,しらすうなぎの採捕について成熟性を実現していたのは,昭和45年ころから同63年までの約20年間にわたり現実にしらすうなぎの採捕に従事し,三重県に対し採捕数量を報告していた原告らであると主張する。 しかし,乙15号証によれば,昭和44年ころから指定集荷人が存在していたと考えられ,昭和54年12月25日発行の「みえぎょれん」252号(乙14号証)においても「需給の適正を図るために採捕したしらすうなぎはC組合の指定集荷人へ荷渡しすること」と指定集荷人制度の存在を前提とした記載がされているから,昭和54年以前から指定集荷人制度が存在していたと認められる。そして,甲20号証によれば,C組合が採捕数量の報告を要求していたのは「採捕許可者」であり 荷人制度の存在を前提とした記載がされているから,昭和54年以前から指定集荷人制度が存在していたと認められる。そして,甲20号証によれば,C組合が採捕数量の報告を要求していたのは「採捕許可者」であり,甲26号証及び乙15号証によれば,C組合は,採捕従事者によるしらすうなぎの採捕量をFからまとめて報告を受け,各年度の採捕量を管理していたと認められる。確かにしらすうなぎの採捕が県下全域にわたって夜間に行われるという実情からすれば,指定集荷人以外の買い受け人が存在していたことは否定しがたいが,これにより直ちに指定集荷人制度が機能していなかったとまでは言えない。 ウ原告らのしらすうなぎの採捕の成熟性についてところで,原告らは,原告らの採捕従事の実績が,C組合とは別個独立に,社会通念上権利と認められる程度にまで成熟したものであり,C組合とは別個独立に補償金の支払いを請求しうる権利を有すると主張する。 しかしながら,原告らは,特別採捕許可を受けた主体ではなく,C組合の採捕従事者として,C組合が受けた許可を前提に,その許可の範囲内でしらすうなぎを採捕できるという立場にあるに過ぎないから,原告らのしらすうなぎの採捕の利益は,C組合の一連の採捕事業に由来するものであり,C組合の採捕事業の利益が制限されれば,採捕従事者たる原告らの利益も制限される関係にある。そして,前示のとおり,本件において権利と認めうるのは,特別採捕許可を受けた上でその趣旨を継続して実現してきたC組合の採捕事業であり,採捕従事者である原告ら個人によるしらすうなぎの採捕は,C組合の採捕事業の一端を担うものにすぎないから,原告らの採捕自体を独立して権利と認めることはできない。したがって,原告らが被告に対しC組合と離れて独自に補償を請求することはできないと解せられる。 また,原告らの採捕数量報 担うものにすぎないから,原告らの採捕自体を独立して権利と認めることはできない。したがって,原告らが被告に対しC組合と離れて独自に補償を請求することはできないと解せられる。 また,原告らの採捕数量報告書(甲3号証の1ないし18,但し枝番を含む。)には,昭和56年度以降の原告ら各人の採捕数量が記載されておらず,別表1に記載された昭和60年度ないし同63年度の原告ら各人別の採捕量は,原告ら自身もその不正確性を認めている。そうすると,原告ら各人の昭和56年度以降のしらすうなぎ採捕の実績は明らかでなく,原告ら各人の採捕自体により,直ちに水産資源の保護培養及びうなぎ増養殖用の種苗の確保を図るという特別採捕許可の趣旨が実現されていたとは認められないから,原告ら各人のしらすうなぎの採捕自体が,社会通念上権利と認めうる程度にまで成熟していたとは認めることができず,これに反する原告らの前記主張は採用できない。 エ原告ら個人に対する許可の有無について原告らは,昭和45年ころから同52年まで,個別にしらすうなぎの特別採捕許可を得ていたが,行政側の事情で採捕従事者という立場に置かれたに過ぎないから,原告らの被告に対する個別の補償請求権は否定されないと主張する。そして,甲19号証の1ないし34によると,原告らは,別表3「金魚等の養殖開始時期」欄記載のとおり,水田を池に改造して金魚等の養殖を始め,その後,同表「しらすうなぎの採捕開始時期」欄記載のとおり三重県知事から個人で「シラスウナギ特別採捕許可」を受けて個人でしらすうなぎの採捕を始め,さらに,いずれも昭和51年からB組合にとりまとめを依頼して三重県に許可申請及び採捕報告を提出し,昭和61年より許可の様式が変わりC組合の採捕従事者となったと述べている。 しかし,「許可方針」及び「指導要領」では,許可の対象者は,①C にとりまとめを依頼して三重県に許可申請及び採捕報告を提出し,昭和61年より許可の様式が変わりC組合の採捕従事者となったと述べている。 