平成12(ワ)502 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成14年11月28日 東京地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-5749.txt

判決文本文116,673 文字)

平成14年11月28日判決言渡平成12年(ワ)第502号損害賠償請求事件 主文 1 原告らの公職選挙法改正不作為の違憲確認の訴えを却下する。 2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 請求の趣旨(1) 被告は,原告Aに対し,90万円及びこれに対する平成12年1月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 被告は,原告Bに対し,90万円及びこれに対する平成12年1月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3) 被告は,原告Cに対し,90万円及びこれに対する平成12年1月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (4) 被告が,昭和27年法律第307号公職選挙法の一部を改正する法律によって代理による郵便投票制度を廃止した後現在に至るまで,原告A,原告B及び亡Dの選挙権行使を可能とする内容の公職選挙法改正を行わないことは違憲であることを確認する。 (5) 訴訟費用は被告の負担とする。 (6) 第1項から第3項までについて仮執行宣言 2 請求の趣旨に対する答弁(1) 原告らの請求第1項から第3項までをいずれも棄却する。 (2) 原告らの請求第4項を却下する(本案前の答弁)。 (3) 訴訟費用は原告らの負担とする。 (4) 仮執行免脱宣言第2 事案の概要本件は,筋萎縮性側索硬化症(以下,略称して「ALS」という。)の患者である原告A,原告B及び亡D(以下,前記3名を合わせて「原告ら(承継前)」という。)が,内閣の公職選挙法施行令制定・施行行為及び改正不作為,国会の公職選挙法改正不作為により,選挙権行使の機会を奪われたとして,原告A,原告B及び亡Dの訴訟承継人である原告Cが,被告に対し,国家賠償法上の損害賠償請求権又は憲 制定・施行行為及び改正不作為,国会の公職選挙法改正不作為により,選挙権行使の機会を奪われたとして,原告A,原告B及び亡Dの訴訟承継人である原告Cが,被告に対し,国家賠償法上の損害賠償請求権又は憲法上の損失補償請求権(予備的請求)に基づき,それぞれ90万円の慰謝料の支払を求めるとともに,公職選挙法改正不作為の違憲確認を求める事案である。 1 前提事実(証拠を掲げない事実は当事者間に争いがない。)(1) 原告ら(承継前)についてア原告A原告Aは,昭和57年4月にALSと診断され,昭和59年7月16日には,疾病による四肢体幹機能障害により身体障害程度等級1級の認定を受けている(甲4,13)。 イ原告B原告Bは,平成2年1月にALSと診断され,平成7年3月13日には,ALSによる四肢体幹機能障害及び咀嚼機能喪失により身体障害程度等級1級の認定を更新されている(甲5,14)。 ウ亡D亡Dは,平成2年12月にALSと診断され,平成5年2月8日には,進行性筋萎縮症による両上肢機能全廃及び両下肢機能障害により身体障害程度等級1級の認定を更新されていたが,平成13年8月21日死亡した(甲6,15,弁論の全趣旨(亡Dの戸籍謄本))。 原告Cは,亡Dの本件損害賠償請求権又は損失補償請求権を単独相続するとともに,本件訴訟を承継した。 (2) ALSについてア ALSは,運動神経細胞だけが選択的に冒され,進行的に筋萎縮及び運動麻痺を起こす原因不明の疾患であり,国の特定疾患に指定されている難病である。現在のところ有効な治療法は確立されていない。 イ ALS患者の病状は,その進行の程度により様々であり,軽度の場合には,話すこともできるし,杖や車椅子により生活することもできる。 しかし,ALS患者は,病状の進行に伴って四肢の運動機能が麻痺・廃絶し,発声 患者の病状は,その進行の程度により様々であり,軽度の場合には,話すこともできるし,杖や車椅子により生活することもできる。 しかし,ALS患者は,病状の進行に伴って四肢の運動機能が麻痺・廃絶し,発声障害,嚥下障害を起こし,最終的には呼吸筋麻痺のため,人工呼吸器を装着して呼吸管理を行わなければ直ちに死に至る。 ウ ALSが他の難治性神経疾患と異なるのは,病変が運動神経のみに限定され,高次知的機能や視覚系を含む感覚系機能が完全に保持され,最後まで健常者と同様の知能・精神状態を保っているという点である。 病気が進行して,全身麻痺の状態にある重度の患者でも,かすかな手足の指の動き,まばたき,眼球の動き(眼筋は最後まで冒されない場合が多い。)など,残されたわずかな運動機能を活用して,特殊な入力装置を備えたパソコンや,視線の移動により文字を選択するための文字盤等を使用しながら,外部とコミュニケーションをとることが可能である。 エ日本のALS患者の実数は定かではないが,難病認定患者数だけでも平成8年末時点で4119名であった。 (3) 現行投票制度(ただし,平成10年,平成11年当時も基本的制度は同じである。)についてア選挙当日投票所投票主義の原則公職選挙法(以下,特に示さない限り,現行公職選挙法を指す。)44条1項は,「選挙人は,選挙の当日,自ら投票所に行き,選挙人名簿又はその抄本(…(中略)…)の対照を経て,投票をしなければならない。」と規定し,選挙当日投票所投票主義の原則を採用している。 イ代理投票制度(ア) 代理投票制度は,「身体の故障又は文盲により,自ら当該選挙の公職の候補者の氏名(衆議院比例代表選出議員の選挙の投票にあっては衆議院名簿届出政党等の名称及び略称,参議院比例代表選出議員の選挙の投票にあっては公職の候補者たる参議院名 文盲により,自ら当該選挙の公職の候補者の氏名(衆議院比例代表選出議員の選挙の投票にあっては衆議院名簿届出政党等の名称及び略称,参議院比例代表選出議員の選挙の投票にあっては公職の候補者たる参議院名簿登載者の氏名又は参議院名簿届出政党等の名称及び略称)を記載することができない選挙人は,…(中略)…,投票管理者に申請し,代理投票をさせることができる。」(公職選挙法48条1項)というものであり,選挙人に代わって,代理者が投票用紙に代筆して記載する方法である。 (イ) したがって,身体に故障があり自書できない選挙人であっても,選挙当日に投票所に行くことができる者であれば,代理投票制度を利用して代理投票を行うことができる。 ウ一般的な不在者投票制度(以下,特に示さない限り「不在者投票制度」というときは,一般的な不在者投票制度を指す。)(ア) 不在者投票制度は,選挙人で選挙の当日「職務若しくは業務又は総務省令で定める用務に従事すること。」(公職選挙法49条1項1号),「疾病,負傷,妊娠,老衰若しくは身体の障害のため若しくは産褥にあるため歩行が困難であること又は監獄,少年院若しくは婦人補導院に収容されていること。」(同項3号)等の「事由のいずれかに該当すると見込まれるものの投票については,政令で定めるところにより,…(中略)…,不在者投票管理者の管理する投票を記載する場所において行わせることができる。」(同項本文)というものであり,選挙当日の前にあらかじめ投票させる制度である。 (イ) 前記「不在者投票管理者」は,「投票用紙及び投票用封筒の交付を受けた選挙人が登録されている選挙人名簿の属する市町村の選挙管理委員会の委員長又は当該選挙人が現に所在し若しくは居住する地の市町村の選挙管理委員会の委員長」(公職選挙法施行令(以下,特に示さない限り,現行公職 人が登録されている選挙人名簿の属する市町村の選挙管理委員会の委員長又は当該選挙人が現に所在し若しくは居住する地の市町村の選挙管理委員会の委員長」(公職選挙法施行令(以下,特に示さない限り,現行公職選挙法施行令を指す。)55条1項)のほか,「都道府県の選挙管理委員会が指定する病院に入院している者,都道府県の選挙管理委員会が指定する老人ホームに入所している者,国立保養所に入所している者,都道府県の選挙管理委員会が指定する身体障害者更生援護施設若しくは保護施設に入所している者又は労災リハビリテーション作業所に入所している者」の不在者投票については,「当該病院の院長,老人ホームの長,国立保養所の所長,身体障害者更生援護施設若しくは保護施設の長又は労災リハビリテーション作業所の長」(同条2項,3項)である。 そして,不在者投票管理者の管理する投票を記載する場所(以下「不在者投票所」という。)においては,代理投票が認められている(公職選挙法施行令56条3項)。 (ウ) したがって,選挙人が疾病又は身体の障害のため歩行が困難であっても,都道府県の選挙管理委員会が指定する病院(以下「指定病院」という。)等に入院等している場合には,指定病院等において,選挙当日の前にあらかじめ投票することができ,その際には代理投票を行うことができる(公職選挙法施行令58条4項,56条3項)。 エ郵便による不在者投票制度(以下「郵便投票制度」という。)(ア) 郵便投票制度は,「選挙人で身体に重度の障害があるもの(身体障害者福祉法(昭和24年法律第283号)第4条に規定する身体障害者又は戦傷病者特別援護法(昭和38年法律第168号)第2条第1項に規定する戦傷病者であるもので,政令で定めるものをいう。)の投票については,前項の規定によるほか,政令で定めるところにより,…( 害者又は戦傷病者特別援護法(昭和38年法律第168号)第2条第1項に規定する戦傷病者であるもので,政令で定めるものをいう。)の投票については,前項の規定によるほか,政令で定めるところにより,…(中略)…,その現在する場所において投票用紙に投票の記載をし,これを郵送する方法により行わせることができる。」(公職選挙法49条2項)というものであり,選挙人の自宅等その現在する場所において投票用紙に投票の記載をし,これを郵送する方法である。 (イ) 「身体障害者福祉法(昭和24年法律第283号)第4条に規定する身体障害者」とは,身体障害者手帳に「両下肢若しくは体幹の障害若しくは移動機能の障害にあっては1級若しくは2級,心臓,じん臓,呼吸器,ぼうこう若しくは直腸若しくは小腸の障害(…(中略)…)にあっては1級若しくは3級である者として記載されている」者(公職選挙法施行令59条の2第1号)等である。 (ウ) 公職選挙法施行令は,「法第49条第2項に規定する選挙人は,その登録されている選挙人名簿の属する市町村の選挙管理委員会の委員長に対して,当該選挙人が署名(…(中略)…)をした文書をもって,法第49条第2項に規定する選挙人に該当する旨の証明書(以下「郵便投票証明書」という。)の交付を申請することができる。」(同施行令59条の3第1項)と規定する。 (エ) また,公職選挙法施行令は,「法第49条第2項に規定する選挙人は,…(中略)…,選挙の期日前4日までに,その登録されている選挙人名簿の属する市町村の選挙管理委員会の委員長に対して,当該選挙人が署名をした文書により,かつ,郵便投票証明書を提示して,投票用紙及び投票用封筒の交付を請求することができる。」(同施行令59条の4第1項)と規定する。 (オ) さらに,公職選挙法施行令は,「前条第3項の規定により投 より,かつ,郵便投票証明書を提示して,投票用紙及び投票用封筒の交付を請求することができる。」(同施行令59条の4第1項)と規定する。 (オ) さらに,公職選挙法施行令は,「前条第3項の規定により投票用紙及び投票用封筒の交付を受けた選挙人は,選挙の期日の公示又は告示があった日以後,その現在する場所において,投票用紙に自ら当該選挙の公職の候補者1人の氏名(…(中略)…)を記載し,これを投票用封筒に入れて封をし,投票用封筒の表面に投票の記載の年月日及び場所を記載し,並びに投票用封筒の表面に署名をし,更にこれを他の適当な封筒に入れて封をし,その表面に投票が在中する旨を明記して,当該選挙人が登録されている選挙人名簿の属する市町村の選挙管理委員会の委員長に対し,当該選挙人が属する投票区の投票所(…(中略)…)を閉じる時刻までに第60条第2項の規定による投票の送致ができるように,郵便をもって送付しなければならない。」(同施行令59条の5)と規定する。 (カ) 以上のとおり,公職選挙法49条2項所定の重度身体障害者は,郵便投票制度を利用しようとする場合,郵便投票証明書の交付申請,投票用紙及び投票用封筒の交付請求,投票用封筒の表面への記載の際に署名を要求され,投票用紙に自書することが要求されている。 したがって,公職選挙法49条2項所定の重度身体障害者に該当する者であったとしても,自書できない者は,郵便投票制度を利用することができない。 (4) 公職選挙法及び公職選挙法施行令改正の経緯についてア昭和27年法律第307号公職選挙法の一部を改正する法律(以下「昭和27年改正法」という。)により改正される前の公職選挙法(以下「旧法」という。)及びその委任を受けた公職選挙法施行令(以下「旧施行令」という。)の規定(ア) 旧法49条は,選挙人が「その属する投 和27年改正法」という。)により改正される前の公職選挙法(以下「旧法」という。)及びその委任を受けた公職選挙法施行令(以下「旧施行令」という。)の規定(ア) 旧法49条は,選挙人が「その属する投票区のある郡市の区域外(…(中略)…)において職務又は業務に従事中であるべきこと」(旧法49条1号),「疾病,負傷,妊娠,不具若しくは産褥にあるため歩行が著しく困難であるべきこと又は監獄若しくは少年院に収容中であるべきこと」(同法3号)等の事由により「選挙の当日自ら投票所に行き投票をすることができない旨を証明するものの投票については,…(中略)…,政令で特別の規定を設けることができる。」と規定していた。 (イ) そして,旧施行令は,「疾病,負傷,妊娠若しくは不具のため,又は産褥にあるために歩行が著しく困難であるべき選挙人」(以下「在宅選挙人」という。)が,「その現在する場所において投票の記載をしようとする場合においては,同居の親族によって,第1項の選挙管理委員会の委員長に対し,文書をもって同項の請求及び前2項の申立をすることができる。」(50条4項)とし,その際には,「医師,歯科医師若しくは助産婦又は監獄の長,代用監獄の監理者若しくは少年院の長」(52条1項3号)の証明書を提出する(52条1項柱書)か正当な事由によって証明書を提出できない場合にはその旨を疎明する(52条3項)ことを要求していた。 また,旧施行令は,在宅選挙人が「その現在する場所において投票の記載をしようとする場合においては,前2条の規定にかかわらず,投票用紙に自ら当該選挙の候補者1人の氏名を記載し,これを投票用封筒に入れて封をし,投票用封筒の表面にその者の氏名並びに投票の記載の年月日及び場所を記載し,更にこれを他の適当な封筒に入れて封をし,その表面に投票が在中する旨を明記し, の氏名を記載し,これを投票用封筒に入れて封をし,投票用封筒の表面にその者の氏名並びに投票の記載の年月日及び場所を記載し,更にこれを他の適当な封筒に入れて封をし,その表面に投票が在中する旨を明記し,その裏面に署名し,その選挙人が登録されている選挙人名簿の属する市町村の選挙管理委員会の委員長に対し,選挙の期日の前日までに到達するように郵便をもって送付し,又は同日までに同居の親族によって提出させなければならない」(58条1項)としていたが,「身体の故障に因って自ら候補者の氏名を記載することができない選挙人は,他人に投票の記載をさせることができる」(同条2項)としていた。 (ウ) したがって,旧法及び旧施行令は,医師等の証明書等の要件を満たす在宅選挙人について,投票所に行かずにその現在する場所において投票用紙に投票の記載をして投票することができる制度(以下「在宅投票制度」という。)を規定しており,投票用紙及び不在者投票用封筒の交付の請求並びに不在者投票の申立てについては同居の親族が行うことも可能であり,さらに,身体の故障によって自ら候補者の氏名を記載することができない在宅選挙人については,他人に投票の記載をさせることができるとされていた。 イ昭和27年改正法による改正後の公職選挙法及び公職選挙法施行令の規定昭和27年改正法による改正後の公職選挙法は,選挙人が「その属する投票区のある都市の区域外(中略)において職務又は業務に従事中であるべきこと」(49条1号),「疾病,負傷,妊娠,不具若しくは産褥にあるため歩行が著しく困難であるべきこと又は監獄若しくは少年院に収容中であるべきこと。」(同条3号)等の「事由に因り選挙の当日自ら投票所に行き投票をすることができない旨を証明するものの投票については,政令の定めるところにより,…(中略)…,不在者投票 は少年院に収容中であるべきこと。」(同条3号)等の「事由に因り選挙の当日自ら投票所に行き投票をすることができない旨を証明するものの投票については,政令の定めるところにより,…(中略)…,不在者投票管理者の管理する投票を記載する場所において行わせることができる。」(49条本文)と規定するとともに,昭和27年改正法を受けた公職選挙法施行令は旧施行令58条を削除し,在宅投票制度が廃止された。 ウ昭和49年法律第72号公職選挙法の一部を改正する法律(以下「昭和49年改正法」という。)及びその委任を受けた公職選挙法施行令の規定昭和49年改正法は,現行公職選挙法49条2項の規定を新設し,その委任を受けて現行公職選挙法施行令59条の3等が新設された。 (5) 諸外国の投票制度について諸外国における代理投票制度や郵便投票制度等の概要については,別紙「諸外国の投票制度」記載のとおりであり,当事者双方の主張が記載されている部分を除き,当事者間に争いがない(国名はすべて略称である。以下同じ。)。 2 争点(1) 原告ら(承継前)が現行投票制度下において投票を行うことが可能であるか否か。 (原告らの主張)ア実質的な選挙権剥奪について(ア) 公職選挙法施行令59条の3第1項,同条の4第1項,同条の5(以下,合わせて「本件公職選挙法施行令」という。)の下では,形式的には,すべての選挙人に対して投票の機会が保障されているが,選挙の意思と能力を有しながら,身体障害などにより,選挙当日に投票所に行くことが不可能で,かつ投票用紙等に自書できない者については,投票をすることができず,その選挙権は剥奪されているに等しい状況にある。 (イ) 身体に障害を有するために,選挙当日に投票所へ行くことができない者は,都道府県の選挙管理委員会が指定する病院等に入院するなどしていな ができず,その選挙権は剥奪されているに等しい状況にある。 (イ) 身体に障害を有するために,選挙当日に投票所へ行くことができない者は,都道府県の選挙管理委員会が指定する病院等に入院するなどしていない限り,代理投票制度を利用することができない。 また,これらの者が郵便投票制度を利用しようとする場合,郵便投票証明書の交付申請,投票用紙及び投票用封筒の交付請求,投票用封筒の表面への記載の際に署名を要求され,かつ投票用紙の記載も自書を要求されているため,本件公職選挙法施行令所定の重度身体障害者に該当する者であっても,自書できない者は,郵便投票制度を利用することができない。 (ウ) 原告ら(承継前)も,ALSに罹患していたため,投票所へ行くことも,自書することもできなかったので,平成10年7月12日に行われた参議院議員選挙等において投票をすることが不可能であった。 イ原告ら(承継前)の状態について(ア) 原告Aについてa 原告Aは,昭和57年4月,ALSに罹患している旨の診断を受けた。確定診断時は,手指及び足の筋力が低下していたが,なお歩行は可能であった。 しかし,徐々に症状は進行して自発呼吸が不可能となり,原告Aは,E病院において,昭和61年2月に人工呼吸器装着手術を受け,同年8月,同病院を退院して現在に至るまで在宅療養を続けている。 b 原告Aは,在宅療養開始後,人工呼吸器の装着不全のため1回,感染症による発熱のため1回の合計2回E病院に入院したが,この2回の外出のほかは入院・外出をしたことがない。 c 過去2回の入院の際の搬送方法は,まず医師が先に原告A宅に往診に来て,原告Aに麻酔をかけて昏睡させ,その状態で救急車を呼び病院まで搬送して入院させるというものであった。 退院時も,あらかじめ麻酔をかけて昏睡させてから,自宅まで搬送し,自宅と病 に原告A宅に往診に来て,原告Aに麻酔をかけて昏睡させ,その状態で救急車を呼び病院まで搬送して入院させるというものであった。 退院時も,あらかじめ麻酔をかけて昏睡させてから,自宅まで搬送し,自宅と病院の間の搬送中はアンビューバッグを用いて呼吸の確保を行った。 d 原告Aの身体機能は,頭頚部,四肢,体幹などの全身の筋肉の萎縮,関節の拘縮が著明であり,体はわずかも動かすことはできない。かろうじて眼輪筋と眼球の運動はあり,頬部の筋肉がわずかに動く程度である。 また,嚥下機能,食事摂取は不可能であり,経管栄養チューブを使用し,排泄はあるが,全面介助を要する。コミュニケーションは,文字盤中の文字を視線で指し示すことにより行っている。 e 原告Aの外出の危険性や困難性については,以下のとおりである。 第1に,原告Aの移動及び外出に対する強度の不安感,恐怖心を取り除くためには,麻酔によって本人の意識を麻痺させる以外の方法がなく,麻酔を行うこと自体の危険性がある。 第2に,移動の際には,手動でのアンビューバッグによる呼吸のため,人工呼吸が不安定となり,携帯用吸引器による痰の除去では痰の吸引が不十分となるおそれがある。 第3に,約14年以上の長期臥床のため,全身の関節拘縮があり,座位ができず,車椅子による移動ができない。したがって,ストレッチャー又はリクライニングしてフラットにした車椅子を使用するしかないが,そのためには,移動ベッドに2名,アンビューバッグ要員として1名,吸引器や身の回りの備品のために1名の合計4名が最低でも必要となる。 (イ) 原告Bについてa 原告Bは,平成元年6月ころから下肢脱力の症状が現われ,E病院に検査入院をした結果,平成2年1月にALSと診断された。その後,原告Bは,平成6年11月に人工呼吸器を装着するための気管切開手術を,平成9 告Bは,平成元年6月ころから下肢脱力の症状が現われ,E病院に検査入院をした結果,平成2年1月にALSと診断された。その後,原告Bは,平成6年11月に人工呼吸器を装着するための気管切開手術を,平成9年9月に経管食を採るための胃切開手術をそれぞれ受けた。 b 原告Bは,現在,自宅2階の自室で療養生活を送りながら,原則として2週間に1回の割合で,F診療所のG医師による往診を受けている。 また,原告Bは,3か月に1回の割合で,H医療センターの医師による往診も受けている。 日常生活においては,両親のほかに3,4人のヘルパーが24時間態勢で付き添い,吸引器を使って約15分ごとに唾や痰を取り除き,食事や排泄の手助けをしたり,体を拭くなどの介護に当たっている。 c 原告Bは,口角,眼球,まぶた及び額の一部がそれぞれかすかに動くだけで,自発呼吸ができないので,人工呼吸器を使って呼吸しており,咀嚼や嚥下もできないので,経管食を胃に直接送り込む方法により栄養を摂取している。 d 原告Bを外出させるに場合,ベッドから車椅子に移し,自室から階段のある場所まで移動させ,電動の階段昇降機を用いて2階から1階に降ろし,さらに車椅子に移すというプロセスを経て,玄関から外に出ることが可能となる。 その間,体を抱え,あるいは支える者,アンビューバッグにより呼吸させる者など数人の人手が必要となり,仮に,不手際により呼吸させることができなくなった場合は,わずかな時間で窒息死に至ってしまう。 e すなわち,原告Bが投票所において投票するためには,自室から出て,目的地まで行き,投票を済ませ,再び自室に戻るまでの全行程で,生命の危険を冒さなければならないのであり,事実上投票所における投票は不可能である。 (ウ) 亡Dについてa 亡Dの平成10年当時の症状は,眼球,まぶた,まゆの上部,右手親 自室に戻るまでの全行程で,生命の危険を冒さなければならないのであり,事実上投票所における投票は不可能である。 (ウ) 亡Dについてa 亡Dの平成10年当時の症状は,眼球,まぶた,まゆの上部,右手親指がわずかに動くが,発語・嚥下はできず,四肢は全く動かすことができなかった。また,呼吸は極めて不十分で,常時人工呼吸器により呼吸を行う必要があり,痰も自分では喀出することができないため,吸引器により,口腔内,気管カニューレ内の痰を頻回に吸引する必要があった。 b 亡Dの居宅は,いわゆる二世帯住宅のようになっており,亡Dは,2階部分に住んでいたが,玄関も2階にあるため,外出するためには,外階段を使用して出入りしていた。 亡Dが外出するためには,人工呼吸器を外し,アンビューバッグで呼吸をするようにし,介護者がベッドから抱え,屋内の廊下を通って,玄関に達し,玄関を出てからは中腰状態で抱えながら,外階段を下りることになる。 屋内では,2人がかりで亡Dを抱え,さらにもう1人がアンビューバッグで空気を送っているが,外階段は,直線でなく,上部で直角に曲がった造りになっていて,昇降機用のレールで狭くなっているので,階段部分では1人だけで抱える必要があり,アンビューバッグも使用できない。 したがって,その間,亡Dは無呼吸で過ごすしかない。呼吸ができない状態は,あってはならないことであり,亡Dの外出は,生命に危険を伴う行動であった。 c さらに,亡Dは,体幹,首,四肢が不安定なため椅子や車椅子に座ることができず,ストレッチャーが使用できる寝台車が必要であったが,その費用は20分程度の移動で8400円(消費税込み)である。 d 以上のように,亡Dが外出することは,通常の人が外出する場合に比べ,はるかに身体への危険が高かったといえ,また,少なくとも4人の人手(抱えるために 分程度の移動で8400円(消費税込み)である。 d 以上のように,亡Dが外出することは,通常の人が外出する場合に比べ,はるかに身体への危険が高かったといえ,また,少なくとも4人の人手(抱えるために2名,アンビューバッグを操作するために1名,亡Dを寝台車まで移動させている間に,人工呼吸器を寝台車まで移動させるために1名)が必要であることを考えれば,投票することは,限りなく不可能に近かった。 ウまとめ以上によれば,原告ら(承継前)が投票所へ行って投票を行うことは不可能といわざるを得ない。 権利の行使が可能か否かについては,単に抽象的・観念的に判断すべきではなく,問題となっている権利の性質,権利行使を妨げられていると主張している当該国民が置かれている状況等に照らし,社会通念に従って決すべきものであることは当然である。 もとより,生命の危険,費やす経費,時間,労力その他の諸事情を一切無視して,現時点で講じ得るあらゆる手段を用いたとすれば,原告ら(承継前)が投票所へ行くことは物理的には可能であるかもしれない。 しかし,それが直ちに社会通念上も投票が可能であることを意味するものではなく,憲法上保障された選挙権を行使することが可能か否かという観点から論じるならば,それは不可能と評価せざるを得ない。 そのことは,仮に,国政選挙において,全国で東京に1か所だけ投票所を設置した場合,北海道や九州在住の国民でも投票所に行くことは不可能ではないが,これをもって投票の機会が与えられていると評価することはできないのと同じことである。 (被告の主張)ア実質的な選挙権剥奪について身体の故障等により候補者の氏名等を自書することができない選挙人であっても,公職の候補者の氏名等を指示することができる限り,投票所又は不在者投票所(以下,合わせて「投票所等」という。)に 奪について身体の故障等により候補者の氏名等を自書することができない選挙人であっても,公職の候補者の氏名等を指示することができる限り,投票所又は不在者投票所(以下,合わせて「投票所等」という。)において,代理投票により投票することが可能である。 仮に,原告ら(承継前)が,ALSが進行し,四肢の運動機能が麻痺・廃絶し,また,呼吸筋麻痺のため,人工呼吸器を装着して呼吸管理を行っているという状態であって,外出は極めて困難であったとしても,原告ら(承継前)が,投票所等に行くことに事実上の困難はあるとしても,不可能であるとまではいえない。 実際にも,平成12年6月25日施行の第42回衆議院議員総選挙において,いずれも全身麻痺で,筋力や呼吸機能を喪失し,人工呼吸器を装着して呼吸管理を行っているALS患者が,投票所等までボランティア等に送迎してもらった上,投票事務従事者が候補者の氏名・衆議院名簿届出政党等の名称及び略称を読み上げ,瞬きによってこれを指示することにより,代理投票による投票をしたことが報じられている。 イまとめ以上によれば,原告ら(承継前)が,代理投票制度を利用することによって投票することは可能であるから,原告ら(承継前)の投票の機会が奪われているとか,原告ら(承継前)の選挙権を奪うに等しいなどということはできない。 (2) 内閣が本件公職選挙法施行令を制定・施行したことが国家賠償法上の違法行為に該当し,被告が国家賠償責任を負うか否か。 (原告らの主張)ア本件公職選挙法施行令の違憲・違法性(ア) 憲法上の選挙権の保障についてa 憲法15条1項は,「公務員を選定し,及びこれを罷免することは,国民固有の権利である。」と規定しているところ,国民が直接公務員を選定するのは選挙の場合に限られているのであるから,同規定は,国民主権の原理に基づ 1項は,「公務員を選定し,及びこれを罷免することは,国民固有の権利である。」と規定しているところ,国民が直接公務員を選定するのは選挙の場合に限られているのであるから,同規定は,国民主権の原理に基づく選挙権の保障を主眼とする。 b 憲法15条3項は,「公務員の選挙については,成年者による普通選挙を保障する。」と規定し,成年者による普通選挙を保障している。選挙は,投票によって行われ,投票以外に選挙権の行使はあり得ず,具体的な選挙において投票の機会が与えられないならば,抽象的に選挙人の資格(選挙権)があったとしても,意味がない。 したがって,選挙権の保障は,投票の機会の保障をも意味する。 c 憲法14条1項は,人権に関する一般原則として法の下の平等を規定し,政治的関係において合理的な理由なく差別してはならず,平等に取り扱わなければならないとしている。ここにいう平等は,実質的・機能的平等であって,国民一人一人の置かれた状況に応じて取扱いが異なることがあり得るばかりか,場合によっては異なる取扱いが要請される。 投票所に行くことが不可能又は著しく困難な者の場合には,その身体的状況を考慮した投票の方法を定めることが,平等原則から要請される。 d したがって,選挙権を有している原告ら(承継前)は,憲法上,投票の機会が保障されており,その身体的状況を考慮した投票の方法を定めることが要請されている。 (イ) 公職選挙法49条2項の解釈についてa 公職選挙法49条2項は,重度身体障害者の投票について,「その現在する場所において投票用紙に投票の記載をし,これを郵送する方法により行わせることができる。」と規定する。 公職選挙法49条2項にいう「投票の記載」の意義については,憲法15条1項及び3項が選挙人に対して投票の機会を保障していることから,自書できない重度身 方法により行わせることができる。」と規定する。 公職選挙法49条2項にいう「投票の記載」の意義については,憲法15条1項及び3項が選挙人に対して投票の機会を保障していることから,自書できない重度身体障害者については,自書できないという身体的特性を考慮して,選挙人に代わって代理者が投票用紙に代筆して記載する代理投票を包含していると解釈される。 また,憲法14条1項が,実質的,機能的平等を保障し,国民一人一人の置かれた状況に応じて取扱いが異なることを平等と捉えていることからすると,自書できる重度身体障害者は投票の機会が与えられるが,自書できない重度身体障害者は投票の機会が与えられないという制度を憲法が容認しているものとは考えられないから,前記「投票の記載」の意義については,代理投票を包含していると解釈される。 したがって,憲法の前記各規定によれば,「投票の記載」には郵便による代理投票を包含すると解釈される。 b 公職選挙法49条2項の立法趣旨は,投票所へ行くことができない重度身体障害者が投票の機会を奪われ,選挙権を侵害されているという実態を改善し,重度身体障害者に投票の機会を付与することにある。 その立法趣旨からすると,公職選挙法49条2項の「投票の記載」の意義は,自書できない重度身体障害者については,代理投票によって投票の機会を付与することにあったと解釈されるのであり,自書できる重度身体障害者にのみ投票の機会を付与するが,自書できない重度身体障害者には投票の機会を付与しないとの意義であると解釈することはできない。 また,昭和27年改正法により廃止される以前の在宅投票制度は,郵便による代理投票を認めるものであり,公職選挙法49条2項は,これを復活させたものである。。 したがって,前記立法趣旨及び改正の沿革からしても,「投票の記載」には郵便に れる以前の在宅投票制度は,郵便による代理投票を認めるものであり,公職選挙法49条2項は,これを復活させたものである。。 したがって,前記立法趣旨及び改正の沿革からしても,「投票の記載」には郵便による代理投票を包含すると解釈される。 また,公職選挙法49条2項は「投票の記載」と規定しており,「自書」,「署名」等の文言を使用していないのであるから,法律の文言上も,「投票の記載」は,代理投票を包含すると解釈される。 c 公職選挙法68条1項頭書は,「衆議院(比例代表選出)議員又は参議院(比例代表選出)議員の選挙以外の選挙の投票については,次の各号のいずれかに該当するものは,無効とする。」と規定し,同項7号は,「公職の候補者の氏名を自書しないもの」と規定する。 また,公職選挙法68条2項頭書は,「衆議院(比例代表選出)議員の選挙の投票については,次の各号のいずれかに該当するものは,無効とする。」