主文 1 本件附帯控訴を棄却する。 2 本件控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。 3 控訴人は、被控訴人に対し、1万1000円及びこれに対する令和3年2月18日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 4 被控訴人のその余の請求を棄却する 5 訴訟費用は、第1、2審を通じて被控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1 控訴及び附帯控訴の趣旨 1 控訴の趣旨 ⑴ 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。 ⑵ 上記部分につき、被控訴人の請求を棄却する。 ⑶ 訴訟費用は、第1、2審を通じて被控訴人の負担とする。 2 附帯控訴の趣旨⑴ 原判決を次のとおり変更する。 ⑵ 控訴人は、被控訴人に対し、330万円及びこれに対する令和3年2月18日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 ⑶ 訴訟費用は、第1、2審を通じて控訴人の負担とする。 第2 事案の概要(以下、略語は原判決の例による。) 1 事案の要旨 本件は、陸上自衛隊の自衛官であった被控訴人が、控訴人に対し、①本件情報隊名簿は陸上幕僚長が訓令に基づいて定めた自衛官の順位を表すものであるところ、a方面総監は、被控訴人及びA3佐の各補職(本件人事)に際し、自衛官の順位に反して、上位である被控訴人を下位であるA3佐の下に違法に記載し、また、本件人事について事前に被控訴人に説明する等の義務 を怠り、これにより被控訴人は精神疾患を発症し、退職に追い込まれた旨、 ②被控訴人は、同疾患について公務災害認定を申し出たが、その手続に違法な点があった旨を主張して、国家賠償法1条1項に基づき、慰謝料300万円、逸失利益1200万円及び弁護士費用150万円の合計1650万円並びにこれに対する て公務災害認定を申し出たが、その手続に違法な点があった旨を主張して、国家賠償法1条1項に基づき、慰謝料300万円、逸失利益1200万円及び弁護士費用150万円の合計1650万円並びにこれに対する訴状送達の日の翌日である令和3年2月18日から支払済みまで年3%の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 原判決は、上記①については、被控訴人は本件人事そのものが違法であると主張しているものと解した上、本件人事は違法の疑いが強く、控訴人は、逆転状態を解消する等して、被控訴人に心理的負荷が過度に蓄積しないように配慮すべき注意義務を負っていたところ、これを怠った旨判示し、上記②については、補償事務主任者は、権限なく公務上の災害に該当しない旨の判 断をし、速やかに実施機関に報告すべき義務を怠った旨判示して、本件人事についての慰謝料30万円、公務災害認定手続についての慰謝料20万円及び弁護士費用5万円の合計55万円の限度で被控訴人の請求を認容した。 原判決に対し、控訴人が控訴し、被控訴人が附帯控訴したが、被控訴人は、不服申立ての範囲を330万円(上記①についての慰謝料150万円及び同 ②についての慰謝料150万円並びに弁護士費用30万円)及びこれに対する遅延損害金に限定した。なお、被控訴人は、当審において、上記①について、本件人事(各補職)そのものを直ちに違法であると主張するものではないことを改めて明確にした。 2 関係法令等の定めは、原判決別紙「関係法令等の定め」記載のとおりである から、これを引用する。 3 前提事実は、原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の2に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決3頁11行目の「下旬頃、」の後に「自衛官の順位と補職上の」を加え、10頁20行目の「原 、原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の2に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決3頁11行目の「下旬頃、」の後に「自衛官の順位と補職上の」を加え、10頁20行目の「原告に対し」を「被控訴人は」と改める。 