- 1 -決定 主文 本件再審請求を棄却する。 理由 第1 本件再審請求の趣旨及び理由の骨子本件再審請求の趣旨及び理由の骨子は,要するに,確定判決が請求人の犯人性を認める有力な証拠とした,⑴本件に係る犯行声明文(以下「本件声明文」という。)について,文中に3個手書きされている4本の直線によって構成される「+」と「×」の合成記号である「*」印記号(以下「*」と表記するか「本件記号」という。)が,請求人とは別人により筆記されたことを明らかにする証拠(再弁1から3,8から14,a証言)を,⑵請求人居室から発見されたリン止めに使用されるマイナスネジ1本(以下「本件ネジ」という。)について,その発見が捜査機関によるねつ造であることを明らかにする証拠(再弁4から7)を,それぞれ新たに発見したものであって,確定判決について,刑事訴訟法435条6号所定の再審事由が認められるから,再審を開始するとの決定を求めるというものである。 第2 確定審の訴訟の経緯及び確定判決等の内容 1 確定審の訴訟の経緯請求人は,昭和51年9月23日,爆発物取締罰則違反,殺人,殺人未遂の公訴事実により,札幌地方裁判所に起訴され,同裁判所は,昭和58年3月29日,同公訴事実と同旨の犯罪事実を認定して請求人に対し有罪(死刑)の言渡しをした(以下その審理を「確定第1審」という。)。札幌高等裁判所は,昭和63年1月21日,請求人の控訴を棄却し(以下その審理を「確定控訴審」という。),最高裁判所は,平成6年7月15日,請求人の上告を棄却し,同年9月6日,第1審判決が確定した(以下確定上告審判決が是認した確定控訴審判決が維持した範囲で確定した第1審判決を 確定控訴審」という。),最高裁判所は,平成6年7月15日,請求人の上告を棄却し,同年9月6日,第1審判決が確定した(以下確定上告審判決が是認した確定控訴審判決が維持した範囲で確定した第1審判決を「確定判決」という。)。 2 確定判決が認定した罪となるべき事実及び確定判決において請求人が本件犯 - 2 -行の犯人であると認められた理由⑴ 確定判決が認定した罪となるべき事実の要旨は,次のとおりである。 請求人は,氏名不詳者と共謀の上,治安を妨げかつ人の身体財産を害する目的並びに爆発地点付近に現在する多数人に対する殺意をもって,昭和51年3月2日午前8時20分過ぎ頃,消火器(容量約5.2リットル)1本に塩素酸ナトリウム,硫黄,木炭粉の混合爆薬を詰め,これに旅行用時計,乾電池,電気雷管等からなる時限式起爆装置を接続させ,これらをスポーツバッグに収納した手製の時限式消火器爆弾1個(以下「本件爆発物」という。)を,北海道庁本庁舎(以下「道庁」という。)1階西側4号エレベーター昇降口北側の東方に面した壁際の磁器タイル張り床面に装置し,同日午前9時2分頃,これを爆発させ,もって,爆発物を使用するとともに,上記爆発により,死亡の可能性のある地域たる被爆場所に居合わせた2名を殺害したが,同様に居合わせた81名に対しては傷害を負わせたにとどまり,殺害するに至らなかった(以下「本件犯行」という。)。 ⑵ 確定第1審において請求人が本件犯行の犯人であると認められた理由の要旨ア確定第1審において請求人が本件犯行の犯人であると認められた理由の要旨は,次のとおりである。 請求人には本件犯行を敢行する十分な動機があった。 確定判決別紙のとおりの内容の本件声明文が本件犯行に係る犯行声明文であり,本件爆発物を装置使用した者は本件声明文の作成にも関与していると おりである。 請求人には本件犯行を敢行する十分な動機があった。 確定判決別紙のとおりの内容の本件声明文が本件犯行に係る犯行声明文であり,本件爆発物を装置使用した者は本件声明文の作成にも関与しているというべきであるところ,本件声明文中の「*」印記号は,請求人において手書きした蓋然性が極めて大というべきであり,請求人が本件声明文の作成に濃密に関与していたことについては疑いを容れる余地がない。 ㋐請求人が本件爆発物の爆薬である混合爆薬を製造したと推認されること,㋑請求人居室で発見されて請求人が所持していたと認められる本件ネジは,本件爆発物の時限装置に使用された旅行用時計のネジであることのほか,㋒5点の事実関係などを総合勘案すると,請求人が本件爆発物を製造したというべきである。 本件犯行当日の朝に道庁に出入りする不審人物2名を見た目撃者がおり,この不審人物2名が犯人と認めるのが相当であるところ,うち1 - 3 -名が請求人に非常によく似ており同一人物だと思うという同目撃者の証言が信用でき,上記不審人物の1名が請求人であることは疑いを容れないものである。 請求人の言動等には,請求人が本件犯行の犯人でなければ到底理解し難いものがある。 請求人のアリバイに関する弁解を容れる余地が全くなく,請求人のその余の弁解にも理由がない。以上を総合すると,請求人が本件犯行に及んだことは明らかである。 イさらに,確定第1審において,上記ア㋑の事実が認定された理由の要旨は,次のとおりである。すなわち,本件爆発物の時限装置には,旅行用時計bが使用されており,時計bに部品として使用されているネジは,ケース止め用のネジ2本(いずれもプラスマイナス兼用ネジ),下板止め用のネジ3本(いずれもプラスマイナス兼用ネジ)及びリン止め用のネジ2本(いずれもマイナスネジ)の計7本 として使用されているネジは,ケース止め用のネジ2本(いずれもプラスマイナス兼用ネジ),下板止め用のネジ3本(いずれもプラスマイナス兼用ネジ)及びリン止め用のネジ2本(いずれもマイナスネジ)の計7本である。ケース止め・下板止め用のプラスマイナス兼用ネジとリン止め用のマイナスネジとは,相互に転用可能である。本件犯行現場からは,本来とは異なりリン止めとしてねじ込まれた2本のプラスマイナス兼用ネジと,本来の用法どおり下板止めとしてねじ込まれた2本のプラスマイナス兼用ネジ(合計4本)が発見されただけで,残りのプラスマイナス兼用ネジ1本及びマイナスネジ2本については発見されていない。時限装置の製造工程においては,工作不要の下板は取り外されず,ケース及びリンのみが一旦取り外されたと考えられ,その際工作した者はケース止め用のプラスマイナス兼用ネジ2本及びリン止め用のマイナスネジ2本を手にしたと考えられる。その後,ケースは取り外されたままで時限装置が製作されたと認められ,他方,本来の設計とは異なり,ケース止め用のプラスマイナス兼用ネジ2本がリン止めとしてねじ込まれていることからすると,工作した者の手元には元々はリン止めとして使用されていたマイナスネジ2本が取り外された状態で残されているはずである。 昭和51年8月10日午後4時18分から同日午後6時10分までの間,請求人居室において検証及び捜索差押えが実施され,遺留されていた請求人所有の布団袋(以下「本件布団袋」という。)の中から本件ネジが発見され押収された。 - 4 -本件ネジが時計bのリン止め用のマイナスネジと同一規格のマイナスネジであること,請求人が時計bを入手可能であったこと,請求人の弁解(請求人居室からの本件ネジの発見が警察によるねつ造であるか,発見された本件ネジは請求人が時限装置に利用 スネジと同一規格のマイナスネジであること,請求人が時計bを入手可能であったこと,請求人の弁解(請求人居室からの本件ネジの発見が警察によるねつ造であるか,発見された本件ネジは請求人が時限装置に利用する目的で入手して工作途中であった別種の時計の部品であるかのいずれかである。)がいずれも不合理であることからすれば,本件ネジは,本件爆発物の時限装置に利用された時計bのリン止め用のマイナスネジのうちの1本であると認められる。 ⑶ 確定控訴審において請求人が本件犯行の犯人であるとする事実認定の結論に誤りがないとされた理由の要旨ア確定控訴審判決は,①請求人が本件爆発物を製造したことが推認できること,②請求人が本件声明文の作成に関与したことが推認できること,③本件犯行当日,本件爆発物が爆発する約半時間前,バッグを携えた2人連れの男が道庁西玄関に出入りするのを目撃し,そのうちの1人が請求人に非常によく似ている旨の目撃証言の根幹をなす部分の信用性が相当に高いこと,④請求人には,本件犯行の十分な動機が認められること,⑤本件爆発物が爆発した時間帯の請求人のアリバイが明らかとはいい難いのみならず,請求人の本件犯行当日以来の行動等が本件犯行自体に無関係な者の取る態度としては異常なものであることなどのほか,⑥新たに認定した事実関係も総合し,請求人と本件犯行との結び付きは証拠上疑いを容れない程度にまで明らかになったと判断し,請求人が本件犯行の犯人であるとする事実認定の結論に誤りがないとした。②の事実を認定する証拠構造とその評価,③の目撃者の証言の評価をそれぞれ修正し,⑥の事実関係を加えたほかは,おおむね確定第1審と同様の間接事実を認定しているものと理解される。 イ確定控訴審判決が,請求人が本件声明文の作成に関与したことが推認できることという上記ア②の事実 ,⑥の事実関係を加えたほかは,おおむね確定第1審と同様の間接事実を認定しているものと理解される。 イ確定控訴審判決が,請求人が本件声明文の作成に関与したことが推認できることという上記ア②の事実を認定した理由の要旨は,次のとおりである。すなわち,本件の発生を知った北海道警察(以下「道警」という。)本部は,犯行声明文がコインロッカーに入れられている可能性があると判断し,本件犯行当日午前9時50 - 5 -分頃から警察官に地下鉄c駅付近のコインロッカーを巡回監視させたところ,同日午後0時40分頃,株式会社d本社政治経済部の直通電話に若い男の声で,「c駅コインロッカー31番に声明文が入れてある。東アジア反日…戦線」との通告があったため,所属の記者が同コインロッカー付近に急行し,上記監視中の警察官にその旨を告げ,同警察官が,同日午後1時20分頃,同コインロッカー31番を開けて,本件声明文を発見した。そして,実験の結果,本件声明文の文字を一人で連続して打刻すると約1時間50分を要することなどを考慮すると,本件が発生してから本件声明文を作成して,本件声明文の発見前最後に開閉されたと考えられる同日午前11時頃までに同コインロッカーに収納することは,時間的に困難であって,本件声明文は,犯人が犯行前にあらかじめ作成しておき,それを同コインロッカーに収納したものと推認できる。 ㋐本件声明文には,横列27行中の第11列,第14列及び第22列の各行頭の一字分の空白三か所に,約4ミリ角大の「*」印記号合計3個が細書のボールペンを使って手書きされていたこと,㋑請求人が所持していたが後に投棄したと認められる書籍等のうち,雑誌e1975年6月号や,ノート紙(黒字ボールペンで記載のあるもの)等にそれぞれ手書きの「*」印記号が記入されており,逮捕後に請求人が警察官 が所持していたが後に投棄したと認められる書籍等のうち,雑誌e1975年6月号や,ノート紙(黒字ボールペンで記載のあるもの)等にそれぞれ手書きの「*」印記号が記入されており,逮捕後に請求人が警察官の求めに応じてメモを作成した際にも「*」印記号を用いていること(以下,これらの書籍等やメモを併せて「対照資料」ともいう。)などに照らすと,請求人には,本件犯行当時,書籍類に書き込みを入れ,あるいはノート等を取る際に,「*」印記号を常用する習癖があったと認められること,㋒確定第1審で採用された本件声明文中の「*」印記号の筆跡に関する諸鑑定の結果から,直ちに本件声明文中の「*」印記号が請求人により記入されたと断定はできないものの,請求人には,本件声明文中に記載された「*」印記号と同様の「*」印記号を常用する習癖があり,いずれの鑑定とも本件声明文中の「*」印記号と請求人の書いた「*」印記号とが異筆であることを示唆するものではなく,むしろ,本件声明文中の「*」印記号と対照資料に請求人が書いた「*」印記号とは,筆順がおおよそ同一のものが多いと認められ,「*」印記号の大きさがだいたいそろって - 6 -おり,いずれの「*」印記号とも字,行の頭に記入されていると認められることは,客観的観察の結果として肯認でき,さらに,上記諸鑑定の一つによれば,請求人が所持していたと認められる上記書籍等に記入されている「*」印記号及び本件声明文中の「*」印記号の記入に用いられた各黒色ボールペンのインクは,請求人が所持していたと認められるボールペン中芯のインクと,成分が同種であると推認されるのであって,対照資料に請求人が書いた「*」印記号と本件声明文中の「*」印記号との間に,共通の類似点が認められること,㋓北海道の現状を帝国主義の日本人によるアイヌモシリ(アイヌの土地) と推認されるのであって,対照資料に請求人が書いた「*」印記号と本件声明文中の「*」印記号との間に,共通の類似点が認められること,㋓北海道の現状を帝国主義の日本人によるアイヌモシリ(アイヌの土地)の侵略であるなどとする本件声明文の内容は,経歴や所持していた書籍等からうかがわれる請求人のアイヌ問題等に対する立場と傾向が共通することなどを併せ考えると,請求人が本件声明文中の「*」印記号を記入した蓋然性が高いと認めることができる。 本件に先立つ昭和50年7月19日に発生した道警爆破事件の犯行声明文と本件声明文とは,テープライターで幅9ミリメートルの黒色テープにカタカナ(本件声明文では,数字も含む。)を打刻し台紙に貼り付けているという形状,地下鉄c駅のコインロッカー内という置かれた場所,新聞社等に対してその置かれた場所を通告する電話があったこと,東アジア反日武装戦線という作成名義,アイヌモシリの侵略に対する闘争の表明という内容等の特徴的な共通点があること,いくつかの文字の特徴から,両声明文は同一・特定のカタカナ文字盤を使用して打刻された可能性が強いという鑑定結果は十分信頼できることを総合すると,両声明文には同一人の関与がうかがわれる。 