と規定し,同項7号は,「衆議院名簿届出政党等の第86条の2第1項の規定による届出に係る名称又は略称を自書しないもの」と規定し,同条3項頭書は,「参議院(比例代表選出)議員の選挙の投票については,次の各号のいずれかに該当するものは,無効とする。」と規定し,同項9号は,「公職の候補者たる参議院名簿登載者の氏名又は参議院名簿届出政党等の第86条の3第1項の規定による届出に係る名称若しくは略称を自書しないもの」と規定する。 仮に,郵便投票を代理投票によって行った場合にも,前記各規定が文字どおりに適用されるとすれば,郵便による代理投票は,「公職の候補者の氏名を自書しないもの」等に該当して投票は無効となり,原告ら(承継前)は,選挙権を有しているにもかかわらず,有効な投票を行うことができないことになる。 したがって,公職選挙法68条は,同条を文字どおり適用すると,原告ら の」等に該当して投票は無効となり,原告ら(承継前)は,選挙権を有しているにもかかわらず,有効な投票を行うことができないことになる。 したがって,公職選挙法68条は,同条を文字どおり適用すると,原告ら(承継前)から選挙権を奪うに等しいものとなるから,憲法15条1項,同条3項及び14条1項に反し,違憲となる。 d しかし,法律の規定は,可能な限り,憲法の精神に即し,これと調和し得るよう合理的に解釈されるべきものであって,この見地からすれば,公職選挙法68条の表現にのみ拘泥して,直ちに違憲と断定することはできない。 憲法15条1項,同条3項及び14条1項が選挙権を保障している趣旨にかんがみると,原告ら(承継前)から選挙権を奪うに等しい解釈をとることはできないのであり,公職選挙法68条は,原告ら(承継前)が郵便投票を代理投票によって行う場合には適用がないと解される。 (ウ) 本件公職選挙法施行令の違憲性についてa 憲法73条6号は,内閣の事務として,「この憲法及び法律の規定を実施するために,政令を制定すること」を規定し,政令の規定事項は,憲法及び法律の規定を実施するために必要な細則的又は手続的な事項に限られるものとする。 b 公職選挙法49条2項の「選挙人で身体に重度の障害があるもの(…(中略)…)の投票については,前項の規定によるほか,政令で定めるところにより,…(中略)…,その現在する場所において投票用紙に投票の記載をし,これを郵送する方法により行わせることができる。」との規定については,前記のとおり,「投票の記載」が代理投票を包含するものと解釈することが憲法によって求められている以上,代理投票の実施細目を「政令で定めるところ」にゆだねたものと解釈される。 c ところが,公職選挙法49条2項を受けた本件公職選挙法施行令は,郵便による投票に自書 とが憲法によって求められている以上,代理投票の実施細目を「政令で定めるところ」にゆだねたものと解釈される。 c ところが,公職選挙法49条2項を受けた本件公職選挙法施行令は,郵便による投票に自書を要求して代理投票を認めておらず,同施行令は,政令の委任を越え憲法73条6号に違反するだけでなく,憲法15条1項,同条3項及び14条1項にも違反する。 (エ) したがって,本件公職選挙法施行令は,憲法15条1項,同条3項,14条1項,73条6号及び公職選挙法49条2項に違反し,違憲・違法であるから,無効である(憲法98条1項)。 イ国家賠償法上の違法性について(ア) 国家賠償法上の違法性の意義は,後記のとおりであり,本件において,本件公職選挙法施行令を制定・施行に携わった公務員(以下「本件政令制定公務員」という。)の行為には,国家賠償法上の違法性が存在する。 (イ) 内閣閣僚を含む本件政令制定公務員は,憲法73条6号により,憲法及び公職選挙法の規定を実施する範囲内において政令制定権限を与えられていると同時に,憲法99条により憲法尊重擁護義務を負っており,政令の制定・施行に際しても,これが憲法に違反しないよう十分な注意を尽くすべき義務を負っている。 また,原告ら(承継前)を含む日本国民は,憲法15条1項及び3項によって,成年者による普通選挙権を保障されている。選挙権は,国民の政治への参加の機会を保障するという意味において,議会制民主主義の根幹を形成する極めて重要な基本的権利である。 したがって,本件政令制定公務員は,広範な裁量権を与えられている検察官,裁判官,国会議員,税務署長とは全く異なり,あくまで憲法及び公職選挙法の規定を実施する範囲内において,政令を制定・施行する権限を与えられていたにすぎず,かつ,本件公職選挙法施行令が,憲法上保障されてい 官,国会議員,税務署長とは全く異なり,あくまで憲法及び公職選挙法の規定を実施する範囲内において,政令を制定・施行する権限を与えられていたにすぎず,かつ,本件公職選挙法施行令が,憲法上保障されている国民の選挙権を不当に制約することのないよう,十分な注意を尽くすべき義務を負っていた。 (ウ) しかし,公職選挙法49条2項は,郵便投票制度について「選挙人で身体に重度の障害があるもの…(中略)…の投票については,前項の規定によるほか,政令の定めるところにより,…(中略)…その現在する場所において投票用紙に投票の記載をし,これを郵送する方法により行わせることができる」と規定し,「投票の記載」と規定されているだけにもかかわらず,本件政令制定公務員は,「投票の記載」は自書を意味して,代理投票を含まないと解釈し,同規定の意義についての確認作業を行っていない。 また,本件政令制定公務員は,本件公職選挙法施行令を制定・施行すると,投票所等へ行くことが不可能であり,かつ,自書ができない在宅療養者である原告ら(承継前)の選挙権行使が不可能となることを十分知りながら,本件公職選挙法施行令が憲法違反となるか否かについての検討を行っていない。 (エ) 前記のような経緯により制定・施行された本件公職選挙法施行令は,原告ら(承継前)の投票を不可能にするものであって,原告ら(承継前)は,政治に参加することができず,憲法により保障された基本的権利である選挙権が侵害され,議会制民主主義の根幹が侵害された。 以上のとおり,原告ら(承継前)又は原告ら(承継前)と同様の状態にあった者は,本件公職選挙法施行令の制定・施行によって選挙権を侵害されたものであって,本件公職選挙法施行令の制定・施行に切実な利害関係を有していたにもかかわらず,本件公職選挙法施行令の制定・施行への関与の機会は全 件公職選挙法施行令の制定・施行によって選挙権を侵害されたものであって,本件公職選挙法施行令の制定・施行に切実な利害関係を有していたにもかかわらず,本件公職選挙法施行令の制定・施行への関与の機会は全く与えられていなかった。 (オ) 本件における前記各事情を総合的に考慮すると,本件政令制定公務員は,憲法及び公職選挙法の規定を実施する範囲内において,かつ,国民の選挙権を不当に制約することのないよう十分な注意を尽くした上で,公職選挙法施行令を制定・施行すべき義務を負っていたにもかかわらず,このような義務に違反して制定・施行した本件公職選挙法施行令により原告ら(承継前)の選挙権を侵害したのであるから,本件政令制定公務員の行為は,国家賠償法1条1項の「違法」に該当する。 ウ故意・過失について本件政令制定公務員は,その職務を行うについて,公職選挙法施行令が憲法及び公職選挙法に違反することがないように十分な注意を尽くすべきであるにもかかわらず,同注意義務に違反して,本件公職選挙法施行令を制定・施行したものであるから,国家賠償法上の故意・過失が認められる。 (被告の主張)ア本件公職選挙法施行令の違憲・違法性(ア) 憲法15条1項違反について憲法15条1項は,「公務員を選定し,及びこれを罷免することは,国民固有の権利である。」と規定するところ,同規定は,公務員の地位が究極において国民の意思によらしめられているという国民主権の理念を明らかにするにとどまるものであって,具体的な選挙権の内容,その行使の方法等を具体的に規定するものでないことは明らかであるから,選挙権行使の方法について定める本件公職選挙法施行令の各規定が,憲法15条1項に違反するという余地はない。 (イ) 憲法15条3項違反についてa 憲法15条3項が保障する成人による普通選挙の原則が, 選挙権行使の方法について定める本件公職選挙法施行令の各規定が,憲法15条1項に違反するという余地はない。 (イ) 憲法15条3項違反についてa 憲法15条3項が保障する成人による普通選挙の原則が,選挙権行使,すなわち投票の機会の保障を含むものであるか否かの点をさておくとしても,次のとおり,本件公職選挙法施行令が憲法15条3項に違反しているということはない。 b 憲法47条は,投票の方法その他選挙に関する事項の具体的決定を立法府である国会の広い裁量にゆだねている。そして,国会は,このような広い裁量の下,公職選挙法において,いわゆる投票所投票主義を採用し(公職選挙法44条),選挙人には,その個人的事情により,選挙の当日投票所に行くことが困難又は極めて困難な者が存在することが予想されたことから,投票をより容易にするために,立法裁量によるいわば救済措置として,投票所投票主義の例外である不在者投票制度及び郵便投票制度(同法49条)を設けたものである。 選挙の当日投票所に行くことが困難又は極めて困難な者の選挙権行使を容易にする制度を設けるか否か,設けるとして具体的にどのような制度とするかについては,憲法47条の問題として,国会にこれに関する広範な裁量が認められているのであり,このような救済措置によっても,選挙権行使が容易にならなかったからといって,憲法15条3項違反を論じる余地はない。また,その点をおくとしても,選挙の当日投票所に行くことが困難又は極めて困難な者の選挙権行使の方法を具体的にどのような制度にするかについては,国会が裁量権を濫用・逸脱するような容易に想定し難い特段の事情のない限り,憲法15条3項違反を問われる余地はない。 したがって,仮に,公職選挙法49条2項及びその実施細目を規定する本件公職選挙法施行令が,原告ら(承継前)の選挙権行使を 易に想定し難い特段の事情のない限り,憲法15条3項違反を問われる余地はない。 したがって,仮に,公職選挙法49条2項及びその実施細目を規定する本件公職選挙法施行令が,原告ら(承継前)の選挙権行使を必ずしも容易にしなかったとしても,憲法15条3項に違反するものではない。 c また,在宅のALS患者で郵便投票の対象となる選挙人のうち自書できない者については,このような者が事実上郵便投票制度を利用することができないとしても,投票所等において代理投票を行うことが困難を伴うにしても不可能であるとまでいうことはできないから,本件公職選挙法施行令が,これらの者の投票の機会を奪い,選挙権を侵害しているということはできない。 (ウ) 憲法14条1項違反についてa 憲法14条1項は,裁判規範としては,法的取扱いの不均等の禁止という消極的意味でのいわゆる形式的平等を保障したにすぎないものであって,社会に存在する様々な事実上の優劣,不均等を是正して実質的平等を保障するものではない。そのような役割は立法府にゆだねられているものであって,少なくとも,裁判規範としての平等原則には,実質的平等が含まれないことは明らかである。 すなわち,憲法14条1項は,「すべて国民は,法の下に平等であって,人種,信条,性別,社会的身分又は門地により,政治的,経済的又は社会的関係において,差別されない。」と規定し,国民が,法の与える利益の面においても,法が課する義務の面においても,平等の取扱いを受けるべき旨を定めるが,同条項が「差別されない」との消極的文言を用いており,また,日本が自由主義を基調とする民主政治体制を採用している以上,国民のあらゆる生活面での均等化まで求められているわけではない。 憲法14条1項は,国民に対して,現実の不平等を是正して実質的平等を実現するように国家に要求し とする民主政治体制を採用している以上,国民のあらゆる生活面での均等化まで求められているわけではない。 憲法14条1項は,国民に対して,現実の不平等を是正して実質的平等を実現するように国家に要求し得ることまでを保障したものではなく,消極的に国家による不平等取扱いを禁止するという形式的平等を保障するにとどまると解するべきである。 仮に,憲法14条1項がいわゆる実質的平等を保障するものであると解するとすれば,異なる社会的状況に置かれている者については,国がその状況に応じて異なる取扱いをしなければならないことになる。しかし,人の政治的,経済的及び社会的諸条件における差異は,程度の差こそあれ,ほとんど無限に存在するのであって,このような異なる状況に置かれている者について,国がその状況に応じて異なる取扱いをしなければならないとすることは,仮にそのうち重要なものにこれを限るとしても,不可能であるばかりか不相当である。 b また,憲法は,選挙人となるために備えていなくてはならない資格である「選挙人の資格」については,「法律でこれを定める」(44条本文)としながらも,一方で,「人種,信条,性別,社会的身分,門地,教育,財産又は収入によって差別してはならない」と規定し(同条ただし書),「公務員の選挙については,成年者による普通選挙を保障する。」(15条3項)と規定して,一定額の納税者であること等の要件を排斥することを明らかにしているのに対し,選挙権行使の方法である「選挙区,投票の方法その他両議院の選挙に関する事項」については,「法律でこれを定める」(47条)としているのみである。 このように,「選挙権の付与」と「選挙権の行使」とは,憲法上もその取扱いが区別されており,両者は,別個に論じられなければならない。 したがって,疾患のために,選挙権行使が事実上著し ているのみである。 このように,「選挙権の付与」と「選挙権の行使」とは,憲法上もその取扱いが区別されており,両者は,別個に論じられなければならない。 したがって,疾患のために,選挙権行使が事実上著しく困難であったとしても,その疾患がなく,四肢が健全であることを選挙権付与の要件としているに等しいなどということにはならない。 c さらに,法律で定める投票の方法は,すべての選挙人において,可能な限り容易に投票できるものであることが望ましいが,投票の方法については,選挙の公正を確保し,憲法15条4項で保障された投票の秘密を保護するとともに,選挙の施行には,おのずと一定の時間的,人的・物的設備による制約を伴うものであるから,そのような制約の中で選挙の施行を可能にすることが要請されるものであることを看過してはならない。 そして,公職選挙法は,前記各要請に応えつつ,選挙人一般に対して特別の犠牲を強いることなく,できる限り投票の機会を均等に与えようとする趣旨でもって,投票所投票主義を原則としつつ,その例外として,不在者投票所における不在者投票制度を定めるとともに,重度身体障害者の投票について,郵便投票制度を採用したのであるから,このような立法が合理性を有することは明らかである。 (エ) 憲法73条6号違反について原告らは,憲法73条6号にいう政令の規定事項は,憲法及び法律の規定を実施するために必要な細則的又は手続的な事項に限られるから,郵便投票に自書を要求して代理投票を認めていない本件公職選挙法施行令は,法律の委任の範囲を越えていることは明らかであり,憲法73条6号に違反すると主張する。 しかし,そもそも憲法73条6号は,政令が規定することができる事項が,いかなる場合であっても,法律の規定を実施するために必要な細則的又は手続的な事項に限定されるとするもの 6号に違反すると主張する。 しかし,そもそも憲法73条6号は,政令が規定することができる事項が,いかなる場合であっても,法律の規定を実施するために必要な細則的又は手続的な事項に限定されるとするものではない。 しかも,後記(オ)記載のとおり,本件公職選挙法施行令の各規定は,公職選挙法49条2項が委任する範囲内で,同条項が規定する郵便投票制度の実施細目を定めているにすぎないから,その憲法73条6号違反を論じる余地はない。 したがって,本件公職選挙法施行令は,憲法73条6号に違反するものではない。 (オ) 公職選挙法49条2項違反についてa 原告らは,公職選挙法49条2項について,同条項の「投票の記載」が代理投票を包含すると解釈されるから,郵便投票に自書を要求して代理投票を認めていない本件公職選挙法施行令は,公職選挙法49条2項に違反すると主張する。 しかし,以下のとおり,公職選挙法49条2項の「投票の記載」については,自書主義を前提として規定されたものであって,その手続の細目を定めた政令である本件公職選挙法施行令においても,代理投票を認める余地がないことは明らかである。 b 公職選挙法49条2項は,昭和49年改正法により創設されたものである。同改正がなされる際の国会における審議過程をみると,昭和26年の統一地方選挙において在宅投票制度を悪用した不正事例が多発したことを背景として,昭和27年改正法により在宅投票制度が廃止されたという経緯にかんがみ,公職選挙法49条2項の郵便投票制度の導入に当たって,選挙の公正をいかに確保するかについて,徹底した議論が尽くされた。 すなわち,昭和49年5月8日衆議院公職選挙法改正に関する調査特別委員会及び同年4月8日参議院公職選挙法改正に関する特別委員会において,昭和49年改正法案の提出者である政府により,公職選挙 された。 すなわち,昭和49年5月8日衆議院公職選挙法改正に関する調査特別委員会及び同年4月8日参議院公職選挙法改正に関する特別委員会において,昭和49年改正法案の提出者である政府により,公職選挙法49条2項の郵便投票制度を導入するに当たり,その手続を厳格にすることが明らかにされており,投票用紙の代理請求を認めないこと,あるいは,自書による投票を前提として同制度を導入することが明らかにされている。 これらの政府答弁においては,不在者投票制度での代理投票の場合には,不在者投票管理者と立会人2名の下で1人が代理記載を行い,1人がこれを監視するという厳重な管理体制を採用している一方,郵便による代理投票を行う場合には,家庭内等で投票の記載が行われることから,選挙の公正を確保することが困難であることが言及されている。 c また,公職選挙法における罰則の規定との関係からしても,政令で郵便投票において代理投票を認めることは予定されていないことが明らかである。 すなわち,不在者投票の場合の罰則の適用について規定する公職選挙法255条は,公職選挙法16章の各罰則規定が選挙当日の投票所における投票を前提として各構成要件が規定されていることから,不在者投票における各罰則規定の適用関係を明確にするために,これを不在者投票において独自に用いられている概念に読み替える規定である。そして,公職選挙法255条は,罰則規定における構成要件の明確性の見地から,不在者投票において適用されるべき各罰則規定を網羅的に規定していることは明らかであって,同条がその適用を規定しない罰則規定に関する行為については,これに罰則規定を適用しないことをも明らかにする趣旨の規定である。 また,公職選挙法255条は,選挙当日の投票所における投票について罰則の適用がある行為については,不在者投票に する行為については,これに罰則規定を適用しないことをも明らかにする趣旨の規定である。 また,公職選挙法255条は,選挙当日の投票所における投票について罰則の適用がある行為については,不在者投票において想定できない行為や不在者投票の特殊性から罰則を適用することができない行為を除き,不在者投票においても罰則の適用があることを明らかにしていると解すべきである。なぜなら,選挙当日の投票所においてなされれば罰則の適用があるにもかかわらず,不在者投票においてなされたならば罰則の適用がないなどという行為は,罰則の均衡の観点からしても,およそ考えられないからである。 そうすると,同条によりその適用が規定されていない罰則規定に関する行為については,公職選挙法においては,当該行為が不在者投票において想定できないもの,あるいは不在者投票の特殊性から罰則を適用できないものと考えられている行為であるということになる。 そして,公職選挙法255条1項及び3項は,一般の不在者投票及び洋上投票における代理投票の代理記載人を選挙当日の投票所における代理投票の代理人とみなす趣旨の規定をしているのに対し,同条2項は,このような規定をあえて置いていないばかりか,郵便投票について,同法228条の投票干渉罪及び同法234条の選挙犯罪の煽動罪の各規定を適用すると定めるのみで,同法237条の2の代理投票における記載義務違反等の罪の規定の適用を排除している。このような規定からすれば,公職選挙法255条2項は,郵便投票において,代理投票が利用されることをそもそも予定していないことは明らかであるといわなければならない。 仮に,公職選挙法が改正されることがないまま,公職選挙法施行令において,郵便投票に代理投票を利用することを認めることとなれば,代理記載人が本人が指示した候補者の氏名等を記載 といわなければならない。 仮に,公職選挙法が改正されることがないまま,公職選挙法施行令において,郵便投票に代理投票を利用することを認めることとなれば,代理記載人が本人が指示した候補者の氏名等を記載せず,他の候補者の氏名等を記載した場合であっても,これを処罰すべき規定が存在しない結果,その行為は何ら罰せられないこととなるが,このような結果を選挙の公正の確保を目的とする公職選挙法が容認しないことは明らかである。 したがって,前記のような制度を公職選挙法施行令において認めること自体,公職選挙法49条2項による委任の範囲を超えたものである。 d 以上によれば,公職選挙法49条2項が立法化されるに至った経緯及び公職選挙法の罰則の規定からしても,同条項が,郵便投票において,自書主義を前提としていること,したがって,公職選挙法施行令において郵便投票制度に代理投票の規定を設ければ,かえって同条項の委任の範囲を超えることになることは,明らかである。 イ国家賠償法上の違法性について(ア) 国家賠償法上の「違法」の意義については,後記のとおりであり,本件において,内閣が本件公職選挙法施行令を制定・施行したことについて,国家賠償法上の違法はない。 (イ) 公職選挙法49条2項は,自書主義を前提とした上で郵便投票制度を規定しているのであり,本件公職選挙法施行令は,同条項が規定する範囲内で,同条項が規定する郵便投票制度の実施細目を定めているものにすぎない。 ところで,行政立法の内容が,これを委任した議会立法の委任の範囲を超える場合には,授権している議会立法に対する違反及びそのような行政立法に対する授権の欠如という2つの意味において違法であり,このような議会立法の委任の範囲を超える行政立法を制定・施行した場合には,職務上の法的義務違反を構成する場合があり得る。 し そのような行政立法に対する授権の欠如という2つの意味において違法であり,このような議会立法の委任の範囲を超える行政立法を制定・施行した場合には,職務上の法的義務違反を構成する場合があり得る。 しかし,本件公職選挙法施行令は,何ら公職選挙法49条2項の委任の範囲を超えるものではないから,議会立法である同条項の委任の趣旨・目的に沿って,その実施細目として本件公職選挙法施行令を制定・施行した内閣について,その職務上の法的義務違反が存在する余地はない。 (ウ) 行政立法を制定・施行する際には,その行政立法の内容を拘束する議会立法が有する規範的意味内容の法解釈をする必要があり,その際,いわゆる法令の審議過程における立法者意思のほか,当該授権条項の意味内容,議会立法の関連条項や法全体の趣旨だけでなく,授権する議会立法以外の関連議会立法,当該行政分野に特有の法理をも考慮して,その法解釈をする必要があることも少なくない。 しかし,行政立法の制定・施行の段階では,これを授権する議会立法の解釈を行う内閣において,まずもって探求すべきであるのは,当該行政立法を授権する議会立法の立法者意思である。 仮に議会立法における立法者意思が,法の本来の解釈と異なるものであったとしても,当該議会立法の授権を受けて行政立法の制定・施行をする内閣における職務上の法的義務という観点からすれば,当該議会立法の審議過程において,その立法者意思が明らかであった場合には,その立法者意思に沿って行政立法を制定・施行することは当然のことである。そして,議会立法における立法者意思に沿って行政立法をした以上,当該立法者意思が明らかに当該立法の解釈を誤っていることが明白であるというような特段の事情のない限り,職務上の法的義務に違反しないものである。 これを本件についてみると,昭和49年改正法が立 た以上,当該立法者意思が明らかに当該立法の解釈を誤っていることが明白であるというような特段の事情のない限り,職務上の法的義務に違反しないものである。 これを本件についてみると,昭和49年改正法が立法される際の国会における審議過程において,郵便投票における投票の記載について,代理投票を認めず,直接自分で書いて投票する方法を採用する旨明言されており,特段の反論もないまま審議が終了している。 そうすると,公職選挙法49条2項の立法者意思は,郵便投票に自書を要求するものであることが明らかであり,同条項が自書主義を前提としているものとして,本件公職選挙法施行令を制定・施行した内閣において,国家賠償法1条1項の違法を問われる余地はない。 (エ) さらに,本件公職選挙法施行令の授権規定である公職選挙法49条2項が違憲であるとの最高裁判所の司法判断は存在しないところ,すべて法律は,国会によって合憲と判断されて制定・施行されるものであり,合憲性の推定を有するものとみなくてはならない。国会その他の国家機関の制定・施行する法形式に対して合憲性の推定を与えることは,社会生活の法的安定を保持するために必要なことであるから,法律や命令が合法的な手続で成立した限り,それに基づいてなされた行為はすべて違法性を欠くとみるべきである。 したがって,本件公職選挙法施行令が憲法に違反するものであったとしても,その授権規定である公職選挙法49条2項が違憲であるとの最高裁判所の司法判断が存在しない状況において,同条項の委任の範囲を超えずに制定・施行された本件公職選挙法施行令の制定・施行行為に「職務上の法的義務」違反があるとはいえないから,これが国家賠償法上の違法性を有する余地はない。 (オ) 以上のとおり,本件公職選挙法施行令は,憲法及び公職選挙法49条2項に違反しておらず,内閣 為に「職務上の法的義務」違反があるとはいえないから,これが国家賠償法上の違法性を有する余地はない。 (オ) 以上のとおり,本件公職選挙法施行令は,憲法及び公職選挙法49条2項に違反しておらず,内閣が本件公職選挙法施行令を制定・施行したことは国家賠償法上の違法行為に該当するものではない。 (3) 内閣による本件公職選挙法施行令の改正不作為が国家賠償法上の違法行為に該当し,被告が国家賠償責任を負うか否か。 (原告らの主張)ア内閣の本件公職選挙法施行令改正義務について(ア) 憲法73条6号は,憲法及び法律の規定を実施するため政令を制定・施行する権限を内閣に認めているところ,その内閣が制定・施行した本件公職選挙法施行令は,原告ら(承継前)のように自書できない重度身体障害者が存在するにもかかわらず,郵便投票制度に自書を要求し,代理投票を認めていない。 (イ) 内閣が本件公職選挙法施行令を改正し,郵便による代理投票制度を創設する等の積極的措置をとる義務を負っていたことについての詳細は,後記の国会の立法不作為の違憲・違法性に関する主張と同様であるが,その概要は次のとおりである。 日本は,昭和54年,すべての市民につき不合理な制限なく選挙権を行使する機会を保障するとともに,各締約国に対して選挙権行使を可能とするために必要な立法措置その他の措置をとることを要求する「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(以下「B規約」という。)を批准した。 そして,憲法98条2項は,日本が締結した条約及び確立された国際法規を誠実に遵守することを要求している。 したがって,B規約が日本において発効した時点で,内閣について,本件公職選挙法施行令を改正して郵便による代理投票を認めるなどして,原告ら(承継前)のような重度身体障害者の選挙権行使に関する不合理な制限を撤廃すべき作為 が日本において発効した時点で,内閣について,本件公職選挙法施行令を改正して郵便による代理投票を認めるなどして,原告ら(承継前)のような重度身体障害者の選挙権行使に関する不合理な制限を撤廃すべき作為義務が発生した。 (ウ) また,B規約の批准と前後して,国際連合(以下「国連」という。)における障害者の権利宣言・障害者に関する世界行動計画の採択,あるいは国内における障害者基本法の制定により,障害者をとりまく社会情勢が大幅に変化したことによって,内閣は,本件公職選挙法施行令が原告ら(承継前)のような重度身体障害者の選挙権行使を保障するに十分であるか否かを吟味検討すべき機会が十分に与えられた。 しかも,日本ALS協会は,平成8年,在宅のALS患者が参政権を行使できない現実を社会に訴える活動の一環として衆議院議員J(以下「J議員」という。)にアプローチし,これを受けたJ議員は,同年5月31日の衆議院決算委員会第3分科会において,郵便による代理投票制度及び選挙管理機関が自宅を訪問する巡回投票制度を提案し,今後の検討を政府に求めた。 また,日本ALS協会から申立てを受けた第一東京弁護士会は,平成10年7月6日,Z自治大臣に対し,現行選挙制度の改善を要望する旨の要望書を提出した。 このように,原告ら(承継前)は,本件公職選挙法施行令により,自らの選挙権行使が不合理かつ大幅に制約されている現状を,内閣に対して直接的に訴えてきたものであるが,内閣は,平成10年7月12日の参議院議員選挙の実施に至っても本件公職選挙法施行令を改正しなかった。 イ国家賠償法上の違法性について後記のとおり,国家賠償法1条1項の違法性の有無は,被侵害利益の種類,性質,侵害行為の態様及びその原因,行政処分の発動に対する被害者側の関与の有無,程度並びに損害の程度等の諸般の事情を総合的 ついて後記のとおり,国家賠償法1条1項の違法性の有無は,被侵害利益の種類,性質,侵害行為の態様及びその原因,行政処分の発動に対する被害者側の関与の有無,程度並びに損害の程度等の諸般の事情を総合的に判断して決すべきものである。 そして,内閣は,B規約の批准により本件公職選挙法施行令の改正義務を負担し,かつ障害者施策の飛躍的発展によって改正の契機と時間的余裕を与えられたにもかかわらず,長期間にわたり前記改正義務を懈怠したものである。 しかも,諸外国の実例から明らかなように,内閣において同様の積極的措置をとることは極めて容易であったのだから,このような内閣の不作為は,B規約違反の責を免れない。 さらに,侵害されているのが,選挙権という議会制民主主義の根幹を形成する重要な権利であること,原告ら(承継前)も,自らの所属する日本ALS協会を通して,内閣に対し現行選挙制度の改正を働きかけていること等にかんがみると,遅くとも平成10年7月12日の参議院議員選挙に至るまで本件公職選挙法施行令を改正しなかったという内閣の不作為は,国家賠償法上の違法評価を免れない。 ウ故意・過失について内閣は,その職務を行うについて,公職選挙法施行令が憲法及び公職選挙法に違反することがないように十分な注意を尽くすべきであるにもかかわらず,同注意義務に違反して,本件公職選挙法施行令を改正しなかったのであるから,国家賠償法上の故意・過失が認められる。 (被告の主張)ア公職選挙法49条2項は,同条項が規定する郵便投票制度の実施細目の制定について,これを政令に委任しているにすぎないから,自書主義を前提とする同条項が改正等されていないにもかかわらず,その実施細目を制定すべき内閣において,独自にこれに反する政令を制定すべき作為義務が生じるとはいえない。 イそして,B規約2条2項及 ,自書主義を前提とする同条項が改正等されていないにもかかわらず,その実施細目を制定すべき内閣において,独自にこれに反する政令を制定すべき作為義務が生じるとはいえない。 イそして,B規約2条2項及び25条は,内閣に対し,公職選挙法49条2項が定める郵便投票について,これを自書による必要がないものとする内容に改正すべきことを義務付けるものではない。 B規約は,B規約において認められる権利の実現について,2条の規定等から,一般的に,各締約国の立法措置その他の措置によって行われることを想定しているものと解され,そのために各締約国が具体的にいかなる措置をとるかについては,各締約国の合理的な裁量にゆだねているものと解される。また,B規約2条2項は,各締約国に対し,当該措置がまだとられていない場合に,当該措置を講ずることを義務付けているものにすぎない。 そして,B規約25条(b)は,普通かつ平等の選挙権に基づき秘密投票によって行われ,選挙人の意思の自由な表明を保障する真正な定期的選挙において,投票する権利等について規定している。 ただし,B規約の締約国が25条に規定されている権利を実現するためにとるべき具体的な選挙制度については,B規約においては何ら規定されていないことから,各締約国の合理的な裁量にゆだねられており,結局,B規約は,特定の選挙制度を採用することを義務付けているものではないと解される。 ウ日本においては,B規約25条(b)に規定されている権利を実現するため,成年者による普通選挙を保障する憲法の下で,公職選挙法及び公職選挙法施行令によって選挙制度が定められている。この選挙制度においては,投票所投票主義(公職選挙法44条)を採用しつつ,その例外として,身体に障害のある選挙人を対象とした代理投票(同法48条1項)及び郵便投票(同法49条2項 度が定められている。この選挙制度においては,投票所投票主義(公職選挙法44条)を採用しつつ,その例外として,身体に障害のある選挙人を対象とした代理投票(同法48条1項)及び郵便投票(同法49条2項)という特別な措置をも設けている。 エ現行投票制度下において原告ら(承継前)が選挙権を行使することは,原告ら(承継前)の主張する病状を前提としても,事実上困難である場合があっても不可能であるとまではいえない。 そして,B規約2条2項は,締約国に対し,選挙権行使が可能ではあるが事実上困難である者について,当該者の選挙権行使を容易にするための措置をとることまでをも義務付けているとは解されない。 