4 争点 ⑴ 本件情報隊名簿の記載が違法であったか。 ⑵ 本件人事に関連して、a方面総監に義務違反があったか。 ⑶ 本件公務災害認定に至る手続に違法な点があったか。 ⑷ 被控訴人の損害の額 5 争点に関する当事者の主張 ⑴ 争点⑴について(被控訴人の主張)訓令によって定められている順位は自衛官の順位だけであり、部隊名簿は、一般に自衛官の順位を表すものである。自衛官の順位は隊員に明示されなければならないが、部隊名簿以外にその手段はない。控訴人が主張するような、 階級昇任年月日順に記載するというような複雑な通例はなく、補職編成による名簿は必要により別途作成される。 部隊名簿である本件情報隊名簿(乙10)は、同隊内の自衛官の順位を表すものであり、陸上幕僚長が定めた幹部自衛官の順位を逆転させて作成することは許されないものであるところ、a方面総監は、本件情報隊名簿 を作成するに当たり、自衛官の順位が上位である被控訴人を下位であるA3佐の下に記載し、これを被控訴人が自衛隊を退職するまで変更しなかったが、これは違法な行為である。 (控訴人の主張)部隊名簿は、部隊運営に係る事務の便宜を図るために事実上作成される ことがあるものに過ぎず、必ず作成されるものではなく、部隊名簿作成の根拠や方式を定める法令もない。そして、部隊名簿においては、隊長、副隊長、それ以降の部隊員を階級昇任年月日順に記載することが通例となっており、この記載方法は社会通念に照らして はなく、部隊名簿作成の根拠や方式を定める法令もない。そして、部隊名簿においては、隊長、副隊長、それ以降の部隊員を階級昇任年月日順に記載することが通例となっており、この記載方法は社会通念に照らして一般的な事務処理である。また、部隊名簿の記載方法については、作成者である部隊の長等の広範な裁 量に委ねられているものと解されるところ、本件情報隊名簿に裁量の範囲 の逸脱や濫用はない。 なお、本件情報隊においては、被控訴人の指摘を受け、平成31年3月26日に本件情報隊名簿の修正等の指示が出され、その後は、班編成で表示した形式の名簿が使用されており、本件情報隊名簿は被控訴人が班長であった処理班のみに存し、本件情報班全体で使用されていたものではなか った。 ⑵ 争点⑵について(被控訴人の主張)本件人事(各補職)そのものは直ちに違法ではないが、補職権者であるa方面総監としては、補職に当たり、自衛官の順位と指揮権の行使の順位 を特段の事由もなく逆転させることは避けるべきであり、やむを得ず逆転人事を行う場合は、当事者へ事前に説明し、隊内でも関係者に説明をし、できるだけ速やかに逆転人事を解消すべき義務があるところ、a方面総監は、これらの義務を怠った。 (控訴人の主張) 自衛隊員の補職は、人事評価に基づき、組織の管理運営全般の事情を考慮してされるもので、基本的に、補職権者の広範な裁量に委ねられている。 被控訴人の主張は自衛官の順序を過大に評価するもので、理由がない。本件人事の当時、自衛官の順位と臨時の部隊等指揮権の行使の順位とが逆転するような組織上の配置は少なからず存在しており、異例のことではなか ったから、被控訴人が主張する各義務は存在しなかった。なお、本件情報隊長は、平成31年 時の部隊等指揮権の行使の順位とが逆転するような組織上の配置は少なからず存在しており、異例のことではなか ったから、被控訴人が主張する各義務は存在しなかった。なお、本件情報隊長は、平成31年4月頃、被控訴人に対し、本件人事について説明している。 ⑶ 争点⑶、⑷についての当事者の主張は、それぞれ、原判決13頁12行目から19頁9行目まで、同頁11行目から21頁9行目までに記載のと おりであるから、これを引用する。 第3 当裁判所の判断当裁判所は、被控訴人の請求のうち、本件情報隊名簿の記載の違法及び本件人事に関連する義務違反に基づくものは理由がないと判断し、本件公務災害認定に至る手続には違法な点があり、これにより被控訴人は損害を被ったものであると判断するが、賠償額(弁護士費用を含む。)