上記道警爆破事件の通告電話(合計3回)の送話者の声と請求人の声についての声紋の対比等による鑑定の結果は,「同一人の音声である可能性が極めて大きい。」(第1回,第2回),「同一人の音声である可能性が大きい。」(第3回)というものである。また,パルス音(送話者が通話を切った際にその間に介在する各電話交換機の継電器の接続が切れる音)から,同通告電話が経由した電話局や通話地域を推知すると,請求人が本件当時の勤務先であるクラブから同通告電話を掛けたと考えても矛盾しない。 上記からの事実を考え合わせると,その他の状況証 れる音)から,同通告電話が経由した電話局や通話地域を推知すると,請求人が本件当時の勤務先であるクラブから同通告電話を掛けたと考えても矛盾しない。 上記からの事実を考え合わせると,その他の状況証拠の存在と相まっ - 7 -て,請求人が本件声明文の作成に関与したと推認するに十分である(したがって,確定第1審判決が,請求人が本件声明文の作成に濃密に関与していたと判示したことをもって,事実の誤認があるとはいえない。)。 ウまた,確定控訴審判決は,請求人が本件爆発物を製造したことが推認できることという上記ア①の事実を認定するに当たり,本件ネジに関する事実関係がその有力な状況証拠となる理由について,上記ア㋑の事実とほぼ同様の事実を認定したほか,本件ネジの頭部にはドライバーで付けたと思われる痕跡(傷)が残されていたこと,請求人が何らかの理由で本件ネジをドライバーでいじった際にこの傷を付けたことの各事実も認定した上,本件爆発物の時限装置はリン止め用のマイナスネジが取り外され,これに代えてケース止めに用いられていたと推認されるプラスマイナス兼用ネジが取り付けられているという特異なネジの用い方がされていたのであるから,時計bのリン止め用のマイナスネジに適合する本件ネジが本件布団袋の中から発見されたことは,請求人が本件爆発物の時限装置の工作,ひいては本件爆発物の製造に関与したことを推認させる旨も説示した。 ⑷ 確定上告審判決は,請求人らの上告趣意は刑事訴訟法405条の上告理由には当たらず,記録を調査しても同法411条を適用すべきものとは認められないとした上,請求人が本件犯行の犯人の1人とした原判断は正当として是認できると説示した。 第3 これまでの第1次再審請求及び第2次再審請求の経緯 1 第1次再審請求の経緯請求人は,確定判 ないとした上,請求人が本件犯行の犯人の1人とした原判断は正当として是認できると説示した。 第3 これまでの第1次再審請求及び第2次再審請求の経緯 1 第1次再審請求の経緯請求人は,確定判決において,請求人が本件爆発物の爆薬である混合爆薬を製造したと推認されることという事実(上記第2の2⑵ア㋐)の認定根拠とされた鑑定の誤りを明らかにする証拠を新たに発見したから,刑事訴訟法435条6号所定の再審事由があるなどと主張して,平成14年7月30日,再審請求をしたが,札幌地方裁判所は,平成19年3月19日,新証拠等には証拠の明白性が認められないと判断して同請求を棄却し,札幌高等裁判所は,平成20年5月28日,同判断 - 8 -に誤りはないとして請求人の即時抗告を棄却し,最高裁判所は,平成23年12月19日,請求人の特別抗告を棄却した。 2 第2次再審請求の経緯⑴ 請求人は,第1次再審請求時とおおむね同趣旨の証拠を新たに発見し,また,本件ネジの発見がねつ造されたことを明らかにする証拠を新たに発見したから,刑事訴訟法435条6号所定の再審事由があるなどと主張して,平成25年1月13日,再審請求をしたが,札幌地方裁判所は,平成28年3月28日,いずれの新証拠等にも証拠の明白性が認められないと判断して同請求を棄却し,札幌高等裁判所は,平成29年1月11日,同判断に誤りはないとして請求人の即時抗告を棄却し,最高裁判所は,同年7月18日,請求人の特別抗告を棄却した。 ⑵ 第2次再審請求の第1審が,本件ネジの発見がねつ造であるという主張に関する弁護人提出の新証拠等には証拠の明白性が認められないと判断した理由の要旨のうち,本件再審請求と関連する部分は,次のとおりである。 ア本件ネジの傷について,本件布団袋からネジを発見した警察官(後記 弁護人提出の新証拠等には証拠の明白性が認められないと判断した理由の要旨のうち,本件再審請求と関連する部分は,次のとおりである。 ア本件ネジの傷について,本件布団袋からネジを発見した警察官(後記f警部ら)が言及しておらず,ネジの用途等の捜査に当たった警察官も,本件ネジにつき鑑定を実施した時計bの製造会社の工場長から指摘されるまで気が付いておらず,本件ネジの鑑定を実施した道警本部刑事部犯罪科学研究所技術吏員も言及していないが,この傷はドライバー溝に付いた極めて小さいものであり,気が付かなかったとしても不自然ではないし,発見した警察官や技術吏員はそもそも傷の有無を問われておらず,傷がなかったと証言したわけではないから,本件布団袋から発見されたネジには傷がなかったという合理的疑いは生じない。 イ弁護人のその余の主張を検討しても,本件布団袋から本件ネジが発見されたという確定判決の事実認定に合理的な疑いは生じない。 第4 本件声明文と請求人との結び付きに関する主張について 1 弁護人及び請求人の主張の要旨及び新証拠の概要 弁護人及び請求人の主張の要旨 - 9 -確定控訴審においては,確定第1審で採用された各筆跡鑑定がいずれも本件声明文中の「*」印記号と請求人の書いた「*」印記号とが異筆であることを示唆するものではないということが,請求人が本件声明文中の本件記号を記入した蓋然性が高いと認めることができるという事実を推認させる複数の事実のうちの1つとして位置付けられている(上記第2の2⑶イ㋒)ところ,弁護人及び請求人は,aが提唱するデジタル画像処理技術による筆者異同識別法を用いた筆跡鑑定(以下「本件鑑定」という。)に係る新証拠(再弁1から3,8から14,a証言)に基づき,本件声明文中の3個の「*」印記号(以下,本件声明文 するデジタル画像処理技術による筆者異同識別法を用いた筆跡鑑定(以下「本件鑑定」という。)に係る新証拠(再弁1から3,8から14,a証言)に基づき,本件声明文中の3個の「*」印記号(以下,本件声明文11行目のそれを「疑問筆跡X1」,同14行目のそれを「疑問筆跡X2」,同22行目のそれを「疑問筆跡X3」といい,これらを総称して「疑問筆跡群」という。)は請求人とは別人により筆記されたものであると認められるから,確定控訴審の請求人が本件声明文中の「「*」印記号を記入した蓋然性が高いと認められる」との事実認定は明白な誤りである旨主張する。 