オしたがって,内閣において,B規約などに基づき,本件公職選挙法施行令を改正して郵便による代理投票を認める等の措置をとるべき義務を有するとは解されないから,内閣が本件公職選挙法施行令を改正しなかったことが国家賠償法上の違法行為に該当するものではない。 (4) 公職選挙法改正後の立法不作為が国家賠償法上の違法行為に該当し,被告が国家賠償責任を負うか否か。 (原告らの主張)ア公職選挙法の改正経緯について(ア) 旧法及びその委任を受けた旧施行令は,在宅投票制度を定め,なおかつ身体の故障によって自ら候補者の氏名を記載することができない在宅選挙人については,他人に投票の記載をさせることができることも規定していた(旧法49条,旧施行令58条)。 (イ) ところが,昭和26年の統一地方選挙において在宅投票制度が悪用されたとの理由により,昭和27年改正法により,在宅投票制度及び在宅による代理投票制度が廃止された。 (ウ) その後,在宅投票制度の復活を求める国民の声が大きくなり,昭和49年改正法により公職選挙法が改正され,公職選挙法49条2項の規定により,在宅 投票制度及び在宅による代理投票制度が廃止された。 (ウ) その後,在宅投票制度の復活を求める国民の声が大きくなり,昭和49年改正法により公職選挙法が改正され,公職選挙法49条2項の規定により,在宅投票制度が,その対象者を限定し,かつ自書によるという条件付きで復活し現在に至っている。 イ憲法上の選挙権の保障の意味について(ア) 憲法15条1項が,国民主権の原理に基づく選挙権の保障を主眼としていること,同条3項が成年者による普通選挙を保障し,かつ投票の機会をも保障していること,憲法14条1項が,人権に関する一般原則として法の下の平等を規定し,政治的関係において合理的な理由なく差別してはならず,平等に取り扱わなければならないとする趣旨であり,ここにいう平等が,実質的,機能的平等であって,国民一人一人の置かれた状況に応じて取扱いが異なることがあり得るばかりか,場合によっては異なる取扱いが要請されるべきことから,投票所に行くことが不可能な者の場合には,その身体的状況を考慮した投票の方法を定めることが要請される。 (イ) 選挙権は,国民主権,代表民主制を実現する上で極めて重要な憲法上の権利である。この権利がひとたび侵害されれば,代表民主制の根幹を損なうことになり,選挙権はいわば民主政の死命を制する重要な権利であることは論を待たない。 ウ公職選挙法の違憲性について(ア) 仮に被告が主張するように,公職選挙法49条2項が代理投票を認めていない趣旨だとすれば,公職選挙法は,原告ら(承継前)のように,投票所等に行くことが不可能で,かつ自書できない者から,投票の機会を奪うものであり,選挙権自体は認めていても,これを行使する機会を与えておらず,憲法に適合するものとはいえない。これは,まさに原告ら(承継前)の選挙権を奪うに等しいものである。 (イ) 立法裁量 機会を奪うものであり,選挙権自体は認めていても,これを行使する機会を与えておらず,憲法に適合するものとはいえない。これは,まさに原告ら(承継前)の選挙権を奪うに等しいものである。 (イ) 立法裁量論についてa 憲法47条が,選挙に関する事項について,自ら規定せずにこれを法律の定めにゆだねたのは,元来選挙の方法に関する事項は,その重要性に加え,技術的要素が多く,細目は時代に応じて変更する必要があるので,その詳細についてまで憲法において規定するのは適当でないとされたからである。 確かに,そこに立法機関の裁量が働く余地があることは否めないとしても,立法機関の裁量は憲法上の他の諸規定,諸原則に反しない限度でなされるべきことは当然である。 憲法が前記事項について法律で定めると規定したことの一事をもって,立法府の裁量の範囲が一段と広くなるものと解すべき根拠はない。 b また,裁判所は,選挙に関する事項について,立法府がその裁量権を逸脱し,その立法的措置が著しく不合理であることが明白である場合に限って違憲とし得るとの被告の主張は,裁判所の違憲審査権に関するいわゆる合理性の基準として論じられるものである。 この原則は,法律に表明された主権者である国民の意思には,憲法との矛盾が極めて明白でない限り反対すべきではないとの民主政の理論及び裁判所が事実上立法となるような憲法解釈を行って国会の権能を侵害すべきではないとの権力分立理論にその根拠を置くものである。 確かに,①憲法の採用する議会制民主主義の下においては,国会は,国民の間に存在する多元的な意見及び諸々の利益を立法過程に公正に反映させ,議員の自由な討論を通してこれらを調整し,究極的には多数決原理により統一的な国家意思を形成すべき役割を担うものであること,②国会議員は,多様な国民の意向を汲みつつ,国民全体の 過程に公正に反映させ,議員の自由な討論を通してこれらを調整し,究極的には多数決原理により統一的な国家意思を形成すべき役割を担うものであること,②国会議員は,多様な国民の意向を汲みつつ,国民全体の福祉の実現を目指して行動することが要請されており,議会制民主主義が適正かつ効果的に機能することを期するためにも,国会議員の立法過程における行動で,立法行為の内容にわたる実体的側面に関するものは,これを政治的判断に任せ,その当否は終局的に国民の自由な言論及び選挙による政治的評価にゆだねるのが相当であること,③立法行為の規範であるべき憲法についてさえ,その解釈につき国民の間には多様な見解があり得るのであって,国会議員は,これを立法過程に反映させるべき立場にあること,④憲法51条が,国会議員の発言・表決につきその法的責任を免除しているのも,国会議員の立法過程における行動は政治的責任の対象とするのにとどめるのが国民の代表者による政治の実現を期するという目的にかなうとの考慮によること,などの理由から,本質的に政治的な国会議員の立法行為が,その性質上法的規制の対象になじまず,特定個人に対する損害賠償責任の有無という観点から,あるべき立法行為を想定して具体的立法行為の適否を法的に評価するということは,原則的には許されるものでないことは,原告らもこれを否定するものではない。 一般に,国家がいつ,いかなる立法をすべきか,あるいは立法をしないかの判断は,原則として国会の裁量の下にあり,その統制は選挙を含めた政治過程においてなされるべきであることは,憲法の統治構造上明らかであり,原告らもまた基本的にはこの立場に立つものである。 c しかし,国会議員が,その立法行為に対して原則として法的責任を負わないことの根拠が,議会制民主主義を適正かつ効果的に機能させること及び国 であり,原告らもまた基本的にはこの立場に立つものである。 c しかし,国会議員が,その立法行為に対して原則として法的責任を負わないことの根拠が,議会制民主主義を適正かつ効果的に機能させること及び国会議員の立法行為の当否を終局的に国民の自由な言論及び選挙による政治的評価にゆだねるべきであるということにあるとするならば,その大前提として,議会制民主主義が正常に機能し,国民の自由な言論及び選挙による政治的評価が可能であることが必要であることはいうまでもない。 なぜなら,議会制民主主義,言論の自由,選挙権を不当に侵害する立法行為がなされた場合には,民主政の過程による国会議員の政治的責任を追及することが困難又は不可能になるからである。選挙権行使を不当に制約する疑いのある立法がなされた場合,選挙を通じてこれを復元することそのものが制約され,民主政の過程にこれを期待すること自体不可能とならざるを得ない。 このような場合,被告の主張するような司法の自己制限の立場をとることは,かえって,憲法の基本原理である民主政の基礎を脅かすことにもなるのであって,憲法の基本原理を実質的に維持する見地からして不当であるといわなければならない。 したがって,本件のように,選挙権そのものの実質的侵害が問題とされている事案においては,被告主張の合理性の基準は採用すべきではない。 d そもそも,憲法上の人権の中でも,代表民主政の根幹をなす極めて重要な権利である選挙権については,すべての国民ができるだけ少ない費用と時間で行使できるよう制度が設けられるべきであることはいうまでもない。 もとより,選挙制度の技術的理由から,そこには自ずと一定の限界があることは否定しないが,およそ選挙権行使ができない,すなわち投票することができない場合には,選挙権自体を奪うものとして違憲といわざるを得ない り,選挙制度の技術的理由から,そこには自ずと一定の限界があることは否定しないが,およそ選挙権行使ができない,すなわち投票することができない場合には,選挙権自体を奪うものとして違憲といわざるを得ない。 e 前記のとおり,原告ら(承継前)は,人工呼吸器を用いなければ呼吸すら不可能であり,かつ自書することもできない。 そのため,仮に原告ら(承継前)が外出する場合は,原告ら(承継前)及び原告ら(承継前)を乗せたストレッチャーや人工呼吸器を搬送するための特別の手段が必要となる。当然,人工呼吸器の管理のための要員,そのほか原告ら(承継前)の介護のための要員も一緒に移動しなければならない。そして,これらの手段と要員を確保するための費用,その手配のための時間も必要である。 加えて,原告ら(承継前)の移動には常に生命の危険が伴うということも看過すべきではない。すなわち,ベッドから車椅子に移す際,車椅子からストレッチャーへ移す際,ストレッチャーから移動用の自動車に移す際,そのほか移動の節目節目において人工呼吸器を外し手動のアンビューバッグに切り替える必要があり,それすらできない場合には,短い時間ではあるが無呼吸状態という危険と苦痛の中に原告ら(承継前)を置かなければならない。 移動先において人工呼吸器の着脱ができたとしても,その人工呼吸器に故障・作動不良があれば,予備の人工呼吸器が用意されていない以上(投票所に人工呼吸器などは用意されていないのが通常である。),原告ら(承継前)は,まさに生命の危険にさらされながら投票を行わなければならなくなる。 このように,原告ら(承継前)が投票所において代理投票を行うには多大な時間と労力,費用がかかるというだけではなく,生命の危険をも覚悟しなければならないのである。 また,原告ら(承継前)は在宅で治療しているから,病院等で入 継前)が投票所において代理投票を行うには多大な時間と労力,費用がかかるというだけではなく,生命の危険をも覚悟しなければならないのである。 また,原告ら(承継前)は在宅で治療しているから,病院等で入院患者等を対象とする不在者投票制度も利用することはできない。そして,自書できない以上,郵便投票制度も利用できないことは明らかである。 f これに対し,障害のない者は,通常,投票所へ出向いて自書して投票するのであり,その場合,せいぜい投票所と自宅とを往復すること,投票用紙に記載をして投票することしか要せず,これらのためにはごくわずかの時間と労力を要するにすぎない。 このように,障害のない者は,ごく少ない時間と労力を用いて権利行使ができるのに対し,原告ら(承継前)のようなALS患者は,当該制度のために多大な費用・労力と時間,そして生命の危険を冒すことまでが要求されるのである。 このような事態は,憲法が保障する法の下の平等(実質的平等)の原則に反することは明白である。 g この点について,被告は,憲法15条1項は,国民主権の理念を明らかにしたものにとどまり,具体的な選挙権の内容・行使方法まで規定したものではないから,公職選挙法が違憲であるという余地がないと主張する。 もとより,憲法15条1項が,ある特定の選挙権の内容・行使方法までを規定したものでないことはそのとおりである。しかし,憲法が,前文及び1条において,国民主権の理念を明らかにしているにもかかわらず,あえて15条1項において「公務員を選定し,及びこれを罷免することは,国民固有の権利である」と明記した趣旨は,同条項が単に国民主権の理念を明らかにしたにとどまるだけでなく,具体的な権利として公務員の選定罷免権を国民に付与したものとみるべきである。 また,憲法15条1項は,「国民固有の権利である」と明確に は,同条項が単に国民主権の理念を明らかにしたにとどまるだけでなく,具体的な権利として公務員の選定罷免権を国民に付与したものとみるべきである。 また,憲法15条1項は,「国民固有の権利である」と明確に規定しているのであって,具体的な権利を定めた憲法29条1項等の規定との対比からしても,憲法15条1項が具体的権利について規定した条項であることは否定し難い。 h さらに,被告は,現行の不在者投票制度(公職選挙法49条)は,投票所投票主義(同法44条)の例外であり,単なる立法裁量に基づく救済措置であるから憲法15条3項違反の問題は生じないと主張する。 しかし,そもそも投票所において投票するという方式は,科学技術,交通・通信手段が未発達の時代に,最も簡単かつ低廉な費用により,選挙人の投票の機会を保障しようという意図の下に考案されたものであり,それ自体歴史上の所産である。 平成13年の第153回国会において,地方公共団体の議会の議員及び長の選挙に係る電磁的記録式投票機を用いて行う投票方法等の特例に関する法律(以下「特例法」という。)が制定された。 これによれば,従来の自書による方式から,選挙人が自ら投票所において電磁的記録式投票機を操作することにより,当該電磁的記録式投票機に記録されている公職の候補者のうちからその投票しようとするもの1人を選択し,かつ,当該公職の候補者を選択したことを電磁的記録媒体に記録する方法によって投票を行うこととされている。 また,特例法には,身体の故障又は文盲により自ら電磁的記録式投票機を用いた投票を行うことができない者には,電磁的記録式投票機を用いた代理投票の制度が設けられている。 被告は,投票所投票主義及び自書主義が投票の公正を確保するために合理的であると主張しているが,この特例法では自書主義は放棄され,これに代わるものとし 式投票機を用いた代理投票の制度が設けられている。 被告は,投票所投票主義及び自書主義が投票の公正を確保するために合理的であると主張しているが,この特例法では自書主義は放棄され,これに代わるものとして電磁的記録式投票機による投票方式が採用されている。これは明らかに,自書主義だけが公正確保にとって必須の建前ではないことを被告自ら認めたことを意味するものである。 i 以上によれば,投票所投票主義を原則とし,その例外として不在者投票制度を規定し,また重度身体障害者を対象とする郵便投票制度を設けたことが合理的とはいえないことは明白である。 このような歴史上の所産を不変のものとして絶対視したり,変更不能のものとして固定化したりすることが許されないのは当然である。選挙人の中には,様々な身体的障害を有する者が存在するのであり,これらの人々が権利を行使し得る制度を設けることは憲法上の要請である。 したがって,不在者投票制度が立法裁量に基づく救済措置であるとすることは,憲法の規定する国民主権の理念及び公務員の選定罷免権を否定するものである。 (ウ) 合憲性判定基準についてaLRAの原則について公職選挙法の合憲性判定については,国民主権の下での,国民の基本的権利としての選挙権の持つ重要性にかんがみれば,厳格な基準,とりわけLRAの原則を適用すべきである。 この原則は,憲法上の権利を制限する立法の目的が,正当かつ必要な場合でも,その立法目的を達成するためのより制限的でない他の選び得る手段が存在しないこと又はその利用が不可能であることを規制側が立証しなければ,違憲の判断を免れないとするものである。 b 公職選挙法の立法目的の合理性について被告は,現行の郵便投票制度において自書を要求するのは投票の秘密,選挙の公正を維持するためであると主張する。 憲法15条4項 断を免れないとするものである。 b 公職選挙法の立法目的の合理性について被告は,現行の郵便投票制度において自書を要求するのは投票の秘密,選挙の公正を維持するためであると主張する。 憲法15条4項前段が,すべて選挙における投票の秘密はこれを侵してはならないと定め,投票の秘密を保障していることは明らかである。また,投票に際しては,選挙人本人が自らの自由な意思によって投票すべきものであり,このような意味において選挙の公正が図られることも必要なのは論ずるまでもない。 確かに,投票所における投票に比べて,在宅投票が,投票の秘密保持及び選挙の公正確保の点で劣る面のあることは否めない。単なる可能性という点からいえば,投票所における投票より在宅投票の方が,悪用されたり,投票の秘密を害されたりする危険性は大きいともいえる。 したがって,投票の秘密及び選挙の公正を確保しようという立法目的自体には,一応の合理性が認められる。 c 立法目的達成手段の不当性(a) 仮に,投票の秘密及び選挙の公正を確保するという立法目的に正当な理由があるとしても,国民主権の原理の下で,国民の最も重要な基本的権利に属する公務員の選挙権については,普通平等選挙の原則から,一部の者の選挙権行使を不可能又は著しく困難にするような選挙権の制約は,やむを得ない正当な理由のある場合に限るべきであり,その制約の程度も最小限度にとどめなければならない。 原告ら(承継前)のように,在宅投票制度の廃止により,その選挙権行使が不可能となる者の存在することは,前記のとおりであるから,弊害除去の目的のため在宅投票制度を廃止し,かつ郵便投票制度の導入に当たり,自書を要求するという措置に合理性があると評価されるのは,弊害除去という同じ立法目的を達成できる,より制限的でない他の選び得る手段が存在せず,あるいは,こ 度を廃止し,かつ郵便投票制度の導入に当たり,自書を要求するという措置に合理性があると評価されるのは,弊害除去という同じ立法目的を達成できる,より制限的でない他の選び得る手段が存在せず,あるいは,これを利用できない場合に限られるものと解するべきである。 被告において,このような,より制限的でない他の選び得る手段が存在せず,あるいは,これを利用できなかったことを主張・立証しない限り,在宅投票制度を廃止し,かつ郵便投票に自書を要求した昭和49年改正法は,違憲の措置となることを免れない。 そして,本件については,前記立法目的を達成する手段として,郵便投票制度に自書を要求することは,全く合理性がなく,これを規定する公職選挙法は違憲といわざるを得ない。 (b) 被告は,昭和27年改正法を制定する際,選挙の公正を確保するため,郵便投票制度に制限を加え,原告ら(承継前)のような特定の選挙権者の選挙権行使を犠牲にするという法選択を行ったものである。 そこにいう選挙の公正とは,具体的には,昭和26年の統一地方選挙において在宅投票制度が悪用されたことへの反省から,その悪用を阻止するということである。 昭和26年の統一地方選挙における在宅投票制度の悪用とは,医師が虚偽の診断書を発行して在宅投票制度の有資格者であると偽装すること,在宅投票の代理投票者が本人の意思を無視して投票することであり,その背景としては,買収の蔓延があった。 これに対し,現行の公職選挙法及び公職選挙法施行令は,郵便投票制度の有資格者を,身体障害者手帳等によって公証される一定の重度身体障害者に限定し(公職選挙法49条2項,公職選挙法施行令59条の2),また,代理投票における記載義務違反に対する罰則を規定して,代理投票者が本人の意思を無視して投票することを防止している(公職選挙法237条の2)。 選挙法49条2項,公職選挙法施行令59条の2),また,代理投票における記載義務違反に対する罰則を規定して,代理投票者が本人の意思を無視して投票することを防止している(公職選挙法237条の2)。 したがって,現行公職選挙法を改正し,同法237条の2が郵便による代理投票制度の場合にも適用されることにすれば,医師が虚偽の診断書を発行する余地がなく,代理投票者が本人の意思を無視して投票することもまずないと考えられるから,郵便による代理投票制度を採用したとしても,昭和26年の統一地方選挙における在宅投票制度の悪用は,もはや起こり得ない。 また,昭和26年の統一地方選挙は,在宅投票制度の悪用以上に,買収の蔓延状況があり,在宅投票制度の制度的問題というよりも,民主的選挙制度が未成熟であった戦後の混乱期における一時的現象であった可能性が高い。 さらに,前記改正に加えて,郵便投票の代理投票者の事前届出制度を創設して同人の署名をあらかじめ提出し,郵便による代理投票制度の際にも代理投票者の署名を要求すれば,同一人かどうかの確認が可能となり,悪用の可能性はさらに減少する。代理投票者の資格を本人の近親者に限定する等の資格制限を採用することも考えられる。 これまで郵便による代理投票制度は選挙の公正を害するとの議論がなされてきたが,それは,具体的には,昭和26年の統一地方選挙における在宅投票制度の悪用を繰り返さないということに尽きるのであり,前記のとおり,郵便による代理投票制度を採用しても,その悪用は阻止できる(なお,身体障害者手帳と同様の何らかの公証制度を設けることなどにより不正を防止し,現行公職選挙法上投票することができない多くの人に対しても,郵便による代理投票制度を認めるべきことはいうまでもない。)。 (c) 確かに,投票所における投票に比べて,郵便投票制度が より不正を防止し,現行公職選挙法上投票することができない多くの人に対しても,郵便による代理投票制度を認めるべきことはいうまでもない。)。 (c) 確かに,投票所における投票に比べて,郵便投票制度が,投票の秘密保持,選挙の公正確保の点で劣る面のあることは否めないが,だからといって,郵便投票制度の下でも,投票の秘密保持,選挙の公正の確保が不可能又は困難とまでは認められない。 まず,投票の秘密は,元来,選挙人が自由にその本心に基づいて投票できるようにするために認められた基本原則であるが,選挙権行使を可能にすることの重要性を考えれば,その投票制度の下では,投票の秘密保持が不可能又はこれに近いというような場合は別として,郵便投票制度において想定される程度の投票の秘密保持上の問題を理由として,投票そのものを不可能又は著しく困難にすることは,本末転倒であって許されるべきではない。 また,公職選挙法は,選挙の公正の確保を理由として,郵便投票制度において,選挙人本人の自書を要求しているが,郵便による代理投票制度を認めたとしても,選挙の不正を防止する手段としては,投票に際し,選挙管理委員等の立会人を要求することによりこれを回避することが可能である。 仮に,郵便による代理投票制度を利用するすべての選挙人に選挙管理委員を立ち会わせることが物理的に困難だとしても,その代替要員として,家族はもとより,医師,看護師,保健婦,ソーシャルワーカー,ホームヘルパーなど日常的に選挙人と接している者を立会人にし,選挙人の意思に基づいて投票したことを証明させることにより,不正投票を防止することが可能である。 投票の秘密についても,立会人に守秘義務を課することなどによりこれを保持することが可能である(この点は現行公職選挙法上認められている投票所における代理投票制度の場合と全く変わ することが可能である。 投票の秘密についても,立会人に守秘義務を課することなどによりこれを保持することが可能である(この点は現行公職選挙法上認められている投票所における代理投票制度の場合と全く変わるところはない。)。違反者に対しては罰則を設けることにより,その実効性は十分確保できる。 (d) さらに,公職選挙法は,投票用紙に選挙人本人が自書することのほか,郵便投票証明書交付申請書等に選挙人本人の署名を要求しているが,現行制度上,これらの書面に選挙人本人が自ら記載したか否かを確認する方法はない。 東京都板橋区選挙管理委員会及び同渋谷区選挙管理委員会に対する調査嘱託に対する回答によれば,郵便投票証明書交付申請書,郵便投票の投票用紙及び投票用封筒の請求書並びに投票用紙,投票用封筒を選挙人に送付する際に,選挙管理委員会において選挙人が自ら記載するように注意書をして通知しているので,提出された前記書面に署名があれば,特段の事情がない限り,当該選挙人の記載とみなしているというのが実情である。 以上の実情にかんがみると,仮に,郵便投票を求める選挙人以外の者が名義を冒用して投票用紙を請求し,あるいは実際に投票を行おうとしても,これを未然に防止することはできない。せいぜい,事後的に筆跡を照合して,選挙人本人の署名であるか否かを明らかにすることが可能な程度である。 (e) このように,投票行為に自書を要求することは,選挙の公正の確保という点では極めて実効性が乏しく,原告ら(承継前)のように重度障害を持った選挙人の選挙権を犠牲にしてまで維持すべき必要性は認められない。 また,郵便による代理投票制度を採用したとしても,当該代理人の自書を要求すれば,選任された代理人が真実署名したか否かを事後的に確認することが可能であるから,少なくとも,選挙の公正確保という理由は,郵 また,郵便による代理投票制度を採用したとしても,当該代理人の自書を要求すれば,選任された代理人が真実署名したか否かを事後的に確認することが可能であるから,少なくとも,選挙の公正確保という理由は,郵便による代理投票制度を否定すべき根拠にはなり得ない。 したがって,選挙人自らの記載を要求することが選挙の公正確保のために必要であるというのは,形式的建前論であって,全くの幻想にすぎない。このような形式的な建前のために,原告ら(承継前)の選挙権行使の機会を奪う現行公職選挙法が違憲であることは明白である。 (f) また,以下のとおり,諸外国の中には,自書できない障害者でも選挙権を行使できるような実効的措置を講じている国が現に存在する。しかも,その具体的施策をみると,いずれも多額の予算を要するものではなく,その他の立法的・技術的困難を伴うとも考え難い。 したがって,我が国において,これらの施策に倣って具体的措置を講じることは極めて容易であった① スウェーデン(甲46)自宅における代理人投票の場合,選挙人の手が不自由な場合などに,署名する際や投票用紙を投票用封筒に入れ封を閉じる際,代理人が手を添えて選挙人の補助をすることを認めている。 ② デンマーク(甲45,46)病気・障害等の理由で投票所に行くことができない選挙人に対しては,自宅・病院施設等での投票が可能な「事前投票制度」が存在する。 この制度では,選挙人が障害などのために投票用紙に記載することができない場合には,投票に立ち会う「投票用紙受取人」が代筆などの援助をすることができる。 また,家や施設には,投票回収者2名が投票箱を運んで行って投票をすることが認められている(自宅投票。布告1条)。 さらに,自宅投票の申請者には,自筆の署名が必要であるが,選挙人が自筆で署名できない場合には別の者が代わりに 票回収者2名が投票箱を運んで行って投票をすることが認められている(自宅投票。布告1条)。 さらに,自宅投票の申請者には,自筆の署名が必要であるが,選挙人が自筆で署名できない場合には別の者が代わりに署名することができる(布告1条4項)。選挙人が投票用紙に記入できない場合は,その意思を確認して投票回収者が必要な援助等(代筆等)をすることでき,説明書や外封筒への選挙人の署名についても同様の援助が認められている。 加えて,投票所において投票したい選挙人のためには,行政がストレッチャーを用いてでもその意思の実現に助力している。 ③ イタリア(乙4)目の見えない者,両腕がない者,身体が麻痺している者等の障害者について,代筆投票の制度が設けられている。この制度は,選挙人が同伴者を投票所まで同行し,その同伴者が選挙人に代わって代筆投票を行うというものである。 また,ベッド数が200未満の病院・療養所に入院している選挙人を対象として,巡回投票の制度が設けられている。これは,巡回車が各病院等を巡回して投票用紙を回収し,回収後普通の投票所に戻り,回収した票の数を確認した上でその票を投票箱に入れるというものである。 ④ 英国(甲39,40,乙5)代理投票人による投票の方法により,障害により自分で投票用紙にマークすることができない者も投票権を行使することができる。 ただし,代理投票人の指名に当たっては,選挙人が署名する必要があるため,所定の様式に署名ができなくなるほど障害が進行する前に手続をとる必要はある。 しかし,無期限の代理投票人の指定も認められているので,選挙人は,あらかじめ症状が進行する前に無期限の代理投票人を指定することにより,自己の投票の機会を十分確保することができる。 英国の人民代表権法によると,選挙人は,議会選挙において代理人による投票を行うこ ,あらかじめ症状が進行する前に無期限の代理投票人を指定することにより,自己の投票の機会を十分確保することができる。 英国の人民代表権法によると,選挙人は,議会選挙において代理人による投票を行うことが認められており,かつ,代理人は郵便による代理投票を行うことができる。この後者の手続は「郵便代理投票」と呼ばれており,この場合,選挙人の投票用紙は郵便で代理人に送付される。 ⑤ オーストラリア(甲44)オーストラリアでは,投票所に行くことが困難な障害者が投票することを可能とするため,郵便投票制度が存在する。 郵便投票を行う際,選挙人本人が障害のため自書できない場合は,選挙人本人によって選任された者が,選挙人の指示に従い投票用紙に代筆することができる。代筆者となる者に制限はなく,郵便投票の際に証人を立ち会わせることによって公正さを担保している。 ⑥ カナダカナダでは,選挙当日,投票所に行くことが困難な障害者が投票することを可能とするため,代理人による投票制度,郵便投票制度を規定している。 投票所に行くことも,投票用紙に自書することもできない選挙人は,在宅における代理投票を行うことができる。この場合,指定された選挙係員が,当該選挙人宅を訪問し,選挙人が選定した立会人の前で代理投票を行う。 (g) いずれにせよ,選挙の公正,投票の秘密という立法目的を達成するために在宅投票制度全体を廃するのではなく,より制限的でない他の手段が利用できなかったとの事情について,被告の主張・立証はない。 昭和27年改正法,昭和49年改正法及びその後の立法不作為を通じて,原告ら(承継前)のような身体障害者の投票を不可能にした国会の立法措置は,前記立法目的達成の手段として,その裁量の限度を超え,これをやむを得ないとする合理的理由を欠くものであって,国民主権の原理の表現として 承継前)のような身体障害者の投票を不可能にした国会の立法措置は,前記立法目的達成の手段として,その裁量の限度を超え,これをやむを得ないとする合理的理由を欠くものであって,国民主権の原理の表現としての公務員の選定罷免権,選挙権の保障及び平等原則に背き,憲法15条1項,同条3項,14条1項及び44条ただし書に違反するものである。 エ国際人権規約に基づく立法義務について(ア) B規約採択・批准の経緯と被告の遵守義務昭和23年,世界人権宣言が国連総会で採択され,「すべて人は,人種,皮膚の色,性,言語,宗教,政治上その他の意見,国民的若しくは社会的出身,財産,門地その他の地位又はこれに類するいかなる事由による差別をも受けることなく,この宣言に掲げるすべての権利と自由とを享有することができる。」(2条1項)とされた。 さらに,昭和41年,世界人権宣言に掲げられた理念を法的拘束力のあるものとし,人権保障について実効性をもたせるため,国連において,国家の法的義務の内容を明らかにした「経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約」(A規約)及びB規約が採択された。日本も昭和54年6月21日に両規約を批准し,同年9月21日には国内で発効した。 (イ) B規約は条約であり,締約国を法的にも拘束するから,締約国は,同条約がそれぞれ定める人権を保障するための国内的措置をとる義務を負う。 つまり,B規約25条において,すべての市民は不合理な制限なしに選挙において投票することを保障されていることから,締約国である日本は,選挙権を有する国民の投票行為が不合理に制限されている限り,B規約2条2項に基づき,国内において必要な立法措置その他の措置をとり,その制限を撤廃すべき義務を負っている。 しかし,本件公職選挙法施行令では郵便による代理投票が認められておらず,その結果 限り,B規約2条2項に基づき,国内において必要な立法措置その他の措置をとり,その制限を撤廃すべき義務を負っている。 しかし,本件公職選挙法施行令では郵便による代理投票が認められておらず,その結果,原告ら(承継前)のような重度身体障害者の投票行為が不合理に制限されている。 したがって,B規約が日本において発効した時点で,国会は,公職選挙法を改正して郵便による代理投票を認めるなどして,原告ら(承継前)の投票行為を可能ならしめる措置をとるべき作為義務が発生したというべきである。 (ウ) B規約の解釈指針a ウィーン条約(条約法条約)国際法上,条約を解釈する際に踏まなければならない原則を定めたのが,条約法に関するウィーン条約(条約法条約)であり,昭和44年にウィーンで採択され,日本では昭和56年8月1日に発効した。 ウィーン条約は,B規約の発効後に発効したものであり,原則として遡及効はないが,条約の解釈に関する長年にわたる国際慣習法をまとめたものとして尊重されるべきである。 そして,ウィーン条約は,27条において,「当事国は,条約の不履行を正当化する根拠として自国の国内法を援用することができない。」と規定する。また,ウィーン条約は,31条1項において,「条約は,文脈によりかつその趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味に従い,誠実に解釈するものとする。」と規定する。 b 規約人権委員会の一般的意見・見解B規約は,第4部(28条から45条まで)において,規約人権委員会について規定する。これは,高潔な人格を有し,かつ,人権の分野において能力を認められた規約締約国の国民によって構成される委員会で,締約国から提出された報告書を審査すること,B規約に掲げられている諸権利を侵害されたと主張する個人からの通報を審理することを主な職務としている。 られた規約締約国の国民によって構成される委員会で,締約国から提出された報告書を審査すること,B規約に掲げられている諸権利を侵害されたと主張する個人からの通報を審理することを主な職務としている。 