は1万1000円 とするのが相当と判断する。その理由は以下のとおりである。 1 争点⑴(本件情報隊名簿の記載が違法であったか。)について⑴ 自衛官の間における順位は、順位訓令によって定められるものであり、被控訴人及びA3佐のような陸上自衛隊の同階級の幹部自衛官の間における順位は、陸上自衛隊の幹部自衛官名簿の登載序列により示されるものと され(同訓令3条)、同名簿は、防衛大臣の承認を得て、陸上幕僚長が作成するものとされている(同訓令7条)。 そして、指揮代理訓令3条は、本文において、死亡等の事由により指揮官が部隊等指揮権を行使することができないと明らかに認められる場合には、部隊等において当該指揮官の次の順位を有する自衛官が当該部隊等の部隊等 指揮権を行使することを原則としつつ、ただし書において、組織及び編成に関する法令若しくは訓令の定めるところにより当該指揮官の職務を代理する者が別に定められている場合 衛官が当該部隊等の部隊等 指揮権を行使することを原則としつつ、ただし書において、組織及び編成に関する法令若しくは訓令の定めるところにより当該指揮官の職務を代理する者が別に定められている場合等はこの限りでないとしており、指揮官の次の順位を有しない自衛官が指揮を代理することがあり得ることを定めている。 そして、組織編制訓令16条2項では、副大隊長は、大隊長に事故がある とき又は大隊長が欠けたときは、大隊長の職務を行うものと定めている。 ⑵ 他方、証拠(乙10、11、36の2・3、41、42の1・2)及び弁論の全趣旨によれば、部隊名簿については、その作成に関する法令等の定めはなく、部隊運営事務の便宜上作成されるもので、形式の異なる複数の名簿が作成される部隊もあれば、名簿が作成されない部隊もあること、 部隊名簿の記載順は、まず隊長、副隊長を記載し、その他の隊員を階級昇 任年月日順に記載する例が多く、副隊長よりも自衛官の順位が上位である者が副隊長よりも下に記載される例もあること、部隊名簿である本件情報隊名簿は、B情報隊長の指示により人事陸曹が作成したものであり、1番にB情報隊長を、2番目にA3佐を、3番目に被控訴人を記載したものであったことが各認められる。 ⑶ 以上のとおり、陸上自衛隊の同階級の幹部自衛官の間における順位は陸上幕僚長が作成する幹部自衛官名簿によって定められるものであり、この順位が各部隊において便宜のために作成される部隊名簿によって変更されることはあり得ないものである。現に、前提事実⑴エのとおり、平成31年3月から被控訴人が退職するまでの間、幹部自衛官名簿の登載序列上、被控訴人が A3佐よりも上位であったものであり、本件情報隊名簿によって被控訴人の自衛官としての順位に何ら変動は生じて 成31年3月から被控訴人が退職するまでの間、幹部自衛官名簿の登載序列上、被控訴人が A3佐よりも上位であったものであり、本件情報隊名簿によって被控訴人の自衛官としての順位に何ら変動は生じていない。 確かに、本件情報隊名簿ではA3佐が2番目、被控訴人が3番目に記載されており、自衛官の順位と逆転しているが、同名簿には自衛官の順位を示すものである旨の記載はなく、殊更に事実に反して、被控訴人の自衛官の順位 が下がったことを表示したものとはいえない。むしろ、上記のとおり、指揮代理訓令及び組織編制訓令によれば、B情報隊長が欠けた場合に隊長の職務を行うのはA3佐なのであるから、本件情報隊名簿は指揮代理の順を明示したものと解すれば合理的なものであり、何ら違法又は不当なものとはいえない。 したがって、本件情報隊名簿の記載が違法であったとは認められない。 2 争点⑵(本件人事に関連して、a方面総監に義務違反があったか。)について⑴ 争いのない事実、前提事実、各掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、争点⑵に関して、以下の事実が認められる。 ア本件情報隊は、平成31年に新たに編成された部隊であるが、平成29 年9月の時点で、新編成の一環として、従前の第2部情報処理班をそのまま本件情報隊に移転し、同班長である被控訴人を本件情報隊の情報処理班長に、本件情報隊準備室長であるA3佐を同隊副隊長にそれぞれ補職するとの案が存在した。