しかし,「許可方針」及び「指導要領」では,許可の対象者は,①C組合,②海面及び内水面の漁業協同組合,③三重県漁業調整規則8条に基づき前年度ふくろ網によるしらすうなぎの特別採捕許可を受けた者であるとされているのであり(乙1,2号証),昭和54年12月25日三重県漁業協同組合連合会発行の「みえぎょれん」252号に記載された「水産事務局だよりしらすうなぎの特別採捕について」においても,「一般的には,漁業協同組合に許可をしているので,採捕できるのは許可を受けた漁業協同組合の採捕従事者名簿に登載された者でなければなりません。」と,許可を受ける対象が漁業協同組合であることを前提とした記載がなされている(乙14号証)。そして,原告らが提出する原告Nの昭和53年12月12日付特別採捕許可証(甲1号証の1)及び原告Hの昭和62年12月11日付特別採捕許可証(甲1号証の2)はいずれも三重県知事作成のものではなく,写と書かれ,C組合の印が押印されていることから,C組合が,同組合に対する三重県からの特別採捕許可証の写を使って,原告らを採捕従事者と定めたものと認められ,昭和63年以降は,様式が変更されてC組合が採捕従事者である旨の証明書を発行するようになっている(甲1号証の1ないし9,甲29号証)。一方,原告Iは,昭和52年以前の原告ら個人に対する特別採捕許可証は存在せず,当時の特別採捕許可証がどのような形式であったかについて記憶していないと述べ(甲23号証),原告Hは,昭和53年から許可証の様式が変わり,発行者としてC組合長の名前が記載されたものが送付され,同54年にはそれまでと異なりC組合から許可証が送られてきたと供述するが ないと述べ(甲23号証),原告Hは,昭和53年から許可証の様式が変わり,発行者としてC組合長の名前が記載されたものが送付され,同54年にはそれまでと異なりC組合から許可証が送られてきたと供述するが,同時に,漁業調整規則を詳しく読んで申請していたのではなく毎年の恒例で申請していたものであり,当時,特別採捕許可証と採捕従事者証の区別はついておらず,昭和53年以降とそれ以前とで採捕に変化はなかったとも供述している。したがって,原告ら個人が特別採捕許可を受けていたとの原告らの記憶が確実なものとまでは認め難い。 以上を総合すれば,昭和52年以前に原告ら個人が直接三重県から特別採捕許可を得ていたと認めるに足りる的確な立証はなく,原告らの前記主張は採用できない。 オ原告らの直接補償請求権の有無原告らは,許可漁業において,許可を受けた者を当該漁業の権利を有する者として扱うのは,補償金の配分により最終的には現実に当該許可漁業の利益を受けている者に対して補償が実現されるからであるが,本件の場合は,現実に当該許可漁業の利益を受けていた原告らに補償金が配分されない結果になり,被害補償の趣旨に反しているから,原告らを権利者と扱うことはかえって被害補償の趣旨に適合すると主張する。 しかし,前示のとおり,本件において権利と認められるのは,しらすうなぎの特別採捕許可の趣旨を実現してきたC組合の採捕事業であり,これにより,原告らだけでなく養鰻業者たるC組合の組合員も現実に利益を受けていたと考えられる。また,乙5号証によれば,本件補償金は,C組合の組合員及びその採捕従事者に対する補償を全て含んだものである。 そうすると,原告らが補償を受けるか否かはC組合内部で本件補償金の配分を受けるか否かの問題であり,原告らがC組合から配分を受けなかったとしても,それゆえに原告らが被告に 償を全て含んだものである。 そうすると,原告らが補償を受けるか否かはC組合内部で本件補償金の配分を受けるか否かの問題であり,原告らがC組合から配分を受けなかったとしても,それゆえに原告らが被告に対して直接補償を請求する権利を有すると認めることはできない。 カまとめ以上のとおりであるから,本件事業による補償を受ける権利を有するのは,特別採捕許可を受け,その趣旨を実現してきたC組合であり,C組合の採捕従事者にすぎない原告らには,漁業法の準用ないし憲法29条に基づいて,C組合と離れて独立して被告に対し補償を請求する権利を有するとは認められない。 よって,争点(1)に関する原告らの主張は理由がない。 3 争点(2)(被告が原告らに対して補償金を支払わずに本件事業を行ったことが原告らに対する不法行為となるか。)について(1) 民法709条の不法行為における原告らの権利性ア民法709条によれば,故意又は過失により他人の権利を侵害した者は,被害者に対して,それによって生じた損害を賠償しなければならないが,この場合の「権利」とは,厳密な意味で権利といえなくても,法律上保護に値すると認められる利益があれば足りるとされている(大判大正14年11月28日民集4巻670頁,最判昭和33年4月11日民集12巻5号789頁等)。したがって,漁業の場合,単に漁業権漁業に限らず,許可漁業や自由漁業であっても,法律上保護に値すると認められる利益が違法に侵害された場合には,民法709条の基づく損害賠償請求権が生じる。 