規約人権委員会は,B規約の個々の条項について解釈するガイドラインである「一般的意見」を公刊している。また,国連事務局が受理した通報を検討し,事案によっては,委員会としての最終見解を公表する。この「一般的意見」及び「見解」は,いずれもB規約の有権的解釈というべきである。 (エ) B規約の規定とその解釈a 関連条文B規約25条は,市民の参政権につき,世界人権宣言をさらに発展させて,次のとおり規定する。 「すべての市民は,第2条に規定するいかなる差別もなく,かつ,不合理な制限なしに,次のことを行う権利及び機会を有する。 (a) 直接に,又は自由に選んだ代表者を通じて,政治に参与すること。 (b) 普通かつ平等の選挙権に基づき秘密投票により行われ,選挙人の意思の自由な表明を保障する真正な定期的選挙において,投票し及び選挙されること(c) 一般的な平等条件の下で自国の公務に携わること」また,B規約25条において引用されている同規約2条は,各締約国の義務として,次のとおり規定する。 「1 この規約の各締約国は,その領域内にあり,かつ,その管轄の下にあるすべての個人に対し,人種,皮膚の色,性,言語,宗教,政治的意見その他の意見,国民的若しくは社会的出身,財産,出生又は他の地位等によるいかなる差別もなしにこの規約において認められる権利を尊重し及び確保することを約束する。 2 この規約の締約国は,立法措置その他の措置がまだとられていない場合には,この規約において認められる権利を実現するために必要な立法措置その他の措置をとるため,自国の憲法上の手続及びこの規約の規定 2 この規約の締約国は,立法措置その他の措置がまだとられていない場合には,この規約において認められる権利を実現するために必要な立法措置その他の措置をとるため,自国の憲法上の手続及びこの規約の規定に従って必要な行動をとることを約束する。」b 「すべての市民」B規約25条は,「すべての市民」が「不合理な制限」なしに選挙権を行使する「機会を有する」と規定する。 ここでいう「すべての市民」とは,一般の市民のみならず,老人,学生,労働者,国外での勤務者,病人,身体に障害を有する者,囚人,裁判前の被抑留者,外国に居住している者,ホームレス等を含んだ,「すべての」市民のことであり,障害のある人も「すべての市民」に含まれることは明らかである。 c 「不合理な制限」B規約25条の「不合理な制限」に関連し,一般的意見25の4項は,「市民によるこれらの権利(25条により保障されている諸権利)は,法律により定められかつ客観的で合理的な根拠を有する場合を除き,停止又は排除することができない。」とする。 また,一般的意見25の10項は,「選挙及び直接投票において投票する権利は,法律により定められなければならず,投票権の最低年齢の規定等,合理的な制限にのみ服する。身体障害を理由として投票権を制限し,又は識字能力,教育若しくは財産を要件として課すことは合理的でない。」とする。 すなわち,B規約25条によって保障された投票権を制限することは,客観的で合理的な法律上の根拠が要求されるところ,身体障害を理由として投票権を制限することは,一般的意見25の10項に例示されている「合理的でない」制限に該当するので,そもそも許されるものではない。 d 「機会を有する」B規約25条の「機会を有する」に関し,一般的意見25の11項は,「締約国は,投票権を有するすべての人がこの権利 理的でない」制限に該当するので,そもそも許されるものではない。 d 「機会を有する」B規約25条の「機会を有する」に関し,一般的意見25の11項は,「締約国は,投票権を有するすべての人がこの権利を行使することができるように実効的な措置を講じなければならない。」とする。 さらに,一般的意見25の12項は,「投票権を有する者が自らの権利を効果的に行使することを妨げている識字能力の欠如,言語上の障害,貧困,移動の自由に対する障害等,特定の障害を克服するために,積極的な措置が講じられなければならない。」とし,その例として,「識字能力を欠く投票者が,その選択の基礎となる十分な情報を得ることができるように,写真及び記号等の特別な方法を採用すべきである。」とする。 すなわち,B規約25条の「機会を有する」とは,障害のある人が投票を容易に行うことができず,選挙権の効果的な行使が妨げられている場合において,締約国に対し,投票行為を妨げている事由を排除する等の積極的な措置を講ずることを義務付けているものと解される。 e 「立法措置その他の措置」B規約2条は,締約国に対し,「立法措置その他の措置がまだとられていない場合には,この規約において認められる権利を実現するために必要な立法措置その他の措置をとるため,自国の憲法上の手続及びこの規約の規定に従って必要な行動をとる」ことを義務付けている。 この「立法措置その他の措置」に関連し,一般的意見3の1項は,「委員会は,規約第2条が,同条で示す枠組の範囲内でその領域内における実施方法の選択につき,関係締約国に一般的にゆだねていることに留意する。」としつつ,「委員会の特に認めるところは,その実施が憲法制定又は法律制定-これ自身はしばしばそれのみでは十分でない-にのみ依存するものでない,ということである。」としている ていることに留意する。」としつつ,「委員会の特に認めるところは,その実施が憲法制定又は法律制定-これ自身はしばしばそれのみでは十分でない-にのみ依存するものでない,ということである。」としている。 すなわち,「立法措置その他の措置」とは,B規約25条との関連でいえば,選挙制度に関する法律を制定すれば締約国の義務がそれで尽くされたことにはならず,法律のみに依拠したのでは選挙人が選挙権を十分に行使できないと認められる場合,締約国は,法律を改正して選挙権行使を可能とするための積極的措置を講ずべき義務を負うことになる。 これに反して,B規約は締約国に法律改正の義務まで課すものではないとの解釈をとることは,ウィーン条約31条1項の「条約は,文脈によりかつその趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味に従い,誠実に解釈するものとする。」という原則に違反するというべきである。 fB規約の規定とその解釈に関するまとめ以上のとおり,B規約は,障害のある人についても健常者と差別することなく選挙権を保障しており,その制限は法律の規定に基づいた客観的かつ合理的なものでなければならないが,障害を理由とする選挙権の制限は,そもそも合理的な差別に当たらない。 また,障害のある人に対し,単に選挙権が付与されているだけで,その効果的な行使が妨げられている場合は,B規約にいう投票の機会が保障されているとはいえない。このような場合に,B規約は,締約国に対し,障害のある人の選挙権行使を容易にするよう積極的措置をとることを義務付けており,締約国は,既に特定の選挙制度を採用している場合でも,法律改正を含めた積極的措置を重ねてとる義務を免れない。 被告が主張するように,選挙制度の内容は専ら当該国の裁量にゆだねられており,また,ひとたび選挙制度が定められれば,その内容にかか いる場合でも,法律改正を含めた積極的措置を重ねてとる義務を免れない。 被告が主張するように,選挙制度の内容は専ら当該国の裁量にゆだねられており,また,ひとたび選挙制度が定められれば,その内容にかかわらず,締約国は重ねて措置義務を負わないというのであれば,B規約の各条項が有名無実化することは明らかである。 そもそも,国内法によって制定された選挙制度の存在を理由として締約国が自らの積極的措置義務を否定することは,ウィーン条約27条の「当事国は,条約の不履行を正当化する根拠として自国の国内法を援用することができない。」との規定に抵触する疑いすらある。 (オ) 規約人権委員会の見解a 手続に関する概説前記のとおり,規約人権委員会は,規約に規定されている権利を侵害されたと主張する個人から提出された申立て通報を審理し,これに対する見解を送付することを主要な任務としている。 通報を受けた規約人権委員会は,審議のため受理することができるかという許容性の審査をまず行い,通報を許容と決定した場合は,委員会において検討・審議の上,最終見解を表明し,通報者及び関係締約国に通知する。 このような規約人権委員会の決定や見解は,それ自体が法的拘束力を有するものではないが,多くの場合,関係国の法律改正や行政慣行の変更を引き出してきた。 通報に基づく規約人権委員会の決定又は見解の中で,本件との関連性を有すると思われる事案は,次のとおりである。 b ShirinAumeeruddy-Cziffraetal.対モーリシャスモーリシャス国民である未婚及び既婚の女性である申立人らは,改正移民法および改正退去強制法という2つの法律が,モーリシャス人男性の外国人の妻ではなく,モーリシャス人女性の外国人の夫のみに居住許可の申請を義務付け,外国人の夫のみを国外退去の可能性にさらし ,改正移民法および改正退去強制法という2つの法律が,モーリシャス人男性の外国人の妻ではなく,モーリシャス人女性の外国人の夫のみに居住許可の申請を義務付け,外国人の夫のみを国外退去の可能性にさらしていると申し立てたが,その中で,女性のみが,B規約25条に基づき保障される政治的権利を行使するか,又は外国人の夫と国外に住むかの選択をする義務を負わされていると主張した。 この事案について,規約人権委員会は,B規約25条違反の主張を結論的には認めなかったが,「さまざまな場面で法律により設定されている制限が,市民の政治的権利を行使することを妨げ得ると考える。つまり,一定の状況では,25条の目的又は差別を禁止する規約の規定に反して,例えば,もしこの種の機会に対する干渉が性平等の原則を破ることになれば,彼女らから機会を奪うことはあり得る。」との見解を示した。 さらに,規約人権委員会は,この事案がB規約2条1項,3条,26条,17条1項及び23条1項の規定に違反しているとの見解を示した上,「当事国は国際規約に基づく義務を遂行するため改正移民法及び改正退去強制法の規定を修正すべきであり,また被害者に対し,認められた違反の救済措置を直ちに提供すべきである。」とした。 c 検討前記事案における規約人権委員会の見解は,法律が市民の政治的権利を定めている場合でも,状況によっては,B規約25条にいう「機会」を奪うことを認めている。すなわち,「現実の機会」を持ち得るよう国家がとる積極的措置が,単に市民に対し権利を付与するのみで,政治的権利の行使の「現実の機会」を保障しないときには,B規約25条で明白に保障している政治的権利を行使する「機会」を侵害することになるとの見解を示したものと解される。 また,規約人権委員会は,締約国の国内法がB規約の諸規定に違反していると認め きには,B規約25条で明白に保障している政治的権利を行使する「機会」を侵害することになるとの見解を示したものと解される。 また,規約人権委員会は,締約国の国内法がB規約の諸規定に違反していると認められる場合は,法律の規定の修正,すなわち法改正をすべきであるとの見解を示している。このように,B規約の諸規定の遵守に関し,規約人権委員会は,専ら締約国の裁量にゆだねていないことが注目される。 なお,前記事案のほか,規約人権委員会は,RosarioPietraroiaZapala 対ウルグアイ事件で,政治的権利の制限の可否について,「制限が権利の本質を損ない,権利の実効性を奪うものであってはならず,正当な目的をもって課せられ,かつ,用いられる手段が達成しようとする目的に比例することを要する。」と比例の原則の適用を認めている。 (カ) 被告の主張に対する反論a 選挙制度に対する締約国の裁量との関係被告の主張するとおり,B規約は,ある特定の選挙制度を実現することを各締約国に義務付けているものでないことはいうまでもない。いかなる選挙制度を採用するかについては,各締約国において当該締約国の実情等を勘案して合理的な裁量にゆだねられていることは当然のことである。 しかし,前記のように,B規約2条の「立法措置その他の措置」に関連し,一般的意見3の1項は「委員会の特に認めるところは,その実施が憲法制定又は法律制定-これ自身はしばしばそれのみでは十分でない-にのみ依存するものでない,ということである」としている。 すなわち,「立法措置その他の措置」とは,B規約25条との関連でいえば,選挙制度に関する法律を制定すれば締約国の義務がそれで尽くされたことにはならず,法律のみに依拠したのでは選挙人が選挙権を十分に行使できないと認められる場合,締約国は,法律を改正して の関連でいえば,選挙制度に関する法律を制定すれば締約国の義務がそれで尽くされたことにはならず,法律のみに依拠したのでは選挙人が選挙権を十分に行使できないと認められる場合,締約国は,法律を改正して選挙権行使を可能にするための積極的措置を講ずべき義務を負うことになる(なお,ここでいう積極的措置とは,選挙権行使を可能にする措置であればよく,B規約によっても,具体的にいかなる制度を採用するかは締約国の裁量にゆだねられていることは前記のとおりである。)。 これに反して,B規約は締約国に法律改正の義務まで課すものではないとの解釈をとることは,ウィーン条約31条1項の「条約は,文脈によりかつその趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味に従い,誠実に解釈するものとする」という原則に違反するというべきである。選挙制度の内容は専ら当該国の裁量にゆだねられており,また,ひとたび選挙制度が定められれば,その内容如何にかかわらず,締約国は重ねて措置義務を負わないというのであれば,B規約の各条項が有名無実化することは明らかである。 そもそも,国内法によって制定された選挙制度の存在を理由として締約国が自らの積極的措置義務を否定することは,ウィーン条約27条の「当事国は,条約の不履行を正当化する根拠として自国の国内法を援用することができない」との規定に抵触するというべきである。 なお,B規約25条の「機会を有する」に関し,一般的意見25の11項は,「締約国は,投票権を有するすべての人がこの権利を行使することができるように実効的な措置を講じなければならない」とする。 また,一般的意見25の12項は,「投票権を有する者が自らの権利を効果的に行使することを妨げている識字能力の欠如,言語上の障害,貧困,移動の自由に対する障害等,特定の障害を克服するために,積極的な措置 た,一般的意見25の12項は,「投票権を有する者が自らの権利を効果的に行使することを妨げている識字能力の欠如,言語上の障害,貧困,移動の自由に対する障害等,特定の障害を克服するために,積極的な措置が講じられなければならない」とし,その例として,「識字能力を欠く投票者が,その選択の基礎となる十分な情報を得ることができるように,写真及び記号等の特別な方法を採用すべきである」とする。 すなわち,B規約25条の「機会を有する」とは,障害のある人が投票を容易に行うことができず,選挙権の効果的な行使が妨げられている場合において,締約国に対し,投票行為を妨げている事由を排除する等の積極的な措置を講ずることを義務付けているものと解される。 b 現行投票制度と積極的措置義務との関係被告は,B規約25条に規定されている権利を実現するため,日本では,成年者による普通選挙を保障する憲法の下で,公職選挙法及び公職選挙法施行令によって選挙制度が定められていると主張する。 すなわち,被告は,現行投票制度において,投票所投票主義(公職選挙法44条)を採用しつつ,その例外として,身体に障害のある選挙人を対象とした代理投票(48条1項)及び郵便投票(49条2項)という特別な措置を設けていると主張している。 さらに,被告は,現行投票制度下において原告ら(承継前)が選挙権を行使することは,原告ら(承継前)の主張する病状を前提としても,事実上困難である場合があっても不可能であるとまではいえないから,国会において,B規約に基づき,公職選挙法を改正して郵便による代理投票を認める等の措置をとるべき義務を有するとは解されないと主張する。 しかし,B規約25条の「不合理な制限」に関連し,一般的意見25の4項は,「市民によるこれらの権利(25条により保障されている諸権利)は,法律により定 るべき義務を有するとは解されないと主張する。 しかし,B規約25条の「不合理な制限」に関連し,一般的意見25の4項は,「市民によるこれらの権利(25条により保障されている諸権利)は,法律により定められかつ客観的で合理的な根拠を有する場合を除き,停止又は排除することができない」とする。 また,一般的意見25の10項は,「選挙及び直接投票において投票する権利は,法律により定められなければならず,投票権の最低年齢の規定等,合理的な制限にのみ服する。身体障害を理由として投票権を制限し,又は識字能力,教育若しくは財産を要件として課すことは合理的でない」とする。 すなわち,B規約25条によって保障された投票権を制限することは,客観的で合理的な法律上の根拠が要求されるところ,身体障害を理由として投票権を制限することは,一般的意見25の10項に例示されている「合理的でない」制限に該当するので,そもそも許されるものではない。 被告は,現行投票制度下において,選挙人の投票行為を容易ならしめる各種の措置が講じられているかのように主張するが,これらの措置をもってしても,原告ら(承継前)のような重度身体障害者は,生命の危険を冒さない限りは投票行為を行うことができない。これは,正しく身体障害を理由とする投票権の制限が課されている状態にほかならず,B規約にいう「不合理な制限」が厳然として存在している。 オ立法課題としての明確性,合理的是正期間の経過について(ア) 国会の審議経過について原告ら(承継前)のような状況にある障害者の投票権が侵害され,これに対する方策として,巡回投票制度又は郵便による代理投票制度を創設しなければならないという立法課題は,別紙「国会審議経過1」記載の国会審議の過程等の事実に照らして,少なくとも昭和49年改正法の改正論議の段階で国会は十分に 回投票制度又は郵便による代理投票制度を創設しなければならないという立法課題は,別紙「国会審議経過1」記載の国会審議の過程等の事実に照らして,少なくとも昭和49年改正法の改正論議の段階で国会は十分に認識していたものといわざるを得ず,また,その後も繰り返して論議されていながら現在に至るまで何らの方策をとっていないことも明白である。 (イ) 障害者施策の発展について前記の国会での審議経過に加え,障害者施策が国内においても世界的にも飛躍的な発展を遂げており,国会は,公職選挙法が原告ら(承継前)のような重度身体障害者の選挙権行使を保障するに十分であるか否かを吟味検討すべき機会が十分に与えられていた。 a 障害者の権利宣言の採択(昭和50年)(a) 国連は,昭和50年の総会において,「障害者の権利宣言」を採択した。これは,昭和46年の「知的障害者の権利宣言」を基本にし,これを知的障害者のみならず身体障害者,精神障害者を含むすべての障害のある人に関する権利宣言としたものである。 障害者の権利宣言3項は,「障害者は,その人間としての尊厳が尊重される生まれながらの権利を有している。障害者は,その障害の原因,特質及び程度にかかわらず,同年齢の市民と同等の基本的権利を有する。」と規定し,さらに同4項は,「障害者は,他の人々と同等の市民権及び政治的権利を有する。」と規定する。 (b) 国連は,昭和20年に設立された世界最大の国際機関である。 そして,日本は,障害者の権利宣言の共同提案国として,①障害のある人の権利の重要性について世界的関心を際立たせる役割を果たし,②国連が世界の諸地域において,障害のある人を教育し,リハビリテーションを行うことに助力し,雇用を提供するのに必要な技術的援助を提供し得るし,提供すべきであることが明確になると主張し,同宣言の採択を推進 が世界の諸地域において,障害のある人を教育し,リハビリテーションを行うことに助力し,雇用を提供するのに必要な技術的援助を提供し得るし,提供すべきであることが明確になると主張し,同宣言の採択を推進した。 b 「障害者に関する世界行動計画」の採択(昭和57年)(a) 国連は,昭和56年を国際障害者年と位置づけ,国際社会が単に同情や慈善心だけからではなく,社会正義の実現の観点から障害のある人の福祉の向上に尽くす決意を表明した。 さらに,国連は,その翌年である昭和57年に「障害者に関する世界行動計画」を採択するとともに,昭和58年から平成4年までを「国連障害者の10年」とし,「障害者に関する世界行動計画」をガイドラインとして「完全参加と平等」という目標の下に障害者問題に積極的に取り組むことを加盟国に要請した。 (b) 「障害者に関する世界行動計画」は201項目から構成されており,「機会均等化」については,障害のある人の完全参加を阻む障壁の除去を前提とした上で,法制,物理的環境等の幅広い内容に言及している。さらに,加盟各国政府は,勧告されている施策の実施について究極的責任を負うとともに,世界行動計画の目標達成のため国家レベルの長期計画の策定を求められた。 日本では,「世界行動計画」を実施するため,「障害者対策に関する長期計画」が策定され,これに沿って具体的施策が推進され,国,地方公共団体による広報啓発活動も活発に行われた結果,ノーマライゼーションの理念が国民の間にも広く認識されるようになった。 (c) 障害者基本法の制定(平成5年)前記の障害者施策の発展という国際的潮流を受けて,日本も,平成5年,従来の「心身障害者対策基本法」を全面改正し,完全参加と平等の理念を基礎とした「障害者基本法」を制定した。 障害者基本法のうち本件に関連がある条項は次のと という国際的潮流を受けて,日本も,平成5年,従来の「心身障害者対策基本法」を全面改正し,完全参加と平等の理念を基礎とした「障害者基本法」を制定した。 障害者基本法のうち本件に関連がある条項は次のとおりである。 ① 1条この法律は,障害者のための施策に関し,基本的理念を定め,及び国,地方公共団体等の責務を明らかにするとともに,(中略)障害者の自立と社会,経済,文化その他あらゆる分野の活動への参加を促進することを目的とする。 ② 3条2項すべて障害者は,社会を構成する一員として社会,経済,文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会を与えられるものとする。 ③ 8条政府は,この法律の目的を達成するため,必要な法制上及び財政上の措置を講じなければならない。 (ウ) 日本ALS協会の活動についてa 日本ALS協会は,平成8年,在宅のALS患者が参政権を行使できない現実を社会に訴える活動の一環としてJ議員にアプローチし,これを受けたJ議員が同年5月31日の衆議院決算委員会第3分科会において,郵便による代理投票制度及び選挙管理機関が自宅を訪問する巡回投票制度を提案して今後の検討を政府に求めた。 b 日本ALS協会は,平成8年7月17日,倉田寛之自治大臣(以下「倉田自治大臣」という。)に対して,ALS患者の投票を可能にするよう陳情書を提出した。 c 第一東京弁護士会は,日本ALS協会からの人権侵害救済の申立てを受けて,平成10年7月6日,Z自治大臣に対し,現行選挙制度の改善を要望する旨の要望書を提出した。 (エ)  以上の国会での審議その他の経過からすれば,衆参両議院において,郵便投票制度について「今後さらに拡充の方向で検討する」旨の附帯決議がなされた昭和49年5月ころには,原告ら(承継前)のような重度身体障害者の選挙権行使を可能にするため すれば,衆参両議院において,郵便投票制度について「今後さらに拡充の方向で検討する」旨の附帯決議がなされた昭和49年5月ころには,原告ら(承継前)のような重度身体障害者の選挙権行使を可能にするため,郵便による代理投票制度又は巡回投票制度(選挙管理委員が選挙人の現在する場所に赴き,そこにおいて代理投票を認める制度)を導入しなければならないことは,立法機関である国会において立法課題として明確に認識されるに至った。 そして,どんなに遅くともB規約が日本において発効した昭和54年9月ころには,原告ら(承継前)のような重度身体障害者の選挙権行使に関する不合理な制限を撤廃し,前記制度を導入すべき作為義務が発生し,この時点でこのような立法をするべき作為義務は憲法上の義務に転化し,立法の不作為は違憲・違法性を帯びるものとなったということができる。 前記制度が選挙制度にかかわるものであって,政策上・技術上克服すべき問題点が多分にあったとしても,遅くとも前記附帯決議,B規約の発効から20年以上も経過した平成10年7月12日に行われた参議院議員選挙の実施前には,前記立法をすべき合理的期間を経過したといわざるを得ないから,当該立法不作為が国家賠償法上も違法となったと認められる。 カ国家賠償法上の違法性について国家賠償法1条1項の違法性を論ずるに当たっては,結果の違憲・違法のみならず,当該公務執行が公務員に対して要求される行為規範に違反したか否かを含め,当該公務執行行為自体の違法性を検討すべきである(職務行為基準説)。 行政処分取消訴訟における違法性は,行政処分の法的効果発生の前提である法的要件充足性の有無を問題とするのに対し,国家賠償請求訴訟における違法性は,損害填補の責任を誰に負わせるのが公平かという見地から,行政処分の法的要件以外の諸種の要素も対象として 果発生の前提である法的要件充足性の有無を問題とするのに対し,国家賠償請求訴訟における違法性は,損害填補の責任を誰に負わせるのが公平かという見地から,行政処分の法的要件以外の諸種の要素も対象として総合判断されるべきものである。すなわち,国家賠償法1条1項にいう違法は,行政処分の効力発生要件に関する違法性とはその性質を異にするものであり,究極的には他人に損害を加えることが法の許容するところであるかどうかという見地から判断されなければならない。 したがって,国家賠償法1条1項の違法性の有無は,行政処分の法的要件充足性の有無(取消訴訟における違法性)のみならず,被侵害利益の種類,性質,侵害行為の態様及びその原因,行政処分の発動に対する被害者側の関与の有無,程度及び損害の程度等の諸般の事情を総合的に判断して決すべきである。 キ立法行為に対する国家賠償請求について(ア) 民主主義,国民主権を基本原理とする憲法の下では,民主政の過程の根幹に関わる人権侵害が現に個別の国民又は個人に生じている場合に,その是正を図ることが国会議員の憲法上の義務であることは自明の理であり,同時に,それは裁判所の憲法上の権限と義務でもあって,その人権侵害が作為による違憲立法によって生じたか,立法不作為によって生じたかによって変わるものではない。 むしろ,作為による違憲立法の是正については,当該法令のその事案への適用を拒否することによって簡明に果たされるのに対し,違憲の立法不作為については,国家賠償法による賠償を認めることが数少ない救済方法の1つになるのであって,その意味では,むしろ,立法不作為にこそ違法と認める余地を広げる必要がある。 このように,立法不作為を理由とする国家賠償は,憲法上の国会と裁判所との役割分担,憲法保障という裁判所固有の権限と義務に関する事柄であり,国会議 ,立法不作為にこそ違法と認める余地を広げる必要がある。 このように,立法不作為を理由とする国家賠償は,憲法上の国会と裁判所との役割分担,憲法保障という裁判所固有の権限と義務に関する事柄であり,国会議員の政治的責任に解消できない領域において初めて顕在化する問題というべきである。 つまり,これが国家賠償法上違法となるのは,単に立法行為(不作為)の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行う(行わない)というような場合に限られず,民主政の過程が損なわれる人権侵害の重大性とその救済の高度の必要性が認められる場合であって(その場合に,憲法上の立法義務が生じる。),かつ,国会が立法の必要性を十分認識し,立法が可能であったにもかかわらず,一定の合理的期間を経過してもなおこれを放置したなどの状況的要件,換言すれば,立法課題としての明確性,合理的是正期間の経過とがある場合には,立法不作為による国家賠償を認めることができると解すべきである。 したがって,国会議員の立法行為であっても,これが民主政の過程を損なうような立法行為については,法的責任の対象となり,国家賠償法上の違法行為になり得る。 (イ) 本件については,昭和27年改正法による在宅投票制度の廃止後の立法不作為は,投票所等に行くことができず,かつ自書できない原告ら(承継前)の投票の機会を奪っているものであり,このような国会の行為は,国家賠償法上も違法である。 ク故意・過失について国会の立法行為のような合議制機関の行為について国家賠償法1条1項の適用がある場合,同条項にいう「公務員の故意,過失」は,必ずしも,国会を構成する個々の国会議員の故意,過失を問題にする必要はなく,国会議員の統一的意思活動たる国会自体の故意,過失を論ずれば足りると解すべきである。 国会は,国権の 公務員の故意,過失」は,必ずしも,国会を構成する個々の国会議員の故意,過失を問題にする必要はなく,国会議員の統一的意思活動たる国会自体の故意,過失を論ずれば足りると解すべきである。 国会は,国権の最高機関として立法を行い,そのため,両議院に国政調査権が与えられ(憲法62条),その組織,機構等において他の立法機関に類をみない程度に完備していることは公知の事実であるから,立法をするに当たっては,違憲という重大な結果を生じないよう慎重に審議,検討すべき高度の注意義務を負うところ,現在に至るまでの公職選挙法改正の審議経過は前記のとおりであるから,このような違憲の法律改正を行ったこと及びその後違憲状態を放置してきたことは,その公権力行使に当たり前記注意義務に違背する過失があったものと解するのが相当である。 また,少なくとも前記附帯決議から立法義務を立法課題として認識することは容易であったといえるから,過失の存在は明白である。 以上によれば,原告らは,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,被告が公職選挙法を改正すべき義務を違法に怠ったことによる精神的損害の賠償を求める権利があるというべきである。 (被告の主張)ア公職選挙法改正の経緯(ア) 投票所投票主義国会は,広い立法裁量の下,「日本国憲法の精神に則り,衆議院議員,参議院議員並びに地方公共団体の議会の議員及び長を公選する選挙制度を確立し,その選挙が選挙人の自由に表明せる意思によって公明且つ適正に行われることを確保し,もって民主政治の健全な発達を期することを目的と」して公職選挙法を定め,投票区は市町村の区域によること(公職選挙法17条1項),市町村の選挙管理委員会は,必要があると認めるときは,市町村の区域を分けて数投票区を設けることができること(同条2項),投票所は,市役所,町村役場又は市町 村の区域によること(公職選挙法17条1項),市町村の選挙管理委員会は,必要があると認めるときは,市町村の区域を分けて数投票区を設けることができること(同条2項),投票所は,市役所,町村役場又は市町村の選挙管理委員会の指定した場所に設けること(同法39条)を規定し,いわゆる投票所投票主義を採用した(同法44条)。 (イ) 在宅投票制度廃止の経緯旧法は在宅投票制度を採用していたが,在宅投票制度は,昭和26年の統一地方選挙において,同居の親族でない者が投票用紙の請求等を行ったり,本人が自書ができるにもかかわらず,他人が投票の記載をしたりするなどして悪用され,不正事例が多発したことから,これを背景として,昭和27年改正法により廃止された。 (ウ) 不在者投票制度a 公職選挙法が採用した投票所投票主義による場合,選挙人の中には,その個人的事情により,選挙の当日投票所に行くことが困難又は極めて困難な者が存在することが予想されたことから,昭和49年改正法は,投票をより容易にするために,立法裁量によるいわば救済措置として,投票所投票主義に例外を設け,不在者投票制度及び郵便投票制度(公職選挙法49条)が設けられた。 b 前記改正が行われる際の国会における審議過程をみると,昭和26年の統一地方選挙において在宅投票制度を悪用した不正事例が多発したことを背景として,昭和27改正法により,いわゆる在宅投票制度が廃止されたという経緯にかんがみ,公職選挙法49条2項の郵便投票制度の導入に当たって,選挙の公正をいかに確保するかについて,徹底した議論が尽くされた。 すなわち,昭和49年5月8日衆議院公職選挙法改正に関する調査特別委員会及び同年4月8日参議院公職選挙法改正に関する特別委員会において,前記法案の提出者である政府により,公職選挙法49条2項の郵便投票制度を導入 和49年5月8日衆議院公職選挙法改正に関する調査特別委員会及び同年4月8日参議院公職選挙法改正に関する特別委員会において,前記法案の提出者である政府により,公職選挙法49条2項の郵便投票制度を導入するに当たり,その手続を厳格にすることが明らかにされており,投票用紙の代理請求を認めないこと,あるいは,自書による投票を前提として上記制度を導入することが明らかにされているのであって,これらの政府答弁においては,一般の不在者投票の代理投票の場合には,不在者投票管理者と立会人2名の下で1人が代理記載を行い,1人がこれを監視するという厳重な管理体制を採用している一方,郵便による代理投票を行う場合には,家庭内等で投票の記載が行われることから,選挙の公正を確保することが困難であることが言及されている。 イ諸外国の投票制度(ア) 諸外国は,それぞれ独自の投票制度を有しており,選挙の当日投票所に行くことが困難又は極めて困難である者の選挙権行使を容易にする制度についても,一義的なものは存在しないということができる。 これは,投票制度については,論理的に要請される一定不変の形態が存在するわけではなく,それぞれの国の実情に即して具体的に決定されるべきものであり,立法府の広い裁量にゆだねらていることを示すものである。 (イ) 他方,諸外国において,選挙人が投票をするためには,おおむね自書を要するか,あるいは投票所に行くことを要することとされている。 