この案は、同時点で、第2部所属の自衛官らにも説明され、本件情報隊副隊長にA3佐が補職されることは既定のことであると 同部内で認識されていた。また、被控訴人は、自身が横滑りで本件情報隊の情報処理班長に補職される可能性があることを認識していた。 (乙7、被控訴人)イ平成31年1月下旬 既定のことであると 同部内で認識されていた。また、被控訴人は、自身が横滑りで本件情報隊の情報処理班長に補職される可能性があることを認識していた。 (乙7、被控訴人)イ平成31年1月下旬頃、被控訴人は、C第2部長に対し、副隊長にA3佐を、情報処理班長に被控訴人を補職するとの人事を実施するのか尋ね、 同部長は、人事は、適材適所の観点から、自衛官の順序と異なることもあり得る旨を説明した。 ウ同年3月1日、被控訴人は、D第1部長に対し、上記案に基づく人事について相談したが、同部長は、補職の変更は困難である旨を説明した。 エ同年3月26日、本件情報隊が新編され、同日、同隊内で本件情報隊名 簿が配布された。同日、本件情報隊名簿の記載順に誤りがある旨の申し出があったことから、B情報隊長は、同名簿の使用を禁止し、新たに班編成で表示した名簿を作成し、これを使用するよう指示した。 オ被控訴人は、同年4月10日、E第1部長と面談し、同部長は、他にも同様の人事はある、自衛官の順序と異なることもあり得る、異動した方が よい旨の発言をした。 同年4月中旬、B情報隊長は、被控訴人と面談し、「順位の件については知らされていなかった。話はわかった。」、「逆転のようにも見えるし、組織の必要性からこのような人事はあると思う。」等の発言をした。 しかし、班編成で表示した名簿は新たに作成されたものの、本件情報隊 名簿の使用禁止は徹底されず、その後も使用され続けていた。 (乙11)カ令和元年7月17日、被控訴人は、F師団長と面談し、同師団長は、情報処理班長には被控訴人が適任であるため補職した、事前に説明がなかったことは謝る、順位の逆転は知らなかった旨を説明し、小さなことを気にしないよう告げた。 、F師団長と面談し、同師団長は、情報処理班長には被控訴人が適任であるため補職した、事前に説明がなかったことは謝る、順位の逆転は知らなかった旨を説明し、小さなことを気にしないよう告げた。 ⑵ 自衛隊法31条3項は、隊員の任用その他の人事管理は、隊員の採用年次等にとらわれてはならず、同法に特段の定めがある場合を除くほか、人事評価(隊員がその職務を遂行するに当たり発揮した能力及び挙げた業績を把握した上で行われる勤務成績の評価)に基づいて適切に行われなければならない旨を定め、人事管理訓令10条の2は、補職権者は、人事評価 の結果に基づき補職し、又は補職替えしようとする職に係る階級において求められる能力を有すると認められる者の中から、人事の計画その他の事情を考慮した上で、最も適任と認められる者を補職し、又は補職替えすることができる旨を定めており、自衛官の補職が人事評価の結果に基づいてされるべきものであることは明らかといえる。そして、同訓令では補職し ようとする職に係る階級にある者を補職すべきことは定められているものの、補職に当たって自衛官の順位に従うべきであるというような趣旨の定めはない。証拠(乙36の1~4)によれば、実際、平成31年3月当時、順位訓令における順位と指揮代理訓令における順位とが逆転するような組織上の配置がされた例は、本件人事を含め、全国の陸上自衛隊で61件あ ったことが認められる。 そして、本件人事が上記の自衛隊法及び人事管理訓令の規定の趣旨に反してされたとの事情は本件証拠上うかがわれず、被控訴人も本件人事が直ちに違法であるとの主張はしていない。 そうすると、本件人事は適法にされたものというべきであり、これについ て、a方面総監その他の被控訴人の上官に当たる者において、被控訴人に対 件人事が直ちに違法であるとの主張はしていない。 そうすると、本件人事は適法にされたものというべきであり、これについ て、a方面総監その他の被控訴人の上官に当たる者において、被控訴人に対 し格別の説明や配慮をし、又は本件人事を解消する新たな人事をすべきであったとは直ちにはいえないというべきである。 ⑶ もっとも、弁論の全趣旨によれば、幹部自衛官の補職は事実上自衛官の順位に対応していることが多く、したがって部隊名簿の記載順が自衛官の順位と事実上一致することが通例であることが認められる。したがって、本件情 報隊名簿が被控訴人の心情を傷つけたことは容易に理解できるところである。 また、事情を知らない新参の隊員が本件情報隊名簿を見たような場合、被控訴人の自衛官の順位がA3佐のそれよりも下位であると誤認することは当然あり得ることといえる。 しかしながら、部隊名簿において、副隊長よりも自衛官の順位が上位であ る者が副隊長よりも下に記載される例もあることは上記1⑵で認定したとおりであり、同⑶で判示したとおり、指揮代理の順の観点からは本件情報隊名簿の記載順は合理的でもあることからすると、上記のような本件情報隊名簿のもたらす不利益は被控訴人において受忍すべき範囲内のものであったといわざるを得ない。したがって、B情報隊長において、本件情報隊名簿の使用 禁止を徹底しなかったことが違法であったとはいえない。 そして、上記⑴で認定したとおり、本件人事の案は予め第2部内で周知されていたこと、F師団長以下の上官らが被控訴人との面談に応じ、本件人事が必要な人事である旨の説明が繰り返しされたこと、B情報隊長は、不徹底ではあったものの本件情報隊名簿の使用を禁止し、新たに班編成で表示した 名簿を作成させたことにも照らすと、本件人 、本件人事が必要な人事である旨の説明が繰り返しされたこと、B情報隊長は、不徹底ではあったものの本件情報隊名簿の使用を禁止し、新たに班編成で表示した 名簿を作成させたことにも照らすと、本件人事に関連して、a方面総監以下の被控訴人の上官らは被控訴人に対し相応の配慮をしたものといえ、同人らに被控訴人が主張するような義務違反はなかったというべきである。 3 小括以上のとおりであるから、被控訴人の請求のうち、本件情報隊名簿の記載 の違法及び本件人事について説明等すべき義務の違反に基づく部分は、その 余の争点について検討するまでもなく、理由がない。 4 争点⑶(本件公務災害認定に至る手続に違法な点があったか。)及び⑷(被控訴人の損害の額)について争点⑶、⑷についての判断は、控訴人の当審における主張について下記5のとおり説示を補足するほか、原判決25頁19行目から33頁15行目ま で及び同頁23行目の「前記2」から34頁6行目末尾までに記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決33頁23行目の「本件」の前に「本件通知により手続が中断した期間その他の」を加え、25行目の「20万円」を「1万円」と改める。なお、弁護士費用は1000円が相当であると認める。 5⑴ 控訴人の当審における主張は、要旨、次のとおりである。 ア陸自補償規則(令和2年6月18日改正前のもの。以下、同様。)に依拠した公務災害認定に係る運用は、被災隊員等に手続上の助力・助言を行うもので、人事院規則16-0に反するものではなく、本件業務隊長が本件通知をしたことをもって、人事院規則に違反したとはいえない。 イ仮に、本件通知が人事院規則16-0に違反するものであり、公務災害手続の遅延が問題となる余地があるとして 、本件業務隊長が本件通知をしたことをもって、人事院規則に違反したとはいえない。 イ仮に、本件通知が人事院規則16-0に違反するものであり、公務災害手続の遅延が問題となる余地があるとしても、その影響は限定的であり、被控訴人について国賠法上保護されるべき権利ないし法的利益が害されたとは言えない。 ウ仮に、陸自補償規則に依拠した公務災害認定に係る手続が人事院規則1 6-0に違反するとしても、本件業務隊長の本件公務災害認定における対応は、国賠法上の違法又は過失があったと評価されるものではない。 ⑵ そこで検討するに、陸自補償規則11条が、被災隊員等から公務災害の申出があった場合に、補償事務主任者である業務隊長等において、申出のあった災害が公務上のものとは認められないと判断した場合に、その旨を 被災隊員等に対して通知するものと規定していたのは、陸上自衛隊の隊員 については、その公務の性質上、他の国家公務員と比較して多くの公務災害申出が行われるという実情に照らし、実施機関の事務処理の便宜を図るとともに、被災隊員の公務災害認定に係る手続について早期に見通しを伝えることにより、これを適正かつ迅速に進めるという観点から、申出にかかる災害に関する公務災害認定の見通し等の認識理解を被災隊員等に示す 必要性が高いためであったと解され、そうであれば、同通知は、被災隊員等に対する助力ないし助言として行う事実行為にすぎないといえ、この点だけに着目するのであれば、人事院規則16-0に反するものではないかのようでもある。 