新証拠の概要本件鑑定の手法は,特定の文字や記号という検査対象筆跡の字形・字画(始筆部や終筆部等の筆が動いた軌跡を特定することによって既定されるものをいい,以下「字形」という。)の幾何学的相違度(以下「マッチング残差」ともいう。)に基いて定量的に筆者の異同を識別するというものである。その概要は,事前検査として,ある検査対象筆跡について,①その字形に,一般的にどの程度の個人内変動(同一人が特定の文字を筆記した場合の形状の変動であり,「書きむら」とも言われる。)と個人間変動(異なる人が特定の文字を筆記した場合の形状の変動であり,「筆跡個性」とも言われる。)があるのかを把握し,②その字形の上記個人内変動の分布と上記個人間変動の分布が交差する点を「識別境界」と呼び,これに基いて筆者の異同を識別した場合にどの程度正確に筆者の異同を識別することができるのかを示す値を筆者異同識別精度(以下「識別精度」という。)と呼んだ上,識別精度を見ることにより上記検査対象筆跡が筆者異同識別法による識別の対象となり得 - 10 -るかどうかを判断し,本検査として,①本件の検査対象筆跡(上記疑問筆跡群及び請求人本人が筆記し ,識別精度を見ることにより上記検査対象筆跡が筆者異同識別法による識別の対象となり得 - 10 -るかどうかを判断し,本検査として,①本件の検査対象筆跡(上記疑問筆跡群及び請求人本人が筆記したことが既知である筆跡からなる後記参照筆跡群からなるもの)について,同一群に属する各筆跡対の字形のマッチング残差(以下「群内マッチング残差」という。),異なる群に属する各筆跡対の字形のマッチング残差(以下「異群間マッチング残差」という。)をそれぞれ数値化し,②その数値に照らし,とうかい筆跡や模倣筆跡等の作為筆跡(自然筆跡以外の筆跡)が含まれていないかという本件の検査対象筆跡の異常性の有無を検査し,③異常性がない(自然筆跡である)ことが確認された場合には,異群間マッチング残差及び群内マッチング残差の数値等に基いて,疑問筆跡群と参照筆跡群の筆者が同一人である可能性を算出する,というものであるとされる。そして,本件鑑定は,本件記号のほか,本件記号を構成する+記号と×記号もそれぞれ単独の検査対象の記号として扱う「分解識別」を行うとされている。本件鑑定の詳細は,次のとおりである。 ア事前検査の詳細 aが,様々な文字や記号について独自に収集した筆跡サンプルの集合体である筆跡データベース内に保存された本件記号の筆跡サンプルから,事前検査に用いる筆跡サンプルを抽出する。具体的には,本件記号の筆跡サンプルを筆記した20歳代の男女41人に,無作為に抽出した30歳代から60歳代の男女29人を含めて70人を選出し,各人が記載した6個の本件記号の筆跡サンプル(計420個)を事前検査の筆跡サンプルとして抽出する。 上記のとおり抽出した事前検査の筆跡サンプルについて,次のような手順で,同一筆者の各筆跡サンプル対の字形のマッチング残差(以下「個人内マッチ 0個)を事前検査の筆跡サンプルとして抽出する。 上記のとおり抽出した事前検査の筆跡サンプルについて,次のような手順で,同一筆者の各筆跡サンプル対の字形のマッチング残差(以下「個人内マッチング残差」という。),異なる筆者の各筆跡サンプル対の字形のマッチング残差(以下「個人間マッチング残差」という。)を数値化する。 ㋐各筆跡サンプルの字形を既定した上で,各字形をN等分して特徴点を発生させる。その数値であるNについては,個人内変動(書きむら)を最小化し,個人間変動(筆跡個性)を最大化する値が,識別精度を最大化すると考え,その値をコン - 11 -ピュータを用いて算出する(例えば,本件記号の特徴点は640点とされた。)。 ㋑本件記号について,基準となる標準パターンを用意し,標準パターンにも上記㋐で算出された特徴点と同じ数の特徴点を発生させた上で,各筆跡サンプルの特徴点群を対応する標準パターンの特徴点群に合わせ込む幾何学的変換(ヘルマート変換)をして,各筆跡サンプルの位置,大きさ及び向きを一定にする(以下「正規化」という。)。 さらに,個人内変動(書きむら)が幾何学的には主として射影ひずみ(1つの面に書かれている図形ともう1つの異なる面にある1点から投影して生まれる図形との間の幾何学的な変形)であり,射影ひずみには個人間変動(筆跡個性)がほとんど含まれていないことを前提に,そのひずみを低減するために,筆跡サンプル毎に射影変換の逆変換処理(個人内変動抑制処理)をする。具体的には,同一筆者によって記載された複数の筆跡サンプルの各特徴点の平均値に特徴点を打ち,その特徴点によって構成される字形を当該筆者の平均的字形とし,各筆跡サンプルの各特徴点を平均的字形の各特徴点に合わせ込む幾何学的変換をする。 ㋒その上で,同一筆者の各筆 点の平均値に特徴点を打ち,その特徴点によって構成される字形を当該筆者の平均的字形とし,各筆跡サンプルの各特徴点を平均的字形の各特徴点に合わせ込む幾何学的変換をする。 ㋒その上で,同一筆者の各筆跡サンプル対,異なる筆者の各筆跡サンプル対のそれぞれについて,各特徴点のずれ量を測定してその平均値を算出し,前者から筆跡サンプル中の個人内マッチング残差を,後者から筆跡サンプル中の個人間マッチング残差を,それぞれ算出する。 上記㋐から㋒の手順で算出された個人内マッチング残差の分布及び個人間マッチング残差の分布は,分解識別した場合に別紙(省略)のとおりであったため,両者が交わる点を識別境界とし,最大尤度比法の考え方により,比較対象とする2つの筆跡のマッチング残差が識別境界の値より大きければ別人が筆記したもの,それより小さければ同一人が筆記したものと判断するという方法で識別することとした場合,分解識別した際の平均識別精度は98.78%になると算出できた。 イ本検査の詳細上記ア㋐から㋒と同様の方法により,疑問筆跡X1からX3という3個の - 12 -筆跡からなる疑問筆跡群,請求人が記載した6個の筆跡からなる参照筆跡A群及び参照筆跡A群の6個の筆跡を含めて請求人が記載した9個の筆跡からなる参照筆跡B群について,各群内の各筆跡対についての群内マッチング残差の変動分布を算出し,各群の群内マッチング残差の変動分布と事前検査で算出した筆跡サンプルの個人内マッチング残差や個人間マッチング残差の変動分布とを比較し,本件の検査対象筆跡の異常性の有無を確認する。その結果,疑問筆跡群,参照筆跡A群及び参照筆跡B群のいずれも,一般的な筆跡に見られる書きむらに比べて異常性は見られず,特段の配慮が必要な筆跡ではないと分かった。 疑問筆跡群及び参照筆 する。その結果,疑問筆跡群,参照筆跡A群及び参照筆跡B群のいずれも,一般的な筆跡に見られる書きむらに比べて異常性は見られず,特段の配慮が必要な筆跡ではないと分かった。 疑問筆跡群及び参照筆跡A群から,それぞれ筆跡を1個ずつ取り出して組み合わせる筆跡対で,考えられる組み合わせの全てを比較してマッチング残差(以下「異群間マッチング残差A」という。)