すなわち,イタリア及びシンガポールにおいては,投票所に行くことを要するとされ,スウェーデンにおいては,自書を要するとされ,英国,フランス,韓国,アメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコ市,カナダ及びオランダにおいては,自書又は投票所に行くことを要するとされており,その結果,投票所に行くことができず,かつ,自書 英国,フランス,韓国,アメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコ市,カナダ及びオランダにおいては,自書又は投票所に行くことを要するとされており,その結果,投票所に行くことができず,かつ,自書ができない者は投票することができないのが通例であるということができる(なお,ブラジルにおいては,投票所における電子投票制度が採用されており,選挙人が投票所に行くことを要するが,自書ができない者は通常電子投票制度を利用することもできないと考えられる。)。 諸外国において,このような制度が採用されているのは,選挙人本人の意思が公正に国政に反映されるべきであるという選挙の公正の観点から,選挙人が投票所に行って投票を行い,それができない場合には,選挙人の自書を要するとすることが,選挙人本人の意思を確認するための手段として極めて有効かつ合理的であるからと考えられる。 前記のとおり,諸外国は,それぞれ独自の投票制度を有しており,選挙の当日投票所に行くことが困難又は極めて困難である者の選挙権行使を容易にする制度についても,一義的なものは存在しないものの,選挙の公正を確保する観点から,最低限の条件を求めている点においては,諸外国に共通しているといい得る。 (ウ) ところで,代理人による投票において,代理人が選挙人本人の指示どおりに投票するか否かについては,「代理投票人が投票権者の意思に従って投票したかどうかを担保する手段はない。投票権者にとっては,代理投票人の誠実さに頼るほかはない。」(英国),「選挙人と同代理人との信頼関係以外,代理人投票の公正性を担保する手段はない」(フランス)とされており,当該制度を悪用した不正事例の防止が極めて困難であることが諸外国における共通の認識とされていることが示されている。 (エ) なお,巡回投票制度とは多義的であって,巡回投票制 (フランス)とされており,当該制度を悪用した不正事例の防止が極めて困難であることが諸外国における共通の認識とされていることが示されている。 (エ) なお,巡回投票制度とは多義的であって,巡回投票制度と呼ばれる制度が存在する国(イタリア,韓国,オーストラリア)における同制度の実質は,投票所以外に投票所を設置し,投票を行わせるといういわゆるサテライト型の不在者投票制度のことであったり,病院等の施設における不在者投票制度と類似するものである。 本件において問題となるのは,選挙管理者等が選挙人の自宅を巡回するという意味における巡回投票制度であるが,これが実施されているのは,カナダ及びデンマーク(事前投票制度)のみである。 また,選挙人が自宅において投票することが可能な電子投票制度が実施されている国は現在までのところ存在しない。 ウ公職選挙法の違憲性について(ア) 選挙制度に関する立法裁量について選挙制度に関する立法行為(不作為を含む。)について,憲法47条は,「選挙区,投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は,法律でこれを定める。」と規定し,選挙の具体的実施方法等については,その定立を法律に委任している。 代表民主制の下における選挙制度は,選挙された代表者を通じて,国民の利害や意見が公正かつ効果的に国政の運営に反映されることを目標とし,他方,政治における安定の要請をも考慮しながら,それぞれの国において,その国の実情に即して具体的に決定されるべきものであり,そこに論理的に要請される一定不変の形態が存在するわけのものではない。 選挙の実施方法の問題は,技術的に複雑な要素が微妙に関連する選挙について,その円滑な運営を確保する上での要請と,一方において,選挙の自由・公正を害してはならないという要請等とを比較衡量するなどして,価値選択の上政策 問題は,技術的に複雑な要素が微妙に関連する選挙について,その円滑な運営を確保する上での要請と,一方において,選挙の自由・公正を害してはならないという要請等とを比較衡量するなどして,価値選択の上政策決定すべき問題であり,何が便宜であり,何が適切であるかに関する裁量判断に基づかざるを得ないから,正しく政策決定を行うことをその本来の使命とする立法府である国会において決定するのが最も適切である。 そして,立法作業においては,このような立法を基礎づける事実状態を調査した上,いかなる実施方法が最も現実的に適切・妥当な方法であるかを探求して立法されるのである。 憲法47条は,このような点を考慮して,投票の方法その他選挙に関する事項の具体的決定については,その性質上,技術的・政策的考慮を要する等の理由から,立法府である国会の広い裁量にゆだねているのである。 (イ) 合憲性判定基準について憲法47条は,前記のとおり,投票の方法その他選挙に関する事項の具体的決定については,立法府である国会の広い裁量にゆだねているのである。 そうすると,選挙方法等に関する立法の合憲性を審査する基準としては,その制限が明らかに合理性を欠き,立法府がその裁量権の範囲を逸脱したと認められる場合に限り,これを違憲とするといういわゆる「合理性の基準」によるべきであって,裁判所は,違憲立法審査権を行使するに当たっては,国会の技術的,政策的考慮に基づく裁量的判断を尊重し,それが著しく不合理な場合に限り,これに干渉すべきものと解される。 (ウ) 公職選挙法49条2項についてa 公職選挙法49条2項は,郵便投票制度を定め,これに自書を要求するが,郵便投票制度は,あくまでも便宜的,例外的な特別措置を定めたものにすぎず,このような便宜的,例外的な特別措置によって投票できない者は,郵便投票制度以外 は,郵便投票制度を定め,これに自書を要求するが,郵便投票制度は,あくまでも便宜的,例外的な特別措置を定めたものにすぎず,このような便宜的,例外的な特別措置によって投票できない者は,郵便投票制度以外の方法によって投票することとなり,一般の選挙権を有する者と同様に取り扱われるにすぎない。 すなわち,公職選挙法49条2項は,選挙権行使の方法を例外的に拡大したものであり,選挙権行使を何ら制約するものではないし,選挙権の内容に何らの消長を来すものでもないのであって,原告ら(承継前)が,同条項によって,何らかの法律上の制約を受けたとはいえない。 したがって,このような救済措置によって,選挙権行使が容易にならなかったからといって,憲法違反を論じる余地はないし,その点をおくとしても,選挙の当日投票所に行くことが困難又は極めて困難な者の選挙権行使の方法を具体的にどのような制度にするかについては,国会が裁量権を濫用・逸脱するような容易に想定し難い特段の事情のない限り,憲法違反を問われる余地はない。 bALS患者その他の障害者等について,その選挙権行使を容易にする制度を設けるかどうか,また,設けるとして具体的にどのような制度とするかは,まさに憲法47条の問題であって,国会に広い裁量が認められている。 そして,法律で定める投票の方法は,すべての選挙人において,可能な限り容易に投票できるものであることが望ましいが,ALS患者その他の障害者等の選挙権行使を容易にする制度を考えるにしても,これを郵便投票の対象等を拡大する方法によるか,あるいは巡回投票又は代理投票のいずれによるか等といった投票方法の選択が存在する。しかも,いずれの方法をとる場合においても,選挙の公正を確保し,憲法15条4項で保障された投票の秘密を保護する必要性があるとともに,選挙の性質上,一定の時間 るか等といった投票方法の選択が存在する。しかも,いずれの方法をとる場合においても,選挙の公正を確保し,憲法15条4項で保障された投票の秘密を保護する必要性があるとともに,選挙の性質上,一定の時間的,予算的,人的・物的設備による制約の中で,管理執行面での対応が可能なものでなければならない。 例えば,巡回投票については,選挙事務が複雑かつ厳正な手続であることに照らし,これに従事する者が選挙事務に習熟している必要があり,かつ公正中立な立場になければならないところ,短い選挙期間内に人員に限りのある選挙管理委員会の職員がすべての対象者を公平に巡回することが可能であるか,多数の対象者が存在する地域や交通至難の地域における実施が可能であるか,交通状況等によって一部の対象者について巡回できなかった場合の取扱いをどうするか等といった立法政策・立法技術上の問題点が多数存在する。 c 諸外国における投票制度をみても,選挙の当日投票所に行くことが困難又は極めて困難な者の選挙権行使を容易にする制度においては,多くの国において選挙人本人の自書が要求されており,自書ができない重篤なALS患者は投票ができない結果となっているのが通例であり,諸外国の制度との対比においても,公職選挙法49条2項が,広範な立法裁量を逸脱したものとはいえないことは明らかである。 このように,ALS患者その他の障害者等の選挙権行使について,憲法上,一義的に一定の制度を設けなければならないことが明らかであるとは到底いえない。 d そうすると,昭和27年改正法により在宅投票制度が廃止されたこと及びその後にALS患者その他の障害者等の選挙権行使を容易にする制度が設けられなかったことは,いずれも,憲法の一義的文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき,容易に想定し難いような例 LS患者その他の障害者等の選挙権行使を容易にする制度が設けられなかったことは,いずれも,憲法の一義的文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき,容易に想定し難いような例外的な場合には当たらないというべきである。 (エ) B規約についてaB規約2条2項及び25条は,国会に対し,公職選挙法49条2項が定める郵便投票について,これを自書による必要がないものとする内容に改正すべきことを義務付けるものではないから,この点に関する原告らの主張は失当である。 bB規約2条の規定等からすると,B規約において認められる権利の実現については,一般的に,各締約国の立法措置その他の措置によって行われることを想定されており,そのために各締約国が具体的にいかなる措置をとるかについては,各締約国の合理的な裁量にゆだねられているものと解される。また,B規約2条2項は,各締約国に対し,当該措置がまだとられていない場合に,当該措置を講ずることを義務付けているにすぎない。 cB規約25条(b)は,普通かつ平等の選挙権に基づき秘密選挙によって行われ,選挙人の意思の自由な表明を保障する真正な定期的選挙において,投票する権利等について規定している。ただし,B規約の締約国が25条に規定されている権利を実現するためにとるべき具体的な選挙制度については,B規約においては何ら規定されていないことから,各締約国の合理的な裁量にゆだねられており,結局,B規約は,特定の選挙制度を採用することを義務付けるものではないと解される。 d 日本においては,B規約25条(b)に規定されている権利を実現するため,成年者による普通選挙を保障する憲法の下で公職選挙法及び公職選挙法施行令によって選挙制度が定められている。この選挙制度においては,投票所投票主義(公職選挙法44条) 定されている権利を実現するため,成年者による普通選挙を保障する憲法の下で公職選挙法及び公職選挙法施行令によって選挙制度が定められている。この選挙制度においては,投票所投票主義(公職選挙法44条)を採用しつつ,その例外として,身体に障害のある選挙人を対象とした代理投票制度(48条1項)及び郵便投票制度(49条2項)という特別な措置をも設けられている。 e なお,原告らは,規約人権委員会の「一般的意見」及び「見解」は,いずれもB規約の有権的解釈というべきであると主張するが,前者は「規約の実施を促進するため総ての締約国がこの報告活動を活用できるようにすること,多くの報告が不十分であった点に,締約国の注意を促すこと,達成された進歩を報告活動のなかで示唆し,人権の保護並びにその促進についての締約国や国際機関の活動を鼓舞すること」が目的とされ,法的拘束力もなく,B規約の有権的解釈ではない。 また,後者は,B規約の選択議定書に基づく個人からの通報に対し,当該通報の内容たる具体的事例について示されるものであり,通報の対象とされた具体的事案限りのものであって,当該通報を行った者と関係国のみを対象とし,関係国に対する法的拘束力もなく,これもB規約の有権的解釈ではない。 f 以上によれば,国会が,B規約に基づき,公職選挙法を改正して郵便による代理投票制度を認めるなどの措置をとるべき義務を有するとは解されない。 エ国家賠償法上の違法性について(ア) 国家賠償法1条1項は,「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは,国又は公共団体が,これを賠償する責に任ずる。」と規定し,「違法に他人に損害を加えた」ことを要件として規定する。 (イ) ところで,私人間においては,本来,他人の権利を侵害 他人に損害を加えたときは,国又は公共団体が,これを賠償する責に任ずる。」と規定し,「違法に他人に損害を加えた」ことを要件として規定する。 (イ) ところで,私人間においては,本来,他人の権利を侵害すること自体が許されず,したがって,権利の侵害をもたらした行為は,違法性阻却事由がない限り,違法と評価されるから,民法上の不法行為にあっては,権利侵害行為は原則として違法,例外的に適法という基準が妥当する。 これに対し,公務員による公権力の行使は,そもそも優越的,高権的な意思作用であり,その性質上,もともと国民の権利に対する侵害を当然に内包するものであって,また,それゆえに,法が定める一定の要件と手続の下において,国民の権利を侵害することを許容されているものである。 そうすると,国家賠償法1条1項の違法性は,単なる権利侵害等の一定の結果が発生したという観点を離れてこれを論じる必要があり,権利侵害があることのみをもって,当該公権力の行使を直ちに違法とすることはできない。 このような観点からすると,国家賠償責任を発生させる要件としての違法性は,当該公権力の行使が,法の定める要件及び手続に従って行われたか否か,換言すると,公権力の主体が,その具体的な行使に当たって遵守すべき行為規範又は職務義務に違反したか否かにかかわるものと解される。 (ウ) 以上によれば,具体的な公権力の行使について国家賠償法1条1項にいう違法性があったか否かは,当該公権力の行使について,公権力の主体がその行使に際して遵守すべき行為規範又は職務義務に違反したか否かという基準によって判断され,このような義務に違反した場合に限って,当該公権力の行使に国家賠償法1条1項にいう違法性があると解すべきであり(いわゆる職務行為基準説),国家賠償法1条1項の違法性の問題と公権力の行使によって損害が このような義務に違反した場合に限って,当該公権力の行使に国家賠償法1条1項にいう違法性があると解すべきであり(いわゆる職務行為基準説),国家賠償法1条1項の違法性の問題と公権力の行使によって損害が生じた等の結果の違法の問題とは区別して論じられなければならない(エ) 前記のとおり,国家賠償法1条1項の違法性の意義は,個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背することと解すべきであり,その場合,具体的な公権力の行使の場面において職務上尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と行為したか否かという基準を用いて判断することとなるが,この判断基準は抽象度の高いものであり,あらゆる公権力の行使について妥当し得るものである。 したがって,国家賠償法1条1項の違法性は,法令の解釈適用における違法が問題となる場面においても,職務行為基準説によって判断されるべきである。 オ立法行為と国家賠償請求について(ア) 国家賠償法1条1項にいう違法とは,公権力の行使に当たる公務員が,個別の国民に対して負う職務上の義務に違背することをいうのであるから,国会議員の立法行為(不作為も含む。)が同条項にいう違法となるかどうかは,国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかにより決せられるのであって,当該立法の内容の違憲性の問題とは別に判断されなければならない。 すなわち,仮に,当該立法の内容が憲法の規定に反するとしても,当然に国会議員の立法行為が違法の評価を受けるものではない。 そして,国会議員の立法行為は,本質的に政治的なものであるから,国会議員は,立法に関しては,原則として国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり,個別の国民の権利に対応した法的義務を負うものではない。 (イ) したがって,国会議員の立法行為が,国 るから,国会議員は,立法に関しては,原則として国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり,個別の国民の権利に対応した法的義務を負うものではない。 (イ) したがって,国会議員の立法行為が,国家賠償法1条1項の違法の評価を受けるのは,立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき,容易に想定し難いような例外的な場合に限られる。 さらに,立法不作為について違法の評価を受ける場合は,作為に比べて,より一層限定されると解すべきである。なぜなら,仮に,裁判所が国会議員の立法不作為に対して法的責任を問うこととなれば,それは,裁判所が,個々の国会議員に対し,特定の内容の法律を,特定の時期までに立法すべき義務を課すのと異ならず,憲法が採用する権力分立の基本理念に反することになるからである。 (ウ) 以上によれば,本件において,昭和27年改正法により在宅投票制度が廃止されたこと及びその後にALS患者その他の障害者等の選挙権行使を容易にする制度が設けられなかったことは,いずれも,憲法の一義的文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき,容易に想定し難いような例外的な場合には当たらないから,被告が国家賠償責任を負うとはいえない。 (5) 原告ら(承継前)の損害(原告らの主張)ア在宅投票制度を復活させた昭和49年改正法は,昭和49年6月3日公布され,不在者投票制度及び郵便投票制度を規定する49条等を除いて同日から施行され,49条等は昭和50年1月20日から施行された。 これに伴い,昭和49年政令第194号公職選挙法施行令の一部を改正する政令は,昭和49年6月3日公布され,1条の一部及び2条は同日から施行され,その余の規定は同月10日から施行された。 したがって,在宅のALS患者 49年政令第194号公職選挙法施行令の一部を改正する政令は,昭和49年6月3日公布され,1条の一部及び2条は同日から施行され,その余の規定は同月10日から施行された。 したがって,在宅のALS患者は,郵便投票制度が施行された昭和50年1月20日以降,郵便投票制度によって投票できないこととなり,選挙権を侵害された状態に置かれた。 イ(ア) 原告Aは,昭和56年4月にALSを発症し,病状が進行したため,遅くとも,四肢の完全麻痺により寝たきりの状態となった昭和61年8月ころには,現行の郵便投票制度の下ではいかなる方法によっても投票できなくなった。 (イ) 原告Bは,平成2年1月にALSを発症し,病状が進行したため,遅くとも,四肢の完全麻痺により寝たきりの状態となった平成7年3月ころには,現行の郵便投票制度の下ではいかなる方法によっても投票できなくなった。 (ウ) 亡Dは,平成元年にALSを発症し,病状が進行したため,遅くとも,四肢の完全麻痺により寝たきりの状態となった平成6年10月ころには,現行の郵便投票制度の下ではいかなる方法によっても投票できなくなった。 ウ(ア) 日本ALS協会は,昭和61年,全会員が力を合わせて,ALSの克服と患者が人間としての尊厳を全うできる社会の実現を目指し,一日も早いALSの原因究明と治療法の確立及び患者・家族が安心して療養できる医療・福祉体制を作ることを目的として結成された患者・家族の支援団体であり,現在,本部事務局のほか全国に24支部があり,会員は約7900名である。 原告Aは,昭和61年ころ,原告Bは,平成2年ころ,亡Dは,平成8年4月に,それぞれ日本ALS協会に入会した。 (イ) 日本ALS協会は,平成8年,在宅のALS患者が参政権を行使できない現実を社会に訴える活動を起こし,その活動の一つとして,J議員に 亡Dは,平成8年4月に,それぞれ日本ALS協会に入会した。 (イ) 日本ALS協会は,平成8年,在宅のALS患者が参政権を行使できない現実を社会に訴える活動を起こし,その活動の一つとして,J議員にアプローチした。 J議員は,平成8年5月31日,衆議院決算委員会第3分科会において,郵便投票制度が自書主義を採用しているために,在宅のALS患者が投票できない現実を指摘し,選挙管理機関が自宅を訪問する巡回投票制度を提案し,今後の検討を政府に求めた。 (ウ) また,日本ALS協会は,倉田自治大臣に対し,在宅のALS患者が投票できるように法改正をしてほしいと陳情した。 倉田自治大臣は,平成8年7月17日,在宅のALS患者を訪問し,在宅のALS患者の投票について慎重に検討すると答えた。 (エ) さらに,日本ALS協会は,平成9年10月7日,第一東京弁護士会人権擁護委員会に対し,在宅のALS患者の投票についての陳情を行った。 同陳情は同委員会第4特別部会に付議され,同委員会副委員長及び同委員会第4部会長は,平成9年12月,自治省の担当官と面談し,問題点について意見交換した。 (オ) 日本ALS協会は,平成10年3月18日,第一東京弁護士会に対し,在宅のALS患者が投票できないことは基本的人権である参政権の侵害であるとして,人権救済の申立てを行った。そして,第一東京弁護士会は,平成10年7月6日,Z自治大臣に対し,在宅のALS患者の参政権が侵害されているとし,制度の改善を要望する旨の要望書を提出した。 エ原告ら(承継前)は,日本ALS協会を通じて,現行の郵便投票制度の下ではいかなる方法によっても投票できない現状について訴えかけていたものであるから,遅くとも,第一東京弁護士会がZ自治大臣に対して制度の改善を要望する旨の要望書を提出した平成10年7月6日には 度の下ではいかなる方法によっても投票できない現状について訴えかけていたものであるから,遅くとも,第一東京弁護士会がZ自治大臣に対して制度の改善を要望する旨の要望書を提出した平成10年7月6日には,投票の意思があるにもかかわらず,現行の郵便投票制度によって投票を妨げられていることを明らかにした。 オ平成10年7月6日以後,原告ら(承継前)が選挙権を有する選挙として,次の選挙が実施された。 (ア) 原告A及び原告B平成10年7月12日参議院議員選挙平成11年4月11日東京都知事選挙平成11年4月25日板橋区長・区議会議員選挙(イ) 亡D平成10年7月12日参議院議員選挙平成11年4月11日東京都知事選挙平成11年4月25日渋谷区長・区議会議員選挙カ本件公職選挙法施行令が郵便投票の要件として原告ら(承継前)の自書を要求していることにより,原告ら(承継前)は,前記各選挙においてそれぞれ選挙権を有し,かつ投票の意思があったにもかかわらず,郵便投票を行うことができなかった。 選挙権行使は,国民が国政に参加し得る重要な機会であるにもかかわらず,原告ら(承継前)は,前記のとおり選挙権行使の機会を奪われたものであり,これによる精神的苦痛はそれぞれ90万円を下回るものではない。 キよって,原告Aらは,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,それぞれ慰謝料90万円及びこれに対する平成12年1月27日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (被告の主張)原告らの主張は争う。 (6) 原告ら(承継前)の損失補償請求権の有無(原告らの主張)ア原告ら(承継前)の特別の犠牲について(ア) 仮に,被告の行為が国家賠償法上,違法と判断されない場合又は違法ではあるが無過失で (6) 原告ら(承継前)の損失補償請求権の有無(原告らの主張)ア原告ら(承継前)の特別の犠牲について(ア) 仮に,被告の行為が国家賠償法上,違法と判断されない場合又は違法ではあるが無過失である(違法無過失)と判断される場合,国家賠償法に基づく損害賠償請求は認められないこととなる。 これらの場合,原告ら(承継前)は,投票所等へ行くことができず,かつ自書できないため郵便投票を行うこともできないため,公職選挙法49条2項及び本件公職選挙法施行令によれば,選挙権を行使する手段が全くない特定の選挙人である。 一方,被告は,前記法律及び政令を制定する際,選挙の公正を確保するという理由で郵便投票制度に制限を加えて,障害者等の特定の選挙権者の選挙権行使を犠牲にしたものであり,その詳細は別紙「国会審議経過2」記載のとおりである。 すなわち,被告は,昭和26年の統一地方選挙において在宅投票制度が悪用されたことへの反省から,在宅投票制度の復活に当たって,公正の確保に非常に重点を置き,郵便投票制度の対象者を身体障害者手帳を有し,かつ一定の等級に該当する選挙人に限定するとともに,自書主義を採用して,代理投票を認めなかった。これによって,被告は,郵便投票制度から,寝たきり老人や一時的歩行困難者を排除し,また,投票所等へ行くことができず,かつ自書できない者を排除したものである。 (イ) また,被告は,公正確保のために,郵便投票制度の利用者を限定したものであるが,別紙「国会審議経過3」記載のとおり,復活後の郵便投票制度の実際は,郵便投票可能な選挙人の大半が郵便投票以外の投票手段をも有しているのである。 ところが,原告ら(承継前)は,郵便投票以外に投票手段がないにもかかわらず,公正確保のために,郵便投票の利用が認められなくなった。 (ウ) 昭和49年改正法には,両院にお 手段をも有しているのである。 ところが,原告ら(承継前)は,郵便投票以外に投票手段がないにもかかわらず,公正確保のために,郵便投票の利用が認められなくなった。 (ウ) 昭和49年改正法には,両院において,「在宅投票制度については,政府は,その実施状況の推移を勘案して今後さらに拡充の方向で検討すること」との附帯決議がなされている。 同附帯決議によれば,被告は,郵便投票制度における自書主義が公正確保のために不可欠なものであるか,さらに十分に検討しなければならず,また,郵便投票制度が郵便投票以外の投票手段を有する者にも郵便投票を認める一方で,真に郵便投票を必要とする者に郵便投票を認めていない現実を改善しなければならないはずである。 ところが,被告は,「実施状況の推移を勘案して,今後さらに拡充の方向で検討した」とはいえない。 (エ) したがって,被告は,原告ら(承継前)の選挙権行使を不可能としてまで,選挙の公正の確保を重視したものであり,原告ら(承継前)は,このような公権力の行使による特別の犠牲となったものである。 イ憲法上の損失補償請求権について(ア) ドイツにおける犠牲補償請求権のような規定があれば,原告ら(承継前)が同規定に基づいて補償を請求し得ることは明らかであるが,日本においては,明文の規定が存在しない。 しかし,憲法は,以下のとおり,公権力の適法な行使又は違法無過失の行使による特別の犠牲となった者に対する補償を認めていると解される。 なお,原告らの主張は,損失補償を行いさえすれば選挙権者から選挙権を剥奪できるという主張ではなく,国家賠償法に基づく損害賠償請求が認められない場合に,原告ら(承継前)を救済する最後の手段として,損失補償が認められるという主張である。 (イ) 憲法17条は,「何人も,公務員の不法行為により,損害を受けたときは づく損害賠償請求が認められない場合に,原告ら(承継前)を救済する最後の手段として,損失補償が認められるという主張である。 (イ) 憲法17条は,「何人も,公務員の不法行為により,損害を受けたときは,法律の定めるところにより,国又は公共団体に,その賠償を求めることができる。」と規定し,公務員の不法行為の場合に国家賠償請求ができるとし,これを受けて国家賠償法1条1項は,「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは,国又は公共団体が,これを賠償する責に任ずる。」と規定する。 一方,憲法29条3項は,「私有財産は,正当な補償の下に,これを公共のために用ひることができる。」と規定し,国が私有財産を公共のために用いるときは,補償を求めることができるとする。 また,憲法40条は,「何人も,抑留又は拘禁された後,無罪の裁判を受けたときは,法律の定めるところにより,国にその補償を求めることができる。」と規定し,刑事手続による生命,身体の自由の侵害に対する損失補償を定めている。 これらの規定を総合すると,憲法は,公権力の違法な行使によって生じた損害について17条に規定を置き,一方,公権力の適法な行使によって生じた損失について29条3項に規定を置き,また,刑事手続による生命,身体の自由の侵害の場合(違法,適法を問わないと解される。)について40条に規定を置き,全体として,公権力の行使によって国民の利益が侵害された場合の損害填補について一つの体系を形作っている。 また,憲法は,刑事手続の場合について,公権力の適法な行使による生命,身体の自由の侵害発生の可能性を認めた上で,その損失補償を定めている。 (ウ) したがって,公権力の適法な行使によって生じた損失について憲法29条3項と40条が規 いて,公権力の適法な行使による生命,身体の自由の侵害発生の可能性を認めた上で,その損失補償を定めている。 (ウ) したがって,公権力の適法な行使によって生じた損失について憲法29条3項と40条が規定されているところ,補償対象に欠缺があるとは考えられないこと,既に憲法40条が財産権以外の権利に対する損失補償を認めていること,憲法13条(個人の尊厳),14条1項(法の下の平等)が特別犠牲者の救済を要求していることから,憲法は,公権力の適法な行使によって生じた損失について,刑事手続による生命,身体の自由の侵害の場合について憲法40条に規定を置き,それ以外の権利侵害の場合について憲法29条3項に規定を置いたものと解される。 憲法29条3項は,「私有財産」と規定し,「財産権」という用語を使用していないことからも,動産,不動産,債権等の財産権に限らず,権利一般を含む趣旨と解される。 よって,本件において,仮に,被告の行為が違法ではないと判断された場合,憲法29条3項の適用がある。 (エ) また,適法行為についてさえ憲法29条3項の適用があることからすれば,違法無過失行為について同条項の類推適用があることは当然というべきであるから,本件において,仮に,被告の行為が違法無過失であると判断された場合,同条項の類推適用がある。 ウ損失補償額について(ア) 原告ら(承継前)に対する損失補償額は,損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるから,民事訴訟法248条を類推適用して,裁判所が弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,相当な損害額を認定するべきであるが,選挙権という重大な権利が剥奪された状態にあることから,それぞれ90万円を下回ることはないと解される。 (イ) よって,原告A,原告B及び原告Cは,被告に対し,憲法29条3項又はその類推適用に基 ,選挙権という重大な権利が剥奪された状態にあることから,それぞれ90万円を下回ることはないと解される。 (イ) よって,原告A,原告B及び原告Cは,被告に対し,憲法29条3項又はその類推適用に基づき,それぞれ90万円及びこれに対する平成12年1月27日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (被告の主張)ア憲法上の損失補償請求権についてそもそも憲法上保障された権利について,これを立法による具体化を待たずしてそのまま裁判所の法的判断の基礎となる具体的権利とみることについては,憲法規範の一般性・抽象性からみて疑問のあるところであり,これを憲法29条3項についてみても,損失補償の要件として一般に問題とされる「特別の犠牲」や「正当な補償」の内容が抽象的,多義的,相対的であるため,個別事案において一義的に判断することは非常に困難である。 また,「正当な補償」の具体的内容は,財産権に対する内在的制約と複雑に関係し,政策的考慮も含めて決定されるものであるから,財産権の制約について,どの程度の補償が必要か,その具体的確定又は行使方法をどのように定めるかは,性質上,まさに立法事項というべきである。 したがって,立法による具体化を待つことなく,憲法29条3項から直接具体的権利としての損失補償請求権を導くのは相当でない。 イ原告ら(承継前)の特別の犠牲について(ア) 仮に,一般論として,憲法29条3項に基づく損失補償請求権が認められる余地があり得るとしても,同条項は,その文言から明らかなとおり,「私有財産」の制限に対する損失補償請求権である。 (イ) 本件において,原告らは,選挙権行使が困難であり,このため事実上選挙権を剥奪されているに等しいと主張するところ,選挙権が私有財産でないことはいうまでもな の制限に対する損失補償請求権である。 (イ) 本件において,原告らは,選挙権行使が困難であり,このため事実上選挙権を剥奪されているに等しいと主張するところ,選挙権が私有財産でないことはいうまでもない。