しかし、陸自補償規則9条1項は、業務隊長等は、被災隊員等から公務災 害の申出があったとの通知を受けた場合であっても、これを速やかに認定権者に報告すべきものとはしておらず、公務災害であると判断した し、陸自補償規則9条1項は、業務隊長等は、被災隊員等から公務災 害の申出があったとの通知を受けた場合であっても、これを速やかに認定権者に報告すべきものとはしておらず、公務災害であると判断したときには認定権者に報告するものと定めていたものである。そして、証拠(乙5の1・2)によれば、本件学習資料では業務隊長等は一次判断権を有するものとされ、業務隊長等が公務災害ではないとの判断を被災隊員等に通知した場合に おいて、被災隊員等から再度の申出がないときは、認定権者に報告がされないまま手続が終了する扱いとされていたことが認められる。したがって、業務隊長等が公務災害ではないとの判断を通知した場合、被災隊員等が公務災害は認められないことが確定したと誤解して、それ以降の手続を躊躇してしまい、認定権者の判断を経ないまま手続が事実上終了するおそれが大である ことは否めない。陸自補償規則11条2項によれば、被災隊員において再度の申出を行うことは妨げられず、同申出があった場合は認定権者に報告がされることになるが、最初の申出の際に速やかに実施機関に報告がされない以上、公務災害認定までに、より長期間を要することになることは明らかである。これを本件についてみるに、被控訴人が公務災害の申出をしたものとさ れた令和元年11月1日から、令和2年4月23日の本件業務隊長からの口 頭での通知まで約5か月半を要しており、その後、同年8月の被控訴人代理人弁護士からの連絡を機に認定作業が進められ、同年11月にようやく本件公務災害認定がされたという経過であったから、陸自補償規則11条に基づく手続を経たことで、不当に長い期間が経過したものといわざるを得ず、これは、被災隊員等から公務災害の申出があった場合には、補償事務主任者で ある業務隊長 過であったから、陸自補償規則11条に基づく手続を経たことで、不当に長い期間が経過したものといわざるを得ず、これは、被災隊員等から公務災害の申出があった場合には、補償事務主任者で ある業務隊長等は、速やかに認定権者すなわち実施機関の長である陸上幕僚長の権限の一部の委任を受けた方面総監に報告しなければならない旨を定めた防衛省災害補償政令、人事院規則16-0第20条に反することは明らかである。そして、速やかな手続により補償を受けることができる手続上の権利は、人事院規則によって保障された権利であり、これが侵害されたもので あるから、本件通知による手続の中断は4か月程度とみられることを考慮しても、本件公務災害認定に至る手続は、国賠法上保護される被控訴人の権利を侵害したものと評価せざるを得ない。 控訴人は、陸自補償規則の規定に従った運用をしていた以上、国賠法上の違法及び過失があったとはいえない旨を主張するが、陸自補償規則の定 めそのものが人事院規則に反していたのであるから、陸自補償規則の規定に従っていたとしても、国賠法上違法であり、過失があったとの評価は免れない。 第4 結論よって、本件控訴は一部理由があるからこれに基づいて原判決を変更し、 本件附帯控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 なお、被控訴人の勝訴部分が僅少であることに鑑み、訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。 福岡高等裁判所第5民事部 裁判長裁判官 岡田健 裁判官 岡田健 裁判官 岸本寛成 裁判官 佐藤道恵
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