の変動分布を算出し,また,疑問筆跡群及び参照筆跡B群からも,それぞれ筆跡を1個ずつ取り出して組み合わせる筆跡対で,考えられる組合せの全てを比較してマッチング残差(以下「異群間マッチング残差B」という。)の変動分布を算出する。 そして,①異群間マッチング残差Aの平均値及び最小値を,事前検査で抽出した筆跡サンプル(上記ア)の識別境界と比較すると,これより大きく右側に位置し,また,②参照筆跡A群の個人内マッチング残差の変動分布から見て,疑問筆跡群の群内マッチング残差の変動分布と同じサンプルが,異群間マッチング残差Aの位置に発生し得る確率を求めると,正規分布で近似したとき,0.00%以下であった。 また,③異群間マッチング残差Bの平均値及び最小値を,上記筆跡サンプル(上記ア)の識別境界と比較すると,これより大きく右側に位置し,また,④参照筆跡B群の個人内マッチング残差の変動分布から見て,疑問筆跡群の群内マッチング残差の変動分布と同じサンプルが,異群間マッチング残差Bの位置に発生し得る確率を求めると,正規分布で近似したとき,0.00%以下であった。 以上の検査結果を総合的に見た結果,疑問筆跡群は,参照筆跡群の筆者である請求人とは明らかに別人により筆記されたものと判断するのが合理的である。 - 13 - 2 当裁判所の判断当裁判所は,本件鑑定の手法に関し,検査対象筆跡の異常性の有無に 筆跡群の筆者である請求人とは明らかに別人により筆記されたものと判断するのが合理的である。 - 13 - 2 当裁判所の判断当裁判所は,本件鑑定の手法に関し,検査対象筆跡の異常性の有無に関する判断の信用性に疑問があること,射影変換の逆変換後の字形について算出されたマッチング残差を用いることの合理性に疑問があること,筆記条件等が疑問筆跡群の字形に影響を与えた可能性を捨象して筆者異同識別をすることの合理性に疑問があることなどを理由に,本件鑑定を信用することはできず,新証拠(再弁1から3,8から14,a証言)はいずれも無罪を言い渡すべき明らかな証拠には該当しないと判断した。その詳細は,以下のとおりである。 検査対象筆跡の異常性の有無に関する判断の信用性に疑問があることア本件鑑定には,検査対象筆跡の異常性の有無の判断基準の客観性や判断手法の合理性に疑問がある。この点について,aは,筆跡サンプルの個人内マッチング残差の分布と疑問筆跡群,参照筆跡A群及び参照筆跡B群の各群内マッチング残差の分布とを比較し,本件の検査対象筆跡が模倣筆跡やとうかい筆跡等の作為筆跡ではないかを確認する旨述べる。しかし,異常性の有無の判断基準について,aは,「基準があるわけではなく,感覚で自然かどうかを判断する。」旨証言するにとどまっており,客観性のある具体的な基準を示しているとはいえない。また,判断手法の合理性についてみると,同一人の自然筆跡である場合に,その群内マッチング残差の分布が筆跡サンプルの個人内マッチング残差の分布に照らして自然な分布になるという関係性を経験的に認め得るとしても,同一人の筆跡の群内マッチング残差の分布が筆跡サンプルの個人内マッチング残差の分布に照らして自然な分布であるという事実のみから,同筆跡が作為筆跡である可能性を否定す 関係性を経験的に認め得るとしても,同一人の筆跡の群内マッチング残差の分布が筆跡サンプルの個人内マッチング残差の分布に照らして自然な分布であるという事実のみから,同筆跡が作為筆跡である可能性を否定することができないことは,自然筆跡とは異なる似た字形を複数個筆記したような場合を想定すれば容易に分かることである。本件記号を例にとれば,「+」記号と「×」記号との交点が「+」記号の上側に位置するような筆跡個性を有する筆者が,「+」記号の下側に交点が位置するように複数個の字形を記載した場合であっても,作為筆跡である後者の字形について算出される群内マッチング残差の分布が筆跡サンプルの個人内 - 14 -マッチング残差の分布に照らして自然な分布になるということは十分にあり得る。 また,その場合に自然筆跡としては不自然な程に群内マッチング残差が小さくなるとは限らない。したがって,検査対象筆跡の個人内マッチング残差の分布に基いて検査対象筆跡の異常性の有無を判断するという判断手法の合理性には疑問がある。 特に,本件鑑定の対象である疑問筆跡群は,道庁爆破という極めて重大な事件に係る本件声明文に記載されたものであり,その文書の性質上,筆跡から筆者が特定されないように自然筆跡とは意図的に異なる字形で記載するということも十分考えられるのに,本件鑑定手法は,字形の幾何学的相違度のみに着目し,文書の性質が字形に与える影響を一切捨象して自然筆跡かどうかを判断している。この点からも,検査対象筆跡の異常性の有無に関する判断手法としては,その合理性に一層の疑問が残るというべきである。 なお,再弁13は,ある特定個人の自然筆跡を他者が模倣した場合を想定し,コピー用紙に透写した場合には模倣筆者の筆跡個性が相当残存するため,模倣筆跡であることを高い精度で識別することができるが,ト なお,再弁13は,ある特定個人の自然筆跡を他者が模倣した場合を想定し,コピー用紙に透写した場合には模倣筆者の筆跡個性が相当残存するため,模倣筆跡であることを高い精度で識別することができるが,トレーシングペーパーに透写した場合には書きむらが原本筆者のそれと比べ異常に小さくなるため,模倣筆跡であることを識別することがほとんど不可能であることを実験的に明らかにしたにすぎないから,同一人が記載した複数の字形の群内マッチング残差の分布と筆跡サンプルの個人内マッチング残差の分布を比較して検査対象筆跡の異常性を判断するという判断手法の合理性・客観性に関する上記の疑問を解消するものではない。 そうすると,本件鑑定は,検査対象筆跡の異常性の有無の判断基準の客観性や判断手法の合理性に疑問があるというべきである。 イ aは,筆跡サンプル及び検査対象筆跡に射影変換の逆変換処理を施す理由について,個人内変動(書きむら)が特定の幾何学的ひずみを伴っている可能性があるとの仮説の下で,比較的よく知られている6つの幾何変換式を用いて実験したところ,射影変換の逆変換処理を施すことによって,個人内変動が抑制される一方で,個人間変動(筆跡個性)がほとんど抑制されないという実験結果が得られたことか - 15 -ら,個人内変動は主として射影ひずみであると考え,識別精度を向上させるために筆跡サンプルや検査対象筆跡に射影変換の逆変換処理を施している旨の見解を述べ,再弁12の共同研究者も,その結論については賛同していることがうかがわれる。 