イ原告らは,昭和52年以前は特別採捕許可を受けた者として,昭和53年以降は採捕従事者として禁止の解除を受けて,昭和45年ころから同63年までの約20年間にわたって現実にしらすうなぎの採捕に従事し,それが生活上の利益となっているから,この原告らの漁業を営 昭和53年以降は採捕従事者として禁止の解除を受けて,昭和45年ころから同63年までの約20年間にわたって現実にしらすうなぎの採捕に従事し,それが生活上の利益となっているから,この原告らの漁業を営む地位は法律上保護に値する利益であると主張する。 しかし,原告ら個人によるしらすうなぎの採捕は,採捕従事者としてC組合の受けた許可を前提にその範囲内で行いうるものであり,原告らのしらすうなぎの採捕の利益は,C組合の採捕事業に由来するものであり,C組合の採捕事業の利益が制限されれば採捕従事者の利益も制限される関係にあること,原告らのしらすうなぎの採捕に特別な技術は必要なく,経費も1シーズン1人あたり1万円くらいであること(甲28号証,原告H本人),採捕従事者名簿に記載されていても実際に採捕するか否かは自由であり,原告ら各人のしらすうなぎの採捕の実績は明らかでないこと等を総合考慮すると,原告らの利益が,法律上の保護に値する利益であると未だ的確に認めることはできない。 (2) 違法性ア仮に原告らに法律上保護に値する利益が認められたとしても,乙4,6,30号証によると,被告は,許可漁業の許可の主体であるC組合との間で,補償交渉をなし,補償基準要綱17条,22条,及び補償基準細則第7の4項,第14の1項に基づき補償額を算定して,C組合の組合員や採捕従事者が被る漁業上の一切の損失を補償する趣旨で本件補償金を支払ったものであり,その過程に違法な点は認められない。 したがって,被告がC組合と本件補償契約を締結して本件事業を行ったことが,原告らに対する違法な権利侵害であると認めることはできない。 また,前示のとおり,原告ら個人には,被告に対し漁業補償を請求する権利は認められないから,被告が原告ら個人に補償を行わないことを故意または過失による違法な行為と評価すること と認めることはできない。 また,前示のとおり,原告ら個人には,被告に対し漁業補償を請求する権利は認められないから,被告が原告ら個人に補償を行わないことを故意または過失による違法な行為と評価することはできない。 イこれに対し,原告らは,被告は補償を受けるべき対象に原告らが含まれるか,C組合に原告に対する補償金を受領する権限があるか調査すべきであったのに怠ったから違法であると主張する。 しかし,補償基準要綱及び補償基準細則によれば,補償額の算定の基準とすべき収益は,評価時前3ないし5か年間の平均魚種別漁獲数量であり,補償対象となる漁場の全体の採捕量の実情を調査すれば足りるから(乙4,6号証),被告に採捕従事者の人数や個々の採捕量を調査すべき義務までは認められない。そして,乙30号証によれば,被告は,補償対象となるA川河口堰周辺の漁場の指定集荷人であったFの取扱実績をとりまとめて,昭和59年度から同63年度までの5か年の採捕量の平均値を採用し,採捕従事者からの実態調査により収益率を決定する等して本件補償金額を算定したものであるが,前示のとおり,指定集荷人制度が機能していなかったとは言えないから,これによって採捕量の平均値を採用した被告の補償額算定過程に違法な点があると認めることはできない。 そして前示のとおり,原告ら個人が被告に対し漁業補償を請求することはできないから,C組合の漁業補償交渉に原告らからの代理権の授与は不要であるので,被告はその点に関して調査する義務を負わない。 よって,被告が本件補償契約を締結した過程に違法な点は認められない。 (3) したがって,争点(2)に関する原告らの主張は理由がない。 4 結論以上のとおりであるから,争点(3)につき判断するまでもなく,原告らの被告に対する本訴請求はいずれも理由がないから棄却し,訴訟費用の したがって,争点(2)に関する原告らの主張は理由がない。 4 結論以上のとおりであるから,争点(3)につき判断するまでもなく,原告らの被告に対する本訴請求はいずれも理由がないから棄却し,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条,65条を適用して,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第4部裁判長裁判官水谷正俊裁判官佐藤真弘裁判官松田敦子(別紙請求金額一覧表、別表1及び2は省略)

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