原告ら自身が本件における「正当な補償」を具体的に主張できないことからも明らかなように,原告らのいう損失は,もともと精神的なものであって,その私有財産が制限されたことによる経済的損失ではない。 また,憲法29条は,1項において「財産権はこれを侵してはならない。」と規定して私有財産制度を採用し,国民の個別の財産権が具体的に保障されていることを前提として,3項において「私有財産は,正当な補償の下に,これを公共のために用ひることができる。」と規定する。すなわち,憲法29条3項は,原則として国家の干渉を許さない自由権として,個別の財産権が具体的に保障されていることを前提とした上,公権力の行使によって発生した財産上の特別な犠牲に対し,全体的な公平の見地から調整するものである。憲法29条2項が,財産権が公共の福祉によって補償なく制約されることがあり得ることを規定しているところからすると,同条3項の要件としての損失とは,通常の損失では足りず,「特別の犠牲」,すなわち財産権の剥奪又は剥奪に等しい制限でなければならない。 (ウ) ところで,憲法は,15条1項において,選挙権を「国民固有の権利」と規定する一方,47条において,「選挙区,投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は,法律でこれを定める。」と規定して,選挙制度のあり方を国会の裁量にゆだねている。 すなわち,憲法は,選挙権が代表民主制の下において重要な権利であり十分に尊重されるべきものであるとしながらも,選挙権が,本質的に,財産権のように原則として国家の干渉を許さない自由権とはいえないことから,そ ち,憲法は,選挙権が代表民主制の下において重要な権利であり十分に尊重されるべきものであるとしながらも,選挙権が,本質的に,財産権のように原則として国家の干渉を許さない自由権とはいえないことから,その行使方法等は,国会によって設定された選挙制度の範囲内という制約を免れないことを想定しているものである。選挙制度は,それ自体から論理的に要請される一定不変の形態が存在するわけではなく,代表民主制の下において選挙された代表者を通じ,国民の利害や意見が公正かつ効果的に国政の運営に反映されることを目標とし,他方,政治における安定の要請をも考慮しながら,それぞれの国において,その国の実情に即して決定されるものである。 そして,投票の方法は,すべての選挙人ができる限り容易に行えるものであることが望ましいことはいうまでもないが,選挙の公正を確保し,憲法15条4項で保障された投票の秘密を保護する必要があるとともに,その施行には,自ずと一定の時間的,人的・物的設備による制約を伴うものであり,その制約の中で選挙の施行を可能にすることが要請されるのである。 (エ) そうすると,一部の者が,選挙権行使の場面において,他の者に比して困難な事態を生じることは,もともと選挙制度に内在し得る事態として憲法が想定しているものであり,これをもって特別の犠牲,すなわち,公共のためにする制限が一般的に当然受忍すべきものとされる制限の範囲を超え,特定の人に対し特別の犠牲を課したものとはいえない。 したがって,原告らの主張には理由がない。 (7) 公職選挙法改正の立法不作為の違憲確認が認められるか否か。 (原告らの主張)ア立法不作為の違憲確認の訴えの適法性(ア) 法律上の争訟性について原告らは,抽象的に法令等の違憲又は違法性等に関する判断を求めているのではなく,違憲である公職選挙法 か否か。 (原告らの主張)ア立法不作為の違憲確認の訴えの適法性(ア) 法律上の争訟性について原告らは,抽象的に法令等の違憲又は違法性等に関する判断を求めているのではなく,違憲である公職選挙法により選挙権行使を妨げられ,人権侵害を受けていることを理由に違憲確認を求めているのであるから,そこに具体的な紛争があることは明白であり,紛争性の要件は十分満たされている。 もとより,原告ら(承継前)が障害を有しない者であったり,又は郵便投票制度により投票ができる者であったりすれば,選挙権行使が妨げられておらず,具体的な紛争はなく,抽象的,一般的に法律の憲法適合性の判断を求めているといい得るかもしれない。しかし,原告ら(承継前)は,公職選挙法により,選挙権という憲法が掲げる国民主権の源ともいい得る重要な権利が侵害されており,それを争っているのであるから,そこに具体的な紛争の存在を認めることができる。 抽象的か具体的かは,当該当事者と当該法令との関係の問題であり,原告ら(承継前)には,十分具体的な紛争が認められる。 (イ) 追加的併合の可否について被告が昭和27年改正法によって代理による郵便投票制度を廃止した後現在に至るまで,原告ら(承継前)の選挙権行使を可能とする内容の公職選挙法改正を行わないことの違憲確認(以下「本件違憲確認」という。)の訴えは,行政府の行為を対象にするものではなく,立法府の行為を対象にするものである以上,本来の行政訴訟とは異なるといわざるを得ず,行政事件訴訟法19条1項の適用はなく,民事訴訟である本件国家賠償請求からみて,追加的変更が許されるか否かを判断すれば足りる。 そして,本件違憲確認の訴えは,国家賠償請求と請求の基礎を同じくするものであり,追加的変更は許される。 イ公職選挙法改正の経緯(ア) 旧法及びその委任を受けた旧 されるか否かを判断すれば足りる。 そして,本件違憲確認の訴えは,国家賠償請求と請求の基礎を同じくするものであり,追加的変更は許される。 イ公職選挙法改正の経緯(ア) 旧法及びその委任を受けた旧施行令は,在宅投票制度を定め,なおかつ身体の故障によって自ら候補者の氏名を記載することができない在宅選挙人は,他人に投票の記載をさせることができることも規定していた(旧法49条,旧施行令58条)。 (イ) ところが,昭和26年の統一地方選挙において在宅投票制度が悪用されたとの理由により,昭和27年改正法により,在宅投票制度及び在宅による代理投票制度が廃止された。 (ウ) その後,在宅投票制度の復活を求める国民の声が大きくなり,昭和49年改正法により公職選挙法が改正され,同法49条2項の規定により,在宅投票制度が,その対象者を限定し,かつ自書によるという条件付きで復活し現在に至っている。 ウ憲法上の選挙権保障の意味(ア) 憲法15条1項が,国民主権の原理に基づく選挙権の保障を主眼としていること,同条3項が成年者による普通選挙を保障し,なおかつ投票の機会をも保障していること,憲法14条1項が人権に関する一般原則として法の下の平等を規定し,政治的関係において合理的な理由なく差別してはならず,平等に取り扱わなければならないとする趣旨であり,ここにいう平等が,実質的,機能的平等であって,国民一人一人の置かれた状況に応じて取扱いが異なることがあり得るばかりか,場合によっては異なる取扱いが要請されるべきものであること,したがって,投票所に行くことが不可能な者の場合には,その身体的状況を考慮した投票の方法を定めることが,平等原則から要請されることは,前記のとおりである。 (イ) 選挙権は,国民主権,代表民主制を実現する上で極めて重要な憲法上の権利である。こ 合には,その身体的状況を考慮した投票の方法を定めることが,平等原則から要請されることは,前記のとおりである。 (イ) 選挙権は,国民主権,代表民主制を実現する上で極めて重要な憲法上の権利である。この権利がひとたび侵害されれば,代表民主制の根幹を損なうことになり,選挙権はいわば民主政の死命を制する重要な権利であることは論を待たない。 エ立法不作為の違憲性(ア) 仮に,公職選挙法49条2項が代理投票を認めていない趣旨だとすれば,公職選挙法は,原告ら(承継前)のように,投票所及び不在者投票所に行くことが不可能で,かつ,自書できない者から,投票の機会を奪うものであり,選挙権自体は認めていても,これを行使する機会を与えておらず,これはまさに原告ら(承継前)の選挙権を奪うに等しいものであり,憲法15条1項,同条3項及び14条1項に違反する状態である。 (イ) そして,国会において,公職選挙法を改正して,郵便による代理投票制度を認めるか巡回投票制度を認めるかなどして,原告ら(承継前)のような重度身体障害者の選挙権行使に関する不合理な制限を撤廃すべき作為義務が発生しており,公職選挙法が原告ら(承継前)のような重度身体障害者の選挙権を不当に制限するものであり,かつ,可及的速やかにこれを改正すべき状況にあることを認識し,法改正により侵害の状態を除去する契機を十分に与えられていたことは前記のとおりである。 しかし,代理による在宅投票制度が廃止されて以後,公職選挙法は違憲状態となり,その後,国会は現在まで何らの改正を施すこともなく,違憲状態を放置している。 オまとめよって,原告らは,被告の立法不作為に関する本件違憲確認を求めるものである。 (被告の主張)ア法律上の争訟性について(ア) 裁判所法3条1項の「法律上の争訟」として裁判所の審理の対象となるの めよって,原告らは,被告の立法不作為に関する本件違憲確認を求めるものである。 (被告の主張)ア法律上の争訟性について(ア) 裁判所法3条1項の「法律上の争訟」として裁判所の審理の対象となるのは,法令を適用することによって解決し得べき当事者間の具体的な権利義務又は法律関係の存否に関する紛争に限られるのであって,このような具体的紛争を離れ,抽象的に法令等の違憲あるいは違法性等に関する判断を裁判所に求めることは,裁判所が行使する司法権の性質上,許されない。 すなわち,裁判所法3条1項の「法律上の争訟」として裁判所の審理の対象となるのは,①法令を適用することによって終局的に解決することができ,②当事者間の具体的な権利義務又は法律関係の存否に関する紛争に限られるのであって,当事者間の具体的な権利義務又は法律関係の存否に関する紛争といえるためには,当事者間に具体的な紛争が存在すること及びそれが権利義務又は法律関係の存否に関するものであることのいずれをも満たすことが必要であり,前記各要件をすべて満たさない限り,このような訴えは,不適法な訴えとして却下を免れない。 (イ) これを本件違憲確認の訴えについてみると,原告らは,特定の衆議院議員,参議院議員並びに地方公共団体の議会の議員及び長の選挙における原告ら(承継前)の具体的な選挙権行使を問題とするものではなく,公職選挙法の一部を改正する法律によって代理による郵便投票制度を廃止し,その後現在に至るまで,原告ら(承継前)の選挙権行使を可能とする内容の公職選挙法改正を行わないことについて,これが違憲であることの確認を求めるというものであるから,具体的な紛争を離れて,抽象的,一般的に法律の憲法適合性の判断を求めるものにほかならない。 (ウ) したがって,本件違憲確認の訴えは,法律上の争訟の要件のうち,当事者間 認を求めるというものであるから,具体的な紛争を離れて,抽象的,一般的に法律の憲法適合性の判断を求めるものにほかならない。 (ウ) したがって,本件違憲確認の訴えは,法律上の争訟の要件のうち,当事者間に具体的な紛争が存在するとの要件を欠くものであって,法律上の争訟に当たらないことが明らかであるから,不適法である。 イ行政事件訴訟の併合についてまた,本件違憲確認の訴えは,私法上の権利の確認を求めるものではないから,民事訴訟ではなく,行政事件訴訟法上の不作為の違法確認の訴え(同法3条5項),あるいは実質的当事者訴訟(同法4条)等に該当すると解する余地がないではない。 しかし,行政事件訴訟法19条1項前段は,「原告は,取消訴訟の口頭弁論の終結に至るまで,関連請求に係る訴えをこれに併合して提起できる。」とし,行政事件訴訟においては,関連請求である限り,本来取消訴訟とは異なる訴訟手続によるべき民事訴訟についても,原告による追加的併合ができる旨を規定するが,同条項は,取消訴訟を基本として,その関連請求の併合を認めるものであるから,これらの規定によって認められるのは,あくまで取消訴訟を基本とし,これに民事訴訟を併合することであり,これとは逆に,行政事件訴訟法19条1項により,民事訴訟を基本として,これに行政事件訴訟を併合することは許されない。 したがって,追加された請求の趣旨が行政事件訴訟としての訴えであるとすれば,本件国家賠償請求に本件違憲確認の訴えを追加的に併合することは許されず,不適法である。 ウまとめ以上のとおり,原告らの本件違憲確認の訴えは,いずれにしても不適法である。 第3 争点に対する判断 1 争点(1)(原告ら(承継前)が現行投票制度下において投票を行うことが可能であるか否か。)について(1) ALS及び人工呼吸管理について原告ら れにしても不適法である。 第3 争点に対する判断 1 争点(1)(原告ら(承継前)が現行投票制度下において投票を行うことが可能であるか否か。)について(1) ALS及び人工呼吸管理について原告らは,現行投票制度下においては投票を行うことが不可能であり,平成10年及び平成11年の各選挙当時も同様であったと主張し,被告は,原告ら(承継前)が現行投票制度下において投票を行うことは極めて困難であるとしても不可能とはいえず,前記各選挙当時も同様だったと主張してこれを争うので,この点について判断する。 ア ALSについて(ア) ALSは,上肢又は下肢から発症し,一般的には発症後2年くらいで,病変が延髄の呼吸中枢や呼吸筋(肋間筋,横隔膜等)に及び,自発呼吸が不可能となるが,肺におけるガス交換には影響がないため,ALS患者は人工呼吸器によって呼吸を継続することが可能である(甲32,証人K)。 人工呼吸器は,昭和30年代には,患者の全身を外から覆って圧力をかける方式のものであり,ごく少数しかない貴重品であったので,長期間にわたる人工呼吸を必要とするALS患者に使用することはできず,呼吸麻痺が生じたALS患者はそれ以上生存することができなかった(甲32)。 その後,昭和40年ころから人工呼吸器の大きさは冷蔵庫大になったが,昭和60年ころは,人工呼吸器を装着したALS患者は死亡するまで入院を継続するのが通常であって,在宅療養を行うことは一般的ではなく,人工呼吸器を装着したALS患者が在宅療養するようになったのは比較的最近のことである(甲32,35,証人K,同M)。 (イ) ALS患者は,人工呼吸を開始する際,入院して気管切開の手術を受け,切開した気管からカフ付きの気管カニューレを挿入して,人工呼吸器を装着する(甲29,32)。 気管カニューレとは,気管切開 (イ) ALS患者は,人工呼吸を開始する際,入院して気管切開の手術を受け,切開した気管からカフ付きの気管カニューレを挿入して,人工呼吸器を装着する(甲29,32)。 気管カニューレとは,気管切開部から気管内に挿入される管のことであり,カフとは,気管カニューレの周囲に装着されたバッグで,気管カニューレを気管に挿入した後に膨らませることによって,気管カニューレを固定するとともに,空気漏れや,唾液・喀痰等が気管内に下りていくことなどを防ぐものである(甲29,32,証人K)。 気管カニューレの位置は,気管分岐部上2センチメートルから6センチメートルが適正とされ,位置が浅すぎると抜けやすくなり,深すぎると気管を傷付けたり,一方の肺にだけ空気が入って,他方の肺が無気肺になったりする可能性がある(甲31,証人K)。 (ウ) 人工呼吸器を用いて呼吸管理を行う場合,一般には経鼻的・経口的気管内挿管が行われるが,声帯を通過する気管内挿管チューブを長期間にわたり設置すると,声帯等の潰瘍や壊死,声帯の機能的麻痺を引き起こすことがあり,また,経鼻的・経口的気管内挿管の場合,外部から気管内に至る距離が長く,患者自身が喀痰を喀出したり,外部から喀痰を吸引するのに困難であるため,重症の呼吸不全など呼吸管理が長期化するような場合には,声帯下で直接気管に至る気管切開が必要となり,時には,半永久的に気管切開をしておくこともある(甲29,31)。 ALSは,進行性の疾患であり,有効な治療法も確立されておらず,不可能となった自発呼吸が回復することは期待できないため,気管切開による人工呼吸器の装着が行われる(前記前提事実,甲32,証人K)。 (エ) ALSが進行すると,四肢の運動機能が麻痺し,発声障害が生じるため,患者は,発声や筆記により外部とコミュニケーションをとることが不可能 吸器の装着が行われる(前記前提事実,甲32,証人K)。 (エ) ALSが進行すると,四肢の運動機能が麻痺し,発声障害が生じるため,患者は,発声や筆記により外部とコミュニケーションをとることが不可能となる(前記前提事実,甲32,証人K)。しかし,ALSは,運動神経のみに病変が限定されており,高次知的機能や視覚系を含む感覚系機能が完全に保持されているので,病気が進行して全身麻痺の状態にある患者であっても,かすかな手足の動き,まばたきや眼球等の動きなど残された運動機能を利用して,文字盤やパソコンにより外部とコミュニケーションをとることが可能である(前記前提事実)。 イ人工呼吸管理について気管切開による人工呼吸器装着後は,気管切開部の消毒,気管カニューレと気管切開部が接触する面に置かれるカニューレガーゼの交換が毎日必要となり,2週間に1度くらいの気管カニューレ交換が必要となる(甲29,32,証人K,同L)。 気管カニューレを交換する場合は,人工呼吸器を取り外すので,患者は,1分から2分の間,無呼吸状態となることを余儀なくされる(証人L)。 また,貯留した気道分泌物が気道を閉塞することを防ぐために頻回に吸引することが必要である(甲32,33,証人K)。気道の吸引は24時間必要であり,10分から20分に1度くらいの頻度でなされる(甲32,証人C,同L)。気道の吸引をする場合は,人工呼吸器を取り外す必要があるので,患者は,約1分間無呼吸状態となることを余儀なくされる(甲32,証人C,同L)。 気道の吸引は,法律上,医師及び看護師しか行うことができず,ヘルパー等が行うことはできないが,在宅療養を行っているような場合には,緊急避難的に患者の家族が行っている(甲32,証人K)。 ウ人工呼吸管理中の事故について(ア) 人工呼吸器装着中の事故の1つとして,患 が行うことはできないが,在宅療養を行っているような場合には,緊急避難的に患者の家族が行っている(甲32,証人K)。 ウ人工呼吸管理中の事故について(ア) 人工呼吸器装着中の事故の1つとして,患者へのガス供給停止,供給量低下がある(甲30,証人K)。 患者へのガス供給停止等の原因の1つに,停電又は電源プラグが外れたことによる人工呼吸器の作動停止があるが,内蔵バッテリーがある人工呼吸器が普及するようになって,電気の供給停止による人工呼吸器の停止の可能性は減少している(甲25,30,32,証人K)。内蔵バッテリーの持続時間は約40分間であり,外部バッテリーでも1時間弱である(甲32)。 また,人工呼吸器と気管カニューレの接続部は,気道を吸引する必要があるため,容易に外れるようになっており,その接続部が外れて患者へのガス供給停止等が生じる可能性もある(甲25,26,証人K)。 さらに,酸素及び空気のパイプが外れたことなどによる人工呼吸器へのガス供給停止や呼吸器設定のミスなどによって,患者へのガス供給停止等が生じる可能性もある(甲30,証人K)。 (イ) 患者へのガス供給停止等が発生した場合は,人工呼吸器のアラームが鳴るので,その場合は,直ちに人工呼吸器を外して,自動膨張式バッグ(いわゆるアンビューバッグ。以下「アンビューバッグ」という。)による呼吸に切り替えて,トラブルの原因を探す必要がある(甲25,30,33,証人K)。 アンビューバッグは,人力でバッグを圧迫することにより,周囲の空気を取り込み,マスクや気管カニューレ等を通じて,人工的に呼吸を行うことを可能とする道具である(甲30)。 人工呼吸器の作動停止のようなトラブルについては,アンビューバッグによる呼吸で対応できるが,そのためには,アンビューバッグによる呼吸管理に慣れた人が待機してい とを可能とする道具である(甲30)。 人工呼吸器の作動停止のようなトラブルについては,アンビューバッグによる呼吸で対応できるが,そのためには,アンビューバッグによる呼吸管理に慣れた人が待機している必要がある(甲25,30)。 (ウ) ALSにより自発呼吸がない患者について,気管カニューレが抜けたり,人工呼吸器が作動停止するなどして,呼吸が停止すると,低酸素状態,高炭酸ガス血症状態となり,数分間この状態が継続すると,脳に重い障害が残ったり,死亡する場合もある(甲32,証人K)。 (2) ALS患者の外出についてア現在では,人工呼吸器を装着したALS患者についても,在宅療養が可能となっており,病院のベッドの不足や患者の生活の質の観点から,在宅療養が行われることが多い(証人K)。 ALS患者が在宅療養をしている場合でも,その患者が肺炎を起こしたような場合に入院治療することや,介護者がALS患者の介護に伴い大きな肉体的・精神的負担を受けている(介護者は気道吸引のために24時間の介護を要求される。)ため,検査を兼ねて短期的に入院し,介護者が休息をとることもある(甲22,26,33,35,証人K)。 イ入院などのためにALS患者が外出するためには,人工呼吸管理に慣れた人が付き添い,階段を上り下りするときなどに人工呼吸器を外す必要があれば,その間呼吸のために用いるアンビューバッグの使用に慣れた人が付き添い,さらに,ストレッチャー又は車椅子を移動させる人,吸引器やバッテリー等を運ぶ人なども必要であるので,合計で3人から4人の介助者が必要である(甲25,32から35まで,証人K)。 また,外出中も気道の吸引が必要であるので,吸引を行うために,医師,看護師,あるいは患者の家族が付き添う必要がある(甲32から34まで,証人K)。 在宅療養中のALS患者が から35まで,証人K)。 また,外出中も気道の吸引が必要であるので,吸引を行うために,医師,看護師,あるいは患者の家族が付き添う必要がある(甲32から34まで,証人K)。 在宅療養中のALS患者が,入院以外の目的で外出することはまれであり,入院中の場合も,外出中の事故の可能性があるので,医師が外出を許可することはほとんどない(甲32,33,証人K)。 ウ ALS患者は,普段移動することがないため,人工呼吸器と気管カニューレの接続部が外れたりして,患者に対するガス供給停止等が生じることはほとんどないが,移動をする場合には,移動の衝撃により人工呼吸器と気管カニューレの接続部が外れてしまったり,ALS患者は首の力が弱く,支えないと首が前後に倒れてしまうので,首の倒れによって気管カニューレが抜けることもあり得る(甲25,証人K)。 また,気管切開患者は,喉のすぐ下が切開されているため,外出して乾いた冷たい空気が入ってくると肺炎を発症しやすい(甲25,32,証人K)。 (3) 原告ら(承継前)の症状についてア原告Aについて(ア) 原告Aの症状について原告Aは,昭和57年4月にALSと診断され,そのころから自書が不可能となり,昭和61年2月に人工呼吸器を装着し,同年8月から人工呼吸器による在宅療養を開始した(甲13,23の5)。 現在,原告Aは,全身の運動機能を喪失しており,眼球は左右方向には動くが,上下方向の移動範囲が狭くなっており,そのほかにはまぶたと額がわずかに動くだけである(甲13,27,32,34,証人M)。 原告Aは,意識は清明であり,判断能力にも問題なく,意思伝達は文字盤を指示することにより行っている(甲13,27,32,34,証人M)。 なお,原告Aは,平成10年及び平成11年の時点においても,ほぼ前記のような症状であった(甲13 力にも問題なく,意思伝達は文字盤を指示することにより行っている(甲13,27,32,34,証人M)。 なお,原告Aは,平成10年及び平成11年の時点においても,ほぼ前記のような症状であった(甲13,27,32,34,証人M)。 (イ) 原告Aの外出について原告Aは,昭和61年8月ころに在宅療養を開始して以来,平成3年5月及び平成5年12月の2回,呼吸困難や発熱など在宅療養が不可能な状態になったために入院したことを除いては外出していない(甲23の6及び7,27,34,35,証人M)。 原告Aは,体を移動すること及び外出することに対する強い不安感,恐怖心があるため,外出する際には,静脈麻酔剤を注射して,意識を麻痺させてから救急車により移動し,その間はアンビューバッグで呼吸を確保した(甲27,34,35,証人M)。 原告Aは,10年以上の長期臥床により,全身の関節拘縮があり,座位ができないため,ストレッチャー又はリクライニングした車椅子での移動が必要であり,ストレッチャーの移動のために2人,アンビューバッグによる呼吸を確保するために1人,吸引器や備品等を運搬するために1人の最低4人の介助者が必要である(甲27,34,35,証人M)。 イ原告Bについて(ア) 原告Bの症状について原告Bは,平成2年1月にALSと診断され,平成5年1月から自書が不可能となり,平成6年11月7日に,人工呼吸器を装着し,平成7年3月17日から人工呼吸器による在宅療養を開始した(甲14,21,24)。 原告Bは,意識は清明であり,判断能力にも問題なく,意思伝達は,文字盤を目の瞬きにより指示すること又は額に貼付したセンサーの動きをパソコンに表示することにより行っている(甲14,24,32,証人N)。 原告Bは,全身の運動機能を喪失しており,口角,眼球,まぶた及び額の一部 瞬きにより指示すること又は額に貼付したセンサーの動きをパソコンに表示することにより行っている(甲14,24,32,証人N)。 原告Bは,全身の運動機能を喪失しており,口角,眼球,まぶた及び額の一部が動くだけであり,呼吸については,人工呼吸器が必要である(甲25,32)。 なお,原告Bは,平成10年及び平成11年の時点においても,ほぼ前記のような症状であった(甲14,21,32,証人N)。 (イ) 原告Bの外出について原告Bは,人工呼吸器装着以降,気分転換のために,本人の希望によって年に1度くらいの割合で合計3回外出したことがあったが,平成10年4月以降は,外出が非常に困難になったことに加え,介助に多大な労力を要するため,外出することはなくなった(甲24,証人N)。 原告Bが外出する際には,2人がかりでベッドから車椅子に移し,体を車椅子に縛り付けてから居室の外に出し,いったん車椅子から降ろして,電動の階段昇降機を用いて2階から1階に移動させ,さらに車椅子に移して,車椅子ごと介護車に乗車させていた(甲24,証人N)。 なお,原告Bの車椅子は,人工呼吸器やバッテリーを乗せられるようになっているので,外出する際にはこれらを車椅子に乗せて移動することができた(証人N)。 また,原告Bが外出する際に介護車を利用するには,1時間当たり1200円が必要であり,移動を介助するヘルパーを雇うための費用も必要であった(甲38,証人N)。 原告Bが外出するときには,額につけているセンサーを取り外さなければならないので,人工呼吸器の故障などの緊急事態が生じたとしても,原告Bが外部の人間に対して,緊急事態の発生を知らせる方法は存在しない(甲24,証人N)。 ウ亡Dについて(ア) 亡Dの症状について亡Dは,平成2年12月にALSと診断され,平成3年4月ころから自書が が外部の人間に対して,緊急事態の発生を知らせる方法は存在しない(甲24,証人N)。 ウ亡Dについて(ア) 亡Dの症状について亡Dは,平成2年12月にALSと診断され,平成3年4月ころから自書が不可能となり,平成6年9月に人工呼吸器を装着し,同年10月から人工呼吸器による在宅療養を開始した(甲15,22)。 亡Dは,意識は清明であり,判断能力にも問題なく,意思伝達は文字盤やパソコンを利用することにより行っていた(甲15,26,32)。 亡Dは,全身の運動機能を喪失しており,眼球,まぶた,まゆの上部,右手親指がわずかに動くのみであった(甲33,証人C,同L)。 また,亡Dは,平成6年9月に気管切開後,平成10年くらいまでの間は,不十分ながら自発呼吸があったので,24時間人工呼吸器を装着する必要はなく,人工呼吸器を装着していないこともあった(甲22,証人L)。しかし,遅くとも平成11年9月にJR総合病院に入院した時点においては,亡Dは,人工呼吸器を24時間装着している必要があった(甲22,証人L)。 なお,気管切開後しばらくの間,24時間人工呼吸器を装着する必要がなかったのは,気管切開により口腔部分のデッドスペースの余分な換気が不必要となるためであった(証人L)。 (イ) 亡Dの外出について亡Dは,平成6年10月の在宅療養開始以降,年に2回,各2週間くらい検査及び介護者である家族の休息のために,O病院に短期入院していたが,それ以外に外出することはなかった(甲22,26,33,証人C)。 亡Dは,体幹,首及び四肢が不安定なため,車椅子に座ることができないので,入院のために外出するときは,ストレッチャーに乗せて,人工呼吸器及び吸引器とともに,寝台車により移動する必要があった(甲26,33,証人C)。なお,入院時に必要となる寝台車の費用は,片道で いので,入院のために外出するときは,ストレッチャーに乗せて,人工呼吸器及び吸引器とともに,寝台車により移動する必要があった(甲26,33,証人C)。なお,入院時に必要となる寝台車の費用は,片道で8400円であった(甲26,36)。 亡Dが外出する際には,人工呼吸器を外して,1人がアンビューバッグで呼吸を保ちながら,2人で抱えて亡Dをベッドから寝台車に移動させる必要があった(甲26,証人C)。 また,亡Dの自宅は2階にあるので,階段を使って亡Dを降ろす必要があり,その際,階段が途中で曲がっていて狭く,1人で亡Dを抱えて降ろさざるを得ず,アンビューバッグも使用できなかったため,亡Dはその間無呼吸状態を余儀なくされていた(甲26,33,37,証人C)。 そして,亡Dを移動させると同時に,1人が人工呼吸器及び吸引器を寝台車に運び込む必要があったので,最低で4人が付き添っていなければ,亡Dをベッドから寝台車に移動させることができなかった(甲26,33,証人C)。 (4) 原告ら(承継前)の投票の機会についてア原告ら(承継前)の選挙権について原告A及び原告Bは,平成10年及び平成11年当時,東京都板橋区内に居住しており(甲1,2),平成10年7月12日に行われた参議院議員選挙,平成11年4月11日に行われた東京都知事選挙,同月25日に行われた板橋区長・区議会議員選挙の選挙権を有していた。 亡Dは,平成10年及び平成11年当時,東京都渋谷区内に居住しており(甲3),平成10年7月12日に行われた参議院議員選挙,平成11年4月11日に行われた東京都知事選挙,同月25日に行われた渋谷区長・区議会議員選挙の選挙権を有していた(以下,前記各選挙を合わせて「本件各選挙」という。)。 イ原告ら(承継前)による投票について(ア) 原告ら(承継前)は,本件各選挙 同月25日に行われた渋谷区長・区議会議員選挙の選挙権を有していた(以下,前記各選挙を合わせて「本件各選挙」という。)。 イ原告ら(承継前)による投票について(ア) 原告ら(承継前)は,本件各選挙当時,人工呼吸器を装着して在宅療養に当たっていた(前記1(3))。 なお,亡Dは,平成11年3月23日から同年4月7日まで,O病院に短期入院していた(甲22,証人C,同L)。 原告ら(承継前)は,本件各選挙当時において,正常な判断能力を有しており,瞬きなどにより,外部とコミュニケーションをとることも可能であった(前記1(3))ので,投票所等において,投票事務従事者が候補者の氏名等の名称を読み上げ,瞬きによって候補者の氏名等を指示することにより,代理投票を行うことも可能であったと認められる。 なお,亡Dは,平成11年3月25日告示・同年4月11日投票の東京都知事選挙については,JR総合病院に短期入院中であったので,指定病院であった同病院で代理投票を行うことも可能であった(甲22,証人C,同L)。 (イ) また,原告ら(承継前)は,本件各選挙当時,四肢又は両下肢障害等により身体障害程度等級1級の認定を受けており,公職選挙法49条2項に規定された郵便投票制度を利用することができた(前記前提事実)。 しかし,本件公職選挙法施行令によって,郵便投票証明書の交付申請,投票用紙及び投票用封筒の交付請求に選挙人の署名が要求されるとともに,候補者の氏名等の記載に選挙人の自書が要求されているため,本件各選挙当時には,既に自書が不可能となっていた原告ら(承継前)は,郵便投票制度を利用することは不可能であった(前記1(3))。 (ウ) したがって,本件各選挙(亡Dについては,平成11年4月11日に行われた東京都知事選挙を除く。以下同じ。)において,在宅療養中であった原告ら を利用することは不可能であった(前記1(3))。 (ウ) したがって,本件各選挙(亡Dについては,平成11年4月11日に行われた東京都知事選挙を除く。以下同じ。)において,在宅療養中であった原告ら(承継前)が投票を行おうとした場合,自宅から投票所等に行って,代理投票を行う以外の手段はなかったものと認められる。 ウ原告ら(承継前)による投票の可能性について(ア) 以上を前提に,原告ら(承継前)の症状に照らして,原告ら(承継前)が,本件各選挙当時において,自宅から投票所等に行って代理投票を行うことが可能であったか否かについて検討する。 前記のとおり,原告ら(承継前)は,本件各選挙当時,病状が進行したALS患者であり,人工呼吸器による呼吸が不可欠であった(亡Dについても,人工呼吸器を使用していない時間があったとしても,呼吸不全状態にあり,常に人工呼吸器を準備している必要があり,人工呼吸器を準備していなければ生命の危険があったものと認められる(前記1(3))。)。 (イ) 原告ら(承継前)が投票を行うために投票所等に行く場合,移動することに伴って,気管カニューレと人工呼吸器の接続部が外れたり,気管カニューレが気管から抜けたりすること,あるいは故障や充電切れなどの原因で人工呼吸器が作動停止してしまうことなどにより,原告ら(承継前)に対するガス供給停止等が生じる可能性が十分にあった(前記1(1),(2))。 そのような事態が生じた場合,原告ら(承継前)は発声機能が麻痺していて,呼吸が停止していることを自ら外部に伝える手段が存在しないため,故障やスイッチ切れにより異常を知らせるアラームが鳴らなかったりすると,緊急事態の発生を外部に伝えることもできないまま,長時間の呼吸停止が生じてしまう可能性もあった(前記1(1),(3),甲32,証人K)。 