しかし,同実験は,限られた筆跡に限られた幾何変換式を用いて検証したものにとどまる上,射影変換と個人内変動の抑制との間の因果関係,換言すれば,個人内変動が主として射影ひずみであるという仮説を論理的に説明することができないことについてはaも自認 換式を用いて検証したものにとどまる上,射影変換と個人内変動の抑制との間の因果関係,換言すれば,個人内変動が主として射影ひずみであるという仮説を論理的に説明することができないことについてはaも自認している。個人内変動を抑制するために射影変換の逆変換処理を施すことの論理的正当性を検証した第三者の論文はなく,その正当性について学会等で広く賛同を得られているともうかがわれない。このように,射影変換の逆変換処理を施す正当性が論理的に明らかにされていない以上,射影変換の逆変換処理によってaが述べるような効果が常に得られるのかは定かではないし,筆者の平均的字形に近づけるためにどの程度の数の筆跡が必要かも明らかではないのであるから,射影変換の逆変換処理を施した上で算出された筆跡サンプルや検査対象筆跡のマッチング残差を前提として検査対象筆跡の異常性を判断することの合理性にも疑問がある。 ウ加えて,aは,筆跡サンプルについて,aが私的に収集した筆跡データベースから抽出したものである旨述べているところ,同データベース内の各サンプルは専らa個人の研究に利用されるにとどまっており,サンプルとしての適格性について外部的な検証を経たものではないから,筆跡サンプルのサンプルとしての適格性についても疑問がある。 エ以上のとおり,検査対象筆跡の異常性の有無の判断に関しては,①判断基準の客観性や判断手法自体の合理性に疑問がある上,②射影変換の逆変換後の字形について算出された筆跡サンプルや検査対象筆跡のマッチング残差を用いることの正当性,③筆跡サンプルのサンプルとしての適格性といった判断の前提にも疑問があるから,本件鑑定のうち,検査対象筆跡,特に疑問筆跡群の異常性を否定する点については,その信用性に疑問がある。 - 16 -射影変換の逆変換後の字形について 性といった判断の前提にも疑問があるから,本件鑑定のうち,検査対象筆跡,特に疑問筆跡群の異常性を否定する点については,その信用性に疑問がある。 - 16 -射影変換の逆変換後の字形について算出されたマッチング残差を用いることの合理性に疑問があること筆跡を幾何学的なパターンとしてのみ把握し,筆跡間の字形の幾何学的相違度をマッチング残差という形で数値化して筆者異同識別を行うという本件鑑定において,算出されたマッチング残差の正確性が担保されていることは,本件鑑定の合理性・客観性を担保する上で極めて重要であるはずである。しかし,上記イのとおり,マッチング残差を算出するに当たり筆跡サンプル及び検査対象筆跡に施された射影変換の逆変換処理については,その正当性が論理的に明らかにされておらず,筆者異同識別に当たり射影変換の逆変換後の字形について算出されたマッチング残差を用いることの合理性には疑問がある。 筆記条件等が疑問筆跡群の字形に影響を与えた可能性を捨象して筆者異同識別をすることの合理性に疑問があることア本件鑑定においても,マッチング残差を計測する前提となる字形については,伝統的な筆跡鑑定手法と同様に鑑定人によって特定される始筆部及び終筆部等によって既定される字形が用いられている。そして,関係証拠によれば,疑問筆跡X1は,本件声明文の紙面の上に本件記号が記載された後に上からテープが貼られており,疑問筆跡X3は,本件声明文に貼られたテープの上から記載されたと認められる。これらの筆記条件等が疑問筆跡X1及びX3の字形に与えた影響について,aは,「テープを貼ることによって疑問筆跡X3が伸び縮みするということはある。」,「テープの上から書いたことによって,同じように筆を動かそうとしたにもかかわらず異なる字形になった可能性はある。」 aは,「テープを貼ることによって疑問筆跡X3が伸び縮みするということはある。」,「テープの上から書いたことによって,同じように筆を動かそうとしたにもかかわらず異なる字形になった可能性はある。」,「上からテープを貼っていなかったり,テープの上から書いていなければ,疑問筆跡群の字形が変わっていた可能性がある。 それにより疑問筆跡群と参照筆跡群とのマッチング残差(異群間マッチング残差A・B)の数値が影響を受けた可能性はあり,そのような想定は合理的である。」旨証言するとおり,疑問筆跡X3については,紙面に貼られたテープの上から記載したことによって筆者の運筆が影響を受けて字形が変化した可能性を,疑問筆跡X1に - 17 -ついても,本件記号の上から張られたテープによって紙面が引っ張られたりインクがにじむなどし,鑑定人によって既定される字形がテープの貼付前後で変化した可能性を,いずれも合理的なものとして想定することができる。上記⑵でも述べたとおり,本件鑑定の手法において,算出されるマッチング残差の正確性が担保されることは極めて重要であるはずである。それにもかかわらず,本件鑑定において,疑問筆跡群の3個の筆跡のうち2個が筆記条件等の影響を受けていることからすれば,疑問筆跡群の群内マッチング残差及び異群間マッチング残差A・Bは,いずれも上記筆記条件等の影響を受けた数値である可能性を合理的なものとして想定できるから,その影響を捨象し,字形の幾何学的相違度のみに基いて筆者異同識別をすることは,合理性を欠いている。 これに対し,aが,「不正確になるということは,原理的にはあり得ないです。 見えるとおり取るわけですから。その現実にある筆跡のまま取るわけで,特にそれが間違うというのは,人間の目で見える範囲は間違わないんで,そういう意味では正確に取れるんで は,原理的にはあり得ないです。 見えるとおり取るわけですから。その現実にある筆跡のまま取るわけで,特にそれが間違うというのは,人間の目で見える範囲は間違わないんで,そういう意味では正確に取れるんですよ。」などと証言している点は,テープを貼付するなどしたことによって疑問筆跡群の各筆跡の字形が影響を受けたとしても,現に存在する疑問筆跡群の各筆跡を前提に始筆部や終筆部を特定する以上はその特定が不正確になることはないことを述べているにすぎないのであって,筆記条件等が疑問筆跡群の字形に及ぼした影響を捨象して筆者異同識別をする本件鑑定の上記問題点を解消するものではない。 また,再弁14は,疑問筆跡X3を除外し,疑問筆跡X1及びX2のみを対象として本件鑑定と同様の鑑定を実施したところ,疑問筆跡X1及びX2の筆者と参照筆跡群の筆者が同一である可能性は同様に0.0%以下であるとの結論が得られたことを明らかにするものであるが,疑問筆跡X1について筆記後に貼付したテープによって字形が影響を受けた可能性があることは上記のとおりであって,再弁14に係る追加の鑑定は筆記条件等を捨象して筆者異同識別をするという本件鑑定の上記問題点を解消するものではない。 - 18 -イ以上のとおり,疑問筆跡X1及びX3に係る筆記条件等が疑問筆跡群の群内マッチング残差のみならず,異群間マッチング残差にも影響を及ぼした可能性があるにもかかわらず,本件鑑定は,筆記条件等の影響を捨象し,疑問筆跡群と参照筆跡群の字形の相違度のみに基いて,両者が同一人によって筆記された可能性を否定するものである。とりわけ,参照筆跡群と比較すべき筆跡が筆記条件等の異なる3個しかないという本件事情の下では,本件鑑定の手法によって筆者異同識別をすることの合理性,さらには,そこから導かれる鑑定結果の信用性 である。とりわけ,参照筆跡群と比較すべき筆跡が筆記条件等の異なる3個しかないという本件事情の下では,本件鑑定の手法によって筆者異同識別をすることの合理性,さらには,そこから導かれる鑑定結果の信用性には相当に疑問があるというべきである。 ⑷ 結論以上のとおり,上記からに指摘したような疑問があることのほか,その使用実績が乏しいこと,サンプル数の乏しい疑問筆跡群から筆者の平均的な字形を推定し,その字形のみから筆者異同識別をすることの合理性にも疑問があることなども踏まえると,本件鑑定を信用することはできず,本件鑑定に基づき,疑問筆跡群が請求人とは別人により筆記されたものであるとは認められない。 したがって,本件声明文に関し提出された新証拠(再弁1から3,8から14,a証言)は,確定控訴審の請求人が本件声明文中の「「*」印記号を記入した蓋然性が高いと認められる」との認定に合理的な疑いを生じさせるものとはいえず,いずれも無罪を言い渡すべき明らかな証拠には該当しない。 第5 本件ネジの発見がねつ造されたという主張について 1 請求人及び弁護人の主張の要旨と新証拠の概要請求人及び弁護人の主張の要旨請求人及び弁護人は,新たに提出した証拠(再弁4から7)並びに確定審及び第2次再審請求で取調べ済みの旧証拠に基いて,本件ネジに係る捜査経過からすれば本件ネジの傷は警察官によって意図的に付けられたものであることは明らかであり,ひいては,本件ネジの発見自体がねつ造であることもまた明らかである旨主張する。 新証拠の概要 - 19 -ア再弁4(当審主任弁護人が平成27年3月31日に第2次再審の弁護人らを宛先として送信したものと思われる電子メールの写し)再弁4は,第2次再審請求において弁護人らがした証拠開示の申立てに関する ア再弁4(当審主任弁護人が平成27年3月31日に第2次再審の弁護人らを宛先として送信したものと思われる電子メールの写し)再弁4は,第2次再審請求において弁護人らがした証拠開示の申立てに関する事実経過についての当審主任弁護人の認識を記載したものであり,「写真撮影報告書添付写真のネガは不存在であると回答してきました。…今までの流れは以下の通り。 …平成26年11月19日三者協議証拠開示勧告同26年12月16日証拠開示の回答書…同27年3月5日ネガ,スキャン作業同27年3月26日g検察官より,弁護人指摘のとおり,3月5日のスキャン作業の際,写真撮影報告書添付写真のネガが含まれていないことがわかった,あるかないか調べた上,連絡する旨の電話同27年3月31日写真撮影報告書添付写真のネガは存在しない,その旨,同26年12月16日付回答書を訂正する旨の回答書」などと記載されている。 イ再弁5(h巡査作成の昭和51年8月30日付け写真撮影報告書写し)同月10日にf警部が請求人居室において差し押さえた本件ネジを,同月18日に道警本部刑事部鑑識課写真室において写真撮影した旨の写真撮影報告書であり,末尾に本件ネジの写真2枚が添付されている。 ウ再弁6(本件に関してh巡査が撮影した写真6枚を弁護人が拡大した写し)6枚の写真のうち1枚目は,再弁5の3枚目の右側に印刷された本件ネジを札及びスケールと共に撮影したと考えられる写真と同じもので,本件ネジに傷が付いていることが確認できるが,6枚の写真のうち2から4枚目については,本件ネジをスケールと共に撮影したと考えられる写真で,いずれもぼやけているため傷の有無は不明である。 エ再弁7(道警本部刑事部犯罪科学研究所技術吏員i作成の昭和51年8月21日付け鑑定書写し) をスケールと共に撮影したと考えられる写真で,いずれもぼやけているため傷の有無は不明である。 エ再弁7(道警本部刑事部犯罪科学研究所技術吏員i作成の昭和51年8月21日付け鑑定書写し)時計bの製造会社から任意提出を受けたリン止め用のネジと本件ネジが一致するかどうか等についての鑑定書であり,同月17日に鑑定嘱託がされており,鑑定結 - 20 -果として,両ネジは同規格のものと考え,形状,用途等については,同月21日付けで回答の鑑定書に記載のとおりである旨記載されている。 2 再弁4から7の新規性についてj巡査部長作成の昭和51年8月28日付け「捜索差押ならびに検証状況写真撮影報告書」(以下「本件写真撮影報告書」という。)に添付された本件ネジの写真のネガフィルム(以下「本件ネガフィルム」という。)について,検察官が一度は存在すると回答したものの後に存在しないと回答を改めたという再弁4に記載された事実経過については,本件ネジの発見が捜査機関によるねつ造であるか否かが争点とされていた第2次再審請求の第1審の際に請求人において既に把握しており,また,再弁5及び7は,同第1審において既に請求人に開示されていたものであるし,再弁6も,同様に開示済みであった証拠に基づいて弁護人が作成したものである。そのため,請求人は第2次再審請求において再弁4から7を提出し,その取調べを求めることができたといえる。加えて,再弁7については,鑑定を実施したi技術吏員自身が確定第1審において鑑定書の記載内容と同趣旨の証言をしている。 したがって,本件ネジの発見がねつ造されたという主張に関して提出された再弁4から7については,いずれも証拠の新規性に疑問があるが,事案に鑑み,明白性について更に検討する。 3 再弁4から7の明白性について 本件ネ 見がねつ造されたという主張に関して提出された再弁4から7については,いずれも証拠の新規性に疑問があるが,事案に鑑み,明白性について更に検討する。 3 再弁4から7の明白性について 本件ネジの発見状況に関連する確定審及び第2次再審の主要な旧証拠の概要その詳細は,第2次再審請求の第1審の決定書に説示されたとおりであるが,当審において提出された証拠の明白性を判断する上で主要なものは次のとおりである。 ア f警部作成の昭和51年8月10日付け検証調書同日午後4時18分から同日午後6時10分までの間,請求人居室等において行われた検証に係る検証調書であり,同居室内の布団袋を見分したところ,金色メッキのビスが発見されたことなどが記載され,検証の経過として,差し押さえた物の冒頭に「ビス(金メッキ製)一個」と記載されている。 - 21 -イ i技術吏員ほか1名作成の昭和51年8月21日付け鑑定書写し(以下「i共同鑑定書」という。)同月13日付けで道警本部から鑑定嘱託を受けて,請求人居室において差し押さえたとされるビスについて,製品名,用途等,上記道警爆破事件及び本件犯行の各現場から採取した遺留品に類似した物件がなかったか等を鑑定事項とする鑑定を行った経過及びその結果を記載した鑑定書であるところ,同ビスに傷がある旨の記載はない。 ウ時計bの製造会社の工場長k作成の昭和51年8月26日付け「捜査関係事項照会書に対する回答書」写し(以下「k回答書」という。)同月24日付けで道警本部から照会を受け,提示されたビス1個を測定した結果を回答した回答書であるところ,同ビスのネジ頭ドーム部に「ドライバキズ」があることが記載されている。 エ本件写真撮影報告書昭和51年8月10日に請求人居室において実施された捜索差押え及び を回答した回答書であるところ,同ビスのネジ頭ドーム部に「ドライバキズ」があることが記載されている。 エ本件写真撮影報告書昭和51年8月10日に請求人居室において実施された捜索差押え及び検証の状況についての写真撮影報告書であり,撮影日時として,同日午後4時30分頃から同日午後6時10分頃までと記載されているほか,添付写真(番号8及び9)には,立会人札の上に載せられたビスを何者かが指で差している状況及び手袋を着けた手の平の上にビスが載せられている状況が撮影されている。 オ i技術吏員作成の昭和51年8月29日付け鑑定書同月28日付けで鑑定嘱託を受け,請求人居室で差し押さえたとされるビス1個が時計bのどの部分に使用されるものであるか等を鑑定事項とする鑑定を行った経過及びその結果を記載した鑑定書であるところ,同ビスに傷がある旨の記載はない。 カ k作成の昭和51年9月13日付け鑑定書(以下「k鑑定書」という。)同月8日付けで鑑定嘱託を受け,ネジ(黄銅色のビス)1個が時計bの製造会社製のものであるか否か等について鑑定を行った結果を記載した鑑定書であり,同ネジのドライバー溝にネジ締めされた際のドライバー傷が付いている旨の記載がある。 - 22 - 新旧証拠の総合ア請求人らは,本件ネガフィルムが存在していないことやその旨が明らかになるまでの経緯が不自然であることのほか,作成された複数の捜査関係書類に添付された写真の中で,本件ネガフィルムだけが存在していないことなどからは,j巡査部長らから本件ネガフィルムを引き継いだはずのl警視が,意図的に隠匿又は廃棄したものであることが明らかになる旨主張する。その上で,請求人らは,l警視が本件ネガフィルムの隠匿等に及んだ理由としては,本件ネジに傷が付いていないことの不自然さを のl警視が,意図的に隠匿又は廃棄したものであることが明らかになる旨主張する。その上で,請求人らは,l警視が本件ネガフィルムの隠匿等に及んだ理由としては,本件ネジに傷が付いていないことの不自然さを糊塗するために差押え後に本件ネジの傷をねつ造した事実を隠匿するという目的以外は考え難いとし,再弁5及び6は,l警視が,本件ネジの傷のねつ造の証拠となり得るi共同鑑定書の証明力が公判で問題となった場合に備えて,同鑑定書を検察庁に送致してから時計bのリン止め用のネジと本件ネジとの同一性等に関する照会(k回答書に係る照会)がされるまでの間に,h巡査に傷を付けた後の本件ネジの写真を撮影させるとともに,その撮影日を昭和51年8月18日に遡らせるねつ造を指示して写真撮影報告書(再弁5)を作成させ,これを検察官に送致することなく自己の手元に保管していたことを明らかにする証拠であり,また,k回答書やk鑑定書は,本件ネジに傷が付着していることを明らかにするための証拠として準備されたものであるとする。そして,請求人らは,l警視が,このような違法行為に及ぶ理由としては,f警部による本件ネジの発見自体がねつ造であること以外に考え難い旨をいう。 イしかし,再弁4は,本件ネガフィルムについて,検察官が一度は存在すると回答したものの後に存在しないと回答を改めたことを明らかにする証拠にすぎず,本件ネガフィルムの存否に係る検察官の回答が変化した理由を具体的に推測させるものではない。したがって,再弁4は,l警視が本件ネガフィルムを廃棄等したことを明らかにする証拠とはいえない。そして,本件ネジの発見状況に関するf警部らの証言が信用できるものであり,また,各鑑定書において,鑑定事項がいずれも傷の有無に着目したものではなかったことに照らせば,鑑定資料のネジに傷がある - ,本件ネジの発見状況に関するf警部らの証言が信用できるものであり,また,各鑑定書において,鑑定事項がいずれも傷の有無に着目したものではなかったことに照らせば,鑑定資料のネジに傷がある - 23 -旨の記載がされていなかったことが不自然とはいえず,本件ネジの傷や発見自体を警察官がねつ造したとの合理的な疑いを容れる余地がないことは確定控訴審及び第2次再審請求の第1審が説示するとおりである。結局,再弁5から7に係る請求人らの主張は,l警視が本件ネガフィルムを隠匿等したという仮定を所与の前提とした上で,本件ネジに関する関係証拠の作成時期やその内容等を説明するストーリーを構築しようとするものにすぎず,理由がない。 ウ以上の検討によれば,本件ネジに関し提出された新証拠(再弁4から7)は,関連する旧証拠を検討しても,f警部が請求人居室の本件布団袋から本件ネジを発見した旨の確定判決の事実認定に合理的な疑いを生じさせるものとはいえず,いずれも無罪を言い渡すべき明らかな証拠には該当しない。 4 なお,弁護人は,本件ネガフィルムの証拠開示の必要性について縷々主張するが,本件ネガフィルムが存在しない旨の検察官の回答の信用性に特段の疑問はないし,既に述べたとおり,本件ネガフィルムが存在しないという事実は,確定判決の事実認定に合理的な疑いを抱かせる事実関係とはいえず,更なる証拠開示を当審検察官に求める必要性は認められないから,証拠開示命令の職権発動は行わない。 第6 結論以上のとおりであって,道警本部刑事部犯罪科学研究所技術吏員mほか1名による水溶液分析の不存在等の確定判決の事実認定に対するものを含め,請求人のその余の主張を踏まえても,請求人らが提出した新証拠(再弁1から14,a証言)は,いずれも明白性を欠いているから,刑事訴訟法435条6号の証 の不存在等の確定判決の事実認定に対するものを含め,請求人のその余の主張を踏まえても,請求人らが提出した新証拠(再弁1から14,a証言)は,いずれも明白性を欠いているから,刑事訴訟法435条6号の証拠には当たらない。 よって,本件再審請求は理由がないから,刑事訴訟法447条1項によりこれを棄却することとし,主文のとおり決定する。 令和3年12月17日札幌地方裁判所刑事第1部裁判長裁判官石田寿一裁判官古川善敬 - 24 -裁判官北村規哲
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