また, れにより異常を知らせるアラームが鳴らなかったりすると,緊急事態の発生を外部に伝えることもできないまま,長時間の呼吸停止が生じてしまう可能性もあった(前記1(1),(3),甲32,証人K)。 また,原告ら(承継前)に対するガス供給停止等が生じたとき,速やかにアンビューバッグ等の操作に慣れた介護者によって適切な呼吸確保措置がとられなければ,長時間の呼吸停止が生じてしまう可能性も十分にあった(前記1(1),甲24)。 そして,呼吸停止が生じてしまった場合,低酸素状態,高炭酸ガス血症状態が引き起こされ,数分間この状態が継続すると,脳に重い障害が残ったり,死亡するに至る可能性が高い(前記1(1))。 確かに,原告ら(承継前)が外出しなくとも,人工呼吸器の作動停止等による呼吸停止が生じる可能性は存在するが,外出することによって,その危険性は格段に高まるものと認められる(前記1(2))。 (ウ) さらに,原告ら(承継前)が移動するためには,人工呼吸器を外して手動のアンビューバッグに切り替える必要が生じ,場合によっては,短時間ではあるが無呼吸状態を余儀なくされることもある(前記1(3))から,これらの間のトラブルによって,原告ら(承継前)が肉体的苦痛を被ったり,場合によっては生命の危険も生じる可能性がある。また,そのような事態にまで至らなくとも,外出して外気に触れることによって,肺炎に罹患するなどして,健康状態に悪影響を及ぼす可能性もある(前記1(2))。 したがって,在宅療養をしている原告ら(承継前)が,投票をするために投票所等に行くことは,生命に対する危険を伴うものであったと認められる。 (エ) 加えて,原告ら(承継前)は,四肢が麻痺しており,介助者なしに移動することはできず,その移動のためには,人工呼吸器及びバッテリー,人工呼吸器が使用不可能な場合の うものであったと認められる。 (エ) 加えて,原告ら(承継前)は,四肢が麻痺しており,介助者なしに移動することはできず,その移動のためには,人工呼吸器及びバッテリー,人工呼吸器が使用不可能な場合のアンビューバッグ,吸引器やその他の備品等も介助者が携帯し,これらをいつでも用いることができるようにする必要があり,少なくとも3人から4人の介助者なしに移動することは不可能であった(前記1(3))。 なお,介助者の中には,アンビューバッグの使用が必要になった場合に備えて,アンビューバッグの使用に慣れた人が少なくとも1人いることが必要であり,さらに,気道の吸引のためには,医師,看護師,あるいは患者の家族が同行する必要があった(前記1(1),(2))。 また,これらの介助者を手配し,移動するための寝台車等を用意するためには,少なからぬ労力や経済的負担が必要であったものと認められる(前記1(3))。 さらに,投票所等は,段差や階段等が存在したり,そのスペースも広くない(証人C,同N)など,原告ら(承継前)のように人工呼吸器を装着して,車椅子やストレッチャーに乗って投票所等に来る者が容易に投票が行えるような状況にもないと認められる。 (オ) 被告が主張するとおり,平成12年6月25日施行の衆議院議員選挙において,大分県内の8名の人工呼吸器を装着しているALS患者が,家族やボランティアの介助により,投票所に行って代理投票を行ったことが報道されており(乙1),同年12月にデンマークで開かれた国際会議に,医師やボランティアが同伴して,人工呼吸器を装着したALS患者3名が参加する予定であることも報道されている(乙2)。 しかし,このような事例が存在していたとしても,そもそもその具体的病状や外出時の状況も明らかでないし,これらの者が,一度限りでなく選挙のたびに投票所等 加する予定であることも報道されている(乙2)。 しかし,このような事例が存在していたとしても,そもそもその具体的病状や外出時の状況も明らかでないし,これらの者が,一度限りでなく選挙のたびに投票所等に行って投票を行うことが可能であると認めるに足りる証拠もないから,一般的に,原告ら(承継前)のようなALS患者が,投票を行うために投票所等に行くことが可能な状態にあるとは認められない。 (カ) また,原告ら(承継前)は全く外出することが不可能なわけではないが,原告ら(承継前)が外出するのは,病気により在宅療養ができなくなった場合や介護者である家族がどうしても休息をとる必要がある場合など,原告ら(承継前)の生命維持に必要な場合であるか,原告Bのように本人の希望により外出することがあったとしても,生命の危険や介護者の負担があるため,年に1度くらいのごくまれなものであり(前記1(3)),選挙のたびに投票所等に行く場合とは,その必要性及び頻度が全く異なっている。 そして,前記のとおり,原告ら(承継前)において,投票所等に行って投票を行おうとすれば,生命の危険も含めた身体的危険を冒すことになり,その社会的・経済的負担も多大なものであることが認められ,ALSが進行性の神経疾患であり,現段階では有効な治療方法が存在しないこと(前記前提事実)から,その状態は,一時的なものではなく,永続的なものと認められる。 (キ) 投票のために多大な労力,時間,費用を負担しなければならない場合においても,なお投票は困難なだけで不可能とまではいえないと評価することができるとしても,投票を行うことに生命の危険が伴うことが明らかなような場合には,社会通念上,投票は不可能と評価せざるを得ない。 また,仮に,原告ら(承継前)が,指定病院等に入院するなどしていれば,代理投票を行うことも可 を行うことに生命の危険が伴うことが明らかなような場合には,社会通念上,投票は不可能と評価せざるを得ない。 また,仮に,原告ら(承継前)が,指定病院等に入院するなどしていれば,代理投票を行うことも可能であるが,在宅療養が可能な患者が投票のためだけに入院をするということはあり得ないことであり,投票するために短期的に入院するとしても,そのための外出自体に生命の危険が伴うものである。 したがって,原告ら(承継前)において,選挙が行われるたびに投票所等に行って代理投票を行うことは社会通念上不可能と評価せざるを得ず,本件各選挙についても,原告ら(承継前)は投票の機会を与えられていなかったといわざるを得ない。 (ク) 以上のとおり,原告ら(承継前)が現行投票制度下において投票を行うことは社会通念上不可能であり,本件各選挙当時においても,それは同様であったと認められる。 2 争点(2)(内閣が本件公職選挙法施行令を制定・施行したことが国家賠償法上の違法行為に該当し,被告が国家賠償責任を負うか否か。)について原告ら(承継前)は,本件各選挙当時,選挙人としての資格を有していたが,現行投票制度下で投票を行うことは,社会通念上不可能であったことはさきに判示したとおりである。 原告らは,本件各選挙当時,投票を行うことが不可能であったことによって原告ら(承継前)は選挙権を侵害され,精神的損害を被ったが,これは,内閣閣僚を含む本件公職選挙法施行令の制定・施行に当たった公務員(本件政令制定公務員)が,本件公職選挙法施行令を制定・施行すれば原告ら(承継前)の選挙権行使が不可能となることを知りながら,あるいはこれを知るべきであるのに不注意にもこれを知らずに,憲法及び公職選挙法に違反する本件公職選挙法施行令を制定・施行したためであると主張し,被告は,本件公職選挙法施行令は憲法 ることを知りながら,あるいはこれを知るべきであるのに不注意にもこれを知らずに,憲法及び公職選挙法に違反する本件公職選挙法施行令を制定・施行したためであると主張し,被告は,本件公職選挙法施行令は憲法及び公職選挙法に違反しないと主張してこれを争うので,この点について判断する。 (1) 原告ら(承継前)の被侵害利益(選挙権侵害)についてア憲法は,「公務員を選定し,及びこれを罷免することは,国民固有の権利である。」(15条1項)と定めており,選挙権を国民の最も重要な基本的権利の一つとして保障しているものと解される(最高裁昭和29年(あ)第439号同30年2月9日大法廷判決・刑集9巻2号217頁,最高裁昭和49年(行ツ)第75号同51年4月14日大法廷判決・民集30巻3号223頁(以下「昭和51年大法廷判決」という。)参照。)。 イそして,憲法は,「すべて国民は,法の下に平等であって,人種,信条,性別,社会的身分又は門地により,政治的,経済的又は社会的関係において,差別されない。」(14条1項)として法の下の平等の原則を定め,「公務員の選挙については,成年者による普通選挙を保障する。」(15条3項)とするとともに,両議院の議員及びその選挙人の資格については法律で定めるものとしつつ,「人種,信条,性別,社会的身分,門地,教育,財産又は収入によって差別してはならない。」(44条ただし書)として,成年者による普通選挙を明確に保障するともに,選挙人の資格における不合理な差別を禁止している。 なお,憲法は,地方公共団体における選挙については,「地方公共団体の長,その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は,その地方公共団体の住民が,直接これを選挙する。」(93条2項)とのみ定めているが,憲法15条1項,同条3項及び14条1項によれば,地方公共団体の長等 その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は,その地方公共団体の住民が,直接これを選挙する。」(93条2項)とのみ定めているが,憲法15条1項,同条3項及び14条1項によれば,地方公共団体の長等の選挙についても,成年者による普通選挙が保障され,選挙人の資格における不合理な差別を禁止しているものと解される。 ウさらに,憲法は,選挙人の資格における不合理な差別を禁止するだけでなく,選挙権行使の場面における不合理な差別をも禁止しているものと解される。 すなわち,選挙権は,国民の政治への参加の機会を保障する基本的権利として,議会制民主主義の根幹をなすものであり,さきに掲げた憲法の選挙に関する規定(15条1項,同条3項及び44条ただし書)は,民主政が発展する過程において,選挙における投票の場面においては,国民は原則として完全に同等視されるべきであり,各自の身体的,精神的又は社会的条件に基づく属性の相違はすべて捨象されるべきであるという理念が追求された結果(選挙権の平等の原則の歴史的発展の成果)を反映したものである(昭和51年大法廷判決参照)から,憲法14条1項に定める法の下の平等は,選挙権に関しては,国民はすべて政治的価値において平等であるべきであるという徹底した平等化を志向するものであり(昭和51年大法廷判決),憲法は,選挙人の資格に対する不合理な制限の撤廃による選挙権の平等を要求するにとどまらず,選挙権行使の場面における不合理な差別の撤廃による選挙権の平等もまた,これを要求するものと解すべきである。 エまた,選挙権の実質は,投票という積極的行為を行うことにあり,形式的に選挙人としての資格を付与されても,選挙権行使が保障されなければ,憲法が選挙権を国民固有の権利として保障した意義は失われるのであるから,憲法の選挙権の保障は,選挙権行使の を行うことにあり,形式的に選挙人としての資格を付与されても,選挙権行使が保障されなければ,憲法が選挙権を国民固有の権利として保障した意義は失われるのであるから,憲法の選挙権の保障は,選挙権行使の保障に及び,選挙権行使の場面における不合理な差別をも禁止しているものと解される。 オ選挙権の法的性質については,様々な考え方があるが,以上の検討によれば,投票という行為を通して政治に参加し,自己の意思を表明することができるという選挙人個人の主観的権利という側面が存在することは否定できず,原告ら(承継前)は,少なくとも,本件各選挙当時,選挙人として選挙に参加して投票することについて,私法上も保護されるべき法的利益を有していたものと認められる。 (2) 本件公職選挙法施行令の制定・施行についてア昭和49年改正法による改正後の公職選挙法は,いわゆる投票所投票主義を採用し(公職選挙法44条1項),その例外として,不在者投票制度(同法49条1項)や郵便投票制度(同法49条2項)等を定めるとともに,身体の故障等のために自書が不可能な選挙人のために投票所又は不在者投票所(指定病院等,不在者投票管理者の管理する投票を記載する場所)における代理投票制度(投票管理者の定めた当該選挙人を補助すべき者に当該選挙人が指定する候補者の氏名等を投票用紙に記載させるもの(同法48条))を定めており,可能な限り,成人した全国民に対して選挙権行使の機会を保障しようとしている。 不在者投票制度及び郵便投票制度を定める公職選挙法49条1項及び2項は,不在者投票制度及び郵便投票制度の具体的実施方法については,政令にゆだねており,郵便投票制度において選挙人の自書による投票を要求するか否かについては,公職選挙法に明文は存在しない。 イ内閣は,昭和49年改正法による改正後の公職選挙法の委 施方法については,政令にゆだねており,郵便投票制度において選挙人の自書による投票を要求するか否かについては,公職選挙法に明文は存在しない。 イ内閣は,昭和49年改正法による改正後の公職選挙法の委任を受けて,公職選挙法施行令を制定・施行し,不在者投票制度については,56条3項及び58条4項で代理投票を認める一方,郵便投票制度については,本件公職選挙法施行令(59条の3第1項,同条の4第1項及び同条の5)を定めることによって,郵便投票証明書の交付申請,投票用紙及び投票用封筒の交付請求の際に選挙人の署名を要求するとともに,投票に当たっては,投票用紙に選挙人が候補者の氏名等を自書することを要求し,この投票用紙を投票用封筒に入れて選挙管理委員会の委員長に郵送するに当たっても,投票用封筒の表面に選挙人の署名を要求した。 ウ原告ら(承継前)は,前記のとおり,本件各選挙当時,その病気のために,外出には生命の危険を伴うので,投票のために投票所等に行くことは社会通念上不可能であり,また,自ら自分の氏名を記載(自署)したり,候補者の氏名を記載(自書)することもできなかった。 したがって,原告ら(承継前)は,公職選挙法及び公職選挙法施行令に定められた代理投票制度によっては,投票を行うことができず,郵便投票制度については,自署や自書を求める本件公職選挙法施行令が施行されていたため,これを利用することができず,結局,投票することが不可能となったものである。 (3) 本件公職選挙法施行令の合憲性等についてア憲法の選挙権の保障は,選挙権行使の保障に及び,選挙権行使の場面における不合理な差別をも禁止していることはさきに判示したとおりである。 原告ら(承継前)が,投票所等で投票することが不可能となり,自書することも不可能となったのは,ALSという病気の進行による身体の おける不合理な差別をも禁止していることはさきに判示したとおりである。 原告ら(承継前)が,投票所等で投票することが不可能となり,自書することも不可能となったのは,ALSという病気の進行による身体の障害のためであって,原告ら(承継前)には帰責事由がない。 現行投票制度は,原告ら(承継前)について,その身体的条件のために選挙権を行使することを不可能にさせているというべきであり,原告ら(承継前)は憲法によって保障された選挙権行使の機会を奪われているといわざるを得ない。 イそして,原告らが主張するように,直接的には,本件公職選挙法施行令が自書による投票を要求しているために,原告ら(承継前)は郵便投票制度を利用することができず,選挙権行使の機会を奪われる結果になったものである。 したがって,昭和49年改正法による改正後の公職選挙法が,郵便投票制度において選挙人の自書による投票を要求するか否かの判断を政令にゆだねたのであれば,本件公職選挙法施行令について,原告ら(承継前)から選挙権行使の機会を奪うことになっても郵便投票制度において自書による投票を求めることの必要性などについて,独立してその合憲性が検討されなければならない。 ウそこで,公職選挙法と本件公職選挙法施行令との関係について検討する。 (ア) 前記のとおり,本件公職選挙法施行令は,昭和49年改正法によって郵便投票制度が創設されたことに伴い,制定・施行されたものである。 昭和49年改正法の立法に当たっては,別紙「国会審議経過2」記載のとおり,衆議院公職選挙法改正に関する調査特別委員会及び参議院公職選挙法改正に関する特別委員会において,法案提出者である内閣の政府委員(自治省行政局選挙部長)により,昭和26年の統一地方選挙において当時の在宅投票制度(身体の故障によって自ら候補者の氏名を記載することが 正に関する特別委員会において,法案提出者である内閣の政府委員(自治省行政局選挙部長)により,昭和26年の統一地方選挙において当時の在宅投票制度(身体の故障によって自ら候補者の氏名を記載することができない在宅選挙人は,他人に投票の記載をさせることができた。)を悪用した不正事例が多発したことを背景として,昭和27年改正法により在宅投票制度が廃止されたという経緯を踏まえて,公職選挙法49条2項の郵便投票制度においては,投票用紙の代理請求を認めないこと,あるいは,自書による投票を前提とすることが明らかにされている(乙9)。 これに対して,衆議院公職選挙法改正に関する調査特別委員会では,P議員から,郵便による代理投票を認めなければ,文字が書けない者が投票を行うことができないので,旧法において認められていたように郵便による代理投票を認めるべきであるという要望があったが,同議員も制度上の困難性から郵便投票制度において自書を要求することもやむを得ないとしており,そのほかに国会の審議過程では,郵便投票制度において自書を要求することについては特段の異論はみられなかった(乙9)。 (イ) さらに,公職選挙法255条1項は,不在者投票制度における代理投票の代理記載人を選挙当日の投票所における代理投票の代理人とみなす趣旨の規定をしているのに対し,同条2項には,代理投票に関する規定はなく,郵便投票制度について,同法237条の2の代理投票における記載義務違反等の罪の規定の適用を排除している。このような規定からすれば,公職選挙法255条2項は,郵便投票制度において,代理投票が利用されることをそもそも予定していないといえる。 仮に,公職選挙法施行令において,郵便投票制度でも代理投票を行うことを認めれば,代理記載人が選挙人が指示した候補者の氏名等を記載せず,他の候補者の氏 が利用されることをそもそも予定していないといえる。 仮に,公職選挙法施行令において,郵便投票制度でも代理投票を行うことを認めれば,代理記載人が選挙人が指示した候補者の氏名等を記載せず,他の候補者の氏名等を記載した場合にも,その行為は何ら罰せられず,不在者投票制度の場合との間に不均衡が生じる。 このように,公職選挙法における罰則の規定から判断すると,公職選挙法は,郵便投票制度において政令で代理投票を認めることは予定していないと解される。 (ウ) したがって,昭和49年改正法による改正後の公職選挙法は,郵便投票制度において選挙人の自書による投票を要求するか否かの判断を政令にゆだねたのではなく,自書による投票を要求することを前提に郵便投票制度の手続の細目を定めることを政令に委任したものと解すべきであり,公職選挙法施行令で郵便投票制度について代理投票を認めれば,公職選挙法の委任の範囲を超えることになったものと解される。 エ以上によれば,本件公職選挙法施行令は独立してその合憲性が判断されるべきではなく,原告ら(承継前)が選挙権行使の機会を奪われたことについては,公職選挙法の合憲性が判断されるべきものである。 (4) 本件公職選挙法施行令を制定・施行した行為の違法性についてア内閣は,法律を実施するために,政令を制定する権限を有する(憲法73条6号)ものであり,法律の委任の範囲を超える政令を制定することは許されない。 そして,法律は,国権の最高機関である国会が合憲と解釈して制定したものであって,裁判所によって違憲と確定的に判断された場合を除いて,合憲性の推定を受けるものであり,たとえ内閣が法律の内容を違憲と判断したとしても,その執行を拒否することはできないものと解される。 したがって,当該法律が違憲である旨の裁判所の確定的な判断が存在していない状況に 受けるものであり,たとえ内閣が法律の内容を違憲と判断したとしても,その執行を拒否することはできないものと解される。 したがって,当該法律が違憲である旨の裁判所の確定的な判断が存在していない状況において,内閣がその法律の委任の範囲内で政令を制定・施行した場合,仮に後に裁判所によって当該法律が違憲であると確定的に判断され,その法律の委任を受けて制定・施行された政令も違憲であると判断されたとしても,そのような政令を制定・施行したことについて,内閣総理大臣及びその他の国務大臣に職務上の法的義務違反が存在し,国家賠償法上の違法性があるとはいえない。 イそして,本件においても,自書による投票を要求することを前提に郵便投票制度の手続の細目を定めることを政令に委任した公職選挙法が違憲であるとの裁判所の確定的な判断は存在していない状況において,同法の委任の範囲内で本件公職選挙法施行令を制定・施行したことについて,内閣総理大臣及びその他の国務大臣に職務上の法的義務違反があるとはいえない。 ウしたがって,内閣が本件公職選挙法施行令を制定・施行したことが国家賠償法上の違法行為に該当することを前提とする原告らの被告に対する請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。 3 争点(3)(内閣による本件公職選挙法施行令の改正不作為が国家賠償法上の違法行為に該当し,被告が国家賠償責任を負うか否か。)についてさきに判示したとおり,内閣が公職選挙法の委任の範囲内で本件公職選挙法施行令を制定・施行したことについては,国家賠償法上の違法性が認められず,現在に至るまで,公職選挙法は郵便投票制度について自書を要求していて,これが憲法に違反するとの裁判所の確定的な判断も存在していないのであるから,内閣において,本件公職選挙法施行令を改正すべき法的義務が発生したと で,公職選挙法は郵便投票制度について自書を要求していて,これが憲法に違反するとの裁判所の確定的な判断も存在していないのであるから,内閣において,本件公職選挙法施行令を改正すべき法的義務が発生したとはいえず,この改正不作為について,国家賠償法上違法と評価されることはないというべきである。 なお,原告らは,日本がB規約を批准したことにより,内閣において本件公職選挙法施行令を改正すべき法的義務が発生したと主張するが,B規約25条は,選挙権の保障を定めているものの,原告ら(承継前)のような状態の者についてどのように選挙権行使の機会を保障すべきかについて,明確に規定しているものではなく,公職選挙法がB規約に違反していることが明らかであるとはいえない。そして,公職選挙法がB規約に違反するという裁判所の確定的な判断も存在しないのであるから,公職選挙法が自書を要求しているにもかかわらず,内閣において,本件公職選挙法施行令を改正して郵便投票制度において代理投票を可能とすべき法的義務が発生していたとは解されない。 したがって,内閣による本件公職選挙法施行令の改正不作為の違法を前提とする原告らの被告に対する請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。 4 争点(4)(公職選挙法改正後の立法不作為が国家賠償法上の違法行為に該当し,被告が国家賠償責任を負うか否か。)について原告らは,昭和49年改正法による改正後の公職選挙法が郵便投票制度について代理投票を認めていない(自書による投票を要求している)と解されるのであれば,昭和27年改正法による改正後の公職選挙法は,原告ら(承継前)から選挙権行使の機会を奪うものであるから,憲法に違反し,しかも,巡回投票制度(選挙管理機関が選挙人の自宅を訪問して投票を行わせるもの)や郵便による代理投票制度を創設しなければ は,原告ら(承継前)から選挙権行使の機会を奪うものであるから,憲法に違反し,しかも,巡回投票制度(選挙管理機関が選挙人の自宅を訪問して投票を行わせるもの)や郵便による代理投票制度を創設しなければ原告ら(承継前)のような状態にある障害者は選挙権行使の機会が失われることは,昭和49年改正法の改正論議の段階で国会は十分に認識していたし,その後も国会でこの点について繰り返し論議されてきたのであるから,国会(国会議員)は立法の必要性を十分認識しており,かつ,立法が可能であったのに,立法に必要な合理的期間を経過してもなおこれを放置したというべきであり,そのために原告ら(承継前)は本件各選挙当時,投票を行うことが不可能となったものであるから,被告は国家賠償責任を負うと主張する。 これに対して,被告は,憲法47条は投票の方法その他選挙に関する事項の具体的決定については,立法府である国会の広い裁量にゆだねており,国会が選挙の公正や投票の秘密の保護の必要性,一定の時間的,予算的,人的・物的設備による制約が存在するという選挙の性質を考慮し,ALS患者その他の障害者等の選挙権行使を容易にする制度を設けなかったとしても,その裁量権の範囲を逸脱したとはいえないから,憲法に違反したとはいえず,また,少なくとも憲法の一義的文言に違反しているにもかかわらずあえて当該立法を行う(立法不作為を含む。)というような場合には当たらないので,被告は国家賠償責任を負わないと主張する。 そこで,この争点について判断する。 (1) 原告ら(承継前)の被侵害利益(選挙権侵害)について憲法の選挙権の保障は,選挙権行使の保障に及び,選挙権行使の場面における不合理な差別をも禁止しているものと解されること,原告ら(承継前)は,少なくとも,本件各選挙当時,選挙人として選挙に参加して投票することに 権の保障は,選挙権行使の保障に及び,選挙権行使の場面における不合理な差別をも禁止しているものと解されること,原告ら(承継前)は,少なくとも,本件各選挙当時,選挙人として選挙に参加して投票することについて,私法上も保護されるべき法的利益を有していたものと解されることは,さきに判示したとおりである。 (2) 公職選挙法改正の経緯についてア原告らは,昭和27年改正法による改正後の公職選挙法は違憲であり,国会が立法に必要な合理的期間が経過してもこれを放置したという立法不作為に国家賠償法上の違法性が存在すると主張するので,現行投票制度に至る公職選挙法改正に関する国会審議の経緯について検討する。 イ旧法が認めていた在宅投票制度においては,原告ら(承継前)のように,投票所等に行くことが不可能であり,かつ自書も不可能な選挙人が存在したとしても,医師の証明書等の所定の要件を満たすことによって,在宅での代理投票により投票を行うことが可能であった。 しかし,昭和26年の統一地方選挙において在宅投票制度を悪用した不正事例が多発したことを背景として(乙8,9),昭和27年改正法によって在宅投票制度は廃止され,投票所及び不在者投票管理者が管理する指定病院等以外の場所において投票を行うことは認められなくなった。 昭和27年改正法の制定過程での国会審議においては,昭和27年改正法案について,在宅投票制度を悪用した不正事例が存在したため,在宅投票制度を廃止し,不在者投票管理者が管理する病院等における不在者投票を認めることにした旨の立法理由が説明され,特段の異論なく可決されている(乙8)。 ウその後,国会において,在宅投票制度に関する特段の審議はなされていなかったが,昭和36年,同41年,同42年に在宅投票制度の復活を求める請願が出され,昭和44年からは毎年,国会の いる(乙8)。 ウその後,国会において,在宅投票制度に関する特段の審議はなされていなかったが,昭和36年,同41年,同42年に在宅投票制度の復活を求める請願が出され,昭和44年からは毎年,国会の各委員会において在宅投票制度の復活に関する審議がなされた(乙9)。 国会の審議においては,議員から,身体障害者やいわゆる寝たきり老人の投票の機会を拡充するため,在宅投票制度を復活させ,あるいは巡回投票制度を設けることを求める意見が出され,また,公聴会では公述人が在宅投票制度の復活を求める意見を述べていた(乙9)。 これらの審議の結果を踏まえて,昭和49年改正法による公職選挙法の改正がなされ,重度身体障害者の選挙権行使の手段を拡充する目的で,同法49条2項が新設され,同条項所定の要件を満たす者については,郵便投票を行うことが可能となった(甲50,51,乙9)。 エ昭和49年改正法の制定に当たっては,前記のとおり,法案提出者である内閣の政府委員により,昭和26年の統一地方選挙において在宅投票制度を悪用した不正事例が多発したことを背景として,昭和27年改正法により在宅投票制度が廃止されたという経緯を踏まえて,公職選挙法49条2項の郵便投票制度を創設することが明らかにされた(乙9)。 これに対し,P議員からは,郵便による代理投票を認めなければ,文字が書けない者が投票を行うことができないので,旧法において認められていたように郵便による代理投票を認めるべきであるという要望があったが,同議員も制度上の困難性から郵便投票制度において自書を要求することもやむを得ないとしており,そのほかに郵便投票制度において自書を要求することについては特段の異論はみられなかった(乙9)。 他方,社会党のQ議員らは,郵便投票制度よりも選挙の公正の確保の点ですぐれた制度として巡回投 ており,そのほかに郵便投票制度において自書を要求することについては特段の異論はみられなかった(乙9)。 他方,社会党のQ議員らは,郵便投票制度よりも選挙の公正の確保の点ですぐれた制度として巡回投票制度を創設する公職選挙法改正法案を提出したが,これに対し,自治大臣及び政府委員は,短い時間に限られた人員で,大都市や僻地も含めてすべて実施することは困難であるので,巡回投票制度も検討したが,採用しなかった旨答弁している(乙9)。 また,内閣提出の昭和49年改正法案について,対象者をより拡充する修正案も提出されたが,最終的には,衆議院公職選挙法改正に関する調査特別委員会及び参議院公職選挙法改正に関する特別委員会において内閣提出の昭和49年改正法案が全会一致で可決され,本会議において昭和49年改正法が成立した(乙9)。 ただし,昭和49年改正法の可決に当たっては,郵便投票制度について,政府に対して実施状況の推移を勘案して今後さらに拡充の方向で検討することを求める附帯決議がなされた(甲50,51,乙9)。 オ昭和49年改正法施行後,ほぼ毎年のように,国会において,投票制度に関する審議が行われていた(乙9)。これらの審議においては,議員から,郵便投票制度において代理投票が認められていないため,自書できない者が投票を行うことができない旨の指摘がなされたり,郵便投票制度の手続をより簡略化すること,寝たきり老人など郵便投票制度を利用できない者にも郵便投票制度を利用できるようにすること,新たに巡回投票制度を設けることなどが提案されている(乙9)。 これに対し,自治大臣や政府委員からは,郵便投票制度の対象範囲を広げることによって,投票の機会を拡大したいが,選挙の公正を確保する必要性や,全国的に統一的な取扱いができるか,公的証明方法をどうするかなどの制度的・技術的 や政府委員からは,郵便投票制度の対象範囲を広げることによって,投票の機会を拡大したいが,選挙の公正を確保する必要性や,全国的に統一的な取扱いができるか,公的証明方法をどうするかなどの制度的・技術的問題があるので,さらに検討中であること,また,巡回投票制度については,すべての対象者に対する実施が可能であるのか否か,巡回できなかったときにどうするかなどの制度上の困難な問題がある旨の答弁がなされていた(乙9)。 カこれらの議論においては,主として,郵便投票制度の拡充や巡回投票制度の新設により,寝たきり老人のような者の選挙権行使を容易にすることが議論されており,自書ができないために郵便投票制度を利用できない者の存在については,具体的に議論されていなかった(乙9)。 原告ら(承継前)のようにALS患者で自書ができない者の存在について国会で議論がなされたのは,平成8年5月31日の衆議院決算委員会第3分科会において,J議員から,体を全く動かすことができず,自書も不可能なALS患者の存在が紹介され,選挙管理機関が自宅を訪問する巡回投票制度を提案して今後の検討を政府に求めたときが初めてであった(乙9)。 J議員の質問に対して,自治大臣及び政府委員は,巡回投票制度については,限られた短い期間に,多数の対象者が存在する地域や交通至難な地域も含めてすべての対象者に対する巡回投票の実施が可能であるのか否か,事故などで巡回できなかったときにどうするかなどの制度上の困難な問題があるので,さらに検討したいと答弁している(乙9)。 また,平成13年6月11日の政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会において,R議員は,自書が不可能なALS患者について,巡回投票制度などにより投票の機会を保障することを検討するよう政府に求めた(乙9)。 R議員の質問に対して,総務 公職選挙法改正に関する特別委員会において,R議員は,自書が不可能なALS患者について,巡回投票制度などにより投票の機会を保障することを検討するよう政府に求めた(乙9)。 R議員の質問に対して,総務副大臣は,自書が不可能なALS患者に対する投票の機会の拡大を検討する必要があり,指定病院等に入院している場合や投票所に行って代理投票を行う場合に加えて,さらに在宅での郵便投票がどのくらい拡大できるかについても議論したいと答弁している(乙9)。 キ以上によれば,国会においては,昭和27年改正法による在宅投票制度の廃止の際には,在宅投票制度により投票の機会を保障されない者が生じることについての特段の議論もなされず,また,在宅投票制度の復活を求める意見の高まりに応じてなされた昭和49年改正法による公職選挙法改正の前後においても,主たる議論は,郵便投票制度の対象を寝たきり老人などにも広げたり,巡回投票制度を設けるなどして,投票が困難な者の投票の機会をより拡充しようということにあった。 そして,原告ら(承継前)のように,現行投票制度下ではおよそ投票を行うことができない選挙人がいることについては,特に焦点を当てて審議されてこなかった。 (3) 昭和27年改正法による改正後の公職選挙法及びその後の立法不作為の合憲性についてア被告は,憲法47条が投票の方法その他選挙に関する事項の具体的決定については,立法府である国会の広い裁量にゆだねているから,立法府がその裁量権の範囲を逸脱したと認められる場合に限り,違憲となると主張する。 確かに,代表民主制の下における選挙制度は,選挙された代表者を通じて,国民の利害や意見が公正かつ効果的に国政の運営に反映されることを目標としつつ,他方,政治における安定の要請をも考慮しながら,それぞれの国において,その国の事情に即して具体 選挙された代表者を通じて,国民の利害や意見が公正かつ効果的に国政の運営に反映されることを目標としつつ,他方,政治における安定の要請をも考慮しながら,それぞれの国において,その国の事情に即して具体的に決定されるべきものであり,そこに論理的に要請される一定不変の形態が存在するわけではない(昭和51年大法廷判決参照)から,憲法は,投票の方法その他選挙に関する事項の具体的決定について,立法府である国会の合理的裁量にゆだねているものと解される。 イまた,憲法の選挙権の保障が選挙権行使の保障に及ぶと解するとしても,選挙権は,投票という形で行使されるものであり,必然的に一定の時間的,予算的,人的・物的設備による制約が存在すること,投票の秘密(憲法15条4項)や選挙の公正という他の憲法上の,あるいは選挙制度に当然内在する要請が存在することなどに照らすと,憲法が選挙権行使も保障しているといっても,その保障は絶対的なものではなく,これらの制約や要請によってその行使に一定の制限を受けることは,憲法の予定するところであると解される。 ウしかし,選挙権は,国民の政治への参加の機会を保障する基本的権利として,議会制民主主義の根幹をなすものであるから,当該投票制度の下では,一定の者が憲法で保障された選挙権行使の機会を奪われるような場合は,投票行為の性質に伴う必然的な制約や,投票の秘密や選挙の公正の要請からそのような投票制度を採用し,あるいは維持するやむを得ない事由のない限り,その投票制度は,憲法15条1項,同条3項,14条1項及び44条ただし書に違反するものといわざるを得ない。 エ被告は,不在者投票制度(郵便投票制度も含む。)は,選挙人には,その個人的事情により,選挙当日に投票所に行くことが困難又は極めて困難な者が存在することが予想されたことから,投票をより 得ない。 エ被告は,不在者投票制度(郵便投票制度も含む。)は,選挙人には,その個人的事情により,選挙当日に投票所に行くことが困難又は極めて困難な者が存在することが予想されたことから,投票をより容易にするために,立法裁量によるいわば救済措置として設けられたものであると主張し,選挙当日に投票所に行くことが困難又は極めて困難な者の選挙権行使を容易にする制度を設けるか否か,設けるとして具体的にどのような制度とするかについては,憲法47条の問題として,国会にこれに関する広範な裁量が認められており,このような救済措置によっても,選挙権行使が容易にならなかったからといって,憲法違反を論じる余地はないと主張する。 確かに,投票のために多大な労力,時間,費用を負担しなければならない選挙人が存在しても,選挙権行使の機会を奪うものとまではいえない(もっとも原告らが主張するとおり,国政選挙において全国で東京に1か所だけ投票所を設置するというような極端な場合は,遠方の選挙人の選挙権行使の機会を奪うものというべきであろう。)から,国会の裁量の範囲内の問題であり,違憲の問題は生じないと解することはできよう。 しかし,投票のために生命を危険にさらさなければならない選挙人が存在する場合は,これとは全く質的に異なるものであり,その選挙人からは身体的条件によって選挙権行使の機会を奪うものというほかはなく,そのような選挙人が選挙権を行使できる投票制度を設けるか否か,そのような選挙人から選挙権行使の機会を奪っている投票制度を維持するか否かの判断が国会の裁量に任されており,そのような選挙人が選挙権を行使できるような投票制度を設けなくても違憲の問題は生じないと解することはできない。 原告ら(承継前)も生命の危険を冒せば投票は可能であるかもしれないが,生命の危険を冒さなければ行 選挙人が選挙権を行使できるような投票制度を設けなくても違憲の問題は生じないと解することはできない。 原告ら(承継前)も生命の危険を冒せば投票は可能であるかもしれないが,生命の危険を冒さなければ行使できないようでは,選挙権が与えられているとはいえない。このことは,仮に原告ら(承継前)が生命の危険を冒して投票所等に行った結果,生命にかかわる事故が起きたときにこれを本人の責任に帰することの不合理さを考えれば,容易に理解できることであり,被告の主張する平成12年6月25日施行の衆議院議員選挙において,大分県内の8名の人工呼吸器を装着しているALS患者が,家族やボランティアの介助により,投票所に行って代理投票を行ったという事実は,むしろ,現行投票制度をこのまま放置すれば,原告ら(承継前)を含むALS患者に投票によって生命にかかわる事故が起きかねない深刻な問題と理解すべきものである。 オしたがって,国会が,憲法47条に基づき,公職選挙法において,投票所投票主義及び自書主義を原則とする選挙制度を定め,これを維持するのであれば,投票行為の性質に伴う必然的な制約や,投票の秘密や選挙の公正の要請から身体的条件によって選挙権行使の機会を奪う結果となってもやむを得ないと判断されるのであれば格別,そうでない限り,投票所等に行くことも自書することも不可能な選挙人が存在すれば,それらの選挙人に選挙権行使の機会を保障するための制度を設けることが憲法上要請されているというべきである。 カそこで,原告ら(承継前)が現行投票制度下で身体的条件によって選挙権行使の機会を奪われていることについて,投票行為の性質に伴う必然的な制約や,投票の秘密や選挙の公正の要請からやむを得ないと判断されるか否かについて検討する。 (ア) さきに判示したとおり,国会が,昭和49年改正法におい いることについて,投票行為の性質に伴う必然的な制約や,投票の秘密や選挙の公正の要請からやむを得ないと判断されるか否かについて検討する。 (ア) さきに判示したとおり,国会が,昭和49年改正法において,郵便投票制度の一連の手続に自書を要求した理由又は目的は,昭和26年の統一地方選挙において,在宅投票制度を悪用した不正投票がなされたという経験に基づき,自書を要求することによって,選挙の公正を確保することにあった。 そして,確かに,投票所等における代理投票の場合には,投票管理者が投票立会人の意見を聴いて,当該選挙人の投票を補助すべき者2人をその承諾を得て定め,その1人に代理記載をさせ,他の1人を立ち会わせるという厳重な管理体制を採用している(公職選挙法48条2項)一方,郵便投票制度において代理投票を行う場合には家庭内等で投票用紙の記載が行われることから,選挙の公正の面で劣る可能性があることは否めない。 したがって,郵便投票制度において,代理人による記載を認めず,自書を要求することによって,少なくとも事後的には,筆跡により不正の有無を確認することができるようにして,選挙人本人の意思に基づかない不正投票を防止しようとすることには一定の合理性があると認められる。 (イ) しかし,郵便投票制度において,自書を要求すること以外には,選挙人本人の意思に基づかない不正投票を防止する方法が存在しないことについての立証はなく(被告は,現行投票制度の合理性を説明する証人の申請もしなかった。),選択肢として,原告らが主張するような方法があり得ることも否定できない。 被告は,諸外国における投票制度をみても,自書ができない重篤なALS患者は投票ができない結果となっているのが通例といえると主張するが,選挙権についての憲法の定めは国によって様々であり,その解釈も様々であるか 諸外国における投票制度をみても,自書ができない重篤なALS患者は投票ができない結果となっているのが通例といえると主張するが,選挙権についての憲法の定めは国によって様々であり,その解釈も様々であるから,わが国の憲法解釈に当たって,諸外国の実情が直接影響することにはならないし,後記(エ)記載のとおり,自書ができない重篤なALS患者でも投票ができるような投票制度を採用している国も存在する。 (ウ) また,原告らが主張する巡回投票制度(選挙管理機関が選挙人の自宅を訪問して投票を行わせるもの)については,前記政府答弁のように,限られた短い期間に,多数の対象者が存在する地域や交通至難な地域も含めてすべての対象者に対する巡回投票の実施が可能であるのか否か,事故などで巡回できなかったときにどうするかなどの技術的困難性があることは否定し難い。 しかし,前記の国会審議経過をみても,巡回投票制度の技術的困難性が指摘されてはいるものの,不可能であるとの説明がされているわけではないし,本件訴訟においてもそのような立証はされていない。 (エ) さらに,諸外国の選挙制度をみると,オーストラリア,デンマーク,カナダ,英国及びスウェーデン(法律上は代筆が不可能であるが,運用により代筆による投票が認められている(甲46)。)においては,原告ら(承継前)のような状態の者も投票が可能な制度がとられている(別紙「諸外国の選挙制度」)。 (オ) 以上のとおり,原告ら(承継前)が現行投票制度下で身体的条件によって選挙権行使の機会を奪われていることについて,投票行為の性質に伴う必然的な制約や,投票の秘密や選挙の公正の要請からやむを得ないものであると認めることはできない。 キしたがって,少なくとも本件各選挙当時において,公職選挙法に原告ら(承継前)が選挙権を行使できるような投票制度が設 投票の秘密や選挙の公正の要請からやむを得ないものであると認めることはできない。 キしたがって,少なくとも本件各選挙当時において,公職選挙法に原告ら(承継前)が選挙権を行使できるような投票制度が設けられていなかったことについては,憲法15条1項,同条3項,14条1項及び44条ただし書に違反する状態であったといわざるを得ない。 なお,原告らは,昭和27年改正法や昭和49年改正法の制定が憲法に違反すると主張しているとも解されるが,前記のとおり,原告ら(承継前)がALSのために人工呼吸器を必要とするようになったのは,最も早い原告Aでも昭和61年であり,原告B及び亡Dは平成6年であるから,昭和27年改正法制定の時点はもちろんのこと,昭和49年改正法制定の時点にも選挙権行使が不可能な状態にはなかったし,そのころ本件各選挙当時の原告ら(承継前)と同様の状態にあって,選挙権行使が不可能なALS患者等の選挙人が存在したのか否かは,証拠上明らかではない。 ALS患者に限ってみても,人工呼吸器を利用した在宅療養が行われるようになったのは比較的最近のことであり,前記のとおり,昭和60年ころは,人工呼吸器を装着したALS患者は死亡するまで入院を継続するのが通常であり,在宅療養を行うことは一般的ではなかった。 したがって,昭和27年改正法や昭和49年改正法の制定が憲法に違反していたとは認められないが,さきに判示したとおり,少なくとも本件各選挙当時において,公職選挙法に原告ら(承継前)が選挙権を行使できるような投票制度が設けられていなかったことは,憲法に違反していたと認められる。 (4) 公職選挙法によって本件各選挙当時原告ら(承継前)が選挙権行使の機会を奪われたことについて,国家賠償法上の違法性の有無についてア国家賠償法1条1項は,公務員が不法行為責任を負うこ られる。 (4) 公職選挙法によって本件各選挙当時原告ら(承継前)が選挙権行使の機会を奪われたことについて,国家賠償法上の違法性の有無についてア国家賠償法1条1項は,公務員が不法行為責任を負うことを前提に,その責任を国や公共団体が代位するものと解されるから,個別具体的な法的利益の侵害行為の違法性が問題になる。 公職選挙法は郵便投票制度において選挙人の自書による投票を要求していないのに,本件公職選挙法施行令がこれを要求し,その改正もされなかったというのであれば,国家賠償法上の違法性の判断としても,内閣(内閣総理大臣及びその他の国務大臣)が職務上の法的義務に違反して本件公職選挙法施行令を制定し,維持したかどうかを判断することになり,本件公職選挙法施行令が違憲か否かの判断と,本件公職選挙法施行令が国家賠償法上違法か否かの判断は密接に関連することになる。 しかし,公職選挙法が原告ら(承継前)が投票を行えるような投票制度を設けていないために原告ら(承継前)に選挙権侵害の被害が生じたということになると,国家賠償法上の違法性としては,各国会議員の公職選挙法の立法(立法不作為を含む。以下同じ。)過程における行動が原告ら(承継前)に対して負う職務上の法的義務に違反したかどうかを判断することになり,法律は,国会への法案の提出権からして,内閣(憲法72条),委員会(国会法50条の2)及び一定数の議員(国会法56条)に認められていて,一人の議員が法案を提出することはできず,提出された法案は,最終的には多数決で成立することになる(憲法59条)という具体的な立法過程を考えても,国家賠償法上の違法性の問題と,公職選挙法の内容の違憲性の問題とは区別されなければならない(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁 考えても,国家賠償法上の違法性の問題と,公職選挙法の内容の違憲性の問題とは区別されなければならない(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁(以下「昭和60年第一小法廷判決」という。)参照。)。 イそして,昭和60年第一小法廷判決は,国会議員の立法過程における行動(立法行為)の国家賠償法上の違法性に関して,下記のとおり判示し,昭和27年改正法によって在宅投票制度が廃止され,その後これを復活しなかった立法行為が国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないと判断している。 記そこで,国会議員が立法に関し個別の国民に対する関係においていかなる法的義務を負うかをみるに,憲法の採用する議会制民主主義の下においては,国会は,国民の間に存する多元的な意見及び諸々の利益を立法過程に公正に反映させ,議員の自由な討論を通してこれらを調整し,究極的には多数決原理により統一的な国家意思を形成すべき役割を担うものである。そして,国会議員は,多様な国民の意向をくみつつ,国民全体の福祉の実現を目指して行動することが要請されているのであって,議会制民主主義が適正かつ効果的に機能することを期するためにも,国会議員の立法過程における行動で,立法行為の内容にわたる実体的側面に係るものは,これを議員各自の政治的判断に任せ,その当否は終局的に国民の自由な言論及び選挙による政治的評価にゆだねるのを相当とする。さらにいえば,立法行為の規範たるべき憲法についてさえ,その解釈につき国民の間には多様な見解があり得るのであって,国会議員は,これを立法過程に反映させるべき立場にあるのである。憲法51条が,「両議院の議員は,議院で行った演説,討論又は表決について,院外で責任を問はれない。」と規 様な見解があり得るのであって,国会議員は,これを立法過程に反映させるべき立場にあるのである。憲法51条が,「両議院の議員は,議院で行った演説,討論又は表決について,院外で責任を問はれない。」と規定し,国会議員の発言・表決につきその法的責任を免除しているのも,国会議員の立法過程における行動は政治的責任の対象とするにとどめるのが国民の代表者による政治の実現を期するという目的にかなうものである,との考慮によるのである。このように,国会議員の立法行為は,本質的に政治的なものであって,その性質上法的規制の対象になじまず,特定個人に対する損害賠償責任の有無という観点から,あるべき立法行為を措定して具体的立法行為の適否を法的に評価するということは,原則的には許されないものといわざるを得ない。ある法律が個人の具体的権利利益を侵害するものであるという場合に,裁判所はその者の訴えに基づき当該法律の合憲性を判断するが,この判断は既に成立している法律の効力に関するものであり,法律の効力についての違憲審査がなされるからといって,当該法律の立法過程における国会議員の行動,すなわち立法行為が当然に法的評価に親しむものとすることはできないのである。 以上のとおりであるから,国会議員は,立法に関しては,原則として,国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり,個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではないというべきであって,国会議員の立法行為は,立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき,容易に想定し難いような例外的な場合でない限り,国家賠償法1条1項の規定の適用上,違法の評価を受けないものといわなければならない。 ウアで判示したとおり,内閣が政令を制定する場合とは異なり,立法は各国会議員の意 いような例外的な場合でない限り,国家賠償法1条1項の規定の適用上,違法の評価を受けないものといわなければならない。 ウアで判示したとおり,内閣が政令を制定する場合とは異なり,立法は各国会議員の意向が直接法律に反映するわけではないから,国会議員の立法過程における行動(立法行為)が個別の国民に対する関係で職務上の法的義務に違反したといえる場合は,極めて限られてくることになることは否定できず,当裁判所も,基本的に昭和60年第一小法廷判決の前記判断と同一の判断をするものである。 この点については,原告らが指摘するように,このような判断は,議会制民主主義が適正に機能することが前提であり,選挙権行使が不可能であると,立法行為を行う国会議員の選出行為に加わることができず,自らの意見を政治に反映させることが困難となるので,その前提が揺らぐことにならないかという問題もある。 確かに,選挙権は国民の政治への参加を保障する基本的権利として,議会制民主主義の根幹をなすものであり,原告ら(承継前)のような状態にある国民も選挙権を行使できてこそ,議会制民主主義が適正に機能するということもできるので,原告ら(承継前)から選挙権行使の機会を奪う立法行為の違法性の問題は,他の立法行為の違法性の問題と全く同一に論じることはできない面もあることは否定できない。 しかし,選挙権行使が不可能であったとしても,請願権(憲法16条)を行使することや議員に対する陳情は可能である(原告らは,日本ALS協会が,平成8年,在宅のALS患者が参政権を行使できない現実を社会に訴える活動の一環としてJ議員にアプローチし,これを受けたJ議員は,同年5月31日の衆議院決算委員会第3分科会において,郵便による代理投票制度及び選挙管理機関が自宅を訪問する巡回投票制度を提案し,今後の検討を政府に求めたと主 員にアプローチし,これを受けたJ議員は,同年5月31日の衆議院決算委員会第3分科会において,郵便による代理投票制度及び選挙管理機関が自宅を訪問する巡回投票制度を提案し,今後の検討を政府に求めたと主張している。)から,基本的には前記判断は左右されないものと解する。 エそこで,まず,身体的条件によって原告ら(承継前)の選挙権行使の機会を奪う結果をもたらしている現行投票制度が本件各選挙時において,憲法の一義的な文言に違反していたといえるか否かを判断する。 (ア) 当裁判所は,さきに判示したとおり,原告ら(承継前)は,本件各選挙時において,現行投票制度下で選挙権を行使することは不可能であったと認定した上で,やむを得ない事由がないのに選挙権行使の機会を奪われる国民があれば,憲法はこれを禁じていると解し,原告ら(承継前)から選挙権行使の機会を奪うやむを得ない事由の立証もないので,少なくとも本件各選挙時において,公職選挙法の定める現行投票制度は憲法に違反する状態にあった(現在もこの状態は変わらない。)と判断したものである。 (イ) そこで検討すると,仮に,憲法が,やむを得ない事由がないのに選挙権行使の機会を奪うことを禁じていることについて争いがない(少なくとも合理的理由なく選挙権行使の機会を奪うことを憲法が禁じていることについては,昭和51年大法廷判決以降,いわゆる定数訴訟において,最高裁判所が,繰り返し,憲法は,選挙人資格に対する不合理な制限の撤廃による選挙権の平等を要求するにとどまらず,選挙権の内容の平等をも要求していると判示していることからも,これを否定することは困難なものと解される。)としても,前記のとおり,現行投票制度が設けられた昭和27年改正法及び昭和49年改正法制定の時点において,原告ら(承継前)と同様に選挙権行使が不可能であった選挙 定することは困難なものと解される。)としても,前記のとおり,現行投票制度が設けられた昭和27年改正法及び昭和49年改正法制定の時点において,原告ら(承継前)と同様に選挙権行使が不可能であった選挙人が存在したか否かは証拠上明らかではないし,後記のとおり,本件各選挙当時,原告ら(承継前)が現行投票制度下で選挙権行使が不可能であったことも,一見して明らかであったとはいえないから,本件各選挙当時,現行投票制度が憲法の一義的な文言に違反していたとまでは認めることはできない。 オ次に,原告らは,立法不作為の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行わないような場合に限られず,民主政の過程が損なわれる人権侵害の重大性とその救済の高度の必要性が認められる場合であって,かつ,国会が立法の必要性を十分認識し,立法が可能であったにもかかわらず,一定の合理的期間を経過してもなおこれを放置したなどの状況的要件,換言すれば,立法課題としての明確性,合理的是正期間の経過がある場合には,立法不作為による国家賠償を認めるべきであると主張するので,この点について検討する。 (ア) 確かに,昭和60年第一小法廷判決が示した「立法の内容が憲法の一義的な文言に違反する」場合は,前記判決内容からも明らかなとおり,あくまで例示であり,国会の審議過程において,原告ら(承継前)のような状態にあるALS患者等の存在及びそのような選挙人は現行投票制度下で選挙権行使が不可能であることが明らかにされ,そのことは憲法に違反するという認識が国会議員の一般的認識になっている場合は,そのような認識にもかかわらず合理的理由なく立法措置をとらないことは,職務上の法的義務に違反したと評価できる可能性がないとはいえない。 (イ) そこで,公職選挙法改正の経緯を巡る国会審議 ている場合は,そのような認識にもかかわらず合理的理由なく立法措置をとらないことは,職務上の法的義務に違反したと評価できる可能性がないとはいえない。 (イ) そこで,公職選挙法改正の経緯を巡る国会審議の過程をみると,前記のとおり,既に昭和49年改正法の審議においても,郵便による代理投票を認めることが要望されていたものであり,その後も繰り返し郵便投票制度の見直しの問題や巡回投票制度の新設の問題が議論されてきたものであるから,本件各選挙当時までには,国会議員の中に現行投票制度には選挙権行使の点で問題があるとの認識は一般化してきていたものと解される。 (ウ) しかし,前記のとおり,国会での審議は,寝たきり老人など現行投票制度下で投票が困難な選挙人について,郵便投票制度を拡充するなどして投票をより容易にすることを中心に議論されてきたものであって,現行投票制度下で投票が不可能な選挙人についての投票制度が議論されてきたわけではなく,したがって,選挙権行使が不可能な選挙人が存在するような投票制度が憲法に違反するか否かという議論がなされたわけでもない。 原告ら(承継前)のようにALS患者で自書ができない者の存在について国会で議論がなされたのは,平成8年5月31日の衆議院決算委員会第3分科会において,J議員から,体を全く動かすことができず,自書も不可能なALS患者の存在が紹介されたときが初めてであったことは前記のとおりである。 (エ) そして,原告ら(承継前)のように現行投票制度下で投票が不可能な選挙人の実態把握は必ずしも容易ではなく,ALS患者にも病状の進行の程度により様々な状態の患者がおり,人工呼吸器を装着していないような患者については,投票所等に行くことが社会通念上不可能であるとはいえない場合もあり得る。 原告ら(承継前)についてみても,当裁判所が原告ら より様々な状態の患者がおり,人工呼吸器を装着していないような患者については,投票所等に行くことが社会通念上不可能であるとはいえない場合もあり得る。 原告ら(承継前)についてみても,当裁判所が原告ら(承継前)が投票を行うことは不可能という判断に至ったのは,医療機関のカルテや担当医師,介護者等の証拠調べをした結果に基づくものであり,原告ら(承継前)が本件各選挙当時投票を行うことが不可能であったことは,一見して明らかなものではなかった(不可能と判断するには医師の診断等を要した。)ものと認められる。 (オ) したがって,本件各選挙当時においては,長期間に及ぶ国会での審議を通じて,現行投票制度には選挙権行使の点で問題があることは国会議員の一般的認識になってきていたとしても,実際に原告ら(承継前)のように現行投票制度下では選挙権行使が不可能な選挙人が存在し,そのことは憲法に違反するということまで,国会議員の一般的認識であったとは認められない。 (カ) 以上のとおりであるから,国会審議の過程における国会議員の認識の点から判断しても,国会議員が原告ら(承継前)のような状態の者にも選挙権行使の機会を与えるような立法行為をしなかったことについて,職務上の法的義務違反があったと認めることはできない。 カなお,原告らは,原告ら(承継前)のように投票が不可能な障害者が存在することはB規約に違反し,これが国会議員の立法行為の違法につながると主張する。 確かに,B規約は,25条及び2条において,締約国に選挙権の保障及び立法措置等をとるための必要な行動をとる義務を定めており,締約国である日本も,B規約上に従うべき義務を負っている。 しかし,B規約25条は,選挙権の保障を定めているものの,原告ら(承継前)のような状態の者についてどのように選挙権行使の機会を保障すべきかにつ 約国である日本も,B規約上に従うべき義務を負っている。 しかし,B規約25条は,選挙権の保障を定めているものの,原告ら(承継前)のような状態の者についてどのように選挙権行使の機会を保障すべきかについて,一義的に定めているものではないことは明らかである(実際に,B規約締約国であっても,原告ら(承継前)のような状態の者について選挙権行使の機会が保障されていない国も存在している(別紙「諸外国の投票制度」)。)し,前記のとおり,そもそも,わが国の憲法は,B規約を持ち出すまでもなく,選挙権行使を保障し,選挙権行使の場面における不合理な差別をも禁止していると解されるので,B規約によって,国会議員の立法行為の違法性の判断が左右されることにはならない。 キ以上のとおりであるから,その余の点(争点(5)を含む。)について判断するまでもなく,国会議員の立法行為の違法を理由とする原告らの損害賠償請求には理由がない。 5 争点(6)(原告ら(承継前)の損失補償請求権の有無)について(1) 原告らは,原告ら(承継前)が選挙権行使の機会を奪われたことをもって,公権力の行使による特別の犠牲となったと主張して,憲法29条3項又はその類推適用に基づき,損失補償を請求する。 そこで,公権力の行使によって国民に損害が生じた場合,憲法がどのように規定しているかをみると,憲法は,公権力の違法な行使によって生じた損害(財産的損害であると非財産的損害であるとを問わない。)については17条でその賠償を規定し,それではまかなえない財産権に対する公権力による適法な侵害については29条3項で損失補償を定め,身体の自由や生命という非財産的利益に対する刑事手続による適法な侵害については40条で損失補償を定めている。 公権力の行使によって国民に生じた損害について,いかなる範囲で国が賠償又は補償 補償を定め,身体の自由や生命という非財産的利益に対する刑事手続による適法な侵害については40条で損失補償を定めている。 公権力の行使によって国民に生じた損害について,いかなる範囲で国が賠償又は補償すべきかは,国民全体による損害の分担という観点から,公平原則や平等原則によって定められるものであって,前記各規定に照らしても,憲法が国民に生じたあらゆる損害について国が填補することまで要求しているものとは解されない。 そして,憲法17条を受けた国家賠償法は,公権力を行使する公務員の違法行為について故意又は過失がある場合にのみ,国が損害賠償責任を負うとしており(国家賠償法1条1項),このような国家賠償法の規定も憲法に違反するものとは解されず,違法ではあるが,過失の認められない行為により国民に生じた損害の賠償がなされないことも憲法は容認しているものというべきである。 また,憲法29条は,全体として私有財産制度のあり方を規定しており,同条の構造及び沿革からして,同条3項は,財産権が特別の犠牲となった場合の損失補償を規定するものと解される。 (2) これを本件についてみると,原告ら(承継前)が本件各選挙において投票を行うことが社会通念上不可能であったことはさきに判示したとおりである。 しかし,前記のとおり,憲法29条3項は,財産権が特別の犠牲となった場合の損失補償を規定するものであって,これを選挙権行使の機会を与えられなかったことによる損害に適用又は類推適用することは,被侵害利益という基本的要素において本質的に相違するものであり,同条項を適用又は類推適用することはできないといわざるを得ない。 また,さきに判示したとおり,憲法の選挙権の保障は,選挙権行使の保障に及ぶものであって,仮に正当な補償がなされたとしても,投票行為の性質に伴う必然的な制約や,投票の秘密 きないといわざるを得ない。 また,さきに判示したとおり,憲法の選挙権の保障は,選挙権行使の保障に及ぶものであって,仮に正当な補償がなされたとしても,投票行為の性質に伴う必然的な制約や,投票の秘密や選挙の公正の要請からやむを得ない事由のない限り,選挙権行使の機会を奪うことは,憲法上容認されていないものというべきであり,そのような事由がないのに選挙権行使の機会が奪われたことによって生じた損害について,憲法が,29条3項又はその類推適用により補償することを予定しているものとはいえない。 選挙権行使の機会が与えられなかったことにより原告ら(承継前)が被った損害について,国家賠償法に基づく賠償や憲法29条3項による補償を受けられないとしても,前記のとおり,憲法は公権力の行使により国民に生じたあらゆる損害を填補することを要求するものではない以上,やむを得ないものというべきである。 以上のとおり,原告ら(承継前)は,本件各選挙において選挙権を行使することが不可能であったことについて,憲法29条3項又はその類推適用による損失補償を求めることできないものといわざるを得ない。 6 争点(7)(公職選挙法改正の立法不作為の違憲確認が認められるか否か。)について(1) 本件違憲確認の訴えの適法性ア原告らは,公職選挙法の立法不作為により原告ら(承継前)が選挙権行使の機会を奪われたと主張して,被告が昭和27年改正法によって代理による郵便投票制度を廃止した後現在に至るまで,原告ら(承継前)の選挙権行使を可能とする内容の公職選挙法改正を行わないことの違憲確認(本件違憲確認)を求める訴えを追加的に併合することを申し立てている。 イ裁判所に与えられている司法権(憲法76条)は,法律上の争訟について裁判を行う作用(裁判所法3条1項)をいい,この法律上の争訟とは,当事者 )を求める訴えを追加的に併合することを申し立てている。 イ裁判所に与えられている司法権(憲法76条)は,法律上の争訟について裁判を行う作用(裁判所法3条1項)をいい,この法律上の争訟とは,当事者間の具体的な権利義務又は法律関係の存否に関する紛争に限られており,このような具体的紛争を離れて,裁判所に対し抽象的に法令が憲法に適合するか否かの判断を求めることは許されないと解される(最高裁昭和27年(マ)第23号同年10月8日大法廷判決・民集6巻7号783頁)。 これを本件違憲確認の訴えについてみると,原告ら(承継前)との関係においてと限定したとしても,結局,公職選挙法を改正しないという立法不作為自体の違憲確認を求めるものにほかならず,具体的な選挙の際に原告ら(承継前)の投票の機会が保障されたか否かを離れて,一般的に公職選挙法に関する立法不作為の違憲確認を求めるものというべきである。 したがって,本件違憲確認の訴えは,法律の抽象的な憲法適合性判断を求めるものであるから,法律上の争訟に当たるとはいえないと解される。 ウなお,原告らは,本件違憲確認の訴えは,本来の行政訴訟とは異なる旨主張しており,行政事件訴訟として本件違憲確認を求めるものとは解されないが,仮に行政事件訴訟法上の無名抗告訴訟や実質的当事者訴訟等として,本件違憲確認を求めるものとしても,本件違憲確認の訴えは立法不作為の違憲確認を求めるものであって,国家賠償法に基づく損害賠償請求とは請求の内容及び法的性質が著しく異なっており,前記損害賠償請求に本件違憲確認の訴えを追加することはできないものと解される。 (2) まとめ以上によれば,本件違憲確認の訴えは,法律上の争訟性が認められないものであるから,不適法なものとして却下を免れない。 7 結論したがって,原告らの本件違憲確認の訴えは不適 解される。 (2) まとめ以上によれば,本件違憲確認の訴えは,法律上の争訟性が認められないものであるから,不適法なものとして却下を免れない。 7 結論したがって,原告らの本件違憲確認の訴えは不適法であるから,これを却下し,原告らのその余の請求には理由がないから,いずれも棄却して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第30部裁判長裁判官福田剛久裁判官新谷晋司裁判官馬場俊宏

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る